ゲスト
(ka0000)
蟹雑魔撃退戦
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/05/25 07:30
- 完成日
- 2017/05/29 03:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある港町
その漁師は上機嫌だった。すっかり白くなりつつある顎髭を摩り、潮風に乗って青空まで届けてとばかりに鼻歌を歌う。
長年の漁師生活で鍛えられた腕は年齢を感じさせないほど若々しく、網を引くたびに筋肉が盛り上がる。
「船長、鼻歌も捗りますね」
「おうよ。これだけの豊漁、滅多にねえぞ。ガッハッハ!」
蟹漁をして生計を立てている男が船に引き上げた網には、獲物の蟹が大量に捕獲されていた。
儲けを頭の中で数え、妻や同居中の娘夫婦、それに孫に何を買ってやろうかと顔が緩む。
あとは村に帰るだけ。いつもと同じで何も変わらないはずだった。
「ん……せ、船長っ! 何か来ます!」
「あン? 何かって言われてわかるわけ……な、何だァ!?」
それは巨大な蟹だった。網など平気で引き千切りそうな鋏をカシャカシャ鳴らし、船の上に乗ってくる。
「ま、真っ黒だ……お、美味しそうに見えませんね……」
「そんなこと言ってる場合か! とにかくそいつを海に落とせっ」
船にあるものを手当たり次第に投げ、蛇行運転を繰り返し、ようやく巨大な黒蟹を振り落とすのに成功する。だが、その際にせっかくの成果も海に落としてしまった。
「くそっ!」
ドンと船べりを叩き、砕けそうなほどに船長は奥歯を噛む。
「し、仕方ないですよ。勿体なかったですけど、命の方が大切ですし」
「ああ……ああ! そうだな……わかってる。だがあの得体の知れない蟹どもは何だったんだ」
「俺がわかるわけないですよ。次の漁までにはいなくなってくれてるといいんですけど」
「それを期待するしかねえな」
しかし船長と船員の願いは無残に裏切られる。この翌日、二人の住む村を黒い巨大蟹の大群が襲ったのである。
●ハンターズソサエティ支部
受付の男性が一つの依頼をハンターに提示する。
「とある漁村に雑魔と思われる不気味な蟹が出現したとのことです。村人の攻撃に多少とはいえ怯み、船から振り落とされたくらいですので、戦闘能力自体は大したことがないと思われます」
村が襲われた際にも、鋏を使って多くの家が壊されはしたが、避難する村人に遠くから危害を加えてはこなかったらしい。被害が出たのは逃げ遅れて蟹雑魔の接近を許した村人に限定されるという。
「問題の蟹雑魔はその漁村に居座っており、他の村に退避中の住人が戻れずにいます。依頼では可能な限り撃退を急いでほしいとのことです。よろしくお願いします」
その漁師は上機嫌だった。すっかり白くなりつつある顎髭を摩り、潮風に乗って青空まで届けてとばかりに鼻歌を歌う。
長年の漁師生活で鍛えられた腕は年齢を感じさせないほど若々しく、網を引くたびに筋肉が盛り上がる。
「船長、鼻歌も捗りますね」
「おうよ。これだけの豊漁、滅多にねえぞ。ガッハッハ!」
蟹漁をして生計を立てている男が船に引き上げた網には、獲物の蟹が大量に捕獲されていた。
儲けを頭の中で数え、妻や同居中の娘夫婦、それに孫に何を買ってやろうかと顔が緩む。
あとは村に帰るだけ。いつもと同じで何も変わらないはずだった。
「ん……せ、船長っ! 何か来ます!」
「あン? 何かって言われてわかるわけ……な、何だァ!?」
それは巨大な蟹だった。網など平気で引き千切りそうな鋏をカシャカシャ鳴らし、船の上に乗ってくる。
「ま、真っ黒だ……お、美味しそうに見えませんね……」
「そんなこと言ってる場合か! とにかくそいつを海に落とせっ」
船にあるものを手当たり次第に投げ、蛇行運転を繰り返し、ようやく巨大な黒蟹を振り落とすのに成功する。だが、その際にせっかくの成果も海に落としてしまった。
「くそっ!」
ドンと船べりを叩き、砕けそうなほどに船長は奥歯を噛む。
「し、仕方ないですよ。勿体なかったですけど、命の方が大切ですし」
「ああ……ああ! そうだな……わかってる。だがあの得体の知れない蟹どもは何だったんだ」
「俺がわかるわけないですよ。次の漁までにはいなくなってくれてるといいんですけど」
「それを期待するしかねえな」
しかし船長と船員の願いは無残に裏切られる。この翌日、二人の住む村を黒い巨大蟹の大群が襲ったのである。
●ハンターズソサエティ支部
受付の男性が一つの依頼をハンターに提示する。
「とある漁村に雑魔と思われる不気味な蟹が出現したとのことです。村人の攻撃に多少とはいえ怯み、船から振り落とされたくらいですので、戦闘能力自体は大したことがないと思われます」
村が襲われた際にも、鋏を使って多くの家が壊されはしたが、避難する村人に遠くから危害を加えてはこなかったらしい。被害が出たのは逃げ遅れて蟹雑魔の接近を許した村人に限定されるという。
「問題の蟹雑魔はその漁村に居座っており、他の村に退避中の住人が戻れずにいます。依頼では可能な限り撃退を急いでほしいとのことです。よろしくお願いします」
リプレイ本文
●襲撃の蟹雑魔
本来はのどかなはずの漁村に、巨大な黒蟹のハサミの音が不気味に響く。そのせいか潮風はどことなく生温く、肌にまとわりつくのが気持ち悪かった。
蟹雑魔の背後、どこまでも広がるような海を眺め、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は物憂げな表情を浮かべた。
「海……海か。いつか彼と一緒に海に……いや無理ね。水着なんか恥ずかしくて着れやしないわ」
彼の為にダイエットをしているアルスレーテ。ため息に乙女心を乗せて首を小さく左右に振る。けれどもすぐに気を取り直す。
「ま、ダイエットついでには丁度いいくらいの相手でしょう。私はダイエットになってお小遣いも貰える。漁村の人たちは邪魔な雑魔がいなくなる。うーん、win-win」
戦闘に際し、集中力を高めるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。隅を塗ったように黒々とした大きな蟹達を見て、微かに眉を顰める。
「蟹か。……色があんまり美味そうじゃあないな。という冗談は置いておいて、家とかも壊しているようだしな。長らく占拠されていると村人も困るだろう。さくっと排除させてもらおうか」
「……カニだァァ……?」
じっくり敵を観察するのは万歳丸(ka5665)だ。不思議そうに両目をパチクリさせる万歳丸は蟹を知らなかった。なにせ海を初めて見たのもハンターになってからなのである。
――蟹、とは、何だ? うお、横に歩きやがった。他の連中は蟹と聞いて、食うのを想像してたみてェだが……。
「だが鋭そうなハサミに硬そうな甲羅。美味そうにゃァ見えねェが……面白そうじゃねェか……!」
相手にとって不足なしと燃える万歳丸。そしてやる気を漲らせているのは、リューリ・ハルマ(ka0502)もだった。
「村の人が早く家に帰れるように、蟹は全力でぐーぱんち」
仕草や口調は可愛らしいが、両手に構える巨大な斧は敵にとってひたすら凶悪である。それを軽々と持ち上げ、事も無げにリューリは言う。
「家を壊したら村の人が困るだろうし、そこらへんは気を付けないとね」
レルム=ナスバオム(ka3987)は気怠そうに蟹を眺めていた。彼女はオフィスでふと依頼を見つけ、内容と参加メンバーを知って請けたのだった。
「……依頼の説明通りなら……この敵に、メンバー……なにもしなくて、いい、くらいだし……楽?」
小首を傾げるレルム。とにかく面倒くさがりで、あまり積極的にやる気を発しない。今回も極力動かないで済むようにしようとしていた。
「……いっそ……横になってみる……」
本当にしかねない雰囲気を察したラン・ヴィンダールヴ(ka0109)が、まあまあと声をかける。
「上手く倒せれば、美味しい蟹料理にありつけるかもしれないよ」
言ってから、ほんの少しだけランは笑顔にぎこちなさを加える。
「あの蟹だと、珍味と言ったら珍味が怒るような独特な味かもしれないけどね」
「それだともはや毒っぽい気もするね」
苦笑するアルトの前方では、ハサミを鳴らし続ける巨大蟹が赤い目を不気味に光らせていた。
●戦闘開始
「最初はあの蟹をぐーぱんちするよ!」
高い俊敏性を活かし、リューリは左側手前にいる黒蟹との距離を詰める。長大であるがゆえに離れた敵にも届くギガースアックスの射程に捉えると、正面から仕掛けるふりをして横に回り、虚を突かれた敵の足の関節を狙う。
「あまり強くなさそうだけど、海に逃げられたら厄介だからね。油断せずに全力で行くよ」
放ったワイルドラッシュの一撃目で狙い通りに関節を破壊し、ひっくり返った敵が体勢を戻す前に素早くとどめを刺す。見立て通りにさほど強くなかった黒蟹は、ほとんど何もできないまま絶命した。
■
「行き掛けの駄賃だ。遠慮せずに食らっておけ」
飛花を使い、加速するアルトが紅糸を飛ばす。
紅死とも呼ばれている鋼糸が右側の黒蟹に命中する。背部に食らってグラつく敵を軽く蹴りつけ、踏み台みたいにしてアルトはさらに右奥の標的を目指した。
自身が狙われてると知った黒蟹は対抗しようと慌ててハサミを出すが、紅糸を使って距離を詰めるアルトは難なく回避する。
「わざわざ甲殻類の蟹相手に、無理をして硬いところを狙う必要もない」
紅糸の直撃だけでも雑魔は瀕死に近かったが、武器を持ち直したアルトの連撃は関節部をきっちり破壊し、万が一の事態を招かないようにする。
「海の中に逃げられるのだけは気を付けないと。海中戦と地上戦では勝手が違いすぎるからな」
連撃を見舞われて泡を吹く蟹雑魔の最期を確認してから、アルトは次の獲物を探す。
■
殺されてなるものかと、瀕死の蟹が暴れる。しかしながらアルスレーテは、縮地瞬動により苦も無く敵の間合いへ入り込む。首を斬ろうとするハサミに素早く鉄扇を入れ、横から縦にして閉じられないようにしてから蹴りを放ってバランスを崩させる。
「抵抗しないでいてくれると手間が減ってありがたいんだけど、そうもいかないわよね」
鉄扇を抜くと同時に、聖拳プロミネント・グリムによる朱雀連武を叩き込む。敵腹部に命中した初撃。それが黒蟹にとっての致命傷となった。
「攻撃の時は腰の回転を特に意識しないと。ウエストのお肉はつきやすいくせに、落ちるのは最後とかふざけてるわよね」
■
リューリが倒した敵のいた地点を抜け、民家の裏側で隠れるようにしていた一体をランが狙う。振るわれる龍槍の動きに翻弄される黒蟹に仕掛けるのはワイルドラッシュだ。
しっかりと射程に収めてはいたが、懸命に足を動かす蟹にかろうじてではあるが回避されてしまう。
「器用に初撃をかわしたみたいだけど、まだ終わりじゃないよ」
即座の二撃目が雑魔の背中を捉え、容易く串刺しにする。ランが槍を引き抜いた時にはもう息絶えており、これで残る巨大蟹は二体となった。
■
全力で中央奥の黒蟹に突撃するのは万歳丸だ。
「ブチ抜いてやらァ……!!!」
根拠はまったくないが、本当にブチ抜けるという強い自信を持った万歳丸の疾風打。牽制気味であっても生命力に秀でているわけでもない敵には、十分な一撃となる。
……はずであったが、なんと黒蟹は後方へジグザグと斜めに動いて万歳丸の攻撃を回避してしまう。
「力勝負を望んでいると見せかけ、あえてオレを懐を招き、そこからの回避か。なかなかの策士ぶりだ。いいぜ。オレの好敵手と認めてやるっ!」
だが万歳丸の放った疾風打の威力に怯えた蟹は、立ち向かうよりも逃げようとする。
「あ、こら! 逃げんじゃねェ!」
「……面倒、くさい……」
せめて動く素振りは見せておかないとと、味方の動き出しを待っていたレルム。積極性は見当たらないといえど、依頼の失敗を願うわけではない。万歳丸の攻撃を回避した蟹が海へ入らないようにするべく、全速力で逃走経路へ回り込む。
「……あっち、行って……」
挟撃される形になった黒蟹は半ばヤケクソになって、後方のレルムではなく正面の万歳丸にハサミを繰り出す。
その万歳丸はハサミに対して逃げずに、気合の咆哮とともに拳を突き出した。
「チョキにはグーとくりゃァ、ハサミにゃァ拳に決まってンだろ。先に出した時点で、てめェの負けよォ!」
「……ジャンケンと戦闘は違うと思う……」
「こまけェこたァ気にすンなァ!」
「……そうする……面倒だし……」
レルムに応じつつも、万歳丸の一撃は黒蟹のハサミを破壊。ギョッとする敵に、今度は背後からレルムが強撃を放つ。
「……面倒だけど……蟹は逃がせない……」
足を狙い、蟹を転倒させたレルムはとどめを万歳丸に任せて退避する。
「……とどめに巻き込まれるのも痛いのも面倒だし、離れておこう……」
なおも蟹はもがいて逃げようとするも、万歳丸が黄金掌《蒼麒麟》で仕留める。
残った一体は完全に逃走モードへ入るものの、縮地瞬動で立ちふさがったアルスレーテが急所に朱雀連武を見舞って勝敗は完全に決した。
●海の主?
「雑魔になってまだ日が浅かったみたいだね。体が残ってるのがいるけど……これ、誰か毒見する?」
アルトの問いかけに対し、果敢に立候補する者はいなかった。
「いやー、どうなんだろうねー? あははは」
乾いた笑い声を響かせるランの足元、倒した蟹は巨大なだけに身がギッシリ詰まっていたが、あろうことかその身は外見同様に真っ黒だったのである。とても食せるようには見えないほど、禍々しさが全開だ。
「焼いたり煮たりすりゃァ、意外とイケンじゃねえェのかァ?」
顎に手を当てて黒い肉を眺める万歳丸の言葉に、リューリが真っ先に首を左右に振った。
「ギルドでお店をやってる私が断言するよ。このお肉はやめておくべきだとね」
「ある意味、強制的で悲惨なダイエットになりそうだしね」
同意したアルスレーテに続き、仲間のやりとりを黙って眺めていたレルムも気怠そうだが嫌々と首を動かした。
どうするか悩んでいるうちに、戦闘の音が止んだのを受けて避難していた住民が村へと戻ってくる。ひとしきり喜んだあと、何を悩んでるのかハンターに尋ね、任せろとばかりに最初に巨大蟹に遭遇した船長が分厚い胸板を叩いたのだった。
■
蟹を食べたいなら獲ればいい。そう言った船長の船に、ハンター達は揃って乗っていた。とりわけ釣りをしたがった万歳丸が積極的に同行したがった。
漁場に到着し底網漁で船長が蟹を獲る間、ハンター達は船にあった竿を借りて釣りを楽しむことになった。その竿にテキパキとアルスレーテが仕掛けを作っていく。様子を見ていた船長が手際の良さに目を細めた。
「ほお。なかなか上手いもんだ」
「趣味レベルでしかないけど、褒められて悪い気はしないわね」
応じるアルスレーテから離れること少し、シートを敷いた甲板でレルムが眠たげに目を擦る。
「……お日様、気持ちいい……」
そう呟いたかと思ったら、釣り竿にはさして興味を示さないまま横になった。絶好の好天にお昼寝をしないのは勿体ないと言わんばかりに。
他のハンターは各々で釣りを楽しむ。親友であるリューリとアルトは互いに並んで、釣り竿に獲物がかかるのを待っていた。
「船上での釣りってあんまり経験がないよね。アルトちゃんは?」
「ボクもあんまりだね。料理の方はスキルもそれなりにあるんだけど」
船長お勧めの漁場というのもあり、豊漁とはいかずとも釣りの楽しみを味わえるくらいには魚がかかる。戦闘とは違う手応えに最初のうちは悪戦苦闘しつつも、慣れてくると簡単に引き上げられるようになる。
万歳丸もそのうちの一人だった。
「いやー、川で魚を獲ったことはあるが、糸を垂らしたり、網を仕掛けたりってのは初めてだぜ。たまんねェなァ」
大はしゃぎで船内を見て回っていると、いまだ釣果の乏しいアルスレーテを発見する。からかうわけではなく意外だという顔をすると、気づいたアルスレーテは不敵な笑みを返した。
「いつの時代も主役は最後と相場が決まってるのよ。見てなさい。すぐに大物を釣ってあげるわ」
言うが早いか、船のすぐ下で揺らめく巨大な影。それは明らかにアルスレーテの竿をしならせる糸に繋がっていた。
「大物……すぎはしないかな……」
さすがに驚きを露わにしたランの呟きが終わる前に、アルスレーテの全身が竿ごと持っていかれそうになる。
騒ぎで目を覚ましたレルムも、仕方なしではあるが他の仲間とともにアルスレーテを支える。
「……海の主でも、釣ったの……?」
三メートルはありそうな体躯。海を職場にする船長ですら目を丸くする怪物である。
「こうなりゃァ、男の生き様ァ、見せてやらァ!」
人目を気にせずパンツ一丁になった万歳丸が、躊躇なく海へダイブする。探す必要もない巨大魚にしがみつき、あろうことか海中で格闘し始める。
「……万歳丸、食べられない ……?」
「あの巨体にひと呑みにされたら、さすがにマズイよ。皆、急いで引き上げよう!」
レルムの呟きを受けてリューリが叫び、竿を持つアルスレーテを中心に力を合わせる。
海水に妨害されて腕力は弱まるものの、巨大とはいえ魚。執拗な万歳丸の攻撃の影響もあって、徐々に抵抗が弱まる。
そしてついに、格闘の果てにハンターたちはスズキに似た三メートルを超えようかという巨大魚を釣り上げる。
「獲ったどォォォァア!」
巨大魚の背に立ち、船上へ帰還した万歳丸の笑顔は誰よりも輝いていた。
■
アルスレーテが用意していた試作型貯水石から鉄人の鍋へ綺麗な水を注ぎ、ランから着火の指輪を借りて火をつける。大包丁の切っ先を向けるのは、帰還したばかりの村の船着き場にデデンと横になっている巨大魚だ。
一方でまたしても豊漁だった蟹はリューリやアルトが中心になって鍋などのメニューを調理していく。
「料理なら少しは自信あるよ。蟹鍋も魚の煮つけとかも美味しそうだよね」
リューリの言葉にアルトが満面の笑みを浮かべる。
「涎が出そうだよ。ボクも手伝うね。リューリちゃんと一緒の料理は楽しいし!」
わいわいと盛り上がるうちに村人達も集まってきて、調味料などを借りる。徐々に美味しそうなにおいが周囲に広がりだした。
■
「これが蟹か。へェ。うめェのか。はー。ほー」
関心するように言って、万歳丸は手を合わせて茹でた蟹を豪快に殻ごと噛む。
「むっ、こりゃァ……! 歯ごたえの向こうに香り高い……プリプリの身が……!」
「……殻ごと……あれだと……でも、やっぱり面倒……」
ガツガツと食べる万歳丸を眺めるレルムの口元に、ランの手が伸びてくる。
「はい、レルムちゃん、あーん」
「……熱く、ない……?」
「大丈夫だよ」
武器とかを外すのを面倒がっていたレルムだが、素直にあーんと口を開いた。食べさせてもらった蟹をゆっくりと噛む。
「ん……美味しい……ありがと……」
どういたしましてと答えるランから少し離れ、リューリとアルトも蟹や魚を頬張る。
「うん。なかなかの味付けになったね。これもアルトちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」
「そんなことないよ。リューリちゃんの力だよ。手際も凄いよかったし、さすがだよね」
もちろんアルスレーテさんも、と視線を向けられた当の本人も蟹の身を堪能していた。
「この蟹のタイプなら一杯およそ207キロカロリー。味もいいし、ダイエットの味方よね。こっちの魚もあまりカロリーは高くなさそうだし」
確かにとリューリが頷く。
「でも、だからこそ食べすぎには気を付けないとね」
「……ま、まあ、動いた徳碁だからお腹空くし……さほど気にしなくても大丈夫よ。……多分……」
自分に言い聞かせるように話しつつ。アルスレーテは新たな蟹に手を伸ばすのだった。
■
蟹や魚料理で英気を養ったハンター達はその後、村の修繕を手伝った。
村人たちはハンターの強さと優しさに心から感謝し、その夜はアルスレーテが釣った巨大魚の残りを村人も加わって食べ、遅くまで村には明かりが灯っていたという。
本来はのどかなはずの漁村に、巨大な黒蟹のハサミの音が不気味に響く。そのせいか潮風はどことなく生温く、肌にまとわりつくのが気持ち悪かった。
蟹雑魔の背後、どこまでも広がるような海を眺め、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は物憂げな表情を浮かべた。
「海……海か。いつか彼と一緒に海に……いや無理ね。水着なんか恥ずかしくて着れやしないわ」
彼の為にダイエットをしているアルスレーテ。ため息に乙女心を乗せて首を小さく左右に振る。けれどもすぐに気を取り直す。
「ま、ダイエットついでには丁度いいくらいの相手でしょう。私はダイエットになってお小遣いも貰える。漁村の人たちは邪魔な雑魔がいなくなる。うーん、win-win」
戦闘に際し、集中力を高めるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。隅を塗ったように黒々とした大きな蟹達を見て、微かに眉を顰める。
「蟹か。……色があんまり美味そうじゃあないな。という冗談は置いておいて、家とかも壊しているようだしな。長らく占拠されていると村人も困るだろう。さくっと排除させてもらおうか」
「……カニだァァ……?」
じっくり敵を観察するのは万歳丸(ka5665)だ。不思議そうに両目をパチクリさせる万歳丸は蟹を知らなかった。なにせ海を初めて見たのもハンターになってからなのである。
――蟹、とは、何だ? うお、横に歩きやがった。他の連中は蟹と聞いて、食うのを想像してたみてェだが……。
「だが鋭そうなハサミに硬そうな甲羅。美味そうにゃァ見えねェが……面白そうじゃねェか……!」
相手にとって不足なしと燃える万歳丸。そしてやる気を漲らせているのは、リューリ・ハルマ(ka0502)もだった。
「村の人が早く家に帰れるように、蟹は全力でぐーぱんち」
仕草や口調は可愛らしいが、両手に構える巨大な斧は敵にとってひたすら凶悪である。それを軽々と持ち上げ、事も無げにリューリは言う。
「家を壊したら村の人が困るだろうし、そこらへんは気を付けないとね」
レルム=ナスバオム(ka3987)は気怠そうに蟹を眺めていた。彼女はオフィスでふと依頼を見つけ、内容と参加メンバーを知って請けたのだった。
「……依頼の説明通りなら……この敵に、メンバー……なにもしなくて、いい、くらいだし……楽?」
小首を傾げるレルム。とにかく面倒くさがりで、あまり積極的にやる気を発しない。今回も極力動かないで済むようにしようとしていた。
「……いっそ……横になってみる……」
本当にしかねない雰囲気を察したラン・ヴィンダールヴ(ka0109)が、まあまあと声をかける。
「上手く倒せれば、美味しい蟹料理にありつけるかもしれないよ」
言ってから、ほんの少しだけランは笑顔にぎこちなさを加える。
「あの蟹だと、珍味と言ったら珍味が怒るような独特な味かもしれないけどね」
「それだともはや毒っぽい気もするね」
苦笑するアルトの前方では、ハサミを鳴らし続ける巨大蟹が赤い目を不気味に光らせていた。
●戦闘開始
「最初はあの蟹をぐーぱんちするよ!」
高い俊敏性を活かし、リューリは左側手前にいる黒蟹との距離を詰める。長大であるがゆえに離れた敵にも届くギガースアックスの射程に捉えると、正面から仕掛けるふりをして横に回り、虚を突かれた敵の足の関節を狙う。
「あまり強くなさそうだけど、海に逃げられたら厄介だからね。油断せずに全力で行くよ」
放ったワイルドラッシュの一撃目で狙い通りに関節を破壊し、ひっくり返った敵が体勢を戻す前に素早くとどめを刺す。見立て通りにさほど強くなかった黒蟹は、ほとんど何もできないまま絶命した。
■
「行き掛けの駄賃だ。遠慮せずに食らっておけ」
飛花を使い、加速するアルトが紅糸を飛ばす。
紅死とも呼ばれている鋼糸が右側の黒蟹に命中する。背部に食らってグラつく敵を軽く蹴りつけ、踏み台みたいにしてアルトはさらに右奥の標的を目指した。
自身が狙われてると知った黒蟹は対抗しようと慌ててハサミを出すが、紅糸を使って距離を詰めるアルトは難なく回避する。
「わざわざ甲殻類の蟹相手に、無理をして硬いところを狙う必要もない」
紅糸の直撃だけでも雑魔は瀕死に近かったが、武器を持ち直したアルトの連撃は関節部をきっちり破壊し、万が一の事態を招かないようにする。
「海の中に逃げられるのだけは気を付けないと。海中戦と地上戦では勝手が違いすぎるからな」
連撃を見舞われて泡を吹く蟹雑魔の最期を確認してから、アルトは次の獲物を探す。
■
殺されてなるものかと、瀕死の蟹が暴れる。しかしながらアルスレーテは、縮地瞬動により苦も無く敵の間合いへ入り込む。首を斬ろうとするハサミに素早く鉄扇を入れ、横から縦にして閉じられないようにしてから蹴りを放ってバランスを崩させる。
「抵抗しないでいてくれると手間が減ってありがたいんだけど、そうもいかないわよね」
鉄扇を抜くと同時に、聖拳プロミネント・グリムによる朱雀連武を叩き込む。敵腹部に命中した初撃。それが黒蟹にとっての致命傷となった。
「攻撃の時は腰の回転を特に意識しないと。ウエストのお肉はつきやすいくせに、落ちるのは最後とかふざけてるわよね」
■
リューリが倒した敵のいた地点を抜け、民家の裏側で隠れるようにしていた一体をランが狙う。振るわれる龍槍の動きに翻弄される黒蟹に仕掛けるのはワイルドラッシュだ。
しっかりと射程に収めてはいたが、懸命に足を動かす蟹にかろうじてではあるが回避されてしまう。
「器用に初撃をかわしたみたいだけど、まだ終わりじゃないよ」
即座の二撃目が雑魔の背中を捉え、容易く串刺しにする。ランが槍を引き抜いた時にはもう息絶えており、これで残る巨大蟹は二体となった。
■
全力で中央奥の黒蟹に突撃するのは万歳丸だ。
「ブチ抜いてやらァ……!!!」
根拠はまったくないが、本当にブチ抜けるという強い自信を持った万歳丸の疾風打。牽制気味であっても生命力に秀でているわけでもない敵には、十分な一撃となる。
……はずであったが、なんと黒蟹は後方へジグザグと斜めに動いて万歳丸の攻撃を回避してしまう。
「力勝負を望んでいると見せかけ、あえてオレを懐を招き、そこからの回避か。なかなかの策士ぶりだ。いいぜ。オレの好敵手と認めてやるっ!」
だが万歳丸の放った疾風打の威力に怯えた蟹は、立ち向かうよりも逃げようとする。
「あ、こら! 逃げんじゃねェ!」
「……面倒、くさい……」
せめて動く素振りは見せておかないとと、味方の動き出しを待っていたレルム。積極性は見当たらないといえど、依頼の失敗を願うわけではない。万歳丸の攻撃を回避した蟹が海へ入らないようにするべく、全速力で逃走経路へ回り込む。
「……あっち、行って……」
挟撃される形になった黒蟹は半ばヤケクソになって、後方のレルムではなく正面の万歳丸にハサミを繰り出す。
その万歳丸はハサミに対して逃げずに、気合の咆哮とともに拳を突き出した。
「チョキにはグーとくりゃァ、ハサミにゃァ拳に決まってンだろ。先に出した時点で、てめェの負けよォ!」
「……ジャンケンと戦闘は違うと思う……」
「こまけェこたァ気にすンなァ!」
「……そうする……面倒だし……」
レルムに応じつつも、万歳丸の一撃は黒蟹のハサミを破壊。ギョッとする敵に、今度は背後からレルムが強撃を放つ。
「……面倒だけど……蟹は逃がせない……」
足を狙い、蟹を転倒させたレルムはとどめを万歳丸に任せて退避する。
「……とどめに巻き込まれるのも痛いのも面倒だし、離れておこう……」
なおも蟹はもがいて逃げようとするも、万歳丸が黄金掌《蒼麒麟》で仕留める。
残った一体は完全に逃走モードへ入るものの、縮地瞬動で立ちふさがったアルスレーテが急所に朱雀連武を見舞って勝敗は完全に決した。
●海の主?
「雑魔になってまだ日が浅かったみたいだね。体が残ってるのがいるけど……これ、誰か毒見する?」
アルトの問いかけに対し、果敢に立候補する者はいなかった。
「いやー、どうなんだろうねー? あははは」
乾いた笑い声を響かせるランの足元、倒した蟹は巨大なだけに身がギッシリ詰まっていたが、あろうことかその身は外見同様に真っ黒だったのである。とても食せるようには見えないほど、禍々しさが全開だ。
「焼いたり煮たりすりゃァ、意外とイケンじゃねえェのかァ?」
顎に手を当てて黒い肉を眺める万歳丸の言葉に、リューリが真っ先に首を左右に振った。
「ギルドでお店をやってる私が断言するよ。このお肉はやめておくべきだとね」
「ある意味、強制的で悲惨なダイエットになりそうだしね」
同意したアルスレーテに続き、仲間のやりとりを黙って眺めていたレルムも気怠そうだが嫌々と首を動かした。
どうするか悩んでいるうちに、戦闘の音が止んだのを受けて避難していた住民が村へと戻ってくる。ひとしきり喜んだあと、何を悩んでるのかハンターに尋ね、任せろとばかりに最初に巨大蟹に遭遇した船長が分厚い胸板を叩いたのだった。
■
蟹を食べたいなら獲ればいい。そう言った船長の船に、ハンター達は揃って乗っていた。とりわけ釣りをしたがった万歳丸が積極的に同行したがった。
漁場に到着し底網漁で船長が蟹を獲る間、ハンター達は船にあった竿を借りて釣りを楽しむことになった。その竿にテキパキとアルスレーテが仕掛けを作っていく。様子を見ていた船長が手際の良さに目を細めた。
「ほお。なかなか上手いもんだ」
「趣味レベルでしかないけど、褒められて悪い気はしないわね」
応じるアルスレーテから離れること少し、シートを敷いた甲板でレルムが眠たげに目を擦る。
「……お日様、気持ちいい……」
そう呟いたかと思ったら、釣り竿にはさして興味を示さないまま横になった。絶好の好天にお昼寝をしないのは勿体ないと言わんばかりに。
他のハンターは各々で釣りを楽しむ。親友であるリューリとアルトは互いに並んで、釣り竿に獲物がかかるのを待っていた。
「船上での釣りってあんまり経験がないよね。アルトちゃんは?」
「ボクもあんまりだね。料理の方はスキルもそれなりにあるんだけど」
船長お勧めの漁場というのもあり、豊漁とはいかずとも釣りの楽しみを味わえるくらいには魚がかかる。戦闘とは違う手応えに最初のうちは悪戦苦闘しつつも、慣れてくると簡単に引き上げられるようになる。
万歳丸もそのうちの一人だった。
「いやー、川で魚を獲ったことはあるが、糸を垂らしたり、網を仕掛けたりってのは初めてだぜ。たまんねェなァ」
大はしゃぎで船内を見て回っていると、いまだ釣果の乏しいアルスレーテを発見する。からかうわけではなく意外だという顔をすると、気づいたアルスレーテは不敵な笑みを返した。
「いつの時代も主役は最後と相場が決まってるのよ。見てなさい。すぐに大物を釣ってあげるわ」
言うが早いか、船のすぐ下で揺らめく巨大な影。それは明らかにアルスレーテの竿をしならせる糸に繋がっていた。
「大物……すぎはしないかな……」
さすがに驚きを露わにしたランの呟きが終わる前に、アルスレーテの全身が竿ごと持っていかれそうになる。
騒ぎで目を覚ましたレルムも、仕方なしではあるが他の仲間とともにアルスレーテを支える。
「……海の主でも、釣ったの……?」
三メートルはありそうな体躯。海を職場にする船長ですら目を丸くする怪物である。
「こうなりゃァ、男の生き様ァ、見せてやらァ!」
人目を気にせずパンツ一丁になった万歳丸が、躊躇なく海へダイブする。探す必要もない巨大魚にしがみつき、あろうことか海中で格闘し始める。
「……万歳丸、食べられない ……?」
「あの巨体にひと呑みにされたら、さすがにマズイよ。皆、急いで引き上げよう!」
レルムの呟きを受けてリューリが叫び、竿を持つアルスレーテを中心に力を合わせる。
海水に妨害されて腕力は弱まるものの、巨大とはいえ魚。執拗な万歳丸の攻撃の影響もあって、徐々に抵抗が弱まる。
そしてついに、格闘の果てにハンターたちはスズキに似た三メートルを超えようかという巨大魚を釣り上げる。
「獲ったどォォォァア!」
巨大魚の背に立ち、船上へ帰還した万歳丸の笑顔は誰よりも輝いていた。
■
アルスレーテが用意していた試作型貯水石から鉄人の鍋へ綺麗な水を注ぎ、ランから着火の指輪を借りて火をつける。大包丁の切っ先を向けるのは、帰還したばかりの村の船着き場にデデンと横になっている巨大魚だ。
一方でまたしても豊漁だった蟹はリューリやアルトが中心になって鍋などのメニューを調理していく。
「料理なら少しは自信あるよ。蟹鍋も魚の煮つけとかも美味しそうだよね」
リューリの言葉にアルトが満面の笑みを浮かべる。
「涎が出そうだよ。ボクも手伝うね。リューリちゃんと一緒の料理は楽しいし!」
わいわいと盛り上がるうちに村人達も集まってきて、調味料などを借りる。徐々に美味しそうなにおいが周囲に広がりだした。
■
「これが蟹か。へェ。うめェのか。はー。ほー」
関心するように言って、万歳丸は手を合わせて茹でた蟹を豪快に殻ごと噛む。
「むっ、こりゃァ……! 歯ごたえの向こうに香り高い……プリプリの身が……!」
「……殻ごと……あれだと……でも、やっぱり面倒……」
ガツガツと食べる万歳丸を眺めるレルムの口元に、ランの手が伸びてくる。
「はい、レルムちゃん、あーん」
「……熱く、ない……?」
「大丈夫だよ」
武器とかを外すのを面倒がっていたレルムだが、素直にあーんと口を開いた。食べさせてもらった蟹をゆっくりと噛む。
「ん……美味しい……ありがと……」
どういたしましてと答えるランから少し離れ、リューリとアルトも蟹や魚を頬張る。
「うん。なかなかの味付けになったね。これもアルトちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」
「そんなことないよ。リューリちゃんの力だよ。手際も凄いよかったし、さすがだよね」
もちろんアルスレーテさんも、と視線を向けられた当の本人も蟹の身を堪能していた。
「この蟹のタイプなら一杯およそ207キロカロリー。味もいいし、ダイエットの味方よね。こっちの魚もあまりカロリーは高くなさそうだし」
確かにとリューリが頷く。
「でも、だからこそ食べすぎには気を付けないとね」
「……ま、まあ、動いた徳碁だからお腹空くし……さほど気にしなくても大丈夫よ。……多分……」
自分に言い聞かせるように話しつつ。アルスレーテは新たな蟹に手を伸ばすのだった。
■
蟹や魚料理で英気を養ったハンター達はその後、村の修繕を手伝った。
村人たちはハンターの強さと優しさに心から感謝し、その夜はアルスレーテが釣った巨大魚の残りを村人も加わって食べ、遅くまで村には明かりが灯っていたという。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/24 01:05:06 |
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とれとれぴちぴち蟹料理(相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/05/25 00:20:30 |