ゲスト
(ka0000)
【界冥】稲村ヶ崎の戦い
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/21 15:00
- 完成日
- 2017/08/01 07:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『ハロー、エンドレス』
『交信開始。認証確認。ハロー、AP-S。私はエンドレスです』
『函館にいた彼らは日本に留まったみたいだね。てっきりイギリスへ来ると思ってたんだけど』
『函館にいた彼ら……データ確認。敵は神奈川県湘南付近を航行中です』
『そっか、鎌倉か。これはある意味好都合かもね。うまくやれば、彼の思惑通りになるし』
『彼……データ確認……データ多数。条件の絞り込みが必要です』
『ああ、分からなくても支障はないよ。エンドレスはそのまま監視を続けて』
『AP-Sからの命令受信。敵の監視任務を継続します』
『うまくいけば良い戦闘データが取れるから、楽しみに待っていてね。……あ、それから例のアレ。そっちも監視よろしくね。鎌倉で元気いっぱいに遊び回ってるみたいだけど。それじゃ、これで通信は終わるよ』
『良い日を。交信終了』
「今日も手掛かりなし、か……。一体どこに潜んでるんだろ……」
報告書を手に唇を噛むイェルズ・オイマト(kz0143)。
北の大地で対峙したエンドレス。函館クラスタが破壊された後、再び姿を消した。
その後、鎌倉で目撃されたという情報を受けて追ってきたが、ここのところ一切の目撃情報が得られていない。
あれだけの巨体が隠れる場所など早々ない。既にどこかに移動したのか。
それとも何かに匿われているのか……。
纏まらない考えを整理するように、イェルズは便箋に筆を走らせる。
「お。何だイェルズ。手紙書いてんのか。ラブレターか?」
「違いますよー。お友達っていうか、兄貴みたいな人に近況報告です」
「あら。バタルトゥさんですか?」
「勿論族長宛も書きましたけど……ダンテさんですよ。まあ、手紙書いても10回に1回返ってくればいい方なんですけどね」
「……ダンテってあの王国の赤の隊の隊長か?」
「そうです。すっごい強いしカッコイイです! 会うと飲みに連れて行ってくれるしいい人ですよ!」
「意外な方と交流してるんですね……」
目を輝かせるイェルズに顔を見合わせるハンター達。
そこに、統一連合宙軍の通信官がやって来る。
「ハンターさん達、お話し中申し訳ありません。作戦の概要を説明しても宜しいですか?」
「おう。お前さんを待ってたんだ。いつ始めてくれても大丈夫だぜ」
「はい! 準備は万端です!」
気合十分のハンター達に頷き返す通信官。それでは……と話し始める。
「今回皆さんに向かって戴くのは鎌倉の南側にある稲村ヶ崎です。そこに新設された灯台があるのですが……」
「VOIDに占拠された、と。そういうことだな?」
「仰る通りです。調査により、そこから妨害電波が発生していることが分かっています。この妨害電波を停止して下さい。手段は問いません。」
「灯台と、その周辺の詳細を聞いてもいいですか?」
「灯台の高さは約40m。公園の内部にある為、遮蔽物などはありません。周辺の住民は避難済です。また、灯台の先端に輝石のようなものあるのですが、これがコアであると見られ、妨害電波もこのコアから発せられているものと思われます」
「要するにコアを破壊すれば妨害電波は止まるってことですね?」
「はい。灯台を覆うVOIDはどうやらクラスタを生成しているものと近いらしく、高い再生能力を誇っているようです。灯台を守るように狂気のVOIDがいるという情報もあります。妨害電波の排除を最優先とし、最悪灯台ごと破壊しても構いません」
「ふむ……。本体ごと叩くか、コアだけを狙うか。戦略によって変わりそうだな」
「カメラなどの機器が動かない為直前の調査が難しく、現場の状況が変わっているかもしれません。どうぞ気を付けて対応に当たってください」
「分かりました」
通信官の説明に頷くハンター達。
通信官はそれから……と言葉を切ってイェルズを見る。
「イェルズさんに森山艦長から伝言です」
「えっ。何ですか!?」
「『イェルズちゃ~ん! 妨害電波排除に成功したらご褒美にデートしてあげるザマスよ!』とのことでした」
「……えっと、あの。謹んで遠慮させて戴きたいなと」
「畏まりました。艦長に伝えますね」
「……何てーか。お前も変なのに気に入られたなぁ、イェルズ」
「強く生きてください」
苦笑する通信官。固まるイェルズの背を、ハンター達は順番に叩いた。
『交信開始。認証確認。ハロー、AP-S。私はエンドレスです』
『函館にいた彼らは日本に留まったみたいだね。てっきりイギリスへ来ると思ってたんだけど』
『函館にいた彼ら……データ確認。敵は神奈川県湘南付近を航行中です』
『そっか、鎌倉か。これはある意味好都合かもね。うまくやれば、彼の思惑通りになるし』
『彼……データ確認……データ多数。条件の絞り込みが必要です』
『ああ、分からなくても支障はないよ。エンドレスはそのまま監視を続けて』
『AP-Sからの命令受信。敵の監視任務を継続します』
『うまくいけば良い戦闘データが取れるから、楽しみに待っていてね。……あ、それから例のアレ。そっちも監視よろしくね。鎌倉で元気いっぱいに遊び回ってるみたいだけど。それじゃ、これで通信は終わるよ』
『良い日を。交信終了』
「今日も手掛かりなし、か……。一体どこに潜んでるんだろ……」
報告書を手に唇を噛むイェルズ・オイマト(kz0143)。
北の大地で対峙したエンドレス。函館クラスタが破壊された後、再び姿を消した。
その後、鎌倉で目撃されたという情報を受けて追ってきたが、ここのところ一切の目撃情報が得られていない。
あれだけの巨体が隠れる場所など早々ない。既にどこかに移動したのか。
それとも何かに匿われているのか……。
纏まらない考えを整理するように、イェルズは便箋に筆を走らせる。
「お。何だイェルズ。手紙書いてんのか。ラブレターか?」
「違いますよー。お友達っていうか、兄貴みたいな人に近況報告です」
「あら。バタルトゥさんですか?」
「勿論族長宛も書きましたけど……ダンテさんですよ。まあ、手紙書いても10回に1回返ってくればいい方なんですけどね」
「……ダンテってあの王国の赤の隊の隊長か?」
「そうです。すっごい強いしカッコイイです! 会うと飲みに連れて行ってくれるしいい人ですよ!」
「意外な方と交流してるんですね……」
目を輝かせるイェルズに顔を見合わせるハンター達。
そこに、統一連合宙軍の通信官がやって来る。
「ハンターさん達、お話し中申し訳ありません。作戦の概要を説明しても宜しいですか?」
「おう。お前さんを待ってたんだ。いつ始めてくれても大丈夫だぜ」
「はい! 準備は万端です!」
気合十分のハンター達に頷き返す通信官。それでは……と話し始める。
「今回皆さんに向かって戴くのは鎌倉の南側にある稲村ヶ崎です。そこに新設された灯台があるのですが……」
「VOIDに占拠された、と。そういうことだな?」
「仰る通りです。調査により、そこから妨害電波が発生していることが分かっています。この妨害電波を停止して下さい。手段は問いません。」
「灯台と、その周辺の詳細を聞いてもいいですか?」
「灯台の高さは約40m。公園の内部にある為、遮蔽物などはありません。周辺の住民は避難済です。また、灯台の先端に輝石のようなものあるのですが、これがコアであると見られ、妨害電波もこのコアから発せられているものと思われます」
「要するにコアを破壊すれば妨害電波は止まるってことですね?」
「はい。灯台を覆うVOIDはどうやらクラスタを生成しているものと近いらしく、高い再生能力を誇っているようです。灯台を守るように狂気のVOIDがいるという情報もあります。妨害電波の排除を最優先とし、最悪灯台ごと破壊しても構いません」
「ふむ……。本体ごと叩くか、コアだけを狙うか。戦略によって変わりそうだな」
「カメラなどの機器が動かない為直前の調査が難しく、現場の状況が変わっているかもしれません。どうぞ気を付けて対応に当たってください」
「分かりました」
通信官の説明に頷くハンター達。
通信官はそれから……と言葉を切ってイェルズを見る。
「イェルズさんに森山艦長から伝言です」
「えっ。何ですか!?」
「『イェルズちゃ~ん! 妨害電波排除に成功したらご褒美にデートしてあげるザマスよ!』とのことでした」
「……えっと、あの。謹んで遠慮させて戴きたいなと」
「畏まりました。艦長に伝えますね」
「……何てーか。お前も変なのに気に入られたなぁ、イェルズ」
「強く生きてください」
苦笑する通信官。固まるイェルズの背を、ハンター達は順番に叩いた。
リプレイ本文
鎌倉の南側に位置する稲村ケ崎。
ルシオ・セレステ(ka0673)の調査によると、ここは波乗り場として有名な場所らしい。夏場ともなれば沢山の人が訪れていたそうだが……今は見る影もなく、目に入るのは歪虚ばかり。
住人の避難は済んでいるというのは安心ではあるが、無人の街というのはこうも不気味なものなのかとアメリア・フォーサイス(ka4111)は思う。
遠目に見えて来た灯台。リュラ=H=アズライト(ka0304)に付き従うように動いていた刻令ゴーレムが不意に動きを止める。
「あれ? 止まっちゃった?? リュラさん動きそう?」
「うーん。……動かないですね」
「あちゃー。やっぱりアレのせいかな」
「ダメ元で連れてきたんですけど、やっぱりでしたかー……」
沈黙を続けるゴーレムを見上げるノノトト(ka0553)にため息をつくリュラ。
位置的に見ても妨害電波の効果範囲内に入ったと思って間違いない。
あらゆる機械が使えなくなる電波はどうやらゴーレムにも悪影響を及ぼすらしい。
「仕方ないネ。この子にはここでお留守番しててもらおうカ」
「そうですねぇ。ちょっと可哀想な気もしますけどぉ」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の言葉にこくりと頷く星野 ハナ(ka5852)。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は遠目に見える灯台を見つめる。
――あの場所から出ているという妨害電波。
大規模な戦闘の折にぶつけてくればより混乱が大きかったであろうに、何故今出して来たのだろう?
そもそも、この敵自体にバグが生じている可能性を考えれば、完成度向上のための試運転か。
それとも……。
「何か臭うな……」
「ん? 海の匂いじゃないですか?」
「……臭うってそういう意味じゃないよ」
キョトンとするイェルズ・オイマト(kz0143)にハァ、とため息をつくアルト。
ラミア・マクトゥーム(ka1720)がくすくすと笑う。
「そういえばイェルズも大変だよねー」
「えっ。えーと。まあ……」
目が泳がせるイェルズ。
まさか武者修行にきたリアルブルーで熟年の腐女子に見初められるとは思ってもみなかっただろう。
まあ、それはそれで修行の一つとも言えるのかもしれないが……。
「ま、頑張りな! 無事だったら1杯奢ってあげるよ!」
「いたっ。ラミアさん痛いですって」
ウィンクと共に気合一発、イェルズの肩を盛大に叩いたラミア。アルヴィンは仲間達に向き直る。
「いいカイ。ここから先は通信機の類は使えないカラ、合図は手筈通りにネ」
「分かりました……」
「外部と内部に分かれますけどぉ、お互い囮で本命ですぅ。頑張って行きましょ~。イェルズさんは突入班に参加してくださいねぇ」
「はーい。バーンとリンキオーヘンに、だよね!」
「了解です」
作戦を確認するハナに頷くリュラとノノトト、イェルズ。
ふとアルトがルシオに声をかける。
「ルシオさん。もし余力があったらでいいんだけど、周囲に気を払ってくれないかな」
――きっと、『観察者』がいる……。そう続けたアルトに、ルシオの目がすっと細くなる。
「……ああ。どこかで見ていると思って良いだろうね。幸い双眼鏡を持ってきている。出来る限りのことはしよう」
消息を絶っているエンドレス。あの歪虚がこのまま黙っているとも思えない。だから――。
ハンター達は頷き合うと、静かに目標である灯台へと迫る。
「初めて、こっちに来たけど……これは……」
「うわあああ! やっぱり何度見てもキモーーーい!!」
人気のない街。あちこちに残る蹂躙された爪痕に言葉を失くすリュラ。
灯台が近づくにつれ、数が増える歪虚の群れにノノトトが素直な感想を漏らす。
「うじゃうじゃと良くもまあ……ここまで来ると汚物は消毒したくなりますね」
「実際消毒は必要だよね。この地に歪虚は必要ない」
「同感だ。じゃあ、派手に行くとしようか……!!」
ライフルを構えながら言うアメリア。アルトが手裏剣に血のように赤い糸を巡らせたと同時に駆け出すラミア。
深紅のイェジドに離れるように命じた刹那、自身もまた巨大化して――それが、戦端を切る合図となった。
不意に現れた巨大な紅獅子。それに惹かれるように狂気の歪虚が迫る。
「来ましたね……! ここは引き受けます。皆さんは先に進んで下さい!」
「了解。最短ルートを目指す」
「援護する。くれぐれも気を付けて!」
流れるような動きで掃射を始めるアメリア。
歪虚をねじ伏せながら、アルトとルシオが続く。
「よーし、灯台まで一直線ですよぅ!」
「そうだネ。ただちょっと、敵を片づけながらになる、カナ」
迫る歪虚に輝く光線を放つハナ。アルヴィンから放たれる光の波動が面白いように歪虚を蹴散らして行く。
「モフロウ! お願い!」
フクロウに似た幻獣とシンクロし、魔力を纏わせるリュラ。
丸っこい鳥は文字通りボールのように歪虚へと真っ直ぐ突っ込んで行く。
「よーし! 来い! いいとこ見せてやるんだ!」
叫びと共にけん玉を振り回すノノトト。赤毛の青年の背をちらりと見つめる。
――辺境の小さな部族出身の彼にとって、辺境一の大きさを誇るオイマト族は憧れの的だ。
イェルズはいわば辺境の王子様! いいところ見せておきたいじゃない!!
ノノトトのけん玉を握る手に力が入る。
総員、抵抗を上げていたからか狂気に感染することもなく。
ただただ、波のように襲い来る歪虚をなぎ倒し続けて、比較的早い速度で灯台に近づくことが出来た。
そこまでは良かったのだが。
目の前に聳え立つ灯台の姿に、アルヴィンは言葉を失い、ハナはあんぐりと口を開けた。
「ウギャーーーー! 本当に歪虚でびっちりじゃない!」
代わりに叫んだのはノノトト。
灯台は、狂気眷属と思われる歪虚で隙間なく覆われていた。
それは幾重にも積み重なり、窓どころか出入口の扉すら見当たらない。
そしてノノトトはこの歪虚に見覚えがあった。
そう。名古屋、そして函館で見たことがある……。
「これ、クラスタを生成してるのと同じタイプの歪虚だよ! 壊してもすごい勢いで再生すると思う!」
「マジですかぁ!?」
符を投げ上げて、5色の光の結界を作り上げたハナ。その光は壁に張り付いた歪虚を焼き払ったが……みるみるうちに歪虚が増殖し、その穴を塞いで行く。
「ちょっと何ですかこれぇ! ふざけんなですよぅ!」
「これは……ちょっと、中に入るのは危ないかもしれないネ」
プンスコ怒るハナに、ため息を漏らすアルヴィン。リュラも少し考えて口を開く。
「ん……。確かに、表がこれだけ浸食されているということは……内部はもっと酷いかもしれませんよね……」
「そうダネ。それに、上手いこと中に入れたとシテ、この再生能力の高さだとあっという間に出入り口を塞がれて灯台の中に閉じ込められてしまうカモ」
「そういえば、函館クラスタ戦の時も出口を維持してる人がいた!」
「だろうネ。中に入るなら出口を確保する必要があると思うし……ここでまた人員を分けるのは得策じゃないと思うナ」
思い出すように言うノノトトに頷くアルヴィン。
確かに依頼の説明を受けた際に、灯台を覆う歪虚の特性を聞いたような覚えがある。それについて考慮に入れていなかったのは失策だったかもしれない。
彼らには直接攻撃する手段も、自力で移動する手段もないようだが狂気感染の能力はある。
中もどうなっているか分からない上、長時間閉じ込められた状態になるというのはあまりにもリスクが高すぎた。
「それじゃ、中に入るのは諦めですかね……」
「かなりグロいのは予想済みでしたけど入れないのは予想外ですよぉ! イェルズさんのバカぁ!!」
「俺のせいじゃないですよ!!?」
イェルズの呟きに反射的に吼えるハナ。見事な八つ当たりである。
何と言うか、その。変なのに好かれたり八つ当たりされたり大変だな……と同情の目線を送るノノトト。
不幸体質の彼に同情されるとか色々末期的な気もするが――ともあれ、今すべきことは……。
「ハナ。八つ当たりは、歪虚にしましょ……?」
「そうでしたぁ! 元はと言えばこいつらが諸悪の根源でしたぁ!! という訳で全員ブッコロ確定ですよぅ!!」
「ああ、僕達は出来うる限り歪虚を減らすとシヨウ。なるべく上空のをネ」
リュラのツッコミに我に返り、サラリと物騒なことをのたまうハナ。
そして灯台を見上げるアルヴィン。その目に映るのは、灯台の壁を登る緋色の人影――。
その少し前。アルトとルシオは一足先に灯台へと到着していた。
アメリアとラミアの的確かつ激しい援護射撃のお陰で、交戦は最低限で済んでいる。
それでも少し、傷を負ったように見えるアルトと彼女のイェジドに、ルシオは癒しの光で包みこむ。
「ああ、すまない。かすり傷だよ。大したことない」
「うん。それでもね。これからが本番だから」
アルトを宥めるように言うルシオ。
これからアルトの成そうとしていることを考えれば、万全にしておくに越したことはない。
ルシオの周囲に広がる茨のような幻影。それはアルトと、純白の毛並みのイェジドを包む。
「ささやかな加護のお守りだよ。……武運を祈っている」
「ああ、ありがとう」
ルシオに軽く頭を下げたアルトは、マテリアルを体に巡らせる。
重力のくびきから離れた彼女の身体。そっと灯台の壁に足をかけると、足場を確認するように立ち上がる。
足元がブヨブヨとして気持ち悪いのは否めないが、張り付くことは出来るようで――。
「よし、行けそうだ。ここから上まで一気に駆け上がる。ルシオは引き続き援護を頼む。……イレーネはここでこのまま歪虚を蹴散らしてくれ。万が一の時は仲間を守れ」
「了解した。くれぐれも気を付けて」
ルシオの言葉に応えるように散開するアルトとイレーネ。
彼女は上を見据えると、足にマテリアルの力をこめて壁を強く踏み付け、一気に加速する――!
――聞こえてきたイェジドの咆哮。あれはアルトのイレーネの声だ。
それは彼女は壁登りを始めたことを示すもの。
その声に顔を上げたアメリア。身体を大きく回転させて敵を蹴散らしていたラミアもそれに気付く。
「アメリア! アルト登り始めたみたいだよ!」
「そのようですね」
「上手いことやってくれるといいんだけどね」
「そこは信じるしかないですね。それじゃ引き続き、援護といきましょうか。ラミアさんは引き続き敵を引き付けて戴けますか?」
「もっちろん! そのつもりだよ!」
「ああ、くれぐれも無理はしないでくださいね。行って帰るまでが依頼ですからね?」
「分かってるよ! フレイ! 行くよ!」
「みかんも引き続きお願いしますね……!」
そんなやり取りをした二人。燃える毛並みのイェジドを呼び戻したラミアは、その背に跨り一気に加速。
そしてライフルを構え直したアメリアに、みかんと呼ばれたイェジドが応える。
仲間達が灯台に近づけるよう、ずっと狙撃を続けていた彼女。
攻撃に集中すると、どうしても回避が疎かになる。
そんな主を、みかんは必死に守り続けていた。
「フレイ! ちょっと皆を楽にしてやろうじゃないか!」
「ウォン!!」
ラミアの叫びに応えたイェジド。主を背に乗せたまま、縦横無尽に戦場を駆け回る。
その緩急をつけた動きは見事に狂気の歪虚達を翻弄していた。
「おお、ラミアさんやるですねぇ! 私も負けずにブッコロしますよぅ!! グデちゃんは挽歌よろしくですぅ!」
「にゃん!!」
ハナの命令に従い哀し気な曲を奏で始めるユグディラ。
ちなみにハナ、灯台の中に入れるようだったら猫幻獣を背負って走るつもりだったが、その必要もなくなったのでやめておいた。
「背負うと動きにくいですしぃ。当たり判定大きくなっちゃいますしねぇ」
「当たり判定って何……?」
「こっちの話ですよぅ。ほら、敵さん来てますよぅ!」
ノノトトのツッコミにえへっと笑ったハナ。空に符を投げ、光の結界で歪虚を薙ぎ払う。
「うわ、すっご……! ボクも頑張らなきゃ……!」
ハナの攻撃で歪虚の群れに綺麗に穴が開いて目を丸くするノノトト。
攻撃をすり抜け、こちらに向かって来る敵をボコボコと殴る。
そして、灯台の上をじっと見つめていたアルヴィン。リュラが彼にそっと声をかける。
「……アルヴィン。どう? いけそう……?」
「うん。ここから直接狙えそうダネ。ちょっとやってみるヨ。勿論君達の回復をメインにするケド、弓を使っている間は近くの敵は捌ききれないと思うカラ……」
「それは任せて……! モフロウ! 行くよ……!」
そしてリュラの動きに合わせて飛ぶ丸いフクロウ。その足に握られているのは符。
襲い来る歪虚に掠めるようにしてそれを張り付け、離脱したと同時に符が爆発して敵を吹き飛ばす――!
「わ。ファミリアアタックってあんなことできるんだ……!」
「うん……。工夫次第で色々できる……。ただ、ペットのダメージは気を付けてあげないとだけど……」
「すごい! 同じ霊闘士として勉強になるよ!」
リュラとペットの息の合った動きに目を輝かせるノノトト。
戦い方にもこれだけ幅があるのだ。もしかしたら、一緒に来ているユキウサギとも面白い連携が取れるかもしれない。
ともあれ、今優先すべきは目の前の敵だ!
「みぞれ! ボクは大丈夫そうだからアルヴィンさんを守って!」
主の声にこくりと頷いた真っ白いユキウサギ。アルヴィンを白い光の結界で包み込む。
アルヴィンはユキウサギに礼を言うと、己の相棒を見る。
「ユグディラ。君は皆の支援をお願いできるカイ? 怖い所へ連れてきてゴメンネダケレド、頑張ろうネ」
主の声にこくりと頷くユグディラ。アルヴィンは弓を引き絞ると、灯台の頂点を狙う――。
そしてルシオは、狂気の歪虚……その中でも特に人型を取っているものを重点的に倒していた。
「レオーネ! マウントロック!!」
主の声に応え、弾丸のように飛び込み、歪虚を食いちぎるイェジド。
その様子を、ルシオは注意深く見つめる。
……どうやらこれは人が歪虚になったものではなく、狂気の歪虚の集合体のようだ。
どうやって象っているのかまでは分からないけれど。やはりこれにも核のようなものがあるのだろうか。
そもそも何故、わざわざ人の形をとるのだろう……?
その答えを探すように、彼女は攻撃を続けて――。
――その頃。アルトは跳躍を繰り返し、ただただひたすら上を目指していた。
移動を最優先にしているため攻撃はできない。出来ても回避がやっとだ。
しかし、前方からやってくる歪虚は全てアメリアのライフルとアルヴィンの矢が撃ち抜いてくれている。
正直、仲間の援護がなければとっくに叩き落とされていたに違いない。
アルトは心の中で仲間達に感謝しつつ、その恩は結果で返そうと決意して……。
幾度目かの跳躍。迫る頂。目前に見える輝き。
「あれか……!」
足元の気持ち悪さも忘れて一気に駆け上がるアルト。
そこには歪虚で出来た台座に乗った巨大な輝く石があった。
「……歪虚が宝石だなんて、ちょっと不釣り合いなんじゃないか?」
息を整えながら呟くアルト。見ると、アルヴィンが放ったらしい矢が落ちている。
輝石を直接狙って、当たったものの傷をつけるまでには至っていないらしい。
ともあれ、ここまで来たらやることは一つだ。
アルトは両手で剛刀を構えると、渾身の力で振り下ろし……。
キィン!
聞こえて来た軽い音。
確かに手応えはあったが砕ける様子はない。
もう一撃加えようとしたところで――足元が騒がしくなった。
侵入者を狂気の歪虚に知らせているのかもしれない。
炎のようなオーラを纏いながら、アルトは底冷えする目線で輝石を見つめる。
「なかなかの堅さだが、これで終わる私じゃないぞ。敵が集まってくる前に勝負をつける……!」
その頃、地上でハンター達に襲いかかっていた狂気の歪虚達に異変が起きていた。
ハンター達との戦いを止め、一斉に灯台の上を目指すような動きを見せ始めたのだ。
「アルトの存在に気付いたみたいだね……! そう簡単に行かせないよ!」
「わーーーっ! そっち行っちゃダメーーー!!」
ラミアとノノトトの叫び。
同時に伸びる幻影の腕。それは狂気の歪虚をむんずと掴み引き止める。
「ハナさんを無視して行こうなんて生意気ですよぅ! ブッコロですよぅ!!」
「モフロウ、もう一撃……!」
「レオーネ! 食らいつけ!!」
続くハナとリュラの猛攻。それは狂気の歪虚の数を大幅に減らして……ルシオはじわじわと傷ついていく仲間達を癒しながら、イェジドに命じる。
混乱する戦況の中、アメリアとアルヴィンは静かに灯台の頂点を見つめていた。
「アルトさん、てこずってるみたいですね。協力しておきましょうか」
「そうダネ。ヒビは無理でも傷くらい入るとイイネ」
頷き合う2人。
アメリアは重撃弾をつけた弾倉をライフルへ装填。アルヴィンは奏弓に矢を番えて――。
飛来する銃弾と矢。アルトを掠めて吸い込まれる攻撃。
キィン……!
再び聞こえた軽い音。さっきと少し音が違う。
確実にダメージが蓄積していると察知して、アルトは輝石を滅多打ちする。
何度目かの攻撃で聞こえたピシッという音。
入った亀裂。そこを重点的に狙って――。
パキィィィィィン……!!
ガラスが割れるような軽い音。
石が砕け散り……そして同時に、アルトの足元。
灯台を覆っていた歪虚達が一瞬怯えたように揺れたかと思うと、波が引くように崩れ落ちて行く。
「……この増殖型の歪虚、輝石で身体を維持していたのか?」
刀を収めながら呟くアルト。
この歪虚がクラスタに近い構成なのであれば、その挙動も頷ける。
核となるものがどうやって作られるのかは気になるけれど……。
ふと、海側に目線を移した彼女。海の上に何かいることに気付いて、思わず叫ぶ。
「ルシオさん! 灯台から8時の方向! 海上を注視!!」
その声に咄嗟に動いたルシオ。双眼鏡越しに見えたその姿は……。
「エンドレス……!」
「あいつ鎌倉に来てたのか……!」
「コラ、イェルズ! 先走るんじゃないよ!」
「いっだ!! 俺まだ何もしてませんよ!!?」
ルシオの短い叫び。色めき立つイェルズに拳骨を落としたラミア。
アルヴィンはモノクル越しに、遥か海上にいる歪虚をその瞳に映す。
「……随分遠くにいるネ。今回は攻撃をしてこないノカナ」
「ああ、何だかこちらを観察しているような……嫌な感じだ。だが、あいつがこの件に噛んでいると分かったのは僥倖だったのかな」
「ソウダネ。目的をきちんと知りたいところダケドネ」
「ねえ。どころでリアルブルーのVOIDって何で海辺にばっかりやってくるんだろ。クラスタも海が見える所だったし……」
「VOIDは海辺以外にも目撃されているから、今回はたまたまなのかもしれないけれど……そうだね。クラスタの場所には、何か法則性があるのかもしれない」
ノノトトの呟きに考え込むルシオ。
各所に現れるクラスタ。そして紅の世界から転移してきたエンドレス。
エンドレスが通信している相手……。
ハッキリとは見えてこないけれど。何かが、裏で手を引いているはず――。
「ねえ。あの2人止めなくていいの……?」
「こらああ! 逃げるんじゃないですよぅ! 大人しくブッコロされるですぅ!」
「汚物は消毒ですよーーー!!」
リュラの声に振り返る仲間達。
そこには、逃げ出す狂気の歪虚に符をぶつけまくっているハナ。
そしてアメリアが二丁拳銃をぶっ放していた。
ハンター達の活躍により、稲村ケ崎灯台にあったアンテナ塔は排除され、妨害電波を止めることが出来た。
こちらを伺うような様子を見せているエンドレスは気になるけれど、また対峙する時が来るだろう。
その時まで、ハンター達は雌伏の時を過ごすのだった。
ルシオ・セレステ(ka0673)の調査によると、ここは波乗り場として有名な場所らしい。夏場ともなれば沢山の人が訪れていたそうだが……今は見る影もなく、目に入るのは歪虚ばかり。
住人の避難は済んでいるというのは安心ではあるが、無人の街というのはこうも不気味なものなのかとアメリア・フォーサイス(ka4111)は思う。
遠目に見えて来た灯台。リュラ=H=アズライト(ka0304)に付き従うように動いていた刻令ゴーレムが不意に動きを止める。
「あれ? 止まっちゃった?? リュラさん動きそう?」
「うーん。……動かないですね」
「あちゃー。やっぱりアレのせいかな」
「ダメ元で連れてきたんですけど、やっぱりでしたかー……」
沈黙を続けるゴーレムを見上げるノノトト(ka0553)にため息をつくリュラ。
位置的に見ても妨害電波の効果範囲内に入ったと思って間違いない。
あらゆる機械が使えなくなる電波はどうやらゴーレムにも悪影響を及ぼすらしい。
「仕方ないネ。この子にはここでお留守番しててもらおうカ」
「そうですねぇ。ちょっと可哀想な気もしますけどぉ」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の言葉にこくりと頷く星野 ハナ(ka5852)。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は遠目に見える灯台を見つめる。
――あの場所から出ているという妨害電波。
大規模な戦闘の折にぶつけてくればより混乱が大きかったであろうに、何故今出して来たのだろう?
そもそも、この敵自体にバグが生じている可能性を考えれば、完成度向上のための試運転か。
それとも……。
「何か臭うな……」
「ん? 海の匂いじゃないですか?」
「……臭うってそういう意味じゃないよ」
キョトンとするイェルズ・オイマト(kz0143)にハァ、とため息をつくアルト。
ラミア・マクトゥーム(ka1720)がくすくすと笑う。
「そういえばイェルズも大変だよねー」
「えっ。えーと。まあ……」
目が泳がせるイェルズ。
まさか武者修行にきたリアルブルーで熟年の腐女子に見初められるとは思ってもみなかっただろう。
まあ、それはそれで修行の一つとも言えるのかもしれないが……。
「ま、頑張りな! 無事だったら1杯奢ってあげるよ!」
「いたっ。ラミアさん痛いですって」
ウィンクと共に気合一発、イェルズの肩を盛大に叩いたラミア。アルヴィンは仲間達に向き直る。
「いいカイ。ここから先は通信機の類は使えないカラ、合図は手筈通りにネ」
「分かりました……」
「外部と内部に分かれますけどぉ、お互い囮で本命ですぅ。頑張って行きましょ~。イェルズさんは突入班に参加してくださいねぇ」
「はーい。バーンとリンキオーヘンに、だよね!」
「了解です」
作戦を確認するハナに頷くリュラとノノトト、イェルズ。
ふとアルトがルシオに声をかける。
「ルシオさん。もし余力があったらでいいんだけど、周囲に気を払ってくれないかな」
――きっと、『観察者』がいる……。そう続けたアルトに、ルシオの目がすっと細くなる。
「……ああ。どこかで見ていると思って良いだろうね。幸い双眼鏡を持ってきている。出来る限りのことはしよう」
消息を絶っているエンドレス。あの歪虚がこのまま黙っているとも思えない。だから――。
ハンター達は頷き合うと、静かに目標である灯台へと迫る。
「初めて、こっちに来たけど……これは……」
「うわあああ! やっぱり何度見てもキモーーーい!!」
人気のない街。あちこちに残る蹂躙された爪痕に言葉を失くすリュラ。
灯台が近づくにつれ、数が増える歪虚の群れにノノトトが素直な感想を漏らす。
「うじゃうじゃと良くもまあ……ここまで来ると汚物は消毒したくなりますね」
「実際消毒は必要だよね。この地に歪虚は必要ない」
「同感だ。じゃあ、派手に行くとしようか……!!」
ライフルを構えながら言うアメリア。アルトが手裏剣に血のように赤い糸を巡らせたと同時に駆け出すラミア。
深紅のイェジドに離れるように命じた刹那、自身もまた巨大化して――それが、戦端を切る合図となった。
不意に現れた巨大な紅獅子。それに惹かれるように狂気の歪虚が迫る。
「来ましたね……! ここは引き受けます。皆さんは先に進んで下さい!」
「了解。最短ルートを目指す」
「援護する。くれぐれも気を付けて!」
流れるような動きで掃射を始めるアメリア。
歪虚をねじ伏せながら、アルトとルシオが続く。
「よーし、灯台まで一直線ですよぅ!」
「そうだネ。ただちょっと、敵を片づけながらになる、カナ」
迫る歪虚に輝く光線を放つハナ。アルヴィンから放たれる光の波動が面白いように歪虚を蹴散らして行く。
「モフロウ! お願い!」
フクロウに似た幻獣とシンクロし、魔力を纏わせるリュラ。
丸っこい鳥は文字通りボールのように歪虚へと真っ直ぐ突っ込んで行く。
「よーし! 来い! いいとこ見せてやるんだ!」
叫びと共にけん玉を振り回すノノトト。赤毛の青年の背をちらりと見つめる。
――辺境の小さな部族出身の彼にとって、辺境一の大きさを誇るオイマト族は憧れの的だ。
イェルズはいわば辺境の王子様! いいところ見せておきたいじゃない!!
ノノトトのけん玉を握る手に力が入る。
総員、抵抗を上げていたからか狂気に感染することもなく。
ただただ、波のように襲い来る歪虚をなぎ倒し続けて、比較的早い速度で灯台に近づくことが出来た。
そこまでは良かったのだが。
目の前に聳え立つ灯台の姿に、アルヴィンは言葉を失い、ハナはあんぐりと口を開けた。
「ウギャーーーー! 本当に歪虚でびっちりじゃない!」
代わりに叫んだのはノノトト。
灯台は、狂気眷属と思われる歪虚で隙間なく覆われていた。
それは幾重にも積み重なり、窓どころか出入口の扉すら見当たらない。
そしてノノトトはこの歪虚に見覚えがあった。
そう。名古屋、そして函館で見たことがある……。
「これ、クラスタを生成してるのと同じタイプの歪虚だよ! 壊してもすごい勢いで再生すると思う!」
「マジですかぁ!?」
符を投げ上げて、5色の光の結界を作り上げたハナ。その光は壁に張り付いた歪虚を焼き払ったが……みるみるうちに歪虚が増殖し、その穴を塞いで行く。
「ちょっと何ですかこれぇ! ふざけんなですよぅ!」
「これは……ちょっと、中に入るのは危ないかもしれないネ」
プンスコ怒るハナに、ため息を漏らすアルヴィン。リュラも少し考えて口を開く。
「ん……。確かに、表がこれだけ浸食されているということは……内部はもっと酷いかもしれませんよね……」
「そうダネ。それに、上手いこと中に入れたとシテ、この再生能力の高さだとあっという間に出入り口を塞がれて灯台の中に閉じ込められてしまうカモ」
「そういえば、函館クラスタ戦の時も出口を維持してる人がいた!」
「だろうネ。中に入るなら出口を確保する必要があると思うし……ここでまた人員を分けるのは得策じゃないと思うナ」
思い出すように言うノノトトに頷くアルヴィン。
確かに依頼の説明を受けた際に、灯台を覆う歪虚の特性を聞いたような覚えがある。それについて考慮に入れていなかったのは失策だったかもしれない。
彼らには直接攻撃する手段も、自力で移動する手段もないようだが狂気感染の能力はある。
中もどうなっているか分からない上、長時間閉じ込められた状態になるというのはあまりにもリスクが高すぎた。
「それじゃ、中に入るのは諦めですかね……」
「かなりグロいのは予想済みでしたけど入れないのは予想外ですよぉ! イェルズさんのバカぁ!!」
「俺のせいじゃないですよ!!?」
イェルズの呟きに反射的に吼えるハナ。見事な八つ当たりである。
何と言うか、その。変なのに好かれたり八つ当たりされたり大変だな……と同情の目線を送るノノトト。
不幸体質の彼に同情されるとか色々末期的な気もするが――ともあれ、今すべきことは……。
「ハナ。八つ当たりは、歪虚にしましょ……?」
「そうでしたぁ! 元はと言えばこいつらが諸悪の根源でしたぁ!! という訳で全員ブッコロ確定ですよぅ!!」
「ああ、僕達は出来うる限り歪虚を減らすとシヨウ。なるべく上空のをネ」
リュラのツッコミに我に返り、サラリと物騒なことをのたまうハナ。
そして灯台を見上げるアルヴィン。その目に映るのは、灯台の壁を登る緋色の人影――。
その少し前。アルトとルシオは一足先に灯台へと到着していた。
アメリアとラミアの的確かつ激しい援護射撃のお陰で、交戦は最低限で済んでいる。
それでも少し、傷を負ったように見えるアルトと彼女のイェジドに、ルシオは癒しの光で包みこむ。
「ああ、すまない。かすり傷だよ。大したことない」
「うん。それでもね。これからが本番だから」
アルトを宥めるように言うルシオ。
これからアルトの成そうとしていることを考えれば、万全にしておくに越したことはない。
ルシオの周囲に広がる茨のような幻影。それはアルトと、純白の毛並みのイェジドを包む。
「ささやかな加護のお守りだよ。……武運を祈っている」
「ああ、ありがとう」
ルシオに軽く頭を下げたアルトは、マテリアルを体に巡らせる。
重力のくびきから離れた彼女の身体。そっと灯台の壁に足をかけると、足場を確認するように立ち上がる。
足元がブヨブヨとして気持ち悪いのは否めないが、張り付くことは出来るようで――。
「よし、行けそうだ。ここから上まで一気に駆け上がる。ルシオは引き続き援護を頼む。……イレーネはここでこのまま歪虚を蹴散らしてくれ。万が一の時は仲間を守れ」
「了解した。くれぐれも気を付けて」
ルシオの言葉に応えるように散開するアルトとイレーネ。
彼女は上を見据えると、足にマテリアルの力をこめて壁を強く踏み付け、一気に加速する――!
――聞こえてきたイェジドの咆哮。あれはアルトのイレーネの声だ。
それは彼女は壁登りを始めたことを示すもの。
その声に顔を上げたアメリア。身体を大きく回転させて敵を蹴散らしていたラミアもそれに気付く。
「アメリア! アルト登り始めたみたいだよ!」
「そのようですね」
「上手いことやってくれるといいんだけどね」
「そこは信じるしかないですね。それじゃ引き続き、援護といきましょうか。ラミアさんは引き続き敵を引き付けて戴けますか?」
「もっちろん! そのつもりだよ!」
「ああ、くれぐれも無理はしないでくださいね。行って帰るまでが依頼ですからね?」
「分かってるよ! フレイ! 行くよ!」
「みかんも引き続きお願いしますね……!」
そんなやり取りをした二人。燃える毛並みのイェジドを呼び戻したラミアは、その背に跨り一気に加速。
そしてライフルを構え直したアメリアに、みかんと呼ばれたイェジドが応える。
仲間達が灯台に近づけるよう、ずっと狙撃を続けていた彼女。
攻撃に集中すると、どうしても回避が疎かになる。
そんな主を、みかんは必死に守り続けていた。
「フレイ! ちょっと皆を楽にしてやろうじゃないか!」
「ウォン!!」
ラミアの叫びに応えたイェジド。主を背に乗せたまま、縦横無尽に戦場を駆け回る。
その緩急をつけた動きは見事に狂気の歪虚達を翻弄していた。
「おお、ラミアさんやるですねぇ! 私も負けずにブッコロしますよぅ!! グデちゃんは挽歌よろしくですぅ!」
「にゃん!!」
ハナの命令に従い哀し気な曲を奏で始めるユグディラ。
ちなみにハナ、灯台の中に入れるようだったら猫幻獣を背負って走るつもりだったが、その必要もなくなったのでやめておいた。
「背負うと動きにくいですしぃ。当たり判定大きくなっちゃいますしねぇ」
「当たり判定って何……?」
「こっちの話ですよぅ。ほら、敵さん来てますよぅ!」
ノノトトのツッコミにえへっと笑ったハナ。空に符を投げ、光の結界で歪虚を薙ぎ払う。
「うわ、すっご……! ボクも頑張らなきゃ……!」
ハナの攻撃で歪虚の群れに綺麗に穴が開いて目を丸くするノノトト。
攻撃をすり抜け、こちらに向かって来る敵をボコボコと殴る。
そして、灯台の上をじっと見つめていたアルヴィン。リュラが彼にそっと声をかける。
「……アルヴィン。どう? いけそう……?」
「うん。ここから直接狙えそうダネ。ちょっとやってみるヨ。勿論君達の回復をメインにするケド、弓を使っている間は近くの敵は捌ききれないと思うカラ……」
「それは任せて……! モフロウ! 行くよ……!」
そしてリュラの動きに合わせて飛ぶ丸いフクロウ。その足に握られているのは符。
襲い来る歪虚に掠めるようにしてそれを張り付け、離脱したと同時に符が爆発して敵を吹き飛ばす――!
「わ。ファミリアアタックってあんなことできるんだ……!」
「うん……。工夫次第で色々できる……。ただ、ペットのダメージは気を付けてあげないとだけど……」
「すごい! 同じ霊闘士として勉強になるよ!」
リュラとペットの息の合った動きに目を輝かせるノノトト。
戦い方にもこれだけ幅があるのだ。もしかしたら、一緒に来ているユキウサギとも面白い連携が取れるかもしれない。
ともあれ、今優先すべきは目の前の敵だ!
「みぞれ! ボクは大丈夫そうだからアルヴィンさんを守って!」
主の声にこくりと頷いた真っ白いユキウサギ。アルヴィンを白い光の結界で包み込む。
アルヴィンはユキウサギに礼を言うと、己の相棒を見る。
「ユグディラ。君は皆の支援をお願いできるカイ? 怖い所へ連れてきてゴメンネダケレド、頑張ろうネ」
主の声にこくりと頷くユグディラ。アルヴィンは弓を引き絞ると、灯台の頂点を狙う――。
そしてルシオは、狂気の歪虚……その中でも特に人型を取っているものを重点的に倒していた。
「レオーネ! マウントロック!!」
主の声に応え、弾丸のように飛び込み、歪虚を食いちぎるイェジド。
その様子を、ルシオは注意深く見つめる。
……どうやらこれは人が歪虚になったものではなく、狂気の歪虚の集合体のようだ。
どうやって象っているのかまでは分からないけれど。やはりこれにも核のようなものがあるのだろうか。
そもそも何故、わざわざ人の形をとるのだろう……?
その答えを探すように、彼女は攻撃を続けて――。
――その頃。アルトは跳躍を繰り返し、ただただひたすら上を目指していた。
移動を最優先にしているため攻撃はできない。出来ても回避がやっとだ。
しかし、前方からやってくる歪虚は全てアメリアのライフルとアルヴィンの矢が撃ち抜いてくれている。
正直、仲間の援護がなければとっくに叩き落とされていたに違いない。
アルトは心の中で仲間達に感謝しつつ、その恩は結果で返そうと決意して……。
幾度目かの跳躍。迫る頂。目前に見える輝き。
「あれか……!」
足元の気持ち悪さも忘れて一気に駆け上がるアルト。
そこには歪虚で出来た台座に乗った巨大な輝く石があった。
「……歪虚が宝石だなんて、ちょっと不釣り合いなんじゃないか?」
息を整えながら呟くアルト。見ると、アルヴィンが放ったらしい矢が落ちている。
輝石を直接狙って、当たったものの傷をつけるまでには至っていないらしい。
ともあれ、ここまで来たらやることは一つだ。
アルトは両手で剛刀を構えると、渾身の力で振り下ろし……。
キィン!
聞こえて来た軽い音。
確かに手応えはあったが砕ける様子はない。
もう一撃加えようとしたところで――足元が騒がしくなった。
侵入者を狂気の歪虚に知らせているのかもしれない。
炎のようなオーラを纏いながら、アルトは底冷えする目線で輝石を見つめる。
「なかなかの堅さだが、これで終わる私じゃないぞ。敵が集まってくる前に勝負をつける……!」
その頃、地上でハンター達に襲いかかっていた狂気の歪虚達に異変が起きていた。
ハンター達との戦いを止め、一斉に灯台の上を目指すような動きを見せ始めたのだ。
「アルトの存在に気付いたみたいだね……! そう簡単に行かせないよ!」
「わーーーっ! そっち行っちゃダメーーー!!」
ラミアとノノトトの叫び。
同時に伸びる幻影の腕。それは狂気の歪虚をむんずと掴み引き止める。
「ハナさんを無視して行こうなんて生意気ですよぅ! ブッコロですよぅ!!」
「モフロウ、もう一撃……!」
「レオーネ! 食らいつけ!!」
続くハナとリュラの猛攻。それは狂気の歪虚の数を大幅に減らして……ルシオはじわじわと傷ついていく仲間達を癒しながら、イェジドに命じる。
混乱する戦況の中、アメリアとアルヴィンは静かに灯台の頂点を見つめていた。
「アルトさん、てこずってるみたいですね。協力しておきましょうか」
「そうダネ。ヒビは無理でも傷くらい入るとイイネ」
頷き合う2人。
アメリアは重撃弾をつけた弾倉をライフルへ装填。アルヴィンは奏弓に矢を番えて――。
飛来する銃弾と矢。アルトを掠めて吸い込まれる攻撃。
キィン……!
再び聞こえた軽い音。さっきと少し音が違う。
確実にダメージが蓄積していると察知して、アルトは輝石を滅多打ちする。
何度目かの攻撃で聞こえたピシッという音。
入った亀裂。そこを重点的に狙って――。
パキィィィィィン……!!
ガラスが割れるような軽い音。
石が砕け散り……そして同時に、アルトの足元。
灯台を覆っていた歪虚達が一瞬怯えたように揺れたかと思うと、波が引くように崩れ落ちて行く。
「……この増殖型の歪虚、輝石で身体を維持していたのか?」
刀を収めながら呟くアルト。
この歪虚がクラスタに近い構成なのであれば、その挙動も頷ける。
核となるものがどうやって作られるのかは気になるけれど……。
ふと、海側に目線を移した彼女。海の上に何かいることに気付いて、思わず叫ぶ。
「ルシオさん! 灯台から8時の方向! 海上を注視!!」
その声に咄嗟に動いたルシオ。双眼鏡越しに見えたその姿は……。
「エンドレス……!」
「あいつ鎌倉に来てたのか……!」
「コラ、イェルズ! 先走るんじゃないよ!」
「いっだ!! 俺まだ何もしてませんよ!!?」
ルシオの短い叫び。色めき立つイェルズに拳骨を落としたラミア。
アルヴィンはモノクル越しに、遥か海上にいる歪虚をその瞳に映す。
「……随分遠くにいるネ。今回は攻撃をしてこないノカナ」
「ああ、何だかこちらを観察しているような……嫌な感じだ。だが、あいつがこの件に噛んでいると分かったのは僥倖だったのかな」
「ソウダネ。目的をきちんと知りたいところダケドネ」
「ねえ。どころでリアルブルーのVOIDって何で海辺にばっかりやってくるんだろ。クラスタも海が見える所だったし……」
「VOIDは海辺以外にも目撃されているから、今回はたまたまなのかもしれないけれど……そうだね。クラスタの場所には、何か法則性があるのかもしれない」
ノノトトの呟きに考え込むルシオ。
各所に現れるクラスタ。そして紅の世界から転移してきたエンドレス。
エンドレスが通信している相手……。
ハッキリとは見えてこないけれど。何かが、裏で手を引いているはず――。
「ねえ。あの2人止めなくていいの……?」
「こらああ! 逃げるんじゃないですよぅ! 大人しくブッコロされるですぅ!」
「汚物は消毒ですよーーー!!」
リュラの声に振り返る仲間達。
そこには、逃げ出す狂気の歪虚に符をぶつけまくっているハナ。
そしてアメリアが二丁拳銃をぶっ放していた。
ハンター達の活躍により、稲村ケ崎灯台にあったアンテナ塔は排除され、妨害電波を止めることが出来た。
こちらを伺うような様子を見せているエンドレスは気になるけれど、また対峙する時が来るだろう。
その時まで、ハンター達は雌伏の時を過ごすのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/18 13:26:56 |
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灯台の開放:相談卓 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/07/21 11:29:20 |