ゲスト
(ka0000)
【界冥】セキュリティ・オブ・コロシアム
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/27 07:30
- 完成日
- 2017/05/06 03:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ふむ、それはハニーポットじゃな」
ハンターズソサエティで行われるトマーゾ教授との定期通信。ハンター達がエバーグリーンで偵察した結果が報告され、その内容を精査した彼が開口一番に言った言葉がそれだった。
「ハニーポット……? 何のことじゃ」
「まあ端的に言えば囮じゃ。目的を達したと思ったところで不意討ちを仕掛けるのが狙い。そのカスケードとかいう歪虚は随分底意地の悪いヤツのようじゃな」
「歪虚に意地が悪いも何も無いと思うのじゃが」
トマーゾの言葉にナディアは苦笑しながらそう漏らす。
「時にセントラルの“サーバー”はどうやれば元に戻るのじゃ」
「そんなもの簡単な話じゃ。修理すれば治る。最も治したところでカスケードが居る限りどうもならんが。脳味噌まで筋肉の連中が揃っとるかと思ったが、察しは良いようじゃな」
ハンター達が起きた出来事を元に出した結論。それはカスケードがサーバーに寄生している歪虚である、というものだった。つまり、サーバーをコンピューターとして考えれば、それに巣食うウイルス、それがカスケードであった。その仮説をトマーゾ教授は確からしいものとして認めた。しかし、それとカスケードを倒せるかは別の話である。カスケードを倒すためにはセントラルのサーバーを破壊するしか無い。それでは何の意味もない。
「まあその方法はおいおい探ってゆけば良い。トマーゾ、修理に必要なものは何じゃ?」
「他のサーバーからパーツを集めてくること。それも出来る限り多く、な。多く集めれば生きている部分もあるじゃろう。それらを組み合わせれば……」
●
そこは半球形の巨大な施設だった。卵の殻を思わせる白い曲線状の外殻は、既に3分の1程が風化し崩れ落ちている。それにより現れた卵の中身はすり鉢状に形作られた空間だった。その形は古代に剣闘士が闘いを見せた場所、コロッセオを思わせる。
そして奥の方に一本の樹木が生え、その周囲には様々な物体が取り付けられていた。ハンター達が先日見たセントラルのそれに比べればずいぶん小さいが、それでも十分な大きさを誇っている。
「お、こいつはなかなか面白そうじゃーん! せっかく来てくれた俺っちのファンにはたっぷりファンサービスしないとねぇ」
その空間にカスケードの甲高い声が響く。おそらくこの歪虚はサーバー達のネットワークを辿ってこの場所にやってきたのだろう。果たして、その声の残響が空間に漂う中、オートソルジャーたちが現れサーバーの前に立ち並ぶ。
「さて、本命のお二人さん、頼むよ! 俺っちに最高のショーを見せてちょーだいよ! アッヒャヒャヒャヒャヒャ」
カスケードの高笑いの中、他の自動人形とは明らかに違うもの、人に限りなく近い姿のそれが二体、もたれ掛かっていた外壁からゆっくりと身を起こした。
「ふむ、それはハニーポットじゃな」
ハンターズソサエティで行われるトマーゾ教授との定期通信。ハンター達がエバーグリーンで偵察した結果が報告され、その内容を精査した彼が開口一番に言った言葉がそれだった。
「ハニーポット……? 何のことじゃ」
「まあ端的に言えば囮じゃ。目的を達したと思ったところで不意討ちを仕掛けるのが狙い。そのカスケードとかいう歪虚は随分底意地の悪いヤツのようじゃな」
「歪虚に意地が悪いも何も無いと思うのじゃが」
トマーゾの言葉にナディアは苦笑しながらそう漏らす。
「時にセントラルの“サーバー”はどうやれば元に戻るのじゃ」
「そんなもの簡単な話じゃ。修理すれば治る。最も治したところでカスケードが居る限りどうもならんが。脳味噌まで筋肉の連中が揃っとるかと思ったが、察しは良いようじゃな」
ハンター達が起きた出来事を元に出した結論。それはカスケードがサーバーに寄生している歪虚である、というものだった。つまり、サーバーをコンピューターとして考えれば、それに巣食うウイルス、それがカスケードであった。その仮説をトマーゾ教授は確からしいものとして認めた。しかし、それとカスケードを倒せるかは別の話である。カスケードを倒すためにはセントラルのサーバーを破壊するしか無い。それでは何の意味もない。
「まあその方法はおいおい探ってゆけば良い。トマーゾ、修理に必要なものは何じゃ?」
「他のサーバーからパーツを集めてくること。それも出来る限り多く、な。多く集めれば生きている部分もあるじゃろう。それらを組み合わせれば……」
●
そこは半球形の巨大な施設だった。卵の殻を思わせる白い曲線状の外殻は、既に3分の1程が風化し崩れ落ちている。それにより現れた卵の中身はすり鉢状に形作られた空間だった。その形は古代に剣闘士が闘いを見せた場所、コロッセオを思わせる。
そして奥の方に一本の樹木が生え、その周囲には様々な物体が取り付けられていた。ハンター達が先日見たセントラルのそれに比べればずいぶん小さいが、それでも十分な大きさを誇っている。
「お、こいつはなかなか面白そうじゃーん! せっかく来てくれた俺っちのファンにはたっぷりファンサービスしないとねぇ」
その空間にカスケードの甲高い声が響く。おそらくこの歪虚はサーバー達のネットワークを辿ってこの場所にやってきたのだろう。果たして、その声の残響が空間に漂う中、オートソルジャーたちが現れサーバーの前に立ち並ぶ。
「さて、本命のお二人さん、頼むよ! 俺っちに最高のショーを見せてちょーだいよ! アッヒャヒャヒャヒャヒャ」
カスケードの高笑いの中、他の自動人形とは明らかに違うもの、人に限りなく近い姿のそれが二体、もたれ掛かっていた外壁からゆっくりと身を起こした。
リプレイ本文
●
「またもや、異世界で大冒険♪ ですね。必ずパーツをゲットしてきます!」
荘厳さと侘しさを兼ね備えたその建物に歩を進めながら、アシェ-ル(ka2983)はそう楽しげに言った。この世界に転移するのは何度目になるだろう。積み重ねた回数は確かに目的に向け我々を近づけていた。“サーバー”の再生に必要な物を知り、そして。
「……パーツの確保か。専門的なことは分からないが、必要性は理解出来ているつもりだ。尽力させてもらうな」
榊 兵庫(ka0010)の言うとおり、次に必要なのはその再生に必要な物、パーツの確保だった。道のりは短い。
「拾ってくるって……お使いみたいです」
自然と口も軽くなる。程なくして彼らは建物の正門に辿り着いた。アーチ状のゲートはとても大きく、往時は多くの人々が集っていたであろう事を示す。何のための建造物だったのだろうか、思いを巡らせながらゲートをくぐり先へと進んでいった。
「レディース・アーンド・ジェントルメーン! 自分達が惨めに死んでいく側だって知らないオマヌケ挑戦者達がやって来たぜー!」
だが、その中へと入った彼らを出迎えたのは、目に映る侘しい光景とは裏腹に甲高くうるさくがなり立てる声だった。その声の主の名をハンター達は知っている。
「お前がカスタードか! 甘そうな名前しやがって!」
「カスケードだよ! カスケード!」
「この声がカスケードさん、かあ。個性激しいなあ……」
「でも何かお前は食えなさそうだよな。今回は見物か? まぁどっちでもいいさ……邪魔しようがしまいが分捕る事に変わりはないぜ!」
「ハニーポットと賢者の石だか何だか知らないけど、もう引っかからないんだからっ!」
天王寺茜(ka4080)が思わずジト目になる中、テオバルト・グリム(ka1824)の言葉にルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がそう重ねる。彼らの目に映るのは今回の目標。サーバーとそのパーツ達。
「おーっと、そうはイカのナントカ、オマヌケ共にはスッペシャルなこいつらのお出ましだ!」
カスケードのその言葉と共に現れるオート・ソルジャー達、そして。
「ッ! ルビーの姉妹機……」
「ルビーみたいなオートマトン……手強そう、ね」
「サファイアにエメラルドってトコか? ようやっと見っけたと思ったら、こんな形でとはよ……」
大伴 鈴太郎(ka6016)の目に映るのは青と緑のその瞳。ただ、瞬きをしない、ほんの少しの違いが人との差であるそれ。茜が言うとおりオートマトン、彼女達がクリムゾンウェストで出会ったルビーと同様のもの、それが待ち構えていた。
「ルビーの姉妹機か」
「手の込んだプレゼントだこと……貰って帰っちゃう?」
「いずれカスケードの手から解放しよう。今はただ排除するのみだ」
岩井崎 メル(ka0520)の言葉に雨を告げる鳥(ka6258)はそう返す。これを倒さねばサーバーにたどり着けない。ハンター達はそう判断していた。
龍堂 神火(ka5693)は、数ヶ月前の事を思い返していた。聖輝節のあの日、ルビーが眠りにつくその日、彼は彼女に誓っていた。
『それなら、ボクは諦めません。諦めないで……ボクは。じゃなくて、ボクらは……絶対、ルビーさんを一人にはさせませんから』
「諦めない、って答えましたから」
そして彼はデッキを手に取る。
「カスケード……『特等席』で眺めてるといいわ。私達がこの戦いを制して『賞品(パーツ)』を頂いて帰るまでをね」
央崎 遥華(ka5644)はこのコロシアムの一番奥に置かれたサーバーをじっと見ていた。勝負はシンプル、サーバーにたどり着けるか、着けないか、それで決まる。だから。
「紅玉の絆、やってやろうじゃない」
その言葉が戦いのスタートを告げる合図となった。
●
遥華の声と共にピンク色の弾が軌跡を残しながら飛んでいく。アシェールの手には黒く禍々しい輝きを放つ杖。その先端から放たれた弾が自動兵器達のセンサーを反応させていた頃、遥華も詠唱を開始していた。ややあって、オートソルジャー達を包み込むように冷気の嵐が吹き荒れる。そこにピンク色の弾が飛びこみ嵐の中に吸い込まれると、次の瞬間氷の爆発が起きた。
「夜を纏いし魔眼よ。終焉の都より来たれり」
そしてそれだけでは無かった。レインの声と共に彼女の足元に七芒星の魔法陣が浮かび上がる。
「彼の者の影に楔を打ち込まん」
複数個の重力球が浮かび上がり、オート・ソルジャー達を引き寄せ押しつぶしていく。冷気の嵐とともにそれが晴れた時、その中心には少なからぬ損傷を被ったオート・ソルジャー達が転がっていた。
レインはその光景を確認するとすぐに視線を奥に動かす。そこには構えを取ったオートマトン達の姿があった。その魔術は彼女たちを最優先で狙ったのだが、それは既の所でかわされてしまったようだ。しかし落ち込んでいる暇は無い。
晴れた瞬間に榊が、テオが、そして鈴太郎が走り出していく。全力疾走で駆けるその先には構えを取り警戒の姿勢を崩さないオートマトン達。
「支援するわ! 頑張って!」
茜の声とともにマテリアルが放たれ、前を走る三人へと注ぎ込まれていく。そのマテリアルが彼らに力を与える。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法ニンジャパワー!」
さらに、ルンルンは三枚の符を取り出し、キスをした。そしてそれを投げればそれらは三方に分かれ飛んでいく。
「目覚めてみんなのニンジャ力!」
それが前を行く彼らの背にその符が張り付いたかと思うと、大地のマテリアルを集め彼らに力を与えていく。
前方に構えるオートマトン、そこに最初にたどり着いたのはテオだった。駆けて行きながら彼は全身をマテリアルのオーラで纏う。そのまま加速を緩めず走り続けば、オーラが彼の動きを追いかけるように漂い始め、やがてそれは残像と化して彼の肉体を加速させた。
そのスピードのまま彼は手にした刀を振るう。並の刀ではない。驚異的な硬度と重量で切っ先が触れればその先に居るものを圧し切るであろう一振り。それでもって目の前に現れた青い瞳のオートマトンに向けて振り下ろす。だがその切っ先は半身を開いた形でかわされる。勢いを止められずそのまま駆け抜けるテオ。
しかしこれも計算のうちだった。通り過ぎたテオが地面を蹴って向き直れば、そこに見えるのはオートマトンの背面、そしてそこに駆け込んできた鈴太郎の姿だった。
鈴太郎は接近すると牽制のパンチを放つ。軽い一撃をオートマトンは弾くと、すかさずパンチを返してくる。
鈴太郎は両腕を顔の前に上げ受け止める。その手にじんじんと痺れが残る。そこで彼女は顔の前に上げた両拳をそのままの位置に止め、オートマトンの出方を伺うことにした。
一方緑の瞳のオートマトンの元には榊が向かっていた。合わせるようにオートマトンの方もこちらへ向かって走り出す。しかし両者が間合いに入るその前に、突如として水流が巻き起こる。それを産み出したのはメル。オートマトンは加速を止め腕で防ごうとする。かわすには間に合わない。水流が彼女の身体を覆い一気に走り抜ける。ダメージは防いだようだが、水流の勢いがもたらす余韻が残っている。
そこに榊が攻め込む。十文字槍を一つしごいてマテリアルを送り込む。穂先がきらめいたかと思うと、槍の長さを最大限に活かした突きが繰り出される。それを最小限の動きでかわしていくオートマトン。そして身体を低くしてかわしたかと思うと、爆発的な飛び出しとともに一気に間合いを詰めてくる。一瞬のうちに肩口と肘を掴んでいた。
「……すまない。俺も榊流数百年の歴史を些かなりと背負った身だ。そういう組み討ちに対しての備えも嫌というほど覚え込まされたから、な」
だが、そこからどうしてくるのか、それは彼の身体の中に染み付いていた。掴んでくる腕の手首を握り、掴まれた腕を中心に半回転させ逆に腕を取ると、肩口からぶつかって弾き飛ばす。
弾かれたオートマトンは地面に手をついて宙返りし体勢を立て直すが、間合いは再び離れてしまった。この位置は榊の間合いだ。再び槍で攻め立てる榊。そしてそれを弾くのみのオートマトン。この時流れはこちらに向いているかのように思えた。
●
龍堂はゴーグルをかけ直す。戦いのスイッチを入れる。視線の先ではオート・ソルジャー達がもぞもぞと動き出そうとしていた。
手札には五枚。一気に勝負を決める切り札、それにつなぐためのキーカード。条件は揃っている。
「爆ぜろ、ブラストルガ!」
彼がその五枚を投げると、突如として巨大な亀が現れオート・ソルジャー達を押し潰す。いや、その亀の姿は幻影。溶岩の様な甲羅の姿も幻。だが、それが甲羅に隠れた直後に放たれた閃光と爆発は紛れもなく本物だった。このすり鉢状の戦場が光に包まれる。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法五星花! 煌めいて星の花弁☆」
その光が晴れる寸前、追い打ちをかけるべくルンルンが投げた符から放たれた光がもう一度一帯を包み、オート・ソルジャー達の姿を隠す。
しかし、そこから飛び出してくるオート・ソルジャー達があった。茜はそれを見て盾を構えながら前に出る。合わせるようにアシェールも前に出る。
急速に茜の前に迫るオート・ソルジャー。盾で受け止めようとするが、敵の剣の軌道が急速に変わる。フェイントに釣られてしまった彼女の腹部にその切っ先が刺さる。
「また変な動きして……でも2回目なら!」
だがもう引っかからない。次の一撃を受け止めたところで、光の障壁を目の前に展開する。それをかわす事など不可能だった。障壁は電撃を纏い、オート・ソルジャーを弾き飛ばす。
「私に気にせず、むしろ、チャンスです」
そこにアシェールの追撃が放たれる。再びオート・ソルジャー達の元へ向かって飛ぶピンク色の冷気弾。
「我が意を示し穿て」
そしてそこへ突っ込んでいく青白い光の矢。遥華の短い詠唱と共に放たれたそれは冷気弾の軌跡を通り抜け、同時にオート・ソルジャーに着弾する。
もう十分だった。氷の爆発が晴れた後、その後には粉々に砕け散ったオートソルジャー達の残骸が残っていた。
残すはオートマトン。ハンター達は前方に視線を送る。
そこでは榊が強い踏み込みから突きを繰り出していた。それを捌ききれなかったのか、身体を開いて交わすオートマトン。その時ワイヤーが飛んだ。一瞬のうちにオートマトンの腕に絡みつく。
攻撃の起点はその手足。それを止めることを狙いメルが見計らって放ったものだった。
手応えはあった。ワイヤーをしっかり握り押さえ込もうとするメル。だが次の瞬間、彼女の小柄な身体は天高く飛んでいた。
その緑の瞳のオートマトンはワイヤーが絡みついた瞬間、強烈な力で逆に引っ張っていた。そして肩越しに遠心力をかける。結果バランスを崩したメルは腰から地面に叩きつけられる。
「大発見です! この世界では等身大プラレスがブーム! ……ってそんなこと言ってる場合じゃないのです!」
ルンルンは慌てて符を取り出す。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術! 避けようとしたのがうぬの不覚なのです」
符を地面に向かって投げるルンルン。そこにオートマトンは回避してくるはずだった。
一方青い瞳のオートマトンと鈴太郎は互角の攻防を繰り広げていた。交錯する拳。しかしそれはいずれもクリーンヒットすること無く空を切り続ける。
そこにテオが飛ぶ。背後から飛び込み斬りかかる。
だが、彼に待っていたのはカウンターで繰り出された後ろ蹴りだった。左足が腹部に突き刺さり、吹き飛ばされる。
痛撃を食らったテオだったが、それを補うように虹色の矢が飛ぶ。
「流転せよ。流転せよ。不均衡なる力。万色たる清澄。天譴の矢。天理の法より来たりて彼の者を穿て」
レインが放った魔力の矢は脚に刺さる。これでチャンスができたはずだ。
「手加減してる余裕なんてねぇからよ……勘弁しろよな」
果たして、鈴太郎はオートマトンの胸に触れた。
さらにかわそうとする彼女の元にテオがワイヤーを放った。これで避けきれぬようになったはずだ。
「完全にブッ壊れてなきゃ、オメェの修理も頼ンでやっからよ!」
そして鈴太郎は触れた手から一気にマテリアルを送り込む。一発でコアパーツを狙う、そのつもりだった。
緑の瞳のオートマトンの姿は榊の懐にあった。一瞬の運足がルンルンの狙いの裏をついていた。
そのまま彼女は榊の腕を取り左足で跳ね上げる。天地が逆転し、頭から叩きつけられる榊。
さらに彼女は腕を取ったままそこに右足をかけ、軽く捻った。
意識が朦朧とした榊が次に聞いたのは、自分の利き腕の肩が外れる音だった。
鈴太郎が見たものは、同時に自分の脇腹にねじ込まれた彼女の左拳だった。
共に狙おうとしたことは同じ。だがオートマトンにはその次があった。真っ直ぐ繰り出された右拳が鈴太郎の端正な顔の顎先を撃ち抜く。
鈴太郎は二撃目として頭部を狙って同じことをしようとした。だが、その意思の通りに体が動かない。膝が崩れ地面に付く。
次の刹那一同が見たものは、たった一発のパンチで糸の切れた人形の様に崩れ落ち、地面に倒れ伏す鈴太郎の姿だった。
●
メルはここに来て冷徹な判断を下す。想定は崩れた。
「パーツ回収優先! 行くよ!」
腰が痛む中あらんかぎりの声を上げて仲間達に伝える。同時にマテリアルを足の下で圧縮させる。次に見えたのは装甲板とコード、の幻影。それに弾かれてメルの身体は空を舞う。
そして声を聞いた茜は脚にマテリアルを集中させる。程なくして彼女の靴の底から噴出されるマテリアルが彼女の体を押し進めていった。
「榊さん離れて!」
遥華が声を上げ、榊は肩を押さえながら転がるように距離を取る。それと入れ替わるようにブリザードが吹き抜けた。
緑の瞳のオートマトンは宙返りでそれをかわす。しかしこれでハンター達と距離が出来た。アシェールは手前に着弾するように氷の弾を飛ばす。今はこうやって押しとどめるしか無い。
「縛れ、ジャルガ!」
一方青い瞳のオートマトンには龍堂が立ち向かっていた。布石となるカードを出し、そして
「一番の勝利条件には、まだ手が届く……!」
《装火竜ドルガ》。現れた竜の幻影が炎の吐息を吐き一面を焦がす。オートマトンはそれをかわしつつテオを追いかけようとしたが、その時地面から赤熱する蛇の幻影が現れ彼女の脚に絡みついた。
サーバーの元へ飛んでいったメルの元に茜が飛び込んできた。
「……うーん、ココとココ、あとこの奥の……」
猶予は無い。早速見繕い、回収を始める茜とメル。その時だった。
「はーい! ざんねーん! それは罠でしたー!」
二人の頭上からオートスパイダーが落ちてくる。
「そんなことだろうと思ったよ」
しかし、スパイダーの爪が二人に食い込む前に、スパイダーの体に刃が食い込んでいた。垂直の壁面を駆け抜け、ここに飛び込んできたテオがそれを食い止めていた。
「あら残念。でもそんなことして大丈夫なの?」
青い瞳のオートマトンは龍堂の結界によって止められていたが、それも僅かなことだった。程なく結界から脚を外した彼女はハンター達を殲滅すべく動く……。
「……って何やってんの?!」
だがカスケードにも誤算があった。彼女は突っ伏したままの鈴太郎の方を向き構えていた。
「……オレは……まだやれる……」
その時、鈴太郎の体が小刻みに動き始めた。どれだけの時だったのだろう。一発で脳を揺らされダウンしてしまったが、決着のゴングはまだ鳴っていない。震える膝に気合を入れ立ち上がる。
そこに繰り出されるオートマトンのラッシュ。それをガードを固めて耐え抜き、反撃を打ち返す鈴太郎。二人が繰り広げる殴り合いが、ほんの少しだけ好機を産み出していた。
集められるだけのパーツを詰め込んでいくハンター達。
「カスケードッ! オレはテメェみてぇな自分だけ安全なとっから喧嘩するヤツが一番嫌えなンだよ! 最後にはゼッテー泣き入れさせてやっから覚悟しとけ!」
鈴太郎の怒りの声もカスケードには届いていなかった。なぜなら。
「ああもう! これだから中古品は! もうこうなったら……」
「!? 逃げて!」
メルが叫ぶ。次の瞬間テオによって弾き返されていたオートマトンが空中で爆発し、柱の一つを破壊していた。それは程なくして、建物全体が崩落する事を意味していた。
●
「みんな大丈夫?」
「帰るまでがえんs……じゃなくて、冒険ですから」
まだ砂埃が舞うその場所で、辛くも脱出を終えたハンター達が集っていた。
「大伴さんは?」
「あそこだ」
そこには仰向けに倒れていた鈴太郎の姿があった。上には青い瞳のオートマトンだったものが覆いかぶさっている。彼女は腕一本を犠牲に鈴太郎を護ってくれたというのか。そうとしか思えない光景だった。
あれだけ激しく戦っていたのが嘘のように、オートマトンは何の反応も示さない。
「……クソッ!」
狙いの半分も達成できたかどうか。とても成功を喜ぶことはできなかった。
「……彼女も貰って帰ろう」
「……こうなることも知っていたでしょうから後で確認します……念のためです」
ただ、代わりに手に入れた動かぬオートマトンが何かを伝えてくれることを信じるしか無かった。
「またもや、異世界で大冒険♪ ですね。必ずパーツをゲットしてきます!」
荘厳さと侘しさを兼ね備えたその建物に歩を進めながら、アシェ-ル(ka2983)はそう楽しげに言った。この世界に転移するのは何度目になるだろう。積み重ねた回数は確かに目的に向け我々を近づけていた。“サーバー”の再生に必要な物を知り、そして。
「……パーツの確保か。専門的なことは分からないが、必要性は理解出来ているつもりだ。尽力させてもらうな」
榊 兵庫(ka0010)の言うとおり、次に必要なのはその再生に必要な物、パーツの確保だった。道のりは短い。
「拾ってくるって……お使いみたいです」
自然と口も軽くなる。程なくして彼らは建物の正門に辿り着いた。アーチ状のゲートはとても大きく、往時は多くの人々が集っていたであろう事を示す。何のための建造物だったのだろうか、思いを巡らせながらゲートをくぐり先へと進んでいった。
「レディース・アーンド・ジェントルメーン! 自分達が惨めに死んでいく側だって知らないオマヌケ挑戦者達がやって来たぜー!」
だが、その中へと入った彼らを出迎えたのは、目に映る侘しい光景とは裏腹に甲高くうるさくがなり立てる声だった。その声の主の名をハンター達は知っている。
「お前がカスタードか! 甘そうな名前しやがって!」
「カスケードだよ! カスケード!」
「この声がカスケードさん、かあ。個性激しいなあ……」
「でも何かお前は食えなさそうだよな。今回は見物か? まぁどっちでもいいさ……邪魔しようがしまいが分捕る事に変わりはないぜ!」
「ハニーポットと賢者の石だか何だか知らないけど、もう引っかからないんだからっ!」
天王寺茜(ka4080)が思わずジト目になる中、テオバルト・グリム(ka1824)の言葉にルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がそう重ねる。彼らの目に映るのは今回の目標。サーバーとそのパーツ達。
「おーっと、そうはイカのナントカ、オマヌケ共にはスッペシャルなこいつらのお出ましだ!」
カスケードのその言葉と共に現れるオート・ソルジャー達、そして。
「ッ! ルビーの姉妹機……」
「ルビーみたいなオートマトン……手強そう、ね」
「サファイアにエメラルドってトコか? ようやっと見っけたと思ったら、こんな形でとはよ……」
大伴 鈴太郎(ka6016)の目に映るのは青と緑のその瞳。ただ、瞬きをしない、ほんの少しの違いが人との差であるそれ。茜が言うとおりオートマトン、彼女達がクリムゾンウェストで出会ったルビーと同様のもの、それが待ち構えていた。
「ルビーの姉妹機か」
「手の込んだプレゼントだこと……貰って帰っちゃう?」
「いずれカスケードの手から解放しよう。今はただ排除するのみだ」
岩井崎 メル(ka0520)の言葉に雨を告げる鳥(ka6258)はそう返す。これを倒さねばサーバーにたどり着けない。ハンター達はそう判断していた。
龍堂 神火(ka5693)は、数ヶ月前の事を思い返していた。聖輝節のあの日、ルビーが眠りにつくその日、彼は彼女に誓っていた。
『それなら、ボクは諦めません。諦めないで……ボクは。じゃなくて、ボクらは……絶対、ルビーさんを一人にはさせませんから』
「諦めない、って答えましたから」
そして彼はデッキを手に取る。
「カスケード……『特等席』で眺めてるといいわ。私達がこの戦いを制して『賞品(パーツ)』を頂いて帰るまでをね」
央崎 遥華(ka5644)はこのコロシアムの一番奥に置かれたサーバーをじっと見ていた。勝負はシンプル、サーバーにたどり着けるか、着けないか、それで決まる。だから。
「紅玉の絆、やってやろうじゃない」
その言葉が戦いのスタートを告げる合図となった。
●
遥華の声と共にピンク色の弾が軌跡を残しながら飛んでいく。アシェールの手には黒く禍々しい輝きを放つ杖。その先端から放たれた弾が自動兵器達のセンサーを反応させていた頃、遥華も詠唱を開始していた。ややあって、オートソルジャー達を包み込むように冷気の嵐が吹き荒れる。そこにピンク色の弾が飛びこみ嵐の中に吸い込まれると、次の瞬間氷の爆発が起きた。
「夜を纏いし魔眼よ。終焉の都より来たれり」
そしてそれだけでは無かった。レインの声と共に彼女の足元に七芒星の魔法陣が浮かび上がる。
「彼の者の影に楔を打ち込まん」
複数個の重力球が浮かび上がり、オート・ソルジャー達を引き寄せ押しつぶしていく。冷気の嵐とともにそれが晴れた時、その中心には少なからぬ損傷を被ったオート・ソルジャー達が転がっていた。
レインはその光景を確認するとすぐに視線を奥に動かす。そこには構えを取ったオートマトン達の姿があった。その魔術は彼女たちを最優先で狙ったのだが、それは既の所でかわされてしまったようだ。しかし落ち込んでいる暇は無い。
晴れた瞬間に榊が、テオが、そして鈴太郎が走り出していく。全力疾走で駆けるその先には構えを取り警戒の姿勢を崩さないオートマトン達。
「支援するわ! 頑張って!」
茜の声とともにマテリアルが放たれ、前を走る三人へと注ぎ込まれていく。そのマテリアルが彼らに力を与える。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法ニンジャパワー!」
さらに、ルンルンは三枚の符を取り出し、キスをした。そしてそれを投げればそれらは三方に分かれ飛んでいく。
「目覚めてみんなのニンジャ力!」
それが前を行く彼らの背にその符が張り付いたかと思うと、大地のマテリアルを集め彼らに力を与えていく。
前方に構えるオートマトン、そこに最初にたどり着いたのはテオだった。駆けて行きながら彼は全身をマテリアルのオーラで纏う。そのまま加速を緩めず走り続けば、オーラが彼の動きを追いかけるように漂い始め、やがてそれは残像と化して彼の肉体を加速させた。
そのスピードのまま彼は手にした刀を振るう。並の刀ではない。驚異的な硬度と重量で切っ先が触れればその先に居るものを圧し切るであろう一振り。それでもって目の前に現れた青い瞳のオートマトンに向けて振り下ろす。だがその切っ先は半身を開いた形でかわされる。勢いを止められずそのまま駆け抜けるテオ。
しかしこれも計算のうちだった。通り過ぎたテオが地面を蹴って向き直れば、そこに見えるのはオートマトンの背面、そしてそこに駆け込んできた鈴太郎の姿だった。
鈴太郎は接近すると牽制のパンチを放つ。軽い一撃をオートマトンは弾くと、すかさずパンチを返してくる。
鈴太郎は両腕を顔の前に上げ受け止める。その手にじんじんと痺れが残る。そこで彼女は顔の前に上げた両拳をそのままの位置に止め、オートマトンの出方を伺うことにした。
一方緑の瞳のオートマトンの元には榊が向かっていた。合わせるようにオートマトンの方もこちらへ向かって走り出す。しかし両者が間合いに入るその前に、突如として水流が巻き起こる。それを産み出したのはメル。オートマトンは加速を止め腕で防ごうとする。かわすには間に合わない。水流が彼女の身体を覆い一気に走り抜ける。ダメージは防いだようだが、水流の勢いがもたらす余韻が残っている。
そこに榊が攻め込む。十文字槍を一つしごいてマテリアルを送り込む。穂先がきらめいたかと思うと、槍の長さを最大限に活かした突きが繰り出される。それを最小限の動きでかわしていくオートマトン。そして身体を低くしてかわしたかと思うと、爆発的な飛び出しとともに一気に間合いを詰めてくる。一瞬のうちに肩口と肘を掴んでいた。
「……すまない。俺も榊流数百年の歴史を些かなりと背負った身だ。そういう組み討ちに対しての備えも嫌というほど覚え込まされたから、な」
だが、そこからどうしてくるのか、それは彼の身体の中に染み付いていた。掴んでくる腕の手首を握り、掴まれた腕を中心に半回転させ逆に腕を取ると、肩口からぶつかって弾き飛ばす。
弾かれたオートマトンは地面に手をついて宙返りし体勢を立て直すが、間合いは再び離れてしまった。この位置は榊の間合いだ。再び槍で攻め立てる榊。そしてそれを弾くのみのオートマトン。この時流れはこちらに向いているかのように思えた。
●
龍堂はゴーグルをかけ直す。戦いのスイッチを入れる。視線の先ではオート・ソルジャー達がもぞもぞと動き出そうとしていた。
手札には五枚。一気に勝負を決める切り札、それにつなぐためのキーカード。条件は揃っている。
「爆ぜろ、ブラストルガ!」
彼がその五枚を投げると、突如として巨大な亀が現れオート・ソルジャー達を押し潰す。いや、その亀の姿は幻影。溶岩の様な甲羅の姿も幻。だが、それが甲羅に隠れた直後に放たれた閃光と爆発は紛れもなく本物だった。このすり鉢状の戦場が光に包まれる。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法五星花! 煌めいて星の花弁☆」
その光が晴れる寸前、追い打ちをかけるべくルンルンが投げた符から放たれた光がもう一度一帯を包み、オート・ソルジャー達の姿を隠す。
しかし、そこから飛び出してくるオート・ソルジャー達があった。茜はそれを見て盾を構えながら前に出る。合わせるようにアシェールも前に出る。
急速に茜の前に迫るオート・ソルジャー。盾で受け止めようとするが、敵の剣の軌道が急速に変わる。フェイントに釣られてしまった彼女の腹部にその切っ先が刺さる。
「また変な動きして……でも2回目なら!」
だがもう引っかからない。次の一撃を受け止めたところで、光の障壁を目の前に展開する。それをかわす事など不可能だった。障壁は電撃を纏い、オート・ソルジャーを弾き飛ばす。
「私に気にせず、むしろ、チャンスです」
そこにアシェールの追撃が放たれる。再びオート・ソルジャー達の元へ向かって飛ぶピンク色の冷気弾。
「我が意を示し穿て」
そしてそこへ突っ込んでいく青白い光の矢。遥華の短い詠唱と共に放たれたそれは冷気弾の軌跡を通り抜け、同時にオート・ソルジャーに着弾する。
もう十分だった。氷の爆発が晴れた後、その後には粉々に砕け散ったオートソルジャー達の残骸が残っていた。
残すはオートマトン。ハンター達は前方に視線を送る。
そこでは榊が強い踏み込みから突きを繰り出していた。それを捌ききれなかったのか、身体を開いて交わすオートマトン。その時ワイヤーが飛んだ。一瞬のうちにオートマトンの腕に絡みつく。
攻撃の起点はその手足。それを止めることを狙いメルが見計らって放ったものだった。
手応えはあった。ワイヤーをしっかり握り押さえ込もうとするメル。だが次の瞬間、彼女の小柄な身体は天高く飛んでいた。
その緑の瞳のオートマトンはワイヤーが絡みついた瞬間、強烈な力で逆に引っ張っていた。そして肩越しに遠心力をかける。結果バランスを崩したメルは腰から地面に叩きつけられる。
「大発見です! この世界では等身大プラレスがブーム! ……ってそんなこと言ってる場合じゃないのです!」
ルンルンは慌てて符を取り出す。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術! 避けようとしたのがうぬの不覚なのです」
符を地面に向かって投げるルンルン。そこにオートマトンは回避してくるはずだった。
一方青い瞳のオートマトンと鈴太郎は互角の攻防を繰り広げていた。交錯する拳。しかしそれはいずれもクリーンヒットすること無く空を切り続ける。
そこにテオが飛ぶ。背後から飛び込み斬りかかる。
だが、彼に待っていたのはカウンターで繰り出された後ろ蹴りだった。左足が腹部に突き刺さり、吹き飛ばされる。
痛撃を食らったテオだったが、それを補うように虹色の矢が飛ぶ。
「流転せよ。流転せよ。不均衡なる力。万色たる清澄。天譴の矢。天理の法より来たりて彼の者を穿て」
レインが放った魔力の矢は脚に刺さる。これでチャンスができたはずだ。
「手加減してる余裕なんてねぇからよ……勘弁しろよな」
果たして、鈴太郎はオートマトンの胸に触れた。
さらにかわそうとする彼女の元にテオがワイヤーを放った。これで避けきれぬようになったはずだ。
「完全にブッ壊れてなきゃ、オメェの修理も頼ンでやっからよ!」
そして鈴太郎は触れた手から一気にマテリアルを送り込む。一発でコアパーツを狙う、そのつもりだった。
緑の瞳のオートマトンの姿は榊の懐にあった。一瞬の運足がルンルンの狙いの裏をついていた。
そのまま彼女は榊の腕を取り左足で跳ね上げる。天地が逆転し、頭から叩きつけられる榊。
さらに彼女は腕を取ったままそこに右足をかけ、軽く捻った。
意識が朦朧とした榊が次に聞いたのは、自分の利き腕の肩が外れる音だった。
鈴太郎が見たものは、同時に自分の脇腹にねじ込まれた彼女の左拳だった。
共に狙おうとしたことは同じ。だがオートマトンにはその次があった。真っ直ぐ繰り出された右拳が鈴太郎の端正な顔の顎先を撃ち抜く。
鈴太郎は二撃目として頭部を狙って同じことをしようとした。だが、その意思の通りに体が動かない。膝が崩れ地面に付く。
次の刹那一同が見たものは、たった一発のパンチで糸の切れた人形の様に崩れ落ち、地面に倒れ伏す鈴太郎の姿だった。
●
メルはここに来て冷徹な判断を下す。想定は崩れた。
「パーツ回収優先! 行くよ!」
腰が痛む中あらんかぎりの声を上げて仲間達に伝える。同時にマテリアルを足の下で圧縮させる。次に見えたのは装甲板とコード、の幻影。それに弾かれてメルの身体は空を舞う。
そして声を聞いた茜は脚にマテリアルを集中させる。程なくして彼女の靴の底から噴出されるマテリアルが彼女の体を押し進めていった。
「榊さん離れて!」
遥華が声を上げ、榊は肩を押さえながら転がるように距離を取る。それと入れ替わるようにブリザードが吹き抜けた。
緑の瞳のオートマトンは宙返りでそれをかわす。しかしこれでハンター達と距離が出来た。アシェールは手前に着弾するように氷の弾を飛ばす。今はこうやって押しとどめるしか無い。
「縛れ、ジャルガ!」
一方青い瞳のオートマトンには龍堂が立ち向かっていた。布石となるカードを出し、そして
「一番の勝利条件には、まだ手が届く……!」
《装火竜ドルガ》。現れた竜の幻影が炎の吐息を吐き一面を焦がす。オートマトンはそれをかわしつつテオを追いかけようとしたが、その時地面から赤熱する蛇の幻影が現れ彼女の脚に絡みついた。
サーバーの元へ飛んでいったメルの元に茜が飛び込んできた。
「……うーん、ココとココ、あとこの奥の……」
猶予は無い。早速見繕い、回収を始める茜とメル。その時だった。
「はーい! ざんねーん! それは罠でしたー!」
二人の頭上からオートスパイダーが落ちてくる。
「そんなことだろうと思ったよ」
しかし、スパイダーの爪が二人に食い込む前に、スパイダーの体に刃が食い込んでいた。垂直の壁面を駆け抜け、ここに飛び込んできたテオがそれを食い止めていた。
「あら残念。でもそんなことして大丈夫なの?」
青い瞳のオートマトンは龍堂の結界によって止められていたが、それも僅かなことだった。程なく結界から脚を外した彼女はハンター達を殲滅すべく動く……。
「……って何やってんの?!」
だがカスケードにも誤算があった。彼女は突っ伏したままの鈴太郎の方を向き構えていた。
「……オレは……まだやれる……」
その時、鈴太郎の体が小刻みに動き始めた。どれだけの時だったのだろう。一発で脳を揺らされダウンしてしまったが、決着のゴングはまだ鳴っていない。震える膝に気合を入れ立ち上がる。
そこに繰り出されるオートマトンのラッシュ。それをガードを固めて耐え抜き、反撃を打ち返す鈴太郎。二人が繰り広げる殴り合いが、ほんの少しだけ好機を産み出していた。
集められるだけのパーツを詰め込んでいくハンター達。
「カスケードッ! オレはテメェみてぇな自分だけ安全なとっから喧嘩するヤツが一番嫌えなンだよ! 最後にはゼッテー泣き入れさせてやっから覚悟しとけ!」
鈴太郎の怒りの声もカスケードには届いていなかった。なぜなら。
「ああもう! これだから中古品は! もうこうなったら……」
「!? 逃げて!」
メルが叫ぶ。次の瞬間テオによって弾き返されていたオートマトンが空中で爆発し、柱の一つを破壊していた。それは程なくして、建物全体が崩落する事を意味していた。
●
「みんな大丈夫?」
「帰るまでがえんs……じゃなくて、冒険ですから」
まだ砂埃が舞うその場所で、辛くも脱出を終えたハンター達が集っていた。
「大伴さんは?」
「あそこだ」
そこには仰向けに倒れていた鈴太郎の姿があった。上には青い瞳のオートマトンだったものが覆いかぶさっている。彼女は腕一本を犠牲に鈴太郎を護ってくれたというのか。そうとしか思えない光景だった。
あれだけ激しく戦っていたのが嘘のように、オートマトンは何の反応も示さない。
「……クソッ!」
狙いの半分も達成できたかどうか。とても成功を喜ぶことはできなかった。
「……彼女も貰って帰ろう」
「……こうなることも知っていたでしょうから後で確認します……念のためです」
ただ、代わりに手に入れた動かぬオートマトンが何かを伝えてくれることを信じるしか無かった。
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相談卓 アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/04/27 06:44:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/26 10:18:41 |
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質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/04/25 07:47:08 |