ゲスト
(ka0000)
鉱床大崩落 ~ミヤサ~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/06/02 09:00
- 完成日
- 2017/06/15 18:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
十七歳のミヤサ・カミーはリアルブルー出身者。登山家を目指していた彼女だがクリムゾンウェストで選んだ職業は探検家である。
数年前に転移で飛ばされた場所はグラズヘイム王国南部の沖だった。
山登りしていたはずなのに突然海中へと叩き落とされたミヤサはパニックを起こす。彼女の命が助かったのは一緒に転移した五歳違いの兄サマトのおかげだ。
波間を漂っていたところ近くを航行していた帆船に拾われて、伯爵地【ニュー・ウォルター】の城塞都市マールへと辿り着く。
ミヤサとは違い、サマトはマール郊外の村にある鍛冶屋に弟子入りしていた。
月日が流れてミヤサは久しぶりに兄が住む村を訪ねる。ところが兄の姿はなかった。数日前、村から程近い場所に大穴が空く。その調査をしたところ雑魔の騒ぎが起きて失踪してしまったのである。
急いでハンターズソサエティー支部に連絡。ハンターの力を借りて無事に兄を救いだす。そして神事としての崖上りにも挑戦。ハンターと一緒に前人未踏の記録を打ち立てる。
そしてマールに住む商家の夫人からの依頼を受けた。ハンターの協力を得て廃墟と化した別荘から祖母の形見を見つけだす。その実力は噂となり、ついにマール城まで届くこととなる。
ミヤサは伯爵地領主の妹、ミリアにマール城へと招かれた。盗まれた黄金鎧の部位を探して欲しいとミリアに願われて承諾に至る。ハンター達と共に黄金の冑、胴の上半身を探しだす。
しばらくして予期せぬ事態となった。白髭の紳士『ボリウ・ウスタ』が最後の部位である黄金の左足を持参して城へと現れたからである。
ミリアは協力を受け入れながらも、嫌疑の目を向けていた。紆余曲折の末、やはりボリウは裏切った。彼にとって鉱物マテリアルの鉱床発見が目的だった。
鉱床探しに向かったミヤサとハンター達は、鍾乳洞のような石筍だらけの坑道を発見する。鉱物マテリアルと思しき青い鉄鉱石擬を探し求めての坑道探検は佳境に入っていた。
問題が発生して前回のテュリア鉱床坑道調査は中止となる。ミヤサが調べたD坑道ではこれといった成果は得られなかった。
E坑道内はとても狭い蟻の巣状であり、匍匐前進で進むしか方法はないと思われる。しかし老人紳士ボリウによる暴論によって道は拓かれた。「掘るのが難しいのなら、いっそ壊してしまえ」と。
地下空間を崩してしまえば、地表が陥没するのは道理。時間はかかるだろうが、後は露天掘りすればよいという乱暴なやり方である。
「他の坑道に影響はないのでしょうか?」
「専門家に検討させたところ、E坑道は他より離れていて、しかも地表から浅いところにありますの。他の坑道はより深いところにあるので、影響があっても少し崩れるぐらいですむようですの」
ミヤサとミリアはマール城の一室で計画を煮詰めていく。
まずはE坑道に大量の爆薬を仕掛けて、調査で確認された石柱を露わにさせなければならない。とても頑丈な石柱の支えがなくなれば、地下空間の維持はできなくなる。
「その役目、ミヤサ様とハンターの皆様に頼めるでしょうか」
「挑戦はしてみます。ただ確約までは……」
ミヤサは引き受けたものの自信がなかった。
潜った坑夫が試したところ、石柱の表面を鉄器で削ることすらできなかったという。ハンターの力がどこまで通用するのか未知数だ。また陥没した地表に魔法生物が這いだす可能性も高い。その両方に対応することが求められる。
ミヤサはハンターズソサエティー支部に出向いて、依頼手続きを行う。彼女の表情はとても険しかった。
数年前に転移で飛ばされた場所はグラズヘイム王国南部の沖だった。
山登りしていたはずなのに突然海中へと叩き落とされたミヤサはパニックを起こす。彼女の命が助かったのは一緒に転移した五歳違いの兄サマトのおかげだ。
波間を漂っていたところ近くを航行していた帆船に拾われて、伯爵地【ニュー・ウォルター】の城塞都市マールへと辿り着く。
ミヤサとは違い、サマトはマール郊外の村にある鍛冶屋に弟子入りしていた。
月日が流れてミヤサは久しぶりに兄が住む村を訪ねる。ところが兄の姿はなかった。数日前、村から程近い場所に大穴が空く。その調査をしたところ雑魔の騒ぎが起きて失踪してしまったのである。
急いでハンターズソサエティー支部に連絡。ハンターの力を借りて無事に兄を救いだす。そして神事としての崖上りにも挑戦。ハンターと一緒に前人未踏の記録を打ち立てる。
そしてマールに住む商家の夫人からの依頼を受けた。ハンターの協力を得て廃墟と化した別荘から祖母の形見を見つけだす。その実力は噂となり、ついにマール城まで届くこととなる。
ミヤサは伯爵地領主の妹、ミリアにマール城へと招かれた。盗まれた黄金鎧の部位を探して欲しいとミリアに願われて承諾に至る。ハンター達と共に黄金の冑、胴の上半身を探しだす。
しばらくして予期せぬ事態となった。白髭の紳士『ボリウ・ウスタ』が最後の部位である黄金の左足を持参して城へと現れたからである。
ミリアは協力を受け入れながらも、嫌疑の目を向けていた。紆余曲折の末、やはりボリウは裏切った。彼にとって鉱物マテリアルの鉱床発見が目的だった。
鉱床探しに向かったミヤサとハンター達は、鍾乳洞のような石筍だらけの坑道を発見する。鉱物マテリアルと思しき青い鉄鉱石擬を探し求めての坑道探検は佳境に入っていた。
問題が発生して前回のテュリア鉱床坑道調査は中止となる。ミヤサが調べたD坑道ではこれといった成果は得られなかった。
E坑道内はとても狭い蟻の巣状であり、匍匐前進で進むしか方法はないと思われる。しかし老人紳士ボリウによる暴論によって道は拓かれた。「掘るのが難しいのなら、いっそ壊してしまえ」と。
地下空間を崩してしまえば、地表が陥没するのは道理。時間はかかるだろうが、後は露天掘りすればよいという乱暴なやり方である。
「他の坑道に影響はないのでしょうか?」
「専門家に検討させたところ、E坑道は他より離れていて、しかも地表から浅いところにありますの。他の坑道はより深いところにあるので、影響があっても少し崩れるぐらいですむようですの」
ミヤサとミリアはマール城の一室で計画を煮詰めていく。
まずはE坑道に大量の爆薬を仕掛けて、調査で確認された石柱を露わにさせなければならない。とても頑丈な石柱の支えがなくなれば、地下空間の維持はできなくなる。
「その役目、ミヤサ様とハンターの皆様に頼めるでしょうか」
「挑戦はしてみます。ただ確約までは……」
ミヤサは引き受けたものの自信がなかった。
潜った坑夫が試したところ、石柱の表面を鉄器で削ることすらできなかったという。ハンターの力がどこまで通用するのか未知数だ。また陥没した地表に魔法生物が這いだす可能性も高い。その両方に対応することが求められる。
ミヤサはハンターズソサエティー支部に出向いて、依頼手続きを行う。彼女の表情はとても険しかった。
リプレイ本文
●
ミヤサとハンター五名、そして老人紳士ボリウを乗せた馬車が到着した翌朝。テュリア鉱床の現場はとても慌ただしかった。
この日に備えて、蟻の巣のような細い空洞ばかりのE坑道には、坑夫達の手によって爆薬が設置されている。三時間が経過して最終点検が終了。まもなく坑夫全員が地上へと避難し、銅鑼の音に合わせて点火が行われた。
爆発音と地響きは地上まで明瞭に届く。樹木の枝に留まっていた鳥達が一斉に飛び立って天空の一部を薄暗くする。地響きによって森の獣が暴れだし、猪が森林から飛びだす様子も見かけられた。
「すげェ発破だッたけどよォ。何も起きやしねェぞ。どうなってンだァ、地下の様子はよォ!」
万歳丸(ka5665)が地面を足蹴りにした後で屈み、拳でもガンガンと叩く。
「昨晩、坑夫に訊いたところによれば、相当な爆薬の量だった。普通ならこれで崩れるはずだが、それだけ石柱が頑丈だということだろう」
それまで馬車で寛いでいたロニ・カルディス(ka0551)が大地に飛びおりる。両手を腰に当てて、坑道の出入り口から吹きだす煙のような埃を眺めた。ゆっくりとだがその勢いは緩むことなく、周辺の視界が奪われるほど埃は立ちこめる。
「今更ですけど、坑道、壊してしまって、よかったのでしょうか」
「他に手立てがないので、仕方なくではあるのですよね」
ミオレスカ(ka3496)とミヤサは言葉を交わしながら老人紳士ボリウを見やる。
組立式の椅子へと腰かけて優雅に紅茶を飲んでいるボリウが、ミヤサには腹立たしく感じられた。まるで現在の様子を楽しんでいるかのように思えたからだ。
「爆破とは、また豪快な方法で坑道を攻略しますね」
夜桜 奏音(ka5754)もミヤサの元へと近づいて会話に加わる。占術を用いて占った結果と、坑夫による報告はほとんど変わらない。すべてが滞りなく順調に進んでいた。
三十分が過ぎて、ようやく煙が落ち着く。
先行した坑夫達によって安全が確かめられたところで、一同は地下のE坑道へ。途中、新たに灯した松明を壁の鉄籠へと差し込んでいった。脱出の際の目印として灯りが頼りない区間には、ランタンが追加される。
E坑道を塞いでいた土塀は爆発の衝撃で吹き飛ばされたようで跡形もない。その代わり、各坑道への出入り口となる空間は綺麗な状態で残っている。全員でE坑道の奥へ進むと、肝心の石柱は五十m先の土中の空間で聳えていた。
「ま、こういう土木作業もいいもんだ。特にハンター向きの奴はな」
石柱の根元で立ち止まったミリア・エインズワース(ka1287)が頭上を見あげる。両腕を広げても到底届かないほどの幅があり、足元から天井までの高さは目測で七m前後だ。これが大黒柱的な一本で、他にも細めの柱が何本か存在していた。
「かなり立派な石柱だ……。爆破でこれだけの空間が出現したということは、余程縦横無尽の細い穴でスカスカだったのだろう」
「そうでなければ、こんな状態にはならないでしょうね。この石柱、見かけは石筍のようで人工物には見えないのですが、作為的な印象も無きにしも非ずで」
「時間的余裕はないのだが、学術的にはどうなのだろうな。さて、すべてを日が沈むまでに片付けたほうがよいだろう。この大黒柱を折ってしまおうか」
「そうしましょう」
ロニとミヤサが石柱の強度を確かめる。表面は非常に硬く、試しにぶつけた硬い岩が粉々に砕けてしまった。石柱には傷一つつかない始末だ。
「こりゃ、楽しみが増えたッてもンだァ。細いのも合わせりャ全部で五本かァ」
「全部倒すのなら、奥から倒すべきだね」
万歳丸とミリアがすべての石柱を指さして数える。万歳丸は石柱の硬さに、にやつきがとまらない。
ミヤサが一同を集めて作戦の再確認をしようとしたところで、夜桜奏音が手を挙げた。
「嫌な予感がします。今し方占ってみたのですが、崩した後に何かしらの騒ぎが起こるとでました」
事前に憂慮された事態であり、これまでに幾度となく地下で魔法生物と遭遇している。夜桜奏音の進言には一理あった。
「もしもの敵の出現を想定して、石柱を壊す際にはそれなりに力を温存したほうがよさそうですね」
「細い柱もすべて倒すのがセオリーなのだろうが、この人数では体力の温存が難しい。賭けになるが、太い石柱だけを狙うのはどうだろうか? あれさえ折れてしまえば、耐えきれずに巻き込まれるはずだ」
思案したミヤサはロニの意見も参考にして、一番太い石柱だけを倒す作戦が採られる。
「万歳丸さんとミリアさん、頼めるだろうか?」
ミヤサがあらためて頼むと「そんな顔をするンじゃねェよ」「心配しないでいい」と二人は快く引き受けてくれた。
「私はもしもの対魔法生物用に力を温存させてもらいます。その代わり、お手伝いさせてもらいますね」
ミオレスカは魔導拳銃にペイント弾を装填する。ロニに頼まれた石柱の位置へと目印をつけた。
「俺ァ、未来の大英雄、万歳丸様よ! 天下無双の拳、受けてみなァ!」
ビシィ!と石柱を指した万歳丸が機甲拳鎚「無窮なるミザル」を構える。反撃してこない相手故に、力一杯の踏み込みと大振りで、巨大で無骨な拳を叩きつけた。
閉ざされた地下空間で激しく反響する打撃音。
赤くペイントされた石柱部分がわずかに砕けて、破片が根元へとこぼれ落ちる。坑夫が振りおろしたツルハシではまったく歯が立たなかった石柱に傷がついた。
とうの万歳丸は少々不満顔。二発目、三発目と叩いて、ウォーミングアップだと大見得を切った。そして一所でしばらく跳ね続けて、じっとペンキの印を睨みつける。
「全力で、行くぜェ!」
上半身を極端に傾けた姿勢で、万歳丸が地面すれすれから拳を振るう。腕が黄金に輝いて、体内を巡る《氣》が蒼い燐光となってほとばしりつつ石柱を包み込む。「呵呵ッ! 余さず、貫いてやらァ!」《巨龍殺》のインパクトの瞬間、わずかながら石柱は上へとずれる。その証拠に石柱の各所から石粉が吹きだし、天井の周囲がわずかに崩れて石や土塊が落下してきた。
「おいおい、一発で沈むと思ッたのによォ。石柱、オメェすげェな」
石柱破壊は始まったばかりである。ひとまず万歳丸は後ろに下がって、ミリア、ミヤサと交代した。
「こうやって取っかかりができれば、削りやすいな」
「木こりが幹を伐るように、刻みを入れられれば倒れやすいのですが」
ミリアは斬魔刀「祢々切丸」を構える。ミヤサも用意した斬魔刀で今回の依頼に望んでいた。赤いペイントで記された左右の位置に、二つの鉄塊が突き立てられる。すさかず二撃、三撃と続いて、万歳丸が砕いた部分が少しずつ広がっていく。
万歳丸のときもそうだったが、閉じられた空間特有の反響音は凄まじい。遠巻きに待機している坑夫達のほとんどは両手で耳を塞いだり、耳栓で防護していた。
そんな最中、ミオレスカが足元へ転がってきた破片の一つを拾いあげる。
「これは依頼書にあった鉄鉱石擬、マテリアル鉱石ですよね?」
このような素材で石柱が組成されているのならば、硬いのも道理だとミオレスカは納得がいく。詳しく調べれば、より面白いことがわかるかも知れない。そんなことを考えているとき、目の端にボリウの姿が映る。石柱を破壊しようとしている仲間達を、遠巻きに眺めているボリウの姿がとても不気味に感じられた。
(何かあったら大変だし。ここはミヤサさんのためにも)
ミオレスカはルビーのときと同じように、ボリウの監視を心に決める。
ミヤサが道中でこっそりと教えてくれた数々の出来事も含めると、ボリウの悪行は筋金入りだ。今回の石柱破壊もボリウの発案。何かしらの悪巧みを企んでいても不思議でなかった。
ミリアとミヤサによる連続剣戟の成果として、太い石柱に横一文字が刻まれる。まだ浅いものの深くしていけば、いずれ石柱の自重で倒れること必至。確実な壊し方といえた。
ロニは仲間達が石柱破壊に奮闘していたとき、地図を片手に坑道内を探索する。潜ったときの経路が最短であるかどうかを確認して、崩壊の最中でも的確に脱出できるよう、あらためてチョークで目印をつけていく。タイマツ等の灯りの再配置も忘れなかった。
E坑道へ戻ってきたとき、ちょうどミリアとミヤサが休憩に入ろうとしていた。
「それでは俺も刻ませてもらおう」
二人と入れ替わるようにロニが石柱の前へ立つ。深呼吸をし、錬金杖とパリィグローブといった武装で繰りだしたのはフォースクラッシュ。魔法威力が加わった一撃は強固な石柱をも穿つ。破片が飛び散るのをものともせずにロニは繰り返す。使える回数が多いのも、フォースクラッシュの長所だ。一文字にそって強打をたたき込み、刻みを深くしていく。
「とりあえず、石柱を手早く壊したいですね」
途中から夜桜奏音も加わって、魔導符剣「インストーラー」を突き立てる。石柱の見かけはあまり変わらないものの、確実に破壊へと近づいていく。
二十分ほど経ち、休憩を終えた仲間達と交代。
「これでっ!」
ミヤサが大振りの一撃を加えたとき、わずかだが石柱が揺れた。
「そろそろか」
ロニが頭上を仰いで目をこらす。これまで気づかなかったが、天井部分にうっすらとしたヒビが浮かびあがっている。
「こりゃ俺の出番だろォ」
腰をあげた万歳丸が意気揚々と大股歩きで石柱へと近づいた。すでに二回、巨龍殺は使用済み。「俺にぃ任せやがれェ!!」かけ声と共に残る一回にすべてを込めて、拳を叩き込んだ。数mmだけだが石柱が浮きあがり、それまで全員が壊し続けていた一文字の刻みに大きな亀裂が入る。
「では、急いで離脱するとしよう。鉱石と一緒に採掘されたくはないからな」
「脱出をしてください。直ちに地上へ!!」
ロニとミヤサが叫んで一同が一斉に退去しだす。
「いいから放っておけ! ここに残らせてくれ!」
「そうはいきませんから」
その場に留まろうとしたボリウをミオレスカが地上へ連れだそうとする。ミヤサも手伝って無理矢理に引きずっていく。
「ここは仕方がないな」
あまりに暴れるのでロニが気絶させてボリウを担いだ。ミオレスカとミヤサに支えられながら地上への坂道を駆けのぼる。
地響きは断続的に続いて、二度に渡る大揺れに襲われた。転げたり、壁に叩きつけられたりしながらも、一同は太陽光に照らされた地上へ。だがそこも安全な場所ではなく、地割れが発生している。坑道の出入り口付近からさらに走った。
雑木林まで距離にすればわずかだったが、全速力で駆けたので多くの者の息が上がる。誰もが生きた心地がしなかった。
地割れが走った大地が急激に凹んでいき、止まったかと思わせたところで一気に陥没する。もうもうと立ちのぼる土埃が広がり、周囲の視界は完全に奪われた。誰もが両目を瞑り、口元を何かしらで覆う。それでも咳は止まらない。
落ち着いてきたのは二十分が過ぎた頃。かすかに埃が漂う中、坑夫の一人が叫び声をあげた。陥没した辺りで変な物が蠢いていると。
「……ありゃなンだ? 噂の温泉ってやつか? ン?」
万歳丸が陥没の縁ギリギリまで近づくと、小石が転げ落ちていく。他の一同も埃の向こう側へと目をこらす。一見するだけではまるで赤い湖のよう。しかし陥没の大地を満たしていたのは水ではなかった。
「本当に魔法生物が……」
ミヤサが呟いた。
剥きだしの大地の隙間から、小個体の魔法生物が地表へと染みだしている。それらが陥没中央の赤い湖のような一塊へと融合されていく。
「見ろ、あれを! このボリウを虚仮にしてくれた天罰だ。ここでお前等はあれに溶かされて死ぬ運命だ。とっとと、死んでしまえ!!」
ボリウが両腕を挙げて、けたたましく笑いだす。転んで泥だらけになっても、なりふり構わずに声を張りあげる。血走った両目は狂気に満ちていた。
無言のまま近づいた万歳丸が、ボリウの片足を蹴りとばして空中で数回転させる。地面に叩きつけられて静かになったボリウの身は、坑夫達に任せられた。
「残念ながら、嫌な占いほど当たるものです」
「危惧していたとはいえ、本当になると厄介ですね」
夜桜奏音とミオレスカが戦闘の準備を進めながら言葉を交わす。
「こうなってしまったら仕方が無いよ。早々に叩いてしまえばいいだろう。そうすればすべて丸く収まるからね」
赤い湖のような魔法生物の集合体を長く眺めていたミリアが振り返る。その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
●
巨大な魔法生物に目などの器官があるのかはわからないが、埃が舞っている状態で本格的な活動はしていない。今が好機だと一同は動いた。
陥没の大地に溜まっている佇まいから、ミヤサが巨大な魔法生物を『大錬泥』と命名する。各自の配置につき次第、即座に攻撃が仕掛けられた。
「わらわらと湧いて、集まっていますね」
迫る粘手を夜桜奏音が地縛符で阻止。それをミリアが剣戟で散り散りに斬る。十数本まとめての粘手でも怯まずにミリアは大きく踏み込んだ。
「そうきたのなら!」
ミリアが身体全体を使って、まるで大旗を振りかざすように剣を使う。薙ぎ払いによって粘手が切りとられていく。
「どうやら一度切り離された部分は消滅するようですね」
ミオレスカの観察通り、大錬泥から切り離された部位は煙を立てて消えていく。例え本体の上に落ちても再び融合することはない。ただし、物を溶かす能力はしばらく残っているので注意が必要だ。
「逃がしはしませんよ」
夜桜奏音が放った五色光符陣が空中で展開。今も大地から染みだしている魔法生物が大錬泥と合体する前に複数の符で囲まれて、光で焼き尽くされる。わずかに生き残ったとしても歩みは非常に鈍くて、逃げおおせる前にミヤサ達が止めを刺してくれた。
「これ以上は大きくはさせません」
陥没の外縁を駆けた夜桜奏音が時折立ち止まり、五色光符陣で魔法生物の湧きと融合を食い止めていく。
錬金杖を掲げたロニも夜桜奏音に負けていなかった。十把一絡げに殲滅すべく、湧いた魔法生物の中心にセイクリッドフラッシュによる輝きの波動を注いで波打たせる。
蠢きながら煙と化して消えていく数々の魔法生物。共食いのように絡み合いつつも、やがては無へと還っていった。
そうしたことを繰り返しながらロニが呟く。「まるで荒波の海面のようだ」と。その言葉通り大錬泥は表面を大きくうねらせて、大岩を砕き、樹木をなぎ倒しながら、陥没の土地から這いだそうとしていた。
「これぐらいが限度でしょうか」
ミオレスカは魔法生物との距離を見定めつつフォールシュートで対抗する。銃弾をまるで雨のように降り注がせて、まとめて殲滅。幾筋もの消滅の煙を立ちのぼらせた。
程々の射程距離では魔導拳銃二挺を構えて、敵が遠方のときには強弓「アヨールタイ」で狙う。湧きだす魔法生物の個体が減ったところで、大錬泥本体へと攻撃目標を切り替える。
仲間達との協力によって、大錬泥の増加は最小限に抑えられたはず。ミオレスカの推測では、最大体積の三分の二に留められたのではないかといったところだ。
「とにかくだァ。あいつをぶっ飛ばせってこったなァ!!」
それまで数々の粘手と戦いつつ、様子を窺っていた万歳丸が動く。
「群体みてェなら、そういう生き物はまとめて吹き飛ばすに限るな!」
彼が使った技は《蒼麒麟》。練られた全身のマテリアルが機甲拳鎚へと集中し、黄金色に輝いた。それは蒼い燐光の氣へと変化し、放たれた拳は麒麟の姿を象って爆進していく。射程の端まで一直線に蒸気のような煙が立ちのぼった。それが消え去った後には、まるで刃物で切りとったように大錬泥の一部が消し飛んでいる。
口蓋等、どこにも見当たらないのにもかかわらず、大錬泥は啼いた。その轟きはミヤサやハンター達の鼓膜をつんざいた。
「このプレッシャーは」
心理的圧迫を感じたミヤサは一歩進むのも足が重い。すぐに動ける仲間はおらず、回復にはそれなりの時間がかかった。
それからまもなくして、大錬泥がまるで噴水のように赤い体液を上空を飛ばす。雨粒のように散らばって降り注いだそれは、肌に触れると焼けるように熱かった。
軒のように迫りあがる崖下や、葉が多く茂る大樹の根元へと避難する。水等で冷やしつつ、大錬泥の動きを窺う。
「丘の上に立ったとき、広大な湖のような赤い体内に青い核のような物を見たんです。あれが弱点でしょうか?」
「俺も目撃した。他に特徴的な部分は見当たらなかった。あれがきっと弱点だと思うのだが、何せ真っ平らな真ん中といった手に届きにくい位置だ。どうやって攻撃すればいいのか悩むところだな……」
ミオレスカとロニが提供してくれた情報を元にして、ミヤサが妙案をだす。
「ロニさんのセイクリッドフラッシュのような範囲攻撃を一斉に仕掛けて、大錬泥の身体に一筋の道を一時的に作りあげるんです。細かな粘手への遠隔攻撃はミオレスカさんにお願いできますか。道ができたら前衛である私とミリアさんが突っ走って、青い核に直接攻撃! というのはどうでしょう?」
突発的な状況故、他に妙案はなかった。これ以上赤い体液の雨に晒されたのなら、じり貧なのは必至。作戦を練っている余裕はない。
「まずはオレが、道を拓いてやんよォ。お前等全員、くたばるんじャねェぞォ!!」
万歳丸が再び蒼麒麟の輝きを満ちさせた。今度は可能な限りの連続攻撃。一撃目の直線攻撃を済ませてから前進して二撃目を放つ。万歳丸を襲う粘手はミリアとミヤサがすべて引き受けて斬り落とした。大錬泥の平らな身体に一筋の道ができあっていくものの、まだ核には手が届かない。三撃目を撃った後の範囲攻撃は仲間達に託される。
「細かな敵は任せてください」
ミオレスカは強弓で援護射撃。遠方の粘手も一射一殺して拓けた道を全力で守った。高加速射撃の矢が切り裂きながら宙を走る。夜桜奏音の背中に突き刺さろうとした槍状の粘手を斜め横からの貫通の勢いで阻止した。
「俺は右側だ。奏音は左側を頼む!」
「大丈夫です。任せてくださいね」
ロニはセイクリッドフラッシュの波動でわずかに足りない青い核までの距離を削っていく。夜桜奏音も同様だ。五色光符陣の符を舞わせてごっそりと大錬泥の一部を削り取っていった。
こうして前衛二人のための突進の道が切り拓かれた。走るミリアとミヤサ。延びてくる粘手の攻撃をロニのジャッジメントと、夜桜奏音の地縛符が阻止。ミオレスカの矢も何処かに縫い止めていく。援護しようとしている間を、万歳丸やロニが守る。
「もう一歩。ここはボクに任せてね」
目前まで辿り着いたとき、ミリアの薙ぎ払いによって青い巨大な核が露わに。さらに神速刺突の一突が核へとヒビを入れた。
「こいつを壊せば!」
強く踏み込んだミヤサの剣戟も核へと届く。
一直線に駆けてきた万歳丸の拳がめり込む。ミオレスカが放った一矢が最後の一押しとなって青い核は崩壊した。
大錬泥の巨体が徐々に崩れていく。
一同は大急ぎでその場からの脱出を図る。大錬泥が消滅する際の煙は痺れる程度の害はあったものの、足止めをするほどの効力はない。陥没の底から脱出しようとする一同に坑夫達が手を貸して引き揚げてくれた。
激しく煙を立ちのぼらせながら消えていく大錬泥。自前のヒーリング手段を持つ者は別として、坑夫の管理者の中にいた回復の手段を持つ者がいくらか治療してくれる。
「後のことは坑夫のみなさんに任せましょうか」
ミヤサの考えに仲間の誰もが賛同してくれた。一晩を現地の宿舎で過ごして翌朝には帰路に就く。帰り際に眺めた陥没個所には、大錬泥の一片すら残っていなかった。
●
一行が退去した後、坑夫達によってテュリア鉱床の点検が行われる。E坑道は完全に陥没していた。AからD坑道に関しては一部が崩れていたものの、掘削に影響はない程度で済んでいる。
またE坑道跡の露天掘りについても問題点は皆無だった。大錬泥はすべて消滅し、また坑道のすべてから魔法生物は一掃されていた。
これからの掘削作業が大幅に楽になると坑道関係者一同は喜んだ。マテリアル鉱床という特殊な状況下なので、今後も絶対的な安全が保証されたわけではないのだが、それらについては別の安全対策がとられるはずである。
テュリア鉱床の掘削事業には明るい未来が待っていた。
一連の発端といえる老紳士ボリウ・ウスタが自暴自棄から脱するには、長い年月が必要だと診断される。ミヤサが幽閉の彼を見舞ったところ、大錬泥との戦いの前後について、すべてを忘れ去っていた。
領主のエルブン家に仇をなし、非合法な手腕で私腹を肥やしたのがボリウだ。財産没収は当然の帰結であり、また牢に幽閉されることも当然の処置といえる。
だが領主の妹であるミリア・エルブンの温情によって、命がとられることはなかった。監視付きながら質素な住まいと官の仕事が与えられる。真意と経過はどうであれ、テュリア鉱床の発見にボリウが尽力したことは間違いのない事実だったからだ。
その後のテュリア鉱床についてだが、採掘事業に見合うだけのマテリアル鉱石の埋蔵量予測が立てられる。地中奥深くに眠っている青い鉄鉱石擬は宝の山となる。伯爵地【ニュー・ウォルター】は新規の豊富な地下資源を手に入れたのだった。
●
時は遡って一行が城塞都市マールへの帰路の最中。傷つき、または疲労が溜まっていたはずなのに一同の表情は明るかった。
「どうにか鉱床の道筋が立てられたようです。ミリア・エルブン嬢との約束を果たせそうでよかった」
ミヤサは馬車に揺られながら窓の外を眺める。すでに森の向こうだが、その方角にあるのはテュリア鉱床だ。
「事が無事にすんでよかったです。でも、ちょっと寂しいような気もしますね。ミヤサさんは、これからどうされますか?」
お腹が空いていたミオレスカが大きなパンを頂きながら、ミヤサに問いかける。
「当分の間はサマト兄さんが住む村で過ごそうかなと考えています。今は鍛冶屋の兄さんなので、きっと領内でのマテリアル鉱石発見に心躍らせているはず。みなさんが持っている武器とかに興味があったようなので、もしかしたらそちらの道に進むつもりなのかも。そうなら、私でも役立てることがあるんじゃないかって。充分に休んでこれからを考えるつもりですが、気が向けば、また何処かに冒険へ出かけようと思っています」
ミオレスカと話すミヤサは笑っていた。
「これで片がついたと思いますが、また湧いたら困りますし、一応占っておきましょう」
夜桜奏音は取りだした符を棚に置いて占っていく。
「……大丈夫なようですね。あの鉱床周辺での大事件は当分起こらないでしょう」
夜桜奏音がだした占いの結果に多くの者が安堵した表情を浮かべる。ただ一人、万歳丸を除いては。
「魔法生物は別にいなくてもかまわねェけどさ。石柱は? なァ! 他に石柱はねェのか?!」
「石柱……、ちょっと待ってくださいね」
万歳丸のリクエストで夜桜奏音はもう一度占ってみる。
「残念ながら、ないですね。少なくともあのテュリア鉱床には」
「そりゃねェぜ! なあ、ミヤサ! ちょいと探してきてくれよォ。なンならまとめてぶっ飛ばしていってもいいぜ!!」
万歳丸の矛先は夜桜奏音からミヤサへと移った。
「そうですね。坑道の責任者に話しておきますよ。もし似たような石柱が見つかったときにはハンターズソサエティ支部に連絡をして欲しいって」
ミヤサは万歳丸の冗談につき合って一緒に笑う。
無理筋のお願いだというのは万歳丸も最初からわかっている。もしもがあれば楽しい修行になるだろうし、それよりも何より、こうやって馬鹿話をしているのが何より楽しい。
「大錬泥に突っ込んでいくところは覚悟を決めましたよ。本意ではありませんけど、勇敢な者だけが生き残ることができるって感じだね」
ミリアは戦いのクライマックスを思いだす。無理矢理に大錬泥の体内に拓かれた道を突っ切って、核を壊すときの緊張感は中々のものであったと。
「作戦を考えた私がいうのもなんですが、結構冷や冷やものでした。いつ道が閉じるのかわかりませんし」
遠慮気味な言葉を選んでいたミヤサだが、さきほどよりずっと笑っている。彼女にとっても興味深い一幕だったようだ。
「最初は随分と思い切った手を打つものだと思ったのだ。いろいろとあったが、その期待に応えられてよかった」
ロニが水を飲もうとしたところ、水筒の中身は空だった。ミヤサが差しだした水筒を受け取り、それでロニは乾いた喉を潤す。
城塞都市マールへと帰還したところで、城へと報告に向かう。
「みなさん、よくぞやってくれましたの」
領主の妹、ミリア・エルブンが出迎えてくれた。祝いの席を用意したいところが、今は別件で忙しいようである。
「あらためて、みなさんと一緒に祝いたいと考えていますの。兄の領主アリーアもお会いしたいとのことなので、そのときには是非に出資してもらえると嬉しいのです」
ミリア・エルブンが一同に深い感謝の意を伝える。
マール城で一晩を過ごしてからリゼリオへ。一緒に転移門で帰還する一同であった。
ミヤサとハンター五名、そして老人紳士ボリウを乗せた馬車が到着した翌朝。テュリア鉱床の現場はとても慌ただしかった。
この日に備えて、蟻の巣のような細い空洞ばかりのE坑道には、坑夫達の手によって爆薬が設置されている。三時間が経過して最終点検が終了。まもなく坑夫全員が地上へと避難し、銅鑼の音に合わせて点火が行われた。
爆発音と地響きは地上まで明瞭に届く。樹木の枝に留まっていた鳥達が一斉に飛び立って天空の一部を薄暗くする。地響きによって森の獣が暴れだし、猪が森林から飛びだす様子も見かけられた。
「すげェ発破だッたけどよォ。何も起きやしねェぞ。どうなってンだァ、地下の様子はよォ!」
万歳丸(ka5665)が地面を足蹴りにした後で屈み、拳でもガンガンと叩く。
「昨晩、坑夫に訊いたところによれば、相当な爆薬の量だった。普通ならこれで崩れるはずだが、それだけ石柱が頑丈だということだろう」
それまで馬車で寛いでいたロニ・カルディス(ka0551)が大地に飛びおりる。両手を腰に当てて、坑道の出入り口から吹きだす煙のような埃を眺めた。ゆっくりとだがその勢いは緩むことなく、周辺の視界が奪われるほど埃は立ちこめる。
「今更ですけど、坑道、壊してしまって、よかったのでしょうか」
「他に手立てがないので、仕方なくではあるのですよね」
ミオレスカ(ka3496)とミヤサは言葉を交わしながら老人紳士ボリウを見やる。
組立式の椅子へと腰かけて優雅に紅茶を飲んでいるボリウが、ミヤサには腹立たしく感じられた。まるで現在の様子を楽しんでいるかのように思えたからだ。
「爆破とは、また豪快な方法で坑道を攻略しますね」
夜桜 奏音(ka5754)もミヤサの元へと近づいて会話に加わる。占術を用いて占った結果と、坑夫による報告はほとんど変わらない。すべてが滞りなく順調に進んでいた。
三十分が過ぎて、ようやく煙が落ち着く。
先行した坑夫達によって安全が確かめられたところで、一同は地下のE坑道へ。途中、新たに灯した松明を壁の鉄籠へと差し込んでいった。脱出の際の目印として灯りが頼りない区間には、ランタンが追加される。
E坑道を塞いでいた土塀は爆発の衝撃で吹き飛ばされたようで跡形もない。その代わり、各坑道への出入り口となる空間は綺麗な状態で残っている。全員でE坑道の奥へ進むと、肝心の石柱は五十m先の土中の空間で聳えていた。
「ま、こういう土木作業もいいもんだ。特にハンター向きの奴はな」
石柱の根元で立ち止まったミリア・エインズワース(ka1287)が頭上を見あげる。両腕を広げても到底届かないほどの幅があり、足元から天井までの高さは目測で七m前後だ。これが大黒柱的な一本で、他にも細めの柱が何本か存在していた。
「かなり立派な石柱だ……。爆破でこれだけの空間が出現したということは、余程縦横無尽の細い穴でスカスカだったのだろう」
「そうでなければ、こんな状態にはならないでしょうね。この石柱、見かけは石筍のようで人工物には見えないのですが、作為的な印象も無きにしも非ずで」
「時間的余裕はないのだが、学術的にはどうなのだろうな。さて、すべてを日が沈むまでに片付けたほうがよいだろう。この大黒柱を折ってしまおうか」
「そうしましょう」
ロニとミヤサが石柱の強度を確かめる。表面は非常に硬く、試しにぶつけた硬い岩が粉々に砕けてしまった。石柱には傷一つつかない始末だ。
「こりゃ、楽しみが増えたッてもンだァ。細いのも合わせりャ全部で五本かァ」
「全部倒すのなら、奥から倒すべきだね」
万歳丸とミリアがすべての石柱を指さして数える。万歳丸は石柱の硬さに、にやつきがとまらない。
ミヤサが一同を集めて作戦の再確認をしようとしたところで、夜桜奏音が手を挙げた。
「嫌な予感がします。今し方占ってみたのですが、崩した後に何かしらの騒ぎが起こるとでました」
事前に憂慮された事態であり、これまでに幾度となく地下で魔法生物と遭遇している。夜桜奏音の進言には一理あった。
「もしもの敵の出現を想定して、石柱を壊す際にはそれなりに力を温存したほうがよさそうですね」
「細い柱もすべて倒すのがセオリーなのだろうが、この人数では体力の温存が難しい。賭けになるが、太い石柱だけを狙うのはどうだろうか? あれさえ折れてしまえば、耐えきれずに巻き込まれるはずだ」
思案したミヤサはロニの意見も参考にして、一番太い石柱だけを倒す作戦が採られる。
「万歳丸さんとミリアさん、頼めるだろうか?」
ミヤサがあらためて頼むと「そんな顔をするンじゃねェよ」「心配しないでいい」と二人は快く引き受けてくれた。
「私はもしもの対魔法生物用に力を温存させてもらいます。その代わり、お手伝いさせてもらいますね」
ミオレスカは魔導拳銃にペイント弾を装填する。ロニに頼まれた石柱の位置へと目印をつけた。
「俺ァ、未来の大英雄、万歳丸様よ! 天下無双の拳、受けてみなァ!」
ビシィ!と石柱を指した万歳丸が機甲拳鎚「無窮なるミザル」を構える。反撃してこない相手故に、力一杯の踏み込みと大振りで、巨大で無骨な拳を叩きつけた。
閉ざされた地下空間で激しく反響する打撃音。
赤くペイントされた石柱部分がわずかに砕けて、破片が根元へとこぼれ落ちる。坑夫が振りおろしたツルハシではまったく歯が立たなかった石柱に傷がついた。
とうの万歳丸は少々不満顔。二発目、三発目と叩いて、ウォーミングアップだと大見得を切った。そして一所でしばらく跳ね続けて、じっとペンキの印を睨みつける。
「全力で、行くぜェ!」
上半身を極端に傾けた姿勢で、万歳丸が地面すれすれから拳を振るう。腕が黄金に輝いて、体内を巡る《氣》が蒼い燐光となってほとばしりつつ石柱を包み込む。「呵呵ッ! 余さず、貫いてやらァ!」《巨龍殺》のインパクトの瞬間、わずかながら石柱は上へとずれる。その証拠に石柱の各所から石粉が吹きだし、天井の周囲がわずかに崩れて石や土塊が落下してきた。
「おいおい、一発で沈むと思ッたのによォ。石柱、オメェすげェな」
石柱破壊は始まったばかりである。ひとまず万歳丸は後ろに下がって、ミリア、ミヤサと交代した。
「こうやって取っかかりができれば、削りやすいな」
「木こりが幹を伐るように、刻みを入れられれば倒れやすいのですが」
ミリアは斬魔刀「祢々切丸」を構える。ミヤサも用意した斬魔刀で今回の依頼に望んでいた。赤いペイントで記された左右の位置に、二つの鉄塊が突き立てられる。すさかず二撃、三撃と続いて、万歳丸が砕いた部分が少しずつ広がっていく。
万歳丸のときもそうだったが、閉じられた空間特有の反響音は凄まじい。遠巻きに待機している坑夫達のほとんどは両手で耳を塞いだり、耳栓で防護していた。
そんな最中、ミオレスカが足元へ転がってきた破片の一つを拾いあげる。
「これは依頼書にあった鉄鉱石擬、マテリアル鉱石ですよね?」
このような素材で石柱が組成されているのならば、硬いのも道理だとミオレスカは納得がいく。詳しく調べれば、より面白いことがわかるかも知れない。そんなことを考えているとき、目の端にボリウの姿が映る。石柱を破壊しようとしている仲間達を、遠巻きに眺めているボリウの姿がとても不気味に感じられた。
(何かあったら大変だし。ここはミヤサさんのためにも)
ミオレスカはルビーのときと同じように、ボリウの監視を心に決める。
ミヤサが道中でこっそりと教えてくれた数々の出来事も含めると、ボリウの悪行は筋金入りだ。今回の石柱破壊もボリウの発案。何かしらの悪巧みを企んでいても不思議でなかった。
ミリアとミヤサによる連続剣戟の成果として、太い石柱に横一文字が刻まれる。まだ浅いものの深くしていけば、いずれ石柱の自重で倒れること必至。確実な壊し方といえた。
ロニは仲間達が石柱破壊に奮闘していたとき、地図を片手に坑道内を探索する。潜ったときの経路が最短であるかどうかを確認して、崩壊の最中でも的確に脱出できるよう、あらためてチョークで目印をつけていく。タイマツ等の灯りの再配置も忘れなかった。
E坑道へ戻ってきたとき、ちょうどミリアとミヤサが休憩に入ろうとしていた。
「それでは俺も刻ませてもらおう」
二人と入れ替わるようにロニが石柱の前へ立つ。深呼吸をし、錬金杖とパリィグローブといった武装で繰りだしたのはフォースクラッシュ。魔法威力が加わった一撃は強固な石柱をも穿つ。破片が飛び散るのをものともせずにロニは繰り返す。使える回数が多いのも、フォースクラッシュの長所だ。一文字にそって強打をたたき込み、刻みを深くしていく。
「とりあえず、石柱を手早く壊したいですね」
途中から夜桜奏音も加わって、魔導符剣「インストーラー」を突き立てる。石柱の見かけはあまり変わらないものの、確実に破壊へと近づいていく。
二十分ほど経ち、休憩を終えた仲間達と交代。
「これでっ!」
ミヤサが大振りの一撃を加えたとき、わずかだが石柱が揺れた。
「そろそろか」
ロニが頭上を仰いで目をこらす。これまで気づかなかったが、天井部分にうっすらとしたヒビが浮かびあがっている。
「こりゃ俺の出番だろォ」
腰をあげた万歳丸が意気揚々と大股歩きで石柱へと近づいた。すでに二回、巨龍殺は使用済み。「俺にぃ任せやがれェ!!」かけ声と共に残る一回にすべてを込めて、拳を叩き込んだ。数mmだけだが石柱が浮きあがり、それまで全員が壊し続けていた一文字の刻みに大きな亀裂が入る。
「では、急いで離脱するとしよう。鉱石と一緒に採掘されたくはないからな」
「脱出をしてください。直ちに地上へ!!」
ロニとミヤサが叫んで一同が一斉に退去しだす。
「いいから放っておけ! ここに残らせてくれ!」
「そうはいきませんから」
その場に留まろうとしたボリウをミオレスカが地上へ連れだそうとする。ミヤサも手伝って無理矢理に引きずっていく。
「ここは仕方がないな」
あまりに暴れるのでロニが気絶させてボリウを担いだ。ミオレスカとミヤサに支えられながら地上への坂道を駆けのぼる。
地響きは断続的に続いて、二度に渡る大揺れに襲われた。転げたり、壁に叩きつけられたりしながらも、一同は太陽光に照らされた地上へ。だがそこも安全な場所ではなく、地割れが発生している。坑道の出入り口付近からさらに走った。
雑木林まで距離にすればわずかだったが、全速力で駆けたので多くの者の息が上がる。誰もが生きた心地がしなかった。
地割れが走った大地が急激に凹んでいき、止まったかと思わせたところで一気に陥没する。もうもうと立ちのぼる土埃が広がり、周囲の視界は完全に奪われた。誰もが両目を瞑り、口元を何かしらで覆う。それでも咳は止まらない。
落ち着いてきたのは二十分が過ぎた頃。かすかに埃が漂う中、坑夫の一人が叫び声をあげた。陥没した辺りで変な物が蠢いていると。
「……ありゃなンだ? 噂の温泉ってやつか? ン?」
万歳丸が陥没の縁ギリギリまで近づくと、小石が転げ落ちていく。他の一同も埃の向こう側へと目をこらす。一見するだけではまるで赤い湖のよう。しかし陥没の大地を満たしていたのは水ではなかった。
「本当に魔法生物が……」
ミヤサが呟いた。
剥きだしの大地の隙間から、小個体の魔法生物が地表へと染みだしている。それらが陥没中央の赤い湖のような一塊へと融合されていく。
「見ろ、あれを! このボリウを虚仮にしてくれた天罰だ。ここでお前等はあれに溶かされて死ぬ運命だ。とっとと、死んでしまえ!!」
ボリウが両腕を挙げて、けたたましく笑いだす。転んで泥だらけになっても、なりふり構わずに声を張りあげる。血走った両目は狂気に満ちていた。
無言のまま近づいた万歳丸が、ボリウの片足を蹴りとばして空中で数回転させる。地面に叩きつけられて静かになったボリウの身は、坑夫達に任せられた。
「残念ながら、嫌な占いほど当たるものです」
「危惧していたとはいえ、本当になると厄介ですね」
夜桜奏音とミオレスカが戦闘の準備を進めながら言葉を交わす。
「こうなってしまったら仕方が無いよ。早々に叩いてしまえばいいだろう。そうすればすべて丸く収まるからね」
赤い湖のような魔法生物の集合体を長く眺めていたミリアが振り返る。その表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
●
巨大な魔法生物に目などの器官があるのかはわからないが、埃が舞っている状態で本格的な活動はしていない。今が好機だと一同は動いた。
陥没の大地に溜まっている佇まいから、ミヤサが巨大な魔法生物を『大錬泥』と命名する。各自の配置につき次第、即座に攻撃が仕掛けられた。
「わらわらと湧いて、集まっていますね」
迫る粘手を夜桜奏音が地縛符で阻止。それをミリアが剣戟で散り散りに斬る。十数本まとめての粘手でも怯まずにミリアは大きく踏み込んだ。
「そうきたのなら!」
ミリアが身体全体を使って、まるで大旗を振りかざすように剣を使う。薙ぎ払いによって粘手が切りとられていく。
「どうやら一度切り離された部分は消滅するようですね」
ミオレスカの観察通り、大錬泥から切り離された部位は煙を立てて消えていく。例え本体の上に落ちても再び融合することはない。ただし、物を溶かす能力はしばらく残っているので注意が必要だ。
「逃がしはしませんよ」
夜桜奏音が放った五色光符陣が空中で展開。今も大地から染みだしている魔法生物が大錬泥と合体する前に複数の符で囲まれて、光で焼き尽くされる。わずかに生き残ったとしても歩みは非常に鈍くて、逃げおおせる前にミヤサ達が止めを刺してくれた。
「これ以上は大きくはさせません」
陥没の外縁を駆けた夜桜奏音が時折立ち止まり、五色光符陣で魔法生物の湧きと融合を食い止めていく。
錬金杖を掲げたロニも夜桜奏音に負けていなかった。十把一絡げに殲滅すべく、湧いた魔法生物の中心にセイクリッドフラッシュによる輝きの波動を注いで波打たせる。
蠢きながら煙と化して消えていく数々の魔法生物。共食いのように絡み合いつつも、やがては無へと還っていった。
そうしたことを繰り返しながらロニが呟く。「まるで荒波の海面のようだ」と。その言葉通り大錬泥は表面を大きくうねらせて、大岩を砕き、樹木をなぎ倒しながら、陥没の土地から這いだそうとしていた。
「これぐらいが限度でしょうか」
ミオレスカは魔法生物との距離を見定めつつフォールシュートで対抗する。銃弾をまるで雨のように降り注がせて、まとめて殲滅。幾筋もの消滅の煙を立ちのぼらせた。
程々の射程距離では魔導拳銃二挺を構えて、敵が遠方のときには強弓「アヨールタイ」で狙う。湧きだす魔法生物の個体が減ったところで、大錬泥本体へと攻撃目標を切り替える。
仲間達との協力によって、大錬泥の増加は最小限に抑えられたはず。ミオレスカの推測では、最大体積の三分の二に留められたのではないかといったところだ。
「とにかくだァ。あいつをぶっ飛ばせってこったなァ!!」
それまで数々の粘手と戦いつつ、様子を窺っていた万歳丸が動く。
「群体みてェなら、そういう生き物はまとめて吹き飛ばすに限るな!」
彼が使った技は《蒼麒麟》。練られた全身のマテリアルが機甲拳鎚へと集中し、黄金色に輝いた。それは蒼い燐光の氣へと変化し、放たれた拳は麒麟の姿を象って爆進していく。射程の端まで一直線に蒸気のような煙が立ちのぼった。それが消え去った後には、まるで刃物で切りとったように大錬泥の一部が消し飛んでいる。
口蓋等、どこにも見当たらないのにもかかわらず、大錬泥は啼いた。その轟きはミヤサやハンター達の鼓膜をつんざいた。
「このプレッシャーは」
心理的圧迫を感じたミヤサは一歩進むのも足が重い。すぐに動ける仲間はおらず、回復にはそれなりの時間がかかった。
それからまもなくして、大錬泥がまるで噴水のように赤い体液を上空を飛ばす。雨粒のように散らばって降り注いだそれは、肌に触れると焼けるように熱かった。
軒のように迫りあがる崖下や、葉が多く茂る大樹の根元へと避難する。水等で冷やしつつ、大錬泥の動きを窺う。
「丘の上に立ったとき、広大な湖のような赤い体内に青い核のような物を見たんです。あれが弱点でしょうか?」
「俺も目撃した。他に特徴的な部分は見当たらなかった。あれがきっと弱点だと思うのだが、何せ真っ平らな真ん中といった手に届きにくい位置だ。どうやって攻撃すればいいのか悩むところだな……」
ミオレスカとロニが提供してくれた情報を元にして、ミヤサが妙案をだす。
「ロニさんのセイクリッドフラッシュのような範囲攻撃を一斉に仕掛けて、大錬泥の身体に一筋の道を一時的に作りあげるんです。細かな粘手への遠隔攻撃はミオレスカさんにお願いできますか。道ができたら前衛である私とミリアさんが突っ走って、青い核に直接攻撃! というのはどうでしょう?」
突発的な状況故、他に妙案はなかった。これ以上赤い体液の雨に晒されたのなら、じり貧なのは必至。作戦を練っている余裕はない。
「まずはオレが、道を拓いてやんよォ。お前等全員、くたばるんじャねェぞォ!!」
万歳丸が再び蒼麒麟の輝きを満ちさせた。今度は可能な限りの連続攻撃。一撃目の直線攻撃を済ませてから前進して二撃目を放つ。万歳丸を襲う粘手はミリアとミヤサがすべて引き受けて斬り落とした。大錬泥の平らな身体に一筋の道ができあっていくものの、まだ核には手が届かない。三撃目を撃った後の範囲攻撃は仲間達に託される。
「細かな敵は任せてください」
ミオレスカは強弓で援護射撃。遠方の粘手も一射一殺して拓けた道を全力で守った。高加速射撃の矢が切り裂きながら宙を走る。夜桜奏音の背中に突き刺さろうとした槍状の粘手を斜め横からの貫通の勢いで阻止した。
「俺は右側だ。奏音は左側を頼む!」
「大丈夫です。任せてくださいね」
ロニはセイクリッドフラッシュの波動でわずかに足りない青い核までの距離を削っていく。夜桜奏音も同様だ。五色光符陣の符を舞わせてごっそりと大錬泥の一部を削り取っていった。
こうして前衛二人のための突進の道が切り拓かれた。走るミリアとミヤサ。延びてくる粘手の攻撃をロニのジャッジメントと、夜桜奏音の地縛符が阻止。ミオレスカの矢も何処かに縫い止めていく。援護しようとしている間を、万歳丸やロニが守る。
「もう一歩。ここはボクに任せてね」
目前まで辿り着いたとき、ミリアの薙ぎ払いによって青い巨大な核が露わに。さらに神速刺突の一突が核へとヒビを入れた。
「こいつを壊せば!」
強く踏み込んだミヤサの剣戟も核へと届く。
一直線に駆けてきた万歳丸の拳がめり込む。ミオレスカが放った一矢が最後の一押しとなって青い核は崩壊した。
大錬泥の巨体が徐々に崩れていく。
一同は大急ぎでその場からの脱出を図る。大錬泥が消滅する際の煙は痺れる程度の害はあったものの、足止めをするほどの効力はない。陥没の底から脱出しようとする一同に坑夫達が手を貸して引き揚げてくれた。
激しく煙を立ちのぼらせながら消えていく大錬泥。自前のヒーリング手段を持つ者は別として、坑夫の管理者の中にいた回復の手段を持つ者がいくらか治療してくれる。
「後のことは坑夫のみなさんに任せましょうか」
ミヤサの考えに仲間の誰もが賛同してくれた。一晩を現地の宿舎で過ごして翌朝には帰路に就く。帰り際に眺めた陥没個所には、大錬泥の一片すら残っていなかった。
●
一行が退去した後、坑夫達によってテュリア鉱床の点検が行われる。E坑道は完全に陥没していた。AからD坑道に関しては一部が崩れていたものの、掘削に影響はない程度で済んでいる。
またE坑道跡の露天掘りについても問題点は皆無だった。大錬泥はすべて消滅し、また坑道のすべてから魔法生物は一掃されていた。
これからの掘削作業が大幅に楽になると坑道関係者一同は喜んだ。マテリアル鉱床という特殊な状況下なので、今後も絶対的な安全が保証されたわけではないのだが、それらについては別の安全対策がとられるはずである。
テュリア鉱床の掘削事業には明るい未来が待っていた。
一連の発端といえる老紳士ボリウ・ウスタが自暴自棄から脱するには、長い年月が必要だと診断される。ミヤサが幽閉の彼を見舞ったところ、大錬泥との戦いの前後について、すべてを忘れ去っていた。
領主のエルブン家に仇をなし、非合法な手腕で私腹を肥やしたのがボリウだ。財産没収は当然の帰結であり、また牢に幽閉されることも当然の処置といえる。
だが領主の妹であるミリア・エルブンの温情によって、命がとられることはなかった。監視付きながら質素な住まいと官の仕事が与えられる。真意と経過はどうであれ、テュリア鉱床の発見にボリウが尽力したことは間違いのない事実だったからだ。
その後のテュリア鉱床についてだが、採掘事業に見合うだけのマテリアル鉱石の埋蔵量予測が立てられる。地中奥深くに眠っている青い鉄鉱石擬は宝の山となる。伯爵地【ニュー・ウォルター】は新規の豊富な地下資源を手に入れたのだった。
●
時は遡って一行が城塞都市マールへの帰路の最中。傷つき、または疲労が溜まっていたはずなのに一同の表情は明るかった。
「どうにか鉱床の道筋が立てられたようです。ミリア・エルブン嬢との約束を果たせそうでよかった」
ミヤサは馬車に揺られながら窓の外を眺める。すでに森の向こうだが、その方角にあるのはテュリア鉱床だ。
「事が無事にすんでよかったです。でも、ちょっと寂しいような気もしますね。ミヤサさんは、これからどうされますか?」
お腹が空いていたミオレスカが大きなパンを頂きながら、ミヤサに問いかける。
「当分の間はサマト兄さんが住む村で過ごそうかなと考えています。今は鍛冶屋の兄さんなので、きっと領内でのマテリアル鉱石発見に心躍らせているはず。みなさんが持っている武器とかに興味があったようなので、もしかしたらそちらの道に進むつもりなのかも。そうなら、私でも役立てることがあるんじゃないかって。充分に休んでこれからを考えるつもりですが、気が向けば、また何処かに冒険へ出かけようと思っています」
ミオレスカと話すミヤサは笑っていた。
「これで片がついたと思いますが、また湧いたら困りますし、一応占っておきましょう」
夜桜奏音は取りだした符を棚に置いて占っていく。
「……大丈夫なようですね。あの鉱床周辺での大事件は当分起こらないでしょう」
夜桜奏音がだした占いの結果に多くの者が安堵した表情を浮かべる。ただ一人、万歳丸を除いては。
「魔法生物は別にいなくてもかまわねェけどさ。石柱は? なァ! 他に石柱はねェのか?!」
「石柱……、ちょっと待ってくださいね」
万歳丸のリクエストで夜桜奏音はもう一度占ってみる。
「残念ながら、ないですね。少なくともあのテュリア鉱床には」
「そりゃねェぜ! なあ、ミヤサ! ちょいと探してきてくれよォ。なンならまとめてぶっ飛ばしていってもいいぜ!!」
万歳丸の矛先は夜桜奏音からミヤサへと移った。
「そうですね。坑道の責任者に話しておきますよ。もし似たような石柱が見つかったときにはハンターズソサエティ支部に連絡をして欲しいって」
ミヤサは万歳丸の冗談につき合って一緒に笑う。
無理筋のお願いだというのは万歳丸も最初からわかっている。もしもがあれば楽しい修行になるだろうし、それよりも何より、こうやって馬鹿話をしているのが何より楽しい。
「大錬泥に突っ込んでいくところは覚悟を決めましたよ。本意ではありませんけど、勇敢な者だけが生き残ることができるって感じだね」
ミリアは戦いのクライマックスを思いだす。無理矢理に大錬泥の体内に拓かれた道を突っ切って、核を壊すときの緊張感は中々のものであったと。
「作戦を考えた私がいうのもなんですが、結構冷や冷やものでした。いつ道が閉じるのかわかりませんし」
遠慮気味な言葉を選んでいたミヤサだが、さきほどよりずっと笑っている。彼女にとっても興味深い一幕だったようだ。
「最初は随分と思い切った手を打つものだと思ったのだ。いろいろとあったが、その期待に応えられてよかった」
ロニが水を飲もうとしたところ、水筒の中身は空だった。ミヤサが差しだした水筒を受け取り、それでロニは乾いた喉を潤す。
城塞都市マールへと帰還したところで、城へと報告に向かう。
「みなさん、よくぞやってくれましたの」
領主の妹、ミリア・エルブンが出迎えてくれた。祝いの席を用意したいところが、今は別件で忙しいようである。
「あらためて、みなさんと一緒に祝いたいと考えていますの。兄の領主アリーアもお会いしたいとのことなので、そのときには是非に出資してもらえると嬉しいのです」
ミリア・エルブンが一同に深い感謝の意を伝える。
マール城で一晩を過ごしてからリゼリオへ。一緒に転移門で帰還する一同であった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/01 22:19:47 |
|
![]() |
質問卓 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/05/31 20:22:52 |
|
![]() |
発破隊 相談卓 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/06/01 22:36:42 |