ゲスト
(ka0000)
アマリリス~新ポカラで花見
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/17 22:00
- 完成日
- 2017/04/25 01:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「壊されたね」
アマリリス商会の覚醒者、モータルが沈んだ声を絞り出した。
ここは同盟領のどこかにある田舎村「ポカラ」。
いや、「元ポカラ」というべきか。
村の建物はことごとく破壊され完全に廃墟と化している。
先月ごろ、大艦巨砲大型浮遊歪虚「パルサラス」と高速機動中型浮遊歪虚「ブラブロ」の強襲を受け壊滅したのだ。二体の歪虚はそのまま居座ったが、先日ハンターズソサエティによる人型兵器を中心とした討伐隊が組まれ分断作戦を展開。重体者を出しつつも各個撃破に成功していた。
その跡地を見回したモータルが続ける。
「井戸も潰れてる。残ってても歪虚の巻き散らかした胞子で怪しいもんだけど」
「盗賊の手口なんかかわいらしいもんだ」
偵察結果のつぶやきに前部座席からの声。荒くれ者のキアンだ。
モータル、複座式の可変式魔導アーマー「ビルドムーバー」に乗ってポカラの村を巡回視察していた。今はビルドオフの魔道トラック形態。前部座席のキアンが運転し、後部座席のモータルが周囲の目視確認を担当している。
「盗賊は盗賊で酷いもんだろ」
「あんた、義賊をつくりたいんだって?」
ちくりとモータルが嫌味を言ったところ、鋭く返された。
盗賊に故郷の村を襲われたのがきっかけで流れ者になったモータル、確かにそういう思いを抱いていた。
「盗賊じゃない。その盗賊を討伐したり、ハンターたちのできないことをする私設の軍のことだ」
「それを人は盗賊ってひとくくりに呼ぶんじゃねぇのか?」
誰かを襲おうが助けようがな、とキアン。
「違う!」
モータルが語気を荒げたときだった。
「……済まねえがちょいと変形するぜ?」
「え? わっ!」
返事も聞かずにビルド・オンするキアン。ぐぐぐと車体が持ち上がり、人型の魔導アーマー形態に変形した。
「あ、こんな所に井戸が……」
「いいな? あんたは何も見てねえ!」
近過ぎて見落としていたことに気付くモータル。そこにキアンが叫びを重ねて下半身を操作する。モータル、気付くが彼の操作担当は上半身のみ。止めることはできない。
「まさか、やめろ!」
――ばこぉん。
キアン、ビルドムーバーの蹴りで無事に残っていた井戸を破壊した。
「これでポカラの地下水源は全滅。近くに川もあるが、まあこれですぐに戻りたいという村人もあきらめるだろ。全員、セル鉱山の鉱山街に移住だな」
キアン、にやり。
セル鉱山はついに良質な鉄鉱石の鉱脈を探し当て、作業員が不足していた。闇の密売人「ベンド商会」の手引きでポルカ住民の移住が進められていた。モータルたちは「アマリリス商会」として調査に来ていた。もちろん、両商会は別組織だと思われている。
「お前……」
「あんたにできねぇだろ。ここに戻っても微妙、セル鉱山にいきゃあ歓迎されて働きゃ働くだけ富も生む。損するやつはいねぇんだ。誰かがやらにゃならんのよ」
こうしてポルカの住民はセル鉱山街に移り、良質な鉄鉱石の産出のため働くことになる。
所変わって、フマーレ。グリス邸だったアマリリス屋敷。
「もう一つの問題が娯楽だったのよね」
アマリリス商会代表の少女、アムがそう言って紅茶をすする。
「とはいえ、まさか街を造るとはのぉ」
ベンド商会代表のベンドが肩で笑いつつ紅茶ずずず。
「ビルドムーバーがあったから森の開拓も建築も楽だったわ」
「石工修行をしていたメイスンが師匠筋から協力者を呼んでもらったのも大きいですね」
執事のバモスが恭しく付け加える。
「これで、豊かになって街に行きたがってた連中も一定の満足を得る、か」
「本当に街に行くと時間の無駄だし、帰ってこない可能性が高いものね」
「しかし、娯楽として認めるかの?」
ベンド、意地悪く肩で笑う。
「賭博は隠れてやってるんだから、後は高級なお酒ね。女遊びは控えてもらわないとだけど」
「それで高級酒の相談か。……ま、女遊びに関してはどこかで享楽主義者を見つけとくわい」
「新しい街の森に山桜があると報告にあります。まずはポルカの人とお花見をするのがよろしいかと」
腹黒く微笑し合う二人とは対照的に、さわやかに提案するバモス。
こうして、森の中の新たな町で大々的に花見をすることになった。
ちなみに、十三夜(ギボス・ムーン)のガリアが単座式に改良したビルドムーバー二台を持ってきているので試乗することができます。複座式の三台もあります。
「じゃ、私も行く」
おや。
歪虚討伐にかかわった南那初華(kz0135)も、ポカラ住民の慰安のため移動屋台「Pクレープ」で駆けつけ開店。クレープを振舞うようです。
アマリリス商会の覚醒者、モータルが沈んだ声を絞り出した。
ここは同盟領のどこかにある田舎村「ポカラ」。
いや、「元ポカラ」というべきか。
村の建物はことごとく破壊され完全に廃墟と化している。
先月ごろ、大艦巨砲大型浮遊歪虚「パルサラス」と高速機動中型浮遊歪虚「ブラブロ」の強襲を受け壊滅したのだ。二体の歪虚はそのまま居座ったが、先日ハンターズソサエティによる人型兵器を中心とした討伐隊が組まれ分断作戦を展開。重体者を出しつつも各個撃破に成功していた。
その跡地を見回したモータルが続ける。
「井戸も潰れてる。残ってても歪虚の巻き散らかした胞子で怪しいもんだけど」
「盗賊の手口なんかかわいらしいもんだ」
偵察結果のつぶやきに前部座席からの声。荒くれ者のキアンだ。
モータル、複座式の可変式魔導アーマー「ビルドムーバー」に乗ってポカラの村を巡回視察していた。今はビルドオフの魔道トラック形態。前部座席のキアンが運転し、後部座席のモータルが周囲の目視確認を担当している。
「盗賊は盗賊で酷いもんだろ」
「あんた、義賊をつくりたいんだって?」
ちくりとモータルが嫌味を言ったところ、鋭く返された。
盗賊に故郷の村を襲われたのがきっかけで流れ者になったモータル、確かにそういう思いを抱いていた。
「盗賊じゃない。その盗賊を討伐したり、ハンターたちのできないことをする私設の軍のことだ」
「それを人は盗賊ってひとくくりに呼ぶんじゃねぇのか?」
誰かを襲おうが助けようがな、とキアン。
「違う!」
モータルが語気を荒げたときだった。
「……済まねえがちょいと変形するぜ?」
「え? わっ!」
返事も聞かずにビルド・オンするキアン。ぐぐぐと車体が持ち上がり、人型の魔導アーマー形態に変形した。
「あ、こんな所に井戸が……」
「いいな? あんたは何も見てねえ!」
近過ぎて見落としていたことに気付くモータル。そこにキアンが叫びを重ねて下半身を操作する。モータル、気付くが彼の操作担当は上半身のみ。止めることはできない。
「まさか、やめろ!」
――ばこぉん。
キアン、ビルドムーバーの蹴りで無事に残っていた井戸を破壊した。
「これでポカラの地下水源は全滅。近くに川もあるが、まあこれですぐに戻りたいという村人もあきらめるだろ。全員、セル鉱山の鉱山街に移住だな」
キアン、にやり。
セル鉱山はついに良質な鉄鉱石の鉱脈を探し当て、作業員が不足していた。闇の密売人「ベンド商会」の手引きでポルカ住民の移住が進められていた。モータルたちは「アマリリス商会」として調査に来ていた。もちろん、両商会は別組織だと思われている。
「お前……」
「あんたにできねぇだろ。ここに戻っても微妙、セル鉱山にいきゃあ歓迎されて働きゃ働くだけ富も生む。損するやつはいねぇんだ。誰かがやらにゃならんのよ」
こうしてポルカの住民はセル鉱山街に移り、良質な鉄鉱石の産出のため働くことになる。
所変わって、フマーレ。グリス邸だったアマリリス屋敷。
「もう一つの問題が娯楽だったのよね」
アマリリス商会代表の少女、アムがそう言って紅茶をすする。
「とはいえ、まさか街を造るとはのぉ」
ベンド商会代表のベンドが肩で笑いつつ紅茶ずずず。
「ビルドムーバーがあったから森の開拓も建築も楽だったわ」
「石工修行をしていたメイスンが師匠筋から協力者を呼んでもらったのも大きいですね」
執事のバモスが恭しく付け加える。
「これで、豊かになって街に行きたがってた連中も一定の満足を得る、か」
「本当に街に行くと時間の無駄だし、帰ってこない可能性が高いものね」
「しかし、娯楽として認めるかの?」
ベンド、意地悪く肩で笑う。
「賭博は隠れてやってるんだから、後は高級なお酒ね。女遊びは控えてもらわないとだけど」
「それで高級酒の相談か。……ま、女遊びに関してはどこかで享楽主義者を見つけとくわい」
「新しい街の森に山桜があると報告にあります。まずはポルカの人とお花見をするのがよろしいかと」
腹黒く微笑し合う二人とは対照的に、さわやかに提案するバモス。
こうして、森の中の新たな町で大々的に花見をすることになった。
ちなみに、十三夜(ギボス・ムーン)のガリアが単座式に改良したビルドムーバー二台を持ってきているので試乗することができます。複座式の三台もあります。
「じゃ、私も行く」
おや。
歪虚討伐にかかわった南那初華(kz0135)も、ポカラ住民の慰安のため移動屋台「Pクレープ」で駆けつけ開店。クレープを振舞うようです。
リプレイ本文
●
広場に山桜は満開。
すでに宴は始まっていた。
その間を、アマリリス商会代表のアマリリスことアム、そしてモータルが歩いて行く。
「よお、お嬢。景気はどうだい?」
「お嬢、最近お見限りだな。たまにゃあ現場に顔見せてくれよ」
セル鉱山の柄の悪い作業員が上機嫌で声を掛けて来る。がははは、と下品な笑い声もする。
「いつもより良い酒飲んでんじゃない。忙しくてこっちでのんびりもできやしないわ」
アム、こっちにツン、あっちにツン。作業員はやんやの喝采。
「なんだかなぁ」
一緒に歩くモータルは首をひねるばかりだ。
「よ、モータル。久し振りだな」
突然声を掛けられた。
ジャック・エルギン(ka1522)だ。手にはワインボトル。
「あ……」
言葉を返そうとしたが、もう後姿。いつかの時もそうだった。
いや。肩越しに横顔で、にやり。
「お久し振りです」
聞こえない距離だが、感謝の気持ちを込めて返すモータルだった。
「モータル、こっちだ」
しばらくすると今度は女性の声が。
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が手を振っている。
背後には山桜と、ビルドムーバー。
「レオーネの嬢ちゃんは飲まねぇのか?」
「酒はダメなんでソフトドリンクを」
ガリアに酒を勧められたが断るレオーネ。
ほかに技術開発者が勢ぞろいして料理を準備している。「十三夜」の集まりである。
「ともかく、単座化の完成とポカラ村受け入れを祝い……」
「ちょっと待った!」
レオーネが乾杯の音頭を取ろうとしたら大きな声が遮った。
「祝い事が多いのか?」
見るとセルゲン(ka6612)が仁王立ち。手には持参の酒を持っている。いま、ぐびりとあおった。
「皆の祝いなら全員で乾杯するのではないか?」
「すでに酔ってるな?」
論ずるセルゲン。レオーネは酔った勢いだと看破しあきれ顔。
「一理あるわね」
おっと。
アムが話を預かり改めて振り返った。
その時だった。
「お嬢が音頭取るってよ」
「おおい、お嬢が注目しろって!」
「ねえ、お世話になった人よ?」
「恩人の言葉に耳を澄ませろ」
一斉に鉱山作業員やポカラ住民がこちらを向いた。
すでに飲んだり食べたりしていたが、なんだかんだで待っていたのだ。
「春の良き日と始まりの季節に……乾杯!」
「乾杯!」
余計なことを言わなかったアム。
ただ、伝わった。
復唱の言葉がむしろ、感謝や期待、希望や満足の様々な響きを帯びていた。それが一斉に交わり、重厚な響きとなった。
杯を干した皆の顔は晴れやかで、笑顔と拍手が咲き乱れた。
●
「さて。あの時の代わりに今日はしっかり焼かないとね~」
広場の一角では、南那初華(kz0135)が移動屋台「Pクレープ」の開店準備を済ませていた。
「村は壊されたけどしっかり避難できたのは不幸中の幸いだったわよねー。さ、今回はしっかりお手伝いするわよ」
Pクレープ店員のメルクーア(ka4005)、鉄板に火を入れ小麦粉を溶いてと初華を手伝う。
その二人の目の前に、ふわりと桜の花吹雪。
いや違う、着物の模様だ。
「初華さん、お手伝いに来たんだよー♪」
狐中・小鳥(ka5484)である。
「わー、お洒落~」
「これは客が寄って来そう……いやな予感もするわー」
小鳥に見惚れる初華の横で、メルクーアが汗たらり。
果たしてどうなる?
それはそれとして、別の場所。
るんるん歩く後姿。長いストレートの金髪がリズムに乗って揺れる。
「お花見お花見……さ、みんなでお花見だよ♪」
鼻歌交じりにくるっと振り返ったのは、Uisca Amhran(ka0754)。バスケットを大切そうに持ってご機嫌。
「おお、イスカ。この辺りがよいのぅ」
着物姿の星輝 Amhran(ka0724)が少し横の方を指差す。ぶらんぶらんと徳利を手に、着物の合わせがややはだけ気味。
「……ん、日差しも温かいし良い場所ですねぇ。さすがキララですよ」
横にいた瀬織 怜皇(ka0684)がにっこり笑顔で太鼓判。レジャーシートを早速敷く。
「わしの見立てもまんざらでもないじゃろう、のぅ」
「な、何で自慢げなんだぜっ?! しかもその口調でっ!」
ふふん、と胸を張る星輝。その相手は怜皇ではなく神薙 蒼(ka5903)で、しかもさらした肩をぴとっとくっつけるように色っぽく身を寄せていたり。
「姉さまったら……」
この様子にウィスカはくすくす。怜皇の隣に座って広げたシートに持参したバスケットを置く。
中身は辺境の郷土料理。お弁当として傷みに強く型崩れしないような物ばかり。
「お。いっぱい食えそうだなっ、これは楽しみなんだぜっ」
「……相変わらず、蒼は子供のようじゃのぅ」
美味しそうな料理を見るや、急いでシートに座る蒼。その様子に星輝はやれやれな感じ。
「知ってっか? 子供みたいなのがうまいもんをもっとうまく食うコツなんだぜっ」
「大人のようでもうまいものはうまく食えるぞ? ほれ、酒とジュースじゃ」
早速、肉料理にがっつく蒼。星輝は適当にあしらい皆に酌をする。
「レオもいっぱい食べてね♪」
ウィスカ、そんな二人ににここにしつつ恋人にチーズをのせたパンを切り分け差し出す。
受け取った怜皇、満開の桜を見上げた。
「……ん、料理も酒も美味しいですし、花も綺麗ですねぇ?」
桜の花びら、怜皇に褒められ挨拶するようにひらりと頬をかすめ舞った。思わずウィスカと星輝も顔を上げて桜に見惚れるのだった。
そんな一枚絵のような三人の姿に気付き、蒼が食べてる手を止めた。
急に味気なくなったか。それとも疎外感を感じたか?
「仕方ないのぅ」
気付いた星輝、にまにましながら四つ這いで蒼の隣へ。
そしてチーズの乗ったパンをひとつまみ取る。
改めて、悪戯っぽくにまっ。
「……はい、あ~ん」
嬉々として蒼の口元に持って行く。
「あ~、ん」
蒼、素直にぱくっ。
「どうじゃ?」
「うんっ、うまうまなんだぜっ」
で、当然のように蒼も星輝に「はい、あ~ん」。
「……仲がいいですねぇ」
「ほんと」
ぱくっ、とやる星輝を見守りつつ一緒にお酒を飲む怜皇とウィスカだった。寄せた肩を、どちらからともなくちょんとくっつけ、思わず顔を合わせてしまい同時にくすり、とか。
「花弁の浮く酒というのも、なかなかオツなものじゃのぅ♪」
星輝、今度は本格的に酒を飲む。
●
さて、アムたち。
「単座型も完成、祝いの桜も綺麗に咲いた!」
「そうじゃそうじゃ、かんぱ~い!」
気分よく改めてジュースを掲げるレオーネに、ガリアの乾杯の音頭。
「一体何回乾杯してるのやら」
ふふふ、とその様子に笑みをこぼすアム。
「ガリアさん、よほどうれしいんだね」
十三夜仲間の天竜寺 詩(ka0396)、飲み物を手ににこにこしている。
そこに、天竜寺 舞(ka0377)もやって来た。
「よ、モータル。また背が伸びた?」
久し振りだね、の挨拶を独特の言い回しで。ばしん、と背中を叩かれるモータル。
「そりゃまあ……でも、詩さんも舞さんも、似てるようで違うね」
片やショートでつつましやか、片や巻き毛で瞳も好奇心でくるくる。
「あたしの方ががさつってか? よく言った。ちょっと待ってろ」
「いや、そこまで言ってないじゃない!」
ががん、とするモータルだが舞はすでに「女は化けるって所見せてやるよ」と言い放ちステージ裏へ。
「お姉ちゃんやる気満々みたいだから、期待しててね」
そんなモータルに、怒ってるわけじゃないから、とついて行く詩。「着替えで少し時間がかかるけど」とも。
「ええと……あれ。アリアさん、具合でも悪いんですか?」
宙ぶらりんになったモータル。シートの端に座ってレオーネたちの様子を見て微笑しているアリア・セリウス(ka6424)を気遣った。
「そう?」
アリア、微笑し首をやや傾ける。
ただ、のんびりしている。「此処、最近では余りにも忙しかったもの」と語っているよう。体はそよぐ風を全身で受け止めるつつゆったりと桜の幹に寄りかかる。ひら、と花びらが舞い落ちる。
ちょっと休憩。
そんな佇まい。
その時、メルクーアが配達に来た。
「お待たせでーす♪」
「よー、こっちこっち!」
ガリア、知った顔に早速手招き。
「アリアさんも、はい」
「ありがとう。屋台は大丈夫?」
「もちろん。のんびりしてていいわよ」
アリアもPクレープを手伝ったことがあるので少し気にしたりも。
「それよりさー、……いざロマンから離れると難しいよなぁ」
メルクーアとアリアが揃ったところで、レオーネがビルドムーバーの方を見る。
「長所から考えると需要は…少人数で工作・戦闘・輸送を求められる……」
ぶつぶつとそのまま独り言。
「どこに売り込むか、かしら? 個人的にはユニオンに卸すのがいい気がするわね」
うーん、とメルクーア。
「ユニオン……同盟なら魔術師協会広報部?」
「うん。少なくとも軍は違うと思うなあ。軍なら魔導アーマーとトラック、それぞれを用意するでしょ。ビルドムーバーはどっちかといえばゲリラ戦向きだと思うし」
聞いたモータルに説明するメルクーア。
それにぴん、と来たレオーネが四つ這いで近寄って来た。
「それだ……ガリアさん、一つバクチ打ってみない? 完成した単座型の1機、モータルの義賊に預けてみたらどうかな?」
小部隊の運用で成功すれば拍がつく、と熱を込める。
「いや、まだできてないし……」
「しばらくはこの町の警備なんかで必要だからダメよ」
言い淀むモータルに、びしりとアムが締める。
「どっちにしても、工事用としては成功しとるんじゃ。問題は、戦闘用にできるか、というとろじゃの」
改めて説明するガリア。
「ハンターの戦闘用ならユニオンというか、それこそハンターオフィスに直接が早いわね」
うーん、とメルクーア。
でも、とっかかりはどうする、という雰囲気になり、皆がうーん。
――きゅ……。
そこに、バイオリンの乾いた弦の音。
「誰が為に往くのならば、桜の夢は誰が為に散り逝くのか」
アリアだ。ヴァイオリン「アンダンテ」を構え弦をゆっくり、丁寧に引く。
旋律に合わせたように、ひらと桜の花びら。
いや、花びらのひらめきに曲を合わせているのだ。
ゆったりと控え目に。けれど綺麗に、心に染みわたるように……。
「……そうだな」
レオーネ、言わんとすることが分かり桜を見上げた。
アムも、モータルも、ガリアも。
花は、青空を背景に微笑むように揺らぐ。
その旋律は風に乗った。
「ん?」
離れた桜の木の下でがばっと身を起こす姿がある。
「……そうだな」
鞍馬 真(ka5819)である。ごそごそと笛を取り出した。さっきまでは「……暖かいと、眠くなるな」とかなんとか言いつつごろんと横になってまどろんでいた。最近激戦続きで疲れきってもいた。無理もない。
ただ、アリアの演奏を聞いて目覚めて自分も、と思うあたりが彼らしい。
――きゅ、きゅ……。
早速弦を引く。
「ちょっと桜のイメージと違うか?」
いろいろ音色を試してみる。やがて、緩やかなメロディーラインで落ち着いた。
「……ん?」
しばらく集中して演奏していたが、気付くと近くに子供が二人。じっと真を見て演奏を聞いていた。
にこっ、と子供たち。
仕方ないな、と今度は聞かせてやる演奏に切り替えた。
そんな真と子供二人の小さな演奏会の横を、ふらりと通る姿。
「桜、綺麗。こういうの、いいな……」
見上げる姿は、坂上 瑞希(ka6540)。
花を見上げ、風に髪をなびかせて広場を回遊する。
場面は再び、アムたち。
「それじゃ、初華さんの手伝いに戻るから」
「……」
メルクーアが去った後、ふらっと星野 ハナ(ka5852)が現れた。
で、ビルドムーバーを見上げる。
まじまじと。
「乗ってみるか?」
レオーネが軽く勧めてみる。
その時だった!
「複座式っ……これ欲しいのにぃ…こんな所でもリア充仕様がぁ…」
突然ハナ、マヂ泣き失意体前屈。顔を両手で覆っていやんいやんとポニーテールを振る。
「単座式はどうかしら?」
見かねたアリアが呟いてみる。
「私のような乗り物好きには魅惑すぎますぅ。でも独り者に複座式とか喧嘩売ってんのかこのヤロウとか買ったら一緒に素敵な彼氏も売ってくれるのかあぁっ!? って思っちゃいますぅ。単座式ができて本当に良かったですぅ。ところで販売価格はどのくらいですぅ?」
「時価だ、時価」
横からレオーネが適当なことを言っておく。
「旬モノみたいですねぇ。でもできたばかりなら確かに旬モノですぅ」
「じゃ、動かそうぜ?」
レオーネともに、それぞれ一台に搭乗し、変形。
「……なんだ、忙しくなるかと思ったらむしろ分担操作の時よりしっくりくるじゃないか」
違いを確認するレオーネ。
「うふふ。後はこれでイケメンを轢いて『大丈夫ですか、まず病院に』ってお持ち帰りするだけですぅ」
「人をあっさり轢くんじゃない!」
とか何とか早速格闘模擬戦を始める二人だったり。
そんな荒っぽい雰囲気は、広場のところどころでも見られる。
「今日という今日は勘弁ならねぇ!」
「おう、やんのか?!」
酒の入った作業員二人がにらみ合い。一触即発だ。
「オウ、お疲れさん。どうだい一杯? 良いのがあるぜ」
そこへ、ジャック・エルギンが入り込む。
「いや、そうじゃね……」
「いいからこっち来い。座れ。これでも飲め」
不満そうな二人を連行し、作業員の酒盛り場へ。
でもって、持参した白ワイン「レ・リリカ」を注いでやる。
「へぇ、なかなかいいじゃねぇか」
「だろ? それよりどうだ。街も出来て景気良さそうだがよ」
ジャック、積極的に言葉を交わす。
「ああ。期待はしてるんだが……」
「違うんだよなぁ。柄の悪い町とかじゃねぇし」
「馴染めない、か」
そりゃどうしようもねぇ、と酒をあおるジャック。
「こうやって宴会の席を設けてくれてありがたいんだが」
「余興の一つもありゃな。新しい町の住民も芸人じゃねぇし」
「じゃ、流れの劇団とか呼べる劇場でも造るか?」
もともと物資運搬で人の出入れは激しいんだろ、とジャック。
「お、そりゃいい」
「いつも同じ姉ちゃんばっかじゃないのがいいな」
「おいおい。姉ちゃんが来るかどうかは期待してくれるなよ」
わはは、と一緒に盛り上がるジャックだった。
●
「うふふ……いい感じでしたぁ」
ビルドムーバーの所では、ハナがたっぷり試乗して満足そう。そのままどこかに行く。
「メルクーアさんから聞いて来たんだよ」
入れ替わりに小鳥もやって来た。
「乗ってみてもいいが……その服でか?」
「ん、せっかくだし試しに。服は、こうすればいいかな?」
ガリアに心配され、ぴっちりだった着物の裾をうんしょと緩める小鳥。これを見ていたアリア、先とは違い桜の舞う模様に少し引き付けられていたり。
「じゃ、行くんだよ」
少しはしたなく素足を出してアクセルを踏んで、ビルド・オン。いつもと違ってがこん、がこんと二段の衝撃がある。
「おー、前より高いかな?」
腕周りも格段に良くなっているのを確認。
「輸送とかには……流石に向かない感じ?」
ビルドオフしてトラックに戻りそんな感想。やっぱり積載能力はゼロである。
下りたところで新たな人影。
どさっとお菓子が下ろされた。
「ガリアさん達、お招きありがとうなの。こういう催しはどんどんやってじゃんじゃん呼んで下さいなの、みんなの心が明るくなるの、もぐもぐ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
「ディーナさん、リスみたいなんだよ」
「衣食足りて礼節を知る、リアルブルーにはいい言葉が多いの、もぐもぐ」
挨拶はいいけどもぐもぐは止めないんだね、と小鳥が汗たら~。
「まあ、こういう席じゃしえかろう。それより、かんぱ~い」
ガリアは細かくこだわらず、お酒の杯をかちん。
「かいぱ~い、ですの」
「お菓子で乾杯……なんだ」
クッキーを掲げるディーナを見て、今度はその一貫性にむしろ感心する小鳥だったり。
のんびりする姿はこちらでも。
「ふむ……これは見事なもの、だ」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が歩みを止め、枝の桜を見上げていた。
「背が高いとこういう時にいいな」
横を歩くイレーヌ(ka1372)も立ち止まり見上げた。ふっと微笑する。
オウカ、枝に手を伸ばして恋人のために下げようとしたが、やめた。
シートを敷き、料理を並べた。
そして胡坐をかいて座りながら言うのだ。
「見上げるくらいがちょうどいい」
「そうか」
イレーヌは持参した酒を出して隣に腰掛ける。
いや、オウカに裾を掴まれた。座ってほしいところへ引っ張っている。
「一緒に見上げるのもいいな」
イレーヌ、素直に胡坐をかく足の間に座り収まった。一緒に同じ桜を見上げる。
ここで少し悪戯心。
「しかし、下も見事なものだな」
実はオウカの作った花見弁当、色とりどりで華やかだったのだ。
「こうすればいい」
オウカ、手を伸ばし弁当箱を手に持った。
イレーヌ、笑う。
つまり、イレーヌを後ろから抱くようにしている。が、手がふさがっているので自分は食べることができない。
「仕方ないな」
大きなソラマメをつまみ、あ~ん。ぱくっ、と食いつく表情が楽しい。
「じゃあ」
オウカも弁当を片手で支え、イレーヌにあ~ん。ちゃんと横を向かて顔が見えるようにしている。
「……可愛いな」
「まったく」
ぱくっとやったイレーヌ、えいっと恋人を背もたれ代わりに体重を掛けて悪戯したり。びくともしないが。
「……まったく」
安心して身を預け、次は酒だなと手を伸ばす。
グラス二つ、と思ったが一つにしておいた。
こちら、Pクレープ。
「ハツカさん、お久しぶりなのです! くれーぷ、くださいな」
「わ、ウィスカさん♪」
ウィスカと星輝を初華が歓迎。
「むかし取り逃がしてしまったブラブロも倒されたようで、安心なのです」
「あの時の戦いを参考に、ワイヤーロック作戦で逃げられないようにしたの」
そんな話をしつつ、苺クリームとラムレーズンのパフェなどを焼いてお持ち帰り。
あれ?
三つだけ?
「いらっしゃいだよー♪ いっぱい食べて行ってね♪ 花の下で食べるときっといつも以上に美味しくなるんだよ♪」
そして店頭に戻った小鳥も明るく接客中。
が、その目にトラブルが映る。
「おい小僧。こんなところで走るんじゃねぇ!」
クレープを手に喜んで駆け出した男の子が柄の悪い作業員にぶつかったのだ。
「う、うわぁぁぁ~ん!」
「ちょ、待て!」
泣き流れ逃げる子供にそれを追う作業員。
「む、お店の迷惑になる行為は禁止だよ? 邪魔するなら蹴っ飛ばしちゃうよ!」
ここへ素早く小鳥が回り込んで睨みを利かす。すい、と滑らかな生足が裾からのぞいていつでも蹴りの出る体勢だ。
「いや待て。あの小僧、小銭入れ落としてんだよ。怖い顔なのはそういう顔だから許してくれ」
「あ、ごめんなんだよ……ひあっ!」
勘違いに素直に引いた小鳥だが、ここで生足にヘンな感触。
「姉ちゃん、ええ脚しとんのぅ」
見ると、変質者が足に抱き着き頬ずりしていた。何という素早さか。
「店員に触れるんじゃないんだよ……」
――げしっ!
変質者、小鳥の足から離れて吹っ飛んだ。
が、小鳥は何もしていない。
掴まれた足の膝くらいに来ていた変質者の側頭部に、大きく回した反対の足の膝をヒットさせようとしたのだがその体勢のままだ。太腿内側がえらく上までチラリンしている。
「危ないことしてるんじゃないわよ、まったく」
瑞希である。横から割って入って回し膝蹴りを浴びせていた。
「せっかく桜、見てたのに……」
「今のも危ないよ」
小鳥、脳震盪狙い攻撃の危険性を説いていたり。
「私より強いの、出そうとしてた……」
瑞希の言いたいのは、危ないのは小鳥の攻撃が来るから、ということらしい。
「トラブル対応ありがとっ。クレープいかが?」
ここで初華の呼ぶ声。
「ん、でも、団子よりお花……」
とか何とか言いつつそっけない瑞希。
だったのだが!
――はむっ。
「おいし……」
もらったクレープを食べつつご満悦。
さらに屋台はある。
「桜餅に焼き団子、お汁粉に甘酒、白茶はいかがですぅ。東方のお花見の定番ですぅ。気分が落ち着きますよぅ」
ハナの東方茶屋である。
瑞希、立ち止まって激しくハナの忙しそうな接客に見入っていた。花見とピッタリの雰囲気で激しく繁盛している。
数分後。
――もしゃっ。
「やっぱり団子の方がメインでもいいかもしれない」
お花に申し訳ないな、と思いつつ桜餅とかの甘い誘惑に勝てない瑞希だった。
笑顔もにんまりと甘く。
そんな瑞希とすれ違う者がいた。
白い帽子に白い服はレム・フィバート(ka6552)で、一緒にいる黒い上着をマントのように羽織る黒い服姿はアーク・フォーサイス(ka6568)。
「アーくん、こっちこっち」
「急ぐなって」
レムがアークの手を引いてピークレープまで一直線。
「南那ちゃん、来たよ!」
「あ。レムさんにアークさん、いらっゃいませっ♪」
久し振りだよね、あれから依頼頑張ってる、とか初華とレムがきゃいきゃい♪
その横でアークがじーっ。
「……クレープの種類は…あまりよくわからないな。どれがオススメだろう?」
一人でまずメニューを見ていたのだが、この一言でぐいっと二人の視線を集めた。
「えっとね、生地をしっかり味わうことのできるジャムクレープとこっちはゆるふわ生クリームタイプ……」
「へーっ、こっちはハムサラダ。そういえばアーくんは甘いのどうだったっけ?」
「ちょ……落ち着いてくれ」
二人のマシンガントークにたじたじのアーク。
「で、どれにする?」
「すまない。レムの気に入りを二種類頼んでくれ……」
「え、いいの? じゃ、折角だしオススメ一丁お願いしようかなっ♪ オススメ欲張り盛りで!」
「おっけー。一つはてんこ盛りね♪」
そんなこんなで、結局……。
「ラムレーズンクリームかー、大人の香りっ♪」
「大丈夫か?」
もぐっ、と堪能するレムを心配するアーク。実は少し酒が入ってるとのことでアークが取ったのだが、早速あーんしてレムがかぷついたのだ。
「ほんのり香る程度か……」
アークも続いてかじりついて味を確認。
「ほほー。たしかにこっちの甘さとはちがいますなーっ」
その間にレムは自分の大盛り生クリームフルーツパフェにがぶり。
「ほらほらアーくん。こっちのはザ・クレープって感じ。クリームとか引っ付けないよーに気をつけるのですぞっ」
「酔ってないか? ……ん、中々食べにくいな、これ」
乙女の夢がてんこ盛りだから食べにくいのは当然ですね。
おっと。
ぱくっと味わったのはいいがレムの目がすわってるぞ?
「え? 何?」
「もったいないーっ! 乙女の夢なのにーっ!」
「う……わ」
がばーっ、とレムの顔がアップで迫る。逃げようとしたアークだが思わず固まったのは、レムが瞳を閉じていたから。逃げるわけにはいかない。
――ぺろ……ちゅっ☆
口の端についたクリームをお掃除されてしまいましたとさ。
●
「それでは、ステージの準備が整いました」
ここで、アマリリスのメイスンが舞台で注目を呼び掛けた。
つつ、と淑やかに登場したのは、着物に着替え白粉と紅で化粧した詩だった。
「いよっ」
「ひゅう!」
囃し声に一礼し、三味線を構える。
――てん、てん、つん……。
時は若干遡る。
「オイコラ、タココラ!」
「タコとは何だ、タココラ!」
柄の悪い作業員とガタイのいい村人二人がにらみ合っている。
そして二人とも弓なりに拳を引いた!
「やめるですのー!」
「こっちは子供連れ静かにしてくれ」
ディーナが村人の口にかぽっとうまいほにゃららとでも表現すべき棒菓子を突っ込み、偶然演奏を聞いていた子供を連れ帰していた真がもう作業員の前に笛を剣先のように付き突けて止めた。
「く……」
「お腹が膨れると落ち着くの……ところで何があったの?」
「せっかく暖かくて花も綺麗に咲いているのに何でのんびりしないんだ?」
ディーナも真も怒って……いや、微妙に怒ってない。
「こいつら、子供もいるのに柄が悪すぎで……」
「これでもお上品なもんなんだぜ!」
「おい何だよ。何かあったか?」
「コラ、なめんじゃねぇぞ」
あ。
他の村人とか作業員も寄って来たじゃない。
「なんだ? ……兄さん方よ、駄目だろ新入りさんいじめちゃ。移民さんの方も先住の民とは仲良くせにゃ」
「すまないな」
仲裁側にはセルゲンが来た。真、素直に感謝する。
「最初は良かったが酒が入って明らかに……」
「そっちだって騒いでんじゃねぇかよ」
腹に据えかねているのだろう、どちらも収まらない。
「ふむふむ、お水もどうぞなの」
「って、あの暴れん坊大熊所縁の村から来たのか? アイツ良い熊だったよなぁ。最期まで良い奴だったよ」
飲んだ勢いの人にはディーナが対応。村人にはセルゲンが移民の引き金にもなった事件のその後を話してやる。村人は「おお」とこれを真剣に聞く。
これでうまくブレイクできた。
「ん? それより何か始まるな」
最後に、真がステージに注目させるのだった。
ステージでは慣らしを終えた詩が本格的に前奏のリフレインをしていた。
しっかりした弦の響きで、騒いでいた者たちも注目する。
――しゃら……。
そして、白粉と紅で化粧し簪を鳴らしながら、着物姿の舞が登場。詩は本格的に曲に入った。
「おお!」
さくらさくらの演奏とともに日本風舞踊。つつつと移動し腰をちょこんと落とす。流れる花びらのように扇子を掲げて視線はその先に。結い上げた髪に細いうなじがたおやかに。
詩は、一つの音の響きを大切に。強弱を付けて、舞踊の止めの美学を最上級に魅せる。
「知らない舞いだけど、上流階級で通用するわ」
「へええっ。変わるもんだね」
アムの指摘に、モータルは食い入るように。
「いいわね」
アリア、気に入ったのだろう。即興で詩の曲に合わせて弾く。
(いい感じ)
舞台では舞がちらと周りを見て反応を確認。
手ごたえをつかみ、さらに大きく、小さくと曲の妙を振りに乗せる。
(モータルのあの顔ったら……)
ぷくく、と内心噴きそうになったが舞ってる時はおくびにも出さない。
ただ、詩にはバレていた。
(まったくお姉ちゃんたら)
誰にも分からないレベルでやや集中力が欠けたと見るや、わざと一つの音を普段より強く。
(おっと、はいはい)
舞、気付いて普段より強くなった音に合わせてアドリブ。蝶が舞い込んだ表現としてまとめた。
そして舞い納め。
会場から拍手がわくが、一礼した詩がまた座ったので静かになる。
舞の方は舞台奥に少し引っ込む。詩、次の曲を知らせるように出だしを繰り返す。
そして出てくると、今度は藤の枝の模型や扇子を持っていた。
「藤娘」である。
薄紅色から紫色に変わった雰囲気。踊りも曲ももちろん。
「楽しくやろう、な?」
もめてたところでは、真がそう言って笛を吹いて場を沈めていた。
緩やかに、伸びやかに。
時は遡り、怜皇。
「イスカもこういう甘いものが好きなのはさすが女の子ですね」
「えへへ」
買ってきたクレープを手渡しデザート中。ウィスカ、怜皇になでなでされクレープぱくりしるんるん気分♪。
そして星輝の持つクレープは欲張り盛り♪。
「一つで二つ分の値段じゃ。色々てんこ盛りじゃがよかろう?」
酒の勢いでいろいろ頼んだら初華が「それならこれ!」とか言って渡しおった、とか言い訳する星輝。一つを蒼と一緒に囲む。
「うん、シェアするのも良いもんだっ」
蒼、満足そう。
そこで、舞と詩のステージが始まった。
「うわあ……」
しばらく四人で見惚れる。
でクレープを食したあと。
「イスカ?」
「姉さま!」
星輝とウィスカがどちらともなく立ち上がり、舞い歌をその場で披露したり。
四人で……いや、小鳥も一緒に喜んでいる。
その時怜皇、傍に咲く小さな花に気付いた。
帰りにそっとイスカの髪に飾ってやった。
「メル、どうだ?」
「今忙しくなったわよん♪」
Pクレープでは、メルクーアが急いでてんこ盛りクレープを焼き始めた。姉のイレーヌが様子を見に来たからだ。
「大きいな?」
「ちゃんと二人分だからねー」
「……噛みついたらダメだぞ?」
恋人に対する可愛い妹の反応を意外に思いつつも、釘を刺しておく。
そして、アムたちの元に戻った舞と詩。
「どう?」
巻き毛を肩の後ろに払いニッと笑みを見せる舞。
「素敵だったよ」
モータル、素直に感心していた。
「そいえば娯楽施設を考えてるってね。こういうの見せる舞台はどう?」
「日舞や酒場のお座敷遊びなら教えられるよ」
人差し指を立てる舞に、にっこり微笑む詩。
そこへ、ぬっと人影。
「こっちでもそういう話をしていた。手ごたえは良かったぜ」
ジャックが酒を手に作業員を連れて来た。
「そうか。ユニオンに旧ポカラ村の警備をするよう仕向けてそれをモータルたちの義賊にやらせれば……」
横でレオーネがメルクーアの案を含めた今後を口にしていた。
そこへ、ぬっと人影。
「ンなもんいいから飲めッ、俺の酒が呑めねぇって……」
「セルゲンさん、これ食べて酔い覚まして―――っ!」
酔っ払いセルゲンが村民を連れてやって来ていた。追って来た初華がとにかく飲ませようとするのを止めたが。
「ここがより落ち着くだろう」
真がお一人様の花見客を引き連れここに案内していた。
「甘味は他にもありますよぅ」
「他の所でもこういうのやってほしいの!」
ハナとディーナも甘味の差し入れ。
「やっぱり、おいしい」
瑞希もつられてやって来た。
「……余るかしら?」
とはいえ冷静にアリアがつまみの量を確認。
「まあ、皆で適当に分ければいいわね」
楽しかった一日の思い出に、とまた緩やかな曲を奏で始めるのだった。
広場に山桜は満開。
すでに宴は始まっていた。
その間を、アマリリス商会代表のアマリリスことアム、そしてモータルが歩いて行く。
「よお、お嬢。景気はどうだい?」
「お嬢、最近お見限りだな。たまにゃあ現場に顔見せてくれよ」
セル鉱山の柄の悪い作業員が上機嫌で声を掛けて来る。がははは、と下品な笑い声もする。
「いつもより良い酒飲んでんじゃない。忙しくてこっちでのんびりもできやしないわ」
アム、こっちにツン、あっちにツン。作業員はやんやの喝采。
「なんだかなぁ」
一緒に歩くモータルは首をひねるばかりだ。
「よ、モータル。久し振りだな」
突然声を掛けられた。
ジャック・エルギン(ka1522)だ。手にはワインボトル。
「あ……」
言葉を返そうとしたが、もう後姿。いつかの時もそうだった。
いや。肩越しに横顔で、にやり。
「お久し振りです」
聞こえない距離だが、感謝の気持ちを込めて返すモータルだった。
「モータル、こっちだ」
しばらくすると今度は女性の声が。
レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が手を振っている。
背後には山桜と、ビルドムーバー。
「レオーネの嬢ちゃんは飲まねぇのか?」
「酒はダメなんでソフトドリンクを」
ガリアに酒を勧められたが断るレオーネ。
ほかに技術開発者が勢ぞろいして料理を準備している。「十三夜」の集まりである。
「ともかく、単座化の完成とポカラ村受け入れを祝い……」
「ちょっと待った!」
レオーネが乾杯の音頭を取ろうとしたら大きな声が遮った。
「祝い事が多いのか?」
見るとセルゲン(ka6612)が仁王立ち。手には持参の酒を持っている。いま、ぐびりとあおった。
「皆の祝いなら全員で乾杯するのではないか?」
「すでに酔ってるな?」
論ずるセルゲン。レオーネは酔った勢いだと看破しあきれ顔。
「一理あるわね」
おっと。
アムが話を預かり改めて振り返った。
その時だった。
「お嬢が音頭取るってよ」
「おおい、お嬢が注目しろって!」
「ねえ、お世話になった人よ?」
「恩人の言葉に耳を澄ませろ」
一斉に鉱山作業員やポカラ住民がこちらを向いた。
すでに飲んだり食べたりしていたが、なんだかんだで待っていたのだ。
「春の良き日と始まりの季節に……乾杯!」
「乾杯!」
余計なことを言わなかったアム。
ただ、伝わった。
復唱の言葉がむしろ、感謝や期待、希望や満足の様々な響きを帯びていた。それが一斉に交わり、重厚な響きとなった。
杯を干した皆の顔は晴れやかで、笑顔と拍手が咲き乱れた。
●
「さて。あの時の代わりに今日はしっかり焼かないとね~」
広場の一角では、南那初華(kz0135)が移動屋台「Pクレープ」の開店準備を済ませていた。
「村は壊されたけどしっかり避難できたのは不幸中の幸いだったわよねー。さ、今回はしっかりお手伝いするわよ」
Pクレープ店員のメルクーア(ka4005)、鉄板に火を入れ小麦粉を溶いてと初華を手伝う。
その二人の目の前に、ふわりと桜の花吹雪。
いや違う、着物の模様だ。
「初華さん、お手伝いに来たんだよー♪」
狐中・小鳥(ka5484)である。
「わー、お洒落~」
「これは客が寄って来そう……いやな予感もするわー」
小鳥に見惚れる初華の横で、メルクーアが汗たらり。
果たしてどうなる?
それはそれとして、別の場所。
るんるん歩く後姿。長いストレートの金髪がリズムに乗って揺れる。
「お花見お花見……さ、みんなでお花見だよ♪」
鼻歌交じりにくるっと振り返ったのは、Uisca Amhran(ka0754)。バスケットを大切そうに持ってご機嫌。
「おお、イスカ。この辺りがよいのぅ」
着物姿の星輝 Amhran(ka0724)が少し横の方を指差す。ぶらんぶらんと徳利を手に、着物の合わせがややはだけ気味。
「……ん、日差しも温かいし良い場所ですねぇ。さすがキララですよ」
横にいた瀬織 怜皇(ka0684)がにっこり笑顔で太鼓判。レジャーシートを早速敷く。
「わしの見立てもまんざらでもないじゃろう、のぅ」
「な、何で自慢げなんだぜっ?! しかもその口調でっ!」
ふふん、と胸を張る星輝。その相手は怜皇ではなく神薙 蒼(ka5903)で、しかもさらした肩をぴとっとくっつけるように色っぽく身を寄せていたり。
「姉さまったら……」
この様子にウィスカはくすくす。怜皇の隣に座って広げたシートに持参したバスケットを置く。
中身は辺境の郷土料理。お弁当として傷みに強く型崩れしないような物ばかり。
「お。いっぱい食えそうだなっ、これは楽しみなんだぜっ」
「……相変わらず、蒼は子供のようじゃのぅ」
美味しそうな料理を見るや、急いでシートに座る蒼。その様子に星輝はやれやれな感じ。
「知ってっか? 子供みたいなのがうまいもんをもっとうまく食うコツなんだぜっ」
「大人のようでもうまいものはうまく食えるぞ? ほれ、酒とジュースじゃ」
早速、肉料理にがっつく蒼。星輝は適当にあしらい皆に酌をする。
「レオもいっぱい食べてね♪」
ウィスカ、そんな二人ににここにしつつ恋人にチーズをのせたパンを切り分け差し出す。
受け取った怜皇、満開の桜を見上げた。
「……ん、料理も酒も美味しいですし、花も綺麗ですねぇ?」
桜の花びら、怜皇に褒められ挨拶するようにひらりと頬をかすめ舞った。思わずウィスカと星輝も顔を上げて桜に見惚れるのだった。
そんな一枚絵のような三人の姿に気付き、蒼が食べてる手を止めた。
急に味気なくなったか。それとも疎外感を感じたか?
「仕方ないのぅ」
気付いた星輝、にまにましながら四つ這いで蒼の隣へ。
そしてチーズの乗ったパンをひとつまみ取る。
改めて、悪戯っぽくにまっ。
「……はい、あ~ん」
嬉々として蒼の口元に持って行く。
「あ~、ん」
蒼、素直にぱくっ。
「どうじゃ?」
「うんっ、うまうまなんだぜっ」
で、当然のように蒼も星輝に「はい、あ~ん」。
「……仲がいいですねぇ」
「ほんと」
ぱくっ、とやる星輝を見守りつつ一緒にお酒を飲む怜皇とウィスカだった。寄せた肩を、どちらからともなくちょんとくっつけ、思わず顔を合わせてしまい同時にくすり、とか。
「花弁の浮く酒というのも、なかなかオツなものじゃのぅ♪」
星輝、今度は本格的に酒を飲む。
●
さて、アムたち。
「単座型も完成、祝いの桜も綺麗に咲いた!」
「そうじゃそうじゃ、かんぱ~い!」
気分よく改めてジュースを掲げるレオーネに、ガリアの乾杯の音頭。
「一体何回乾杯してるのやら」
ふふふ、とその様子に笑みをこぼすアム。
「ガリアさん、よほどうれしいんだね」
十三夜仲間の天竜寺 詩(ka0396)、飲み物を手ににこにこしている。
そこに、天竜寺 舞(ka0377)もやって来た。
「よ、モータル。また背が伸びた?」
久し振りだね、の挨拶を独特の言い回しで。ばしん、と背中を叩かれるモータル。
「そりゃまあ……でも、詩さんも舞さんも、似てるようで違うね」
片やショートでつつましやか、片や巻き毛で瞳も好奇心でくるくる。
「あたしの方ががさつってか? よく言った。ちょっと待ってろ」
「いや、そこまで言ってないじゃない!」
ががん、とするモータルだが舞はすでに「女は化けるって所見せてやるよ」と言い放ちステージ裏へ。
「お姉ちゃんやる気満々みたいだから、期待しててね」
そんなモータルに、怒ってるわけじゃないから、とついて行く詩。「着替えで少し時間がかかるけど」とも。
「ええと……あれ。アリアさん、具合でも悪いんですか?」
宙ぶらりんになったモータル。シートの端に座ってレオーネたちの様子を見て微笑しているアリア・セリウス(ka6424)を気遣った。
「そう?」
アリア、微笑し首をやや傾ける。
ただ、のんびりしている。「此処、最近では余りにも忙しかったもの」と語っているよう。体はそよぐ風を全身で受け止めるつつゆったりと桜の幹に寄りかかる。ひら、と花びらが舞い落ちる。
ちょっと休憩。
そんな佇まい。
その時、メルクーアが配達に来た。
「お待たせでーす♪」
「よー、こっちこっち!」
ガリア、知った顔に早速手招き。
「アリアさんも、はい」
「ありがとう。屋台は大丈夫?」
「もちろん。のんびりしてていいわよ」
アリアもPクレープを手伝ったことがあるので少し気にしたりも。
「それよりさー、……いざロマンから離れると難しいよなぁ」
メルクーアとアリアが揃ったところで、レオーネがビルドムーバーの方を見る。
「長所から考えると需要は…少人数で工作・戦闘・輸送を求められる……」
ぶつぶつとそのまま独り言。
「どこに売り込むか、かしら? 個人的にはユニオンに卸すのがいい気がするわね」
うーん、とメルクーア。
「ユニオン……同盟なら魔術師協会広報部?」
「うん。少なくとも軍は違うと思うなあ。軍なら魔導アーマーとトラック、それぞれを用意するでしょ。ビルドムーバーはどっちかといえばゲリラ戦向きだと思うし」
聞いたモータルに説明するメルクーア。
それにぴん、と来たレオーネが四つ這いで近寄って来た。
「それだ……ガリアさん、一つバクチ打ってみない? 完成した単座型の1機、モータルの義賊に預けてみたらどうかな?」
小部隊の運用で成功すれば拍がつく、と熱を込める。
「いや、まだできてないし……」
「しばらくはこの町の警備なんかで必要だからダメよ」
言い淀むモータルに、びしりとアムが締める。
「どっちにしても、工事用としては成功しとるんじゃ。問題は、戦闘用にできるか、というとろじゃの」
改めて説明するガリア。
「ハンターの戦闘用ならユニオンというか、それこそハンターオフィスに直接が早いわね」
うーん、とメルクーア。
でも、とっかかりはどうする、という雰囲気になり、皆がうーん。
――きゅ……。
そこに、バイオリンの乾いた弦の音。
「誰が為に往くのならば、桜の夢は誰が為に散り逝くのか」
アリアだ。ヴァイオリン「アンダンテ」を構え弦をゆっくり、丁寧に引く。
旋律に合わせたように、ひらと桜の花びら。
いや、花びらのひらめきに曲を合わせているのだ。
ゆったりと控え目に。けれど綺麗に、心に染みわたるように……。
「……そうだな」
レオーネ、言わんとすることが分かり桜を見上げた。
アムも、モータルも、ガリアも。
花は、青空を背景に微笑むように揺らぐ。
その旋律は風に乗った。
「ん?」
離れた桜の木の下でがばっと身を起こす姿がある。
「……そうだな」
鞍馬 真(ka5819)である。ごそごそと笛を取り出した。さっきまでは「……暖かいと、眠くなるな」とかなんとか言いつつごろんと横になってまどろんでいた。最近激戦続きで疲れきってもいた。無理もない。
ただ、アリアの演奏を聞いて目覚めて自分も、と思うあたりが彼らしい。
――きゅ、きゅ……。
早速弦を引く。
「ちょっと桜のイメージと違うか?」
いろいろ音色を試してみる。やがて、緩やかなメロディーラインで落ち着いた。
「……ん?」
しばらく集中して演奏していたが、気付くと近くに子供が二人。じっと真を見て演奏を聞いていた。
にこっ、と子供たち。
仕方ないな、と今度は聞かせてやる演奏に切り替えた。
そんな真と子供二人の小さな演奏会の横を、ふらりと通る姿。
「桜、綺麗。こういうの、いいな……」
見上げる姿は、坂上 瑞希(ka6540)。
花を見上げ、風に髪をなびかせて広場を回遊する。
場面は再び、アムたち。
「それじゃ、初華さんの手伝いに戻るから」
「……」
メルクーアが去った後、ふらっと星野 ハナ(ka5852)が現れた。
で、ビルドムーバーを見上げる。
まじまじと。
「乗ってみるか?」
レオーネが軽く勧めてみる。
その時だった!
「複座式っ……これ欲しいのにぃ…こんな所でもリア充仕様がぁ…」
突然ハナ、マヂ泣き失意体前屈。顔を両手で覆っていやんいやんとポニーテールを振る。
「単座式はどうかしら?」
見かねたアリアが呟いてみる。
「私のような乗り物好きには魅惑すぎますぅ。でも独り者に複座式とか喧嘩売ってんのかこのヤロウとか買ったら一緒に素敵な彼氏も売ってくれるのかあぁっ!? って思っちゃいますぅ。単座式ができて本当に良かったですぅ。ところで販売価格はどのくらいですぅ?」
「時価だ、時価」
横からレオーネが適当なことを言っておく。
「旬モノみたいですねぇ。でもできたばかりなら確かに旬モノですぅ」
「じゃ、動かそうぜ?」
レオーネともに、それぞれ一台に搭乗し、変形。
「……なんだ、忙しくなるかと思ったらむしろ分担操作の時よりしっくりくるじゃないか」
違いを確認するレオーネ。
「うふふ。後はこれでイケメンを轢いて『大丈夫ですか、まず病院に』ってお持ち帰りするだけですぅ」
「人をあっさり轢くんじゃない!」
とか何とか早速格闘模擬戦を始める二人だったり。
そんな荒っぽい雰囲気は、広場のところどころでも見られる。
「今日という今日は勘弁ならねぇ!」
「おう、やんのか?!」
酒の入った作業員二人がにらみ合い。一触即発だ。
「オウ、お疲れさん。どうだい一杯? 良いのがあるぜ」
そこへ、ジャック・エルギンが入り込む。
「いや、そうじゃね……」
「いいからこっち来い。座れ。これでも飲め」
不満そうな二人を連行し、作業員の酒盛り場へ。
でもって、持参した白ワイン「レ・リリカ」を注いでやる。
「へぇ、なかなかいいじゃねぇか」
「だろ? それよりどうだ。街も出来て景気良さそうだがよ」
ジャック、積極的に言葉を交わす。
「ああ。期待はしてるんだが……」
「違うんだよなぁ。柄の悪い町とかじゃねぇし」
「馴染めない、か」
そりゃどうしようもねぇ、と酒をあおるジャック。
「こうやって宴会の席を設けてくれてありがたいんだが」
「余興の一つもありゃな。新しい町の住民も芸人じゃねぇし」
「じゃ、流れの劇団とか呼べる劇場でも造るか?」
もともと物資運搬で人の出入れは激しいんだろ、とジャック。
「お、そりゃいい」
「いつも同じ姉ちゃんばっかじゃないのがいいな」
「おいおい。姉ちゃんが来るかどうかは期待してくれるなよ」
わはは、と一緒に盛り上がるジャックだった。
●
「うふふ……いい感じでしたぁ」
ビルドムーバーの所では、ハナがたっぷり試乗して満足そう。そのままどこかに行く。
「メルクーアさんから聞いて来たんだよ」
入れ替わりに小鳥もやって来た。
「乗ってみてもいいが……その服でか?」
「ん、せっかくだし試しに。服は、こうすればいいかな?」
ガリアに心配され、ぴっちりだった着物の裾をうんしょと緩める小鳥。これを見ていたアリア、先とは違い桜の舞う模様に少し引き付けられていたり。
「じゃ、行くんだよ」
少しはしたなく素足を出してアクセルを踏んで、ビルド・オン。いつもと違ってがこん、がこんと二段の衝撃がある。
「おー、前より高いかな?」
腕周りも格段に良くなっているのを確認。
「輸送とかには……流石に向かない感じ?」
ビルドオフしてトラックに戻りそんな感想。やっぱり積載能力はゼロである。
下りたところで新たな人影。
どさっとお菓子が下ろされた。
「ガリアさん達、お招きありがとうなの。こういう催しはどんどんやってじゃんじゃん呼んで下さいなの、みんなの心が明るくなるの、もぐもぐ」
ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
「ディーナさん、リスみたいなんだよ」
「衣食足りて礼節を知る、リアルブルーにはいい言葉が多いの、もぐもぐ」
挨拶はいいけどもぐもぐは止めないんだね、と小鳥が汗たら~。
「まあ、こういう席じゃしえかろう。それより、かんぱ~い」
ガリアは細かくこだわらず、お酒の杯をかちん。
「かいぱ~い、ですの」
「お菓子で乾杯……なんだ」
クッキーを掲げるディーナを見て、今度はその一貫性にむしろ感心する小鳥だったり。
のんびりする姿はこちらでも。
「ふむ……これは見事なもの、だ」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が歩みを止め、枝の桜を見上げていた。
「背が高いとこういう時にいいな」
横を歩くイレーヌ(ka1372)も立ち止まり見上げた。ふっと微笑する。
オウカ、枝に手を伸ばして恋人のために下げようとしたが、やめた。
シートを敷き、料理を並べた。
そして胡坐をかいて座りながら言うのだ。
「見上げるくらいがちょうどいい」
「そうか」
イレーヌは持参した酒を出して隣に腰掛ける。
いや、オウカに裾を掴まれた。座ってほしいところへ引っ張っている。
「一緒に見上げるのもいいな」
イレーヌ、素直に胡坐をかく足の間に座り収まった。一緒に同じ桜を見上げる。
ここで少し悪戯心。
「しかし、下も見事なものだな」
実はオウカの作った花見弁当、色とりどりで華やかだったのだ。
「こうすればいい」
オウカ、手を伸ばし弁当箱を手に持った。
イレーヌ、笑う。
つまり、イレーヌを後ろから抱くようにしている。が、手がふさがっているので自分は食べることができない。
「仕方ないな」
大きなソラマメをつまみ、あ~ん。ぱくっ、と食いつく表情が楽しい。
「じゃあ」
オウカも弁当を片手で支え、イレーヌにあ~ん。ちゃんと横を向かて顔が見えるようにしている。
「……可愛いな」
「まったく」
ぱくっとやったイレーヌ、えいっと恋人を背もたれ代わりに体重を掛けて悪戯したり。びくともしないが。
「……まったく」
安心して身を預け、次は酒だなと手を伸ばす。
グラス二つ、と思ったが一つにしておいた。
こちら、Pクレープ。
「ハツカさん、お久しぶりなのです! くれーぷ、くださいな」
「わ、ウィスカさん♪」
ウィスカと星輝を初華が歓迎。
「むかし取り逃がしてしまったブラブロも倒されたようで、安心なのです」
「あの時の戦いを参考に、ワイヤーロック作戦で逃げられないようにしたの」
そんな話をしつつ、苺クリームとラムレーズンのパフェなどを焼いてお持ち帰り。
あれ?
三つだけ?
「いらっしゃいだよー♪ いっぱい食べて行ってね♪ 花の下で食べるときっといつも以上に美味しくなるんだよ♪」
そして店頭に戻った小鳥も明るく接客中。
が、その目にトラブルが映る。
「おい小僧。こんなところで走るんじゃねぇ!」
クレープを手に喜んで駆け出した男の子が柄の悪い作業員にぶつかったのだ。
「う、うわぁぁぁ~ん!」
「ちょ、待て!」
泣き流れ逃げる子供にそれを追う作業員。
「む、お店の迷惑になる行為は禁止だよ? 邪魔するなら蹴っ飛ばしちゃうよ!」
ここへ素早く小鳥が回り込んで睨みを利かす。すい、と滑らかな生足が裾からのぞいていつでも蹴りの出る体勢だ。
「いや待て。あの小僧、小銭入れ落としてんだよ。怖い顔なのはそういう顔だから許してくれ」
「あ、ごめんなんだよ……ひあっ!」
勘違いに素直に引いた小鳥だが、ここで生足にヘンな感触。
「姉ちゃん、ええ脚しとんのぅ」
見ると、変質者が足に抱き着き頬ずりしていた。何という素早さか。
「店員に触れるんじゃないんだよ……」
――げしっ!
変質者、小鳥の足から離れて吹っ飛んだ。
が、小鳥は何もしていない。
掴まれた足の膝くらいに来ていた変質者の側頭部に、大きく回した反対の足の膝をヒットさせようとしたのだがその体勢のままだ。太腿内側がえらく上までチラリンしている。
「危ないことしてるんじゃないわよ、まったく」
瑞希である。横から割って入って回し膝蹴りを浴びせていた。
「せっかく桜、見てたのに……」
「今のも危ないよ」
小鳥、脳震盪狙い攻撃の危険性を説いていたり。
「私より強いの、出そうとしてた……」
瑞希の言いたいのは、危ないのは小鳥の攻撃が来るから、ということらしい。
「トラブル対応ありがとっ。クレープいかが?」
ここで初華の呼ぶ声。
「ん、でも、団子よりお花……」
とか何とか言いつつそっけない瑞希。
だったのだが!
――はむっ。
「おいし……」
もらったクレープを食べつつご満悦。
さらに屋台はある。
「桜餅に焼き団子、お汁粉に甘酒、白茶はいかがですぅ。東方のお花見の定番ですぅ。気分が落ち着きますよぅ」
ハナの東方茶屋である。
瑞希、立ち止まって激しくハナの忙しそうな接客に見入っていた。花見とピッタリの雰囲気で激しく繁盛している。
数分後。
――もしゃっ。
「やっぱり団子の方がメインでもいいかもしれない」
お花に申し訳ないな、と思いつつ桜餅とかの甘い誘惑に勝てない瑞希だった。
笑顔もにんまりと甘く。
そんな瑞希とすれ違う者がいた。
白い帽子に白い服はレム・フィバート(ka6552)で、一緒にいる黒い上着をマントのように羽織る黒い服姿はアーク・フォーサイス(ka6568)。
「アーくん、こっちこっち」
「急ぐなって」
レムがアークの手を引いてピークレープまで一直線。
「南那ちゃん、来たよ!」
「あ。レムさんにアークさん、いらっゃいませっ♪」
久し振りだよね、あれから依頼頑張ってる、とか初華とレムがきゃいきゃい♪
その横でアークがじーっ。
「……クレープの種類は…あまりよくわからないな。どれがオススメだろう?」
一人でまずメニューを見ていたのだが、この一言でぐいっと二人の視線を集めた。
「えっとね、生地をしっかり味わうことのできるジャムクレープとこっちはゆるふわ生クリームタイプ……」
「へーっ、こっちはハムサラダ。そういえばアーくんは甘いのどうだったっけ?」
「ちょ……落ち着いてくれ」
二人のマシンガントークにたじたじのアーク。
「で、どれにする?」
「すまない。レムの気に入りを二種類頼んでくれ……」
「え、いいの? じゃ、折角だしオススメ一丁お願いしようかなっ♪ オススメ欲張り盛りで!」
「おっけー。一つはてんこ盛りね♪」
そんなこんなで、結局……。
「ラムレーズンクリームかー、大人の香りっ♪」
「大丈夫か?」
もぐっ、と堪能するレムを心配するアーク。実は少し酒が入ってるとのことでアークが取ったのだが、早速あーんしてレムがかぷついたのだ。
「ほんのり香る程度か……」
アークも続いてかじりついて味を確認。
「ほほー。たしかにこっちの甘さとはちがいますなーっ」
その間にレムは自分の大盛り生クリームフルーツパフェにがぶり。
「ほらほらアーくん。こっちのはザ・クレープって感じ。クリームとか引っ付けないよーに気をつけるのですぞっ」
「酔ってないか? ……ん、中々食べにくいな、これ」
乙女の夢がてんこ盛りだから食べにくいのは当然ですね。
おっと。
ぱくっと味わったのはいいがレムの目がすわってるぞ?
「え? 何?」
「もったいないーっ! 乙女の夢なのにーっ!」
「う……わ」
がばーっ、とレムの顔がアップで迫る。逃げようとしたアークだが思わず固まったのは、レムが瞳を閉じていたから。逃げるわけにはいかない。
――ぺろ……ちゅっ☆
口の端についたクリームをお掃除されてしまいましたとさ。
●
「それでは、ステージの準備が整いました」
ここで、アマリリスのメイスンが舞台で注目を呼び掛けた。
つつ、と淑やかに登場したのは、着物に着替え白粉と紅で化粧した詩だった。
「いよっ」
「ひゅう!」
囃し声に一礼し、三味線を構える。
――てん、てん、つん……。
時は若干遡る。
「オイコラ、タココラ!」
「タコとは何だ、タココラ!」
柄の悪い作業員とガタイのいい村人二人がにらみ合っている。
そして二人とも弓なりに拳を引いた!
「やめるですのー!」
「こっちは子供連れ静かにしてくれ」
ディーナが村人の口にかぽっとうまいほにゃららとでも表現すべき棒菓子を突っ込み、偶然演奏を聞いていた子供を連れ帰していた真がもう作業員の前に笛を剣先のように付き突けて止めた。
「く……」
「お腹が膨れると落ち着くの……ところで何があったの?」
「せっかく暖かくて花も綺麗に咲いているのに何でのんびりしないんだ?」
ディーナも真も怒って……いや、微妙に怒ってない。
「こいつら、子供もいるのに柄が悪すぎで……」
「これでもお上品なもんなんだぜ!」
「おい何だよ。何かあったか?」
「コラ、なめんじゃねぇぞ」
あ。
他の村人とか作業員も寄って来たじゃない。
「なんだ? ……兄さん方よ、駄目だろ新入りさんいじめちゃ。移民さんの方も先住の民とは仲良くせにゃ」
「すまないな」
仲裁側にはセルゲンが来た。真、素直に感謝する。
「最初は良かったが酒が入って明らかに……」
「そっちだって騒いでんじゃねぇかよ」
腹に据えかねているのだろう、どちらも収まらない。
「ふむふむ、お水もどうぞなの」
「って、あの暴れん坊大熊所縁の村から来たのか? アイツ良い熊だったよなぁ。最期まで良い奴だったよ」
飲んだ勢いの人にはディーナが対応。村人にはセルゲンが移民の引き金にもなった事件のその後を話してやる。村人は「おお」とこれを真剣に聞く。
これでうまくブレイクできた。
「ん? それより何か始まるな」
最後に、真がステージに注目させるのだった。
ステージでは慣らしを終えた詩が本格的に前奏のリフレインをしていた。
しっかりした弦の響きで、騒いでいた者たちも注目する。
――しゃら……。
そして、白粉と紅で化粧し簪を鳴らしながら、着物姿の舞が登場。詩は本格的に曲に入った。
「おお!」
さくらさくらの演奏とともに日本風舞踊。つつつと移動し腰をちょこんと落とす。流れる花びらのように扇子を掲げて視線はその先に。結い上げた髪に細いうなじがたおやかに。
詩は、一つの音の響きを大切に。強弱を付けて、舞踊の止めの美学を最上級に魅せる。
「知らない舞いだけど、上流階級で通用するわ」
「へええっ。変わるもんだね」
アムの指摘に、モータルは食い入るように。
「いいわね」
アリア、気に入ったのだろう。即興で詩の曲に合わせて弾く。
(いい感じ)
舞台では舞がちらと周りを見て反応を確認。
手ごたえをつかみ、さらに大きく、小さくと曲の妙を振りに乗せる。
(モータルのあの顔ったら……)
ぷくく、と内心噴きそうになったが舞ってる時はおくびにも出さない。
ただ、詩にはバレていた。
(まったくお姉ちゃんたら)
誰にも分からないレベルでやや集中力が欠けたと見るや、わざと一つの音を普段より強く。
(おっと、はいはい)
舞、気付いて普段より強くなった音に合わせてアドリブ。蝶が舞い込んだ表現としてまとめた。
そして舞い納め。
会場から拍手がわくが、一礼した詩がまた座ったので静かになる。
舞の方は舞台奥に少し引っ込む。詩、次の曲を知らせるように出だしを繰り返す。
そして出てくると、今度は藤の枝の模型や扇子を持っていた。
「藤娘」である。
薄紅色から紫色に変わった雰囲気。踊りも曲ももちろん。
「楽しくやろう、な?」
もめてたところでは、真がそう言って笛を吹いて場を沈めていた。
緩やかに、伸びやかに。
時は遡り、怜皇。
「イスカもこういう甘いものが好きなのはさすが女の子ですね」
「えへへ」
買ってきたクレープを手渡しデザート中。ウィスカ、怜皇になでなでされクレープぱくりしるんるん気分♪。
そして星輝の持つクレープは欲張り盛り♪。
「一つで二つ分の値段じゃ。色々てんこ盛りじゃがよかろう?」
酒の勢いでいろいろ頼んだら初華が「それならこれ!」とか言って渡しおった、とか言い訳する星輝。一つを蒼と一緒に囲む。
「うん、シェアするのも良いもんだっ」
蒼、満足そう。
そこで、舞と詩のステージが始まった。
「うわあ……」
しばらく四人で見惚れる。
でクレープを食したあと。
「イスカ?」
「姉さま!」
星輝とウィスカがどちらともなく立ち上がり、舞い歌をその場で披露したり。
四人で……いや、小鳥も一緒に喜んでいる。
その時怜皇、傍に咲く小さな花に気付いた。
帰りにそっとイスカの髪に飾ってやった。
「メル、どうだ?」
「今忙しくなったわよん♪」
Pクレープでは、メルクーアが急いでてんこ盛りクレープを焼き始めた。姉のイレーヌが様子を見に来たからだ。
「大きいな?」
「ちゃんと二人分だからねー」
「……噛みついたらダメだぞ?」
恋人に対する可愛い妹の反応を意外に思いつつも、釘を刺しておく。
そして、アムたちの元に戻った舞と詩。
「どう?」
巻き毛を肩の後ろに払いニッと笑みを見せる舞。
「素敵だったよ」
モータル、素直に感心していた。
「そいえば娯楽施設を考えてるってね。こういうの見せる舞台はどう?」
「日舞や酒場のお座敷遊びなら教えられるよ」
人差し指を立てる舞に、にっこり微笑む詩。
そこへ、ぬっと人影。
「こっちでもそういう話をしていた。手ごたえは良かったぜ」
ジャックが酒を手に作業員を連れて来た。
「そうか。ユニオンに旧ポカラ村の警備をするよう仕向けてそれをモータルたちの義賊にやらせれば……」
横でレオーネがメルクーアの案を含めた今後を口にしていた。
そこへ、ぬっと人影。
「ンなもんいいから飲めッ、俺の酒が呑めねぇって……」
「セルゲンさん、これ食べて酔い覚まして―――っ!」
酔っ払いセルゲンが村民を連れてやって来ていた。追って来た初華がとにかく飲ませようとするのを止めたが。
「ここがより落ち着くだろう」
真がお一人様の花見客を引き連れここに案内していた。
「甘味は他にもありますよぅ」
「他の所でもこういうのやってほしいの!」
ハナとディーナも甘味の差し入れ。
「やっぱり、おいしい」
瑞希もつられてやって来た。
「……余るかしら?」
とはいえ冷静にアリアがつまみの量を確認。
「まあ、皆で適当に分ければいいわね」
楽しかった一日の思い出に、とまた緩やかな曲を奏で始めるのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/17 20:59:34 |
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【相談卓】みんなでお花見! Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/04/17 21:46:03 |