ゲスト
(ka0000)
秋の野山で雑魔退治
マスター:貴島春介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/28 07:30
- 完成日
- 2014/11/06 20:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●雑魔の情報
広葉樹の木々が寒暖差で色づき、猟師をはじめとした近隣の村人たちが実りを求めて山林に分け入る季節。
林の中にいると、突然どこかから、めきめきと木を倒すような音がする。
茸や大木の樹皮、落下した実が大量に食い荒らされている。
ごふう、ごふう、という荒い鼻息を聞いた。あれは野生のイノシシじゃないだろうか。
村人たちは被害の様子を聞いて、そう判断した。しかし、あれはただのイノシシじゃない、と主張した目撃者がいた。
その姿は、よく山林で見かけるようなイノシシとは、姿が異なっていた。
まず、大きい。牙も体の大きさに合わせて大きく、また鋭いようだった。そしてその背中の所々に盛り上がった肉がこぶになっている。まるで元々の形が歪んでしまったような……
野生のイノシシが雑魔となり、凶暴化したのだ。
これ以上被害が深刻化したら、犠牲者が出るかも知れない。
雑魔を討伐してほしいと、ハンターズオフィスに依頼が舞い込んだ。
●依頼の内容
王国西部の丘陵地帯でイノシシ型の雑魔が発生しました。群れなどは作っておらず、大型のものが一頭のみ確認されています。
雑木林の中をねぐらにしており、猟や散策目的で林に分け入った近隣の村民から目撃情報が寄せられています。同時に枯れ木や若木を倒す、植樹を踏み荒らす、動植物の区別なく獲物を食い荒らすといった被害が発生しています。
この雑魔が山林の食料を食い荒らし、さらなる餌を求めて人里におりてきた場合、さらなる被害が予想されます。
討伐対象の雑魔は通常のイノシシより大きく特徴のある足跡を残しています。
雑木林に分け入り、足跡を追跡する事で、雑魔を発見する事ができるでしょう。
発見したのち、速やかに雑魔を討伐してください。
広葉樹の木々が寒暖差で色づき、猟師をはじめとした近隣の村人たちが実りを求めて山林に分け入る季節。
林の中にいると、突然どこかから、めきめきと木を倒すような音がする。
茸や大木の樹皮、落下した実が大量に食い荒らされている。
ごふう、ごふう、という荒い鼻息を聞いた。あれは野生のイノシシじゃないだろうか。
村人たちは被害の様子を聞いて、そう判断した。しかし、あれはただのイノシシじゃない、と主張した目撃者がいた。
その姿は、よく山林で見かけるようなイノシシとは、姿が異なっていた。
まず、大きい。牙も体の大きさに合わせて大きく、また鋭いようだった。そしてその背中の所々に盛り上がった肉がこぶになっている。まるで元々の形が歪んでしまったような……
野生のイノシシが雑魔となり、凶暴化したのだ。
これ以上被害が深刻化したら、犠牲者が出るかも知れない。
雑魔を討伐してほしいと、ハンターズオフィスに依頼が舞い込んだ。
●依頼の内容
王国西部の丘陵地帯でイノシシ型の雑魔が発生しました。群れなどは作っておらず、大型のものが一頭のみ確認されています。
雑木林の中をねぐらにしており、猟や散策目的で林に分け入った近隣の村民から目撃情報が寄せられています。同時に枯れ木や若木を倒す、植樹を踏み荒らす、動植物の区別なく獲物を食い荒らすといった被害が発生しています。
この雑魔が山林の食料を食い荒らし、さらなる餌を求めて人里におりてきた場合、さらなる被害が予想されます。
討伐対象の雑魔は通常のイノシシより大きく特徴のある足跡を残しています。
雑木林に分け入り、足跡を追跡する事で、雑魔を発見する事ができるでしょう。
発見したのち、速やかに雑魔を討伐してください。
リプレイ本文
ハンターたちは依頼した村人に案内され、イノシシ型雑魔が出没するという山へと分け入った。頭上に生い茂る木々は紅葉が始まり、果実を実らせたものもある。散策をするにはうってつけの秋の山だった。
「山を散策したい時期だなあと思っていたんだ。人助けとお金稼ぎできるから一石二鳥だ」
ドミノ・ウィル(ka0208)が得物のナックルをはめ直しながら言った。雑魔退治の後は秋の山をめいっぱい楽しむつもりらしい。
「イノシシかぁ。食べたいのう、牡丹鍋」
今回の討伐対象について、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がつぶやく。山の空気は冷たく、終わった後は温かい鍋でもつつきたい……と思わせずにはいられない。
「これはご馳走の予感です!」
ミネット・ベアール(ka3282)が目を輝かせて言う。ぐつぐつと煮える鍋の音、温かな湯気、食欲をそそる香り、そんなものを連想して思わず口元が緩んでしまう。狩猟部族に育ったミネットにとっては、獣肉料理は秋の風物詩だ。
「イノシシさんには早めにご退場いただいて、秋の味覚を堪能するとしましょうか……楽しみですね!」
「秋の味覚、最高だねぇ。首尾よく猪をササッと片付けちゃいたい所だねぇ」
リリティア・オルベール(ka3054)が言うと、壬生 義明(ka3397)が相槌を打つ。
「ちゃっちゃか終わらせて散策行くぞー。でも、何事も油断は禁物、それが師匠の教えだ」
ドミノはニッと不敵な笑みを浮かべ、仲間たちに向けてサムズアップした。
イグレーヌ・ランスター(ka3299)は終始無言で、淡々と雑魔の捜索を進めていた。
(雑魔だろうが、歪虚だろうが……、全て射殺す)
(歪虚化したモノに慈悲などない)
(慈悲があるとすれば、それは直ぐ楽にしてやることだけだ)
騎士団時代に教わった風下からの足跡追跡による探索方法を使い、隠密行動を心がけ、獣が通ることで出来る『獣道』を探す。幸い足下は柔らかい腐葉土や、乾いた落ち葉が敷き詰められている。これならば『獣道』も出来易く、分かり易いはずだ。
予想通り、何度も使われた形跡のある獣道を発見することができた。
「この感じだと、そう遠くはないか……?」
イグレーヌはぽつりとつぶやくと、更に獣道の奥へと歩みを進めた。
リリティアも同じく単独で足跡を追っていた。動きやすいようにと、今日の装備は軽装だった。森林迷彩のジャケットを羽織り、足下をブーツでしっかりと固めている。少しでも敵に発見される確率を減らせれば、と考えた結果だった。装備を変えたとしても譲れないバルーンハットから白い梟が顔を出す。
「くるっぽ、大きなイノシシさんだよ! わかるかな?」
くるっぽ、と白梟は鳴き、翼を広げると主人に先立って飛び立った。
「足跡から推測すると、かなりの大物ですね」
ミネットはじゅるり、とよだれが出てしまうのを抑えられない。
イノシシの生活範囲を探るため、ミネットとドミノは倒れた木を追うところから始めた。森に入って獲物を追う狩猟の知恵である。二つの大きな蹄と副蹄のある跡には特に注意する。地面を掘り返した跡や獣道をたどると、イノシシ型雑魔のものとおぼしき、普通の獣よりも大きな足がを見つかった。
「シカさんとよく似てますが、違うのはこの後ろ側の副蹄の跡なんです」
「へええ……ミネットは物知りだな」
生徒に教えるように説明するミネットに、素直に感心するドミノ。
「一人前のハンターになるためには、当然です!」
「覚醒者として一人前になるためには学習と努力は惜しんじゃいけない、ってな。それが師匠の教えだ」
ドミノがサムズアップを返すが、ミネットの言う『ハンター』像は、覚醒者のものとは、どこかズレているような……
二人がそのまま足跡を追うと、水場が近いのか地面がぬかるみ始めた。所々樹皮が剥がれた木々が立ち並び、足下のぬかるみが大きな円形にへこみ、泥水が溜まっている。落とし穴というには浅いし、自然の水たまりというには深い。
「なんだこりゃ?」
声を上げるドミノにミネットが得意顔で解説する。
「ぬた湯って言って、体のノミやダニなんかを落す為に泥を被るんです。人間で言うお風呂ですね! こ、これだけ大きいのは初めて見ましたけど……」
ミネットの言葉を遮るようにギシギシ、メキメキと生木を裂くような音が聞こえてきた。標的は近くにいる。
ドミノとミネットが雑魔の痕跡を発見した場所に、個別に足跡を探索していたレーヴェ、リリティアと壬生が合流した。
そこにバサバサという羽音。顔を上げた5人のもとに白い梟が羽ばたいてきた。リリティアが右腕を差し出すと滑るように飛び移ってきた。主人の元に帰ると安心したのか、くるるる、と鳴く。
「どうしたの、くるっぽ?」
リリティアは梟の頭をなでてやる。
すると、雑木林の藪を揺らす音も立てず、イグレーヌが姿を現した。
「こっちだ、敵を見つけた。雑魔はこちらに気づいていない。叩くなら今だ」
雑魔を見つけ、イグレーヌの体に冷たい闘志が宿っている、そんな声音だった。
「リリティアさんの梟さんは、本能的に危険を察知して戻ってきたようですね」
ミネットが白梟の様子を的確に読み取る。
「雑魔の居場所も判明したのう。さて、どう攻めるかの?」
愛用のライフルを担いだレーヴェが思案顔をする。
「ここは、俺が囮になろうと思うんだよねえ」
言ったのは壬生だった。
「猪相手に長柄物では戦いにくいからさ」
飄々とした口調で、危険な役割への志願を申し出る。
「ふむ……なら、仕込みが必要じゃな。皆の準備ができ次第倒すとしようか」
レーヴェは幼さの残る顔に不敵な笑みを見せた。
イノシシ型の雑魔は、真っ赤な実をたわわにつけた柿の木を倒し、悠然とその実を貪っていた。
ざくざくと落ち葉を派手に蹴立てる音がして、雑魔が音のする方を見やる。薙刀を構えた壬生が、大振りの攻撃で雑魔に切りかかった。
命中はしたものの固いこぶで覆われた外皮に阻まれ、効果的な一撃とはならなかったようだ。武器の効果的な間合いを計るため、壬生は少し距離を取る。
と、間髪入れずに雑魔が壬生を標的に突進する。一挙動で強力なバネのような加速を生み出し、2m近い巨体が突っ込んでくる。反射的に回避行動をとった壬生の右半身を巻き込み、吹き飛ばされる。雑魔は背後の大木へと頭から突っ込んだ。
少し頭を振ると、雑魔はさしたるダメージを受けた様子もなく吹き飛ばされた壬生の方へ向き直る。
「光あれ」
厳粛な言葉と共に、風を切って二筋の矢が雑魔の側面に突き立った。少し離れた風下からの、イグレーヌとミネットの正確無比な援護射撃だった。イグレーヌは雑魔をきっとにらみつけ、ミネットの表情も狩りをする狩猟者のものに変わっている。
雑魔が弓を射かけた者たちを確認しようと体を動かした刹那だった。音もなく、目にも止まらぬ太刀筋で右前足が切り裂かれる。日本刀を抜き放ったリリティアの攻撃だった。
さらにはドミノの攻撃が続く。スクリューのついたナックルを構え、雑魔の横腹に一撃を見舞う。こぶに覆われた体の手応えは堅い。ドミノは自分を鼓舞するように言う。
「一撃でだめなら二撃! それでもだめならもう一撃! 攻撃の手は緩めない……師匠の教えだ」
一撃を食らった雑魔は体を大きく回転させると、反撃とばかりにドミノに迫る。牙を振りたて、彼女の体を貫こうとした矢先。ライフルでの狙撃がその勢いを押しとどめた。
支援射撃を得意とするレーヴェは、遠距離から雑魔を狙い撃ったのだ。
「イノシシの突進は爆速じゃから。油断すると足をもってかれるぞ!」
仲間を叱咤し、すぐさま狙撃姿勢に入るレーヴェ。
連続して攻撃を食らい、片足を傷つけられた雑魔が、ごふう、と一声鳴く。そして傷をものともせず、もっとも御しやすい獲物、立ち上がろうとしている壬生に向って突撃を敢行した。壬生は構えた薙刀で、その突撃をいなそうと試みる。
壬生はまたもはじき飛ばされるが、勢いをコントロールしきれなかったのは雑魔も同じだった。再び大木に頭から突っ込み、今回は勢いを殺しきれなかったのか、動きが鈍くなっている。
「仕留めて帰ったらお祭りですね! 村の方全員分はありますよ!」
ミネットが自分の身長よりも長大な弓を引き絞り、嬉々として攻撃を開始する。追い打ちをかけるように矢が撃ち込まれ、雑魔の体が大きく揺らぐ。さらにイグレーヌの射撃攻撃が加わる。
「どう見てもあのコブ硬いよね、やっぱり足元狙いかな……」
リリティアはつぶやき、再び狙いを足に定める。動けなくすれば、こちらの勝ちだ。マテリアルの輝きに白刃が閃き、リリティアの斬撃は後ろの左足に命中した。雑魔がぐふう、と鼻息を漏らす。
「もう一撃!」
機動力を失った雑魔の横面に、ドミノのスクリューナックルが撃ち込まれる。
「足が動けなければ終わったも同然じゃ」
レーヴェのライフルが正確に雑魔の眉間を照準し、最後の一撃となる弾丸が発射された。
ぶぐおおおお、と断末魔の咆哮を上げ、雑魔はゆっくりとその巨体を横たえる。
「やりましたね!」
ミネットが喜色満面の笑顔で身を乗り出した。その手には戦闘中使っていたオークボウではなく、鋭いナイフが握られている。その瞳は、屠った獲物を目の前にした猫科の獣のごとし。
「さぁ洗って捌いて……って、あぁーーーーっ! あー……」
雑魔の体は、湯の中で角砂糖が溶けるように崩れて消滅していく。歪虚の影響を受けた雑魔の遺体は残らない。どのような原理なのか、跡形もなく消滅してしまうのだ。
消えるイノシシを見てミネットはがっくりと膝を突いた。先ほどまでらんらんと輝いていた瞳が絶望の色に染まっている。
「ご馳走が……私達のご馳走が……」
がっくりと膝を突き、呆然としてつぶやくミネット。そこにはもはや何もなく、ただ秋の冷たい風が吹き渡ってゆくばかり……
「……ご馳走を、返せっ!」
ミネットが立ち上がる。地面の落ち葉を舞い上げるような勢いだった。先ほどの様子から一転して、鬼気迫るようなものすごい顔だ。そして、彼女は怒れる猟師として獲物を追い求めて歩き出した。
その後しばらく、森にはありえない矢の飛翔音がこだましたとかしないとか……
「壬生さん! 大丈夫ですか?」
リリティアは刀を収めると、壬生の基に駆け寄った。雑魔の攻撃にさらされた壬生は、薙刀を杖のようにしてようやく立ち上がる。
「ああ、ありがとう。なーに平気さ。俺は頑丈だからね」
何でもないような口調で返して、壬生は手早く負傷箇所に応急処置を施した。幸い、動けなくなるほどの怪我ではない。リリティアはその様子を見て、ほっと胸をなで下ろす。
「散策するのに怪我してたら楽しみ半減ですからね」
大きな被害を出すことなく、雑魔を仕留めることに成功したハンターたちは、思い思いの方法で秋の山を満喫することにした。
ドミノは栗を探して回った。
「秋といえば栗だろ! ゆでるとホクホクなのがまたうめえんだよなあ……」
時期としてはギリギリだったが、仲間たちに行き渡る程度の分量を見つけることができた。イガに包まれたままの栗を拾いながら、山の下から上に向かって緑から赤に木々が葉の色を変えていく姿が見える。完全な紅葉ではないけれど、この時期はそんな光景もいいもんだ。
イグレーヌもまた、久しぶりの紅葉を見ながら暫し探索を楽しんでいた。
「……そういえば『ホロウレイドの戦い』以来、こうやって紅葉した景色を見たことなどなかったな」
そんな感慨に深りながら、イグレーヌは一歩一歩、落ち葉を踏みしめながら山を下りる。
(父さんや仲間達が生きていたら、今の私の姿を何というかな…?)
(きっと叱りとばされるだろうな)
(でも、私も後には退けないんだ)
(歪虚は全て討つ)
(皆は迷わず、安心して眠っていてくれ)
雑魔を討つという決意を、イグレーヌはもう一度、噛みしめた。
リリティアは嬉々としてあちこち歩き回った。狙いはお土産の確保と食べ歩きである。
「栗! 野いちご! 柿!! 食べ物いっぱいで幸せー」
様々な果実を採集し、本当に幸せそうな顔をしている。
「野いちご美味いうまい」
同じく果実を摘んでいたレーヴェも赤い実を頬張っている。彼女が拾っているのは、栗やどんぐり、野いちご。
「どんぐりは拾ってどうするんです?」
その様子を見ていたリリティアが疑問を口にした。
「栗はそうだがどんぐりも食えるのじゃよ。面倒じゃがな。外皮をむきすりつぶしてクッキーにできる」
「へえー! 知りませんでした。じゃあ、このカラフルなキノコって食べられるんですか?」
「キノコかー、この時期はそれもいいよなー。焼いた時の匂いもまたいいんだよなあ……」
キノコはリリティアが手に入れた物のはずなのだが、何故かドミノが勝手に納得して横でウンウン頷いている。
「論外じゃ! なんにせよキノコにはあまり手をつけんようにな。食用に似た毒キノコには凶悪なものも含まれているからの。特に白いキノコは要注意じゃ」
やれやれ、とでも言いたげにレーヴェは諭す。
「よーう、そっちの収穫はどうだい?」
別行動して採集していた壬生が、かご一杯に秋の山菜を盛って合流してきた。
「わあ豊作! どうやって食べます?」
リリティアが身を乗り出しそうな勢いで聞いてくる。
「んー、山菜鍋でも作る予定」
「牡丹鍋は無理じゃったからのう」
「鍋かー、いいよなー。ハフハフしながら食うのがいいんだよなあ……」
「みなさーん!」
藪をがさがさ言わせて戻ってきたのはミネットだった。
彼女が持って帰ってきたのは、なんと、見事に捌き終えた『お肉☆』だった。無事に代わりのご馳走を手に入れたらしい。
「皆で食べましょう!」
ミネットはすっごくいい笑顔に戻っている。
「あー……」
その満面の笑顔を見ながら、壬生が、とても申し訳なさそうに切り出した。
「俺、ベジタリアンなんだよね……」
「な、なんでですかぁ~!! せっかく、せっかくご馳走を取ってきたのに~~!!」
緑の葉が紅葉に移り変わる美しい秋の野山に、ミネットの悲痛な叫び声がこだました。
「山を散策したい時期だなあと思っていたんだ。人助けとお金稼ぎできるから一石二鳥だ」
ドミノ・ウィル(ka0208)が得物のナックルをはめ直しながら言った。雑魔退治の後は秋の山をめいっぱい楽しむつもりらしい。
「イノシシかぁ。食べたいのう、牡丹鍋」
今回の討伐対象について、レーヴェ・W・マルバス(ka0276)がつぶやく。山の空気は冷たく、終わった後は温かい鍋でもつつきたい……と思わせずにはいられない。
「これはご馳走の予感です!」
ミネット・ベアール(ka3282)が目を輝かせて言う。ぐつぐつと煮える鍋の音、温かな湯気、食欲をそそる香り、そんなものを連想して思わず口元が緩んでしまう。狩猟部族に育ったミネットにとっては、獣肉料理は秋の風物詩だ。
「イノシシさんには早めにご退場いただいて、秋の味覚を堪能するとしましょうか……楽しみですね!」
「秋の味覚、最高だねぇ。首尾よく猪をササッと片付けちゃいたい所だねぇ」
リリティア・オルベール(ka3054)が言うと、壬生 義明(ka3397)が相槌を打つ。
「ちゃっちゃか終わらせて散策行くぞー。でも、何事も油断は禁物、それが師匠の教えだ」
ドミノはニッと不敵な笑みを浮かべ、仲間たちに向けてサムズアップした。
イグレーヌ・ランスター(ka3299)は終始無言で、淡々と雑魔の捜索を進めていた。
(雑魔だろうが、歪虚だろうが……、全て射殺す)
(歪虚化したモノに慈悲などない)
(慈悲があるとすれば、それは直ぐ楽にしてやることだけだ)
騎士団時代に教わった風下からの足跡追跡による探索方法を使い、隠密行動を心がけ、獣が通ることで出来る『獣道』を探す。幸い足下は柔らかい腐葉土や、乾いた落ち葉が敷き詰められている。これならば『獣道』も出来易く、分かり易いはずだ。
予想通り、何度も使われた形跡のある獣道を発見することができた。
「この感じだと、そう遠くはないか……?」
イグレーヌはぽつりとつぶやくと、更に獣道の奥へと歩みを進めた。
リリティアも同じく単独で足跡を追っていた。動きやすいようにと、今日の装備は軽装だった。森林迷彩のジャケットを羽織り、足下をブーツでしっかりと固めている。少しでも敵に発見される確率を減らせれば、と考えた結果だった。装備を変えたとしても譲れないバルーンハットから白い梟が顔を出す。
「くるっぽ、大きなイノシシさんだよ! わかるかな?」
くるっぽ、と白梟は鳴き、翼を広げると主人に先立って飛び立った。
「足跡から推測すると、かなりの大物ですね」
ミネットはじゅるり、とよだれが出てしまうのを抑えられない。
イノシシの生活範囲を探るため、ミネットとドミノは倒れた木を追うところから始めた。森に入って獲物を追う狩猟の知恵である。二つの大きな蹄と副蹄のある跡には特に注意する。地面を掘り返した跡や獣道をたどると、イノシシ型雑魔のものとおぼしき、普通の獣よりも大きな足がを見つかった。
「シカさんとよく似てますが、違うのはこの後ろ側の副蹄の跡なんです」
「へええ……ミネットは物知りだな」
生徒に教えるように説明するミネットに、素直に感心するドミノ。
「一人前のハンターになるためには、当然です!」
「覚醒者として一人前になるためには学習と努力は惜しんじゃいけない、ってな。それが師匠の教えだ」
ドミノがサムズアップを返すが、ミネットの言う『ハンター』像は、覚醒者のものとは、どこかズレているような……
二人がそのまま足跡を追うと、水場が近いのか地面がぬかるみ始めた。所々樹皮が剥がれた木々が立ち並び、足下のぬかるみが大きな円形にへこみ、泥水が溜まっている。落とし穴というには浅いし、自然の水たまりというには深い。
「なんだこりゃ?」
声を上げるドミノにミネットが得意顔で解説する。
「ぬた湯って言って、体のノミやダニなんかを落す為に泥を被るんです。人間で言うお風呂ですね! こ、これだけ大きいのは初めて見ましたけど……」
ミネットの言葉を遮るようにギシギシ、メキメキと生木を裂くような音が聞こえてきた。標的は近くにいる。
ドミノとミネットが雑魔の痕跡を発見した場所に、個別に足跡を探索していたレーヴェ、リリティアと壬生が合流した。
そこにバサバサという羽音。顔を上げた5人のもとに白い梟が羽ばたいてきた。リリティアが右腕を差し出すと滑るように飛び移ってきた。主人の元に帰ると安心したのか、くるるる、と鳴く。
「どうしたの、くるっぽ?」
リリティアは梟の頭をなでてやる。
すると、雑木林の藪を揺らす音も立てず、イグレーヌが姿を現した。
「こっちだ、敵を見つけた。雑魔はこちらに気づいていない。叩くなら今だ」
雑魔を見つけ、イグレーヌの体に冷たい闘志が宿っている、そんな声音だった。
「リリティアさんの梟さんは、本能的に危険を察知して戻ってきたようですね」
ミネットが白梟の様子を的確に読み取る。
「雑魔の居場所も判明したのう。さて、どう攻めるかの?」
愛用のライフルを担いだレーヴェが思案顔をする。
「ここは、俺が囮になろうと思うんだよねえ」
言ったのは壬生だった。
「猪相手に長柄物では戦いにくいからさ」
飄々とした口調で、危険な役割への志願を申し出る。
「ふむ……なら、仕込みが必要じゃな。皆の準備ができ次第倒すとしようか」
レーヴェは幼さの残る顔に不敵な笑みを見せた。
イノシシ型の雑魔は、真っ赤な実をたわわにつけた柿の木を倒し、悠然とその実を貪っていた。
ざくざくと落ち葉を派手に蹴立てる音がして、雑魔が音のする方を見やる。薙刀を構えた壬生が、大振りの攻撃で雑魔に切りかかった。
命中はしたものの固いこぶで覆われた外皮に阻まれ、効果的な一撃とはならなかったようだ。武器の効果的な間合いを計るため、壬生は少し距離を取る。
と、間髪入れずに雑魔が壬生を標的に突進する。一挙動で強力なバネのような加速を生み出し、2m近い巨体が突っ込んでくる。反射的に回避行動をとった壬生の右半身を巻き込み、吹き飛ばされる。雑魔は背後の大木へと頭から突っ込んだ。
少し頭を振ると、雑魔はさしたるダメージを受けた様子もなく吹き飛ばされた壬生の方へ向き直る。
「光あれ」
厳粛な言葉と共に、風を切って二筋の矢が雑魔の側面に突き立った。少し離れた風下からの、イグレーヌとミネットの正確無比な援護射撃だった。イグレーヌは雑魔をきっとにらみつけ、ミネットの表情も狩りをする狩猟者のものに変わっている。
雑魔が弓を射かけた者たちを確認しようと体を動かした刹那だった。音もなく、目にも止まらぬ太刀筋で右前足が切り裂かれる。日本刀を抜き放ったリリティアの攻撃だった。
さらにはドミノの攻撃が続く。スクリューのついたナックルを構え、雑魔の横腹に一撃を見舞う。こぶに覆われた体の手応えは堅い。ドミノは自分を鼓舞するように言う。
「一撃でだめなら二撃! それでもだめならもう一撃! 攻撃の手は緩めない……師匠の教えだ」
一撃を食らった雑魔は体を大きく回転させると、反撃とばかりにドミノに迫る。牙を振りたて、彼女の体を貫こうとした矢先。ライフルでの狙撃がその勢いを押しとどめた。
支援射撃を得意とするレーヴェは、遠距離から雑魔を狙い撃ったのだ。
「イノシシの突進は爆速じゃから。油断すると足をもってかれるぞ!」
仲間を叱咤し、すぐさま狙撃姿勢に入るレーヴェ。
連続して攻撃を食らい、片足を傷つけられた雑魔が、ごふう、と一声鳴く。そして傷をものともせず、もっとも御しやすい獲物、立ち上がろうとしている壬生に向って突撃を敢行した。壬生は構えた薙刀で、その突撃をいなそうと試みる。
壬生はまたもはじき飛ばされるが、勢いをコントロールしきれなかったのは雑魔も同じだった。再び大木に頭から突っ込み、今回は勢いを殺しきれなかったのか、動きが鈍くなっている。
「仕留めて帰ったらお祭りですね! 村の方全員分はありますよ!」
ミネットが自分の身長よりも長大な弓を引き絞り、嬉々として攻撃を開始する。追い打ちをかけるように矢が撃ち込まれ、雑魔の体が大きく揺らぐ。さらにイグレーヌの射撃攻撃が加わる。
「どう見てもあのコブ硬いよね、やっぱり足元狙いかな……」
リリティアはつぶやき、再び狙いを足に定める。動けなくすれば、こちらの勝ちだ。マテリアルの輝きに白刃が閃き、リリティアの斬撃は後ろの左足に命中した。雑魔がぐふう、と鼻息を漏らす。
「もう一撃!」
機動力を失った雑魔の横面に、ドミノのスクリューナックルが撃ち込まれる。
「足が動けなければ終わったも同然じゃ」
レーヴェのライフルが正確に雑魔の眉間を照準し、最後の一撃となる弾丸が発射された。
ぶぐおおおお、と断末魔の咆哮を上げ、雑魔はゆっくりとその巨体を横たえる。
「やりましたね!」
ミネットが喜色満面の笑顔で身を乗り出した。その手には戦闘中使っていたオークボウではなく、鋭いナイフが握られている。その瞳は、屠った獲物を目の前にした猫科の獣のごとし。
「さぁ洗って捌いて……って、あぁーーーーっ! あー……」
雑魔の体は、湯の中で角砂糖が溶けるように崩れて消滅していく。歪虚の影響を受けた雑魔の遺体は残らない。どのような原理なのか、跡形もなく消滅してしまうのだ。
消えるイノシシを見てミネットはがっくりと膝を突いた。先ほどまでらんらんと輝いていた瞳が絶望の色に染まっている。
「ご馳走が……私達のご馳走が……」
がっくりと膝を突き、呆然としてつぶやくミネット。そこにはもはや何もなく、ただ秋の冷たい風が吹き渡ってゆくばかり……
「……ご馳走を、返せっ!」
ミネットが立ち上がる。地面の落ち葉を舞い上げるような勢いだった。先ほどの様子から一転して、鬼気迫るようなものすごい顔だ。そして、彼女は怒れる猟師として獲物を追い求めて歩き出した。
その後しばらく、森にはありえない矢の飛翔音がこだましたとかしないとか……
「壬生さん! 大丈夫ですか?」
リリティアは刀を収めると、壬生の基に駆け寄った。雑魔の攻撃にさらされた壬生は、薙刀を杖のようにしてようやく立ち上がる。
「ああ、ありがとう。なーに平気さ。俺は頑丈だからね」
何でもないような口調で返して、壬生は手早く負傷箇所に応急処置を施した。幸い、動けなくなるほどの怪我ではない。リリティアはその様子を見て、ほっと胸をなで下ろす。
「散策するのに怪我してたら楽しみ半減ですからね」
大きな被害を出すことなく、雑魔を仕留めることに成功したハンターたちは、思い思いの方法で秋の山を満喫することにした。
ドミノは栗を探して回った。
「秋といえば栗だろ! ゆでるとホクホクなのがまたうめえんだよなあ……」
時期としてはギリギリだったが、仲間たちに行き渡る程度の分量を見つけることができた。イガに包まれたままの栗を拾いながら、山の下から上に向かって緑から赤に木々が葉の色を変えていく姿が見える。完全な紅葉ではないけれど、この時期はそんな光景もいいもんだ。
イグレーヌもまた、久しぶりの紅葉を見ながら暫し探索を楽しんでいた。
「……そういえば『ホロウレイドの戦い』以来、こうやって紅葉した景色を見たことなどなかったな」
そんな感慨に深りながら、イグレーヌは一歩一歩、落ち葉を踏みしめながら山を下りる。
(父さんや仲間達が生きていたら、今の私の姿を何というかな…?)
(きっと叱りとばされるだろうな)
(でも、私も後には退けないんだ)
(歪虚は全て討つ)
(皆は迷わず、安心して眠っていてくれ)
雑魔を討つという決意を、イグレーヌはもう一度、噛みしめた。
リリティアは嬉々としてあちこち歩き回った。狙いはお土産の確保と食べ歩きである。
「栗! 野いちご! 柿!! 食べ物いっぱいで幸せー」
様々な果実を採集し、本当に幸せそうな顔をしている。
「野いちご美味いうまい」
同じく果実を摘んでいたレーヴェも赤い実を頬張っている。彼女が拾っているのは、栗やどんぐり、野いちご。
「どんぐりは拾ってどうするんです?」
その様子を見ていたリリティアが疑問を口にした。
「栗はそうだがどんぐりも食えるのじゃよ。面倒じゃがな。外皮をむきすりつぶしてクッキーにできる」
「へえー! 知りませんでした。じゃあ、このカラフルなキノコって食べられるんですか?」
「キノコかー、この時期はそれもいいよなー。焼いた時の匂いもまたいいんだよなあ……」
キノコはリリティアが手に入れた物のはずなのだが、何故かドミノが勝手に納得して横でウンウン頷いている。
「論外じゃ! なんにせよキノコにはあまり手をつけんようにな。食用に似た毒キノコには凶悪なものも含まれているからの。特に白いキノコは要注意じゃ」
やれやれ、とでも言いたげにレーヴェは諭す。
「よーう、そっちの収穫はどうだい?」
別行動して採集していた壬生が、かご一杯に秋の山菜を盛って合流してきた。
「わあ豊作! どうやって食べます?」
リリティアが身を乗り出しそうな勢いで聞いてくる。
「んー、山菜鍋でも作る予定」
「牡丹鍋は無理じゃったからのう」
「鍋かー、いいよなー。ハフハフしながら食うのがいいんだよなあ……」
「みなさーん!」
藪をがさがさ言わせて戻ってきたのはミネットだった。
彼女が持って帰ってきたのは、なんと、見事に捌き終えた『お肉☆』だった。無事に代わりのご馳走を手に入れたらしい。
「皆で食べましょう!」
ミネットはすっごくいい笑顔に戻っている。
「あー……」
その満面の笑顔を見ながら、壬生が、とても申し訳なさそうに切り出した。
「俺、ベジタリアンなんだよね……」
「な、なんでですかぁ~!! せっかく、せっかくご馳走を取ってきたのに~~!!」
緑の葉が紅葉に移り変わる美しい秋の野山に、ミネットの悲痛な叫び声がこだました。
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相談しようそうしよう。 ドミノ・ウィル(ka0208) ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/27 22:17:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/22 23:05:49 |