• 界冥
  • 初心

【界冥】電波塔を折れ!in北鎌倉【初心】

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/07/21 22:00
完成日
2017/08/03 06:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「んんん……これはまたなかなか厄介ねぇ」

 辺境のハンターオフィス。

 先程から職員・モリスが盛大に唸り続けている。
 オフィスの『お手伝い』としてカウンターに座る少年聖導士・香藤 玲(kz0220)は、聞こえぬフリを決め込んでいた。
「あー困ったわぁ。どう考えても人手が足りないのよねぇ」
 モリス、玲をちらり。
 玲、無視。
「鎌倉クラスタって本当に厄介。機械を動かなくする妨害電波を発してるから、周辺じゃ車や通信機、おまけにCAMだって使えないし」
 玲、無言。
 モリス、開いていた玲の横の席へ身を押し込み、なおも独り言の体で言う。
「だからまずその妨害電波を増幅しているアンテナ塔を叩かなきゃならないわけだけど、3か所もあるなんてねぇ。困ったわぁ、他にも江ノ島や腰越にも人手が要るっていうのに」
 玲、スルー。
「電波塔のうち、『北鎌倉駅』って所にあるアンテナ塔なんかは防衛手段も乏しそうだし、新人育成プログラムで駆け出しハンターさん方にお願いできそうだと思うんだけど……でもねー、相手は狂気歪虚だからねー、『狂気感染』はやっぱり怖いわよねぇ。解除できるスキル持ちのサポーターがいれば良いんだけどぉ、例えば聖導士とかあぁ?」
 とうとう至近距離に顔を近寄せガン見体勢に入ったモリスへ、玲はようやく一言。
「行かないよ僕は」
 にべもない言葉にモリスはガタッと立ち上がる。
「ぬぁんでよぉ!? アンタこないだの函館戦じゃ、最後はちょっとやる気出してくれたじゃないの!」
 玲は対抗してばぁんッとカウンターを叩く。
「函館は函館、鎌倉は鎌倉! ダラな僕が3戦も参加したんだよ!? じゅーぶんでしょーがぁ!」
「どっちも同じ日本でしょ、アンタの故郷でしょうがぁ!」
「鎌倉行ったことないもん! 鳩サブレ食べたことあるくらいの縁しかないもん!」
「何だか分からないけど美味しそうねソレ」
「美味しいけどサブレの縁でキモい敵と戦えるかぁっ!」
「ほお、」
 モリス、瞳をきらりと光らせた。そしてポケットから何かを取り出し、玲の目の前にチラつかせる。
「じゃあ、これならどーお?」
「そ、それは……っ」




 育成プログラムを介し、依頼の説明会へやってきた駆け出しハンター達を前に、モリスは丁寧に一礼する。
「お集りいただきありがとうございます、今回の依頼内容を説明させていただきますね」
 その横には、ポケットからプレミアムチョコレートを覗かせほくほく顔の玲が。
「はいはーい、今回サポーターとして同行する玲だよー。よろしくねー」
 少年の中で『サブレ<プレミアムチョコレート』であるらしい。まんまと買収されていた。

 モリスが前面の大きなモニターを起動させると、一枚の精密なスケッチが表示された。
 絵の下部には慎ましい小さな駅舎。所々崩れてはいるが概ね原型をとどめており、『北鎌倉駅』の文字が見える。
 そこまでは良いのだが、駅舎の四方に4本の奇妙な柱が立っていた。4本の柱は駅舎の上空で1本に統合し、その頂点にはひっくり返した白い笠のような物――アンテナをいただいている。
「今回皆さんに行っていただくのは、リアルブルーの鎌倉という場所です。鎌倉には現在クラスタがあり、狂気歪虚の支配下にあります」
 モリスは先程玲に聞かせたこと――妨害電波により機械全般が動かせないこと、この絵の塔がその電波を増幅するアンテナ塔の1つであることを話した。
 今回の資料が写真ではなくスケッチなのも、現場でカメラが使えないためだ。
「皆さんにはこの北鎌倉駅のアンテナ塔を破壊していただきます。全高およそ20メートル。天辺のアンテナで電波を増幅しています」
 するとひとりのハンターが手を挙げた。
「塔の破壊と言っても……その高さなら遠距離武器で届かない距離ではなさそうですし、足許からアンテナを狙い撃てばそれで済むのでは?」
「良い質問だねっ」
 そこで玲がぴょこんと立ち上がると、モリスに代わってキーを叩いた。今度はモニターに2枚のスケッチが現れる。
 1枚は柱を拡大したもの。鉄製の柱に見えたものは、幾体ものクラゲに似た狂気歪虚が詰み重なったものだった。鉄骨や瓦礫、鹵獲したものらしいシールドなどを貼りつけ補強しており、その合間から歪虚の紫色の目玉が幾つも覗く。
 もう1枚は、天辺でアンテナを支えるアメーバー状の歪虚が、無数の触手を突き出している姿だった。
 便宜上『塔』と称しているが、この北鎌倉の塔は幾多の歪虚の集合体というわけだ。
「事前に偵察に行った部隊が、試しにアンテナを狙撃してみたらしいんだけどね。この通り、たくさんの触手に邪魔されてできなかったんだって」
「かと言って、塔自体が歪虚の集まりですから、よじ登ろうとすれば当然妨害されるでしょう」
 モリスが言い添える。
 じゃあどうすれば……と言いたげな顔の参加者達へ、玲は肩を竦めた。
「んー……だるま落としみたいに、柱になってるクラゲ擬きを下から順番に倒して行くとかかなぁ? まあ回復は任せて、僕これでも聖導士だからね。焦らずゆっくり頑張ろー」
 拳をぎゅっと握って見せた玲に、モリスがゆるりと首を振る。
「ところが、そうゆっくりもしていられない事情がありまして」

「はい?」

 振り返った玲を無視して、モリスは北鎌倉駅から伸びる路線図を表示させた。
「この沿線上で、敵に鹵獲された鉄道車両が確認されておりまして」
「え、つまり?」
「『狂気歪虚に乗っ取られた列車』……いえ、私は列車というのがどういうものか存じませんが……鉄の塊にして大きな輸送量を誇る物体が、アンテナ塔破壊の妨害にやってくる可能性があるということです」
 玲、目が点。
「え、僕聞いてないけど!?」
 モリス、スルー。
「勿論、そちらへは別動隊が向かい破壊する手筈になっています。が、万が一そちらが失敗した時には……あまり時間をかけすぎると、敵を大量に積んだ列車がやってくるということです」
「ちょ、待っ」
「もしそうなった場合には、こちらの玲が皆さんを身体を張って守り抜きますのでどうかご安心を」
「ちょ」
「ですが万全を期すのであれば、速やかに塔を破壊し退いた方が良いでしょう」
 モリス、にっこり。
「それでは、皆様のご武運をお祈りしています」

リプレイ本文

●到着
「何あの塔ー? 駅に全然似合ってないよっ」
 瓦礫の原と化した北鎌倉。その中で元の佇まいを残す建物がひとつ。
 小さな駅舎が可愛らしい北鎌倉駅だ。
 だがその四方には狂気歪虚が積みあがった奇妙な柱が伸び、天辺には無機質なアンテナが。その台無し感に、シエル・ユークレース(ka6648)が叫んだのも無理からぬ事だった。
 翡翠の瞳を持つふたりの龍人は、しげしげと辺りを見回す。
「ここがリアルブルー……騎士団への土産に写真でも持って帰ってあげ……って、もう龍騎士団やめたんだってば。あと魔導カメラ持ってきてない」
「どの道今は使えないようですしね」
 元龍騎士・トリエステ・ウェスタ(ka6908)の呟きに、神官見習いのマルセル=ヴァラン(ka6931)はゆるりと首を振った。
 エルフのリシャーナ(ka1655)は、豊かな胸いっぱいに息を吸い込む。
「空気の匂いも違うのね」
 味わい方はそれぞれだが、蒼界の雰囲気を五感で感じ取っていた。

 一方、既にこちらに縁のある者達もいる。崎代星(ka6594)は蒼界出身だ。
「あらら……昔懐かしの駅舎が、酷いことに」
 それを聞き、蒼界人の父を持つ氷雨 柊羽(ka6767)が顔をあげる。
「あの駅へ来たことが?」
「来たのは初めてなのだけれど、雰囲気がねぇ?」
「そういう事か」
 柊羽はホッと息をつき、父が生まれた世界を改めて眺めた。
「それにしても、歪虚も器用だね。あんな風に自分たちで塔を作るなんて」
「え? あれだば妖怪だばず?」
 柊羽の言葉に飛び上がったのは、ぷにぷにほっぺの童っ子・杢(ka6890)だ。子供と侮るなかれ、杢が鎌倉に来るのは早二度目。北鎌倉の情報をはしゃいだ様子で語る。
「北鎌倉には神社とかお寺とかたげーあっで、≪妖怪≫さいるっで聞いたんず!」
 言って、クラゲ擬きを指さした。函館で嫌と言うほどあれらを焼いたソティス=アストライア(ka6538)は、銀の髪を揺らし苦笑い。
「いや、あれは狂気と言ってだな、」
「≪妖怪≫じゃ、ねーだんず?」
 つぶらなおめめでぱちくりされて、ソティスは言葉の続きを飲み込んだ。精神年齢がオトナな一同は、互いに顔を見合わせる。そして、
(そういう事にしておこう)
 と、無言で頷き合った。

 そこへ、通信機を手に香藤 玲(kz0220)が戻ってきた。
「やっぱ通じないね。別部隊に状況聞きたかったんだけど」
 現在こちらへ歪虚に鹵獲された列車が向かってきている。その制圧を担う隊の様子が分からない以上、急いだ方がよさそうだ。
「では、予定通り2班で行動ですね」
 マルセルが言うように、一同は今回2班編成で柱を破壊する作戦を立てていた。リシャーナは玲へふわりと微笑みかける。
「B班にはマルセルが行ってくれるわ。玲には私達A班に同行してもらいたいのだけど」
「了解、じゃあ皆ヨロシクね」
 シエルは頷いた玲の背をぽんと叩き、
「頼りにしてるよ、せーんぱいっ」
 同じB班のソティス、杢、マルセルと共に北の柱へ。
 年上のシエルに先輩と呼ばれ浮かれる玲に、柊羽と星、リシャーナがダメ押しの一言。
「玲さん、今回はよろしく」
「まだまだ頼りないかもしれないけれど……一所懸命に頑張るねぇ。だから……サポートよろしくね、先輩?」
「回復と状態異常対策をお願いね。頼りにしているわ」
「うんっ、頑張るっ!」
 美人のお姉さん方に頼りにされ、玲はすっかりやる気だ。
 その様子を眺め、
(皆やるわねー)
 なんて感心している、こちらも美人さんなトリエスタの5名で、南の柱を担当する事になった。


●1本目
 一同の作戦は、柱を構成するクラゲ擬きを10体倒したら隣の柱へ移り、同様にしてアンテナを引きずり下ろすというものだった。移動のタイミングは花火で合図し合う事になっている。通信機が使えない事への対策もばっちりだ。
 A班のリシャーナは駅の看板を仰いだ。
「この駅舎が壊れてしまったら、思い出の場所を失って悲しむ人達がいるわ。壊さないように努力しましょう」
 言って、マテリアルを解き放つ。足許に翠の魔法陣が展開し、彼女のしなやかな四肢へ茨の文様が絡みついていく。そして星のナイフへ火の精霊の加護を施した。
「ありがとうー、行ってくるねぇ」
 ひらり手を振ると、星は全身から黒い靄を立ち上らせ柱へ駆け出す。
「援護は任せて」
 柊羽は研ぎ澄ませた視覚で歪虚達を観察。星が狙うのは最下段の敵だ。鉄骨の間に覗く目玉を見据え、赤い弓をきりきりと引き絞り、放つ! 彗星のように煌めく尾を引きながら、矢は星を追い越し柱へ迫る。そして見事不気味な目玉を貫いた!
 目玉を潰せばもうレーザーは打てない。歪虚は接近する星の気配に闇雲に触手を伸ばすが、掠りもしない。
「壊されてしまうのも癪だし、早めに倒しちゃいましょ。――此処にも父さんはいないみたいだし、ね」
 柔和な笑みをかき消し、猛禽の如き鋭さで獲物を見据える星。ノーモーションでナイフを繰り出した! 冷たく光る銀の刃が、ずぷりと歪虚の肉を裂く。
 ふたりの連携で最下の歪虚が塵と化し、柱と地面の間にぽっかりと空間が空いた。
「鉄くずに邪魔されなければ、どんどん行けそうね」
 トリエステは手首の鱗を淡く輝かせ、銀霊剣へマテリアルを込める。そして下部の複数体に跨って貼りついている鉄骨へ光の矢を浴びせた! 錆び付いた鉄骨は衝撃で砕け、お陰で多くのクラゲ擬きが剥き出しになる。
「景観ぶち壊しの歪虚にはご退場願いましょう?」
 歌うように言うトリエステに頷き、
「時間制限もあるし、なるべく被害を抑えつつも早く対処したいところだね」
 柊羽はあらわになったクラゲ歪虚を見据え、再び矢を番えた。


 B班も、ホーム北端傍の柱と対峙する。
 いち早く覚醒したマルセルは、班員の抵抗力を考慮し、己と杢へプロテクションを施していた。その際、
「その、僕自身がおかしくなってしまってはもともこもありませんから……」
 と申し訳なさそうに口にしていたが、実に堅実な判断だ。彼は真紅色の盾を手に、ソティスと杢の前へ進み出る。強化した己の身体と盾で、ふたりへの攻撃を防ぐ心づもりだ。
「ありがどー、でも無理せばだめだんずよー?」
 背中で杢がぶんぶん手を振る。マルセルは小さく手を振り返し、
「この位は……己ではなく皆さんを護ることに尽力できるよう、早く強くなりたいです」
 はにかんだように微笑んだ。その笑顔に、早熟なマルセルの潜めた少年らしさが垣間見えた。
「じゃ、いっくよー!」
 半身に狼のトライバルを浮かび上がらせたシエルは、脚にマテリアルを集中させ、飛ぶように柱へ迫る。
「歪虚倒したら、あの鉄骨とか落ちて来るのかなー?」
 駅を保護しながら戦う算段を立てる。そして最下部の歪虚が纏わせた鉄板と身体の間へ、真紅のレイピアを差し込んだ! スキルにより精度を高めた突きは、過たず僅かな隙間を抉る。
「よっ、と!」
 剥がした鉄板がホームに当たらないよう、反対側へ蹴り飛ばす。すかさず別の触手が伸びてきたが、
「そう急くな。順番に相手をしてやる!」
 ソティスが放った光の矢が塵に帰す。得意の火炎魔法を使えず、ソティスは溜息交じりに呟いた。
「こう言うのは性に合わんが……昔を思い出す、悪くはない」
「当たってけれー」
 その横で杢は背丈を越える龍弓をしならせ、マテリアルを込めた一矢を弾く! 伸ばされた触手達を纏めて引き千切った。マルセルもシエルに当てぬよう注意を払いながら、龍銃の引き金を引く。赤い銃身から放たれた弾丸は、シエルを狙っていた歪虚の目に被弾!
「……当たるものですね」
 初弾で致命打を放てた事に、自分自身で驚いているようだ。
 シエルは瓦礫の上を身軽に飛び渡りながらちろりと舌を出す。
「いいねっ、このまま行っちゃお♪」


 そうして両班が10体目を倒し終えたのはほぼ同時だった。大きな怪我をした者もなく、ペースも順調だ。
 下部の10体を失った南北の柱は、東西の柱に吊られるようにして、変わらず天辺から下がっている。
「じゃあ合図するよ」
「打ち上げるぞ」
 南では柊羽が、北ではソティスが、それぞれ花火を打ち上げる。火薬によらぬ花火は真昼の空でも鮮やかに咲いた。
「たーまーやーだんずー」
「B班も終わったようね」
「A班も無事済んだようです」
 それを確認し、それぞれ次の柱へ向かいかけた時だった。

 ――べちゃッ。


●誤算
 両班の背後で、湿った音が響いた。
「え?」
 振り返った一同の目に映ったのは、下から順に崩壊し始めた南北の柱。上の仲間達を支えきれなくなったのか、あるいは残り二本の柱でアンテナを支えきれると踏んだのか、バラバラと分解し始めたクラゲ擬き達だった。
 柱を離れた歪虚どもは駅舎やホームへ落ちる。柔らかな歪虚自体が落ちるのはまだ良かった。問題は、単体では支えきれず放棄された鉄骨や大ぶりな盾までもが落下し始めている事だった。
「あんな物が衝突したら……!」
 即座に動いたのは南のリシャーナ。
 小さな駅舎と、亡き同胞達の眠る故郷の森とが重なる。どちらも、人々のかけがえのない思い出の宿る場所だ。
「大切な思い出を、心の拠り所を失わせてなるものですか」
 薔薇の花弁を散らし魔杖を振りかざす。長大な鉄骨が炎に包まれ、駅舎の屋根に触れる寸前で煤と化した!
 北ではソティスが奥歯を噛みしめる。
「貴様らもう少し大人しくできんのか!!」
 炎狼を召喚しようかとも思ったが、万一爆風などで東西の柱に影響が出ないとも限らない。咄嗟に雷撃に切り替え、辛うじてまだ一列に並んでいる歪虚どもへ放つ! 稲妻が地上から天へ向け奔り、6体もの歪虚を蒸発させた。だが既に歪虚の触手を離れていた盾などがホームへ降りかかる!
「誰かの思い出あるなら尚更守らなきゃっ」
 シエルは再び瞬脚を用いてホームへ上がると、落下物へ投擲武器を投げつけ、弾き飛ばす!
「どんだんずーっ」
「ええと、杢さん、何と?」
 杢とマルセルも立て続けに弓と引き金を引き、列から外れていた2体を仕留めにかかった。
 トリエステは悪態づきながらも、次々にマテリアルの矢を放つ。
「盾くらい最期まで持ってなさいよっ」
「同感」
 柊羽は、地を這って星に迫る歪虚を威嚇射撃で怯ませる。
「本当に困った子達」
 星は刃を翻し、動けなくなった歪虚へ止めを刺した。


●本番
 混乱を鎮め歪虚を沈め、東西の柱前に布陣した一同。端的に言って、多かれ少なかれおかんむりだった。
 懸命に対処したが落下物を全て払う事はできず、所々ホームの屋根が割れてしまった。
「やってくれたよねぇ」
 東のシエル、塔をきっと睨みつける。2本柱となった塔は不安定に揺れているが、尚天を指している。
 西のリシャーナは割れた屋根を見上げ柳眉を寄せた。
「……もうこれ以上、傷つけさせたりしないから」
 マルセルと玲は決戦に備え、負傷者にヒールをかけて回った。体制万全、ヤル気十全。

 そこから先は早かった。
 リシャーナが最下の歪虚の目に炎の矢を突き立てると、続けてトリエステが放った光の矢が胴体を貫通する。
「いーちっ!」
 その一体が消えると、先程とは違いその上にいた歪虚が地面へ落ちて来た。そこを星がナイフで斬り上げる! 刃が急所を抉った!
「に、だよぉ」
 更に落ちてきた三体目が触手を繰り出してきたものの、星はクラゲ擬きの動きをよく見ていた。その軌道を見切りひらりと躱す。すかさずそこへ柊羽の矢が突き刺さる!
「さんっ!」

「貰った、よーんっ!」
 レイピアを盾と盾の隙間に突き立てたシエル、ぐっと拳を握る。後衛へ向けレーザーが放たれたが、マルセルが掲げた盾で凌いだ。
「ここはお任せを」
 その隙にソティスは杖の先端から光を爆ぜさせる。
「これでご、だ」
 杢も鉄骨のない部分を狙い澄まし、強弾を叩き込む!
「ろーくっ」

 一同は息合わせカウントしながら、凄まじい勢いで討伐を進めていく。
 どんどん塔は低くなり、内へ向け傾斜の付いている柱が屋根に接触しそうになった時。いよいよアンテナを抱えたアメーバーが射程に入った!
 高い瞬発力を活かし、シエルが投擲武器を構え飛び込む。
「シエル!」
 同時に中央へ駆け出していたリシャーナ、放たれた五芒星へ炎の加護を投げかける。火属性を得た五芒星は、紅き軌跡を描きアメーバーへ突き刺さる! 声なき絶叫をあげ、アメーバーはアンテナを包みふわっと宙へ身を躍らせた。
「させないっ」
 すかさず柊羽が威嚇射撃! 宙で静止した所を、
「可愛い駅舎だったのに」
「狩りの時間だ、アンテナ諸共消え去るがいい!」
「とっとと退場してくれる?」
 星の放った「コウモリ」が、ソティスの喚び出した炎狼が、トリエステのファイアアローが襲う! この連撃にアメーバーは成す術もなく四散。が、その身で包んでいたアンテナ本体は無事だった。落下しそうになるそれを、柱の天辺にいたクラゲ擬きが受け止め、逃げだそうとする。だが。
「逃がさねだんずよ」
 狙撃手はもう一人いる。杢だ! 杢の威嚇射撃で、クラゲ擬きも動きを封じられた。瞬脚を使い再び射程に収めたシエルは、再び五芒星を投げつける。狙いは歪虚ではなく、その背に負うたアンテナ。白い表に五芒星が接触した刹那、アンテナは乾いた音をたて真っ二つに割れた。


●終息
 平穏が戻った駅には、トリエステの気ままな鼻歌が流れていた。絶賛異世界満喫中である。
 狂気列車の制圧も上手く行ったようで、列車は来ずに済んだ。
 8人の新人らしからぬ働きに気圧された玲、ヒールをかけて回りつつがくがく頷く。
「なんか、凄かった……おおお疲れ様」
「お疲れ様でした」
 品よく一礼したマルセルの横から、シエルが玲に飛びついた。
「ねね、リアルブルーのこと今度聞きたいな! 玲くんの都合のいいときとかっ! ってこれなんかナンパみたいだね?」
 愛らしく小首を傾げられ、玲はおたおた。シエルの美少女オーラにすっかり勘違いしている様子。
「えと、えと」
「ふふ、いっぺんに言われたら戸惑ってしまうわ」
 やんわり割って入ったリシャーナは、シエルの口に小さな飴を押し込んだ。
「むぐ。あ、甘い♪」
 見れば彼女、他の面々にも配っていたようで。
「細やかだけど頑張ったご褒美よ。余った分は玲にあげるわ」
「ホントッ?」
 顔を輝かせる玲に微笑み、そっと頭を撫でてやる。ほくほくの玲に、杢が一言。
「玲さん甘いもんばっか食べてっと虫歯になっでまうよ?」
「う。今は杢君も食べてるじゃーん」
 きゃいきゃい言い合う彼らを横目に、ソティスは飴を舌の上で転がす。
「最後は思う様狩れたな。足止めに感謝だ」
 柊羽も甘さを味わいながら、
「自分の役割を果たしただけだよ」
 答えて目を細めた。
 そうして、蒼界に引き戻される時が来た。星は改めて瓦礫の街を振り返る。
「父さん……きっとまたその内に、ね」
 呟きを残し、紅き世界へ帰還したのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 慈眼の女神
    リシャーナka1655
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレースka6648
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    ka6890

重体一覧

参加者一覧

  • 慈眼の女神
    リシャーナ(ka1655
    エルフ|19才|女性|魔術師
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライア(ka6538
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 琥珀眼の猛禽
    崎代星(ka6594
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • 白銀のスナイパー
    氷雨 柊羽(ka6767
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • 龍園降臨★ミニスカサンタ
    トリエステ・ウェスタ(ka6908
    ドラグーン|21才|女性|魔術師
  • 駆け出し龍神神官
    マルセル=ヴァラン(ka6931
    ドラグーン|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン だるま落とし
氷雨 柊羽(ka6767
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/07/21 21:09:41
アイコン 質問卓
リシャーナ(ka1655
エルフ|19才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/07/20 02:25:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/17 23:01:20