ゲスト
(ka0000)
呪いの菊人形
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/10/31 19:00
- 完成日
- 2014/11/01 14:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●呪いの菊人形
あの人形師より自分の腕の方が上なはずだ。それをぬけぬけと技を盗んだ挙句自分より高評価を得たあの人形師が許せない。
せめてこの人形が意志をもってあの人形師の息を止めてはくれまいか。
そのためなら自分は後世に悪逆な人形師として名を残すことになっても構わない。
ただただ憎い、あの人形師を排除できるなら。
一人の男の歪んだ執念は完成後長い間放置された人形に宿った。発見されたのは人形師の死後、蔵でのことだった。
「そういえばそろそろ菊も見ごろだよね。それで、リアルブルーの文化を取り入れる試みとして帝国領の一角で菊の鑑賞会や菊で飾った人形展をやるらしいんだけど……ある人形師の遺作が雑魔になってるみたいなんだ。雑魔化してるのに気づかずに展示しちゃったみたいだね」
多いよねぇ、最近。そういってもはや恒例となった何を原料としているのか聞くのが怖い【何か】をずずっとすする少年と青年の狭間にいるような外見のオフィス職員。
「なんかねぇ、ライバルに技術を盗まれて、しかも自分より高評価を得たことを恨みに思ったのが原因で聞く人形を作る人形師……でいいのかな。とにかくその職人さんの作った菊人形五体が執念を作られたんだけど遺作として放置されてからも執念は残ってたみたいでね。
それが会場の方に紛れ込んじゃったんだよね。未発表の、それなりに有名な人形師の作品で完成度も高かったから展示側は飛びついたみたいだけど雑魔になった人形放っておくわけにいかないし。
会場準備も済んでもう会場の方に展示されちゃってて人形のふりをする必要がなくなったから覚醒者だろうが一般人だろうが会場スタッフだろうが迂闊に近づくと攻撃してくるから撤去も難しいらしい。一時的に鑑賞会を中止してもらってるけどこのままじゃ赤字でね。
リアルブルーの東の方の……なんていうんだろう、騎士みたいな格好の、武士、だっけ、あぁいうのが手の部分とか露出してる部分を菊で飾った人形が四体と、やっぱり東風のお姫様風に花飾りを菊で統一した女性の姿の人形が一体。
女性の人形を守るように武士人形たちは動くよ。刃は潰してあるけど鈍器としては使える剣と盾を持ってる。女性の人形の方は菊の花吹雪で目くらましをしたり花弁を刃物状にして手裏剣っぽく投げたりするみたいだね」
戦闘力はそんなに高くないけど指揮を執ってる女性の人形に手を出すと騎士人形たちは怒りで力を強めるし、先に武士人形を倒そうとすると女性の人形の統率が邪魔になるかもしれない。
そこだけなんとかできれば倒せない相手じゃないから討伐を頼むよ、と青年は説明を終えた。
「今回の催しがうまく行ったら秋の行事の一環に組み込む計画が持ち上がってるしさ、人形細工師の活躍の場をつぶすのももったいないじゃない? 協力してくれるよね?」
あの人形師より自分の腕の方が上なはずだ。それをぬけぬけと技を盗んだ挙句自分より高評価を得たあの人形師が許せない。
せめてこの人形が意志をもってあの人形師の息を止めてはくれまいか。
そのためなら自分は後世に悪逆な人形師として名を残すことになっても構わない。
ただただ憎い、あの人形師を排除できるなら。
一人の男の歪んだ執念は完成後長い間放置された人形に宿った。発見されたのは人形師の死後、蔵でのことだった。
「そういえばそろそろ菊も見ごろだよね。それで、リアルブルーの文化を取り入れる試みとして帝国領の一角で菊の鑑賞会や菊で飾った人形展をやるらしいんだけど……ある人形師の遺作が雑魔になってるみたいなんだ。雑魔化してるのに気づかずに展示しちゃったみたいだね」
多いよねぇ、最近。そういってもはや恒例となった何を原料としているのか聞くのが怖い【何か】をずずっとすする少年と青年の狭間にいるような外見のオフィス職員。
「なんかねぇ、ライバルに技術を盗まれて、しかも自分より高評価を得たことを恨みに思ったのが原因で聞く人形を作る人形師……でいいのかな。とにかくその職人さんの作った菊人形五体が執念を作られたんだけど遺作として放置されてからも執念は残ってたみたいでね。
それが会場の方に紛れ込んじゃったんだよね。未発表の、それなりに有名な人形師の作品で完成度も高かったから展示側は飛びついたみたいだけど雑魔になった人形放っておくわけにいかないし。
会場準備も済んでもう会場の方に展示されちゃってて人形のふりをする必要がなくなったから覚醒者だろうが一般人だろうが会場スタッフだろうが迂闊に近づくと攻撃してくるから撤去も難しいらしい。一時的に鑑賞会を中止してもらってるけどこのままじゃ赤字でね。
リアルブルーの東の方の……なんていうんだろう、騎士みたいな格好の、武士、だっけ、あぁいうのが手の部分とか露出してる部分を菊で飾った人形が四体と、やっぱり東風のお姫様風に花飾りを菊で統一した女性の姿の人形が一体。
女性の人形を守るように武士人形たちは動くよ。刃は潰してあるけど鈍器としては使える剣と盾を持ってる。女性の人形の方は菊の花吹雪で目くらましをしたり花弁を刃物状にして手裏剣っぽく投げたりするみたいだね」
戦闘力はそんなに高くないけど指揮を執ってる女性の人形に手を出すと騎士人形たちは怒りで力を強めるし、先に武士人形を倒そうとすると女性の人形の統率が邪魔になるかもしれない。
そこだけなんとかできれば倒せない相手じゃないから討伐を頼むよ、と青年は説明を終えた。
「今回の催しがうまく行ったら秋の行事の一環に組み込む計画が持ち上がってるしさ、人形細工師の活躍の場をつぶすのももったいないじゃない? 協力してくれるよね?」
リプレイ本文
●花で美しく飾られた人形が抱く作り手の憎悪
白、黄色、紫。その他にもオレンジがかった色や赤い色が人形たちの服を象っている。
遠目に見れば変わった布地を着せた人形なのかと錯覚しそうなほど密に差し込まれたその色の正体は、菊。
リアルブルーでは仏前によくあげられる花、そして食用花――エディブルフラワー――としてよく知られている花だ。
クリムゾンウェストの帝国領の一角、リアルブルーへの理解と文化の交流を謳う人々の嘆願によって実現したクリムゾンウェストでの菊人形祭り。
本来なら平和に終わるはずだったその場所に、人形が雑魔化したものが持ち込まれ、祭りに訪れた人々に猛威をふるっているということで急遽ハンターオフィスに討伐の依頼が入ったのだった。
二次災害を避けるため雑魔の手をかいくぐって職員たちは他の菊人形と雑魔が宿る菊人形を乖離させることに辛くも成功したため雑魔の周辺はぽっかりと空間が空いている。
多少負傷者は出たということだったが死者が出なかったことと戦うためのスペースを確保されているというのは朗報と言えるだろう。
「この地に菊人形等というものがあるとは……何者が持ち込んだのか興味深いです。
ただ……まあ、ここではきっちりと退治してこんなモノを増やさない様にしたいですね」
クオン・サガラ(ka0018)はせっかくリアルブルーの文化を肌で感じてもらえる企画なのに雑魔が沸くとは、と若干残念そうにため息を吐いた。
(もったいないわね、いい作品なのに)
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も横でそっと息を吐いた。
『この戦続きの世の中で、こういった催し物自体贅沢だといわれることもあるのに、人形は専外だけど、芸術をこれ以上陰に追いやられてたまるもんか……! みんな、今日は頑張ろうね!』
スケッチブックにあらかじめ書いておいた文章を今日の討伐依頼にともに繰り出す仲間たちに順繰りに見せていく。
頷きが返ればそれよりも強い勢いで頷くエヴァはどうやら芸術に強い興味や情熱を持っているようだ。
「美しいね、とても美しい人形だな。でもすこし……そうだな、何か違う」
じっと雑魔を見つめていたルピナス(ka0179)がぽつりと呟いた。
何が違うのかを己に、そして雑魔が宿ってしまったために破壊される運命となった人形へと問うように。
「ほう、リアルブルーでは人形が動き回るのか。
やはり異世界の文明という物は我々の想像を超えて……ああ、雑魔か。
なれば勿体ないが民のために壊すしかないようだな」
勘違いしかけたところを仲間に訂正されて少しだけ残念そうに討伐の決意を新たにするディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。
「怨念の菊人形が雑魔化って、リアルブルーなら怪談話だけどここでは現実の事件だよな」
ディアドラに雑魔が入り込んだだけで基本的に菊人形は動かないはず、と認識の訂正を入れたリアルブルーの出身者の一人、雪ノ下正太郎(ka0539)は生活環境の違いを改めて思い知らされた、という顔だ。
「菊人形、ですか……小さい頃見に行ったことがありますわ。懐かしい……まるで帰ってきたみたい。
あの時は触ることすら許されなかったものを……壊せるなんて。ふふふっ…ちょっと楽しみですわ」
せっかくの美しい人形を壊すなんて、と残念がるメンバーが多い石橋 パメラ(ka1296)は言葉にした通り楽しみなのか微笑みを浮かべている。
「凄い人の遺作だったとしても一般の人に危険が及ぶのは避けたいから……きれいだけど、倒さなきゃね」
シャル・ブルーメ(ka3017)が思いのたけを改めて言葉にして決意表明をしていたのを待っていたように菊で飾られたリアルブルーの衣装、着物を身にまとった姫人形を守るようにして武具や盾を菊で飾った武士人形たちが動き出した。
●破れたのは自身の夢か、人形への愛か
菊の花言葉の中に【破れた恋】と【わずかな愛】というものがある。
製作する時にライバルへの恨みだけを込めて作り上げ、遺作として雑魔化するまで蔵に眠っていた人形の作り主は人形への愛を込めた時期はあったのだろうか。
破れたのは夢、けれどそれは技術を盗まれたからだけではなく真心や創作物に対する愛情が少なすぎたからなのかもしれない。
どんなに美しくても心が宿っていないと注視すればわかる菊人形たちは雑魔となって動けるようになった今、伝えるべき言葉と言葉にするだけの知性があったならどんな言葉を綴ったのだろう。
伝えるべき声も、知性も持たない雑魔に問いかけても栓のないことではあったが何人かはそんな風に思ったのかもしれない。
パメラは姫人形を守るようにしながらじりじりと陣を組んで近づいてくる武士人形に向かって合間を見て足元に発砲し陣形を崩す戦略に出た。
「あらあら……お姫様の前でみっともない動きしちゃいけませんよ?」
くすくす、と相変わらず微笑んだままのパメラの表情。憎悪で美しい顔を歪めてしまっている姫人形とはまるで対照的な表情だがどこかしら似ているのはどちらの表情も作り物めいているからかもしれない。
「うーん。やっぱり盾、邪魔ですねぇ……」
敵に持たれると一番厄介ですと呟きつつ陣形が崩れた隙を見てナイフを振りかざす。
パッと血の代わりに切り裂かれた花弁が宙を舞った。
正太郎もタイミングを合わせて前に出て武士人形一体の抑えに回った。
武士人形の抑えに回ったのは後二人、クオンとディアドラだ。
他のメンバーは抑えられている武者人形を集中的に各個撃破していく方針で作戦はまとまっている。
「前衛は本職ではないんですがね……致し方ありませんか。姫人形の討伐までうまくもたせないと……」
ぼやきつつも接敵したらガードさせるように攻撃することでのけん制、ガードしている隙に後退して歩み寄ってくるのを待ちまたけん制攻撃、と着実に姫人形から武士人形を引き離していく。
ある程度姫人形との距離が空いたのを見計らって攻撃の瞬間に雷撃を放って相手を焼いた。魔力を帯びた雷撃で麻痺したところを盾を避けるように回り込んでナックルでの攻撃で敵の力をそいでいく。
ディアドラの方は大きく武器を振り回し、勢いと力で相手の体勢を崩しながら武士人形同士の連携を妨害している。
集中攻撃を担当するルピナスは武士人形たちと抑え役がせめぎあっている間に姫人形に駆け寄り大きな布を姫人形へとかけた。
「どうやって視認してるかはわからないけれど、人と同じように目から情報を拾っているなら統率を取ったりしにくくなるからね。気休めに」
反撃を食らう前に急いで味方の陣営へと戻り腕や足の可動部に当たる場所を狙って攻撃する。
「なめらかな動きだな、可動部はどういう仕組みなんだろう。造形もこちらのものとは少し違う気がするね、エキゾチックだなぁ」
戦いながらも興味は尽きないようで攻撃目標を定める際につい動きを観察してしまうようだ。
終始とても生き生きとしているがパメラと違うのは壊すのを楽しいと思っているというより人形が動くことを面白がっているからだろうか。
エヴァは人形だからこそ頭と心臓付近に当たるように燃える火の矢を武士人形へと飛ばす。
(材質は知らないけれど人形だしよく燃えそうよね)
ファイアーアローを射かける時にルピナスが盾を持っている腕を狙って攻撃する連携のおかげで盾で身をかばうことができずに一体の人形が瓦解した。
姫人形が布を取り払って統率と鳴き声での鼓舞による回復を試みたがこの人形に関してはどうやら手遅れだったようだ。
顔を彩る憎悪の色を濃くしながら菊の花弁を刃物のように鋭く硬化させ飛ばしてくるのは仲間を倒された怒りか、それとも防衛本能か。
菊の花弁によって切り裂かれたディアドラの傷を見て即座にシャルが声をあげる。
「すぐ、治療します!」
精霊に祈りを捧げることによって引き出されたマテリアルの力が柔らかい光となって傷を包み、癒していく。
「姫人形が菊の花弁を飛ばすときの事前行動と思われる動きを覚えました。次からその行動をとった時はお知らせしますので注意してください!」
事前行動、それは長い髪がふわりと浮きたつという一度目にすれば力の動きが良く分かる物だったのが幸いした。
統率を取る隙もなく覚醒者たちが連係プレーで武士人形を撃破していき回復も追いつかない様子で姫人形の顔を彩る憎悪の色は濃くなるばかりだ。
やがて武士人形は朽ちた人形へとなり下がり、残った雑魔は姫人形だけ。
「お姫様に注意してください! 行動起こしそうです!」
シャルの警告通り髪がふわりと浮きたち花弁が硬化していく中敢えて正太郎が突撃し、攻撃準備段階中にこちらから攻撃を仕掛けることで集中力を乱して相手の攻撃を失敗させた。
「……こうしてみると表情を除けばとてもきれい……壊すのがもったいないわ……でも、ごめんなさいね」
姫人形の黒い瞳に向けて銃弾を撃ち込むパメラ。
すこし硬質な音が小さく響いて目と目の周囲が破壊された。
ディアドラが飛び道具である花弁からの攻撃から身を防ぐため盾を武器代わりに振りかざすと菊の花びらがはぎ取られて無残な姿になっていく姫人形。
「青の世界の人形もとても綺麗だね。うちにも一人お迎えしたいくらい。意志を持つなら尚更だ。
でも、人形師の心情がこんなに前面に出てしまうのは、それはどうかなって俺は思うんだよ。
何を思い何を演じるかは人形たちの自由。人形師の物語の上にいる以上、主役は張れないもの。残念だね」
ぼろぼろになっていく姫人形を愛おしむように、そして慈しむように言葉を綴りながらルピナスが関節部へロングソードを突き刺す。
それが止めとなって姫人形は悲鳴のように関節を軋ませる音を小さく響かせながら崩れ落ちた。
「あー、やっぱりぼろぼろだよね。綺麗にできたら一体くらい持って帰れるかなって思ったんだけどな……」
先ほどのセリフの優しさすら感じる口調と相まって冗談なのか本気なのかと仲間たちが視線で会話する中ルピナスはそっと「お休み、姫君」と呟いた。
雑魔はすべて祓い終えた。あとは残骸となってしまった人形と散ってしまった花弁を片付け、戦いで乱れた部分を整え、他のスペースに移動させていた人形たちを据えれば何事もなかったかのように祭りは再開される。
人形師の恨みも、恨みに縛られて主役に立つことのできなかった悲劇の人形ももう表舞台に立つことはないのだ。
「さて、とこれからどうしようか」
「折角ですしちょっと見て回りたいですねぇ……ふふっ。さっきはゆっくり見れなかったので。今度はお客さんですからちゃんと入場料を払えば見学させてもらえますよね?」
パメラの言葉にでは折角だからみんなで見て回ろう、という意見が出て回るペースは個人個人に任せるものの一通りは見ていこうということになった。
(暴れまわったのはそりゃめいわくだけど、思いを込めて作ったものの最後の評価が『雑魔になって人を襲った』じゃあまりにも、よ!)
少し待ってほしいと筆談で告げてエヴァがスケッチブックに描き出したのは先ほどまで戦っていた五体の菊人形たち。
こうしてリアルブルーの古き時代を伝える伝統文化はクリムゾンウェストに一騒動巻き起こしはしたものの根付こうとしていた。
これからの時間は人生の中ではわずかでもリアルブルーの出身者にとっては故郷を懐かしむ思い出の記憶に、クリムゾンウェスト出身者には見知らぬ文化に触れるいい時間になる事だろう。
元服前の少年、尼、武家の妻女、仕えている女房、一家の大黒柱の武士。
人形たちは色とりどりの菊に飾られて覚醒者たちを出迎えるのだった。
白、黄色、紫。その他にもオレンジがかった色や赤い色が人形たちの服を象っている。
遠目に見れば変わった布地を着せた人形なのかと錯覚しそうなほど密に差し込まれたその色の正体は、菊。
リアルブルーでは仏前によくあげられる花、そして食用花――エディブルフラワー――としてよく知られている花だ。
クリムゾンウェストの帝国領の一角、リアルブルーへの理解と文化の交流を謳う人々の嘆願によって実現したクリムゾンウェストでの菊人形祭り。
本来なら平和に終わるはずだったその場所に、人形が雑魔化したものが持ち込まれ、祭りに訪れた人々に猛威をふるっているということで急遽ハンターオフィスに討伐の依頼が入ったのだった。
二次災害を避けるため雑魔の手をかいくぐって職員たちは他の菊人形と雑魔が宿る菊人形を乖離させることに辛くも成功したため雑魔の周辺はぽっかりと空間が空いている。
多少負傷者は出たということだったが死者が出なかったことと戦うためのスペースを確保されているというのは朗報と言えるだろう。
「この地に菊人形等というものがあるとは……何者が持ち込んだのか興味深いです。
ただ……まあ、ここではきっちりと退治してこんなモノを増やさない様にしたいですね」
クオン・サガラ(ka0018)はせっかくリアルブルーの文化を肌で感じてもらえる企画なのに雑魔が沸くとは、と若干残念そうにため息を吐いた。
(もったいないわね、いい作品なのに)
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も横でそっと息を吐いた。
『この戦続きの世の中で、こういった催し物自体贅沢だといわれることもあるのに、人形は専外だけど、芸術をこれ以上陰に追いやられてたまるもんか……! みんな、今日は頑張ろうね!』
スケッチブックにあらかじめ書いておいた文章を今日の討伐依頼にともに繰り出す仲間たちに順繰りに見せていく。
頷きが返ればそれよりも強い勢いで頷くエヴァはどうやら芸術に強い興味や情熱を持っているようだ。
「美しいね、とても美しい人形だな。でもすこし……そうだな、何か違う」
じっと雑魔を見つめていたルピナス(ka0179)がぽつりと呟いた。
何が違うのかを己に、そして雑魔が宿ってしまったために破壊される運命となった人形へと問うように。
「ほう、リアルブルーでは人形が動き回るのか。
やはり異世界の文明という物は我々の想像を超えて……ああ、雑魔か。
なれば勿体ないが民のために壊すしかないようだな」
勘違いしかけたところを仲間に訂正されて少しだけ残念そうに討伐の決意を新たにするディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。
「怨念の菊人形が雑魔化って、リアルブルーなら怪談話だけどここでは現実の事件だよな」
ディアドラに雑魔が入り込んだだけで基本的に菊人形は動かないはず、と認識の訂正を入れたリアルブルーの出身者の一人、雪ノ下正太郎(ka0539)は生活環境の違いを改めて思い知らされた、という顔だ。
「菊人形、ですか……小さい頃見に行ったことがありますわ。懐かしい……まるで帰ってきたみたい。
あの時は触ることすら許されなかったものを……壊せるなんて。ふふふっ…ちょっと楽しみですわ」
せっかくの美しい人形を壊すなんて、と残念がるメンバーが多い石橋 パメラ(ka1296)は言葉にした通り楽しみなのか微笑みを浮かべている。
「凄い人の遺作だったとしても一般の人に危険が及ぶのは避けたいから……きれいだけど、倒さなきゃね」
シャル・ブルーメ(ka3017)が思いのたけを改めて言葉にして決意表明をしていたのを待っていたように菊で飾られたリアルブルーの衣装、着物を身にまとった姫人形を守るようにして武具や盾を菊で飾った武士人形たちが動き出した。
●破れたのは自身の夢か、人形への愛か
菊の花言葉の中に【破れた恋】と【わずかな愛】というものがある。
製作する時にライバルへの恨みだけを込めて作り上げ、遺作として雑魔化するまで蔵に眠っていた人形の作り主は人形への愛を込めた時期はあったのだろうか。
破れたのは夢、けれどそれは技術を盗まれたからだけではなく真心や創作物に対する愛情が少なすぎたからなのかもしれない。
どんなに美しくても心が宿っていないと注視すればわかる菊人形たちは雑魔となって動けるようになった今、伝えるべき言葉と言葉にするだけの知性があったならどんな言葉を綴ったのだろう。
伝えるべき声も、知性も持たない雑魔に問いかけても栓のないことではあったが何人かはそんな風に思ったのかもしれない。
パメラは姫人形を守るようにしながらじりじりと陣を組んで近づいてくる武士人形に向かって合間を見て足元に発砲し陣形を崩す戦略に出た。
「あらあら……お姫様の前でみっともない動きしちゃいけませんよ?」
くすくす、と相変わらず微笑んだままのパメラの表情。憎悪で美しい顔を歪めてしまっている姫人形とはまるで対照的な表情だがどこかしら似ているのはどちらの表情も作り物めいているからかもしれない。
「うーん。やっぱり盾、邪魔ですねぇ……」
敵に持たれると一番厄介ですと呟きつつ陣形が崩れた隙を見てナイフを振りかざす。
パッと血の代わりに切り裂かれた花弁が宙を舞った。
正太郎もタイミングを合わせて前に出て武士人形一体の抑えに回った。
武士人形の抑えに回ったのは後二人、クオンとディアドラだ。
他のメンバーは抑えられている武者人形を集中的に各個撃破していく方針で作戦はまとまっている。
「前衛は本職ではないんですがね……致し方ありませんか。姫人形の討伐までうまくもたせないと……」
ぼやきつつも接敵したらガードさせるように攻撃することでのけん制、ガードしている隙に後退して歩み寄ってくるのを待ちまたけん制攻撃、と着実に姫人形から武士人形を引き離していく。
ある程度姫人形との距離が空いたのを見計らって攻撃の瞬間に雷撃を放って相手を焼いた。魔力を帯びた雷撃で麻痺したところを盾を避けるように回り込んでナックルでの攻撃で敵の力をそいでいく。
ディアドラの方は大きく武器を振り回し、勢いと力で相手の体勢を崩しながら武士人形同士の連携を妨害している。
集中攻撃を担当するルピナスは武士人形たちと抑え役がせめぎあっている間に姫人形に駆け寄り大きな布を姫人形へとかけた。
「どうやって視認してるかはわからないけれど、人と同じように目から情報を拾っているなら統率を取ったりしにくくなるからね。気休めに」
反撃を食らう前に急いで味方の陣営へと戻り腕や足の可動部に当たる場所を狙って攻撃する。
「なめらかな動きだな、可動部はどういう仕組みなんだろう。造形もこちらのものとは少し違う気がするね、エキゾチックだなぁ」
戦いながらも興味は尽きないようで攻撃目標を定める際につい動きを観察してしまうようだ。
終始とても生き生きとしているがパメラと違うのは壊すのを楽しいと思っているというより人形が動くことを面白がっているからだろうか。
エヴァは人形だからこそ頭と心臓付近に当たるように燃える火の矢を武士人形へと飛ばす。
(材質は知らないけれど人形だしよく燃えそうよね)
ファイアーアローを射かける時にルピナスが盾を持っている腕を狙って攻撃する連携のおかげで盾で身をかばうことができずに一体の人形が瓦解した。
姫人形が布を取り払って統率と鳴き声での鼓舞による回復を試みたがこの人形に関してはどうやら手遅れだったようだ。
顔を彩る憎悪の色を濃くしながら菊の花弁を刃物のように鋭く硬化させ飛ばしてくるのは仲間を倒された怒りか、それとも防衛本能か。
菊の花弁によって切り裂かれたディアドラの傷を見て即座にシャルが声をあげる。
「すぐ、治療します!」
精霊に祈りを捧げることによって引き出されたマテリアルの力が柔らかい光となって傷を包み、癒していく。
「姫人形が菊の花弁を飛ばすときの事前行動と思われる動きを覚えました。次からその行動をとった時はお知らせしますので注意してください!」
事前行動、それは長い髪がふわりと浮きたつという一度目にすれば力の動きが良く分かる物だったのが幸いした。
統率を取る隙もなく覚醒者たちが連係プレーで武士人形を撃破していき回復も追いつかない様子で姫人形の顔を彩る憎悪の色は濃くなるばかりだ。
やがて武士人形は朽ちた人形へとなり下がり、残った雑魔は姫人形だけ。
「お姫様に注意してください! 行動起こしそうです!」
シャルの警告通り髪がふわりと浮きたち花弁が硬化していく中敢えて正太郎が突撃し、攻撃準備段階中にこちらから攻撃を仕掛けることで集中力を乱して相手の攻撃を失敗させた。
「……こうしてみると表情を除けばとてもきれい……壊すのがもったいないわ……でも、ごめんなさいね」
姫人形の黒い瞳に向けて銃弾を撃ち込むパメラ。
すこし硬質な音が小さく響いて目と目の周囲が破壊された。
ディアドラが飛び道具である花弁からの攻撃から身を防ぐため盾を武器代わりに振りかざすと菊の花びらがはぎ取られて無残な姿になっていく姫人形。
「青の世界の人形もとても綺麗だね。うちにも一人お迎えしたいくらい。意志を持つなら尚更だ。
でも、人形師の心情がこんなに前面に出てしまうのは、それはどうかなって俺は思うんだよ。
何を思い何を演じるかは人形たちの自由。人形師の物語の上にいる以上、主役は張れないもの。残念だね」
ぼろぼろになっていく姫人形を愛おしむように、そして慈しむように言葉を綴りながらルピナスが関節部へロングソードを突き刺す。
それが止めとなって姫人形は悲鳴のように関節を軋ませる音を小さく響かせながら崩れ落ちた。
「あー、やっぱりぼろぼろだよね。綺麗にできたら一体くらい持って帰れるかなって思ったんだけどな……」
先ほどのセリフの優しさすら感じる口調と相まって冗談なのか本気なのかと仲間たちが視線で会話する中ルピナスはそっと「お休み、姫君」と呟いた。
雑魔はすべて祓い終えた。あとは残骸となってしまった人形と散ってしまった花弁を片付け、戦いで乱れた部分を整え、他のスペースに移動させていた人形たちを据えれば何事もなかったかのように祭りは再開される。
人形師の恨みも、恨みに縛られて主役に立つことのできなかった悲劇の人形ももう表舞台に立つことはないのだ。
「さて、とこれからどうしようか」
「折角ですしちょっと見て回りたいですねぇ……ふふっ。さっきはゆっくり見れなかったので。今度はお客さんですからちゃんと入場料を払えば見学させてもらえますよね?」
パメラの言葉にでは折角だからみんなで見て回ろう、という意見が出て回るペースは個人個人に任せるものの一通りは見ていこうということになった。
(暴れまわったのはそりゃめいわくだけど、思いを込めて作ったものの最後の評価が『雑魔になって人を襲った』じゃあまりにも、よ!)
少し待ってほしいと筆談で告げてエヴァがスケッチブックに描き出したのは先ほどまで戦っていた五体の菊人形たち。
こうしてリアルブルーの古き時代を伝える伝統文化はクリムゾンウェストに一騒動巻き起こしはしたものの根付こうとしていた。
これからの時間は人生の中ではわずかでもリアルブルーの出身者にとっては故郷を懐かしむ思い出の記憶に、クリムゾンウェスト出身者には見知らぬ文化に触れるいい時間になる事だろう。
元服前の少年、尼、武家の妻女、仕えている女房、一家の大黒柱の武士。
人形たちは色とりどりの菊に飾られて覚醒者たちを出迎えるのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦相談宅 雪ノ下正太郎(ka0539) 人間(リアルブルー)|16才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/10/31 04:49:12 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/31 04:33:13 |