ゲスト
(ka0000)
おるすばんキラン、謎を解く
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/28 22:00
- 完成日
- 2017/05/03 21:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
キラン、という名の男がいる。
グラズヘイム王国の王都・イルダーナの片隅に施設をかまえる「空の研究所」の所員で、もともとは医者である。
キラン、という名は輝嵐、と書き、字面からわかるように、東方の出身であるらしい。
年齢は三十半ば。落ち着きのない言動からか、ひとまわりは若く見られることが多い。
だが。
それは今回、一切関係がない。
キランの髪が蛍光色の黄色であることも、髪型が果物のヘタのように逆立っていることも、彼が今からしようとしていることには何の関係性も持たない。
端的に言おう。
キランは、暇であった。
繰り返す。
キランは、暇であった。
「るすばん飽きたーーーーー!!!」
現在、「空の研究所」の所長であるアメリア・マティーナは、王国の大事にかかわる仕事のために不在にしていた。本当なら、もう帰ってきてもいい頃なのだが、いろいろとトラブル続きで引き留められているらしい。その間、唯一の所員であるキランが研究所を任されているのだが。
「特に抱えている仕事はないし、薬のストック作りまくっちゃったし、新しい研究をするためには王都を出て材料を探すところからやらなきゃならんし……」
要するに、やることがないのである。事務仕事などを請け負ってくれている青年・スバルには、ちょうどいいから、と休暇が与えられており、文字通り、キランはひとりぼっちでおるすばん、であった。いい年こいた男が、おるすばん。
飽きた、と叫んでしまってから、さすがに大人げなかったか、と反省したキランは、仕方がないから掃除でもしよう、と、まだたいして汚れているわけでもない研究所の清掃にとりかかった。
すると。
「……ん?」
書棚の隅に、四つ折りにされた小さな紙片を見つけた。新しいものではない、黄色く変色している。しかしたいして古くもないようだ、破れているところはない。そっと開いてみると。
「なーんだこりゃ……」
その紙には、青いインクでこのようなことが書かれていた。
『アメンボにあってトンボになく、
特盛りにあって大盛りになく、
投票にあって立候補になく、
破裂にはあって分裂になく、
道行きにはあって道草にはない』
「むむむ、暗号か、それとも呪文か……?」
キランは眉間に皺を寄せた。
アメリアの字ではない、ということはわかる。だが、それでは誰が書いたものか、となると特に心当たりはなかった。
「うーん」
首をひねるうちに、キランの頭にはいい考えが浮かんできた。紙片に書かれたことの意味が分かったわけではない。もっと、悪知恵が働いたのだ。研究所内にはキランひとりしかいないというのに、大げさに声を張り上げる。
「うーむ、難問だなあ。どんな重大な謎が隠されているんだろうなあ。きっと、素晴らしい魔法のヒントになるに違いないぞお。俺も研究員としてこの謎に挑戦しなくてはなあ。しかし困ったなあ。俺の知恵だけではどうにもならなさそうだ。難問だなあ、なーんも浮かばん、なんつってー!」
そしてわざとらしく、ぽん、と手を打ち鳴らした。
「そうだ、こんなときにこそ、ハンターに助力を願おうではないか! うん、そうしよう、そうしよう!」
キランは善は急げ、とハンターへの依頼に走った。ついでに何か美味しいお茶菓子でも、などと思いながら。
繰り返す。
キランは、暇であった。
グラズヘイム王国の王都・イルダーナの片隅に施設をかまえる「空の研究所」の所員で、もともとは医者である。
キラン、という名は輝嵐、と書き、字面からわかるように、東方の出身であるらしい。
年齢は三十半ば。落ち着きのない言動からか、ひとまわりは若く見られることが多い。
だが。
それは今回、一切関係がない。
キランの髪が蛍光色の黄色であることも、髪型が果物のヘタのように逆立っていることも、彼が今からしようとしていることには何の関係性も持たない。
端的に言おう。
キランは、暇であった。
繰り返す。
キランは、暇であった。
「るすばん飽きたーーーーー!!!」
現在、「空の研究所」の所長であるアメリア・マティーナは、王国の大事にかかわる仕事のために不在にしていた。本当なら、もう帰ってきてもいい頃なのだが、いろいろとトラブル続きで引き留められているらしい。その間、唯一の所員であるキランが研究所を任されているのだが。
「特に抱えている仕事はないし、薬のストック作りまくっちゃったし、新しい研究をするためには王都を出て材料を探すところからやらなきゃならんし……」
要するに、やることがないのである。事務仕事などを請け負ってくれている青年・スバルには、ちょうどいいから、と休暇が与えられており、文字通り、キランはひとりぼっちでおるすばん、であった。いい年こいた男が、おるすばん。
飽きた、と叫んでしまってから、さすがに大人げなかったか、と反省したキランは、仕方がないから掃除でもしよう、と、まだたいして汚れているわけでもない研究所の清掃にとりかかった。
すると。
「……ん?」
書棚の隅に、四つ折りにされた小さな紙片を見つけた。新しいものではない、黄色く変色している。しかしたいして古くもないようだ、破れているところはない。そっと開いてみると。
「なーんだこりゃ……」
その紙には、青いインクでこのようなことが書かれていた。
『アメンボにあってトンボになく、
特盛りにあって大盛りになく、
投票にあって立候補になく、
破裂にはあって分裂になく、
道行きにはあって道草にはない』
「むむむ、暗号か、それとも呪文か……?」
キランは眉間に皺を寄せた。
アメリアの字ではない、ということはわかる。だが、それでは誰が書いたものか、となると特に心当たりはなかった。
「うーん」
首をひねるうちに、キランの頭にはいい考えが浮かんできた。紙片に書かれたことの意味が分かったわけではない。もっと、悪知恵が働いたのだ。研究所内にはキランひとりしかいないというのに、大げさに声を張り上げる。
「うーむ、難問だなあ。どんな重大な謎が隠されているんだろうなあ。きっと、素晴らしい魔法のヒントになるに違いないぞお。俺も研究員としてこの謎に挑戦しなくてはなあ。しかし困ったなあ。俺の知恵だけではどうにもならなさそうだ。難問だなあ、なーんも浮かばん、なんつってー!」
そしてわざとらしく、ぽん、と手を打ち鳴らした。
「そうだ、こんなときにこそ、ハンターに助力を願おうではないか! うん、そうしよう、そうしよう!」
キランは善は急げ、とハンターへの依頼に走った。ついでに何か美味しいお茶菓子でも、などと思いながら。
繰り返す。
キランは、暇であった。
リプレイ本文
ティータイムとするのにぴったりな、穏やかな午後だった。集められたハンターたちが訪れた「空の研究所」で待ち構えていたのは、まるで少年のように目を輝かせた男・キランであった。白衣を着て、真っ黄色の髪を果物のヘタのように逆立てたインパクトのある外見に皆、一瞬たじろいだが、満面の笑みで歓迎する彼の陽気さゆえに、戸惑いはすぐに消えて打ち解けた。
「空の研究所へようこそー! 来てくれてありがとうなあ!」
「お茶菓子のお誘いに、心動かされて」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が悪戯っぽい笑みでキランの挨拶に応じると、キランはますますにこにこと笑みを深くした。
「うんうん、お茶菓子、用意してあるぞ! どうぞこちらへ!」
キランはハンターたちを、研究所の中で一番広い部屋へ通した。研究室も会議室も応接室も兼ねた部屋である。大きなテーブルがあるのはここしかないのだ。洋菓子の箱や果物のカゴなどがテーブルの上を華やかに彩っていた。
「凄いですね。美味しそう。あ、私も果物とお煎餅を持ってきましたよ」
ソラス(ka6581)がそう言って持ってきたものを取り出すと、それを皮切りに、皆、持参したものや先に買い出しをしていたらしいものをテーブルに出し始めた。
「いやあ、皆悪いなあ、ありがとうなあ。とにかく暇でさ、おるすばん」
へへへ、と頭をかくキランに、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が神妙な顔をして言う。
「おるすばんを甘く見てはいけない。留守番を任されるということは不在間の責任を負うという事。研究所に何らかの有事が転がり込んできた際に頼れるのはキランだけ。そして研究所にあるもの全ての管理責任を持つ。これを一人に任されているということは信頼されとることの証じゃよ? 下手なことはしないだろうと」
「その通りだな……申し訳ない」
至極もっともなレーヴェのセリフに、キランはしゅんとして肩をすくめた。それを見て、レーヴェはにやりと笑う。
「なーんてな。今日は気楽にやろう。ポテチなんかも如何か? クッキーもあるぞ」
厳しい言葉をさらっと茶化して菓子を出すと、キランは一瞬ぽかんとしてからハハハッ、と笑って礼を言った。その隣で、小宮・千秋(ka6272)は茶葉を取り出す。
「では私はお茶をいれまーす!」
「台所は借りられるのかしら、パイくらいなら作れるわ?」
エーミが果物を手に取ってそう言う。
「料理までしてくれるのか! 台所はその奥だ、好きに使ってくれ」
うきうきと声を弾ませるキランに、ところで、と声をかけたのはナタナエル(ka3884)だ。
「何か解いて欲しい謎がある、って聞いて来たんだけど」
「謎解き……、探偵物の小説も嗜んでいる私としては興味がありますね」
メアリ・ロイド(ka6633)も身を乗り出した。
「うむ! そうなんだよ、これが難問でなあ」
キランは大げさに頷くと、白衣のポケットから問題の紙片を取り出したのだった。
お茶やお菓子を揃え、全員がテーブルを囲んで腰を落ち着けてから、キランは紙片を広げて見せた。ハンターたちが一斉にそれを覗きこむ。
「ほむー、アメンボにあってトンボにないものですかー。他にも、特盛りにあって大盛りになく、投票にあって立候補になく、破裂にはあって分裂になく、道行きにはあって道草にはないーと続きましてー。まさに謎ですねー」
紙片に書かれた文字を千秋が読み上げて唸る。他の面々も紙を覗き込んで謎を解きにかかったが、さして悩む様子を見せるものはなかった。
「ああ、なるほどわかったわ。わかってしまったわ」
レーヴェが呟くように言うと、数名が笑顔で頷いた。途端に、キランが驚く。
「えっ、マジで!? そんなすぐわかるのか!? すげえな、ハンターってやつは!! こんなのハンターン、ってか! ……今のは、ハンターと簡単、をかけたシャレのつもりなんだが……、いや、すまん、イマイチだった」
紙面の謎とハンターたちの顔を見比べて目を白黒させ、ダジャレまで見事に失敗してキランは肩を落とした。キランは本当にこの謎を解くことができずにいたらしい。暇つぶしのお茶会を開く口実として、すでに解けている謎を持ち出したのではないかと思っていたレーヴェやエーミは、まさか本気だったとは、と苦笑した。
「答えは一目見てわかってしまったぞ」
そう言うレーヴェに、キランは称賛のまなざしを向けた。
「一目で! で、答えは何なんだ?」
「答えを言ってしまうのは簡単だが……、こういうものはキラン自身が解かねばならぬだろう。いいのかね解いてしまって。この集まりは早くも終了じゃな」
「わーーー、待ってくれ、待ってくれ、解くよ、自分で解く!!」
慌てて紙片に顔をうずめるキランを見て、ソラスがくすくすと笑いながら言った。
「私には古典的な言葉遊びに見えますね。難しければもうちょっとわかりやすいのを私から、ヒントとしてお出ししましょうか」
その申し出にキランがすぐさま頷いたので、ソラスは微笑んで言葉を続けた。
「では。縁結びにあって恋愛成就になく、起死回生にあって危機一髪になく、Gnomeにあってヘイムダルにない、と、このように」
「ああ、それはいいヒントだね」
ナタナエルがチョコレートを口に運びつつ、感心して頷いた。
「むむむむ? 縁結びにあって恋愛成就になくー?」
しかし、キランはいまひとつピンとこないようだった。相当に鈍いのか、こうしたなぞなぞがよほど苦手なのか、そのどちらかだろう。
メアリが、別紙に問題の「読み」を書き出してゆく。これでわかりやすくなるはずだ、とキランにそれを差し出した。
「どうでしょうか、キランさん」
「おおお……、なるほど……!」
メアリが書き出した紙を見つめてキランはこくこくと何度も頷いた。ようやく答えがわかったようだ。
「おわかりになったのですねー。では、答えをどうぞー」
千秋に促され、キランは自信満々の笑顔で頷く。
「答えは、天気だな! ある、と書かれている方には、雨や曇りや雹・晴れ・雪、という言葉が入っているというわけだ。ソラスさんのヒントもようやくわかったぜ……、いやー、難問だったなあ! 皆凄いなあ!」
言い方は大げさだが、心の底からそう思っているらしい声音で、キランはハンターたちを褒め、喜んだ。
「まあ、魔法に関係あるかも、と本気で思っていたわけじゃないが……、これはゲームなんだな、謎ときゲーム」
ソラスが差し出してくれた果実入りのハーブティーを美味しそうにすすってから、キランが改めて紙片を見直し、納得したように呟いた。
「面白いゲームだよね。あ、僕も今、同じような問題がふと浮かんだから……、皆、解いてみる?」
ナタナエルが言うと、キランは再び目を輝かせて身をのり出し、他の面々も興味深そうに頷いた。エーミが微笑んでナタナエルを促す。
「ぜひ、解かせてください」
「よーし、では、問題を書くよ。
アサルトディスタンスにはあって、ランアウトにはない。
フルリカバリーにはあって、ヒールにはない。
伝波増幅にはあって、連結通話にはない。
桜幕符にはあって、御霊符にはない。
……と。どうかな? ハンターなら聞き覚えのあるでしょう?」
ナタナエルの問題に、皆はしばらく無言で見入った。キランは問題文をぶつぶつと呟きながら、先ほどメアリが書き出してくれたように、読みを別紙に書いていた。キランはハンターではないし、空の研究所に所属するまではハンターと関わることすらもなかったため、耳慣れない言葉ばかりのようだ。
「なるほど……。これはいい問題じゃの」
いちはやく解き終えたらしいレーヴェが悠然とクッキーを口に運ぶ。キランが目を見開いた。
「えええっ、マジかよ……」
「何でしょう、スキルの表出の違いかな? それとも範囲攻撃か単体か? 防御用か攻撃か? うーん、うーん……」
ソラスも、キランの隣で首をひねっていた。
「ヒントを出そうか。
サルヴェイションにはあるけど、ホーリーヴェールにはない。
地縛符にはあるけど、風雷陣にはない。
浄龍樹陣・老龍固・青龍翔咬波にはあるけど……あ、でもこれはちょっと正しくないかな?」
「ヒントっていうわりには難しそうな名前がたくさん出て来たな……、だが、ええとだな、これはさっきの問題と同じ方法でやればいいんだろ? つまり名称の複雑さは関係ないってことだよな」
キランが同意を求めるようにメアリに向かって言うので、メアリは少し微笑んで頷いて見せた。もちろん、メアリはもう答えがわかっている。
「ということは、だ……、おおお、わかったぞ!!! 答えは動物だな!!!」
キランは思わず立ち上がって叫んだ。
「ははあ、なるほどー。サル、カバ、ゾウ、バク、ですかー」
千秋が感心して読み上げていく。キランは両手を挙げてバンザイまでしてみせる喜びぶりで、エーミやナタナエルが拍手をしてあげた。
「そのとおり。正解だよ、キランさん」
「いやー、面白いなあ、こういうの。皆、ありがとうなあ」
キランは満足したように椅子に腰を落ち着けた。その隣でソラスが、そういえば、と声を上げる。
「どなたがこんなの残したのか気になりませんか?」
最初に解いた問題の紙片を指差して言うと、エーミも頷いて同意した。
「とっても気になるわ。でも、所長さんじゃないのよね?」
「ああ。アメリアの字じゃないなあ」
エーミに問われて、キランが首を横に振る。本棚にあるアメリアの研究ノートを広げて見せ、確実に筆致が違うことも確認した。
「でも、所長さんの持ち物には間違いはなさそう。ただのノートを切ったものね」
「アメリア所長はおいくつですか?」
今度は、メアリが尋ねた。キランは小首を傾げつつ、二十五くらいじゃないかな、と答える。
「十年前ぐらいならば、アメリア所長の家族がアメリアのために考えたなぞなぞなのかもしれませんね……。推理してみましょう……。私の……何色かは分かりませんが、とりあえずピンク色だと思われる脳細胞が囁いてくるかもしれません」
「ノートの切れ端みたいだけど、四つ折りとは几帳面な方かも。大事に保管されてたようですし」
ソラスが続けて推理をしていく。ふたりは紙片が見つかった本棚を見に行くことにした。
「ふふ、案外何かの切欠になって、残した物かも知れないわ。所長さんの想い人だったらロマンチックよね」
エーミが言うと、キランがげらげら笑った。
「アメリアの想い人? あいつにもそんなのいたのかなあ」
笑いつつも、キランは昔を思い出すように遠い目をする。
「うーん、仮にその紙が十年前のものだとして……、俺にもちょっとわからないんだよなあ。アメリアには出会ってるか出会ってないかくらいの微妙な時期だが……、正直、俺もそれ以前のアメリアのことは知らないしなあ」
ひとりごとめいたそのセリフを、ナタナエルや千秋が興味深そうに聞いている。
「まあ、アメリアが帰って来たら直接訊くとするか」
「マティーナさん、早く帰ってくるといいですねー。あの雷の華はとても綺麗でしたよー」
千秋がにこにこと言う。キランがパッと顔を輝かせた。
「おっ、そうか、あの作戦に参加してたんだな、君は! そうか、魔法、成功したのか!」
「はいー。お薬は不味かったですが」
「うん、それはな……、すまなかった……」
薬を作った当人であるキランが、申し訳なさそうに頭を掻いたとき、本棚を調べていたメアリとソラスが帰ってきた。
「どうじゃった?」
レーヴェの問いに、ふたりは力なく首を横に振る。特に手掛かりは見つからなかったようだ。
「案外、あっさりした事実かもしれませんし、謎は謎のままにしておくのもいいかもしれませんよ?」
エーミが微笑むと、確かに、とキランも頷いた。
「謎のままにしておけば、またそれを口実に皆を呼べるしな!」
半分冗談、半分本気の口調で言うキランに、皆笑った。お茶を淹れなおし、まだまだあるお菓子を頬張って、楽しいひとときが過ぎていく。
「こうやって真剣になぞなぞに取り組むのも、わいわいするのも楽しいものですね」
メアリの呟きに、ナタナエルが頷いた。
「お誘いいただいてありがとう、キランさん」
「それは、こちらこそ、だ!」
キランはニッカリと笑ってハンター全員の顔を見回した。
「とーっても楽しかったぜ! また是非、研究所に来てくれよな!」
数日後。
空の研究所に、アメリアが疲れ切って帰ってきた。キランは楽しかったあの午後のことを思い出しながら、休暇から戻ったスバルと共にアメリアの回復に尽力した。
そうしているうちに。
あの問題の書かれた紙片は、いつの間にか、キランの前から消えてなくなっていたという。
「空の研究所へようこそー! 来てくれてありがとうなあ!」
「お茶菓子のお誘いに、心動かされて」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が悪戯っぽい笑みでキランの挨拶に応じると、キランはますますにこにこと笑みを深くした。
「うんうん、お茶菓子、用意してあるぞ! どうぞこちらへ!」
キランはハンターたちを、研究所の中で一番広い部屋へ通した。研究室も会議室も応接室も兼ねた部屋である。大きなテーブルがあるのはここしかないのだ。洋菓子の箱や果物のカゴなどがテーブルの上を華やかに彩っていた。
「凄いですね。美味しそう。あ、私も果物とお煎餅を持ってきましたよ」
ソラス(ka6581)がそう言って持ってきたものを取り出すと、それを皮切りに、皆、持参したものや先に買い出しをしていたらしいものをテーブルに出し始めた。
「いやあ、皆悪いなあ、ありがとうなあ。とにかく暇でさ、おるすばん」
へへへ、と頭をかくキランに、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)が神妙な顔をして言う。
「おるすばんを甘く見てはいけない。留守番を任されるということは不在間の責任を負うという事。研究所に何らかの有事が転がり込んできた際に頼れるのはキランだけ。そして研究所にあるもの全ての管理責任を持つ。これを一人に任されているということは信頼されとることの証じゃよ? 下手なことはしないだろうと」
「その通りだな……申し訳ない」
至極もっともなレーヴェのセリフに、キランはしゅんとして肩をすくめた。それを見て、レーヴェはにやりと笑う。
「なーんてな。今日は気楽にやろう。ポテチなんかも如何か? クッキーもあるぞ」
厳しい言葉をさらっと茶化して菓子を出すと、キランは一瞬ぽかんとしてからハハハッ、と笑って礼を言った。その隣で、小宮・千秋(ka6272)は茶葉を取り出す。
「では私はお茶をいれまーす!」
「台所は借りられるのかしら、パイくらいなら作れるわ?」
エーミが果物を手に取ってそう言う。
「料理までしてくれるのか! 台所はその奥だ、好きに使ってくれ」
うきうきと声を弾ませるキランに、ところで、と声をかけたのはナタナエル(ka3884)だ。
「何か解いて欲しい謎がある、って聞いて来たんだけど」
「謎解き……、探偵物の小説も嗜んでいる私としては興味がありますね」
メアリ・ロイド(ka6633)も身を乗り出した。
「うむ! そうなんだよ、これが難問でなあ」
キランは大げさに頷くと、白衣のポケットから問題の紙片を取り出したのだった。
お茶やお菓子を揃え、全員がテーブルを囲んで腰を落ち着けてから、キランは紙片を広げて見せた。ハンターたちが一斉にそれを覗きこむ。
「ほむー、アメンボにあってトンボにないものですかー。他にも、特盛りにあって大盛りになく、投票にあって立候補になく、破裂にはあって分裂になく、道行きにはあって道草にはないーと続きましてー。まさに謎ですねー」
紙片に書かれた文字を千秋が読み上げて唸る。他の面々も紙を覗き込んで謎を解きにかかったが、さして悩む様子を見せるものはなかった。
「ああ、なるほどわかったわ。わかってしまったわ」
レーヴェが呟くように言うと、数名が笑顔で頷いた。途端に、キランが驚く。
「えっ、マジで!? そんなすぐわかるのか!? すげえな、ハンターってやつは!! こんなのハンターン、ってか! ……今のは、ハンターと簡単、をかけたシャレのつもりなんだが……、いや、すまん、イマイチだった」
紙面の謎とハンターたちの顔を見比べて目を白黒させ、ダジャレまで見事に失敗してキランは肩を落とした。キランは本当にこの謎を解くことができずにいたらしい。暇つぶしのお茶会を開く口実として、すでに解けている謎を持ち出したのではないかと思っていたレーヴェやエーミは、まさか本気だったとは、と苦笑した。
「答えは一目見てわかってしまったぞ」
そう言うレーヴェに、キランは称賛のまなざしを向けた。
「一目で! で、答えは何なんだ?」
「答えを言ってしまうのは簡単だが……、こういうものはキラン自身が解かねばならぬだろう。いいのかね解いてしまって。この集まりは早くも終了じゃな」
「わーーー、待ってくれ、待ってくれ、解くよ、自分で解く!!」
慌てて紙片に顔をうずめるキランを見て、ソラスがくすくすと笑いながら言った。
「私には古典的な言葉遊びに見えますね。難しければもうちょっとわかりやすいのを私から、ヒントとしてお出ししましょうか」
その申し出にキランがすぐさま頷いたので、ソラスは微笑んで言葉を続けた。
「では。縁結びにあって恋愛成就になく、起死回生にあって危機一髪になく、Gnomeにあってヘイムダルにない、と、このように」
「ああ、それはいいヒントだね」
ナタナエルがチョコレートを口に運びつつ、感心して頷いた。
「むむむむ? 縁結びにあって恋愛成就になくー?」
しかし、キランはいまひとつピンとこないようだった。相当に鈍いのか、こうしたなぞなぞがよほど苦手なのか、そのどちらかだろう。
メアリが、別紙に問題の「読み」を書き出してゆく。これでわかりやすくなるはずだ、とキランにそれを差し出した。
「どうでしょうか、キランさん」
「おおお……、なるほど……!」
メアリが書き出した紙を見つめてキランはこくこくと何度も頷いた。ようやく答えがわかったようだ。
「おわかりになったのですねー。では、答えをどうぞー」
千秋に促され、キランは自信満々の笑顔で頷く。
「答えは、天気だな! ある、と書かれている方には、雨や曇りや雹・晴れ・雪、という言葉が入っているというわけだ。ソラスさんのヒントもようやくわかったぜ……、いやー、難問だったなあ! 皆凄いなあ!」
言い方は大げさだが、心の底からそう思っているらしい声音で、キランはハンターたちを褒め、喜んだ。
「まあ、魔法に関係あるかも、と本気で思っていたわけじゃないが……、これはゲームなんだな、謎ときゲーム」
ソラスが差し出してくれた果実入りのハーブティーを美味しそうにすすってから、キランが改めて紙片を見直し、納得したように呟いた。
「面白いゲームだよね。あ、僕も今、同じような問題がふと浮かんだから……、皆、解いてみる?」
ナタナエルが言うと、キランは再び目を輝かせて身をのり出し、他の面々も興味深そうに頷いた。エーミが微笑んでナタナエルを促す。
「ぜひ、解かせてください」
「よーし、では、問題を書くよ。
アサルトディスタンスにはあって、ランアウトにはない。
フルリカバリーにはあって、ヒールにはない。
伝波増幅にはあって、連結通話にはない。
桜幕符にはあって、御霊符にはない。
……と。どうかな? ハンターなら聞き覚えのあるでしょう?」
ナタナエルの問題に、皆はしばらく無言で見入った。キランは問題文をぶつぶつと呟きながら、先ほどメアリが書き出してくれたように、読みを別紙に書いていた。キランはハンターではないし、空の研究所に所属するまではハンターと関わることすらもなかったため、耳慣れない言葉ばかりのようだ。
「なるほど……。これはいい問題じゃの」
いちはやく解き終えたらしいレーヴェが悠然とクッキーを口に運ぶ。キランが目を見開いた。
「えええっ、マジかよ……」
「何でしょう、スキルの表出の違いかな? それとも範囲攻撃か単体か? 防御用か攻撃か? うーん、うーん……」
ソラスも、キランの隣で首をひねっていた。
「ヒントを出そうか。
サルヴェイションにはあるけど、ホーリーヴェールにはない。
地縛符にはあるけど、風雷陣にはない。
浄龍樹陣・老龍固・青龍翔咬波にはあるけど……あ、でもこれはちょっと正しくないかな?」
「ヒントっていうわりには難しそうな名前がたくさん出て来たな……、だが、ええとだな、これはさっきの問題と同じ方法でやればいいんだろ? つまり名称の複雑さは関係ないってことだよな」
キランが同意を求めるようにメアリに向かって言うので、メアリは少し微笑んで頷いて見せた。もちろん、メアリはもう答えがわかっている。
「ということは、だ……、おおお、わかったぞ!!! 答えは動物だな!!!」
キランは思わず立ち上がって叫んだ。
「ははあ、なるほどー。サル、カバ、ゾウ、バク、ですかー」
千秋が感心して読み上げていく。キランは両手を挙げてバンザイまでしてみせる喜びぶりで、エーミやナタナエルが拍手をしてあげた。
「そのとおり。正解だよ、キランさん」
「いやー、面白いなあ、こういうの。皆、ありがとうなあ」
キランは満足したように椅子に腰を落ち着けた。その隣でソラスが、そういえば、と声を上げる。
「どなたがこんなの残したのか気になりませんか?」
最初に解いた問題の紙片を指差して言うと、エーミも頷いて同意した。
「とっても気になるわ。でも、所長さんじゃないのよね?」
「ああ。アメリアの字じゃないなあ」
エーミに問われて、キランが首を横に振る。本棚にあるアメリアの研究ノートを広げて見せ、確実に筆致が違うことも確認した。
「でも、所長さんの持ち物には間違いはなさそう。ただのノートを切ったものね」
「アメリア所長はおいくつですか?」
今度は、メアリが尋ねた。キランは小首を傾げつつ、二十五くらいじゃないかな、と答える。
「十年前ぐらいならば、アメリア所長の家族がアメリアのために考えたなぞなぞなのかもしれませんね……。推理してみましょう……。私の……何色かは分かりませんが、とりあえずピンク色だと思われる脳細胞が囁いてくるかもしれません」
「ノートの切れ端みたいだけど、四つ折りとは几帳面な方かも。大事に保管されてたようですし」
ソラスが続けて推理をしていく。ふたりは紙片が見つかった本棚を見に行くことにした。
「ふふ、案外何かの切欠になって、残した物かも知れないわ。所長さんの想い人だったらロマンチックよね」
エーミが言うと、キランがげらげら笑った。
「アメリアの想い人? あいつにもそんなのいたのかなあ」
笑いつつも、キランは昔を思い出すように遠い目をする。
「うーん、仮にその紙が十年前のものだとして……、俺にもちょっとわからないんだよなあ。アメリアには出会ってるか出会ってないかくらいの微妙な時期だが……、正直、俺もそれ以前のアメリアのことは知らないしなあ」
ひとりごとめいたそのセリフを、ナタナエルや千秋が興味深そうに聞いている。
「まあ、アメリアが帰って来たら直接訊くとするか」
「マティーナさん、早く帰ってくるといいですねー。あの雷の華はとても綺麗でしたよー」
千秋がにこにこと言う。キランがパッと顔を輝かせた。
「おっ、そうか、あの作戦に参加してたんだな、君は! そうか、魔法、成功したのか!」
「はいー。お薬は不味かったですが」
「うん、それはな……、すまなかった……」
薬を作った当人であるキランが、申し訳なさそうに頭を掻いたとき、本棚を調べていたメアリとソラスが帰ってきた。
「どうじゃった?」
レーヴェの問いに、ふたりは力なく首を横に振る。特に手掛かりは見つからなかったようだ。
「案外、あっさりした事実かもしれませんし、謎は謎のままにしておくのもいいかもしれませんよ?」
エーミが微笑むと、確かに、とキランも頷いた。
「謎のままにしておけば、またそれを口実に皆を呼べるしな!」
半分冗談、半分本気の口調で言うキランに、皆笑った。お茶を淹れなおし、まだまだあるお菓子を頬張って、楽しいひとときが過ぎていく。
「こうやって真剣になぞなぞに取り組むのも、わいわいするのも楽しいものですね」
メアリの呟きに、ナタナエルが頷いた。
「お誘いいただいてありがとう、キランさん」
「それは、こちらこそ、だ!」
キランはニッカリと笑ってハンター全員の顔を見回した。
「とーっても楽しかったぜ! また是非、研究所に来てくれよな!」
数日後。
空の研究所に、アメリアが疲れ切って帰ってきた。キランは楽しかったあの午後のことを思い出しながら、休暇から戻ったスバルと共にアメリアの回復に尽力した。
そうしているうちに。
あの問題の書かれた紙片は、いつの間にか、キランの前から消えてなくなっていたという。
依頼結果
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- 《死》を翳し忍び寄る蠍
ナタナエル(ka3884)
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打ち合わせ エーミ・エーテルクラフト(ka2225) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/04/28 21:39:31 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/28 03:33:22 |