• 界冥

【界冥】奪還指令! 空港建物内制圧戦

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/12 15:00
完成日
2017/04/19 06:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 函館空港――津軽海峡を望む道南の空の玄関口。
 リアルブルーの日本出身者の中には、修学旅行などの楽しい思い出がある者もいるかもしれない。

 けれど今。
 敷地内で動くのは、旅客機ではなく狂気歪虚の群れ。
 巨大な眼球を頂く不気味なVOID砲が、我が物顔で辺りを睥睨している。
 ハンター達の尽力により松前要塞は陥落させたものの、道南は未だ歪虚どもの支配下にあり、函館空港も魔窟と化していた――


「……と言う事で、皆さんには函館空港奪還を担う二部隊の内、建物制圧部隊として動いていただきます」
 集まったハンター達を前に、オフィス職員・モリスが告げた。
 パネルを操作し、ディスプレイに函館空港の鳥瞰写真を表示する。横長に伸びる敷地内でまずハンター達の目についたのは、空港外縁部に屹立する異様な見目のVOID砲。天辺には超特大の目玉が鎮座していた。
 あれから放たれるレーザーの威力はどれほどのものか……誰ともなくごくりと喉を鳴らす。
 モリスが再びパネルを操作すると、空港の建物が徐々にクローズアップしていく。
「いえ、あの大目玉は別部隊の担当です。皆さんはこちらの建物を侵食する狂気歪虚の討伐をお願いします」
「『侵食』?」
 ハンター達は首を捻ったが、その言葉の意味は建物の姿が大きくなるにつれ明らかとなった。
 建物の壁はそこここに亀裂が入っており、隙間からアメーバのような紫色の物体が這い出し、外壁を蔦のように覆っている。そのぶよぶよした表皮には無数の目玉が嵌っていた。
 建物前面の硝子張りは、内側から一面紫に染まっている。つまり、この目玉だらけのアメーバがびっしり貼りついているのだ。建物内はさぞおぞましい光景が広がっているのだろう。
「うわぁ……」
 あまりの醜悪さに誰かが声を漏らす。
「建物を覆うアメーバ状の歪虚にはひとつのコアがあります。つまり、このアメーバは巨大なひとつの個体だという事です。現地調査によってコアの在処も判明しています」
「場所は?」
 尋ねられ、モリスはくいっと眼鏡を押し上げた。
「偵察用ドローンを使い、なんと接写に成功した写真があります。皆さん、現地の調査努力に目頭が熱くなる事間違いなしですよ……さあ、刮目してご覧ください!」


 どんっ、とスクリーンに現れたのは、建物に併設された背の高い管制塔。
 の。
 硝子張りの管制室の中、これまたどんっと鎮座した超巨大目玉だった。


 ハンター一同、そっと腰を上げる。
「大目玉は別部隊の担当だって言ったじゃん……」
「待って、待ってくださいっ! 確かに大目玉ですけれど! レーザーも撃ってくるでしょうけどもっ! ちゃんと勝算はありますから!」
 食い下がるモリスに、一同渋々腰を下ろす。
 モリス、咳ばらいをひとつ。
「この通り、建物全体は一体の巨大アメーバに侵食されており、建物内にも幾多の人型歪虚がいる事が分かっています。電気系統は故障しているため、管制室へは狭い階段を上がるしかありません。ただコアを叩きに行ったのではたちまち囲まれてしまうでしょう。そこで、」
 再びパネルに建物俯瞰図が現れる。
「皆さんには、管制塔の大目玉コアを破壊する班と、ロビーで陽動する班の二手に分かれていただきます」
「…………」

 モリスが提示した作戦はこうだ。
 まず、別部隊が屋外の敵を引きつけたのち建物へ移動。
 陽動班はアメーバで塞がれたエントランスを破壊し、吹き抜けのロビーに侵入。そこで大暴れしアメーバの注意を引きつつ、館内の敵をロビーに掻き集め討伐を行う。
 その間、コア破壊班は別の関係者用出入り口から密かに潜入。階段を駆け上がり管制室に陣取る大目玉コアを破壊するというものだ。

 ハンター達は次々に質問を投げかける。
「人型の歪虚の数は分かってるの?」
「軽く見積もって二百は下らないかと」
「向こうで戦える時間はどれ位だ?」
「別部隊の動きにもよりますが、一時間半が限度でしょう」
「本気?」
「本気です。……無茶は承知ですが」
 モリスは道南の地図を表示させた。函館空港の西には、現在クラスタが巣食っている五稜郭がある。
「空港奪還が叶えば、クラスタ攻略の際あちらさんによる航空支援が可能となるだけでなく、陸路でクラスタを目指す部隊とでクラスタを包囲する事ができます。これはクラスタ殲滅戦を有利に運ぶための大事な一戦なのです。厳しい戦いが予想されますが、やるだけの価値はあると思いませんか?」
 そこで一旦言葉を切り、モリスは部屋の隅に目を向けた。
「せめてもと思い、皆さんが攻撃に専念できるよう回復手をこちらで用意しました」
 そこには先程から大層しんなりした様子で黒髪の少年が座っていた。
 普段はもやしっ子だからと主張して戦闘を拒み、もっぱらオフィスの手伝いをしている駄ハンター・玲だ。コーディガンのポケットからプレミアムチョコレートが覗いている。どうやらこれで言いくるめられたらしい。
「ぐうたらな駄ハンターですが聖導士のスキルは大方習得しています。逃げ足は速いので護衛は不要。どうか皆さんは攻撃に注力していただければと思います」
 言って、モリスはディスプレイを消した。そして折り目正しく頭を下げる。
「それでは、どうかご武運を。皆さん揃っての帰還をお待ちしています」

リプレイ本文


 函館空港。

 敷地外縁には巨大な眼球を持つVOID砲が聳え、建物は紫色のアメーバ状歪虚に侵食されている。かつては旅行者などで賑わっていたはずだが、その面影を偲ぶ事はできない。
 外縁制圧部隊の開戦を機に、物陰を伝い建物正面へ走る人影が四つ。先頭のジャック・J・グリーヴ(ka1305)は嫌でも目につく歪虚の醜悪さに眉を顰めた。
 アメーバのいたる所で大小の目玉がぎょろめく。見咎められればレーザーが飛んでくるのだろうが、目玉どもは外縁の戦いに気を取られていた。その隙にエントランスへ忍び寄る。
 レム・フィバート(ka6552)は建物を仰ぐと、
「ほあー……なんだろーこの建物! おっきーい!」
 紅界出身だけあって空港が珍しいようだ。そして傍らで項垂れているサポーター・香藤 玲(kz0220)の顔を覗き込む。
「玲ちゃーん、元気出そ? レムさんぶっ飛ばす以外出来たことないけど、でもでもっ、その分バッチリ守ってあげるのだっ!」
 顔を上げた玲は前作戦でも一緒だったレム、そして八原 篝(ka3104)を見てにへっと笑う。
「二人ともまた来てくれてありがとね、心強いよ」
 篝は軍用双眼鏡を下ろすと、前回の玲の体たらくを思い出し苦笑い。
「今回はしっかり頼むわよ?」
「ん。僕だって死にたかないからね」
 そこへジャックも被せ気味に声をかける。
「俺様がいる以上てめぇに危害は加えさせねぇ。だから回復は任せたぜ? 漢ならビシッときめてくれや!」
 言って玲の細い背を景気よく叩いた。が、その逞しい筋肉に纏わる称号を幾多保持する彼である。もやしっ子の玲は一溜まりもなくすっ転んだ。
「だいじょーぶ?」
「おい大丈夫なんだろうな?」
 レムとジャック、同じ単語を別の意味で口にする。篝は軽く頭を振った。
 その時外縁に動きがあった。伏兵が急襲を仕掛けたのだ。いよいよ目玉どもは釘付けになる。それを見た篝、
「行きましょう」
 アサルトライフルの銃口を硝子張りのエントランスへ据えた。ジャックは金貨が嵌め込まれた豪奢な銃を、レムは聖拳を構え頷く。
 次の瞬間篝のライフルがたて続けに火を吹いた!
 発砲音と共に、砕け散る硝子の甲高い音や、硝子諸共落ちたアメーバの湿った音が響き渡る。この轟音は宣戦布告であると同時に、別行動の仲間への合図でもあった。
 硝子の崩落が済むとレム、
「とりあえず、固まって動いた方がいいよねーっ。とはいえ――一番乗りは頂きっ♪」
 言うなり元気よく突入した。三人もそれに続く。

 視界に飛び込んできたのは想像以上におぞましい光景だった。
 吹き抜けのロビーにぞろり居並ぶ人型歪虚ども。触手を束ねたような奇怪な姿を曝している。
 そして壁や天井にへばりつく、眼球だらけの粘膜めくアメーバ――さながらここは歪虚の胎内。内に孕むは狂気汚染された空気。並みの精神の持ち主なら見目のグロテスクさだけで発狂しそうだ。
「クソどもが雁首並べてうじゃうじゃと」
「腕がなりますなぁ♪」
「キモッ」
「あのねぇ」
 途端、目玉どもが一斉にレーザーを照射! 降り注ぐ光線を四人は寸でで回避。篝は柱の陰に身を寄せ、光線の来た先を辿り目玉の位置を把握した。そして未だ律儀に時を刻む壁時計をちらり。
「残り一時間二〇分――さ、始めましょうか。まず邪魔なあれを何とかしましょう」
 青い光を帯びた瞳が照門を見据えた。天井へ向けトリガーを引けば、重力に逆らい銃弾の雨が天を射す! 被弾した目玉は破裂し体液を撒き散らした。
「行くぜもやしっ子!」
「もやしじゃなーいっ」
 髪と鎧とに眩い金を纏うジャック、自身が光の弾丸であるかのように篝が確保した空間へ踏み込む。
「たかが目ン玉や人間様のマネしたクソ風情が、いつまでも人間様の建物に居座ってんじゃねぇぞゴラァ!」
 腹の底から獅子吼を轟かせ敵を引きつける。レムはたちまち殺到する敵から玲を庇うよう進み出た。
「イイ感じに団子になったー♪」
 篭手に法紋を浮かび上がらせ気合い一閃、青龍翔咬波を叩き込む! 弾け飛ぶ仲間を見て警戒したか、敵は包囲せんと動く。
 早くも場は大混戦の様相を呈した。



「始まったな」
 聞こえてきた轟音に、アーサー・ホーガン(ka0471)は空港の館内図から目を上げる。
 管制室のアメーバコア破壊を担当する三人は、建物裏手へ回り込んでいた。
 耳をそばだて陽動班の動きを探り、彼らが人型どもを引きつけただろう頃合いをはかる。そして、
「そろそろかしら……グリ、頼むわよ」
 ブラウ(ka4809)が合図すると、ユキウサギのグリューンは猫手を模した獣魔爪を振り上げた。その愛らしさに反し、施錠されていた鉄の扉を易々とぶち破る。
 彼らを出迎えたのは、薄暗く狭い通路に蔓延る無数の目玉。ブラウ、すんと鼻を鳴らした。
「……あれ潰したら、何色が出てくるのかしら? いい香りだといいけれど」
 扉の残骸を蹴破ったコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は、憎悪の篭った視線で敵を射抜く。
「公共施設を白昼堂々占拠しおって……よほど酷い目に遭いたいようだな? 望み通り踏みにじってやる!」
 ミラは取り回しを考え、ライフルではなく神罰銃を選択。幻影の稲妻を迸らせ、天井や少し先の目玉へ苛烈な連続射撃を見舞う! その勢い、正に神罰を下すが如し。手近な目玉は主を守るべく先行するグリが裂いていく。
「右に曲がれば階段があるはずだ」
 殿のアーサーの言葉に、グリは白い文様が描かれた耳を揺らし、角の向こうへ消えて行く。三人も追って角を曲がったが、グリはすぐそこで足を止めていた。見ればグリの小さな身体の向こう、階段をぞろぞろと人型どもが降りて来るではないか!
「来たな」
 リロードを済ませていたミラ、再びトリガーを引く!
「グリ、少し下がっていてね?」
 ブラウが特殊な日本刀を鞘走らせたかと思うと、次の瞬間彼女の姿は踊り場の上にあった。曼殊沙華の幻影を纏い冷ややかに見下ろす。
「邪魔。……嗅ぎ殺すわよ?」
 人型どもが彼女を振り返る。直後、四肢が胴を離れズシャッと崩れ落ちた。緑色の体液と紅い花影とが辺りに散る。その香りを嗅ぎ幼い頬に浮かぶのは恍惚の微笑。まだ息のあるものはグリが確実に仕留めていく。
 その間アーサーは、背後の通路から来た別の二体を強烈な刺突技で屠っていた。唸る「レギオ・レプカ」を静め体液を払う。
「……初っ端からこの数か。嫌な感じがするぜ」

 誰にともない呟きは、すぐに現実のものとなった。



(――コアに人手を割き過ぎたか?)
 数十分後。
 ジャックとアーサーは、離れた場所に居ながら同時に苦い思いを噛みしめていた。

「スフィアいくよっ、おにいさん五歩下がれる?」
「おい玲、回復術にも限りがあんだろ。温存しやがれ!」
「でもっ」
 ジャックは敵の攻撃をいなしつつ視線を巡らせ、この場にいる敵と倒した敵の数とを勘定する。
(足りねぇ)
 事前に聞いていた数に届かない。ロビー周辺にもまだ敵の気配を感じられる事から、残り全てが管制塔へ行ったのではないのだろうが、それでも。
「あっちも苦労してんだろうぜ、とっといてやんねぇとな!」
「そうだけどっ」
 玲の目に映るのは、自分を庇うように立つ二人の背中。高い防御力を誇るジャック、機敏な動きで回避するレムだが、二人には傷が目立っていた。既に数度回復術を使用した後の事である。
 圧倒的多数の人型に対処するだけでも事なのに、目玉どもが絶えずレーザーを浴びせてくるのだ。威力はさほどでもないが数が多すぎる。
「だいじょーぶ! レムさん『金剛』使ったらがんじょーになるんだからっ!」
 そう言って笑うレムの身体を、練り上げられたマテリアルが包んでいく。攻撃の術を持たない自分に玲は唇を噛む。そんな玲をよそに、ジャックは管制塔へ続く通路へ踵を返そうとした敵を見て床を蹴った。
「俺様が相手してやってんのにムシするたぁ良い度胸だぜ!」
 黄金の盾を振り抜き転倒させる。すかさずレムが拳を叩き込んだ。
 一方、篝。
「ちっ……!」
 二人の負担を減らすべく、目玉を潰す事に腐心していた。
 つまり人型どもの相手をジャックとレムだけでしているのが現状なのだ。
 篝は思考を巡らせる。フォールシュートはたった今使い切った。お陰で目玉を半減させられたが、残りを一つずつ撃っていくのは非効率。これ以上は捨て置き人型対応に回るべきか。けれど未だ目玉の数は多い――銃床をぐっと肩に押し当て、管制塔の方角を仰いだ。


「多すぎるわね……これで二二体目よ」
 階段を駆け上がりながら人型を切り捨てたグリを、
「無理はしないで」
 ブラウが気遣う。小柄で小回りの利くグリは、狭い階段にあって目覚ましい活躍を見せていた。主の言葉に小さく跳ねる。
 直後、ミラの放った弾丸が二体の人型を蜂の巣にした。
「これで二四体か。事前情報が確かなら、一割以上がこちらへ来ている事になるな」
 それは即ち――アーサーは陽動の四人に思い巡らせ、 機械剣を握りしめる。あちらも苦戦を強いられているのだろう。焦燥に駆られる心を抑え、脳裏に館内図を思い起こす。
「だが管制室はもうすぐそこだ」

 踊り場で折り返すと、ついに廊下の先に管制室の扉が見えて来た。
「ちょっと待ってくれ」
 二人を呼び止めた彼は、手探りで取り出していた糸と神楽鈴で素早くトラップを仕掛けていく。鳴子の罠だ。
「コアとやり合ってる間に、人型に背後を突かれないようにな」
「成程な」
 その手際の良さは元軍人故か。同じく元軍人のミラ、頷きながらライフル「ルインズタワー」に持ち替えた。管制室の広さは画像で確認済みだ。
「行くぞ」
 破滅を意味する塔の紋章を持つライフルで扉を撃ち壊す。
 中にあったのは禍々しい一体の眼球コア。ほぼ床から天井まで覆いつくす巨大なそれは、筋線維状のアメーバに支えられ侵入者を見つめる。
「こいつはまた……」
 アーサーはようやく対面したコアからわずかに視線を逸らした。目を合わせ狂気に取り込まれぬように。ついでに室内を確認。人型の姿なはい。しかしコアを支えるアメーバにはやはり無数の目玉が付いていた。
「随分と大きいのね。……ふふ、いい香りだといいのだけれど」
 ブラウの幻影の手が期待に満ちたように指を広げる。グリは彼女へ雪水晶を展開。しかし次の瞬間、コアが怪しげな緑光を帯びた。
「避けろ!」
 アーサーが叫ぶが早いかレーザーが襲い来る! 巨大なコアから放たれる光線は径が桁違い。まるで緑の壁が押し寄せてくるかのようだ。壊れた扉の陰に身を寄せやり過ごす。そのまま第二波を待ち受けたが来なかった。
 どうやら連続使用はできないらしい。そう踏んだアーサーは部屋へ飛び込むとコアへ肉薄。
「とっとと片付けさせてもらうぜ!」
 逞しい体躯が紅金のオーラを噴き出す。それを機械剣に伝え、眼球の側面を大きく薙ぎ払った! 剣を引き抜きざま目玉どもを威嚇する。
「撃てるもんなら撃ってみな」
 目玉どもは彼へ向いたが、それだけだった。彼のすぐ後ろに自身のコアがあるのだ。撃てるはずがない。
 ブラウもグリを伴い反対の側面へ駆ける。振動刀を水平に構え、白目につぷりと刃をめり込ませた。
「なんだ……香りは目玉達と同じね。この香りにはもう飽きたからとっとと終わらせましょうか」
 入口に立つミラの雷の幻影は激しさを増していた。豪雨のようなオーラも加わり、彼女の面差しをいっそ凶悪なものに映し出す。
「これは精神衛生上の問題だ。貴様は醜い、目の毒だ。生かしてはおけん!」
 自身の怒りとマテリアルを込めた弾丸を放つ! コアの声なき悲鳴が室内を震わせた。ここぞとばかりに二人と一匹も持てる技をぶつける。
 しかしコア、ミラへ向け再度レーザーを照射! 脚を灼かれ、狂気感染がミラを襲う。堪らず膝をつくが、彼女には倒れるわけにはいかぬ理由があった。かつて妹を奪った歪虚の情報を求め、彼女は蒼の世界へ舞い戻ったのだ。
 全身に言いようのない重さを感じながらも、ミラはニーリングの姿勢で構える。
「貴様が妹を殺したとは思ってはおらん。だが貴様から得られる情報も無駄ではなかろう。せめてその命を私に捧げるがいい――!」
 放った弾丸がコアの瞳孔へ吸い込まれていく。そして――



「消えた!」
 篝、アメーバ消滅の瞬間に声をあげた。敵も異変を察し動きを止める。
「今だっ」
「がってんだー!」
 機を逃さずスキルを撃ち込むジャックとレム。しかし後衛の篝に比べ、前衛の二人はもうぼろぼろだ。堪らず玲が叫ぶ。
「待って、今ならまだ二人ともフルリカバリーで全快にできるよ! 特におにいさんは体力凄いから、これ以上怪我しちゃうと一回じゃ足りなくなっちゃう!」
「動けりゃいい、全快なんざ……」
 振り向いたジャックは瞠目した。玲へ向け三体の人型が同時に触手を伸ばしていたのだ。
「危ねぇッ!」
 ジャック、すかさず間に割り込んだ。尖らせた触手が急所へめり込む! あわや重体という深手にさしもの彼も膝から落ちる。
「おにいさん!? 何で……!」
 駆け寄る玲に、彼は低く呻く。
「ノブレス・オブリージュ……俺様は貴族だからな。例えてめぇがもやしでぐうたらでも、貴族ってのは平民共を守る崇高な責務があんだよ!」
 手負いの獅子の咆哮に、玲より先にレムが反応した。彼の意気に呼応するよう闘志を燃やす。
「しっかり回復したげて、敵はレムさんがっ!」
 次いで篝が弾倉を装填する音が響く。
「援護は任せて」
「おねえさん達お願い! ダメって言われてももう回復しちゃうんだからっ」
 玲、挑む二人にも届くようスフィアを投げかける。それを受けたレム、迫る敵へ最短距離で強烈なストレートを繰り出す! レムを嫌がり避けた個体を、軌道操作された篝の弾丸が貫いた!
 レム、対峙した人型が不気味に揺らいだのを見逃さなかった。
「前回は浮遊型歪虚がくっついた人型がバラバラーってなったっけ。でもでもっ、もうレムさんにその手はつーよーしませんぞっ!」
 敵が良からぬ事をする前に、身を撓ませ渾身のアッパーカット! しかし突出した彼女はすぐに取り囲まれてしまう。レムは取っておいた最後の青龍翔咬波を放ち包囲網に穴を穿つ。と、
「良い意気だ嬢ちゃん!」
「遅くなったわ」
「これ以上好きにさせん!」
 管制塔から戻ってきた三人が加勢に入る。陽動班に比べ負傷の少ない彼らが加わった事で、人型どもの数が目に見えて減っていく。そこへ回復を終えたジャックも合流。
「俺様復活! 己が矜持を示す為ならば、漢は何度でも立ち上がるのだ!」
 そんな彼をブラウがちらり。
「……あら王国馬鹿、じゃなかった。ジャックさんお久し振りね? もっと傷付いてもいいのよ?」
「ご挨拶だなおい。玲、ぼさっとすんな浄化術だ!」
「うえーんっ、間に合って良かったよーもーダメかと思ったぁっ」
 半ベソで浄化術を展開する玲に、アーサーは苦笑する。
「あの有り様で、よくもまあピュリフィケーションを使えるレベルまで達したもんだよな」

 その時だった。

 凄まじい爆発音がして室内が赤く照らし出された。振り向けば、外縁部に天を摩るような火柱が上がっている。外縁部隊がVOID砲爆破に成功したのだ。
「随分派手な花火を上げたものだな」
 額に手を翳しミラが零す。篝は急ぎ時計を見やった。
「残り五分を切ったわ」
 それでもまだ幾多の人型が残っている。
「もう出し惜しみナシ、全力でぶっとばーすっ!」
「掃討には時間が足りねぇか。スキル残ってる奴は全部ぶっ放せ!」
「言われなくとも」
 各々死力を振り絞り、反撃覚悟で一体でも多く屠るべく技を揮う。最初に送還されたのは回復術を使い切った玲だった。回復手を失ってからも戦い続ける面々だったが、一人、また一人と紅界へ引き戻されていく。


 激しい戦いで損傷したロビーを炎と夕日が赤々と染める。覚醒者達が消えた室内には、主と標的を失った人型共が二十数体、音もなく佇んでいた――これらは後に踏み込んできた現地軍によって滞りなく駆除された。掃討こそ叶わなかったが、彼らが敵戦力を大きく削いだ結果である。

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MVP一覧

  • 背徳の馨香
    ブラウka4809
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバートka6552

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • ユニットアイコン

    グリューン(ka4809unit001
    ユニット|幻獣
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/08 10:06:04
アイコン 相談卓
ブラウ(ka4809
ドワーフ|11才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/04/11 07:12:59