コボルドたちがどこかに消えた

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
6日
締切
2017/06/23 22:00
完成日
2017/06/29 01:54

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング




●辺境、タホ郷。


 郷は今、春祭りの真っ最中。


 祭りの役員を務めているカチャ・タホはほかの役員とともに、ぶっ続けで行われている宴の世話でてんてこ舞い。なにしろ周辺部族も参加しての盛大な祭り。山盛りに準備されていた飲み物や食べ物も、溶けるように消費されて行く。
 このままではまずい。というわけで母ケチャは、娘にお使いを言いつけた。

「カチャ、ちょっとジェオルジまで買い出しに行ってきてくれない? 肉が足りなくなりそうなのよ。ちびちび狩ってたんじゃ間に合いそうもないし」

 やけくそのように大鍋をかき回していたカチャは、ええ……と呻き声を上げる。

「……そりゃ買い出しはいいけど……なんでジェオルジ……もっと近くで買ってきてもいいでしょう?」

「肉はあそこで買う方が安いのよ。品もいいし。あなたは転移門が使えるからすぐ行って帰ってこられるでしょう? 1頭引っ張ってきて。大体その位は必要だと思うから」

 革の財布を渡されたカチャは、母に疑わしげな目を向けた。

「……お母さんも転移門、使えるんじゃなかったでしたっけ……?」

「ええ。でも役員はあなたよね。こっちは私がやるから行ってきなさい。ほら、早く」


●自由都市同盟領。人里離れた山奥。


「わふっ!?」

 仲間を訪ねてきたコボルドコボちゃんは驚いた。この前来たときと周囲の様子が、あまりにも変わっていたから。あちこちに穴がボコボコあいている。仲間が掘ったものとは明らかに趣が異なる穴が。

「うわしー、わしー……」

 一体どうしたのだろうと足を速め、仲間の巣へと向かう。そこでコボちゃんは、あんぐり口を開けた。
 目の前にあるのは、桁違いな大穴。巣があった痕跡どころか風景丸ごと、ごっそり消えてしまっている。切り立った縁に立ってみれば、底が遠く小さく見える。
 一体皆はどこへ。
 不安に駆られて周囲をくまなく捜し回る。大声で吠えながら。でも、誰も出てこない。

「わし……」

 探し疲れたコボちゃんは、しょんぼり地面に座り込む。
 仲間たちは引っ越して行ったのではない。それならば、ちゃんと痕跡が残っているはずだ。それにあの穴は一体。あんな穴コボルドはあけない。もしやドワーフに住処を追われたのだろうか。でもドワーフだってあんな穴あけないような気がする……。
 悩んでいるところ、頭上で、ぎゃっと声がした。見上げれば一羽のカラスが上下にぶれながら、よろよろ飛んでいく所だった。何かにぶつかった後ででもあるかのように――青空には障害物など、何もないのに。


●ハンターオフィス・ジェオルジ支局。


 朝一番のジェオルジ支局。職員のジュアンとマリーは、コボちゃんから一枚の画用紙を渡された。
 そこには以下の文字が記してある。



『なかま いない さがす おおきい あな やま いく こぼ』



「何、これ」

「どうやら依頼を出したいみたいだね」

 ジュアンの言葉を肯定するようにコボちゃんは、「わし!」と吠えた。

「え? コボルドがオフィスに依頼を出して……いいんだったっけ?」

「さあ。これまで例がないような気もするけど……でもはっきり禁止されてるわけでもないしね。掲示するくらいはいいんじゃないかな」

「……まあそりゃそうだけど……あ、ちょっと待って。コボ、この依頼報酬はついてないの?」

 マリーの質問にコボちゃんは、首を傾げた。

「わうしゅー?」

 言葉の意味がよく分からなかったようだと察し、言い直すマリー。

「つまり、ごほうびはないのかってことよ。この頼み事を引き受けてくれる相手に対してのごほうび。分かる?」

 コボちゃんは踵を返し、とたたとオフィスを出て行った。そしてすぐ戻ってきた。両手一杯の骨を抱えて。

「わし」

 ジュアンは額を押さえ、マリーは半眼になる。

「いや……それだと成立はかなり難しいんじゃないかな。コボちゃん」

「あのね、必要なのは骨じゃなくてお金よ、お金。分かる? おかね!」


●ジェオルジ。


 のどかなのどかな田舎道。丸まる肥えた一匹の牛を引き、カチャが行く。

「……よく考えたら転移門て、エクシードじゃない人間がくぐったら体力根こそぎにされるんだったような……この牛大丈夫ですかね……」

 呟きながら見上げてくる相手に牛は、長いげっぷで応じる。
 もしこの牛が倒れたら、私が郷まで背負って運ばなきゃならなくなるのでは?――という嫌な予感を押さえることが出来ないカチャ。
 その時道の向こうから、空き缶三味線を背負ったコボちゃんが走ってきた。

「わし! わしわし!」

「あ、コボちゃん。なんです?」

 コボちゃんは質問に答えず三味線をかき鳴らし一曲披露。それからおもむろに手のひらを差し出す。意味するところは明らかだ。コボちゃん本人もこう言っている。

「おわね! かね! わね!」

 何故大道芸を押し売りされなきゃならないのか。得心行かない思いを抱きながらも先を急ぐ身、カチャは100Gのおひねりを渡す。
 コボちゃんは貰ったお金をポシェットにしまい、さっさと来た道を引き返して行った。
 一体あのお金どうするつもりなんだろう。
 興味が湧かなくはないものの道草しているひまは無い。カチャはそのまま牛を引き、タホ郷へと帰って行く。そして予想通り、へたった牛を背負い郷に帰還する羽目となった。


●自由都市同盟領。人里離れた山奥。


 大地の精霊もぐやんは土の中を進む。地面を掘って進むのではない。巨体を土と一体化させ、進んでいる。木の根や虫や小さな動物などを傷つけないように。


 よいとこしょお、どっこいしょお、そーれそれ


 のどかに歌っていたところ急に体が土からすっぽぬけ、広い空間に出た。
 随分上に四角い空――周囲も四角い壁。


 もう。誰だべ。こんなところにこんな大きな穴をあけてはいかんべえ。


 言いながら彼は大地の傷を、いそいそ修復にかかる。そこで待ったの声が聞こえてきた。頭の上から。

「わしわしわし!」

「ちょっと待って、その穴埋めるのちょっと待ってー!」


 おんや?


 見上げてみれば穴の縁から、コボルドとハンターたちが覗いている。


リプレイ本文

●捜索


「コボちゃん、穴の大きさ、大体お友達のおうちの広さだったりします?」

「ちわーう。もと、おきーい」

「そうですか……ところでおひねりの受け取り方、僕教えましたよね? やってみてくださいコボちゃん」

「かね! おわね! かね!」

「……違うでしょう、帽子で受け取るって教えたでしょうっ。切羽詰まってても、芸は押し売りしちゃだめですっ」

 アルマ・A・エインズワース(ka4901)からお叱りを受けるコボちゃんの鼻先へ、メイム(ka2290)が肉切れをひらひら。

「お土産食べる?」

「くう!」

「こらこら、今お師匠に言われたばっかりでしょう。ものを貰うときはちゃんと一礼しないと――しかし今回のこれ、ほぼ間違いなくマゴイの仕業だよね」

「わぅ? マゴイさんって、どういう方です?」

 その質問にはメイムでなく、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が答える。

「主に妄言を垂れ流すゴーストのようなものだ。人を洗脳して従わせることを是とし、自らが正義と信じるゆえに他者を踏みにじっても省みぬ」

「……あのー、もしかしてヤな人なんですか? マゴイさんていう人」

 エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が顔にかかってくる枝を払いつつ、会話に参加する。

「そうかしら。弟弟子はマゴイさんの能力はすごいけど、悪い風には言ってなかったわ? 聞いたら教えてくれるみたいだし」

「個であれば話せる歪虚も居ないではないが、世界全体からみれば歪虚は敵だ。俺にとってマゴイは、傲慢の歪虚と変わらぬ」

 天竜寺 詩(ka0396)はルベーノの見解について、一部当たってるかも知れないと思いつつ、そうかなとの疑問も持つ。

(……傲慢って言うより……杓子定規に近い感じがするけどな……あの性格……)

 マルカ・アニチキン(ka2542)、ジルボ(ka1732)、ソラス(ka6581)は、声を潜めて話し合う。

「コボちゃんのお友達、やっぱりマゴイさんが連れて行っちゃったんでしょうか」

「ユニオンの遺物を動かすためには、ワーカーが必要だとか言ってたからなあ……」

「有無を言わさず労働させられているなら、助けなくてはいけませんね」

 会話の内容を細かく理解できなくても、深刻そうな雰囲気は伝わったらしい。コボちゃんは鼻に小皺を寄せる。

「わーかー……」

 ルベーノはその頭をぐしゃぐしゃと撫で、元気づけてやった。

「おまえは随分と賢く、仲間想いなのだな……任せろ、時間はかかろうと必ずお前の仲間を助けてやる」

 そのとき木々の間を縫って、何とものんきな歌声が聞こえてきた。


 もぐらは穴うめるぅ へいへいほーぅ、へいへいほーぅ 


 一体何事かと足を速め現場に向かえば、巨大な穴の中で底や壁をぺたぺた叩いている巨大なモグラ――どういうわけだか叩かれたところから、土がどんどん盛り上がって行く。

(な、何!? また土竜歪虚!?)

 警戒する詩の横からエーミが身を乗り出し、深い穴底に手を振った。

「あら、もぐやんじゃなーいー?」

「あれ? エーミさん、知り合い?」

「ええ。大丈夫、あれは精霊よ」

 一安心する詩は、改めて穴の縁から身を乗り出す。

「ちょっと待って、その穴埋めるのちょっと待ってー!」」


●現れる


 ソラスは、もぐやんに尋ねた。

「――というような形の竜型歪虚がオフィスに現れたのですが、それについて何か知っていることはありませんか? どうもこのあたりから送られてきたようなのですが」

 メイムも、もぐやんに尋ねた。メモ紙に描いた絵を示して。

「こういう感じの人、この近辺をうろうろしてなかった?」

 もぐやんは丸い頭を掻いて答える。


 んー、どっちも見おぼえないべ。ここのとこずっと、ふもとの田畑を元気づけに回ってたもんでのー。力になれずすまんべえ。

 エーミはもぐやんの広い背中を軽く叩く。

「気にしなくていいのよ。土地を選んでもらった人たち、きっと喜んでるわ……ところでもぐやん、ここの痕の生態系の修復と……、別の場所でここと同じ風になっているところがあるの。そこに、異世界の異物が埋まっていたら、感じられる?」


 はてどうだんべ。まあ、やってみるべし。ちっと待っててくんろ。


 溶け込むように地面の中へ潜っていくもぐやん。
 ジルボはコボちゃんに聞き確かめた。穴の上を指さして。

「コボ、あのあたりだな? カラスがぶつかったっていうのは」

「わし!」

 メイムは肩に乗せている羽妖精に命じる。

「あんず、飛んで――飛んで、後で甘いものあげるから」

 勤労意欲の無さそうな羽妖精が渋々といった具合に飛び立った。それを追いかけるように、ソラスのモフロウも飛び立つ。
 詩は穴の中にLEDライトをかざした。もしここに結界があるとすれば、光が曲がるのではないかと思ったのだ。

「マゴイ、そこにいるの? まさかコボルド達を無理に働かせてない?」

 しかし光は曲がらず、薄暗がりを貫くばかり。土壁にぶつかって起きる木霊以外、返事はない。
 上空で妖精とモフロウが、困惑したようなホバリングを始める。ジルボは2匹に告げた。

「おーい、ちっと離れろ。弾撃ち込んでみるから!」

 ペイント弾が空中に向け発射される。弾は宙で弾けた。飛び散った原色の液体が、するする下へ落ちて行く。水滴が弾かれるように。
 何かがあるのは間違い無さそうだ。けれどもそれは地上に、全く影を落としていない。
 マルカは穴の縁を回りつつ目を凝らし、魔導カメラで何枚か写真を撮ってみる。

(視点を変えたら、何か手掛かりが見つかるかも知れません……)

 雲の動きが、ほんの僅か――よほど注視していないと分からないほど微妙に――ずれている箇所が見受けられた。
 その報告を受けたソラスは、魔導マイクを口元に持っていく。

「マゴイさん、そこにおられるんですか? マゴイさん」

 応答なし。
 無視なのか留守なのか。思いながらメイムはエバーグリーン式結界を初めて見る人々に向け、これまでの経験から推察した所を説く。

「――というわけでかなり厄介だけど、属性攻撃は効き目がありそうなんだ。だからアルマさん、もしもの際には頼むね」

「分かりました。コボちゃんとお友達にひどいことしたら、ダメです」

 ジルボは残ったペイント弾を、有りったけ放ってみた。先程のようにペイントはするする落ち、くっつかない。

「どうなってるのかな」

 らちが明かないと見た詩はホーリーライトを放った。光が飲み込まれるように消える。
 マルカは魔法洗浄を、ソラスはカウンターマジックを、併せて放つ。黒い渦が2度、3度目に白い渦。
 結界の一部が剥げた。そこから出てきたのは、穴とほぼ同じ大きさかと思われる巨大な立方体。上下左右全面に青空が映りこんでいた。下から見上げていると背景の青空とあいまって、どうにも視覚が混乱してしまう。

「おーい。マゴイー。いるなら出ておいでー。じゃないとアルマさんの黄金の右腕が、箱壊しちゃうよー」

 再びメイムの呼びかけが行われたところで、立方体の一部が紙のようにべろりと剥げた。そこから怪訝そうな顔をしたマゴイが姿を現す。
 ソラスはマイクの音量を最大にした。

「すいません、そこから降りてきていただけませんか。少しお話がしたいんです」

 マゴイが立方体に引っ込んだ。と思ったら、近くの地面から生えてきた。

『……一体何なのあなたたち……私は今忙しいのだけれど……』

 マルカは、なるべく穏やかに尋ねる。

「マゴイさん、ここにいたコボルドたちを知りませんか?」

『……知っている』

「今どこで何をしています?」

『……安全な職場で能力に応じた健康面で無理のない適正な労働を行い充実感と幸福を感じている所……』

 もうこの時点で聞くまでもない気がするが、それでも聞いてみるメイム。

「それはあれかな、彼らをワーカーにしたということかな?」

『ええ』

「だよね。あのさ、とりあえず彼らを解放してくれない? 人を勝手に攫って正当な労働報酬もなしに働かせるのは駄目でしょ」

 詩も言う。

「やろうとしてる事はともかく貴方が自分の意思で行動するのは良い、けどそれなら協力者は洗脳や脅しじゃなくきちんと貴方の誠意で集めないと駄目だよ!」

 マルカも苦言を呈する。

「マゴイさん……介護欲溢れるユニオンの思想は、灰汁が強すぎます。相手の身命魂などは当然の事、プライド、羞恥心、常識、ツッコミ、ありとあらゆる物を犠牲にするのも厭わずワーカーにするのは控えるべきだと思います……」

 それらの指摘に対しマゴイは、心外そうな顔をした。

『……何か勘違いをしていない?……市民になりたいと言ってきたのは彼らの方なんだけど……』

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに彼女の足元から、黒い箱がせり上がってくる。

『……ウォッチャー……記録映像を……通訳音声つきで……』

<<了解しました、マゴイ>>

 箱の表面に、以下の映像が浮かんだ。

 ――マゴイが歪虚を箱詰めにし、転送する。崩れた穴からコボルドが這い出してくる。マゴイに向けて口々に言う。『でかいのたおした!』『おまえつおい!』『こぼるどのことばはなす!』『ぼす!』『むれをまもって!』――

 メンバーのうちでただ一人『コボルドたちが習性に従い強者へ自主的についていった可能性』に思い至っていたエーミは、こめかみを押さえ呟いた。

「……あー、やっぱり……」

 ジルボはコボルドの単純さに頭を抱えつつ、抗弁をする。

「ま、まあとにかくな、あんたの影響はデカイんだから先ずは落ち着いて俺達と話してみないか? この世界の住人を勝手に使うのはやめてくれ。市民を好き勝手されるのはアンタも嫌だろ?」

『……それはもちろん……市民はユニオンによって利己的搾取から守られるべき存在……でもそのこととこのことは、また違う話では……さっきも言ったように私は勝手に彼らをユニオン市民にしたわけじゃない……』

「群れを守ってって言うのはワーカーにしてくれっていう意味じゃないと思うぞ?」

『……ユニオン適正テストを受けさせてみた結果、彼らには共同体の成員となる能力が立派にあることが判明した……であればワーカーとなり幸福になる権利を得るべきと判断……』

「おねぇさん、俺の話聞いてる?」

『……聞いてる……でも話には順序というものがあるからもう少しお待ちなさい……』

 そこでルベーノが、もう我慢ならんと言った調子で割り込んできた。

「お前はオートマトンに対すると同様、コボルドも人として見ていないようだな。自由を失い奴隷状態にされることの何が幸福だというんだ」

『……ワーカーを奴隷と混同するなんて事実誤認もはなはだしい……と言うよりどうしてそこまでオートマトンに倒錯的傾倒を示すのかしらね……オートマトンが何をもたらすか知っているのでしょう……あのトマーゾと連絡を取り合っているなら……』

「ああ。オートマトンはベアトリクスの影響を受け人間に敵対するようになり、結果世界が滅んだのだろう。だがしかしそれはお前たちがオートマトンを心あるものとして扱わなかったせいだ。それで彼らを恨むのは筋違いだ」

『……いや、論点そこじゃないんだけど……そもそもベアトリクス自体がオートマトンの技術なしには出現し得なか……』

「はいはいはい。ひとまずお茶にしましょう。こちらの人間には精神を落ち着かせるための休養が必要なの」

 エーミが双方の間に入り、会話を途切れさせた。話がどんどん本題からずれていると見て。


●消える


 とりあえずマゴイはその場に、テーブルと椅子を用意してくれた。固形化したキューブ状の結界を幾つか作ることで。
 エーミは一番大きなキューブの上にお茶とスナックを並べる。
 ついでなので詩も、持ってきたものを並べる。そしてマゴイに言う。

「ねえマゴイ。コボちゃん仲間のことを本当に心配してるんだ。今どうしてるか見せてあげられない?」

『……ウォッチャー……中継を……』

 ウォッチャーの表面に浮かび上がってきたのは、コボルドたちが見慣れぬ機械を使って、海辺の岩場を掘削している姿。周囲に生えている植物などから推察するに、南海方面の海辺らしい。
 酷使されている様子ではない。毛艶もいいし、適度に肥えている。目ヤニもなく鼻も濡れ、健康そう。
 コボちゃんと一緒にそれを見たアルマは胸を撫で下ろし――かけ、眉をひそめた。画面に顔を近づける。
 コボルドたちの首後ろに、数字と文字の刻印がつけられているのを確認する。

「オートマトンが世界の破滅に繋がると思うのはどうしてです? 本当に心配なら、まずこの世界の重要人物に話してから行動するのが筋だと思いますが」

『……話したって……無駄としか……』

「まあそう言わずに、先ずはオフィスか協会に話を通すのがいいと思うぜ。ところでステーツマンを作った後、何すんのおねぇさん」

『色々……追放者の処遇についての判断を仰いで……転送装置の使用許可についての判断を仰いで……』

「ギルドにも相談してよ。多分協力出来ると思う――ってカチャが言ってた」

『……あら、そう……それは大変助かるわ……』

 ソラス、ジルボ、メイムにそれぞれ返事を返した後マゴイは、ふとコボちゃんに目を向けた。

『……ところでこの子は……他の子に比べて格段に学習能力が高そうだけど……何か違いがあるのかしら……』

「わ、わし?」

 コボちゃんの体が結界に囲まれ、ふわりと宙に浮く。マゴイが黒い箱に命じる。

『……ウォッチャー、スキャンを――』

 その瞬間アルマは彼女に向け、デルタレイを発動した。

「ヤな子、ですっ!」

 青い光が不可視の障壁で弾かれた。直後彼は結界に閉じ込められ転送される。先の大穴の中、高さ50メートルの只中に。
 結界が消える。手掛かりがないので即落ちる。
 ジルボが前以てもぐやんに『コボルドが落ちてきたときのため結界の下の地面を柔らかくしておいてくれ』と頼んでおいたおかげで、大怪我するほどの衝撃は受けずに済んだ。


 アルマ以外のハンターたちは見た。マゴイの強ばった表情と、警戒に満ちた眼差しを。
 黒く長い髪が風に吹かれたように持ち上がる。白いうなじに数字と文字の刻印が浮かび上がっていた。

――μ・F・92756471・マゴイ―― 

 結界と共にマゴイは消えた。


●そして続く

「じゃ、コボちゃんのお仲間見つからないままですかメイムさん」

「うん。マゴイ、途中でへそ曲げて帰っちゃってさ。そのうちまた出てくるとは思うけど」

「困った人ですねー。穴はどうなったんですエーミさん?」

「もぐやんがきれいに処理してくれたわ。土をならして木と花を植えて……結局遺物は見つからなかったけど」

「そうですか」

「ところでカチャ、郷のお祭りどうだった?」

「……とにかく大変でした。スニーカーの紐がやたら切れ倒したんですよ。呪われてるんじゃないかって思いたくなるほど……なんで目をそらすんですかメイムさん」

「いや、別に」

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MVP一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732
  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290
  • 知るは楽しみなり
    ソラスka6581

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 解を導きし者
    エーミ・エーテルクラフト(ka2225
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 知るは楽しみなり
    ソラス(ka6581
    エルフ|20才|男性|魔術師
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/20 12:12:07
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/06/23 17:42:21