ゲスト
(ka0000)
【AP】横浜中華街食い倒れ紀行
マスター:みみずく

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/05 12:00
- 完成日
- 2017/04/13 20:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
突然だが、あなたが今いるのは横浜中華街、食い倒れの街である。大通りを歩けば甘栗売りが試食を呼び掛け、立ち寄ったが最後、買うまでセールストークが繰り出される。店々からちらりと見える、魅惑の開運グッズ、手相占いの看板、小籠包など飲茶のいい匂い、中華料理の誘い。
あなたの目的はただ一つ、この街に受け継がれる中華三千年の味を堪能すること!
さぁ、胃袋の用意はいいか!
辿り着いたのは小さな中華料理店である。小汚い外観だが、知る人ぞ知る、中華の名店である。あなたは卓につき、メニューに目を通す。生憎店内は込み合っており、相席だというが致し方ない。
不愛想なウェイトレスに注文内容を伝え、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけだ。
しかし、その時無情にも敵が攻め込んできた!
人の思考を狂わせる、狂気歪虚の襲来である。
奴らは横浜中華街が誇る愛すべきゆるキャラ、ぶったマンに憑りつき、肉切り包丁を手に襲い掛かってきた!ぶったマンは一体だが、厨房のありとあらゆるものを投げてくる。
戦わなければ食べられない!
あなたは舌打ちし、武器を手に戦いに赴く。
店を守って完食せよ!
但し、運よく勝利しても、戦闘後の回転テーブルの上には狂気丼が鎮座しており、卓を回すと5回に一回巡ってくる。食べると何かしらのはっちゃけた行動に出るから注意が必要だ。
諸君の健闘を祈る!
あなたの目的はただ一つ、この街に受け継がれる中華三千年の味を堪能すること!
さぁ、胃袋の用意はいいか!
辿り着いたのは小さな中華料理店である。小汚い外観だが、知る人ぞ知る、中華の名店である。あなたは卓につき、メニューに目を通す。生憎店内は込み合っており、相席だというが致し方ない。
不愛想なウェイトレスに注文内容を伝え、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけだ。
しかし、その時無情にも敵が攻め込んできた!
人の思考を狂わせる、狂気歪虚の襲来である。
奴らは横浜中華街が誇る愛すべきゆるキャラ、ぶったマンに憑りつき、肉切り包丁を手に襲い掛かってきた!ぶったマンは一体だが、厨房のありとあらゆるものを投げてくる。
戦わなければ食べられない!
あなたは舌打ちし、武器を手に戦いに赴く。
店を守って完食せよ!
但し、運よく勝利しても、戦闘後の回転テーブルの上には狂気丼が鎮座しており、卓を回すと5回に一回巡ってくる。食べると何かしらのはっちゃけた行動に出るから注意が必要だ。
諸君の健闘を祈る!
リプレイ本文
店は、時折混じる中国語の応酬で、そこそこ騒がしい。ウェイトレスが、水の入ったコップを置き、
「メニュー、コちらネ。ご注文、決まっタラ、お知らせクダさい」
回転式の卓は6人掛けで、相席であった。
まず通されたのはソニア(ka0350)である。奥からは、既にソースの焦げるいい匂いが漂ってくる。鼻をひくつかせながら、メニューとしばし睨めっこする。
「杏仁豆腐に胡麻団子に月餅……中華スイーツって素敵よね……」
女子としては、まず何よりスイーツが気になるところである。
覚醒すると、何故か際限なく太り続けるという特徴を持つ彼女。覚醒で太ったものはすぐに元に戻るが、スイーツを食べて太った分は要ダイエット、注意が必要だ。
騒がしい店内に、天真爛漫な声が響く。
レム・フィバート(ka6552)である。
「ヨコハマ! なかなかに興味深い場所ですな! ね、アーくん」
きょろきょろと店中を眺めながら、幼馴染のアーク・フォーサイス(ka6568)を覗き込んでニッと笑う。
「レム、落ち着いて、まずはメニューを見よう。ほら」
アークが椅子を引いてレムを誘う。
「おう! さんきゅーなのだ!」
レムがちょこんと引かれた椅子に座り、勢い込んでメニューを開く。
「ナニナニ……ニラレバ炒め、エビチリソース、むむ……フカヒレスープとは?」
いついかなる時も元気いっぱいのレムは常に消費カロリー過多である。ここはスタミナをつけるべく、お肉に向かってまっこーしょーぶを挑むべきか。
しかし、花も恥じらう17歳、お肌がぷりぷりに、と書かれたふかひれスープも気になるところである。
「アーくんは? 何にする?」
隣に座ったアークを巻き込んで、メニューの選定が始まる。
「エビチリって辛いのかな」
「んー?」
同じメニューをシェアして顔を寄せる二人は、似合いのカップルである。
仲良さそうだなぁと水を煽るソニアの隣に座ったのはノワ(ka3572)であった。
「ここ、いいですか?」
ソニアと目が合うと、笑顔を見せて軽く頭を下げた。
頭にかぶった犬の被り物の垂れ耳が、動くたびにはたはたと揺れる。小柄な体を中華テーブルに収めると、興味深そうに、置かれたメニューに視線を落とした。
「あなた、クリムゾンウェストの人?」
ソニアが尋ねると、
「ええ! はじめましてこんにちは、ノワです!」
垂れ耳を揺らして、ソニアに向き合った。
「はじめまして、私はソニアよ」
長身のソニアと、小柄なノワ、対照的な二人であった。
ノワは広げたメニューを興味深そうに眺めて、
「中華街! 一度こういう所で思いっきり食べてみたかったんです」
ど・れ・に・し・よ・う・か・なーと、口の中で呟きながら、注文を吟味している。
「たくさんメニューがあって迷ってしまうわよね。どうしよう」
ソニアは体重と食欲の狭間で未だに揺れている。
「あっ、そういえばリアルブルーから来たお友達が食べやすくてオススメと言っていた豚饅頭にしましょう。まるくて可愛いし!」
ノワは早くも注文を決めて、ぱたんとメニューを畳んだ。良く通る声で、
「すみませーん、豚饅頭10個お願いしまーす!」
豚饅頭10個、可憐な少女が一人で食するには多すぎやしないか。
どよめく周囲の空気などものともせず、ノワは注文を完了してご満悦である。
その時、勢いよく店の扉が開いた。
「あれ、ここどこだ?」
現れたのは岩井崎 旭(ka0234)である。傍らには、全身を魔獣装甲「タイラント」で覆ったシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。
「なにやらオリエンタルな趣が漂う街ですね」
魔物の口のようなバイザーから、思いがけず甘い声が聞こえてくる。やや舌足らずな、少女の声である。
「そうか! ここは、中華街! うぉぉおお! ラッキー!」
旭は悲しいほどの方向音痴である。今日も今日とて道に迷い、帰れない。そして、シルヴィアは志を同じくする迷子メイトである。
「中華なんてクリムゾンウェストじゃなかなかお目にかかれないぜ! こいつは堪能するしかねェ!」
席に座るなり、メニューと首引きになる。
「さてさて、中華料理というものはあまり食べたことがないので楽しみですね。唐辛子の本場ですし、早速……」
鎧の右手が徐に挙げられる。周囲が固唾をのんで見守る。可愛い声の全身鎧は、果たして何を食すのか。
そして告げられる衝撃の一言。
「カレー大盛で」
昭和の時代なら、ここで全員コケるか滑るところである。
しかし、時は平成、ドリフの文化はついぞ受け継がれなかった。
ウェイトレスの視線が冷たく刺さる。
シルヴィアはまたも右手を上げ、周囲からの無言のツッコみを制した。
冗談ですよ冗談……流石にカレーが中華料理で無いことなど知っています。
そして、
「麻婆豆腐、唐辛子大盛で」
キリッ(ドヤ顔)。
バイザーの下は金髪碧眼の小柄な少女、シルヴィアは、味覚ご逝去説が流れるほどの、超辛党であった。
「俺は、やっぱ野菜だろ……となると、野菜たっぷりのXO醤炒め、揚げ茄子、大根モチもうまそうだなぁ。あと、季節の野菜炒めと、ニラ餃子、小籠包は外せないよな。うん、とりあえずそれで」
注文を終えても、ほくほくとメニューを覗き込んでいる。
長の旅路で腹が減っている。家路、この世で最も長い道のりである。
「あれ、ひょっとしてこのテーブル、全員ハンターさんですか」
ノワが気付いて顔を上げる。
レムとアークも顔を上げ、丸テーブル越しに全員を見渡した。
「ほんとだ」
確かに、大げさな装備に明らか浮いた服装、クリムゾンウェストの住人であり、ハンターだ。
「豚まん、おまちどう」
そこへ皿にてんこ盛りになった豚まんが運ばれてきた。湯気が立っている。
おいしそう。全員の目が釘付けなる。
「いっただき……っとと、食べる前には胃に優しいお薬を!
ノワの瞳が怪しく光った。白衣のポケットから謎の小瓶を取り出す。
「これはノワ特製のお薬なんですよ。大人は一回2錠、子供は1錠です。ちなみに試作の段階では一回200錠程飲まないと効果が得られないという残念な感じでした。あっ、もちろん今は大丈夫ですよ? 良かったら皆さんもどうぞ!」
マッドサイエンティスト一歩手前の鉱物学者、実験の機会は決して見逃さない。
全員激しく頭を振って固辞した。
「いいお薬なのになぁ……いっただきまーす」
ノワが豚まんに齧り付こうとしたその時である。
「ぶったマンがぁぁぁぁ!悪の心に支配されたぞぉぉぉぉ!」
店の外が俄かに騒がしい。
「なんだ?」
旭が席を立って戸口を見やる。すると、重いガラス戸を蹴破って、頭は豚顔の肉まん、ひょろっと長く伸びた顔から下が不気味なゆるキャラ、ぶったマンが現れた!
狂気歪虚に憑りつかれ、全身から負のオーラを放っている。
「ぶったー」
縦長のつぶらな瞳が妖しく光る。ぶったマンは、ハンターたちの卓に堆く積まれた豚饅頭に目を止め、猛然と襲い掛かってきた。
入口のテーブルに置かれた箸がダーツの矢のように投げられ、立ち上がった旭の顔面に向かってくる。それを自らの箸で叩き落して、旭が一喝。
「っておーい! 飯食おうってとこにヴォイド出てくるとか卑怯だろ!? 熱々の内に食ってなんぼじゃねーか!」
ぶったマンは攻撃の成否にかかわらず、厨房めがけて突進していく。その先には、できたばかりの小籠包。
「あ~! 俺の小籠包!」
蒸籠を持ったウェイトレスが危ない!
その時、ぶったマンの前に大振りの太刀、「鬼神大王」を携えたアークが立ち塞がった。
「腹が減っては戦は出来ぬ、とは言うけれど…空腹でも歪虚は倒す。必ずだ」
決め台詞の合間にも、容赦なく腹の音は鳴り続ける。彼は空腹であった。
「ぶったー」
向かってくるぶったマンを鞘ごと太刀で払う。狭い店内である。抜刀することも躊躇われた。
「レム!」
「あいさー」
レムが前に出る。しかし、押し出されてくる人の波でうまく身動きが取れない。
混乱する入り口付近、阿鼻叫喚の中で、
「あ~レ~」
ウェイトレスの悲鳴が響く。
「危ない!」
蒸篭を抱えて倒れこむウェイトレスを、旭が受け止める。衝撃で、蒸篭の蓋が開き、中から小籠包が飛び出した。思わず口を開けて受け止める。間一髪セーフ!
しかし、歯が皮を噛んだ瞬間、
「あっぢー!」
アツアツの汁により、旭の舌は計り知れないダメージを負った。
「お腹もペコペコですし、さくっと皆で協力して倒してしまいましょう」
ノワは機械槍「タービュレンス」を携えているが、2メートルを超す長槍は、室内での戦闘には不向きである。
とにかく外に出す。作戦は決まった。
「まず動きを封じます」
シルヴィアは、レイターコールドショットで取り分け用のフォークにマテリアルを込め、ぶったマンの後頭部に向かって鋭く投擲する。肉まん状の頭に、深々と刺さった。
動きが止まる、かと思いきや、厨房への突進は止まらない。
「頭は着ぐるみですか。では」
別のテーブルのフォークをとる。マテリアルを込めつつ、どさくさに紛れて食べかけの料理をつまんだ。麻辣味の麺である。
「これもなかなかいけますね……でも辛さが足りません」
卓上の唐辛子をドバっとかけた。フォークで一巻き、口に入れると、
「うん、いいでしょう」
言うなり投げつけた箸が、ぶったマンの尻を貫通。
「ぶったー!」
悶絶するぶったマン、忽ち冷気で動きが鈍くなる。
覚醒したレムが、無言で震撃を放ち、室外に吹き飛ばす。
入り口付近にいた旭がミミズクの姿になって店外に出る。彼は覚醒すると、上半身を羽毛に覆われ、背に大きな翼の幻影を背負う。
「こうなりゃ、近くの梯子でも何でも……ん? お、おい、その視線は何だ!」
街に放たれた狂気歪虚の汚染を受け、イカれた人々が、旭をじりじりと取り囲む。
「そのいっぱいに溜めたお湯は何だ! その手に持ったゴミ袋、毟った羽を入れる用だろ!? 俺、美味しくないから!食肉じゃないから!!」
じわり、と、一人が進み出る。
「煮込んだら……出汁が出る」
「出汁? いい出汁も出ないから!!」
旭が期せずして囮になる中、シルヴィアの問答無用の制圧が始まる。
いつの間に持ってきたのやら、厨房で手に入れた大量の唐辛子粉を自らの全身に振りかける。
「みんな、幸せになりましょう」
そのまま、目をやられて涙を流す人々の中に突進していく。壮絶なる唐辛子テロであった。
「流石本場の唐辛子は一味違いますね。深みがあります。深みが」
指についた唐辛子粉をうっとりとしゃぶりながら、恍惚の表情を浮かべて呟くのだった。
一方逃げたぶったマンには、ソニアの機導砲が放たれる。僅かに逸れたが、避けたところを、ノワの槍が突き刺した。
「ぶったー!」
ぶったマンが厨房から持ち去った出刃包丁を投げつける。
アークは剣心一如から居合の構えに入り、鞘で包丁を払い落すと、一気に抜き去ってわき腹から斜めに斬り上げた。
「ぶったー!」
こうして、狂気のゆるキャラは滅ぼされた。
戻ると何事もなかったかのように、店は営業している。
しかし、
「こんなもんなかったよな」
卓上にある、不気味な紫色の目玉焼きが鎮座する丼を指して、旭が問う。
「頼んだ料理が来た、とか」
アークは空腹が限界を迎えている。
「気になりますが、手を付けないほうがいいですね」
ノワはそう言いつつ、興味津々である。横から、ぬっと箸が伸びる。
「え、食べちゃったけど」
ソニアが目玉を咀嚼しながら、無邪気に皆を見た。
大丈夫なのか、という視線が集中する中、
「……あ、なんだか猛烈な飢餓感が……このお店のメニュー全部持ってきて!」
突如として爆発するソニアの食欲、あっけにとられる一同に見守られながら、
「美味しい! いくらでも食べられるわ!おかわり!」
体重の心配もどこへやら、ソニアの食欲は止まらない。
短時間のうちにどんどん太っているように見受けられる。
「ま、まぁ、こうなったら、せっかくの回転テーブルだし、みんなで仲良く食べようぜ!」
旭が勢いよく卓を回した。シルヴィアは自らが頼んだ麻婆豆腐を死守。抱え込むようにして口に運ぶ。しかし、次の瞬間、
「……微妙に冷めてます」
悲しい声を上げた。
「アーくん、それさ、食べない方が」
レムが気付いて声を掛けるがもう遅い。一度箸をつけたが最後、アークは憑りつかれたように狂気丼を完食した。
彼もソニアのように太り続けるのか、心配顔のレムの肩を、突如アークが抱き寄せる。
「コラ……そんなに見つめるな」
何キャラだ。
全員が戸惑う中、アークは魅惑の微笑を浮かべてレムを見つめる。
「んっと、なんか頼む?」
レムがメニューを差し出すと、その肩に顎を乗せて、一緒に覗き込む。
びくっとなるレムの反応を楽しむかのように、微笑んで、更に顔を寄せる。
「何がいいかな」
吐息が耳にかかる。
「ちょっと、くすぐったいよ、アーくん」
笑いながら身をよじるレムを逃さないとばかりに腕で抱えて、
「点心、エビチリ、それから、天津丼も頼もうかな」
「分かった、分かったから一回離してってば。耳、くすぐったいよ」
狂気丼のバッドステータス状態になったアークを、ノワは興味深げに見つめて、
「ほう、今度はラブラブになりましたよ」
これは、今後の研究に生かせるかもしれない。ノワは狂気丼の盛られていた丼を名残惜しそうに箸でつついた。アークが完食しているので、もはやサンプルをとることは叶わない。
「ちっきしょー、あの狂気歪虚、蹴りの一発も入れとくんだったぜ。揚げもんが冷めた時の悲しさったらよ」
ぶつくさ言いながら、料理に箸をつける。すっかり冷めているが、食べ物は決して無駄にしない主義だ。
「お待たせイタしましたぁ。揚げナスでございまぁす!」
ウェイトレスがホカホカと湯気の立つ皿とともに現れた。
「揚げナス? いやったぁ! 揚げたてほやほやだ。うっまそう! いっただっきまーす!」
胸の前で手を合わせると、揚げナスに突撃する。
「んん~!う、動けないわ!? でもまだお腹が空いて……誰か食べさせて~……」
ソニアはまだまだ食べ続け、そして膨らみ続ける。
「ソニアさん、あとで採血させてもらってもいいですか。大変興味深い……」
ノワの人体実験熱も冷めやらない。
幼馴染みコンビは、
「アーくん、何食べてるの?」
「エビチリ。レムも食べる?」
こくこくと頷くレムの唇に、海老を掴んだ箸を近づける。
「あっつー!」
「そう? レムは何食べてるの? ん……頂戴?」
今度はアークが口を開ける。大変仲睦まじい様子である。
宴は、ソニアが建物をミシミシいわせるまで続いた。
目的は無事果たせた。満腹である。
と、いうところで、朝の光が目覚めの時を告げた。
Good Morning!
いい夢、見れましたか?
「メニュー、コちらネ。ご注文、決まっタラ、お知らせクダさい」
回転式の卓は6人掛けで、相席であった。
まず通されたのはソニア(ka0350)である。奥からは、既にソースの焦げるいい匂いが漂ってくる。鼻をひくつかせながら、メニューとしばし睨めっこする。
「杏仁豆腐に胡麻団子に月餅……中華スイーツって素敵よね……」
女子としては、まず何よりスイーツが気になるところである。
覚醒すると、何故か際限なく太り続けるという特徴を持つ彼女。覚醒で太ったものはすぐに元に戻るが、スイーツを食べて太った分は要ダイエット、注意が必要だ。
騒がしい店内に、天真爛漫な声が響く。
レム・フィバート(ka6552)である。
「ヨコハマ! なかなかに興味深い場所ですな! ね、アーくん」
きょろきょろと店中を眺めながら、幼馴染のアーク・フォーサイス(ka6568)を覗き込んでニッと笑う。
「レム、落ち着いて、まずはメニューを見よう。ほら」
アークが椅子を引いてレムを誘う。
「おう! さんきゅーなのだ!」
レムがちょこんと引かれた椅子に座り、勢い込んでメニューを開く。
「ナニナニ……ニラレバ炒め、エビチリソース、むむ……フカヒレスープとは?」
いついかなる時も元気いっぱいのレムは常に消費カロリー過多である。ここはスタミナをつけるべく、お肉に向かってまっこーしょーぶを挑むべきか。
しかし、花も恥じらう17歳、お肌がぷりぷりに、と書かれたふかひれスープも気になるところである。
「アーくんは? 何にする?」
隣に座ったアークを巻き込んで、メニューの選定が始まる。
「エビチリって辛いのかな」
「んー?」
同じメニューをシェアして顔を寄せる二人は、似合いのカップルである。
仲良さそうだなぁと水を煽るソニアの隣に座ったのはノワ(ka3572)であった。
「ここ、いいですか?」
ソニアと目が合うと、笑顔を見せて軽く頭を下げた。
頭にかぶった犬の被り物の垂れ耳が、動くたびにはたはたと揺れる。小柄な体を中華テーブルに収めると、興味深そうに、置かれたメニューに視線を落とした。
「あなた、クリムゾンウェストの人?」
ソニアが尋ねると、
「ええ! はじめましてこんにちは、ノワです!」
垂れ耳を揺らして、ソニアに向き合った。
「はじめまして、私はソニアよ」
長身のソニアと、小柄なノワ、対照的な二人であった。
ノワは広げたメニューを興味深そうに眺めて、
「中華街! 一度こういう所で思いっきり食べてみたかったんです」
ど・れ・に・し・よ・う・か・なーと、口の中で呟きながら、注文を吟味している。
「たくさんメニューがあって迷ってしまうわよね。どうしよう」
ソニアは体重と食欲の狭間で未だに揺れている。
「あっ、そういえばリアルブルーから来たお友達が食べやすくてオススメと言っていた豚饅頭にしましょう。まるくて可愛いし!」
ノワは早くも注文を決めて、ぱたんとメニューを畳んだ。良く通る声で、
「すみませーん、豚饅頭10個お願いしまーす!」
豚饅頭10個、可憐な少女が一人で食するには多すぎやしないか。
どよめく周囲の空気などものともせず、ノワは注文を完了してご満悦である。
その時、勢いよく店の扉が開いた。
「あれ、ここどこだ?」
現れたのは岩井崎 旭(ka0234)である。傍らには、全身を魔獣装甲「タイラント」で覆ったシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。
「なにやらオリエンタルな趣が漂う街ですね」
魔物の口のようなバイザーから、思いがけず甘い声が聞こえてくる。やや舌足らずな、少女の声である。
「そうか! ここは、中華街! うぉぉおお! ラッキー!」
旭は悲しいほどの方向音痴である。今日も今日とて道に迷い、帰れない。そして、シルヴィアは志を同じくする迷子メイトである。
「中華なんてクリムゾンウェストじゃなかなかお目にかかれないぜ! こいつは堪能するしかねェ!」
席に座るなり、メニューと首引きになる。
「さてさて、中華料理というものはあまり食べたことがないので楽しみですね。唐辛子の本場ですし、早速……」
鎧の右手が徐に挙げられる。周囲が固唾をのんで見守る。可愛い声の全身鎧は、果たして何を食すのか。
そして告げられる衝撃の一言。
「カレー大盛で」
昭和の時代なら、ここで全員コケるか滑るところである。
しかし、時は平成、ドリフの文化はついぞ受け継がれなかった。
ウェイトレスの視線が冷たく刺さる。
シルヴィアはまたも右手を上げ、周囲からの無言のツッコみを制した。
冗談ですよ冗談……流石にカレーが中華料理で無いことなど知っています。
そして、
「麻婆豆腐、唐辛子大盛で」
キリッ(ドヤ顔)。
バイザーの下は金髪碧眼の小柄な少女、シルヴィアは、味覚ご逝去説が流れるほどの、超辛党であった。
「俺は、やっぱ野菜だろ……となると、野菜たっぷりのXO醤炒め、揚げ茄子、大根モチもうまそうだなぁ。あと、季節の野菜炒めと、ニラ餃子、小籠包は外せないよな。うん、とりあえずそれで」
注文を終えても、ほくほくとメニューを覗き込んでいる。
長の旅路で腹が減っている。家路、この世で最も長い道のりである。
「あれ、ひょっとしてこのテーブル、全員ハンターさんですか」
ノワが気付いて顔を上げる。
レムとアークも顔を上げ、丸テーブル越しに全員を見渡した。
「ほんとだ」
確かに、大げさな装備に明らか浮いた服装、クリムゾンウェストの住人であり、ハンターだ。
「豚まん、おまちどう」
そこへ皿にてんこ盛りになった豚まんが運ばれてきた。湯気が立っている。
おいしそう。全員の目が釘付けなる。
「いっただき……っとと、食べる前には胃に優しいお薬を!
ノワの瞳が怪しく光った。白衣のポケットから謎の小瓶を取り出す。
「これはノワ特製のお薬なんですよ。大人は一回2錠、子供は1錠です。ちなみに試作の段階では一回200錠程飲まないと効果が得られないという残念な感じでした。あっ、もちろん今は大丈夫ですよ? 良かったら皆さんもどうぞ!」
マッドサイエンティスト一歩手前の鉱物学者、実験の機会は決して見逃さない。
全員激しく頭を振って固辞した。
「いいお薬なのになぁ……いっただきまーす」
ノワが豚まんに齧り付こうとしたその時である。
「ぶったマンがぁぁぁぁ!悪の心に支配されたぞぉぉぉぉ!」
店の外が俄かに騒がしい。
「なんだ?」
旭が席を立って戸口を見やる。すると、重いガラス戸を蹴破って、頭は豚顔の肉まん、ひょろっと長く伸びた顔から下が不気味なゆるキャラ、ぶったマンが現れた!
狂気歪虚に憑りつかれ、全身から負のオーラを放っている。
「ぶったー」
縦長のつぶらな瞳が妖しく光る。ぶったマンは、ハンターたちの卓に堆く積まれた豚饅頭に目を止め、猛然と襲い掛かってきた。
入口のテーブルに置かれた箸がダーツの矢のように投げられ、立ち上がった旭の顔面に向かってくる。それを自らの箸で叩き落して、旭が一喝。
「っておーい! 飯食おうってとこにヴォイド出てくるとか卑怯だろ!? 熱々の内に食ってなんぼじゃねーか!」
ぶったマンは攻撃の成否にかかわらず、厨房めがけて突進していく。その先には、できたばかりの小籠包。
「あ~! 俺の小籠包!」
蒸籠を持ったウェイトレスが危ない!
その時、ぶったマンの前に大振りの太刀、「鬼神大王」を携えたアークが立ち塞がった。
「腹が減っては戦は出来ぬ、とは言うけれど…空腹でも歪虚は倒す。必ずだ」
決め台詞の合間にも、容赦なく腹の音は鳴り続ける。彼は空腹であった。
「ぶったー」
向かってくるぶったマンを鞘ごと太刀で払う。狭い店内である。抜刀することも躊躇われた。
「レム!」
「あいさー」
レムが前に出る。しかし、押し出されてくる人の波でうまく身動きが取れない。
混乱する入り口付近、阿鼻叫喚の中で、
「あ~レ~」
ウェイトレスの悲鳴が響く。
「危ない!」
蒸篭を抱えて倒れこむウェイトレスを、旭が受け止める。衝撃で、蒸篭の蓋が開き、中から小籠包が飛び出した。思わず口を開けて受け止める。間一髪セーフ!
しかし、歯が皮を噛んだ瞬間、
「あっぢー!」
アツアツの汁により、旭の舌は計り知れないダメージを負った。
「お腹もペコペコですし、さくっと皆で協力して倒してしまいましょう」
ノワは機械槍「タービュレンス」を携えているが、2メートルを超す長槍は、室内での戦闘には不向きである。
とにかく外に出す。作戦は決まった。
「まず動きを封じます」
シルヴィアは、レイターコールドショットで取り分け用のフォークにマテリアルを込め、ぶったマンの後頭部に向かって鋭く投擲する。肉まん状の頭に、深々と刺さった。
動きが止まる、かと思いきや、厨房への突進は止まらない。
「頭は着ぐるみですか。では」
別のテーブルのフォークをとる。マテリアルを込めつつ、どさくさに紛れて食べかけの料理をつまんだ。麻辣味の麺である。
「これもなかなかいけますね……でも辛さが足りません」
卓上の唐辛子をドバっとかけた。フォークで一巻き、口に入れると、
「うん、いいでしょう」
言うなり投げつけた箸が、ぶったマンの尻を貫通。
「ぶったー!」
悶絶するぶったマン、忽ち冷気で動きが鈍くなる。
覚醒したレムが、無言で震撃を放ち、室外に吹き飛ばす。
入り口付近にいた旭がミミズクの姿になって店外に出る。彼は覚醒すると、上半身を羽毛に覆われ、背に大きな翼の幻影を背負う。
「こうなりゃ、近くの梯子でも何でも……ん? お、おい、その視線は何だ!」
街に放たれた狂気歪虚の汚染を受け、イカれた人々が、旭をじりじりと取り囲む。
「そのいっぱいに溜めたお湯は何だ! その手に持ったゴミ袋、毟った羽を入れる用だろ!? 俺、美味しくないから!食肉じゃないから!!」
じわり、と、一人が進み出る。
「煮込んだら……出汁が出る」
「出汁? いい出汁も出ないから!!」
旭が期せずして囮になる中、シルヴィアの問答無用の制圧が始まる。
いつの間に持ってきたのやら、厨房で手に入れた大量の唐辛子粉を自らの全身に振りかける。
「みんな、幸せになりましょう」
そのまま、目をやられて涙を流す人々の中に突進していく。壮絶なる唐辛子テロであった。
「流石本場の唐辛子は一味違いますね。深みがあります。深みが」
指についた唐辛子粉をうっとりとしゃぶりながら、恍惚の表情を浮かべて呟くのだった。
一方逃げたぶったマンには、ソニアの機導砲が放たれる。僅かに逸れたが、避けたところを、ノワの槍が突き刺した。
「ぶったー!」
ぶったマンが厨房から持ち去った出刃包丁を投げつける。
アークは剣心一如から居合の構えに入り、鞘で包丁を払い落すと、一気に抜き去ってわき腹から斜めに斬り上げた。
「ぶったー!」
こうして、狂気のゆるキャラは滅ぼされた。
戻ると何事もなかったかのように、店は営業している。
しかし、
「こんなもんなかったよな」
卓上にある、不気味な紫色の目玉焼きが鎮座する丼を指して、旭が問う。
「頼んだ料理が来た、とか」
アークは空腹が限界を迎えている。
「気になりますが、手を付けないほうがいいですね」
ノワはそう言いつつ、興味津々である。横から、ぬっと箸が伸びる。
「え、食べちゃったけど」
ソニアが目玉を咀嚼しながら、無邪気に皆を見た。
大丈夫なのか、という視線が集中する中、
「……あ、なんだか猛烈な飢餓感が……このお店のメニュー全部持ってきて!」
突如として爆発するソニアの食欲、あっけにとられる一同に見守られながら、
「美味しい! いくらでも食べられるわ!おかわり!」
体重の心配もどこへやら、ソニアの食欲は止まらない。
短時間のうちにどんどん太っているように見受けられる。
「ま、まぁ、こうなったら、せっかくの回転テーブルだし、みんなで仲良く食べようぜ!」
旭が勢いよく卓を回した。シルヴィアは自らが頼んだ麻婆豆腐を死守。抱え込むようにして口に運ぶ。しかし、次の瞬間、
「……微妙に冷めてます」
悲しい声を上げた。
「アーくん、それさ、食べない方が」
レムが気付いて声を掛けるがもう遅い。一度箸をつけたが最後、アークは憑りつかれたように狂気丼を完食した。
彼もソニアのように太り続けるのか、心配顔のレムの肩を、突如アークが抱き寄せる。
「コラ……そんなに見つめるな」
何キャラだ。
全員が戸惑う中、アークは魅惑の微笑を浮かべてレムを見つめる。
「んっと、なんか頼む?」
レムがメニューを差し出すと、その肩に顎を乗せて、一緒に覗き込む。
びくっとなるレムの反応を楽しむかのように、微笑んで、更に顔を寄せる。
「何がいいかな」
吐息が耳にかかる。
「ちょっと、くすぐったいよ、アーくん」
笑いながら身をよじるレムを逃さないとばかりに腕で抱えて、
「点心、エビチリ、それから、天津丼も頼もうかな」
「分かった、分かったから一回離してってば。耳、くすぐったいよ」
狂気丼のバッドステータス状態になったアークを、ノワは興味深げに見つめて、
「ほう、今度はラブラブになりましたよ」
これは、今後の研究に生かせるかもしれない。ノワは狂気丼の盛られていた丼を名残惜しそうに箸でつついた。アークが完食しているので、もはやサンプルをとることは叶わない。
「ちっきしょー、あの狂気歪虚、蹴りの一発も入れとくんだったぜ。揚げもんが冷めた時の悲しさったらよ」
ぶつくさ言いながら、料理に箸をつける。すっかり冷めているが、食べ物は決して無駄にしない主義だ。
「お待たせイタしましたぁ。揚げナスでございまぁす!」
ウェイトレスがホカホカと湯気の立つ皿とともに現れた。
「揚げナス? いやったぁ! 揚げたてほやほやだ。うっまそう! いっただっきまーす!」
胸の前で手を合わせると、揚げナスに突撃する。
「んん~!う、動けないわ!? でもまだお腹が空いて……誰か食べさせて~……」
ソニアはまだまだ食べ続け、そして膨らみ続ける。
「ソニアさん、あとで採血させてもらってもいいですか。大変興味深い……」
ノワの人体実験熱も冷めやらない。
幼馴染みコンビは、
「アーくん、何食べてるの?」
「エビチリ。レムも食べる?」
こくこくと頷くレムの唇に、海老を掴んだ箸を近づける。
「あっつー!」
「そう? レムは何食べてるの? ん……頂戴?」
今度はアークが口を開ける。大変仲睦まじい様子である。
宴は、ソニアが建物をミシミシいわせるまで続いた。
目的は無事果たせた。満腹である。
と、いうところで、朝の光が目覚めの時を告げた。
Good Morning!
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/02 11:54:18 |