ゲスト
(ka0000)
【界冥】緑の光に手を伸ばす――媒体
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/03/31 22:00
- 完成日
- 2017/04/07 18:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
月面。崑崙基地。
複数の天体観測マニア(休暇中引っ張り出された軍人)と本職が、あくびをしながら目薬をさしていた。
1時間前にクリムゾンウェストから緊急の連絡があった。
VOIDベアトリクスが、データの形で転送されているかもしれない。
そんな突拍子もない情報が著名な科学者によるデータと推測を添えて送られてきたのだ。
「目がかすんで見えねぇ。室長、衛星とデータリンクする許可を」
「駄目デース」
白衣の上司がにこやかに却下する。
リンクすれば詳細な位置情報を得られるだろうが、ベアトリクスも崑崙基地に転送されて来る可能性がある。
「いやしかしこのままでは間に合わ」
「駄目デース。肉眼で確認してくだサーイ」
英和伊語を母国語並に操れる上司が正直うざい。
がくりと肩を落として手元の大型ディスプレイを注視。
解像度が異常に高いので青い地球がとても美しく映し出されている。微かに動く白い雲が実に良い。
ベアトリクスあるいはその力の転送に使われた媒体のうち、地上にあった物はハンターと現地協力者が全て破壊した。
地球圏でまだ破壊されていない唯一の媒体が、地球の静止軌道上にある通信衛星、通称【落花生】だ。
今のところ活動は止まっている。
しかしいつ再起動して地球や月面にベアトリクスを送り出すか分からない。
「無理というのはライアーの言葉デース」
「あんたそろそろ英語で話せ。異動願を出したくなってきたぞ」
上司は似非英語風の流暢な日本語、部下は微かな日本語なまりの英語である。
本職とマニアが酷使されても、目標の衛星を見つけるのに数時間かかった。
●宇宙への跳躍
「皆さんには宇宙へ向かってもらいます」
職員が真面目な顔でとんでもないことを言い出した。
宇宙は危険だ。
呼吸のための大気は無いし、強烈な宇宙線にも晒される。
足を踏み外せば二度と帰れぬ深宇宙への旅に強制ご招待だ。
「攻撃目標は情報衛星【落花生】。情報衛星なので武装はありません」
位置は崑崙からの情報で判明している。
ハンターが何故そんな物をとたずねると、職員はパルムを部屋から追い出し会議室へ鍵をかけた。
「VOID転送の中継地点です。放置すれば……そうですね、最悪ベアトリクス級のVOIDが地球圏に現れる可能性があります」
大事であった。
「とても小さい可能ですけどね。実際は通信機器の一部が雑魚い雑魔になっているだけだと思います。CAMの使用許可が出ているのは保険ですよ」
皆さんなら素手で殴るだけで解決です! などと言う職員が非常に胡散臭い。
「余裕があれば衛星から記録装置を抜き取って戻って来て下さい。どこから転送されたかが分かればロッソの出動許可も出るかもしれません」
目的地が遠すぎると無理ですけどねー、と無責任に笑う。
追加ブースターの予算は出ないのでロープとかの準備はしてくださいねと、などと危機感無く説明する職員に、上司から雷が落とされた。
●悪意が実る落花生
肥大しきった眼球と虫を混ぜて金属質にした異形が、天文学的な距離を超え地球の近くにたどり着く。
遙か上位から下された力が近づいて来る。
受け取ろうと異形が5つ、餌に群がるようにそれに向かう。
実際に受け取ったのは異形では無く命を持たない人工物だ。
球を2つ重ねた外見が僅かに歪む。
片方の球に亀裂が入り、その奥から緑の燐光がじわりと滲む。
ハンター達が転送される、ちょうど1分前の光景だった。
複数の天体観測マニア(休暇中引っ張り出された軍人)と本職が、あくびをしながら目薬をさしていた。
1時間前にクリムゾンウェストから緊急の連絡があった。
VOIDベアトリクスが、データの形で転送されているかもしれない。
そんな突拍子もない情報が著名な科学者によるデータと推測を添えて送られてきたのだ。
「目がかすんで見えねぇ。室長、衛星とデータリンクする許可を」
「駄目デース」
白衣の上司がにこやかに却下する。
リンクすれば詳細な位置情報を得られるだろうが、ベアトリクスも崑崙基地に転送されて来る可能性がある。
「いやしかしこのままでは間に合わ」
「駄目デース。肉眼で確認してくだサーイ」
英和伊語を母国語並に操れる上司が正直うざい。
がくりと肩を落として手元の大型ディスプレイを注視。
解像度が異常に高いので青い地球がとても美しく映し出されている。微かに動く白い雲が実に良い。
ベアトリクスあるいはその力の転送に使われた媒体のうち、地上にあった物はハンターと現地協力者が全て破壊した。
地球圏でまだ破壊されていない唯一の媒体が、地球の静止軌道上にある通信衛星、通称【落花生】だ。
今のところ活動は止まっている。
しかしいつ再起動して地球や月面にベアトリクスを送り出すか分からない。
「無理というのはライアーの言葉デース」
「あんたそろそろ英語で話せ。異動願を出したくなってきたぞ」
上司は似非英語風の流暢な日本語、部下は微かな日本語なまりの英語である。
本職とマニアが酷使されても、目標の衛星を見つけるのに数時間かかった。
●宇宙への跳躍
「皆さんには宇宙へ向かってもらいます」
職員が真面目な顔でとんでもないことを言い出した。
宇宙は危険だ。
呼吸のための大気は無いし、強烈な宇宙線にも晒される。
足を踏み外せば二度と帰れぬ深宇宙への旅に強制ご招待だ。
「攻撃目標は情報衛星【落花生】。情報衛星なので武装はありません」
位置は崑崙からの情報で判明している。
ハンターが何故そんな物をとたずねると、職員はパルムを部屋から追い出し会議室へ鍵をかけた。
「VOID転送の中継地点です。放置すれば……そうですね、最悪ベアトリクス級のVOIDが地球圏に現れる可能性があります」
大事であった。
「とても小さい可能ですけどね。実際は通信機器の一部が雑魚い雑魔になっているだけだと思います。CAMの使用許可が出ているのは保険ですよ」
皆さんなら素手で殴るだけで解決です! などと言う職員が非常に胡散臭い。
「余裕があれば衛星から記録装置を抜き取って戻って来て下さい。どこから転送されたかが分かればロッソの出動許可も出るかもしれません」
目的地が遠すぎると無理ですけどねー、と無責任に笑う。
追加ブースターの予算は出ないのでロープとかの準備はしてくださいねと、などと危機感無く説明する職員に、上司から雷が落とされた。
●悪意が実る落花生
肥大しきった眼球と虫を混ぜて金属質にした異形が、天文学的な距離を超え地球の近くにたどり着く。
遙か上位から下された力が近づいて来る。
受け取ろうと異形が5つ、餌に群がるようにそれに向かう。
実際に受け取ったのは異形では無く命を持たない人工物だ。
球を2つ重ねた外見が僅かに歪む。
片方の球に亀裂が入り、その奥から緑の燐光がじわりと滲む。
ハンター達が転送される、ちょうど1分前の光景だった。
リプレイ本文
●黒と青の空
確かな大地が消え、VOIDが浮かぶ無明の空が現れた。
機動用スラスターが断続的に光を放つ。
魔導型デュミナス【VIRTUE】の全身が雄々しくも禍々しく照らし出される。
「アンタレス並列機動、帰還までの時間をカウント開始」
HMDの隅の数字が減り始める。
スラスターの噴射時間を調整。
【VIRTUE】をVOIDに正対させて停止。
龍崎・カズマ(ka0178)は膨大な情報を視覚で拾い上げて計算し、絶妙のタイミングで背面ブースターに火を入れた。
味方機の姿が背後に消える。
奇怪な鉄大目玉が戸惑うように瞬き、【VIRTUE】の動きを追いきれずに明後日の方向を向く。
「さぁって、おうちに帰るまでが戦争ってなあ!」
ブースターの向きをわずかに変える。
地球の重力に逆らいながら戦場の奥へ突撃。目を凝らそうとしているVOIDまで十数メートルに迫った。
HMDに映るVOIDに警告表示が重なる。
鉄大目玉から放たれる光が見る間に収束されて、追加フレームごと【VIRTUE】を焼き切ろうとする。
「見え見えだ」
右肩部と左脚部スラスターを噴射。
30度回ってところで逆噴射し回転停止。
寸前までコクピットがあった箇所を大きな熱が通過して、収束し損ねた少量の熱が装甲を温めた。
焦点の合わない巨大眼球が、【VIRTUE】のセンサー部分をぼんやりと見ていた。
鼻で笑う。
ブースターを止めて加速を停止。機体前面のスラスターで減速を行う。
この程度の相手に、もろとも外宇宙まで飛びだすリスクを負う必要は無い。
カズマは巨大な刃を【VIRTUE】に抜かせ、刀に手を添えて横一線に構えて激突の瞬間を待ち構えた。
つるりとした眼球の、最も薄い箇所を切っ先が貫き半ばまで埋まる。
鉄大目玉が断末魔の如く震え、操縦桿越しにカズマの手へ伝わった。
瞳孔が開く。
至近距離に焦点があわされる。
【VIRTUE】の装甲が爆発的に熱を持つ。融けるか弾けるかする前に横方向への加速を行いレーザーの照射から逃げ切った。
「あいつら」
姿勢制御の過程で、数キロ先を飛んでいる宇宙船が見えた。
ハンターを回収し再転移まで安全を提供してくれる船ではあるのだが、装甲は薄く武装も質素、しかも動きに緊張感がない。
「気づいてるのかね。世の中ってのは嫌な可能性が極小であればあるほど起きやすいって」
ベアトリクスのデータによる転送。
荒唐無稽に聞こえる。
だがハンターなら彼等と違ってあることを前提に緊張感を持って動いたはずだ。
赤の世界でも青の世界でも人間に都合のよい神様なんていない。
そのことを何度も我が身で経験してきたのだから。
【VIRTUE】は2の太刀で傷口を広げ、3の太刀で傷口の奥にある核を砕いて止めを刺した。
まだ、本番は始まってもいない。
●厚い眼球
「取り敢えず邪魔者を散らすとしますか」
夕凪 沙良(ka5139)が精神を研ぎ澄ます。
両手のグリップレバーと両足のペダルに適切かつ妥当な入力を完了。
紫に縁取りされたR7エクスシアが、等速で前に出つつ見事な射撃姿勢をとった。
音のない空に実体のない銃弾が生じる。
銃身を通り急激に加速。
緩やかに回転しつつVOIDへ接近。
つるりとした球面部分に90度の角度で弾着した。
沙良の柳眉が微かに動く。
鉄大目玉の下部から伸びる、触手とも昆虫ともつかぬ部位が痛みにもだえ無意味に激しく動いている。
「長期戦、か」
高威力の射撃にも関わらず、VOIDの装甲に穴は開かずに変形したのみだ。
急所に当たれば短時間で終わる気もするが、残念ながら部位狙いスキルは手持ちにない。
弾数に余裕のある実体弾銃を確認した直後、視界の隅で【Meteor】が動いているのが見えた。
「後ろは任せた」
キャリコ・ビューイ(ka5044)はわざと直線の進路をとることで敵の注意を引きつける。
馬鹿馬鹿しいほど巨大な眼球の奥、禍々しい気配が噴き出す瞳孔がきゅっと細まり。
大出力レーザー2条が斜め左右より【Meteor】へ向かう。
「夏の虫眼鏡」
師を思い出す。
CAMが何かすら知らなかったあの頃、クリムゾンウェスト生まれのキャリコに分かるよう、必死に師が考えてくれた説明だった。
「熱いのは一点。レーザーは直線」
両方に当たるのは馬鹿馬鹿しい。
キャリコは【Meteor】を前傾させることで右斜め前からのレーザーを躱す。
左からのレーザーの前に、マテリアルで出来た巨大刃を突き出した。
刃が削ったエネルギーはほんのわずか。
しかしそれで十分だ。
【Meteor】の分厚い装甲は、万全な状態のレーザーでなければ射貫くことはできない。
被害は塗装と装甲の表面だけで済んだ。
その見た目だけの無残さがVOIDの攻撃を誘う。
2方向同時のレーザーが飛来。
キャリコは今度は本気を出し、前進速度は緩めず左右へスラスターの一部を吹かすことで全てを回避する。
「さらは余力を残せ。相手が相手だ」
瘴気じみた負の気配を放つ鉄大目玉とは異なり、辛うじて関知可能な負マテリアルしかない小さな衛星に一瞬視線を向ける。
ハンターの予想が正しければ、現状がお遊戯に見える地獄がもうすぐ始まるはずだ。
『ビューイさん、フェミニスト?』
「役割分担だ」
キャリコの返事には照れが一欠片も含まれていない。
沙良機より装甲が厚く、最も危険な役割は担当しない自分の方が向いていると判断しただけだ。
『あら残念』
沙良の声はずいぶん楽しそうだ。
朴念仁ではないが戦場でも普段のスタンスを崩さないキャリコの有り様が、心強いと同時に妙に微笑ましく感じられる。
落ち着いているようだ何よりだ。
正しくはあっても微妙にずれた認識を持ち、キャリコは限界まで相対速度を上げる。マテリアルの刃を横から引っかける形で鉄眼球ど真ん中に命中させた。
目玉の正面が凹む。
凹まなかった箇所が内側からの圧力にされされ、何カ所もひび割れが出来内側から体液が細い糸の形で噴き出した。
はるか下方。月のある方向から接近中の宇宙船から、大出力電波に乗って歓声が届いた。
「敵健在。足止めを続行する」
どん、と【Meteor】が猛加速。
複数スラスターを駆使し、コクピットを軸に180度反転。
衛星を鉄大目玉から守る態勢になり、その速度を保って白兵戦用脚爪を眼球盲点部分に突き込んだ。
●崩れる鉄壁
「懐かしき我が故郷! って感じじゃねぇな」
金の機体【ドゥン・スタリオン】の中で、アーサー・ホーガン(ka0471)は目に真剣な光を浮かべ口元だけで笑う。
「初手はこうだ」
転移直後の場所で、機体と同じ長さを持つスナイパーライフルを構える。
HMDに電算装置発熱警報。
その酷使によりVOID2体に対する射撃諸元が全て集まる。
アーサーが引き金を引くことで、1発ずつ計2発の105ミリ弾が戦場右側へ飛んだ。
鉄大目玉は急いでいた。
あれを守らなくてはならない。
もし失敗すればどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
それほど上位の存在が関わっているのだ。
そんな2体が、特大の鉛玉によって横面を張られた。
対人類の戦場ではよく出会う105ミリ弾。
命中率が1割に達することも珍しいはずだったのに、何故か2発も当たって分厚い装甲でも無傷でいられない。
相変わらず尽きっぱなしの警報をちらりと眺め、アーサーは第2射を放つ。
奥のVOIDに対する射撃は外れ、手前の1体には端に当たって少しの凹みをつくる。
カズマの剣や非実体弾による攻撃に比べると個々の威力は低い。
が、手数が多くどれだけ移動しても届くのは脅威だった。
鉄大目玉が停止する。
第3射が2発とも命中。
大目玉が【ドゥン・スタリオン】に向き直りって加速を開始。
眼球は怒りに燃え、第4射のうちの片方を短い触手で受けて止めて見せた。
眼球に微かな喜びと侮りの色が浮かぶ。その直後、眼球中央に小さな穴が開いた。
須磨井 礼二(ka4575)が軽く息を吐いた。
鉄大目玉の反対側へ弾が突き抜け、大量の体液も弾と一緒に飛んでいっている。
使用したのは再装填に難があるマテリアル兵器で装填数は1。
産廃扱いされかねないそれららの要素があっても、手放しがたい魅力があった。
「なんて威力だ」
多数のデブリに耐える鉄大目玉の装甲が、たった1発の弾に貫通され反対側に抜けたのだ。
「残り3発」
R7エクスシアがエンジンを最大出力でまわす。
リアルブルーの新鋭CAMが、試作電磁加速砲「ドンナー」へのマテリアル充填を完了させた。
【ドゥン・スタリオン】の脚部スラスターが眩しく光って前進を開始。
頭を先頭に飛ぶ様は大昔のロボアニメを思わせる。
もっとも中身は最新技術と超人的操縦者の組み合わせであり、手前の鉄大目玉に衝突直前の間合いでCAMブレードを振り眼球を凹ませた。
礼二が奥のVOIDに狙いを切り替える。
初撃と同様の加速で弾丸が放たれて、雷纏う弾が宇宙をいくVOIDを正面から貫く。
「本番は次だ。確実に仕留める」
刃と弾が鉄目玉を削り切るまで、少しの時間が必要だった。
●CAM&EVA
転移直後。
最も速いCAMが最も多くのVOIDに狙われていた。
フロスティブルーの装甲がスラスターの光を浴び冷たく光る。
地上では放熱索の役割を持つポニーテールが真後ろに伸びていた。
「ベアトリクスが現れる可能性を示唆されている以上、時間をかける訳にもいかない。可能な限り短時間で済ませる為に押し通ります」
魔導型デュミナス【Is Regina】の進路は真っ直ぐだ。
回避と防御に備えた動きは最低限で、複数攻撃から攻撃されれば火だるまになりかねないほど速度を優先している。
キャリコ、沙良の猛攻が始まり、近くのVOIDの注意が引きつけられ、しかし全てとはいかず強烈なレーザーが【Is Regina】に向けられた。
「頑張るのじゃミーくん!」
【Is Regina】を追っていたカナタ・ハテナ(ka2130)機がくるりと反転。
虎縞招き猫、の形をした魔導盾を構えてレーザーの進路を遮った。
ニャ~ン♪ にゃにゃ~ん♪ ふにゃー……。
最後が断末魔風だったのは、気のせいだろうか。
少しばかり焦げはしたもののカナタのR7エクスシアにダメージはほぼなかった。
鉄大目玉2体の動きが乱れる。
マテリアルに乗った鳴き声がVOIDの調子を乱す。
VOID達は、キャリコの陽動にあっさり引っかかってカナタ達から離れていった。
【Is Regina】が脚部を衛星に向けた。
ただ減速するだけではない。
VOID化しているかもしれない情報衛星【落花生】との接触だ。
熟練の乗り手であるフィルメリア・クリスティア(ka3380)でも精神が疲弊するほど難しい。
【Is Regina】が手を伸ばす。
衛星から広がるソーラーパネルを避け、相対速度を限りなく0に近づけたタイミングで衛星本体に触れ機体を固定する。
「外見に変化無し。これより記録装置の回収を行う」
気密を解除。
空気が抜けてからベルトを外し、宇宙服で包まれた細身の体を宇宙へ踊らせた。
「厄介ね」
負のマテリアルが濃い。
右手で魔導符剣を使って浄化術を、左手でロープの力加減を調節して柔らかく衛星に着地。
ハンターズソサエティー経由で預かった鍵を差し入れる。
ロックが解除され飛び出した取っ手を握り、宇宙線他から厳重に守られた記録装置を抜き出した。
「10秒遅延」
クランシーバーに報告を入れ、記憶装置を覆うシートをその場で剥く。
極めて高価な特殊布が宙を漂い。
フィルメリアほどの高位覚醒者でも見落としかねない小さな動きで逃げようとした。
フィルメリアは即断する。
記録装置が抜き取られぽっかり開いた空間に、珍しくはあっても脅威度の低いVOIDを押し込み蓋をする。
もう一度浄化術を使って可能な限り負のマテリアルを祓い、手提げ金庫サイズの記憶装置と共にコクピットへ戻る。
「こちらフィルメリア。【落花生】のVOID化が進行中」
CAMのセンサを使って鉄大目玉の動きを再確認。
記憶装置を抜き取る前と同じように、VOIDは落花生風の情報衛星を守るために行動していた。
「眼球型VOIDの防衛行動優先順位に変化無し。【落花生】の処理優先度を上げることを提案する」
『了解なのじゃフィルメリアどん』
通信機がなくても身振りで分かる。
これまでフィルメリアの護衛をしていたカナタ機がこんがり盾を下ろし、総龍鉱石製の長刀を抜いて【落花生】に向き直る。
『めちゃくちゃ斬りにくそうじゃの』
カナタのマテリアルに反応して刃が蒼く光る。
切っ先を落花生の殻へ差し込んで、豆腐でも切るように素早く、魚を三枚に下ろすように精密機械を分解してみせた。
『やっぱり切れてないのじゃ』
ちょっとだけ丸みを帯びた刃で3つの切れ端にさくさく切れ目を入れる。
そのたびに、最上位の職人技でつくられた部品から淡い負マテリアルが噴き出した。
●解体作業は難工事
20秒後の動作まで入力し終え、ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)が機体を動かさずに後ろを振り返る。
2機のCAMが情報衛星解体に専念しているのに作業の速度が酷く遅い。
「時間が必要そうだ」
彼の位置からでは【落花生】がカナタ達の機体の陰に隠れて見えない。
だが2機の動きを見ればだいたいの事情は把握できる。
「さて、と……俺は俺のやる事をやらせてもらうとするか」
飄々とつぶやく間も脳内では高速情報処理が行われている。
転移直前になってようやく届いた【落花生】の設計図。
それ以前の打ち合わせで共有した、同行者とそのユニットのスキルと装備。
「作戦通りに事が運ばないってのは、依頼の常だしな」
口の端だけで笑う。
1発打ち込めば撃墜確実なまでに追い込んだ鉄大目玉を一瞥。
半壊VOIDを完全に無視して、魔導型デュミナス【Freikugel】に斜め後ろへ振り向かせた。
「今回は10本のハルバードより1回のファイアスローワーだ」
背後から来る殺気を横移動で回避。
礼二・アーサー組の戦闘に長距離射撃で参加する。
スナイパーライフル「クルーアル」の弾が真横から突き刺さって致命傷を与え、礼二にかかる負担を半減させた。
「分かった。……通信が届いているから分からないが」
礼二は後をアーサーに任せて【落花生】の元へ急いだ。
カナタ機が大物分解を終え小物の処理を始めている。下手に力を加えると無限の彼方へ飛んでいってしまうので処理速度がかなり落ちている。
代わりに【VIRTUE】が、長い柄を持つ巨大ペンチで以てあらゆる部品を丁寧にしかも高速で潰していっていた。
「確かにこれは」
刃物で切るのと比べると効率が段違いだ。
カナタが遅い訳でも弱いわけでもない。カズマの武器選択が見事過ぎただけだ。
「俺向きだ」
再装填済みのドンナーをそっと伸ばす。
処理待ちの部品が漂う場所に向け、引き金は引かずスキルトレースシステム介し破壊エネルギーを発現させる。
30度の、高さ8メートルの、円錐形。
そこにあった部品のうち、特に厳重に防護されていたものを除く全てが一瞬で蒸発して粉未満のサイズに分解された。
龍鉱石の刃が破壊では無く切断を優先し始める。
ペンチが固い部品の処理だけを担当し。
礼二のファイアスローワーの範囲攻撃で、驚くほど短時間で情報衛星の処理が完了した。
●緑の残滓
気づくのと、選択するのと、引き金を引くのがほぼ同時だった。
礼二は人間の限界を超えた速度でデルタレイを発動。
射程を除けば艦載砲級の力を持つ光を、元【落花生】に叩き込んでいた。
3つの光の点が進路上の緑を吹き飛ばす。
残った緑光が揺れ、つながり、見る間にCAMサイズの人影となって安定しない。
薄ぼんやりとした人型が、数秒ごとに崩れてはまた戻りを繰り返していた。
「やはりアタリだった様じゃの。久しぶりじゃの、ベアトリクスどん」
カナタ機のイニシャライズフィールドが悲鳴をあげている。
フィルメリアによる浄化術の支援があってこれである。
「今日こそ」
ニャ~ン♪ にゃ~ん♪ ふにゃ~っ♪
口上を終えるより早く、負のマテリアルを乱す鳴き声が宇宙に広がった。
実際、緑の人影の動きが雑になってグリーンレーザーが明後日の方向に消える。
「参ったな」
本能の警告がゼクスの潜在能力を引き出す。
数度に渡る対ベアトリクス戦の経験を活かし、緑の影がいる場所から100メートル地球側の場所にライフル弾を撃ち込んだ。
緑の影が2つに増える。
【落花生】があった場所に1つと、【Freikugel】が打ち込んだ場所に1つ。
打ち込まれた方は、サイズが命中弾の分減っていた。
「不完全な登場だから手を抜く理由が抜け落ちたのか」
残像が消える。
緑の影が、音速前後の速度で戦場を飛び回る。
下方と後ろ、そして真正面から緑色レーザーが直撃。
ディスプレイがあった場所に穴が開いてコクピットから空気が吸い出された。
ゼクスの瞳が神話の蛇の如く変化し、マテリアルとわずかに残った空気に罅割れる様な音が生じる。
「腕一本」
両手が回避行動複数パターンを入力。
両足でタイミングを指示し、【Freikugel】に上下左右へ緩急ついた揺れる様な立体回避軌道を行わせる。
異様な加速がゼクスを苛むが彼の集中は途切れず、目ではなく思考で捉えた相手へハルバードを突き入れた。
「置いていってもらう」
ふわりと、半透明というより緑の霧のような何かが本体から斬り飛ばされる。
1キロメートル離れた頃には、太陽から吹き付ける力で緑お切れ端が消滅していた。
「またか」
礼二が奥歯を噛みしめた。
最初に詰めの甘さから脅威を見逃し、次に犠牲が出してしまい、今また劣化ベアトリクスとでもいうべき何かが野放しになっている。
悔しい。
いくら何度も相手にいいようにされるのも、何より犠牲が出続けているのが悔しい。
なお、代表的犠牲者である博士がこの場にいたら、「研究の初期には事故はつきもの。気にするな」と笑って説明した成仏したはずだ。
「っ……。ハンターを釣り餌にする」
【VIRTUE】の背中を掠めるようにデルタレイを発動。
2度目で影に当たり光2つ分の緑を削り取った。
「フィルメリアどん!」
スラスターを駆使してカナタ機が横移動。
【Is Regina】と触れあう距離でマテリアルエネルギーを展開。
重なり合い実体に近い性質を持つに至った緑光が激突、防御に向けたエネルギーと肩部マテリアルエンジンの一部が押しつぶされた。
「ゼクス」
守られたフィルメリアが激情を理性で押しつぶす。
冷たい眼光で緑の影を追い、その進路上に置くつもりで銃弾を送り込む。
「了解、フィル」
優しく応え、ゼクスの銃弾が緑の影の中心を貫いた。
あまりにも細い触手が千切れて回転。
【Freikugel】に当たりかけた1本を、ゼクスは危なげ無くCAMシールドで受けて被害を最低限に止める。
「止めは……いや、先にあちらのお嬢さん達かな」
ゼクスの視線の先。
マテリアルハルバードを振り上げ【Meteor】が待ち受けていた。
「やれ」
マテリアルの刃で緑の影を刺し貫く。
稼働中のイニシャライズフィールドが悲鳴をあげるのも構わず、機体を重石につもりで刃をさらにねじ込んだ。
緑の影が暴れる。
レーザーが乱射され【Meteor】に多数の穴が開く。
沙良の瞳が深い赤に染まる。
正のマテリアルが剥き出しになり、負のマテリアルが普段より近くに感じられ心身に大きな負荷がかかる。
「さて……貴方はベアトリクスですか? それとも違う何かですか?」
緑の影に正面から近づく。
正面から、人間の表情なら読み取れる距離まで近づき、自機の武装を解除した上で全神経を集中した。
レーザーが【リインフォース】の肩をかすめる。
負のマテリアルの強さが不規則に上下するのが神経を逆なでする。
「ベアトリクスなら話を聞きなさい、私は貴女を助ける」
強靱な優しさを、悪意を退ける強さで包む。
マテリアルリンクのときもここまで気合いは入れないというレベルの気合を込め、沙良は真正面から己を叩きつけた。
緑の影が奇妙なほど派手に、ふるふる左右にと揺れる。
限界まで感受性を高めた沙良の心に、耐え難い量と形をした情報が送り返された。
「信号……情報を届ける、強い好奇心を持つ」
猛烈な射撃を加えて緑の移動を妨げながら、アーサーは己が渋い表情を浮かべているのに気づく。
「まるでパルムみてぇだな」
緑の影が【Meteor】の装甲を蹴って加速。
【リインフォース】の周囲を回って背後をとり、鋭く尖った触手を沙良の頭がある位置へ向けた。
丁度そのとき、沙良は夢と現実の狭間にいた。
現実逃避ではない。
巨大な情報の中から必要な情報を抽出し、それでもまだ多すぎる情報を見慣れた物に置き換え認識しているのだ。
底抜けの明るさを持つ女性が沙良へ手を伸ばしている。
そこだけはっきりと見える両手の指は、どれも鋭利すぎる刃だ。
刃から毒液が滴っているのに気づいていない。
黒々としたリードが首輪から伸びているのにも気づけていない。
酷い有様だ。
つまり想像通りということだ。
沙良はベアトリクスの……少なくともこれはベアトリクスの一部ではある。ともかくこの光景から彼女を救い出す手がかりを赤い瞳で探し、気づいてしまった。
霧が晴れるように視界が良好に。
これまで何も感じなかった嗅覚に、酷く食欲をそそる香りが届く。
驚愕、怒り、嫌悪で見開かれた紅瞳にベアトリクスの姿が映る。
人間用の加工肉が生きて動いている。
VOID化は加工後に付け加えられた変化でしかない。
なのに、そんな状況で、心からの笑みを沙良に向けていた。
『……ら、生きているなら右手を出せ!』
夢との狭間から現実に復帰する。
これまで聞いたことのないほど必死な声が、沙良の鼓膜を震わせている。
それがキャリコの声だと認識すると同時、己の危地を認識するより早く、【リインフォース】の右手を差し出していた。
キャリコではなくカナタの機体が右手をキャッチ。
器用にスラスターを吹かせて入れ替わり、マテリアルカーテンを全開にして触手の一閃を防ぎきる。
キャリコ機とカナタ機が、得意げに親指を立てていた。
「まったく……」
不規則で耳障りな呼吸音が先程から止まらない。
それが自分から発せられているのに気づいて苦笑い。
「ありがとう」
人の善意が最良の治療薬であることを、沙良が我が身を以て知った。
「ふははー、その程度では効かんぞベアトリクスどん!」
触手とレーザーの豪雨を躱さず受けているのにカナタ機は健在だ。
中破したはずの機体はすっかり治り、猫盾の焦げも薄くなっている。
「あのVOID、素人か」
アーサーが【ドゥン・スタリオン】のセンサーを調整。
精度を落とし、五感頼りの攻撃を行い成功するとさらに精度を落としと繰り返す。
消えかけの蝋燭じみた緑光が戦場全体を照らし、けれど【ドゥン・スタリオン】は全く影響を受けなかった。
「なら、これでどうだ」
CAMブレードを構えた体勢で加速を開始。
猫立てが必死に咆え立てるのを嫌って緑が猛加速。
アーサーの読み通りに、自らブレードに刺さる形でVOIDが【ドゥン・スタリオン】と衝突した。
「最後のチャンスという訳だ」
【Freikugel】が銃口を向ける。
他の機体もそれぞれの銃口を向け引き金を引く。
逃れようとして自ら傷つく緑に次々に着弾。
スナイパーライフル「クルーアル」が、デルタレイが、200mm4連カノン砲が マシンガン「コンステラ」が、マテリアルライフル「セークールス」が、緑の残滓を削りに削る。
追いついたカナタが棍状の龍鉱石で突くと、残滓から色が薄れ存在まで薄まり宙へ溶けていった。
「今回は、ここでサヨナラじゃが近い内にまた……今度はこちらから遊びに行けると良いの」
ちょっとだけ焦げた猫盾を振り、カナタが別れの言葉を贈った。
●火星へ
宇宙船に回収されてから十数分後。
ハンター達は記録装置を手土産にクリムゾンウェストへ戻った。
完全体ベアトリクスと戦える戦力を集めた上でデータを吸い出してみると、緑の残滓が火星から送り込まれたことが判明した。
火星。
VOIDに占領されたと思われる、未だ人類の手が届かぬ星だ。
「使い捨てに出来るならベアトリクスすら囮か。やはり研究所に介入したのが本命……」
礼二が考え込む。
火星にあるのがVOIDだけなのか、どんなVOIDがいるのか、人類には知る術すら存在しない。
確かな大地が消え、VOIDが浮かぶ無明の空が現れた。
機動用スラスターが断続的に光を放つ。
魔導型デュミナス【VIRTUE】の全身が雄々しくも禍々しく照らし出される。
「アンタレス並列機動、帰還までの時間をカウント開始」
HMDの隅の数字が減り始める。
スラスターの噴射時間を調整。
【VIRTUE】をVOIDに正対させて停止。
龍崎・カズマ(ka0178)は膨大な情報を視覚で拾い上げて計算し、絶妙のタイミングで背面ブースターに火を入れた。
味方機の姿が背後に消える。
奇怪な鉄大目玉が戸惑うように瞬き、【VIRTUE】の動きを追いきれずに明後日の方向を向く。
「さぁって、おうちに帰るまでが戦争ってなあ!」
ブースターの向きをわずかに変える。
地球の重力に逆らいながら戦場の奥へ突撃。目を凝らそうとしているVOIDまで十数メートルに迫った。
HMDに映るVOIDに警告表示が重なる。
鉄大目玉から放たれる光が見る間に収束されて、追加フレームごと【VIRTUE】を焼き切ろうとする。
「見え見えだ」
右肩部と左脚部スラスターを噴射。
30度回ってところで逆噴射し回転停止。
寸前までコクピットがあった箇所を大きな熱が通過して、収束し損ねた少量の熱が装甲を温めた。
焦点の合わない巨大眼球が、【VIRTUE】のセンサー部分をぼんやりと見ていた。
鼻で笑う。
ブースターを止めて加速を停止。機体前面のスラスターで減速を行う。
この程度の相手に、もろとも外宇宙まで飛びだすリスクを負う必要は無い。
カズマは巨大な刃を【VIRTUE】に抜かせ、刀に手を添えて横一線に構えて激突の瞬間を待ち構えた。
つるりとした眼球の、最も薄い箇所を切っ先が貫き半ばまで埋まる。
鉄大目玉が断末魔の如く震え、操縦桿越しにカズマの手へ伝わった。
瞳孔が開く。
至近距離に焦点があわされる。
【VIRTUE】の装甲が爆発的に熱を持つ。融けるか弾けるかする前に横方向への加速を行いレーザーの照射から逃げ切った。
「あいつら」
姿勢制御の過程で、数キロ先を飛んでいる宇宙船が見えた。
ハンターを回収し再転移まで安全を提供してくれる船ではあるのだが、装甲は薄く武装も質素、しかも動きに緊張感がない。
「気づいてるのかね。世の中ってのは嫌な可能性が極小であればあるほど起きやすいって」
ベアトリクスのデータによる転送。
荒唐無稽に聞こえる。
だがハンターなら彼等と違ってあることを前提に緊張感を持って動いたはずだ。
赤の世界でも青の世界でも人間に都合のよい神様なんていない。
そのことを何度も我が身で経験してきたのだから。
【VIRTUE】は2の太刀で傷口を広げ、3の太刀で傷口の奥にある核を砕いて止めを刺した。
まだ、本番は始まってもいない。
●厚い眼球
「取り敢えず邪魔者を散らすとしますか」
夕凪 沙良(ka5139)が精神を研ぎ澄ます。
両手のグリップレバーと両足のペダルに適切かつ妥当な入力を完了。
紫に縁取りされたR7エクスシアが、等速で前に出つつ見事な射撃姿勢をとった。
音のない空に実体のない銃弾が生じる。
銃身を通り急激に加速。
緩やかに回転しつつVOIDへ接近。
つるりとした球面部分に90度の角度で弾着した。
沙良の柳眉が微かに動く。
鉄大目玉の下部から伸びる、触手とも昆虫ともつかぬ部位が痛みにもだえ無意味に激しく動いている。
「長期戦、か」
高威力の射撃にも関わらず、VOIDの装甲に穴は開かずに変形したのみだ。
急所に当たれば短時間で終わる気もするが、残念ながら部位狙いスキルは手持ちにない。
弾数に余裕のある実体弾銃を確認した直後、視界の隅で【Meteor】が動いているのが見えた。
「後ろは任せた」
キャリコ・ビューイ(ka5044)はわざと直線の進路をとることで敵の注意を引きつける。
馬鹿馬鹿しいほど巨大な眼球の奥、禍々しい気配が噴き出す瞳孔がきゅっと細まり。
大出力レーザー2条が斜め左右より【Meteor】へ向かう。
「夏の虫眼鏡」
師を思い出す。
CAMが何かすら知らなかったあの頃、クリムゾンウェスト生まれのキャリコに分かるよう、必死に師が考えてくれた説明だった。
「熱いのは一点。レーザーは直線」
両方に当たるのは馬鹿馬鹿しい。
キャリコは【Meteor】を前傾させることで右斜め前からのレーザーを躱す。
左からのレーザーの前に、マテリアルで出来た巨大刃を突き出した。
刃が削ったエネルギーはほんのわずか。
しかしそれで十分だ。
【Meteor】の分厚い装甲は、万全な状態のレーザーでなければ射貫くことはできない。
被害は塗装と装甲の表面だけで済んだ。
その見た目だけの無残さがVOIDの攻撃を誘う。
2方向同時のレーザーが飛来。
キャリコは今度は本気を出し、前進速度は緩めず左右へスラスターの一部を吹かすことで全てを回避する。
「さらは余力を残せ。相手が相手だ」
瘴気じみた負の気配を放つ鉄大目玉とは異なり、辛うじて関知可能な負マテリアルしかない小さな衛星に一瞬視線を向ける。
ハンターの予想が正しければ、現状がお遊戯に見える地獄がもうすぐ始まるはずだ。
『ビューイさん、フェミニスト?』
「役割分担だ」
キャリコの返事には照れが一欠片も含まれていない。
沙良機より装甲が厚く、最も危険な役割は担当しない自分の方が向いていると判断しただけだ。
『あら残念』
沙良の声はずいぶん楽しそうだ。
朴念仁ではないが戦場でも普段のスタンスを崩さないキャリコの有り様が、心強いと同時に妙に微笑ましく感じられる。
落ち着いているようだ何よりだ。
正しくはあっても微妙にずれた認識を持ち、キャリコは限界まで相対速度を上げる。マテリアルの刃を横から引っかける形で鉄眼球ど真ん中に命中させた。
目玉の正面が凹む。
凹まなかった箇所が内側からの圧力にされされ、何カ所もひび割れが出来内側から体液が細い糸の形で噴き出した。
はるか下方。月のある方向から接近中の宇宙船から、大出力電波に乗って歓声が届いた。
「敵健在。足止めを続行する」
どん、と【Meteor】が猛加速。
複数スラスターを駆使し、コクピットを軸に180度反転。
衛星を鉄大目玉から守る態勢になり、その速度を保って白兵戦用脚爪を眼球盲点部分に突き込んだ。
●崩れる鉄壁
「懐かしき我が故郷! って感じじゃねぇな」
金の機体【ドゥン・スタリオン】の中で、アーサー・ホーガン(ka0471)は目に真剣な光を浮かべ口元だけで笑う。
「初手はこうだ」
転移直後の場所で、機体と同じ長さを持つスナイパーライフルを構える。
HMDに電算装置発熱警報。
その酷使によりVOID2体に対する射撃諸元が全て集まる。
アーサーが引き金を引くことで、1発ずつ計2発の105ミリ弾が戦場右側へ飛んだ。
鉄大目玉は急いでいた。
あれを守らなくてはならない。
もし失敗すればどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
それほど上位の存在が関わっているのだ。
そんな2体が、特大の鉛玉によって横面を張られた。
対人類の戦場ではよく出会う105ミリ弾。
命中率が1割に達することも珍しいはずだったのに、何故か2発も当たって分厚い装甲でも無傷でいられない。
相変わらず尽きっぱなしの警報をちらりと眺め、アーサーは第2射を放つ。
奥のVOIDに対する射撃は外れ、手前の1体には端に当たって少しの凹みをつくる。
カズマの剣や非実体弾による攻撃に比べると個々の威力は低い。
が、手数が多くどれだけ移動しても届くのは脅威だった。
鉄大目玉が停止する。
第3射が2発とも命中。
大目玉が【ドゥン・スタリオン】に向き直りって加速を開始。
眼球は怒りに燃え、第4射のうちの片方を短い触手で受けて止めて見せた。
眼球に微かな喜びと侮りの色が浮かぶ。その直後、眼球中央に小さな穴が開いた。
須磨井 礼二(ka4575)が軽く息を吐いた。
鉄大目玉の反対側へ弾が突き抜け、大量の体液も弾と一緒に飛んでいっている。
使用したのは再装填に難があるマテリアル兵器で装填数は1。
産廃扱いされかねないそれららの要素があっても、手放しがたい魅力があった。
「なんて威力だ」
多数のデブリに耐える鉄大目玉の装甲が、たった1発の弾に貫通され反対側に抜けたのだ。
「残り3発」
R7エクスシアがエンジンを最大出力でまわす。
リアルブルーの新鋭CAMが、試作電磁加速砲「ドンナー」へのマテリアル充填を完了させた。
【ドゥン・スタリオン】の脚部スラスターが眩しく光って前進を開始。
頭を先頭に飛ぶ様は大昔のロボアニメを思わせる。
もっとも中身は最新技術と超人的操縦者の組み合わせであり、手前の鉄大目玉に衝突直前の間合いでCAMブレードを振り眼球を凹ませた。
礼二が奥のVOIDに狙いを切り替える。
初撃と同様の加速で弾丸が放たれて、雷纏う弾が宇宙をいくVOIDを正面から貫く。
「本番は次だ。確実に仕留める」
刃と弾が鉄目玉を削り切るまで、少しの時間が必要だった。
●CAM&EVA
転移直後。
最も速いCAMが最も多くのVOIDに狙われていた。
フロスティブルーの装甲がスラスターの光を浴び冷たく光る。
地上では放熱索の役割を持つポニーテールが真後ろに伸びていた。
「ベアトリクスが現れる可能性を示唆されている以上、時間をかける訳にもいかない。可能な限り短時間で済ませる為に押し通ります」
魔導型デュミナス【Is Regina】の進路は真っ直ぐだ。
回避と防御に備えた動きは最低限で、複数攻撃から攻撃されれば火だるまになりかねないほど速度を優先している。
キャリコ、沙良の猛攻が始まり、近くのVOIDの注意が引きつけられ、しかし全てとはいかず強烈なレーザーが【Is Regina】に向けられた。
「頑張るのじゃミーくん!」
【Is Regina】を追っていたカナタ・ハテナ(ka2130)機がくるりと反転。
虎縞招き猫、の形をした魔導盾を構えてレーザーの進路を遮った。
ニャ~ン♪ にゃにゃ~ん♪ ふにゃー……。
最後が断末魔風だったのは、気のせいだろうか。
少しばかり焦げはしたもののカナタのR7エクスシアにダメージはほぼなかった。
鉄大目玉2体の動きが乱れる。
マテリアルに乗った鳴き声がVOIDの調子を乱す。
VOID達は、キャリコの陽動にあっさり引っかかってカナタ達から離れていった。
【Is Regina】が脚部を衛星に向けた。
ただ減速するだけではない。
VOID化しているかもしれない情報衛星【落花生】との接触だ。
熟練の乗り手であるフィルメリア・クリスティア(ka3380)でも精神が疲弊するほど難しい。
【Is Regina】が手を伸ばす。
衛星から広がるソーラーパネルを避け、相対速度を限りなく0に近づけたタイミングで衛星本体に触れ機体を固定する。
「外見に変化無し。これより記録装置の回収を行う」
気密を解除。
空気が抜けてからベルトを外し、宇宙服で包まれた細身の体を宇宙へ踊らせた。
「厄介ね」
負のマテリアルが濃い。
右手で魔導符剣を使って浄化術を、左手でロープの力加減を調節して柔らかく衛星に着地。
ハンターズソサエティー経由で預かった鍵を差し入れる。
ロックが解除され飛び出した取っ手を握り、宇宙線他から厳重に守られた記録装置を抜き出した。
「10秒遅延」
クランシーバーに報告を入れ、記憶装置を覆うシートをその場で剥く。
極めて高価な特殊布が宙を漂い。
フィルメリアほどの高位覚醒者でも見落としかねない小さな動きで逃げようとした。
フィルメリアは即断する。
記録装置が抜き取られぽっかり開いた空間に、珍しくはあっても脅威度の低いVOIDを押し込み蓋をする。
もう一度浄化術を使って可能な限り負のマテリアルを祓い、手提げ金庫サイズの記憶装置と共にコクピットへ戻る。
「こちらフィルメリア。【落花生】のVOID化が進行中」
CAMのセンサを使って鉄大目玉の動きを再確認。
記憶装置を抜き取る前と同じように、VOIDは落花生風の情報衛星を守るために行動していた。
「眼球型VOIDの防衛行動優先順位に変化無し。【落花生】の処理優先度を上げることを提案する」
『了解なのじゃフィルメリアどん』
通信機がなくても身振りで分かる。
これまでフィルメリアの護衛をしていたカナタ機がこんがり盾を下ろし、総龍鉱石製の長刀を抜いて【落花生】に向き直る。
『めちゃくちゃ斬りにくそうじゃの』
カナタのマテリアルに反応して刃が蒼く光る。
切っ先を落花生の殻へ差し込んで、豆腐でも切るように素早く、魚を三枚に下ろすように精密機械を分解してみせた。
『やっぱり切れてないのじゃ』
ちょっとだけ丸みを帯びた刃で3つの切れ端にさくさく切れ目を入れる。
そのたびに、最上位の職人技でつくられた部品から淡い負マテリアルが噴き出した。
●解体作業は難工事
20秒後の動作まで入力し終え、ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)が機体を動かさずに後ろを振り返る。
2機のCAMが情報衛星解体に専念しているのに作業の速度が酷く遅い。
「時間が必要そうだ」
彼の位置からでは【落花生】がカナタ達の機体の陰に隠れて見えない。
だが2機の動きを見ればだいたいの事情は把握できる。
「さて、と……俺は俺のやる事をやらせてもらうとするか」
飄々とつぶやく間も脳内では高速情報処理が行われている。
転移直前になってようやく届いた【落花生】の設計図。
それ以前の打ち合わせで共有した、同行者とそのユニットのスキルと装備。
「作戦通りに事が運ばないってのは、依頼の常だしな」
口の端だけで笑う。
1発打ち込めば撃墜確実なまでに追い込んだ鉄大目玉を一瞥。
半壊VOIDを完全に無視して、魔導型デュミナス【Freikugel】に斜め後ろへ振り向かせた。
「今回は10本のハルバードより1回のファイアスローワーだ」
背後から来る殺気を横移動で回避。
礼二・アーサー組の戦闘に長距離射撃で参加する。
スナイパーライフル「クルーアル」の弾が真横から突き刺さって致命傷を与え、礼二にかかる負担を半減させた。
「分かった。……通信が届いているから分からないが」
礼二は後をアーサーに任せて【落花生】の元へ急いだ。
カナタ機が大物分解を終え小物の処理を始めている。下手に力を加えると無限の彼方へ飛んでいってしまうので処理速度がかなり落ちている。
代わりに【VIRTUE】が、長い柄を持つ巨大ペンチで以てあらゆる部品を丁寧にしかも高速で潰していっていた。
「確かにこれは」
刃物で切るのと比べると効率が段違いだ。
カナタが遅い訳でも弱いわけでもない。カズマの武器選択が見事過ぎただけだ。
「俺向きだ」
再装填済みのドンナーをそっと伸ばす。
処理待ちの部品が漂う場所に向け、引き金は引かずスキルトレースシステム介し破壊エネルギーを発現させる。
30度の、高さ8メートルの、円錐形。
そこにあった部品のうち、特に厳重に防護されていたものを除く全てが一瞬で蒸発して粉未満のサイズに分解された。
龍鉱石の刃が破壊では無く切断を優先し始める。
ペンチが固い部品の処理だけを担当し。
礼二のファイアスローワーの範囲攻撃で、驚くほど短時間で情報衛星の処理が完了した。
●緑の残滓
気づくのと、選択するのと、引き金を引くのがほぼ同時だった。
礼二は人間の限界を超えた速度でデルタレイを発動。
射程を除けば艦載砲級の力を持つ光を、元【落花生】に叩き込んでいた。
3つの光の点が進路上の緑を吹き飛ばす。
残った緑光が揺れ、つながり、見る間にCAMサイズの人影となって安定しない。
薄ぼんやりとした人型が、数秒ごとに崩れてはまた戻りを繰り返していた。
「やはりアタリだった様じゃの。久しぶりじゃの、ベアトリクスどん」
カナタ機のイニシャライズフィールドが悲鳴をあげている。
フィルメリアによる浄化術の支援があってこれである。
「今日こそ」
ニャ~ン♪ にゃ~ん♪ ふにゃ~っ♪
口上を終えるより早く、負のマテリアルを乱す鳴き声が宇宙に広がった。
実際、緑の人影の動きが雑になってグリーンレーザーが明後日の方向に消える。
「参ったな」
本能の警告がゼクスの潜在能力を引き出す。
数度に渡る対ベアトリクス戦の経験を活かし、緑の影がいる場所から100メートル地球側の場所にライフル弾を撃ち込んだ。
緑の影が2つに増える。
【落花生】があった場所に1つと、【Freikugel】が打ち込んだ場所に1つ。
打ち込まれた方は、サイズが命中弾の分減っていた。
「不完全な登場だから手を抜く理由が抜け落ちたのか」
残像が消える。
緑の影が、音速前後の速度で戦場を飛び回る。
下方と後ろ、そして真正面から緑色レーザーが直撃。
ディスプレイがあった場所に穴が開いてコクピットから空気が吸い出された。
ゼクスの瞳が神話の蛇の如く変化し、マテリアルとわずかに残った空気に罅割れる様な音が生じる。
「腕一本」
両手が回避行動複数パターンを入力。
両足でタイミングを指示し、【Freikugel】に上下左右へ緩急ついた揺れる様な立体回避軌道を行わせる。
異様な加速がゼクスを苛むが彼の集中は途切れず、目ではなく思考で捉えた相手へハルバードを突き入れた。
「置いていってもらう」
ふわりと、半透明というより緑の霧のような何かが本体から斬り飛ばされる。
1キロメートル離れた頃には、太陽から吹き付ける力で緑お切れ端が消滅していた。
「またか」
礼二が奥歯を噛みしめた。
最初に詰めの甘さから脅威を見逃し、次に犠牲が出してしまい、今また劣化ベアトリクスとでもいうべき何かが野放しになっている。
悔しい。
いくら何度も相手にいいようにされるのも、何より犠牲が出続けているのが悔しい。
なお、代表的犠牲者である博士がこの場にいたら、「研究の初期には事故はつきもの。気にするな」と笑って説明した成仏したはずだ。
「っ……。ハンターを釣り餌にする」
【VIRTUE】の背中を掠めるようにデルタレイを発動。
2度目で影に当たり光2つ分の緑を削り取った。
「フィルメリアどん!」
スラスターを駆使してカナタ機が横移動。
【Is Regina】と触れあう距離でマテリアルエネルギーを展開。
重なり合い実体に近い性質を持つに至った緑光が激突、防御に向けたエネルギーと肩部マテリアルエンジンの一部が押しつぶされた。
「ゼクス」
守られたフィルメリアが激情を理性で押しつぶす。
冷たい眼光で緑の影を追い、その進路上に置くつもりで銃弾を送り込む。
「了解、フィル」
優しく応え、ゼクスの銃弾が緑の影の中心を貫いた。
あまりにも細い触手が千切れて回転。
【Freikugel】に当たりかけた1本を、ゼクスは危なげ無くCAMシールドで受けて被害を最低限に止める。
「止めは……いや、先にあちらのお嬢さん達かな」
ゼクスの視線の先。
マテリアルハルバードを振り上げ【Meteor】が待ち受けていた。
「やれ」
マテリアルの刃で緑の影を刺し貫く。
稼働中のイニシャライズフィールドが悲鳴をあげるのも構わず、機体を重石につもりで刃をさらにねじ込んだ。
緑の影が暴れる。
レーザーが乱射され【Meteor】に多数の穴が開く。
沙良の瞳が深い赤に染まる。
正のマテリアルが剥き出しになり、負のマテリアルが普段より近くに感じられ心身に大きな負荷がかかる。
「さて……貴方はベアトリクスですか? それとも違う何かですか?」
緑の影に正面から近づく。
正面から、人間の表情なら読み取れる距離まで近づき、自機の武装を解除した上で全神経を集中した。
レーザーが【リインフォース】の肩をかすめる。
負のマテリアルの強さが不規則に上下するのが神経を逆なでする。
「ベアトリクスなら話を聞きなさい、私は貴女を助ける」
強靱な優しさを、悪意を退ける強さで包む。
マテリアルリンクのときもここまで気合いは入れないというレベルの気合を込め、沙良は真正面から己を叩きつけた。
緑の影が奇妙なほど派手に、ふるふる左右にと揺れる。
限界まで感受性を高めた沙良の心に、耐え難い量と形をした情報が送り返された。
「信号……情報を届ける、強い好奇心を持つ」
猛烈な射撃を加えて緑の移動を妨げながら、アーサーは己が渋い表情を浮かべているのに気づく。
「まるでパルムみてぇだな」
緑の影が【Meteor】の装甲を蹴って加速。
【リインフォース】の周囲を回って背後をとり、鋭く尖った触手を沙良の頭がある位置へ向けた。
丁度そのとき、沙良は夢と現実の狭間にいた。
現実逃避ではない。
巨大な情報の中から必要な情報を抽出し、それでもまだ多すぎる情報を見慣れた物に置き換え認識しているのだ。
底抜けの明るさを持つ女性が沙良へ手を伸ばしている。
そこだけはっきりと見える両手の指は、どれも鋭利すぎる刃だ。
刃から毒液が滴っているのに気づいていない。
黒々としたリードが首輪から伸びているのにも気づけていない。
酷い有様だ。
つまり想像通りということだ。
沙良はベアトリクスの……少なくともこれはベアトリクスの一部ではある。ともかくこの光景から彼女を救い出す手がかりを赤い瞳で探し、気づいてしまった。
霧が晴れるように視界が良好に。
これまで何も感じなかった嗅覚に、酷く食欲をそそる香りが届く。
驚愕、怒り、嫌悪で見開かれた紅瞳にベアトリクスの姿が映る。
人間用の加工肉が生きて動いている。
VOID化は加工後に付け加えられた変化でしかない。
なのに、そんな状況で、心からの笑みを沙良に向けていた。
『……ら、生きているなら右手を出せ!』
夢との狭間から現実に復帰する。
これまで聞いたことのないほど必死な声が、沙良の鼓膜を震わせている。
それがキャリコの声だと認識すると同時、己の危地を認識するより早く、【リインフォース】の右手を差し出していた。
キャリコではなくカナタの機体が右手をキャッチ。
器用にスラスターを吹かせて入れ替わり、マテリアルカーテンを全開にして触手の一閃を防ぎきる。
キャリコ機とカナタ機が、得意げに親指を立てていた。
「まったく……」
不規則で耳障りな呼吸音が先程から止まらない。
それが自分から発せられているのに気づいて苦笑い。
「ありがとう」
人の善意が最良の治療薬であることを、沙良が我が身を以て知った。
「ふははー、その程度では効かんぞベアトリクスどん!」
触手とレーザーの豪雨を躱さず受けているのにカナタ機は健在だ。
中破したはずの機体はすっかり治り、猫盾の焦げも薄くなっている。
「あのVOID、素人か」
アーサーが【ドゥン・スタリオン】のセンサーを調整。
精度を落とし、五感頼りの攻撃を行い成功するとさらに精度を落としと繰り返す。
消えかけの蝋燭じみた緑光が戦場全体を照らし、けれど【ドゥン・スタリオン】は全く影響を受けなかった。
「なら、これでどうだ」
CAMブレードを構えた体勢で加速を開始。
猫立てが必死に咆え立てるのを嫌って緑が猛加速。
アーサーの読み通りに、自らブレードに刺さる形でVOIDが【ドゥン・スタリオン】と衝突した。
「最後のチャンスという訳だ」
【Freikugel】が銃口を向ける。
他の機体もそれぞれの銃口を向け引き金を引く。
逃れようとして自ら傷つく緑に次々に着弾。
スナイパーライフル「クルーアル」が、デルタレイが、200mm4連カノン砲が マシンガン「コンステラ」が、マテリアルライフル「セークールス」が、緑の残滓を削りに削る。
追いついたカナタが棍状の龍鉱石で突くと、残滓から色が薄れ存在まで薄まり宙へ溶けていった。
「今回は、ここでサヨナラじゃが近い内にまた……今度はこちらから遊びに行けると良いの」
ちょっとだけ焦げた猫盾を振り、カナタが別れの言葉を贈った。
●火星へ
宇宙船に回収されてから十数分後。
ハンター達は記録装置を手土産にクリムゾンウェストへ戻った。
完全体ベアトリクスと戦える戦力を集めた上でデータを吸い出してみると、緑の残滓が火星から送り込まれたことが判明した。
火星。
VOIDに占領されたと思われる、未だ人類の手が届かぬ星だ。
「使い捨てに出来るならベアトリクスすら囮か。やはり研究所に介入したのが本命……」
礼二が考え込む。
火星にあるのがVOIDだけなのか、どんなVOIDがいるのか、人類には知る術すら存在しない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談所 夕凪 沙良(ka5139) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/03/31 16:06:34 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/26 14:11:59 |