ゲスト
(ka0000)
危険な好奇心
マスター:吉田トムソン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/29 12:00
- 完成日
- 2017/08/07 03:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●山村から少し離れた禿山
「このあたりのはずだぜ」
こんがりと小麦色の肌をした少年が言った。
「これ以上は危ないわ。村からずいぶん離れてるじゃない」
すると、今度はそばかす顔の少女が、少年の腕を掴んで言う。
ここは木々の少ない禿山。このようなところはよそへ行く商人か旅人くらいしか通らない。あるいは何らかの特別な事情があって大人が入るところだ。本来子供が居ていい場所ではない。
ところが、子供というのはままならないものだ。
「興ざめなことを言うなよ。お前だって見たろ。あの大怪鳥!」
少年は目を爛々と輝かせる。
「見たけど……。いやよ。こわいわ」
少女は俯いた。
それを見た少年は苛立ちながらも、少女をその気にさせようとする。
「こわいのはわかる。わかるけど、ここであの大怪鳥を見つけたら俺たちきっとヒーローだぜ」
しかし少女は頷かない。なぜならば、少女は知っているのだ。少年が見た大怪鳥というのは、単にワシにしてはかなり大きいという程度で、大人たちから話に聞いた幻獣というものではないことを。
だからといって、ワシを刺激すれば自分たちを襲うことだってあるし、何より大人たちに叱られる。
「まったく、これだから女はつまらねぇんだよな」
そんな少女の考えを知ってか知らずか、少年は悪態をつくのだった。
「ちょっと、それどういう……」
少女が口を開いたとき、何か巨大なものが羽ばたく音が聞こえた。
音の聞こえた方へ目を向けると、巨大なワシが少年に向かって飛んで来ていることに気付いた。
叫ぼう、少年に危険を知らせよう、そう思っている間に、あっという間に、少年は目の前から消えた。
少女はその場にへたり込み、しばらく動くこともままならなかった。
●禿山のさる洞窟
禿山にある洞窟。細い入り口をずっと進んでいくと、大きな空洞に出る。20メートルの高さにある天井にはぽっかりと穴が空いている。ここが、少年言うところの大怪鳥の巣だろう。
大怪鳥は少年を巣に放り込む。
高所から落とされ、気が遠のきそうになるが、少年はよろめきながらも立ち上がった。すかさず少年は近くの岩の裂け目に逃げ込む。
それを見た大怪鳥は、なんとか少年を捕えようと裂け目にくちばしを差し込む。それでも少年には届かない。
「ど、どうしろってんだよ……」
少年は途方に暮れて泣いていた。
逃げようにも逃げられない状況。それに狭い裂け目では身動きもろくに取れない。少年は心理的にも追い込まれていく。
●ハンターオフィス
ハンターオフィスに1つの依頼が舞い込んだ。
依頼者はさる山村に住む男性からだ。
どうやら山村から程ない禿山に、巨大なワシが現れ、依頼者の息子がさらわれてしまったらしい。
依頼者は気付いていないが、体長は通常のワシよりもかなり大きいとのことから、雑魔化したワシである可能性が高い。
雑魔の牙が人々を襲う。そこにまた負の感情が生まれかねない。
勇敢なるハンターが、人々を救い、負の感情を払うことを願う。
「このあたりのはずだぜ」
こんがりと小麦色の肌をした少年が言った。
「これ以上は危ないわ。村からずいぶん離れてるじゃない」
すると、今度はそばかす顔の少女が、少年の腕を掴んで言う。
ここは木々の少ない禿山。このようなところはよそへ行く商人か旅人くらいしか通らない。あるいは何らかの特別な事情があって大人が入るところだ。本来子供が居ていい場所ではない。
ところが、子供というのはままならないものだ。
「興ざめなことを言うなよ。お前だって見たろ。あの大怪鳥!」
少年は目を爛々と輝かせる。
「見たけど……。いやよ。こわいわ」
少女は俯いた。
それを見た少年は苛立ちながらも、少女をその気にさせようとする。
「こわいのはわかる。わかるけど、ここであの大怪鳥を見つけたら俺たちきっとヒーローだぜ」
しかし少女は頷かない。なぜならば、少女は知っているのだ。少年が見た大怪鳥というのは、単にワシにしてはかなり大きいという程度で、大人たちから話に聞いた幻獣というものではないことを。
だからといって、ワシを刺激すれば自分たちを襲うことだってあるし、何より大人たちに叱られる。
「まったく、これだから女はつまらねぇんだよな」
そんな少女の考えを知ってか知らずか、少年は悪態をつくのだった。
「ちょっと、それどういう……」
少女が口を開いたとき、何か巨大なものが羽ばたく音が聞こえた。
音の聞こえた方へ目を向けると、巨大なワシが少年に向かって飛んで来ていることに気付いた。
叫ぼう、少年に危険を知らせよう、そう思っている間に、あっという間に、少年は目の前から消えた。
少女はその場にへたり込み、しばらく動くこともままならなかった。
●禿山のさる洞窟
禿山にある洞窟。細い入り口をずっと進んでいくと、大きな空洞に出る。20メートルの高さにある天井にはぽっかりと穴が空いている。ここが、少年言うところの大怪鳥の巣だろう。
大怪鳥は少年を巣に放り込む。
高所から落とされ、気が遠のきそうになるが、少年はよろめきながらも立ち上がった。すかさず少年は近くの岩の裂け目に逃げ込む。
それを見た大怪鳥は、なんとか少年を捕えようと裂け目にくちばしを差し込む。それでも少年には届かない。
「ど、どうしろってんだよ……」
少年は途方に暮れて泣いていた。
逃げようにも逃げられない状況。それに狭い裂け目では身動きもろくに取れない。少年は心理的にも追い込まれていく。
●ハンターオフィス
ハンターオフィスに1つの依頼が舞い込んだ。
依頼者はさる山村に住む男性からだ。
どうやら山村から程ない禿山に、巨大なワシが現れ、依頼者の息子がさらわれてしまったらしい。
依頼者は気付いていないが、体長は通常のワシよりもかなり大きいとのことから、雑魔化したワシである可能性が高い。
雑魔の牙が人々を襲う。そこにまた負の感情が生まれかねない。
勇敢なるハンターが、人々を救い、負の感情を払うことを願う。
リプレイ本文
●村の寄り合い所
「チビさんのお名前教えてくださいナ? 一緒に遊んでたお友達も」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は依頼者の男に尋ねた。パトリシアにとって、これは重要なことだった。『友達100人』ミッションは未だに継続中だし、何より、誰かを笑顔にできたり、その笑顔を守れたりということが嬉しいからだ。
それには、まず部屋の隅で膝を抱えている少女と、今もどこかで恐怖に怯えているかもしれない少年の名前を聞くことから始めた。
「私が作ったお菓子なの。召し上がれ」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は可愛くラッピングされた小袋を少女に渡した。
「辛いときはお菓子を食べるといいわよ」
少女が小袋を開けると、なかにはクッキーが入っていた。おもむろにひとつを取り出して口に入れる。口の中に甘みが広がる。噛むごとにさらに甘みが増して、気付いたときには、少女はクッキーを食べることに夢中になっていた。
「だいじょぶ……っテ今は未だ言えないケド、パティ達ハ頑張るから。お友達がブジでいるよーに、お祈りしてテ?」
少女が顔をあげると、そこには笑みを浮かべるパトリシアとエーミがいた。
ハンターたちが出て行った扉を、少女はいつまでも見つめていた。
●風
冬樹 文太(ka0124)とセレス・フュラー(ka6276)は先行して巨大ワシの雑魔の巣へと向かっていた。
「……そろそろ奴さんの巣や、気ぃ付けてな」
「そうだね。普段誰も出入りしないようなところに巣があるはずだ。エーミ君からの情報も考慮すれば、このあたりのはずだね」
すると、文太が自分の人差し指を舐め、空にかざした。風を読んでいるのだ。
セレスには、文太の行動が何を意味するかをひと目で理解できた。
文太は既にどれくらい歩けば巣に達するか、予想できている。相手が雑魔とはいえ、嗅覚に鋭敏な可能性がある。自分と文太だけという状況で会敵するのは避けた方がいい。風を読むということは、雑魔になるべく気付かれないように風下へ移動するための行動だ。これは巣までの距離を計算できているからこそ、できる芸当だ。
「風……」
そうしている文太を見て、セレスは以前シルフと交戦したことを思い出した。あれからセレスは風になりたいと思うようになった。銀色の髪が風になびく。風は見ることができない。しかし吹けば、自分の白い肌が風を感じる。
「ほら、セレス、こっちや」
それからセレスが何を考えたかわからない。文太の声に気付いたセレスは、彼を追っていった。
●コロラの故郷
洞窟のなかの細道を歩きながら、コロラ・トゥーラ(ka5954)はふと久しぶりに故郷へ帰ってみるのもいいだろうと考えていた。コロラは辺境の山岳の住むトゥーラという少数部族生まれだ。ここまでの禿山の光景を見て故郷を思い出したのだろう。とはいえ、トゥーラの故郷は寒冷地だから、この場とはまた違う風景になるのだが。
このようなことを考えていると先頭を歩いていたマッシュ・アクラシス(ka0771)が足を止めた。
(っと、その前にこのお仕事はしっかりと終わらせていかないとね)
コロラは我に返り、気を締め直す。
雪のように白い肌や、ハンターとしての技術、そして覚醒したときに現れるあの狼。コロラはまさに故郷やトゥーラという部族そのものを象徴しているともいえよう。トゥーラは狩猟部族、ワシ狩りもコロラの得意な領域に違いない。
コロラはすぐさま弓を取り出し、なるべく天井の大穴から離れた場所へ移動する。そして矢を二本つがえておいた。
弓での狩猟の基本として、適当な位置取りというのが重要になる。離れすぎると獲物を射る難易度は上がるし、近すぎるとむしろ弓でない方がいいばかりか、気取られて逃げられてしまうこともある。
しかしあくまでも基本だ。コロラの射撃の腕ならば、むしろなるべく離れていた方がいい。獲物がどこへ逃げても広い射程範囲でもって射抜くことができるからだ。
今回の獲物は見るからに大きい。ワシとしてはあり得ない大きさだ。これならば獲物がどこへ行っても体の部位を狙って射ることもできるだろう。
ここまでの計算を何秒と立たないうちにやってのけて、コロラは初撃の機会を探る。
●全ては計算の内
マッシュは足を止めて天井に空いた大穴を見上げると、既に到着していた文太とセレスがいることに気付いた。そして、コロラが射撃位置についたことを確認する。
後は目の前で自分たちに気付いていない巨大ワシに攻撃する機会を伺うだけだ――が、
「た、たすけてぇ!!」
子供の叫び声。
すると、巨大ワシは岩の裂け目を見て、鳴き声をあげた。
「おや……意外に生きているのですねえ」
すかさずLEDライトを巨大ワシの目に向け、注意をこちらに向け、体内のマテリアルを燃やす。マッシュは炎のようなオーラを纏い、巨大ワシに向かって駆け出す。
巨大ワシにとって、この炎はどうやら見逃せないものらしい。しきりにマッシュを威嚇する。
しかし、マッシュの表情は冷静沈着だ。
今回依頼を受けたメンバーを考えれば、攻撃を引き受けつつ巨大ワシの動きを封じることで、他のメンバーの狙撃や魔法、さらには少年の救出を補助することが、討伐の要となる。
全てはマッシュの算段通りだったのだ。
●間隙を埋めろ!
巨大ワシが威嚇をやめて、駆けてくるマッシュを狙い定めるように見つめ始めた。
これを敏感に察したのはエーミだった。すばやくエア・スティーラーを構え、撃つ。
風の精霊の力をまとった弾丸は当たらず、巨大ワシの顔をかすめた。
巨大ワシは驚いたように翼をバタつかせる。
「……ん、良かったヨー。ちゃんとソコに居るヨ〜。お迎え行くからネー! もちょっとダケ、待っててネっ」
パトリシアの声が聞こえた。
マッシュが巨大ワシに接近し、パトリシアが子供を発見して戦闘態勢を取るまでの時間稼ぎをする牽制は、どうやら成功したようだ。
「エーミ・エーテルクラフトの魔法を、あなたに教えてあげるわ」
●守りの構え
マッシュは構える。巨大ワシは他のメンバーに気付いたようだが、もう遅い。
この構えをとったからには、巨大ワシの自由にはさせない。
現に、巨大ワシはエーミの方へと向かおうとしているが、下手に動くことができないのだ。強引に動こうとするも、マッシュが武器を大きく振り回して強撃をしてくる。一度は避けられたものの、巨大ワシにとってこの状況はあまり良くない。
巨大ワシは風の魔法で離れた相手を攻撃することもできれば、すばやく相手へ接近してくちばしや爪でもって攻撃することもできる。本来ならば、ひ弱そうな相手を選ぶこともできるし、強靭そうな相手からは容易に離れることができるはずだった。それがこの状況だと相手を選ぶこともできないし、相手から離れることもできない。巨大ワシからすれば、マッシュは最も厄介な相手だった。
しかし、それだけでは終わらない。
巨大ワシはマッシュを爪で引き裂こうとする。これをマッシュは避けた。
ここまでは巨大ワシの算段通りだ。すかさずマッシュが飛び退いた先にくちばしを突き刺した。
これが巨大ワシのお得意の攻撃だ。
――が、マッシュは身をよじってすんでの所で攻撃をかわした。
守りの構え、攻撃を捨て、守り、相手をその場に固めてしまうことに特化した構えだ。
これにより、普通では考えられないほどに守りが堅くなる。
巨大ワシは本能的に、自らが追い込まれつつあることに気付いた。
●狩猟部族トゥーラ
狩りにおいて、最初の一撃は重要だ。その一瞬を逃せば、獲物は予想外の行動をして、こちらはその対応をせざるを得ない。しかし、その対応が成功することはあまりない。
コロラは自らの瞳にマテリアルを集中させる。視界がさらに鮮明になる。空気中の塵、マッシュと巨大ワシの攻防のひとつひとつ、巨大ワシの筋肉の躍動、全てが視えるかと思えるほどだ。
弓を引き絞る。狙う先は翼の付け根の部分。これが今回の狩りの初撃だ。
マッシュが足止めをしているからか、普段よりも狙いやすい。
渾身の力で、二本の矢を放つ。
一本は翼をバタつきに阻まれて外れたが、もう一本は見事に翼の付け根を突き刺さった。
「やっぱり、私は銃より弓のほうが使いやすいわ」
巨大ワシが悲鳴のような声をあげる。初撃は成功した。
この初撃は巨大ワシが逃亡をはかったり、あるいは飛行してアドバンテージを取ったりするのを阻止するためのものだ。のみならず、巨大ワシ自体の動きを一瞬でも鈍らせることもでき、何よりマッシュが今よりも自由に動くことができる。
狩猟部族だった経験と、部族のなかで最も腕のたつコロラの素質によって導き出された最適な行動だった。
●全ては支援行動
巨大ワシは頭を振り回している。パトリシアが桜吹雪の幻影を視させているからだ。
「エーミ、今だヨ!」
「わかっているわ。アイスボルト!」
エーミはパトリシアの声に合わせて氷の矢弾を放つ。氷の矢弾は当たらず巨大ワシの足元に突き刺さる。――が、これで良いのだ。巨大ワシは体勢を崩して、後ずさりをする。
「いくヨ! 五色光符陣!」
パトリシアが何枚かの符を投げると、符は巨大ワシを囲んで結界を作った。結界ができたかと思うと、結界の内部が次第に光り始め、巨大ワシを焼く。
エーミのアイスボルトはこれを狙ってのことだった。
五色光符陣は巨大ワシを焼いてダメージを与えるだけではない。焼かれた相手は思うように動くことができなくなるのだ。
パトリシアの五色光符陣を巨大ワシに当てることは、今回の戦いでは重要な意味がある。追い込みつつある状況のまま戦闘が膠着することは、存外多い。素早い敵の場合は、とくに膠着しやすいのだ。ここは、相手の動きを阻害して膠着状態になる可能性を少しでも減らしたい。
だからこそ、エーミはアイスボルトをあえて当てず、足元に放ったのだ。桜吹雪の幻影を視た巨大ワシがさらに暴れて、五色光符陣を避ける可能性は十分にある。現に非常に混乱した様子でもあった。
果たしてエーミの動きをどれだけの者が理解できるだろうか。戦闘開始時点では牽制攻撃を行い、ここではアイスボルトを放った。そのどちらも外している。
しかし、これらは全て戦闘中に生じる間隙を埋め、他のメンバーの動きを成立させるための支援行動だったのだ。
●寡黙な猟撃士
巨大ワシは、巣の上部に文太たちがいることに全く気付かないようだった。
洞窟内部の状況は良好なようで、順調に巨大ワシを追い詰めている。
(ま、俺が仕事せんで済むくらいが丁度えぇんちゃうかな)
作戦開始前、文太はそう考えていた。実のところこれはもっともな考えだ。それというのも、今回の文太の役割は相手を妨害する役割だ。妨害する役割がいらないということは、それだけ容易に討伐できる相手ということだ。
とはいえ、実際のところ、そんなことは言っていられない。五色光符陣によって確かに巨大ワシの行動は阻害されているが、こちらは巨大ワシの全てを知っているわけではない。一方的な戦闘であっても、イタチの最後っ屁が甚大な被害を及ぼすこともある。戦闘時間を少しでも短縮して、相手の手数を減らすことができれば、それに越したことはない。
極限にまで集中した文太は寡黙になり、狙いを定める。ターゲットの動きを見て、トリガーを引く。
銃声が響いた。
弾丸は冷気を帯びて回転しながら突き進み、巨大ワシの体を貫く。
レイターコールドショット。この一発の弾丸が戦いを終局へと導いた。
●トドメは不意の一撃!
セレスは戦闘開始時点から、洞窟の壁に張り付いて機会を伺っていた。巨大ワシは自分に気がついていない。ならば、これを活かさない手はない。
自分が与える一撃が重要だということを、セレスは理解していた。何かがない限り、不意の一撃というのは、やはり強い。相手が避けることに意識が集中しないのだ。したがって決定的な一撃となることもある。
洞窟の壁面は思うよりも脆そうで、ともすれば崩れて巨大ワシに気付かれかねない。だから、この一撃を与えるためには、重力から解き放たれた今も、慎重に足を置く場所を選ばなければならない。
じりじりと壁を進み、ついには巨大ワシの直上に到達した。
あとは機会を伺い、攻撃するのみとなったそのとき――銃声が響く。文太だ。
巨大ワシが天を仰いで悲鳴を上げる。
目が合った。
「ここだ」
セレスは『コウモリ』を放つ。
巨大ワシが目を見開く。
「気付いたときにはもう遅いんだよね」
『コウモリ』が巨大ワシの首を切り裂いた。
巨大ワシが倒れ、粉塵が舞う。
不意の一撃はとどめの一撃ともなったようだ。
●子供たちのヒーロー
巨大ワシが次第に塵となっていくところを見ると、やはり雑魔だったことがわかる。
それを尻目に、パトリシアが大穴を見上げると、文太とセレスがこちらを見ていた。
文太は作戦完了の合図をしたあと、何やら引っ叩くジェスチャーをして、去っていく。セレスは何やら口を動かしていた。
「ま……かせ……た……わヨ?」
パトリシアにはそう読み取れた。つまり少年を叱っておけということだろう。文太もさることながら、セレスも随分と大人に見えた。パトリシアはまだ大人になりきることのできない年頃だ。しかし、セレスとは年もそれほど離れていない。パトリシアが何を感じ、考えたか。それは彼女に聞かなければわからないだろう。
セレス・フュラー。彼女はもしかするとパトリシアとは別のヒーローなのかもしれない。
パトリシアがそうしていると、背後から大きな泣き声が聞こえた。
振り返ると少年がいた。
「お待たせネ、怖かったネ、もう大丈夫ヨー」
と抱きしめ、
「こーきしんハだいじ。ワクワクはパティも大好き。デモ、怖い気持ちもダイジ。次に冒険する時ハ、村で待ってるお友達のコトバもちゃんと聞くのよ?」
そう言い聞かせた。
「ごめんなさい」
少年はしゃくりあげながらも、そう言った。
●大成功
村に戻り、寄り合い所の扉を開けると、少年を見た依頼者は涙を流しながら感謝を述べた。
「いえ、そもそもアレの討伐が主目的でもありますので」
マッシュが何やら謙遜を述べる。とはいえ、報酬の追加を期待していたのは事実だった。
「いえ、報酬を上乗せさせて戴きます。これくらいしか私にはできませんから」
依頼者はそう言って、
「ほら、お前たちも感謝なさい」
少年と少女にそう促した。――が、お互いの再会を喜んでいてそれどころではないようだった。
ハンターたちが去ったあと、少年と少女は、将来自分たちもハンターになって直接礼を述べるのだ、と夢を語った。
勇敢なるハンターたちが、負の感情を払い、人々を救った。しかし、これからも歪虚との戦いは続く。
「チビさんのお名前教えてくださいナ? 一緒に遊んでたお友達も」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は依頼者の男に尋ねた。パトリシアにとって、これは重要なことだった。『友達100人』ミッションは未だに継続中だし、何より、誰かを笑顔にできたり、その笑顔を守れたりということが嬉しいからだ。
それには、まず部屋の隅で膝を抱えている少女と、今もどこかで恐怖に怯えているかもしれない少年の名前を聞くことから始めた。
「私が作ったお菓子なの。召し上がれ」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)は可愛くラッピングされた小袋を少女に渡した。
「辛いときはお菓子を食べるといいわよ」
少女が小袋を開けると、なかにはクッキーが入っていた。おもむろにひとつを取り出して口に入れる。口の中に甘みが広がる。噛むごとにさらに甘みが増して、気付いたときには、少女はクッキーを食べることに夢中になっていた。
「だいじょぶ……っテ今は未だ言えないケド、パティ達ハ頑張るから。お友達がブジでいるよーに、お祈りしてテ?」
少女が顔をあげると、そこには笑みを浮かべるパトリシアとエーミがいた。
ハンターたちが出て行った扉を、少女はいつまでも見つめていた。
●風
冬樹 文太(ka0124)とセレス・フュラー(ka6276)は先行して巨大ワシの雑魔の巣へと向かっていた。
「……そろそろ奴さんの巣や、気ぃ付けてな」
「そうだね。普段誰も出入りしないようなところに巣があるはずだ。エーミ君からの情報も考慮すれば、このあたりのはずだね」
すると、文太が自分の人差し指を舐め、空にかざした。風を読んでいるのだ。
セレスには、文太の行動が何を意味するかをひと目で理解できた。
文太は既にどれくらい歩けば巣に達するか、予想できている。相手が雑魔とはいえ、嗅覚に鋭敏な可能性がある。自分と文太だけという状況で会敵するのは避けた方がいい。風を読むということは、雑魔になるべく気付かれないように風下へ移動するための行動だ。これは巣までの距離を計算できているからこそ、できる芸当だ。
「風……」
そうしている文太を見て、セレスは以前シルフと交戦したことを思い出した。あれからセレスは風になりたいと思うようになった。銀色の髪が風になびく。風は見ることができない。しかし吹けば、自分の白い肌が風を感じる。
「ほら、セレス、こっちや」
それからセレスが何を考えたかわからない。文太の声に気付いたセレスは、彼を追っていった。
●コロラの故郷
洞窟のなかの細道を歩きながら、コロラ・トゥーラ(ka5954)はふと久しぶりに故郷へ帰ってみるのもいいだろうと考えていた。コロラは辺境の山岳の住むトゥーラという少数部族生まれだ。ここまでの禿山の光景を見て故郷を思い出したのだろう。とはいえ、トゥーラの故郷は寒冷地だから、この場とはまた違う風景になるのだが。
このようなことを考えていると先頭を歩いていたマッシュ・アクラシス(ka0771)が足を止めた。
(っと、その前にこのお仕事はしっかりと終わらせていかないとね)
コロラは我に返り、気を締め直す。
雪のように白い肌や、ハンターとしての技術、そして覚醒したときに現れるあの狼。コロラはまさに故郷やトゥーラという部族そのものを象徴しているともいえよう。トゥーラは狩猟部族、ワシ狩りもコロラの得意な領域に違いない。
コロラはすぐさま弓を取り出し、なるべく天井の大穴から離れた場所へ移動する。そして矢を二本つがえておいた。
弓での狩猟の基本として、適当な位置取りというのが重要になる。離れすぎると獲物を射る難易度は上がるし、近すぎるとむしろ弓でない方がいいばかりか、気取られて逃げられてしまうこともある。
しかしあくまでも基本だ。コロラの射撃の腕ならば、むしろなるべく離れていた方がいい。獲物がどこへ逃げても広い射程範囲でもって射抜くことができるからだ。
今回の獲物は見るからに大きい。ワシとしてはあり得ない大きさだ。これならば獲物がどこへ行っても体の部位を狙って射ることもできるだろう。
ここまでの計算を何秒と立たないうちにやってのけて、コロラは初撃の機会を探る。
●全ては計算の内
マッシュは足を止めて天井に空いた大穴を見上げると、既に到着していた文太とセレスがいることに気付いた。そして、コロラが射撃位置についたことを確認する。
後は目の前で自分たちに気付いていない巨大ワシに攻撃する機会を伺うだけだ――が、
「た、たすけてぇ!!」
子供の叫び声。
すると、巨大ワシは岩の裂け目を見て、鳴き声をあげた。
「おや……意外に生きているのですねえ」
すかさずLEDライトを巨大ワシの目に向け、注意をこちらに向け、体内のマテリアルを燃やす。マッシュは炎のようなオーラを纏い、巨大ワシに向かって駆け出す。
巨大ワシにとって、この炎はどうやら見逃せないものらしい。しきりにマッシュを威嚇する。
しかし、マッシュの表情は冷静沈着だ。
今回依頼を受けたメンバーを考えれば、攻撃を引き受けつつ巨大ワシの動きを封じることで、他のメンバーの狙撃や魔法、さらには少年の救出を補助することが、討伐の要となる。
全てはマッシュの算段通りだったのだ。
●間隙を埋めろ!
巨大ワシが威嚇をやめて、駆けてくるマッシュを狙い定めるように見つめ始めた。
これを敏感に察したのはエーミだった。すばやくエア・スティーラーを構え、撃つ。
風の精霊の力をまとった弾丸は当たらず、巨大ワシの顔をかすめた。
巨大ワシは驚いたように翼をバタつかせる。
「……ん、良かったヨー。ちゃんとソコに居るヨ〜。お迎え行くからネー! もちょっとダケ、待っててネっ」
パトリシアの声が聞こえた。
マッシュが巨大ワシに接近し、パトリシアが子供を発見して戦闘態勢を取るまでの時間稼ぎをする牽制は、どうやら成功したようだ。
「エーミ・エーテルクラフトの魔法を、あなたに教えてあげるわ」
●守りの構え
マッシュは構える。巨大ワシは他のメンバーに気付いたようだが、もう遅い。
この構えをとったからには、巨大ワシの自由にはさせない。
現に、巨大ワシはエーミの方へと向かおうとしているが、下手に動くことができないのだ。強引に動こうとするも、マッシュが武器を大きく振り回して強撃をしてくる。一度は避けられたものの、巨大ワシにとってこの状況はあまり良くない。
巨大ワシは風の魔法で離れた相手を攻撃することもできれば、すばやく相手へ接近してくちばしや爪でもって攻撃することもできる。本来ならば、ひ弱そうな相手を選ぶこともできるし、強靭そうな相手からは容易に離れることができるはずだった。それがこの状況だと相手を選ぶこともできないし、相手から離れることもできない。巨大ワシからすれば、マッシュは最も厄介な相手だった。
しかし、それだけでは終わらない。
巨大ワシはマッシュを爪で引き裂こうとする。これをマッシュは避けた。
ここまでは巨大ワシの算段通りだ。すかさずマッシュが飛び退いた先にくちばしを突き刺した。
これが巨大ワシのお得意の攻撃だ。
――が、マッシュは身をよじってすんでの所で攻撃をかわした。
守りの構え、攻撃を捨て、守り、相手をその場に固めてしまうことに特化した構えだ。
これにより、普通では考えられないほどに守りが堅くなる。
巨大ワシは本能的に、自らが追い込まれつつあることに気付いた。
●狩猟部族トゥーラ
狩りにおいて、最初の一撃は重要だ。その一瞬を逃せば、獲物は予想外の行動をして、こちらはその対応をせざるを得ない。しかし、その対応が成功することはあまりない。
コロラは自らの瞳にマテリアルを集中させる。視界がさらに鮮明になる。空気中の塵、マッシュと巨大ワシの攻防のひとつひとつ、巨大ワシの筋肉の躍動、全てが視えるかと思えるほどだ。
弓を引き絞る。狙う先は翼の付け根の部分。これが今回の狩りの初撃だ。
マッシュが足止めをしているからか、普段よりも狙いやすい。
渾身の力で、二本の矢を放つ。
一本は翼をバタつきに阻まれて外れたが、もう一本は見事に翼の付け根を突き刺さった。
「やっぱり、私は銃より弓のほうが使いやすいわ」
巨大ワシが悲鳴のような声をあげる。初撃は成功した。
この初撃は巨大ワシが逃亡をはかったり、あるいは飛行してアドバンテージを取ったりするのを阻止するためのものだ。のみならず、巨大ワシ自体の動きを一瞬でも鈍らせることもでき、何よりマッシュが今よりも自由に動くことができる。
狩猟部族だった経験と、部族のなかで最も腕のたつコロラの素質によって導き出された最適な行動だった。
●全ては支援行動
巨大ワシは頭を振り回している。パトリシアが桜吹雪の幻影を視させているからだ。
「エーミ、今だヨ!」
「わかっているわ。アイスボルト!」
エーミはパトリシアの声に合わせて氷の矢弾を放つ。氷の矢弾は当たらず巨大ワシの足元に突き刺さる。――が、これで良いのだ。巨大ワシは体勢を崩して、後ずさりをする。
「いくヨ! 五色光符陣!」
パトリシアが何枚かの符を投げると、符は巨大ワシを囲んで結界を作った。結界ができたかと思うと、結界の内部が次第に光り始め、巨大ワシを焼く。
エーミのアイスボルトはこれを狙ってのことだった。
五色光符陣は巨大ワシを焼いてダメージを与えるだけではない。焼かれた相手は思うように動くことができなくなるのだ。
パトリシアの五色光符陣を巨大ワシに当てることは、今回の戦いでは重要な意味がある。追い込みつつある状況のまま戦闘が膠着することは、存外多い。素早い敵の場合は、とくに膠着しやすいのだ。ここは、相手の動きを阻害して膠着状態になる可能性を少しでも減らしたい。
だからこそ、エーミはアイスボルトをあえて当てず、足元に放ったのだ。桜吹雪の幻影を視た巨大ワシがさらに暴れて、五色光符陣を避ける可能性は十分にある。現に非常に混乱した様子でもあった。
果たしてエーミの動きをどれだけの者が理解できるだろうか。戦闘開始時点では牽制攻撃を行い、ここではアイスボルトを放った。そのどちらも外している。
しかし、これらは全て戦闘中に生じる間隙を埋め、他のメンバーの動きを成立させるための支援行動だったのだ。
●寡黙な猟撃士
巨大ワシは、巣の上部に文太たちがいることに全く気付かないようだった。
洞窟内部の状況は良好なようで、順調に巨大ワシを追い詰めている。
(ま、俺が仕事せんで済むくらいが丁度えぇんちゃうかな)
作戦開始前、文太はそう考えていた。実のところこれはもっともな考えだ。それというのも、今回の文太の役割は相手を妨害する役割だ。妨害する役割がいらないということは、それだけ容易に討伐できる相手ということだ。
とはいえ、実際のところ、そんなことは言っていられない。五色光符陣によって確かに巨大ワシの行動は阻害されているが、こちらは巨大ワシの全てを知っているわけではない。一方的な戦闘であっても、イタチの最後っ屁が甚大な被害を及ぼすこともある。戦闘時間を少しでも短縮して、相手の手数を減らすことができれば、それに越したことはない。
極限にまで集中した文太は寡黙になり、狙いを定める。ターゲットの動きを見て、トリガーを引く。
銃声が響いた。
弾丸は冷気を帯びて回転しながら突き進み、巨大ワシの体を貫く。
レイターコールドショット。この一発の弾丸が戦いを終局へと導いた。
●トドメは不意の一撃!
セレスは戦闘開始時点から、洞窟の壁に張り付いて機会を伺っていた。巨大ワシは自分に気がついていない。ならば、これを活かさない手はない。
自分が与える一撃が重要だということを、セレスは理解していた。何かがない限り、不意の一撃というのは、やはり強い。相手が避けることに意識が集中しないのだ。したがって決定的な一撃となることもある。
洞窟の壁面は思うよりも脆そうで、ともすれば崩れて巨大ワシに気付かれかねない。だから、この一撃を与えるためには、重力から解き放たれた今も、慎重に足を置く場所を選ばなければならない。
じりじりと壁を進み、ついには巨大ワシの直上に到達した。
あとは機会を伺い、攻撃するのみとなったそのとき――銃声が響く。文太だ。
巨大ワシが天を仰いで悲鳴を上げる。
目が合った。
「ここだ」
セレスは『コウモリ』を放つ。
巨大ワシが目を見開く。
「気付いたときにはもう遅いんだよね」
『コウモリ』が巨大ワシの首を切り裂いた。
巨大ワシが倒れ、粉塵が舞う。
不意の一撃はとどめの一撃ともなったようだ。
●子供たちのヒーロー
巨大ワシが次第に塵となっていくところを見ると、やはり雑魔だったことがわかる。
それを尻目に、パトリシアが大穴を見上げると、文太とセレスがこちらを見ていた。
文太は作戦完了の合図をしたあと、何やら引っ叩くジェスチャーをして、去っていく。セレスは何やら口を動かしていた。
「ま……かせ……た……わヨ?」
パトリシアにはそう読み取れた。つまり少年を叱っておけということだろう。文太もさることながら、セレスも随分と大人に見えた。パトリシアはまだ大人になりきることのできない年頃だ。しかし、セレスとは年もそれほど離れていない。パトリシアが何を感じ、考えたか。それは彼女に聞かなければわからないだろう。
セレス・フュラー。彼女はもしかするとパトリシアとは別のヒーローなのかもしれない。
パトリシアがそうしていると、背後から大きな泣き声が聞こえた。
振り返ると少年がいた。
「お待たせネ、怖かったネ、もう大丈夫ヨー」
と抱きしめ、
「こーきしんハだいじ。ワクワクはパティも大好き。デモ、怖い気持ちもダイジ。次に冒険する時ハ、村で待ってるお友達のコトバもちゃんと聞くのよ?」
そう言い聞かせた。
「ごめんなさい」
少年はしゃくりあげながらも、そう言った。
●大成功
村に戻り、寄り合い所の扉を開けると、少年を見た依頼者は涙を流しながら感謝を述べた。
「いえ、そもそもアレの討伐が主目的でもありますので」
マッシュが何やら謙遜を述べる。とはいえ、報酬の追加を期待していたのは事実だった。
「いえ、報酬を上乗せさせて戴きます。これくらいしか私にはできませんから」
依頼者はそう言って、
「ほら、お前たちも感謝なさい」
少年と少女にそう促した。――が、お互いの再会を喜んでいてそれどころではないようだった。
ハンターたちが去ったあと、少年と少女は、将来自分たちもハンターになって直接礼を述べるのだ、と夢を語った。
勇敢なるハンターたちが、負の感情を払い、人々を救った。しかし、これからも歪虚との戦いは続く。
依頼結果
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/24 21:08:07 |
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相談卓 通りすがりのSさん(ka6276) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/07/28 21:27:19 |