ゲスト
(ka0000)
【界冥】クラック・スフィア
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/17 15:00
- 完成日
- 2017/05/25 00:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「単刀直入に聞くぞ。オートマトンとは一体何じゃ?」
ある日のハンターズソサエティ、トマーゾ教授との定期通信は張り詰めた空気が支配していた。それもこれもナディアが通信開始と同時に問いかけた内容が原因だった。
教授は人工知能の制作に繋がる様な事には断固として協力を拒否する。これはリアルブルーにおいて人工知能の研究が遅々として進まない理由の一端でもあった。そのことはナディア側にも伝えられていた。その理由にダイレクトに切り込むことになりかねない質問である。即座に通信を切られてもおかしくない。
「……見りゃ分かるじゃろ。人を模して作られた機械人形……」
「おためごかしは要らん!」
教授の言葉にナディアが声を荒げる。
「……もうわかっておるのじゃ。オートマトンはあの形のものに精霊を組み込んだもの。違うか?」
その言葉に教授は沈黙で返す。
「……だんまりか。まあいい。すぐにその口から聞かせてもらうぞ」
「そろそろ潮時じゃろうか」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
●
それは奇妙な建造物だった。
見上げるほど長く高い階段の先には、U字型に建っている建造物、だったであろうもの。元の形が四角い形だったのか、それとも最初からこの形だったのかはもはやわからない。それだけ風化が進んでいる。左右に残っている部分からは神霊樹の姿が見える。おそらくこの二つがサーバーであろう。
そして何より目を引いたのは、そのU字の中央部に浮かぶ形で残っていた球体だった。風化を免れたのか、ここにある建造物の中で唯一鈍く光っている。
その光景を見ながら階段を登り、ハンター達は建造物の中へ歩を進める。そこには何もなかった。だだっ広い空間が広がっている。そして左右には残骸が残り、その隙間から神霊樹の姿。そちらへ向けて彼らが歩み寄ろうとしたときだった。
球体が空間の中心に落ちてくる。轟音。ハンター達はとっさに開いてかわす。
「ようこそ俺っちのファンの皆様ー! 今日は俺っち自らお相手しちゃうよー!」
球体がほんの少し浮かび上がり、そこから小さな球体が飛び出してくる。そこで聞こえたのは聞き覚えのある甲高い声、カスケードの声だった。
「どうどう? この姿、まあすんごいでっしょー。こんなことも出来るんだぜ?」
球体から突然四本の砲門が飛び出し、レーザーを放つ。奔った光線が建造物の残骸を吹き飛ばしていた。
「さあて、どうする? 今ならスッペシャルサービスで尻尾巻いて逃げ帰ってもオッケーよーん?」
しかし、ハンター達にその声に従うなどという選択肢は無かった。
「単刀直入に聞くぞ。オートマトンとは一体何じゃ?」
ある日のハンターズソサエティ、トマーゾ教授との定期通信は張り詰めた空気が支配していた。それもこれもナディアが通信開始と同時に問いかけた内容が原因だった。
教授は人工知能の制作に繋がる様な事には断固として協力を拒否する。これはリアルブルーにおいて人工知能の研究が遅々として進まない理由の一端でもあった。そのことはナディア側にも伝えられていた。その理由にダイレクトに切り込むことになりかねない質問である。即座に通信を切られてもおかしくない。
「……見りゃ分かるじゃろ。人を模して作られた機械人形……」
「おためごかしは要らん!」
教授の言葉にナディアが声を荒げる。
「……もうわかっておるのじゃ。オートマトンはあの形のものに精霊を組み込んだもの。違うか?」
その言葉に教授は沈黙で返す。
「……だんまりか。まあいい。すぐにその口から聞かせてもらうぞ」
「そろそろ潮時じゃろうか」
「何か言ったか?」
「いや、何も」
●
それは奇妙な建造物だった。
見上げるほど長く高い階段の先には、U字型に建っている建造物、だったであろうもの。元の形が四角い形だったのか、それとも最初からこの形だったのかはもはやわからない。それだけ風化が進んでいる。左右に残っている部分からは神霊樹の姿が見える。おそらくこの二つがサーバーであろう。
そして何より目を引いたのは、そのU字の中央部に浮かぶ形で残っていた球体だった。風化を免れたのか、ここにある建造物の中で唯一鈍く光っている。
その光景を見ながら階段を登り、ハンター達は建造物の中へ歩を進める。そこには何もなかった。だだっ広い空間が広がっている。そして左右には残骸が残り、その隙間から神霊樹の姿。そちらへ向けて彼らが歩み寄ろうとしたときだった。
球体が空間の中心に落ちてくる。轟音。ハンター達はとっさに開いてかわす。
「ようこそ俺っちのファンの皆様ー! 今日は俺っち自らお相手しちゃうよー!」
球体がほんの少し浮かび上がり、そこから小さな球体が飛び出してくる。そこで聞こえたのは聞き覚えのある甲高い声、カスケードの声だった。
「どうどう? この姿、まあすんごいでっしょー。こんなことも出来るんだぜ?」
球体から突然四本の砲門が飛び出し、レーザーを放つ。奔った光線が建造物の残骸を吹き飛ばしていた。
「さあて、どうする? 今ならスッペシャルサービスで尻尾巻いて逃げ帰ってもオッケーよーん?」
しかし、ハンター達にその声に従うなどという選択肢は無かった。
リプレイ本文
●
「さあどうするの? やるの? やらないの? 俺っちはどっちでもいいよ~! アッヒャヒャヒャヒャヒャ!」
地面スレスレを浮かぶ鈍く光る球体から響く人を苛つかせる甲高い声。カスケードはそのうるさい声を撒き散らしていた。その球体は大きかった、あまりにも大きかった。その大きさが自然とハンター達を威圧する。
「また出ましたね。私達の行先ばかり現れて、実はストーカーですか?」
「それはこっちの台詞だっちゅーの! ここは俺っちのエリアなんだからさぁ、そこでチョコマカしてたらそりゃぁこうなるよ。ま、そろそろ諦めた方が良いんじゃない?」
アシェ-ル(ka2983)の言葉にも憎まれ口を叩き余裕たっぷりのカスケード。その巨体と、たとえこの球体がやられても本人は滅びないという特性がこの歪虚にそうさせていた。
そんな中、大伴 鈴太郎(ka6016)は脂汗を一筋垂らしていた。この直径32メートルにも上る巨大な球体がこちらに敵意を向けていることは現実だ。さらに言えばデモンストレーションの一発、その威力がどれほどのものかはよく分かる。誰でも恐怖を感じないわけがない。手足が勝手に震える。
(クソッ、カスケードの野郎……厄介なモン持ち出しやがって! こんな化けモンやれンのかよ……でも、ブルってなんてらンねぇ。ルビー……皆……チカラ貸してくれよな)
だから鈴太郎は震えを止めるよう、胸に忍ばせた写真にそっと手を当てた。そこにはオートマトンの少女、ルビーと仲間達が写っていた。皆がきっと自分に力を貸してくれる。そう信じていた。
●
「それじゃあ10秒だけ待ってあげるよ~! 10! 9! 1!」
カスケードのデタラメなカウントダウンと共に球体から砲身が飛び出る。
「こっちも特別サービス! 今なら逃げても追わないよ? タマケード!」
だがそれより先に駆け出しているものが居た。テンシ・アガート(ka0589)だった。
「誰がタマだよ! 俺っちはカスケードだよ! カスケード!」
砲身が蠢く様に動き、走る彼の方向へ向けられる。自分に向けられたその先端を見ながら、テンシは内心狙い通りに行ったことに胸を撫で下ろしていた。彼にカスケードが集中している間に仲間達は散り散りになっている。これでレーザーが発射されても後方に居る者達が巻き込まれることはない。
「巨体だけが取り柄の屑鉄が……あまり生身の人間を舐めるなよ?」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は向かって右側に走り出すと拳銃を抜く。聖別された銀で作られた純白の銃身が煌めいた時には、彼女は照準をすでにカスケードの周囲に浮かんでいた小型の球体、ビットに向けていた。
コーネリアは元軍属である。カスケードの圧倒的な巨体を見せられても彼女の心が揺らぐことはない。修羅場を潜ってきた数が違う。そして、何より彼女には歪虚を滅ぼさねばならぬ理由があった。
その照準は紛れもなくビットを中心に据え、トリガーを引けば弾丸が発射された。その弾丸は寸分違わずビットの中心を捉える。衝突の瞬間鈍い金属音がくぐもって聞こえる。この音が彼女に伝えることがある。おそらくこのビット、そこまで耐久度が無い。もう一発撃ち込めば倒せるだろう、そんな彼女の推測は別の方向に裏切られた。たった一発の弾丸でビットは地面に落ち、そのまま粉々に砕け散る。派手な音も爆発も無く、バラバラに砕けたかと思うとそのまま砂のように崩れ、地面に染み込んでいった。
「……今度は、しっかりクリアしてみせる」
龍堂 神火(ka5693)は一つ深呼吸をするとゴーグルをかけた。それで恐怖は無くなった。視界がクリアになり何をやるべきかが手に取るようにわかる。
ゴーグル越しに見える小さな球体。それに視線を向けるとカードを引く。
「飛べ、ファルガ! 狙いは周りの奴らだ!」
すると彼の頭上に紅の鎧を纏った鳥が現れた。その鳥が羽ばたけば風の刃が吹き荒れ、一瞬の内にビットを切り裂き、地面に落としていた。真っ二つに別れ地面に落ちたそれは、程なくして溶けるように消え去った。
そして二人がビットを蹴散らしている間に、何人かが球体の元へと駆け出していく。レーザーで纏めてやられないよう各人は展開し広がりながら走り出す。
「私にできることなら全力を尽くそう」
アシェールと共に左側へ広がっていったのは鞍馬 真(ka5819)だった。砲門は未だテンシの方を向いている。このコースならレーザーに狙われることも無さそうだ。そこにもう一体のビットが近づいてきた。こちらに反応したらしい。
空中に桃色の魔法陣が浮かび上がる。それが明滅したかと思えば同じ色の光弾が冷気の筋を残しながらビットへ向かって飛んでいった。アシェールが魔法を唱えビットに対応する。一方の鞍馬はそちらへ振り向くこともしなかった。彼は一直線に球体の方を目指し走っていく。なるべく早く接敵し強力な一撃を叩き込む。そのことに注力していた。冷気の爆発が起きビットが凍りついたことを彼は知らなかった。ただ、そうなることを信じていた。
「すずと共闘とか、地味に初めてだからワクワクするんだよね……!」
一方鈴太郎と共に右側に広がっていったのは柄永 和沙(ka6481)だった。三人がビットを排除したことでこちら側からは楽に近づくことができそうだ。視線の脇に親友の姿を留め、彼女は球体へ、正しくはそのある一点に向けて全速力で移動する。
「とりあえず、あたしはあたしの出来る事をする」
そう、皆の力があって、彼女には彼女にしか出来ない事がある。二人はそのために動いていた。
テンシは自分の方に向けられている砲口を注視していた。負のマテリアルが充填されたのだろうか。耳に意識を集中する。その巨体とくらべて驚くほど小さかったが、微かな音が聞こえた。
「来るよ!」
彼がそう警告を飛ばす。
「もう遅いよーん!」
そしてレーザーが発射され一瞬の内に一帯を焼き払う、はずだった。だがそのレーザーは発射されなかった。
「なっ……」
「マクスウェルさんには通じました。異世界とはいえ、マテリアルを扱うという意味では同じはずです!」
さしものカスケードも狼狽していた。それはアシェールが仕掛けたものだった。マテリアルレーザーの理屈は正負の違いこそあれ魔法の一種とみなすことが出来た。魔法の一種なら、それを打ち消す術を彼女は持っていた。
レーザーは発射されず、発射音も響かない。代わりに銃声と空気が凍りつく澄んだ音が聞こえていた。
「……子供、もといクソガキが」
ライフルのスコープ越しに球体を覗いていたフォークス(ka0570)がそうつぶやく。わざわざ挑発するつもりもない。誰とも聞かれることのない小声でそう思ったことをつぶやく。いきなり無駄弾とも言えるレーザーをぶっ放したのだ、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだ、これが聞いたことのある中二病ってやつか。そんなことを思っていた頃、彼女が放った弾丸には冷気が込められていた。それが砲身に食い込み、球体へと伝わっていった。
●
「クソッ! こうなったらもう一回……!」
二発目はテンシが警告する必要もなかった。フォークスが思っていた通り、悟られるべきで無い感情を言ってしまうカスケードの精神は子供のそれに近いのかもしれない。
だがそこで繰り広げられた光景は先ほどと全く同じものだった。レーザーは発射されず、後には沈黙が残る。
「何度使っても無駄ですよ!」
そしてそのことにカスケードが怒りを露わにする前に、球体にすでに接近している者が居た。
「相変わらず借りモンのチカラがご自慢かよ! めでてぇ野郎だぜッ! その球っころがどんだけ強くてもよ。動かすのがテメェなら勝てっ気がすンよ!」
身を屈め爆発的な加速で飛び出した鈴太郎は砲身にチェーンを投げつける。先端につけられた分銅がしっかりと絡まる。
そして彼女の頭上をワイヤーが飛んでいく。続けて頭上を通るのは人影。それは和沙だった。文字通りひとっ飛びでワイヤーを絡ませつつ砲身に飛び乗る。
「すず、一緒に踏ん張るぞ!! 向こうが大きいとか、そんなの関係ない! 皆がぶっ壊せる様にあたしらは踏ん張るだけだ!」
「おう!」
二人は腕に力を込め砲身をそこに食い止めようとする。サイズはあまりにも違う。だが、マテリアルの助けも借りた鈴太郎の力はその無理を押し通していた。
固定してしまえばその大きさはそのまま的の大きさとなって降りかかる。そこに攻撃を当てることなどあまりに容易いことだった。テンシはパルムに砲身目掛け飛び込ませる。しかしこの球体はその巨大さに見合った耐久力を持っているようだった。多少はダメージを与えただろうが、全く傷ついた気配がない。
フォークスももう一発冷気を込めた銃弾を叩き込む。砲身は凍り、その表面は白く変わっていく。
「どんなにデカかろうと硬かろうと所詮は機械……形あるものは必ず壊れる。貴様も同じだ」
さらにそこに合わせてコーネリアも銃口を砲身に向けていた。すると彼女の周囲を粉雪のような白いオーラが舞い散り、それが銃口に集まっていけば程なくして銃声とともに発射された。
弾丸は砲身に当たれば一瞬の内に冷気が飛散し、それを凍りつかせる。が、冷気こそ伝わっても威力は力不足のようだ。変形も傷も見受けられない。
そこに鞍馬が飛び込んできた。彼が手にする得物は彼の身長を超える大きさの大鎌である。それを大きく振りかぶり、マテリアルを流し込む。そしてそこから一気に振り回す。
その的の大きさがもう一つの意味を持った。ここまで的が大きければ砲身と球体、纏めて薙ぎ払うことも可能である。刃が食い込み、砲身を、球体を斬り裂いていく。巨体の相手にはそれを覆い尽くすよな攻撃を放てば、何倍もの効果を与えることが出来る。
「爆ぜろ、ブラストルガ! 姑息な鉄塊を砕く光を!」
龍堂がカードを順番に出していけば岩、否、溶岩の如き甲羅を持った亀が現れ、次の刹那閃光と共に爆発する。その閃光はビットごと球体を灼いていく。
そして再び冷気の爆発が起こる。今度はビットではない。ビットはもうあらかた落とされている。狙いは球体そのものだ。盾を構え密着するほど近づいたアシェールにその冷気の弾を外す道理など無かった。
「ぐぬぬ……」
砲門を止めそれを落としてしまえばあとはただの球体が残る、そのはずだった。
●
「なんて言うと思った?」
鈴太郎は腕にかかっていた抵抗が急速に抜ける感覚を覚えた。力を込めていた分思わずバランスを崩す。
「うわっと?!」
和沙は突然空中に投げ出されていた。反転した視界に映ったのは、今まで彼女が飛び乗っていた砲身が切り離され宙を待っている姿だった。
「それぐらいこっちもわかってんだよ~!」
二人は球体の表面が盛り上がったかと思うと新たな砲身が現れるのと、同時に分裂するようにビットが生まれ落ちるのを見る。一方聴覚に集中していたテンシは別の音を聞いていた。
「また来るよ!」
警戒を一つし、砲口を引きつけてギリギリのところでかわす。彼はそのまま球体に向かっていこうとしていた。だが。
「反射したっ?! 気をつけて!」
次の瞬間脚が焼ける様な感覚を覚えた。龍堂の警告通り、レーザーはビットに当たると乱反射しこの空間を覆い尽くしていた。空中に飛んでなんとかかわしたフォークスと、盾で受け止めたアシェール以外の者は傷を受ける。だが乱反射したことで威力は減衰していた様だ。耐えられないものではない。
しかし、それにも例外があった。龍堂が膝をついていた。反射した光の一条が運悪く彼の胸の急所を捉えていた。防御も間に合わなかった。あまりにも不運だった。
「何度もやられてらんないんだよ……!」
それでも龍堂は立ち上がった。ボディアーマーの胸元に輝く星が切札だった。それが最後の最後に彼の命を守っていた。
「……オレが、負けるのは嫌いだから!」
龍堂は再び五枚のカードを繰り出した。
「応えてくれ、ボクのカード!」
そしてカードは彼の思いに応えた。幻影の亀が閃光を放ち球体を灼く。
閃光が晴れた時、砲門に密着する位置にアシェールが立っていた。
「私からのプレゼントです! マスタードさん!」
「カスケードだよ!」
そんな言葉が聞こえた頃には、アシェールは杖を砲門に当てていた。そして放たれる電撃、その色は桃色。その電撃が一瞬の内に球体を覆い激しく火花を散らす。
鮮やかな色の電撃が消えるか消えないかのタイミングで、既に大鎌を振り上げた鞍馬が迫っていた。目の前にあるその巨体を全て切り刻む勢いで振り下ろされた大鎌の刃はガッチリと球体に食い込み斬り裂く。
そこに鳴り響く銃声が二発。一発はフォークス、もう一発はコーネリア。フォークスの弾丸には先程と同じく冷気が込められている。一方のコーネリアだが、最初は銃弾を乱射し広範囲に攻撃を喰らわせることを考えていた。しかし、彼女の冷静な判断はそれでは一発毎の威力が装甲を抜けられないことを計算していた。
「次はミサイルやフレアでも積んで出直すんだな?」
代わりに彼女は銃弾に純粋なマテリアルを込め撃ち出した。そのマテリアルはさらに加速し、一瞬の内に球体を貫く。
そしてテンシはもう一度パルムに飛び込んでもらう。決して大きなダメージではないが、こうやって蓄積していくことが重要だ。
「あたしは、あたしには帰るべき場所がある! だから、その為にも、お前をぶっ壊さないといけないんだ!」
和沙は手にしたコウモリ型の武器にマテリアルを込め投げつける。それはわずかながらも砲身に傷をつける。そしてそれが次の一撃を引き出した。
「アイツに拾って貰った命を無駄に出来っかよ! 最後まで諦めねぇ!」
鈴太郎はマテリアルを全身に巡らせ、丹田を通して両手に集める。そして次の瞬間、その手を裂帛の気合と共に球体の中心へ向けて突き出した。
両手から彼女が集めたマテリアルが青白い光線となり、龍が宝玉に噛み付く様に球体の中心を貫いた。
「ギッ……こいつはヤベェ……ち、チクショー! 覚えてやがれ!」
最後に聞こえたのはカスケードのその声だった。鈴太郎の放った光が晴れた後には、真ん中に穴を開けられた球体が残り、それは程なくして砂が風に吹かれて崩れ去るように消えていった。
●
「コアパーツも残骸も残ってないですね……」
「どういうことなんでしょう」
戦い終えたハンター達は手分けしてサーバーのパーツを回収していく。この施設はよっぽど大きかったのか、サーバーが二つ設置されていた。回収できる量も倍になる。
そんな中、アシェールと龍堂は球体の残骸を回収しようと思っていた。だが文字通り何一つ残っていなかった。そのことの意味を考えながら、ハンター達は帰路につくのであった。
「さあどうするの? やるの? やらないの? 俺っちはどっちでもいいよ~! アッヒャヒャヒャヒャヒャ!」
地面スレスレを浮かぶ鈍く光る球体から響く人を苛つかせる甲高い声。カスケードはそのうるさい声を撒き散らしていた。その球体は大きかった、あまりにも大きかった。その大きさが自然とハンター達を威圧する。
「また出ましたね。私達の行先ばかり現れて、実はストーカーですか?」
「それはこっちの台詞だっちゅーの! ここは俺っちのエリアなんだからさぁ、そこでチョコマカしてたらそりゃぁこうなるよ。ま、そろそろ諦めた方が良いんじゃない?」
アシェ-ル(ka2983)の言葉にも憎まれ口を叩き余裕たっぷりのカスケード。その巨体と、たとえこの球体がやられても本人は滅びないという特性がこの歪虚にそうさせていた。
そんな中、大伴 鈴太郎(ka6016)は脂汗を一筋垂らしていた。この直径32メートルにも上る巨大な球体がこちらに敵意を向けていることは現実だ。さらに言えばデモンストレーションの一発、その威力がどれほどのものかはよく分かる。誰でも恐怖を感じないわけがない。手足が勝手に震える。
(クソッ、カスケードの野郎……厄介なモン持ち出しやがって! こんな化けモンやれンのかよ……でも、ブルってなんてらンねぇ。ルビー……皆……チカラ貸してくれよな)
だから鈴太郎は震えを止めるよう、胸に忍ばせた写真にそっと手を当てた。そこにはオートマトンの少女、ルビーと仲間達が写っていた。皆がきっと自分に力を貸してくれる。そう信じていた。
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「それじゃあ10秒だけ待ってあげるよ~! 10! 9! 1!」
カスケードのデタラメなカウントダウンと共に球体から砲身が飛び出る。
「こっちも特別サービス! 今なら逃げても追わないよ? タマケード!」
だがそれより先に駆け出しているものが居た。テンシ・アガート(ka0589)だった。
「誰がタマだよ! 俺っちはカスケードだよ! カスケード!」
砲身が蠢く様に動き、走る彼の方向へ向けられる。自分に向けられたその先端を見ながら、テンシは内心狙い通りに行ったことに胸を撫で下ろしていた。彼にカスケードが集中している間に仲間達は散り散りになっている。これでレーザーが発射されても後方に居る者達が巻き込まれることはない。
「巨体だけが取り柄の屑鉄が……あまり生身の人間を舐めるなよ?」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は向かって右側に走り出すと拳銃を抜く。聖別された銀で作られた純白の銃身が煌めいた時には、彼女は照準をすでにカスケードの周囲に浮かんでいた小型の球体、ビットに向けていた。
コーネリアは元軍属である。カスケードの圧倒的な巨体を見せられても彼女の心が揺らぐことはない。修羅場を潜ってきた数が違う。そして、何より彼女には歪虚を滅ぼさねばならぬ理由があった。
その照準は紛れもなくビットを中心に据え、トリガーを引けば弾丸が発射された。その弾丸は寸分違わずビットの中心を捉える。衝突の瞬間鈍い金属音がくぐもって聞こえる。この音が彼女に伝えることがある。おそらくこのビット、そこまで耐久度が無い。もう一発撃ち込めば倒せるだろう、そんな彼女の推測は別の方向に裏切られた。たった一発の弾丸でビットは地面に落ち、そのまま粉々に砕け散る。派手な音も爆発も無く、バラバラに砕けたかと思うとそのまま砂のように崩れ、地面に染み込んでいった。
「……今度は、しっかりクリアしてみせる」
龍堂 神火(ka5693)は一つ深呼吸をするとゴーグルをかけた。それで恐怖は無くなった。視界がクリアになり何をやるべきかが手に取るようにわかる。
ゴーグル越しに見える小さな球体。それに視線を向けるとカードを引く。
「飛べ、ファルガ! 狙いは周りの奴らだ!」
すると彼の頭上に紅の鎧を纏った鳥が現れた。その鳥が羽ばたけば風の刃が吹き荒れ、一瞬の内にビットを切り裂き、地面に落としていた。真っ二つに別れ地面に落ちたそれは、程なくして溶けるように消え去った。
そして二人がビットを蹴散らしている間に、何人かが球体の元へと駆け出していく。レーザーで纏めてやられないよう各人は展開し広がりながら走り出す。
「私にできることなら全力を尽くそう」
アシェールと共に左側へ広がっていったのは鞍馬 真(ka5819)だった。砲門は未だテンシの方を向いている。このコースならレーザーに狙われることも無さそうだ。そこにもう一体のビットが近づいてきた。こちらに反応したらしい。
空中に桃色の魔法陣が浮かび上がる。それが明滅したかと思えば同じ色の光弾が冷気の筋を残しながらビットへ向かって飛んでいった。アシェールが魔法を唱えビットに対応する。一方の鞍馬はそちらへ振り向くこともしなかった。彼は一直線に球体の方を目指し走っていく。なるべく早く接敵し強力な一撃を叩き込む。そのことに注力していた。冷気の爆発が起きビットが凍りついたことを彼は知らなかった。ただ、そうなることを信じていた。
「すずと共闘とか、地味に初めてだからワクワクするんだよね……!」
一方鈴太郎と共に右側に広がっていったのは柄永 和沙(ka6481)だった。三人がビットを排除したことでこちら側からは楽に近づくことができそうだ。視線の脇に親友の姿を留め、彼女は球体へ、正しくはそのある一点に向けて全速力で移動する。
「とりあえず、あたしはあたしの出来る事をする」
そう、皆の力があって、彼女には彼女にしか出来ない事がある。二人はそのために動いていた。
テンシは自分の方に向けられている砲口を注視していた。負のマテリアルが充填されたのだろうか。耳に意識を集中する。その巨体とくらべて驚くほど小さかったが、微かな音が聞こえた。
「来るよ!」
彼がそう警告を飛ばす。
「もう遅いよーん!」
そしてレーザーが発射され一瞬の内に一帯を焼き払う、はずだった。だがそのレーザーは発射されなかった。
「なっ……」
「マクスウェルさんには通じました。異世界とはいえ、マテリアルを扱うという意味では同じはずです!」
さしものカスケードも狼狽していた。それはアシェールが仕掛けたものだった。マテリアルレーザーの理屈は正負の違いこそあれ魔法の一種とみなすことが出来た。魔法の一種なら、それを打ち消す術を彼女は持っていた。
レーザーは発射されず、発射音も響かない。代わりに銃声と空気が凍りつく澄んだ音が聞こえていた。
「……子供、もといクソガキが」
ライフルのスコープ越しに球体を覗いていたフォークス(ka0570)がそうつぶやく。わざわざ挑発するつもりもない。誰とも聞かれることのない小声でそう思ったことをつぶやく。いきなり無駄弾とも言えるレーザーをぶっ放したのだ、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだ、これが聞いたことのある中二病ってやつか。そんなことを思っていた頃、彼女が放った弾丸には冷気が込められていた。それが砲身に食い込み、球体へと伝わっていった。
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「クソッ! こうなったらもう一回……!」
二発目はテンシが警告する必要もなかった。フォークスが思っていた通り、悟られるべきで無い感情を言ってしまうカスケードの精神は子供のそれに近いのかもしれない。
だがそこで繰り広げられた光景は先ほどと全く同じものだった。レーザーは発射されず、後には沈黙が残る。
「何度使っても無駄ですよ!」
そしてそのことにカスケードが怒りを露わにする前に、球体にすでに接近している者が居た。
「相変わらず借りモンのチカラがご自慢かよ! めでてぇ野郎だぜッ! その球っころがどんだけ強くてもよ。動かすのがテメェなら勝てっ気がすンよ!」
身を屈め爆発的な加速で飛び出した鈴太郎は砲身にチェーンを投げつける。先端につけられた分銅がしっかりと絡まる。
そして彼女の頭上をワイヤーが飛んでいく。続けて頭上を通るのは人影。それは和沙だった。文字通りひとっ飛びでワイヤーを絡ませつつ砲身に飛び乗る。
「すず、一緒に踏ん張るぞ!! 向こうが大きいとか、そんなの関係ない! 皆がぶっ壊せる様にあたしらは踏ん張るだけだ!」
「おう!」
二人は腕に力を込め砲身をそこに食い止めようとする。サイズはあまりにも違う。だが、マテリアルの助けも借りた鈴太郎の力はその無理を押し通していた。
固定してしまえばその大きさはそのまま的の大きさとなって降りかかる。そこに攻撃を当てることなどあまりに容易いことだった。テンシはパルムに砲身目掛け飛び込ませる。しかしこの球体はその巨大さに見合った耐久力を持っているようだった。多少はダメージを与えただろうが、全く傷ついた気配がない。
フォークスももう一発冷気を込めた銃弾を叩き込む。砲身は凍り、その表面は白く変わっていく。
「どんなにデカかろうと硬かろうと所詮は機械……形あるものは必ず壊れる。貴様も同じだ」
さらにそこに合わせてコーネリアも銃口を砲身に向けていた。すると彼女の周囲を粉雪のような白いオーラが舞い散り、それが銃口に集まっていけば程なくして銃声とともに発射された。
弾丸は砲身に当たれば一瞬の内に冷気が飛散し、それを凍りつかせる。が、冷気こそ伝わっても威力は力不足のようだ。変形も傷も見受けられない。
そこに鞍馬が飛び込んできた。彼が手にする得物は彼の身長を超える大きさの大鎌である。それを大きく振りかぶり、マテリアルを流し込む。そしてそこから一気に振り回す。
その的の大きさがもう一つの意味を持った。ここまで的が大きければ砲身と球体、纏めて薙ぎ払うことも可能である。刃が食い込み、砲身を、球体を斬り裂いていく。巨体の相手にはそれを覆い尽くすよな攻撃を放てば、何倍もの効果を与えることが出来る。
「爆ぜろ、ブラストルガ! 姑息な鉄塊を砕く光を!」
龍堂がカードを順番に出していけば岩、否、溶岩の如き甲羅を持った亀が現れ、次の刹那閃光と共に爆発する。その閃光はビットごと球体を灼いていく。
そして再び冷気の爆発が起こる。今度はビットではない。ビットはもうあらかた落とされている。狙いは球体そのものだ。盾を構え密着するほど近づいたアシェールにその冷気の弾を外す道理など無かった。
「ぐぬぬ……」
砲門を止めそれを落としてしまえばあとはただの球体が残る、そのはずだった。
●
「なんて言うと思った?」
鈴太郎は腕にかかっていた抵抗が急速に抜ける感覚を覚えた。力を込めていた分思わずバランスを崩す。
「うわっと?!」
和沙は突然空中に投げ出されていた。反転した視界に映ったのは、今まで彼女が飛び乗っていた砲身が切り離され宙を待っている姿だった。
「それぐらいこっちもわかってんだよ~!」
二人は球体の表面が盛り上がったかと思うと新たな砲身が現れるのと、同時に分裂するようにビットが生まれ落ちるのを見る。一方聴覚に集中していたテンシは別の音を聞いていた。
「また来るよ!」
警戒を一つし、砲口を引きつけてギリギリのところでかわす。彼はそのまま球体に向かっていこうとしていた。だが。
「反射したっ?! 気をつけて!」
次の瞬間脚が焼ける様な感覚を覚えた。龍堂の警告通り、レーザーはビットに当たると乱反射しこの空間を覆い尽くしていた。空中に飛んでなんとかかわしたフォークスと、盾で受け止めたアシェール以外の者は傷を受ける。だが乱反射したことで威力は減衰していた様だ。耐えられないものではない。
しかし、それにも例外があった。龍堂が膝をついていた。反射した光の一条が運悪く彼の胸の急所を捉えていた。防御も間に合わなかった。あまりにも不運だった。
「何度もやられてらんないんだよ……!」
それでも龍堂は立ち上がった。ボディアーマーの胸元に輝く星が切札だった。それが最後の最後に彼の命を守っていた。
「……オレが、負けるのは嫌いだから!」
龍堂は再び五枚のカードを繰り出した。
「応えてくれ、ボクのカード!」
そしてカードは彼の思いに応えた。幻影の亀が閃光を放ち球体を灼く。
閃光が晴れた時、砲門に密着する位置にアシェールが立っていた。
「私からのプレゼントです! マスタードさん!」
「カスケードだよ!」
そんな言葉が聞こえた頃には、アシェールは杖を砲門に当てていた。そして放たれる電撃、その色は桃色。その電撃が一瞬の内に球体を覆い激しく火花を散らす。
鮮やかな色の電撃が消えるか消えないかのタイミングで、既に大鎌を振り上げた鞍馬が迫っていた。目の前にあるその巨体を全て切り刻む勢いで振り下ろされた大鎌の刃はガッチリと球体に食い込み斬り裂く。
そこに鳴り響く銃声が二発。一発はフォークス、もう一発はコーネリア。フォークスの弾丸には先程と同じく冷気が込められている。一方のコーネリアだが、最初は銃弾を乱射し広範囲に攻撃を喰らわせることを考えていた。しかし、彼女の冷静な判断はそれでは一発毎の威力が装甲を抜けられないことを計算していた。
「次はミサイルやフレアでも積んで出直すんだな?」
代わりに彼女は銃弾に純粋なマテリアルを込め撃ち出した。そのマテリアルはさらに加速し、一瞬の内に球体を貫く。
そしてテンシはもう一度パルムに飛び込んでもらう。決して大きなダメージではないが、こうやって蓄積していくことが重要だ。
「あたしは、あたしには帰るべき場所がある! だから、その為にも、お前をぶっ壊さないといけないんだ!」
和沙は手にしたコウモリ型の武器にマテリアルを込め投げつける。それはわずかながらも砲身に傷をつける。そしてそれが次の一撃を引き出した。
「アイツに拾って貰った命を無駄に出来っかよ! 最後まで諦めねぇ!」
鈴太郎はマテリアルを全身に巡らせ、丹田を通して両手に集める。そして次の瞬間、その手を裂帛の気合と共に球体の中心へ向けて突き出した。
両手から彼女が集めたマテリアルが青白い光線となり、龍が宝玉に噛み付く様に球体の中心を貫いた。
「ギッ……こいつはヤベェ……ち、チクショー! 覚えてやがれ!」
最後に聞こえたのはカスケードのその声だった。鈴太郎の放った光が晴れた後には、真ん中に穴を開けられた球体が残り、それは程なくして砂が風に吹かれて崩れ去るように消えていった。
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「コアパーツも残骸も残ってないですね……」
「どういうことなんでしょう」
戦い終えたハンター達は手分けしてサーバーのパーツを回収していく。この施設はよっぽど大きかったのか、サーバーが二つ設置されていた。回収できる量も倍になる。
そんな中、アシェールと龍堂は球体の残骸を回収しようと思っていた。だが文字通り何一つ残っていなかった。そのことの意味を考えながら、ハンター達は帰路につくのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/05/15 16:59:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/13 11:17:21 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/05/17 11:23:48 |