ゲスト
(ka0000)
ファンクラブってナンですか?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/11/07 19:00
- 完成日
- 2014/11/14 15:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――夜煌祭からおよそひと月半。
冬の足音もそろそろ聞こえてきそうな気候になってはいるが、その人物の頭の中では今も鮮明に焼き付いている映像があった。
月の光の下、舞い踊る少女――。
彼女を思うと、彼の胸がどきりとする。
「……リムネラ(kz0018)さん……」
彼は小さく呟いた。
●
リゼリオはいつもと変わらぬ雰囲気を漂わせている。いや、それはそう見せかけているだけで、実際は嵐の前の静けさとでもいった方がよいのだろうか。
歪虚の存在は相変わらず民をおびやかしている。
しかしそんな中でも、日々の生活というのは営まれているわけで、そうなればそちらに全力を注ぐのがやはり最善なのであった。
「ハァ……」
そんな中、ガーディナのリーダーであるリムネラは小さくため息をついていた。
最近、よく手紙が届くのである。
筆跡はいつも同じ人物であると思われるが、あいにくリムネラはその差出人に覚えがない。
手紙の末尾には『あなたのファンより』とだけ記されていて、つまり差出人がわからないのである。
内容は、たわいもないことがほとんどだ。けれど少し気にかかるのは、リムネラを好ましく『思いすぎている』ことだろう。
どうすればいいのだろう。最近のリムネラがそんな風に元気のないことは、どうやらユニオンのメンバーにもわかるらしい。時々心配してくれるのは、とても嬉しい。
でもこの手紙の主を、突き止めておいた方がいいかもしれない。
悩んだ末、リムネラは依頼書を書き始めた。
『ファン』の正体や、想いを知る為に。
――夜煌祭からおよそひと月半。
冬の足音もそろそろ聞こえてきそうな気候になってはいるが、その人物の頭の中では今も鮮明に焼き付いている映像があった。
月の光の下、舞い踊る少女――。
彼女を思うと、彼の胸がどきりとする。
「……リムネラ(kz0018)さん……」
彼は小さく呟いた。
●
リゼリオはいつもと変わらぬ雰囲気を漂わせている。いや、それはそう見せかけているだけで、実際は嵐の前の静けさとでもいった方がよいのだろうか。
歪虚の存在は相変わらず民をおびやかしている。
しかしそんな中でも、日々の生活というのは営まれているわけで、そうなればそちらに全力を注ぐのがやはり最善なのであった。
「ハァ……」
そんな中、ガーディナのリーダーであるリムネラは小さくため息をついていた。
最近、よく手紙が届くのである。
筆跡はいつも同じ人物であると思われるが、あいにくリムネラはその差出人に覚えがない。
手紙の末尾には『あなたのファンより』とだけ記されていて、つまり差出人がわからないのである。
内容は、たわいもないことがほとんどだ。けれど少し気にかかるのは、リムネラを好ましく『思いすぎている』ことだろう。
どうすればいいのだろう。最近のリムネラがそんな風に元気のないことは、どうやらユニオンのメンバーにもわかるらしい。時々心配してくれるのは、とても嬉しい。
でもこの手紙の主を、突き止めておいた方がいいかもしれない。
悩んだ末、リムネラは依頼書を書き始めた。
『ファン』の正体や、想いを知る為に。
リプレイ本文
●
リムネラ(kz0018)のもとに奇妙な手紙が届いたと聞いて集まったのは八人の男女。
(これはファンのしわざ? それとも……)
いぶかしげに小首をかしげるのは摩耶(ka0362)。その脇にいたヴァイス(ka0364)はヴァイスで、ふしぎそうな顔をしている。
「リムネラが良い女ってのは確かに間違いないが、ただ崇めるように見守るだけで満足なのかねそいつ? 俺だったらもっと親しくなりたいと思うが……ま、人それぞれって奴か」
そう呟けば同じようにほかの仲間たちも頷く。リムネラは巫女ではあるがごく普通の少女らしい一面をたくさん備えたごく人間的な女性だ。信仰の対象のような扱いは、むしろ彼女の方が嫌うだろうに。
「リムネラ嬢も大変だな。まあ、変に拗れる前に表に出てきてもらうとしようか」
そう口を開いたのはレイス(ka1541)だ。
「表に? シャイな人の様ですし、出てくるでしょうかね……あっ」
天央 観智(ka0896)はそこまで呟いて、あっと声を上げる。
「そうか、二人が直接話し合える機会を設ければ良いんですね」
「ああ。お茶会などを開けば、きっと現れるだろうからな」
いかにも楽しそうに、青年は笑った。
(それに……巫女としてだけでなく、『リムネラ』個人としての彼女に味方を作っておく必要があるだろう。今後彼女を守る力の一つになるだろうし、な)
●
とりあえず、まず探すべきは差出人だろう。
リムネラから許可を得て預かった手紙を見る限り、封筒はいつも白い素っ気ないものに白い便せん。ブルーブラックのインクで書かれた文章は当たり障りもないが、読むと確かに小さな違和感を覚えずにいられない。
また、これは郵送されてきたものではないらしく、切手などは貼られていなかった。その代わりというとなんだが、必ずその封筒には楓の葉が同封されている。
筆跡は決して力強いものではない。こぢんまりとおとなしめの、良くも悪くもおとなしそうな筆跡で、差出人の性格がこの手紙だけでもうかがい知れる気がした。
真面目でおとなしく、それでいて少し重い思いを抱いている。
ユニオンに頻繁に出入りしているヴァイスは、それとはなしに周囲のハンターたちにも『リムネラに熱心な視線を送っている相手』というのを尋ねてみた。
すると案の定というか、リムネラへの手紙の主は予想よりも早く候補を絞ることができた。差出人には『あなたのファン』としか書いていない手紙なのだが、逆にそれを鮮明に覚えていたメンバーが何人もいたのが幸いしたようだった。曰く、
「あなたのファンよりなんて手紙、忘れられねぇだろ普通。しかもその差出人の名前と楓の葉を入れるって小細工がさ、リアルブルーで人気の漫画に似たシチュエーションがあって、それで余計に覚えてたって訳」
なるほど、とてもわかりやすい理由である。
彼らの証言によれば、差出人であろう人物はリアルブルー出身のハンターで名前をジークと言うらしい。元々内向的な性格で、ユニオン本部に来ても隅に座って静かにしているタイプだったらしいが、夜煌祭のあとくらいから少し雰囲気が変わってきたのだと彼らは口を揃えて言った。
「夜煌祭でのリムネラさんの姿を見てからかな、彼女のことを崇敬の対象みたいに言うようになってさ。あと、あまりユニオンに顔を出すことが減ってきたみたいなんだ」
つまり、手紙を出すときくらいにしかユニオンにも現れていないらしい。
調べてみると手紙の投函があったのはかっきり五日おき、彼の几帳面さの表れという奴かも知れない。
「これはなおのこと、リムネラさんに会わせたくなるねぇ」
気になっている人と面と向かって話すのはなかなか難しいものである。それを知っているからこそ、壬生 義明(ka3397)はそんなことをいいながら頷いた。
「それじゃあ、俺は相手に接触してみようと思う。よろしく頼むな」
レイスがそう言うと、レイン・レーネリル(ka2887)は握り拳を作って頷いた。
「うんっ。一方的な思いなんてつまらないもんね。一歩踏み出してもらいたいな」
ユニオンとその関連箇所の地理に疎いレインは、レイスといっしょと言うことでずいぶん安心しているらしい。笑顔で少女は意気込んだ。
(リムネラさんとの間を取り持てると良いな! あ、もちろん野次馬とかじゃなくってね)
その思いが透けて見えたのだろうか、観智がくすりと笑顔を浮かべた。
●
数日後。
「……リムネラさん主催の交流会?」
掲示板に貼られていくポスターを見ながら、何人かのハンターが小首をかしげた。
リムネラはどちらかというとフレンドリーなたちで、そういうことをわざわざするタイプには見えないのだ。
しかし、そこでぴしっと指を立てて説明するのは小柄なドワーフ少女ルリ・エンフィールド(ka1680)。
「んー、でもさ。たまにはきちんとやりたいものなんだよ、きっとリムネラさんも」
今回の交流会をセッティングするために様々な交渉をしたのは主に義明とルリだ。二人の力がなければ、このアイディアが通ることもなかったかも知れない。
(それに、言いたいことも言えないようなシャイな人も、こういうところで美味しいもんいっぱい食って気分が良くなりゃ喋りたくなるんじゃねぇかな)
そんなことも考えている。その脇で、ヴァイスはこれをまるで初めて知ったかのように、
「へぇ、なかなか楽しそうな催しがあるんだな。なあ、これは参加しようぜ?」
そんなことを周りに言って小突いてみせる。周囲のハンターたちとて言われて乗らないわけではない、
「ああ、リムネラさんは何かと忙しい人だが、少しお近づきになるチャンスかも知れないな」
「何言ってんだか」
冗談めかしてそんなことを言いながら、交流会の日程をしっかり手帳に書き込んでいた。
――リムネラも、今回の交流会という発案には二つ返事で賛成してくれた。せっかくなら、沢山の人とティーパーティをしたい――などと、にこにこと笑顔を振りまいて。そう言う意味では、先ほどのハンターたちのやりとりなどはきっと大満足しているに違いない。
「お菓子も料理も、ミンナで作れば、キット美味しいデース♪」
リムネラも料理の腕を振るう気満々の様子で、そんな笑顔を思い出すとルリもなんだか胸がほっこりとする。
会場の方も、ユニオン内の会議室を借りる許可をもらった。ここなら三十人くらいは入れるはず、もてなしをするのにも多すぎず少なすぎずと言う人数である。
「せっかくの機会ですし、きっとジークさんもいらっしゃるでしょう。きっと良い結果になると思います」
摩耶が小さく微笑む。そしてレインとレイスの二人は、
「それじゃあ、ちょっといってきまーす」
ジークが住んでいるというアパルトメントに、足を向けるのだった。彼を、確実にこの交流会に参加させるために。
●
そのアパルトメントは、古さびた印象のある場所だった。
「……あ、」
レインが顔を上げて、思わず声を漏らす。彼女の視線の先には、見事な枝振りの楓の木があって、はらはらと紅葉した葉が舞い降りていた。
「なるほど、この木の葉を使ったのか」
事前の聞き込みで、アパルトメントのそばには楓の木があるらしいことを、観智が聞き出している。ガーディナに不慣れな彼が聞いたからこそ聞き出せただろう情報が、うまく役に立ったようだ。
――さて。
突然の来訪者に、ジークは驚いている様子だった。
「えっと……どなた、ですか」
おどおどと尋ねるあたりは確かに内気そうだ。冴えない茶色い髪に大きな眼鏡、少し猫背気味のその青年はいかにも内向的な性格が表に出ていて、同時に繊細そうな印象も受ける。
そこへレインが、にこっと笑って手刷りのチラシを渡した。
「ガーディナの人だよね? 今度リムネラさん主催のお茶会があるから、来てほしいな!」
そう、ガーディナ所属のハンターのみんなに伝えて回っている風を装って。
青年はわずかに身じろぎしたが、差し出されたチラシを受け取って、小さく頷くと、またすぐに扉を閉ざしてしまったのだった。
「あ……」
レインは素っ気なく閉ざされた扉を呆然と見つめるが、レイスの方はそれなりに満足げだ。とりあえず、餌をまくことは成功したのだから。
●
そして交流会当日。
ユニオン本部の会議室にはそれなりの人数が集まり、これにはハンターたちも驚いている。ユニオンリーダーの名前を借りるとここまで影響力があるのかと、改めて思い知らされた気分だ。
何人かは招待している人がいるとは言え、他はリムネラを慕ってくれているハンターと言うことなのだから。
そしてそのリムネラはと言えば、
「ウン、いい焼き加減デス♪」
お手製のクッキーを一つ味見して、満足げに頷いている。
裏の目的があるとはいえど、交流会を催せることは彼女にとって嬉しいらしい。
と、香りにつられてルリも味見とばかりにクッキーに手を伸ばす。口に頬張れば、濃厚なバターの香りがいっぱいになって、思わず笑顔をこぼした。
「リムネラは料理もうまいんだなぁ。これ、ほんとーに美味いもん」
思わずファンになってしまいそうなんて、そんなことを思ってしまう。彼女はあらかじめリアルブルーの料理を作れる人に頼み込んで今回の交流会での料理をリアルブルー風に、としていた。結果、用意されたのはソバやダンゴといった、リアルブルーの軽食たち。クリムゾンウェストの人々の口に合うようにアレンジは施してあるが、これらのリアルブルー風料理はやはり目を引くものがある。
「……ふんふん、ジークさんも来ているらしい、と」
ユニオン内を見物しながら偵察をしていた観智がどうやら目標の人物を見つけ出したようだ。魔導短伝話で仲間たちと連絡を取りつつ、ジーク青年をそっと見やる。
野暮ったさはどうにも抜けないが、それでも彼なりに一生懸命考えてきたのだろう、王国風のしっかりしたあつらえのスーツを身に纏い、そわそわとどこか所在なさげに視線をさまよわせている。知人らしいハンターが声をかけてもいまいち上の空の様子だ。
「招待も含めて三十人ほど。うん、まあ上出来だねぇ」
会場の整備に当たっている義明も満足げに頷いた。
●
「皆サン、今日は有り難うございマス♪」
リムネラの声で、交流会は幕を上げた。ハンターたちも命の洗濯とばかりに和やかなムードがあたりを漂っている。食べ、飲み、そして談笑しあう。いかにもごく普通のお茶会だ。その中で観智は裏方という姿勢に徹し、今回の交流会では全体を俯瞰できる位置に立って様子を見ている。
しかしその中で、ジーク青年だけは緊張した面持ちだった。分厚い眼鏡の奥の瞳はうかがい知るのは難しいが、身体がすっかりかちこちにこわばってしまっている。
それを確認したレイスとレインは目配せし合うと、レイスはそっとジークのそばに近づいた。その姿に、さすがにジークもはっと顔を上げる。
「あ、あなた方は……」
「ああ、俺はレイス。とある人物からの要望で貴方を捜していた者だ」
レイスがそう名乗ると、ジークは顔を必死にハンカチでぬぐいだした。ジークを探すような理由がある人間なんてそうそういない。それこそ、リーダーに手紙を出しているというのは誰にも言っていないのだから、しかも匿名なのだから、わかるはずはない――まあ、そう思うのは本人ばかりなり、なのだが。
「そう警戒しないでほしい。ある意味、俺も貴方のお仲間だ。……リムネラ嬢の味方である、と言う意味においてな」
「え……」
ジークは咎められるとばかり思っていた。ユニオンリーダーである彼女に何度も手紙を送り、迷惑がられたのではと彼自身不安に思っていたのだから。
と、レイスの近くには他にも何人かのハンターがいた。依頼の参加者だ。更にルリはそっと青年に耳打ちする。
つまり、この集まり自体が引っ込み思案な彼が出てこられやすいようにするための作戦であったことを。それを聞いて、ジークは呆然とした。
「で、でも」
「仲間の一人が、きみが来ていることはもう伝えに行ってるよ。安心しな、リムネラの味方はいっぱいいるんだし。何話していいかわからねぇなら食いもんの話題でもいいじゃん? ほら、今日のご馳走もリアルブルーのやつ。世界や種族が違っても美味いもんは共通なんだからさ」
にまっと笑う彼女は、いかにもいたずらっ子ぽくて。
「そ、そうかな……うん」
ジークは、拳を小さく握った。
●
「リムネラさん、例のハンターさん来てるよ。会いに行く?」
ジークが決意を固めたのとほぼ同刻、レインはリムネラに報告していた。リムネラの側になるべくいて和やかに会話をしていた義明も、その連絡を受けてリムネラに小さく目礼する。
どうか、この交流の架け橋に――義明がこの依頼を受けてから、常々思っていた目標だ。
リムネラも小さく頷くと、すっとジークらのいる一角に近づく。
「こんにちは、デス♪」
そう笑顔を振りまくと、以前からの知り合いだったレイスなども小さく微笑んでユニオンリーダーを出迎えた。
「お、リムネラ。こっちにも来たんだな」
そう声をかけたのはヴァイス。わざと親しげ……いや、馴れ馴れしげに接しているが、内心はかなり緊張気味だ。
「マァ、ヴァイスさん。セッカクのチャンスだから、皆サンに話したいんデスヨ?」
この会話もある程度相談済みである。
「リムネラさん……」
ジークは、小さな声で名前を呼んだ。
「ハイ?」
リムネラは、笑顔で応じる。
「ぼ、僕、……あなたのことを、見ているだけで幸せなんです。だから、その、」
ヴァイスの態度は目に余る、と言いたいけれど口に出せない。そんな雰囲気が伝わってくる。と、ヴァイスはぽんと青年の頭を撫でるようにした。そしてリムネラに振り返って笑う。
「だそうだぜ、リムネラ。想いが伝わってくるだろ」
そのやりとりに、またもジークは目を丸くするばかり。
「大丈夫、リムネラはユニオンの要。自分のものにしようとか、思っちゃいないさ」
誰もがその言葉に頷く。
「そんなわけでリムネラ嬢、彼が件の差出人だ。どうかな、今後こんなコトが起きても対処しやすいように、公認でファンクラブでも作らせてはどうだろう?」
レイスが言うと、摩耶がなにやら持ってやってきた。
「紅葉の君、とでもお呼びすれば良いでしょうか。あなたの御手紙に入っていた楓の葉を模したバッヂを作ってみたのですが……これをファンクラブの会員証のようにすれば良いかと思うのですが」
銀細工でできた楓の葉は、やさしい輝きを帯びている。
「ファンクラブかぁ」
「面白そうだな、入ろうぜ」
結果、結構な数のハンターがファンクラブ所属になったのだった。
そしてジークはリムネラの側にいたいという希望を素直に伝え、ユニオンの事務を手伝うことになったのだった。
きっとこれも、一つの幸せの形なのだろう。
リムネラ(kz0018)のもとに奇妙な手紙が届いたと聞いて集まったのは八人の男女。
(これはファンのしわざ? それとも……)
いぶかしげに小首をかしげるのは摩耶(ka0362)。その脇にいたヴァイス(ka0364)はヴァイスで、ふしぎそうな顔をしている。
「リムネラが良い女ってのは確かに間違いないが、ただ崇めるように見守るだけで満足なのかねそいつ? 俺だったらもっと親しくなりたいと思うが……ま、人それぞれって奴か」
そう呟けば同じようにほかの仲間たちも頷く。リムネラは巫女ではあるがごく普通の少女らしい一面をたくさん備えたごく人間的な女性だ。信仰の対象のような扱いは、むしろ彼女の方が嫌うだろうに。
「リムネラ嬢も大変だな。まあ、変に拗れる前に表に出てきてもらうとしようか」
そう口を開いたのはレイス(ka1541)だ。
「表に? シャイな人の様ですし、出てくるでしょうかね……あっ」
天央 観智(ka0896)はそこまで呟いて、あっと声を上げる。
「そうか、二人が直接話し合える機会を設ければ良いんですね」
「ああ。お茶会などを開けば、きっと現れるだろうからな」
いかにも楽しそうに、青年は笑った。
(それに……巫女としてだけでなく、『リムネラ』個人としての彼女に味方を作っておく必要があるだろう。今後彼女を守る力の一つになるだろうし、な)
●
とりあえず、まず探すべきは差出人だろう。
リムネラから許可を得て預かった手紙を見る限り、封筒はいつも白い素っ気ないものに白い便せん。ブルーブラックのインクで書かれた文章は当たり障りもないが、読むと確かに小さな違和感を覚えずにいられない。
また、これは郵送されてきたものではないらしく、切手などは貼られていなかった。その代わりというとなんだが、必ずその封筒には楓の葉が同封されている。
筆跡は決して力強いものではない。こぢんまりとおとなしめの、良くも悪くもおとなしそうな筆跡で、差出人の性格がこの手紙だけでもうかがい知れる気がした。
真面目でおとなしく、それでいて少し重い思いを抱いている。
ユニオンに頻繁に出入りしているヴァイスは、それとはなしに周囲のハンターたちにも『リムネラに熱心な視線を送っている相手』というのを尋ねてみた。
すると案の定というか、リムネラへの手紙の主は予想よりも早く候補を絞ることができた。差出人には『あなたのファン』としか書いていない手紙なのだが、逆にそれを鮮明に覚えていたメンバーが何人もいたのが幸いしたようだった。曰く、
「あなたのファンよりなんて手紙、忘れられねぇだろ普通。しかもその差出人の名前と楓の葉を入れるって小細工がさ、リアルブルーで人気の漫画に似たシチュエーションがあって、それで余計に覚えてたって訳」
なるほど、とてもわかりやすい理由である。
彼らの証言によれば、差出人であろう人物はリアルブルー出身のハンターで名前をジークと言うらしい。元々内向的な性格で、ユニオン本部に来ても隅に座って静かにしているタイプだったらしいが、夜煌祭のあとくらいから少し雰囲気が変わってきたのだと彼らは口を揃えて言った。
「夜煌祭でのリムネラさんの姿を見てからかな、彼女のことを崇敬の対象みたいに言うようになってさ。あと、あまりユニオンに顔を出すことが減ってきたみたいなんだ」
つまり、手紙を出すときくらいにしかユニオンにも現れていないらしい。
調べてみると手紙の投函があったのはかっきり五日おき、彼の几帳面さの表れという奴かも知れない。
「これはなおのこと、リムネラさんに会わせたくなるねぇ」
気になっている人と面と向かって話すのはなかなか難しいものである。それを知っているからこそ、壬生 義明(ka3397)はそんなことをいいながら頷いた。
「それじゃあ、俺は相手に接触してみようと思う。よろしく頼むな」
レイスがそう言うと、レイン・レーネリル(ka2887)は握り拳を作って頷いた。
「うんっ。一方的な思いなんてつまらないもんね。一歩踏み出してもらいたいな」
ユニオンとその関連箇所の地理に疎いレインは、レイスといっしょと言うことでずいぶん安心しているらしい。笑顔で少女は意気込んだ。
(リムネラさんとの間を取り持てると良いな! あ、もちろん野次馬とかじゃなくってね)
その思いが透けて見えたのだろうか、観智がくすりと笑顔を浮かべた。
●
数日後。
「……リムネラさん主催の交流会?」
掲示板に貼られていくポスターを見ながら、何人かのハンターが小首をかしげた。
リムネラはどちらかというとフレンドリーなたちで、そういうことをわざわざするタイプには見えないのだ。
しかし、そこでぴしっと指を立てて説明するのは小柄なドワーフ少女ルリ・エンフィールド(ka1680)。
「んー、でもさ。たまにはきちんとやりたいものなんだよ、きっとリムネラさんも」
今回の交流会をセッティングするために様々な交渉をしたのは主に義明とルリだ。二人の力がなければ、このアイディアが通ることもなかったかも知れない。
(それに、言いたいことも言えないようなシャイな人も、こういうところで美味しいもんいっぱい食って気分が良くなりゃ喋りたくなるんじゃねぇかな)
そんなことも考えている。その脇で、ヴァイスはこれをまるで初めて知ったかのように、
「へぇ、なかなか楽しそうな催しがあるんだな。なあ、これは参加しようぜ?」
そんなことを周りに言って小突いてみせる。周囲のハンターたちとて言われて乗らないわけではない、
「ああ、リムネラさんは何かと忙しい人だが、少しお近づきになるチャンスかも知れないな」
「何言ってんだか」
冗談めかしてそんなことを言いながら、交流会の日程をしっかり手帳に書き込んでいた。
――リムネラも、今回の交流会という発案には二つ返事で賛成してくれた。せっかくなら、沢山の人とティーパーティをしたい――などと、にこにこと笑顔を振りまいて。そう言う意味では、先ほどのハンターたちのやりとりなどはきっと大満足しているに違いない。
「お菓子も料理も、ミンナで作れば、キット美味しいデース♪」
リムネラも料理の腕を振るう気満々の様子で、そんな笑顔を思い出すとルリもなんだか胸がほっこりとする。
会場の方も、ユニオン内の会議室を借りる許可をもらった。ここなら三十人くらいは入れるはず、もてなしをするのにも多すぎず少なすぎずと言う人数である。
「せっかくの機会ですし、きっとジークさんもいらっしゃるでしょう。きっと良い結果になると思います」
摩耶が小さく微笑む。そしてレインとレイスの二人は、
「それじゃあ、ちょっといってきまーす」
ジークが住んでいるというアパルトメントに、足を向けるのだった。彼を、確実にこの交流会に参加させるために。
●
そのアパルトメントは、古さびた印象のある場所だった。
「……あ、」
レインが顔を上げて、思わず声を漏らす。彼女の視線の先には、見事な枝振りの楓の木があって、はらはらと紅葉した葉が舞い降りていた。
「なるほど、この木の葉を使ったのか」
事前の聞き込みで、アパルトメントのそばには楓の木があるらしいことを、観智が聞き出している。ガーディナに不慣れな彼が聞いたからこそ聞き出せただろう情報が、うまく役に立ったようだ。
――さて。
突然の来訪者に、ジークは驚いている様子だった。
「えっと……どなた、ですか」
おどおどと尋ねるあたりは確かに内気そうだ。冴えない茶色い髪に大きな眼鏡、少し猫背気味のその青年はいかにも内向的な性格が表に出ていて、同時に繊細そうな印象も受ける。
そこへレインが、にこっと笑って手刷りのチラシを渡した。
「ガーディナの人だよね? 今度リムネラさん主催のお茶会があるから、来てほしいな!」
そう、ガーディナ所属のハンターのみんなに伝えて回っている風を装って。
青年はわずかに身じろぎしたが、差し出されたチラシを受け取って、小さく頷くと、またすぐに扉を閉ざしてしまったのだった。
「あ……」
レインは素っ気なく閉ざされた扉を呆然と見つめるが、レイスの方はそれなりに満足げだ。とりあえず、餌をまくことは成功したのだから。
●
そして交流会当日。
ユニオン本部の会議室にはそれなりの人数が集まり、これにはハンターたちも驚いている。ユニオンリーダーの名前を借りるとここまで影響力があるのかと、改めて思い知らされた気分だ。
何人かは招待している人がいるとは言え、他はリムネラを慕ってくれているハンターと言うことなのだから。
そしてそのリムネラはと言えば、
「ウン、いい焼き加減デス♪」
お手製のクッキーを一つ味見して、満足げに頷いている。
裏の目的があるとはいえど、交流会を催せることは彼女にとって嬉しいらしい。
と、香りにつられてルリも味見とばかりにクッキーに手を伸ばす。口に頬張れば、濃厚なバターの香りがいっぱいになって、思わず笑顔をこぼした。
「リムネラは料理もうまいんだなぁ。これ、ほんとーに美味いもん」
思わずファンになってしまいそうなんて、そんなことを思ってしまう。彼女はあらかじめリアルブルーの料理を作れる人に頼み込んで今回の交流会での料理をリアルブルー風に、としていた。結果、用意されたのはソバやダンゴといった、リアルブルーの軽食たち。クリムゾンウェストの人々の口に合うようにアレンジは施してあるが、これらのリアルブルー風料理はやはり目を引くものがある。
「……ふんふん、ジークさんも来ているらしい、と」
ユニオン内を見物しながら偵察をしていた観智がどうやら目標の人物を見つけ出したようだ。魔導短伝話で仲間たちと連絡を取りつつ、ジーク青年をそっと見やる。
野暮ったさはどうにも抜けないが、それでも彼なりに一生懸命考えてきたのだろう、王国風のしっかりしたあつらえのスーツを身に纏い、そわそわとどこか所在なさげに視線をさまよわせている。知人らしいハンターが声をかけてもいまいち上の空の様子だ。
「招待も含めて三十人ほど。うん、まあ上出来だねぇ」
会場の整備に当たっている義明も満足げに頷いた。
●
「皆サン、今日は有り難うございマス♪」
リムネラの声で、交流会は幕を上げた。ハンターたちも命の洗濯とばかりに和やかなムードがあたりを漂っている。食べ、飲み、そして談笑しあう。いかにもごく普通のお茶会だ。その中で観智は裏方という姿勢に徹し、今回の交流会では全体を俯瞰できる位置に立って様子を見ている。
しかしその中で、ジーク青年だけは緊張した面持ちだった。分厚い眼鏡の奥の瞳はうかがい知るのは難しいが、身体がすっかりかちこちにこわばってしまっている。
それを確認したレイスとレインは目配せし合うと、レイスはそっとジークのそばに近づいた。その姿に、さすがにジークもはっと顔を上げる。
「あ、あなた方は……」
「ああ、俺はレイス。とある人物からの要望で貴方を捜していた者だ」
レイスがそう名乗ると、ジークは顔を必死にハンカチでぬぐいだした。ジークを探すような理由がある人間なんてそうそういない。それこそ、リーダーに手紙を出しているというのは誰にも言っていないのだから、しかも匿名なのだから、わかるはずはない――まあ、そう思うのは本人ばかりなり、なのだが。
「そう警戒しないでほしい。ある意味、俺も貴方のお仲間だ。……リムネラ嬢の味方である、と言う意味においてな」
「え……」
ジークは咎められるとばかり思っていた。ユニオンリーダーである彼女に何度も手紙を送り、迷惑がられたのではと彼自身不安に思っていたのだから。
と、レイスの近くには他にも何人かのハンターがいた。依頼の参加者だ。更にルリはそっと青年に耳打ちする。
つまり、この集まり自体が引っ込み思案な彼が出てこられやすいようにするための作戦であったことを。それを聞いて、ジークは呆然とした。
「で、でも」
「仲間の一人が、きみが来ていることはもう伝えに行ってるよ。安心しな、リムネラの味方はいっぱいいるんだし。何話していいかわからねぇなら食いもんの話題でもいいじゃん? ほら、今日のご馳走もリアルブルーのやつ。世界や種族が違っても美味いもんは共通なんだからさ」
にまっと笑う彼女は、いかにもいたずらっ子ぽくて。
「そ、そうかな……うん」
ジークは、拳を小さく握った。
●
「リムネラさん、例のハンターさん来てるよ。会いに行く?」
ジークが決意を固めたのとほぼ同刻、レインはリムネラに報告していた。リムネラの側になるべくいて和やかに会話をしていた義明も、その連絡を受けてリムネラに小さく目礼する。
どうか、この交流の架け橋に――義明がこの依頼を受けてから、常々思っていた目標だ。
リムネラも小さく頷くと、すっとジークらのいる一角に近づく。
「こんにちは、デス♪」
そう笑顔を振りまくと、以前からの知り合いだったレイスなども小さく微笑んでユニオンリーダーを出迎えた。
「お、リムネラ。こっちにも来たんだな」
そう声をかけたのはヴァイス。わざと親しげ……いや、馴れ馴れしげに接しているが、内心はかなり緊張気味だ。
「マァ、ヴァイスさん。セッカクのチャンスだから、皆サンに話したいんデスヨ?」
この会話もある程度相談済みである。
「リムネラさん……」
ジークは、小さな声で名前を呼んだ。
「ハイ?」
リムネラは、笑顔で応じる。
「ぼ、僕、……あなたのことを、見ているだけで幸せなんです。だから、その、」
ヴァイスの態度は目に余る、と言いたいけれど口に出せない。そんな雰囲気が伝わってくる。と、ヴァイスはぽんと青年の頭を撫でるようにした。そしてリムネラに振り返って笑う。
「だそうだぜ、リムネラ。想いが伝わってくるだろ」
そのやりとりに、またもジークは目を丸くするばかり。
「大丈夫、リムネラはユニオンの要。自分のものにしようとか、思っちゃいないさ」
誰もがその言葉に頷く。
「そんなわけでリムネラ嬢、彼が件の差出人だ。どうかな、今後こんなコトが起きても対処しやすいように、公認でファンクラブでも作らせてはどうだろう?」
レイスが言うと、摩耶がなにやら持ってやってきた。
「紅葉の君、とでもお呼びすれば良いでしょうか。あなたの御手紙に入っていた楓の葉を模したバッヂを作ってみたのですが……これをファンクラブの会員証のようにすれば良いかと思うのですが」
銀細工でできた楓の葉は、やさしい輝きを帯びている。
「ファンクラブかぁ」
「面白そうだな、入ろうぜ」
結果、結構な数のハンターがファンクラブ所属になったのだった。
そしてジークはリムネラの側にいたいという希望を素直に伝え、ユニオンの事務を手伝うことになったのだった。
きっとこれも、一つの幸せの形なのだろう。
依頼結果
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相談卓 レイン・ゼクシディア(ka2887) エルフ|16才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/07 07:51:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/03 22:25:40 |