ゲスト
(ka0000)
ネコさんとお風呂に入りたい!
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/25 15:00
- 完成日
- 2017/03/29 17:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
歪虚は人を殺す。
それが歪虚の本能だからなのかは未だに定かではないが、人間はあらゆる場所で歪虚に襲われている。
そして、王国、帝国、同盟、辺境の中で最も被害の多いのは、やはり辺境だろう。
歪虚の支配地域と密接した場所も多く、領地の管理運営が各地に住んでいる部族毎に委ねられている事もあり、王国や帝国のような組織的な防衛が行い難い事も要因の1つと考えられる。
そのため辺境では親や親類を失った子供も多くいる。
孤児院『セントエルモ』はそんな孤児たちを受け入れている施設の一つだ。
院長のエルモア・R・ライトはリアルブルーからの転移者だ。
覚醒者としての素質はあったが、53歳と高齢だった事もありハンターにはならなかった。
それでも『聖導士』としてのスキルは幾つか所得し、それで生計を立てる事にした。
リアルブルーで医者だった訳ではなかったが、リアルブルーでの知識も活かした医者の真似事でも辺境では大いに役立った。
多くの者に感謝され、誰かの役に立てる事が嬉しかった。
しかし救えない命もあった。
親や家族を失った子供を見るのは辛かった。
それらの経験故か、何時しかエルモアは孤児院で働くようになっていた。
そしてクリムゾンウェストに転移してから5年の月日が経った頃、エルモアは独立して新しく孤児院『セントエルモ』を作った。
孤児はすぐに増えた。
孤児が増えるのは嬉しい事ではなかったが、エルモアは一人でも多くの子供の将来を担うために尽力した。
ミミカは孤児院『セントエルモ』で暮らす孤児の一人だ。
ここで暮らす大半の孤児と同じように、両親は歪虚の手にかかって亡くしている。
とはいえ、その当時3歳だったミミカにその記憶はほとんどない。
ミミカは助けられたハンターに孤児院に引き渡され、孤児院で育ったのだ。
そしてその孤児院にいたエルモアに非常に懐いた。
だからエルモアが新しい孤児院を作って移る時には泣いて暴れて縋って一緒に越して来たのだ。
だからミミカにとってはセントエルモが家であり、エルモアや他の孤児達が家族だった。
そんな孤児院『セントエルモ』が危機に瀕する事があった。
孤児院の近くで歪虚が見つかったのだ。
すぐにハンター達が討伐に来たが、戦闘は孤児院のすぐ目の前で行われた。
孤児達は(特に男の子は)目の前で起こる歪虚とハンターの戦闘に興奮して釘付けになったが、エルモアはもちろん孤児達は連れてすぐに避難した。
ミミカもブーブーと文句を言いながら避難したが、その時の戦いの様子はハッキリと脳裏に刻み込まれた。
特に印象に残ったのはカッコよく戦うハンター達の姿。
ではなく。
ハンターの傍らで一生懸命戦っていた猫型の幻獣『ユグディラ』だった。
もふもふの毛皮。
短い手足。
愛らしい顔立ち。
そんな生き物が人間のように可愛い服を着て、二本足で立って戦っている。
(なにアレ? すごく可愛いくてカッコイイ!!」
ミミカの瞳が興奮と好奇心でキラキラと輝いた。
弱い雑魔だった歪虚はハンター達に容易く退治され、孤児院も無傷だった。
だからエルモアや孤児達はすぐ孤児院に戻る事ができた。
「ねぇ先生。あの大きなネコさんって何?」
ミミカは早速エルモアにさっき見た猫の事を尋ねる。
「あれは幻獣のユグディラだ」
「げんじゅう?」
「幻獣とは、昔から人間と仲良くしてくれている良い生き物の事だよ。猫や犬や鳥、様々な種類がいるんだ」
エルモアは幻獣の事を話して聞かせた。
孤児達は熱心の耳を傾けた。
「……そんな風に人間と一緒に戦ってくれる幻獣もいる。だから幻獣と人間はとっても仲の良い友達なんだ」
「ミミカも幻獣と友達になりたい! あのネコさんと遊びたい!」
ミミカはすぐに声を上げた。
「あそびたーい!」
「ボクもー!」
「私もー!」
すると他の孤児達も一斉に声を上げ始める。
「いや、幻獣はそんなに簡単には会えないんだよ」
「どうしてー?」
「人間と友達なんでしょ?」
「さっきもいたよ」
「うん、いたー」
「私みたー」
「ボクもー」
「それはハンターだからだよ。ハンターは割りとすぐに会えるんだ」
「じゃあハンターさんにお願いしてー」
「え……。いや、それは……」
どうにか宥めようとしていたエルモアの顔が困惑で曇る。
「おねがいしてー」
「してー」
「院長先生おねがーい」
「おねがーい」
「おねがいしまーす」
孤児全員から頼まれてエルモアは困った。
確かにハンターに頼めれば幻獣を連れてきてくれる人もいるかもしれない。
そう考えると悪い話でもないように思えてきた。
普段目にする機会の少ない幻獣と触れ合う事は貴重で得難い体験となるだろう。
孤児達のためになるし、なにより喜んで貰える。
「分かった。ハンターさんに頼んでみるよ」
「やったー!」
「わーい!」
孤児たちが両手を上げて喜ぶ。
「でもダメだった時は諦めるんだぞ」
念押しはしたが、ちゃんと聞いている子はどれだけいるだろう。
「ミミカ、ネコさんと一緒にお風呂にはいる!」
更にミミカが困る事を言ってくれた。
「いや、ミミカ。ネコさんはたぶんお風呂は嫌いだと思うよ」
「どうして? ネコさんってキレイ好きなんでしょ」
一般的な猫はそうだが、そういう意味ではない。
「体を綺麗にするのは好きだけど、お風呂は嫌いなんだよ」
「お風呂に入らないでどうやってキレイにするの?」
「それは体を舐めてだよ」
「舐めただけで綺麗になるの?」
(……なるのだろうか?)
エルモアにもそうだと言える程の知識はなかった。
「舐めただけでキレイになるなら、ミミカもお風呂入らなくていいよね」
「それはダメだよ、ミミカ。人間はちゃんとお風呂に入らないと綺麗にならない」
「どうしてー?」
この手の事を子供に納得させるのは難しい。
「……お風呂に一緒に入ってくれるネコさんを探してくるよ」
だからエルモアは妥協してしまった。
「わーい。先生大好きー♪」
(風呂好きのユグディラがいてくれるといいが……。そんな都合よく居てくれるだろうか?)
そんな悩みを抱えつつ、エルモアはハンターオフィスを訪ねた。
「あの、すみません……。幻獣を連れて孤児院を慰問してくれるハンターって、いますでしょうか? その幻獣もできればユグディラがよくて。しかもその、子供と一緒にお風呂に入っても嫌がらない子がいいんですけど……」
エルモアは自分でもかなり無理なお願いをしているなと思いながらもオフィスに依頼書を提出したのだった。
それが歪虚の本能だからなのかは未だに定かではないが、人間はあらゆる場所で歪虚に襲われている。
そして、王国、帝国、同盟、辺境の中で最も被害の多いのは、やはり辺境だろう。
歪虚の支配地域と密接した場所も多く、領地の管理運営が各地に住んでいる部族毎に委ねられている事もあり、王国や帝国のような組織的な防衛が行い難い事も要因の1つと考えられる。
そのため辺境では親や親類を失った子供も多くいる。
孤児院『セントエルモ』はそんな孤児たちを受け入れている施設の一つだ。
院長のエルモア・R・ライトはリアルブルーからの転移者だ。
覚醒者としての素質はあったが、53歳と高齢だった事もありハンターにはならなかった。
それでも『聖導士』としてのスキルは幾つか所得し、それで生計を立てる事にした。
リアルブルーで医者だった訳ではなかったが、リアルブルーでの知識も活かした医者の真似事でも辺境では大いに役立った。
多くの者に感謝され、誰かの役に立てる事が嬉しかった。
しかし救えない命もあった。
親や家族を失った子供を見るのは辛かった。
それらの経験故か、何時しかエルモアは孤児院で働くようになっていた。
そしてクリムゾンウェストに転移してから5年の月日が経った頃、エルモアは独立して新しく孤児院『セントエルモ』を作った。
孤児はすぐに増えた。
孤児が増えるのは嬉しい事ではなかったが、エルモアは一人でも多くの子供の将来を担うために尽力した。
ミミカは孤児院『セントエルモ』で暮らす孤児の一人だ。
ここで暮らす大半の孤児と同じように、両親は歪虚の手にかかって亡くしている。
とはいえ、その当時3歳だったミミカにその記憶はほとんどない。
ミミカは助けられたハンターに孤児院に引き渡され、孤児院で育ったのだ。
そしてその孤児院にいたエルモアに非常に懐いた。
だからエルモアが新しい孤児院を作って移る時には泣いて暴れて縋って一緒に越して来たのだ。
だからミミカにとってはセントエルモが家であり、エルモアや他の孤児達が家族だった。
そんな孤児院『セントエルモ』が危機に瀕する事があった。
孤児院の近くで歪虚が見つかったのだ。
すぐにハンター達が討伐に来たが、戦闘は孤児院のすぐ目の前で行われた。
孤児達は(特に男の子は)目の前で起こる歪虚とハンターの戦闘に興奮して釘付けになったが、エルモアはもちろん孤児達は連れてすぐに避難した。
ミミカもブーブーと文句を言いながら避難したが、その時の戦いの様子はハッキリと脳裏に刻み込まれた。
特に印象に残ったのはカッコよく戦うハンター達の姿。
ではなく。
ハンターの傍らで一生懸命戦っていた猫型の幻獣『ユグディラ』だった。
もふもふの毛皮。
短い手足。
愛らしい顔立ち。
そんな生き物が人間のように可愛い服を着て、二本足で立って戦っている。
(なにアレ? すごく可愛いくてカッコイイ!!」
ミミカの瞳が興奮と好奇心でキラキラと輝いた。
弱い雑魔だった歪虚はハンター達に容易く退治され、孤児院も無傷だった。
だからエルモアや孤児達はすぐ孤児院に戻る事ができた。
「ねぇ先生。あの大きなネコさんって何?」
ミミカは早速エルモアにさっき見た猫の事を尋ねる。
「あれは幻獣のユグディラだ」
「げんじゅう?」
「幻獣とは、昔から人間と仲良くしてくれている良い生き物の事だよ。猫や犬や鳥、様々な種類がいるんだ」
エルモアは幻獣の事を話して聞かせた。
孤児達は熱心の耳を傾けた。
「……そんな風に人間と一緒に戦ってくれる幻獣もいる。だから幻獣と人間はとっても仲の良い友達なんだ」
「ミミカも幻獣と友達になりたい! あのネコさんと遊びたい!」
ミミカはすぐに声を上げた。
「あそびたーい!」
「ボクもー!」
「私もー!」
すると他の孤児達も一斉に声を上げ始める。
「いや、幻獣はそんなに簡単には会えないんだよ」
「どうしてー?」
「人間と友達なんでしょ?」
「さっきもいたよ」
「うん、いたー」
「私みたー」
「ボクもー」
「それはハンターだからだよ。ハンターは割りとすぐに会えるんだ」
「じゃあハンターさんにお願いしてー」
「え……。いや、それは……」
どうにか宥めようとしていたエルモアの顔が困惑で曇る。
「おねがいしてー」
「してー」
「院長先生おねがーい」
「おねがーい」
「おねがいしまーす」
孤児全員から頼まれてエルモアは困った。
確かにハンターに頼めれば幻獣を連れてきてくれる人もいるかもしれない。
そう考えると悪い話でもないように思えてきた。
普段目にする機会の少ない幻獣と触れ合う事は貴重で得難い体験となるだろう。
孤児達のためになるし、なにより喜んで貰える。
「分かった。ハンターさんに頼んでみるよ」
「やったー!」
「わーい!」
孤児たちが両手を上げて喜ぶ。
「でもダメだった時は諦めるんだぞ」
念押しはしたが、ちゃんと聞いている子はどれだけいるだろう。
「ミミカ、ネコさんと一緒にお風呂にはいる!」
更にミミカが困る事を言ってくれた。
「いや、ミミカ。ネコさんはたぶんお風呂は嫌いだと思うよ」
「どうして? ネコさんってキレイ好きなんでしょ」
一般的な猫はそうだが、そういう意味ではない。
「体を綺麗にするのは好きだけど、お風呂は嫌いなんだよ」
「お風呂に入らないでどうやってキレイにするの?」
「それは体を舐めてだよ」
「舐めただけで綺麗になるの?」
(……なるのだろうか?)
エルモアにもそうだと言える程の知識はなかった。
「舐めただけでキレイになるなら、ミミカもお風呂入らなくていいよね」
「それはダメだよ、ミミカ。人間はちゃんとお風呂に入らないと綺麗にならない」
「どうしてー?」
この手の事を子供に納得させるのは難しい。
「……お風呂に一緒に入ってくれるネコさんを探してくるよ」
だからエルモアは妥協してしまった。
「わーい。先生大好きー♪」
(風呂好きのユグディラがいてくれるといいが……。そんな都合よく居てくれるだろうか?)
そんな悩みを抱えつつ、エルモアはハンターオフィスを訪ねた。
「あの、すみません……。幻獣を連れて孤児院を慰問してくれるハンターって、いますでしょうか? その幻獣もできればユグディラがよくて。しかもその、子供と一緒にお風呂に入っても嫌がらない子がいいんですけど……」
エルモアは自分でもかなり無理なお願いをしているなと思いながらもオフィスに依頼書を提出したのだった。
リプレイ本文
ルシール・フルフラット(ka4000)はレオン(ka5108)と共に孤児院『セントエルモ』に行くため、待ち合わせ場所でレオンを待っていた。
(今日は孤児院への慰問、か。子供達の笑顔は、どんなときでも守っていかねばな。それになにより今回はユグディラが一緒だ。もふもふは良い……うむうむ)
子供達と一緒にユグディアのもふもふの毛皮をモフる光景を夢想したルシールは思わず頬が緩む。
「師匠、お待たせしました」
しかしレオンが現れた途端、表情を引き締めた。
弟子であるレオンに自分の緩んだ表情を見せて威厳を崩す訳にはいかないのだ。
「いや、私も先程来た……」
言葉が途切れた。
なぜならレオンはユグディラを連れていたからだ。
ロシアンブルーを思わせる、青みがかった銀の毛並み。
神秘的な青と碧のオッドアイ。
フリルの施された優美で可愛らしい衣装で着飾っている。
(か……可愛いっ!!)
ルシールはその愛さらしさに視線が釘付けになり、胸をときめかせた。
しかしそのトキメキは胸の内だけに収めて表情には出さないように努め、レオンに問いかける。
「その子が今回同行するユグディラのエルか。しかし聞いていた容姿と違うようだが」
「いえ、違うんです師匠。この子は俺とパートナー契約を結んでもらったユグディラなんです」
「え! お前、いつの間に……」
初耳だったルシールが驚く。
「つい最近です。今日の慰問はいい機会なんで、師匠にも紹介しようと連れてきました」
レオンが今まで黙っていたのはびっくりさせたい意味合いももちろんあった。
「そうだったのか。ユグディラをか……。それは良いな、うん。とても良い、うん」
ルシールが何度も首肯する。
(レオンに会いに行けばこの子にも何時でも会えるのか。パラダイスじゃないかっ!!)
どうやらレオンの企みは成功したらしい。
「名前はシャーリーです。ほら、挨拶して」
レオンに背中を押され、ルシールの前に進み出たユグディラのシャーリーが右手を差し出してきた。
「これは、握手か?」
尋ねるとシャーリーが首肯する。
「ルシール・フルフラットだ。よろしく」
腰を屈めて手を握る。
ぷにっ
掌に肉球の柔らかい感触が伝わってきた。
(ぷにぷにだぁーー!)
すべすべの毛皮と程よい弾力で押し返してくる肉球のコラボレーション。
癖になりそうなその感触に、思わず両手で握って肉球をプニプニしたい衝動が湧き上がってくる。
ペシッ
しかしシャーリーは『いつまでも握ってるんじゃないわよ』とでも言うように手を振りほどいてしまった。
(あ……)
ルシールの胸に悲しみが沸く。
「すみません師匠。ちょっとプライド高くて気難しいところもある子なんで」
「いや、気にしていない」
と言いつつ内心では。
(嫌われてしまっただろうか……)
と無茶苦茶気にしているルシールだった。
「でも基本的には人懐っこい性格ですから、すぐに師匠にも懐くと思いますよ」
「そうか!」
ルシールの表情がパッっと華やぐ。
(ならばすぐに仲良くなって、今度は全身をもふもふ……もふもふっ!!)
そんな夢想をし始めたルシールだが。
(んっ。いや、今日の私は喜ばせる側だ、少し抑えねばな、うんうん)
孤児院に着くまでの間に自制心は取り戻したのだった。
孤児院では院長のエルモアと孤児の子供達が待ちわびていた。
「皆さん、こんにちはなの~」
「こんにちはー!」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が挨拶すると、子供達が元気に挨拶を返してくれる。
「幻獣大好きさんからの依頼と聞いて、たくさんの幻獣と一緒にやって来たの、よろしくお願いしますなの」
「よろしくおねがいしまーす」
「幻獣は外にいますの。でも幻獣をいじめちゃいやんなの。だから幻獣の嫌がる事はしないって約束してほしいの。約束できるかな?」
「はーい」
「約束しまーす」
「それでは、どーぞなの」
ディーナが玄関を開けると、今か今かと待ち構えていた子供達が孤児院の外に駆け出してゆく。
外にはハンターオフィスが連れてきてくれたユグディラ『エル』。
レオンのユグディラ『シャーリー』。
保・はじめ(ka5800)のユグディラ『三毛丸』。
ディーナのリーリーの4匹の幻獣がいた。
「ネコさんだぁーー!!」
ミミカは瞳をキラキラと輝かせて一番近くにいた三毛丸にいきなり抱きついた。
『にゃっ! 吾輩様を総出で歓迎するとは関心なガキどもだぜにゃん。でももみくちゃにされるのは御免だぜにゃん。抱きつくのは、そこのおっさんにしとけにゃん』
三毛丸は迷惑そうに言ったが、人間には『ニャー』と鳴いてるとしか分からず、ミミカは三毛丸の毛皮に顔を押し付けてもふもふしている。
仕方なく三毛丸はミミカを無理やり引き剥がしてエルに押し付けた。
「こっちの子も可愛いぃ~!」
ミミカはすぐエルにも抱きつき、三毛丸は開放された。
かと思いきや、すぐに他の子供達が群がって抱きついてくる。
『一斉に抱きつくのはヤメロにゃん! 倒れるにゃー!』
ボテッ
荷重に負けて転んだ三毛丸に子供達が乗りかかってくる。
『重いにゃー! そこの付き人1号、さっさと助けろにゃん!』
三毛丸は保とパートナー契約を結んでいるが、対当の存在とは思っておらず付き人扱いしていた。
保も付き人という立場に不満はなく、献身的に付き従っていた。
猫好きとは。
猫がご飯を欲しいと言えばすぐに用意し。
水を交換しろと言えばすぐに替え。
扉を開けろと言われれば何処に居ようとも開けにゆき。
布団のど真ん中で寝られていたら自分は端で寝る。
それぐらいの献身ができるものなのである。
そんな献身生活の末、保は三毛丸が何を言ってるのか何となく分かるようになっていた。
なので今も三毛丸が助けを求めている事は分かっている。
しかし子供達と戯れる三毛丸が可愛かったので、保は構わず『魔導カメラ』を向けてシャッターを切った。
『写真なんて撮ってんじゃねーよにゃん! 早く吾輩様を助けろにゃん!』
三毛丸が子供相手に悪戦苦闘している。
でも可愛い。
だから助けずシャッターを切りまくる。
「あの、ちょっとお願いが……」
ふと、レオンが保に話しかけてきた。
「俺の師匠のルシールなんですけど」
レオンは、子供達がユグディラと戯れている様子を羨ましそうに見ているルシールを指差す。
「ユグディラと遊んでいる時とかあったらカメラで撮って欲しいんです」
特に断る理由もなかったので、保は承諾した。
一方、リーリーにも何人か子供達が集まっていた。
「でっかーい……」
しかしその巨体に尻込みして近寄れる者はまだいない。
「こわいぃ~」
最年少で4歳のルルは完全に怯えている。
「大丈夫なの。とっても大人しい子なの」
「いやぁぁ!!」
ディーナは優しく諭したがルルは泣き出し、院長の足にしがみついてしまう。
(慣れれば怖くないって分かってもらえると思うけど、小さい子にはまだ無理みたいなの。でも男の子は興味ありそうなの)
ディーナは男子の中で一番体格のよいミゲルを呼んだ。
「ミゲル君。一緒にリーリーに乗って欲しいの」
「え、僕?」
ミゲルが周囲を見渡すと、年下の男の子達が期待の目で自分を見ている。
最年長としてはその期待に応えない訳にはいかなかった。
「分かりました」
「ありがとうなの」
ディーナは先にリーリーに乗ると、騎上からミゲルを引っ張り上げる。
ミゲルは12歳でも結構背が高かったので、自分の後ろに乗ってもらった。
リーリーは全長3mで、背中まででも1.5mはある。
そこに乗れば視線はかなり高くなる。
「意外と高い……」
「落ちないように捕まって欲しいの」
と言われたがミゲルは困った。
ディーナは女性なので、どこに捕まればいいのか分からなかったのだ。
「腰に手を回してなの」
「はい」
言われた通りにすると結構密着してしまう。
しかもディーナの髪からはとても良い匂いがする。
思春期のミゲルはそれだけでドキドキした。
「いきますの」
ディーナがリーリーを走らせ始める。
最初はゆっくりと。そして徐々に速度を上げる。
「わぁ~!」
やがて人では出し得ない速度になると、ミゲルが感嘆の声を上げる。
最初に感じていたドキドキは今や未知の体験へのドキドキに変わっていた。
「もう少し速度を上げても大丈夫そうなの?」
「はい!」
了承を得るとディーナは更に速度を上げて走らせる。
「しっかり捕まってなの」
「え?」
そしてミゲルが捕まったのを確認すると軽く跳躍させた。
「わっ!」
体が軽く浮き上がる感覚の後、視界が上がって空が見えた。
その後、着地の衝撃がお尻から伝わってくる。
「これで終了なの? リーリーはどうだったの?」
「はい! とっても楽しかったです」
ミゲルの顔は興奮で上気していた。
「次はボク! ボク乗せて!」
「俺! 俺が乗る!」
ミゲルが降りると他の男の子達が乗りたがった。
「ちゃんと順番の並ぶの。並ばない人は乗せないの」
注意すると、男の子達は押し合いへし合いしながら並びだす。
ディーナは順番に乗せて、同じように走らせてあげた。
「あたし! あたしものる!」
やがて、最初は怖がっていたルルも見ている間に恐怖心が消えたのか乗りたがった。
「院長先生、大丈夫なの?」
4歳の子を乗せるのは危険なので許可を求める。
「はい、お願いします」
許可は貰ったが、安全のため前に乗せたルルと自分を紐で縛って走らせた。
「わー! すごいすごい」
ルルは泣いていたのが嘘のように大はしゃぎである。
「ルルちゃん。リーリー好きになってくれたの?」
「うん。だいすきー♪」
満面の笑みにディーナも大満足だった。
リーリーの方にも子供達が流れ始めたため、ユグディラ達は少しのんびりできるようになっていた。
シャーリーの周りに誰もいなかったので、レオンは抱き上げてルシールの元へ連れて行った。
「ほら、師匠もさわってみたらどうですか?」
「え? いや、それは……」
ルシールは躊躇した。
なぜならシャーリーを撫でもふったら自分が緩みきった顔で醜態を晒すだろうと分かっていたからだ。
師匠として弟子の前で威厳をなくすような真似はしたくない。
「シャーリーはオデコやアゴを撫でられるのが好きなんですよ」
そんな気持ちを知ってか知らずか、レオンはルシールの膝の上にシャーリーを乗せた。
シャーリーの綺麗なオッドアイが自分を見上げてくる。
そして『撫でるの?』とでも言うように小首を傾げる。
(か、可愛いっ!!)
それだけでルシールの威厳の仮面は決壊寸前になり、頬が緩みそうになってひくつく。
「そ、そうだな。これから長い付き合いになるのだ。スキンシップもしなければな、うん」
ルシールは誰にともなく言い訳すると、シャーリーの頭を撫でた。
すべすべな毛皮の感触と暖かい体温が伝わってくる。
その感触がとても気持ちいい。
シャーリーも気持ちいいのか目を閉じてされるがままになっている。
「ここはどうだ」
顎の下を撫であげる。
撫でる度にシャリーの顎が持ち上がってどんどん上向いてゆく。
「きもちいいかぁー。じゃあ次はここだ」
耳の裏を撫でてみた。
するとシャーリーの顔が俯き、頭頂部を晒してくる。
どうやらもっと撫でて欲しいらしい。
「そうかー気持ちいかぁー。じゃあもっとやってやろう♪」
なでなで
かきかき
もふもふ
「うふふっ。どうだぁ。ここはどうだぁー」
すっかりシャーリーに夢中になってしまったルシールは緩みきった笑みを浮かべて思う存分なでもふったのだった。
レオンはルシールの楽しそうにしている様を微笑ましく思いながら眺め、彼女と同じように頬を緩めた。
そして、そんな2人の様子は保の魔導カメラにきちんと収められたのだった。
外で存分に幻獣と触れ合った子供達がユグディラを連れて孤児院内に戻ってきた。
「いーっぱい遊んで汚れちゃたから、一緒にお風呂に入ろうね」
ミミカが上機嫌でエルを抱きしめる。
『風呂……だと……』
しかし風呂嫌いのエルは緊張で身を硬くした。
(やはりダメか。暴れだす前に入浴後に酒を提供する事で説得を)
ルシールが密かに持ってきていたワインと清酒を取り出そうとする。
「ミミカちゃん。猫は水の音や匂いが嫌いなの」
しかしディーナが先にミミカの説得に入った。
「幻獣の生態は研究中だけど、ユグディラは猫型だから、気を付けてあげないといけない事も多いの。猫は耳に水が入ると中耳炎になるから顔より上は濡らしちゃダメなの」
「ちゅうじえんってなに?」
「耳の中でバイキンが増えて、耳が聞こえなくなったり、頭が痛くなったりする病気なの」
「えぇー!!」
「だから生まれてからお風呂に馴らした猫以外無理にお風呂にいれないの。怖い想いや嫌な想いをさせて病気にしようとするいじめっ子とミミカちゃんは友達になれる? 幻獣や動物が本当に好きならブラッシングまでにしてほしいの」
「うん、わかった。ミミカ、ブラッシングだけする」
ミミカはディーナからブラシを受け取ると、エルの毛を鋤き始めた。
「それから猫は食べ物も気をつけてあげなきゃいけないの。ネギ類をあげると貧血で死んじゃうの。猫はイカが好きだけど、生のイカやタコを食べさせると消化不良で吐いたりビタミン欠乏症を起こして死んじゃうの」
「イカたべるとしんじゃうのー!」
「アワビの肝は光線過敏症を引き起こして、光を浴びると皮膚が痛痒くなるから耳が痛くて爪で引っ掻きすぎて耳が千切れたりするの。チョコレートも不整脈を引きおこして死ぬ事があるの」
「チョコレートもダメなの」
「かわいそう~」
「ねぇ、ほかには?」
ディーナは熱心に話を聞いている子供達からの質問に答えてあげていった。
『俺ぁ別にイカやチョコ食っても腹壊したりしねぇんだが、ここは嬢ちゃんの顔を立てておくか』
エルはそんな事を思いながら、大人しくミミカにブラッシングされた。
ユグディラは猫型幻獣だが、実は必ずしも猫の特性を備えている訳ではない。
猫の特性を全て備えている種もいれば、外見以外は全く猫の特性を備えていない種もいて、種々様々な個体が存在するのである。
「みんな猫の事は分かったくれたの?」
「うん。わかったー」
「それは嬉しいの。じゃみんなでブラッシングしてあげるの」
「はーい」
こうして風呂はなくなり、代わりにブラッシングをする事になったのだが。
「はかせー。ブラッシングってこれでいいの?」
ディーナは先程の公演のせいか、子供達から『幻獣博士』と呼ばれるようになってしまった。
ちなみにレオンは『おにいちゃん』。
ルシールは『おねえちゃん』。
保は『カメラのおにいちゃん』と呼ばれている。
『いいブラッシングだったぜ。お礼に一曲聞かせてやるよ』
エルが縦笛を吹き鳴らした。
上手くはない。普通だ。
「わー、かわいいぃ」
でも子供達には受けた。
「本当に可愛いぃ~」
ルシールも愛くるしい姿に顔をとろけさせている。
『はん、あれで天才とは聞いて呆れるにゃん。吾輩様が、本物の演奏を聞かせてやらあにゃん』
それが納得いかなかった三毛丸は魔弦を構えた。
すると保もいそいそと自分の魔弦の準備を始めたのだが。
『おい付き人、てみゃあの出番ねーからにゃん。弟子の分際で吾輩様と二重奏とか、百年早いぜにゃん』
ガーーン
すげなくあしらわれた保は落ち込んだが、シャッターチャンスは逃すまいとカメラは構える。
『まずは、辺境の民謡でも弾き語るかにゃん。古くせー曲を演奏するのは気乗りしねーけど、まずは掴みって事でサービスしてやるにゃん』
それは子供達も知ってる民謡だったため、エルの時よりもうけた。
『馬鹿な……』
そして昼食。
ユグディラにはルシールの差し入れの『ツナ缶』が振る舞われた。
更に、エルにはワインと清酒もプレゼントする。
『酒まで用意してるとは分かってるじゃーか』
エルはお礼のハグをすると掌の甲にキスをした。
「あははっ、ヒゲがくすぐったいぞ」
と言いつつもルシールは満面の笑みだ。
この頃にはもう威厳を保つ事は諦めて完全に開き直っており、今の状況を存分に楽しんでいた。
「師匠。シャーリーの食べさせてあげてください」
レオンがフォークに刺したツナをルシールに渡す。
「はい。シャーリー。あ~ん」
パクッ
「うわっ! もう、可愛いなぁ~♪」
ルシールがシャーリーの愛らしさに身悶える。
(可愛いのは師匠です)
レオンはそう思ったが口には出さず、心の内だけでニヤニヤした。
「みけまる。あ~ん」
ミミカがルシールの真似をしてフォークに刺したツナを三毛丸に差し出した。
『ガキじゃねーから、メシくらい一人で食えるにゃん』
しかし三毛丸はそっぽを向く。
「えぇー。たべてよぉ~」
保は不満顔をしているミミカにブロック肉の刺さったフォークを握らせた。
すると三毛丸の目の色が変わる。
『ふおぉぉ、そ、それは……にゃん』
生命力が回復する程の高級肉だ。
保は自分で食べるフリをする様に耳打ちし、ミミカがそうすると。
『にゃーんごろごろ、あ~ん、だにゃん♪』
三毛丸は思いっきり媚びた。
「ほしいの?」
ぶんぶん首を縦に振る。
「はい。あ~ん」
バクッ
「あははっ。たべた~」
『オメェ……プライドはねぇのか?』
喜ぶミミカを尻目にエルが白眼視してくる。
『プライドで、あむっ……高級肉は食えねーんだぜ、はぐっ……にゃん』
そしてとうとうお別れの時間になってしまう。
「リーちゃんいっちゃヤダー!!」
最初は怖がって泣いていたルルが、今では一番のお気に入りとなったリーリーとの別れを惜しんで泣く。
「ルル。リーちゃんには帰る家があるんですから無理を言ってはいけません」
「うえぇぇ~ん!!」
エルモアがルルをやんわり諭すとリーリーから離れてくれたが、泣き止みはしなかった。
「バイバイ、エルちゃん」
「またきてね」
「博士もまた来てよ」
「もっといろいろなことおしえて」
「みなさん、今日は本当にありがとうございました。子供達も本当に喜んでくれました。今日の事は一生の思い出になるでしょう」
最後に院長が礼を言い、ハンター達は子供達に見送られて帰路についた。
「今日は色々となさけない姿を見せてしまったが、あれは可愛いものを前にして気が緩んでしまったというか、その……」
その道中、ルシールはレオンに必死に言い訳をしていた。
「俺は凛々しい師匠も、厳しい師匠も、可愛い師匠も、どんな師匠でも好きですよ。だから色んな顔の師匠を見せて欲しいです」
「……馬鹿」
ルシールはそう言い返すのが精一杯だった。
(今日は孤児院への慰問、か。子供達の笑顔は、どんなときでも守っていかねばな。それになにより今回はユグディラが一緒だ。もふもふは良い……うむうむ)
子供達と一緒にユグディアのもふもふの毛皮をモフる光景を夢想したルシールは思わず頬が緩む。
「師匠、お待たせしました」
しかしレオンが現れた途端、表情を引き締めた。
弟子であるレオンに自分の緩んだ表情を見せて威厳を崩す訳にはいかないのだ。
「いや、私も先程来た……」
言葉が途切れた。
なぜならレオンはユグディラを連れていたからだ。
ロシアンブルーを思わせる、青みがかった銀の毛並み。
神秘的な青と碧のオッドアイ。
フリルの施された優美で可愛らしい衣装で着飾っている。
(か……可愛いっ!!)
ルシールはその愛さらしさに視線が釘付けになり、胸をときめかせた。
しかしそのトキメキは胸の内だけに収めて表情には出さないように努め、レオンに問いかける。
「その子が今回同行するユグディラのエルか。しかし聞いていた容姿と違うようだが」
「いえ、違うんです師匠。この子は俺とパートナー契約を結んでもらったユグディラなんです」
「え! お前、いつの間に……」
初耳だったルシールが驚く。
「つい最近です。今日の慰問はいい機会なんで、師匠にも紹介しようと連れてきました」
レオンが今まで黙っていたのはびっくりさせたい意味合いももちろんあった。
「そうだったのか。ユグディラをか……。それは良いな、うん。とても良い、うん」
ルシールが何度も首肯する。
(レオンに会いに行けばこの子にも何時でも会えるのか。パラダイスじゃないかっ!!)
どうやらレオンの企みは成功したらしい。
「名前はシャーリーです。ほら、挨拶して」
レオンに背中を押され、ルシールの前に進み出たユグディラのシャーリーが右手を差し出してきた。
「これは、握手か?」
尋ねるとシャーリーが首肯する。
「ルシール・フルフラットだ。よろしく」
腰を屈めて手を握る。
ぷにっ
掌に肉球の柔らかい感触が伝わってきた。
(ぷにぷにだぁーー!)
すべすべの毛皮と程よい弾力で押し返してくる肉球のコラボレーション。
癖になりそうなその感触に、思わず両手で握って肉球をプニプニしたい衝動が湧き上がってくる。
ペシッ
しかしシャーリーは『いつまでも握ってるんじゃないわよ』とでも言うように手を振りほどいてしまった。
(あ……)
ルシールの胸に悲しみが沸く。
「すみません師匠。ちょっとプライド高くて気難しいところもある子なんで」
「いや、気にしていない」
と言いつつ内心では。
(嫌われてしまっただろうか……)
と無茶苦茶気にしているルシールだった。
「でも基本的には人懐っこい性格ですから、すぐに師匠にも懐くと思いますよ」
「そうか!」
ルシールの表情がパッっと華やぐ。
(ならばすぐに仲良くなって、今度は全身をもふもふ……もふもふっ!!)
そんな夢想をし始めたルシールだが。
(んっ。いや、今日の私は喜ばせる側だ、少し抑えねばな、うんうん)
孤児院に着くまでの間に自制心は取り戻したのだった。
孤児院では院長のエルモアと孤児の子供達が待ちわびていた。
「皆さん、こんにちはなの~」
「こんにちはー!」
ディーナ・フェルミ(ka5843)が挨拶すると、子供達が元気に挨拶を返してくれる。
「幻獣大好きさんからの依頼と聞いて、たくさんの幻獣と一緒にやって来たの、よろしくお願いしますなの」
「よろしくおねがいしまーす」
「幻獣は外にいますの。でも幻獣をいじめちゃいやんなの。だから幻獣の嫌がる事はしないって約束してほしいの。約束できるかな?」
「はーい」
「約束しまーす」
「それでは、どーぞなの」
ディーナが玄関を開けると、今か今かと待ち構えていた子供達が孤児院の外に駆け出してゆく。
外にはハンターオフィスが連れてきてくれたユグディラ『エル』。
レオンのユグディラ『シャーリー』。
保・はじめ(ka5800)のユグディラ『三毛丸』。
ディーナのリーリーの4匹の幻獣がいた。
「ネコさんだぁーー!!」
ミミカは瞳をキラキラと輝かせて一番近くにいた三毛丸にいきなり抱きついた。
『にゃっ! 吾輩様を総出で歓迎するとは関心なガキどもだぜにゃん。でももみくちゃにされるのは御免だぜにゃん。抱きつくのは、そこのおっさんにしとけにゃん』
三毛丸は迷惑そうに言ったが、人間には『ニャー』と鳴いてるとしか分からず、ミミカは三毛丸の毛皮に顔を押し付けてもふもふしている。
仕方なく三毛丸はミミカを無理やり引き剥がしてエルに押し付けた。
「こっちの子も可愛いぃ~!」
ミミカはすぐエルにも抱きつき、三毛丸は開放された。
かと思いきや、すぐに他の子供達が群がって抱きついてくる。
『一斉に抱きつくのはヤメロにゃん! 倒れるにゃー!』
ボテッ
荷重に負けて転んだ三毛丸に子供達が乗りかかってくる。
『重いにゃー! そこの付き人1号、さっさと助けろにゃん!』
三毛丸は保とパートナー契約を結んでいるが、対当の存在とは思っておらず付き人扱いしていた。
保も付き人という立場に不満はなく、献身的に付き従っていた。
猫好きとは。
猫がご飯を欲しいと言えばすぐに用意し。
水を交換しろと言えばすぐに替え。
扉を開けろと言われれば何処に居ようとも開けにゆき。
布団のど真ん中で寝られていたら自分は端で寝る。
それぐらいの献身ができるものなのである。
そんな献身生活の末、保は三毛丸が何を言ってるのか何となく分かるようになっていた。
なので今も三毛丸が助けを求めている事は分かっている。
しかし子供達と戯れる三毛丸が可愛かったので、保は構わず『魔導カメラ』を向けてシャッターを切った。
『写真なんて撮ってんじゃねーよにゃん! 早く吾輩様を助けろにゃん!』
三毛丸が子供相手に悪戦苦闘している。
でも可愛い。
だから助けずシャッターを切りまくる。
「あの、ちょっとお願いが……」
ふと、レオンが保に話しかけてきた。
「俺の師匠のルシールなんですけど」
レオンは、子供達がユグディラと戯れている様子を羨ましそうに見ているルシールを指差す。
「ユグディラと遊んでいる時とかあったらカメラで撮って欲しいんです」
特に断る理由もなかったので、保は承諾した。
一方、リーリーにも何人か子供達が集まっていた。
「でっかーい……」
しかしその巨体に尻込みして近寄れる者はまだいない。
「こわいぃ~」
最年少で4歳のルルは完全に怯えている。
「大丈夫なの。とっても大人しい子なの」
「いやぁぁ!!」
ディーナは優しく諭したがルルは泣き出し、院長の足にしがみついてしまう。
(慣れれば怖くないって分かってもらえると思うけど、小さい子にはまだ無理みたいなの。でも男の子は興味ありそうなの)
ディーナは男子の中で一番体格のよいミゲルを呼んだ。
「ミゲル君。一緒にリーリーに乗って欲しいの」
「え、僕?」
ミゲルが周囲を見渡すと、年下の男の子達が期待の目で自分を見ている。
最年長としてはその期待に応えない訳にはいかなかった。
「分かりました」
「ありがとうなの」
ディーナは先にリーリーに乗ると、騎上からミゲルを引っ張り上げる。
ミゲルは12歳でも結構背が高かったので、自分の後ろに乗ってもらった。
リーリーは全長3mで、背中まででも1.5mはある。
そこに乗れば視線はかなり高くなる。
「意外と高い……」
「落ちないように捕まって欲しいの」
と言われたがミゲルは困った。
ディーナは女性なので、どこに捕まればいいのか分からなかったのだ。
「腰に手を回してなの」
「はい」
言われた通りにすると結構密着してしまう。
しかもディーナの髪からはとても良い匂いがする。
思春期のミゲルはそれだけでドキドキした。
「いきますの」
ディーナがリーリーを走らせ始める。
最初はゆっくりと。そして徐々に速度を上げる。
「わぁ~!」
やがて人では出し得ない速度になると、ミゲルが感嘆の声を上げる。
最初に感じていたドキドキは今や未知の体験へのドキドキに変わっていた。
「もう少し速度を上げても大丈夫そうなの?」
「はい!」
了承を得るとディーナは更に速度を上げて走らせる。
「しっかり捕まってなの」
「え?」
そしてミゲルが捕まったのを確認すると軽く跳躍させた。
「わっ!」
体が軽く浮き上がる感覚の後、視界が上がって空が見えた。
その後、着地の衝撃がお尻から伝わってくる。
「これで終了なの? リーリーはどうだったの?」
「はい! とっても楽しかったです」
ミゲルの顔は興奮で上気していた。
「次はボク! ボク乗せて!」
「俺! 俺が乗る!」
ミゲルが降りると他の男の子達が乗りたがった。
「ちゃんと順番の並ぶの。並ばない人は乗せないの」
注意すると、男の子達は押し合いへし合いしながら並びだす。
ディーナは順番に乗せて、同じように走らせてあげた。
「あたし! あたしものる!」
やがて、最初は怖がっていたルルも見ている間に恐怖心が消えたのか乗りたがった。
「院長先生、大丈夫なの?」
4歳の子を乗せるのは危険なので許可を求める。
「はい、お願いします」
許可は貰ったが、安全のため前に乗せたルルと自分を紐で縛って走らせた。
「わー! すごいすごい」
ルルは泣いていたのが嘘のように大はしゃぎである。
「ルルちゃん。リーリー好きになってくれたの?」
「うん。だいすきー♪」
満面の笑みにディーナも大満足だった。
リーリーの方にも子供達が流れ始めたため、ユグディラ達は少しのんびりできるようになっていた。
シャーリーの周りに誰もいなかったので、レオンは抱き上げてルシールの元へ連れて行った。
「ほら、師匠もさわってみたらどうですか?」
「え? いや、それは……」
ルシールは躊躇した。
なぜならシャーリーを撫でもふったら自分が緩みきった顔で醜態を晒すだろうと分かっていたからだ。
師匠として弟子の前で威厳をなくすような真似はしたくない。
「シャーリーはオデコやアゴを撫でられるのが好きなんですよ」
そんな気持ちを知ってか知らずか、レオンはルシールの膝の上にシャーリーを乗せた。
シャーリーの綺麗なオッドアイが自分を見上げてくる。
そして『撫でるの?』とでも言うように小首を傾げる。
(か、可愛いっ!!)
それだけでルシールの威厳の仮面は決壊寸前になり、頬が緩みそうになってひくつく。
「そ、そうだな。これから長い付き合いになるのだ。スキンシップもしなければな、うん」
ルシールは誰にともなく言い訳すると、シャーリーの頭を撫でた。
すべすべな毛皮の感触と暖かい体温が伝わってくる。
その感触がとても気持ちいい。
シャーリーも気持ちいいのか目を閉じてされるがままになっている。
「ここはどうだ」
顎の下を撫であげる。
撫でる度にシャリーの顎が持ち上がってどんどん上向いてゆく。
「きもちいいかぁー。じゃあ次はここだ」
耳の裏を撫でてみた。
するとシャーリーの顔が俯き、頭頂部を晒してくる。
どうやらもっと撫でて欲しいらしい。
「そうかー気持ちいかぁー。じゃあもっとやってやろう♪」
なでなで
かきかき
もふもふ
「うふふっ。どうだぁ。ここはどうだぁー」
すっかりシャーリーに夢中になってしまったルシールは緩みきった笑みを浮かべて思う存分なでもふったのだった。
レオンはルシールの楽しそうにしている様を微笑ましく思いながら眺め、彼女と同じように頬を緩めた。
そして、そんな2人の様子は保の魔導カメラにきちんと収められたのだった。
外で存分に幻獣と触れ合った子供達がユグディラを連れて孤児院内に戻ってきた。
「いーっぱい遊んで汚れちゃたから、一緒にお風呂に入ろうね」
ミミカが上機嫌でエルを抱きしめる。
『風呂……だと……』
しかし風呂嫌いのエルは緊張で身を硬くした。
(やはりダメか。暴れだす前に入浴後に酒を提供する事で説得を)
ルシールが密かに持ってきていたワインと清酒を取り出そうとする。
「ミミカちゃん。猫は水の音や匂いが嫌いなの」
しかしディーナが先にミミカの説得に入った。
「幻獣の生態は研究中だけど、ユグディラは猫型だから、気を付けてあげないといけない事も多いの。猫は耳に水が入ると中耳炎になるから顔より上は濡らしちゃダメなの」
「ちゅうじえんってなに?」
「耳の中でバイキンが増えて、耳が聞こえなくなったり、頭が痛くなったりする病気なの」
「えぇー!!」
「だから生まれてからお風呂に馴らした猫以外無理にお風呂にいれないの。怖い想いや嫌な想いをさせて病気にしようとするいじめっ子とミミカちゃんは友達になれる? 幻獣や動物が本当に好きならブラッシングまでにしてほしいの」
「うん、わかった。ミミカ、ブラッシングだけする」
ミミカはディーナからブラシを受け取ると、エルの毛を鋤き始めた。
「それから猫は食べ物も気をつけてあげなきゃいけないの。ネギ類をあげると貧血で死んじゃうの。猫はイカが好きだけど、生のイカやタコを食べさせると消化不良で吐いたりビタミン欠乏症を起こして死んじゃうの」
「イカたべるとしんじゃうのー!」
「アワビの肝は光線過敏症を引き起こして、光を浴びると皮膚が痛痒くなるから耳が痛くて爪で引っ掻きすぎて耳が千切れたりするの。チョコレートも不整脈を引きおこして死ぬ事があるの」
「チョコレートもダメなの」
「かわいそう~」
「ねぇ、ほかには?」
ディーナは熱心に話を聞いている子供達からの質問に答えてあげていった。
『俺ぁ別にイカやチョコ食っても腹壊したりしねぇんだが、ここは嬢ちゃんの顔を立てておくか』
エルはそんな事を思いながら、大人しくミミカにブラッシングされた。
ユグディラは猫型幻獣だが、実は必ずしも猫の特性を備えている訳ではない。
猫の特性を全て備えている種もいれば、外見以外は全く猫の特性を備えていない種もいて、種々様々な個体が存在するのである。
「みんな猫の事は分かったくれたの?」
「うん。わかったー」
「それは嬉しいの。じゃみんなでブラッシングしてあげるの」
「はーい」
こうして風呂はなくなり、代わりにブラッシングをする事になったのだが。
「はかせー。ブラッシングってこれでいいの?」
ディーナは先程の公演のせいか、子供達から『幻獣博士』と呼ばれるようになってしまった。
ちなみにレオンは『おにいちゃん』。
ルシールは『おねえちゃん』。
保は『カメラのおにいちゃん』と呼ばれている。
『いいブラッシングだったぜ。お礼に一曲聞かせてやるよ』
エルが縦笛を吹き鳴らした。
上手くはない。普通だ。
「わー、かわいいぃ」
でも子供達には受けた。
「本当に可愛いぃ~」
ルシールも愛くるしい姿に顔をとろけさせている。
『はん、あれで天才とは聞いて呆れるにゃん。吾輩様が、本物の演奏を聞かせてやらあにゃん』
それが納得いかなかった三毛丸は魔弦を構えた。
すると保もいそいそと自分の魔弦の準備を始めたのだが。
『おい付き人、てみゃあの出番ねーからにゃん。弟子の分際で吾輩様と二重奏とか、百年早いぜにゃん』
ガーーン
すげなくあしらわれた保は落ち込んだが、シャッターチャンスは逃すまいとカメラは構える。
『まずは、辺境の民謡でも弾き語るかにゃん。古くせー曲を演奏するのは気乗りしねーけど、まずは掴みって事でサービスしてやるにゃん』
それは子供達も知ってる民謡だったため、エルの時よりもうけた。
『馬鹿な……』
そして昼食。
ユグディラにはルシールの差し入れの『ツナ缶』が振る舞われた。
更に、エルにはワインと清酒もプレゼントする。
『酒まで用意してるとは分かってるじゃーか』
エルはお礼のハグをすると掌の甲にキスをした。
「あははっ、ヒゲがくすぐったいぞ」
と言いつつもルシールは満面の笑みだ。
この頃にはもう威厳を保つ事は諦めて完全に開き直っており、今の状況を存分に楽しんでいた。
「師匠。シャーリーの食べさせてあげてください」
レオンがフォークに刺したツナをルシールに渡す。
「はい。シャーリー。あ~ん」
パクッ
「うわっ! もう、可愛いなぁ~♪」
ルシールがシャーリーの愛らしさに身悶える。
(可愛いのは師匠です)
レオンはそう思ったが口には出さず、心の内だけでニヤニヤした。
「みけまる。あ~ん」
ミミカがルシールの真似をしてフォークに刺したツナを三毛丸に差し出した。
『ガキじゃねーから、メシくらい一人で食えるにゃん』
しかし三毛丸はそっぽを向く。
「えぇー。たべてよぉ~」
保は不満顔をしているミミカにブロック肉の刺さったフォークを握らせた。
すると三毛丸の目の色が変わる。
『ふおぉぉ、そ、それは……にゃん』
生命力が回復する程の高級肉だ。
保は自分で食べるフリをする様に耳打ちし、ミミカがそうすると。
『にゃーんごろごろ、あ~ん、だにゃん♪』
三毛丸は思いっきり媚びた。
「ほしいの?」
ぶんぶん首を縦に振る。
「はい。あ~ん」
バクッ
「あははっ。たべた~」
『オメェ……プライドはねぇのか?』
喜ぶミミカを尻目にエルが白眼視してくる。
『プライドで、あむっ……高級肉は食えねーんだぜ、はぐっ……にゃん』
そしてとうとうお別れの時間になってしまう。
「リーちゃんいっちゃヤダー!!」
最初は怖がって泣いていたルルが、今では一番のお気に入りとなったリーリーとの別れを惜しんで泣く。
「ルル。リーちゃんには帰る家があるんですから無理を言ってはいけません」
「うえぇぇ~ん!!」
エルモアがルルをやんわり諭すとリーリーから離れてくれたが、泣き止みはしなかった。
「バイバイ、エルちゃん」
「またきてね」
「博士もまた来てよ」
「もっといろいろなことおしえて」
「みなさん、今日は本当にありがとうございました。子供達も本当に喜んでくれました。今日の事は一生の思い出になるでしょう」
最後に院長が礼を言い、ハンター達は子供達に見送られて帰路についた。
「今日は色々となさけない姿を見せてしまったが、あれは可愛いものを前にして気が緩んでしまったというか、その……」
その道中、ルシールはレオンに必死に言い訳をしていた。
「俺は凛々しい師匠も、厳しい師匠も、可愛い師匠も、どんな師匠でも好きですよ。だから色んな顔の師匠を見せて欲しいです」
「……馬鹿」
ルシールはそう言い返すのが精一杯だった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/24 00:50:08 |
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ふわもこパラダイスを子供たちへ ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/03/21 01:28:14 |