【暁潮】新しい絆

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/22 09:00
完成日
2017/06/04 03:13

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●冒険都市リゼリオ
 海に浮かぶ島々を有する広大な冒険都市リゼリオは、交通や輸送の手段を船舶に頼ることが多い。
 必然的に、街には生活には欠かせない船を製造・整備する工房が数多く存在する。
 そして、今日、そんな数多ある造船ドックの一つで――。
「――装甲板剥離・補修作業670万。上部甲板張り替え作業及び材料費340万。帆柱の補強及び、主帆の張り替え作業250万」
 方眼鏡をかけた色白の男が、手にした分厚い請求書を一枚一枚無造作に捲りながら、そこに書いてある金額を無機質に読み上げていく。
「うぐぐぐ……!」
 まるで死刑宣告の如き文字と数字の羅列を吐き出す男を、エミルタニア・ケラー(kz0201)はギギギっと歯噛みしながらじっと睨み付けた。
「幸いにして竜骨が無傷であるのと、未使用であった為、損傷自体はありません。最も劣化はさせられませんので、結局、総改修が必要なのですけどね」
「ええ、わかってるわよ。だからちょっとはまけなさいよ」
「……舵輪及び舵の腐食は軽微でしたので、補強で十分でしょう、30万」
「ちょっとっ!?」
「はっはっはっ! どうだ、うちの会計士。いい腕してっだろ?」
 黙々と自分の仕事をこなしていく自分の部下の仕事っぷりに鼻高々な造船ドッグの主は、豪快な笑い声を上げる。
「親方っ! ちょっと高いんじゃないの!?」
「うん? そうなのか?」
 エミルの剣幕に、主は会計士に尋ねた。
「何を仰いますか。適正価格――いえ、これでもかなり勉強させていただいています」
「だそうだ。前に銅を安く卸してもらったからな、その礼だと思ってくれ!」
「そ、それなら、さ。もう少し負けてよ? 今度、もっと質のいい銅を仕入れてくるからさ!」
「お、そうか? それなら――」
 会計士とでは交渉は不利と悟ったのか、エミルは主にターゲットを絞る。
「いけません。我々のドッグを潰す気ですか?」
「む。そうか、ダメか」
 きっぱりと断られた主は、エミルにすまんなと視線で告げた。
「はぁ、まったく……貴女も商人なのでしょう?」
「と、当然でしょ」
「でしたら相場を把握するくらいはしませんと。商人相手に高説をたれる訳ではありませんが……相場には分水嶺というものが存在します。いわゆる損益分岐点ですね。これを無視して売買を行えば――」
「うぐっ……! わかってるわよ!」
 しかし、返ってきたのは会計士のド正論の一撃だった。
「まぁ、値段は負からねぇみたいだけどよ、その分、満足のいく仕事をして見せるぜ!」
 根っからの職人であろう主の頼もしい言葉に、エミルはそれ以上言い返せない。
「――合計4731万265Gです」
「細かっ!」
「当然です。びた1G負かりませんよ。ああ、塗装はサービスさせていただきますよ。ご希望の船体色はありますか?」
 ようやくめくり終えた分厚い請求書の束をエミルに差し出し、会計士はとてもいい笑顔を浮かべた。

●リゼリオ
 昼も随分と下がり、街は夜の準備にかかる主婦たちで込み合っていた。
「あっっっっっったまくるぅぅぅぅぅ!!」
 リゼリオでも大きな通りの一つで上がった奇声に、通行人が何事かと振り向く。
「なぁにが『ああ、塗装はサービスしておきますよ』よっ! なに、クール気取ってるの!? アレがかっこいいとでも思ってるの!? 恩売ってるつもり!? っとに、あったまくるぅぅ!!」
 奇声の本人、エミルは通行人の視線など気にもせず、たまりにたまったストレスを大声と一緒に吐き出していた。
「感情剥き出しの商人の方がどうかと思いますけど……」
「なんか言ったっ!?」
「何も言ってません」
 3歩ほど後ろをついて歩く助手のリットは、口を一文字に結び視線を逸らす。
「気分転換にちょっと遠乗り! リット、魔導トラック出して!」
「魔導トラック?」
「そうよ、魔導トラック。早くだして!」
「何を言ってるんですか……」
「何をって……何を?」
「はぁ……あるわけないでしょ。そんなのとっくに質に入れてます」
「……へ?」
「トラックだけじゃないですよ。ノアーラ・クンタウにある自宅も売りに出しています」
「ええっ!?」
「まさか、船体修理費用を貯蓄だけで賄うつもりだったんですか?」
「な、何よ、悪い? あれくらいの金額なら何とかできるでしょ! どーんと一括で払ってぎゃふんと言わせてやるわ!」
「……はぁ」
「な、なによ!」
「確かに今ある貯蓄で即金は可能です。ですけど、それを払ってしまったら僕達の貯蓄はほぼ空ですよ?」
「そんなのまた稼げばいいじゃない!」
「あのですね。資金がなくなったら、どうやって商品仕入れるんですか。うちみたいな商会すら名乗ってないような所、ツケで商材売ってくれるとでも思ってるんですか?」
 うっと、言葉を詰まらせるエミルを、リットはかわいそうな物でも見るように見つめた。
「安心してください。家財一式は引き上げています。とはいっても、殆どが大旦那様の本ですけどね」
「うぐぐ…………ああ、もう! まさか、こんなにかかるなんて……船を侮ってたわ」
 随分と軽くなった――気がする財布に視線を落とし、エミルはしゅんと視線を落とした。
「何言ってるんです。まだ先行投資の段階ですよ。これから残った資金で商材を吟味し、販路を開いて顧客を増やす。儲けが出るかどうかどうかなんてわからないんですからね。一歩間違えば、折角手に入れた船を手放して路頭に迷う、なんてこともあるんですから」
 リットが会計士にコテンパンに打ちのめされたエミルの心を更にえぐる。
「……だけど、これはチャンスだと思いますよ」
 今まで順調に蓄えてきた資産が一気に目減りしたのだ。リットは目に見えて凹んでいる主人の弱気な面を愛おしそうに見つめながら続けた。
「僕達がいままでやってきた行商は、所詮小売り。薄利多売ですからね。それとは違って、船舶交易はハイリスクハイリターンです」
「ハイリスクハイリターン……」
「そうです。一発当てればでかい。今までの儲けとは比べ物にならない額の金が転がり込んできます。それこそ商会を立ち上げることも可能です。エミルさん、そういうの好きでしょ?」
 長年共に歩んできた主の性格は理解している。リットは苦いながらもエミルに微笑みかける。
「では、残った資金でまずは人です」
「ヒト?」
「そうですよ。トラックと違って船は僕だけでは動かせないんです」
「私だっているわよ!」
「……甲板掃除お願いしますね」
 はぁと大きなため息を漏らすリットの頭に、赤面したエミルのげんこつが落ちたことは言うまでもない。

リプレイ本文

●リゼリオ港
「はぁ……もっと、バンバン応募があるかと思ってたのに」
 改修の進む船を背に、エミルタニア=ケラー(kz0201)とその助手リットは船員の募集を行っていた。
「船は改修中、船主は若い女商人。雇用条件が特別いいわけでもない。普通ならまず応募はしませんよね」
 募集はすでに三日目。顔を見せた者といえば、酔っぱらいが一人と黒猫が一匹。
「うぐぐ……」
 正論を吐くリットをエミルが睨み付けた、その時。
「お? もしかしてエミルか?」
「ん? って、え? タラサ?」
「ああ、やっぱりそうか。まさかこんな所で会うとはな。一体何して――」
「あぁ、タラサ君! ボクが隣にいるというのに他の子猫ちゃんに余所見だなんて。いけない子にはお仕置きを――」
「え? あ……イ、イルム?」
「……ああ、この幸運を誰に感謝すればいいのだろう! 蒼穹におわす神か、あるいは滄海にたゆたう女神か! エミル君、ここで君に出会えるなんてまさに奇跡! いや運命だ!」
「あはは……相変わらず大袈裟ね」
「だけど、どうしてこんな所に? ああ、ボク達かい? ボク達は煌く太陽の元、深かった親睦を更に深めようと、どこまでも続く青澄の海を眺めに来たんだよ」
「只の買い付けだ。誤解するなよ」
 肩に回そうとしたイルム=ローレ・エーレ(ka5113)の腕を払いのけたタラサ=ドラッフェ(ka5001)が、わかるだろ?と無言の同意を求める。
「しかし、ここに居るということは、そうか、海を見れたんだな」
「ええ、あの時の約束――とは少し変わっちゃったけどね」
「それは良かった――ようこそ、海へ」
「なんだい二人でいい雰囲気をつくって。一人残されたボクはどうすればいいのかな?」
「あはは、ごめんごめん」
「しかし、そうか。この船は自分で乗ることにしたんだね。エミル君は時に現実的なものの考えをする子だから、手放すという選択肢もあり得るかもと思ってはいたんだ」
「正直、迷ったけどね。でも、この船は皆が見つけてくれたものだから」
「そう言って貰えるのなら身を粉にしたかいがあるというものだよ。それで出港はいつだい? 君の為ならいつだって馳せ参じるよ」
「すぐにでも――と言いたいとこなんだけどね」
 と、エミルは二人に看板を指さす。
「船動かすには人がいるらしくて。でも、今は私とリットしかいないの。だから募集中」
「なるほどな。それでここに居たという訳か。しかし、船員か……」
「船員となると常駐か。残念だけど、ハンターであるボク達では勤まらないね」
「手を貸してやりたいのは山々だが……」 
 申し訳なさそうにタラサは眉を下げた。
「ああ、そうだ! もっといい方法あるよ、タラサ君!」
「うん?」
 ポンと手を打ったイルムがタラサの耳元に口を近づける。
「……ああ、なるほど。そういう事なら私も心当たりがあるな」
「流石はタラサ君! そうと決まれば、善は急げだ!」
「わ、わかったから押すな。エミル、すまないな。また今度会おう」
「え? う、うん、またね?」
 首をかしげるエミルを他所に、二人はどこか楽しそうにその場を後にした。

●翌日
「にゃぁ」
「……エミルさん、そのキャラはちょっと」
「ち、違うわよっ! ほらあの猫!」
「うん? ああ、そう言えば昨日もいましたね。応募したいんでしょうか」
「猫がぁ?」
「猫は立派な船乗りですよ? 船体や食料を狙う鼠を――」
 募集を出してから毎日のように訪れる黒猫は餌を求めるでもなく、ただじっと船を見上げていた。
「あぁ、こんな所に居たんですか麗猫。随分探しましたよ」
 その黒猫がふと後ろから延びた手に掬い上げられる。
「あ、その子飼い猫だったんだ。毎日船を見に来てたから野良かと思ってた」
 エミルは猫を抱いた大柄の女性を見上げた。
「毎日、船を? そうでしたか、ご迷惑おかけしていませんでしたか?」
「え? うんん、全然。大人しくていい子ね」
「ありがとうございます。そう言って頂けると友として、とても嬉しい」
 そういって腰を折った女性は、猫を抱き街の喧騒へと歩いて消えた。

●翌日
「はぁ、折角の休診日にオネェ二人でデートなんて……」
「あなたがリゼリオでお買い物したい! っていうから呼んであげたのに、その言い草はなぁに?」
「うっ……オネェさま、目がコワヒ……」
 ロス・バーミリオン(ka4718)は、久しぶりに再会した旧友と共にリゼリオをぶらついていた。
「まったく。で、診療所の方はよかったの? 忙しいんでしょ?」
「おかげさまで。いにしえの美男美女で大賑わいヨ」
「ほっといていいの?」
「いいの! アタシには心のオアシスが必要なの!」
「はいはい……」
 街を抜け、港まで二人の眼に、ふとそんな看板が飛び込んできた。
「へぇ、船員の募集ですって。いいわよねぇ、海の漢って。太陽に焼かれた小麦色の肌、彫像のように隆起した筋肉――」
「オ、オネェさま……」
「あら、どぉしたの? 小刻みに顎を震わせちゃって」
「オネェさま、運命ってあると思う……?」
 と、震える指でレイアが差したのは、船員募集に励むリットの姿。
「へぇ、なかなか可愛らしいけど、発展途上ってところかなぁ」
「んまっ! オネェさまはわかってないワ! 見て! あの将来性を感じる上腕二頭筋を! 粗野で野性的な下腿三頭筋を! 汗シャツに浮いた広背筋を!」
「レイちゃん、目が怖いわよ……」
「そして、何より鍛えられた肢体に似合わない薄幸そうな表情! あはぁん……アタシの保護欲ビンビンくすぐってくるノ!」
「相変わらず幸の薄そうな子が好きねぇ」
「オネェさま! アタシ、船に乗る!」
「……へ? ちょ、ちょっと、何をいきなり! あなた診療所はどうするのよ!?」
「そんなもの休業よ、休業! アタシ、枯れ専にはなりたくないの! それに、これは運命……そう、海の女神がアタシにもたらした運命なのぉぉ!」

●翌日
 この日、また新たな訪問者がエミルの前に現れた。
「精が出るのぉ、エミル」
「え、あ、蜜鈴? わぁ、久しぶり! 元気してた?」
「その方こそ息災そうであるな」
「あはは……お財布は風邪ひきそうだけどね」
「ほぉ、それは大変じゃ。すぐに温めねばの?」
 それは扇で口元を隠したまま微笑む蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)だった。
「所で人を募っておると聞いたぞ?」
「え? うん、そうだけど……どうして知ってるの?」
「イルムらが、オフィスで大々的に宣伝しよるからの」
「えぇっ!?」
「ふふ、折角じゃから妾からも一人紹介させてもらおうと思っての」
「えっ!? 本当に!?」
 身を乗り出すエミルに、蜜鈴は遠くで佇む人影に手招きした。
「船乗りとしての腕は妾が保証しよう。なりは……まぁ、少し独特ではあるが悪い奴でない」
 少し困ったように呟いた蜜鈴の隣には、大柄の女性が――。
「あれ、貴女は昨日の……?」
「なんじゃ、顔見知りか? まぁよい。静月や、お主を推薦したいのじゃが、どうじゃろう? エミルはまだ駆け出しではあるが、なかなか見所の――」
「謹んでお受けします」
「……ふむ、即断とは。慎重なお主にしては珍しいの」
「この子が気に入った船ですから、断る理由などありません」
「猫の……? 相変わらずよくわからん基準で判断しよる」
 首をかしげる蜜鈴を他所に、淡く微笑む静月はエミルに向き直り――。
「船主殿、私の名は静月。非才な身でありますが貴女の力となりたい。同船を許していただけますか?」
大きな手を差し出した。

●翌日
「型は少し古いけど、とてもいい船ですねっ」
 桟橋の突端に立ち、船を見上げる少女がエミルにとびっきりの笑顔を向けた。
「あ、まずは挨拶! わたしはソフィア =リリィホルム(ka2383)。ハンターやってますっ!」
「え? ハンターさん?」
「オフィスで聞いたんですけど、こちらで船員を募集してるんですよね? 実は人を一人雇ってもらえないかなーと思いまして――」
「えっ!? ほんとにっ!?」
 ソフィアの申し出にエミルは思わず椅子から立ち上がった。
「えっと、名前はブロル。魔導エンジン技師で船の修理なんかもやってるんです! ……って、あれ、どこいったアイツ」
 連れてきたはずの人影が隣になく、きょろきょろとあたりを見渡すソフィア。
「あ、居た。ちょっと呼んできますね!」
 船を見上げる巨漢がそれなのか。駆け寄ったソフィアが、二三声をかけると巨漢は肩を丸め彼女についてきた。
「お待たせしましたっ! この人がブロル。職人気質で頑固なところが玉に瑕なんですけど、腕はわたしが保証しますっ! 実は、結構有名どころの工房で仕事してたんですけど、上役と反りが合わなくて。結局、その上役を殴り飛ばして工房抜けちゃったんですよ?」
「……姉さん、そんなキャラでした――」

 メキッ。

「んぐっ!?」
「ほんと、お間抜けさんですよね」
 くすくすと少女らしく笑うソフィアとは対照的に、ブロルの表情は硬い、というか固まっている。
「え、えっと、そんな立派な人がうちなんかで働いてもらえるの……? お給金、そんなに出せないんだけど」
「……正直言うと、問題起こして工房抜けるような人、他の工房じゃ雇ってもらえないんです。意外と狭い業界なので噂も……ね」
「う、うん……」
 巨躯、強面、潮に焼かれた声。まるでどこぞの海賊かと思わせる容姿に、流石のエミルも及び腰。
「もし何かしでかしたら、海に放り投げてくれていいですから! ほら、貴方からも頼む!」
「あ、ああ、よろしく頼む」
 ソフィアに背中をどんと叩かれ、ブロルも頭を下げた。
「……それにしても、いい船だ。造り手の意思を感じる」
 顔を上げたブロルの視線は、そのまま船へと注がれる。
「あはは……60年前のオンボロだけどね」
「良し悪しに新旧は関係ない。なぁ、この改修作業、俺も参加させてもらっていいか?」
「え? いいの? まだお給金の話とか何もしてないのに」
「そんなものは腕を見てから決めてくれればいい」
 とだけ言い残し、ブロルはさっさと足場を登っていった。

●酒場
「しっかし、この時間だってのに客が居ねぇな」
 閑古鳥が鳴く店を見渡しギャリー・ハッシュベルト(ka6749)はエールをあおる。
「文句があるなら帰ってください」
「あー、エールがうまい!」
「まったく、この酔っぱらいは……」
 対する店の主グレンは、唯一の客にエールの追加を運んできた。
「もうちょっと客受けするもんでも出せばマシだろうに」
「食というのはただ口に入り、胃を満たせばいいというものではないんです。貴方も医者の端くれなら、それくらい理解していると思っていましたが」
「ヘイヘイ、わるぅござんした」
 そう言って追加のエールをあおったギャリーは、厨房に戻ろうと背を向けたグレンに声をかける。
「……なぁ、グレン。海に戻る気はねぇのか?」
「……」
「あれは不幸な事故だったんだ。誰のせいでもねぇ。だからお前が責任を感じて――」
「エールのお代りを持ってきますね」
 話はここまでだと、空になったジョッキを下げようとした、その時。酒場のドアがノックされた。

●酒場
「ニニニ、ニコレット=ブーランジュ、ッス! お、女っス!」
「ニコ、君の様な可憐な少女を男と間違う輩はいないさ。さぁ、緊張しないでゆっくりと――はい、深呼吸して」
 カチコチに緊張するニコの背をイルムが優しく撫でる。
「で、でもイルムさん、ベテランっぽい方ばかりで自分浮いてないっスか!?」
「何を言っているんだいニコ。きみのその目、天空を掛ける大翼の意思が乗り移ったかのような見事な鳶色の瞳に見通せないものなんて何もだいだろう? 自分の能力に自信を持つんだよ」
「うぅ……はいっス!」
 深々と腰を折ったニコに続き、タラサが友人の紹介に立ち上がった。
「こいつの名はロイ。まだ19と若いが、これでも舵を握って10年だ」
「よろしく頼む」
 タラサにロイと呼ばれた青年が無表情に軽く会釈する。
「それから、ロイが船に乗る条件だが――」
「え? 条件? お金はあんまり……」
 条件反射でどもるエミルに、タラサは微笑みかける。
「心配するなエミル。金じゃない。船に乗るついでに出来ることだよ」
「ついでに?」
「ああ、こいつは人を探している。――父親だ」
「え? 生き別れた……とか?」
「残念だけど、美談じゃない。理由は――これは私から言うことじゃないか。そのうち本人に聞いてくれ」
「ふん、ただぶん殴りたいだけだ」
「だ、そうだ」
 それだけ言って口を閉ざしたロイに、タラサは苦笑交じりに肩を竦めた。

 紹介された二人に続いて、レイア、静月、ブロルと自己紹介は進み、いよいよ結成式を始めようかとした、その時。
「ちょっといいか? 話が聞こえたんだが、あんた船を出すんだって?」
 声をかけてきたのはギャリーだった。
「なぁ、あんたの船に料理番はいらねぇか?」
「え?」
「あら、いいわネ。食事は健康の基礎。船上だろうと疎かにはできないワ。管理できる人が参加するのは大歓迎ヨ」
「そうなんだ。そういうことなら」
「お、話の分かる嬢ちゃんは好きだぜ」
 そう言ってエミルに不器用なウインクをかましたギャリーは、ぱちんと指を鳴らした。
「はい、ご注文ですか?」
「おう。料理人を一人頼むわ」
「……冷やかしなら他所で――」
「嬢ちゃん、こいつだ。名はグレン。ずっと船上で腕を振るってきた」
「え? ここのマスターじゃ……お店はどうするの……?」
「こんな流行らねえ店は即刻閉店だ」
「ちょ、ちょっと何の話ですか……!」
 一方的な話の流れに怒るグレイの肩に手を回しギャリーは囁く。
「――あいつらの魂は陸にはねぇ。本当に弔いたなら海に出ろ。きっとあいつらも海の底でそれを望んでる」
「……っ!」
「ど、どうかした?」
「ん? なんでもねぇ。つぅわけで、よろしく頼むわ」
「う、うん……でも、本当にいいの?」
「…………はぁ。お節介な友人を持つと苦労しますね」
「腰の重い友人を持つのも一苦労だがな」
「船主殿。船上で培った食の腕、貴女の船で振るわせてはもらえないでしょうか?」
「うん! もちろん、ありがとう!」
 けらけらと笑うギャリーを横目に、グレイはエミルに深く首をたれた。

 奇妙な縁が繋がった――決起集会だと始めた宴は夜遅くまで続き、皆で沢山の話しをした。
 ニコが早速いじられ役に大抜擢されたり、ロイが見事なカードタワーを披露したり、レイアがリットの盃にこっそり何か混ぜたり、静月が人猫一体の不思議な占術を見せたり、ブロルが今後の為と商会紋の雛形をサクッと作ってみたり、グレンが店の在庫の一斉処分を始めたり――。
 始めはどこか他人行儀だった者達も一夜ですっかりと打ち解ける。
 そして、ついには朝を迎え――

「皆、本当にありがと……これから、よろしくお願いします――」

 朝日が店に差し込む中、机に突っ伏したエミルの寝言が静かになった店に流れて消えた。

依頼結果

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MVP一覧

  • 誓いの隻眼
    タラサ=ドラッフェka5001
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレka5113

重体一覧

参加者一覧

  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • Lady Rose
    ロス・バーミリオン(ka4718
    人間(蒼)|32才|男性|舞刀士
  • 誓いの隻眼
    タラサ=ドラッフェ(ka5001
    人間(紅)|23才|女性|闘狩人
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

  • ギャリー・ハッシュベルト(ka6749
    人間(蒼)|48才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/17 00:19:36
アイコン 人物紹介卓(NPC設定卓)
エミルタニア=ケラー(kz0201
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/05/22 22:49:07
アイコン 船員を探して(相談・雑談卓)
イルム=ローレ・エーレ(ka5113
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/05/21 20:35:01