ゲスト
(ka0000)
【黒祀】The Grim Reaper
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/10/26 15:00
- 完成日
- 2014/10/30 19:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「The death, is an unavoidable threat a man must face」
(死とは、人が対面せねばならない脅威である)
――名も無き医師
王国西部。
多発する歪虚による襲撃により不穏な空気渦巻く中、各村落はそれぞれ、歪虚の影に怯えながら暮らしていた。
こと、小さな村では、人手の問題から騎士や聖堂戦士が派遣される事も少なく。人々の歪虚への対抗策は、非常に限られていた。
「うわぁぁぁ!? また来たぞ!!」
誰かの恐怖の声が、人々に襲い来た『脅威』を知らせる。
その直後。村の外に出現する、一体の歪虚。
伝説に現れるであろう『死神』の風貌をしたそれは、ぼろ布に包まれ顔も姿が見えず。ただその手にある大鎌が、それが人に仇成す物である事を何よりも良く表している。
「今日こそ――誰も亡くしはしない!」
何度も何度も、繰り返し、定期的に人に危害を加えれば、人もまた抵抗する事を考える。
火炎瓶と、簡素な農具で武装した村の男たちが、一斉に歪虚を指差す。
――だが、歪虚が動じる事はない。否。そもそもこの歪虚に、感情らしき物があるのかすら不確定だ。
脅しが通用しなければ次に取るべき手段は実力行使。農具を構えた男たちが突撃していく。
ぶん。
ぼろ布の中にあるであろう体に向かって振るわれた農具は、然し、カーテンを撃つが如く、布に当たり、敵の背後にすり抜ける。別の男も同様だ。死神が僅かに動くと、まるで空にはためく旗を打つが如く、実体らしき物を捉えられてはいない。
「そのマント、燃やして正体を暴いてやる!」
農具による殴打が効かないと見るや、即座に後ろの男たちが火炎瓶に点火し、構える。
それを見て、突進していった男たちは慌てて四散する。
投げつけられる火炎瓶。しかし如何なる材質で出来ているのか、火はぼろ布に燃え移ることなく、逆にぼろ布に薙がれる様にして弾き返される。
「俺たちには…何もできないのか!? ただ人が殺され、攫われるのを見るしかないのか!?」
悲痛な叫びを聞き届けるが如く、ハンターたちが到着したのは…その時であった。
(死とは、人が対面せねばならない脅威である)
――名も無き医師
王国西部。
多発する歪虚による襲撃により不穏な空気渦巻く中、各村落はそれぞれ、歪虚の影に怯えながら暮らしていた。
こと、小さな村では、人手の問題から騎士や聖堂戦士が派遣される事も少なく。人々の歪虚への対抗策は、非常に限られていた。
「うわぁぁぁ!? また来たぞ!!」
誰かの恐怖の声が、人々に襲い来た『脅威』を知らせる。
その直後。村の外に出現する、一体の歪虚。
伝説に現れるであろう『死神』の風貌をしたそれは、ぼろ布に包まれ顔も姿が見えず。ただその手にある大鎌が、それが人に仇成す物である事を何よりも良く表している。
「今日こそ――誰も亡くしはしない!」
何度も何度も、繰り返し、定期的に人に危害を加えれば、人もまた抵抗する事を考える。
火炎瓶と、簡素な農具で武装した村の男たちが、一斉に歪虚を指差す。
――だが、歪虚が動じる事はない。否。そもそもこの歪虚に、感情らしき物があるのかすら不確定だ。
脅しが通用しなければ次に取るべき手段は実力行使。農具を構えた男たちが突撃していく。
ぶん。
ぼろ布の中にあるであろう体に向かって振るわれた農具は、然し、カーテンを撃つが如く、布に当たり、敵の背後にすり抜ける。別の男も同様だ。死神が僅かに動くと、まるで空にはためく旗を打つが如く、実体らしき物を捉えられてはいない。
「そのマント、燃やして正体を暴いてやる!」
農具による殴打が効かないと見るや、即座に後ろの男たちが火炎瓶に点火し、構える。
それを見て、突進していった男たちは慌てて四散する。
投げつけられる火炎瓶。しかし如何なる材質で出来ているのか、火はぼろ布に燃え移ることなく、逆にぼろ布に薙がれる様にして弾き返される。
「俺たちには…何もできないのか!? ただ人が殺され、攫われるのを見るしかないのか!?」
悲痛な叫びを聞き届けるが如く、ハンターたちが到着したのは…その時であった。
リプレイ本文
●When Death Arrives
「ふむ。死神か…確かに死は誰も逃れえず平等じゃが、死神を気取るただの歪虚が下す結果を唯々諾々と受け入れると思わんことじゃな」
「ええ、寧ろこの姿形の方が殺し甲斐があるでしょう。…私も、まがりなりにも“死神”ですから…ね?」
火々弥(ka3260)の言葉に、クランクハイト=XIII(ka2091)が続く。
死に抗う者と、自ら死を運ぶ者。何れの者も、眼前の偽りの『死』を放っておくつもりはない。
眼前の敵…当の『死神』は、その言葉を気にする気配はない。この歪虚は、唯一つ。『人に死をもたらし、そして略奪する』為のみに作られている。その目的を達成する過程で会話を行う必要は皆無。故に、それは人語を解することはない。
「さぁ…今の内にここから逃げてくれ。何かあった時に、すぐに駆けつけれる場所が良いが…」
「それなら、町外れに古い牛小屋がある。殺されたやつが昔所有してたもんだけど…」
詳細を村人から聞いた朱華(ka0841)が、静かに頷く。
「人数は数えたか?知り合いがいないとかはない、な? …よし、なら、そこで静かに待っていろ」
一目散にそちらへと向かい始めた村人が聞き分けの良い者達であった事に心の中でほっとしながら、彼は敵たる死神の歪虚の方を警戒し始める。
撤退し始めた村人たちを、黙ってみているほどこの歪虚も生易しくない。
「おい、布切れ。こっちだ、こっち」
朱華の挑発に反応する様子を、それは見せない。先ほども言ったが、それは人語を解さないのだ。
空中を滑るような動きで、左右にフェイントしながら村人の背を狙う歪虚が、大鎌を振り上げるが――
「せっかく帰ってくれたのだ。…それを狙うのはどうかと思う」
朱華が言語での挑発を諦め直接戦闘に移るよりも先に、マウローゼ・ツヴァイ(ka2489)の銃が振るわれた大鎌を受け止める。
即座に歪虚は大鎌を手放し、村人の方へと投げつけると共に魔法弾の乱射をマウローゼに浴びせるが、連続でバク転するようにマウローゼがそれをかわし、カウンターの一射を放つ。
正面から、それはぼろ布に打ち込まれたように見えたが…布を貫通し、背後へと抜けている。
布こそ実体なれど、その中に敵の体は入っていなかった。――少なくとも頭部部分は。
「む…」
左足に痛みを感じる。魔法弾に貫かれたのだろう。完全にかわし切る、という訳には行かなかったようだ。
「話に聞きはしていたが、面倒な輩じゃのう」
刀で村人に向かった大鎌を受け流し、軌道を逸らした火々弥がマウローゼに合流する。
こちらもまた、大鎌の勢いを殺しきれず肩の服を裂かれ、血が滲んでいたが…大きな痛手と言う訳でもない。
「大丈夫だ!私がいる限り、倒れはさせんさ!」
何よりも、彼らの後ろには、力強いバックアップがあった。
ルーガ・バルハザード(ka1013)の掲げる盾から光が迸り、マウローゼ、そして火々弥の傷を順次、癒していく。
が、その間に鎌をその手に取り戻した歪虚が、彼らを一挙に薙ぎ払わんと迫り来る!
「こちらにも、敵はいるのですよ?忘れてもらっては困りますね」
クランクハイトの放つ無数の光弾が、死神歪虚の鎌を持つ手を狙う。敵の反応もさるもので、即座に攻撃を中断し風車の如く鎌を大回転させて光弾を弾く。が、いくら防御しようと漏れが無いと言う事は保障できない物である。数を打たれれば当たる物で――何発かはぼろ布、そして手の部分に命中する。ぼろ布に当たった物に手応えはなく。手に当たった物は、魔力同士がぶつかったような閃光を発する。
(「……手は魔力で構成されているのでしょうか。…とすると、やはり本体ではない可能性が高いですね」)
僅かにクランクハイトが思考をめぐらせたその瞬間。一瞬で距離を詰めた歪虚が、彼に向かって大鎌を振り上げる。
この歪虚の真髄は攻撃力もさることながらその速度。然し、振るわれたその鎌こそが、クランクハイトにとっては待ち構えていた好機。
「さて、と。死神らしく死の舞踏にでも興じてみましょ。不束者ではありますが…お相手、お願い致します」
自らの振るう大鎌を、歪虚の大鎌と絡ませる。微細な力加減の調整により、歪虚が武器を拘束から外す事を封じる。
「今の内です!」
彼の目線は、『瓶』を構えたルーガに向く。
「先ずは実体を捉えねば、どうにもならんか…歪虚よ、貴様にも馳走してやろう…ほら、値段は手ごろだがいい赤ワインだぞ、これはッ!」」
腕に結びつけたランタンを揺らしながら、盾での殴打に見せかけ、盾の裏に隠し持っていた赤ワインの瓶をルーガは猛然と投擲する。飛翔する瓶は盾を受け止めようとした歪虚の鎌に直撃し、その内容物を撒き散らす。たちまちぼろ布のあちこちに、ワインが付着する。
とりあえず、魔力で出来た腕以外に、虚幻であった箇所はないようだ。
「鎌を振るい、ぼろ布は移動をしている以上。実体は必ずどこかにある筈だ」
ライトを翳し、敵を注意深く観察したヴァージル・チェンバレン(ka1989)は、そう判断する。
影でも出来れば、とは思ったが、元々深い色の布であった上、色濃いワインが表面を覆った。全体的に光は通さず、故に影からの判断は出来ない。
各ハンターの行動から、クランクハイトの目的が自身の動きを封じる事であるのを察したのか。歪虚はその手の大鎌を突如手放す。力加減の調整が間に合わず、僅かにクランクハイトの体が傾いたその隙を突き、怒涛の魔法弾が彼に打ち込まれる。
「ううむ、少し油断しましたか」
後ろに転がり、立ち上がったクランクハイトが、苦笑いを浮かべる。
目標さえ見えれば、一気に弱点に鎌の先を突きこむ事もできた。だが、未だ敵の本体は判明せず。
直撃の瞬間に破魔の光で身を守った物の…この術の根本は、魔力自体を軽減する物ではなく付随する効果を払う物。故に純粋な魔法的衝撃であった魔力弾には余り意味を成さなかった。
「ふむ。…大体目星はついたが…もう一度、試すとしよう」
ポケットから、缶を取り出すヴァージル。元はルーガの策が外れた際に使おうと思っていた予備だが、確認のために使うのもまた一興。
「振って開けると、勢いよく噴出される物だ。こちらでは珍しい仕組みだったが、こういう時には役に立つ」
武器を構えたまま、空いた手で猛然と缶を振る。そしてその上方を歪虚に向け――
パチン。
プシャーと、猛然と噴き出す液体。ビールと呼ばれるそれは、相応の圧力を以って歪虚の全身を襲う。無論、襲うと言っても、この程度の圧力では歪虚所か一般人ですらダメージを受けないだろう。だが――
「――浮き彫りになったな」
鎌に妨害されない、その液体の圧力は。ぼろ布の全体が動いても一箇所だけ動かない場所を、浮き上がらせていたのである。
●The truth of a Death
「これで正体は分かったな」
精密を期した朱華の日本刀の一突きが、唯一動かなかったその一点を狙う。
――恐らく、敵は小型の浮遊歪虚。それが魔力を以って布、そして鎌を浮かび上がらせ、操っていた――それがこの死神の正体だろう。
刃は、その一点の僅か二寸ほど横を貫く。鎌と布を操り刀に絡ませ、僅かに打点をずらしたのだろう。
実体が移動を始める。他の場所に移動し再度身を隠そうとしているのだろうが、全体的に液体が付着し、垂れ下がったぼろ布は、実体の移動に伴い形を変え――その結果、その移動先を指し示す事になる。
「そこか」
銃撃。リロードしたマウローゼの銃弾が、実体部分を掠める。直撃とは行かなかったが、手応えはあった。恐らく命中自体はした筈だ。故に、それは実体への攻撃が『有効』であった事を意味する。
「もう少し、付き合っていただきますよ」
ぶつかり合う鎌と鎌。打ち合いはほぼ互角。クランクハイトには然し、味方からの援護があった。
「手助けは要るかの?」
火々弥の刀閃が正確に鎌を下から打ち、その軌道を逸らす。
「感謝しますよ」
鎌を引きずるような体勢からの、急加速の一閃。黒の三日月と化した鎌の一閃が、直接実体を狙う!
「浅い…か?」
クランクハイトの持つ大鎌は、相当の重量を持っていた。それは即ち威力の高さにも繋がっていたのだが、同時に命中させるのにある程度の困難を伴う事をも意味していた。
だが、本体への直撃はならずとも、彼の一閃はぼろ布の下半分を切断し、地に落ちたそれはただの布となる。
集まり包囲の形を形成しつつあるハンターたちに危機感を覚えたのか。機動力を生かし、急激に後退する歪虚。
「怖気ついたのかえ?」
地を揺らす踏み込みと共に、火々弥が距離を詰める。然し、僅かに速度ではぼろ布の面積が減った歪虚の方に分があるか。切っ先は歪虚の眼前一寸で停止し、距離が離される。
「ふん…ならば、これはどうじゃ!」
即座に刀の軌道を変え、弧を描き地面を狙う。
気が触れた訳ではない。刃はぼろ布の端を引っ掛けていたのだから。
ガクン。
刀が地に突き刺さると、突如引き戻されるように歪虚はその場で止まる。この好機を逃すはずも無く、
「外すはずもない」
マウローゼの銃弾が、戦闘開始から初めて、本体に直撃する。
と共に、突進したヴァージルの振るう蛇蠍の如き鞭もまた、本体を打ち据える。
その場から移動できない歪虚。然しそれは、これが無防備になると言う事ではない。
縫い付けられた点を中心にし、大きく円を描くような動きで一気に周囲を薙ぎ払う!
「ぬう…!」
動かせない刀を手放し、火々弥は鉄扇で大鎌の横を弾くが、刃の先が脇腹に食い込む。
このままでは腰から両断されない。そう判断した彼女は勢いに逆らわず、わざと吹き飛ばされる事で危機を回避する。
大振りの直後の機を突き、朱華が敵の背後に回りこみ、逆手に持った刀を地に突き刺し、ぼろ布をもう一箇所地に縫いとめる。
更に動きを制限された歪虚を、クランクハイトの黒鎌が襲う!
キン。
甲高い金属音と、何かにヒビが入る音。
直撃。後一発。後一発でも入れられれば、恐らくこの歪虚の『本体』の撃破が成る。
「――!!」
敵も死に物狂いなのだろう。大きく鎌を回し、動けない朱華を正面から袈裟斬りにする。サブウェポンを持っていなかった彼は、武器を手放すわけには行かなかったのだ。
その勢いのまま投擲される大鎌を、クランクハイトは己の鎌で絡め取り、上に弾き飛ばす。が、直後、魔法弾が彼の腹部に直撃する。
――この歪虚の本当の厄介な所は、飛ばした鎌と本体からの魔法弾による複合攻撃。そして、その威力の高さにある。
後退したクランクハイトをルーガの回復術が癒すが、完全に癒せていない。
彼女がいなければ、誰かしら倒れていただろう。それほどまでに、攻撃を重視したハンターたちが受けた攻撃は多かった。
「抜けられるのはいかんな」
鎌でぼろ布に突き刺さった刃が弾かれたのを見て、敵を巻き取らんと鞭を振るうヴァージル。
然し投げつけられた鎌の回転が、その鞭を弾く。
朱華が間に入って鎌を弾くが、手応えが違う。先ほどまでの殺傷力はない。
「逃げるつもりか」
「敗走には少し早いとは思わんかの?」
その声を聞いて、空中で己の得物をキャッチした火々弥が、クランクハイトの構えた大鎌を足場として方向を変え、一直線に敵へと向かう。と同時に、マウローゼの跳弾が、別の角度から敵を狙う。
だが、ここで歪虚は意外な行動に出た。
「む?」
ぼろ布が突進する火々弥へと向かってくる。
「小癪な…!」
それを横一文字に引き裂くが、その中に本体は無い。視界を一瞬遮った隙に、身軽になった歪虚の本体は、マウローゼの銃弾を回避して距離を離したのだ。
一目散に逃げる本体を、遠目で見るハンターたち。元よりこの歪虚は機動力に優れる。ぼろ布を投げ捨て更に身軽になった状態では、準備や策略なしに…捉える事はできなかったのである。
その本体の姿。それは小さな立方体――石のような物であった。
●Life after Death
ハンターたちは歪虚の撃破こそ出来なかった物の、相当の痛手を与え、撃退したと言う報告を聞き、村人たちの顔はぱーっと明るくなった。
敵の正体も分かった以上、村人たちだけになった際も最小限の抵抗は出来るだろうし、何よりもこのデータを基に、ハンターオフィスから人員を派遣し、村に常駐する事が確定したのである。
己の手を握り、感謝の言葉を述べ続ける村人に、僅かに朱華は困惑の色を浮かべる事となる。
一方、クランクハイトは、犠牲者の墓の前に立っていた。
あの歪虚…必ずしも犠牲者を殺害しては居らず、人を攫っていく事もあると聞いた彼は、手を合わせて墓に一礼すると考え込む。
「……歪虚が人を攫う?どうもきな臭いものを感じますが……」
だが、当の歪虚が逃逸した以上、この件について結論を出すには、いささか情報が足りない。
機会があれば再度調査しようと、しっかりと記憶に刻んだ上で。彼は墓場を後にしたのであった。
「ふむ。死神か…確かに死は誰も逃れえず平等じゃが、死神を気取るただの歪虚が下す結果を唯々諾々と受け入れると思わんことじゃな」
「ええ、寧ろこの姿形の方が殺し甲斐があるでしょう。…私も、まがりなりにも“死神”ですから…ね?」
火々弥(ka3260)の言葉に、クランクハイト=XIII(ka2091)が続く。
死に抗う者と、自ら死を運ぶ者。何れの者も、眼前の偽りの『死』を放っておくつもりはない。
眼前の敵…当の『死神』は、その言葉を気にする気配はない。この歪虚は、唯一つ。『人に死をもたらし、そして略奪する』為のみに作られている。その目的を達成する過程で会話を行う必要は皆無。故に、それは人語を解することはない。
「さぁ…今の内にここから逃げてくれ。何かあった時に、すぐに駆けつけれる場所が良いが…」
「それなら、町外れに古い牛小屋がある。殺されたやつが昔所有してたもんだけど…」
詳細を村人から聞いた朱華(ka0841)が、静かに頷く。
「人数は数えたか?知り合いがいないとかはない、な? …よし、なら、そこで静かに待っていろ」
一目散にそちらへと向かい始めた村人が聞き分けの良い者達であった事に心の中でほっとしながら、彼は敵たる死神の歪虚の方を警戒し始める。
撤退し始めた村人たちを、黙ってみているほどこの歪虚も生易しくない。
「おい、布切れ。こっちだ、こっち」
朱華の挑発に反応する様子を、それは見せない。先ほども言ったが、それは人語を解さないのだ。
空中を滑るような動きで、左右にフェイントしながら村人の背を狙う歪虚が、大鎌を振り上げるが――
「せっかく帰ってくれたのだ。…それを狙うのはどうかと思う」
朱華が言語での挑発を諦め直接戦闘に移るよりも先に、マウローゼ・ツヴァイ(ka2489)の銃が振るわれた大鎌を受け止める。
即座に歪虚は大鎌を手放し、村人の方へと投げつけると共に魔法弾の乱射をマウローゼに浴びせるが、連続でバク転するようにマウローゼがそれをかわし、カウンターの一射を放つ。
正面から、それはぼろ布に打ち込まれたように見えたが…布を貫通し、背後へと抜けている。
布こそ実体なれど、その中に敵の体は入っていなかった。――少なくとも頭部部分は。
「む…」
左足に痛みを感じる。魔法弾に貫かれたのだろう。完全にかわし切る、という訳には行かなかったようだ。
「話に聞きはしていたが、面倒な輩じゃのう」
刀で村人に向かった大鎌を受け流し、軌道を逸らした火々弥がマウローゼに合流する。
こちらもまた、大鎌の勢いを殺しきれず肩の服を裂かれ、血が滲んでいたが…大きな痛手と言う訳でもない。
「大丈夫だ!私がいる限り、倒れはさせんさ!」
何よりも、彼らの後ろには、力強いバックアップがあった。
ルーガ・バルハザード(ka1013)の掲げる盾から光が迸り、マウローゼ、そして火々弥の傷を順次、癒していく。
が、その間に鎌をその手に取り戻した歪虚が、彼らを一挙に薙ぎ払わんと迫り来る!
「こちらにも、敵はいるのですよ?忘れてもらっては困りますね」
クランクハイトの放つ無数の光弾が、死神歪虚の鎌を持つ手を狙う。敵の反応もさるもので、即座に攻撃を中断し風車の如く鎌を大回転させて光弾を弾く。が、いくら防御しようと漏れが無いと言う事は保障できない物である。数を打たれれば当たる物で――何発かはぼろ布、そして手の部分に命中する。ぼろ布に当たった物に手応えはなく。手に当たった物は、魔力同士がぶつかったような閃光を発する。
(「……手は魔力で構成されているのでしょうか。…とすると、やはり本体ではない可能性が高いですね」)
僅かにクランクハイトが思考をめぐらせたその瞬間。一瞬で距離を詰めた歪虚が、彼に向かって大鎌を振り上げる。
この歪虚の真髄は攻撃力もさることながらその速度。然し、振るわれたその鎌こそが、クランクハイトにとっては待ち構えていた好機。
「さて、と。死神らしく死の舞踏にでも興じてみましょ。不束者ではありますが…お相手、お願い致します」
自らの振るう大鎌を、歪虚の大鎌と絡ませる。微細な力加減の調整により、歪虚が武器を拘束から外す事を封じる。
「今の内です!」
彼の目線は、『瓶』を構えたルーガに向く。
「先ずは実体を捉えねば、どうにもならんか…歪虚よ、貴様にも馳走してやろう…ほら、値段は手ごろだがいい赤ワインだぞ、これはッ!」」
腕に結びつけたランタンを揺らしながら、盾での殴打に見せかけ、盾の裏に隠し持っていた赤ワインの瓶をルーガは猛然と投擲する。飛翔する瓶は盾を受け止めようとした歪虚の鎌に直撃し、その内容物を撒き散らす。たちまちぼろ布のあちこちに、ワインが付着する。
とりあえず、魔力で出来た腕以外に、虚幻であった箇所はないようだ。
「鎌を振るい、ぼろ布は移動をしている以上。実体は必ずどこかにある筈だ」
ライトを翳し、敵を注意深く観察したヴァージル・チェンバレン(ka1989)は、そう判断する。
影でも出来れば、とは思ったが、元々深い色の布であった上、色濃いワインが表面を覆った。全体的に光は通さず、故に影からの判断は出来ない。
各ハンターの行動から、クランクハイトの目的が自身の動きを封じる事であるのを察したのか。歪虚はその手の大鎌を突如手放す。力加減の調整が間に合わず、僅かにクランクハイトの体が傾いたその隙を突き、怒涛の魔法弾が彼に打ち込まれる。
「ううむ、少し油断しましたか」
後ろに転がり、立ち上がったクランクハイトが、苦笑いを浮かべる。
目標さえ見えれば、一気に弱点に鎌の先を突きこむ事もできた。だが、未だ敵の本体は判明せず。
直撃の瞬間に破魔の光で身を守った物の…この術の根本は、魔力自体を軽減する物ではなく付随する効果を払う物。故に純粋な魔法的衝撃であった魔力弾には余り意味を成さなかった。
「ふむ。…大体目星はついたが…もう一度、試すとしよう」
ポケットから、缶を取り出すヴァージル。元はルーガの策が外れた際に使おうと思っていた予備だが、確認のために使うのもまた一興。
「振って開けると、勢いよく噴出される物だ。こちらでは珍しい仕組みだったが、こういう時には役に立つ」
武器を構えたまま、空いた手で猛然と缶を振る。そしてその上方を歪虚に向け――
パチン。
プシャーと、猛然と噴き出す液体。ビールと呼ばれるそれは、相応の圧力を以って歪虚の全身を襲う。無論、襲うと言っても、この程度の圧力では歪虚所か一般人ですらダメージを受けないだろう。だが――
「――浮き彫りになったな」
鎌に妨害されない、その液体の圧力は。ぼろ布の全体が動いても一箇所だけ動かない場所を、浮き上がらせていたのである。
●The truth of a Death
「これで正体は分かったな」
精密を期した朱華の日本刀の一突きが、唯一動かなかったその一点を狙う。
――恐らく、敵は小型の浮遊歪虚。それが魔力を以って布、そして鎌を浮かび上がらせ、操っていた――それがこの死神の正体だろう。
刃は、その一点の僅か二寸ほど横を貫く。鎌と布を操り刀に絡ませ、僅かに打点をずらしたのだろう。
実体が移動を始める。他の場所に移動し再度身を隠そうとしているのだろうが、全体的に液体が付着し、垂れ下がったぼろ布は、実体の移動に伴い形を変え――その結果、その移動先を指し示す事になる。
「そこか」
銃撃。リロードしたマウローゼの銃弾が、実体部分を掠める。直撃とは行かなかったが、手応えはあった。恐らく命中自体はした筈だ。故に、それは実体への攻撃が『有効』であった事を意味する。
「もう少し、付き合っていただきますよ」
ぶつかり合う鎌と鎌。打ち合いはほぼ互角。クランクハイトには然し、味方からの援護があった。
「手助けは要るかの?」
火々弥の刀閃が正確に鎌を下から打ち、その軌道を逸らす。
「感謝しますよ」
鎌を引きずるような体勢からの、急加速の一閃。黒の三日月と化した鎌の一閃が、直接実体を狙う!
「浅い…か?」
クランクハイトの持つ大鎌は、相当の重量を持っていた。それは即ち威力の高さにも繋がっていたのだが、同時に命中させるのにある程度の困難を伴う事をも意味していた。
だが、本体への直撃はならずとも、彼の一閃はぼろ布の下半分を切断し、地に落ちたそれはただの布となる。
集まり包囲の形を形成しつつあるハンターたちに危機感を覚えたのか。機動力を生かし、急激に後退する歪虚。
「怖気ついたのかえ?」
地を揺らす踏み込みと共に、火々弥が距離を詰める。然し、僅かに速度ではぼろ布の面積が減った歪虚の方に分があるか。切っ先は歪虚の眼前一寸で停止し、距離が離される。
「ふん…ならば、これはどうじゃ!」
即座に刀の軌道を変え、弧を描き地面を狙う。
気が触れた訳ではない。刃はぼろ布の端を引っ掛けていたのだから。
ガクン。
刀が地に突き刺さると、突如引き戻されるように歪虚はその場で止まる。この好機を逃すはずも無く、
「外すはずもない」
マウローゼの銃弾が、戦闘開始から初めて、本体に直撃する。
と共に、突進したヴァージルの振るう蛇蠍の如き鞭もまた、本体を打ち据える。
その場から移動できない歪虚。然しそれは、これが無防備になると言う事ではない。
縫い付けられた点を中心にし、大きく円を描くような動きで一気に周囲を薙ぎ払う!
「ぬう…!」
動かせない刀を手放し、火々弥は鉄扇で大鎌の横を弾くが、刃の先が脇腹に食い込む。
このままでは腰から両断されない。そう判断した彼女は勢いに逆らわず、わざと吹き飛ばされる事で危機を回避する。
大振りの直後の機を突き、朱華が敵の背後に回りこみ、逆手に持った刀を地に突き刺し、ぼろ布をもう一箇所地に縫いとめる。
更に動きを制限された歪虚を、クランクハイトの黒鎌が襲う!
キン。
甲高い金属音と、何かにヒビが入る音。
直撃。後一発。後一発でも入れられれば、恐らくこの歪虚の『本体』の撃破が成る。
「――!!」
敵も死に物狂いなのだろう。大きく鎌を回し、動けない朱華を正面から袈裟斬りにする。サブウェポンを持っていなかった彼は、武器を手放すわけには行かなかったのだ。
その勢いのまま投擲される大鎌を、クランクハイトは己の鎌で絡め取り、上に弾き飛ばす。が、直後、魔法弾が彼の腹部に直撃する。
――この歪虚の本当の厄介な所は、飛ばした鎌と本体からの魔法弾による複合攻撃。そして、その威力の高さにある。
後退したクランクハイトをルーガの回復術が癒すが、完全に癒せていない。
彼女がいなければ、誰かしら倒れていただろう。それほどまでに、攻撃を重視したハンターたちが受けた攻撃は多かった。
「抜けられるのはいかんな」
鎌でぼろ布に突き刺さった刃が弾かれたのを見て、敵を巻き取らんと鞭を振るうヴァージル。
然し投げつけられた鎌の回転が、その鞭を弾く。
朱華が間に入って鎌を弾くが、手応えが違う。先ほどまでの殺傷力はない。
「逃げるつもりか」
「敗走には少し早いとは思わんかの?」
その声を聞いて、空中で己の得物をキャッチした火々弥が、クランクハイトの構えた大鎌を足場として方向を変え、一直線に敵へと向かう。と同時に、マウローゼの跳弾が、別の角度から敵を狙う。
だが、ここで歪虚は意外な行動に出た。
「む?」
ぼろ布が突進する火々弥へと向かってくる。
「小癪な…!」
それを横一文字に引き裂くが、その中に本体は無い。視界を一瞬遮った隙に、身軽になった歪虚の本体は、マウローゼの銃弾を回避して距離を離したのだ。
一目散に逃げる本体を、遠目で見るハンターたち。元よりこの歪虚は機動力に優れる。ぼろ布を投げ捨て更に身軽になった状態では、準備や策略なしに…捉える事はできなかったのである。
その本体の姿。それは小さな立方体――石のような物であった。
●Life after Death
ハンターたちは歪虚の撃破こそ出来なかった物の、相当の痛手を与え、撃退したと言う報告を聞き、村人たちの顔はぱーっと明るくなった。
敵の正体も分かった以上、村人たちだけになった際も最小限の抵抗は出来るだろうし、何よりもこのデータを基に、ハンターオフィスから人員を派遣し、村に常駐する事が確定したのである。
己の手を握り、感謝の言葉を述べ続ける村人に、僅かに朱華は困惑の色を浮かべる事となる。
一方、クランクハイトは、犠牲者の墓の前に立っていた。
あの歪虚…必ずしも犠牲者を殺害しては居らず、人を攫っていく事もあると聞いた彼は、手を合わせて墓に一礼すると考え込む。
「……歪虚が人を攫う?どうもきな臭いものを感じますが……」
だが、当の歪虚が逃逸した以上、この件について結論を出すには、いささか情報が足りない。
機会があれば再度調査しようと、しっかりと記憶に刻んだ上で。彼は墓場を後にしたのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
死神に死を 火々弥(ka3260) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/26 09:36:52 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/21 22:45:44 |