ゲスト
(ka0000)
ゴブリンと晩餐会
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/31 07:30
- 完成日
- 2014/10/31 17:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●プライドの高さは時として邪魔にしかならない
帝国領の一角に豪邸が立ち並ぶ通りがある。そこで晩餐会が行われていた。
そこまではいい、富裕層の間ではそう珍しい事でもない。問題はそこにゴブリンの群れが紛れ込んだということ。
ゴブリンたちは一際豪奢な館で行われていた晩餐会場にもぐりこみ、場を荒らした。
それよりもある意味で問題だったのは……。
●いくらいけ好かなくても人助けはしなくてはならないらしい
「矜持の高い貴族が雑魔と一緒に立てこもっちゃったのが一番の問題、なのかな。今回は。さっさと逃げ出せばいいのに自分の屋敷にゴブリンが入り込んだなんて認めない、認めたら世間体が悪いとかでさ。力では叶わないかもしれないけれど頭脳ではこっちが上、とか思い込んでるらしくて。馬鹿だよねぇ、命あっての物種なのに。ゴブリンより頭悪い気がするなぁ。ゴブリンは知性があるからね」
心底呆れたような口調で状況説明を続ける青年。
「今のところゴブリンは貴族と客には手を出してないよ。自分を売り渡さないならもう少し長生きさせてやる、とか契約したって話だけどぶっちゃけた話そんなのいつでも裏切れる。『手を出さない』じゃなく『もう少し長生きさせてやる』だからね。今が寿命だって言われたらそれまでだ。通報してきたのは雑魔が勤め先にいることの恐怖に耐えきれなかった屋敷の使用人。
見取り図によると一階の最奥、パーティー会場なんかに使う大広間で晩餐会をしてたみたいだね。そこに貴族の夫婦と客がやっぱり夫婦で五組、ゴブリンが五体立てこもってる。
食事を運ばせたりする以外は一緒に立てこもってるみたいだね」
場所がちょっと狭い上に上に頭の固い貴族を守りながらの戦闘になるからちょっと大変かも。そう付け加えながらいつになく冷たい目で青年は笑った。
「ゴブリンが帝国領にいるのに放置して人死にが出たらハンターオフィスにも火の粉が降りかかるからね。事前に消化を頼むよ。屋敷の内部までは通報した使用人が通してくれるはずだ。あとは……プライドの無駄に高い、命あっての物種って言葉を知らないバカを何とかしてきてくれるかな。多分助けに行っても不法侵入者として居丈高に出て行け、とか言われるし助けた後はこのことを口外したら~とかお決まりの脅し文句を言ってくるだろうけどね。君たちなら口外はしないだろうし口外しても口封じに殺されることもないでしょ」
帝国領の一角に豪邸が立ち並ぶ通りがある。そこで晩餐会が行われていた。
そこまではいい、富裕層の間ではそう珍しい事でもない。問題はそこにゴブリンの群れが紛れ込んだということ。
ゴブリンたちは一際豪奢な館で行われていた晩餐会場にもぐりこみ、場を荒らした。
それよりもある意味で問題だったのは……。
●いくらいけ好かなくても人助けはしなくてはならないらしい
「矜持の高い貴族が雑魔と一緒に立てこもっちゃったのが一番の問題、なのかな。今回は。さっさと逃げ出せばいいのに自分の屋敷にゴブリンが入り込んだなんて認めない、認めたら世間体が悪いとかでさ。力では叶わないかもしれないけれど頭脳ではこっちが上、とか思い込んでるらしくて。馬鹿だよねぇ、命あっての物種なのに。ゴブリンより頭悪い気がするなぁ。ゴブリンは知性があるからね」
心底呆れたような口調で状況説明を続ける青年。
「今のところゴブリンは貴族と客には手を出してないよ。自分を売り渡さないならもう少し長生きさせてやる、とか契約したって話だけどぶっちゃけた話そんなのいつでも裏切れる。『手を出さない』じゃなく『もう少し長生きさせてやる』だからね。今が寿命だって言われたらそれまでだ。通報してきたのは雑魔が勤め先にいることの恐怖に耐えきれなかった屋敷の使用人。
見取り図によると一階の最奥、パーティー会場なんかに使う大広間で晩餐会をしてたみたいだね。そこに貴族の夫婦と客がやっぱり夫婦で五組、ゴブリンが五体立てこもってる。
食事を運ばせたりする以外は一緒に立てこもってるみたいだね」
場所がちょっと狭い上に上に頭の固い貴族を守りながらの戦闘になるからちょっと大変かも。そう付け加えながらいつになく冷たい目で青年は笑った。
「ゴブリンが帝国領にいるのに放置して人死にが出たらハンターオフィスにも火の粉が降りかかるからね。事前に消化を頼むよ。屋敷の内部までは通報した使用人が通してくれるはずだ。あとは……プライドの無駄に高い、命あっての物種って言葉を知らないバカを何とかしてきてくれるかな。多分助けに行っても不法侵入者として居丈高に出て行け、とか言われるし助けた後はこのことを口外したら~とかお決まりの脅し文句を言ってくるだろうけどね。君たちなら口外はしないだろうし口外しても口封じに殺されることもないでしょ」
リプレイ本文
●判断ミスの一つ一つが惨劇につながった晩餐会の後始末
帝国領の中でも富裕層が家を構える立派な屋敷が並ぶ通りのなかの一軒の邸宅。そこが今回ギルドから依頼を受けた覚醒者たちの戦うゴブリンが居座っている場所だ。
くわえ煙草で歩いてきた弥勒 明影(ka0189)だったが仲間に「口うるさい貴族が灰を落とすな、とか絡んでくるかもしれない」と忠告するとそれはそれで面倒くさいな、と携帯灰皿で煙草をもみ消す。
「強きに媚びて弱きを虐げる――その性は力を持った人が嵌る陥穽であり、それもまた人の姿ではあるが。
然し何とも情けない姿だな。
誇るだけ誇り、然し暴力が怖いと人質に甘んじる。
端的に、嗤えるよ」
言葉通り嘲笑を口の端に浮かべて問題の屋敷を見上げる。
「めんどくさい状況ね」
満月美華(ka0515)はやれやれ、とこれから遂行する仕事を、というか対面する貴族を思って嘆息する。
これから対峙するのは晩餐会の会場に乗り込んだゴブリンを「屋敷にゴブリンが入り込んだなんて世間体が悪いから」と握りつぶそうとしている面々なのだからさもありなん。
「どーしようもないご主人様でも、居なくなると露頭に迷っちゃうよねー。
大丈夫大丈夫。ボク達の方で、何とかしてあげるから♪」
レベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)は覚醒者でありハンターオフィスに持ち込まれた仕事を受けたのだと「今は主に取り次げない、屋敷にも入れられない」と応対にでたメイドに告げたあととても軽やかに告げた。
「は、はぁ……」
メイドはレベッカのあけすけともいえる言葉にしどろもどろだ。
「馬鹿だな、その貴族とかいうのは。うん、馬鹿だ。だが、馬鹿でも命はある。なら助けるしかねーか。……なんで使用人たちは辞めたりしないんだ? 横暴そうだが」
デルフィーノ(ka1548)のレベッカに輪をかけて身もふたもない言葉にメイドは困惑したままこちらです、どうぞ、と覚醒者たちを邸内に誘った。
大半の仲間同様、アレン=プレアール(ka1624)もまた貴族はどうでもいいがゴブリンは放っておけないと考えていた。
貴族が突入された時点で助けを求める可愛げのある性格だったなら覚醒者たちのとらえ方も違っていただろうか。
サントール・アスカ(ka2820)が屋敷の内部を説明してもらいながらぼやく。
「厄介なところへゴブリンも押し入ったものだ。変な方向に考えが凝り固まった人が人質だと苦労するな。
どんな人であれ、危険に晒すわけにはいかないし。なんとか敵を退治しよう」
「プライドが高いのも命あってだからね」
シャリファ・アスナン(ka2938)が淡々と相槌を打った。
(恩も義理も無い帝国貴族。その軽い頭精々利用させて貰おう。
これで少しは何か学んでくれると良いんだけど)
無表情にそんなことを考えたのは十司 志狼(ka3284)だった。
突入口となりそうなのは大広間の入り口となる観音開きの扉と使用人が出入りする目立たない入口。それから今は分厚いカーテンに仕切られていて中が見えない代わりに突入しようという自分たちの姿も見られない、中庭を見るための壁一面分をすべて窓にしたものだという。
明け方、朝食の配膳のタイミングで突入の打ち合わせをしているのでそろそろ時間だ。
「貴方のことは中にいる貴族に誰が密告したか聞かれても絶対答えないから安心してね。どうしようもない人間でも雇用主である以上従わなきゃいけないのが使用人の辛いところだよね。
どうしてもついていけないって思ったときは転職しちゃっても誰も責めないとは思うけどさ。貴方がこの一件で馘首されちゃうような話の持っていき方はしないから」
レベッカが安心させるように微笑みかければメイドは
「皆さんをよろしくお願いします。どうかお気をつけて」と深々と頭を下げた。
配膳のタイミングを他の使用人と合わせるために去っていくその背中を見送る。
「ろくでもない貴族にはもったいない出来たメイドさんだったわね」
美華の呟きに誰もが頷いたのだった。
「あの嬢ちゃん守るためにもなんとかしねぇとな。ゴブリン倒して貴族懲らしめてってか」
デルフィーノの言葉には若干の苦笑いが漏れる。
――さて、いよいよ突入だ。
「ミスは許されないよ、気合いを入れよう」
シャリファの言葉に全員が顔を引き締めて頷いた。
●長く続いた晩餐会という地獄も、今日で終わり
三方からの突撃……窓からの突撃は少々派手なものになったが、とにかくそれは籠城している貴族も貴族を盾に好き放題しているゴブリンも驚かせるには十分な効果があったようだ。
まず狙われたのは人質に一番近い位置にいるゴブリン。
シャリファはそれを瞬時に見定めるとランアウトを使って肉薄、一気に接近して腕を捻りあげいきなり組み付くことで床に押し倒す。
「何ヲスル!?」
仲間にしか通じない言語だけでなく人間が使う言語も習得してはいるようだがあまり得意ではないらしく片言で叫びながら暴れるゴブリンを可能な限り抑え続けながら締め落としを試みるシャリファに甲高い悲鳴が集中力を高める邪魔をする。
「なんなの、何なのよ!?」
「貴様ら誰の許しを得てここにいる!?」
「手引きをしたのは誰だ!」
「貴君には、『帝国政府』より国家叛逆の疑いが掛かっている。
この様に自宅にゴブリンなどを囲っているのがその証左!」
張り上げられた声に貴族が一瞬ひるんだ後猛烈な勢いでどこが囲っているように見えるのか、お前たちの目は節穴か、囚われているのが分からないかとまくしたてる貴族たち。
「ではなぜハンターオフィスに救助を依頼しない!」
出まかせではあるが筋が通っているように聞こえるのは貴族が阿呆すぎて取り違える場所を間違っているのか志狼のはったりが決まりすぎているのか。
「自分たちで隙を見て解決するつもりでもいたのか。ならばなぜ人質に甘んじて貴族の誇りを示さぬ、貴領に踏み込む不埒者に退去を命じぬのか」
不埒者という単語にいきり立ったゴブリンが貴族をほっぽり出して志狼や他の覚醒者たちの方に向かっていく。
居丈高にも聞こえる、貴族の逆鱗を撫でるような挑発はゴブリンの敵意を覚醒者側に向けるためのはったりなのだから志狼の芝居の上手さは役者としても通用しそうである。
仲間がけん制している間に貴族とゴブリンの間に志狼が割って入りもう一度人質にされるのを防ぐ。
貴族を盾を構えて全力で守りプロテクションを発動させたことで発せられた光が全身を覆い防御力が強化される。
同じくゴブリンと貴族の間にランアウトを使って割り込んだアスカは振りかざされたこん棒を攻撃を受け止めることを捨てて立体的な動きで敵を翻弄しながら攻撃を回避した後、体にマテリアルを巡らせてより精度の高く確実な一撃を洗練された動きで繰り出す。
「家具に傷をつけるんじゃない! いくらすると思っている! だいたい貴様らはなんなのだ、本当に政府からの使いか、それにしては荒っぽすぎるぞ!」
二人が安全を身を挺して提供してくれていることすら分からないのか貴族がきぃきぃとわめくのを見てアレンのやる気はさらに下がるが一応人命ではあるし、貴族の出資が重要な財源となる分野もあることは理解しているので助けるつもりはわずかでもあるのは貴族たちにとっては幸いだったはずだ。
「無駄に見栄ばかり張って口だけ……。……全く、貴族の鏡だな……」
金と権力で何とかなると思っている貴族が嫌いで自ら道を切り開ける戦士は老若男女関係なく好きだというアレンにとってこの貴族たちは嫌う分野の筆頭だろう。
貴族嫌いでイライラしているのもあってか突入時にはすでに覚醒状態になっていた彼は室内だが威圧感重視でハルバードを使用している。
持ち手の長さを変えて対応はしているが勢い余って貴族を叩き斬りそうになったりうるさかったときは目の前に武器をたたきつけて黙らせたりする戦いかたなので家具に関しては全く気を払っていないに等しい。
せいぜい振り回すときに引っかかって隙を作らないように大きくは当てないようにする、程度の認識である。
志狼とアスカ以上に体当たりで貴族に危険を知らせたのはデルフィーノだった。
機導術により攻撃に伴い盾を高速で動かす事で己の身を守ることでゴブリンたちの凶暴さを間近で見せつけたのである。
「こいつらが話通じねぇ相手だってのはここまでやっても分かんねぇか? 生きてたのはこいつらの気まぐれだよ。飽きたら殺されてたんだ。わかったら逃げろ、戦闘の邪魔だ。それとも本当に癒着でもしてるのか?」
それなりに重かったであろう衝撃をものともせず淡々と告げれば貴族たちも馬鹿なりに危険さを悟ったようだが悟った時には腰が抜けていたようではいつくばって逃げる様は無様だし迅速に逃げられないのであれば意図せぬ怪我をする恐れがある。
「あー、腰ぬけちゃったか。しょうがないな、その辺かたまってて? できるだけ早く片付けるから。あ、宅配便じゃないからサインはいらないよ?」
茶化すような口ぶりでレベッカが人質に最接近しようとしたゴブリンの下半身を狙う形でエイミングを乗せた一撃をゴブリンに食らわせる。
「一応退避は完了した、と思うことにしましょう。長引かせてもめんどくさいし。さあ! 食らいなさい!」
美華が放った燃える火の矢が一番弱ったゴブリンに突き刺さりゴブリンが断末魔の絶叫をあげながら倒れる。どうやら息絶えたようだ。
人質とゴブリンの間に割って入っていた三人がもう一体を倒し、仲間のフォローに動いていた明影が止めを刺したゴブリンが一体で倒れたゴブリンは計四体。
つまりは後一体で勝負がつく。
銃やハルバードなどの武器によって重厚なカーテンや高そうな壁紙や鏡に焦げ跡や傷やヒビがついていくがもとはといえばゴブリンの言いなりになって立てこもったまま何の対処も取らなかったうえに非協力的な貴族たちばかりだったため仕方ない、と覚醒者たちは割り切っている。
片づけられていない食器の名残が一つテーブルから降りて中身をぶちまけながらいやに日常的な音を立てて割れた。
最後の一体はシャリファが止めを刺してその場に沈黙が戻った。
「き、貴様らよくも私の家を荒らしてくれたな! このような不届き者が政府から使わされているエージェントだとは思えん! 家具と私たちが精神的に負った被害についての損害賠償請求を――!」
「――餓鬼の戯言だな。
あぁ、アレ等の暴威を恐れて縮こまっていた者とは思えん。
親の七光りを誇るなよ、鬱陶しい。
それでお前は、己に誇るべき『何か』を持ち得ているとでも言うのか?
彼は人なり、我らも人なり、我何ぞ彼を畏れんや――俺にはお前を畏敬する理由が何一つないのでな。
別に、それでも尚と言うならそれも構わんが――ならば力に潰されても納得しろよ?
今は、お前が弱者だ」
「う……ぐぅ……何を、小童が……」
「この場合年は関係ないと思うがな」
冷えた、という表現を通り越して冷たい声で明影が告げるとさしもの貴族も黙り込むしかない。
その後美華の端的な処理とレベッカの話術と交渉術を駆使した説明で使用人が手引きしたと気づかれないように、なおかつむしろ使用人たちがゴブリンの脅威にさらされながらも忠誠を誓って沈黙を守ったのは尊いことだと馬鹿な貴族たちが理解するまでにもっていき、それでもごねる場合は男性陣が武器を音を立てて装備し直すなど若干の脅しも含めて使用人がこの騒ぎが原因で辞める時はきちんと労うこと、退職金をきちんと出すこと、辞めないとしても苦労を認めること、今度もしこういう騒ぎがあったら対面を気にする前にハンターオフィスに連絡を取って迅速に解決を願うことなどを幼子に噛んで含めるより丁寧に言い聞かせて覚醒者たちは撤収した。
デルフィーノが男だけならまだしもこんな素敵なマダム達を危険にさらすとはどういう了見だ、と女性たちを味方につけたのも貴族たちを黙らせるには効果が大きかったかもしれない。
貴族たちはしぶしぶではあったが命を助けられたことを認めて損害賠償の請求などは取り下げたが最後まで悪態をつくことは忘れなかった。
これは改心してもすぐには素直になれないのと情けないところを見せた相手が格上過ぎて素直になっては最後のプライドが折れてしまう、と思ったせいかもしれない。
こうして貴族の館にゴブリンが入り込んで好き勝手にやらかすのを当の本人たちが黙殺しようとするという珍事は邸宅にやや被害を残したもののとりあえず解決したのだった。
「状況を理解できないって、逆に都合がいいことだよね~?」
「……ゴブリンの方がまだ話が通じたかもね」
そんなやり取りを、貴族たちは知らない。
帝国領の中でも富裕層が家を構える立派な屋敷が並ぶ通りのなかの一軒の邸宅。そこが今回ギルドから依頼を受けた覚醒者たちの戦うゴブリンが居座っている場所だ。
くわえ煙草で歩いてきた弥勒 明影(ka0189)だったが仲間に「口うるさい貴族が灰を落とすな、とか絡んでくるかもしれない」と忠告するとそれはそれで面倒くさいな、と携帯灰皿で煙草をもみ消す。
「強きに媚びて弱きを虐げる――その性は力を持った人が嵌る陥穽であり、それもまた人の姿ではあるが。
然し何とも情けない姿だな。
誇るだけ誇り、然し暴力が怖いと人質に甘んじる。
端的に、嗤えるよ」
言葉通り嘲笑を口の端に浮かべて問題の屋敷を見上げる。
「めんどくさい状況ね」
満月美華(ka0515)はやれやれ、とこれから遂行する仕事を、というか対面する貴族を思って嘆息する。
これから対峙するのは晩餐会の会場に乗り込んだゴブリンを「屋敷にゴブリンが入り込んだなんて世間体が悪いから」と握りつぶそうとしている面々なのだからさもありなん。
「どーしようもないご主人様でも、居なくなると露頭に迷っちゃうよねー。
大丈夫大丈夫。ボク達の方で、何とかしてあげるから♪」
レベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)は覚醒者でありハンターオフィスに持ち込まれた仕事を受けたのだと「今は主に取り次げない、屋敷にも入れられない」と応対にでたメイドに告げたあととても軽やかに告げた。
「は、はぁ……」
メイドはレベッカのあけすけともいえる言葉にしどろもどろだ。
「馬鹿だな、その貴族とかいうのは。うん、馬鹿だ。だが、馬鹿でも命はある。なら助けるしかねーか。……なんで使用人たちは辞めたりしないんだ? 横暴そうだが」
デルフィーノ(ka1548)のレベッカに輪をかけて身もふたもない言葉にメイドは困惑したままこちらです、どうぞ、と覚醒者たちを邸内に誘った。
大半の仲間同様、アレン=プレアール(ka1624)もまた貴族はどうでもいいがゴブリンは放っておけないと考えていた。
貴族が突入された時点で助けを求める可愛げのある性格だったなら覚醒者たちのとらえ方も違っていただろうか。
サントール・アスカ(ka2820)が屋敷の内部を説明してもらいながらぼやく。
「厄介なところへゴブリンも押し入ったものだ。変な方向に考えが凝り固まった人が人質だと苦労するな。
どんな人であれ、危険に晒すわけにはいかないし。なんとか敵を退治しよう」
「プライドが高いのも命あってだからね」
シャリファ・アスナン(ka2938)が淡々と相槌を打った。
(恩も義理も無い帝国貴族。その軽い頭精々利用させて貰おう。
これで少しは何か学んでくれると良いんだけど)
無表情にそんなことを考えたのは十司 志狼(ka3284)だった。
突入口となりそうなのは大広間の入り口となる観音開きの扉と使用人が出入りする目立たない入口。それから今は分厚いカーテンに仕切られていて中が見えない代わりに突入しようという自分たちの姿も見られない、中庭を見るための壁一面分をすべて窓にしたものだという。
明け方、朝食の配膳のタイミングで突入の打ち合わせをしているのでそろそろ時間だ。
「貴方のことは中にいる貴族に誰が密告したか聞かれても絶対答えないから安心してね。どうしようもない人間でも雇用主である以上従わなきゃいけないのが使用人の辛いところだよね。
どうしてもついていけないって思ったときは転職しちゃっても誰も責めないとは思うけどさ。貴方がこの一件で馘首されちゃうような話の持っていき方はしないから」
レベッカが安心させるように微笑みかければメイドは
「皆さんをよろしくお願いします。どうかお気をつけて」と深々と頭を下げた。
配膳のタイミングを他の使用人と合わせるために去っていくその背中を見送る。
「ろくでもない貴族にはもったいない出来たメイドさんだったわね」
美華の呟きに誰もが頷いたのだった。
「あの嬢ちゃん守るためにもなんとかしねぇとな。ゴブリン倒して貴族懲らしめてってか」
デルフィーノの言葉には若干の苦笑いが漏れる。
――さて、いよいよ突入だ。
「ミスは許されないよ、気合いを入れよう」
シャリファの言葉に全員が顔を引き締めて頷いた。
●長く続いた晩餐会という地獄も、今日で終わり
三方からの突撃……窓からの突撃は少々派手なものになったが、とにかくそれは籠城している貴族も貴族を盾に好き放題しているゴブリンも驚かせるには十分な効果があったようだ。
まず狙われたのは人質に一番近い位置にいるゴブリン。
シャリファはそれを瞬時に見定めるとランアウトを使って肉薄、一気に接近して腕を捻りあげいきなり組み付くことで床に押し倒す。
「何ヲスル!?」
仲間にしか通じない言語だけでなく人間が使う言語も習得してはいるようだがあまり得意ではないらしく片言で叫びながら暴れるゴブリンを可能な限り抑え続けながら締め落としを試みるシャリファに甲高い悲鳴が集中力を高める邪魔をする。
「なんなの、何なのよ!?」
「貴様ら誰の許しを得てここにいる!?」
「手引きをしたのは誰だ!」
「貴君には、『帝国政府』より国家叛逆の疑いが掛かっている。
この様に自宅にゴブリンなどを囲っているのがその証左!」
張り上げられた声に貴族が一瞬ひるんだ後猛烈な勢いでどこが囲っているように見えるのか、お前たちの目は節穴か、囚われているのが分からないかとまくしたてる貴族たち。
「ではなぜハンターオフィスに救助を依頼しない!」
出まかせではあるが筋が通っているように聞こえるのは貴族が阿呆すぎて取り違える場所を間違っているのか志狼のはったりが決まりすぎているのか。
「自分たちで隙を見て解決するつもりでもいたのか。ならばなぜ人質に甘んじて貴族の誇りを示さぬ、貴領に踏み込む不埒者に退去を命じぬのか」
不埒者という単語にいきり立ったゴブリンが貴族をほっぽり出して志狼や他の覚醒者たちの方に向かっていく。
居丈高にも聞こえる、貴族の逆鱗を撫でるような挑発はゴブリンの敵意を覚醒者側に向けるためのはったりなのだから志狼の芝居の上手さは役者としても通用しそうである。
仲間がけん制している間に貴族とゴブリンの間に志狼が割って入りもう一度人質にされるのを防ぐ。
貴族を盾を構えて全力で守りプロテクションを発動させたことで発せられた光が全身を覆い防御力が強化される。
同じくゴブリンと貴族の間にランアウトを使って割り込んだアスカは振りかざされたこん棒を攻撃を受け止めることを捨てて立体的な動きで敵を翻弄しながら攻撃を回避した後、体にマテリアルを巡らせてより精度の高く確実な一撃を洗練された動きで繰り出す。
「家具に傷をつけるんじゃない! いくらすると思っている! だいたい貴様らはなんなのだ、本当に政府からの使いか、それにしては荒っぽすぎるぞ!」
二人が安全を身を挺して提供してくれていることすら分からないのか貴族がきぃきぃとわめくのを見てアレンのやる気はさらに下がるが一応人命ではあるし、貴族の出資が重要な財源となる分野もあることは理解しているので助けるつもりはわずかでもあるのは貴族たちにとっては幸いだったはずだ。
「無駄に見栄ばかり張って口だけ……。……全く、貴族の鏡だな……」
金と権力で何とかなると思っている貴族が嫌いで自ら道を切り開ける戦士は老若男女関係なく好きだというアレンにとってこの貴族たちは嫌う分野の筆頭だろう。
貴族嫌いでイライラしているのもあってか突入時にはすでに覚醒状態になっていた彼は室内だが威圧感重視でハルバードを使用している。
持ち手の長さを変えて対応はしているが勢い余って貴族を叩き斬りそうになったりうるさかったときは目の前に武器をたたきつけて黙らせたりする戦いかたなので家具に関しては全く気を払っていないに等しい。
せいぜい振り回すときに引っかかって隙を作らないように大きくは当てないようにする、程度の認識である。
志狼とアスカ以上に体当たりで貴族に危険を知らせたのはデルフィーノだった。
機導術により攻撃に伴い盾を高速で動かす事で己の身を守ることでゴブリンたちの凶暴さを間近で見せつけたのである。
「こいつらが話通じねぇ相手だってのはここまでやっても分かんねぇか? 生きてたのはこいつらの気まぐれだよ。飽きたら殺されてたんだ。わかったら逃げろ、戦闘の邪魔だ。それとも本当に癒着でもしてるのか?」
それなりに重かったであろう衝撃をものともせず淡々と告げれば貴族たちも馬鹿なりに危険さを悟ったようだが悟った時には腰が抜けていたようではいつくばって逃げる様は無様だし迅速に逃げられないのであれば意図せぬ怪我をする恐れがある。
「あー、腰ぬけちゃったか。しょうがないな、その辺かたまってて? できるだけ早く片付けるから。あ、宅配便じゃないからサインはいらないよ?」
茶化すような口ぶりでレベッカが人質に最接近しようとしたゴブリンの下半身を狙う形でエイミングを乗せた一撃をゴブリンに食らわせる。
「一応退避は完了した、と思うことにしましょう。長引かせてもめんどくさいし。さあ! 食らいなさい!」
美華が放った燃える火の矢が一番弱ったゴブリンに突き刺さりゴブリンが断末魔の絶叫をあげながら倒れる。どうやら息絶えたようだ。
人質とゴブリンの間に割って入っていた三人がもう一体を倒し、仲間のフォローに動いていた明影が止めを刺したゴブリンが一体で倒れたゴブリンは計四体。
つまりは後一体で勝負がつく。
銃やハルバードなどの武器によって重厚なカーテンや高そうな壁紙や鏡に焦げ跡や傷やヒビがついていくがもとはといえばゴブリンの言いなりになって立てこもったまま何の対処も取らなかったうえに非協力的な貴族たちばかりだったため仕方ない、と覚醒者たちは割り切っている。
片づけられていない食器の名残が一つテーブルから降りて中身をぶちまけながらいやに日常的な音を立てて割れた。
最後の一体はシャリファが止めを刺してその場に沈黙が戻った。
「き、貴様らよくも私の家を荒らしてくれたな! このような不届き者が政府から使わされているエージェントだとは思えん! 家具と私たちが精神的に負った被害についての損害賠償請求を――!」
「――餓鬼の戯言だな。
あぁ、アレ等の暴威を恐れて縮こまっていた者とは思えん。
親の七光りを誇るなよ、鬱陶しい。
それでお前は、己に誇るべき『何か』を持ち得ているとでも言うのか?
彼は人なり、我らも人なり、我何ぞ彼を畏れんや――俺にはお前を畏敬する理由が何一つないのでな。
別に、それでも尚と言うならそれも構わんが――ならば力に潰されても納得しろよ?
今は、お前が弱者だ」
「う……ぐぅ……何を、小童が……」
「この場合年は関係ないと思うがな」
冷えた、という表現を通り越して冷たい声で明影が告げるとさしもの貴族も黙り込むしかない。
その後美華の端的な処理とレベッカの話術と交渉術を駆使した説明で使用人が手引きしたと気づかれないように、なおかつむしろ使用人たちがゴブリンの脅威にさらされながらも忠誠を誓って沈黙を守ったのは尊いことだと馬鹿な貴族たちが理解するまでにもっていき、それでもごねる場合は男性陣が武器を音を立てて装備し直すなど若干の脅しも含めて使用人がこの騒ぎが原因で辞める時はきちんと労うこと、退職金をきちんと出すこと、辞めないとしても苦労を認めること、今度もしこういう騒ぎがあったら対面を気にする前にハンターオフィスに連絡を取って迅速に解決を願うことなどを幼子に噛んで含めるより丁寧に言い聞かせて覚醒者たちは撤収した。
デルフィーノが男だけならまだしもこんな素敵なマダム達を危険にさらすとはどういう了見だ、と女性たちを味方につけたのも貴族たちを黙らせるには効果が大きかったかもしれない。
貴族たちはしぶしぶではあったが命を助けられたことを認めて損害賠償の請求などは取り下げたが最後まで悪態をつくことは忘れなかった。
これは改心してもすぐには素直になれないのと情けないところを見せた相手が格上過ぎて素直になっては最後のプライドが折れてしまう、と思ったせいかもしれない。
こうして貴族の館にゴブリンが入り込んで好き勝手にやらかすのを当の本人たちが黙殺しようとするという珍事は邸宅にやや被害を残したもののとりあえず解決したのだった。
「状況を理解できないって、逆に都合がいいことだよね~?」
「……ゴブリンの方がまだ話が通じたかもね」
そんなやり取りを、貴族たちは知らない。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談卓 レベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617) 人間(リアルブルー)|20才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/10/31 01:43:56 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/26 18:38:48 |