ゲスト
(ka0000)
【界冥】函館戦勝会【交酒】
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/06/08 09:00
- 完成日
- 2017/06/11 08:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
統一連合宙軍所属メタ・シャングリラが、ドックへ改修に入った。
函館クラスタを巡る戦いで傷付いたメタ・シャングリラを修理。
合わせて装備の見直し。
今後の作戦行動を意識して装備の見直しが必要――つまり、メタ・シャングリラは、函館に続いて新たなる地域の攻略に投入される事が予想されている。
だが、その改修が終わるまでは乗組員は休暇となる。
その為、秋葉原へ来た乗務員は僅かな日数の休暇を満喫。メタ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)も、僅かながらの余暇を楽しむ予定だったのだが――。
「ちょっと! これはどういう事ザマスか!」
秋葉原の街角で熱り立つ恭子。
雑居ビルの前で一人ゴージャスなドレスに身をつつみ、白い羽根飾りを首にかける姿はコスプレとしても無理がある。
実は今日、函館クラスタ撃破を祝して戦勝記念パーティを行う予定となっていた。
恭子の中では都内の一流ホテルを借り切って、各国の要人を招いての盛大なパーティを催すつもりでいた。
「一流ホテルを借り切ってパーティ? 俺にそんなパーティを準備できるはずがないだろう」
そう言い返すのは、山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)だった。
八重樫は恭子より『パーティ会場の手配』を任されていた。
しかし、リアルブルーには半日しか滞在できない上、一流ホテルでパーティに参加した経験すら記憶にない八重樫にとってパーティ会場を予約するのは不可能。
結果、八重樫の行きつけの居酒屋を借り切ってパーティを行う事になったのだ。
「今回は函館クラスタを撃破したお祝いザマス! 軍から資金は出なかったザマスか?」
「ああ、ほとんど出てないようだ。どうせ、お前が軍に何か言ったんじゃないか?」
「………………」
八重樫の言葉に、恭子は何も言い返せなかった。
思い当たる節があるし、それぐらいの嫌がらせを上官が行ってくるのは予想できていた。八重樫はその限られた環境の中で何とか戦勝パーティを開催できるように準備してくれたのだろう。
少しの沈黙の後、八重樫は続ける。
「場所は居酒屋だから酒やツマミがあるが、今日は持ち込みを認めて貰った。
それにハンターから酒やツマミの差し入れも頼んでおいた。
希望すれば厨房を借りて料理できるようにも手配してある。
ハンターも今回の戦いで俺達にいろいろ言いたい事もあるだろう。豪華な料理を並べて肩肘張ったパーティよりも、俺達だけのささやかな会の方が話しやすいんじゃないか?」
相変わらず仏頂面の八重樫。
しかし、八重樫にとっては居酒屋でのパーティの方が良い。気心知れた面子と英気を養いながら、函館の戦いを振り返る。
それが、次の戦場へ赴くハンター達の助けになる。
「……そうザマスね。準備に感謝するザマス」
八重樫の言葉は、恭子の心に十分過ぎるほど届いた。
恭子は言葉を続ける。
「函館クラスタは、あたくし達とハンターが一緒に撃破したクラスタザマス。
勝利を祝うなら、ハンターとあたくし達だけで祝うのも悪くないザマス。イェルズちゃんがいないのは残念ザマスが……」
肩の力を抜く様にため息をついた恭子は、雑居ビルの地下へと続く階段を下りていく。 残念ながら、イェルズはクリムゾンウェストへと帰還していた。もうしばらく経たなければリアルブルーへ赴く事ができない為に今回のパーティは欠席となる。
「あいつはクリムゾンウェストで声をかけておく。今日はハンター達優先でいいだろう」 恭子の後に続いて八重樫も続く。
やや薄暗いビルの中を二人揃って歩けば、目的の店はすぐそこだ。
「店はこのビルの地下にある『北部や』って居酒屋だ。既にハンター達も中で俺達を待っているはずだ」
函館クラスタを巡る戦いで傷付いたメタ・シャングリラを修理。
合わせて装備の見直し。
今後の作戦行動を意識して装備の見直しが必要――つまり、メタ・シャングリラは、函館に続いて新たなる地域の攻略に投入される事が予想されている。
だが、その改修が終わるまでは乗組員は休暇となる。
その為、秋葉原へ来た乗務員は僅かな日数の休暇を満喫。メタ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)も、僅かながらの余暇を楽しむ予定だったのだが――。
「ちょっと! これはどういう事ザマスか!」
秋葉原の街角で熱り立つ恭子。
雑居ビルの前で一人ゴージャスなドレスに身をつつみ、白い羽根飾りを首にかける姿はコスプレとしても無理がある。
実は今日、函館クラスタ撃破を祝して戦勝記念パーティを行う予定となっていた。
恭子の中では都内の一流ホテルを借り切って、各国の要人を招いての盛大なパーティを催すつもりでいた。
「一流ホテルを借り切ってパーティ? 俺にそんなパーティを準備できるはずがないだろう」
そう言い返すのは、山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)だった。
八重樫は恭子より『パーティ会場の手配』を任されていた。
しかし、リアルブルーには半日しか滞在できない上、一流ホテルでパーティに参加した経験すら記憶にない八重樫にとってパーティ会場を予約するのは不可能。
結果、八重樫の行きつけの居酒屋を借り切ってパーティを行う事になったのだ。
「今回は函館クラスタを撃破したお祝いザマス! 軍から資金は出なかったザマスか?」
「ああ、ほとんど出てないようだ。どうせ、お前が軍に何か言ったんじゃないか?」
「………………」
八重樫の言葉に、恭子は何も言い返せなかった。
思い当たる節があるし、それぐらいの嫌がらせを上官が行ってくるのは予想できていた。八重樫はその限られた環境の中で何とか戦勝パーティを開催できるように準備してくれたのだろう。
少しの沈黙の後、八重樫は続ける。
「場所は居酒屋だから酒やツマミがあるが、今日は持ち込みを認めて貰った。
それにハンターから酒やツマミの差し入れも頼んでおいた。
希望すれば厨房を借りて料理できるようにも手配してある。
ハンターも今回の戦いで俺達にいろいろ言いたい事もあるだろう。豪華な料理を並べて肩肘張ったパーティよりも、俺達だけのささやかな会の方が話しやすいんじゃないか?」
相変わらず仏頂面の八重樫。
しかし、八重樫にとっては居酒屋でのパーティの方が良い。気心知れた面子と英気を養いながら、函館の戦いを振り返る。
それが、次の戦場へ赴くハンター達の助けになる。
「……そうザマスね。準備に感謝するザマス」
八重樫の言葉は、恭子の心に十分過ぎるほど届いた。
恭子は言葉を続ける。
「函館クラスタは、あたくし達とハンターが一緒に撃破したクラスタザマス。
勝利を祝うなら、ハンターとあたくし達だけで祝うのも悪くないザマス。イェルズちゃんがいないのは残念ザマスが……」
肩の力を抜く様にため息をついた恭子は、雑居ビルの地下へと続く階段を下りていく。 残念ながら、イェルズはクリムゾンウェストへと帰還していた。もうしばらく経たなければリアルブルーへ赴く事ができない為に今回のパーティは欠席となる。
「あいつはクリムゾンウェストで声をかけておく。今日はハンター達優先でいいだろう」 恭子の後に続いて八重樫も続く。
やや薄暗いビルの中を二人揃って歩けば、目的の店はすぐそこだ。
「店はこのビルの地下にある『北部や』って居酒屋だ。既にハンター達も中で俺達を待っているはずだ」
リプレイ本文
「みんな、グラスは行き渡ったザマスか?
では、八重樫さん。乾杯の音頭をお願いするザマス」
グラスを手にした森山恭子(kz0216)の声が響き渡る。
秋葉原の居酒屋『北部や』には、ハンター達が多く入店していた。
「……乾杯だ」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)による乾杯の号令。
これに合わせてハンター達が手にしていたグラスを一斉に掲げる。
グラスが鳴り響く音と同時に――函館戦勝会のスタートである。
「アキバはこれで二回目か……だが、今日は祝勝会だ、飲むぞ!」
気合い十分で戦勝会に臨むのはソティス=アストライア(ka6538)。
函館市内へ続く湾岸ルートで雑魔掃討の依頼に参加したソティス。今日は美味しい物を食べようと『北部や』へ足を運んでいた。
残念ながら未成年なのでソフトドリンクを片手に、テーブルの上に並ぶ料理に挑む。
「おーし、始まったな! こっから本気で行くぜ」
ジョッキに入った烏龍茶を片手に道元 ガンジ(ka6005)が目の前にあった鳥半身焼きに食らい付く。
見ればホッケ塩焼きや味噌汁、漬物、ご飯特盛りと完全に食事の状態。
さらにガンジが持ち込んだ東西交流ギョーザ(火) や東西交流の串焼きも並べられ、大皿をハンター達が共有している。
「始めに靴を脱げと言われた時は、武装解除を求めるほど酔った俺達が暴れられると困るのかと思ったぞ」
目の前に繰り広げられる光景を見ながらルベーノ・バルバライン(ka6752)は、満足そうだ。
「ルベーノ。そのお魚を取ってくれる?」
「なに!? 俺がソティスの為に魚を取れというのか! ……いいだろう」
ソティスに出された皿にホッケを切り分けて乗せるルベーノ。
覇道を突き進むが、生真面目な性格から言われたままに動いてしまうようだ。
「ほら。この俺が取り分けてやった魚だ。たっぷりと味わうがいい」
「ありがとう。いただきます」
フォークでホッケの一部を刺して口に運ぶソティス。
塩味と共に口の中に魚の旨味が広がっていく。
「これは美味しいな。コレだけだけにこちらに来ようかね……!」
居酒屋料理であるホッケ塩焼きに満足なソティス。
函館市内へ続く海岸線で雑魔掃討を頑張った甲斐があったようだ。
「へぇ~。そういや、ソティスとは同じ依頼だったんだよな」
ガンジは思い出したようにソティスへ話し掛ける。
大きな作戦の一部ではあったが、勝利に向けて確実な一歩を踏むためには必要な依頼だった。
「改めて、函館の勝利に乾杯だ」
「ああ、カンパーイ!」
ソティスとガンジのグラスが触れる。
グラス独特の音が、周囲の騒音に掻き消されながら静かに響く。
●
祝勝会は始まったばかりだが、ハンターと共に戦った八重樫や恭子の元へ挨拶に来る者は多い。
「ハッハァーー!! 居酒屋貸し切りとは気前がいいねぇ! ホテルよか此方の方が俺好みだぜ! 美味い酒ならなんでもこいやー!」
中ジョッキに入ったビールを片手に八重樫と恭子の元へ現れたのは紫月・海斗(ka0788)。
二股口と旧一本木関門でヴァルキリー1と捨て身の戦いを繰り広げた猛者である。
「世話になったな」
「八重樫の旦那らしい言葉だな。
でだ、祝いの席だがよ。知ってたら教えてくれ」
空いていた八重樫の席に体を滑り込ませる海斗。
八重樫はジョッキを手に海斗の言葉に耳を傾ける。
「ヴェルキリー1は何とかできたが、ナンバリングされているって事はよ?
……まだいんのか? 当時に失われた機体ってぇのは」
海斗の戦ったヴァルキリー1は元々八重樫も乗組員であったヴァルハラに搭載された実験機体であった。この実験機体を鹵獲したエンドレスが改造を施した訳だが、ヴァルキリー1からの名称を考えれば他の機体も鹵獲されていても不思議ではない。
「確かに当時ヴァルキリー1の他に実験機体はあった。だが、VOIDとの戦いで撃破された」
そういうと八重樫は残っていたビールを一気に飲み干した。
八重樫の話であれば海斗の指摘通りヴァルキリー1の他にも実験機体は他に存在していた。だが、それらは鹵獲する前に戦闘に投入されて撃破されている。
つまり、海斗の読み通り――既に機体は失われているという訳だ。
「はーん、なるほどねぇ。ってぇ事は……」
「それらの機体は再び立ち塞がる可能性があるザマス」
話を聞いていた恭子が横から口を出した。
理解の早い恭子に海斗の顔から笑みが溢れる。
「さすがはザマスの婆さん」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス」
「どういう事だ?」
察しの遅い八重樫。
海斗は推論だという前提の元で説明を始める。
「エンドレスは戦闘データを集めていたって事ぁ、失われた実験機体の開発データなんてぇものもあるんじゃねぇか?」
「そうか、そのデータを元にすれば実験機体を再現できる」
八重樫は海斗の言葉で気付いた。
ヴァルキリー1を改造していたエンドレスならば、歪虚CAMを改造して実験機体を復活させる事ができるかもしれない。
「ああ、そうだ。なんかよく分からねぇが、婆さんも裏で大変だったみてぇだな」
「あたくしはあたくしのできる事をしているだけザマスよ」
「へぇ。まあ、ちっとは気楽にしとけよ。
そうじゃねぇとしくじるぞ……エンドレスをぶん殴る時に、な」
●
函館の戦いが話題に乗る一方、始めてリアルブルーの酒場へ訪れた一行もあった。
「目的の電気工具も手に入った、これをうまく魔導アーマーや武具類の製造技術向上に使えれば……」
ハイボールをチビリと口にしながら、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は頭を働かせ続ける。幸いにもこの居酒屋は秋葉原に存在する。その為、電気街へ赴いて魔導アーマーや武具の技術向上に使えないかを考え続けていた。
「おいおい、まだ考えているのかよ。パーティなんだから少しは休めよ」
恭子に挨拶を終えて戻ってきたラスティ(ka1400)。
今日の買い物結果を前に考え続けるエラを前に、呆れかえる。
せっかく戦いの疲れを癒す意味でのパーティなのに、自分から頭を使い続けては休まるはずもない。
しかし、エラは今休むつもりはない。
考えたい時に考えるのだ。
「いいじゃねぇかよ。これはこれで楽しんでいるんだから。
それより乾杯だ。函館攻略お疲れー! Salute!」
リコ・ブジャルド(ka6450)がラスティと改めて乾杯する。
函館クラスタ壊滅にラスティとリコは尽力していた。名古屋クラスタに続いての活躍に二人は確実に手応えを感じていた。
「この調子で他のクラスタもサクッとぶっ潰してやるか」
「自信満々だな。だが、次のクラスタを潰すのはあたしだ」
「へぇ、言うじゃねぇか。だったらどっちが上か決めて……」
「ったく、お前らなぁ。ここで暴れたら迷惑になるだろう」
リコとラスティの間に割って入る神代 誠一(ka2086)。
清酒を片手に戦勝会を満喫していたが、二人の間に漂う香りを察知しての介入だ。
何かでケリを付ける気配は神代も感じ取っていたが、ここで暴れられても仕方ない。
そこで神代はパーティ用に準備していた料理で決着を付けさせる事にした。
「ラスティ。店員にお願いしていた料理をもらってきてくれ」
「なんだよ、仕方ねぇな。分かったよ」
席を立ってカウンターの方へ歩き出すラスティ。
入れ替わる様に姿を見せたのは神代の友人であるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だ。
「神代さん、ここにいたのか」
「グリムバルドさん。ちょうど良かった今からちょっとした料理を楽しもうと思っていたんです。一緒にどうぞ」
神代に促されて席につくグリムバルド。
先程出されていた料理で食事を済ませ、延々とポテトチップスでツマミに酒を楽しんでいた。その証拠に席へ着くと他の人も食べられる様にとテーブルにポテトチップスを広げ始める。
「それでどんな料理なんですか?」
「ちょうどこの店にたこ焼きがあったので店員に頼んで特別仕様にしてもらいました」
「持ってきたぞ」
ラスティの持つ皿の上には、たこ焼き。
二列に分けておかれたたこ焼きが、等間隔に並んでいる。
思わずリコが首を傾げる。
「なんだこりゃ? たこ焼きか」
「ただのたこ焼きじゃないぞ。この中にワサビが大量に入った物が一つだけ入っている。それを食べた者が負けだ」
神代が用意していたのは、ロシアン風たこ焼き。
ロシアンルーレットにヒントを得て作られた料理で、若者のパーティでは稀に登場する料理だ。
「グリムバルドさん。最初にどうぞ」
「では、一ついただきます」
神代に促され、グリムバルドはたこ焼きを一つ口へ運ぶ。
青のりとソースの香りが口いっぱいに広がる。
少なくとも口の中で強烈な辛みは感じられない。
「……特に辛みはありませんね」
「セーフですね」
「じゃあ、次はあたしだな」
リコもたこ焼きを一つ選んで皿に置く。
一息ついた後、思い切って皿から口へとたこ焼きを持っていく。
――特に異変は感じられない。
「おっし。セーフだ。普通のたこ焼きだな」
「お。運がいいな。では、Jさんの番ですね」
「……これで」
エラはたこ焼きを皿に取ると、何故か神代の前に皿を置いた。
「え? 何故俺の前に?」
「ラスティが持ってきたたこ焼きだから。イタズラされているかもしれない」
ラスティのイタズラを感じ取ったエラは、たこ焼きを神代に押しつけたようだ。
「……くっ、仕方ありません。いただきます」
たこ焼きを口に入れて噛み締める神代。
次の瞬間、口の中に走る衝撃。
当たりか?
――否、この辛さはワサビではない。もっと別の何かだ。
「あ。それさっきあたしがタバスコを入れておいたたこ焼きだ。誰かが食べれば面白いと思って……」
思い出したかのように呟くリコ。
エラはラスティを警戒していたが、どうやら今回はリコがタバスコを仕掛けていたようだ。
「……本当にっ! お前らなぁ!」
手近にあったハイボールを一気に飲んだ神代。
怒気の籠もった言葉が響き渡る。
●
持参した酒を振る舞うジーナ(ka1643)。
ワイン「レ・リリカ」や花蜜酒「白霞」など、様々な酒をハンター達のテーブルに置いていく。
その最中、ジーナは恭子の前に酒を置きながら一つの提案を行う。
「壁盾。量産できるならハンターでも使いたい」
函館クラスタ攻略の際に実験的な投入をされた試作品。
VOID砲の砲撃に長時間耐える事のできた壁盾で、二股口では正面からの砲撃にもCAMを守る事ができた。この壁盾を量産できれば今後の戦いにも役立つだろう。
「やってみる価値はあるザマスね」
ジーナの提案に頷く恭子。
やるべき事は山積みだが、今後の激戦を考えれば避けて通る事はできない。
「お疲れさん」
恭子の横へ座ったのは柊 恭也(ka0711)
手には清酒「月見」と鮎の一夜干しを持っている。どうやら他のテーブルで乾杯を行った後、恭子と話をするためにやってきたようだ。
「まあ、色々とアレだったが、バァさんが声を上げたからクラスタ攻略が始まった訳だし。少しくらいは労ってやろうと思ってな」
函館クラスタが始まる経緯を恭也は知っていた。
最終的にハンターと共に函館クラスタを攻略できたが、本部相手に相応の苦労をしていたのだろう。
「あたくしはあたくしの仕事をしただけザマス」
「そう言うなって」
恭也の手にしていた御猪口に、そっとお銚子を傾ける恭子。
空になっていた御猪口に再び月見が満たされる。
恭也は鮎を箸で解すと、口の中に一切れ放り込んだ。
程よい塩気と脂身が口に広がる。
そこへ続けて月見をぐいっと流し込む。
「最高だな。特に勝利を祝した酒は何度飲んでもいい」
「そうザマスね。またこんなパーティが開催できるといいザマスね」
本当に美味しそうに食べる恭也。だが、少し恭子が寂しそうにしているのを感じ取った。
本部の連中が出すちょっかいを防ぐのが恭子の仕事なら、戦場で敵を倒すのがハンターの仕事。
それなら、恭也がやる事は既に決まっている。
「どうせ次は最前線送りなんだろ? なら、次も声をかけろよ。俺がまた今日のような宴会を開催させてやるから」
●
「ここに居たのか」
八重樫は、カウンターでウイスキーを愉しむマリィア・バルデス(ka5848)を見つけた。
ロックスタイルで二つの氷が溶ける音を聞きながら、一人でグラスを傾けている。
「団長」
「これだけの騒ぎの中、一人カウンターで飲んでいるのか」
カウンターの上にはダークチェリーパイ。
マリィアにとっては大切な人が得意とした料理だった。
「団長。私達は、あれで良かったのでしょうか」
マリィアは、そう八重樫に問いかけた。
目の前で爆発するヴァルキリー1。
その中にいた田代誠――MIAとして本部で扱われていた彼は、函館でも味方の為に火星で戦っていたとエンドレスに思わされていたのかもしれない。
だとするなら、マリィアはもっと別の戦い方ができたのではないだろうか。
マリィアの脳裏に蘇る――かつての伍長の姿。
「俺達は常に選択と後悔の連続だ。
いつも何かを選ばされ、その都度選択を後悔する。
それでも、俺達は前に進むしかない」
「そうかもしれません。
あの日。一番無力感に苛まれ力を欲したのは、私達軍人でした。
だから、あの世界の神の如きものに力を貸し与えられた……そう感じるのです。
彼らと私達の望みが叶い、この力を失うまで、きっと私達は帰れない」
マリィアは、グラスに残っていたウイスキーを飲み干した。
力を求め、ハンターとなったマリィアにとってこの流れは避けられない。
業――と呼ぶには、あまりにも過酷な重荷だ。
「俺も同じだ。エンドレスを破壊するまで、絶対に諦めない。
そして、それはお前が背負い込んだ新たな荷物……火星の英雄も同じだ」
マリィアの横に置かれた一つのグラス。
ヴァルキリー1が倒れ、ようやく任務から解放された田代誠の分であった。
マリィアは新たなウイスキーを自分のグラスに注ぎ入れ、そっと上に掲げる。
「還ってきた英雄と戻れなかった戦友に……乾杯」
●
「慰労。いろー? こめてしゅっせきーした、けど。
にぎやーかはやっぱにがて、ねー」
気付けば、ルネ(ka4202)は座敷の隅で壁にもたれかかっていた。
函館クラスタを巡る戦いに身を投じて様々な出会いがあっただけに、顔出しのつもりで参加。だが、孤独を好むエルフの血が出たのかだろうか。周囲の雰囲気に押され気味であった。
「あ、いましたね。改めて函館攻略、お疲れ様ですよー」
「あ。みずき」
葛音 水月(ka1895)の顔を見て体を引き起こすルネ。
実は葛音も八雲分屯基地攻略に携わっていたのだが、それよりも兄妹同然のルネの様子を見る為にこの会場を訪れていた。
体を起こしてテーブルに向かって座り直すルネ。
その横に、葛音はそっと腰掛ける。
「僕はこの作戦にあまり参加できなかったけど、ルネさんはどーだった?」
「いっしょーけんめー、がんばった。はこだて、すくったー」
テーブルの上にあったポテトチップスに手を伸ばすルネ。
その可愛らしい仕草に、思わず葛音は頭を撫でたくなる。
「そうかー。頑張ったのか」
「うん」
微笑ましい二人。
その向かいにはアバルト・ジンツァー(ka0895)が、清酒を一気に飲み干していた。
「やはり日本食は美味い。料理はその風土に根付いたものが最高だな」
目の前に並べられる刺身の盛り合わせに対して箸を巧みに操り、日本食を堪能している。
「せっかくの宴会だ。酒の肴はいくらあっても良かろう」
「今日は楽しまないと損だねー」
アバルトの空になった御猪口に清酒を注ぐ葛音。
「正直、今回の戦いはどうだった?」
「楽な戦いは、無い。どんな戦いでも苦難の連続だ。
だが、皆の尽力で一つの山は越える事ができた」
アバルトは注がれた清酒に口を付ける。
「まだまだ戦いは長い。今日ばかりは戦いの事を忘れて楽しもうじゃないか」
アバルトは、次なる戦いに備えて英気を養うつもりであった。
「そーそー。今日はたっぷりご馳走になっておかないとな……あ、からあげいただき!」
ジョッキに烏龍茶片手にやってきたのはガンジ。
どうやら次々とテーブルを回って美味しそうな料理に箸を付けている。
確かにこうした楽しみ方も有りである。
「お? なんでここに一つだけ酒が置いてあるんだ?」
ガンジの横には、誰もいない席。
だが、そこには御猪口に注がれた清酒が置かれていた。
「ばるきりーわん。たたかーた、なかまよ」
「帰還できなかった火星の英雄の分だ」
ルネの言葉をアバルトが補足した。
「そっか。あいつの分か」
「あすはわがみ……しんみり、ねー」
少し寂しさを感じるガンジに、ルネは変わらぬ調子で言葉をかける。
変わらない様子でも、ルネの中では必死に戦っている。
葛音は、そんな健気なルネが溜まらなく愛おしかった。
「みずき?」
気付けば葛音は、ルネの頭を再び撫でていた。
●
「やっぱ勝利の後はコレだよな! ついでにビールかけもやっちまうかぁ!?」
テキーラを瓶でラッパ飲みするトリプルJ(ka6653)。
すっかり出来上がっているらしく、周囲の人の背中をバンバン叩いて回っている。
そんなトリプルJの脇から藤堂 小夏(ka5489)が諫める。
「ちょっと。飲み過ぎはダメよ」
「あん? 今日ぐらいはいいんじゃねぇのか?」
「ダメ。少しはここに来て落ち着いて飲めば?」
小夏に促され、渋々腰掛けるトリプルJ。
テーブルを見れば清酒。肴はエイヒレとシンプルなものが並んでいた。
「ああ。この酒、日本で飲むお酒って久しぶりだね~。
それにこのエイヒレ。やっぱマヨが至高だね。異論は認める」
「なんだ、もっとガツンとしたツマミはねぇのか?」
「だったら、そこのソーセージをもらえば?」
小夏が指し示す先には、チョリソらしい赤いソーセージがある。
肉食のトリプルJは迷わず手を伸ばす。
「ちょっと御免よ、おばさん」
「おばさんじゃないザマス。これでも還暦……あ、あってるザマスね」
「艦長!」
恭子の姿を視認した途端、トリプルJは瞬間姿勢を正して綺麗な敬礼をしてしまう。
「あら。ワイルドな方ザマスね。楽しんでいるザマスか?」
「ハッ。楽しんでおります……驚かさないで下さいよ。くぁぁ、かっこ悪いぜ俺様」
「あ、恭子。今回の作戦お疲れ様ー。これ、お祝いのプレゼント」
小夏が恭子に差し出したのは、シエラリオ天然化粧水。
角質を落として潤いを与え、滑らかな肌にしてくれるらしい。
「まっ! あたくしにザマスか! 感謝するザマス。これであたくしはますます美に磨きをかけるザマス」
「喜んでいただけて嬉しいです」
「えっと、モリヤマキョウコだっけ?」
小夏へ感謝する横で恭子に挨拶するのはボルディア・コンフラムス(ka0796)。
実はボルディアはリアルブルーの酒場は初めて。クリムゾンウェストにも似ているが、狭い店内で四苦八苦していたようだ。
「あら、初めましてザマスね」
「俺はボルディアってんだ。会うのは初めてだよな。しかしリアルブルーの酒場は狭い分、距離が近いからすーぐ仲良くなれそうだぜ」
「そういう面もあるザマスね。できれば次の戦いがあるなら手を貸して欲しいザマス」
「ああ、タイミングが合えば手を貸すつもりだ。それまでは今日の酒を満喫させてもらう」
手近にあったウイスキーを豪快に飲み干すボルディア。
それに釣られるようにトリプルJもテキーラの瓶に再び口を付ける。
「やるな。なら、こっちも」
「二人とも。そんな調子で飲んで酔い潰れないでよ」
心配する小夏をよそに飲み続けるボルティアとトリプルJ。
競い合うかのように酒を飲み続けていた。
●
「こんなところで極東の文化を味わえるとは。しかも帯刀して入店した我々を咎めもしない。連合軍の方々には頭が下がりますね」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、自ら作ったアジの刺身を前に清酒を味わっていた。
函館の弁天台場で愛刀を振るい、味方の進軍路を切り拓いたハンス。
その成果が函館クラスタの攻略成功に繋がったという想いが、今日の酒をいつもより勧めさせる。純米酒「若峰」や花蜜酒「白霞」をハンター達へ振る舞った後、一人静かに勝利の余韻に浸っていた。
(うう。ハンスさん、酔ってて話し掛けづらい。ルベーノさん……会話にならなそうな気がするっ)
リンゴジュースを片手にテンパっていたのは穂積 智里(ka6819)。
ハンスとは別の場所で戦っていた智里ではあったが、智里もまた函館クラスタ攻略に貢献したハンターの一人である。
「おや、智里さん。どうされました?」
智里の存在に気付いて話し掛けるハンス。
酔ったハンスに声を掛けられ驚く智里。思わず小さな悲鳴が漏れ出でる。
「ひっ。ハンスさん」
「何をされているのです?」
「函館の湾岸ルートで一緒になった方々に挨拶してました。ガンジさんやソティスさんも優しそうな方でした」
「同業への挨拶ですか。感心ですねぇ」
ハンスは満足そうに再び御猪口に口を付ける。
明らかにいつもと違う雰囲気が漂うハンスに、智里は半歩後ろへ下がる。
「ハンスさん、私はあっちの方でまだ挨拶が……」
「まだ良いではありませんか。せっかくですから今日は私が出会ったハンター達の話を致しましょう。そこへお座りに下さい」
いつもの笑顔なのだが、逆らえない雰囲気を出すハンス。
覚悟を決めた智里は、そっと着座する。
「私が出会ったハンターで印象深いのは……」
満足そうに語り始めるハンスを前に、智里はただ耐えるのみであった。
●
恭子の周りには、様々なハンター達が訪れていた。
「何故戦いに……軍属になろうと思ったのかな? 深い意味はないんだ。あくまでも興味から出た質問だ」
オレンジジュースを片手にアーク・フォーサイス(ka6568)は、恭子に問いかける。
軍属で女性が昇進する事は、男性が昇進するよりも厳しい。
戦いに性別は関係ないとはいえ、様々な気苦労があったに違いない。
「そうザマスねぇ。元は成り行きザマス。故国を守る為、なんて自衛隊に身を置いた時には持っていなかったザマス。それが様々な経験で磨かれて、人を守る立場になったザマスね」
「でも……今の志は……素敵です。……綺麗なドレス……と一緒」
恭子の言葉を、エリ・ヲーヴェン(ka6159)がそっと持ち上げる。
エリは販売しているベーコンやハムを持ち込んで恭子の隣に陣取っていた。ハンターというよりもリアルブルーでの販路拡大を狙ったコネクション作りが目的のようだ。
「ありがとうザマス。初めてあったのに優しい言葉には感謝ザマス」
「戦場の敵ばかりではなく、味方からの妨害もあるのだろう。立場が上になればそれだけ責任も増える事になる」
アークの言葉は、事実だ。
ハンターと呼ばれる存在がリアルブルーに登場してから、戦力バランスは大きく変貌している。統一連合宙軍内でもハンターの扱いについて様々な意見がある。それらに対して恭子は正面から受けているのだ。
「そうザマスねぇ。ですが、ハンターの皆さんには作戦の現場に集中して欲しいザマス。本当ならもっと皆さんに有益な情報をお渡しできると良いザマスが……」
「情報ならあるヨ」
恭子にそう声をかけたのはフォークス(ka0570)。
持ち込んだ巡礼者の弁当箱や祝福の水筒にテーブルの料理や酒を入れながら、あっさりと重要なコメントを口にする。
「情報? なんザマショ?」
「エンドレスはクリムゾンウェストにいた歪虚。それがリアルブルーへ転移していたのヨ。それってつまり……あ、情報には相応の対価が必要だヨ」
途中まで話して対価を要求するフォークス。
ちゃっかり報酬を要求するフォークスに思わず恭子は笑みを浮かべる。
「しっかりしているザマスね。今お渡しできる報酬はないザマスが、後で考えておくザマス」
「まー、それでいいか。
エンドレスが自力で転移できる可能性もあるけど……むしろあたいは別の存在が転移に手を貸したって思うヨ」
「別の存在……それは……誰?」
エリの問いかけにフォークスは、弁当箱の蓋を開けながら答える。
「ヴォイドゲート、崑崙戦、エバーグリーン……何かと異世界を股にかけて厄介事を引き起こす連中がいるでしょ?」
「黙示騎士か」
アークの脳裏に閃いた単語。
黙示騎士。
リアルブルーに限らず、異世界で出没してハンターの前に姿を見せる存在。
何かの目的でエンドレスを転移させても不思議ではない。
「あくまでも予想だけどね。でも、自信のある予想だヨ」
「黙示騎士……」
フォークスの言葉を前に、恭子は覚悟を決めたようだ。
●
「ハッ、これがパーティ? 俺様を呼んだ割にゃ随分としょぼくれているじゃねぇか」
酒が入っている為か、そろそろと変わった行動を見せる者達が登場する。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)もその一人だ。
「よっしゃ! 俺様がいる以上、どんな店だろうと最っっっ高にハイなパーティにしてやるぜ」
「いつも以上にテンションが高いように見えるが、一体どうするつもりだ?」
ジャックの隣で静かに清酒を味わうクローディオ・シャール(ka0030)。
ジャックが動き出した時点で嫌な予感しかしないが、放置する訳にもいかない。
「ああ? 決まってるだろ。
最高にハイなパーティーに必要なモンはコレだ……筋☆肉だァ!」
「なんでそうなる……って、おい!」
クローディオを無視して脱ぎ始めるジャック。
服の下から露わになる褐色の筋肉。絞り込まれ鍛えられた筋肉は隆起しつつも、きめ細やかな肌質を露見する。
そして、その特別なイベントを人一倍反応する奴がいた。
「きゃーーーー! イケメンの筋肉ザマス! 目の保養!」
ジャックの近くへ駆け込むように滑り込んでくる恭子。
ジャックの裸を肴に酒を飲む恭子に、周囲のハンターも引き気味だ。
「お? 観衆の声援か? なら、応えねぇ訳にはいかねぇな」
「待て、ジャック。何故私の腕を掴む」
テンションが上がってきたジャックは、さっとクローディオの腕を握りしめる。
その行為の意味にクローディオの脳裏で警報のアラームが鳴り響く。
「決まっているじゃねぇか。ここで盛り上げねぇでどうするんだよ!」
「何故私を巻き込もうとする。肉体美を晒すのはお前の専売特許だろう。私は関係な……」
ジャックはクローディオの服を強引に剥ぎ取る。
美男子二人が座敷席で絡み合うように様にも大興奮だったが、クローディオの白くも適度に絞られた腹筋に恭子の妄想は大暴走だ。
「ちょっ! まさかの褐色と白い肌が混ざり合うBLシーンに突入ザマスか! これはあたくしの創作意欲が止められないザマス」
テーブルに置かれていたチラシの裏に恭子はジャックとクローディオの姿を描き出す。
明らかにそのような体勢は取ってないはずなのだが、ジャックの手がクローディオの頬に――。このままだと二人の薄い本が年末辺りに同人誌で取引されかねない。
「へぇ。二次元に興味があるのか。二次元文化なら俺様も大得意だぜ?」
恭子のスケッチに興味を抱いたジャック。
だが、その一言がさらに恭子を燃え上がらせる。
「良い度胸ザマスね。晴海の某ホテルも吹雪く定山渓で一時間かけてコンビニを探した事もない異世界人があたくしと二次元について語るつもりザマスか……よごザンショ。経験と年季の違いを見せてやるザマス」
ジャックと恭子。
会わせてはいけない組み合わせだったのかもしれない。
●
戦勝会が終わる頃、恭子の携帯に一本の電話が入る。
どうやら部下から急ぎの連絡だったようだ。
「で、どうだった?」
電話が終わる事を確かめた八重樫。
恭子は少し複雑な表情を浮かべている。
「決まったザマス」
その言葉でハンター達の空気が張り詰める。
本部からの指示で函館クラスタに続くメタ・シャングリラの戦場が決まったのだ。
「戦う事こそ我が覇道への第一歩。戦わねばならん。勝ち続けねばならん……続きを話せ。どこであろうと俺は赴こう」
ルベーノが覚悟を決めて恭子に次の言葉を求める。
一呼吸置いた後、恭子は次の戦場を告げる。
「鎌倉。鶴岡八幡宮跡の鎌倉クラスタ攻略ザマス」
鎌倉クラスタ。
首都圏から近い上に三浦半島の反対側には東京湾や横須賀という重要拠点がある。
「函館クラスタよりも強力なのか?」
いつの間にかアバルトは鋭い眼光を放っていた。
「小型で戦力も多く無いザマス。それでも統一連合宙軍や自衛隊は攻略できなかった訳があるザマス」
「攻略できなかった訳?」
ソティスも緊張した面持ちで恭子に視線を送る。
少しの沈黙の後、恭子は鎌倉の現状を説明する。
「あのクラスタは特殊な妨害電波を放出しているザマス。その電波のせいで機械類は停止。通信機器も利用できなくなるザマス」
統一連合宙軍はハンター達と異なり車両を始め多くの機械を用いている。
通信手段も使えない事から白兵での戦いを強いられているという訳だ。
「おいおい、ちょっと待てよ? 機械類が止まるって事はCAMや魔導アーマーも鎌倉ではベッドでおやすみって訳か?」
「そうザマス」
海斗の言葉に恭子は頷く。
「CAMが使えない。これはどうすれば……」
エラの言葉にハンター達が沈黙する。
函館の勝利の立役者でもあったCAMや魔導アーマーが利用できない。
となれば、白兵のみで戦うのか――その問いに対して八重樫が答えた。
「イェルズが戻り次第、作戦だ。幻獣なら、十分に戦える」
では、八重樫さん。乾杯の音頭をお願いするザマス」
グラスを手にした森山恭子(kz0216)の声が響き渡る。
秋葉原の居酒屋『北部や』には、ハンター達が多く入店していた。
「……乾杯だ」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)による乾杯の号令。
これに合わせてハンター達が手にしていたグラスを一斉に掲げる。
グラスが鳴り響く音と同時に――函館戦勝会のスタートである。
「アキバはこれで二回目か……だが、今日は祝勝会だ、飲むぞ!」
気合い十分で戦勝会に臨むのはソティス=アストライア(ka6538)。
函館市内へ続く湾岸ルートで雑魔掃討の依頼に参加したソティス。今日は美味しい物を食べようと『北部や』へ足を運んでいた。
残念ながら未成年なのでソフトドリンクを片手に、テーブルの上に並ぶ料理に挑む。
「おーし、始まったな! こっから本気で行くぜ」
ジョッキに入った烏龍茶を片手に道元 ガンジ(ka6005)が目の前にあった鳥半身焼きに食らい付く。
見ればホッケ塩焼きや味噌汁、漬物、ご飯特盛りと完全に食事の状態。
さらにガンジが持ち込んだ東西交流ギョーザ(火) や東西交流の串焼きも並べられ、大皿をハンター達が共有している。
「始めに靴を脱げと言われた時は、武装解除を求めるほど酔った俺達が暴れられると困るのかと思ったぞ」
目の前に繰り広げられる光景を見ながらルベーノ・バルバライン(ka6752)は、満足そうだ。
「ルベーノ。そのお魚を取ってくれる?」
「なに!? 俺がソティスの為に魚を取れというのか! ……いいだろう」
ソティスに出された皿にホッケを切り分けて乗せるルベーノ。
覇道を突き進むが、生真面目な性格から言われたままに動いてしまうようだ。
「ほら。この俺が取り分けてやった魚だ。たっぷりと味わうがいい」
「ありがとう。いただきます」
フォークでホッケの一部を刺して口に運ぶソティス。
塩味と共に口の中に魚の旨味が広がっていく。
「これは美味しいな。コレだけだけにこちらに来ようかね……!」
居酒屋料理であるホッケ塩焼きに満足なソティス。
函館市内へ続く海岸線で雑魔掃討を頑張った甲斐があったようだ。
「へぇ~。そういや、ソティスとは同じ依頼だったんだよな」
ガンジは思い出したようにソティスへ話し掛ける。
大きな作戦の一部ではあったが、勝利に向けて確実な一歩を踏むためには必要な依頼だった。
「改めて、函館の勝利に乾杯だ」
「ああ、カンパーイ!」
ソティスとガンジのグラスが触れる。
グラス独特の音が、周囲の騒音に掻き消されながら静かに響く。
●
祝勝会は始まったばかりだが、ハンターと共に戦った八重樫や恭子の元へ挨拶に来る者は多い。
「ハッハァーー!! 居酒屋貸し切りとは気前がいいねぇ! ホテルよか此方の方が俺好みだぜ! 美味い酒ならなんでもこいやー!」
中ジョッキに入ったビールを片手に八重樫と恭子の元へ現れたのは紫月・海斗(ka0788)。
二股口と旧一本木関門でヴァルキリー1と捨て身の戦いを繰り広げた猛者である。
「世話になったな」
「八重樫の旦那らしい言葉だな。
でだ、祝いの席だがよ。知ってたら教えてくれ」
空いていた八重樫の席に体を滑り込ませる海斗。
八重樫はジョッキを手に海斗の言葉に耳を傾ける。
「ヴェルキリー1は何とかできたが、ナンバリングされているって事はよ?
……まだいんのか? 当時に失われた機体ってぇのは」
海斗の戦ったヴァルキリー1は元々八重樫も乗組員であったヴァルハラに搭載された実験機体であった。この実験機体を鹵獲したエンドレスが改造を施した訳だが、ヴァルキリー1からの名称を考えれば他の機体も鹵獲されていても不思議ではない。
「確かに当時ヴァルキリー1の他に実験機体はあった。だが、VOIDとの戦いで撃破された」
そういうと八重樫は残っていたビールを一気に飲み干した。
八重樫の話であれば海斗の指摘通りヴァルキリー1の他にも実験機体は他に存在していた。だが、それらは鹵獲する前に戦闘に投入されて撃破されている。
つまり、海斗の読み通り――既に機体は失われているという訳だ。
「はーん、なるほどねぇ。ってぇ事は……」
「それらの機体は再び立ち塞がる可能性があるザマス」
話を聞いていた恭子が横から口を出した。
理解の早い恭子に海斗の顔から笑みが溢れる。
「さすがはザマスの婆さん」
「婆さんじゃないザマス。まだ還暦前ザマス」
「どういう事だ?」
察しの遅い八重樫。
海斗は推論だという前提の元で説明を始める。
「エンドレスは戦闘データを集めていたって事ぁ、失われた実験機体の開発データなんてぇものもあるんじゃねぇか?」
「そうか、そのデータを元にすれば実験機体を再現できる」
八重樫は海斗の言葉で気付いた。
ヴァルキリー1を改造していたエンドレスならば、歪虚CAMを改造して実験機体を復活させる事ができるかもしれない。
「ああ、そうだ。なんかよく分からねぇが、婆さんも裏で大変だったみてぇだな」
「あたくしはあたくしのできる事をしているだけザマスよ」
「へぇ。まあ、ちっとは気楽にしとけよ。
そうじゃねぇとしくじるぞ……エンドレスをぶん殴る時に、な」
●
函館の戦いが話題に乗る一方、始めてリアルブルーの酒場へ訪れた一行もあった。
「目的の電気工具も手に入った、これをうまく魔導アーマーや武具類の製造技術向上に使えれば……」
ハイボールをチビリと口にしながら、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は頭を働かせ続ける。幸いにもこの居酒屋は秋葉原に存在する。その為、電気街へ赴いて魔導アーマーや武具の技術向上に使えないかを考え続けていた。
「おいおい、まだ考えているのかよ。パーティなんだから少しは休めよ」
恭子に挨拶を終えて戻ってきたラスティ(ka1400)。
今日の買い物結果を前に考え続けるエラを前に、呆れかえる。
せっかく戦いの疲れを癒す意味でのパーティなのに、自分から頭を使い続けては休まるはずもない。
しかし、エラは今休むつもりはない。
考えたい時に考えるのだ。
「いいじゃねぇかよ。これはこれで楽しんでいるんだから。
それより乾杯だ。函館攻略お疲れー! Salute!」
リコ・ブジャルド(ka6450)がラスティと改めて乾杯する。
函館クラスタ壊滅にラスティとリコは尽力していた。名古屋クラスタに続いての活躍に二人は確実に手応えを感じていた。
「この調子で他のクラスタもサクッとぶっ潰してやるか」
「自信満々だな。だが、次のクラスタを潰すのはあたしだ」
「へぇ、言うじゃねぇか。だったらどっちが上か決めて……」
「ったく、お前らなぁ。ここで暴れたら迷惑になるだろう」
リコとラスティの間に割って入る神代 誠一(ka2086)。
清酒を片手に戦勝会を満喫していたが、二人の間に漂う香りを察知しての介入だ。
何かでケリを付ける気配は神代も感じ取っていたが、ここで暴れられても仕方ない。
そこで神代はパーティ用に準備していた料理で決着を付けさせる事にした。
「ラスティ。店員にお願いしていた料理をもらってきてくれ」
「なんだよ、仕方ねぇな。分かったよ」
席を立ってカウンターの方へ歩き出すラスティ。
入れ替わる様に姿を見せたのは神代の友人であるグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だ。
「神代さん、ここにいたのか」
「グリムバルドさん。ちょうど良かった今からちょっとした料理を楽しもうと思っていたんです。一緒にどうぞ」
神代に促されて席につくグリムバルド。
先程出されていた料理で食事を済ませ、延々とポテトチップスでツマミに酒を楽しんでいた。その証拠に席へ着くと他の人も食べられる様にとテーブルにポテトチップスを広げ始める。
「それでどんな料理なんですか?」
「ちょうどこの店にたこ焼きがあったので店員に頼んで特別仕様にしてもらいました」
「持ってきたぞ」
ラスティの持つ皿の上には、たこ焼き。
二列に分けておかれたたこ焼きが、等間隔に並んでいる。
思わずリコが首を傾げる。
「なんだこりゃ? たこ焼きか」
「ただのたこ焼きじゃないぞ。この中にワサビが大量に入った物が一つだけ入っている。それを食べた者が負けだ」
神代が用意していたのは、ロシアン風たこ焼き。
ロシアンルーレットにヒントを得て作られた料理で、若者のパーティでは稀に登場する料理だ。
「グリムバルドさん。最初にどうぞ」
「では、一ついただきます」
神代に促され、グリムバルドはたこ焼きを一つ口へ運ぶ。
青のりとソースの香りが口いっぱいに広がる。
少なくとも口の中で強烈な辛みは感じられない。
「……特に辛みはありませんね」
「セーフですね」
「じゃあ、次はあたしだな」
リコもたこ焼きを一つ選んで皿に置く。
一息ついた後、思い切って皿から口へとたこ焼きを持っていく。
――特に異変は感じられない。
「おっし。セーフだ。普通のたこ焼きだな」
「お。運がいいな。では、Jさんの番ですね」
「……これで」
エラはたこ焼きを皿に取ると、何故か神代の前に皿を置いた。
「え? 何故俺の前に?」
「ラスティが持ってきたたこ焼きだから。イタズラされているかもしれない」
ラスティのイタズラを感じ取ったエラは、たこ焼きを神代に押しつけたようだ。
「……くっ、仕方ありません。いただきます」
たこ焼きを口に入れて噛み締める神代。
次の瞬間、口の中に走る衝撃。
当たりか?
――否、この辛さはワサビではない。もっと別の何かだ。
「あ。それさっきあたしがタバスコを入れておいたたこ焼きだ。誰かが食べれば面白いと思って……」
思い出したかのように呟くリコ。
エラはラスティを警戒していたが、どうやら今回はリコがタバスコを仕掛けていたようだ。
「……本当にっ! お前らなぁ!」
手近にあったハイボールを一気に飲んだ神代。
怒気の籠もった言葉が響き渡る。
●
持参した酒を振る舞うジーナ(ka1643)。
ワイン「レ・リリカ」や花蜜酒「白霞」など、様々な酒をハンター達のテーブルに置いていく。
その最中、ジーナは恭子の前に酒を置きながら一つの提案を行う。
「壁盾。量産できるならハンターでも使いたい」
函館クラスタ攻略の際に実験的な投入をされた試作品。
VOID砲の砲撃に長時間耐える事のできた壁盾で、二股口では正面からの砲撃にもCAMを守る事ができた。この壁盾を量産できれば今後の戦いにも役立つだろう。
「やってみる価値はあるザマスね」
ジーナの提案に頷く恭子。
やるべき事は山積みだが、今後の激戦を考えれば避けて通る事はできない。
「お疲れさん」
恭子の横へ座ったのは柊 恭也(ka0711)
手には清酒「月見」と鮎の一夜干しを持っている。どうやら他のテーブルで乾杯を行った後、恭子と話をするためにやってきたようだ。
「まあ、色々とアレだったが、バァさんが声を上げたからクラスタ攻略が始まった訳だし。少しくらいは労ってやろうと思ってな」
函館クラスタが始まる経緯を恭也は知っていた。
最終的にハンターと共に函館クラスタを攻略できたが、本部相手に相応の苦労をしていたのだろう。
「あたくしはあたくしの仕事をしただけザマス」
「そう言うなって」
恭也の手にしていた御猪口に、そっとお銚子を傾ける恭子。
空になっていた御猪口に再び月見が満たされる。
恭也は鮎を箸で解すと、口の中に一切れ放り込んだ。
程よい塩気と脂身が口に広がる。
そこへ続けて月見をぐいっと流し込む。
「最高だな。特に勝利を祝した酒は何度飲んでもいい」
「そうザマスね。またこんなパーティが開催できるといいザマスね」
本当に美味しそうに食べる恭也。だが、少し恭子が寂しそうにしているのを感じ取った。
本部の連中が出すちょっかいを防ぐのが恭子の仕事なら、戦場で敵を倒すのがハンターの仕事。
それなら、恭也がやる事は既に決まっている。
「どうせ次は最前線送りなんだろ? なら、次も声をかけろよ。俺がまた今日のような宴会を開催させてやるから」
●
「ここに居たのか」
八重樫は、カウンターでウイスキーを愉しむマリィア・バルデス(ka5848)を見つけた。
ロックスタイルで二つの氷が溶ける音を聞きながら、一人でグラスを傾けている。
「団長」
「これだけの騒ぎの中、一人カウンターで飲んでいるのか」
カウンターの上にはダークチェリーパイ。
マリィアにとっては大切な人が得意とした料理だった。
「団長。私達は、あれで良かったのでしょうか」
マリィアは、そう八重樫に問いかけた。
目の前で爆発するヴァルキリー1。
その中にいた田代誠――MIAとして本部で扱われていた彼は、函館でも味方の為に火星で戦っていたとエンドレスに思わされていたのかもしれない。
だとするなら、マリィアはもっと別の戦い方ができたのではないだろうか。
マリィアの脳裏に蘇る――かつての伍長の姿。
「俺達は常に選択と後悔の連続だ。
いつも何かを選ばされ、その都度選択を後悔する。
それでも、俺達は前に進むしかない」
「そうかもしれません。
あの日。一番無力感に苛まれ力を欲したのは、私達軍人でした。
だから、あの世界の神の如きものに力を貸し与えられた……そう感じるのです。
彼らと私達の望みが叶い、この力を失うまで、きっと私達は帰れない」
マリィアは、グラスに残っていたウイスキーを飲み干した。
力を求め、ハンターとなったマリィアにとってこの流れは避けられない。
業――と呼ぶには、あまりにも過酷な重荷だ。
「俺も同じだ。エンドレスを破壊するまで、絶対に諦めない。
そして、それはお前が背負い込んだ新たな荷物……火星の英雄も同じだ」
マリィアの横に置かれた一つのグラス。
ヴァルキリー1が倒れ、ようやく任務から解放された田代誠の分であった。
マリィアは新たなウイスキーを自分のグラスに注ぎ入れ、そっと上に掲げる。
「還ってきた英雄と戻れなかった戦友に……乾杯」
●
「慰労。いろー? こめてしゅっせきーした、けど。
にぎやーかはやっぱにがて、ねー」
気付けば、ルネ(ka4202)は座敷の隅で壁にもたれかかっていた。
函館クラスタを巡る戦いに身を投じて様々な出会いがあっただけに、顔出しのつもりで参加。だが、孤独を好むエルフの血が出たのかだろうか。周囲の雰囲気に押され気味であった。
「あ、いましたね。改めて函館攻略、お疲れ様ですよー」
「あ。みずき」
葛音 水月(ka1895)の顔を見て体を引き起こすルネ。
実は葛音も八雲分屯基地攻略に携わっていたのだが、それよりも兄妹同然のルネの様子を見る為にこの会場を訪れていた。
体を起こしてテーブルに向かって座り直すルネ。
その横に、葛音はそっと腰掛ける。
「僕はこの作戦にあまり参加できなかったけど、ルネさんはどーだった?」
「いっしょーけんめー、がんばった。はこだて、すくったー」
テーブルの上にあったポテトチップスに手を伸ばすルネ。
その可愛らしい仕草に、思わず葛音は頭を撫でたくなる。
「そうかー。頑張ったのか」
「うん」
微笑ましい二人。
その向かいにはアバルト・ジンツァー(ka0895)が、清酒を一気に飲み干していた。
「やはり日本食は美味い。料理はその風土に根付いたものが最高だな」
目の前に並べられる刺身の盛り合わせに対して箸を巧みに操り、日本食を堪能している。
「せっかくの宴会だ。酒の肴はいくらあっても良かろう」
「今日は楽しまないと損だねー」
アバルトの空になった御猪口に清酒を注ぐ葛音。
「正直、今回の戦いはどうだった?」
「楽な戦いは、無い。どんな戦いでも苦難の連続だ。
だが、皆の尽力で一つの山は越える事ができた」
アバルトは注がれた清酒に口を付ける。
「まだまだ戦いは長い。今日ばかりは戦いの事を忘れて楽しもうじゃないか」
アバルトは、次なる戦いに備えて英気を養うつもりであった。
「そーそー。今日はたっぷりご馳走になっておかないとな……あ、からあげいただき!」
ジョッキに烏龍茶片手にやってきたのはガンジ。
どうやら次々とテーブルを回って美味しそうな料理に箸を付けている。
確かにこうした楽しみ方も有りである。
「お? なんでここに一つだけ酒が置いてあるんだ?」
ガンジの横には、誰もいない席。
だが、そこには御猪口に注がれた清酒が置かれていた。
「ばるきりーわん。たたかーた、なかまよ」
「帰還できなかった火星の英雄の分だ」
ルネの言葉をアバルトが補足した。
「そっか。あいつの分か」
「あすはわがみ……しんみり、ねー」
少し寂しさを感じるガンジに、ルネは変わらぬ調子で言葉をかける。
変わらない様子でも、ルネの中では必死に戦っている。
葛音は、そんな健気なルネが溜まらなく愛おしかった。
「みずき?」
気付けば葛音は、ルネの頭を再び撫でていた。
●
「やっぱ勝利の後はコレだよな! ついでにビールかけもやっちまうかぁ!?」
テキーラを瓶でラッパ飲みするトリプルJ(ka6653)。
すっかり出来上がっているらしく、周囲の人の背中をバンバン叩いて回っている。
そんなトリプルJの脇から藤堂 小夏(ka5489)が諫める。
「ちょっと。飲み過ぎはダメよ」
「あん? 今日ぐらいはいいんじゃねぇのか?」
「ダメ。少しはここに来て落ち着いて飲めば?」
小夏に促され、渋々腰掛けるトリプルJ。
テーブルを見れば清酒。肴はエイヒレとシンプルなものが並んでいた。
「ああ。この酒、日本で飲むお酒って久しぶりだね~。
それにこのエイヒレ。やっぱマヨが至高だね。異論は認める」
「なんだ、もっとガツンとしたツマミはねぇのか?」
「だったら、そこのソーセージをもらえば?」
小夏が指し示す先には、チョリソらしい赤いソーセージがある。
肉食のトリプルJは迷わず手を伸ばす。
「ちょっと御免よ、おばさん」
「おばさんじゃないザマス。これでも還暦……あ、あってるザマスね」
「艦長!」
恭子の姿を視認した途端、トリプルJは瞬間姿勢を正して綺麗な敬礼をしてしまう。
「あら。ワイルドな方ザマスね。楽しんでいるザマスか?」
「ハッ。楽しんでおります……驚かさないで下さいよ。くぁぁ、かっこ悪いぜ俺様」
「あ、恭子。今回の作戦お疲れ様ー。これ、お祝いのプレゼント」
小夏が恭子に差し出したのは、シエラリオ天然化粧水。
角質を落として潤いを与え、滑らかな肌にしてくれるらしい。
「まっ! あたくしにザマスか! 感謝するザマス。これであたくしはますます美に磨きをかけるザマス」
「喜んでいただけて嬉しいです」
「えっと、モリヤマキョウコだっけ?」
小夏へ感謝する横で恭子に挨拶するのはボルディア・コンフラムス(ka0796)。
実はボルディアはリアルブルーの酒場は初めて。クリムゾンウェストにも似ているが、狭い店内で四苦八苦していたようだ。
「あら、初めましてザマスね」
「俺はボルディアってんだ。会うのは初めてだよな。しかしリアルブルーの酒場は狭い分、距離が近いからすーぐ仲良くなれそうだぜ」
「そういう面もあるザマスね。できれば次の戦いがあるなら手を貸して欲しいザマス」
「ああ、タイミングが合えば手を貸すつもりだ。それまでは今日の酒を満喫させてもらう」
手近にあったウイスキーを豪快に飲み干すボルディア。
それに釣られるようにトリプルJもテキーラの瓶に再び口を付ける。
「やるな。なら、こっちも」
「二人とも。そんな調子で飲んで酔い潰れないでよ」
心配する小夏をよそに飲み続けるボルティアとトリプルJ。
競い合うかのように酒を飲み続けていた。
●
「こんなところで極東の文化を味わえるとは。しかも帯刀して入店した我々を咎めもしない。連合軍の方々には頭が下がりますね」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、自ら作ったアジの刺身を前に清酒を味わっていた。
函館の弁天台場で愛刀を振るい、味方の進軍路を切り拓いたハンス。
その成果が函館クラスタの攻略成功に繋がったという想いが、今日の酒をいつもより勧めさせる。純米酒「若峰」や花蜜酒「白霞」をハンター達へ振る舞った後、一人静かに勝利の余韻に浸っていた。
(うう。ハンスさん、酔ってて話し掛けづらい。ルベーノさん……会話にならなそうな気がするっ)
リンゴジュースを片手にテンパっていたのは穂積 智里(ka6819)。
ハンスとは別の場所で戦っていた智里ではあったが、智里もまた函館クラスタ攻略に貢献したハンターの一人である。
「おや、智里さん。どうされました?」
智里の存在に気付いて話し掛けるハンス。
酔ったハンスに声を掛けられ驚く智里。思わず小さな悲鳴が漏れ出でる。
「ひっ。ハンスさん」
「何をされているのです?」
「函館の湾岸ルートで一緒になった方々に挨拶してました。ガンジさんやソティスさんも優しそうな方でした」
「同業への挨拶ですか。感心ですねぇ」
ハンスは満足そうに再び御猪口に口を付ける。
明らかにいつもと違う雰囲気が漂うハンスに、智里は半歩後ろへ下がる。
「ハンスさん、私はあっちの方でまだ挨拶が……」
「まだ良いではありませんか。せっかくですから今日は私が出会ったハンター達の話を致しましょう。そこへお座りに下さい」
いつもの笑顔なのだが、逆らえない雰囲気を出すハンス。
覚悟を決めた智里は、そっと着座する。
「私が出会ったハンターで印象深いのは……」
満足そうに語り始めるハンスを前に、智里はただ耐えるのみであった。
●
恭子の周りには、様々なハンター達が訪れていた。
「何故戦いに……軍属になろうと思ったのかな? 深い意味はないんだ。あくまでも興味から出た質問だ」
オレンジジュースを片手にアーク・フォーサイス(ka6568)は、恭子に問いかける。
軍属で女性が昇進する事は、男性が昇進するよりも厳しい。
戦いに性別は関係ないとはいえ、様々な気苦労があったに違いない。
「そうザマスねぇ。元は成り行きザマス。故国を守る為、なんて自衛隊に身を置いた時には持っていなかったザマス。それが様々な経験で磨かれて、人を守る立場になったザマスね」
「でも……今の志は……素敵です。……綺麗なドレス……と一緒」
恭子の言葉を、エリ・ヲーヴェン(ka6159)がそっと持ち上げる。
エリは販売しているベーコンやハムを持ち込んで恭子の隣に陣取っていた。ハンターというよりもリアルブルーでの販路拡大を狙ったコネクション作りが目的のようだ。
「ありがとうザマス。初めてあったのに優しい言葉には感謝ザマス」
「戦場の敵ばかりではなく、味方からの妨害もあるのだろう。立場が上になればそれだけ責任も増える事になる」
アークの言葉は、事実だ。
ハンターと呼ばれる存在がリアルブルーに登場してから、戦力バランスは大きく変貌している。統一連合宙軍内でもハンターの扱いについて様々な意見がある。それらに対して恭子は正面から受けているのだ。
「そうザマスねぇ。ですが、ハンターの皆さんには作戦の現場に集中して欲しいザマス。本当ならもっと皆さんに有益な情報をお渡しできると良いザマスが……」
「情報ならあるヨ」
恭子にそう声をかけたのはフォークス(ka0570)。
持ち込んだ巡礼者の弁当箱や祝福の水筒にテーブルの料理や酒を入れながら、あっさりと重要なコメントを口にする。
「情報? なんザマショ?」
「エンドレスはクリムゾンウェストにいた歪虚。それがリアルブルーへ転移していたのヨ。それってつまり……あ、情報には相応の対価が必要だヨ」
途中まで話して対価を要求するフォークス。
ちゃっかり報酬を要求するフォークスに思わず恭子は笑みを浮かべる。
「しっかりしているザマスね。今お渡しできる報酬はないザマスが、後で考えておくザマス」
「まー、それでいいか。
エンドレスが自力で転移できる可能性もあるけど……むしろあたいは別の存在が転移に手を貸したって思うヨ」
「別の存在……それは……誰?」
エリの問いかけにフォークスは、弁当箱の蓋を開けながら答える。
「ヴォイドゲート、崑崙戦、エバーグリーン……何かと異世界を股にかけて厄介事を引き起こす連中がいるでしょ?」
「黙示騎士か」
アークの脳裏に閃いた単語。
黙示騎士。
リアルブルーに限らず、異世界で出没してハンターの前に姿を見せる存在。
何かの目的でエンドレスを転移させても不思議ではない。
「あくまでも予想だけどね。でも、自信のある予想だヨ」
「黙示騎士……」
フォークスの言葉を前に、恭子は覚悟を決めたようだ。
●
「ハッ、これがパーティ? 俺様を呼んだ割にゃ随分としょぼくれているじゃねぇか」
酒が入っている為か、そろそろと変わった行動を見せる者達が登場する。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)もその一人だ。
「よっしゃ! 俺様がいる以上、どんな店だろうと最っっっ高にハイなパーティにしてやるぜ」
「いつも以上にテンションが高いように見えるが、一体どうするつもりだ?」
ジャックの隣で静かに清酒を味わうクローディオ・シャール(ka0030)。
ジャックが動き出した時点で嫌な予感しかしないが、放置する訳にもいかない。
「ああ? 決まってるだろ。
最高にハイなパーティーに必要なモンはコレだ……筋☆肉だァ!」
「なんでそうなる……って、おい!」
クローディオを無視して脱ぎ始めるジャック。
服の下から露わになる褐色の筋肉。絞り込まれ鍛えられた筋肉は隆起しつつも、きめ細やかな肌質を露見する。
そして、その特別なイベントを人一倍反応する奴がいた。
「きゃーーーー! イケメンの筋肉ザマス! 目の保養!」
ジャックの近くへ駆け込むように滑り込んでくる恭子。
ジャックの裸を肴に酒を飲む恭子に、周囲のハンターも引き気味だ。
「お? 観衆の声援か? なら、応えねぇ訳にはいかねぇな」
「待て、ジャック。何故私の腕を掴む」
テンションが上がってきたジャックは、さっとクローディオの腕を握りしめる。
その行為の意味にクローディオの脳裏で警報のアラームが鳴り響く。
「決まっているじゃねぇか。ここで盛り上げねぇでどうするんだよ!」
「何故私を巻き込もうとする。肉体美を晒すのはお前の専売特許だろう。私は関係な……」
ジャックはクローディオの服を強引に剥ぎ取る。
美男子二人が座敷席で絡み合うように様にも大興奮だったが、クローディオの白くも適度に絞られた腹筋に恭子の妄想は大暴走だ。
「ちょっ! まさかの褐色と白い肌が混ざり合うBLシーンに突入ザマスか! これはあたくしの創作意欲が止められないザマス」
テーブルに置かれていたチラシの裏に恭子はジャックとクローディオの姿を描き出す。
明らかにそのような体勢は取ってないはずなのだが、ジャックの手がクローディオの頬に――。このままだと二人の薄い本が年末辺りに同人誌で取引されかねない。
「へぇ。二次元に興味があるのか。二次元文化なら俺様も大得意だぜ?」
恭子のスケッチに興味を抱いたジャック。
だが、その一言がさらに恭子を燃え上がらせる。
「良い度胸ザマスね。晴海の某ホテルも吹雪く定山渓で一時間かけてコンビニを探した事もない異世界人があたくしと二次元について語るつもりザマスか……よごザンショ。経験と年季の違いを見せてやるザマス」
ジャックと恭子。
会わせてはいけない組み合わせだったのかもしれない。
●
戦勝会が終わる頃、恭子の携帯に一本の電話が入る。
どうやら部下から急ぎの連絡だったようだ。
「で、どうだった?」
電話が終わる事を確かめた八重樫。
恭子は少し複雑な表情を浮かべている。
「決まったザマス」
その言葉でハンター達の空気が張り詰める。
本部からの指示で函館クラスタに続くメタ・シャングリラの戦場が決まったのだ。
「戦う事こそ我が覇道への第一歩。戦わねばならん。勝ち続けねばならん……続きを話せ。どこであろうと俺は赴こう」
ルベーノが覚悟を決めて恭子に次の言葉を求める。
一呼吸置いた後、恭子は次の戦場を告げる。
「鎌倉。鶴岡八幡宮跡の鎌倉クラスタ攻略ザマス」
鎌倉クラスタ。
首都圏から近い上に三浦半島の反対側には東京湾や横須賀という重要拠点がある。
「函館クラスタよりも強力なのか?」
いつの間にかアバルトは鋭い眼光を放っていた。
「小型で戦力も多く無いザマス。それでも統一連合宙軍や自衛隊は攻略できなかった訳があるザマス」
「攻略できなかった訳?」
ソティスも緊張した面持ちで恭子に視線を送る。
少しの沈黙の後、恭子は鎌倉の現状を説明する。
「あのクラスタは特殊な妨害電波を放出しているザマス。その電波のせいで機械類は停止。通信機器も利用できなくなるザマス」
統一連合宙軍はハンター達と異なり車両を始め多くの機械を用いている。
通信手段も使えない事から白兵での戦いを強いられているという訳だ。
「おいおい、ちょっと待てよ? 機械類が止まるって事はCAMや魔導アーマーも鎌倉ではベッドでおやすみって訳か?」
「そうザマス」
海斗の言葉に恭子は頷く。
「CAMが使えない。これはどうすれば……」
エラの言葉にハンター達が沈黙する。
函館の勝利の立役者でもあったCAMや魔導アーマーが利用できない。
となれば、白兵のみで戦うのか――その問いに対して八重樫が答えた。
「イェルズが戻り次第、作戦だ。幻獣なら、十分に戦える」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/06/07 23:04:20 |