• 繭国

【繭国】千の実りも一歩から

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/07/19 19:00
完成日
2017/07/26 12:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ヒューゴ・レンダックはグラズヘイム王国の貧乏貴族だった。家名は古い。しかし、代々の当主がその由緒正しき血筋に胡坐をかき、のらくらとした身の振り方と領地経営を続けたため、ヒューゴの代にはかつての繁栄は見る影もなくなっていた。
「な、なんとかしなきゃだよね」
 というのはヒューゴの口癖だ。すっかり没落しているというのにのらくらし続けた父と違い、ヒューゴは真面目だった。真面目だったが……、同時に、気弱でもあった。なんとかしなきゃ、という気持ちだけが空回り、特に効果的な方法も見つけられないまま時が過ぎていく。
 ただ、その真面目さゆえに、領民の心は少しずつ取り戻しているようだった。まだ三十歳前後と年若いが、ヒューゴ様にならついていっても大丈夫そうだ、と。
 そんな、ある日。
「お兄さま! 朗報でしてよ!」
 ヒューゴのもとに、妹のアーニャ・レンダックが駆け込んできた。笑顔の明るい美少女であるアーニャは、領民の人気も高かった。ヒューゴが頑張っていられるのはこの妹のおかげだと言っても過言ではない。
「国から助成金がもらえるんですって!」
「助成金?」
 勢い込んで話すアーニャに、ヒューゴは目を見開く。
「ああ、うん、そうらしいね。カリムさんと話していたんだ。なんでも、農業生産量を上げるべく努力する者には支援をする、と国が発表したとかなんとか……」
 カリムさん、とはカリム・ルッツバードのことである。ヒューゴと同じく、グラズヘイム王国の貴族だが、ヒューゴとは違い、強固な地盤と名声、経済力、そして冴えた頭脳でもって活躍している。近頃はとある研究機関を支援しているらしい。ヒューゴよりも年下であったはずだが、たいしたものである。
「そうらしいね、って! ご存じならなぜその場で名乗りを上げてこないのですか! ルッツバード家を通していただけば、申請は通るばかりか、多少の色もつけていただけるでしょうに!」
「いや、カリムさんのところは忙しいから、手を煩わせるわけには……。あそこはちゃんとした貴族だからね」
「レンダック家だってちゃんとした貴族です!!」
 アーニャがキリキリと目を吊り上げた。ヒューゴは怠け者ではないもののどこかのんびりしたところがある。こればかりはレンダック家の血に逆らえなかったというところかもしれない。
「わ、わかってるよ……。ごめん、言い方が悪かった。大丈夫、申請はしてきたから。カリムさんの名前を通さなかった、というだけのことだよ」
「ああ、そうでしたの……。安心しましたわ。お兄さまもちゃんと考えていたんですね」
 アーニャは胸を撫で下ろした。彼女は、少々頼りないが真面目で心優しい兄のことが心配で仕方がないのである。



 レンダック家が貧乏な理由は、先述したとおり、ヒューゴの父や祖父たちが怠惰だった所為だ。怠惰だったのには、権力闘争に巻き込まれたくなかったからだとか、有力貴族に目をつけられたくなかったからだとか、様々な理由があるようだが、ともあれ、領民の信頼は失うばかり。付き合いきれなくなった者たちはさっさと他所へ移ってしまった。そのため、耕す土地はあれど耕してくれる人がいない、という事態に陥っている。
 そこで、ヒューゴは、国からおりた助成金で新しく「機械」を導入することにした。少ない人手でも生産量を上げることができるように。また、機械を導入したと知って戻ってきてくれる人々が現れるように。
 購入した機械は、初心者でも使いやすいものを中心に、業者に選んでもらった。「農業特化型Gnomeでもいかがです」という話も持ち上がったが「ご、ゴーレム!? 無理無理無理!!!」というヒューゴの叫びによって却下となった。気弱にもほどがある。
 なお、この業者はカリム・ルッツバード氏に紹介してもらった。レンダック家にそんなツテはない。ルッツバード氏はどうやら、第六商会に繋がりがあるらしく、今回もそのルートで手配をしてくれたようだ。カリムがヒューゴのような弱小貴族を「歳が近い唯一の友人だから」と気にかけてくれるのは、大変に有難いことだ。
 そのようにして届いた新品の機械は、所望する領民に均等に配布された。しかし。
「あら? ずいぶんとあまっていませんこと?」
 アーニャが首をかしげたとおり。
 機械はヒューゴの手元に十台も残ったのである。
「うん、持ち主のいなくなった農地を、自分で耕してみようかと思ってね」
 ヒューゴが手配した機械は、家庭菜園にも使えるような手押しのものが中心だった。トラクターとか、コンバインとか、大型のものを勧められはしたが、それを導入することはできない理由があった。領地内には「広大」と呼べる農地がなく、小さな畑が点在している状態なのである。そのため、大きな機械はむしろ活躍の場がないのだ。ヒューゴは、こうした点在する農地のうち、空いている土地を自分で耕し、作付けをし、働いてみようと思ったのである。途中で領地に誰か戻ってくれば、すでに耕作の整った状態の畑を受け渡すことができる。
「お兄さま……! なんてご立派なんでしょう……!」
 アーニャが感激して涙ぐまんばかりになった。しかし。
「けれど、お兄さま、空いている農地はかなりございますし……、それに、これだけの機械、ひとりではお使いになれないのでは?」
「あっ」
 失念していたらしい。うっかりもいいところである。
「さらに申し上げますと、お兄さま、これらの機械の使い方をご存じないのでは?」
「うっ」
 ご存じないらしい。貧乏とはいえ貴族ともなれば仕方のないことかもしれないが、それにしても。
「どうなさるおつもりですの……?」
「な、なんとかしなきゃだよね」
 ヒューゴは口癖をつぶやいてから、アーニャの目が鋭くなる前に、ああ、そうだ、と大きく声を出した。
「助成金、まだ、残ってたよね。助けてくれる人を、これで呼ぼう」
 ヒューゴ・レンダックの挑戦は、始まったばかりだ。

リプレイ本文

 つばの広い麦わら帽子。首には水玉模様の手拭いをかけ、軍手にゴム長靴。恰好だけは一人前の農家の男であったが、その中身は。
「み、皆さん来てくれてありがとうございます」
 へらりと笑う気弱な貴族、ヒューゴ・レンダックであった。ヒューゴは、集まってくれたハンターの数の多さに驚いていた。喜びつつも急激に上昇した緊張でガチガチになりながら、ひとりでまず挨拶をする。アーニャは後で差し入れを持って駆け付けてくれるとのことだ。
「呵呵ッ! 立志上等、じゃねェか。貧乏結構、あとは登るだけとなりゃァ、成果も出しやすいってなもンだ!」
 万歳丸(ka5665)が景気づけのように豪快に笑って、ヒューゴの緊張を和らげてくれた。
「で、どうやって進めていくんだ?」
 ミカ・コバライネン(ka0340)が尋ねると、ヒューゴは先ほどよりはかなりなめらかに、行程を告げた。まずは全員で機械や用具を畑に運び、そこから手分けして耕す。耕し終えた土地から順に作付。これがおおまかな流れだった。
「では、畑毎にきちんと記録を取っていきますね」
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)がペンを取り出す。ヒューゴは、実に頼もしい人々に来てもらえた、と胸を撫で下ろした。
 やらなければならない作業は多い。皆、テキパキと仕事にとりかかった。トラックに積み込めるものを乗せ、機械も順番に運んでいく中、ミカがヒューゴに機械の取扱説明書がないか、と尋ねていた。
「ありますよ。ただ、基礎知識がなさすぎるためか、僕が読んでもさっぱりで」
 ヒューゴは面目なさそうに眉を下げ、薄い冊子をミカに手渡した。ザッと目を通したミカは思わず苦笑する。
「何? どうしたの?」
 同じ傭兵隊に属しているカーミン・S・フィールズ(ka1559)が近寄ってくる。
「説明書を読むまでもないような単純な仕組みだ。誰でもすぐ扱えるようになる」
「そうなの? 貴族サマには馴染みがなさすぎた、ってところなのかしらね」
 心なし皮肉めいた口調で、カーミンはミカに向かって肩をすくめて見せた。大丈夫だ、という代わりに。カーミンの中の蟠りは、個人的なものだ。誰かにぶつけたり背負わせたりする気はない。
 機材・用具を運び終えた土地から、早速整備と耕作に入る。長年放置されていたため、雑草が伸び放題だ。
「……ふむ。畑というより野原だな。雑草に覆われていれば当然か」
 閃(ka6912)は荒れた土地を見渡して呟いた。閃にとって、今回の依頼は非常に新鮮で興味深いものだった。戦う以外にも、このような仕事があるのか、と。
「機械を使う前に、ある程度人の手で草を刈る必要がありそうだ」
「そうだな、その方が機械も入りやすいよな」
「では比較的背の高い草は手で刈り取りましょう」
 閃の言葉にリュー・グランフェスト(ka2419)とアティ(ka2729)が頷いて、三人で早速、大まかに草を刈っていく。ヒューゴも見よう見まねで草刈り鎌を使い始めた。
「ヒューゴ様もお手伝い下さるんですか?」
 不思議なほど農夫姿の似合う領主の隣に、アティがやってきた。
「うん、もちろん。だって、手伝ってもらうのは僕の方だからね」
「とっても素晴らしい心がけと存じます。一緒に機械の操作なども覚えていきませんか?」
「もちろん!」
 アティの問いかけににこにこと答えるヒューゴは貴族らしからぬ素朴さに満ちていた。リューはつい苦笑してしまう。
「貴族らしくないってのもどうかとは思うが……。何もしないよりは遥かにいいな。さて。こんなもんだろ。あとは機械で耕して行こうぜ」
 あらかた草を刈り終え、耕運機を土地に入れる。ヒューゴは少し遠巻きに、機械の全体をぐるりと眺めた。そんな姿がなんとなくコミカルで、アティとカーミンが少し笑った。機械に詳しく、仕組みをいちはやく理解したらしいミカが、まずは動かしてみる。
「ここのスイッチを入れて……、あとは押して歩くだけだ」
「案外、簡単なものなのだな」
 興味深げに眺めていた閃が呟き、リューは早速もう一台を使って奥から耕して行った。ミカに教えられながら、ヒューゴが恐る恐る機械に触れる。
「腰が引けてるわよ、領主様。私も機械農業は初めてだけど……」
 ヒューゴが手にした途端、機械はがたがたとバランスを崩し始めた。
「わわわわ!」
「ちょっとちょっと、気を付けて!」
 カーミンがすかさず支えて耕運機の軌道を戻す。初めてだと言っていたわりには、スムーズに扱っている。ミカが感心して呟いた。
「おー、器用だ」
 その後、閃とアティも交代で機械を動かしてみたが、向き不向きは多少あるものの、ヒューゴのようにガタガタさせてしまう者はいなかった。
「凄いなあ……」
 すっかり耕されて畑らしくなった土地を見て、ヒューゴがため息をついた。機械の性能や土地の様子などを記録に取っていたエラが、ヒューゴを励ました。
「まだまだ耕運機を使わなければならない場所がありますから、そちらで頑張りましょう」



 最初に耕した土地を閃、リュー、アティに任せ、ヒューゴはミカやカーミン、エラと共に次の土地へと移動した。そこはヒューゴが頭を悩ませていた、無断投棄されたレンガのあるところだった。ソナ(ka1352)とミオレスカ(ka3496)がまずはサイズの大きなものから除去作業をしていた。
「困ったものです。見える物は取り除いて、まとめてありますよ」
 ミオレスカが報告し、ヒューゴは丁寧に礼を言った。土地のいたるところに散らばっていたレンガがまとめられ、こんもりと小さな山を作っている。
「使い道はどうしましょうか。道路の敷石にしますか?」
「うーん」
 ミオレスカの問いかけにヒューゴが頭を悩ませていると、ソナが提案をした。
「この土地、レンガを完全に除去して畑にするのはかなり手間がかかりますし、堆肥作り用の土地にしては? 刈った雑草や落葉等を土に混ぜて寝かせておけばよい肥料になりますよ。大地の恵みたる作物は土が重要ですし」
「なるほど! それは考え付きませんでした、是非そうしましょう」
 ヒューゴは満面の笑みでこくこく頷いてから、考えるように首を傾げつつ補足をした。
「でも、畑一枚は多すぎるような気がするので、半分……。あ。このレンガを、土地を半分に仕切るための境界づくりに使ったらどうでしょう」
「それはよい考えですね。ではそのように」
 ミオレスカが同意して、早速仕切りを作るために動き出す。もちろんヒューゴも働いた。カーミンが手伝いに入りながら、ふと呟いた。
「無断投棄もだけど、できた作物を盗まれちゃうことだってあるわよね。世の中善人ばかりじゃないしね。警備の人員とかも考える必要があるかも」
「そうだな」
 ミカが同意し、レンガを運びながらカーミンを眺めた。彼女の姿が、将来ここへ戻ってくるかもしれない農民に重なる。ミカは、真剣なまなざしをヒューゴに移した。
「人員の話が出たが……、今後のことは考えているか? 畑には収穫までの間、たくさんの仕事がある。最悪でもふたりでできる範囲にするか、頭下げて手伝い頼むかは今決めておいた方が良い」
 ふたり、とはヒューゴとアーニャのことだ。畑仕事は、耕して作付をしたら終わりというわけではない。毎日世話をしなければならないし、それ以外にも、不測の事態に備えておく必要がある。それができなければ領主として領民たちを守ることはできない。領民たちには生活がかかっている。その分、領主を厳しく見定めるだろう。
 ヒューゴはミカの強い眼差しに気圧されるような気弱な表情を見せたものの、きちんと頷き返した。
「まだ計画段階ではありますけど、ここに残ってくれている領民と相談してやっていけたらと思っています。外から人を呼び寄せることも」
 アーニャの細腕で農業は無理だ。だが、彼女にはヒューゴの何倍も優れた経済観念と人脈を上手く扱うすべを持っている。ふたりで協力して運営を進めていくつもりだった。つもり、ではあったがきちんと言葉にしたのは初めてだ。ヒューゴは、今後のことも気にかけてくれたミカに深く感謝した。
「農家同士で協力できれば、品種改良とか大きなことにも挑戦して行けそうですし、そういう共同体がなければヒューゴさんが立ち上げては?」
 そばで話を聞いていたソナがそんな提案もした。やれることは多そうだ、とヒューゴは大きく頷いた。



 レンガの使い道が決まり、整備も上手くいってきたため、その土地をミオレスカたちに任せて、ヒューゴは再び場所を変えた。まだよろめきはするものの、耕運機の使い方にも少しだけ慣れたところだ。
「おーいこっちも耕してくれよなァ!」
 万歳丸がぶんぶんと手を振ってヒューゴを呼んだ。ここも随分雑草が伸びており、大きな石もあったようで、手作業での整備がまず行われていたのだ。万歳丸から少し離れたところではエルム(ka6941)がもくもくと手を動かしていた。
「は、はい、今行きます!」
 ヒューゴが耕運機をなんとか操って耕して行く。
「へェ、様になってるじゃねェか!」
 万歳丸が褒めると、ヒューゴは嬉しそうに笑った。エルムは耕運機の動きを熱心に眺めている。ヒューゴが手を止め、汗を拭ったタイミングで交代を申し出てた。
「お願いします。僕にでも扱えたんだからきっとすぐ上手くなりますよ」
 自虐とも取れるようなセリフをこだわりなくさっぱりと言うヒューゴは、決して愛想の良くなかったエルムの態度にも気にしたふうはない。少しだけではあるが、エルムの中の人間の印象が変わったような気がした。
 機械をエルムに任せたヒューゴは、刈り取った草やどけた石などを、エラと共にトラックに運んでいく。少しも怠けることのない生真面目な働きだった。
「気になったんだがナァ、もし元の領民がこの土地に戻ってきても土地が少ないンじゃヤリガイがねェんじゃないか?」
 大きな石をトラックに積み込みながら万歳丸がヒューゴにそう言う。
「増やそうぜ。デケェ未来ぶち上げてこそ、頭ッてもんだ……、開拓、しようぜ。市や道と一緒にな!」
「うーん、開拓できるような土地が有り余ってるわけでもないから、そう簡単にはいかないと思うけど、区画整理をすれば可能かなあ」
 ヒューゴはうんうん、と頷きながら万歳丸の提案を真剣に考えている。相当に真面目な性格なのだ、とエルムは思い、彼になら話を聞いてみてもいいかもしれない、と思った。耕し終えたところで、そっとヒューゴに声をかける。
「貴方はここを治める者だそうだな。聞いても良いだろうか」
「う、うん」
 突然のあらたまった問いかけに緊張しつつも、ヒューゴは笑顔で返事をした。
「貴方が治めるこの場所は、どの様な場所なのだろうか。貴方は、どう思っている? ……そしてどうしたいと思っている?」
「うーん。一言で答えるのは難しい質問だけど……、おおらかな土地だと思うよ。レンダック家は、今ずいぶん失望されてしまったけれど、それでも領民がこれだけ残ってくれているのは根がおおらかというか、なんとかなる、という気持ちを持っている人々が多いからだ。暢気と言われるかもしれないけど、暢気ってとても強いこともあると思うんだ。つらいことも受けとめられる、というかさ。だから僕は、その土地柄を活かした領地経営をしていきたいと思うよ」
 気弱そうな笑顔で、ヒューゴは語った。エルムは、それを黙って聞いていた。頼りなさそうに見えて、その実、領地のことをよく考えている。
「ご、ごめん、なんだかつい長々と」
「いや、ありがとう。とてもいい話を聞かせてもらった」
「そ、そう?」
 照れたように頭を掻くヒューゴを、エルムは穏やかに見ることができた。ずっと快くは思えなかった人間だが、こうした人物もいるのだとわかると、これから友好につきあっていくのも不可能ではないように思えた。
「ヒューゴさーん、そちらはどうですかー?」
 小道から、ミオレスカとソナがやってきた。先ほどの土地を堆肥用、作付用に分けて整え終えたらしい。
「作付も済ませてしまいましたよ。キャベツを植えました」
「畝に、植えたもののネームプレートをつけましたから、わかりやすいと思います」
 にこにことふたりが報告する内容をエラがすかさず記録し、ヒューゴに尋ねた。
「植える作物は他にはどうしますか? ジャガイモなんかも案に出ていたようですが」
「うん、ジャガイモは是非とも植えたいと思って苗を用意してあるよ」
「わかりました。各土地の土の質などを見て、適した作物を植えていきましょう」
「エラさんの段取りはすごいですね……、ありがとうございます」
 今耕していた土地を引き続き万歳丸とエルムに任せ、ヒューゴは別の土地へ移動した。リューやミカ、カーミンがどんどん耕して行ってくれたようで、どの土地もしっかり整備されている。機械の扱い方についてはヒューゴの何倍も早くに上手くなったらしく、ヒューゴはハンターという人々の優秀さに素直に感服していた。
「トランシーバーで連絡を取り合って、作業の進み具合を確認しながら協力したんです」
 綺麗に耕し終えている土地のひとつでヒューゴを待ち構えていたアティがそう報告する。その奥では閃が熱心に体を動かし、丁寧に畝を作っていた。
「日差しと風。土と草のにおい。それらを感じられるのは悪くない……農業とは良いものだ」
 閃はこうした、地味で堅実な作業がわりあい好きであるようで、実に楽しげであった。
「この土地はまさにジャガイモにぴったりですね」
 エラが地質を見てそう判断し、ヒューゴは作付用の機械を用意して早速作付を始めた。機械の使い方は先ほどの耕運機とほぼ同じだ。閃やアティの手も借りながら、順調に作業を進めて行った。
 他の土地でも順番に作付が開始され、アーニャが冷たい飲み物とお菓子を持って現れたころには、ほぼすべての作付が終了していた。



「素晴らしいわ、お兄さま! よかった……、こんなに綺麗に畑を作ってくれる方々に来ていただけて」
 アーニャは数々の畑を見回して感嘆の声を上げると、兄への賛辞もそこそこにハンターたちに礼を言って回った。ヒューゴより何倍も貴族然とした振る舞いであったが、それでもむやみに偉ぶらない賢明さを持った物言いで、これなら確かに領民からも慕われるだろうと思わせる少女だった。
 エラが、これまでの記録と今後の管理についてをアーニャに話す。書類なども彼女に手渡して引き継ぎをしていった。それがひと段落したのを見て、カーミンが話しかける。
「アーニャ様の元には苦情とか上がってこないの?」
 レンガの無断投棄のことや、警備のことについて、だ。すると、眉を下げてアーニャが首を横に振った。
「直接は聞かないのです。濁して、ぼやかして、なんとなく進言してくる者はいるのですが。私もまだまだ信頼を得られていないようですわ」
「うーん。でもそういう話は切り出しにくいものよ?」
「……そう、ですよね……。言い出してくれるのを待っているのではなく、聞き取りに行かなければなりませんわね」
 アーニャはサッと考えをそちらへ展開させた。賢い人だ、とカーミンは思う。他人から弱い部分への指摘を受けて前向きに考え直せる人は意外に多くない。ヒューゴも、アーニャも、本当に領地と領民のことを考えている。そうわかる態度だった。
「貴族サマ、騎士サマ、って斜に構えてみている場合じゃないわね、私も」
「え?」
 カーミンの独り言に、アーニャが首を傾げたが、カーミンはなんでもないわ、とあっさり首を振って見せた。さっぱりとした、笑顔で。
「そういえば」
 ヒューゴの隣で、万歳丸が豪快にお茶を飲みほして声をあげた。
「この土地はおーこくの、ほら、貴族だとか、おー家だとかの『色』は無かったンだよな。ンで、今回の金は、 ヒューゴ達の金じゃねェ、おーこくの、だろ。となりゃ、ここは、おー家側についたって事になンのか……?」
「えっ」
 ヒューゴが喉を詰まらせる。そのあたりは実は、考えていなかったのである。万歳丸はそんなヒューゴを見てニンマリと笑った。
「経緯は知らねェ、が。カリムだっけ? ソイツにハメられたのでは……?」
「えっ、えええ!?」
 狼狽えたヒューゴの背中を、万歳丸はバシバシ叩く。
「結局、腹ァ括ななきゃいけなかったンだろ。ついてくるヤツもいるンだ。これからが気張りどころだぜ」
「そうですよ。畑はこれからが大変なのですし。実りに、繋げなくては」
 ソナが穏やかに微笑んで励ました。そうだ、作付をしたからには、収穫を目指さなければならない。
「……また呼んでくれるなら来るわ?」
 カーミンが収穫を見越した手伝いをそっと申し出ると、それに同意する声がいくつも上がった。
「こうして自ら手をかけた畑の行く末というのは気になる。できることなら、蘇らせた農地での最初の収穫にも携わりたいものだ。無論、世話をする人手が足りないようなら、また声をかけて頂きたい。……歪虚と戦うこと以外でも、私は誰かの役に立ちたいのでね」
 閃の言葉は、口調は穏やかだったが熱を持っていた。ヒューゴははい、と笑顔でそれに返す。
 綺麗に植えられた苗を眺めて、ミオレスカがにっこりと笑った。
「レンダック領産のお野菜が、リゼリオにも出てくる日が、楽しみです」
 ヒューゴの、実りへの一歩が今、確実に踏み出された。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 12
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧


  • ミカ・コバライネンka0340
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベルka3142
  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧


  • ミカ・コバライネン(ka0340
    人間(蒼)|31才|男性|機導師
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 大地への慈しみ
    閃(ka6912
    オートマトン|25才|女性|舞刀士

  • エルム(ka6941
    ドラグーン|21才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/16 21:50:57
アイコン はじめのいっぽ
万歳丸(ka5665
鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/07/18 23:19:02