ゲスト
(ka0000)
薬草を探して
マスター:恋塚 灰羅

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/10 12:00
- 完成日
- 2017/05/19 04:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
絶対に見つけてくるから。お母さんはあったかいもの食べて、ゆっくり休んでて。
大丈夫。山の中は庭みたいなものだし、お父さんが帰ってくるまでには戻れるよ。
元気になったら一緒に出掛けよう。町まで行って美味しいご飯を一緒に食べて、色んなものを買おうよ。
だからお母さん、負けないで。病気なんかに負けないで。
●ハンターオフィス
「緊急の案件です。誰か対応できるハンターはいませんか!」
早朝のまだ人が少ないハンターオフィスで、精いっぱいの声を受付嬢が張り上げる。なんだなんだと周りが注目する中、続けて言葉を口にする。
「リゼリオ周辺の村の男性からの依頼です。昨日、息子が山に入ってから今日まで帰ってきていない。息子の捜索をお願いしたいということです」
受付嬢が息を整えると、ハンターの何人かが近づいてきた。より詳しい状況を求めているのは明らかだった。
急いで起こした依頼書をそれぞれに配って説明を続ける。
「いなくなったのはトアという名前の少年です。何度も山に採集に出ていくので山には精通しているようです。お母さんが病気で、それを和らげる効能がある薬草を採りに昨日の昼に家を出ました。夜には戻ってくると本人が言っていたようですが、日が落ちて暫くしても家に帰ってこなかったそうです」
それと。受付嬢は一旦息をついて、それから一息に言った。
「夕暮れごろに狩人の一人が山の入口付近で獣型の雑魔の群れを見かけたとのことです。トアくんの遭難と関わっていることは間違いないでしょう」
トアが帰ってこないまま一晩が過ぎている。行方不明者の生存率は時間が経てば経つほどに低くなってしまう。特に今回のように雑魔がトアのいると思しき山を徘徊している場合は、その速度も加速度的なものとなってしまう。
受付嬢は必死の眼でハンターたちに状況を伝える。少しでもトアが生き残る可能性を上げるために。
●届かぬ声
「はぁっ……、はぁっ……」
空が赤みがかったあたりで、山の奥、薬草の生えた地帯を巨大な猪が歩いているのを見た時には、もう駄目だと思った。あんな大きな猪に襲われるのかと絶望した。
けれどもまだ気づかれていないと分かって、急いで音を立てないように離れた。
なんとか獣に見つからないよう逃げることはできたけれど、村からだいぶ離れてしまった。
目的の薬草は見つけられたのに。あとは家に帰って届けるだけなのに。
いつこの場所に入ってくるのかと、ずっと気を張り詰めていた。疲れがひどかった。
「帰って、お母さんに届けなくちゃ……。帰って……」
少年の声は反響して暗闇に消えていく。立ち上がるのが困難なほどの疲労と精神的な疲れが相まって、意識を保つのが精いっぱいだった。
外は日が昇ったのだろうか。
光が届かないこの場所で、少年は静かに瞳を閉じた。
絶対に見つけてくるから。お母さんはあったかいもの食べて、ゆっくり休んでて。
大丈夫。山の中は庭みたいなものだし、お父さんが帰ってくるまでには戻れるよ。
元気になったら一緒に出掛けよう。町まで行って美味しいご飯を一緒に食べて、色んなものを買おうよ。
だからお母さん、負けないで。病気なんかに負けないで。
●ハンターオフィス
「緊急の案件です。誰か対応できるハンターはいませんか!」
早朝のまだ人が少ないハンターオフィスで、精いっぱいの声を受付嬢が張り上げる。なんだなんだと周りが注目する中、続けて言葉を口にする。
「リゼリオ周辺の村の男性からの依頼です。昨日、息子が山に入ってから今日まで帰ってきていない。息子の捜索をお願いしたいということです」
受付嬢が息を整えると、ハンターの何人かが近づいてきた。より詳しい状況を求めているのは明らかだった。
急いで起こした依頼書をそれぞれに配って説明を続ける。
「いなくなったのはトアという名前の少年です。何度も山に採集に出ていくので山には精通しているようです。お母さんが病気で、それを和らげる効能がある薬草を採りに昨日の昼に家を出ました。夜には戻ってくると本人が言っていたようですが、日が落ちて暫くしても家に帰ってこなかったそうです」
それと。受付嬢は一旦息をついて、それから一息に言った。
「夕暮れごろに狩人の一人が山の入口付近で獣型の雑魔の群れを見かけたとのことです。トアくんの遭難と関わっていることは間違いないでしょう」
トアが帰ってこないまま一晩が過ぎている。行方不明者の生存率は時間が経てば経つほどに低くなってしまう。特に今回のように雑魔がトアのいると思しき山を徘徊している場合は、その速度も加速度的なものとなってしまう。
受付嬢は必死の眼でハンターたちに状況を伝える。少しでもトアが生き残る可能性を上げるために。
●届かぬ声
「はぁっ……、はぁっ……」
空が赤みがかったあたりで、山の奥、薬草の生えた地帯を巨大な猪が歩いているのを見た時には、もう駄目だと思った。あんな大きな猪に襲われるのかと絶望した。
けれどもまだ気づかれていないと分かって、急いで音を立てないように離れた。
なんとか獣に見つからないよう逃げることはできたけれど、村からだいぶ離れてしまった。
目的の薬草は見つけられたのに。あとは家に帰って届けるだけなのに。
いつこの場所に入ってくるのかと、ずっと気を張り詰めていた。疲れがひどかった。
「帰って、お母さんに届けなくちゃ……。帰って……」
少年の声は反響して暗闇に消えていく。立ち上がるのが困難なほどの疲労と精神的な疲れが相まって、意識を保つのが精いっぱいだった。
外は日が昇ったのだろうか。
光が届かないこの場所で、少年は静かに瞳を閉じた。
リプレイ本文
●
太陽が出てまだ間もない。朝早くのこの時間に六人のハンターが村を訪れた。昨晩から行方不明の少年を助けるため、村近くの山をうろつく雑魔を倒すため。
迅速な行動には感謝も尽きない。遭難した少年のために朝早くから動いていた村人たちは彼らの姿を目に停めると、精いっぱいのお礼の言葉と深々としたお辞儀をした。少年を助けてください、口にせずとも思いはハンターたちに伝わった。
●捜索に向けて
「丸一日山の中ってか……、穏やかじゃねえな。早いとこ助けてやらねえと」
ギャリー・ハッシュベルト(ka6749)のつぶやきに同意するように神代 誠一(ka2086)も頷く。村長が快く家を貸してくれたため、村長や狩人も交えてこれからの山の行軍の予定を立てていた。机にはいくつかの地図が広げられている。
「用意してもらった薬草の分布図です。ここのどこかにトアくんは向かったのでしょうが……」
「具体的な場所はガキじゃなきゃ分からねぇ。だがクソ雑魔を見つけてビビってるってことなら――」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は薬草の生息分布地の近くに丸印をつけていく。つい先ほど村人に、どこならば少年が身を隠せるかというものを聞いていた。体力的な面も鑑みて、どこか大きな岩の陰か、窪地か、あるいは洞窟のようなところか。その情報をすべて記していく。
「戻りました」
いくつかのルートを構築している中、クオン・サガラ(ka0018)が入ってきた。村の片隅にある狩人向けのお店で、飲食物やロープなど山歩きに必要なものを一通り揃えてきたのだ。救急道具など必要そうなものこそいくつか持ってきていたが、山の道具を揃えるならばやはり専門店。あわせていくつかアドバイスも貰ってきていた。
「この辺りの川は流れがきついようで、狩人たちは近寄らないようにしているようです」
「となると、ここに来る可能性は低いのか」
地図への書き込みが増え、それぞれの分布地ごとにさらに絞り込めてくる。候補は両手で数えられる程度にまで収まってきた。
「それと雑魔への警戒ですが、私のシェパードにも手伝ってもらおうと思っています」
いつどこに現れるかも分からない雑魔だ。警戒に当たるものが一人増えるだけで非常にありがたいものがある。他の三人とも、頼んだと頷く。
「俺たちが最後か、すまねえな」
ちょうどそのタイミングでトアの家に向かっていた歩夢(ka5975)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)が戻ってきた。
「じゃあまずは俺から報告か。具体的な場所こそ分からなかったが、普段トアが好んで行っていたのはこの辺りらしい」
指差したのは山の南西部分。ちょうどすぐ近くには薬草の分布地があった。となれば、一番いる確率が高いのはその分布地付近だろう。候補は二つ三つあるが、すべてを回るのに時間が足りないということもおそらく無い距離だ。
「あとトアくんの匂いは覚えさせたから、探すときは役に立つかも。早く見つけてあげないとね」
クィーロが足元の柴犬を指し示し、窓の外の山の方へと視線を向けた。まだ時間としては早い方だが、山に行ってトアを探しつつ雑魔を倒してとなるとこれ以上は厳しいだろう。
「ああ、早いところ助けてやらないとな」
歩夢の言葉に否を言うものは当然いない。装備と地図を持って村長の家をあとにした。
●雑魔発見
「そっちはどう、誠一?」
「雑魔の姿もトアの痕跡もまだ見えないな。だがもう少しで薬草の生息地だからな」
クィーロと誠一は本隊からわずかに先行し、偵察していた。誠一はワイヤーを使い枝から枝へ移動して樹上から見渡し、クィーロは地上で柴犬の反応を見つつ、魔導短伝話を使って本隊と情報共有を行う。雑魔に見つからないよう声を潜めることも勿論忘れていない。
最初に気づいたのは樹上から見ていた誠一だった。薬草の群生地は僅かに開けた場所になっているが、そこに大きな四つ足の影が五つ。件の猪型雑魔だ。
クィーロに目でうながすと、すぐに気づいたのか本隊へと雑魔の出現を伝える。その間もじっと猪型雑魔を観察していると、ふと気が付いた。
(こっちに気づいている様子は無くあの辺りをうろつくだけか。なら――)
雑魔の知らせを受けた本隊は、すぐに先行組と合流する。
「雑魔がこっちに気づいていないってなら、迂回してトアを探すのはどうだ?」
群生地から少し離れた場所で、雑魔を倒すべきか捜索を優先するべきかという話し合いが起こる。襲ってきたのならば選択肢はないが、事前に気づくことが出来た。選択権はこちら側にあり、どちらも有益な選択である。
「ガキの保護が最優先ってのも分かっちゃいるが、村のことも考えるとな。放っておくワケにゃいかねえ」
ジャックの言葉にも一理ある。いち早くトアを救助することも大切だが、猪型雑魔を放っておくわけにもいかない。
どちらも理があるからこそ一概には決めがたい。――が。
「見たところ雑魔はこちらに気づいてはいない。だったら奇襲して、短期決戦に持ち込むのも一つかもしれない。歩夢、生命感知の反応はどうだ?」
「ちょっと待ってくれ。反応は――それらしいものは無さそうだ。――だったらトアが巻き込まれることはなく、一気に畳みかけれる……、そういうことか?」
わが意を得たりと誠一は頷く。元々戦う可能性も十分に考慮していたのだから、奇襲自体が多少うまく行かずとも同じようなものである。しかし成功した時のリターンは非常に大きい。
「俺も歩夢も相手を拘束できるし、ジャックとクィーロが先手で雑魔を引き付けれるのは大きいか」
「あらかじめ位置取りが出来るなら、こちらも魔法が使いやすいですし、ありですね」
●奇襲、そして
群生地に足を踏み入れ、ジャックは大きく声を張り上げた。
「はっ、クソ雑魔ども! こっち見やがれ!」
続けて前に出るのはクィーロ。普段の落ち着きはなりを潜め、髪が銀に変わり瞳が緋に染まった。
「おうおう、こっちも見やがれってんだ!」
ジャックのマテリアルを乗せた声とクィーロのマテリアルを乗せた輝きに、猪型雑魔は地面を蹴り出し突撃しようとする。――が。
「通しはしないさ」
一匹の猪型雑魔は突如泥状に固まった足元に対応できず、勢いが削がれてしまう。歩夢の仕掛けた地縛陣である。してやったりという表情で、足を取られた雑魔を見据えて歩夢は笑みを見せる。
そして生まれた大きな隙を見逃すほどやさしくは無い。
「これならいけますね」
クオンが放ったのは無数の氷柱。仲間にけして当たらない位置取りで、的確に猪型雑魔へ襲い掛かる。射線上の雑魔をすべて切り裂いていき、身体を凍結させた。
猛攻はそれだけに留まらない。ギャリーは一番後方にいる猪型雑魔に目がけて光の杭を放った。躱そうと動いた雑魔だが、ぎりぎりのところで杭は命中し、その体を貫く。物理的なダメージこそないものの、動こうともがき、しかし動けないままである。
「ったく、おちおち休んでもいられないってか」
戦況を見据え、猛攻から抜けて突撃しようとしていた雑魔にワイヤーが襲い掛かる。ワイヤーを巻き取って雑魔の前に飛び出したのは誠一。そのまま続けざまに刀を振りぬく。レーザーを纏ったそれは一撃では沈められずとも十分な傷を負わせる。
雑魔も反撃を行なおうとするも、それは許されなかった。牙の突き上げを容易くかわすと、そのまま返す刀で鼻づらを一閃。
「タイミングドンピシャだぜ! オラァ! こいつを喰らいな!」
そうしてたたらを踏んだ雑魔は格好の的である。駆け寄ったクィーロは渾身の一撃を叩き込む。反撃をしようと雑魔が一瞬震えるも、力尽きて地面に倒れる。
さらに一体襲ってくるも、二人の敵ではない。見事な連携で二人は打ち倒していった。
「ハッ、この程度かよ!」
ちょうど同じタイミング、強力な突進攻撃を盾で受けたジャックは、ぴんぴんした様子で叫ぶ。確かに重い一撃だが、盾と鎧でうまく受け止めればそう大したダメージではない。
加えて、である。この勝負は一対一ではない。それは二体で掛かってくる雑魔のこともそうであるが、そうではない。
「ほれ、ヒールだ。受け取れ」
二体の雑魔の攻撃を受け止めたジャックを光が包む。ギャリーの放った癒しのマテリアルは、ジャックが上手くいなし受け止めたこともあって、持っていかれた生命力の殆どを回復する。
受け止めて出来た隙に叩き込まれるのは、ジャックの銃撃だけに止まらない。歩夢の魔導符剣による一撃が確実に相手の生命力を削っていく。一体はすぐに倒れ、もう一体もあと少しである。
既にこの場にいる雑魔はジャックとクィーロそれぞれが引き付けている一体ずつのみ。何があったのかと問われれば、引き付けた彼らから離れた位置で魔方陣を展開しているクオンを見れば明らかである。ギャリーが拘束した雑魔、歩夢が足を取った雑魔。どちらも突撃する暇を与えられなかった。先の氷柱に続けて放たれた光の一撃が、一切の容赦なくその身体を刈り取った。
もはや猪型雑魔に勝ちの未来は無い。奇襲に始まった戦闘は完全勝利に終わった。
●発見
「さて、トアのいる場所だが――」
彼らは薬草の群生地で、手掛かりは無いかと辺りくまなく探した。
(トアは山に詳しい。もし襲われたりしたら一番安全を確保できそうな場所にいくはずとなれば、雨風を凌げ身を隠せる場所……洞窟、か?)
誠一が地図を眺めて、近くにある洞窟に目星をつける。そこにいるのではないかと相談しようとしたところで、声が上がった。
「この岩陰の草木に踏み倒された跡があるな」
歩夢の言葉を受けて、周りを探していた仲間たちも集まる。僅かにしか跡は無いものの、確かに言われてみれば違和感がある跡だった。そうしてそれが茂みの奥に続いている。クィーロの連れた柴犬が真っ先に反応し、続けてクオンのシェパードもすんすんと匂いを嗅いでゆっくりと奥へ進む。
その方向は誠一が目星をつけた洞窟のある方角だった。手短に仮説を話すと、全員がその通りだと同意する。おそらくトアはこの奥の洞窟にいる。
「……っと、多分ってレベルじゃないな。こりゃあほぼ確実だな」
少し進んで、ギャリーが思わずといったように声を上げる。獣道を通って迷うことを懸念してかここまでギャリーは木にナイフで傷をつけていた。だからこそ真っ先に気づけたのだ。
ちょうどギャリーが傷を付けていた場所から50cmほど下に小さな横一字に傷つけられた痕。身長差を考えれば、誰が付けたかなんて分かりやすい。
「先行した二人から連絡だ。洞窟を見つけたってな。それとクソ雑魔の気配は無し、奴らだけだったみたいだぜ」
ジャックが魔導短伝話を片手に告げて走り出し、他の面々も走っていった。
生命感知に反応あり。一行は洞窟の中へと進んでいくと、奥まったところにトアはいた。地面に腰を下ろして眠っていた。ここに慌てて駆け抜けてきたのだろう、服はところどころ切れ、顔も身体も傷が多かった。
クオンとギャリーが駆け寄って応急手当を行う。大事に至るものは無く、十分に持って行った救急用具で適切に処置していった。
「……んぅ」
ぴくりと。僅かに反応を示した。
「大丈夫か!」
誰の言葉か、あるいは全員か。その言葉にトアはゆっくりと目を開いて擦ろうとし、腕に走る痛みに顔を顰めた。
「ここは……。あれ、僕は……。薬草はっ……!」
次第に思考が定まっていき、きょろきょろと辺りを見る。トアの視界に映ったのはハンターたち六人の姿だった。状況がしっかりと把握できていないのか、ぼんやりと彼らを眺めていた。
クオンに支えられたトアに一番に近づいたのはジャックだった。何をするのかと思えば、拳を振り上げて、振りぬいた。確実に手加減された拳はトアにぶつかって良い音を立てる。
「ったく、クソガキが。てめえの力量を知れよ」
ともすればトアの命が失われてしまったかもしれない。そのことを思っての言葉か。
「けどよ、母さんのためだろ。漢としちゃ何も問題ねえ。漢気見せたな、ナイスガッツ」
ぽんと背を叩く。その言葉に助けられたということへの実感が湧いたのか、瞳に少しずつ涙が浮かんできた。
「ああ、よく頑張ったな!」
続けて前に出たのは歩夢。肩を叩いてもう問題ないと安心させる。
「緊張しっぱなしで疲れたろ。……それと、薬草は手に入れられたか?」
誠一が聞くと、トアはあたりを見て、自分の手を見て、ようやく状況が掴めたのだろう、まだだと首を振った。
「時間は……まだ大丈夫そうですね。じゃあ取りに行きましょう」
クオンの言葉に、クィーロも同意する。
「薬草を取って、お母さんに届けに行こう」
「一人でよく頑張ったなあ、坊主。歩けるか? きついなら背負うぞ」
あたりに広げていた救急道具を手早くまとめて、ギャリーが声をかける。涙目のまま恥ずかしそうに頷くトアを背負い、彼らは洞窟をあとにした。
太陽が出てまだ間もない。朝早くのこの時間に六人のハンターが村を訪れた。昨晩から行方不明の少年を助けるため、村近くの山をうろつく雑魔を倒すため。
迅速な行動には感謝も尽きない。遭難した少年のために朝早くから動いていた村人たちは彼らの姿を目に停めると、精いっぱいのお礼の言葉と深々としたお辞儀をした。少年を助けてください、口にせずとも思いはハンターたちに伝わった。
●捜索に向けて
「丸一日山の中ってか……、穏やかじゃねえな。早いとこ助けてやらねえと」
ギャリー・ハッシュベルト(ka6749)のつぶやきに同意するように神代 誠一(ka2086)も頷く。村長が快く家を貸してくれたため、村長や狩人も交えてこれからの山の行軍の予定を立てていた。机にはいくつかの地図が広げられている。
「用意してもらった薬草の分布図です。ここのどこかにトアくんは向かったのでしょうが……」
「具体的な場所はガキじゃなきゃ分からねぇ。だがクソ雑魔を見つけてビビってるってことなら――」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は薬草の生息分布地の近くに丸印をつけていく。つい先ほど村人に、どこならば少年が身を隠せるかというものを聞いていた。体力的な面も鑑みて、どこか大きな岩の陰か、窪地か、あるいは洞窟のようなところか。その情報をすべて記していく。
「戻りました」
いくつかのルートを構築している中、クオン・サガラ(ka0018)が入ってきた。村の片隅にある狩人向けのお店で、飲食物やロープなど山歩きに必要なものを一通り揃えてきたのだ。救急道具など必要そうなものこそいくつか持ってきていたが、山の道具を揃えるならばやはり専門店。あわせていくつかアドバイスも貰ってきていた。
「この辺りの川は流れがきついようで、狩人たちは近寄らないようにしているようです」
「となると、ここに来る可能性は低いのか」
地図への書き込みが増え、それぞれの分布地ごとにさらに絞り込めてくる。候補は両手で数えられる程度にまで収まってきた。
「それと雑魔への警戒ですが、私のシェパードにも手伝ってもらおうと思っています」
いつどこに現れるかも分からない雑魔だ。警戒に当たるものが一人増えるだけで非常にありがたいものがある。他の三人とも、頼んだと頷く。
「俺たちが最後か、すまねえな」
ちょうどそのタイミングでトアの家に向かっていた歩夢(ka5975)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)が戻ってきた。
「じゃあまずは俺から報告か。具体的な場所こそ分からなかったが、普段トアが好んで行っていたのはこの辺りらしい」
指差したのは山の南西部分。ちょうどすぐ近くには薬草の分布地があった。となれば、一番いる確率が高いのはその分布地付近だろう。候補は二つ三つあるが、すべてを回るのに時間が足りないということもおそらく無い距離だ。
「あとトアくんの匂いは覚えさせたから、探すときは役に立つかも。早く見つけてあげないとね」
クィーロが足元の柴犬を指し示し、窓の外の山の方へと視線を向けた。まだ時間としては早い方だが、山に行ってトアを探しつつ雑魔を倒してとなるとこれ以上は厳しいだろう。
「ああ、早いところ助けてやらないとな」
歩夢の言葉に否を言うものは当然いない。装備と地図を持って村長の家をあとにした。
●雑魔発見
「そっちはどう、誠一?」
「雑魔の姿もトアの痕跡もまだ見えないな。だがもう少しで薬草の生息地だからな」
クィーロと誠一は本隊からわずかに先行し、偵察していた。誠一はワイヤーを使い枝から枝へ移動して樹上から見渡し、クィーロは地上で柴犬の反応を見つつ、魔導短伝話を使って本隊と情報共有を行う。雑魔に見つからないよう声を潜めることも勿論忘れていない。
最初に気づいたのは樹上から見ていた誠一だった。薬草の群生地は僅かに開けた場所になっているが、そこに大きな四つ足の影が五つ。件の猪型雑魔だ。
クィーロに目でうながすと、すぐに気づいたのか本隊へと雑魔の出現を伝える。その間もじっと猪型雑魔を観察していると、ふと気が付いた。
(こっちに気づいている様子は無くあの辺りをうろつくだけか。なら――)
雑魔の知らせを受けた本隊は、すぐに先行組と合流する。
「雑魔がこっちに気づいていないってなら、迂回してトアを探すのはどうだ?」
群生地から少し離れた場所で、雑魔を倒すべきか捜索を優先するべきかという話し合いが起こる。襲ってきたのならば選択肢はないが、事前に気づくことが出来た。選択権はこちら側にあり、どちらも有益な選択である。
「ガキの保護が最優先ってのも分かっちゃいるが、村のことも考えるとな。放っておくワケにゃいかねえ」
ジャックの言葉にも一理ある。いち早くトアを救助することも大切だが、猪型雑魔を放っておくわけにもいかない。
どちらも理があるからこそ一概には決めがたい。――が。
「見たところ雑魔はこちらに気づいてはいない。だったら奇襲して、短期決戦に持ち込むのも一つかもしれない。歩夢、生命感知の反応はどうだ?」
「ちょっと待ってくれ。反応は――それらしいものは無さそうだ。――だったらトアが巻き込まれることはなく、一気に畳みかけれる……、そういうことか?」
わが意を得たりと誠一は頷く。元々戦う可能性も十分に考慮していたのだから、奇襲自体が多少うまく行かずとも同じようなものである。しかし成功した時のリターンは非常に大きい。
「俺も歩夢も相手を拘束できるし、ジャックとクィーロが先手で雑魔を引き付けれるのは大きいか」
「あらかじめ位置取りが出来るなら、こちらも魔法が使いやすいですし、ありですね」
●奇襲、そして
群生地に足を踏み入れ、ジャックは大きく声を張り上げた。
「はっ、クソ雑魔ども! こっち見やがれ!」
続けて前に出るのはクィーロ。普段の落ち着きはなりを潜め、髪が銀に変わり瞳が緋に染まった。
「おうおう、こっちも見やがれってんだ!」
ジャックのマテリアルを乗せた声とクィーロのマテリアルを乗せた輝きに、猪型雑魔は地面を蹴り出し突撃しようとする。――が。
「通しはしないさ」
一匹の猪型雑魔は突如泥状に固まった足元に対応できず、勢いが削がれてしまう。歩夢の仕掛けた地縛陣である。してやったりという表情で、足を取られた雑魔を見据えて歩夢は笑みを見せる。
そして生まれた大きな隙を見逃すほどやさしくは無い。
「これならいけますね」
クオンが放ったのは無数の氷柱。仲間にけして当たらない位置取りで、的確に猪型雑魔へ襲い掛かる。射線上の雑魔をすべて切り裂いていき、身体を凍結させた。
猛攻はそれだけに留まらない。ギャリーは一番後方にいる猪型雑魔に目がけて光の杭を放った。躱そうと動いた雑魔だが、ぎりぎりのところで杭は命中し、その体を貫く。物理的なダメージこそないものの、動こうともがき、しかし動けないままである。
「ったく、おちおち休んでもいられないってか」
戦況を見据え、猛攻から抜けて突撃しようとしていた雑魔にワイヤーが襲い掛かる。ワイヤーを巻き取って雑魔の前に飛び出したのは誠一。そのまま続けざまに刀を振りぬく。レーザーを纏ったそれは一撃では沈められずとも十分な傷を負わせる。
雑魔も反撃を行なおうとするも、それは許されなかった。牙の突き上げを容易くかわすと、そのまま返す刀で鼻づらを一閃。
「タイミングドンピシャだぜ! オラァ! こいつを喰らいな!」
そうしてたたらを踏んだ雑魔は格好の的である。駆け寄ったクィーロは渾身の一撃を叩き込む。反撃をしようと雑魔が一瞬震えるも、力尽きて地面に倒れる。
さらに一体襲ってくるも、二人の敵ではない。見事な連携で二人は打ち倒していった。
「ハッ、この程度かよ!」
ちょうど同じタイミング、強力な突進攻撃を盾で受けたジャックは、ぴんぴんした様子で叫ぶ。確かに重い一撃だが、盾と鎧でうまく受け止めればそう大したダメージではない。
加えて、である。この勝負は一対一ではない。それは二体で掛かってくる雑魔のこともそうであるが、そうではない。
「ほれ、ヒールだ。受け取れ」
二体の雑魔の攻撃を受け止めたジャックを光が包む。ギャリーの放った癒しのマテリアルは、ジャックが上手くいなし受け止めたこともあって、持っていかれた生命力の殆どを回復する。
受け止めて出来た隙に叩き込まれるのは、ジャックの銃撃だけに止まらない。歩夢の魔導符剣による一撃が確実に相手の生命力を削っていく。一体はすぐに倒れ、もう一体もあと少しである。
既にこの場にいる雑魔はジャックとクィーロそれぞれが引き付けている一体ずつのみ。何があったのかと問われれば、引き付けた彼らから離れた位置で魔方陣を展開しているクオンを見れば明らかである。ギャリーが拘束した雑魔、歩夢が足を取った雑魔。どちらも突撃する暇を与えられなかった。先の氷柱に続けて放たれた光の一撃が、一切の容赦なくその身体を刈り取った。
もはや猪型雑魔に勝ちの未来は無い。奇襲に始まった戦闘は完全勝利に終わった。
●発見
「さて、トアのいる場所だが――」
彼らは薬草の群生地で、手掛かりは無いかと辺りくまなく探した。
(トアは山に詳しい。もし襲われたりしたら一番安全を確保できそうな場所にいくはずとなれば、雨風を凌げ身を隠せる場所……洞窟、か?)
誠一が地図を眺めて、近くにある洞窟に目星をつける。そこにいるのではないかと相談しようとしたところで、声が上がった。
「この岩陰の草木に踏み倒された跡があるな」
歩夢の言葉を受けて、周りを探していた仲間たちも集まる。僅かにしか跡は無いものの、確かに言われてみれば違和感がある跡だった。そうしてそれが茂みの奥に続いている。クィーロの連れた柴犬が真っ先に反応し、続けてクオンのシェパードもすんすんと匂いを嗅いでゆっくりと奥へ進む。
その方向は誠一が目星をつけた洞窟のある方角だった。手短に仮説を話すと、全員がその通りだと同意する。おそらくトアはこの奥の洞窟にいる。
「……っと、多分ってレベルじゃないな。こりゃあほぼ確実だな」
少し進んで、ギャリーが思わずといったように声を上げる。獣道を通って迷うことを懸念してかここまでギャリーは木にナイフで傷をつけていた。だからこそ真っ先に気づけたのだ。
ちょうどギャリーが傷を付けていた場所から50cmほど下に小さな横一字に傷つけられた痕。身長差を考えれば、誰が付けたかなんて分かりやすい。
「先行した二人から連絡だ。洞窟を見つけたってな。それとクソ雑魔の気配は無し、奴らだけだったみたいだぜ」
ジャックが魔導短伝話を片手に告げて走り出し、他の面々も走っていった。
生命感知に反応あり。一行は洞窟の中へと進んでいくと、奥まったところにトアはいた。地面に腰を下ろして眠っていた。ここに慌てて駆け抜けてきたのだろう、服はところどころ切れ、顔も身体も傷が多かった。
クオンとギャリーが駆け寄って応急手当を行う。大事に至るものは無く、十分に持って行った救急用具で適切に処置していった。
「……んぅ」
ぴくりと。僅かに反応を示した。
「大丈夫か!」
誰の言葉か、あるいは全員か。その言葉にトアはゆっくりと目を開いて擦ろうとし、腕に走る痛みに顔を顰めた。
「ここは……。あれ、僕は……。薬草はっ……!」
次第に思考が定まっていき、きょろきょろと辺りを見る。トアの視界に映ったのはハンターたち六人の姿だった。状況がしっかりと把握できていないのか、ぼんやりと彼らを眺めていた。
クオンに支えられたトアに一番に近づいたのはジャックだった。何をするのかと思えば、拳を振り上げて、振りぬいた。確実に手加減された拳はトアにぶつかって良い音を立てる。
「ったく、クソガキが。てめえの力量を知れよ」
ともすればトアの命が失われてしまったかもしれない。そのことを思っての言葉か。
「けどよ、母さんのためだろ。漢としちゃ何も問題ねえ。漢気見せたな、ナイスガッツ」
ぽんと背を叩く。その言葉に助けられたということへの実感が湧いたのか、瞳に少しずつ涙が浮かんできた。
「ああ、よく頑張ったな!」
続けて前に出たのは歩夢。肩を叩いてもう問題ないと安心させる。
「緊張しっぱなしで疲れたろ。……それと、薬草は手に入れられたか?」
誠一が聞くと、トアはあたりを見て、自分の手を見て、ようやく状況が掴めたのだろう、まだだと首を振った。
「時間は……まだ大丈夫そうですね。じゃあ取りに行きましょう」
クオンの言葉に、クィーロも同意する。
「薬草を取って、お母さんに届けに行こう」
「一人でよく頑張ったなあ、坊主。歩けるか? きついなら背負うぞ」
あたりに広げていた救急道具を手早くまとめて、ギャリーが声をかける。涙目のまま恥ずかしそうに頷くトアを背負い、彼らは洞窟をあとにした。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/07 21:21:47 |
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相談卓 神代 誠一(ka2086) 人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/05/10 01:42:34 |