ゲスト
(ka0000)
【女神】渦中に咲く
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/03 07:30
- 完成日
- 2017/04/14 00:42
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●流儀
「見つけたぜぇ、女神さんよぉ…」
拠点にしていた港をとび出して、海賊デス・オルカは時を待っていた。
不本意ながら奪われてしまった海図を取り戻す為…それが昔略奪したモノであるがそんなの知った事か。
ハンターによって奪われた海図の奪還依頼を出したのは海図の制作者の妻だった。
しかし、今彼女の手にはないと知り、探し当てたのが眼前に浮かぶ運搬船の女船長という訳だ。
(さて、どうしてくれようか…)
女は異端…船に乗せる等もっての外だと言われていたのはいつの事か。だが、時代は変わった。けれど、変わらないものもある。風がよめると噂に聞くが、それがどうした。こっちも海を味方につけているのだ。
「野郎共、あの女に海賊の恐ろしさ判らせてやらんとなぁ」
双眼鏡で彼女を睨みつつ、海賊のお頭がマストに捕えてきた女をはり付けにする。
彼女の名はアリエンヌ――海図の制作者の妻であった。
「なんですって!」
海図奪還から数週間後、イズに届けられた手紙に声を荒らげる。
それはデス・オルカからの脅迫状。海図を返さなければアリエンヌを殺すという一方的な内容である。
「船長、どうします? こんなの無茶ですよっ、しかも明日なんてっ!」
彼女の補佐をしているセルクも手紙の内容に目を通して、今にも飛び出していきそうなイズを踏み止まらせる。
「だってこれって私のせいじゃない! 私が海図を調べたいって言って借りなければこんな事には…」
「そりゃそうですが、でも良いように考えれば船長の所にあったおかげですぐに殺されなかったのでは?」
「え…えぇ、そうね。でも、このままだと…」
いずれは彼女の身が危なくなる。彼女の夫が妻を旧姓に戻しさせてまで守ろうとした彼女が壊されてしまう。
「時間が無いわ。一か八か私が交渉して身代わりになる。あなた達はアリエンヌさんを救出後、安全な場所まで送って頂戴。いいわね?」
イズがそう言い何か思いついたように自分の部屋へと駆け上がる。
「ちょっ、船長!あぁ、もう…いい出したら聞かないんだから」
セルクは困り顔でそう愚痴って、仲間の乗組員達を招集。船を準備させる。
そして、その一人には抜かりなくハンターオフィスへの言伝を忘れない。
「おい、いいな。絶対に忘れるんじゃないぞ! 船長の一大事なんだからなっ!」
「了解っすよ。では行ってまいりますっ!」
●海図の秘密
海軍の目の届かない小さな港から暫く進んだ海の上――隠れる場所などある筈がない。
そんな場所でイズの船はデス・オルカを待っていた。すると小舟二隻は港に返したのか、彼女の船の三倍はあろうかというガレオン船が真っ黒な海賊旗を掲げて、悠然とこちらへ向かってくる。
「来たわね」
イズがキッとそちらを睨みつける。あちらもこちらを牽制するように先頭にはお頭の姿がある。
「よぉ、よく逃げなかったなぁ~褒めてやるぜ」
イズの船を見下ろす形でお頭が言う。
「全砲台、準備しなきゃ近付けない臆病者と一緒にしないで頂戴な。私はあんた達とは違うのよ」
それに毅然とした態度でそう答えると、下ろされてきた縄梯子を使いオルカの船へ。甲板には港にみた数よりもはるかに多い手下がいた。どうやら潜伏していた街のならず者はこの海賊にほぼ関わっていたらしい。
「威勢のいい嬢ちゃんだな。しかし、ちょっとお遊びが過ぎた様だ…海図を返しな」
頭が言う。
「返すっていう言い方は間違ってると思うけど、まあいいわ。但しアリエンヌさんが先よ」
地図を潜ませているポケットを叩きつつ、彼女は凛とした態度で交渉する。
「そんなに気になるか? まぁ、確かに別嬪だしな…おい、連れてこい」
そこで指示が入って子分はマストから彼女を引き剥がすと、イズの前へ乱暴に差し出す。
「アリエンヌさんっ!」
そんな彼女に駆け寄って、無事を確認するといよいよここからが本番だ。
「さあ、早く海図を」
ぎらついた海賊達の眼が一斉に彼女らの元に向けられる。
だが、ここで素直に海図を渡してしまえば後は用済みとばかりに殺されかねない。
「ねえ、オルカのお頭さん。この海図の暗号、解けたのかしら?」
ぴらりとわざと海図を開いて、そこに記された奇妙な文字を指し問う。
「おい、まさか…おまえ」
「フフッ、その様子だと解けてないようね。もし、ここでアリエンヌさんを無事に私の船に返してくれたら、その秘密教えてあげてもいいんだけど?」
演技はそれ程得意ではないが、それでも客商売は口がうまくなければ話にならない。そのスキルを活かして、何とかこの危機を乗り越えようと策を講じる。
「お頭、張ったりじゃあないですかい?」
子分が言う。ただ、嘘である証拠はなく、加えて汗一つかかず堂々とした態度が気にかかる。
「ほお…本当に解いた証拠はあるのか?」
「ええ、あるわよ。知りたいなら彼女を私の船に」
そこで頑として譲らずにいると、海賊も根負けしたのか船へ戻す事を許可してくれる。
「イズさん、貴方も」
「ダメよ。アリエンヌさんだけ行って。大丈夫、こんなの慣れてるから」
心配げに見つめる彼女にイズの言葉。船に彼女が戻る最中も甲板では交渉が続いている。
「さあ、早く秘密を」
「駄目よ。無事に港に私の船が着くのを見届けてから。でないと一文字だって教えるつもりはないわ」
海図を海賊に渡すもそこだけは譲らない。
「信用ならねぇなぁ。けど、本当にこいつ知ってるんですかい?」
じろじろと品定めでもするように子分がイズに不審を抱く。
「ちょっと変な目で見ないでよ。信じないならそれでもいいけど、困るのは貴方達でしょう?」
海賊相手にも怯む様子を微塵も見せずに彼女が言い切る。
「ぐぬぬ…違ったら覚えてろよぉ~」
子分の言葉に頷く彼女。船の空気は彼女にとって悪くなかった。しかし、それもいつまでもつか。
実際のところ、まだイズもあの謎めいた文字については未解読のままなのだ。
(細工はしたけど、もっても明日の朝までかしら…)
内心心臓が飛び出しそうな緊張を抱えつつも、日頃の対人術を活かして平静を装う。
その頃、ハンターオフィスでは部下の一人からの要請で『デス・オルカ出現につき捕縛希望』という名目での緊急依頼が承認され、ハンター募集が開始されているのだった。
「見つけたぜぇ、女神さんよぉ…」
拠点にしていた港をとび出して、海賊デス・オルカは時を待っていた。
不本意ながら奪われてしまった海図を取り戻す為…それが昔略奪したモノであるがそんなの知った事か。
ハンターによって奪われた海図の奪還依頼を出したのは海図の制作者の妻だった。
しかし、今彼女の手にはないと知り、探し当てたのが眼前に浮かぶ運搬船の女船長という訳だ。
(さて、どうしてくれようか…)
女は異端…船に乗せる等もっての外だと言われていたのはいつの事か。だが、時代は変わった。けれど、変わらないものもある。風がよめると噂に聞くが、それがどうした。こっちも海を味方につけているのだ。
「野郎共、あの女に海賊の恐ろしさ判らせてやらんとなぁ」
双眼鏡で彼女を睨みつつ、海賊のお頭がマストに捕えてきた女をはり付けにする。
彼女の名はアリエンヌ――海図の制作者の妻であった。
「なんですって!」
海図奪還から数週間後、イズに届けられた手紙に声を荒らげる。
それはデス・オルカからの脅迫状。海図を返さなければアリエンヌを殺すという一方的な内容である。
「船長、どうします? こんなの無茶ですよっ、しかも明日なんてっ!」
彼女の補佐をしているセルクも手紙の内容に目を通して、今にも飛び出していきそうなイズを踏み止まらせる。
「だってこれって私のせいじゃない! 私が海図を調べたいって言って借りなければこんな事には…」
「そりゃそうですが、でも良いように考えれば船長の所にあったおかげですぐに殺されなかったのでは?」
「え…えぇ、そうね。でも、このままだと…」
いずれは彼女の身が危なくなる。彼女の夫が妻を旧姓に戻しさせてまで守ろうとした彼女が壊されてしまう。
「時間が無いわ。一か八か私が交渉して身代わりになる。あなた達はアリエンヌさんを救出後、安全な場所まで送って頂戴。いいわね?」
イズがそう言い何か思いついたように自分の部屋へと駆け上がる。
「ちょっ、船長!あぁ、もう…いい出したら聞かないんだから」
セルクは困り顔でそう愚痴って、仲間の乗組員達を招集。船を準備させる。
そして、その一人には抜かりなくハンターオフィスへの言伝を忘れない。
「おい、いいな。絶対に忘れるんじゃないぞ! 船長の一大事なんだからなっ!」
「了解っすよ。では行ってまいりますっ!」
●海図の秘密
海軍の目の届かない小さな港から暫く進んだ海の上――隠れる場所などある筈がない。
そんな場所でイズの船はデス・オルカを待っていた。すると小舟二隻は港に返したのか、彼女の船の三倍はあろうかというガレオン船が真っ黒な海賊旗を掲げて、悠然とこちらへ向かってくる。
「来たわね」
イズがキッとそちらを睨みつける。あちらもこちらを牽制するように先頭にはお頭の姿がある。
「よぉ、よく逃げなかったなぁ~褒めてやるぜ」
イズの船を見下ろす形でお頭が言う。
「全砲台、準備しなきゃ近付けない臆病者と一緒にしないで頂戴な。私はあんた達とは違うのよ」
それに毅然とした態度でそう答えると、下ろされてきた縄梯子を使いオルカの船へ。甲板には港にみた数よりもはるかに多い手下がいた。どうやら潜伏していた街のならず者はこの海賊にほぼ関わっていたらしい。
「威勢のいい嬢ちゃんだな。しかし、ちょっとお遊びが過ぎた様だ…海図を返しな」
頭が言う。
「返すっていう言い方は間違ってると思うけど、まあいいわ。但しアリエンヌさんが先よ」
地図を潜ませているポケットを叩きつつ、彼女は凛とした態度で交渉する。
「そんなに気になるか? まぁ、確かに別嬪だしな…おい、連れてこい」
そこで指示が入って子分はマストから彼女を引き剥がすと、イズの前へ乱暴に差し出す。
「アリエンヌさんっ!」
そんな彼女に駆け寄って、無事を確認するといよいよここからが本番だ。
「さあ、早く海図を」
ぎらついた海賊達の眼が一斉に彼女らの元に向けられる。
だが、ここで素直に海図を渡してしまえば後は用済みとばかりに殺されかねない。
「ねえ、オルカのお頭さん。この海図の暗号、解けたのかしら?」
ぴらりとわざと海図を開いて、そこに記された奇妙な文字を指し問う。
「おい、まさか…おまえ」
「フフッ、その様子だと解けてないようね。もし、ここでアリエンヌさんを無事に私の船に返してくれたら、その秘密教えてあげてもいいんだけど?」
演技はそれ程得意ではないが、それでも客商売は口がうまくなければ話にならない。そのスキルを活かして、何とかこの危機を乗り越えようと策を講じる。
「お頭、張ったりじゃあないですかい?」
子分が言う。ただ、嘘である証拠はなく、加えて汗一つかかず堂々とした態度が気にかかる。
「ほお…本当に解いた証拠はあるのか?」
「ええ、あるわよ。知りたいなら彼女を私の船に」
そこで頑として譲らずにいると、海賊も根負けしたのか船へ戻す事を許可してくれる。
「イズさん、貴方も」
「ダメよ。アリエンヌさんだけ行って。大丈夫、こんなの慣れてるから」
心配げに見つめる彼女にイズの言葉。船に彼女が戻る最中も甲板では交渉が続いている。
「さあ、早く秘密を」
「駄目よ。無事に港に私の船が着くのを見届けてから。でないと一文字だって教えるつもりはないわ」
海図を海賊に渡すもそこだけは譲らない。
「信用ならねぇなぁ。けど、本当にこいつ知ってるんですかい?」
じろじろと品定めでもするように子分がイズに不審を抱く。
「ちょっと変な目で見ないでよ。信じないならそれでもいいけど、困るのは貴方達でしょう?」
海賊相手にも怯む様子を微塵も見せずに彼女が言い切る。
「ぐぬぬ…違ったら覚えてろよぉ~」
子分の言葉に頷く彼女。船の空気は彼女にとって悪くなかった。しかし、それもいつまでもつか。
実際のところ、まだイズもあの謎めいた文字については未解読のままなのだ。
(細工はしたけど、もっても明日の朝までかしら…)
内心心臓が飛び出しそうな緊張を抱えつつも、日頃の対人術を活かして平静を装う。
その頃、ハンターオフィスでは部下の一人からの要請で『デス・オルカ出現につき捕縛希望』という名目での緊急依頼が承認され、ハンター募集が開始されているのだった。
リプレイ本文
●忍ぶもの
事は一刻を争うという事で場所は海の上。
「普通のなら相手ではないんだけど、ちょっと気になるわね」
大型で獰猛…あんな顔で可愛いイメージがあるシャチだが、実際のところなかなかの策士で仲間と連携し餌を狙う事もある。前回の依頼も受けていたラジェンドラ(ka6353)とりり子(ka6114)から経緯やら相手の様子を聞いて、用心に越した事はないとカーミン・S・フィールズ(ka1559)が言う。それを事前に聞いていたのかロニ・カルディス(ka0551)はあるモノを用意していた。
「それは?」
葛音 水月(ka1895)が船を操縦するロニの横にある特殊な矢を見つけて問う。
「ああ、これか。これは人魚の秘薬だ」
「人魚の秘薬?」
その答えにキャンディを静かに頬張っていたヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)も思わず繰り返す。
「あぁ、『名状しがたきニオイ玉』と言うんだが、大型の海棲生物に効果覿面らしい。何なら嗅いでみるか?」
矢尻についた小さな袋がそれなのだろう。だが、袋を開く前に何か嫌な予感がして、二人は嗅ぐのを遠慮する。
「出来る事なら殺したくないのよ。だからそう言うものがあるなら助かるわ」
自身のものではないにしろ、自然生物の殺しは避けたい。カーミンとロニは奇襲時船を守る役を希望しているから尚更だ。それでもこの依頼において船を守る事はとても重要であり、最悪の時は仕方ないと頭では理解しているが心情としてはやはり…。
一方こちらは海賊船。
「さあ、吐けよ…約束とやらは守ってやっただろうが」
「あっ…い、あ…」
お頭自らの案内で連れてこられた場所での突然の乱暴にイズが恐怖を覚える。
いきなり首を締めあげられては話す事もままならず、必死にそれに耐えるしかない。
「思い上がんじゃねえぞ、これでも優しくしてんだ。さあ、地図の秘密を全て教えろ」
恐怖での支配が目的か。お頭が今度は顎もとに手をやり強引にこちらを向かせ言う。
「……わ、わかっ、た…わよ。地図を…地図を出しなさい、な…」
その瞳に狂気を感じてイズは口を開くも喉が潰されかけて声が掠れる。
(これが、海賊……でも、やらないと)
仲間を信じて…彼女はなけなしの勇気を振り絞る。
そんなデス・オルカは馬鹿ではなかった。
イズの船がアリエンヌを乗せて発進した時から周囲への監視は厳重だ。前後左右に二名ずつ人を配置してなお、不十分と判断しマストの上にも二人待機させる手の入れよう。しかも追手が来ても即座に逃げる事が出来る様回遊し続けている。であるからイズの船が追跡するにも時間を要する。救いはセルクのマーカー圏外には出ていなかった事か。
「おっと、あれか」
船員から借りた双眼鏡で僅かな灯りを見つけてヴィントが言う。
「みたいですね…あれは倒し甲斐がありますよぅ」
そう言うのは星野 ハナ(ka5852)だ。目視で捉えたその大きさはかなりであるが、彼女から見れば相手にとって不足無し。にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「ならば全速全進で行くが、目標は船尾でいいか?」
ロニが船の舵を握って方向を定める。
「ああ、それで構わない。気付かれる事は前提だが、極力ギリギリまで隠れていた方が有利だろうし、攻撃を受ける可能性も減らせるからな」
ラジェンドラが言う。海戦において注意すべきは砲台のある側面だ。
ここを敵に見せてしまうと恰好の的となってしまう。そこで彼は後ろを選んだとみえる。
「では、いざ」
そう言い魔導モーターに手をかけた時、船が大きく揺れて――全力発進に待ったがかかる。
「ちょっ、やめたってぇなぁ~」
船室から外に出でりり子が思わずその場にしゃがみ込む。
その原因は勿論シャチだった。時折背ビレを海面に出しては某映画のワンシーンの如く皆にプレッシャーをかけてくる。そして、ギリギリまで接近すると軽く跳ねて、その飛沫でこの船の進路を妨害しているつもりらしい。
「あら、やってくれるじゃないっ!」
カーミンがその行動に水中用ライフルを手に甲板へと躍り出る。だが、今ここで撃っては銃声があちらに聞こえてしまう。出来れば完全に接近するまでは使いたくない。そこで思い出したのはさっきの矢だ。
「ロニ、これ借りるわよっ!」
そう言い、早速海面に向けて矢を放つすると袋は破れて…。
『ンキューールルーッ!?!』
一匹のシャチが小動物のような声を上げ逃走。
もう一匹もこちらに来る途中で匂いを感じたのか引き返してゆく。
「す、凄い効き目だ…」
舐めていたキャンディを取り落とし、鼻を押さえながらヴィントが呟いた。
●暴れるもの
「お気を付けて」
先に海賊船へと乗り込むのはカーミンと水月の二名にりり子が言う。
ガレオンとスループでは高さがかなり違う。よって船に乗り込むにも一苦労なのだ。そこで彼らが考えたのは囮作戦。水月が派手に陽動し、その間にカーミンが仲間の乗船を手助けする手筈である。
二人はスキルを使い船に飛び移ると、水月は壁走りで側面から船首を目指す。
「おいっ、今何か影が見え…ってうわぁ!?」
そう言いかけた手下だったが、次の瞬間足元から煙が上がって慌ててその場を離れる。
(ふふ、うまくいき過ぎですね)
その動揺に水月は口角を上げる。煙の正体、それは彼が投げ込んだ発煙手榴弾だった。
砲台窓が開いていた事をいい事にそこから放り込んだのは計五本。その全てが投げ込まれる頃には、カーミンもすでに事を終えている。
「後は宜しくね」
「了解なんよ」
船尾楼から縄梯子を垂らして、後発の三名を船へと送る。その間周囲を警戒するも陽動により全くもって気付かれる気配はなく、発煙筒に続けとハナの火炎符が甲板の手下達に混乱を与える。
どうやら乗組員の一部はイズが予測した通り街の荒くれ者らしかった。
船での生活に慣れていない彼等は迅速な対応が出来ず、思い思いの行動に走っている。
そこをついてこちらもど派手に大暴れ。
「さあさあこちら、今日のお客さんはここです!」
どこか演技染みた振舞いで船首の甲板に立って、パイルバンカー片手に水月が言う。
「ここまでの事をしたんなら、覚悟で出来とるってことやよね?」
そう言うりり子は大刀装備だ。
大型船とは言え、そんな物を振り回されては海賊らの逃げ場はおろか船の損傷も免れない。
「お、おい! うそだろっ」
「あいつら気が狂ってやがる!」
煙に視界を制限される中、オルカの手下達の武器は残念な事に銛やダガーと小物ばかりだ。唯一銃を携帯していた者なら勝ち目もあるが、それ以外は悲しいかな。
「ちっ、こうなりゃこれで」
砲台を内に向けて一人が強行に出る。
「ハッ、まあそうこなくては遣り甲斐はないが、無茶が過ぎるぞ」
がそれは簡単に阻まれて…動かそうとしていた男の首元を石突で一発。あっさりと意識を手放す男には目もくれず、ヴィントもここでいきなりの最後通告を言い放つ。
「いっとくが、こっちはハンターだ。降伏するなら今のうちだ」
けれど、海賊とて意地がある。港を出る羽目になった元凶のいう事等聞きたくはない。
「はっ、こうなりゃやってやらぁ!」
「海賊を嘗めんなよぉ~」
完全にフラグな気もするが、非覚醒者であっても引くつもりはないらしい。銃を持つ者らが一斉に反撃に出る。その様子を見てハナは思う。
(完全な悪足掻きですよね~という事で一足先にイズさんを探しに行きますか)
無謀な発砲に呆れる彼女は適当に火炎符を投げつつ船首楼へ。一般的に船長室は首尾であるが、いなかったし相手は海賊だ。前についていてもおかしくない。念の為と思い彼女はそちらへと向かう。その後ろではラジェンドラの攻勢防壁で弾かれた弾丸が散弾する形となり二次災害に苦しむ海賊達がいる。
そんな中ハナの進路に立ちはだかったのは長髪の男だった。彼だけはこの乱戦の中でも冷静な目を保っている。
「あなたは…」
ハナが対峙して問う。
「さあ、名前を聞いたところで意味を持たないでしょう?」
男はそう言うと体勢を低くとったかと思うと瞬時に彼女の前に現れて、
「えっ、ちょっ! ひゃあああっ!?」
ハナはその光のような速さに追いつけず。殺気を感じて本能で身を仰け反る。すると視界には飛爪が空を掠めて…避けられたのはほぼ奇跡と言っていい。そのままバク天する形を取って距離を取ろうとするも、彼女は符術師。そこまでの身体能力を有していなくて、どさりと床に身を打つ。
「おい、大丈夫か?」
それに気付いてヴィントがダブルファイヤで男を牽制しながら彼女の許へとやってくる。
「え、ええまぁ…」
「んっ……とえらいのと遣り合ってるようだな。俺も参戦させて貰おうか」
彼が相手を見据えたまま言う。どうやら彼は一瞬にして相手が自分と同じ部類の人間だと悟ったようだ。肌と空気も相手が危険人物だと知らせてくる。
「すみません。私がサポートするので」
「ああ、頼む」
忍びのような動きで二人に近付いてくる男に二人掛かりで――まずは足だ。男の速さを削ぐにはそれしかないと、ヴィントの銃が関節を狙う。それに続いてハナは符にスキルを乗せて、発動の機会を待つ。射程に入れば、必ず当たると信じて…後少しだ。男が宙を舞う。それも風の如く速さで華麗に、二人の背後をつくつもりらしい。
トスッ
そこで足を床についたその時が術発動のきっかけとなった。
五枚の符が結界範囲を足元から照らし、男の視界を奪っていく。
「くっ、小賢しい真似を」
男の声――けれど、その後は続かない。
なぜなら、ヴィントが彼の隙をついて鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだのだ。
「ふう~、助かりましたぁ」
ハナが言う。
「何、友人に頼まれた依頼だったがやるからにはな。早くイズとやらを助け出すぞ」
その言葉に船首楼の扉を開けてみるがそこにはイズはいなくて…。
しかし、その時甲板の空気が一変した。
●貫くもの
「おうおう、よくも派手にやってくれたなぁ…」
戦場と化した甲板に姿を現わしたのはいわずものがな、オルカのお頭だった。
陸にいた時とはどこか違い、威圧感と迫力が二割増ししている。そんな彼の傍にイズの姿。
だが、ぐったりとしていて意識がないようにも見える。
(やはり船倉に隠していたのですねぇ)
始めから予測はしていたが、優先順位の高い所から回っていた為後になった事をハナが悔やむ。けれど、物は考えようだ。今、ここに連れ出してくれたおかげで探す手間が省けたではないか。
「人質を使ってとは卑怯だな。実力で奪おうとしたあのシルバーバレットの大将とは比べものにならないな」
ラジェンドラが挑発する。だが、相手も幾つもの修羅場を越えてきている。それ位では動じない。
「どうとでも言えばいいさ。あんな若造には海賊の真似事で十分…非道にはなれない馬鹿野郎だからなぁ」
お頭のその言葉にそうだとばかりに周りが笑い声をあげる。
「まあ、とにかく武器を捨てろや。この女の命が惜しいんだろう?」
下卑た笑みを浮かべてお頭が促す。その間にも動きの止まったハンターらに向けて手下達が砲台を向け始める。
その状況に万事休す…そう思われたのだが、
「あーらっ、ちょっとごめんなさいっ!」
急速に近付くモーター音のその後に船が大きく揺れて、そちらを見ればイズの船の先頭に立つのはロニの姿。
彼は海賊船の様子が変わった事に気付いたようで、しかしそれが鎮圧のそれでない事を双眼鏡で悟り攻撃に出たのだ。
「悪いな。無傷は無理そうだ」
誰に言ったかロニがセイクリッドフラッシュを側面に放ち、流石のお頭がよろける。
そのチャンスをハンターらが見逃す筈がない。ダッとラジェンドラがジェットブーツでお頭との距離を詰める。
後方のりり子はファントムハンドを発動し、お頭の腕を掴み引き寄せにかかる。
「野郎共、やっち…」
そう指示を出しかけたお頭であったが、水月のパイルバンカーのぶん回しで次々と手下が吹き飛ばされ、不運な者は海へと転落。一方ではヴィントの攻撃に尽く沈んでいく光景に怒り心頭。だが彼も例外ではない。
「私にも見せ場を、ですよぉ!」
ハナが五色光符陣を発動させ彼の視界を奪う。その拍子に捕えていたイズを放したのが運の尽きだ。ラジェンドラがイズを確保すると、りり子の腕が彼を引き寄せる。年齢差は相当なものであろうが、実力で言えばどうしても彼女に敵わないか。それでも彼は意地を見せる。
「俺を誰だと思ってやがるっ! 俺はお頭だぞっ!」
頭は視界を奪われ、引き摺られて尚足掻いて見せた。それは海賊の意地だったのかもしれない。
腰に下げていた短銃を乱発する。幸いというべきかリボルバー式で弾数は六発。的を得なかったものが多い。しかし、この弾でりり子と離れていた筈のヴィントに傷をつけたのは天晴としか言いようがないだろう。
かくてイズの救出およびオルカ海賊団の捕縛は完了した。
船ごと港入りをして、海賊らは役所へと引き渡す。ちなみに彼等が手名付け飼っていたシャチはあの後オルカの船の方に戻って来たので、指示役に自由にするよう命令を出させると、幾度か振り返りながらも海へと帰って行ったという。
「いや、しかしまさかあんなのを手名付けているとはな。こっちの海賊は侮れないな」
ラジェンドラがぽつりと言葉する。
「…うん、侮れない…よね。ちょっと今回の事で怖くなっちゃったかも」
役所から戻って来たイズ…気丈に振舞ってはいるが、少しだけ彼女の雰囲気が変わったように思える。
「もう、大丈夫やの?」
彼女を心配してりり子が問う。
「フフッ、大丈夫よ。ちょっとビビっちゃったけどね。でも、この船なら」
「え?」
「嬢ちゃん、まさか?」
海賊船を見上げる瞳――そこに宿る光は以前のものに増して輝いて見える。
「実はね、あの海図の暗号解けてなかったんだけど、海賊達に渡すフェイクを作ってる最中に偶然秘密の一部が解明されたの。それによると多分私の船じゃ小さ過ぎるから…だけど、この船なら」
渡れるかもしれない。役所に届けた際、船の方は損傷部が多いという事もあり好きにしていいという事になったのだ。まだ完全な解読ではないらしいが、それでも少し進んだ事と大型の船が手に入った事は大きい。
「それはよかった。もし暗黒海域に行く時がきたら誘ってくれよな」
ラジェンドラが言う。
「うちも実はこれ使えるかもって思ってたんよ。そうか、そうなんやね~だったら楽しみやわ」
暗黒海域の冒険に憧れを抱き始めているりり子がイズ同様瞳を輝かせて言う。
「ええ、待ってて頂戴。必ず行って見せるんだから!」
手続きや修理にはどれくらいかかるだろうか。けれど、その頃には暗号の解読も終わっているに違いない。
事は一刻を争うという事で場所は海の上。
「普通のなら相手ではないんだけど、ちょっと気になるわね」
大型で獰猛…あんな顔で可愛いイメージがあるシャチだが、実際のところなかなかの策士で仲間と連携し餌を狙う事もある。前回の依頼も受けていたラジェンドラ(ka6353)とりり子(ka6114)から経緯やら相手の様子を聞いて、用心に越した事はないとカーミン・S・フィールズ(ka1559)が言う。それを事前に聞いていたのかロニ・カルディス(ka0551)はあるモノを用意していた。
「それは?」
葛音 水月(ka1895)が船を操縦するロニの横にある特殊な矢を見つけて問う。
「ああ、これか。これは人魚の秘薬だ」
「人魚の秘薬?」
その答えにキャンディを静かに頬張っていたヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)も思わず繰り返す。
「あぁ、『名状しがたきニオイ玉』と言うんだが、大型の海棲生物に効果覿面らしい。何なら嗅いでみるか?」
矢尻についた小さな袋がそれなのだろう。だが、袋を開く前に何か嫌な予感がして、二人は嗅ぐのを遠慮する。
「出来る事なら殺したくないのよ。だからそう言うものがあるなら助かるわ」
自身のものではないにしろ、自然生物の殺しは避けたい。カーミンとロニは奇襲時船を守る役を希望しているから尚更だ。それでもこの依頼において船を守る事はとても重要であり、最悪の時は仕方ないと頭では理解しているが心情としてはやはり…。
一方こちらは海賊船。
「さあ、吐けよ…約束とやらは守ってやっただろうが」
「あっ…い、あ…」
お頭自らの案内で連れてこられた場所での突然の乱暴にイズが恐怖を覚える。
いきなり首を締めあげられては話す事もままならず、必死にそれに耐えるしかない。
「思い上がんじゃねえぞ、これでも優しくしてんだ。さあ、地図の秘密を全て教えろ」
恐怖での支配が目的か。お頭が今度は顎もとに手をやり強引にこちらを向かせ言う。
「……わ、わかっ、た…わよ。地図を…地図を出しなさい、な…」
その瞳に狂気を感じてイズは口を開くも喉が潰されかけて声が掠れる。
(これが、海賊……でも、やらないと)
仲間を信じて…彼女はなけなしの勇気を振り絞る。
そんなデス・オルカは馬鹿ではなかった。
イズの船がアリエンヌを乗せて発進した時から周囲への監視は厳重だ。前後左右に二名ずつ人を配置してなお、不十分と判断しマストの上にも二人待機させる手の入れよう。しかも追手が来ても即座に逃げる事が出来る様回遊し続けている。であるからイズの船が追跡するにも時間を要する。救いはセルクのマーカー圏外には出ていなかった事か。
「おっと、あれか」
船員から借りた双眼鏡で僅かな灯りを見つけてヴィントが言う。
「みたいですね…あれは倒し甲斐がありますよぅ」
そう言うのは星野 ハナ(ka5852)だ。目視で捉えたその大きさはかなりであるが、彼女から見れば相手にとって不足無し。にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「ならば全速全進で行くが、目標は船尾でいいか?」
ロニが船の舵を握って方向を定める。
「ああ、それで構わない。気付かれる事は前提だが、極力ギリギリまで隠れていた方が有利だろうし、攻撃を受ける可能性も減らせるからな」
ラジェンドラが言う。海戦において注意すべきは砲台のある側面だ。
ここを敵に見せてしまうと恰好の的となってしまう。そこで彼は後ろを選んだとみえる。
「では、いざ」
そう言い魔導モーターに手をかけた時、船が大きく揺れて――全力発進に待ったがかかる。
「ちょっ、やめたってぇなぁ~」
船室から外に出でりり子が思わずその場にしゃがみ込む。
その原因は勿論シャチだった。時折背ビレを海面に出しては某映画のワンシーンの如く皆にプレッシャーをかけてくる。そして、ギリギリまで接近すると軽く跳ねて、その飛沫でこの船の進路を妨害しているつもりらしい。
「あら、やってくれるじゃないっ!」
カーミンがその行動に水中用ライフルを手に甲板へと躍り出る。だが、今ここで撃っては銃声があちらに聞こえてしまう。出来れば完全に接近するまでは使いたくない。そこで思い出したのはさっきの矢だ。
「ロニ、これ借りるわよっ!」
そう言い、早速海面に向けて矢を放つすると袋は破れて…。
『ンキューールルーッ!?!』
一匹のシャチが小動物のような声を上げ逃走。
もう一匹もこちらに来る途中で匂いを感じたのか引き返してゆく。
「す、凄い効き目だ…」
舐めていたキャンディを取り落とし、鼻を押さえながらヴィントが呟いた。
●暴れるもの
「お気を付けて」
先に海賊船へと乗り込むのはカーミンと水月の二名にりり子が言う。
ガレオンとスループでは高さがかなり違う。よって船に乗り込むにも一苦労なのだ。そこで彼らが考えたのは囮作戦。水月が派手に陽動し、その間にカーミンが仲間の乗船を手助けする手筈である。
二人はスキルを使い船に飛び移ると、水月は壁走りで側面から船首を目指す。
「おいっ、今何か影が見え…ってうわぁ!?」
そう言いかけた手下だったが、次の瞬間足元から煙が上がって慌ててその場を離れる。
(ふふ、うまくいき過ぎですね)
その動揺に水月は口角を上げる。煙の正体、それは彼が投げ込んだ発煙手榴弾だった。
砲台窓が開いていた事をいい事にそこから放り込んだのは計五本。その全てが投げ込まれる頃には、カーミンもすでに事を終えている。
「後は宜しくね」
「了解なんよ」
船尾楼から縄梯子を垂らして、後発の三名を船へと送る。その間周囲を警戒するも陽動により全くもって気付かれる気配はなく、発煙筒に続けとハナの火炎符が甲板の手下達に混乱を与える。
どうやら乗組員の一部はイズが予測した通り街の荒くれ者らしかった。
船での生活に慣れていない彼等は迅速な対応が出来ず、思い思いの行動に走っている。
そこをついてこちらもど派手に大暴れ。
「さあさあこちら、今日のお客さんはここです!」
どこか演技染みた振舞いで船首の甲板に立って、パイルバンカー片手に水月が言う。
「ここまでの事をしたんなら、覚悟で出来とるってことやよね?」
そう言うりり子は大刀装備だ。
大型船とは言え、そんな物を振り回されては海賊らの逃げ場はおろか船の損傷も免れない。
「お、おい! うそだろっ」
「あいつら気が狂ってやがる!」
煙に視界を制限される中、オルカの手下達の武器は残念な事に銛やダガーと小物ばかりだ。唯一銃を携帯していた者なら勝ち目もあるが、それ以外は悲しいかな。
「ちっ、こうなりゃこれで」
砲台を内に向けて一人が強行に出る。
「ハッ、まあそうこなくては遣り甲斐はないが、無茶が過ぎるぞ」
がそれは簡単に阻まれて…動かそうとしていた男の首元を石突で一発。あっさりと意識を手放す男には目もくれず、ヴィントもここでいきなりの最後通告を言い放つ。
「いっとくが、こっちはハンターだ。降伏するなら今のうちだ」
けれど、海賊とて意地がある。港を出る羽目になった元凶のいう事等聞きたくはない。
「はっ、こうなりゃやってやらぁ!」
「海賊を嘗めんなよぉ~」
完全にフラグな気もするが、非覚醒者であっても引くつもりはないらしい。銃を持つ者らが一斉に反撃に出る。その様子を見てハナは思う。
(完全な悪足掻きですよね~という事で一足先にイズさんを探しに行きますか)
無謀な発砲に呆れる彼女は適当に火炎符を投げつつ船首楼へ。一般的に船長室は首尾であるが、いなかったし相手は海賊だ。前についていてもおかしくない。念の為と思い彼女はそちらへと向かう。その後ろではラジェンドラの攻勢防壁で弾かれた弾丸が散弾する形となり二次災害に苦しむ海賊達がいる。
そんな中ハナの進路に立ちはだかったのは長髪の男だった。彼だけはこの乱戦の中でも冷静な目を保っている。
「あなたは…」
ハナが対峙して問う。
「さあ、名前を聞いたところで意味を持たないでしょう?」
男はそう言うと体勢を低くとったかと思うと瞬時に彼女の前に現れて、
「えっ、ちょっ! ひゃあああっ!?」
ハナはその光のような速さに追いつけず。殺気を感じて本能で身を仰け反る。すると視界には飛爪が空を掠めて…避けられたのはほぼ奇跡と言っていい。そのままバク天する形を取って距離を取ろうとするも、彼女は符術師。そこまでの身体能力を有していなくて、どさりと床に身を打つ。
「おい、大丈夫か?」
それに気付いてヴィントがダブルファイヤで男を牽制しながら彼女の許へとやってくる。
「え、ええまぁ…」
「んっ……とえらいのと遣り合ってるようだな。俺も参戦させて貰おうか」
彼が相手を見据えたまま言う。どうやら彼は一瞬にして相手が自分と同じ部類の人間だと悟ったようだ。肌と空気も相手が危険人物だと知らせてくる。
「すみません。私がサポートするので」
「ああ、頼む」
忍びのような動きで二人に近付いてくる男に二人掛かりで――まずは足だ。男の速さを削ぐにはそれしかないと、ヴィントの銃が関節を狙う。それに続いてハナは符にスキルを乗せて、発動の機会を待つ。射程に入れば、必ず当たると信じて…後少しだ。男が宙を舞う。それも風の如く速さで華麗に、二人の背後をつくつもりらしい。
トスッ
そこで足を床についたその時が術発動のきっかけとなった。
五枚の符が結界範囲を足元から照らし、男の視界を奪っていく。
「くっ、小賢しい真似を」
男の声――けれど、その後は続かない。
なぜなら、ヴィントが彼の隙をついて鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだのだ。
「ふう~、助かりましたぁ」
ハナが言う。
「何、友人に頼まれた依頼だったがやるからにはな。早くイズとやらを助け出すぞ」
その言葉に船首楼の扉を開けてみるがそこにはイズはいなくて…。
しかし、その時甲板の空気が一変した。
●貫くもの
「おうおう、よくも派手にやってくれたなぁ…」
戦場と化した甲板に姿を現わしたのはいわずものがな、オルカのお頭だった。
陸にいた時とはどこか違い、威圧感と迫力が二割増ししている。そんな彼の傍にイズの姿。
だが、ぐったりとしていて意識がないようにも見える。
(やはり船倉に隠していたのですねぇ)
始めから予測はしていたが、優先順位の高い所から回っていた為後になった事をハナが悔やむ。けれど、物は考えようだ。今、ここに連れ出してくれたおかげで探す手間が省けたではないか。
「人質を使ってとは卑怯だな。実力で奪おうとしたあのシルバーバレットの大将とは比べものにならないな」
ラジェンドラが挑発する。だが、相手も幾つもの修羅場を越えてきている。それ位では動じない。
「どうとでも言えばいいさ。あんな若造には海賊の真似事で十分…非道にはなれない馬鹿野郎だからなぁ」
お頭のその言葉にそうだとばかりに周りが笑い声をあげる。
「まあ、とにかく武器を捨てろや。この女の命が惜しいんだろう?」
下卑た笑みを浮かべてお頭が促す。その間にも動きの止まったハンターらに向けて手下達が砲台を向け始める。
その状況に万事休す…そう思われたのだが、
「あーらっ、ちょっとごめんなさいっ!」
急速に近付くモーター音のその後に船が大きく揺れて、そちらを見ればイズの船の先頭に立つのはロニの姿。
彼は海賊船の様子が変わった事に気付いたようで、しかしそれが鎮圧のそれでない事を双眼鏡で悟り攻撃に出たのだ。
「悪いな。無傷は無理そうだ」
誰に言ったかロニがセイクリッドフラッシュを側面に放ち、流石のお頭がよろける。
そのチャンスをハンターらが見逃す筈がない。ダッとラジェンドラがジェットブーツでお頭との距離を詰める。
後方のりり子はファントムハンドを発動し、お頭の腕を掴み引き寄せにかかる。
「野郎共、やっち…」
そう指示を出しかけたお頭であったが、水月のパイルバンカーのぶん回しで次々と手下が吹き飛ばされ、不運な者は海へと転落。一方ではヴィントの攻撃に尽く沈んでいく光景に怒り心頭。だが彼も例外ではない。
「私にも見せ場を、ですよぉ!」
ハナが五色光符陣を発動させ彼の視界を奪う。その拍子に捕えていたイズを放したのが運の尽きだ。ラジェンドラがイズを確保すると、りり子の腕が彼を引き寄せる。年齢差は相当なものであろうが、実力で言えばどうしても彼女に敵わないか。それでも彼は意地を見せる。
「俺を誰だと思ってやがるっ! 俺はお頭だぞっ!」
頭は視界を奪われ、引き摺られて尚足掻いて見せた。それは海賊の意地だったのかもしれない。
腰に下げていた短銃を乱発する。幸いというべきかリボルバー式で弾数は六発。的を得なかったものが多い。しかし、この弾でりり子と離れていた筈のヴィントに傷をつけたのは天晴としか言いようがないだろう。
かくてイズの救出およびオルカ海賊団の捕縛は完了した。
船ごと港入りをして、海賊らは役所へと引き渡す。ちなみに彼等が手名付け飼っていたシャチはあの後オルカの船の方に戻って来たので、指示役に自由にするよう命令を出させると、幾度か振り返りながらも海へと帰って行ったという。
「いや、しかしまさかあんなのを手名付けているとはな。こっちの海賊は侮れないな」
ラジェンドラがぽつりと言葉する。
「…うん、侮れない…よね。ちょっと今回の事で怖くなっちゃったかも」
役所から戻って来たイズ…気丈に振舞ってはいるが、少しだけ彼女の雰囲気が変わったように思える。
「もう、大丈夫やの?」
彼女を心配してりり子が問う。
「フフッ、大丈夫よ。ちょっとビビっちゃったけどね。でも、この船なら」
「え?」
「嬢ちゃん、まさか?」
海賊船を見上げる瞳――そこに宿る光は以前のものに増して輝いて見える。
「実はね、あの海図の暗号解けてなかったんだけど、海賊達に渡すフェイクを作ってる最中に偶然秘密の一部が解明されたの。それによると多分私の船じゃ小さ過ぎるから…だけど、この船なら」
渡れるかもしれない。役所に届けた際、船の方は損傷部が多いという事もあり好きにしていいという事になったのだ。まだ完全な解読ではないらしいが、それでも少し進んだ事と大型の船が手に入った事は大きい。
「それはよかった。もし暗黒海域に行く時がきたら誘ってくれよな」
ラジェンドラが言う。
「うちも実はこれ使えるかもって思ってたんよ。そうか、そうなんやね~だったら楽しみやわ」
暗黒海域の冒険に憧れを抱き始めているりり子がイズ同様瞳を輝かせて言う。
「ええ、待ってて頂戴。必ず行って見せるんだから!」
手続きや修理にはどれくらいかかるだろうか。けれど、その頃には暗号の解読も終わっているに違いない。
依頼結果
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作戦卓 ラジェンドラ(ka6353) 人間(リアルブルー)|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/04/03 06:40:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/03/31 10:34:10 |