• 界冥

【界盟】CAM嫌いの男

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/08/01 07:30
完成日
2017/08/02 19:10

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 俺は――CAMが嫌いだ。
 何が嫌いか? それは、俺の栄光を奈落に突き落としたからだ。

 自分で言うのも何だが、あの頃の俺は輝いていた。
 砲術班から出発した俺は、腕を見込まれて戦車隊へ転進。
 ゆりかごの代わりに鉄の棺桶で揺られ続けはしたが、戦果は他を圧倒。
 俺はあっという間に英雄視された。

 ――サンライズ。
 飛ぶ鳥を落とす勢いだった俺は、皆からそう呼ばれていた。
 
 だが、悪夢は一瞬にして訪れた。
 上官の推薦で、CAMの適性試験を受ける事になった。
 俺は、意気揚々と会場へ向かった。
 周囲からの期待も分かっていたし、今まで以上の戦果を上げなければと気合いを入れていた。

 しかし、結果は不適正。
 俺はCAMパイロットになる事ができなかった。

 それからだった。
 周囲の目が徐々に冷たくなっていったのは。
 後輩にも追い抜かれた挙げ句、戦場の花形はCAMへと変わっていった。
 時代遅れの戦車で地面に這いつくばって戦うしかない俺を、後輩達は最新鋭のCAMに乗って上から見下した。

 この気分が、お前に分かるか?
 惨めを通り越して自分が哀れに思えてくる。

 気付けば俺は前線を退き、士官学校の教官になっていた。
 だが。そこで育てた士官も、いずれCAMパイロットになって俺を見下す――そう考える自分が嫌になった。
 結果、士官学校にも行かなくなり酒場で、俺は毎日飲んだくれる日々だった。
 
 サンライズ?
 いや、あの頃の俺はサンセットだ。
 沈んでいく事しかできない情けなく哀れな――太陽だ。

 しかし、それもこの間までの話だ。
 何処かで俺の話を聞きつけたのか、統一連合宙軍のお偉いさんが俺を呼び出した。

 聞けば、強化人間(スペリオル)にならないかという打診だ。
 何でも、それになれば超人的な力を手に入れられるらしい。
 
 俺は、即答でその話を受けた。
 怪しさを感じた事は認めるが、それ以上に俺は俺を見下した奴らを見返したかった。

 CAMパイロットの連中に、俺の評価を変えさせたかった――。


「中尉、本当によろしいのですか?」
 炎天下の中、統一連合宙軍の整備員はジェイミー・ドリスキル(kz0231)へ再度聞き直した。
 新型試作CAMの運搬を行っていたが、横浜駅東口でトラブルが発生。
 大型トレイラーで牽引していたのだが、新型試作CAMはここで立ち往生となってしまったのだ。
 このままでは本牧ふ頭で待たせている運搬船の出航に間に合わない。
 鎌倉クラスタ攻略で実地試験を行うスケジュールにも影響は免れないだろう。
「だから言ってるだろう。俺とヨルズで本牧ふ頭まで行く」
「ですが! 先程この先で狂気が目撃されています。危険過ぎます」
 整備員が気にしているのは、車両が足止めになったトラブル――野毛界隈に出没した中型狂気の事だ。
 みなとみらい地域に眠っていたと思われる中型狂気数体が、桜木町を通って野毛界隈出現。この為、周囲は封鎖。近隣住民も避難する騒ぎとなっている。
 この状況をドリスキルは新型試作CAM『ヨルズ』で乗り越えようとしている。
「心配するな。それに会敵なら実戦データも取り放題だ」
「正気ですか!? この新型の試作CAMは……」
「……おいっ」
 整備員の言葉をドリスキルが遮った。
 明らかにドリスキルの言葉には怒気が孕んでいる。
「こいつはCAMじゃねぇ。ヨルズだ。あんなのと一緒にするんじゃねえよ」
「……すいません」
「ふん。とにかく、俺は行く。本牧ふ頭の連中を待たせる訳にはいかねぇからな」
 踵を返して歩み出すドリスキル。
 その背後を追いすがるように、整備員は背中へお声をかけた。
「中尉、せめてハンターに護衛を依頼させて下さい。ヨルズが傷付けば鎌倉クラスタでの実地訓練に支障が出ます!」

リプレイ本文

「こんにちは、ドリスキル中尉。今日はよろし……く?」
 マリィア・バルデス(ka5848)が差し出した右手を、ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉はあっさりと無視する。

 宙を漂う右手。
 マリィアは強い違和感を抱く。

 軽く振り返るドリスキル。
 そこには、強い信念を感じさせる男の顔があった。
「CAMのパイロットとは馴れ合いはしねぇ。それが、俺の流儀だ」


 話は少しばかり遡る。
 横浜駅東口から本牧ふ頭まで新型CAMを護送する任務についたハンター達。
 しかし、当の新型CAMのパイロットであるドリスキルはハンターを前に驚嘆していた。

「マジかよ。士官学校の新兵ぐらいの奴もいるじゃねぇか」
 ハンターを前にドリスキルは呆気に取られる。
 その様子に鵤(ka3319)は思わず口を挟んだ。鵤とドリスキルは10歳程離れてはいるが、おじさんというジャンルでは同じだ。
 しかし、ハンターの中にはもっと若い者もいる。鵤が引っかかったのはその部分だ。
「ほーん。なかなか面白い事を言うねぇ。おじさんはいいが、気に入らない奴もいるんじゃないかねぇ」
「いや、悪気がある訳じゃねぇんだ。ただ……」
「ただ? 言ってみろよ。聞いてやるから」
 見た目が若いアニス・テスタロッサ(ka0141)は、ドリスキルへの言葉に怒気を込める。
 アニスが怒る理由は他にもある。
 整備兵からドリスキルが『CAM嫌いの理由』を聞いていたからだ。
「そうそう。そういえば聞いたぞ。お前がCAM嫌いな理由。ただの被害妄想じゃねえか。おめでてーわ、マジで」
「なに?」
「戦車が時代遅れなんて……勘違いも甚だしい英雄様に教えてやるよ」
 アニスは、ドリスキルを前に切々と語る。
 スピードも装甲も航空機や戦車に劣り、CAMが優れている点は器用さと運動性。特に装甲は破片を避ける程度にしかならない。
 アニスに言わせればCAMはその程度の兵器に過ぎず、既存兵器になかった部分を突出したにだけである。
「あんたも士官学校で教官やってたんだろ? CAMだけじゃ戦争できねぇのは知ってるだろうに」
「ああ、知ってるさ。だが、それと俺のCAM嫌いは別問題だろ。使える兵器だろうが、俺はCAMが気に食わねぇ。それは紛れもない事実だ」
「ちっ、分かっててやってんのか。なら、さっさと過去の栄光とやらを抱いて溺死しな」
 アニスは、苛ついた。
 CAMは皆が思う程便利な兵器ではない。適正な運用を行わなければCAMだけではなく、パイロットの命すら危うい。
 それでも感情を優先させるというなら、ドリスキルは『その程度の男』だ。
「いいぜ。溺死ついでにヨルズを傷物にして護衛失敗させてみるか? そうなりゃ、秋葉原のハンターフィーバーは一夜にして一変するだろうな。
 『新型試作CAM、ハンターによって破壊』って新聞に書き立てられるんだろうな」
「てめぇ!」
「おそらく……上の連中もそれを期待して俺をヨルズを鎌倉に送り込むんだろうな」
 ドリスキルの一言でアニスは気付いた。
 ヨルズは思っている程、統一連合宙軍に期待されていない。
 謂わば、量産に持ち込めない失敗作。
 開発が停滞しているこの失敗作を使って、ハンターに揉め事を起こさせる。
 その事件を逆手にとってハンターの評判を叩き落とせば、一夜で炎上騒ぎだ。。
 メタ・シャングリラの快く思わない連中の考えだろう。
「待てよ。お前、それが分かっててこいつに乗るのか?」
「ああ。俺は上の思い通りに動くつもりはねぇ。安心しな、馬鹿正直にお前達と揉めるつもりはねぇよ」
 どうやら、ドリスキルはハンターとCAMで論争して揉めるつもりはない。
 むしろ、この状況を利用するつもりだ。
「正直、CAMに対する憎しみだって消えちゃいねぇ。
 だがな。こいつは俺に取って、チャンスだ。
 強化人間になって俺は、戦場へ戻ってきた。
 そして、俺はヨルズと一緒にCAMを越える。CAMとCAMパイロットを見返してやるんだ」
 ヨルズの機体にそっと触れるドリスキル。
 ヨルズと共にデータと実績を積めば、必ずヨルズは今からでも量産されるとドリスキルは信じている。
 だが、それでもフォークス(ka0570)は納得していない様子だ。
「分からない。CAMもヨルズもただの兵器だ。道具を愛でたり憎んだりする必要があるのか?」
 フォークスは、ドリスキル程兵器に執着を持たない。
 目的を達する為の道具に過ぎない兵器を手に一方的にCAMをライバル視する意味が分からないのだ。
「そう言い切っちまえばそうかもしれねぇが……簡単に言えば、こいつは俺の流儀だ。
 過去を消すこともできねぇし、CAMのパイロットと馴れ合うつもりはねぇ。
 俺を嫌いたければ、それでいい。
 CAMを越えてヨルズと俺の力を証明するだけだ。
 そして、連合宙軍のお偉方に力を見せ付けて、今の方針を考え直させる」
「お偉方?」
「ああ。お前達からすれば下らねぇ話だろうが、連合宙軍の中にはCAMを必要以上に信奉する奴らがいるんだよ」
 連合宙軍内には、CAM至上主義ともいえる者が存在する。
 CAMを万能な兵器と考え、車両や航空機に割くべきリソースをCAM製造へと回させる。限られた資源を考えれば、その余波は戦車屋や砲撃手へ広がって行く。宇宙空間の戦闘と厳しい戦況が影響して、拠点攻略に必要な陸戦兵器の軽視が発端と見られている。 
 ドリスキルはそうした彼らの前で、ヨルズの性能を見せて有用性を示そうとしているのだ。
「くっっっっだらねぇ! なんだその話は!」
 アニスは、思い切り批判を口にする。
「まあ、リアルブルーのお前ら覚醒者が最初からいればこんな事にはならなかったんだろうぜ。CAMなんか使わなくても戦えるしな」
 ここで、鵤がある事に気付く。
「おや? 俺達の実力は評価してもらっているんですかい? なら、何故最初に俺達を見たときに驚いたんですかねぇ?」
 鵤は、ドリスキルがハンターを見たときの驚きを忘れていない。
 あの衝撃はドリスキルが本当に驚嘆したからだ。
 ドリスキルは鵤からの問いに、申し訳なさそうに答える。
「いや、強化人間も若い奴がやたら多いんだよな。俺より上なんて見たことなかったんだが、ハンターも同じなのかと思ったんだよ」


「私は貴方が嫌うCAM乗りです。しかし、一度たりとて、歩兵や戦車兵を下に見たつもりはありませんよ。
 歩兵や戦車兵達の方が重宝する事もあります。適材適所と言えればと……」
「は、はぁ……」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)から借りたトランシーバーを通した話に耳を傾けるドリスキル。
 ハンター達はヨルズの周囲を護衛するように横浜駅前の出発。国道16号線を南下。左にみなとみらい地区を見ながら警戒して進む。
 フィルメリアはマテリアルデバイス「Kraft」を通してドリスキルと会話しているのだが、どうにも奥歯に何か物が詰まったような返答ばかりだ。
「先達がいるからこそ……おや、何か失礼がありましたでしょうか?」
「いや、失礼はないんだが……その足下にいるデカい犬はなんだ?」
 ドリスキルが指摘するのはフィルメリアが乗るイェジドのHatiであった。
 フィルメリアはイェジドに乗りながら前方警戒と遊撃を担当する予定である。ならば、小回りの効いて素早い動きの可能なHatiが最適である。フィルメリアには、何故ドリスキルが指摘するのかが分からなかった。
「ああ、イェジドのHatiです。氷雪のような毛並みでしょう?」
「ああ、確かに……ってそうじゃない! なんだよ、イェジドって!?」
 イェジドを前に驚くドリスキル。
 考えてみればドリスキルは覚醒者ではない。クリムゾンウェストへ行ったこと無いのであれば、幻獣を見たことがないはずだ。驚くのも無理はない。
 フィルメリアはドリスキルへ幻獣について簡単に説明する。
「はぁ、なるほどねぇ。ハンターにはCAM以外の戦力もあるってことか」
「ああ、そういえばドリスキル君は幻獣を知らなかったのかぁ。それならヨルズの装甲板にもいるが、気付かなかったのかね?」
「あ? さっき小柄な随行兵を乗せた……って、なんだよ! お前は!?」
 鵤に促されたドリスキル。その目に飛び込んできたのは、トランシーバーを手にしたユキウサギの兎であった。
 バイクで先行する鵤の指示を受け、命綱を付けた兎が有事に備えてヨルズを守る役目を担う。
「そいつも幻獣、ユキウサギって奴だ。名前は兎。頑張ってくれれば、俺が楽できるって寸法だ」
「へぇ。よろしくな、兎」
 ドリスキルの声に反応したのか、兎はヨルズの上でちょこんと頭を下げる。
 そこへ前方から駆け込んでくるのは――魔導アーマー「プラヴァー」だった。
「いたぜ、ドリスキルのおっさん! 敵のお待ちかねだ」
 プラヴァーのリコリスに乗った西空 晴香(ka4087)は、ヨルズから離れてマテリアルレーダーによる索敵を行っていた。
 みなとみらい地区という事はそろそろ敵と遭遇する。
 そう考えていた晴香の前に現れたのは、二機の歪虚CAM。幸いな事にこちらには気付いていない様子だ。
「お、来やがったか……って、お前のそれはなんだ? パワードスーツみてぇだが」
「こいつは魔導アーマーって、説明は後だ! それより前方を見回る敵を先にやっちまうか?」
「待てよ。こっちにも反応ありだ」
 ヨルズに随行していたアニスのレラージュ・ベナンディも、別の歪虚CAMを捕らえていた。
 高架の向こう側に潜む歪虚CAMが2機。
 既にガトリングガン「エヴェクサブトスT7」の照準は、高架の向こうへ向けられている。
 このまま前方に注力すれば、高架向こうの歪虚CAMが後方から仕掛けて来るのは目に見えている。
「こそこそと……害虫が生意気にも挟撃かよ」
「戦力を分散した方が良いわね。少しでもヨルズを傷つけないように……」
 そう言い掛けたマリィア。そこで言葉を止めた。
 mercenarioの中でトランシーバに耳を傾ける。
 先程から、トランシーバーの向こうで何か金属が擦れ合う音が聞こえてくるのだ。
 擦れ合う金属音に続いて聞こえてくるのは――ドリスキルの声。
「……ぷはぁ、効くなぁ」
「ちょっと、中尉。ヨルズの中で何を飲んでいるの!?」
「何って、ウイスキーだ。それが何だ?」
「おい、ずるいぞ! 一人で飲んでいるのかよ! こっちにも回せよ!」
 酒と聞いて反応するアニス。
 しかし、問題はそこではない。
 作戦行動中に新作CAMの中で飲酒している男がいるのだ。
「これから交戦するって時に……」
「だからだよ。こいつは俺とヨルズの初陣だ。景気づけの一杯ぐらい、いいじゃねぇか」
 トランシーバの向こうで笑うドリスキル。
 だが、マリィアはその言葉が虚しく感じてしまう。
 その影に函館で出会った一人の男を、自然と重ね合わせる。
「危うい人」
「ん?」
「何でも無い。それよりここでヨルズが撃てば、周囲の歪虚CAMが集まってくるのではなくて?」
「だろうな」
 マリィアは思わずmercenarioの座席に体を預けたくなった。
 ハンター達の任務はヨルズを護衛して本牧ふ頭まで届ける事。
 わざわざ危険を冒す必要は無い。
 それなのに、ドリスキルはヨルズによる砲撃を敢行しようとしている。
「それが分かっていて……!?」
「いいじゃありませんか。ヨルズによる実戦データは、必ず役に立つのでしょう」
 ドリスキルを叱ろうとするマリィアをフィルメリアが止める。
 それに同調するように晴香も言葉を続ける。
「そうだ。ヨルズのカッコいいとこ、見せてくれよ。ドリスキルのおっさんよ」
 新型試作CAM『ヨルズ』。
 未だ実験機ではあるが、いずれ量産されるかもしれない。
 そうなれば、ハンター達も騎乗する可能性だってあるのだ。
 今からその性能を見ておきたいと思うのが人情だろう。
「それだけ言っても聞かないんだ。砲撃を支援した方がいい。ここでこうしていればもっと歪虚CAMが集まってくる」
「ああ、話が早くて助かる」
 フォークスの魔導型ドミニオンもスナイパーライフル「オブジェクティフMC-051」の照準を前方の歪虚CAMへ向けている。
 砲撃に合わせて歪虚CAMへ狙撃を加えるつもりのようだ。
「まったく……」
 ため息をつくマリィア。
 やると決まった以上――全力を尽くすしかない。
「あ、ドリスキル君。戦闘データの方は分かってるだろうね?」
「デバイスに記録だろう。こっちでも戦闘データを集めるんだ。ついでにやってやるよ」
 ドリスキルは155mm大口径滑空砲の照準を前方の歪虚CAMで捉える。
 拠点防衛や市街戦に特化したヨルズにとって、この程度の距離は問題にならない。
 ましてや、相手はご丁寧に止まってくれているんだ。
 狙わない訳には――いかない。
「止まっている奴からやるぞ。AP装填。続いて車体9時方向へ転換。高架向こうの奴にも一発お見舞いする。
 ……おい、兎! そのデカい耳を塞いどけっ!」
 ドリスキルの声に従って、思い切り耳を塞ぐ兎。
 次の瞬間、爆音。
 空気が震え、周囲を大きく揺らす。
「おお!?」
 晴香の視線は前方の歪虚CAMへ釘付けとなる。
 突然機体に風穴が空いた瞬間、後方へ吹き飛ばされる歪虚CAM。
 アスファルトの地面へ叩き付けられ、機体パーツを地面へとバラ撒いた。
 
 一撃。
 その砲撃を受けてフィルメリアとマリィアが前へ出る。
「行きます、Hati。残る歪虚CAMより先んじて仕掛けます」
「前進して進路を拓く。邪魔する歪虚CAMを排除する」
 敵がヨルズの砲撃で吹き飛んだ歪虚CAMに気を取られている隙に、フェルメリアはHatiと共に前進。射程距離まで到達した段階でデルタレイで狙い撃つ。
 その後方からはマリィアがマシンガン「プレートスNH3」を構えたまま地面を滑る。滑り込みながらも照準は歪虚CAMを捉えて離さない。
「墜ちろっ!」
 光と銃弾が歪虚CAMを襲撃。
 反撃の隙を与えず、歪虚CAMを進路から弾き飛ばす。

 一方、ヨルズは車体を高架の方へ向けていた。
「出て来いっ! たまには日の光を浴びやがれ、もやしっ子どもっ!」
 再びヨルズの砲撃。
 今度は高架下に向けられ、高架を形作っていたコンクリートを派手に吹き飛ばす。
 瓦礫と中から見える歪虚CAMの機体。命中とまではいかなかったが、派手に歪虚CAMを転ばせる事ができた。
「反撃が来るか? 兎、雪水晶だ」
 鵤の指示を受けてヨルズに雪水晶を発動。
 防御力をアップして反撃に備える。
 だが、他のハンターは敵に容赦する気配もない。
「死に損ないは、そのまま寝てやがれっ!」
 そこへアニスのレラージュ・ベナンディがガトリングガン「エヴェクサブトスT7」の引き金を引く。
「足止めをする。そのまま接近してぶちかましな」
 ガトリングによる制圧射撃は、転んだ歪虚CAMにも降り注ぐ。
 弾丸の雨を前に歪虚CAMは反撃する事ができない。
 そこへヨルズを守るようにフォークスの魔導型ドミニオン。
 カスタムタイプ:ディフェンダーでヨルズを自らの機体で隠しながら接近。至近距離から30mmアサルトライフルを浴びせかける。
「そのまま眠れ。哀れな亡霊」
 フォークスが30mmアサルトライフルを降ろす頃には、歪虚CAMはまったく動かなくなっていた。
「やるな、フォークス! アニスも敵に反撃させない勢いで……って、どうしたんだ?」
 勝利に歓喜する晴香。
 だが、その傍らでは顔色の優れない鵤の姿があった。
「あ、いや。何でも無い。気のせいだ」
「ん、そっか。なら、こっちもまた先行して索敵するか」
 再びプラヴァーに乗って前進する晴香。
 走り去る晴香を見た後、鵤は後方を振り返る。
(砲撃の瞬間、敵の気配があったんだけどねぇ。面倒だから気のせいって事でいいか)
 鵤の視界にはヨルズの機体以外、何も見当たらなかった。


 ハンター一行は、133号線から海岸線へ抜けた後も順調に敵を退け続けていた。
 まさに旅は順調。不安要素は、何もない。
「なるほど。覚醒者と比較すると強化人間は見劣りするのですかぁ」
「そうだな。戦い振りを見せて貰ったが、お前らは本当にすげぇな。ま、それでも俺とヨルズがお前達を超えてみせるがな」
 鵤はドリスキルと日常会話を楽しみながら、強化人間に関する情報を聞き出していた。
 覚醒者と強化人間を比較した場合、熟練した覚醒者に強化人間は太刀打ちできないとドリスキルは教えてくれた。クリムゾンウェストのハンターシステムを模して作られはしているが、強化人間のシステムとは何かが違うようだ。
 鵤も強化人間のシステムについて興味はあったが、ドリスキル本人はその強化人間のシステムについてはまったく覚えていないらしい。
「悪いな。役に立てなくてよ」
「いやいや。それからヨルズはどうなんだい? 量産できそうかい?」
「これから、だな。だが、俺はこいつを絶対に量産させる。陸戦では絶対に必要になるからな」
 胸を張るドリスキル。
 その様子を微笑ましく見ていたフィルメリアが思わず口を挟む。
「その自信、きっとヨルズの量産にも繋がるでしょう。その役に立てたのなら何よりです」
「ああ、その時はお前らをスタッフスクロールにも加えてやるよ」
 ドリスキルは高笑いが止まらない。
 正直、今回の戦いは実戦データ採取に最適だった。
 破損している歪虚CAMとはいえ、ドリスキルの砲撃で瞬く間に敵を排除する場面は実戦ならではだ。ドリスキル曰く砲撃の制御調整が間に合っていない為に、ブレが生じているそうだが、次の戦場では調整を万全にできるだろう。
「敵2体発見! もうちょっとで本牧ふ頭だっていうのによ!」
 晴香のリコリスが枯尾花で機動力を上げた後、スペルスラスターで歪虚CAMとの距離を縮める。
 既に何度も歪虚CAMを退けているが、想定よりも機体数が多い。
 それだけ鎌倉から敵が北上しているのだろうか。
「盾になれないなら、前に出るしかないだろ!」
 至近距離まで近づいたリコリスは、スペルステークを発動。
 炎のようなオーラを纏った龍翼鎌「クータスタ」を叩き込む。
 吹き飛ばされる歪虚CAM。
 しかし、残る一方の歪虚CAMは健在。近くまで寄ってきたリコリスに向けて動き出した。
 次なる敵へ向き直るリコリス。
 歩み寄る歪虚CAM。しかし、歪虚CAMは突然崩れ落ちる。
「ん? ……支援感謝するぜ。ここは素直に礼を言っておく」
 後方を振り返れば、マリィアとフォークスのスナイパーライフルがこちらを向いていた。
 どうやら二人が迫る歪虚CAMを排除してくれたようだ。
「まったく、最期までウゼェったらありゃしねぇな」
「まあ、歓迎としちゃ十分じゃねぇか。あちらさんも名残惜しいんだろ」
 アニスの言葉にドリスキルが続ける。
 戦いの前は言い合いしていた二人ではあったが、戦いを経る事で力量は認め合えたようだ。事実、レラージュ・ベナンディがアクティブスラスターで前進する際にもドリスキルが砲撃支援を怠らなかった。惜しむべきはヨルズに中距離用の装備が搭載されていなかった事だろう。
「間もなくゴールっと。兎もよく頑張ったな」
 ヨルズの上で奮戦していた兎を労う鵤。
 ヨルズへ攻め寄られた際には雪水晶を、追撃されそうになった時は煙水晶で視界を遮る手筈だった。幸いにもハンターの尽力で兎がギリギリまで奮戦せず、鵤のデルタレイで排除する程度で乗り越えられた。それでも周囲警戒には十分役立っていたようだ。
「やるな、異界の傭兵ども。半日しかこっちに居られないのは残念だ」
 ドリスキルは、その言葉を噛み締める。
 ドリスキルの前に立ちはだかったCAMという壁――その頂は、見上げる程高いというのに。


「あ、そうだ」
 本牧ふ頭から旅立つ直前、ドリスキルはハンター達へ声を掛ける。
 偶然、ドリスキルに精神安定剤を渡したマリィア。思わず顔を顰めた。
「何……うっ、酒臭いわね。
 試作機は狂気の狙われやすいのよ。その試作機で戦場に出て成果を上げないといけないのに……中尉、あなたって人は」
「硬ぇ事言うなよ。それより、ハンターでもやっぱりビビる事ってあるのか? たとえば、このリアルブルーで怪物みたいな狂気が大量に迫ってきた。お前、それでもビビらずに立ち向かえるか?」
 ドリスキルがマリィアに唐突な問いを投げかける。
 それが何を言わんとしているかは分からない。だが、言うべき事は明確だ。
 目の前にいる酔っ払いに、ここはキチンと言うべきだ。
 意を決したマリィアは口を開く。
「ここがリアルブルーで、相手が狂気なのよ! 退けるわけ、ないでしょうっ!」
 守るべき人がいる。
 共に戦う仲間がいる。
 なら、臆して退くという選択肢はない。
 もう、仲間を撃たなくても良い戦いをしたくはないから。
「これで満足? だったら……」
「その調子なら鎌倉でも無茶しねぇだろう。いや、そのまま背負い過ぎて単身突撃しちまうかと思ってな。
 あ、他の連中も鎌倉で戦うならよろしくな。俺は妖怪ババアのところで厄介になるから顔を合わせるかもしれねぇな」
「それより酒が先だ。こっちは戦闘中にウイスキーを飲む音だけ聞かせられたんだ。煽るのも大概にしやがれ」
 ドリスキルにクレームを入れるアニス。
 その傍らでマリィアは耳にした言葉を反芻する。

 ――妖怪バアア。

 その言葉に合致する人物を、マリィアは一人知っている。
 それはフィルメリアの耳にも入っていた人間だ。
「いけません。女性を妖怪ババアなんて言っては。女性は何歳になってもレディなのですから」
「お前はあいつを知らないからそう言えるんだ。あの恭子ってババアは……」
「あの、もしかしてその人物って森山恭子って言わない?」
 マリィアは知っている人物の名前を口にする。
 その瞬間、ドリスキルは酒臭い息を吐き出しながら笑みを浮かべた。
「まだ生きてるみたいだな、あのババア。今度からあのババアのメタ・シャングリラで世話になる事になった。一緒になる事があればよろしくなっ!」
「メタ・シャングリラねぇ」
 鵤は、静かに呟いた。
 上官の命で強化人間になったドリスキルが、上官に楯突く森山恭子預かりになる。
 ドリスキルは信用できても、その上は――。

 鎌倉に向けて、更なる混迷が近づいていた。

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MVP一覧

  • は た ら け
    ka3319
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

重体一覧

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    マドウガタドミニオン
    魔導型ドミニオン(ka0570unit004
    ユニット|CAM
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ウサギ
    兎(ka3319unit005
    ユニット|幻獣
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハティ
    Hati(ka3380unit003
    ユニット|幻獣
  • 侮辱の盾
    西空 晴香(ka4087
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    リコリス
    リコリス(ka4087unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    メルセナリオ
    mercenario(ka5848unit002
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】
フォークス(ka0570
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/08/01 03:20:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/27 01:02:18