ゲスト
(ka0000)
歪虚お届けです
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/06/03 22:00
- 完成日
- 2017/06/09 02:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
同盟の人里うんと離れた山奥には、とある小さなコボルドの群れが細々暮らしている。
このコボルドたちには、通常よく見かけられるゴブリンのボスがいない。
コボルドにとって統率してくれる人がいないという状態は――こき使われることがないというメリットはあるにしても――手放しで喜べるものではない。どちらかというと、不安の種だ。
だから彼らは巣穴の拡張に、日々余念が無い。いざと言うとき逃げ込める穴がたくさんあれば、それだけ安心出来る。
地面を掘ると色々なものが出てくる。ほぼ石の類いだが、この間は、黒い箱が出た。それは彼らの友達が、遊びに来たとき持って帰った。
そしてつい先日、またまた変なものが出た。平らな白いもの。石のようだが石でない。ひびも割れ目も入っていない。引っ掻いても噛んでもびくともしない。掘っても掘っても同じく白いものが出てくる。
どうやらこれは壁が埋まっているのであると結論づけたコボルドたちは、そっち方向へ進むのを諦め、地下道を曲げた。何で壁がというもう一歩踏み込んだ、余計な疑問を思い浮かべずに。
それから更に数日後。小雨の降る夜。人間の女が1匹巣穴の近くに現れた。
長い黒髪。白い服。見慣れない奴怪しい奴。
コボルドたちは一斉に威嚇した。なにしろ相手は1匹。しかも何も持っていない。だからあまり怖くなかった。
しかし女は脅える様子もなく話しかけてきた。どういうことだか彼らの耳にも分かる言葉で。
『……ウォッチャーを見つけたのは……あなたたちね……ちょっと聞きたいことがあるのだけど……このあたり、他にも何か埋まっていなかった……?……私の見立てでは恐らく……確実に……転送されてきていると思うのだけど……』
その時地響きがした。
女の後ろに6メートルはあろうかという化け物が、ぬっと現れた。
コボルドたちは肝を潰し、大急ぎで穴の中に逃げ帰る。
女は肩越しに振り向いて言った。
『……向こうに行ってちょうだい……私は彼らと話があるの』
化け物が女に向けて火を吹いた。しかし女は欠片も傷ついていない。
そのことに憤慨したのか化け物は、更に火を吹く。前足で一撃する。
『……暴れるのは止めてくれない……このあたりにはもしかして貴重なものが……』
地下のコボルド穴が崩れ始めた。コボルドたちは半狂乱になりながら、総出で脱出口を掘りまくる。
その時、地鳴りがぴたりと止んだ。
どうしたのかと恐る恐る入り口に戻ったコボルドたちは、土で塞がった箇所を引っ掻き穴を空け、鼻を突き出してみる。
見れば化け物が透明な四角い箱――結界――に閉じ込められていた。
箱が急速に縮んで行く。中に詰まった化け物もそれに合わせ、否応なしに縮んで行く。
ゴキ……バキバキバキ……メキメキメキ……
最終的に手のひらほどサイズになったところで女は、箱を落とした。箱は地面に吸い込まれるように、消えてしまう。
●
ここ数日雨が降っていたが、今日はよく晴れた。
賑わう昼下がりの、リゼリオハンターオフィス。
依頼を探していたカチャの耳に、小さな物音が聞こえた。
カコン。
誰かが何か落としたのかと床を見れば、小さな箱。
近づいて拾い上げる。
周囲のハンターたちが寄ってきた。
「なんだ、それ」
「さあ……なんでしょうね……」
皆でためつすがめつ回し見をしていたところ、急に箱がびくっと動いた。その時持っていた者が、驚いて手を放す。
床に落ちた箱が徐々に大きくなり始めた。
危険を感じたハンターたちは、箱を外に蹴り出す。
蹴り出された箱はその場でなおなお膨らんでいき、一片が2メートル程になったところで弾けた。
そして出てきたのは、竜っぽい形をした歪虚。
ギャース
と鳴いて小さな翼をばたつかせている。
その体型、見事に箱。箱型の竜と言うより竜型の箱と言った方がいいくらい箱。よく見たら目玉までもが四角になっている。
心なし、吹く火もなんだかカクカクしているような……。
リプレイ本文
マリィア・バルデス(ka5848)が叫んだ。
「歪虚よ、早くここから離れなさい!」
すぐさま人垣が割れ散って行く。さすが冒険都市、機敏な反応だ。
日下 菜摘(ka0881)は弾けた箱から出てきたものを、思わず二度見する。
「……珍客? が来ましたわね」
その台詞、無理もない。敵は驚くほど四角いのだ。実はブロック製品じゃないかというくらい四角いドラゴンなのだ。脇を駆け抜けて行くマリィアに浴びせかける炎までもがカクカク――首がめり込み固定されているせいで、直撃を避けられてしまったが。
「何食ったらこうなるんだ……まてよ、ひょっとしてレアモノじゃ!? ドラゴンマニアに見せたら高く売れるんじゃねえか! 北方のドラゴンブームに乗っかってグッズ化なんてのも……」
ポジティブな皮算用をパルムに聞かせつつ、魔導カメラのシャッターを切るジルボ(ka1732)。
天竜寺 舞(ka0377)は吹き出した。
「何このサイコロみたいなドラゴンは? 食玩?」
ソラス(ka6581)はドラゴンの容姿よりも、出現した経緯の方が気になる。
(何もない空間から出てくる……しかも直線で組み立てられた四角い箱……結界……)
とある人物の名が脳裏にちらつくが、詮索は一時中断する。討伐が先だ。笑ってしまうような姿をしているとしても、歪虚は歪虚。危険なことに変わりはない。優先すべきは人的被害を出さないようにすること。
(確かにここに送れば誰かしらハンターがいて対処してくれると思えば合理的ですけど、地域のルールには従ってもらわないと……)
マリィアが呼びかけたお陰で一般人は概ね避難しているが、念のためにもう一度。
「皆さん、下がってください! 歪虚の前方には絶対に立たないように!」
カチャは周囲にいた手隙のハンターたちと、直の誘導に乗り出す。
「早く、こっちです!」
「お店の方、シャッターを閉めて!」
ドラゴンが動き出した。のろのろと。短か過ぎる足は稼働域が狭い。一歩ずつ踏み出すごとに、ずしんという振動。見た目よりもかなりの重量があるらしい。
とにもかくにも、歪虚という言葉が連想させる凶々しさから遠く離れたその姿。葛音 ミカ(ka6318)は、戸惑いを隠せない。
「えっ……なんか、四角い…ぇ、なんだこれ…?」
葛音 水月(ka1895)はその傍らで、歪虚の動きを見極める。
動きが明らかに遅い。ブレスの有効射程距離はそこそこ長いが、ほぼ一直線にしか発されない。柔軟性が低く、方向転換もままならない。
結論。難易度は高くない。ミカの初陣を飾るにほどよい相手。
思ってステラ=ライムライト(ka5122)の肩に、ぽんと手を置く。
「……ステラは今日はミカの先輩として、頼みますね?」
水月の言わんとすることを察したステラは「任せて」と破顔する。ミカに向き直る。
「ミカさん、私と水月の戦い方をよく見てて。呼吸を掴んだら、後は実践あるのみだよ」
「……分かった」
と言いつつもミカは緊張している。実は歪虚との遭遇も戦闘も、これが初めてなのだ。口からついぽろりと、弱気な言葉がこぼれ出る。
「初めての戦闘だけど……上手くできるだろうか…」
ステラはそんな彼女の肩に、ぽんと手を置いた。今し方水月がしてくれたように。
「大丈夫、私と水月がサポートするから」
●
周囲の人払いを確認したマリィアは立ち位置と射線を確保。魔導銃の引き金を引く。
「これを倒したらスクエアドラゴンスレイヤーなのかしら……ちょっと格好悪いわね……」
冷気をまとった弾丸が額に命中した。当たった箇所が氷結する。しかしその氷はすぐ剥がれ落ちた。防御力はかなりのものであるようだ。
「こいつは圧縮されて硬そうだ」
ジルボはアサトライフルで顎の下を狙い撃ち。マリィアと同様、冷気をまとった弾丸で。
ドラゴンは四角い目でぎろりと両者を睨みブレスを吐く――動きが遅く見え見えなので避けられた。標的を逃した炎は通り向かいにある石壁を焦がしヒビいらせる。周囲の空気を炙り上げる。
菜摘がレクイエムを歌い始めた。
『――光よ、私は切にあなたをたずね求め、我が魂はあなたをかわき求む。水なき、乾き衰えた地にあるように――』
聖なる調べが命なきものの動きを鈍らせる。そこから出る炎もまた。
舞は上向けた手のひらをくいくい動かし、ドラゴンを挑発した。
「でっぱり切り取って六面ダイスにして使ってやるからかかってきなよ」
ドラゴンが突進してくる。舞は地を蹴り、一瞬で相手の鼻先に移動した。彼女の残した残像に惑わされ見当違いの方向を向いた顔目がけ、ユナイテッドドライブソードで切り込む。
右目が深く切り込まれた。毒を含まされた傷が膨れ上がり、じくじくと泡立つ。
ぎゃおおおおお
視界の失われた右側から水月が、パイルバンカーで殴りつける。
堅い鱗に守られた頭部が鈍い音を立てた。傷口は開いていないが、感じた衝撃は大きかったらしい。ドラゴンは大変に腹を立てた。
う、おー!
「さぁーて、こっちですよ」
ブレスが建物に行かないように、つかず離れずの回避で道の真ん中に誘導する水月。
「隙あり、そこっ!」
大上段に振りかぶったオートMURAMASAを流れるような所作で水平に構え直し、後ろ足の腱を切りつけるステラ。刃は――通っていない。だが刺激は感じたようだ。ドラゴンは埋もれ気味な首をぐぎぎぎと曲げ、無理矢理振り向こうとした。
「こっちで隙作るから、安心して狙って!」
その言葉を受けたミカが見よう見真似で、MURAMASAブレイドを横凪ぎに一閃。不慣れなゆえか刃は首にではなく肩に当たり、跳ね返った。
そのときドラゴンが羽ばたいた。地上30センチほどの高さに浮き、半メートル斜め前進。回避の後れを取ったミカが体当たりに弾き飛ばされ転がる。
ソラスは追加の攻撃を防ぐため、開いたドラゴンの口中目がけアイスボルトを放つ。正負のマテリアルが激突し弾ける。厳寒が灼熱を制した。
ジルボがペイント弾をドラゴンの顔目がけて投げ付けた。
「ヘイヘイ、こっちだドラゴンダイス!」
彼らが注意を引く間菜摘がミカに駆け寄り、ヒールを施す。
「……多少の怪我ならば、わたしの【癒し】で回復可能です。どうぞ存分に戦って下さい」
「……ありがとう」
穏やかに背を押す相手に、慣れない礼を述べるミカ。
その姿を横目にステラは、更なる攻撃に乗り出す。
「箱って言ってもドラゴンだし、やっぱりブレスは怖いよね……!」
正面攻撃は避け、狙うは右の翼。今みたいな不測の動きが出来ないよう、あそこを先に潰した方がいい。
「……いくよ、疾風剣!」
翼に刃が当たった。鱗で覆われていないだけにほかの箇所よりは脆いらしい。皮膜が切り裂かれた。続けて何度も切り刻む。確実に使用不能となるように。
「あ、そこ弱いんだ。いいこと知っちゃった」
にやりと笑んだ舞は左翼に切りつける。翼が骨ごと切り取られる。傷口が右目部分と同じように爛れて行く。
マリィアはひたすら撃ち続ける。目にも留まらぬ早さで特殊冷却弾コシチェイが装填された。効果が倍加した弾丸が、額、首、胸といった部分を襲う。
堅い鱗が細かに割れ、剥げ落ち始めた。首の部分に小さな穴が空いた。そこから赤い体液が噴出する。
動きが鈍ってきた所を見計らい、菜摘が、ホーリーライトを撃つ。
「……下手に手出しするより、本職の方に任せた方が効率は良いでしょうから、後方から援護させて頂きますね」
ドラゴンがブレスを放った。水月はワイヤーウィップを首に巻き付け、頭を下に向けさせる。焼かれるのが石畳だけですむように。続けてバンカーで前足の付け根を殴りつける。
「こことか、どうでしょうねー」
避難誘導を済ませたカチャが戻ってきて、攻撃に加わった。
「すいません、遅れまして!」
マテリアルを纏った竹刀で、塞がっていない片目を狙い突きまくる。ドラゴンは猛烈に吠えあげた。傷口から血をしたたらせつつ、ひときわ盛大にブレスを吹きあげる。
たとえ直にはかからなくてもその熱気で、前線にいるものの肌が焼ける。髪が焦げる。
「あー、もう、なかなか倒れないなあ」
舞は、効き目がありそうな箇所の目星をつけようとした。尻の穴は狙い所だが、尻尾でびっちり塞がれてしまっている。残念だがあれでは攻め切れまい。
(正攻法しかないか)
腹をくくり、ゴエモンに命じる。
「走り回って気を逸らせ!」
ゴエモンは言い付けどおり周囲を走り回り吠え回った。熱気で焼けない程度の距離を取って。
舞はドライブソードを構え、猛突進する。銃弾で傷ついたドラゴンの腹部目がけて、全身全霊全力を込めて。
「う、りゃああああ!」
がづんと、手が痺れるほどの反動が来た。しかしそこを押して、なお力を込める。逆立った鱗で手が傷ついたが、無視。
肉に刃が通った。勢いをつけて血が吹き出す。
が、あ、あ。
ドラゴンは回らぬ首を無理に曲げ、ブレス。ソラスがアイスボルトで、 ジルボがレイターコールドで、それを阻害する。ミカは大きく息を吸い、マテリアルを体に充満させ、刃を走らせる。狙うのは首回りだ。彼女本人は意識しないが、太刀筋が徐々に正確なものになってきている。
水月は彼女が攻撃に専念出来るよう、ウイップを振るって鼻面を引き回し、注意を引き続ける。
ジルボの弾丸が顎下の鱗を凍りつかせ、脆くさせた。
翼を屠ったステラが、そこを横一文字に切り裂く。
赤い肉がさらけ出された。
ソラスはドラゴンの口元に集中した攻撃を行う。アイスボルトが切れた後はウォーターシュートに切り替え、切れ目なくブレスの抑制に務める。
舞は残った方の左目を狙い、切り裂いた。
視界を塞がれたドラゴンは可能な限り体を揺り後かした。どこから攻撃が来るか分からなくなったという焦りが、その動きに現れている。
無きに等しい首が伸びたところをミカが斬る。カチャが突く。武器と鱗が血に染まる。
マリィアの銃弾が額を貫いた。運動中枢に障害が出たのか、おぼつかない足取りが更によたよたしたものとなる。しかし、そんな状態になってもなお、動きは止まらない。
ジルボはショットアンカーを、腹の傷口に打ち込んだ。
「おいおい、いい加減に往生決めてくれ!」
そのまま引き倒そうとしたが、逆に引きずられそうになる。力はまだ失われていない。
「おい皆、倒すの手伝ってくれ!」
舞が、ステラが、ミカが、カチャが、彼に手を貸した。
水月はワイヤーウイップをドラゴンに絡め、ジルボと同じ方向から引く。そちらにはマリィアとソラス、菜摘が手を貸した。
ドラゴンが転倒する。重い地響き。石畳が割れる。ステラがその体の上に昇り、改めてオートMURAMASAを構えた。
「それじゃあ、私が介錯してあげる!」
残ったマテリアルをすべて注いで、ドラゴンの首に深く切り込む。四角い頭が落ちた。ごとんと重い音を立てて。
「この形で相当の重さ、ってこれ絶対もっと大きかったよね……?」
マリィアはオフィスの外壁にある壁時計を見やり、不服そうな呟きを漏らす。
「まともな竜でもこの人数なら10分なのよ? 動けないアレが3分保つとは思っていなかったわ。被害を出さない、が難しかっただけ」
不慣れな戦闘を終え息を弾ませるミカは、端々から蒸発し消えて行く歪虚を刀でつつく。
「これが歪虚……これが戦い……」
水月が駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫ですかっ」
ステラはドラゴンの体から飛び降り、白い歯を見せる。
「大丈夫だよ!」
ミカも小さく頷いた。
とはいえ2人とも火傷や擦過傷が出来ている。特にミカのダメージが大きそうだ。水月は菜摘に声をかける。
「すいません、治療をお願い出来ますか」
「もちろん、いいですよ」
クルセイダーのかざす手から発される光が、患部を修復させる。
治療を終えたミカは水月に聞いた。真剣な口調で。
「水月、ボクの戦い、どうだったかな?」
「そうですね……太刀筋はとてもよかったと思います。ただ少し注意力が不足していたでしょうか。戦いにおいては攻撃だけでなく、守りも重要ですよ」
「ん、そっか…」
やり取りを温かく見守ったステラは、くいと水月の袖を引く。
「水月、なにか奢ってくれないかな? 激しい運動したからお腹すいちゃった」
続けて菜摘は、皆の傷を一通り癒していく。ドラゴンは早くも消滅していた。残るのは街路の凹みと焦げばかり。
「……それにしても突然降って湧いたように歪虚が現れるとは。ここがハンターオフィスであったから良かったようなものの、他の場所だったら大惨事でしたわね」
ジルボは軽く肩をすくめた。
「宅配テロかね。ハンターソサエティも恨み買ってんのかな」
マリィアは顎に手を当て考え込む。
(前も突然体半分の歪虚が落ちてきた事件があったわよね? ってことは同じ相手かしら)
事態が収まったと見てオフィスの中から、女職員が出てくる。
「ご苦労さまです、皆さん。まことにお手数ですが、今の事案の報告書を作成してくださいますか」
調子よく答え、オフィスへ戻って行くジルボ。
「はいはーい。ところでおねぇさ~ん、ちょっと良い話があるんだけどー」
水月、ミカ、ステラがそれに続く。
舞、カチャ、ソラスも。
「それにしても何だったのかな。最初の妙ちきりんな箱、ていうか結界」
「四角で結界ときたら、マゴイさん案件としか考えられないんですけど、私」
「まさかね、いくらあの人でもそこまでは…………あー、やりそうかも」
「でしょう?」
「箱を送り付けてきたってことは、歪虚の居た所にマゴイさんがいたってことか……生息地が分かれば我々も探しに行けるかな」
「え……。探しに行ってどうするつもりなんですかソラスさん」
「いえ、彼女、ユニオンの遺物を探してステーツマンを作ると言ってましたでしょう? そのあたり、もっと詳しく聞いてみたくて。ユニオンは謎が多いんですよね。機械を扱う方が生身の人を扱うより簡単でしょう? なのに彼女たちの社会は、どうも、後者のやり方に拘っているみたいで。脳をそのままに人の頭部を猫の頭部に作り替えるとか……設備と使用許可があれば元に戻せるそうですが」
舞たちの会話を聞いたマリィアは、片手を上げて聞き確かめた。
「ちょっといい? そのマゴイっていうのは、歪虚なの?」
「……歪虚ってわけじゃないんだよね、あの人」
「ええ。エバーグリーンの人間らしいです」
「生きているのか死んでいるのかが、いまいちはっきりしませんけど。見えてても実体がありませんし」
聞くだによく分からない相手だ。
渋面を作ったマリィアは両手を腰に当て、何もない空間に呼びかけた。少々の腹立ちを込めて。
「……聞こえる? ここに捨てるんじゃなくて今後はそこに私達を呼びなさい、マゴイとやら!」
マゴイが彼女の声を聞いていたかどうかは――定かでない。
「歪虚よ、早くここから離れなさい!」
すぐさま人垣が割れ散って行く。さすが冒険都市、機敏な反応だ。
日下 菜摘(ka0881)は弾けた箱から出てきたものを、思わず二度見する。
「……珍客? が来ましたわね」
その台詞、無理もない。敵は驚くほど四角いのだ。実はブロック製品じゃないかというくらい四角いドラゴンなのだ。脇を駆け抜けて行くマリィアに浴びせかける炎までもがカクカク――首がめり込み固定されているせいで、直撃を避けられてしまったが。
「何食ったらこうなるんだ……まてよ、ひょっとしてレアモノじゃ!? ドラゴンマニアに見せたら高く売れるんじゃねえか! 北方のドラゴンブームに乗っかってグッズ化なんてのも……」
ポジティブな皮算用をパルムに聞かせつつ、魔導カメラのシャッターを切るジルボ(ka1732)。
天竜寺 舞(ka0377)は吹き出した。
「何このサイコロみたいなドラゴンは? 食玩?」
ソラス(ka6581)はドラゴンの容姿よりも、出現した経緯の方が気になる。
(何もない空間から出てくる……しかも直線で組み立てられた四角い箱……結界……)
とある人物の名が脳裏にちらつくが、詮索は一時中断する。討伐が先だ。笑ってしまうような姿をしているとしても、歪虚は歪虚。危険なことに変わりはない。優先すべきは人的被害を出さないようにすること。
(確かにここに送れば誰かしらハンターがいて対処してくれると思えば合理的ですけど、地域のルールには従ってもらわないと……)
マリィアが呼びかけたお陰で一般人は概ね避難しているが、念のためにもう一度。
「皆さん、下がってください! 歪虚の前方には絶対に立たないように!」
カチャは周囲にいた手隙のハンターたちと、直の誘導に乗り出す。
「早く、こっちです!」
「お店の方、シャッターを閉めて!」
ドラゴンが動き出した。のろのろと。短か過ぎる足は稼働域が狭い。一歩ずつ踏み出すごとに、ずしんという振動。見た目よりもかなりの重量があるらしい。
とにもかくにも、歪虚という言葉が連想させる凶々しさから遠く離れたその姿。葛音 ミカ(ka6318)は、戸惑いを隠せない。
「えっ……なんか、四角い…ぇ、なんだこれ…?」
葛音 水月(ka1895)はその傍らで、歪虚の動きを見極める。
動きが明らかに遅い。ブレスの有効射程距離はそこそこ長いが、ほぼ一直線にしか発されない。柔軟性が低く、方向転換もままならない。
結論。難易度は高くない。ミカの初陣を飾るにほどよい相手。
思ってステラ=ライムライト(ka5122)の肩に、ぽんと手を置く。
「……ステラは今日はミカの先輩として、頼みますね?」
水月の言わんとすることを察したステラは「任せて」と破顔する。ミカに向き直る。
「ミカさん、私と水月の戦い方をよく見てて。呼吸を掴んだら、後は実践あるのみだよ」
「……分かった」
と言いつつもミカは緊張している。実は歪虚との遭遇も戦闘も、これが初めてなのだ。口からついぽろりと、弱気な言葉がこぼれ出る。
「初めての戦闘だけど……上手くできるだろうか…」
ステラはそんな彼女の肩に、ぽんと手を置いた。今し方水月がしてくれたように。
「大丈夫、私と水月がサポートするから」
●
周囲の人払いを確認したマリィアは立ち位置と射線を確保。魔導銃の引き金を引く。
「これを倒したらスクエアドラゴンスレイヤーなのかしら……ちょっと格好悪いわね……」
冷気をまとった弾丸が額に命中した。当たった箇所が氷結する。しかしその氷はすぐ剥がれ落ちた。防御力はかなりのものであるようだ。
「こいつは圧縮されて硬そうだ」
ジルボはアサトライフルで顎の下を狙い撃ち。マリィアと同様、冷気をまとった弾丸で。
ドラゴンは四角い目でぎろりと両者を睨みブレスを吐く――動きが遅く見え見えなので避けられた。標的を逃した炎は通り向かいにある石壁を焦がしヒビいらせる。周囲の空気を炙り上げる。
菜摘がレクイエムを歌い始めた。
『――光よ、私は切にあなたをたずね求め、我が魂はあなたをかわき求む。水なき、乾き衰えた地にあるように――』
聖なる調べが命なきものの動きを鈍らせる。そこから出る炎もまた。
舞は上向けた手のひらをくいくい動かし、ドラゴンを挑発した。
「でっぱり切り取って六面ダイスにして使ってやるからかかってきなよ」
ドラゴンが突進してくる。舞は地を蹴り、一瞬で相手の鼻先に移動した。彼女の残した残像に惑わされ見当違いの方向を向いた顔目がけ、ユナイテッドドライブソードで切り込む。
右目が深く切り込まれた。毒を含まされた傷が膨れ上がり、じくじくと泡立つ。
ぎゃおおおおお
視界の失われた右側から水月が、パイルバンカーで殴りつける。
堅い鱗に守られた頭部が鈍い音を立てた。傷口は開いていないが、感じた衝撃は大きかったらしい。ドラゴンは大変に腹を立てた。
う、おー!
「さぁーて、こっちですよ」
ブレスが建物に行かないように、つかず離れずの回避で道の真ん中に誘導する水月。
「隙あり、そこっ!」
大上段に振りかぶったオートMURAMASAを流れるような所作で水平に構え直し、後ろ足の腱を切りつけるステラ。刃は――通っていない。だが刺激は感じたようだ。ドラゴンは埋もれ気味な首をぐぎぎぎと曲げ、無理矢理振り向こうとした。
「こっちで隙作るから、安心して狙って!」
その言葉を受けたミカが見よう見真似で、MURAMASAブレイドを横凪ぎに一閃。不慣れなゆえか刃は首にではなく肩に当たり、跳ね返った。
そのときドラゴンが羽ばたいた。地上30センチほどの高さに浮き、半メートル斜め前進。回避の後れを取ったミカが体当たりに弾き飛ばされ転がる。
ソラスは追加の攻撃を防ぐため、開いたドラゴンの口中目がけアイスボルトを放つ。正負のマテリアルが激突し弾ける。厳寒が灼熱を制した。
ジルボがペイント弾をドラゴンの顔目がけて投げ付けた。
「ヘイヘイ、こっちだドラゴンダイス!」
彼らが注意を引く間菜摘がミカに駆け寄り、ヒールを施す。
「……多少の怪我ならば、わたしの【癒し】で回復可能です。どうぞ存分に戦って下さい」
「……ありがとう」
穏やかに背を押す相手に、慣れない礼を述べるミカ。
その姿を横目にステラは、更なる攻撃に乗り出す。
「箱って言ってもドラゴンだし、やっぱりブレスは怖いよね……!」
正面攻撃は避け、狙うは右の翼。今みたいな不測の動きが出来ないよう、あそこを先に潰した方がいい。
「……いくよ、疾風剣!」
翼に刃が当たった。鱗で覆われていないだけにほかの箇所よりは脆いらしい。皮膜が切り裂かれた。続けて何度も切り刻む。確実に使用不能となるように。
「あ、そこ弱いんだ。いいこと知っちゃった」
にやりと笑んだ舞は左翼に切りつける。翼が骨ごと切り取られる。傷口が右目部分と同じように爛れて行く。
マリィアはひたすら撃ち続ける。目にも留まらぬ早さで特殊冷却弾コシチェイが装填された。効果が倍加した弾丸が、額、首、胸といった部分を襲う。
堅い鱗が細かに割れ、剥げ落ち始めた。首の部分に小さな穴が空いた。そこから赤い体液が噴出する。
動きが鈍ってきた所を見計らい、菜摘が、ホーリーライトを撃つ。
「……下手に手出しするより、本職の方に任せた方が効率は良いでしょうから、後方から援護させて頂きますね」
ドラゴンがブレスを放った。水月はワイヤーウィップを首に巻き付け、頭を下に向けさせる。焼かれるのが石畳だけですむように。続けてバンカーで前足の付け根を殴りつける。
「こことか、どうでしょうねー」
避難誘導を済ませたカチャが戻ってきて、攻撃に加わった。
「すいません、遅れまして!」
マテリアルを纏った竹刀で、塞がっていない片目を狙い突きまくる。ドラゴンは猛烈に吠えあげた。傷口から血をしたたらせつつ、ひときわ盛大にブレスを吹きあげる。
たとえ直にはかからなくてもその熱気で、前線にいるものの肌が焼ける。髪が焦げる。
「あー、もう、なかなか倒れないなあ」
舞は、効き目がありそうな箇所の目星をつけようとした。尻の穴は狙い所だが、尻尾でびっちり塞がれてしまっている。残念だがあれでは攻め切れまい。
(正攻法しかないか)
腹をくくり、ゴエモンに命じる。
「走り回って気を逸らせ!」
ゴエモンは言い付けどおり周囲を走り回り吠え回った。熱気で焼けない程度の距離を取って。
舞はドライブソードを構え、猛突進する。銃弾で傷ついたドラゴンの腹部目がけて、全身全霊全力を込めて。
「う、りゃああああ!」
がづんと、手が痺れるほどの反動が来た。しかしそこを押して、なお力を込める。逆立った鱗で手が傷ついたが、無視。
肉に刃が通った。勢いをつけて血が吹き出す。
が、あ、あ。
ドラゴンは回らぬ首を無理に曲げ、ブレス。ソラスがアイスボルトで、 ジルボがレイターコールドで、それを阻害する。ミカは大きく息を吸い、マテリアルを体に充満させ、刃を走らせる。狙うのは首回りだ。彼女本人は意識しないが、太刀筋が徐々に正確なものになってきている。
水月は彼女が攻撃に専念出来るよう、ウイップを振るって鼻面を引き回し、注意を引き続ける。
ジルボの弾丸が顎下の鱗を凍りつかせ、脆くさせた。
翼を屠ったステラが、そこを横一文字に切り裂く。
赤い肉がさらけ出された。
ソラスはドラゴンの口元に集中した攻撃を行う。アイスボルトが切れた後はウォーターシュートに切り替え、切れ目なくブレスの抑制に務める。
舞は残った方の左目を狙い、切り裂いた。
視界を塞がれたドラゴンは可能な限り体を揺り後かした。どこから攻撃が来るか分からなくなったという焦りが、その動きに現れている。
無きに等しい首が伸びたところをミカが斬る。カチャが突く。武器と鱗が血に染まる。
マリィアの銃弾が額を貫いた。運動中枢に障害が出たのか、おぼつかない足取りが更によたよたしたものとなる。しかし、そんな状態になってもなお、動きは止まらない。
ジルボはショットアンカーを、腹の傷口に打ち込んだ。
「おいおい、いい加減に往生決めてくれ!」
そのまま引き倒そうとしたが、逆に引きずられそうになる。力はまだ失われていない。
「おい皆、倒すの手伝ってくれ!」
舞が、ステラが、ミカが、カチャが、彼に手を貸した。
水月はワイヤーウイップをドラゴンに絡め、ジルボと同じ方向から引く。そちらにはマリィアとソラス、菜摘が手を貸した。
ドラゴンが転倒する。重い地響き。石畳が割れる。ステラがその体の上に昇り、改めてオートMURAMASAを構えた。
「それじゃあ、私が介錯してあげる!」
残ったマテリアルをすべて注いで、ドラゴンの首に深く切り込む。四角い頭が落ちた。ごとんと重い音を立てて。
「この形で相当の重さ、ってこれ絶対もっと大きかったよね……?」
マリィアはオフィスの外壁にある壁時計を見やり、不服そうな呟きを漏らす。
「まともな竜でもこの人数なら10分なのよ? 動けないアレが3分保つとは思っていなかったわ。被害を出さない、が難しかっただけ」
不慣れな戦闘を終え息を弾ませるミカは、端々から蒸発し消えて行く歪虚を刀でつつく。
「これが歪虚……これが戦い……」
水月が駆け寄ってくる。
「二人とも大丈夫ですかっ」
ステラはドラゴンの体から飛び降り、白い歯を見せる。
「大丈夫だよ!」
ミカも小さく頷いた。
とはいえ2人とも火傷や擦過傷が出来ている。特にミカのダメージが大きそうだ。水月は菜摘に声をかける。
「すいません、治療をお願い出来ますか」
「もちろん、いいですよ」
クルセイダーのかざす手から発される光が、患部を修復させる。
治療を終えたミカは水月に聞いた。真剣な口調で。
「水月、ボクの戦い、どうだったかな?」
「そうですね……太刀筋はとてもよかったと思います。ただ少し注意力が不足していたでしょうか。戦いにおいては攻撃だけでなく、守りも重要ですよ」
「ん、そっか…」
やり取りを温かく見守ったステラは、くいと水月の袖を引く。
「水月、なにか奢ってくれないかな? 激しい運動したからお腹すいちゃった」
続けて菜摘は、皆の傷を一通り癒していく。ドラゴンは早くも消滅していた。残るのは街路の凹みと焦げばかり。
「……それにしても突然降って湧いたように歪虚が現れるとは。ここがハンターオフィスであったから良かったようなものの、他の場所だったら大惨事でしたわね」
ジルボは軽く肩をすくめた。
「宅配テロかね。ハンターソサエティも恨み買ってんのかな」
マリィアは顎に手を当て考え込む。
(前も突然体半分の歪虚が落ちてきた事件があったわよね? ってことは同じ相手かしら)
事態が収まったと見てオフィスの中から、女職員が出てくる。
「ご苦労さまです、皆さん。まことにお手数ですが、今の事案の報告書を作成してくださいますか」
調子よく答え、オフィスへ戻って行くジルボ。
「はいはーい。ところでおねぇさ~ん、ちょっと良い話があるんだけどー」
水月、ミカ、ステラがそれに続く。
舞、カチャ、ソラスも。
「それにしても何だったのかな。最初の妙ちきりんな箱、ていうか結界」
「四角で結界ときたら、マゴイさん案件としか考えられないんですけど、私」
「まさかね、いくらあの人でもそこまでは…………あー、やりそうかも」
「でしょう?」
「箱を送り付けてきたってことは、歪虚の居た所にマゴイさんがいたってことか……生息地が分かれば我々も探しに行けるかな」
「え……。探しに行ってどうするつもりなんですかソラスさん」
「いえ、彼女、ユニオンの遺物を探してステーツマンを作ると言ってましたでしょう? そのあたり、もっと詳しく聞いてみたくて。ユニオンは謎が多いんですよね。機械を扱う方が生身の人を扱うより簡単でしょう? なのに彼女たちの社会は、どうも、後者のやり方に拘っているみたいで。脳をそのままに人の頭部を猫の頭部に作り替えるとか……設備と使用許可があれば元に戻せるそうですが」
舞たちの会話を聞いたマリィアは、片手を上げて聞き確かめた。
「ちょっといい? そのマゴイっていうのは、歪虚なの?」
「……歪虚ってわけじゃないんだよね、あの人」
「ええ。エバーグリーンの人間らしいです」
「生きているのか死んでいるのかが、いまいちはっきりしませんけど。見えてても実体がありませんし」
聞くだによく分からない相手だ。
渋面を作ったマリィアは両手を腰に当て、何もない空間に呼びかけた。少々の腹立ちを込めて。
「……聞こえる? ここに捨てるんじゃなくて今後はそこに私達を呼びなさい、マゴイとやら!」
マゴイが彼女の声を聞いていたかどうかは――定かでない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/05/30 21:18:22 |
|
![]() |
【相談卓】 葛音 ステラ(ka5122) 人間(リアルブルー)|19才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2017/06/03 21:00:22 |