ゲスト
(ka0000)
新人教育スパルタ講習会:実戦編
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/05 07:30
- 完成日
- 2014/11/09 00:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あー、クッソだりいなおい!」
握っていたペンを投げ出し、張り詰めた糸が切れたように女性が大声を上げた。ドカッと机に足を乗せ、伸びっぱなしの焦げたような赤の髪を掻き上げて、死んだ魚の目で机に山と積まれた書類を睨みつけた。全体重を預けられた椅子が、ミシミシと悲鳴を上げる。
かなり特徴的な外見の女性だ。女性らしいシルエットを持っているが、その身長は非常に大柄で、並の男をゆうに超えている。赤褐色の肌と全身を覆う鋼のような筋肉は、肉食獣を思わせる迫力を見る者に植えつける。顔立ちは整っているが、それは美しさというよりも勇猛さ、強い意思や野性味を思わせ、並みの心臓の持ち主なら、軽く睨みつけられただけで自ら身包み全てを差し出してしまいそうな風体だ。
シュターク・シュタークスン。今からおよそ三ヶ月前、ゾンネンシュトラール帝国第二師団の団長に就任した若き管理職だ。そしてここは、第二師団の管理する要塞都市「カールスラーエ要塞」の中にある師団本部の一室、師団長の執務室であった。
「もう少しなのですから、頑張ってくださいな。その程度、私なら半日で終わらせられますわよ? というより、引き継ぎにどれだけ時間をかけているんですの。……おかげで、南の狂気や剣機などという面白そうな事件にも関われず仕舞いですわ」
そんなシュタークに、副団長であるスザナ・エルマンは嫌味のような口調と裏腹に柔和な笑みを向ける。長い黒髪を左右に分け、スラっとした立ち居振る舞いは優雅さと気品を醸し出す。深窓の令嬢のような雰囲気は、シュタークとは正反対だ。
陽だまりのようなスザナの笑みを受け、しかしシュタークは大きくため息を付く。
「あたしだって思いっきり暴れたかったっての……ていうか、机に向かってんのも、飽きた」
思わず口から漏れでたのは、そんな一言だった。
「あら、奇遇ですわね」
それに対し、スザナは呆れるでも怒るでもなく、聖母のような笑みを絶やさぬまま、
「それでは、気晴らしに殺し合いでも致しませんこと?」
スラリと、腰に下げた長剣を躊躇なく引き抜いた。
「……いいね、気分転換には良さそうだ」
陽光に煌めく切っ先を前に、シュタークは牙を見せつける猛獣のような笑みを浮かべた。椅子に座ったままのシュタークから、津波のような殺気が溢れ瞬く前に部屋を埋め尽くす。
――そして、一触即発の空気が臨界を迎える寸前、コンコンと控えめなノックがドアを叩いた。
シュタークが許可を与える間もなくドアが開き、一人の小柄な老人が姿を現す。
「団員が怯えるから、無用に勝負などするなといつも言っておるじゃろう。そもそも次の”協定”は明日の約束じゃ、それくらいは守れ」
その言葉に、シュタークは露骨な舌打ちと共に殺気を引っ込め、スザナは落胆するでもなく笑みを浮かべたまま剣を収めた。
もう一人の副団長、ハルクス・クラフトは呆れ気味に白髪を撫で付け、シュタークの眼前に、小脇に抱えた書類を差し出した。
「あん? なんだこりゃ」
「本日付で着任する新人の一覧だ。……シュタークお主、教導隊の人員を勝手に地下の建築に回したじゃろ。おかげで、今日行うはずの新人教練が人手不足で行えん。わしを通さず勝手に人事に手を出すなとあれほどじゃな……」
「あ、それ、私ですわ」
「……スザナよ、わしを通さず人事をじゃな」
「コロシアムの建設は、何を置いても最優先にするべきですわ」
全く変わらぬ笑みを前に、ハルクスは、肩を落として大きくため息を付いた。
●
帝国の北東に位置するカールスラーエ要塞は、ここ十年に起こった様々な動乱の煽りを受けて、その機能を失う寸前まで消耗している時期があった。北の壁、ノアーラ・クンタウの向こうには、信じられないほどに強力な歪虚が潜んでいる可能性があり、また、都市東の辺境地域やその向こうへの玄関口となる要衝にも関わらずだ。
ヴィルヘルミナが皇帝になったことで、彼女の意向により都市や師団の立て直しは急ピッチで行われるようにはなった。しかし、それでもまだ様々な事柄が未完成なままだ。
そこで、師団は激減していた団員の頭数を確保するために、他の団が引き取りを嫌がる不良軍人を、積極的に受け入れることにした。結果的に人員不足の解消により、都市の復興は順調に進むことになったが……問題は、受け入れた不良軍人の育成だ。態度は悪く、協調性はなく、しかし自分の実力を信じて疑わない歪んだ正義感を持った若者たち。これをまともな軍人に仕立て上げるには、初手が大事だった。
「全部で十六人か」
都市内の最北部。都市を囲う堅牢な外壁の左右を繋ぐ広大な練兵場に、新入りたちが並んでいる。
シュタークは書類片手に、それらを睥睨していた。
「で、あんた誰よ。ゴリラ?」
半笑いで、新入りの一人がシュタークに向けて軽口を叩く。同調して、周りの新入りもクスクスと下卑た笑いを漏らす。
「……今、ここでぶち殺しちまってもいいんだが」
ピクリと頬を震わせるシュターク。だが、ここでそうしても意味は無い。今日の目的は別にある。
「てめえらみたいなのは、一回、その鼻をぶち折ってやらねえとな」
そのために、第二師団はハンターに依頼を出していた。多数対多数の実践訓練。それにより、自分達の無力さと、協調性の大切さを学んでもらおうという魂胆だ。
不良軍人や心構えのなっていない団員が多くを占める第二師団には、まだまともに実戦を経験した兵士は少ない。その点ハンターならば、実戦経験はもとより、他者と協力する大切さも知っているだろう。教師として、これほど適任者はいないはずだ。
……とはいえシュタークには、そんな思惑はない。単に面倒だから、ハンターに任せようと思っただけだった。
●
その頃、スザナ・エルマンは師団本部に置かれた自室に篭っていた。
「うう、ハンターが来る……戦いたい……殺したい……殺されたい……いやでも、副団長としてちゃんと責務を果たさないと……」
自らを手枷足枷と鎖で拘束し、自室に設置された檻に篭もって、スザナは自分の中の衝動と戦っていた。
「……お主も相変わらず、難儀な性格じゃのう」
それを監視するハルクスの表情には、毎回面倒だなあと分かりやすく書かれていた。
握っていたペンを投げ出し、張り詰めた糸が切れたように女性が大声を上げた。ドカッと机に足を乗せ、伸びっぱなしの焦げたような赤の髪を掻き上げて、死んだ魚の目で机に山と積まれた書類を睨みつけた。全体重を預けられた椅子が、ミシミシと悲鳴を上げる。
かなり特徴的な外見の女性だ。女性らしいシルエットを持っているが、その身長は非常に大柄で、並の男をゆうに超えている。赤褐色の肌と全身を覆う鋼のような筋肉は、肉食獣を思わせる迫力を見る者に植えつける。顔立ちは整っているが、それは美しさというよりも勇猛さ、強い意思や野性味を思わせ、並みの心臓の持ち主なら、軽く睨みつけられただけで自ら身包み全てを差し出してしまいそうな風体だ。
シュターク・シュタークスン。今からおよそ三ヶ月前、ゾンネンシュトラール帝国第二師団の団長に就任した若き管理職だ。そしてここは、第二師団の管理する要塞都市「カールスラーエ要塞」の中にある師団本部の一室、師団長の執務室であった。
「もう少しなのですから、頑張ってくださいな。その程度、私なら半日で終わらせられますわよ? というより、引き継ぎにどれだけ時間をかけているんですの。……おかげで、南の狂気や剣機などという面白そうな事件にも関われず仕舞いですわ」
そんなシュタークに、副団長であるスザナ・エルマンは嫌味のような口調と裏腹に柔和な笑みを向ける。長い黒髪を左右に分け、スラっとした立ち居振る舞いは優雅さと気品を醸し出す。深窓の令嬢のような雰囲気は、シュタークとは正反対だ。
陽だまりのようなスザナの笑みを受け、しかしシュタークは大きくため息を付く。
「あたしだって思いっきり暴れたかったっての……ていうか、机に向かってんのも、飽きた」
思わず口から漏れでたのは、そんな一言だった。
「あら、奇遇ですわね」
それに対し、スザナは呆れるでも怒るでもなく、聖母のような笑みを絶やさぬまま、
「それでは、気晴らしに殺し合いでも致しませんこと?」
スラリと、腰に下げた長剣を躊躇なく引き抜いた。
「……いいね、気分転換には良さそうだ」
陽光に煌めく切っ先を前に、シュタークは牙を見せつける猛獣のような笑みを浮かべた。椅子に座ったままのシュタークから、津波のような殺気が溢れ瞬く前に部屋を埋め尽くす。
――そして、一触即発の空気が臨界を迎える寸前、コンコンと控えめなノックがドアを叩いた。
シュタークが許可を与える間もなくドアが開き、一人の小柄な老人が姿を現す。
「団員が怯えるから、無用に勝負などするなといつも言っておるじゃろう。そもそも次の”協定”は明日の約束じゃ、それくらいは守れ」
その言葉に、シュタークは露骨な舌打ちと共に殺気を引っ込め、スザナは落胆するでもなく笑みを浮かべたまま剣を収めた。
もう一人の副団長、ハルクス・クラフトは呆れ気味に白髪を撫で付け、シュタークの眼前に、小脇に抱えた書類を差し出した。
「あん? なんだこりゃ」
「本日付で着任する新人の一覧だ。……シュタークお主、教導隊の人員を勝手に地下の建築に回したじゃろ。おかげで、今日行うはずの新人教練が人手不足で行えん。わしを通さず勝手に人事に手を出すなとあれほどじゃな……」
「あ、それ、私ですわ」
「……スザナよ、わしを通さず人事をじゃな」
「コロシアムの建設は、何を置いても最優先にするべきですわ」
全く変わらぬ笑みを前に、ハルクスは、肩を落として大きくため息を付いた。
●
帝国の北東に位置するカールスラーエ要塞は、ここ十年に起こった様々な動乱の煽りを受けて、その機能を失う寸前まで消耗している時期があった。北の壁、ノアーラ・クンタウの向こうには、信じられないほどに強力な歪虚が潜んでいる可能性があり、また、都市東の辺境地域やその向こうへの玄関口となる要衝にも関わらずだ。
ヴィルヘルミナが皇帝になったことで、彼女の意向により都市や師団の立て直しは急ピッチで行われるようにはなった。しかし、それでもまだ様々な事柄が未完成なままだ。
そこで、師団は激減していた団員の頭数を確保するために、他の団が引き取りを嫌がる不良軍人を、積極的に受け入れることにした。結果的に人員不足の解消により、都市の復興は順調に進むことになったが……問題は、受け入れた不良軍人の育成だ。態度は悪く、協調性はなく、しかし自分の実力を信じて疑わない歪んだ正義感を持った若者たち。これをまともな軍人に仕立て上げるには、初手が大事だった。
「全部で十六人か」
都市内の最北部。都市を囲う堅牢な外壁の左右を繋ぐ広大な練兵場に、新入りたちが並んでいる。
シュタークは書類片手に、それらを睥睨していた。
「で、あんた誰よ。ゴリラ?」
半笑いで、新入りの一人がシュタークに向けて軽口を叩く。同調して、周りの新入りもクスクスと下卑た笑いを漏らす。
「……今、ここでぶち殺しちまってもいいんだが」
ピクリと頬を震わせるシュターク。だが、ここでそうしても意味は無い。今日の目的は別にある。
「てめえらみたいなのは、一回、その鼻をぶち折ってやらねえとな」
そのために、第二師団はハンターに依頼を出していた。多数対多数の実践訓練。それにより、自分達の無力さと、協調性の大切さを学んでもらおうという魂胆だ。
不良軍人や心構えのなっていない団員が多くを占める第二師団には、まだまともに実戦を経験した兵士は少ない。その点ハンターならば、実戦経験はもとより、他者と協力する大切さも知っているだろう。教師として、これほど適任者はいないはずだ。
……とはいえシュタークには、そんな思惑はない。単に面倒だから、ハンターに任せようと思っただけだった。
●
その頃、スザナ・エルマンは師団本部に置かれた自室に篭っていた。
「うう、ハンターが来る……戦いたい……殺したい……殺されたい……いやでも、副団長としてちゃんと責務を果たさないと……」
自らを手枷足枷と鎖で拘束し、自室に設置された檻に篭もって、スザナは自分の中の衝動と戦っていた。
「……お主も相変わらず、難儀な性格じゃのう」
それを監視するハルクスの表情には、毎回面倒だなあと分かりやすく書かれていた。
リプレイ本文
巨大な壁を正面に見る練兵場の真ん中に、ハンター達は集まっていた。何かの工事をしているのか、壁の方からは常時カンカンと何かを叩く音が響いている。
ハンター達の前にいるのは、やたら態度の悪い若者が十六人。全員が気だるげに地面に腰を下ろし、苛立ちの色を隠しもせず一行を睨みつけていた。
「さあ、てめえらの先生が来てくれたぞー。じゃんじゃん扱いてもらえ」
シュタークは興味深げに一行を眺めると、第二師団の新兵である若者達に向けてニヤけた口元のままに言葉を向けた。
本来、新兵の教練など団長の仕事ではない。シュタークがこの場にいるのも偏に、巷を賑わすハンター達を間近で観察するためだった。そして、覚醒者の力を知っているからこそ、新兵達が慌てる様を想像しては吹き出しそうになっている。
そんな半笑いのシュタークに新兵達は、あからさまに苛立った様子で「だから誰なんだよ」と吐き捨てている。
「……この方々は、身支度もまともにできないのですか? 兵士としての基本でしょう。もっと普段の生活から規則正しく、改めて行くべきかと」
静架(ka0387)は、若者達のだらしない格好を見て小さくため息を吐いた。
「まあそっちは追々やってくんじゃねえの。こういう奴らをきびしーく鍛えんのが生きがいみてえなジジイがいるからな」
「そうですか。本当なら、早朝に叩き起こすところから鍛えたいところですが」
若干残念そうに、静架は呟いた。
「新兵か、私にもそんな時期があったのだろうか……ん、銃器はないのか?」
Charlotte・V・K(ka0468)は懐かしそうに新兵達を眺めてから、練兵場の隅に置かれた訓練用の武器の保管棚を漁っていた。
本日の教練で使う非殺傷性の武器は、木刀や短槍、弓矢や杖など基本的なものばかりだ。
「あるんなら、オレも使いたいところだけど」
背負ったアサルトライフルを下ろし、伊勢 渚(ka2038)は木刀と弓矢を触っている。
シュタークは武器を選ぶハンター達に歩み寄り、同じように棚を覗き始めた。
「訓練用の銃なんてあんのか? 撃ったら死んじまうだろうよ」
「ふむ。こちらの世界じゃ、ゴム弾や樹脂弾も難しいか……いや、気にしないでくれ。私は弓を使わせてもらおう」
「悪いな。うちは機械はさっぱりだし、銃嫌いも多いんだ。あたしもあの辺は全然分かんねえ」
「のぅ、大太刀はないのかえ? 普段使っておる獲物に近い長さの木刀を借りたいのじゃが」
その横で、切金 凪(ka2321)は木刀を手に取っては戻すを繰り返していた。どれも短く、彼女の要望を満たすものは見当たらない。
「……短槍で代用した方が早いかのぉ? ――おお、そうじゃ! 物干し竿を借りてはいかんかえ?」
「また変なもんを使いたがるなぁ」
凪の提案に、シュタークは苦笑を返す。
「まあ同じ大剣使いとしちゃ気持ちは分かる。持ってきてやるよ」
ちょっと待ってろ。そう言って、シュタークはどこかに歩いて行った。
しばらくして帰ってきた彼女の手にあったのは、木刀の倍ほどの長さを持った竹のような棒だ。凪はそれを受け取り二三度振ると、満足そうに頷いた。
「この短槍、少し削ってもよろしいでしょうか」
ドライバー(ka3471)は、横を向いた体勢で後ろに短槍を振り上げ、縦に弧を描き先端が地面を擦る独特なフォームで感触を確かめながら問うた。
「おう、構わねえぞ」
二つ返事で了承を得たドライバーは、早速と短槍の長さを調節し始めるのだった。
そうして一行の準備が完了すると、新兵達の前に木刀が放り投げられた。地面に転がるそれを面倒そうに拾うと、彼らはのろのろと立ち上がる。その姿勢はだらっとしていて、何でこんなことをという思いがありありと表れていた。
「どこにでも問題児はいるのものですね」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、木の杖を手に小さく呟く。しかし、捻くれてはいるものの、心底性根が腐っているわけではないとリオンは見る。ならば、きっちり成果を出すだけだ。
そうして気合を入れるリオンを見る新兵達の顔は、嘲るよう笑みだった。
「ハンターってな、女と子供しかいねえのかよ。男は男で、ひょろっひょろのもやし野郎だしよぉ」
確かに、新兵達は流石に正規の軍人らしいガッチリとした体格をしている。筋肉の塊、といった様相だ。
「ふん、体格だけが力じゃねえだろ。そういう油断が、戦場じゃ命取りなんだよ」
そんな新兵達を前に、柊 真司(ka0705)は武器を借りることなく素手で立ちはだかっていた。
「……文句があるなら……その資格があるかどうか、私達に示せばいい……出来ればだけど、ね」
木刀を手に、姫凪 紫苑(ka0797)は真っ直ぐに新兵達の目を見た。ガラの悪い視線とぶつかっても、紫苑の目には僅かな揺らぎもない。
「資格だぁ? おう嬢ちゃん、難しい言葉知ってんな。さすがハンター様ってか」
明らかに年下で、しかも女の子にそんなことを言われたのが、余程腹に据えたのだろうか。新兵達の目に、ようやく戦意が宿り始める。しかしそれも、怒りを原動力にした不安定なものだ。
「あんま、俺らを怒らせねえ方がいいぜおい。怪我しねえ内に帰るんなら、見逃してやってもいい。ああ、その前に詫びの一つでも入れてからな」
そして新兵が木刀を振り上げ、威嚇するように一向にガンをつけ始めた瞬間――連続する発砲が、一瞬にして近くの木立を粉砕した。紫苑やリオン、凪に目の行っていた新兵達が、ビクリと肩を跳ねさせる。
「生憎、詫びる必要を感じないんでね」
渚のライフルの銃口から、硝煙が立ち上っていた。
「良かったな、今日は蜂の巣は無しだ。手加減してやるよ」
渚は役目を終えたライフルを地面に下ろし、紫煙を燻らすタバコを落として踵で火を消した。
「――っ、んなもん、その銃の力だろうが。脅しになるかよ!」
呆気に取られかけた新兵達は、何とか持ち直して渚に敵意を向けた。
いい感じに、新兵達は熱を帯びてきている。あとは、思い上がった新兵達を、叩きのめしてやるだけだ。
●
既にシュタークは戦場を見渡せる高台に移動していて、開始の合図をする者はいない。しかし、その場に充満していくひりつく空気は最高潮に達し、戦闘の開始を告げいていた。
ハンター達は、示し合わせたように瞬時に陣形を整える。真司、紫苑、凪、ドライバーが前衛に、残りは後衛として援護に回る。
対して、新兵達の動きは全く統制が取れていなかった。
「シュタークくん、君が彼らの指揮を取ってみるのも面白いんじゃないか?」
Charlotteは、高台のシュタークに声をかけた。
「指揮ねえ。取れりゃいいんだが、そいつらは上官の命令を聞かねえってんでここに回されてきたんだ。そもそもあたしが誰かも分かってねえし、今は無理なんじゃねえかな」
試しに、シュタークが新兵に「横陣!」などと指示を飛ばしてみるも、無視しているのかそもそも耳に届いていないのか、新兵達はバラバラにこちらに突撃するだけだ。
「全く、上官の命令を無視とは。どうしようもないですね」
訓練用に積まれた小山に身を伏し、静架が弓を構える。
相手は無防備にこちらに近づいてきている上に、前衛に気を取られて後衛の存在を忘れているようなお粗末な進軍を強行している。
静架は、愚かにも自ら射程に入ってきた兵の足元に向けて矢を放った。風を切る鏃のない矢が、警戒もしていなかった兵の足元に突き刺さりその動きを一瞬鈍らせる。
同時にCharlotteの放つ数本の矢も兵達の足元を乱し、勝手に奇襲を受けた形になった兵達は咄嗟にキョロキョロと後衛を探し始めた。
そして兵達の目は、赤色の輝きを見た。
リオンがわざと目立つように、覚醒する。胸元に浮かぶ赤い薔薇の文様は、それを起点に六本の棘を手足の先と両頬にまで絡みつかせる。
「これが覚醒です。ハンターというものをよく知らないようですので、特別に見せて差し上げますよ」
得体のしれない現象を前に、兵達がざわつく。
そして、そのざわつきに被せるように更に矢が飛んだ。今度の攻撃は威嚇ではない。矢は強かに兵の一人の肩に打撃を与え、兵は痛みに手にした木刀を取り落とす。
「弓は両手が塞がるから煙草も吸えたもんじゃねえぜ……」
渚は次の矢を番える前に、口惜しそうに先ほど捨てたタバコにチラリと目をやった。
「く、クソが! ハンターが何だってんだよ!」
吠える声には、露骨に強がりが含まれていた。しかしその口は、すぐに塞がれることになる。
「では、ハンターが何かを教えるために、今からあなた達を叩きのめして差し上げます」
リオンは、瞬時にマテリアルを練り上げていた。杖の先から、睡眠を誘う魔力の雲が生み出される。それは新兵達を包み込み、
「――! な、なんだよこれ!」
その内の九人が瞬時に昏倒した。バタバタと倒れる仲間を横目に、兵達の目に恐怖が浮かぶ。
「これは、こっちから仕掛けたほうがいいかもな」
真司は眠りの雲が晴れると同時に、一人の兵の懐に飛び込んでいた。その手に武器はない。ただ腕を覆うガントレットが陽光に鈍く光っている。
「す、素手でやろうってのか、ああっ?」
真司が丸腰だと気づいた兵は、俄に強気を取り戻し木刀を振り上げた。
「舐めんじゃねえ!」
勢い良く、木刀が振り下ろされる。しかしその一撃は、ガントレットによって容易く受け流されてしまう。
「舐めてんのはどっちだよ。今、急所を狙わなかったな?」
真司は、兵の木刀を持つ腕を殴り飛ばす。ほとんど抵抗もなく、木刀はその手から離れて地面を転がる。
「こいつは実践訓練だ。丸腰だからって舐めてかかると、痛い目見るぜ?」
流れるように、真司のガントレットに包まれた腕が兵の腹に突き刺さっていた。同時に、強烈な電撃が放たれる。
「――がぁっ!」
電撃は全身を巡り、筋肉への命令を阻害する。そして動きの止まった兵に向けて、後衛の放った矢が叩き込まれた。
「ち、くしょおおおお!」
眠りを避けた兵は、既にやけになっているようだった。木刀を提げる紫苑に向けて、一直線に走り寄る。
「……闇雲に突っ込むだけなら……誰でも出来る、よ?」
単純に振り下ろされた木刀など、紫苑にとって脅威でも何でもない。半身を逸らせば、その切っ先は容易く空を切る。
続けて放たれる攻撃も、紫苑は軽々と躱していく。身を反らし、飛び退り、フェイントを織り交ぜて翻弄する。
そして、一瞬の隙を突いたのか、残った兵を包囲する形で移動していたCharlotteの矢が、兵の真横から襲った。矢は足を打ち、兵の動きが止まる。
「ここが戦場なら、あなたは死んでいる」
その瞬間に、紫苑は回避から一転、急激に懐に飛び込むと鋭い木刀の一撃を兵に放っていた。
「……何故兵士になったのか、これからどうしたいのか」
木刀の切っ先は、髪を揺らす風圧を伴って首筋に吸い込まれ――ほんの皮一枚を残して、止まる。
「もう一度……よく考えて欲しい」
木刀といえど、まともに直撃すればそれは死をもたらしただろう。兵もそれを理解し、言葉を失って冷や汗を流し、木刀を取り落とす。
「……貴方達ならきっと……大事なもの、見つかる、よ」
「ほら、どうしたのかえっ?」
凪は身長よりも大きな竹竿を巧みに振り回し、兵を追い詰めていく。兵は防戦一方で、先程から凪に対して一度の攻撃も繰り出していない。
「反撃もできぬとは、それでもおのこか!」
「――るかよ」
「うむ?」
凪の挑発に、兵はぼそりと呟く
「子供を殴れるかっつってんだよ!」
一瞬、時間が止まったようだった。
「……そんな理由で戦わぬのかえ?」
「それとな、てめえ着物がはだけてんだよ肌色見えちまってんだよ! 女なら恥じらえよ自分を大切にしろよこの野郎!」
凪は、はあと大きくため息を吐いた。
そしてそのまま、鋭い踏み込みからの全力の一撃を兵に叩き込んだ。しなる竹竿は空気を斬り裂く凶悪な音を残し、兵の肩口に叩きつけられ粉々に砕け散った。
「その程度の覚悟でいくさばに立つ輩に、慈悲などないのじゃ」
凪の言葉は、既に届いていない。強烈な衝撃に、兵は一撃で意識を刈り取られていた。
「全く、見た目で舐められるとは屈辱じゃのぅ。まあ、悪い輩ではないのやもしれぬがな」
眠っていた兵達も意識を取り戻し、訓練場には無数の悲鳴が響き渡っている。主に野太い、新兵達のものだ。
ドライバーは後衛に兵が向かわないよう注意をしながら、順調に兵を叩きのめしていった。
槍の先端で転がる小石を弾き飛ばし威嚇するという戦法は、彼女ならではだ。だからこそ、兵はその攻撃に対応できない。近づけば殴られ、離れれば石が飛んでくる。
「さあ、マナーを体に直接教えてあげましょう!」
逆袈裟に振り上げられる槍の穂先は尽く兵の防御を崩し、鉄の鎧を纏う兵には容赦の無い強打を叩きつける。
回復も必要のない、一方的な展開だった。
後衛と前衛は見事に連携し、新兵にこれが戦いだと教えるに足るお手本のような動きは、次々と兵の戦意を奪っていく。満身創痍の新兵達は、屈辱を胸に、降参の二文字を告げるのだった。
●
そうして戦いが終わってしばらくも、新兵への教育は続いた。Charlotteは練兵場の森を活かして新兵にさらなる戦術を見せつけ、渚は基礎体力こそ命だと言わんばかりに延々と走りこみを続けさせた。走っている途中で文句の一つでも口にすれば、すぐさまお説教タイムだ。リオンは新兵達の態度が少し丸くなったのを感じ、疲れている兵達に優しく緑茶を振舞っている。
静架は、訓練の最後に芋煮会を提案していた。その提案は、面白がったシュタークに直ぐ様承認される。そして日が落ちる頃には、死に体の新兵達に無理やり手伝わせた豪勢な芋煮が完成していた。
「おー、今日はお疲れさん」
シュタークは先程から生の芋をガリガリ齧りながら、ボロボロになった新兵達を面白そうに眺めている。
「……なんで生で食ってるんだ?」
「腹減ったからな。あ、芋煮もちゃんともらうから安心しろよ」
機嫌良さ気に豪快に笑い、シュタークは手当たり次第、近くにある食材をガリガリ齧っていく。生だろうが関係なしだ。
そして新兵達は、芋煮をちびちびと啜ることしかできないほど、全員がぐったりとしている。しかし、それでも彼らは今回、現実を知っただろう。自分達が、今はまだ、大した力を持っていないと。そしていずれ気づくはずだ。力がないからこそ、人は努力をして、強くなっていくのだと。
お前ら頼んで正解だったなと、シュタークが笑う。
きっと遠くない未来、彼らはこの世界を救う一端を担うのだろう。そんな根拠のない予感が、一行の頭をよぎっていた。そして、そうなればいいと思う気持ちに嘘はない。
夜は更ける。いずれ昇る太陽を、待ちわびるかのように。
ハンター達の前にいるのは、やたら態度の悪い若者が十六人。全員が気だるげに地面に腰を下ろし、苛立ちの色を隠しもせず一行を睨みつけていた。
「さあ、てめえらの先生が来てくれたぞー。じゃんじゃん扱いてもらえ」
シュタークは興味深げに一行を眺めると、第二師団の新兵である若者達に向けてニヤけた口元のままに言葉を向けた。
本来、新兵の教練など団長の仕事ではない。シュタークがこの場にいるのも偏に、巷を賑わすハンター達を間近で観察するためだった。そして、覚醒者の力を知っているからこそ、新兵達が慌てる様を想像しては吹き出しそうになっている。
そんな半笑いのシュタークに新兵達は、あからさまに苛立った様子で「だから誰なんだよ」と吐き捨てている。
「……この方々は、身支度もまともにできないのですか? 兵士としての基本でしょう。もっと普段の生活から規則正しく、改めて行くべきかと」
静架(ka0387)は、若者達のだらしない格好を見て小さくため息を吐いた。
「まあそっちは追々やってくんじゃねえの。こういう奴らをきびしーく鍛えんのが生きがいみてえなジジイがいるからな」
「そうですか。本当なら、早朝に叩き起こすところから鍛えたいところですが」
若干残念そうに、静架は呟いた。
「新兵か、私にもそんな時期があったのだろうか……ん、銃器はないのか?」
Charlotte・V・K(ka0468)は懐かしそうに新兵達を眺めてから、練兵場の隅に置かれた訓練用の武器の保管棚を漁っていた。
本日の教練で使う非殺傷性の武器は、木刀や短槍、弓矢や杖など基本的なものばかりだ。
「あるんなら、オレも使いたいところだけど」
背負ったアサルトライフルを下ろし、伊勢 渚(ka2038)は木刀と弓矢を触っている。
シュタークは武器を選ぶハンター達に歩み寄り、同じように棚を覗き始めた。
「訓練用の銃なんてあんのか? 撃ったら死んじまうだろうよ」
「ふむ。こちらの世界じゃ、ゴム弾や樹脂弾も難しいか……いや、気にしないでくれ。私は弓を使わせてもらおう」
「悪いな。うちは機械はさっぱりだし、銃嫌いも多いんだ。あたしもあの辺は全然分かんねえ」
「のぅ、大太刀はないのかえ? 普段使っておる獲物に近い長さの木刀を借りたいのじゃが」
その横で、切金 凪(ka2321)は木刀を手に取っては戻すを繰り返していた。どれも短く、彼女の要望を満たすものは見当たらない。
「……短槍で代用した方が早いかのぉ? ――おお、そうじゃ! 物干し竿を借りてはいかんかえ?」
「また変なもんを使いたがるなぁ」
凪の提案に、シュタークは苦笑を返す。
「まあ同じ大剣使いとしちゃ気持ちは分かる。持ってきてやるよ」
ちょっと待ってろ。そう言って、シュタークはどこかに歩いて行った。
しばらくして帰ってきた彼女の手にあったのは、木刀の倍ほどの長さを持った竹のような棒だ。凪はそれを受け取り二三度振ると、満足そうに頷いた。
「この短槍、少し削ってもよろしいでしょうか」
ドライバー(ka3471)は、横を向いた体勢で後ろに短槍を振り上げ、縦に弧を描き先端が地面を擦る独特なフォームで感触を確かめながら問うた。
「おう、構わねえぞ」
二つ返事で了承を得たドライバーは、早速と短槍の長さを調節し始めるのだった。
そうして一行の準備が完了すると、新兵達の前に木刀が放り投げられた。地面に転がるそれを面倒そうに拾うと、彼らはのろのろと立ち上がる。その姿勢はだらっとしていて、何でこんなことをという思いがありありと表れていた。
「どこにでも問題児はいるのものですね」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、木の杖を手に小さく呟く。しかし、捻くれてはいるものの、心底性根が腐っているわけではないとリオンは見る。ならば、きっちり成果を出すだけだ。
そうして気合を入れるリオンを見る新兵達の顔は、嘲るよう笑みだった。
「ハンターってな、女と子供しかいねえのかよ。男は男で、ひょろっひょろのもやし野郎だしよぉ」
確かに、新兵達は流石に正規の軍人らしいガッチリとした体格をしている。筋肉の塊、といった様相だ。
「ふん、体格だけが力じゃねえだろ。そういう油断が、戦場じゃ命取りなんだよ」
そんな新兵達を前に、柊 真司(ka0705)は武器を借りることなく素手で立ちはだかっていた。
「……文句があるなら……その資格があるかどうか、私達に示せばいい……出来ればだけど、ね」
木刀を手に、姫凪 紫苑(ka0797)は真っ直ぐに新兵達の目を見た。ガラの悪い視線とぶつかっても、紫苑の目には僅かな揺らぎもない。
「資格だぁ? おう嬢ちゃん、難しい言葉知ってんな。さすがハンター様ってか」
明らかに年下で、しかも女の子にそんなことを言われたのが、余程腹に据えたのだろうか。新兵達の目に、ようやく戦意が宿り始める。しかしそれも、怒りを原動力にした不安定なものだ。
「あんま、俺らを怒らせねえ方がいいぜおい。怪我しねえ内に帰るんなら、見逃してやってもいい。ああ、その前に詫びの一つでも入れてからな」
そして新兵が木刀を振り上げ、威嚇するように一向にガンをつけ始めた瞬間――連続する発砲が、一瞬にして近くの木立を粉砕した。紫苑やリオン、凪に目の行っていた新兵達が、ビクリと肩を跳ねさせる。
「生憎、詫びる必要を感じないんでね」
渚のライフルの銃口から、硝煙が立ち上っていた。
「良かったな、今日は蜂の巣は無しだ。手加減してやるよ」
渚は役目を終えたライフルを地面に下ろし、紫煙を燻らすタバコを落として踵で火を消した。
「――っ、んなもん、その銃の力だろうが。脅しになるかよ!」
呆気に取られかけた新兵達は、何とか持ち直して渚に敵意を向けた。
いい感じに、新兵達は熱を帯びてきている。あとは、思い上がった新兵達を、叩きのめしてやるだけだ。
●
既にシュタークは戦場を見渡せる高台に移動していて、開始の合図をする者はいない。しかし、その場に充満していくひりつく空気は最高潮に達し、戦闘の開始を告げいていた。
ハンター達は、示し合わせたように瞬時に陣形を整える。真司、紫苑、凪、ドライバーが前衛に、残りは後衛として援護に回る。
対して、新兵達の動きは全く統制が取れていなかった。
「シュタークくん、君が彼らの指揮を取ってみるのも面白いんじゃないか?」
Charlotteは、高台のシュタークに声をかけた。
「指揮ねえ。取れりゃいいんだが、そいつらは上官の命令を聞かねえってんでここに回されてきたんだ。そもそもあたしが誰かも分かってねえし、今は無理なんじゃねえかな」
試しに、シュタークが新兵に「横陣!」などと指示を飛ばしてみるも、無視しているのかそもそも耳に届いていないのか、新兵達はバラバラにこちらに突撃するだけだ。
「全く、上官の命令を無視とは。どうしようもないですね」
訓練用に積まれた小山に身を伏し、静架が弓を構える。
相手は無防備にこちらに近づいてきている上に、前衛に気を取られて後衛の存在を忘れているようなお粗末な進軍を強行している。
静架は、愚かにも自ら射程に入ってきた兵の足元に向けて矢を放った。風を切る鏃のない矢が、警戒もしていなかった兵の足元に突き刺さりその動きを一瞬鈍らせる。
同時にCharlotteの放つ数本の矢も兵達の足元を乱し、勝手に奇襲を受けた形になった兵達は咄嗟にキョロキョロと後衛を探し始めた。
そして兵達の目は、赤色の輝きを見た。
リオンがわざと目立つように、覚醒する。胸元に浮かぶ赤い薔薇の文様は、それを起点に六本の棘を手足の先と両頬にまで絡みつかせる。
「これが覚醒です。ハンターというものをよく知らないようですので、特別に見せて差し上げますよ」
得体のしれない現象を前に、兵達がざわつく。
そして、そのざわつきに被せるように更に矢が飛んだ。今度の攻撃は威嚇ではない。矢は強かに兵の一人の肩に打撃を与え、兵は痛みに手にした木刀を取り落とす。
「弓は両手が塞がるから煙草も吸えたもんじゃねえぜ……」
渚は次の矢を番える前に、口惜しそうに先ほど捨てたタバコにチラリと目をやった。
「く、クソが! ハンターが何だってんだよ!」
吠える声には、露骨に強がりが含まれていた。しかしその口は、すぐに塞がれることになる。
「では、ハンターが何かを教えるために、今からあなた達を叩きのめして差し上げます」
リオンは、瞬時にマテリアルを練り上げていた。杖の先から、睡眠を誘う魔力の雲が生み出される。それは新兵達を包み込み、
「――! な、なんだよこれ!」
その内の九人が瞬時に昏倒した。バタバタと倒れる仲間を横目に、兵達の目に恐怖が浮かぶ。
「これは、こっちから仕掛けたほうがいいかもな」
真司は眠りの雲が晴れると同時に、一人の兵の懐に飛び込んでいた。その手に武器はない。ただ腕を覆うガントレットが陽光に鈍く光っている。
「す、素手でやろうってのか、ああっ?」
真司が丸腰だと気づいた兵は、俄に強気を取り戻し木刀を振り上げた。
「舐めんじゃねえ!」
勢い良く、木刀が振り下ろされる。しかしその一撃は、ガントレットによって容易く受け流されてしまう。
「舐めてんのはどっちだよ。今、急所を狙わなかったな?」
真司は、兵の木刀を持つ腕を殴り飛ばす。ほとんど抵抗もなく、木刀はその手から離れて地面を転がる。
「こいつは実践訓練だ。丸腰だからって舐めてかかると、痛い目見るぜ?」
流れるように、真司のガントレットに包まれた腕が兵の腹に突き刺さっていた。同時に、強烈な電撃が放たれる。
「――がぁっ!」
電撃は全身を巡り、筋肉への命令を阻害する。そして動きの止まった兵に向けて、後衛の放った矢が叩き込まれた。
「ち、くしょおおおお!」
眠りを避けた兵は、既にやけになっているようだった。木刀を提げる紫苑に向けて、一直線に走り寄る。
「……闇雲に突っ込むだけなら……誰でも出来る、よ?」
単純に振り下ろされた木刀など、紫苑にとって脅威でも何でもない。半身を逸らせば、その切っ先は容易く空を切る。
続けて放たれる攻撃も、紫苑は軽々と躱していく。身を反らし、飛び退り、フェイントを織り交ぜて翻弄する。
そして、一瞬の隙を突いたのか、残った兵を包囲する形で移動していたCharlotteの矢が、兵の真横から襲った。矢は足を打ち、兵の動きが止まる。
「ここが戦場なら、あなたは死んでいる」
その瞬間に、紫苑は回避から一転、急激に懐に飛び込むと鋭い木刀の一撃を兵に放っていた。
「……何故兵士になったのか、これからどうしたいのか」
木刀の切っ先は、髪を揺らす風圧を伴って首筋に吸い込まれ――ほんの皮一枚を残して、止まる。
「もう一度……よく考えて欲しい」
木刀といえど、まともに直撃すればそれは死をもたらしただろう。兵もそれを理解し、言葉を失って冷や汗を流し、木刀を取り落とす。
「……貴方達ならきっと……大事なもの、見つかる、よ」
「ほら、どうしたのかえっ?」
凪は身長よりも大きな竹竿を巧みに振り回し、兵を追い詰めていく。兵は防戦一方で、先程から凪に対して一度の攻撃も繰り出していない。
「反撃もできぬとは、それでもおのこか!」
「――るかよ」
「うむ?」
凪の挑発に、兵はぼそりと呟く
「子供を殴れるかっつってんだよ!」
一瞬、時間が止まったようだった。
「……そんな理由で戦わぬのかえ?」
「それとな、てめえ着物がはだけてんだよ肌色見えちまってんだよ! 女なら恥じらえよ自分を大切にしろよこの野郎!」
凪は、はあと大きくため息を吐いた。
そしてそのまま、鋭い踏み込みからの全力の一撃を兵に叩き込んだ。しなる竹竿は空気を斬り裂く凶悪な音を残し、兵の肩口に叩きつけられ粉々に砕け散った。
「その程度の覚悟でいくさばに立つ輩に、慈悲などないのじゃ」
凪の言葉は、既に届いていない。強烈な衝撃に、兵は一撃で意識を刈り取られていた。
「全く、見た目で舐められるとは屈辱じゃのぅ。まあ、悪い輩ではないのやもしれぬがな」
眠っていた兵達も意識を取り戻し、訓練場には無数の悲鳴が響き渡っている。主に野太い、新兵達のものだ。
ドライバーは後衛に兵が向かわないよう注意をしながら、順調に兵を叩きのめしていった。
槍の先端で転がる小石を弾き飛ばし威嚇するという戦法は、彼女ならではだ。だからこそ、兵はその攻撃に対応できない。近づけば殴られ、離れれば石が飛んでくる。
「さあ、マナーを体に直接教えてあげましょう!」
逆袈裟に振り上げられる槍の穂先は尽く兵の防御を崩し、鉄の鎧を纏う兵には容赦の無い強打を叩きつける。
回復も必要のない、一方的な展開だった。
後衛と前衛は見事に連携し、新兵にこれが戦いだと教えるに足るお手本のような動きは、次々と兵の戦意を奪っていく。満身創痍の新兵達は、屈辱を胸に、降参の二文字を告げるのだった。
●
そうして戦いが終わってしばらくも、新兵への教育は続いた。Charlotteは練兵場の森を活かして新兵にさらなる戦術を見せつけ、渚は基礎体力こそ命だと言わんばかりに延々と走りこみを続けさせた。走っている途中で文句の一つでも口にすれば、すぐさまお説教タイムだ。リオンは新兵達の態度が少し丸くなったのを感じ、疲れている兵達に優しく緑茶を振舞っている。
静架は、訓練の最後に芋煮会を提案していた。その提案は、面白がったシュタークに直ぐ様承認される。そして日が落ちる頃には、死に体の新兵達に無理やり手伝わせた豪勢な芋煮が完成していた。
「おー、今日はお疲れさん」
シュタークは先程から生の芋をガリガリ齧りながら、ボロボロになった新兵達を面白そうに眺めている。
「……なんで生で食ってるんだ?」
「腹減ったからな。あ、芋煮もちゃんともらうから安心しろよ」
機嫌良さ気に豪快に笑い、シュタークは手当たり次第、近くにある食材をガリガリ齧っていく。生だろうが関係なしだ。
そして新兵達は、芋煮をちびちびと啜ることしかできないほど、全員がぐったりとしている。しかし、それでも彼らは今回、現実を知っただろう。自分達が、今はまだ、大した力を持っていないと。そしていずれ気づくはずだ。力がないからこそ、人は努力をして、強くなっていくのだと。
お前ら頼んで正解だったなと、シュタークが笑う。
きっと遠くない未来、彼らはこの世界を救う一端を担うのだろう。そんな根拠のない予感が、一行の頭をよぎっていた。そして、そうなればいいと思う気持ちに嘘はない。
夜は更ける。いずれ昇る太陽を、待ちわびるかのように。
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Attention! 静架(ka0387) 人間(リアルブルー)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/04 22:14:03 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/03 20:31:26 |