• 繭国

【繭国】【空の研究】Fly high!

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
7日
締切
2017/07/11 15:00
完成日
2017/07/20 17:50

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 今にもしずくを落としそうな、重たい雲が広がっていた。アメリア・マティーナは「空の研究所」の屋上観測所からその空を見上げていた。
 青空はかけらも見えない。それでも、アメリアはこの空を良い空だ、と思った。
 繭に包まれし時を過ごしている王国に、よく似合う空だ、と。
 アメリアは、深くかぶったフードの下で、微笑む。先程までまとめていた研究資料をしっかりと胸に抱いて。
「ああ、所長。こちらにいらしたのですね」
 研究所職員の青年・スバルが屋上に上がってきた。きっと研究室を何度かノックしたのち、こちらへまわってきたのだろう。
「所長、お手紙です」
「はい、ありがとうございます。……またキランからですかねーえ」
「ええ……」
 アメリアとスバルは揃って苦笑した。キランとは、空の研究所の研究員の名前である。研究休暇を取ったままいっこうに帰ってこない。こうやって、もう数日、もう数日、と延長を求める手紙ばかりが届く。
「いったい何をしているのやら。帰ってきたらなんとしてでも、その研究を形にしてもらわなければなりませんねーえ」
 呆れ声でそう言って、アメリアは肩をひとつすくめた。
「仕方がありませんねーえ、こちらはキランなしで進めましょう。スバルさん、ハンターオフィスに依頼を出してきて下さい」
「依頼を? 所長も、どこかへ研究にお出かけになるのですか」
「いいえーえ。研究には違いありませんが、出かけるのではなく、ここで行いますよーお」
 アメリアはフードの下からわずかに見えている口元で微笑んだ。
「研究会、です」



 スバルがさらなる説明を求めたため、ふたりは研究所内の休憩室で紅茶を飲みながら話をした。アメリアが、スバルに問う。
「数多にある、空に関する魔法の中で、もっとも多く研究されているのはどんな分野の魔法だと思います?」
「え……、雨、ですか?」
 スバルが、今日の空模様を思い出しながら答えた。今にも雨の降りだしそうな、重たい雲のかかった空。
「いい線をいってます。雨に関する魔法も多いですねーえ。しかしまあ、第二位、といったところでしょうかねーえ」
 アメリアは実に楽しそうに話を続ける。
「スバルさん、空を見ていて、なにか、こうしたいなあ、と思うことはありませんか」
「こうしたいなあ、ですか?」
 さらに問いかけられて、スバルは首をかしげた。自分の頭上に空が広がっているところを思い浮かべる。晴れた空、流れていく雲、雲を横切る小さな鳥……。
「あ……、空を飛ぶこと……?」
「その通りですねーえ!」
 アメリアははしゃいでいるといってもいいような嬉しそうな声で言った。
「誰でも一度は、空を飛んでみたい、と思ったことがあるでしょう。古来よりその願いは色あせることなく綿々と続いています。それだけに、空を飛ぶことを目的とした研究は非常に多い。まあ、実を結んでいるかどうかは、別の問題ですがねーえ」
「なるほど……。所長、まさか今回開催するという研究会は」
「スバルさんは察しがよくて助かりますねーえ。そうです。空を飛ぶのです」
 アメリアは先ほどまで胸に抱えていた資料を広げた。
「空を飛ぶ、というと移動手段として使うことを想定されるかもしれませんが、そうではなく……、跳びながら何か別のことをする、ということに向く魔法でしてねーえ」
「飛びながら、何か別のことを……?」
 スバルが広げられた資料を覗き込む。研究員ではないスバルには、理解できることは限られているが、それでももともとが聡明な青年だ。興味深そうに目を通していた。
「ええ。飛行、というよりは、浮上、と呼ぶ方がいいかもしれませんねーえ。扇のようなもの、まあ、あおぐことができれば薄い板でも大きな葉でも構わないのですが、とにかく、そういうもので地面を強くあおぎながら呪文を唱え、マテリアルを上昇気流のようにして高く舞い上がるのです。もっと違うやり方もありますが、私はこれが気に入っていましてねーえ」
「その浮上している間に、何か別のことをするというわけですね?」
「そうです。この魔法は浮上するだけ、ですからねーえ。これをどのように有効活用すべきか、その点を考えるために、私以外の方の意見も欲しいのですよーお」
「本当に浮上するだけ、なのですか? 移動はまったくできないんでしょうか」
「まったく、というわけではありませんが、範囲は限られていますね。正確な数値はまだ不明ですが。ああ、方向転換だけなら、360度可能ですがねーえ」
 アメリアは自らも資料を見直しながら言った。魔法というと「なんでもできそう」なイメージが強いが、実際はとかく制限がつきまとう。今回の「空飛ぶ魔法」もそうだ。自分の体を飛ばすことはできるが、自分以外の人間を飛ばすことはできない。物を飛ばすことは可能だが、自分の体よりも大きな物は不可能。飛ばした物にぶら下がることはできるが、ぶら下がった状態で方向転換はできない……。
 こうした制限の中で、どのように有用性を示してゆけるか。
「けれど、これは使える魔法だ、と証明したいということですね」
 熱心に資料を読んでいたスバルが、アメリアの目指すところをズバリと指摘した。
「その通りです。有用な魔法だとアピールして……。そしてこれを、多くの人が使えるようにしたいと思っているのですよーお」
 王国は今、国力を養う期間として様々な産業や研究、教育の向上に努めている。王立ではないものの、公認施設である「空の研究所」にも助成金が出る運びとなっていた。これは、研究所のこれまでの功績だけでなく、後ろ盾となっている貴族・ルッツバード氏の尽力によるところも大きい。
 アメリアは、紅茶のカップを持ったまま、空を見上げるように視線を上に上げた。そこに広がっているのは、白い天井だったが、アメリアの脳内には、高く舞い上がる誰かの姿が浮かんでいるのに違いなかった。

リプレイ本文

 空には全面、白く雲がかかっていた。雨の気配はない。一見、平坦で単一な白に見える雲も、実は厚さに差があって、ところどころまだらに明るく日の光を通していた。風が絶えずその厚さに変化をもたらし、雲は動いてゆく。
「見ていて飽きるということがありませんねーえ、空というものは」
 アメリア・マティーナ(kz0179)は「空の研究所」の玄関口でその空を見上げ、深くかぶったフードの下で微笑んだ。
「この空を、飛びますよーお」
 アメリアは小声で、しかしはっきりとそう口に出した。子どものようにわくわくしていた。いつまでも見ていられる空から少し視線を下ろすと、道の向こうからアメリアに負けず劣らずわくわくした表情のハンターたちがやってきていた。



 まずは研究所内の会議室に通されたハンターたちは、円卓をかこむと挨拶もそこそこに、さっそく魔法について語り出そうとした。
「空を飛べるかもしれないなんて、とても素敵なの……きっととても気持ちが良いの、ですね」
「本当にそうね」
 桜憐りるか(ka3748)が微笑んでそう言えば、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)も満面の笑顔で同意する。フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)もこっくりと頷いた。エアルドフリス(ka1856)は揉み手までして喜びを示す。
「飛行は魔術の到達点の一つだと個人的に思っていてだね、ちなみに他は距離の踏破と時間の超越……」
「ちょ、ちょっと待ってよ、その話も面白そうだけど、まずは研究会を始めなくちゃ」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)が苦笑して窘める。
「しかし空を飛べる魔法なんて、また夢のある話じゃあないか。まぁ、実用性を問われると少しばかり首を傾げてしまうかもしれないが」
 Holmes(ka3813)がそう言うと、アメリアはまず、全員に集まってくれたことに対して礼を述べ、続いて、今回扱う「空を飛ぶ魔法」について説明した。
「魔法に実用性は必ずしもついてこないものだと、私も思っているのですがねーえ、今回はそこに注視して皆さまに様々な使い方を考えていただきたく」
「無粋だが出資を募るには必要か」
 エアルドフリスの呟きに、アメリアはそういうことですねーえ、と頷いた。
「では早速ですが、まずはここで、皆さまの案をお聞かせ願いたいと思います。それから、外へ出て実験に移りましょう」



 ハンターたちの案を一通り聴取したアメリアは、そのメモを手に唸ったり笑ったり忙しく表情を変えた。とはいえ、目深にかぶったフードの下でのことだ、ハンターたちにはあまりよく変化がわからなかったが。
「実に面白いものばかりが出揃いましたねーえ。すべてを試すことができるかはわかりませんが、まあ、ひとまずやってみましょう」
 アメリアは上機嫌でそう言うと、ハンターたちを連れて研究所にほど近い公園へとやってきた。使用許可もきちんと取ってある。研究所の設立前に、「極光スクリーン」の実験をしたのと同じ公園だった。
「こんなところでやって、奴らに狙われたりしないの?」
 カーミンがアメリアにそっと耳打ちした。このところ研究所を狙う怪しい者らがいることを懸念して、である。アメリアは頷いた。
「こそこそするより堂々としていた方がいいこともありますからねーえ。今回の実験はすでにあらゆるところへ申請を出していますから、盗むことも容易ではありません」
 例え盗み出して真似をしても、すぐに足が付くのである。
「では、始めましょう。まずは、シンプルに私が浮き上がって見せましょうねーえ。そこから、皆さんの案を順に試して行きたいと思いますよーお」
 アメリアは大振りな扇子を取り出して広げた。足元に風が行くような角度で構えると、深呼吸ののちに集中状態に入る。ぶつぶつと呪文を唱えながら……、大きく腕を動かした。扇子を下にあおいで風を足元へ送り、また扇子を上へ持ち上げて足元から風を巻き上げる。一瞬、ぐ、と周囲を押し広げるような圧がかかったあと。

 ぶわっ。

 黒いローブをバタバタとはためかせ、アメリアの体が空中へと舞い上がった。わあ、という感嘆が、ハンターたちから沸き起こる。
「……身一つで空を飛べるって鳥みたい……」
 マチルダがアメリアを見上げて呟く。アメリアはまず、ごく軽く三メートルほど浮き上がった状態でぐるりと一周してみせた。その際にも扇子でバランスを取る。方向転換ができる、というのはこういうことであったようだ。
「無事、飛ぶことが出来ましたねーえ」
「そこでバットを振ることはできるだろうか?」
 Holmesが、高身長であるエアルドフリスの手を借りながらバットを差し出す。アメリアは大きく身を屈めてそれを受け取ると、慣れない手つきながらも素振りをして見せた。頭上から振り下ろす、突く、などという実際の戦闘を想定した動作もスムーズにできる。Holmesはカラスを飛ばし、その様子をファミリアズアイで観察した。上空での戦闘動作は問題なく可能なようだ。アメリアはバットを下に返すと、もう少し扇子で仰ぎ、五メートルほどまで浮上し、次の実験に移る。
「では、カーミンさん。シンニンギア+ミスルトーで私の上に乗ってみてください」
「え!? いや、確かに浮遊物の上に乗ってみる、とは言ったけど」
「ええ、ですから、私という浮遊物に」
 自分の存在をさらりと「物」としてしまえるところに複雑なものを感じつつ、カーミンは苦笑してまずは千日紅を発動させる。ミスルトーは対象が人となると手加減しなければならない。アメリアに合図を送ってから慎重に位置を見定め、タイミングを合わせてシンニンギアを。すると。
「っとぉ」
 カーミンの体はしゅん、と上がり、見事アメリアのすぐ隣まで到達した。すかさず、アメリアが体を傾けて背中と肩を差し出し、カーミンがその上へ乗る。
「ん? んんん?」
 途端にぐらぐらと体が不安定になってアメリアもカーミンも大きく揺れた。アメリアが後ろ手でカーミンの脚を支えるが、気休めにしかならない。
「こ、これはちょっと……」
「乗った状態で何かする、というのはなかなか難しそうですねーえ」
 アメリアが苦しそうに笑いつつ言う。カーミンも顔をひきつらせた。
「そ、そうね……。ここからさらにショットアンカーやミスルトーで移動する、っていうのはちょっと無理かな……」
 アメリアに支えて貰っている状態でこれなのだから、そうしたフォローをしてくれるわけでもないただの「物」の上ではなおさら難しいだろう。
「い、一度降りましょ、アメリア」
 カーミンとアメリアが、互いを支え合いながら地上へ降り立つ。下で出迎えたりるかが、首を傾げつつ近付いてきた。
「カーミンさん、ありがとうございました。えと、浮いたものの上では難しそうでしたけど、浮いた状態のアメリアさん自身がアンカーなどを投擲して体を引き寄せる、ということはできないのでしょうか」
 りるかの問いに、アメリアも首を傾げる。
「そうですねーえ。ああ、現段階ではあまり移動ができませんからねーえ、その点をカバーする案を考えてくださったのですよねーえ、ありがとうございます。……ふむ、可能でしょうが、わざわざそれをしなくとも、この浮遊の魔法だけである程度移動はできるようになってくるのではないかと思うのですよねーえ。それに、そういった移動をしたいだけならこの魔法を使う必要もなさそうですし」
「確かにそうだわ。一瞬浮いてミスルトー、でいいんだもんね」
 疾影士であるカーミンが、あ、と開いた口を掌で押さえた。
「そういうことになりますねーえ。こうしてみると、皆さんすでにたくさんのことがおできになるのですよねーえ」
 アメリアはどこか嬉しそうに言った。その視界に、そろそろと挙手をするフィーナの姿が映る。
「翼を作って飛んでみることは、できないでしょうか」
 アメリアは、ああ、と声をあげた。マテリアルによる生成で翼を作り、それを使用してあおぐ、という案は、先ほど会議室で案を取りまとめたときにも面白そうだと思っていた。
「できたら面白いでしょうねーえ。しかし、大変申し訳ないのですけれど、魔術師である私には、そもそも翼を生成することが不向きでしてねーえ。霊闘士さんならば、良かったかもしれませんが」
「なるほど。しかし、霊闘士は翼を作れてもこの浮遊魔法は使えない……。自由にはいかないものだね」
 まさしく霊闘士であるHolmesが、後を引き継いで呟いた。
「次は一度、物を浮かせて見せましょうかねーえ」
 気を取り直して、アメリアは事前に用意していたらしい木箱をひとつ、自分の前に置いた。空箱であるため、彼女の細腕でも軽々持てる重量だ。
「物を浮かせられるのならば、重量減少スキルが欲しいところだな。物資運搬の他、救助等にも活用できて非常に有用だと思うぞ」
 エアルドフリスがそう言うと、アメリアも大きく頷いた。
「そうですねーえ。それはかなり使い道が多そうな気がしますねーえ。一度にいくつも浮かせられることにもなりますし」
「えと、つまり、複数個浮かすこと自体は、可能なのですね?」
 りるかが口を挟んだ。
「ええ、総重量を越えなければ、ある程度は。ただし、それらを安定させ、自在に操るとなると不可能ですがねーえ」
 アメリアはひとまず、と言ったように木箱を先ほどと同じ扇子で浮かせて見せた。木箱はふわふわと細かく上下し、気持ちよさそうに浮いている。
「ぴたっ、と固定されることはなさそうね。ロープを浮かせて固定、っていうのは無理かしら」
 カーミンが木箱の様子を見て呟く。アメリアは木箱をどさり、と下ろすと、差し出されたロープを浮かせて見せ、説明した。
「浮かせることはもちろんできますが、固定は難しいですかねーえ。ですので、縄梯子などもぶら下がることは可能ですが、そこを登るのは至難の業ではないかと」
「つまり箒を浮かせてそれに乗る、というのも難しいわけだな?」
 Holmesが尋ねた。やはり、箒に乗って空を飛ぶ、というのは多くの人にとって夢であろう。アメリアも同意するように口元に笑みを浮かべた。
「そうですねーえ。乗ること自体はできますが、バランスを取るのに精いっぱいになるでしょうから、わざわざ箒にまたがる必要性はなくなってしまいますよねーえ。しかし、折角ですから、あとで箒だけでも浮かせてみましょう」
「じゃあその前に、アメリアさん、もう一度浮いてみて貰えないかな? 近接攻撃や矢が飛んで来たときを想定して浮上とウィンドガストを組み合わせてみてほしいのだけど」
 マチルダの申し出に、アメリアは少々考えつつ返事をした。アメリアは今、そのスキルを使える状態にないのである。
「ウィンドガストでできることと同じことを、この魔法で試してみる、ということでよろしいでしょうかねーえ」
「そうか、私がウィンドガストを使って試してみる、とことはできないんだもんね。じゃあ、それでいこう」
アメリアは扇子を構えた。武器を模した木の棒を視界にとらえつつ、浮上する力をマチルダの手元に向け、切っ先の方向を変えさせようとすると。
「おっと……!」
 アメリアの体が数十センチ浮いたかと思うと、巻き起こった風を真っ直ぐ捕らえられずに大きくよろめいた。そして。どすん、と転んだ。
「わーっ、アメリアさん大丈夫!?」
 自分が転ぶ準備をして毛布を敷いていたマチルダがすっとんでくる。腰をしたたかに打ったらしいアメリアは、痛がってはいたものの、怪我はないようだった。
「木箱を下ろしたときにも思ったんだが、降下時にクッションを作るスキルがあると良さそうだな」
 エアルドフリスがマチルダの反対側からアメリアに手を貸しながら唸る。フィーナも頷いた。
「高度次第では、墜落死は免れ得ないでしょう。夜間ならなおさら危険も増えるだろうし、高度感知や視覚強化も必要では……」
「ふむ」
 アメリアはローブの土埃を払いつつ考えた。
「視覚強化などの身体強化は魔術師の領分ではないので無理でしょうけれども、クッションは……、そうですねーえ、地上に接するギリギリで止まる、というようなスキルがあればいいのかもしれませんが、飛んでいるときにしか使えないのでは、あまり役に立つものではありませんよねーえ。まあ、個人的には、空を飛ぶのだから墜落のリスクは背負うべきだとも思いますしねーえ」
「なかなか、難しい……ものですね……」
「ホントに」
 りるかが呟き、カーミンが肩をすくめて見せる。アメリアはしかし嬉しそうに微笑んだ。
「だからこそ、魔法の研究は面白いのですよーお。……ああ、皆さんの考えてくださったことがなかなか実現しないことについては、申し訳ないと思うのですがねーえ」
「そうでもないさ」
 Holmesがさらりと笑顔になってCometを差し出した。
「約束だ。浮かせてみてくれ」
 子どもの夢を現実へ。それは、魔法のひとつの役割だと、アメリアも信じていた。
「はい。飛ばしましょう」
 アメリアが大きな動きで扇子をあおぐと、一瞬にして「空飛ぶ箒」が上空に現れた。公園の近くを歩いていたらしい少女たちから、可愛らしい歓声が上がった。



 研究会はますますの白熱ぶりを見せた。アメリアが腰を打ってしまったため、あまり激しい実験は無理であろうと、この魔法単独でできることを模索する方向へ転じたのだが、それがまた盛り上がったのである。
「人数誤認にも使えるんじゃない?」
 というカーミンの提案の元、ブルーコートを浮かせてみて、幽霊騒動にもなりそうだ、と笑い合ったり、エアルドフリス主導で空爆の方法について模索してみたり。下からの視線をくらませる必要がある、というマチルダの指摘でランプを手に浮遊してみたりもした。Holmesは実験のいたる部分を魔導カメラで撮影して記録に余念がなく、フィーナは自分の日常生活に活かせないかと思案を続け、りるかは花を降らせたら素敵、と提案して場を華やかに沸かせた。
「雷華の枝も実用できたら、いいですよね。空中戦では強力な効果を発揮する可能性があります」
 ふと、フィーナがそう言った。「雷華の枝」は空の研究所で過去に実験と実践を行った、雷を使用する魔法である。アメリアはなるほど、と頷いた。
「あれはキランの薬が必要ですからねーえ、残念ながら彼が不在なので試すことができませんが……、そうですねーえ、実用化したいですねーえ」
「こんなに楽しい研究会なのに……、研究員がいられない、なんて残念なの……」
 りるかが心底同情するように呟くのを聞いて、アメリアは珍しく声を上げて笑った。キランが帰って来たら自慢してやろうか、などと悪戯心が湧く。
「まったくですねーえ!」
 空と、魔法を愛する者たちによる研究会の熱は、増していくばかりだった。

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MVP一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるかka3748

重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • ヴェルナーの懐刀
    桜憐りるか(ka3748
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン Fly high!【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/07/11 12:41:06
アイコン アメリアさんに質問!
マチルダ・スカルラッティ(ka4172
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/07/09 05:45:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/05 13:27:48