ゲスト
(ka0000)
【王臨】王の帰還
マスター:WTRPGマスター
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
●王の帰還
王女システィーナ・グラハムが番人に預けられたナイフで、一息に、手首を掻き切った。
強烈な痛みと共にどくどくと溢れる血液が、光燐を放つ紋様に注ぎこまれた瞬後――“それ”は、起こった。
空間が“震えた”──否、それはもっと生々しいものだった。
「まさか、この部屋全体が、“鼓動”した……の、ですか?」
古の塔最上階、玉座の間。辺り一帯を、まっさらな光が覆い尽くしていた。前後左右が不覚になるほどの光の世界。そこに、どこか機械的ながらも優しく穏やかな男声が聞こえてきた。
『遺伝子情報の入力を確認。ID登録を完了。ユーザー情報を設定します。……設定完了。起動を開始。術式フロー正常。システム、オールグリーン』
「無事に、起動、したのでしょうか……」
その時になって王女は漸く自覚した。息が切れている。本来定められた者ではない使用者がこれを行使することになったのだ。代償は“血液”だけでは済まなかったのだろう。
『ハロー、マイ・キング。ようこそ、光の王国へ。
ご帰還、心よりお待ち申し上げておりました。さぁ、“王命”をどうぞ』
「あの……わたくしは、王では……」
瞬後、塔が再び激しく揺れた。それは“この広間に最も近しい所に強力な魔砲が叩きつけられた”かの様な衝撃と轟音。玉座に腰かけていても、体がぐらりと傾くほどだ。
「……ッ!」
──騎士たち、ハンターの皆さん。ここに至るまで数え切れないほどの想いがあった。
──古の魔術師が、この装置を未来の誰かに託し、番人さんの想いと共に、わたくしが確かにこれを受け取った。
手指の震えはいつの間にか治まっている。
少女は、つい昨日浴びせられたばかりの大司教の言葉を反芻していた。
『わたくしに立派な王たる能力と実績があるとお思いですか?』
『十分だと思いますが、かように尋ねるようでは御心がまだ足りぬようですな』
──ああ、なんてこと。わたくしは、本当に未熟だった。
そう。この国に、足りなかったのは。
震えそうになる心を叱りつけて、大きく息を吸う。
小さな体で精一杯に胸を張り、少女は朽ちた玉座のひじ掛けを強く強く握りしめた。
「わたくしは……わたくしはっ! この国の“未来の王”、システィーナ・グラハムです!」
光に満ちたまっさらな世界に、心の限りの叫びが木霊する。
それは、少女の底から湧きだした紛うことなき真なる願い。
「いかなる絶望が覆おうとも、わたくしは絶対にこの国を諦めません! ですからお願いです! どうかわたくしたちに、災厄を退ける力をお貸しください!」
『イエス、ユア・マジェスティ。
……ああ、勿論だ。涙を拭いて。さぁ、いくよ。ボクと、この国を守るんだ』
そして、光は急速に魔力を帯び始めた。
◇
体躯から噴出する黒煙の如き負のマテリアルは、瞬くうちにに狂羊の身体を覆い尽くした。
「メ"、エ"、エ"……ッ!!!!」
黒煙はやがて竜巻のように羊の巨躯を中心に渦を巻く。
王国騎士団赤の隊隊長ダンテ・バルカザールが(曰く、満を持して)戦線に躍り出た頃には、既に黒大公はこの有様だった。直属の部下であるジェフリー・ブラックバーンから経緯報告は受けた。それでも、この異変が何を意味するかは定かではない。
「おい、ジェフリー。傲慢ってのは、“限界突破”って超越能力を残してやがるらしい」
「……噂には聞きますね。それが?」
メキ、と。異音が響いた。
戦場一帯の全ての人間が、余りの気味の悪さに視線を上げたほどだ。
「わからねぇか?」
部下の答えなど聞くまでもなかった。茫漠な負のマテリアルが一所に集い、形をなそうとしている。その意味は、覚醒者ならば肌で解ってしまう。
「わかりますよ。嫌でもわかるでしょうよ……」
一陣の風が吹いた。黒煙の中に“何が潜んでいるか”を暴く風だった。
「お出ましだ。これが……豚野郎の、限界超越か」
ダンテは笑った。そこに居たのは、“黒大公”とは余りにかけ離れたモノだった。
「■■■■■■■───ッッッ!!」
黒大公の巨体を更に巨大化したイキモノ。肥大した肉を割って七つの角が突きだし、その鋭利さは見る者の心を刺す。ジェフリーの後方で誰かが呻いた。
「……出鱈目だ。一体、俺たちは今まで“何を相手にしていたのか”と思うほどに」
巨躯に走る複数の小さな亀裂が、何かに反応し、開いた。
──目だ。そいつには、七つの目があった。
ぎょろりとした冷たい目が、王国を、立ちはだかる人間を、見つめている。
あれは、8年前のホロウレイドという“羊が見せた悪夢”の上をゆく。
『僭越ながら申し上げます! 北西上空に捕捉されている黒影ですが、黒大公軍とはまるで形状が異なる新たな歪虚軍であることが判明ッ!!』
上長の舌打ちを、ジェフリーは聞き逃さなかった。
眼前の“暴威”が如何程の存在か、能力の高い覚醒者ほどより具体的に脅威を理解できる。
この場の残存戦力で倒すことなど出来はしない。せいぜい時間稼ぎがいいところだ。
しかし、そこに“新たな、謎の敵歪虚部隊”が現れ、我らが軍に横槍を入れようと言うのだ。
「そいつらの詳報を寄越せッ! 今すぐだッ!!」
『敵は、角・尾・羽を持つ人型。イスルダより次々飛来しています。現状、恐らく二百程度……? まさか、あれは……!?』
敵の接近につれ、その姿がより鮮明になると騎士の声が明確に震えだした。
『敵は……ホロウレイド以前の王国指定全身鎧や、我が騎士団の武器を……身に付けています』
瞬間、全ての騎士がどよめいた。双眼鏡を持つ者が、北西の空を見上げては次々と声を失ってゆく。
「ま、間違いない……あれは、我らの……ッ」
うろたえる騎士らを背に、赤の隊長は苦虫を噛み潰したような顔で唸る。
「チッ、これだから……」
通信機を手にとり、ダンテは息を吸う。
軍を率いる身なればこそ、やるべきことがあるからだ。
『──取り乱すな。敵は異形、すなわち歪虚だ。歪虚とは何だ。……我々の“敵”だ』
「……あ?」
ダンテは、自分より先に何者かが発した通信に気付き、手を止めた。
『皆の戦果により、既に砦へ全軍集結が完了した。これより直ちに白の隊とハンター連合軍を展開する』
その“声”には嫌と言うほど覚えがある。
「まさか……」
『更に、殿下の計らいで我が国が秘蔵していた国防兵器の起動が決定した。それは、我々に怨敵を打ち破る力を与えてくれるだろう。……いいか、相手が何者だろうと怯むな。我々は、世界を守護する“王の剣”だ!』
「あいつ──ッ!!!」
名を呼ぶ必要はない。通信は明確に示していたのだ。
紛れもない、元王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインの“帰還”を。
『──全ての騎士に告げる。総員抜剣ッ! 今こそ、黒大公ベリアルを討伐せよ!!』
刹那、世界をまっさらな光が覆った。
光は一瞬。全ての人々の体を通り抜けて溶け行くそれは、ひどく温かだった。
王女システィーナ・グラハムが番人に預けられたナイフで、一息に、手首を掻き切った。
強烈な痛みと共にどくどくと溢れる血液が、光燐を放つ紋様に注ぎこまれた瞬後――“それ”は、起こった。
空間が“震えた”──否、それはもっと生々しいものだった。
「まさか、この部屋全体が、“鼓動”した……の、ですか?」
古の塔最上階、玉座の間。辺り一帯を、まっさらな光が覆い尽くしていた。前後左右が不覚になるほどの光の世界。そこに、どこか機械的ながらも優しく穏やかな男声が聞こえてきた。
『遺伝子情報の入力を確認。ID登録を完了。ユーザー情報を設定します。……設定完了。起動を開始。術式フロー正常。システム、オールグリーン』
「無事に、起動、したのでしょうか……」
その時になって王女は漸く自覚した。息が切れている。本来定められた者ではない使用者がこれを行使することになったのだ。代償は“血液”だけでは済まなかったのだろう。
『ハロー、マイ・キング。ようこそ、光の王国へ。
ご帰還、心よりお待ち申し上げておりました。さぁ、“王命”をどうぞ』
「あの……わたくしは、王では……」
瞬後、塔が再び激しく揺れた。それは“この広間に最も近しい所に強力な魔砲が叩きつけられた”かの様な衝撃と轟音。玉座に腰かけていても、体がぐらりと傾くほどだ。
「……ッ!」
──騎士たち、ハンターの皆さん。ここに至るまで数え切れないほどの想いがあった。
──古の魔術師が、この装置を未来の誰かに託し、番人さんの想いと共に、わたくしが確かにこれを受け取った。
手指の震えはいつの間にか治まっている。
少女は、つい昨日浴びせられたばかりの大司教の言葉を反芻していた。
『わたくしに立派な王たる能力と実績があるとお思いですか?』
『十分だと思いますが、かように尋ねるようでは御心がまだ足りぬようですな』
──ああ、なんてこと。わたくしは、本当に未熟だった。
そう。この国に、足りなかったのは。
震えそうになる心を叱りつけて、大きく息を吸う。
小さな体で精一杯に胸を張り、少女は朽ちた玉座のひじ掛けを強く強く握りしめた。
「わたくしは……わたくしはっ! この国の“未来の王”、システィーナ・グラハムです!」
光に満ちたまっさらな世界に、心の限りの叫びが木霊する。
それは、少女の底から湧きだした紛うことなき真なる願い。
「いかなる絶望が覆おうとも、わたくしは絶対にこの国を諦めません! ですからお願いです! どうかわたくしたちに、災厄を退ける力をお貸しください!」
『イエス、ユア・マジェスティ。
……ああ、勿論だ。涙を拭いて。さぁ、いくよ。ボクと、この国を守るんだ』
そして、光は急速に魔力を帯び始めた。
◇
体躯から噴出する黒煙の如き負のマテリアルは、瞬くうちにに狂羊の身体を覆い尽くした。
「メ"、エ"、エ"……ッ!!!!」
黒煙はやがて竜巻のように羊の巨躯を中心に渦を巻く。
王国騎士団赤の隊隊長ダンテ・バルカザールが(曰く、満を持して)戦線に躍り出た頃には、既に黒大公はこの有様だった。直属の部下であるジェフリー・ブラックバーンから経緯報告は受けた。それでも、この異変が何を意味するかは定かではない。
「おい、ジェフリー。傲慢ってのは、“限界突破”って超越能力を残してやがるらしい」
「……噂には聞きますね。それが?」
メキ、と。異音が響いた。
戦場一帯の全ての人間が、余りの気味の悪さに視線を上げたほどだ。
「わからねぇか?」
部下の答えなど聞くまでもなかった。茫漠な負のマテリアルが一所に集い、形をなそうとしている。その意味は、覚醒者ならば肌で解ってしまう。
「わかりますよ。嫌でもわかるでしょうよ……」
一陣の風が吹いた。黒煙の中に“何が潜んでいるか”を暴く風だった。
「お出ましだ。これが……豚野郎の、限界超越か」
ダンテは笑った。そこに居たのは、“黒大公”とは余りにかけ離れたモノだった。
「■■■■■■■───ッッッ!!」
黒大公の巨体を更に巨大化したイキモノ。肥大した肉を割って七つの角が突きだし、その鋭利さは見る者の心を刺す。ジェフリーの後方で誰かが呻いた。
「……出鱈目だ。一体、俺たちは今まで“何を相手にしていたのか”と思うほどに」
巨躯に走る複数の小さな亀裂が、何かに反応し、開いた。
──目だ。そいつには、七つの目があった。
ぎょろりとした冷たい目が、王国を、立ちはだかる人間を、見つめている。
あれは、8年前のホロウレイドという“羊が見せた悪夢”の上をゆく。
『僭越ながら申し上げます! 北西上空に捕捉されている黒影ですが、黒大公軍とはまるで形状が異なる新たな歪虚軍であることが判明ッ!!』
上長の舌打ちを、ジェフリーは聞き逃さなかった。
眼前の“暴威”が如何程の存在か、能力の高い覚醒者ほどより具体的に脅威を理解できる。
この場の残存戦力で倒すことなど出来はしない。せいぜい時間稼ぎがいいところだ。
しかし、そこに“新たな、謎の敵歪虚部隊”が現れ、我らが軍に横槍を入れようと言うのだ。
「そいつらの詳報を寄越せッ! 今すぐだッ!!」
『敵は、角・尾・羽を持つ人型。イスルダより次々飛来しています。現状、恐らく二百程度……? まさか、あれは……!?』
敵の接近につれ、その姿がより鮮明になると騎士の声が明確に震えだした。
『敵は……ホロウレイド以前の王国指定全身鎧や、我が騎士団の武器を……身に付けています』
瞬間、全ての騎士がどよめいた。双眼鏡を持つ者が、北西の空を見上げては次々と声を失ってゆく。
「ま、間違いない……あれは、我らの……ッ」
うろたえる騎士らを背に、赤の隊長は苦虫を噛み潰したような顔で唸る。
「チッ、これだから……」
通信機を手にとり、ダンテは息を吸う。
軍を率いる身なればこそ、やるべきことがあるからだ。
『──取り乱すな。敵は異形、すなわち歪虚だ。歪虚とは何だ。……我々の“敵”だ』
「……あ?」
ダンテは、自分より先に何者かが発した通信に気付き、手を止めた。
『皆の戦果により、既に砦へ全軍集結が完了した。これより直ちに白の隊とハンター連合軍を展開する』
その“声”には嫌と言うほど覚えがある。
「まさか……」
『更に、殿下の計らいで我が国が秘蔵していた国防兵器の起動が決定した。それは、我々に怨敵を打ち破る力を与えてくれるだろう。……いいか、相手が何者だろうと怯むな。我々は、世界を守護する“王の剣”だ!』
「あいつ──ッ!!!」
名を呼ぶ必要はない。通信は明確に示していたのだ。
紛れもない、元王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインの“帰還”を。
『──全ての騎士に告げる。総員抜剣ッ! 今こそ、黒大公ベリアルを討伐せよ!!』
刹那、世界をまっさらな光が覆った。
光は一瞬。全ての人々の体を通り抜けて溶け行くそれは、ひどく温かだった。
リプレイ本文
該当リプレイは以下のURLの特設ページで公開されております。
http://www.wtrpg10.com/event/cp029/opening
http://www.wtrpg10.com/event/cp029/opening
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【作戦1 :謎の部隊対応】 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/04/21 08:46:38 |
|
![]() |
選択肢表明卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/04/21 17:51:56 |
|
![]() |
【選択肢2 黒大公討伐】 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/04/19 06:29:19 |
|
![]() |
【選択肢2:黒大公討伐】2卓目 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/04/21 09:49:21 |
|
![]() |
質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/04/20 12:58:37 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/17 21:12:53 |