ゲスト
(ka0000)
リゼリオ☆フラワーフェスティバル
マスター:赤羽 青羽

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/08 12:00
- 完成日
- 2017/05/16 00:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「うわー、素晴らしい景色ですね。ヴァイオレットさん」
咲き誇る花の大地を前に、スチュアート・K・アッシュベリーは嘆息した。
快晴の空の下、紅に薄桃、薄黄、橙、青紫、……色彩が鮮やかな緑の絨毯の上に溢れている。
冒険都市リゼリオでも比較的内陸部に位置するこの場所は、『リゼリオ・フラワーフェスティバル』の真っ只中だ。これから二週間、住民や観光客がこの季節の花を楽しみにやって来る。
「花時計広場に紫の絨毯、キンポウゲの花畑にハーブガーデン、花の庭園、花の迷路……あっ、ラベンダーアイスなんてのもあるんですね」
「スチュアート、楽しんでいいとは言われたものの、警備である事も忘れんようにな」
案内板を見ながら浮かれる眼鏡の部下に、ヴァイオレット・ルブランは釘を刺す。黒髪をかきながらスチュアートは申し訳なさそうに笑う。
「これは……すみません。実は母から『リゼリオに勤務しているならこのイベントを絶対に見に行くように。この種類の苗を買ってゲートを使い、即日届けるように。そして感想を伝えるように』と言われておりまして」
「お母上……【青鉄の魔女】殿が……?」
「確かヴァイオレットさんは母と戦場に出たこともあったんでしたっけ。ええ、母は花が好きで、実家の庭をいつも手入れしてるんですよ。父とボール遊びをしててやらかしちゃった時なんかには、よく機導砲が飛んできたものです」
「……それは普通に恐ろしいな」
懐かしそうに青い目を細めるスチュアートに、ヴァイオレットは率直な感想を述べる。
かつて、長い黒髪を翻し純白のロングコートを舞わせて勇ましく戦っていた先輩の姿のイメージと、違うような違わなかったような。
メモと懐中時計をベストのポケットから取り出したスチュアートが、分岐路で立ち止まる。
「という事で僕は苗売り場に行ってきますね。必ず手に入れないと……」
「あ、ああ。いってらっしゃい」
駆けていくスチュアートの背を見送って、ヴァイオレットは周囲を見回した。
カップルに家族連れ、老夫婦にツアー客が楽しそうに通り過ぎていく。
長い銀髪を掻き上げ、ため息をついた。
「私も……可能な限り楽しんでみようか」
咲き誇る花の大地を前に、スチュアート・K・アッシュベリーは嘆息した。
快晴の空の下、紅に薄桃、薄黄、橙、青紫、……色彩が鮮やかな緑の絨毯の上に溢れている。
冒険都市リゼリオでも比較的内陸部に位置するこの場所は、『リゼリオ・フラワーフェスティバル』の真っ只中だ。これから二週間、住民や観光客がこの季節の花を楽しみにやって来る。
「花時計広場に紫の絨毯、キンポウゲの花畑にハーブガーデン、花の庭園、花の迷路……あっ、ラベンダーアイスなんてのもあるんですね」
「スチュアート、楽しんでいいとは言われたものの、警備である事も忘れんようにな」
案内板を見ながら浮かれる眼鏡の部下に、ヴァイオレット・ルブランは釘を刺す。黒髪をかきながらスチュアートは申し訳なさそうに笑う。
「これは……すみません。実は母から『リゼリオに勤務しているならこのイベントを絶対に見に行くように。この種類の苗を買ってゲートを使い、即日届けるように。そして感想を伝えるように』と言われておりまして」
「お母上……【青鉄の魔女】殿が……?」
「確かヴァイオレットさんは母と戦場に出たこともあったんでしたっけ。ええ、母は花が好きで、実家の庭をいつも手入れしてるんですよ。父とボール遊びをしててやらかしちゃった時なんかには、よく機導砲が飛んできたものです」
「……それは普通に恐ろしいな」
懐かしそうに青い目を細めるスチュアートに、ヴァイオレットは率直な感想を述べる。
かつて、長い黒髪を翻し純白のロングコートを舞わせて勇ましく戦っていた先輩の姿のイメージと、違うような違わなかったような。
メモと懐中時計をベストのポケットから取り出したスチュアートが、分岐路で立ち止まる。
「という事で僕は苗売り場に行ってきますね。必ず手に入れないと……」
「あ、ああ。いってらっしゃい」
駆けていくスチュアートの背を見送って、ヴァイオレットは周囲を見回した。
カップルに家族連れ、老夫婦にツアー客が楽しそうに通り過ぎていく。
長い銀髪を掻き上げ、ため息をついた。
「私も……可能な限り楽しんでみようか」
リプレイ本文
●入口
続々と訪れる人々の中に、サッカーボールを抱えた青年が通りかかる。ハンターの央崎 枢(ka5153)だ。
七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)の2人は手を繋ぎ、何事か話しながらゆっくりと歩いてゆく。
人間と鬼の2人連れが、入口の看板前で装備を点検するために足を止める。鞍馬 真(ka5819)と骸香(ka6223)だ。
お昼前にやってきたヴィリー・シュトラウス(ka6706)は大きな鞄を抱えて足早に通り過ぎていった。
晴れやかな空。
風が程よく花弁を揺らし、柔らかな太陽の光が降り注ぐ一日のことだった。
●見上げる花は
真夕は結った髪と繋いだ手を軽く揺らして、黄色と白の小道を歩く。隣では恋人の紅葉が見知らぬ花に目を輝かせている。
細い葉の中央から伸びた長い茎の先に、小さな手の平の形をした花が鈴なりに咲いている。
(日本で見た事……あるようなないような……)
真夕はリアルブルーの出身だ。
のんびり恋人と歩きながらも、つい、故郷に咲いていた花は無いかと探してしまう。似ている花は見かけたが、どこか違って見えるのはそもそも種類が違うからだろうか。
異世界に来てしまった実感は、ちょっとした部分でこそ強く感じるのかもしれない。
「真夕、あの青紫の花……何、かな」
紅葉の視線の先に、立ち上がった中央の花弁を取り巻き、紫の花弁をスカートのように広げた花がある。
「あっ。あれはアヤメね」
思わず小走りに駆け寄り、膝上の高さに咲く花に顔を寄せた。
学名をアイリス。花の中央にいくにつれて白から黄色へと、花弁の色が変わっていく。
ふと気づくと、同じように花に顔を寄せ、鮮やかな赤い髪を長く垂らした紅葉の顔が横にある。
「リアルブルーにもある花、だった、ね」
近くで笑いかける紅葉の瞳に、真夕も照れながら微笑み返す。
思えば、最近はずっと忙しくし続けていた。真面目な気質の真夕は、知らず知らずの内に気負いすぎていたのかもしれない。
今日は大好きな人とゆったり楽しもう。
久しぶりのデートはそんな風にして始まった。
「あそこにしようか。紅葉」
真夕がダメ元で期待していた桜はやっぱり散ってしまった後だったが、代わりに花畑の端に見事な藤棚を見つけた。
紫の糸の波が、あるかないかの風にたおやかに揺れている。
「おー……綺麗、だね」
丁度良く藤を見上げられる位置に、芝生の野原がある。2人はそこにシートを広げることにした。
紅葉が飲み物を買いに行っている間、真夕はそれぞれ用意したお弁当箱の包みとバスケットの準備をする。
少々時間がかかったのが心配だったが、ハーブティーを手に戻ってきた紅葉と靴を脱いでシートの上に座る。
青空の下、お弁当箱の蓋とバスケットの布を開く。
「真夕、あーんて、してほしい、な」
くすりと笑って、真夕は小さく作ってきたオムレツを箸で持つ。
「はい、紅葉。あーん♪」
もぐもぐと食べる様子を真夕は嬉しそうに見守る。
紅葉がバスケットに詰めてきたのはサンドイッチだ。苺ジャムに卵焼き……色とりどりの具材が真っ白なパンに挟まれている。
その中から真夕が1つ手に取って口に運ぶと、香草を利かせたハムの風味が口いっぱいに広がった。
「どう、かな? ボクのお弁当」
「すごーく美味しい。ありがと、紅葉」
真夕はできるだけ素直な気持ちを言葉に込める。
紅葉と寄り添って、ハーブティーを飲みながら紫の梢を見上げた。
●宙に広がる
花時計広場の一角にあるテーブルで、ミートパイをかじる。
さくっとした香ばしいパイ生地と食べ応えのあるしっとりとしたフィリングが、絶妙の食感を生み出す。
視線の先には、釣鐘を天に広げたような形のトルコギキョウ。白い花弁が、縁の青紫色をくっきりと映えさせている。
持たせてくれた姉さんに心の中でごちそうさまを言い、枢は空になったミートパイの包みを閉じた。
青と白、紫のデルフィニウムが入り混じって咲く花畑の前は、小さな広場になっていた。
イルカの名を冠した名前の由来は花の形からだが、深く涼やかな青は海を思わせるような気もする。
鞄からジャグリングの道具を出しながら、道化師に扮したヴィリーはボールを小脇に抱えた友人の姿を認めて手を挙げた。
「カナメ!」
「お待たせ、ここでやってみる?」
「広さも十分あるし、人通りも多そうだからね」
同じく道化師の衣装に着替えた枢が、打ち合わせ通りに前に出て、無言のジェスチャーで周囲の人々を手招く。
広場の端で飲み物の売店を開く店主が、ちらりと枢の方を見る。
子供が数人、興味を惹かれた様子で集まってくる。
(この兄ちゃん に 注目)
枢のジェスチャーで伝わったかは定かでないが、後ろ手に手渡したジャグリング道具をヴィリーが次々に宙に投げ上げれば、『ぉー』と歓声が上がった。
その動きの大きさに次々と通行人が足を止める。ヴィリーと枢を取り巻くようにして、人垣ができ始める。
ヴィリーは道具をシガーボックスに持ち替え、パフォーマンスを続ける。
目に見えぬ台でもあるかのように踊る箱がリズミカルに音を立てれば、自然と人垣の中から手拍子が生まれた。
(いい頃合いかな)
ヴィリーはぴたりと手を止めると、観客へ片腕を開いて礼儀正しく一礼する。
『途中でコラボしよう』
そう2人は事前に打ち合わせていた。
ヴィリーの視線に枢が頷き、片隅に置いておいたサッカーボールを拾い上げると、調子を確かめるように手に挟んで回転をかける。
次は何が始まるのかと固唾を呑んで見守る人々の前で、ヴィリーが後ろに控えた枢を紹介するように中央から下がる。
人々の視線が十分に集まったのを感じながら、枢は真っ直ぐ上にボールを放って、足先で受け止めてみせる。
そのまま足の動きでボールを宙に投げ上げ、今度は頭で受けてバウンドさせる。落ちてきたボールを、大腿、胸、足の甲で次々と跳ねあげて、受け止める。
リアルブルーのフリースタイルフットボールに、疾影士の瞬発力を組み合わせた『リフティング』だ。
その名称を知らなくても、動きは十分に心を捉えたらしい。
目を輝かす子供の1人に、ヴィリーが枢から受け取ったボールを手渡す。
(こっちのお兄ちゃん に 投げて)
ゼスチャーに頷いて、力一杯投げ上げられたボールを枢が足で受け止める。
2人が交互にパフォーマンスを行い、ヴィリーがシェイカーカップで作った飲み物を観客にプレゼントし、ようやく人垣から抜け出した頃には空が紅に染まり始めていた。
「おい、そこの兄ちゃんたち」
荷物を持って移動しようとした所で、広場の隅で飲み物を売っていた店主に声をかけられる。
何事かと枢とヴィリーが近づくと、カップを2つ差し出された。
「おかげでこっちも売れたからな。取っとけや」
花時計広場のテーブルで、ヴィリーと枢は祝杯代わりにジュースのカップをかち合わせる。
疲れた体に、さっぱりとしたライムの果汁が心地よく染みる。アクセントになっているのはバジル系の香草だろうか。
夕暮れの風が、花の香りと花時計前で演奏が始まった横笛の音色を運ぶ。
「リアルブルーには行ったことないけど、あっちにもこんな景色があるのかな」
背景に揺れる花と人々の動きを遠く見ながら、ヴィリーが枢に問いかける。
「あったかもしれないな」
オレンジの太陽に照らされた風景を見ながら、枢はカップに口をつける。
見覚えがあってもなくても、故郷のどこかでもこういう景色は繰り返されているのだろう。それを見て話す友人同士もまた、いるのかもしれない。
「あ……リアルブルーと言えば……」
「言えば……?」
「最近人づてに聞いたんだけど、アキハバラってどんな所?」
感傷的な雰囲気からの変化球を受け止めきれずに、枢はがくっと顎を落としかける。
そういえば、最近ヴィリーはプラモとかアニメにハマったとか言ってたような……。
「サルヴァトーレ・ロッソで仲良くなった乗員さんから、『メカの聖地』って聞いてるよ。カタログを見せて貰ったりしたんだ。確か気になった機体名は……」
爽やかな雰囲気の下で、友人もまた同じ道へと足を踏み入れつつあったようだ。
枢は大仰に手を広げる。
「……我が友よ、俺は君を止めない。ようこそ同志」
空が夕焼けから夕闇に、星が輝き始める頃まで話は続いた。
●ふれる花に
今日の任務は警備だ。
民間人に危険が及ばないように守るのはハンターとしての責務。
真は恋人の骸香と並んで歩き、周囲に目を配る。
とはいえ、過度に緊張を伝染させてはならない。できる限りさりげなく、景色を楽しむくらいの気持ちで。
花時計広場の治安状況を確かめてから、花の迷路に足を踏み入れる。
右はクライミングローズ。咲き始めなのか蕾も多いが、淡い桃色の花が所々に開いている。左はクレマチス。時計の文字盤のように薄く8方に広がった花弁が、一斉に空を見上げて開いている。
真の指に柔らかな手の平が触れる。暖かさを確かめるようにそっと握りかえした。
「これを作るのにどれだけの花を育てたんすかねぇ」
繋いだ手を揺らしながら骸香は楽しそうに笑う。
骸香は、『警備』と言いながら真が恥ずかしがっているのを知っている。
名目上はそうでも、隠れて手を繋ぐだけでは少々物足りない。真の耳元に顔を寄せる。
「見てる人が居なかったら、もっと引っ付いてられたのに」
そう囁いて周りを見回せば、他に誰の姿もない。歩いているうちに迷路の奥の方まで来てしまったようだ。行き止まりに、エニシダの花弁が金糸のように溢れて揺れている。骸香は悪戯っぽく笑って真の顔を見上げた。
黒い瞳に正面から見上げられて真は顔を赤くする。
何か言おうと口を開いた真の視界の横を、子供が数人ぱたぱたと駆けていく。
去って行ったのを見届け、苦笑しながら骸香の頭を優しく撫でた。
「……こんな景色を、きみと一緒に見ることができて、嬉しいよ」
「こんな綺麗な場所に連れてきてくれて、ありがとう♪ 真」
迷路を抜ければ、一面に広がったハナビシソウのオレンジの向こうに、テントが幾つか並んでいる。
大きく曲線を描く道を行ってみれば、花の苗や寄せ植えを販売している場所のようだ。
「……そうだ」
独り言のように呟いた真は、左右のテントを覗き込みながら、骸香の手を引いて歩いてゆく。
ついていく骸香は心の中で首を傾げた。何を探しているのだろう。
ようやく発見した様子で狭いテントの会計に並んだ真を、骸香はテントの外で揺れるルピナスを見ながら待った。
「骸香、これを」
いつの間にやらテントから出てきた真の手には、陶器の鉢植えに植えられ、白い花を無数につけた低木がある。
光を透かすような白い花弁は星の形に重なりあって、真の腕いっぱいに広がっていた。
「ぇ……!」
「アザレアっていうんだ。白は『あなたに愛されて幸せ』って花言葉があって……」
「ぇ……?!」
混乱と嬉しいのと驚いてしまったのが綯い交ぜ(ないまぜ)になって、言葉が出てこない。
こんな風に何かを貰うなんて、今までほとんど無かった。
すっかり動きを止めてしまった骸香の様子に、真は言葉を連ねる。
「私は結構な頻度で怪我をしていて、きみにたくさんの心配をかけていると思う。それでも、きみはこんな私を愛してくれる。……私は幸せ者だな」
だから、今きみに伝えられる最大限の感謝を。
競い合うように咲く白から、はらりと落ちた1つを骸香は両手で受けとめる。
真っ黒な髪に花を飾り、鉢を持つ真の手に自分の手を添えて、普段は白い頬を赤く染めた。
「ありがとう……です」
花時計広場に戻った時には陽が傾きかけていた。
こんな時間でも、食べ物や飲み物を手に歓談する人々でテーブルはほとんど埋まっている。
楽器の調整をしているエルフの一団に、真と骸香は声をかける。既に数曲を演奏し終えていたエルフたちは、一緒にパフォーマンスしないかという2人の申し出を快く受けた。
簡単な打ち合わせをして配置につき、髪に花を飾った骸香がすっと前に一歩踏み出す。
楽譜に目を通した真が、息を整えてフルートのリッププレートに唇を添える。
エルフの少女が吹くオーボエの主旋律に続き、フルートの音色を重ねていく。青年が吹くファゴットがメロディを下から支えるように包み込む。
周りの旋律を聞きながら、真はメインのパフォーマーたちとのセッションを純粋に楽しむように、引き立てるように音を添わせる。
演奏に合わせ、骸香は音のイメージを舞踊の動きに乗せていく。
神秘的な木管のパートは静かに、勇壮な金管の音が加われば勇ましく。弦楽器はしなやかに。
事前に打ち合わせた骸香の歌が入る前、ステップを踏みながら真の傍に近づく。フルートを吹く真の耳元に彼にだけしか聞こえないような声で囁いた。
「……うちの大事な夜」
思わず息を詰まらせかけ、音を裏返す直前で真はギリギリ耐えた。
悪戯心を出しすぎただろうか。
何とか持ち直す真に、骸香はくすりと笑みを向ける。
歌いながら骸香は、ステージの脇にそっと視線を流す。
楽器ケースの傍に置かれた白い花が、輝くステージの光を返して淡く光っていた。
●出口
夕闇の中、花や雑貨を手に次々と人々が家路へつく。
「デート、とっても楽しかったね……」
帰りがけにお店で使う為のハーブを買い求め、恋人と手分けして運んでいた紅葉は、大通りに出る前の小道で寄せ植えの鉢を地面に降ろした。
淡紫の花をつけたローズマリーを手に、不思議そうに振り向いた真夕を小さく手招く。
「喜んでもらえると、うれしい、な」
飲み物を買いに行く際にこっそりと手に入れておいた、小さな箱を真夕に手渡した。
開けてみると、薄く色づいた赤い花を緑の蔦が幾重にも囲んだ、華奢な作りの髪飾りがある。
不意打ちに照れてしまいながら、真夕は最高の笑顔を恋人に向けた。
「紅葉、大好きよ」
唇同士を触れ合わせ、抱きついてきた紅葉を抱きしめる。
「……真夕、大好き、だよ」
鉢を抱えて、空いた方の手を繋ぐ。
昇ってきた月の下、サクラソウが作る道を歩いて2人は帰路についた。
続々と訪れる人々の中に、サッカーボールを抱えた青年が通りかかる。ハンターの央崎 枢(ka5153)だ。
七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)の2人は手を繋ぎ、何事か話しながらゆっくりと歩いてゆく。
人間と鬼の2人連れが、入口の看板前で装備を点検するために足を止める。鞍馬 真(ka5819)と骸香(ka6223)だ。
お昼前にやってきたヴィリー・シュトラウス(ka6706)は大きな鞄を抱えて足早に通り過ぎていった。
晴れやかな空。
風が程よく花弁を揺らし、柔らかな太陽の光が降り注ぐ一日のことだった。
●見上げる花は
真夕は結った髪と繋いだ手を軽く揺らして、黄色と白の小道を歩く。隣では恋人の紅葉が見知らぬ花に目を輝かせている。
細い葉の中央から伸びた長い茎の先に、小さな手の平の形をした花が鈴なりに咲いている。
(日本で見た事……あるようなないような……)
真夕はリアルブルーの出身だ。
のんびり恋人と歩きながらも、つい、故郷に咲いていた花は無いかと探してしまう。似ている花は見かけたが、どこか違って見えるのはそもそも種類が違うからだろうか。
異世界に来てしまった実感は、ちょっとした部分でこそ強く感じるのかもしれない。
「真夕、あの青紫の花……何、かな」
紅葉の視線の先に、立ち上がった中央の花弁を取り巻き、紫の花弁をスカートのように広げた花がある。
「あっ。あれはアヤメね」
思わず小走りに駆け寄り、膝上の高さに咲く花に顔を寄せた。
学名をアイリス。花の中央にいくにつれて白から黄色へと、花弁の色が変わっていく。
ふと気づくと、同じように花に顔を寄せ、鮮やかな赤い髪を長く垂らした紅葉の顔が横にある。
「リアルブルーにもある花、だった、ね」
近くで笑いかける紅葉の瞳に、真夕も照れながら微笑み返す。
思えば、最近はずっと忙しくし続けていた。真面目な気質の真夕は、知らず知らずの内に気負いすぎていたのかもしれない。
今日は大好きな人とゆったり楽しもう。
久しぶりのデートはそんな風にして始まった。
「あそこにしようか。紅葉」
真夕がダメ元で期待していた桜はやっぱり散ってしまった後だったが、代わりに花畑の端に見事な藤棚を見つけた。
紫の糸の波が、あるかないかの風にたおやかに揺れている。
「おー……綺麗、だね」
丁度良く藤を見上げられる位置に、芝生の野原がある。2人はそこにシートを広げることにした。
紅葉が飲み物を買いに行っている間、真夕はそれぞれ用意したお弁当箱の包みとバスケットの準備をする。
少々時間がかかったのが心配だったが、ハーブティーを手に戻ってきた紅葉と靴を脱いでシートの上に座る。
青空の下、お弁当箱の蓋とバスケットの布を開く。
「真夕、あーんて、してほしい、な」
くすりと笑って、真夕は小さく作ってきたオムレツを箸で持つ。
「はい、紅葉。あーん♪」
もぐもぐと食べる様子を真夕は嬉しそうに見守る。
紅葉がバスケットに詰めてきたのはサンドイッチだ。苺ジャムに卵焼き……色とりどりの具材が真っ白なパンに挟まれている。
その中から真夕が1つ手に取って口に運ぶと、香草を利かせたハムの風味が口いっぱいに広がった。
「どう、かな? ボクのお弁当」
「すごーく美味しい。ありがと、紅葉」
真夕はできるだけ素直な気持ちを言葉に込める。
紅葉と寄り添って、ハーブティーを飲みながら紫の梢を見上げた。
●宙に広がる
花時計広場の一角にあるテーブルで、ミートパイをかじる。
さくっとした香ばしいパイ生地と食べ応えのあるしっとりとしたフィリングが、絶妙の食感を生み出す。
視線の先には、釣鐘を天に広げたような形のトルコギキョウ。白い花弁が、縁の青紫色をくっきりと映えさせている。
持たせてくれた姉さんに心の中でごちそうさまを言い、枢は空になったミートパイの包みを閉じた。
青と白、紫のデルフィニウムが入り混じって咲く花畑の前は、小さな広場になっていた。
イルカの名を冠した名前の由来は花の形からだが、深く涼やかな青は海を思わせるような気もする。
鞄からジャグリングの道具を出しながら、道化師に扮したヴィリーはボールを小脇に抱えた友人の姿を認めて手を挙げた。
「カナメ!」
「お待たせ、ここでやってみる?」
「広さも十分あるし、人通りも多そうだからね」
同じく道化師の衣装に着替えた枢が、打ち合わせ通りに前に出て、無言のジェスチャーで周囲の人々を手招く。
広場の端で飲み物の売店を開く店主が、ちらりと枢の方を見る。
子供が数人、興味を惹かれた様子で集まってくる。
(この兄ちゃん に 注目)
枢のジェスチャーで伝わったかは定かでないが、後ろ手に手渡したジャグリング道具をヴィリーが次々に宙に投げ上げれば、『ぉー』と歓声が上がった。
その動きの大きさに次々と通行人が足を止める。ヴィリーと枢を取り巻くようにして、人垣ができ始める。
ヴィリーは道具をシガーボックスに持ち替え、パフォーマンスを続ける。
目に見えぬ台でもあるかのように踊る箱がリズミカルに音を立てれば、自然と人垣の中から手拍子が生まれた。
(いい頃合いかな)
ヴィリーはぴたりと手を止めると、観客へ片腕を開いて礼儀正しく一礼する。
『途中でコラボしよう』
そう2人は事前に打ち合わせていた。
ヴィリーの視線に枢が頷き、片隅に置いておいたサッカーボールを拾い上げると、調子を確かめるように手に挟んで回転をかける。
次は何が始まるのかと固唾を呑んで見守る人々の前で、ヴィリーが後ろに控えた枢を紹介するように中央から下がる。
人々の視線が十分に集まったのを感じながら、枢は真っ直ぐ上にボールを放って、足先で受け止めてみせる。
そのまま足の動きでボールを宙に投げ上げ、今度は頭で受けてバウンドさせる。落ちてきたボールを、大腿、胸、足の甲で次々と跳ねあげて、受け止める。
リアルブルーのフリースタイルフットボールに、疾影士の瞬発力を組み合わせた『リフティング』だ。
その名称を知らなくても、動きは十分に心を捉えたらしい。
目を輝かす子供の1人に、ヴィリーが枢から受け取ったボールを手渡す。
(こっちのお兄ちゃん に 投げて)
ゼスチャーに頷いて、力一杯投げ上げられたボールを枢が足で受け止める。
2人が交互にパフォーマンスを行い、ヴィリーがシェイカーカップで作った飲み物を観客にプレゼントし、ようやく人垣から抜け出した頃には空が紅に染まり始めていた。
「おい、そこの兄ちゃんたち」
荷物を持って移動しようとした所で、広場の隅で飲み物を売っていた店主に声をかけられる。
何事かと枢とヴィリーが近づくと、カップを2つ差し出された。
「おかげでこっちも売れたからな。取っとけや」
花時計広場のテーブルで、ヴィリーと枢は祝杯代わりにジュースのカップをかち合わせる。
疲れた体に、さっぱりとしたライムの果汁が心地よく染みる。アクセントになっているのはバジル系の香草だろうか。
夕暮れの風が、花の香りと花時計前で演奏が始まった横笛の音色を運ぶ。
「リアルブルーには行ったことないけど、あっちにもこんな景色があるのかな」
背景に揺れる花と人々の動きを遠く見ながら、ヴィリーが枢に問いかける。
「あったかもしれないな」
オレンジの太陽に照らされた風景を見ながら、枢はカップに口をつける。
見覚えがあってもなくても、故郷のどこかでもこういう景色は繰り返されているのだろう。それを見て話す友人同士もまた、いるのかもしれない。
「あ……リアルブルーと言えば……」
「言えば……?」
「最近人づてに聞いたんだけど、アキハバラってどんな所?」
感傷的な雰囲気からの変化球を受け止めきれずに、枢はがくっと顎を落としかける。
そういえば、最近ヴィリーはプラモとかアニメにハマったとか言ってたような……。
「サルヴァトーレ・ロッソで仲良くなった乗員さんから、『メカの聖地』って聞いてるよ。カタログを見せて貰ったりしたんだ。確か気になった機体名は……」
爽やかな雰囲気の下で、友人もまた同じ道へと足を踏み入れつつあったようだ。
枢は大仰に手を広げる。
「……我が友よ、俺は君を止めない。ようこそ同志」
空が夕焼けから夕闇に、星が輝き始める頃まで話は続いた。
●ふれる花に
今日の任務は警備だ。
民間人に危険が及ばないように守るのはハンターとしての責務。
真は恋人の骸香と並んで歩き、周囲に目を配る。
とはいえ、過度に緊張を伝染させてはならない。できる限りさりげなく、景色を楽しむくらいの気持ちで。
花時計広場の治安状況を確かめてから、花の迷路に足を踏み入れる。
右はクライミングローズ。咲き始めなのか蕾も多いが、淡い桃色の花が所々に開いている。左はクレマチス。時計の文字盤のように薄く8方に広がった花弁が、一斉に空を見上げて開いている。
真の指に柔らかな手の平が触れる。暖かさを確かめるようにそっと握りかえした。
「これを作るのにどれだけの花を育てたんすかねぇ」
繋いだ手を揺らしながら骸香は楽しそうに笑う。
骸香は、『警備』と言いながら真が恥ずかしがっているのを知っている。
名目上はそうでも、隠れて手を繋ぐだけでは少々物足りない。真の耳元に顔を寄せる。
「見てる人が居なかったら、もっと引っ付いてられたのに」
そう囁いて周りを見回せば、他に誰の姿もない。歩いているうちに迷路の奥の方まで来てしまったようだ。行き止まりに、エニシダの花弁が金糸のように溢れて揺れている。骸香は悪戯っぽく笑って真の顔を見上げた。
黒い瞳に正面から見上げられて真は顔を赤くする。
何か言おうと口を開いた真の視界の横を、子供が数人ぱたぱたと駆けていく。
去って行ったのを見届け、苦笑しながら骸香の頭を優しく撫でた。
「……こんな景色を、きみと一緒に見ることができて、嬉しいよ」
「こんな綺麗な場所に連れてきてくれて、ありがとう♪ 真」
迷路を抜ければ、一面に広がったハナビシソウのオレンジの向こうに、テントが幾つか並んでいる。
大きく曲線を描く道を行ってみれば、花の苗や寄せ植えを販売している場所のようだ。
「……そうだ」
独り言のように呟いた真は、左右のテントを覗き込みながら、骸香の手を引いて歩いてゆく。
ついていく骸香は心の中で首を傾げた。何を探しているのだろう。
ようやく発見した様子で狭いテントの会計に並んだ真を、骸香はテントの外で揺れるルピナスを見ながら待った。
「骸香、これを」
いつの間にやらテントから出てきた真の手には、陶器の鉢植えに植えられ、白い花を無数につけた低木がある。
光を透かすような白い花弁は星の形に重なりあって、真の腕いっぱいに広がっていた。
「ぇ……!」
「アザレアっていうんだ。白は『あなたに愛されて幸せ』って花言葉があって……」
「ぇ……?!」
混乱と嬉しいのと驚いてしまったのが綯い交ぜ(ないまぜ)になって、言葉が出てこない。
こんな風に何かを貰うなんて、今までほとんど無かった。
すっかり動きを止めてしまった骸香の様子に、真は言葉を連ねる。
「私は結構な頻度で怪我をしていて、きみにたくさんの心配をかけていると思う。それでも、きみはこんな私を愛してくれる。……私は幸せ者だな」
だから、今きみに伝えられる最大限の感謝を。
競い合うように咲く白から、はらりと落ちた1つを骸香は両手で受けとめる。
真っ黒な髪に花を飾り、鉢を持つ真の手に自分の手を添えて、普段は白い頬を赤く染めた。
「ありがとう……です」
花時計広場に戻った時には陽が傾きかけていた。
こんな時間でも、食べ物や飲み物を手に歓談する人々でテーブルはほとんど埋まっている。
楽器の調整をしているエルフの一団に、真と骸香は声をかける。既に数曲を演奏し終えていたエルフたちは、一緒にパフォーマンスしないかという2人の申し出を快く受けた。
簡単な打ち合わせをして配置につき、髪に花を飾った骸香がすっと前に一歩踏み出す。
楽譜に目を通した真が、息を整えてフルートのリッププレートに唇を添える。
エルフの少女が吹くオーボエの主旋律に続き、フルートの音色を重ねていく。青年が吹くファゴットがメロディを下から支えるように包み込む。
周りの旋律を聞きながら、真はメインのパフォーマーたちとのセッションを純粋に楽しむように、引き立てるように音を添わせる。
演奏に合わせ、骸香は音のイメージを舞踊の動きに乗せていく。
神秘的な木管のパートは静かに、勇壮な金管の音が加われば勇ましく。弦楽器はしなやかに。
事前に打ち合わせた骸香の歌が入る前、ステップを踏みながら真の傍に近づく。フルートを吹く真の耳元に彼にだけしか聞こえないような声で囁いた。
「……うちの大事な夜」
思わず息を詰まらせかけ、音を裏返す直前で真はギリギリ耐えた。
悪戯心を出しすぎただろうか。
何とか持ち直す真に、骸香はくすりと笑みを向ける。
歌いながら骸香は、ステージの脇にそっと視線を流す。
楽器ケースの傍に置かれた白い花が、輝くステージの光を返して淡く光っていた。
●出口
夕闇の中、花や雑貨を手に次々と人々が家路へつく。
「デート、とっても楽しかったね……」
帰りがけにお店で使う為のハーブを買い求め、恋人と手分けして運んでいた紅葉は、大通りに出る前の小道で寄せ植えの鉢を地面に降ろした。
淡紫の花をつけたローズマリーを手に、不思議そうに振り向いた真夕を小さく手招く。
「喜んでもらえると、うれしい、な」
飲み物を買いに行く際にこっそりと手に入れておいた、小さな箱を真夕に手渡した。
開けてみると、薄く色づいた赤い花を緑の蔦が幾重にも囲んだ、華奢な作りの髪飾りがある。
不意打ちに照れてしまいながら、真夕は最高の笑顔を恋人に向けた。
「紅葉、大好きよ」
唇同士を触れ合わせ、抱きついてきた紅葉を抱きしめる。
「……真夕、大好き、だよ」
鉢を抱えて、空いた方の手を繋ぐ。
昇ってきた月の下、サクラソウが作る道を歩いて2人は帰路についた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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