ゲスト
(ka0000)
【奏演】Conductor~収集~
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/13 22:00
- 完成日
- 2017/07/20 00:51
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■
真白のローブを目深に被り微笑みを浮かべた教祖の前に、一人の男が両膝をつき首を垂れる。
「お呼びと伺い参りました、教祖様」
教祖は微笑みを浮かべたまま、肩に腰掛けるように存在している『モノ』と言葉を交わしていた。
教祖の肩の上、羽の生えた小さな人型の存在。
――それは、教祖へと力を与えているという『精霊』だと、教団では言われている。
精霊の表情は微笑みのまま変わらない。けれど、その声は確かに教祖には聞こえているのだという。
「……えぇ、そうですね。それが良いでしょう」
精霊と語る教祖の隣には、長い金の髪を揺らす小柄な碧眼の少女が一人佇んでいる。
恐らくは、美しい少女なのだろう。
しかし顔は目と口元以外を覆うように。身に纏うアンティークドレスから見える手足を覆うように。
少女は包帯で覆いつくされており、肌の露出はほぼなかった。
精霊が教祖へと力を与えている理由のひとつが、この少女。
教祖の妹だという存在だった。
教団に入信したものが知りうる教祖についての情報は数少ない。
しかも、この廃村を元に作り上げた教団には、信者以外が入ることはない。
それゆえ、教祖の情報が外に漏れることはなかった。
ふと、教祖の瞳が眼前の信者へと下りる。
「信心深き者よ、貴方に一つ、試練を与えます」
柔らかな声の中に潜む、厳かな空気。
「この試練を超えた後、貴方はまた一つ望みへと至ることが出来るでしょう」
「はい、教祖様。いかなる試練をも、喜んでお受けいたします」
なぜ自分が選ばれたのか。どんな試練なのか。
そんなことはどうだっていいことだ。
自分の望みへと、近づくことができるのであれば。
教祖の力になれるのであれば。
――祈り給へ。崇め給へ。敬い給へ。我らが神を。
■
「この封筒を、自分が出ていった後に開封してほしい」
ハンターオフィス受付担当のバルトロへと手紙を手渡した、ボロ布を纏ったかのような男はそう言うとわき目もふらずに走り去っていった。
「ったく、もし依頼なら一度ソサエティ本部に送らんとならんのに……」
既に男の姿は遠く、追いかけることも難しい。
仕方なく、バルトロは封を開けた。
――中には1枚の紙きれと1枚の写真。
「―――っ!!」
咄嗟にバルトロは紙切れの方を握りつぶす。
震える拳のその中、握りつぶされた紙切れ――とある絵本の1頁には、塗りつぶされた動物たちの絵と、流れるような文字が綴られていた。
■
『愚かしくも自らを世界を救う守護者と宣うものに天罰を』
『我は精霊の加護を受けしもの。真に傷つくものたちを救うもの』
『覚悟あらば一度のみ、謁見を赦しましょう。哀れなハンターたちよ』
写真には、石や木で出来ているであろう多くの狼や鷲のゴーレム、であろうか。
それらが警戒するように建物の中をうろつく様子が写されていた。
■
「俺は動けん。ヴェラの護衛がある」
そもそも、こんなことを本人の耳に入れてしまえば、前を向いて進もうと思いを強くした頑固者の絵本作家が、自身も共に行くと言い始めてしまうかもしれない。
「ヴェロニカ嬢はまだ重要参考人扱いだ。ヘタに動けば余計な疑いが彼女にかかっちまうしな」
古びたロングストールで覆われた唇を強く噛みしめ、ディーノは唸る。
「……偵察と情報収集、か」
「あぁ、そうなるだろうな」
どういうつもりなのか、新興宗教の「教祖」とやらは、一度だけハンターと会ってもいいと言ってきたのだ。
ただし一筋縄では行かないことは、写真を見れば明白で。
恐らく戦闘は避けられないだろう。
「ディーノ」
「……分かっている。俺からの依頼にすればいい」
一緒に行くことは出来ない。けれど、他のハンターが向かう手段――依頼を出すことは出来る。
「だがしかしどうする。二手に分かれる必要があるぞ」
「なら、最初から二手に分ければいい。そうだろう」
「つまり、同時進行の別行動依頼だな」
「バルトロ、頼んだ」
「おぅ」
まるで尾のようにロングストールを翻し、ディーノは絵本作家の元へと戻っていく。
その後ろ姿を見送ることなく、長い付き合いの案内係は2つの依頼書の作成を始めるのだった。
真白のローブを目深に被り微笑みを浮かべた教祖の前に、一人の男が両膝をつき首を垂れる。
「お呼びと伺い参りました、教祖様」
教祖は微笑みを浮かべたまま、肩に腰掛けるように存在している『モノ』と言葉を交わしていた。
教祖の肩の上、羽の生えた小さな人型の存在。
――それは、教祖へと力を与えているという『精霊』だと、教団では言われている。
精霊の表情は微笑みのまま変わらない。けれど、その声は確かに教祖には聞こえているのだという。
「……えぇ、そうですね。それが良いでしょう」
精霊と語る教祖の隣には、長い金の髪を揺らす小柄な碧眼の少女が一人佇んでいる。
恐らくは、美しい少女なのだろう。
しかし顔は目と口元以外を覆うように。身に纏うアンティークドレスから見える手足を覆うように。
少女は包帯で覆いつくされており、肌の露出はほぼなかった。
精霊が教祖へと力を与えている理由のひとつが、この少女。
教祖の妹だという存在だった。
教団に入信したものが知りうる教祖についての情報は数少ない。
しかも、この廃村を元に作り上げた教団には、信者以外が入ることはない。
それゆえ、教祖の情報が外に漏れることはなかった。
ふと、教祖の瞳が眼前の信者へと下りる。
「信心深き者よ、貴方に一つ、試練を与えます」
柔らかな声の中に潜む、厳かな空気。
「この試練を超えた後、貴方はまた一つ望みへと至ることが出来るでしょう」
「はい、教祖様。いかなる試練をも、喜んでお受けいたします」
なぜ自分が選ばれたのか。どんな試練なのか。
そんなことはどうだっていいことだ。
自分の望みへと、近づくことができるのであれば。
教祖の力になれるのであれば。
――祈り給へ。崇め給へ。敬い給へ。我らが神を。
■
「この封筒を、自分が出ていった後に開封してほしい」
ハンターオフィス受付担当のバルトロへと手紙を手渡した、ボロ布を纏ったかのような男はそう言うとわき目もふらずに走り去っていった。
「ったく、もし依頼なら一度ソサエティ本部に送らんとならんのに……」
既に男の姿は遠く、追いかけることも難しい。
仕方なく、バルトロは封を開けた。
――中には1枚の紙きれと1枚の写真。
「―――っ!!」
咄嗟にバルトロは紙切れの方を握りつぶす。
震える拳のその中、握りつぶされた紙切れ――とある絵本の1頁には、塗りつぶされた動物たちの絵と、流れるような文字が綴られていた。
■
『愚かしくも自らを世界を救う守護者と宣うものに天罰を』
『我は精霊の加護を受けしもの。真に傷つくものたちを救うもの』
『覚悟あらば一度のみ、謁見を赦しましょう。哀れなハンターたちよ』
写真には、石や木で出来ているであろう多くの狼や鷲のゴーレム、であろうか。
それらが警戒するように建物の中をうろつく様子が写されていた。
■
「俺は動けん。ヴェラの護衛がある」
そもそも、こんなことを本人の耳に入れてしまえば、前を向いて進もうと思いを強くした頑固者の絵本作家が、自身も共に行くと言い始めてしまうかもしれない。
「ヴェロニカ嬢はまだ重要参考人扱いだ。ヘタに動けば余計な疑いが彼女にかかっちまうしな」
古びたロングストールで覆われた唇を強く噛みしめ、ディーノは唸る。
「……偵察と情報収集、か」
「あぁ、そうなるだろうな」
どういうつもりなのか、新興宗教の「教祖」とやらは、一度だけハンターと会ってもいいと言ってきたのだ。
ただし一筋縄では行かないことは、写真を見れば明白で。
恐らく戦闘は避けられないだろう。
「ディーノ」
「……分かっている。俺からの依頼にすればいい」
一緒に行くことは出来ない。けれど、他のハンターが向かう手段――依頼を出すことは出来る。
「だがしかしどうする。二手に分かれる必要があるぞ」
「なら、最初から二手に分ければいい。そうだろう」
「つまり、同時進行の別行動依頼だな」
「バルトロ、頼んだ」
「おぅ」
まるで尾のようにロングストールを翻し、ディーノは絵本作家の元へと戻っていく。
その後ろ姿を見送ることなく、長い付き合いの案内係は2つの依頼書の作成を始めるのだった。
リプレイ本文
■旅人ふたり
固く閉ざされた廃屋から、複数の声が聞こえてくる。
――祈り給へ。崇め給へ。敬い給へ。我らが神を。
その声に顔を見合わせた浅緋 零(ka4710)とオグマ・サーペント(ka6921)の2名は、小さく小さく息を吐いた。
二人とも、その姿は常日頃とは違い簡素な旅装束。
頭から被った薄汚れたローブと小さくまとめられた少量の荷物から察すれば、大抵の人間は2人を旅人か何かだと判断するだろう。
上空をカラスが旋回して、建物で唯一の高窓の傍に立つ木へと止まった。
小さく息を吸い、まず零がたった一つのドアをノックする。古びた木が思ったよりも低い音で鳴り、中の声が一気に静まった。
「……誰だ」
中から姿を現したのは、包帯を体のあちらこちらに巻き付けた中年の男。
勘ではあるが、恐らくこの人間は教団に入って長い人間なのだろう。
「我々は旅のものです。こちらは幼馴染でして」
「住んでいた村を……歪虚にほろぼされたの……」
だから見聞を広げるために旅をしているのだ、とオグマと零が告げると、男は苦々し気に眉を寄せた。
「守り神様がいらっしゃらないとすぐこれだ……」
「守り神様……?」
首を傾げて不思議そうに呟く零へと、男はふいと目を逸らす。あまり多く語るつもりはないらしい。
「それで、何の用だ。この通りここは寂れて何もない。旅人に分けられるほどのものもないのでな」
早々に立ち去ってほしい、という雰囲気を隠さない男の包帯から血が滲んでいるのを見て、零は男を見上げる。
「大丈夫……? けが、してるけど……一体、なにが……あったの」
ちらりと隙間から見えた信者たちも、ほとんどの人間が怪我をしているのか、あちこちに包帯を巻いていた。
もしかして、と零は言葉を続ける。
「レイたちといっしょ……歪虚に……おそわれたの……?」
「あぁ。だが、それはもう恨んでいない」
想像もしていなかった言葉に、思わずオグマと零の思考が止まりそうになった。
歪虚に襲われたのに、それに関する恨みはもうない。などと言われてしまえば当然だろう。
予定していた会話の流れが使えない。一瞬止まりそうになった思考をフル稼働させる。
「それは何故かお伺いしても?」
「レイたちは……歪虚が憎い……から」
自分たちとは違う理由を聞き出す方向に変更した2人に、男は眉を吊り上げた。
「決まってるだろう。もっと憎いものがいるからだ」
「もっと憎いもの?」
「ハンターだ!!!」
突然響いたのは、男の後ろで息を潜めていた信者たちの声だった。
思わず体をびくつかせた零を隠すように、オグマがさりげなく前に出る。
「あいつら、自分たちは力があると公言しておきながら、俺たちを助けもしなかった!!」
「私の村が襲われたときだって、助けにも来やしなかったのよ!!」
「俺は潰された家の中で必死に助けを待ったのに、あいつら気づきもせずに歪虚を斃したら帰っていきやがった!」
次々に聞こえてくるのは、ハンターに対しての憎悪とも呼べる言葉。
目を大きく見開いた2人の上空を、カラスが旋回していた。
■木々の上で
「なんっつー状況だ」
藪の中、トリプルJ(ka6653)は覚醒し使用していた『ファミリアズアイ』でその状況を確認しながら小さく舌打ちを零した。
少し信者たちの声を確認出来ているのは、オグマが持っていたトランシーバーを咄嗟にONにした状態のままにしているからだ。
おかげでこちらからの連絡は出来ないが、あちらの会話は細かくは分からずとも推測し構成することは出来ている。
「つまりなんだ? 自分たちがハンターに助けられなかったから、自分たちを襲った歪虚じゃなくハンターが悪いってことか?」
なんという責任転換だ。トリプルJはそう思う。
ハンターと言ってもその力には限界がある。助けられるものだって、限られている。
同じ人間、同じ種族、同じ生き物であるというのに。力があるだけで、こうまでも罵りを受けるものだろうか。
旋回するカラスが、信者たちがいるいる家の扉がうかがえる木の上に留まる。
「そのまま待機だ相棒」
もうしばらくは観察する必要があるだろう。
なにせ、周囲の観察をしてみたが、本当に廃屋だらけで人の気配はこの信者たちが集まっている場所と、神殿に入っていった別動隊くらいしかなかったのだ。
見るべきものがあまりにもなさすぎる。
スキルを使用し続けながら、彼はじっと観察に徹している。
■探し人する者
零とオグマが信者たちの剣幕に思わず動きを止めたその瞬間。
「あの、すみません!」
後方から声が響いた。
振り返ればそこには、一人の男の姿。
テオバルト・グリム(ka1824)は予定通りに零とオグマとは初対面だ、という雰囲気を出しつつ言葉を続けた。
「あの、こちらにアーナックという男はいませんでしょうか?」
突然現れたテオバルトに信者たちは眉を顰める。
代表として、最初に零たちに対応した男が声を上げる。
「知らんな。そんな奴はここにはおらん。そいつが一体どうしたというんだ」
「アーナックは僕の弟でして。恋人との結婚が近かったのに、数か月前にこちら方面に向かったっきり帰って来ないんです」
テオバルトの話を聞きながら、男は溜息を吐いた。
「ならなおのことそんな奴はおらん。ここに来るやつは、幸せを奪われた者ばかりだ」
「幸せを……そういえば、この村はひどく荒れ果てていますが、一体何があったんですか?」
建物らしい建物といえば、この信者たちが集まった建物と、村の最奥にある別動隊が担当している『神殿』と呼ばれる場所だけだ。
「さあな。俺は詳しくは知らん。というよりも、ここにいるやつらは誰も詳しく知らんよ」
「え? 皆さんこちらのご出身ではないのですか?」
オグマが疑問を口に出せば、男は面倒そうに手を振った。
「あぁそうだ。俺たちはこの村の出身じゃない。バラバラだが、みんな別の村の出身だ」
まぁどこも滅んでしまったがな。
瞳の奥に少しばかりの哀愁が浮かぶ。それを零は見逃さなかった。
「……じゃあ、どうしてここに来た、の……?」
首を傾げた零へと視線を向けて、男の後ろに集まってきていた信者たちが口々に話し始める、
「教祖様が導いてくださったからさ!」
「ここにくればもう怖い思いなんてしなくて済むって」
「歪虚が悪いんじゃない。本当に悪いのは、襲われた俺たちを助けなかったハンターだって!」
「そうそう。教祖様は言ってくださったよ。祈りなさいと。そうすれば、自分の願いに近づけるからって」
先ほどまでとは打って変わって、信者たちの目には輝きが満ちる。
それは完全に『教祖』と呼ばれる人を信用して信頼して信仰している証拠だった。
「みんなは、教祖様に、救われたんだ……ね。……どんな人、なの?」
問いかけた零へと、寄せる波のように話しかけていた信者たちの口がぴたりと止まる。
ここまでの雰囲気で、オグマはなんとなくこの教団が閉鎖的であると確信に近い思いを抱いていた。
「……素晴らしいお方だ。あの方は妖精を連れ『奇跡の御業』をお使いになる」
淡々と語るのは最初に対応したあの男。
「奇跡……」
「あぁ。教祖様のおかげで、我々は今こうして救われている」
「本当に妖精を連れているのですか?」
テオバルトの問いに、男は片眉を跳ね上げる。
「嘘じゃない。教祖様はいつも肩の上にその妖精をお連れになっている」
「そんなに素晴らしい方なら、教祖様にはなかなかお会い出来ないのでしょうね。どこか特別な場所でお過ごしなんでしょうか?」
「教祖様はいつも神殿にいらっしゃる。そこで我々をお守りくださっているのだ」
『神殿』と呼ばれる場所は、確かにこの廃村の奥に存在している。
そこではおそらく今頃、別動隊が何らかの行動を起こしているだろう。
そこに常に教祖はいるのだという。肩に妖精を乗せて。
「そうですか……。有難う御座います。こちらに探している弟はいないということですし、僕は次の村に向かってみます」
軽く一礼した後、ちらりとテオパルドは信者たちが集まるその建物を観察する。
(屋根裏……は無理だな。いくらスキルを使っても体重は消せない。ここもボロボロだし底が抜けそうだ)
(窓は高いところに一つだけ。あそこから様子を見るのも難しい、か)
短時間で思考を巡らせ、後自分が出来そうなのは万が一の撤退援護だろう。と判断したテオパルドはそのまま村を出るふりをして『隠の徒』を使用。
気配を消しつつ村に再度戻るのだった。
木の上で扉を見つめていたカラスが、ばさりと上空へと飛び上がった。
■綻び
スキルと双眼鏡を駆使して状況を確認していたトリプルJだったが、ここにきて使用していたスキルが切れてしまった。
スキルによって命令を下せていたカラスが、その場にとどまらず空へ飛びたつ。
正面以外からこの状況を確認する場所がない。なにせ周りは何もないのだ。
テオパルドの行動を確認しつつ、双眼鏡を再度覗き込んだその瞬間。事態は急変する。
問題は、いくつか存在していたのだ。
まず、信者たちがいる建物と神殿以外なにもないこんな廃村に、なぜ同じ動物が何度もやって来るのか。
ここが縄張りだという動物ならばまだしも、ここで毎日暮らしている信者ならば、それがいつも見ている動物なのかどうかは分からずとも、その動きがおかしいことくらいは分かるだろうと思わなかったこと。
次に、ハンターに対して憎しみを抱いているという情報を知っていたにも関わらず、ハンターとばれてしまう行動を取ってしまった場面があったこと。
最初から「入団希望」や「迷い込んだ」で済ませてしまえばよかったのかもしれない。
何故なら今回の目的は『信者たちから教団や教祖についての情報を収集すること』だったのだ。
予め「信者から」と目的を絞られていたのには、理由があった。
それは、少しでもおかしな行動をしてしまえば、途端に綻びが出てしまうから。
そしてその綻びが、今。
「誰だ! そこにいるのは!!」
それは年若い信者の一人だった。
その男は零やオグマに教祖がいかに自分を救ってくれたかを語っていた男だった。
男の視界、藪の中で、チカリとなにかが光った。
この村には何もない。
光を反射するようなものはなにもない。
動物の目だろうかと思ったが、そうじゃない。
こんな時間に動物の目は光らない。夜ではないのだから。
だとしたら、だとしたら、だとしたら!
そこに『誰か』がいるのだ。こちらをずっと見ていたのだろう、誰かが!
咄嗟にトリプルJが双眼鏡を下ろすが、一度広がった波紋は収まらない。
「おい誰かあそこにいるぞ! こっちを見てた!」
「そういえば……さっきから周りを同じカラスが何度も飛んでいたわ……」
(まずい)
気取られぬよう必死で無関係を貫く零とオグマだが、こういう閉鎖された場所で暮らす人間は大体の場合ヒステリーに陥るとそれがどんどん広がっていくものだ。
「おい、まさか……!!」
ひゅっ、と。一番最初に対応した男が小さく引き攣ったような息をする。
「お前たちまさか……ハンターか!!」
■撤退
「ハンター……」
信者たちがざわめく。座っていた信者も、立ち上がりギラギラとした目をしながら入口へと歩み寄って来る。
(……駄目だこれ以上は)
引き際を見誤ってはいけない。ずっとそれを留意していたオグマがそっと背に零を庇う。
と、次の瞬間。
「なんだあの煙は!!」
藪とは全く逆の方向で煙が上がった。
それは、スキルを使用したテオパルドが放った発煙手榴弾だった。
撤退には必要なアイテムだっただろう。
だが、これが決定打になった。
ただの旅人が。人探しをしているだけの人がやって来た廃村で。
突然煙があがるなど、ありえないのだ。
その場に残っていた零とオグマに向けられる、憎悪と嫌悪の視線の数々。
それだけ、彼らにとってハンターは憎むべき相手なのだろう。
いや、憎むべき相手だと誘導され、信じ込まされたのだろう。
『教祖』と名乗る者によって。それはさながら洗脳のように。
「……帰れ。お前たちに話すことなどない」
勢いよく閉められた扉の前で立ち竦む零を庇ったまま、オグマは深く息を吐いた。
■収集結果
結論から言えば。
ハンターであるとばれてしまったが、必要最低限の情報は手に入ったといえるだろう。
ひとつ。信者たちはこの村の出身ではない。
ひとつ。教祖は常に肩に妖精を連れている。
ひとつ。教祖は『奇跡の御業』とよばれる力を持っている。
ひとつ。信者たちに全ての憎悪の対象はハンターなのだと言ったのは教祖である。
ひとつ。この村には、神殿と信者たちがいた建物以外はなにもない。
「でも……」
零は目を軽く伏せ、唇を噛む。
恐らくは、信者たちは今後やってくるものに対して今まで以上に警戒をするだろう。
そう簡単には、村に入ることが出来なくなるかもしれない。
慰めるように軽く肩に手を置いて帰り始めるメンバーたちに小さく頷き返した後、彼女はそっと空を見上げる。
薄い空の青はどこか、彼女の「友だち」の瞳の色に似ていて。
歯がゆさに、零は小さく拳を握りしめるのだった。
END
固く閉ざされた廃屋から、複数の声が聞こえてくる。
――祈り給へ。崇め給へ。敬い給へ。我らが神を。
その声に顔を見合わせた浅緋 零(ka4710)とオグマ・サーペント(ka6921)の2名は、小さく小さく息を吐いた。
二人とも、その姿は常日頃とは違い簡素な旅装束。
頭から被った薄汚れたローブと小さくまとめられた少量の荷物から察すれば、大抵の人間は2人を旅人か何かだと判断するだろう。
上空をカラスが旋回して、建物で唯一の高窓の傍に立つ木へと止まった。
小さく息を吸い、まず零がたった一つのドアをノックする。古びた木が思ったよりも低い音で鳴り、中の声が一気に静まった。
「……誰だ」
中から姿を現したのは、包帯を体のあちらこちらに巻き付けた中年の男。
勘ではあるが、恐らくこの人間は教団に入って長い人間なのだろう。
「我々は旅のものです。こちらは幼馴染でして」
「住んでいた村を……歪虚にほろぼされたの……」
だから見聞を広げるために旅をしているのだ、とオグマと零が告げると、男は苦々し気に眉を寄せた。
「守り神様がいらっしゃらないとすぐこれだ……」
「守り神様……?」
首を傾げて不思議そうに呟く零へと、男はふいと目を逸らす。あまり多く語るつもりはないらしい。
「それで、何の用だ。この通りここは寂れて何もない。旅人に分けられるほどのものもないのでな」
早々に立ち去ってほしい、という雰囲気を隠さない男の包帯から血が滲んでいるのを見て、零は男を見上げる。
「大丈夫……? けが、してるけど……一体、なにが……あったの」
ちらりと隙間から見えた信者たちも、ほとんどの人間が怪我をしているのか、あちこちに包帯を巻いていた。
もしかして、と零は言葉を続ける。
「レイたちといっしょ……歪虚に……おそわれたの……?」
「あぁ。だが、それはもう恨んでいない」
想像もしていなかった言葉に、思わずオグマと零の思考が止まりそうになった。
歪虚に襲われたのに、それに関する恨みはもうない。などと言われてしまえば当然だろう。
予定していた会話の流れが使えない。一瞬止まりそうになった思考をフル稼働させる。
「それは何故かお伺いしても?」
「レイたちは……歪虚が憎い……から」
自分たちとは違う理由を聞き出す方向に変更した2人に、男は眉を吊り上げた。
「決まってるだろう。もっと憎いものがいるからだ」
「もっと憎いもの?」
「ハンターだ!!!」
突然響いたのは、男の後ろで息を潜めていた信者たちの声だった。
思わず体をびくつかせた零を隠すように、オグマがさりげなく前に出る。
「あいつら、自分たちは力があると公言しておきながら、俺たちを助けもしなかった!!」
「私の村が襲われたときだって、助けにも来やしなかったのよ!!」
「俺は潰された家の中で必死に助けを待ったのに、あいつら気づきもせずに歪虚を斃したら帰っていきやがった!」
次々に聞こえてくるのは、ハンターに対しての憎悪とも呼べる言葉。
目を大きく見開いた2人の上空を、カラスが旋回していた。
■木々の上で
「なんっつー状況だ」
藪の中、トリプルJ(ka6653)は覚醒し使用していた『ファミリアズアイ』でその状況を確認しながら小さく舌打ちを零した。
少し信者たちの声を確認出来ているのは、オグマが持っていたトランシーバーを咄嗟にONにした状態のままにしているからだ。
おかげでこちらからの連絡は出来ないが、あちらの会話は細かくは分からずとも推測し構成することは出来ている。
「つまりなんだ? 自分たちがハンターに助けられなかったから、自分たちを襲った歪虚じゃなくハンターが悪いってことか?」
なんという責任転換だ。トリプルJはそう思う。
ハンターと言ってもその力には限界がある。助けられるものだって、限られている。
同じ人間、同じ種族、同じ生き物であるというのに。力があるだけで、こうまでも罵りを受けるものだろうか。
旋回するカラスが、信者たちがいるいる家の扉がうかがえる木の上に留まる。
「そのまま待機だ相棒」
もうしばらくは観察する必要があるだろう。
なにせ、周囲の観察をしてみたが、本当に廃屋だらけで人の気配はこの信者たちが集まっている場所と、神殿に入っていった別動隊くらいしかなかったのだ。
見るべきものがあまりにもなさすぎる。
スキルを使用し続けながら、彼はじっと観察に徹している。
■探し人する者
零とオグマが信者たちの剣幕に思わず動きを止めたその瞬間。
「あの、すみません!」
後方から声が響いた。
振り返ればそこには、一人の男の姿。
テオバルト・グリム(ka1824)は予定通りに零とオグマとは初対面だ、という雰囲気を出しつつ言葉を続けた。
「あの、こちらにアーナックという男はいませんでしょうか?」
突然現れたテオバルトに信者たちは眉を顰める。
代表として、最初に零たちに対応した男が声を上げる。
「知らんな。そんな奴はここにはおらん。そいつが一体どうしたというんだ」
「アーナックは僕の弟でして。恋人との結婚が近かったのに、数か月前にこちら方面に向かったっきり帰って来ないんです」
テオバルトの話を聞きながら、男は溜息を吐いた。
「ならなおのことそんな奴はおらん。ここに来るやつは、幸せを奪われた者ばかりだ」
「幸せを……そういえば、この村はひどく荒れ果てていますが、一体何があったんですか?」
建物らしい建物といえば、この信者たちが集まった建物と、村の最奥にある別動隊が担当している『神殿』と呼ばれる場所だけだ。
「さあな。俺は詳しくは知らん。というよりも、ここにいるやつらは誰も詳しく知らんよ」
「え? 皆さんこちらのご出身ではないのですか?」
オグマが疑問を口に出せば、男は面倒そうに手を振った。
「あぁそうだ。俺たちはこの村の出身じゃない。バラバラだが、みんな別の村の出身だ」
まぁどこも滅んでしまったがな。
瞳の奥に少しばかりの哀愁が浮かぶ。それを零は見逃さなかった。
「……じゃあ、どうしてここに来た、の……?」
首を傾げた零へと視線を向けて、男の後ろに集まってきていた信者たちが口々に話し始める、
「教祖様が導いてくださったからさ!」
「ここにくればもう怖い思いなんてしなくて済むって」
「歪虚が悪いんじゃない。本当に悪いのは、襲われた俺たちを助けなかったハンターだって!」
「そうそう。教祖様は言ってくださったよ。祈りなさいと。そうすれば、自分の願いに近づけるからって」
先ほどまでとは打って変わって、信者たちの目には輝きが満ちる。
それは完全に『教祖』と呼ばれる人を信用して信頼して信仰している証拠だった。
「みんなは、教祖様に、救われたんだ……ね。……どんな人、なの?」
問いかけた零へと、寄せる波のように話しかけていた信者たちの口がぴたりと止まる。
ここまでの雰囲気で、オグマはなんとなくこの教団が閉鎖的であると確信に近い思いを抱いていた。
「……素晴らしいお方だ。あの方は妖精を連れ『奇跡の御業』をお使いになる」
淡々と語るのは最初に対応したあの男。
「奇跡……」
「あぁ。教祖様のおかげで、我々は今こうして救われている」
「本当に妖精を連れているのですか?」
テオバルトの問いに、男は片眉を跳ね上げる。
「嘘じゃない。教祖様はいつも肩の上にその妖精をお連れになっている」
「そんなに素晴らしい方なら、教祖様にはなかなかお会い出来ないのでしょうね。どこか特別な場所でお過ごしなんでしょうか?」
「教祖様はいつも神殿にいらっしゃる。そこで我々をお守りくださっているのだ」
『神殿』と呼ばれる場所は、確かにこの廃村の奥に存在している。
そこではおそらく今頃、別動隊が何らかの行動を起こしているだろう。
そこに常に教祖はいるのだという。肩に妖精を乗せて。
「そうですか……。有難う御座います。こちらに探している弟はいないということですし、僕は次の村に向かってみます」
軽く一礼した後、ちらりとテオパルドは信者たちが集まるその建物を観察する。
(屋根裏……は無理だな。いくらスキルを使っても体重は消せない。ここもボロボロだし底が抜けそうだ)
(窓は高いところに一つだけ。あそこから様子を見るのも難しい、か)
短時間で思考を巡らせ、後自分が出来そうなのは万が一の撤退援護だろう。と判断したテオパルドはそのまま村を出るふりをして『隠の徒』を使用。
気配を消しつつ村に再度戻るのだった。
木の上で扉を見つめていたカラスが、ばさりと上空へと飛び上がった。
■綻び
スキルと双眼鏡を駆使して状況を確認していたトリプルJだったが、ここにきて使用していたスキルが切れてしまった。
スキルによって命令を下せていたカラスが、その場にとどまらず空へ飛びたつ。
正面以外からこの状況を確認する場所がない。なにせ周りは何もないのだ。
テオパルドの行動を確認しつつ、双眼鏡を再度覗き込んだその瞬間。事態は急変する。
問題は、いくつか存在していたのだ。
まず、信者たちがいる建物と神殿以外なにもないこんな廃村に、なぜ同じ動物が何度もやって来るのか。
ここが縄張りだという動物ならばまだしも、ここで毎日暮らしている信者ならば、それがいつも見ている動物なのかどうかは分からずとも、その動きがおかしいことくらいは分かるだろうと思わなかったこと。
次に、ハンターに対して憎しみを抱いているという情報を知っていたにも関わらず、ハンターとばれてしまう行動を取ってしまった場面があったこと。
最初から「入団希望」や「迷い込んだ」で済ませてしまえばよかったのかもしれない。
何故なら今回の目的は『信者たちから教団や教祖についての情報を収集すること』だったのだ。
予め「信者から」と目的を絞られていたのには、理由があった。
それは、少しでもおかしな行動をしてしまえば、途端に綻びが出てしまうから。
そしてその綻びが、今。
「誰だ! そこにいるのは!!」
それは年若い信者の一人だった。
その男は零やオグマに教祖がいかに自分を救ってくれたかを語っていた男だった。
男の視界、藪の中で、チカリとなにかが光った。
この村には何もない。
光を反射するようなものはなにもない。
動物の目だろうかと思ったが、そうじゃない。
こんな時間に動物の目は光らない。夜ではないのだから。
だとしたら、だとしたら、だとしたら!
そこに『誰か』がいるのだ。こちらをずっと見ていたのだろう、誰かが!
咄嗟にトリプルJが双眼鏡を下ろすが、一度広がった波紋は収まらない。
「おい誰かあそこにいるぞ! こっちを見てた!」
「そういえば……さっきから周りを同じカラスが何度も飛んでいたわ……」
(まずい)
気取られぬよう必死で無関係を貫く零とオグマだが、こういう閉鎖された場所で暮らす人間は大体の場合ヒステリーに陥るとそれがどんどん広がっていくものだ。
「おい、まさか……!!」
ひゅっ、と。一番最初に対応した男が小さく引き攣ったような息をする。
「お前たちまさか……ハンターか!!」
■撤退
「ハンター……」
信者たちがざわめく。座っていた信者も、立ち上がりギラギラとした目をしながら入口へと歩み寄って来る。
(……駄目だこれ以上は)
引き際を見誤ってはいけない。ずっとそれを留意していたオグマがそっと背に零を庇う。
と、次の瞬間。
「なんだあの煙は!!」
藪とは全く逆の方向で煙が上がった。
それは、スキルを使用したテオパルドが放った発煙手榴弾だった。
撤退には必要なアイテムだっただろう。
だが、これが決定打になった。
ただの旅人が。人探しをしているだけの人がやって来た廃村で。
突然煙があがるなど、ありえないのだ。
その場に残っていた零とオグマに向けられる、憎悪と嫌悪の視線の数々。
それだけ、彼らにとってハンターは憎むべき相手なのだろう。
いや、憎むべき相手だと誘導され、信じ込まされたのだろう。
『教祖』と名乗る者によって。それはさながら洗脳のように。
「……帰れ。お前たちに話すことなどない」
勢いよく閉められた扉の前で立ち竦む零を庇ったまま、オグマは深く息を吐いた。
■収集結果
結論から言えば。
ハンターであるとばれてしまったが、必要最低限の情報は手に入ったといえるだろう。
ひとつ。信者たちはこの村の出身ではない。
ひとつ。教祖は常に肩に妖精を連れている。
ひとつ。教祖は『奇跡の御業』とよばれる力を持っている。
ひとつ。信者たちに全ての憎悪の対象はハンターなのだと言ったのは教祖である。
ひとつ。この村には、神殿と信者たちがいた建物以外はなにもない。
「でも……」
零は目を軽く伏せ、唇を噛む。
恐らくは、信者たちは今後やってくるものに対して今まで以上に警戒をするだろう。
そう簡単には、村に入ることが出来なくなるかもしれない。
慰めるように軽く肩に手を置いて帰り始めるメンバーたちに小さく頷き返した後、彼女はそっと空を見上げる。
薄い空の青はどこか、彼女の「友だち」の瞳の色に似ていて。
歯がゆさに、零は小さく拳を握りしめるのだった。
END
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 浅緋 零(ka4710) 人間(リアルブルー)|15才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/07/13 20:03:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/09 01:19:55 |
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質問卓 テオバルト・グリム(ka1824) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/07/10 23:32:57 |