ゲスト
(ka0000)
【哀像】ラプンツェルの訓え2
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/27 12:00
- 完成日
- 2017/05/20 20:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……それを確かめたら、ワカメはまた楽しく機導術を研究できるのよさ?」
ブリジッタ・ビットマンの質問は、ナサニエル・カロッサにとって意外なものだった。
全くの想定外の問いかけ故に答えに詰まる。そして、過去に想いを馳せた。
確かに、錬金術は楽しいものだった……と、思う。
そもそもナサニエルにとって錬金術は生きるために必要な術でしかなかった。
比類なき天才と自負していたが、逆に言うとそれしか価値のない人間だと知っていたのだ。
それしか出来ることがないから、やることがないから、与えられた時間を潰すために没頭した。
百万通りの選択肢の中でそれを選び取ったわけではない。
天才故に、その可能性はあまりにも閉ざされていたのだ。
錬魔院に拾われてからもそれは変わらなかった。
革命戦争前の帝国は、腐敗した貴族社会そのもの。天才だから生きられたが、そうでなければ死ぬしかない。
言われるがままに繰り返す研究。成果を出しすぎれば妬まれ、疎まれもする。
幸いながら、自分が何のために生き、何のために研究するのか。そんな事を考えるゆとりもなかった。
「機導術はね、使い方次第で簡単に悪に染まってしまう。誰にでも使えるってことはね、そういうことなのよ」
ある日、師はそう言った。それは少年にとって意外な言葉だった。
善悪という概念は理解している。だが、師の作り出すものの多くは、非常に暴力的だった。
当時の錬魔院は、今よりもずっと極端な兵器開発を行っていた。
禁忌なき実験棟には来る日も来る日も悲鳴が響き渡っていたし、それが実は貴族の集めてきた孤児のものだということも知っていた。
自分に才能がなければ、あそこで死んでいたのは自分だったということも、知っていた。
だから素直に不思議だった。こんなひどいことをする科学者の頭領が、まるで“善”を語っている。
「先生は自分の行いを後悔しているんですか?」
「いいえぇ~? 私も心底錬金術師だから、仮に悪でも素直に興味はありますよぉ。でも、こんなことは長くは続かないとも思うの」
“ヘカトンケイレスシステム”だけではない。
これが悪である限り、いつかは善に裁かれるだろう。その時咎を負うのが、子供たちであってはならない。
「ナサニエル、あなたは天才です。でも、心を持っていない。感情を理解はしても獲得はしていない。私はね、そんなあなたが心配なのよ」
三角帽子を被った魔女はそう言って飄々と笑う。
「仮にも私は、あなたの義理のお母さんですからねぇ」
実に――憎めないヒトだった。
研究所を目指して走るナサニエル。様々な剣機の妨害を突破しながら研究所を目前にしたところで、上空より見覚えのある顔が降り立った。
血の翼を持つ機導師。――機械化した吸血鬼。いわば剣機と剣妃のハイブリッドタイプ。以前、帝都で遭遇した敵だ。
「あなたなら必ずいらっしゃると思っていましたよ。歓迎します、院長」
「勘違いしないでください。私は別にあなたの誘いに乗ったわけではありませんよぉ」
その返答が心底意外だったのか、青年は目をまん丸くする。
「では、一体何をしにここへ?」
「剣機博士……噂は聞いていますよ。シュタインとかいうそいつの顔を拝みに来たんです」
「え? 見てどうするんです?」
「そりゃあ、やっつけますよぉ」
青年はまた怪訝に首を傾げ、頬を掻く。
「なぜです? シュタイン博士は素晴らしい技術をお持ちですよ? それにオルクス様が倒れたからといって吸血鬼の血が途絶えたわけでもありませんし。吸血鬼になれば寿命なんてなくなりますよ?」
微妙に噛み合わない話にナサニエルは肩を竦める。
「あなたの事を調べさせてもらいました。クルツ・エルフハイム……錬魔院に錬金術を学びに来た異端のエルフ。しかし二年前のフィールドワーク中に他研究員と共に失踪してますね」
「やっと僕のことを思い出してくれたんですね!」
「いや思い出してはいないです」
「院長は素晴らしいお方です。異端である僕を快く受け入れて指導してくださった……そして言っていたではありませんか。無限の命があれば、世界の全てを探求できると!」
「言ったでしょうか? まあ、私に無限の時間があったら世界の全てを素っ裸に出来るのは事実ですが」
「でしょう!?」
「ともあれ、あなた邪魔です」
「そうでしょうとも! しかしだからこそ、院長には一緒に来ていただきます!」
ぞろぞろと現れたゾンビはどれも身体のあちこちが機械化されている――が、それだけではない。
どこか他の個体とは違う雰囲気を感じる。それは格好か、装備か。ともあれ、直感的に理解する。
「……元ハンターの剣機ですか」
「これまでの事件でどれだけの覚醒者が犠牲になったと思いますか? その中でも選りすぐりのエリートたちです! 邪魔な狩人は、同じ狩人の手で滅びるがいい!」
“ヘカトンケイレスシステム”――革命戦争以前の錬魔院で開発されていたという、ゾンビをコントロールする技術。
未完成だったそれを剣機博士は完成させ、そして実戦に投入してきた。
後頭部に埋め込んだ血水晶を媒体に思念を同調させ、複数のゾンビを非常に高い精度で操る事ができる。
ひとつの意識を共有するかのように、非常に高度な連携を取らせることも可能になる。
(ならばやはり……あなたなのですか? 先生……)
ナサニエルは両腕に装備した魔導ガントレッドを起動させる。
「今日は装備もガチですよぉ。今回は遠慮しろなんて言いませんので、全部綺麗さっぱり片付けちゃいましょう♪」
既に別働隊は研究所内部に突入しているはずだ。
こいつらを片付けてから駆けつけるのでは遅いだろうが、結末を見届けることくらいは可能だろう。
「クルツをとっちめても、わかりそうですしね」
ブリジッタ・ビットマンの質問は、ナサニエル・カロッサにとって意外なものだった。
全くの想定外の問いかけ故に答えに詰まる。そして、過去に想いを馳せた。
確かに、錬金術は楽しいものだった……と、思う。
そもそもナサニエルにとって錬金術は生きるために必要な術でしかなかった。
比類なき天才と自負していたが、逆に言うとそれしか価値のない人間だと知っていたのだ。
それしか出来ることがないから、やることがないから、与えられた時間を潰すために没頭した。
百万通りの選択肢の中でそれを選び取ったわけではない。
天才故に、その可能性はあまりにも閉ざされていたのだ。
錬魔院に拾われてからもそれは変わらなかった。
革命戦争前の帝国は、腐敗した貴族社会そのもの。天才だから生きられたが、そうでなければ死ぬしかない。
言われるがままに繰り返す研究。成果を出しすぎれば妬まれ、疎まれもする。
幸いながら、自分が何のために生き、何のために研究するのか。そんな事を考えるゆとりもなかった。
「機導術はね、使い方次第で簡単に悪に染まってしまう。誰にでも使えるってことはね、そういうことなのよ」
ある日、師はそう言った。それは少年にとって意外な言葉だった。
善悪という概念は理解している。だが、師の作り出すものの多くは、非常に暴力的だった。
当時の錬魔院は、今よりもずっと極端な兵器開発を行っていた。
禁忌なき実験棟には来る日も来る日も悲鳴が響き渡っていたし、それが実は貴族の集めてきた孤児のものだということも知っていた。
自分に才能がなければ、あそこで死んでいたのは自分だったということも、知っていた。
だから素直に不思議だった。こんなひどいことをする科学者の頭領が、まるで“善”を語っている。
「先生は自分の行いを後悔しているんですか?」
「いいえぇ~? 私も心底錬金術師だから、仮に悪でも素直に興味はありますよぉ。でも、こんなことは長くは続かないとも思うの」
“ヘカトンケイレスシステム”だけではない。
これが悪である限り、いつかは善に裁かれるだろう。その時咎を負うのが、子供たちであってはならない。
「ナサニエル、あなたは天才です。でも、心を持っていない。感情を理解はしても獲得はしていない。私はね、そんなあなたが心配なのよ」
三角帽子を被った魔女はそう言って飄々と笑う。
「仮にも私は、あなたの義理のお母さんですからねぇ」
実に――憎めないヒトだった。
研究所を目指して走るナサニエル。様々な剣機の妨害を突破しながら研究所を目前にしたところで、上空より見覚えのある顔が降り立った。
血の翼を持つ機導師。――機械化した吸血鬼。いわば剣機と剣妃のハイブリッドタイプ。以前、帝都で遭遇した敵だ。
「あなたなら必ずいらっしゃると思っていましたよ。歓迎します、院長」
「勘違いしないでください。私は別にあなたの誘いに乗ったわけではありませんよぉ」
その返答が心底意外だったのか、青年は目をまん丸くする。
「では、一体何をしにここへ?」
「剣機博士……噂は聞いていますよ。シュタインとかいうそいつの顔を拝みに来たんです」
「え? 見てどうするんです?」
「そりゃあ、やっつけますよぉ」
青年はまた怪訝に首を傾げ、頬を掻く。
「なぜです? シュタイン博士は素晴らしい技術をお持ちですよ? それにオルクス様が倒れたからといって吸血鬼の血が途絶えたわけでもありませんし。吸血鬼になれば寿命なんてなくなりますよ?」
微妙に噛み合わない話にナサニエルは肩を竦める。
「あなたの事を調べさせてもらいました。クルツ・エルフハイム……錬魔院に錬金術を学びに来た異端のエルフ。しかし二年前のフィールドワーク中に他研究員と共に失踪してますね」
「やっと僕のことを思い出してくれたんですね!」
「いや思い出してはいないです」
「院長は素晴らしいお方です。異端である僕を快く受け入れて指導してくださった……そして言っていたではありませんか。無限の命があれば、世界の全てを探求できると!」
「言ったでしょうか? まあ、私に無限の時間があったら世界の全てを素っ裸に出来るのは事実ですが」
「でしょう!?」
「ともあれ、あなた邪魔です」
「そうでしょうとも! しかしだからこそ、院長には一緒に来ていただきます!」
ぞろぞろと現れたゾンビはどれも身体のあちこちが機械化されている――が、それだけではない。
どこか他の個体とは違う雰囲気を感じる。それは格好か、装備か。ともあれ、直感的に理解する。
「……元ハンターの剣機ですか」
「これまでの事件でどれだけの覚醒者が犠牲になったと思いますか? その中でも選りすぐりのエリートたちです! 邪魔な狩人は、同じ狩人の手で滅びるがいい!」
“ヘカトンケイレスシステム”――革命戦争以前の錬魔院で開発されていたという、ゾンビをコントロールする技術。
未完成だったそれを剣機博士は完成させ、そして実戦に投入してきた。
後頭部に埋め込んだ血水晶を媒体に思念を同調させ、複数のゾンビを非常に高い精度で操る事ができる。
ひとつの意識を共有するかのように、非常に高度な連携を取らせることも可能になる。
(ならばやはり……あなたなのですか? 先生……)
ナサニエルは両腕に装備した魔導ガントレッドを起動させる。
「今日は装備もガチですよぉ。今回は遠慮しろなんて言いませんので、全部綺麗さっぱり片付けちゃいましょう♪」
既に別働隊は研究所内部に突入しているはずだ。
こいつらを片付けてから駆けつけるのでは遅いだろうが、結末を見届けることくらいは可能だろう。
「クルツをとっちめても、わかりそうですしね」
リプレイ本文
「なんだい、あれ。頭でっかちの典型みたいだよね」
南條 真水(ka2377)が青ざめているのは、別にクルツの身勝手さにあてられたわけではない。
船旅の直後、砂浜を全力疾走した結果である。まあ、更にこれを被せられて気分が悪いのはあるかもしれない。
「あは、奇遇ですね。わたしもあの森出身なんですよ」
手を合わせ柔和な笑みを浮かべるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
「わたし、無限の命って興味あるんですよ」
話を聞く素振りを見せながら歩み寄るソフィア。その後に続くように、影から飛び出したヒース・R・ウォーカー(ka0145)が砂を蹴る。
奇襲を狙っての事だったが、多数のゾンビが集まり行く先を塞いだ。だが、それはそれで狙い通り。
ヒースは放たれた矢を容易く回避し、続け振り下ろされた大剣の強力な一撃も回避。その刃の上に乗ると空に舞い上がった。
「残念だが僕は君に興味がないし、そもそも森都の関係者は大嫌いでね」
「ハッ、気が合うじゃねぇか!」
魔法の詠唱準備を終えていたのはソフィアだけではない。真水とナサニエルもデルタレイを同時に使用する。
飛来する九つの閃光。だがこれを盾と大剣のゾンビが肩を並べるようにして受け止める。
「……射線を防がれたじゃと?」
僅かな驚き。だが紅薔薇(ka4766)は足を止めず、敵を迂回してヒースを追う。
ヒースと紅薔薇はクルツに突撃し、敵陣をかき乱す。その間に残りのハンターが一斉攻撃でペースを掴む算段。それは概ね成功していた。
血の剣を手に作りヒースの斬撃を受けるクルツ。一方、紅薔薇の前には刀を持った個体が立ちはだかる。
鞘から引き抜いた刀が無数の閃光を放つ。躱しきれず、しかし刃で弾いた紅薔薇はそのまま回転するように祢々切丸を繰り出した。
こうした初動にやや遅れ、エイル・メヌエット(ka2807)は杖を手に走る。
陽動に合わせる為には射程や位置取りの問題で間に合わなかったが、ある意味功を奏した。
突破したヒースを追わずに大剣と盾の個体が、後衛――特にやや前方に位置するソフィアに迫っていたのだ。
既に突破は半ば成立。故に目標を切り替え、こちらの迎撃に魔法を発動する。
綏魂奏の光と音が二体を捉える――が、動きは止まらない。ここでこの二体が特に抵抗力の高い個体なのだと気づく。
強引に突破したゾンビの大剣が振り下ろされる。ソフィアは咄嗟に防壁を張り、その雷撃で大剣持ちを大きく吹き飛ばした。
ソフィアの防壁の強度はかなり高く、いくら抵抗を高めていても感電する。が、ソフィアも重い一撃を受けてしまった。
「チッ……なんつー馬鹿力だ……って!?」
無数の光の帯がソフィアを絡め取り、その場に釘付けにする。後方の杖ゾンビが放ったスキルだ。
巨体の大剣ゾンビは感電しながらも迫ってくる。ぞっとするソフィア、そこへ全身にオーラを纏った花厳 刹那(ka3984)が駆けつけ、大剣ゾンビの脇を抜けると同時に斬りつけた。
だが真の狙いはその少し後ろに位置する杖と盾のゾンビ。こちらにも光の剣を打ち込むが、盾に防がれる。
可能であれば弱点とも言える血晶の受信機を狙いたいところだが、そこは彼らにとっての“急所”。当然、守りは硬い。部位を狙うスキルがあればまた違ったかもしれないが……。
「なかなか一筋縄ではいかないようですね……流石はクルツさん謹製のゾンビといったところですか?」
皮肉めいた笑みを浮かべる刹那。当のクルツはヒースと交戦中でこちらは見ていないが、このゾンビは無視してクルツに話しかけていられるほど弱くはない。
「ヒースさん……!」
いつも斜に構えた真水の声に焦りが交じる。ヒースは結果的に味方と大きく分断され、一人でクルツと交戦しているのだ。
それはある意味作戦通りだし、彼には絶大な信頼を置いている。が、相手は間違いなく強敵。
広域雷撃、血の槍、そして剣撃。次々に繰り出されるクルツの攻撃の雨は、回避に優れた者でも容易に絡め取り蹂躙する筈……だった。
だがヒースは残像を纏い、荒れ狂う攻撃の中を紙一重で躱し続けている。攻められない。だが、致命傷も受けていないのだ。
「こいつ……なぜ避けられる!?」
「お前が何を想い何を求めているのか知らない。だけどそれを得る為に道を踏み外したお前を、ボクは赦しはしない」
強く刃を交えるヒース。その背中が語りかけている気がする。“こっちは大丈夫だ”と。
「格好つけてくれるね、もう。……どうやらあの大剣持ちがまずい。一体ずつ葬らせてもらおうじゃないか」
ペースを乱すのはあの大剣持ち。幸い残りの前衛は刹那と紅薔薇が抑えている。
気にすべきは敵側で突出している大剣持ち、そして後衛の弓使い。
「こっちはデルタレイが使える。前衛がまとまってなきゃさっきみたいに止められることもねぇ……散開しつつ接近して弓も射程に入れるぞ!」
既に自前のスキルで拘束を逃れたソフィアが走り出す。それを合図に真水は魔法を詠唱する。
「白銀の本流よ……突き抜けろ、エル・アリアス」
魔法で作り出した光の弓から放たれた矢が大地を凍てつかせながら大剣持ちを巻き込む。移動しつつ射角を調整し、背後の弓持ちと杖持ちも巻き込みたかったが、この攻撃は味方も巻き込みかねない。
強い抵抗力を持つ大剣ゾンビも容易く凍結させた一撃。仲間に当てては大惨事、故に軸はずらした。
凍てつきながらも前進し、やはりソフィアを狙うゾンビ。その前に盾を手にしたエイルが立ちはだかる。
聖導師は元々周囲範囲攻撃に優れる関係上、乱戦ではある程度近づいてしまった方が有利を押し付けやすい。
そしてエイルは防御力にも秀でていた。繰り出される大剣を盾でしっかりと受け、聖機剣を振るうと同時に魔法を解き放つ。
「黎明の子よ、この手に光を! ……ソフィアさん、今のうちに!」
大剣ゾンビを抜けたソフィアは大剣、盾、弓の三体を射程に収めデルタレイを放つ。
3体のゾンビはそれぞれ防御や回避を試みるが、ここにナサニエルのデルタレイも重なり、それぞれに隙が生まれた。
刹那はそれを見逃さず、連続攻撃を放つ。敵は盾で身を守り、このガードはなかなか崩せなかった。
だが周囲を旋回しつつ連続で攻撃を繰り出すことで盾をかいくぐり、斬撃をねじ込む事に成功する。
胸を二発の光弾に穿たれながらも、弓を構え矢を放つゾンビ。狙いは更に突出して走る真水だ。
無論、考えなしではない。今このタイミングでソフィアを集中攻撃されるのはまずい。
真水も防御性能は高く、それを自負している。こういった時にはあえてヘイトを集めるつもりだった。
放たれた矢が二発連続で真水を狙う。が、パリィグローブでこれを次々に弾くと、ソフィアとナサニエルに遅れてデルタレイを放った。
後衛の奮闘を横目に紅薔薇は刀を持つ個体との戦いを続けていた。
ヒースは一人でも十分に時間を稼げると判断したのだ。アクセルオーバーが切れては難しいだろうが、それより先に目の前の敵を葬れる自信があった。
それに、この敵は攻撃力と機動力に長けている。後衛に任せては一気に崩されかねない。
「縦横無尽、二連之業、肉斬骨断……と言ったところかの? 生前はかなりの使い手だったと見える」
二人は高速で斬撃のやり取りを繰り返すが、徐々に紅薔薇が押していく。
回避困難な攻撃を前にしても紅薔薇は巧みに躱し、受け、そして敵の一撃を上回る一撃を重ねるのだ。
「二連之業とは――こうやるのじゃよ」
一瞬で剣閃が重なり、二つの光が刀ゾンビの守りを抜けて肉を引き裂く。
はじけ飛んだ肉塊に目もくれず構え直す紅薔薇。そこからヒースに重ねぬよう、位置を調整した次元斬を繰り出した。
横槍を食らったクルツが吹っ飛びながら血の盾を作り、追撃に来たヒースに対処する。
「遅れてすまぬな。じゃが、実に見事な体捌きじゃったぞ」
「お褒めに預かり光栄だねぇ。まあ、正直そろそろ限界だったんだけど」
眉を潜めくつくつと笑うヒース。アクセルオーバーを切らしたら、とても一人では耐えられない。
「すまぬが距離を置かせてもらうぞ。あの雷撃には前回で懲りたのでな」
ヒースへの猛攻を見ていて感じたのは、自分では恐らく耐えきれないということ。
先の刀使いもなかなか強敵だったが、クルツの攻撃は避けづらい上に受けた時、感電で動きを鈍らせてくる。
更に攻撃を重ねられればジリ貧になる道理。
せっかく長射程のスキルを持っているのだから、敵の土俵に上る必要はない。
クルツの周囲を周るように移動する紅薔薇は、隙きを見て次元斬を打ち込む。そしてそれに合わせ、ヒースはワイヤーで動きを封じにかかる。
血の結晶で防御しても、紅薔薇の火力は抑えきれない。当然紅薔薇を追い回したいが、それはヒースに邪魔される。
「き……さまらああああ!!」
「お前にはもう少し踊っていてもらおうかぁ。皆が来るまで……ね?」
エイルと刹那が前衛に張り付き、真水、ソフィア、ナサニエルによる高火力デルタレイが乱舞するようになると、一瞬で形成はハンター有利に雪崩込んだ。
弓持ちは射程と火力に優れていたが、防御能力は低い。まずこれが真っ先にダウン。
そして体力を大きく削られた大剣と杖盾ゾンビには、エイルと刹那がそれぞれ止めを繰り出した。
魔法を込めた聖機剣を打ち付けて巨体のゾンビをノックアウトするエイル。刹那が連撃で盾持ちを下すと、ようやく一息。
「残りはクルツだけですね!」
「ええ……行きましょう!」
一足早く駆け出した刹那の後を追うエイル達。そしてハンターはクルツを包囲していく。
「クソ……どこで計算が狂った?」
ハンターの初動は読めていた。故にむしろ戦力を分断するチャンスと考えたし、それは概ね成功した。
クルツの読みに誤りがあったとすれば、“さっさと倒して後方から魔法を撃ちまくればいい”と考えていたヒースをいつまでも倒せなかった事。
ヒースさえ落とせていれば、ハンターはゾンビ前衛を押し付けられた上で、クルツの高火力砲撃に晒されていた筈。
こいつ一人倒せなかったせいで、それだけで逆にハンターの作戦通りになってしまった。
「ふざけるなよ、人間一匹ごときが!」
怒り狂う気持ちを抑え、既に気持ちは冷静に逃亡にシフトしていた。どう考えてもこの人数差はひっくり返せない。
血の翼を広げようとするが、それは既にどのハンターにとっても見え見えの手だった。
「みんな、もうわかっていると思うけれど……!」
「この状況で逃げられると思うのは、流石に愚かじゃないかな?」
エイルの呼びかけに失笑を浮かべる真水。
既に包囲は完成している。ハンター一斉の遠距離攻撃に晒されてあっさり撃墜された。
「距離を詰めれば纏めて薙ぎ払われる! このリーチを維持しろ!」
ソフィアの言うとおり、機導師にはいくつか近~中距離で状況をひっくり返せる技がある。強化されているなら尚更だ。
全員感電している間に抜けられでもしたら目も当てられない。
「範囲攻撃にゃ優れてるが、ヒースが殴っても攻性は使ってねぇ……てことは、使えねぇんだな? 回避に自信のある奴で詰めつつ、遠距離攻撃で潰すぞ!」
刹那とヒースはアクセルオーバーがまだ使える。つまり、広範囲攻撃も回避できるし、手数もある。
血の障壁を作っても遠距離攻撃で破壊され、刹那とヒースの連撃は防ぎきれない。
広範囲雷撃も二人には当たらないし、血の槍を作って後衛に放ってみても対処され、エイルの範囲魔法で吹き飛ばされる。
「はっ、アイツに比べりゃ血操のキレが甘ぇ!」
「そうね……残念だけれど、私達はあなた以上の吸血鬼と闘ってきた。二度も出し抜かれたりしないわ」
「くそ……血が……血が足りない……!? オルクス様の血が……僕の機導が……通用しない……!?」
肉体の再生も追いつかず、ボロボロに打ちのめされたクルツは既に立っていることもできず、膝をつくと前のめりに倒れ込んだ。
「ふむん……さて、どうするナサニエル? 知りたいのじゃろう、お主の義母が本当に……」
紅薔薇の言葉にナサニエルはクルツへ歩み寄り、そして魔導銃を突きつけた。
「院長……僕は……死ぬんですか?」
「ですねぇ。その前に聞かせなさい。剣機博士の正体は――リアルブルー人ですね?」
意外な問いにハンターが僅かに疑念を抱く。だが説明もなく。
「何を当たり前の事を。ずっと前からご存知だったでしょう? それは誰より、あなたが理解っていたこ――」
クルツが言い切る前に銃声が轟き、青年の身体は塵に還り始めた。
「真実を探求するというのも大変だのう。妾には理解ができん世界なのじゃが。歪虚になるのは論外としても、やはり機会があれば永遠の命は欲しかったのじゃ?」
「なわけあるか。限りがあるからこそ限界を超えられるんだよ、技術者ってやつは」
紅薔薇の問いに呆れるようにぼやくソフィアだが、ナサニエルの横顔はひどく静かだった。
以前確かに否定したのを聞いた。が――それだけか? 紅薔薇の胸には妙な違和感が残った。
「でも、すぐに始末してよかったんですか? せっかく色々と話してくれそうだったのに」
「知りたいことはわかりましたし、もう敵の本丸ですから。後は調べればわかるでしょうし、取り逃すリスクは廃した方がいい」
その答えに刹那はとりあえず納得した。最大の目的であるナサニエルの護衛は果たせたのだし、問題はないだろう。
エイルは崩れ落ちたクルスの腕から残された機械腕に手を伸ばす。だがクルツの体の一部として同化していたのだろう。ガントレッドは塵に還ろうとしていた。
「剣機博士は前院長ではない……それでいいのよね?」
「ええ。間違いありませんねぇ。そもそも彼女がこんな事件を起こせるわけがないんですよ」
消え去ったデバイスに、あの森都の事件を重ね、エイルは目をつむる。
心を焼き払い命を消費し、犠牲に犠牲を重ねて機械で繋いだ虚ろな“永遠”は――オルクスが望んだとも思えない。
帝国にもエルフハイムにも同じ業を感じる。何かを成すために何かを代償にする……そんな世界でいいわけないのに。
「ヒースさん、ゾンビの残骸漁ってどうするの? きちゃないよ」
「こいつらも名のあるハンターだったんだろぉ。遺品くらい持って帰ってやろうかと思ってねぇ」
そんな言葉に目を丸くする真水。だが、思えば彼はそんな男だった。
「ボクは宵闇と共に歩むモノ。弔いは本職に任せるけど、手伝い位はしなとねぇ」
「仕方ないね。南條さんも手伝ってあげるとしよう」
剣機の島の制圧が概ね完了したのは、それから数分後のことだった。
疲労したハンターらは内部の調査などは別働隊に任せ、メアヴァイパー号でベルトルードを目指し、帰還するのだった。
南條 真水(ka2377)が青ざめているのは、別にクルツの身勝手さにあてられたわけではない。
船旅の直後、砂浜を全力疾走した結果である。まあ、更にこれを被せられて気分が悪いのはあるかもしれない。
「あは、奇遇ですね。わたしもあの森出身なんですよ」
手を合わせ柔和な笑みを浮かべるソフィア =リリィホルム(ka2383)。
「わたし、無限の命って興味あるんですよ」
話を聞く素振りを見せながら歩み寄るソフィア。その後に続くように、影から飛び出したヒース・R・ウォーカー(ka0145)が砂を蹴る。
奇襲を狙っての事だったが、多数のゾンビが集まり行く先を塞いだ。だが、それはそれで狙い通り。
ヒースは放たれた矢を容易く回避し、続け振り下ろされた大剣の強力な一撃も回避。その刃の上に乗ると空に舞い上がった。
「残念だが僕は君に興味がないし、そもそも森都の関係者は大嫌いでね」
「ハッ、気が合うじゃねぇか!」
魔法の詠唱準備を終えていたのはソフィアだけではない。真水とナサニエルもデルタレイを同時に使用する。
飛来する九つの閃光。だがこれを盾と大剣のゾンビが肩を並べるようにして受け止める。
「……射線を防がれたじゃと?」
僅かな驚き。だが紅薔薇(ka4766)は足を止めず、敵を迂回してヒースを追う。
ヒースと紅薔薇はクルツに突撃し、敵陣をかき乱す。その間に残りのハンターが一斉攻撃でペースを掴む算段。それは概ね成功していた。
血の剣を手に作りヒースの斬撃を受けるクルツ。一方、紅薔薇の前には刀を持った個体が立ちはだかる。
鞘から引き抜いた刀が無数の閃光を放つ。躱しきれず、しかし刃で弾いた紅薔薇はそのまま回転するように祢々切丸を繰り出した。
こうした初動にやや遅れ、エイル・メヌエット(ka2807)は杖を手に走る。
陽動に合わせる為には射程や位置取りの問題で間に合わなかったが、ある意味功を奏した。
突破したヒースを追わずに大剣と盾の個体が、後衛――特にやや前方に位置するソフィアに迫っていたのだ。
既に突破は半ば成立。故に目標を切り替え、こちらの迎撃に魔法を発動する。
綏魂奏の光と音が二体を捉える――が、動きは止まらない。ここでこの二体が特に抵抗力の高い個体なのだと気づく。
強引に突破したゾンビの大剣が振り下ろされる。ソフィアは咄嗟に防壁を張り、その雷撃で大剣持ちを大きく吹き飛ばした。
ソフィアの防壁の強度はかなり高く、いくら抵抗を高めていても感電する。が、ソフィアも重い一撃を受けてしまった。
「チッ……なんつー馬鹿力だ……って!?」
無数の光の帯がソフィアを絡め取り、その場に釘付けにする。後方の杖ゾンビが放ったスキルだ。
巨体の大剣ゾンビは感電しながらも迫ってくる。ぞっとするソフィア、そこへ全身にオーラを纏った花厳 刹那(ka3984)が駆けつけ、大剣ゾンビの脇を抜けると同時に斬りつけた。
だが真の狙いはその少し後ろに位置する杖と盾のゾンビ。こちらにも光の剣を打ち込むが、盾に防がれる。
可能であれば弱点とも言える血晶の受信機を狙いたいところだが、そこは彼らにとっての“急所”。当然、守りは硬い。部位を狙うスキルがあればまた違ったかもしれないが……。
「なかなか一筋縄ではいかないようですね……流石はクルツさん謹製のゾンビといったところですか?」
皮肉めいた笑みを浮かべる刹那。当のクルツはヒースと交戦中でこちらは見ていないが、このゾンビは無視してクルツに話しかけていられるほど弱くはない。
「ヒースさん……!」
いつも斜に構えた真水の声に焦りが交じる。ヒースは結果的に味方と大きく分断され、一人でクルツと交戦しているのだ。
それはある意味作戦通りだし、彼には絶大な信頼を置いている。が、相手は間違いなく強敵。
広域雷撃、血の槍、そして剣撃。次々に繰り出されるクルツの攻撃の雨は、回避に優れた者でも容易に絡め取り蹂躙する筈……だった。
だがヒースは残像を纏い、荒れ狂う攻撃の中を紙一重で躱し続けている。攻められない。だが、致命傷も受けていないのだ。
「こいつ……なぜ避けられる!?」
「お前が何を想い何を求めているのか知らない。だけどそれを得る為に道を踏み外したお前を、ボクは赦しはしない」
強く刃を交えるヒース。その背中が語りかけている気がする。“こっちは大丈夫だ”と。
「格好つけてくれるね、もう。……どうやらあの大剣持ちがまずい。一体ずつ葬らせてもらおうじゃないか」
ペースを乱すのはあの大剣持ち。幸い残りの前衛は刹那と紅薔薇が抑えている。
気にすべきは敵側で突出している大剣持ち、そして後衛の弓使い。
「こっちはデルタレイが使える。前衛がまとまってなきゃさっきみたいに止められることもねぇ……散開しつつ接近して弓も射程に入れるぞ!」
既に自前のスキルで拘束を逃れたソフィアが走り出す。それを合図に真水は魔法を詠唱する。
「白銀の本流よ……突き抜けろ、エル・アリアス」
魔法で作り出した光の弓から放たれた矢が大地を凍てつかせながら大剣持ちを巻き込む。移動しつつ射角を調整し、背後の弓持ちと杖持ちも巻き込みたかったが、この攻撃は味方も巻き込みかねない。
強い抵抗力を持つ大剣ゾンビも容易く凍結させた一撃。仲間に当てては大惨事、故に軸はずらした。
凍てつきながらも前進し、やはりソフィアを狙うゾンビ。その前に盾を手にしたエイルが立ちはだかる。
聖導師は元々周囲範囲攻撃に優れる関係上、乱戦ではある程度近づいてしまった方が有利を押し付けやすい。
そしてエイルは防御力にも秀でていた。繰り出される大剣を盾でしっかりと受け、聖機剣を振るうと同時に魔法を解き放つ。
「黎明の子よ、この手に光を! ……ソフィアさん、今のうちに!」
大剣ゾンビを抜けたソフィアは大剣、盾、弓の三体を射程に収めデルタレイを放つ。
3体のゾンビはそれぞれ防御や回避を試みるが、ここにナサニエルのデルタレイも重なり、それぞれに隙が生まれた。
刹那はそれを見逃さず、連続攻撃を放つ。敵は盾で身を守り、このガードはなかなか崩せなかった。
だが周囲を旋回しつつ連続で攻撃を繰り出すことで盾をかいくぐり、斬撃をねじ込む事に成功する。
胸を二発の光弾に穿たれながらも、弓を構え矢を放つゾンビ。狙いは更に突出して走る真水だ。
無論、考えなしではない。今このタイミングでソフィアを集中攻撃されるのはまずい。
真水も防御性能は高く、それを自負している。こういった時にはあえてヘイトを集めるつもりだった。
放たれた矢が二発連続で真水を狙う。が、パリィグローブでこれを次々に弾くと、ソフィアとナサニエルに遅れてデルタレイを放った。
後衛の奮闘を横目に紅薔薇は刀を持つ個体との戦いを続けていた。
ヒースは一人でも十分に時間を稼げると判断したのだ。アクセルオーバーが切れては難しいだろうが、それより先に目の前の敵を葬れる自信があった。
それに、この敵は攻撃力と機動力に長けている。後衛に任せては一気に崩されかねない。
「縦横無尽、二連之業、肉斬骨断……と言ったところかの? 生前はかなりの使い手だったと見える」
二人は高速で斬撃のやり取りを繰り返すが、徐々に紅薔薇が押していく。
回避困難な攻撃を前にしても紅薔薇は巧みに躱し、受け、そして敵の一撃を上回る一撃を重ねるのだ。
「二連之業とは――こうやるのじゃよ」
一瞬で剣閃が重なり、二つの光が刀ゾンビの守りを抜けて肉を引き裂く。
はじけ飛んだ肉塊に目もくれず構え直す紅薔薇。そこからヒースに重ねぬよう、位置を調整した次元斬を繰り出した。
横槍を食らったクルツが吹っ飛びながら血の盾を作り、追撃に来たヒースに対処する。
「遅れてすまぬな。じゃが、実に見事な体捌きじゃったぞ」
「お褒めに預かり光栄だねぇ。まあ、正直そろそろ限界だったんだけど」
眉を潜めくつくつと笑うヒース。アクセルオーバーを切らしたら、とても一人では耐えられない。
「すまぬが距離を置かせてもらうぞ。あの雷撃には前回で懲りたのでな」
ヒースへの猛攻を見ていて感じたのは、自分では恐らく耐えきれないということ。
先の刀使いもなかなか強敵だったが、クルツの攻撃は避けづらい上に受けた時、感電で動きを鈍らせてくる。
更に攻撃を重ねられればジリ貧になる道理。
せっかく長射程のスキルを持っているのだから、敵の土俵に上る必要はない。
クルツの周囲を周るように移動する紅薔薇は、隙きを見て次元斬を打ち込む。そしてそれに合わせ、ヒースはワイヤーで動きを封じにかかる。
血の結晶で防御しても、紅薔薇の火力は抑えきれない。当然紅薔薇を追い回したいが、それはヒースに邪魔される。
「き……さまらああああ!!」
「お前にはもう少し踊っていてもらおうかぁ。皆が来るまで……ね?」
エイルと刹那が前衛に張り付き、真水、ソフィア、ナサニエルによる高火力デルタレイが乱舞するようになると、一瞬で形成はハンター有利に雪崩込んだ。
弓持ちは射程と火力に優れていたが、防御能力は低い。まずこれが真っ先にダウン。
そして体力を大きく削られた大剣と杖盾ゾンビには、エイルと刹那がそれぞれ止めを繰り出した。
魔法を込めた聖機剣を打ち付けて巨体のゾンビをノックアウトするエイル。刹那が連撃で盾持ちを下すと、ようやく一息。
「残りはクルツだけですね!」
「ええ……行きましょう!」
一足早く駆け出した刹那の後を追うエイル達。そしてハンターはクルツを包囲していく。
「クソ……どこで計算が狂った?」
ハンターの初動は読めていた。故にむしろ戦力を分断するチャンスと考えたし、それは概ね成功した。
クルツの読みに誤りがあったとすれば、“さっさと倒して後方から魔法を撃ちまくればいい”と考えていたヒースをいつまでも倒せなかった事。
ヒースさえ落とせていれば、ハンターはゾンビ前衛を押し付けられた上で、クルツの高火力砲撃に晒されていた筈。
こいつ一人倒せなかったせいで、それだけで逆にハンターの作戦通りになってしまった。
「ふざけるなよ、人間一匹ごときが!」
怒り狂う気持ちを抑え、既に気持ちは冷静に逃亡にシフトしていた。どう考えてもこの人数差はひっくり返せない。
血の翼を広げようとするが、それは既にどのハンターにとっても見え見えの手だった。
「みんな、もうわかっていると思うけれど……!」
「この状況で逃げられると思うのは、流石に愚かじゃないかな?」
エイルの呼びかけに失笑を浮かべる真水。
既に包囲は完成している。ハンター一斉の遠距離攻撃に晒されてあっさり撃墜された。
「距離を詰めれば纏めて薙ぎ払われる! このリーチを維持しろ!」
ソフィアの言うとおり、機導師にはいくつか近~中距離で状況をひっくり返せる技がある。強化されているなら尚更だ。
全員感電している間に抜けられでもしたら目も当てられない。
「範囲攻撃にゃ優れてるが、ヒースが殴っても攻性は使ってねぇ……てことは、使えねぇんだな? 回避に自信のある奴で詰めつつ、遠距離攻撃で潰すぞ!」
刹那とヒースはアクセルオーバーがまだ使える。つまり、広範囲攻撃も回避できるし、手数もある。
血の障壁を作っても遠距離攻撃で破壊され、刹那とヒースの連撃は防ぎきれない。
広範囲雷撃も二人には当たらないし、血の槍を作って後衛に放ってみても対処され、エイルの範囲魔法で吹き飛ばされる。
「はっ、アイツに比べりゃ血操のキレが甘ぇ!」
「そうね……残念だけれど、私達はあなた以上の吸血鬼と闘ってきた。二度も出し抜かれたりしないわ」
「くそ……血が……血が足りない……!? オルクス様の血が……僕の機導が……通用しない……!?」
肉体の再生も追いつかず、ボロボロに打ちのめされたクルツは既に立っていることもできず、膝をつくと前のめりに倒れ込んだ。
「ふむん……さて、どうするナサニエル? 知りたいのじゃろう、お主の義母が本当に……」
紅薔薇の言葉にナサニエルはクルツへ歩み寄り、そして魔導銃を突きつけた。
「院長……僕は……死ぬんですか?」
「ですねぇ。その前に聞かせなさい。剣機博士の正体は――リアルブルー人ですね?」
意外な問いにハンターが僅かに疑念を抱く。だが説明もなく。
「何を当たり前の事を。ずっと前からご存知だったでしょう? それは誰より、あなたが理解っていたこ――」
クルツが言い切る前に銃声が轟き、青年の身体は塵に還り始めた。
「真実を探求するというのも大変だのう。妾には理解ができん世界なのじゃが。歪虚になるのは論外としても、やはり機会があれば永遠の命は欲しかったのじゃ?」
「なわけあるか。限りがあるからこそ限界を超えられるんだよ、技術者ってやつは」
紅薔薇の問いに呆れるようにぼやくソフィアだが、ナサニエルの横顔はひどく静かだった。
以前確かに否定したのを聞いた。が――それだけか? 紅薔薇の胸には妙な違和感が残った。
「でも、すぐに始末してよかったんですか? せっかく色々と話してくれそうだったのに」
「知りたいことはわかりましたし、もう敵の本丸ですから。後は調べればわかるでしょうし、取り逃すリスクは廃した方がいい」
その答えに刹那はとりあえず納得した。最大の目的であるナサニエルの護衛は果たせたのだし、問題はないだろう。
エイルは崩れ落ちたクルスの腕から残された機械腕に手を伸ばす。だがクルツの体の一部として同化していたのだろう。ガントレッドは塵に還ろうとしていた。
「剣機博士は前院長ではない……それでいいのよね?」
「ええ。間違いありませんねぇ。そもそも彼女がこんな事件を起こせるわけがないんですよ」
消え去ったデバイスに、あの森都の事件を重ね、エイルは目をつむる。
心を焼き払い命を消費し、犠牲に犠牲を重ねて機械で繋いだ虚ろな“永遠”は――オルクスが望んだとも思えない。
帝国にもエルフハイムにも同じ業を感じる。何かを成すために何かを代償にする……そんな世界でいいわけないのに。
「ヒースさん、ゾンビの残骸漁ってどうするの? きちゃないよ」
「こいつらも名のあるハンターだったんだろぉ。遺品くらい持って帰ってやろうかと思ってねぇ」
そんな言葉に目を丸くする真水。だが、思えば彼はそんな男だった。
「ボクは宵闇と共に歩むモノ。弔いは本職に任せるけど、手伝い位はしなとねぇ」
「仕方ないね。南條さんも手伝ってあげるとしよう」
剣機の島の制圧が概ね完了したのは、それから数分後のことだった。
疲労したハンターらは内部の調査などは別働隊に任せ、メアヴァイパー号でベルトルードを目指し、帰還するのだった。
依頼結果
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MVP一覧
- 真水の蝙蝠
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/04/21 23:50:00 |
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ナサニエルさんに質問 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/04/24 10:28:23 |
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作戦相談所 ヒース・R・ウォーカー(ka0145) 人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/04/27 01:00:51 |