• 血盟

【血盟】白き龍の嘆き

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/19 07:30
完成日
2017/04/28 12:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――イクタサ様。この運命は避けられないのでしょうか。
 私も、幻獣達もヒトを守る為に生まれてきた存在。
 彼らの為に消えゆくことに、何の躊躇いもないけれど……。
 でも、私達が消えた後は?
 一体誰があの子達を守ると言うのだろうか。

 ――それでも、私は。私の務めを果たそう。
 愛しいあの子達の死にゆく様は見たくない。
 少しでも。少しでも永く。
 愛し子達の明日が続いていけばいい。

 ――イクタサ様。私は役目を果たします。
 ですからどうか、あの子達を……。


●白き龍の嘆き
「ここは……」
「白龍の神殿……?」
 周囲を見渡すハンター達。
 この建造物には見覚えがある。
 辺境の聖地、ティタ・リトにある神殿に似たここは、遥か昔の白龍が住まう神殿だ。
 そうだ。確かこの先に白龍が――。
 目の前の重厚なドアに手を押し当てるハンター。
 重い音を立てて開いたその先。前に見た同じ場所に――白い身体を持つ龍が鎮座ましましていた。
「白龍……! 久しぶり! 元気にしていたか?」
「……これは記録の再生。私達の記憶はないはずよ」
「あー。それもそうか」
 ハンターの指摘に苦笑するもう1人のハンター。
 遥か上から、緊張した声が聞こえてきた。
「小さき者達よ。何故ここに来たのです。ここは危険です。早くお逃げなさい」
「危険? 危険ってどういうことだ?」
 首を傾げて彼女の言葉を反芻するハンター。次の瞬間、ゴウン! と鈍い音がして神殿が揺れる。
「何……!? すごい揺れ……!」
「……巨人ダヨ。この神殿を襲いに来てるのさ」
 聞こえて来た苦しげな声。ふと目線を下げると、傷だらけで荒い息をした巨大なリーリーが倒れていた。
「デュンファリ!!? 酷い怪我じゃない!」
「……教えてくれ。一体何が起きてる?」
「……この地に怠惰の軍勢が押し寄せています。結界を張って守っていましたが、それを凌駕する個体が現れました」
「ボク達幻獣が力を合わせて戦ったんだけどね。このザマさ」
「まだ何とか持ちこたえていますが……ここが落ちるのも時間の問題です。私達が巨人達をとめている間に、貴方達はお逃げなさい」
「逃げる者はリラの元へ行くといい。抜け道を教えてくれる」
「……オイマトという名の少年は? もう逃げたのか?」
「オイマトを知っているのですか? あの子はもう少年と言う歳ではありませんが……。巨人を食い止めると言って、魔導アーマーに乗ったキューソと共に外に向かいました」
 白龍の言葉にハッとするハンター達。
 この記録は、前回見た記録より後の時代のものなのか……!
 踵を返したハンター。その背に別のハンターが声をかける。
「待って。どこへ行く気!?」
「決まってんだろ。巨人を食い止めるんだよ。お前は別に逃げてもいいんだぜ」
「見くびらないで頂戴。これでもハンターよ。ただ、リラも心配ね……。避難誘導を手伝った方がいいかしら」
 考え込むハンター。

 ――これは記録だ。再生したものを見ているだけ。
 何をしたところで、変わる訳ではない。
 それでも――何か出来ることがあるのなら……。

 ハンター達はそれぞれ、思った場所へと向かう。


「いいか。くれぐれも無理はするな」
 魔導アーマーを操るキューソに声をかけるオイマト。
 小さかったその姿は精悍な男性へと変わっていた。

 ――昔。母の仇を取ろうと思った時。
 心身を鍛えて時を待て、生き延びろと教えてくれた人がいた。
 強かった背中。
 あの背に、追いつけているか分からないけれど……。
「……行くぞ。巨人を薙ぎ払え!」
 オイマトの叫びが、暗雲垂れこめる辺境の地に木霊した。

リプレイ本文

 ――神霊樹は見せる。
 遥かな昔。辺境のあの場所を――。

「また戻ってきましたのー……」
「何だか、前より荒れてますね……」
 きょろきょろと周囲を見回すチョココ(ka2449)とノワ(ka3572)。
 見覚えのある神殿。不思議な建材。無駄のない形。
 以前見た記録では、輝くようなピカピカの白い建造物だったのに――。
 ところどころ壁にヒビが入っていたり、床が壊れていたり、全体的に草臥れている。
 歪虚の侵攻のせいなのか、それともここを守護する白龍が弱っているせいなのか、そこまでは分からなかったけれど。
 ――知っている場所が朽ちて行く様子を見るというのは、とても寂しい事だと2人は思う。
 以前にも見た観音開きのドアを開けると、そこには白い大きな龍が座していた。
 変わらぬ美しい姿。心なしか以前より弱っている気がして……。黒の夢(ka0187)は彼女を気遣うように見上げる。
「……白龍ちゃん。少し痩せちゃったのな? ちゃんと食べ……」
「ふわぁーっほーう! どーらーごーんーだー!!」
 言葉を遮って駆け抜ける風。リュミア・ルクス(ka5783)が突撃して白龍の身体に飛びつく。
「本物! でっかい! 白い! カッコいい! 超白い! 素敵! 何年くらい生きてるのかな! 他にはドラゴンいないのかな? 空飛べるよね? 速度どのくらいか気になるんだよ! あっ、ブレス使える? 属性はやっぱり光? それとも風かな! ちょっと見せてほしいなー! とゆーかどこ住み? この後時間ある? あと抱き着いていいかな頬ずりしていいかな鱗もらっていいかなちゅーしちゃってもいいかな今度ふたりでお空のデートどうですか!!!! ぎゃおー!!!」
 流れるように息継ぎもなく龍をナンパするリュミア。
 白龍は首をゆっくりと擡げて彼女を見る。
「……小さき子よ。ごめんなさいね。今はあなたの問いに答えている時間はないのです。私は務めを果たさねばなりません」
「んー? 何? ドラゴンさん忙しい? 何かとってもヤバい感じ?」
「ええ。歪虚が迫って来ていますから」
「んー。そっか。タイミング悪かったかなー。まーいーや。ちょっとだけなら手伝ってあげる。その代わり、終わったらデートしてね?」
「デート、というのが何だかよくわかりませんが……」
「大丈夫! その辺もあたしがちゃんと教えてあげるから! よーし! 約束ー!」
 返答に満足気に頷くリュミア。白龍の足元に見える鮮やかな色。所々赤く染まった羽。
 それが、リーリーの大幻獣の身体であると気付いたノアが慌てて駆け寄る。
「デュンファリさん……! 酷い怪我じゃないですか! 大丈夫ですか?!」
「ああ、ちょっと後れを取ってしまってネ。大丈夫ダヨ」
「全然大丈夫そうに見えないですよ……! 待って下さい。今手当てをしますから。ちょっとこれ借ります!」
 跪くノワ。巫女達が用意したらしき布でリーリーの巨体を押さえる。
 みるみる血に染まる布。深い傷。
 早く止血しないと命に関わる。
 ノワは傷を固定するように布でデュンファリをぐるぐる巻くと、彼の口元に小瓶を差し出す。
「これ、幻獣の身体に特化したお薬です。飲んでみてください」
「君が作ったのかい?」
「はい。まだ試験段階で、効き目があるか分からないですけど……」
 キョロリとこちらを見るデュンファリの黒い円らな目。ハンター達より遥かに大きいのに、愛らしいし怖さは微塵も感じない。
 大幻獣はノワだ差し出した薬を疑う様子もなく、小瓶に口をつけて一気に飲み干してため息をつく。
「……どうですか? やっぱりダメでしたかね……」
「いや、君のお陰で元気が出たヨ。ヒトの子の思いやりというのはとても身体にいいネ。これで戦えそうだ」
「その身体じゃ無理ですの! 死んでしまうですの!」
 ゆっくりと巨体を起こしたリーリーを慌てて押し留めるチョココ。
 こんな深手で戦いに行くなんて死にに行くようなものだ。
 デュンファリは涙目の彼女とノワに穏やかな目線を向ける。
「……君達はいい子だね。世界の『道具』であるはずのボク達にもこうして優しくしてくれる」
「道具だなんてそんな……!」
「……ボクの務めを果たさせてくれ。そうでなければ、ここにいる意味がないんだ」
「デュンファリさま……」
 大幻獣の静かで、そして揺らぎのない決意。
 止めてもきっと彼は戦いに赴くのだろう。
 ――史実は変わらない。でも、このまま見捨てるなんて出来ない。
 もう一度ここに来たという事は、きっと自分達にも何か出来る事があるはずだ……!
「……分かりました。私もお手伝いします」
「行きましょう、デュンファリさま」
 頷きあい、大幻獣を支えるノワとチョココ。
 それに、彼の出陣を待ちわびていたリーリーの一団が続く。


 大神殿の外は、巨体を持つ歪虚の大群と、そして濃密な負のマテリアルが支配していた。
 白龍の結界のお陰か、ハンター達がいる場所は問題ないが……覚醒者でなければ結界の外に長時間立ってはいられまい。
 迫る歪虚。数の暴力とも言える軍勢に立ち向かって行く大型ユニット。
 良く見ると、それを操縦しているのはキューソ達だ。
「ピリカ隊、横列! リーリー隊が来るまで持ち堪えろ!」
 ヒトの号令に合わせて動く大型ユニット。『ピリカ』というのはユニットの名前だろうか。
 聞き覚えのある声に振り返るイスフェリア(ka2088)。その姿に、彼女は目を丸くする。
「似てる……」
「あの者、オイマトと言うたか。……ふむ。あ奴の祖か……?」
 呟く蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
 彼女の目線の先にいるのは、前線で指揮を執る黒髪の男性。
 その姿は、己の良く知るオイマト族の族長に良く似ていた。
 ――この男は、オイマト族の『今』に通じる者なのか?
 ならば……やる事は決まっている。
「……轟く雷、穿つは我が怨敵。一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
 妖しく光る短剣を構えて詠唱する蜜鈴。
 次の瞬間、空を駆ける雷撃。巨人から悲鳴があがる。
「加勢しよる。なに、脆弱な砲台が後ろに居るとでも思えば良いよ」
「何を言っている。早く逃げろ」
「お断りじゃ。お前達だけでは勝ち目はあるまい?」
「……民と白龍を逃がす為の時間稼ぎをする。勝てなくても構わない」
「ほう? なおの事引く訳にはいかぬのう」
 面食らった表情を見せるオイマトににっこりと笑みを返す蜜鈴。
 どうやらこの男は、己の友人と違い表情が豊かであるらしい。
「あやつもこのくらい表情が変われば面白いものを――まあ、詮方なきことか」
 くつりと笑い、もう一撃雷撃を飛ばす蜜鈴。
 そこに、大きな狼に乗った人影とリーリー達がやって来る。
「……こんにちはなのな。『また』逢ったね」
「オイマトさんも頑張っているのですね!」
「お久しぶ……って、そういえば覚えてないですのね……。えーと、わたくし達はお手伝いしに来た正義の味方ですの!」
 闇色のイェジドの背の上で微笑む黒の夢。
 己の相棒たちと共に大幻獣を担ぐようにしてやって来たノワとチョココを見たオイマトは微かに微笑む。
「お前達は……そうか。また精霊様の悪戯か」
「オイマトさん、まさかとは思うけど……覚えてるの?」
「ああ。とはいえ、覚えているのは子供の頃に見た夢だが」
 ――母の仇を取ろうと必死だったあの頃、夢を見た。
 母の仇を討ちに行く夢。そこで出会った人。
 ただの夢とは思えなくて、白龍に話したらこう言われた。

『精霊様の悪戯ですね。違う扉の向こうを覗き見たのでしょう。その夢はきっと意味があるもの。覚えておきなさい……』

「精霊とやらも粋なことをしよるの。……さて、時間もない。オイマトよ。ここは任せて早う行け」
「俺は部隊の指揮を執る役目がある。ここを放り出す訳にはいかん」
「おんし……家族は居るか?」
「は? いや。母を亡くしてからずっと独りだが」
「あー。なおのことじゃ。何としても生き延びて貰わねばならぬ。ほれさっさと行かぬか」
 扇をヒラヒラさせて追い払うような仕草を見せる蜜鈴に口を開きかけたオイマト。
 イスフェリアは紫色の瞳を揺らして言い募る。
「待って。オイマトさん。わたしも、貴方には生き延びて欲しいって思ってるの」
 ――彼は、歪虚に母を奪われた悲しみをずっと抱えて生きて来たのだろう。
 仇を取る。ずっとずっと、この時のために心身を鍛えて、まさに今こそ命をかけて、思いを果たす時だと。
 そう思って彼がこの場に臨んでいる事は重々理解している。
 恐らくイスフェリア自身も、この時代に生きて同じ目に遭っていたら、きっと同じ選択をしていただろうとも。
 それでも。それでもこの人は――ここで終わってはいけないのだ。
「死んでほしくないって思うのはわたしの勝手な気持ちだし、部外者が何を言っているんだって思うだろうけど。でも……」
「ここに残って囮をするくらいなら我輩達でも出来るのな。でも、君にしか出来ない事があるのな」
 言葉を継ぐ黒の夢。穏やかな金色の瞳に白亜の大神殿が映る。
「この場を防ぎきって、神殿にいる民達が逃げ延びる事が出来たとするのな。でも、その後は? 一体誰が彼らを守るのな? 誰が彼らに生きる術を教えるのな」
「そうだよ。歪虚の侵攻は今だけじゃない。この先だってきっと続く。お母さんの仇を取るのはそれからでも遅くないと思うの」
「種として生き残る為――ならば今、彼らを護る事が出来るのは誰? ――我々では出来ないのな。お願いオイマト、生命を繋いで」
 必死なイスフェリア。諭すような黒の夢の囁き。
 この場を生き延びても、苦難が続くかもしれない。
 これは酷く残酷な願いなのかもしれない。
 それでも、繋がっていく未来の為に……。
 ――生きて。
 この場にいる者達の切なる願いに、青年は言葉を無くし……ノワとチョココに支えられていたリーリーの大幻獣は太い両足で大地を踏みしめ、前を見据える。
「オイマト。彼らの言う通りにするといい。ここはボクらが引き受けるヨ」
 続く沈黙。デュンファリの言葉に、オイマトは目を閉じて考え込む。
「……ピリカ隊は後退。俺と共に神殿へ向かう。民の避難誘導に当たれ」
 続いた低い声。
 その決断に、黒の夢は安堵のため息を漏らす。
「うん。それでいいのな」
「……すまない。『母さん』」
「……いいのな。かーさんの言う事はきちんと聞くのな。……すっかり立派な、イイ男になったのな。会えて嬉しかったのな」
 オイマトの言葉に目を見開いた後、微笑む黒の夢。
 かつての少年の頬を撫でて……イスフェリアもぷるぷると首を振る。
「謝る事ないよ。あたし達がそう望んだんだから。こちらこそ無理を言ってごめんなさい。ずっとずっと、無事を祈ってるよ」
「それにしても本当立派になりましたよね。私の薬で泣いてたのになー。あ、お薬1本渡しておきましょうか」
「いや、あれはもういい……」
「ふふふ。オイマトさまなら大丈夫ですの。良き伴侶に出逢えるよう、お祈りしておりますわ」
 懐を探るノワ。目が泳ぐ青年にくすくす笑うチョココ。蜜鈴はオイマトの肩を励ますように叩く。
「……案ずるな。妾達もすぐに戻る。……決して振り返るでないぞ」
「ああ、……ありがとう」
 キューソ達を引き連れ、その場を去る青年。未来を担うその背を見送って――。


 巨人の軍勢と、リーリー達の戦いは熾烈を極めた。
 巨人達と負けぬ程の巨体を誇り、今よりも遥かに強いはずの幻獣達。
 それでも次々と襲い来る歪虚に押され、1匹、また1匹と倒れていく。
「怪我をした子はこちらに!」
 イスフェリアの悲鳴に近い声。前線を維持する為に、怪我したものを癒し、動けなくなったものを後退させ続けている。
 いくら記録とはいえ、誰がが犠牲になっていいはずなんてない――!
 ノワの目に言ったのは巨人と戦う不思議な魔導ユニット。
 ユニットに乗ったキューソ達は、全てが避難誘導に回った訳ではないらしい。
 自分の意思で残ったのだろうか。
 ユニットの中で小さな身体を震わせながら、波のように襲い来る歪虚と戦っている。
 本来、キューソは幻獣の中でも一番の逃げ足の早さを誇り、戦いに向いている訳ではない。
 むしろ臆病であるはずなのだ。
 それなのに、こんなに必死に戦って――。
 あんな子まで頑張っているのに、戦闘が苦手だなんて言っていられない……!!
「さあ、アズさん! いいですか? 戦わなくていいです。走って走って……巨人達をあの切り立った崖まで誘導して落としちゃってください」
「わう!」
「くれぐれも無理はダメですからね! さあ! 行ってらっしゃい!」
 主の号令に従い、弾丸のように走り出す青毛のイェジド。
 黒の夢もまた、黒いイェジドに騎乗し、神殿から巨人を引き離すように誘導を続けている。
 そしてそこから漏れた巨人に、チョココと蜜鈴が火の弾を雨あられと巨人に向けて投げつけていた。
「これだけ身体が大きいとファイアーボールも味方を巻き込む心配がないですの!」
「そうじゃな。遠慮なく全弾打ち込んでやるとしようぞ」
「了解ですの!! アディ! 巨人の足を狙って攻撃ですの!」
 必死に続ける、動けなくする事が目的の攻撃。それは、遅効性の毒のように、じわじわと巨人達を蝕んで――。


「この大神殿はチュプっていう名前なの?」
「そうです。イクタサ様が名づけられました。この奥には大精霊様を祀る祭壇もあるのですよ」
「ふぅーん」
 神殿内に響く白龍の声。それに気のない返事をするリュミア。
 白龍はこの神殿の役割とか、幻獣が大きくなったのはこの神殿の機能の一部とかいう話をしてくれて、それも勿論面白かったけれど。
 彼女にとって、龍の身体を堪能する事の方がもっと重要だった。
「……子供達は皆逃げたでしょうか」
「子供達って辺境の民達のこと? うん。オイマトとキューソ達が連れて行ったみたいだよ」
「そうですか。良かった……。それでは、私は最期の務めを果たすとしましょう」
「……? ドラゴンちゃん、何か身体が光ってるけど何をするの?」
「私の身体に長年ため込んだマテリアルの力で、彼らが住める場所を作ります。……外は負のマテリアルだらけのはずです。このままでは逃げ延びても生きる事が出来ない」
「……それって、ドラゴンちゃんマテリアル放出したら死んじゃうんじゃないの?」
「そうですね。消える事になるでしょうね」
「えー! デートの約束は?!」
「ごめんなさいね。でも、私が消えても、後を継ぐ新たな白い龍が生まれてくるはずです。それが星との約束ですから。……約束は、次の『私』まで持ち越しでお願いできますか?」
「ドラゴンちゃん、また生まれてくるの? ホントに!!? いつ!? どこに!!?」
「ハッキリはわかりませんが、きっと辺境の赤き大地のどこかに」
「そっか! 分かった! 真っ先に会いに行くよ!! ……ドラゴンちゃん、苦しそうだけど大丈夫?」
「……小さき子よ。私の子供達が生きる場所を作る為に、貴女の力を少しだけ分けて戴けますか?」
「うん。いいよ! いまのリュミアちゃんは死んでも死なない無敵もーどですので!」
 しがみついてくるリュミアに目を細める白龍。
 彼女と白龍のマテリアルが交じり合って光となり、一本の柱となる。

 周囲を包む暖かな白い光。数多の巨人を足止めし、血に塗れたデュンファリと蜜鈴にもふわりふわりと舞い降りる。
「この光……白龍か。そう、皆逃げたんだネ。良かったヨ」
「そうか。未来は守れたか……」
 ふう、とため息をつく1匹と1人。そのまま大地に倒れ込む。
「デュンファリさま! しっかりしてください!」
「蜜鈴さんも今お薬出しますから……! イスフェリアさん! 治療を……」
 大幻獣に縋りつくチョココ。ノアの声に、イスフェリアは黙って首を振る。
 ……デュンファリも蜜鈴も致命傷を負っていて、もう手の施しようがなかった。
 ――白龍よ。何故に泣く。妾の為におんしが悲しむ事はない。……妾はおんし等龍を護るを宿命とする者。そして、未来の風を照らす月となる者じゃ。
 案ずる事は無い。未来は繋がれた。希望は、想いは……途絶えはせぬよ。

 光に溶ける蜜鈴の想い。そして白い龍の想いを、黒の夢も感じていた。

 ――ねえ。白龍。こうやって何度も貴女達は星の……ヒトの為に……?
 ――そうです。私達は元々、『星』の一部。『世界』と『神』より切り分けられたもの。
 ――貴女を犠牲にしない方法はないの?
 ――犠牲ではありません。これは約束。私達龍は形は違えど、ヒトを赦し、守り続ける。それはこれからもずっと――だから小さき子よ、悲しまないで。
 ――違う。それは違うのな。悲しんでいるのは貴女自身なのな……!

 そして、リュミアは白龍を抱きしめながら、ずっと彼女に語りかけていた。

 ――大丈夫だよ。
 その行動にはちゃんと意味があった。その想いには意味があった。その命には意味があった。その祈りにも、確かに意味はあった。
 だからあたしたちがここに来る事が出来た。
 時間も、場所も違う。ずっとずーっと遠い場所から。それはとってもすごい事なんだよ。
 もちろん、問題もあるけど。ヒトはちゃんと今でも強く生き続けているから。
 だから――。


 光に埋め尽くされる視界。
 再び目を開けると、ハンター達はハンタースソサエティの本部へ戻って来ていた。
「……ちょっと、死ぬかと思ったぞえ。いや死んでおったか……」
「蜜鈴さん無茶し過ぎですよー! もー! あ、お薬いります?」
「うわあああん!! デュンファリさまーーー!」
「うわあああん!! ドラゴンちゃんーーー!!」
 胸を押さえて起き上がる蜜鈴を支えるノワ。チョココとリュミアの泣き声が本部に木霊する。
「……本当にこれは、記録の再生なのかな?」
「イスフェリアちゃん?」
「だって、オイマトさん覚えていたし……」
 首を傾げる黒の夢に言い淀むイスフェリア。
 ……白龍は『精霊の悪戯』と言っていた。
 これもただの記録で、ハンター達が介入せずとも彼は助かっていたのかもしれないけれど。
 それでも、少しだけ奇跡を……過去を変えるのではく、未来は作り出せるのではないかと願ってしまう――。
 彼女の言葉に頷く黒の夢。聳え立つ神霊樹を見上げる。
 ――現代のこの姿が、龍が自らを犠牲にし続けた結果なのだとしたら。
 星の力を消耗し続けたその先はどうなるのか……。
「……イスフェリアちゃんの願いも、この疑問もいつか何処かで解消出来るといいのな」

 白い龍の記録――それを垣間見た6人の心に、それぞれの何かを残して、彼らはまた進んでいく。

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参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    スカー
    スカー(ka0187unit001
    ユニット|幻獣
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    アディ
    アーデルベルト(ka2449unit001
    ユニット|幻獣
  • ドキドキ実験わんこ
    ノワ(ka3572
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    アズライト
    アズライト(ka3572unit001
    ユニット|幻獣
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ドラゴンハート(本体)
    リュミア・ルクス(ka5783
    人間(紅)|20才|女性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談・雑談卓
黒の夢(ka0187
エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/04/16 00:49:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/04/14 08:33:51