ゲスト
(ka0000)
【陶曲】捻子の反乱、弐の陣
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/03 22:00
- 完成日
- 2017/04/11 20:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
先日取り逃がした歪虚の目撃情報を追って案内人……ハンターの案内人を自称する若い受付嬢は、フマーレ工業区の片隅、小さな工場の集まった一角を訪れていた。
被害を受けた紡績工場、阪井紡績リミテッドだが、歪虚に取り込まれて持ち去られた捻子や釘の他はハンター達の配慮により被害は少なく、硝子窓が1枚割れた程度に留まっている。
操られていた金属部品も、その半分以上が回収された。
壊れた機械も、柱を始め木製の部品は全て揃っており、庭へ運び出したそれを、材料が揃い次第組み立て直そうとしているところだ。
案内人が顔を出すと、あの日は窶れていた社長兼工場長の阪井はにこやかに手を振った。
壮年の彼に力仕事は堪えたのだろう、腰をさすりながら笑っている。
「先日振りです。阪井さんも、エンリコさんも、ご無事で何よりです」
「ああ、何とか。今日は窓が届く予定だが……何とか近い内に復旧させたいものだ。あれの所為でこの辺の部品作りは止まってしまっているからね」
早く解決するといい。そんな話をしていると、庭に近所の家具屋が顔を見せた。
「――オフィスの人かい? いやぁ、うちも泥棒に入られちゃってさ。急ぎのもんだけでも仕上げようと思っていたのに、釘を根こそぎやられたよ……おっきな火事があったんだって? 大変だと思うけど……」
こっちも助けてくれないかな。
あんたの所もかと声を掛けたのは同じく近所で鍛造している釘の工場。
商品をごっぞりと。
話し込んでいると通り掛かった職人達が集まってくる。
盗まれた者には金属部品以外も含まれているらしい。
中には盗人と戦おうとして怪我をした者もいた。
「見てくれ、引っ掻かれたんだ。見目はそうでっかくはなかったが……」
「否待て、うちに来たのは太って大柄な奴だった」
木製の歯車を持っていかれた職人は頷いている。人間かと疑問に思う程大きな手で掠っていったと。
●
恐らく、何れもあの歪虚が原因だろう。
案内人は考え込む。
この数日でどの程度回復したのかは分からないが、人型を取れる程度以上と見て良さそうだ。
そして、持ち去られた歯車。木製のそれは操れていないだろう。ならば、何故。
首を捻って考え込む。
そこへ若い職人が駆け込んできた。
「逃げろ!」
巨躯の人影。
あの歪虚だと直観する。
釘の鋭利な切っ先を外側に向け、四肢を象った金属部品の塊。
この町で部品を手当たり次第に取り込み膨れたその身体は、操れないものを、或いは操るに力の至らないものを一歩歩く度に道に零しながら近付いている。
『工場に再侵入した捻子の歪虚を撃退して下さい』
駆け込んだ職人により依頼が届けられる。
多発する事件に混み合った中、何とか掲示されたそれ。
●
現場に残った案内人は物陰に隠れてその歪虚を観察する。
何も出来ないことを歯痒く思いながら、庭に置かれていた部品が掬われるのを見ていた。
確証はありませんが。そう前置きして案内人は集まったハンター達を見回す。
先日、あの歪虚は本体である黒い捻子の周囲を自ら操る金属部品で固めていた。
紡績機械に使われていた部品で人を模したように形作って。
その時は恐らく全ての部品を操っていた筈。
けれど今回は、幾らか、いいえ、殆どを操ってない。
中心と、外側のみ。
だからこそ、先日触れもしなかった木製の部品が混ざり込んでいるし、動く度に部品を零している。
操っている部品の量は不明だが、そう多くないようにも思えた。
それは。案内人は真っ直ぐに指す。
「あの辺りが黒っぽくなっているように見えるんです」
胸の中心、人ならば心臓のあるところ。
支配の及ばぬ物を使って身体を拡大しすぎたために透過しているのだろう。負のマテリアルの淀んだ色が滲んでいた。
先日取り逃がした歪虚の目撃情報を追って案内人……ハンターの案内人を自称する若い受付嬢は、フマーレ工業区の片隅、小さな工場の集まった一角を訪れていた。
被害を受けた紡績工場、阪井紡績リミテッドだが、歪虚に取り込まれて持ち去られた捻子や釘の他はハンター達の配慮により被害は少なく、硝子窓が1枚割れた程度に留まっている。
操られていた金属部品も、その半分以上が回収された。
壊れた機械も、柱を始め木製の部品は全て揃っており、庭へ運び出したそれを、材料が揃い次第組み立て直そうとしているところだ。
案内人が顔を出すと、あの日は窶れていた社長兼工場長の阪井はにこやかに手を振った。
壮年の彼に力仕事は堪えたのだろう、腰をさすりながら笑っている。
「先日振りです。阪井さんも、エンリコさんも、ご無事で何よりです」
「ああ、何とか。今日は窓が届く予定だが……何とか近い内に復旧させたいものだ。あれの所為でこの辺の部品作りは止まってしまっているからね」
早く解決するといい。そんな話をしていると、庭に近所の家具屋が顔を見せた。
「――オフィスの人かい? いやぁ、うちも泥棒に入られちゃってさ。急ぎのもんだけでも仕上げようと思っていたのに、釘を根こそぎやられたよ……おっきな火事があったんだって? 大変だと思うけど……」
こっちも助けてくれないかな。
あんたの所もかと声を掛けたのは同じく近所で鍛造している釘の工場。
商品をごっぞりと。
話し込んでいると通り掛かった職人達が集まってくる。
盗まれた者には金属部品以外も含まれているらしい。
中には盗人と戦おうとして怪我をした者もいた。
「見てくれ、引っ掻かれたんだ。見目はそうでっかくはなかったが……」
「否待て、うちに来たのは太って大柄な奴だった」
木製の歯車を持っていかれた職人は頷いている。人間かと疑問に思う程大きな手で掠っていったと。
●
恐らく、何れもあの歪虚が原因だろう。
案内人は考え込む。
この数日でどの程度回復したのかは分からないが、人型を取れる程度以上と見て良さそうだ。
そして、持ち去られた歯車。木製のそれは操れていないだろう。ならば、何故。
首を捻って考え込む。
そこへ若い職人が駆け込んできた。
「逃げろ!」
巨躯の人影。
あの歪虚だと直観する。
釘の鋭利な切っ先を外側に向け、四肢を象った金属部品の塊。
この町で部品を手当たり次第に取り込み膨れたその身体は、操れないものを、或いは操るに力の至らないものを一歩歩く度に道に零しながら近付いている。
『工場に再侵入した捻子の歪虚を撃退して下さい』
駆け込んだ職人により依頼が届けられる。
多発する事件に混み合った中、何とか掲示されたそれ。
●
現場に残った案内人は物陰に隠れてその歪虚を観察する。
何も出来ないことを歯痒く思いながら、庭に置かれていた部品が掬われるのを見ていた。
確証はありませんが。そう前置きして案内人は集まったハンター達を見回す。
先日、あの歪虚は本体である黒い捻子の周囲を自ら操る金属部品で固めていた。
紡績機械に使われていた部品で人を模したように形作って。
その時は恐らく全ての部品を操っていた筈。
けれど今回は、幾らか、いいえ、殆どを操ってない。
中心と、外側のみ。
だからこそ、先日触れもしなかった木製の部品が混ざり込んでいるし、動く度に部品を零している。
操っている部品の量は不明だが、そう多くないようにも思えた。
それは。案内人は真っ直ぐに指す。
「あの辺りが黒っぽくなっているように見えるんです」
胸の中心、人ならば心臓のあるところ。
支配の及ばぬ物を使って身体を拡大しすぎたために透過しているのだろう。負のマテリアルの淀んだ色が滲んでいた。
リプレイ本文
●
ハンター達が見上げたそれは腕をゆっくりと向けてくる。
部品のぶつかり合う音を立て、捻子に、釘に囲まれた中で跳ね回る発条や歯車、時にそれらを表へ、手の先から引っ込んで、腕から首へを舞い上がった鋭い釘の先端が頭から覗く。
見上げるほどの大きさのあるそれは不思議と重さを感じさせずに踏み出された足が地面に付くと、中を動いていた部品がぱらぱらと舞い落ちていき、そのいくつかは零れて転がった。
「ゆっくり工場を見学する暇もありませんねえ」
Gacrux(ka2726)の足元まで蓋のない缶が転がってくる。
捻子を捕まえるのに金属製の缶が使えるだろうと求めたところ、オフィスに待機していた依頼人の1人が、勝手に使えと声を荒げて憤り壁に拳を叩き付けた。
それを宥めながら別の男が、彼が営んでいた缶の工場の被害に遭ったからと説明し、残っているなら彼の言う通り好きにすると良いと代わりに答えた。
使って良いとのことでしたね。転がってきた缶を横目に歪虚を見れば、それを拾おうともせず、大きな腕で空気を薙いでいる。
その肩の辺りが歪み、ぱらりとまたいくつかの部品が散った。
地面に跳ねた発条が庭の隅まで転がっていく。
「やっぱり前回逃がしてしまったために大変な事になってしまったですね!」
カリン(ka5456)が敵の中心、黒い靄を睨む。
あの捻子を今度こそ成敗してやると、鮮やかな赤い得物を抱き締める。
マキナ・バベッジ(ka4302)も頷き得物を握る。今度こそ逃がさないと敵を睨んだ。
「まるで誰かが仕組んだ予定調和のように逃げられましたが……」
今日は逃がさない。
零れて飛んでくる歯車を捕まえ、手中に弄びながらアリア・セリウス(ka6424)は伏せる目を細く開いた。
この事件を繰り返さない。歌うような声は涼しく、澄ませた刃のように響く。
「風に、街に。悲鳴の流れないよう」
ハンター達に狙いを付けたのか、歪虚が足を踏み出す。軽く持ち上がる足から零れるのは用途の分からぬL字やコの字に作られた鋼板、或いは六角に磨かれた釘。高い音を立てて零すそれらを踏むように下ろされた足。
ジャック・エルギン(ka1522)は眉を寄せの鎖を鳴らした。
「きっちりカタを付けさせてもらうぜ」
ハンター達に混じり、彼等への期待に目を輝かせて頷いた案内人の背を。大きな掌がぱしんと叩いた。
呵呵と覇気に溢れる大声で笑った万歳丸(ka5665)が拳を掲げて前に出る。
傾いだ姿勢を立て直して顔を上げた案内人の目に、ハンター達の背が映る。
ご武運を。叫んだ声に応えるように大きな手が揺らされた。
●
小銃を構えてに後方に留まるカリンが照門を覗く。銃口に据えられた照星が黒い靄の中心に重なるように調整し、肩で支える銃床を傾ける。
足元に生えた小さな芽の幻影は狙いが定まる間に樹木へと育ち、それはやがてカリン自身を覆うほどの振り子時計の形を成し、針が静かに一巡りして消える。
敵に向けられた瞳は若葉の色に染まっていた。
「見えたものは都度皆さんにお伝えしますね!」
敵は弱っている。そこにつけ込まない手は無い。誤射には気を付けて、後ろから見付けた動きは、前へ出たハンター達にも伝えられるように視覚を研ぎ澄ませた。
その声に応えながら、ジャックは得物を操り前へ進む。
静かな歩は、けれど、決して敵から目を離さずに。
青い瞳は鉄の灼けた赤い色に、手許に揺らす鉄球を振り子のように一定の間隔に保ち、繋がれた鎖の先、手許の機械に指を掛けた。
それを操作するスイッチに据えると、風に揺らいだ毛先に瞳と同じ熱の色が僅かに灯った。
狙いはあの靄、その中にいる黒い捻子を晒させること。
そして。零れた部品を見下ろして思う。新たな部品の補充の妨害だ。
ガクルックスが長身の彼の背丈を優に超える長柄を軽々と操り歪虚へ近付く。
「近付けたくありませんねえ」
積まれた部品を一瞥し呟く。部品が補充されることは元より、整頓された辺りへの接近を阻もうと、その積まれた前に佇んで敵を眺めた。
覚醒に備え、身体の力を抜く。
双眸の目許に黒、青い模様が目の上に浮かび上がるように走って、その瞬間身体が軽くなる錯覚を得る。
黒い長柄の刃を敵へ、その大柄な身体を凪ぐように構えた。
交わされる言葉に頷くように、マキナの赤い瞳は敵の四肢を辿るように眺めた。
「まずは四肢を……」
魔機導機械を仕込む短剣を抜く。
皮を剥くように四肢を剥いで、核である捻子の露出を図る。
左手に浮かび上がる幻影が針を振るわせ時を刻む。
歯車仕掛けの時計の紡ぐ正確な時の気配を感じながら、接近の隙を推し量り足に力を込めた。
強くて、優しくて、すごい。当たり前だと口角を上げ、金の瞳が欄と輝いて敵を見上げた。
万歳丸の身体に重なるように表れて、沈み溶け込むようにその姿を無くす金の麒麟。その精霊を表すかのように仄かに金色の炎の幻影が揺らいでは消える。
対峙する敵は鬼としても大柄な万歳丸より、頭二つほど高く幅は倍以上に見える。
見れば、こちらに向く敵の手の先、釘の先端が外側を向く。
「小賢しい知恵を得たってか」
なぁ、ネジ公。答える声は無く腕は唯、無造作に振るわれた。
「正面は任せるわね」
アリアは片手に杖を携えて鯉口を切ると、腕を狙って敵の横へと回り込む。
狙い定めるように見据える双眸は龍を思わせるように縦に細く、マテリアルの光りを漂わせながら、白刃を翻し、馴染んだ得物を抜き放った。
「着てる鎧ごと、吹っ飛ばしてやるぜ!」
ハンターに囲まれた歪虚へ、ジャックが放つ鉄球がその身体を抉る様に向かっていく。
斬るよりも叩き潰す方が良いと判じ、靄を狙って飛ばされた鉄球に、歪虚の身体が曲がるように歪んだ。
鉄球を受け留めた部品が震え耳障りな音を立てる。
「逃げてンじゃねェぞコラァ……ッ!」
摺るように足が後退るのを赦さず、万歳丸のマテリアルを込めた拳が追撃を与える。
「ええ。……相手に密着して……新たに部品を掠め取られる前に」
マキナは衝撃にはじけ飛んだ部品を探そうとする腕まで距離を詰める。高く地面を蹴った逆手の刃で、腕を刈り飛ばさんと斬り上げた。
その刃に苦しむ様子も無く半端に繋がり残った部品を集めて接ぎ合わせるように再生を進める歪虚にガクルックスが溜息を吐いた。
「痛みを感じないんですかねえ」
薙いで突いてと多機能の刃にマテリアルを込め、繋がり掛けの腕を薙ぐと半身ごと切り払うように裂けていく。
「螺子に歌も風も、解する道理なしね」
アリアも燃える幻影を浮かべる宝玉をあしらう深紅の杖で高めた魔力を、神楽刀に伝わせてその力を高める。
その一太刀で再生を急いていた腕が、終に落ち、消して少なくない部品が散らばった。
「見失わないように……っ」
腕を捨てることを選び、割いていた力が集まったためか捻子の場所を示す靄の色が微かに薄れる。
それが更に薄れ、消える前に萌え息吹く若い葉の鮮やかな緑に染まった瞳が狙い、放つ。
弾丸は部品を散らし、その一瞬靄に覆われる捻子の位置を詳らかに晒した。
それを直ぐさま辺りの部品で隠し、歪虚は残った腕を振り回した。
1本になった腕を振り回しながら殴るようにハンターを薙ぐ。接近していたハンター達全員を、部品とその勢いを乗せる衝撃が襲った。
弾かれたマキナとガクルックスが土埃を払い、すぐに構え直す。
同じ軌道で向かってくる腕を、今度は躱しながら部品を散らし、得物を操って抑えきる。
再生と崩壊を繰り返す靄の近くへジャックが鉄球を放ち、その凹みを更に広げるようにガクルックスが薙ぐ。
拉げた身体を削がれた歪虚は奇妙な形にその身体を捻り自立を保つ。
カリンへ向かいそうな腕を万歳丸が抑え、伸ばされたそれをマキナとアリアが切り落とした。
2人掛かりで断たれた2本目の腕はすぐに再生することも無く、腕のない上体を揺らした。
散らかった部品がそこかしこで浮き上がっては転がってと繰り返しながらも回収がされず、身体を細らせながら身体を支えるための長い腕を作った歪虚を追い打ちのように弾丸が貫いた。
再生の滞った歪虚は軽くいなせる程度の大きさに縮んでいた。
「吹き飛ばしてやらァ……!」
気を込めて万歳丸が拳を向け、靄に向かって叩き込む。
金色の炎を纏った拳が纏う籠手に噛む釘が鳴り、その抗うような振動が手にまで伝った。
構わずに前へ突き通すように押し込むと、部品がからからと音を立てた。
「動かないで下さいね!」
その金の属音を割るように後方から声が掛かる。
拳を逃れるように蠢いた靄の中心をカリンの構えた銃口が狙う。
装飾を施した赤い銃身を、足が庭の砂地に沈む程の反動にもぶれずに支え、カリンは照星を雲谷の中心から外さない。
万歳丸の拳の脇、弾丸が靄を貫く。
「まだ足りないようね」
「予測の範囲内なのですがねえ」
靄は更に上方へ逃げた。
花を咲かせるような鮮やかさで胴を突くアリアの刀が、靄を首へ、頭へと追い詰めていく。
痛みを知らぬほどに人成らざるその歪虚が、持ちうる感覚や挙動。
上に横に、どこへ逃げても刈り取らんと構えるガクルックスが黒の刃が振り下ろされ、靄の一部を割いた。
「ここで逃がすと次は何するか分からねえ。カタを付けるぜ」
「確実に追い詰めましょう……」
ジャックが鉄球を向け、マキナは刃の魔導機械を動作させた。
漂うように逃れる捻子を赤い瞳で睨みながら、炎の力を宿す刃が黒い靄を更に刻んだ。
●
ガクルックスが足元に転がる缶を拾う。ハンター達によって削がれる歪虚は時折その本体である黒い捻子を覗かせるまで消耗を見せている。
あれを捉えればと缶の口を向けた。
同じく毛布を構えたジャックと目を交わし、
空の缶を捻子へと向けた。籠手にもぶつかる部品の衝撃が響く程に伝わる。
「往生際が悪いですね……!」
「ここでカタを付けさせて貰う!……そんなモン被ってちゃ、見失わねえよ」
缶ごと覆う毛布の中、金属の鳴る音が喚くように聞こえ円柱型のそれが持ち上がるように跳ねている。
人型を成していた部品は毛布の傍へ倒れるように崩れ掛かり、四肢の形を無くしていた。
鉄球が押し潰し、散らした部品が広く散らばり回収される様子も無く転がり、時折微風に揺れている。
毛布の片側を抑えもう片方を万歳丸へ。
手許のスイッチで鉄球を引き寄せ、毛布の上からと再度構えた。
捻子の鳴る音が止む。捉えていた缶の底が破られた。毛布に僅かだが裂け目が覗えた。
そこだ、と鉄球を振り上げた瞬間、手が震えた。
――……ドクン……。――
胸騒ぎがハンター達を襲う。
そして、息の止まるほどの重圧が、負のマテリアルの重く淀んだ気配を感じた。
その重さを振り切るように閃いた刃、響いた銃声。
気配の消えた瞬間に、放たれる炎。そして背後からの炎を構わずに投じられる鉄球。
「カリン式火炎噴射、いきますよーっ!」
毛布の手を緩めると逃げようと飛ぶ捻子に毛布が張る。その先端に照準を合わせた炎が放たれ、毛布を裂いて尚も逃げようとする捻子を鉄球が叩き落とした。
落ちた捻子に短剣を構えてマキナが近付くが、それを突き立てて砕く前に、捻子は砕けて砂に変わり、突風に巻き上げられたように消えて無くなった。
「危なかったな?」
「人のこと言えない口は、食べ物で塞ぎましょう?」
炎を抑え煤めいたように見える上着を払い、鎖を引き戻したジャックが笑う。
炎を躱したアリアは、その口へ手持ちの饅頭を押し付けながら短い溜息を吐く。
妙な気配は既に跡形も無く。
けれど、それは黒い捻子のみに依るとは到底思えない物だった。
もっと強い何かが近くに潜んでいるのかも知れない。
庭の周囲にはそれらしい影は見当たらないが、この界隈、フマーレどころか同盟中で歪虚が活発に動いているという報せもある。
油断は出来ないとハンター達は得物を握る手に力を込めた。
力を与える存在が存在したのかも知れない。
黒い捻子が、ここに散らばる部品を操ったように。
操れないはずの木の歯車さえ取り込んで、自身の一部として見せたように。
きゃあ、とハンター達の緊張感を破るように案内人の小さな悲鳴が上がった。
戦いの終わった気配に庭を覗こうとして転がってきた釘に躓いたらしい。
見れば、依頼人の職人達も戻ってきている。
それぞれに庭の外まで散らかった部品を拾っては、自分の工場の物かと首を捻っている。
庭の散らかりようも前回の比では無さそうだ。
まずはここの片付けかと、依頼人達が集まって庭の門を開いた。
「今回も片付けは協力させていただきますね」
マキナが声を掛け、種類毎にでも集めようかと話が進む。仕事はもう暫く続きそうだ。
ハンター達が見上げたそれは腕をゆっくりと向けてくる。
部品のぶつかり合う音を立て、捻子に、釘に囲まれた中で跳ね回る発条や歯車、時にそれらを表へ、手の先から引っ込んで、腕から首へを舞い上がった鋭い釘の先端が頭から覗く。
見上げるほどの大きさのあるそれは不思議と重さを感じさせずに踏み出された足が地面に付くと、中を動いていた部品がぱらぱらと舞い落ちていき、そのいくつかは零れて転がった。
「ゆっくり工場を見学する暇もありませんねえ」
Gacrux(ka2726)の足元まで蓋のない缶が転がってくる。
捻子を捕まえるのに金属製の缶が使えるだろうと求めたところ、オフィスに待機していた依頼人の1人が、勝手に使えと声を荒げて憤り壁に拳を叩き付けた。
それを宥めながら別の男が、彼が営んでいた缶の工場の被害に遭ったからと説明し、残っているなら彼の言う通り好きにすると良いと代わりに答えた。
使って良いとのことでしたね。転がってきた缶を横目に歪虚を見れば、それを拾おうともせず、大きな腕で空気を薙いでいる。
その肩の辺りが歪み、ぱらりとまたいくつかの部品が散った。
地面に跳ねた発条が庭の隅まで転がっていく。
「やっぱり前回逃がしてしまったために大変な事になってしまったですね!」
カリン(ka5456)が敵の中心、黒い靄を睨む。
あの捻子を今度こそ成敗してやると、鮮やかな赤い得物を抱き締める。
マキナ・バベッジ(ka4302)も頷き得物を握る。今度こそ逃がさないと敵を睨んだ。
「まるで誰かが仕組んだ予定調和のように逃げられましたが……」
今日は逃がさない。
零れて飛んでくる歯車を捕まえ、手中に弄びながらアリア・セリウス(ka6424)は伏せる目を細く開いた。
この事件を繰り返さない。歌うような声は涼しく、澄ませた刃のように響く。
「風に、街に。悲鳴の流れないよう」
ハンター達に狙いを付けたのか、歪虚が足を踏み出す。軽く持ち上がる足から零れるのは用途の分からぬL字やコの字に作られた鋼板、或いは六角に磨かれた釘。高い音を立てて零すそれらを踏むように下ろされた足。
ジャック・エルギン(ka1522)は眉を寄せの鎖を鳴らした。
「きっちりカタを付けさせてもらうぜ」
ハンター達に混じり、彼等への期待に目を輝かせて頷いた案内人の背を。大きな掌がぱしんと叩いた。
呵呵と覇気に溢れる大声で笑った万歳丸(ka5665)が拳を掲げて前に出る。
傾いだ姿勢を立て直して顔を上げた案内人の目に、ハンター達の背が映る。
ご武運を。叫んだ声に応えるように大きな手が揺らされた。
●
小銃を構えてに後方に留まるカリンが照門を覗く。銃口に据えられた照星が黒い靄の中心に重なるように調整し、肩で支える銃床を傾ける。
足元に生えた小さな芽の幻影は狙いが定まる間に樹木へと育ち、それはやがてカリン自身を覆うほどの振り子時計の形を成し、針が静かに一巡りして消える。
敵に向けられた瞳は若葉の色に染まっていた。
「見えたものは都度皆さんにお伝えしますね!」
敵は弱っている。そこにつけ込まない手は無い。誤射には気を付けて、後ろから見付けた動きは、前へ出たハンター達にも伝えられるように視覚を研ぎ澄ませた。
その声に応えながら、ジャックは得物を操り前へ進む。
静かな歩は、けれど、決して敵から目を離さずに。
青い瞳は鉄の灼けた赤い色に、手許に揺らす鉄球を振り子のように一定の間隔に保ち、繋がれた鎖の先、手許の機械に指を掛けた。
それを操作するスイッチに据えると、風に揺らいだ毛先に瞳と同じ熱の色が僅かに灯った。
狙いはあの靄、その中にいる黒い捻子を晒させること。
そして。零れた部品を見下ろして思う。新たな部品の補充の妨害だ。
ガクルックスが長身の彼の背丈を優に超える長柄を軽々と操り歪虚へ近付く。
「近付けたくありませんねえ」
積まれた部品を一瞥し呟く。部品が補充されることは元より、整頓された辺りへの接近を阻もうと、その積まれた前に佇んで敵を眺めた。
覚醒に備え、身体の力を抜く。
双眸の目許に黒、青い模様が目の上に浮かび上がるように走って、その瞬間身体が軽くなる錯覚を得る。
黒い長柄の刃を敵へ、その大柄な身体を凪ぐように構えた。
交わされる言葉に頷くように、マキナの赤い瞳は敵の四肢を辿るように眺めた。
「まずは四肢を……」
魔機導機械を仕込む短剣を抜く。
皮を剥くように四肢を剥いで、核である捻子の露出を図る。
左手に浮かび上がる幻影が針を振るわせ時を刻む。
歯車仕掛けの時計の紡ぐ正確な時の気配を感じながら、接近の隙を推し量り足に力を込めた。
強くて、優しくて、すごい。当たり前だと口角を上げ、金の瞳が欄と輝いて敵を見上げた。
万歳丸の身体に重なるように表れて、沈み溶け込むようにその姿を無くす金の麒麟。その精霊を表すかのように仄かに金色の炎の幻影が揺らいでは消える。
対峙する敵は鬼としても大柄な万歳丸より、頭二つほど高く幅は倍以上に見える。
見れば、こちらに向く敵の手の先、釘の先端が外側を向く。
「小賢しい知恵を得たってか」
なぁ、ネジ公。答える声は無く腕は唯、無造作に振るわれた。
「正面は任せるわね」
アリアは片手に杖を携えて鯉口を切ると、腕を狙って敵の横へと回り込む。
狙い定めるように見据える双眸は龍を思わせるように縦に細く、マテリアルの光りを漂わせながら、白刃を翻し、馴染んだ得物を抜き放った。
「着てる鎧ごと、吹っ飛ばしてやるぜ!」
ハンターに囲まれた歪虚へ、ジャックが放つ鉄球がその身体を抉る様に向かっていく。
斬るよりも叩き潰す方が良いと判じ、靄を狙って飛ばされた鉄球に、歪虚の身体が曲がるように歪んだ。
鉄球を受け留めた部品が震え耳障りな音を立てる。
「逃げてンじゃねェぞコラァ……ッ!」
摺るように足が後退るのを赦さず、万歳丸のマテリアルを込めた拳が追撃を与える。
「ええ。……相手に密着して……新たに部品を掠め取られる前に」
マキナは衝撃にはじけ飛んだ部品を探そうとする腕まで距離を詰める。高く地面を蹴った逆手の刃で、腕を刈り飛ばさんと斬り上げた。
その刃に苦しむ様子も無く半端に繋がり残った部品を集めて接ぎ合わせるように再生を進める歪虚にガクルックスが溜息を吐いた。
「痛みを感じないんですかねえ」
薙いで突いてと多機能の刃にマテリアルを込め、繋がり掛けの腕を薙ぐと半身ごと切り払うように裂けていく。
「螺子に歌も風も、解する道理なしね」
アリアも燃える幻影を浮かべる宝玉をあしらう深紅の杖で高めた魔力を、神楽刀に伝わせてその力を高める。
その一太刀で再生を急いていた腕が、終に落ち、消して少なくない部品が散らばった。
「見失わないように……っ」
腕を捨てることを選び、割いていた力が集まったためか捻子の場所を示す靄の色が微かに薄れる。
それが更に薄れ、消える前に萌え息吹く若い葉の鮮やかな緑に染まった瞳が狙い、放つ。
弾丸は部品を散らし、その一瞬靄に覆われる捻子の位置を詳らかに晒した。
それを直ぐさま辺りの部品で隠し、歪虚は残った腕を振り回した。
1本になった腕を振り回しながら殴るようにハンターを薙ぐ。接近していたハンター達全員を、部品とその勢いを乗せる衝撃が襲った。
弾かれたマキナとガクルックスが土埃を払い、すぐに構え直す。
同じ軌道で向かってくる腕を、今度は躱しながら部品を散らし、得物を操って抑えきる。
再生と崩壊を繰り返す靄の近くへジャックが鉄球を放ち、その凹みを更に広げるようにガクルックスが薙ぐ。
拉げた身体を削がれた歪虚は奇妙な形にその身体を捻り自立を保つ。
カリンへ向かいそうな腕を万歳丸が抑え、伸ばされたそれをマキナとアリアが切り落とした。
2人掛かりで断たれた2本目の腕はすぐに再生することも無く、腕のない上体を揺らした。
散らかった部品がそこかしこで浮き上がっては転がってと繰り返しながらも回収がされず、身体を細らせながら身体を支えるための長い腕を作った歪虚を追い打ちのように弾丸が貫いた。
再生の滞った歪虚は軽くいなせる程度の大きさに縮んでいた。
「吹き飛ばしてやらァ……!」
気を込めて万歳丸が拳を向け、靄に向かって叩き込む。
金色の炎を纏った拳が纏う籠手に噛む釘が鳴り、その抗うような振動が手にまで伝った。
構わずに前へ突き通すように押し込むと、部品がからからと音を立てた。
「動かないで下さいね!」
その金の属音を割るように後方から声が掛かる。
拳を逃れるように蠢いた靄の中心をカリンの構えた銃口が狙う。
装飾を施した赤い銃身を、足が庭の砂地に沈む程の反動にもぶれずに支え、カリンは照星を雲谷の中心から外さない。
万歳丸の拳の脇、弾丸が靄を貫く。
「まだ足りないようね」
「予測の範囲内なのですがねえ」
靄は更に上方へ逃げた。
花を咲かせるような鮮やかさで胴を突くアリアの刀が、靄を首へ、頭へと追い詰めていく。
痛みを知らぬほどに人成らざるその歪虚が、持ちうる感覚や挙動。
上に横に、どこへ逃げても刈り取らんと構えるガクルックスが黒の刃が振り下ろされ、靄の一部を割いた。
「ここで逃がすと次は何するか分からねえ。カタを付けるぜ」
「確実に追い詰めましょう……」
ジャックが鉄球を向け、マキナは刃の魔導機械を動作させた。
漂うように逃れる捻子を赤い瞳で睨みながら、炎の力を宿す刃が黒い靄を更に刻んだ。
●
ガクルックスが足元に転がる缶を拾う。ハンター達によって削がれる歪虚は時折その本体である黒い捻子を覗かせるまで消耗を見せている。
あれを捉えればと缶の口を向けた。
同じく毛布を構えたジャックと目を交わし、
空の缶を捻子へと向けた。籠手にもぶつかる部品の衝撃が響く程に伝わる。
「往生際が悪いですね……!」
「ここでカタを付けさせて貰う!……そんなモン被ってちゃ、見失わねえよ」
缶ごと覆う毛布の中、金属の鳴る音が喚くように聞こえ円柱型のそれが持ち上がるように跳ねている。
人型を成していた部品は毛布の傍へ倒れるように崩れ掛かり、四肢の形を無くしていた。
鉄球が押し潰し、散らした部品が広く散らばり回収される様子も無く転がり、時折微風に揺れている。
毛布の片側を抑えもう片方を万歳丸へ。
手許のスイッチで鉄球を引き寄せ、毛布の上からと再度構えた。
捻子の鳴る音が止む。捉えていた缶の底が破られた。毛布に僅かだが裂け目が覗えた。
そこだ、と鉄球を振り上げた瞬間、手が震えた。
――……ドクン……。――
胸騒ぎがハンター達を襲う。
そして、息の止まるほどの重圧が、負のマテリアルの重く淀んだ気配を感じた。
その重さを振り切るように閃いた刃、響いた銃声。
気配の消えた瞬間に、放たれる炎。そして背後からの炎を構わずに投じられる鉄球。
「カリン式火炎噴射、いきますよーっ!」
毛布の手を緩めると逃げようと飛ぶ捻子に毛布が張る。その先端に照準を合わせた炎が放たれ、毛布を裂いて尚も逃げようとする捻子を鉄球が叩き落とした。
落ちた捻子に短剣を構えてマキナが近付くが、それを突き立てて砕く前に、捻子は砕けて砂に変わり、突風に巻き上げられたように消えて無くなった。
「危なかったな?」
「人のこと言えない口は、食べ物で塞ぎましょう?」
炎を抑え煤めいたように見える上着を払い、鎖を引き戻したジャックが笑う。
炎を躱したアリアは、その口へ手持ちの饅頭を押し付けながら短い溜息を吐く。
妙な気配は既に跡形も無く。
けれど、それは黒い捻子のみに依るとは到底思えない物だった。
もっと強い何かが近くに潜んでいるのかも知れない。
庭の周囲にはそれらしい影は見当たらないが、この界隈、フマーレどころか同盟中で歪虚が活発に動いているという報せもある。
油断は出来ないとハンター達は得物を握る手に力を込めた。
力を与える存在が存在したのかも知れない。
黒い捻子が、ここに散らばる部品を操ったように。
操れないはずの木の歯車さえ取り込んで、自身の一部として見せたように。
きゃあ、とハンター達の緊張感を破るように案内人の小さな悲鳴が上がった。
戦いの終わった気配に庭を覗こうとして転がってきた釘に躓いたらしい。
見れば、依頼人の職人達も戻ってきている。
それぞれに庭の外まで散らかった部品を拾っては、自分の工場の物かと首を捻っている。
庭の散らかりようも前回の比では無さそうだ。
まずはここの片付けかと、依頼人達が集まって庭の門を開いた。
「今回も片付けは協力させていただきますね」
マキナが声を掛け、種類毎にでも集めようかと話が進む。仕事はもう暫く続きそうだ。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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MVP一覧
- 時の守りと救い
マキナ・バベッジ(ka4302)
重体一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アリア・セリウス(ka6424) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/04/03 15:04:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/02 21:13:02 |