ゲスト
(ka0000)
バチャーレ村の畑あらし
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/01 19:00
- 完成日
- 2017/04/14 00:24
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●バチャーレ村の新住民
自由都市同盟のジェオルジに、バチャーレという村がある。
長らく無人の廃村だったが、現在ではサルヴァトーレ・ロッソで転移してきた人々が移り住んでいる。
リアルブルー産の大型コンテナを転用した集会所や小規模植物プラントを中心に、まだ新しい木造の建物がぽつぽつと建ちつつある。そんなちょっと不思議な光景も、見慣れてくれば面白いものだ。
……と、『村長』のサイモン・小川(kz0211)は思う。
「で、あたし達の家はどこなの?」
サイモンのちょっとした感傷は、女の声で遮られた。
「ああ……こちらになります」
サイモンが指差したのは、二軒がひと組になった木造の共同住宅のひとつだった。住宅といっても、どちらかといえば丸太小屋に近いかもしれない。
だが女は気に行ったようだった。
「へえ、悪かないね。ほらレベッカ、ここが新しいおうちだってさ」
「うっわー! 母ちゃん、おとぎばなしの森のおうちみたいだね!!」
十歳ぐらいの女の子が目をキラキラさせている。
「母ちゃん。おおかみさんこない?」
何か絵本でも読んだのだろうか。七歳ぐらいの女の子は母親のスカートにしがみついている。
「ばっかだなあ、ビアンカは。オオカミなんかこねえよ! そのかわりにゴブリンが夜中にぐわーって……」
「ふえええええ」
十二~三歳の男の子がふざけて、両手で頭をがばっと掴むと、女の子は顔を真っ赤にして泣きだしてしまう。
「エリオ、いい加減にしな! またビアンカがひきつけおこしちゃうだろ!!」
女はそう言うよりも早く、拳を男の子の頭に食らわせていた。
……サイモンは、あまりの賑やかさに目眩を覚えた。
つい数か月前のこと、リアルブルーの崑崙基地へ希望者が帰還できることになり、村の人口は7割ほどまで減ってしまっていた。
村が自立するにはあまりに人手が足りない。
それを補うべく、ジェオルジ領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)は新たな住人の受け入れを提案してきた。
サイモンとしては更なるトラブルを恐れたが、送別会と帰還民の護衛を引き受けてくれたハンター達のアドバイスもあり、まずはジェオルジ民の希望者を少しだけ受け入れることにしたのだ。
そして、アニタ・マネッティという女とその子供たちがやってきた。
若く美人で、とても大きな子供がいるようには見えない色っぽい女だが、絵に描いたような肝っ玉母さん。
サイモンがあまり接したことのないタイプであるのは間違いない。
そのアニタがそれほど多くない荷物を運び終え、すぐに出てくる。
「ねえ。畑をみたいんだけど、いい?」
「今日はお疲れでは?」
「そろそろ種まきの季節じゃないの。ぼやぼやしてらんないよ」
サイモンは眼鏡の奥の目を、意外そうに見開いた。
(思ったより仕事熱心なんだな……)
アニタはそんなサイモンの思惑など全く気にせず、別に運ばせた大きな袋を示す。
「ねえあんた、アレ見たことある?」
「ヒスイトウモロコシですね。領主様から伺っていますよ」
「……本気で植えるの?」
「ええ。もちろん」
サイモンはいつもの柔和な、けれど何かを企んでいるような笑顔を見せた。
●バチャーレ村の野望
ヒスイトウモロコシとはその名の通り、宝石のような緑色のトウモロコシである。
領主セストが開発した、病気に強く、栽培しやすく、味も良いという魅力的なトウモロコシなのだが……色が問題だった。焼いても粉にひいても緑色。スープはもちろん緑色。「なんとなく不気味」という理由から、あまり売れていない。
ひょんなことで街から流れてきたアニタは、ジェオルジに身を置く代わりにセストの依頼で栽培と利用法の考案を任されていた。
そのトウモロコシの話を聞いたサイモンは、ひとつの案を思いついたのだ。
「ウイスキー、あるいはバーボンを作るのはどうでしょう。……もちろん、バチャーレ村で」
セストはすぐにその提案を受け入れた。
――そしてアニタ達がやってきてから、しばらく後の早朝のこと。
サイモンはアニタの大声に腰を浮かせた。
「村長さん! またやられちゃったよ!!」
読みかけの書類を放り出し、アニタと一緒に畑へ向かう。
見れば、丁寧に耕した黒い畝にはいくつもの穴が。
昨日アニタの子供たちが一生懸命に撒いたヒスイトウモロコシは、全く見当たらない。
実はこれが三度目なのだ。
「昨日の夕方に撒いたばかりなのに。どんどん早くなりますね」
最初は三日後、次は二日後。そして今回は撒いた翌朝。
「まえの畑でも鳥に食われたことはあったけどね。夜の間に鳥は来ないはずだよ?」
「かといって、イノシシなんかの仕業というわけでもなさそうだ」
サイモンも畑をじっと睨む。
「……夜、見張りをしてみましょうか。他の皆さんにも協力をお願いしましょう」
サイモンは、何事か気になることがあるような表情で腕を組んでいた。
自由都市同盟のジェオルジに、バチャーレという村がある。
長らく無人の廃村だったが、現在ではサルヴァトーレ・ロッソで転移してきた人々が移り住んでいる。
リアルブルー産の大型コンテナを転用した集会所や小規模植物プラントを中心に、まだ新しい木造の建物がぽつぽつと建ちつつある。そんなちょっと不思議な光景も、見慣れてくれば面白いものだ。
……と、『村長』のサイモン・小川(kz0211)は思う。
「で、あたし達の家はどこなの?」
サイモンのちょっとした感傷は、女の声で遮られた。
「ああ……こちらになります」
サイモンが指差したのは、二軒がひと組になった木造の共同住宅のひとつだった。住宅といっても、どちらかといえば丸太小屋に近いかもしれない。
だが女は気に行ったようだった。
「へえ、悪かないね。ほらレベッカ、ここが新しいおうちだってさ」
「うっわー! 母ちゃん、おとぎばなしの森のおうちみたいだね!!」
十歳ぐらいの女の子が目をキラキラさせている。
「母ちゃん。おおかみさんこない?」
何か絵本でも読んだのだろうか。七歳ぐらいの女の子は母親のスカートにしがみついている。
「ばっかだなあ、ビアンカは。オオカミなんかこねえよ! そのかわりにゴブリンが夜中にぐわーって……」
「ふえええええ」
十二~三歳の男の子がふざけて、両手で頭をがばっと掴むと、女の子は顔を真っ赤にして泣きだしてしまう。
「エリオ、いい加減にしな! またビアンカがひきつけおこしちゃうだろ!!」
女はそう言うよりも早く、拳を男の子の頭に食らわせていた。
……サイモンは、あまりの賑やかさに目眩を覚えた。
つい数か月前のこと、リアルブルーの崑崙基地へ希望者が帰還できることになり、村の人口は7割ほどまで減ってしまっていた。
村が自立するにはあまりに人手が足りない。
それを補うべく、ジェオルジ領主のセスト・ジェオルジ(kz0034)は新たな住人の受け入れを提案してきた。
サイモンとしては更なるトラブルを恐れたが、送別会と帰還民の護衛を引き受けてくれたハンター達のアドバイスもあり、まずはジェオルジ民の希望者を少しだけ受け入れることにしたのだ。
そして、アニタ・マネッティという女とその子供たちがやってきた。
若く美人で、とても大きな子供がいるようには見えない色っぽい女だが、絵に描いたような肝っ玉母さん。
サイモンがあまり接したことのないタイプであるのは間違いない。
そのアニタがそれほど多くない荷物を運び終え、すぐに出てくる。
「ねえ。畑をみたいんだけど、いい?」
「今日はお疲れでは?」
「そろそろ種まきの季節じゃないの。ぼやぼやしてらんないよ」
サイモンは眼鏡の奥の目を、意外そうに見開いた。
(思ったより仕事熱心なんだな……)
アニタはそんなサイモンの思惑など全く気にせず、別に運ばせた大きな袋を示す。
「ねえあんた、アレ見たことある?」
「ヒスイトウモロコシですね。領主様から伺っていますよ」
「……本気で植えるの?」
「ええ。もちろん」
サイモンはいつもの柔和な、けれど何かを企んでいるような笑顔を見せた。
●バチャーレ村の野望
ヒスイトウモロコシとはその名の通り、宝石のような緑色のトウモロコシである。
領主セストが開発した、病気に強く、栽培しやすく、味も良いという魅力的なトウモロコシなのだが……色が問題だった。焼いても粉にひいても緑色。スープはもちろん緑色。「なんとなく不気味」という理由から、あまり売れていない。
ひょんなことで街から流れてきたアニタは、ジェオルジに身を置く代わりにセストの依頼で栽培と利用法の考案を任されていた。
そのトウモロコシの話を聞いたサイモンは、ひとつの案を思いついたのだ。
「ウイスキー、あるいはバーボンを作るのはどうでしょう。……もちろん、バチャーレ村で」
セストはすぐにその提案を受け入れた。
――そしてアニタ達がやってきてから、しばらく後の早朝のこと。
サイモンはアニタの大声に腰を浮かせた。
「村長さん! またやられちゃったよ!!」
読みかけの書類を放り出し、アニタと一緒に畑へ向かう。
見れば、丁寧に耕した黒い畝にはいくつもの穴が。
昨日アニタの子供たちが一生懸命に撒いたヒスイトウモロコシは、全く見当たらない。
実はこれが三度目なのだ。
「昨日の夕方に撒いたばかりなのに。どんどん早くなりますね」
最初は三日後、次は二日後。そして今回は撒いた翌朝。
「まえの畑でも鳥に食われたことはあったけどね。夜の間に鳥は来ないはずだよ?」
「かといって、イノシシなんかの仕業というわけでもなさそうだ」
サイモンも畑をじっと睨む。
「……夜、見張りをしてみましょうか。他の皆さんにも協力をお願いしましょう」
サイモンは、何事か気になることがあるような表情で腕を組んでいた。
リプレイ本文
●
村にやってきたハンター達に、サイモンがいつもの笑顔で出迎えた。
「やあ、いつもすみません。助かります」
そのすこし後ろでは、アニタと子供たちが興味津津という風だ。
「おっ♪ 新しいヒト、来てくれたんダネ?!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が茶目っ気たっぷりに会釈して、サイモンに向き直る。
「色々領主様にも相談に乗っていただきましてね。ジェオルジ内で希望する方にまずはお願いしようかと」
サイモンが経緯を簡単に説明した。
少し前にこの村の問題で依頼を受けたハンターにとっては、よい傾向だと思える。
「みんなの元気な顔見れて良かっタヨー♪」
同盟領内では最近不穏な事件が多発していた。それでパトリシアはバチャーレ村のことも気にかけていたが、今のところ前に来た時とかわらず、平和な農村にみえる。
ノワ(ka3572)はぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、ノワです! サイモンさん、お久しぶりです」
それからぱっと顔をあげ、サイモンににじりよる。
「えっと、『キラキラの落し物』なんですけど。どなたかに渡していい効果が得られたかとか、色々お聞きしたいと思っています!」
この村の近くでみつかる、不思議な力を秘めているという貴石は、ノワの研究にも役立ってくれそうだ。
だがすぐに、しまったというようにあわてて付け加えた。
「…ととっ、畑を荒らす犯人もちゃんと探しますよ!」
仕事は仕事。ノワは照れたように笑った。
天王寺茜(ka4080)は一同をかわるがわる見ながら、人懐こい笑顔を浮かべた。
「サイモンさん、お久しぶりです! で、こっちが移住者さんですね」
「遠いところまでありがとうね。ほら、ちゃんとごあいさつしな!」
アニタが子供達の背中を押す。
「うん、男の子がエリオで、レベッカとビアンカね。はじめましてっ」
「「はじめましてっ」」
「アニタさん、この村にいるのは皆いい人たちですから、よろしくお願いしますね」
「あはは、こっちこそよろしくお願いしなきゃね!」
一同は早速、畑に向かう。
まだ冬の野菜が少し残る畑は、以前よりも少し広くなっているようだった。
村の人々が確かにここに生きているのだと、改めて思わせる光景だ。
ウェスペル・ハーツ(ka1065)は少しうらやましく思う。
「お野菜いっぱい植えられますなの。うーもそのうち畑がほしいの!」
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)はノワと一緒に、子供たちが掌にすくったヒスイトウモロコシに見入った。
きらきら輝く緑色の粒は、食べ物というよりも天然石のようだ。
「これでお酒つくると、緑色になりますかお?」
金の瞳がピカピカの期待を込めて、サイモンを見上げた。
「あはは、それはないと思いますよ」
サイモンは簡単に、蒸留酒の作り方を説明する。
「……というわけで、透明なお酒ができるんです」
「緑のほうがきれいですお……ならないんですかお?」
ちょっとしょんぼりするルーキフェルに、サイモンはごめんね、というように肩をすくめた。
「色が不気味ですか?」
ノワは自分の手のひらにも分けてもらったトウモロコシを、熱心に眺める。
「緑色は健康や安定の色ですし、翡翠には健康や調和、成功と繁栄という素晴らしい意味がありますし、意味を知っていただければもっと……」
なんだか鉱石を否定されたようで、一生懸命トウモロコシを弁護(?)するノワ。ここに開発者のセスト・ジェオルジがいれば、さぞ喜んだことだろう。
六道銭 千里(ka6775)はサイモンに並び、話しかける。
「その、他の作物への被害はなかったんかな」
「全くないわけではないんです。豆などはやはり、鳥が好みますし。芽が出てから食われることもあります。でもそっくり全部というのは、ここだけなんですよ」
「なるほどなあ」
千里は地面に屈みこみ、辺りの様子を窺うように眺める。
まだしょぼしょぼと草が生えたままの畑も多い。
そんな中、きれいに耕したアニタの畑は、種付けした場所がそのまま穴ぼこになっていた。
目的はわからないが、種を選んでほじくり出しているのは明らかだ。
「足跡とか、なんかそういうのないやろか」
「イノシシなんかが荒らした様子はないんですよね。とはいえ、僕も専門家ではないので」
サイモンはそう言って頭をかく。
千里が一番考えたくない可能性は、同じ村人たちの妨害だ。
目をあげると茜も考え込んでいる。
(野生動物なら私たちじゃなくてもいいよね。サイモンさんは何が気になったのかな?)
千里は更に地面に目を凝らす。人が歩いた後は、当然下草が踏み荒らされている。
二足歩行なら、子供の足跡などとは見分けにくいだろう。
「四つ足やないなら、ゴブリン辺りが怪しいかなあ」
サイモンが頷いた。
「皆さんに来ていただいたのは、それもあるのです。……ゴブリンやコボルトがトウモロコシを食べることがあるんですか?」
「えっ」
一同が顔を見合わせた。
サイモンはクリムゾンウェスト民でも、ハンターでもなく、歪虚や雑魔の知識はないに等しい。
それに思い付きがあっていたとしても、この村には対処できる者がいない。
わざわざハンターに依頼したのにはそれなりの理由があったのだ。
現場を確認した一同はひとまず村に戻る。
それから寝ずの番の準備について話し合った。
●
茜がまず、夜間の監視では見通しが悪く、犯人を見逃すかもしれないと切りだした。
「山から枯れた小枝、それから川から砂利を集めて、畑の周りに撒くのはどうでしょう。踏んだ時に『パキッ』とか『ジャリッ』とか音が鳴るんじゃないかなって」
それから慌てて、ダジャレではない、と付け加える。
「なるほど、いい案ですね。……でも砂利は運ぶのも取り除くのも大変ですし、何より警戒されませんか?」
サイモンが小枝はともかく、砂利は畑の周辺に元々あるものではなく、トラップとしては目立ち過ぎると主張した。
「それもそうやな。じゃあ小枝でいこか」
そこでウェスペルが手をあげる。
「あのっ! 枯れ枝から少し離して、灰をまいておくのはどうですか? なの。逃げた方向や足跡が、少し追えるかもなの!」
茜がポンと手を叩く。
「うん、それいい案だと思うわ。足跡もくっきり残りそう!」
「すおいお、うー頭いいお!」
ルーキフェルに褒められ、ウェスペルが照れたように笑う。
「わかりました。それは肥料に使う灰があると思いますので、用意しておきますね」
サイモンが請けあう。
「他に何か必要なものはありますか?」
千里は背負い籠などを貸してほしいと申し出た。
パトリシアがはい、はい! と手を振る。
「相談ネ。テントはふたつ、北と南に分けて置いタラどうカナって。怪しいコトがあったら、動きやすいよーにネ」
「ではそれも用意しますね」
「モチロン、組み立てはパティも手伝うヨ♪」
「ははは……助かります」
見るからに肉体労働に向いていないサイモンが、なんとも微妙な表情になった。
それから二人ずつに分かれて、それぞれ準備を始めた。
ノワとパトリシアは、村の中を歩いて出会った人に声をかける。
「何かヘンな足音を見たトカ、鳴き声を聞いたコトなんかはありませんか?」
パトリシアが尋ねると、村人は首をかしげる。
「……というか私達にとっては、全部変で……」
「うーん、それもそうカモ」
宇宙船の生活から、未知らぬ土地での農業生活。
たぶん元ロッソ乗員の村人たちには、毎日がびっくりの連続だ。
その気持ちはパトリシアにもよくわかった。
ノワは村人たちの様子をさりげなく観察していた。
もしかしたら、サイモンの計画に反対している人もいるかもしれない。
けれど少なくともノワから見る限りで、サイモンに悪意を持つ人はいないようだ。他に適任者がいない以上、なし崩し村長に頼るしかないのがこの村の現状なのだろう。
「さてはて、畑を荒らした犯人は一体? やっぱり動物などでしょうか?」
「パティはネ、ホントはそのほうがいいと思うんダヨ♪」
せっかくうまくいきかけた村で、もめごとが起きてほしくない。
「そうですよね!」
ノワもそう思う。素敵な石のある場所には、やっぱり素敵な人がいてほしいではないか。
「おねーちゃーん!」
声に振り向くと、レベッカとビアンカがパタパタと走ってくる。
「あのね、へんなの」
末っ子のビアンカがたどたどしく言いながら、握りしめていた赤いカブのような野菜をノワに見せた。
「なにが変なのでしょうか?」
姉のレベッカが身振り手振りで説明する。
「まえにね、お隣の畑のおじさんが、ねずみにやられたーって」
なるほど、動物が齧りついたような跡があるが、ネズミにしては大口だ。
「そっかー。もっと詳しく聞きたいナ♪ 教えテくれる?」
「うんっ!」
子供達は大きなお姉さんたちにお話しするのが、とても嬉しいようだった。
ルーキフェルとウェスペルは村中を歩き回っていた。
「野生の動物なら、どこかで巣を作ってたりするかもしれないなの」
ウェスペルはコンテナの近くや、建物の陰などを丹念に見て回る。
春になり活発になったなら、子供が増えて餌がたくさん必要になったのでは、と思ったのだ。
「でも糞ものこってないですお。跡ものこさないとか、るーより頭いいお……」
ルーキフェルがなぜか神妙な顔でつぶやきながら、メモをとる。
「種がおいしくてアニタの畑だけあらしてるのか、それをしりたいですお」
種以外の目的――荒らすことそのもの――が狙いなのか。
ここに腰を落ち着けることにしたアニタ達が、誰にも邪魔されず、飢えずに暮らしていって欲しい。
ルーキフェルとしてはそれが気がかりだ。
結局、村には特に気にかかる点はなく、ふたりはまた畑へ向かった。
昼すぎ頃、一同はまた畑に集まった。
ウェスペルとルーキフェルが、村に何かがいる様子はない、と報告する。
そもそも村に野生生物が潜んでいるなら、村の中でも食べ物が荒らされているはずだ。
「なので、やっぱり畑に犯人がいるはずですなの」
一応畑の近くの藪や草むらを叩きまわってみたが、動物の巣などは見当たらない。
「ちょっとこれを見てください」
ノワがカブを見せて、子供たちから聞いた話を説明した。
「こう、がぶーっといった感じがしませんか?」
ノワは自分の口元にカブを近づける。ちょうどそんな感じの跡だ。
「でもネ、生のカブを齧ってポイするようなヒトがいたら、びっくりダヨ!」
パトリシアの言う通りである。
およそ犯人の予想がついたところで、テントを組み立て始めた。
その間にアニタと子供達は、トウモロコシの種を撒く。畑に穴を掘り、数粒の種を入れ、最後に柔らかく土をかぶせた。
水やりも終えたところで千里と茜が通り道に小枝を敷き詰め、ルーキフェルとウェスペルがその周囲に用心深く灰を撒く。
あとは夜を待つばかりだ。
●
男女に分かれて南北のテントにもぐり込み、息をひそめる。
真っ暗な畑には、ときどき鳥の鳴き声が不気味に響くほかは、何もない。
「味は確かに悪くないんやな」
南側のテントで、千里がしみじみと呟いた。
アニタが試食兼保温にと、ヒスイトウモロコシの温かいスープを差し入れてくれたのだ。
ホウレンソウスープもびっくりの緑色で、味はトウモロコシ。だが色が見えなければ、美味しいスープだった。
北側のテントでは、茜が小さく欠伸を漏らす。
「冬眠あけの熊とかは止めて欲しいなあ……今夜も来るのかな?」
そういった直後に口をつぐんだ。
枯れ枝を踏むかすかな音が山から近付き、通り過ぎて行く。
目を合わせたノワが頷き、外に待機させていたフクロウのハウラと視界を共有する。
パトリシアが生命探知の陣で辺りの生き物の気配を探った。
「2、3……ううン、4体かな。畑にいるみたいダヨ!」
「あまり大きくないですね……子供ぐらい? あっ、ほじくってます!!」
ノワが声をあげると同時に、パトリシアと茜が飛び出した。
「お猿さんだったりしないわよね!?」
茜がLEDライトで照らすと、びくっと身を震わせたのは、コボルトだった。
突然の光に慌てふためいたように、南に向かって駆け出す。
当然、そちら側からはウェスペル、千里が走ってくる。
ルーキフェルは様子が分かるまで、しばらくサイモンをかばって盾を使う。
それからカンテラをかざし、辺りの様子が分かるように照らした。
「畑にいたずらするのはだめですなの!」
ウェスペルは、挟み討ちに戸惑うコボルトをスリープクラウドで眠りに誘う。
1体は動きを止め、その場に立ち尽くす。
それぞればらばらに駆けだす残りのうち1体の足元を、千里が錫杖で払った。
コボルトは夜目がきくが、カンテラの明かりに惑わされたのか、あっさりと転んでしまう。
残る1体を、ノワの魔力を纏ったハウラが鋭い爪でひっかいた。
「倒しちゃっていいのカナ? それとも捕まえる?」
パトリシアはハウラに当たらないよう符を叩きつけ、無数の桜の花びらでコボルトの視界を塞ぐ。
そこでサイモンが声をあげた。
「あの、お願いが! できれば殺さないでください!」
「わかったわ。まかせて!」
茜は元来たほうへ逃げようとする1体の進行方向に回り込み、エレクトリックショックの電撃を浴びせた。
どのみち野生動物を無益に殺生するつもりはなかったから、準備は整えている。
びくりと体を硬直させたコボルトは、そのままひっくり返ってじたばたともがくしかない。
ルーキフェルの盾に守られながら、サイモンがテントから出て走ってくる。
「御面倒をかけてすみません、ただ殺してしまうと、今度は集団で村を襲う可能性もあると思いまして……!」
一息にそういうと、肩を上下させる。
戦闘に立ち会ったのは初めてのことで、さすがに動悸がおさまらないらしい。
「美味しい物が簡単に手に入ると思うから、来るのだと思います。なら怖い場所だと、仲間に知らせてくれた方がいい」
その間に、コボルト達はよろよろと逃げていく。
「なるほどな。ほな、これぐらいで」
千里が錫杖がつんと殴ると、眠ったまま残されていた最後の1体も目を覚まし、パニック状態で夜の闇に消えて行った。
「おつかれさまですお。だいじょうぶですかお?」
ルーキフェルはサイモンの様子を気遣った。
――いじわるする人がいたのでなくて良かった。
ウェスペルも同じ思いにちがいない。ふたりは顔を見合わせて嬉しそうに笑いあった。
●
後日、オフィスに立ち寄ったハンター達は、サイモンからの手紙を受け取る。
青い芽を伸ばしたトウモロコシ畑の前で、誇らしそうに笑うアニタの子供たちの写真も一緒だ。
よほど懲りたのか、その後畑が荒らされることはなかったそうだ。
『トウモロコシの収穫の頃には、またお願いすることになるかもしれません』
手紙の末尾には、ちゃっかりと一文が添えられていた。
<了>
村にやってきたハンター達に、サイモンがいつもの笑顔で出迎えた。
「やあ、いつもすみません。助かります」
そのすこし後ろでは、アニタと子供たちが興味津津という風だ。
「おっ♪ 新しいヒト、来てくれたんダネ?!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が茶目っ気たっぷりに会釈して、サイモンに向き直る。
「色々領主様にも相談に乗っていただきましてね。ジェオルジ内で希望する方にまずはお願いしようかと」
サイモンが経緯を簡単に説明した。
少し前にこの村の問題で依頼を受けたハンターにとっては、よい傾向だと思える。
「みんなの元気な顔見れて良かっタヨー♪」
同盟領内では最近不穏な事件が多発していた。それでパトリシアはバチャーレ村のことも気にかけていたが、今のところ前に来た時とかわらず、平和な農村にみえる。
ノワ(ka3572)はぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、ノワです! サイモンさん、お久しぶりです」
それからぱっと顔をあげ、サイモンににじりよる。
「えっと、『キラキラの落し物』なんですけど。どなたかに渡していい効果が得られたかとか、色々お聞きしたいと思っています!」
この村の近くでみつかる、不思議な力を秘めているという貴石は、ノワの研究にも役立ってくれそうだ。
だがすぐに、しまったというようにあわてて付け加えた。
「…ととっ、畑を荒らす犯人もちゃんと探しますよ!」
仕事は仕事。ノワは照れたように笑った。
天王寺茜(ka4080)は一同をかわるがわる見ながら、人懐こい笑顔を浮かべた。
「サイモンさん、お久しぶりです! で、こっちが移住者さんですね」
「遠いところまでありがとうね。ほら、ちゃんとごあいさつしな!」
アニタが子供達の背中を押す。
「うん、男の子がエリオで、レベッカとビアンカね。はじめましてっ」
「「はじめましてっ」」
「アニタさん、この村にいるのは皆いい人たちですから、よろしくお願いしますね」
「あはは、こっちこそよろしくお願いしなきゃね!」
一同は早速、畑に向かう。
まだ冬の野菜が少し残る畑は、以前よりも少し広くなっているようだった。
村の人々が確かにここに生きているのだと、改めて思わせる光景だ。
ウェスペル・ハーツ(ka1065)は少しうらやましく思う。
「お野菜いっぱい植えられますなの。うーもそのうち畑がほしいの!」
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)はノワと一緒に、子供たちが掌にすくったヒスイトウモロコシに見入った。
きらきら輝く緑色の粒は、食べ物というよりも天然石のようだ。
「これでお酒つくると、緑色になりますかお?」
金の瞳がピカピカの期待を込めて、サイモンを見上げた。
「あはは、それはないと思いますよ」
サイモンは簡単に、蒸留酒の作り方を説明する。
「……というわけで、透明なお酒ができるんです」
「緑のほうがきれいですお……ならないんですかお?」
ちょっとしょんぼりするルーキフェルに、サイモンはごめんね、というように肩をすくめた。
「色が不気味ですか?」
ノワは自分の手のひらにも分けてもらったトウモロコシを、熱心に眺める。
「緑色は健康や安定の色ですし、翡翠には健康や調和、成功と繁栄という素晴らしい意味がありますし、意味を知っていただければもっと……」
なんだか鉱石を否定されたようで、一生懸命トウモロコシを弁護(?)するノワ。ここに開発者のセスト・ジェオルジがいれば、さぞ喜んだことだろう。
六道銭 千里(ka6775)はサイモンに並び、話しかける。
「その、他の作物への被害はなかったんかな」
「全くないわけではないんです。豆などはやはり、鳥が好みますし。芽が出てから食われることもあります。でもそっくり全部というのは、ここだけなんですよ」
「なるほどなあ」
千里は地面に屈みこみ、辺りの様子を窺うように眺める。
まだしょぼしょぼと草が生えたままの畑も多い。
そんな中、きれいに耕したアニタの畑は、種付けした場所がそのまま穴ぼこになっていた。
目的はわからないが、種を選んでほじくり出しているのは明らかだ。
「足跡とか、なんかそういうのないやろか」
「イノシシなんかが荒らした様子はないんですよね。とはいえ、僕も専門家ではないので」
サイモンはそう言って頭をかく。
千里が一番考えたくない可能性は、同じ村人たちの妨害だ。
目をあげると茜も考え込んでいる。
(野生動物なら私たちじゃなくてもいいよね。サイモンさんは何が気になったのかな?)
千里は更に地面に目を凝らす。人が歩いた後は、当然下草が踏み荒らされている。
二足歩行なら、子供の足跡などとは見分けにくいだろう。
「四つ足やないなら、ゴブリン辺りが怪しいかなあ」
サイモンが頷いた。
「皆さんに来ていただいたのは、それもあるのです。……ゴブリンやコボルトがトウモロコシを食べることがあるんですか?」
「えっ」
一同が顔を見合わせた。
サイモンはクリムゾンウェスト民でも、ハンターでもなく、歪虚や雑魔の知識はないに等しい。
それに思い付きがあっていたとしても、この村には対処できる者がいない。
わざわざハンターに依頼したのにはそれなりの理由があったのだ。
現場を確認した一同はひとまず村に戻る。
それから寝ずの番の準備について話し合った。
●
茜がまず、夜間の監視では見通しが悪く、犯人を見逃すかもしれないと切りだした。
「山から枯れた小枝、それから川から砂利を集めて、畑の周りに撒くのはどうでしょう。踏んだ時に『パキッ』とか『ジャリッ』とか音が鳴るんじゃないかなって」
それから慌てて、ダジャレではない、と付け加える。
「なるほど、いい案ですね。……でも砂利は運ぶのも取り除くのも大変ですし、何より警戒されませんか?」
サイモンが小枝はともかく、砂利は畑の周辺に元々あるものではなく、トラップとしては目立ち過ぎると主張した。
「それもそうやな。じゃあ小枝でいこか」
そこでウェスペルが手をあげる。
「あのっ! 枯れ枝から少し離して、灰をまいておくのはどうですか? なの。逃げた方向や足跡が、少し追えるかもなの!」
茜がポンと手を叩く。
「うん、それいい案だと思うわ。足跡もくっきり残りそう!」
「すおいお、うー頭いいお!」
ルーキフェルに褒められ、ウェスペルが照れたように笑う。
「わかりました。それは肥料に使う灰があると思いますので、用意しておきますね」
サイモンが請けあう。
「他に何か必要なものはありますか?」
千里は背負い籠などを貸してほしいと申し出た。
パトリシアがはい、はい! と手を振る。
「相談ネ。テントはふたつ、北と南に分けて置いタラどうカナって。怪しいコトがあったら、動きやすいよーにネ」
「ではそれも用意しますね」
「モチロン、組み立てはパティも手伝うヨ♪」
「ははは……助かります」
見るからに肉体労働に向いていないサイモンが、なんとも微妙な表情になった。
それから二人ずつに分かれて、それぞれ準備を始めた。
ノワとパトリシアは、村の中を歩いて出会った人に声をかける。
「何かヘンな足音を見たトカ、鳴き声を聞いたコトなんかはありませんか?」
パトリシアが尋ねると、村人は首をかしげる。
「……というか私達にとっては、全部変で……」
「うーん、それもそうカモ」
宇宙船の生活から、未知らぬ土地での農業生活。
たぶん元ロッソ乗員の村人たちには、毎日がびっくりの連続だ。
その気持ちはパトリシアにもよくわかった。
ノワは村人たちの様子をさりげなく観察していた。
もしかしたら、サイモンの計画に反対している人もいるかもしれない。
けれど少なくともノワから見る限りで、サイモンに悪意を持つ人はいないようだ。他に適任者がいない以上、なし崩し村長に頼るしかないのがこの村の現状なのだろう。
「さてはて、畑を荒らした犯人は一体? やっぱり動物などでしょうか?」
「パティはネ、ホントはそのほうがいいと思うんダヨ♪」
せっかくうまくいきかけた村で、もめごとが起きてほしくない。
「そうですよね!」
ノワもそう思う。素敵な石のある場所には、やっぱり素敵な人がいてほしいではないか。
「おねーちゃーん!」
声に振り向くと、レベッカとビアンカがパタパタと走ってくる。
「あのね、へんなの」
末っ子のビアンカがたどたどしく言いながら、握りしめていた赤いカブのような野菜をノワに見せた。
「なにが変なのでしょうか?」
姉のレベッカが身振り手振りで説明する。
「まえにね、お隣の畑のおじさんが、ねずみにやられたーって」
なるほど、動物が齧りついたような跡があるが、ネズミにしては大口だ。
「そっかー。もっと詳しく聞きたいナ♪ 教えテくれる?」
「うんっ!」
子供達は大きなお姉さんたちにお話しするのが、とても嬉しいようだった。
ルーキフェルとウェスペルは村中を歩き回っていた。
「野生の動物なら、どこかで巣を作ってたりするかもしれないなの」
ウェスペルはコンテナの近くや、建物の陰などを丹念に見て回る。
春になり活発になったなら、子供が増えて餌がたくさん必要になったのでは、と思ったのだ。
「でも糞ものこってないですお。跡ものこさないとか、るーより頭いいお……」
ルーキフェルがなぜか神妙な顔でつぶやきながら、メモをとる。
「種がおいしくてアニタの畑だけあらしてるのか、それをしりたいですお」
種以外の目的――荒らすことそのもの――が狙いなのか。
ここに腰を落ち着けることにしたアニタ達が、誰にも邪魔されず、飢えずに暮らしていって欲しい。
ルーキフェルとしてはそれが気がかりだ。
結局、村には特に気にかかる点はなく、ふたりはまた畑へ向かった。
昼すぎ頃、一同はまた畑に集まった。
ウェスペルとルーキフェルが、村に何かがいる様子はない、と報告する。
そもそも村に野生生物が潜んでいるなら、村の中でも食べ物が荒らされているはずだ。
「なので、やっぱり畑に犯人がいるはずですなの」
一応畑の近くの藪や草むらを叩きまわってみたが、動物の巣などは見当たらない。
「ちょっとこれを見てください」
ノワがカブを見せて、子供たちから聞いた話を説明した。
「こう、がぶーっといった感じがしませんか?」
ノワは自分の口元にカブを近づける。ちょうどそんな感じの跡だ。
「でもネ、生のカブを齧ってポイするようなヒトがいたら、びっくりダヨ!」
パトリシアの言う通りである。
およそ犯人の予想がついたところで、テントを組み立て始めた。
その間にアニタと子供達は、トウモロコシの種を撒く。畑に穴を掘り、数粒の種を入れ、最後に柔らかく土をかぶせた。
水やりも終えたところで千里と茜が通り道に小枝を敷き詰め、ルーキフェルとウェスペルがその周囲に用心深く灰を撒く。
あとは夜を待つばかりだ。
●
男女に分かれて南北のテントにもぐり込み、息をひそめる。
真っ暗な畑には、ときどき鳥の鳴き声が不気味に響くほかは、何もない。
「味は確かに悪くないんやな」
南側のテントで、千里がしみじみと呟いた。
アニタが試食兼保温にと、ヒスイトウモロコシの温かいスープを差し入れてくれたのだ。
ホウレンソウスープもびっくりの緑色で、味はトウモロコシ。だが色が見えなければ、美味しいスープだった。
北側のテントでは、茜が小さく欠伸を漏らす。
「冬眠あけの熊とかは止めて欲しいなあ……今夜も来るのかな?」
そういった直後に口をつぐんだ。
枯れ枝を踏むかすかな音が山から近付き、通り過ぎて行く。
目を合わせたノワが頷き、外に待機させていたフクロウのハウラと視界を共有する。
パトリシアが生命探知の陣で辺りの生き物の気配を探った。
「2、3……ううン、4体かな。畑にいるみたいダヨ!」
「あまり大きくないですね……子供ぐらい? あっ、ほじくってます!!」
ノワが声をあげると同時に、パトリシアと茜が飛び出した。
「お猿さんだったりしないわよね!?」
茜がLEDライトで照らすと、びくっと身を震わせたのは、コボルトだった。
突然の光に慌てふためいたように、南に向かって駆け出す。
当然、そちら側からはウェスペル、千里が走ってくる。
ルーキフェルは様子が分かるまで、しばらくサイモンをかばって盾を使う。
それからカンテラをかざし、辺りの様子が分かるように照らした。
「畑にいたずらするのはだめですなの!」
ウェスペルは、挟み討ちに戸惑うコボルトをスリープクラウドで眠りに誘う。
1体は動きを止め、その場に立ち尽くす。
それぞればらばらに駆けだす残りのうち1体の足元を、千里が錫杖で払った。
コボルトは夜目がきくが、カンテラの明かりに惑わされたのか、あっさりと転んでしまう。
残る1体を、ノワの魔力を纏ったハウラが鋭い爪でひっかいた。
「倒しちゃっていいのカナ? それとも捕まえる?」
パトリシアはハウラに当たらないよう符を叩きつけ、無数の桜の花びらでコボルトの視界を塞ぐ。
そこでサイモンが声をあげた。
「あの、お願いが! できれば殺さないでください!」
「わかったわ。まかせて!」
茜は元来たほうへ逃げようとする1体の進行方向に回り込み、エレクトリックショックの電撃を浴びせた。
どのみち野生動物を無益に殺生するつもりはなかったから、準備は整えている。
びくりと体を硬直させたコボルトは、そのままひっくり返ってじたばたともがくしかない。
ルーキフェルの盾に守られながら、サイモンがテントから出て走ってくる。
「御面倒をかけてすみません、ただ殺してしまうと、今度は集団で村を襲う可能性もあると思いまして……!」
一息にそういうと、肩を上下させる。
戦闘に立ち会ったのは初めてのことで、さすがに動悸がおさまらないらしい。
「美味しい物が簡単に手に入ると思うから、来るのだと思います。なら怖い場所だと、仲間に知らせてくれた方がいい」
その間に、コボルト達はよろよろと逃げていく。
「なるほどな。ほな、これぐらいで」
千里が錫杖がつんと殴ると、眠ったまま残されていた最後の1体も目を覚まし、パニック状態で夜の闇に消えて行った。
「おつかれさまですお。だいじょうぶですかお?」
ルーキフェルはサイモンの様子を気遣った。
――いじわるする人がいたのでなくて良かった。
ウェスペルも同じ思いにちがいない。ふたりは顔を見合わせて嬉しそうに笑いあった。
●
後日、オフィスに立ち寄ったハンター達は、サイモンからの手紙を受け取る。
青い芽を伸ばしたトウモロコシ畑の前で、誇らしそうに笑うアニタの子供たちの写真も一緒だ。
よほど懲りたのか、その後畑が荒らされることはなかったそうだ。
『トウモロコシの収穫の頃には、またお願いすることになるかもしれません』
手紙の末尾には、ちゃっかりと一文が添えられていた。
<了>
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畑荒らしの正体は?(相談卓) 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/01 01:11:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/28 09:02:53 |