ゲスト
(ka0000)
【幻視】激突の技術戦(各陣営調べ)
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/10 12:00
- 完成日
- 2017/08/17 15:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「さて、お前達。遺跡をどうやって奪うんだい?」
歪虚レディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令によりチュプ大神殿を探し求めていたトーチカ一味であったが、自作の地図を落とした上にハンターが先に大神殿を発見してしまうという失態を犯す。
このままではビックマーへ顔向けできないとトーチカ一味はチュプ大神殿へ侵攻を開始しようとしていた。
「そりゃ、力づくでどーんっと壁を壊して登場でおます」
「で、壁を壊してどうするんだい? その先にはあいつらが待っているんだろう?」
「……あ、そうだったでおます」
歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりで知られるトーチカ一味。
セルトポは力自慢だが、頭の足りなさも自慢の一つ。
目の前の壁を破壊する事は得意だが、その先は行き当たりばったり。まさにトーチカ一味らしい戦略である。
「まったく、お前達は本当に馬鹿なんだから」
「まあまあ。ここは一つ、全国女子中学生の恋人であるモルッキーのお任せあれ」
トーチカ一味の開発担当、モルッキー。
ちょっと犯罪的な香りのする発言もあるが、これでもトーチカ一味の頭脳。
モルッキーには何か腹案があるようだ。
「へぇ。なら、ここはモルッキーの作戦に任せようじゃないのさ。
さあ、お前達。奴らに吠え面かかせてやるんだよ!」
「アイアイサッサー!」
●
侵攻を開始しているモルッキーは前回同様乗り物台を取り付けているグランドワームに乗っていた。
その様子は少々元気がない。
「やぁっぱり、ダメだったわね~」
手にしているのは紫を基調にしてピンクの差し色の細工が綺麗なキセルだった。
トーチカ用の新しいキセルを開発していざ姐さんに試してもらおうとしたら、めちゃくちゃ怒られたのだ。「こんな煙出したら、色々と引っかかるよ!」とダメ出しをくらったほど。
「ハンター達の間ではピンクのスライムが話題と聞いたのにぃ……」
流線型フォルムに上の部分が尖っているフォルムは確実にヤバイ。
落ち込むだけ落ち込んだモルッキーは次にいいキセルを作ろうと心を切り替える。
「さーって、今回もかわゆい女子中学生に会えるかしら~~~」
ルンルン気分で腰を振りつつ、荷台の奥に用意しているミニサイズの泥人形を前方にある台の上に置く。
その泥人形は妙にテッカテカに光っている。
台は滑り台のようになっており、斜面への切り込み部分には火が燃えていた。どうやら、歪虚の一種の模様。
泥人形は知能が低く、モルッキーの言われた通りにしか動かない。ころんと、でんぐり返しをしている最中に種の歪虚と接触する。
表面に着火すると全体に火が回っていき、泥人形は滑り台を転がって滑っていく。
回転しながら滑っていくと、まるでスキージャンプのように飛んで行った。
壁に激突した泥人形は原形を留めずに汚れとなってしまう。暫しのちに大きな爆発となって壁が崩れる。
「あ~れま。思ったより威力あったかしら~~」
今回のビックリ歪虚の試運転だったのに爆発まで起きてしまった。
そして、少し時間を巻き戻して……。
モルッキーがいた壁の向こうではカペラたちが中を歩いていた。
「前回は、小型の歪虚とか引き連れていたのよね。広めのところに出るかも」
思い出しながら呟いているカペラの近くにいたハンターが横の壁に警戒を向ける。
振動が大きくなり、爆発が起きた。
爆風を腕で顔を庇う。風が落ち着くと爆発があった向こうにはグランドワームに乗ったノッポの姿のシルエット。
「あ~れま。思ったより威力あったかしら~~」
呑気な声が爆風の向こうから聞こえ、嫌な予感が全員によぎる。
「その声は! トーチカ一味のモルッキーね!」
前に出たカペラがびしぃ! と、モルッキーと断定した影に指をさす。
「やーねー。ヒトに指をさしちゃダメって、おかあさんに言われなかったぁ~ん?」
先ほど某権利に喧嘩売ろうとしていた奴が言うセリフではない。
モルッキーは指差しにあまり気に留めてなかった。
「でもぉ、結構有名になったのねぇ。これで女子中学生のはぁとはア・タ・シのもの♪」
んふ♪ と、腰をくねらせてポーズをつけるモルッキーにハンター達は言葉が出ない。
「いくらこの地域の成人が大体十四歳以上でも、リアルブルーじゃお縄を頂戴するまでよ!」
カペラが叫ぶと、モルッキーは泥人形を滑り台に転がし、点火させる。
飛び出した泥人形はカペラの方へと飛んでいく。
「てーい!」
タイミングよくカペラが大槌で泥人形を叩き落とすと、小さな爆発が起こった。
「カペラ!」
誰かが叫ぶと、煙の中でカペラが咳き込んでいるシルエットが見えるので生きてはいるだろうが、同行していたテルルが異変に気付く。
「なんか、変じゃねぇか?」
疑問形だが、他のハンターも同意見。
仕事中はボサボサ髪のカペラだが、更にボサボサどころか、なんか髪型が違う。
煙が晴れるとそこには頭部がなぜかアフロになったカペラの姿があった。
「おー! さーっすがアタシ! ちゃんと成功したわーん!」
キャッキャと喜ぶモルッキーにわなわなと震えるカペラ。
「ちょっと! どういう構造でこんな頭になっちゃったのっ。さてはさっき投げた火だるま泥人形ね!」
睨みつけるカペラにモルッキーはケラケラ笑う。
「そう今回のドッキドキ歪虚ちゃんよぉ~~~! 負のマテリアルで髪の毛をアフロにしちゃうわよー!」
なんてバカバカしいものを……と思うが、精神的ショックを受けさせて追い払おうというのが目的なのかもしれない。
「ハンターの皆! 出動よ!」
アフロ姿では締まらないがカペラはハンター達へ叫んだ。
歪虚レディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令によりチュプ大神殿を探し求めていたトーチカ一味であったが、自作の地図を落とした上にハンターが先に大神殿を発見してしまうという失態を犯す。
このままではビックマーへ顔向けできないとトーチカ一味はチュプ大神殿へ侵攻を開始しようとしていた。
「そりゃ、力づくでどーんっと壁を壊して登場でおます」
「で、壁を壊してどうするんだい? その先にはあいつらが待っているんだろう?」
「……あ、そうだったでおます」
歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりで知られるトーチカ一味。
セルトポは力自慢だが、頭の足りなさも自慢の一つ。
目の前の壁を破壊する事は得意だが、その先は行き当たりばったり。まさにトーチカ一味らしい戦略である。
「まったく、お前達は本当に馬鹿なんだから」
「まあまあ。ここは一つ、全国女子中学生の恋人であるモルッキーのお任せあれ」
トーチカ一味の開発担当、モルッキー。
ちょっと犯罪的な香りのする発言もあるが、これでもトーチカ一味の頭脳。
モルッキーには何か腹案があるようだ。
「へぇ。なら、ここはモルッキーの作戦に任せようじゃないのさ。
さあ、お前達。奴らに吠え面かかせてやるんだよ!」
「アイアイサッサー!」
●
侵攻を開始しているモルッキーは前回同様乗り物台を取り付けているグランドワームに乗っていた。
その様子は少々元気がない。
「やぁっぱり、ダメだったわね~」
手にしているのは紫を基調にしてピンクの差し色の細工が綺麗なキセルだった。
トーチカ用の新しいキセルを開発していざ姐さんに試してもらおうとしたら、めちゃくちゃ怒られたのだ。「こんな煙出したら、色々と引っかかるよ!」とダメ出しをくらったほど。
「ハンター達の間ではピンクのスライムが話題と聞いたのにぃ……」
流線型フォルムに上の部分が尖っているフォルムは確実にヤバイ。
落ち込むだけ落ち込んだモルッキーは次にいいキセルを作ろうと心を切り替える。
「さーって、今回もかわゆい女子中学生に会えるかしら~~~」
ルンルン気分で腰を振りつつ、荷台の奥に用意しているミニサイズの泥人形を前方にある台の上に置く。
その泥人形は妙にテッカテカに光っている。
台は滑り台のようになっており、斜面への切り込み部分には火が燃えていた。どうやら、歪虚の一種の模様。
泥人形は知能が低く、モルッキーの言われた通りにしか動かない。ころんと、でんぐり返しをしている最中に種の歪虚と接触する。
表面に着火すると全体に火が回っていき、泥人形は滑り台を転がって滑っていく。
回転しながら滑っていくと、まるでスキージャンプのように飛んで行った。
壁に激突した泥人形は原形を留めずに汚れとなってしまう。暫しのちに大きな爆発となって壁が崩れる。
「あ~れま。思ったより威力あったかしら~~」
今回のビックリ歪虚の試運転だったのに爆発まで起きてしまった。
そして、少し時間を巻き戻して……。
モルッキーがいた壁の向こうではカペラたちが中を歩いていた。
「前回は、小型の歪虚とか引き連れていたのよね。広めのところに出るかも」
思い出しながら呟いているカペラの近くにいたハンターが横の壁に警戒を向ける。
振動が大きくなり、爆発が起きた。
爆風を腕で顔を庇う。風が落ち着くと爆発があった向こうにはグランドワームに乗ったノッポの姿のシルエット。
「あ~れま。思ったより威力あったかしら~~」
呑気な声が爆風の向こうから聞こえ、嫌な予感が全員によぎる。
「その声は! トーチカ一味のモルッキーね!」
前に出たカペラがびしぃ! と、モルッキーと断定した影に指をさす。
「やーねー。ヒトに指をさしちゃダメって、おかあさんに言われなかったぁ~ん?」
先ほど某権利に喧嘩売ろうとしていた奴が言うセリフではない。
モルッキーは指差しにあまり気に留めてなかった。
「でもぉ、結構有名になったのねぇ。これで女子中学生のはぁとはア・タ・シのもの♪」
んふ♪ と、腰をくねらせてポーズをつけるモルッキーにハンター達は言葉が出ない。
「いくらこの地域の成人が大体十四歳以上でも、リアルブルーじゃお縄を頂戴するまでよ!」
カペラが叫ぶと、モルッキーは泥人形を滑り台に転がし、点火させる。
飛び出した泥人形はカペラの方へと飛んでいく。
「てーい!」
タイミングよくカペラが大槌で泥人形を叩き落とすと、小さな爆発が起こった。
「カペラ!」
誰かが叫ぶと、煙の中でカペラが咳き込んでいるシルエットが見えるので生きてはいるだろうが、同行していたテルルが異変に気付く。
「なんか、変じゃねぇか?」
疑問形だが、他のハンターも同意見。
仕事中はボサボサ髪のカペラだが、更にボサボサどころか、なんか髪型が違う。
煙が晴れるとそこには頭部がなぜかアフロになったカペラの姿があった。
「おー! さーっすがアタシ! ちゃんと成功したわーん!」
キャッキャと喜ぶモルッキーにわなわなと震えるカペラ。
「ちょっと! どういう構造でこんな頭になっちゃったのっ。さてはさっき投げた火だるま泥人形ね!」
睨みつけるカペラにモルッキーはケラケラ笑う。
「そう今回のドッキドキ歪虚ちゃんよぉ~~~! 負のマテリアルで髪の毛をアフロにしちゃうわよー!」
なんてバカバカしいものを……と思うが、精神的ショックを受けさせて追い払おうというのが目的なのかもしれない。
「ハンターの皆! 出動よ!」
アフロ姿では締まらないがカペラはハンター達へ叫んだ。
リプレイ本文
幻獣であるテルルをじっと見つめていたのは杢(ka6890)。
一つ一つがふわふわとした羽根は雪のように白く繊細、つぶらな瞳であるものの、どこかに職人じみた眼光を放つ。
しかし、テルルは大抵そんな様子なので気にすることはない。
「おら初めて見だんず。これが『妖怪白饅頭』なんだんずね」
ぽつりと呟く杢の言葉をテルルは聞き逃すことはなく、つぶらな瞳が見開かれる。
「なんだってぇええ!! だぁれだそんなこと、言ってる奴はぁあああ!」
絶叫するテルルを抱えたのはカペラ。
「はいはい、気にしない。この子はテルルっていうの。そう呼んであげて」
カペラが杢へ優しく言葉をかけると彼女は遠い目をする。
「多分、チューダかしら」
無責任に下手人を想像しているカペラだがテルルが降ろせと言い出していたので降ろした。
神殿周りの警備となり、カペラの班はヨアキムとは別動隊となる。
今年の冬に現れ、様々な衝撃を残して撤退したあの歪虚達が再び動いているという事に数名のハンター達が危機を思い浮かぶ。
「また、か……」
ため息交じりに呟いたのはヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)だった。
「また……なのよ」
同じくため息をついてカペラが頷く。
前を歩く二人の話を聞いていたオウガ(ka2124)とカフカ・ブラックウェル(ka0794)は前回の事を思い出しつつ、あんな歪虚がまたかと思う。
大体、三分の一の確率だが現れたのは再びあの女子中学生の恋人、モルッキーであった。
乗り物用歪虚についている台より滑走して、K点越え宜しく跳んできた泥人形はカペラの方へとぶつかる。
「だ、大丈夫……!?」
ティス・フュラー(ka3006)が驚いたように声を上げると、煙の向こうから咳き込むカペラのシルエットが見える。
その様子からして無事であることが分かるが、煙が薄くなるにつれてカペラに異常があることに気づいたのはカフカだ。
「カペラ……?」
否、彼女の体調に関する異常……バッドステータスが発生したというものではなく、シルエットが何か違う。
煙が晴れ、咳き込んでいるが怪我もなく顔が煤けているようなカペラの顔が見える。
テルルほど繊細ではないが、長いカペラの後髪をたっぷり含ませたもっふりとしたアフロ姿のカペラが姿を現す。
頭部が無事でなかった事に気づいたオウガは噴き出しそうになったものの、寸でのところで息を止めて頬を膨らませた。
ぷっくりとした頬を噴き出さないようにゆっくりと戻しつつも、腹からこみあげてくる笑いを大変な目に遭った女性に対して笑うという失礼をしないようにという気遣いを込めて筋肉で黙らせる。
「……だ、…だいじょうぶ……か……」
「無理しなくてもいいのよ?」
寧ろ、心配されているのはオウガの方だ。
試験発射が成功し、テンションが上がっているモルッキーはカペラのケラケラ笑う。
「そう今回のドッキドキ歪虚ちゃんよぉ~~~! 負のマテリアルで髪の毛をアフロにしちゃうわよー!」
キャッキャと喜ぶモルッキーに不思議そうな顔をしているのは万歳丸(ka5665)だ。
「……あ。風呂?」
残念ながらそこにあるのは風呂ではない。例え、イメージ図が出たとしても、湯船に浸かって片足を上げてセクシーポーズをとっているモルッキーなだけである。
現状、目の前にいるのは髪の毛もっさもさになってしまったカペラだ。
「カペラ……おめェ、えれェことなってンな! ぶっはァ!!」
万歳丸のユグディラと一緒に爆笑する万歳丸。
「え、ちょっと!?」
ティスがぱっちりとした緑の瞳を見開いて驚いている。
「んだば、たげかっこええじゃー。イケイケだんずね」
方言が強く出る杢の言葉であるが、とても誉めていることが窺えているのは杢の瞳がキラキラ輝いているからである。
カペラは全く気にしてない模様。
「問題なのは、負のマテリアルで髪を変形させる技術なのか、スキルなのか……よくわかんないけど、アレは決して流出してはいけないと思うの」
きらりと目を光らせるのは要塞内にある帝国管理のドワーフ工房『ド・ウェルク』の現場責任者にして技術者のカペラ。
「あんなのがお父さんの手に渡れば、辺境……いいえ、クリムゾンウェストが混乱に陥るわ!」
何で心配するところはそこなんだとオウガがツッコミを入れたいところだが、半数以上はカペラの父親……通称ドワーフ王ヨアキムの行動の結果を知っている。
「カペラの意見に同意するのじゃ」
きっぱり言い切ったのはヴィルマだ。彼女の目線の先には今回のドッキドッキ歪虚の出来の良さに一人喜んでいるモルッキー。
「また意味不明なものを開発してきおって……」
「……全くその通りだね」
心の底から呆れる声を出すヴィルマに対し地よりも低い声を出したのは俯くカフカだ。
「しかもアフロにさせるって……女の子の髪の毛に何してんだよ」
「え?私は気にしてないのよ? あれ? キアファも妙にやる気?」
カフカの声音にカペラが大丈夫の旨を彼には届いていないようだ。
「万死に値するね」
「うむ。変態の悪巧みはここで破壊するのじゃ!」
顔を上げたカフカは麗しい顔を氷の如くに無表情となり、モルッキーを見据える。その隣に立つヴィルマも厳しい表情でモルッキーに杖を突きつけた。
「あら~ん、よくよくみたら、またかっわゆ~い子ちゃん連れてきているわねぇ~~」
モルッキーの視線をくぎ付けにしているのはティスだ。
「え……」
見た目がモグラで正直挙動がおかしい歪虚の時点で情報過多であるが、カペラがそっと耳打ちをする。
「奴はリアルブルーで言うところの中学校という宿舎に属している女の子が好みなの。その年代があなたくらいなの」
出来る限りの説明をしたが、ティスの顔色が悪くなる。
「お持ち帰りしちゃいたいわ~ん♪ 一緒にこ・な・い?」
モルッキーが腰をくねらせて、最後にばっちりとウィンクをすると、ティスの背筋を寒くした。
「き、きも……っ。わ、私……お持ち帰るなら歪虚以外がいいんだけど……っ」
ぎゅっと、杖を握りしめるティスに杢が前に出る。
「けね、ちゃんと家さ帰ぇるだんず」
可愛らしくも杢の男らしい言葉に万歳丸はそうだと頷く。
「さっさと捻っちまおうぜ」
機甲拳鎚を構える万歳丸の一歩後ろに彼のユグディラも武器を構えていた。
「んも~。ひっどい言われようね~~! 歪虚ちゃん、いってらっしゃ~~い!」
ぷりぷり怒る振りをしてモルッキーが後ろに控えている泥人形たちへと指示をする。
一定のリズムで行進する泥人形たちが滑り台へと上がっていく。
「くるぞ!」
万歳丸と一緒に前に出たオウガが警告を叫ぶ。
「分かったわ!」
応えたのはティスだ。肌を震わせる冷気が嵐となって吹き荒れる。
彼女が発動させたブリザードが狙うのはモルッキーが乗るグランドワームと発火用の火の歪虚。
冷気に火が弱まっていくのが明らかに分かる。
「ちょーっと、がんばってよぉ~~」
驚くモルッキーが乗っているグランドワームも動きが鈍いようだ。
鈍い足でも一定のリズムで火の歪虚まで歩き、弱い火力で小さく発火する。でんぐり返しをして滑り台を転がっていくと泥人形の身体全体に火が回る。
滑り台の先端の踏切板の辺りで器用に立ちポーズとなった泥人形は、ハンター目がけて跳んでいく。
あわやアフロの悲劇再びかと思いきや、ハンター達の前に土の壁が立ちはだかる。
べしゃりという音から爆発音が壁の向こうから聞こえた。
「ちょっと、やるわね~~。連続で行くわよーー!」
狭い間隔で泥人形達が滑っていく。
「俺が相手だぁ!」
壁から出てきた万歳丸が進軍を始める。
「ワイルドなイケメンねぇ。やっちゃいなさ~~い!」
モルッキーの号令共に飛び立つ泥人形が連続して万歳丸の方へと向かっていく。
万歳丸は泥人形の動きを見て盾で自身の身を庇う。
盾で受けた際の衝撃は軽かったが、煙が随分と多く、まともに吸うと喉がやられると万歳丸は金の瞳を眇めて本能的に感じた。
視界確保のために盾を持った腕で煙を払いのける。
「ん……ちぃ」
歯噛みしつつ、万歳丸は頭上を飛ぶ泥人形を睨みつけてすぐにモルッキーを見据えた。
「まだまだぁ! こい!」
万歳丸の目的はモルッキーを狙う事と後衛に泥人形の被害を食い止める事。アースウォールとて、連続攻撃相手では無事ではないからだ。
現に壁がひび割れている。
ゆえに自分が囮となって引き付けようとしていた。
「やるわねぇい!」
モルッキーの闘志に火が付いた模様。
「まとめていくわよーーー!」
ささっとモルッキーが台の上で用意したのは泥人形三体が組体操の扇のように手をつないでいる。
「いってらっしゃーーい!」
容赦なくモルッキーが泥人形達を滑走させた。曲芸技宜しく三体の同時攻撃が万歳丸を襲う。
「受けてやるぜぇええ!」
拳鎚を構える万歳丸は真ん中の泥人形へ拳鎚でパンチした。
発火している泥人形にもかかわらず、豪快な迎撃だ。
右側はヴィルマが発動したアイスボルトが命中し、身体を凍らして地に落ちた。
残った左側の泥人形は万歳丸へ飛び込んでいき、衝撃と煙が彼を襲う。
爆炎が晴れると、万歳丸の緩やかな長髪がアフロに膨れ上がる。しかも、鬼の象徴である額より生えた角はしっかりと目視できた。
「く……なんてことだ。パンチ力が上がっちまったじゃねぇか!」
そのような効果はないが、病は気からということで全員がそうであることを黙って願う。
「敵に塩を送るたァ、大層な心がけじゃァねェかモンッキーとやら!!!」
「名前が違うわよ~~~!」
近くにいた万歳丸のユグディラが弱者の本能で警戒する。見上げると、即座に第二派が跳んでいった。
万歳丸を狙った第一波より飛距離が長いし、一列になっている。
内二体が壁を壊し、最後の一体が後衛のハンターを守るオウガを狙う。
「そうはさせない!」
再びアースウォールを展開したティスがオウガを守る。
「そうは上手く行かないわよぉん」
ティスの言葉をひっかけて返すモルッキーは自分が押すことで加速を得た一回り大きい泥人形がハンター達を襲う。
大きな音を立てて壁が崩れ、その向こうからもう二体飛んできた。
泥人形に狙われたのはヴィルマ。
「危ねぇ!」
「まもるだんず!」
テルルと杢がヴィルマを守ろうとする。
杢は弓を構え、素早く矢を放ち、一体に命中させた。マテリアルをこめた矢を受けた泥人形がハンターとは別な方向へ飛んでいく。
しかし、残った泥人形の対処に間に合わず、爆発音と煙がヴィルマの目の前で広がった。
煙が晴れると杢の髪がねじれてアフロになっており、テルルもまた、いつもより二十パーセント増しでふわふわだ。
お互いに可愛くなっている。
「くっ、更にもふ度をあげよって……!」
思った以上にふわふわの仕上がりに和む気持ちを圧し殺すヴィルマ。隣にいたトレーネは主の思いを奪われた嫉妬をモルッキーへ向ける。
「ちっ! 俺としたことが、人間なんかを守っちまったぜ。さっさと片付けてやらぁ!」
テルルは愛機であるカマキリの方へとかけていく。
「おお……これでイケイケだんず……」
杢はアフロに興味があったので嬉しい模様。
「範囲に入るにはもう少しかかるけど、可愛い子ねぇ」
モルッキーは杢の様子が可愛いらしく、喜んでいる。それに対し、顔をしかめたのはオウガだ。
「杢は男だっつの!」
衝撃の告白にモルッキーは硬直しており、当人はとりあえずこくこくと頷いている。
「ハンターってなんなのよー! 男も女も可愛い子いるなんてぇ!」
逆ギレを始めるモルッキーにティスは嫌そうな顔をしている。
「その間にもガンガンいくわよーー!」
モルッキーは口も仕事も早いようで、ハンター達との掛け合いの合間も泥人形を投げ込んでいく。
「ちょっと、ペース早いわね!」
ティスがアースウォールで対応していくが、モルッキーはタイミングよく壁を壊していく。
飛び込んで来た泥人形をオウガは直撃をしないように対処していった。
一体が飛び込んで来たと思ったが、オウガと激突する際に背負っていたらしい小さめの泥人形が垂直に跳躍した。
先に飛んできた一体をかわしたがその直後にオウガの頭上へ跳躍した残りの一体が落ちてくる。
「んな……っ!」
庇うのが早いか分からない状況でオウガは直撃を受けてしまう。
「なんでもありじゃない……」
呆然とするカペラにモルッキーは「楽しんだもの勝ちよーん」と言っている。
「続けるわ!」
意外と火の歪虚の耐性が強く、ティスはブリザードを再び発動させる。
「ごちゃごちゃ言ってる子には、もう一回いっくわよぉん」
びしいと、指差すモルッキーはカペラの方へと泥人形を連続滑走をさせた。
アースウォールで防いだが、衝撃に耐えきれず崩れてしまう。
最初に泥人形の直撃を受けたカペラが二度目を受ければ髪がどうなるかわからない。
不幸にも、泥人形がカペラの方へと向かっていく。
「カペラ!」
庇ってくれたのはカフカだった。
「カフカくん!」
直撃を受けてアフロになってしまったカフカにカペラは目を丸くする。
「君が受けるよりはいいよ」
「寧ろ、あなたの妹とキアファに申し訳ない……」
本音を口にしたカペラに「大丈夫だよ」とキアファの方を向かず、そっぽを向いたカフカが見た方向はテルルが操るカマキリが前衛に出ていて、万歳丸と一緒にグランドワームの排除に乗り出していた。
「抑えてやるから、どついて叩き落しやがれ!」
「応よ! いくぜ! モンッキー!」
テルルがカマキリを操縦してグランドワームを抑えており、万歳丸がそれに応えてモルッキーがいる台座近くを殴っている。
グランドワームもその衝撃に耐えきれず、うねうねと身悶えしてしてしまう。
「きゃーーー!」
絹を引き裂くとは言い難い声音で悲鳴を上げるモルッキーが膝をついてその辺にしがみつく。
モルッキーが動けないほどの不安定な状態、泥人形もまた動けてなく、ぽろりぽろりと転げ降りている。
その姿を見たオウガが一気に前に出た。
「加勢するぜ!」
万歳丸のいる場所を通り抜けたオウガはグランドワームの後ろの方を重点的に槍で攻撃していく。
痛みに悶えるグランドワームの振動に耐え切れず、モルッキーは台座で転げまわっていた。
その様子を注意深く見ていたのは杢だ。
龍弓に矢を番えている杢は狙いを澄ましてマテリアルを流し込む。構えを固定するために息を止めた。
そっと弦を弾く指を離すと、モルッキー目がけ遠射で矢を更に標的へと飛ばしていく。
「ぎゃぁあ!」
飛来してきた矢は膝を掠る程度であったが、更にヴィルマのアイスボルトがモルッキーの足元に突き刺さり、悲鳴を上げて後退る。
逃げた先……滑り台の縁にスタンバイしている火の歪虚を尻で踏んでしまったモルッキーは絶叫を上げるしかなかった。
「もう一丁だァ!」
クリティカルヒットと言わんばかりに万歳丸の右フックがグランドワームへと入り、それに合わせるようにオウガが槍で突つ。
大きく身をくねるグランドワームは転倒し、投げ出されたモルッキーは見事万歳丸の頭上へと落ちていく。
接触事故かと思いきや、万歳丸はこの機を決して逃さなかった。
「これがお前が増幅したパンチ力だァ!」
違うんですけどというツッコミを入れる余裕もなく、モルッキーはゴム毬のようにボヨンと一度バウンドして顎から落ちる。
「何が全国じょしちゅうがくせいの恋人だよ」
低い低い声はカフカの声だ。
「お前がしている事は全女性に対する冒涜行為なんだよっ!」
声を荒げるカフカは思いっきりモルッキーへライトニングボルトを浴びせた。
前回同様、モルッキーは悲鳴を上げつつ、電撃を食らっているのに反転と骨のような幻影が見えるような気がする。
「さて、モルッキーとやら」
「はい、はい……」
倒れこんでぐったりしているモルッキーへヴィルマが静かに呼びかける。
大人しくしているのは囲まれているからか、ヴィルマがこっそりかけたテンプテーションかは不明だ。
「前も我を可愛いとかぬかしおったな。よく見るが良い。そんなわけなかろう」
「とても可愛いです。姉さん」
正座になって真顔で言われてヴィルマは腹の底からなんだかむずむずするムカつく何かを感じる。おネエ言葉を使う歪虚に言われても嬉しくない。
「ああ、言い忘れておった。冥土の土産に聞かせてやろう……我はフリーではなく既婚者になったのじゃよ」
バァアアアンと効果音が出るかのようにヴィルマは左手に輝く指輪を見せつけた。
「まぁあああ! こんなに可愛いお嫁さんをゲットできるなんて、どこのイケメンかしら!」
悔しがるというか、何故かめでたさを伝えるようなモルッキーの言葉に全員がポカンとする。
「じゃぁじゃぁ、歪虚を代表してぇ……」
もったいぶるかのようにモルッキーが嘯く。
その後ろでは台座から零れて落ちた泥人形が辛うじてまだ燃えている火の歪虚に近づいていた。
「あぶねぇ!」
オウガが叫ぶと、全員が身を庇う。
爆発音と煙が巻き起こり、煙が晴れた時にはモルッキーの姿はなかった。
「逃げられたわね……」
呟くティスにカペラは肩を竦める。
「仕方ないわ。とりあえず、周囲を捜索しましょ。深追いは禁物よ」
この時点で提示された依頼は大方、成功していた。
その後、モルッキーの姿はなかった。
●
ハンター達の疲れを癒してもらうために、カペラは辺境ドワーフの居住区……カペラの家へ招いた。
カペラの母親リナンが髪を戻す用意をして間に男女別の風呂も用意してくれていたので、入りたいハンターは身体を綺麗にする。
アフロになった髪を戻したい者は風呂から上がってから戻していく。
「先に戻してあげるよ」
カフカが待っていてくれていたようであり、カペラが驚いた。
「先に女の子からだよ」
大人しくカペラが髪を直してもらっていると、彼女の母親が「兄妹みたいね」と微笑ましく呟く。
身支度が終わると、リナンが軽食を用意してくれていた。
酒もお茶もあり、用意がいい。
「これは……?」
きょとんとしているヴィルマにリナンは「娘よりご結婚されたと聞きまして、ささやかですが」と言われた。
「ドワーフは酒好きだからな。祝い事があれば酒だ」
オウガが言えば、杢がなるほどと頷く。
「あずましいきくばりだんず」
確かに、厚意は嬉しいものだとヴィルマは納得した。
「ならば、馳走になるか」
相棒のトレーネも頷く。
「皆でお祝いしよう」
「よし、祝杯だァ!」
ティスが声をかけると、万歳丸の景気づけで祝杯を挙げた。
一つ一つがふわふわとした羽根は雪のように白く繊細、つぶらな瞳であるものの、どこかに職人じみた眼光を放つ。
しかし、テルルは大抵そんな様子なので気にすることはない。
「おら初めて見だんず。これが『妖怪白饅頭』なんだんずね」
ぽつりと呟く杢の言葉をテルルは聞き逃すことはなく、つぶらな瞳が見開かれる。
「なんだってぇええ!! だぁれだそんなこと、言ってる奴はぁあああ!」
絶叫するテルルを抱えたのはカペラ。
「はいはい、気にしない。この子はテルルっていうの。そう呼んであげて」
カペラが杢へ優しく言葉をかけると彼女は遠い目をする。
「多分、チューダかしら」
無責任に下手人を想像しているカペラだがテルルが降ろせと言い出していたので降ろした。
神殿周りの警備となり、カペラの班はヨアキムとは別動隊となる。
今年の冬に現れ、様々な衝撃を残して撤退したあの歪虚達が再び動いているという事に数名のハンター達が危機を思い浮かぶ。
「また、か……」
ため息交じりに呟いたのはヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)だった。
「また……なのよ」
同じくため息をついてカペラが頷く。
前を歩く二人の話を聞いていたオウガ(ka2124)とカフカ・ブラックウェル(ka0794)は前回の事を思い出しつつ、あんな歪虚がまたかと思う。
大体、三分の一の確率だが現れたのは再びあの女子中学生の恋人、モルッキーであった。
乗り物用歪虚についている台より滑走して、K点越え宜しく跳んできた泥人形はカペラの方へとぶつかる。
「だ、大丈夫……!?」
ティス・フュラー(ka3006)が驚いたように声を上げると、煙の向こうから咳き込むカペラのシルエットが見える。
その様子からして無事であることが分かるが、煙が薄くなるにつれてカペラに異常があることに気づいたのはカフカだ。
「カペラ……?」
否、彼女の体調に関する異常……バッドステータスが発生したというものではなく、シルエットが何か違う。
煙が晴れ、咳き込んでいるが怪我もなく顔が煤けているようなカペラの顔が見える。
テルルほど繊細ではないが、長いカペラの後髪をたっぷり含ませたもっふりとしたアフロ姿のカペラが姿を現す。
頭部が無事でなかった事に気づいたオウガは噴き出しそうになったものの、寸でのところで息を止めて頬を膨らませた。
ぷっくりとした頬を噴き出さないようにゆっくりと戻しつつも、腹からこみあげてくる笑いを大変な目に遭った女性に対して笑うという失礼をしないようにという気遣いを込めて筋肉で黙らせる。
「……だ、…だいじょうぶ……か……」
「無理しなくてもいいのよ?」
寧ろ、心配されているのはオウガの方だ。
試験発射が成功し、テンションが上がっているモルッキーはカペラのケラケラ笑う。
「そう今回のドッキドキ歪虚ちゃんよぉ~~~! 負のマテリアルで髪の毛をアフロにしちゃうわよー!」
キャッキャと喜ぶモルッキーに不思議そうな顔をしているのは万歳丸(ka5665)だ。
「……あ。風呂?」
残念ながらそこにあるのは風呂ではない。例え、イメージ図が出たとしても、湯船に浸かって片足を上げてセクシーポーズをとっているモルッキーなだけである。
現状、目の前にいるのは髪の毛もっさもさになってしまったカペラだ。
「カペラ……おめェ、えれェことなってンな! ぶっはァ!!」
万歳丸のユグディラと一緒に爆笑する万歳丸。
「え、ちょっと!?」
ティスがぱっちりとした緑の瞳を見開いて驚いている。
「んだば、たげかっこええじゃー。イケイケだんずね」
方言が強く出る杢の言葉であるが、とても誉めていることが窺えているのは杢の瞳がキラキラ輝いているからである。
カペラは全く気にしてない模様。
「問題なのは、負のマテリアルで髪を変形させる技術なのか、スキルなのか……よくわかんないけど、アレは決して流出してはいけないと思うの」
きらりと目を光らせるのは要塞内にある帝国管理のドワーフ工房『ド・ウェルク』の現場責任者にして技術者のカペラ。
「あんなのがお父さんの手に渡れば、辺境……いいえ、クリムゾンウェストが混乱に陥るわ!」
何で心配するところはそこなんだとオウガがツッコミを入れたいところだが、半数以上はカペラの父親……通称ドワーフ王ヨアキムの行動の結果を知っている。
「カペラの意見に同意するのじゃ」
きっぱり言い切ったのはヴィルマだ。彼女の目線の先には今回のドッキドッキ歪虚の出来の良さに一人喜んでいるモルッキー。
「また意味不明なものを開発してきおって……」
「……全くその通りだね」
心の底から呆れる声を出すヴィルマに対し地よりも低い声を出したのは俯くカフカだ。
「しかもアフロにさせるって……女の子の髪の毛に何してんだよ」
「え?私は気にしてないのよ? あれ? キアファも妙にやる気?」
カフカの声音にカペラが大丈夫の旨を彼には届いていないようだ。
「万死に値するね」
「うむ。変態の悪巧みはここで破壊するのじゃ!」
顔を上げたカフカは麗しい顔を氷の如くに無表情となり、モルッキーを見据える。その隣に立つヴィルマも厳しい表情でモルッキーに杖を突きつけた。
「あら~ん、よくよくみたら、またかっわゆ~い子ちゃん連れてきているわねぇ~~」
モルッキーの視線をくぎ付けにしているのはティスだ。
「え……」
見た目がモグラで正直挙動がおかしい歪虚の時点で情報過多であるが、カペラがそっと耳打ちをする。
「奴はリアルブルーで言うところの中学校という宿舎に属している女の子が好みなの。その年代があなたくらいなの」
出来る限りの説明をしたが、ティスの顔色が悪くなる。
「お持ち帰りしちゃいたいわ~ん♪ 一緒にこ・な・い?」
モルッキーが腰をくねらせて、最後にばっちりとウィンクをすると、ティスの背筋を寒くした。
「き、きも……っ。わ、私……お持ち帰るなら歪虚以外がいいんだけど……っ」
ぎゅっと、杖を握りしめるティスに杢が前に出る。
「けね、ちゃんと家さ帰ぇるだんず」
可愛らしくも杢の男らしい言葉に万歳丸はそうだと頷く。
「さっさと捻っちまおうぜ」
機甲拳鎚を構える万歳丸の一歩後ろに彼のユグディラも武器を構えていた。
「んも~。ひっどい言われようね~~! 歪虚ちゃん、いってらっしゃ~~い!」
ぷりぷり怒る振りをしてモルッキーが後ろに控えている泥人形たちへと指示をする。
一定のリズムで行進する泥人形たちが滑り台へと上がっていく。
「くるぞ!」
万歳丸と一緒に前に出たオウガが警告を叫ぶ。
「分かったわ!」
応えたのはティスだ。肌を震わせる冷気が嵐となって吹き荒れる。
彼女が発動させたブリザードが狙うのはモルッキーが乗るグランドワームと発火用の火の歪虚。
冷気に火が弱まっていくのが明らかに分かる。
「ちょーっと、がんばってよぉ~~」
驚くモルッキーが乗っているグランドワームも動きが鈍いようだ。
鈍い足でも一定のリズムで火の歪虚まで歩き、弱い火力で小さく発火する。でんぐり返しをして滑り台を転がっていくと泥人形の身体全体に火が回る。
滑り台の先端の踏切板の辺りで器用に立ちポーズとなった泥人形は、ハンター目がけて跳んでいく。
あわやアフロの悲劇再びかと思いきや、ハンター達の前に土の壁が立ちはだかる。
べしゃりという音から爆発音が壁の向こうから聞こえた。
「ちょっと、やるわね~~。連続で行くわよーー!」
狭い間隔で泥人形達が滑っていく。
「俺が相手だぁ!」
壁から出てきた万歳丸が進軍を始める。
「ワイルドなイケメンねぇ。やっちゃいなさ~~い!」
モルッキーの号令共に飛び立つ泥人形が連続して万歳丸の方へと向かっていく。
万歳丸は泥人形の動きを見て盾で自身の身を庇う。
盾で受けた際の衝撃は軽かったが、煙が随分と多く、まともに吸うと喉がやられると万歳丸は金の瞳を眇めて本能的に感じた。
視界確保のために盾を持った腕で煙を払いのける。
「ん……ちぃ」
歯噛みしつつ、万歳丸は頭上を飛ぶ泥人形を睨みつけてすぐにモルッキーを見据えた。
「まだまだぁ! こい!」
万歳丸の目的はモルッキーを狙う事と後衛に泥人形の被害を食い止める事。アースウォールとて、連続攻撃相手では無事ではないからだ。
現に壁がひび割れている。
ゆえに自分が囮となって引き付けようとしていた。
「やるわねぇい!」
モルッキーの闘志に火が付いた模様。
「まとめていくわよーーー!」
ささっとモルッキーが台の上で用意したのは泥人形三体が組体操の扇のように手をつないでいる。
「いってらっしゃーーい!」
容赦なくモルッキーが泥人形達を滑走させた。曲芸技宜しく三体の同時攻撃が万歳丸を襲う。
「受けてやるぜぇええ!」
拳鎚を構える万歳丸は真ん中の泥人形へ拳鎚でパンチした。
発火している泥人形にもかかわらず、豪快な迎撃だ。
右側はヴィルマが発動したアイスボルトが命中し、身体を凍らして地に落ちた。
残った左側の泥人形は万歳丸へ飛び込んでいき、衝撃と煙が彼を襲う。
爆炎が晴れると、万歳丸の緩やかな長髪がアフロに膨れ上がる。しかも、鬼の象徴である額より生えた角はしっかりと目視できた。
「く……なんてことだ。パンチ力が上がっちまったじゃねぇか!」
そのような効果はないが、病は気からということで全員がそうであることを黙って願う。
「敵に塩を送るたァ、大層な心がけじゃァねェかモンッキーとやら!!!」
「名前が違うわよ~~~!」
近くにいた万歳丸のユグディラが弱者の本能で警戒する。見上げると、即座に第二派が跳んでいった。
万歳丸を狙った第一波より飛距離が長いし、一列になっている。
内二体が壁を壊し、最後の一体が後衛のハンターを守るオウガを狙う。
「そうはさせない!」
再びアースウォールを展開したティスがオウガを守る。
「そうは上手く行かないわよぉん」
ティスの言葉をひっかけて返すモルッキーは自分が押すことで加速を得た一回り大きい泥人形がハンター達を襲う。
大きな音を立てて壁が崩れ、その向こうからもう二体飛んできた。
泥人形に狙われたのはヴィルマ。
「危ねぇ!」
「まもるだんず!」
テルルと杢がヴィルマを守ろうとする。
杢は弓を構え、素早く矢を放ち、一体に命中させた。マテリアルをこめた矢を受けた泥人形がハンターとは別な方向へ飛んでいく。
しかし、残った泥人形の対処に間に合わず、爆発音と煙がヴィルマの目の前で広がった。
煙が晴れると杢の髪がねじれてアフロになっており、テルルもまた、いつもより二十パーセント増しでふわふわだ。
お互いに可愛くなっている。
「くっ、更にもふ度をあげよって……!」
思った以上にふわふわの仕上がりに和む気持ちを圧し殺すヴィルマ。隣にいたトレーネは主の思いを奪われた嫉妬をモルッキーへ向ける。
「ちっ! 俺としたことが、人間なんかを守っちまったぜ。さっさと片付けてやらぁ!」
テルルは愛機であるカマキリの方へとかけていく。
「おお……これでイケイケだんず……」
杢はアフロに興味があったので嬉しい模様。
「範囲に入るにはもう少しかかるけど、可愛い子ねぇ」
モルッキーは杢の様子が可愛いらしく、喜んでいる。それに対し、顔をしかめたのはオウガだ。
「杢は男だっつの!」
衝撃の告白にモルッキーは硬直しており、当人はとりあえずこくこくと頷いている。
「ハンターってなんなのよー! 男も女も可愛い子いるなんてぇ!」
逆ギレを始めるモルッキーにティスは嫌そうな顔をしている。
「その間にもガンガンいくわよーー!」
モルッキーは口も仕事も早いようで、ハンター達との掛け合いの合間も泥人形を投げ込んでいく。
「ちょっと、ペース早いわね!」
ティスがアースウォールで対応していくが、モルッキーはタイミングよく壁を壊していく。
飛び込んで来た泥人形をオウガは直撃をしないように対処していった。
一体が飛び込んで来たと思ったが、オウガと激突する際に背負っていたらしい小さめの泥人形が垂直に跳躍した。
先に飛んできた一体をかわしたがその直後にオウガの頭上へ跳躍した残りの一体が落ちてくる。
「んな……っ!」
庇うのが早いか分からない状況でオウガは直撃を受けてしまう。
「なんでもありじゃない……」
呆然とするカペラにモルッキーは「楽しんだもの勝ちよーん」と言っている。
「続けるわ!」
意外と火の歪虚の耐性が強く、ティスはブリザードを再び発動させる。
「ごちゃごちゃ言ってる子には、もう一回いっくわよぉん」
びしいと、指差すモルッキーはカペラの方へと泥人形を連続滑走をさせた。
アースウォールで防いだが、衝撃に耐えきれず崩れてしまう。
最初に泥人形の直撃を受けたカペラが二度目を受ければ髪がどうなるかわからない。
不幸にも、泥人形がカペラの方へと向かっていく。
「カペラ!」
庇ってくれたのはカフカだった。
「カフカくん!」
直撃を受けてアフロになってしまったカフカにカペラは目を丸くする。
「君が受けるよりはいいよ」
「寧ろ、あなたの妹とキアファに申し訳ない……」
本音を口にしたカペラに「大丈夫だよ」とキアファの方を向かず、そっぽを向いたカフカが見た方向はテルルが操るカマキリが前衛に出ていて、万歳丸と一緒にグランドワームの排除に乗り出していた。
「抑えてやるから、どついて叩き落しやがれ!」
「応よ! いくぜ! モンッキー!」
テルルがカマキリを操縦してグランドワームを抑えており、万歳丸がそれに応えてモルッキーがいる台座近くを殴っている。
グランドワームもその衝撃に耐えきれず、うねうねと身悶えしてしてしまう。
「きゃーーー!」
絹を引き裂くとは言い難い声音で悲鳴を上げるモルッキーが膝をついてその辺にしがみつく。
モルッキーが動けないほどの不安定な状態、泥人形もまた動けてなく、ぽろりぽろりと転げ降りている。
その姿を見たオウガが一気に前に出た。
「加勢するぜ!」
万歳丸のいる場所を通り抜けたオウガはグランドワームの後ろの方を重点的に槍で攻撃していく。
痛みに悶えるグランドワームの振動に耐え切れず、モルッキーは台座で転げまわっていた。
その様子を注意深く見ていたのは杢だ。
龍弓に矢を番えている杢は狙いを澄ましてマテリアルを流し込む。構えを固定するために息を止めた。
そっと弦を弾く指を離すと、モルッキー目がけ遠射で矢を更に標的へと飛ばしていく。
「ぎゃぁあ!」
飛来してきた矢は膝を掠る程度であったが、更にヴィルマのアイスボルトがモルッキーの足元に突き刺さり、悲鳴を上げて後退る。
逃げた先……滑り台の縁にスタンバイしている火の歪虚を尻で踏んでしまったモルッキーは絶叫を上げるしかなかった。
「もう一丁だァ!」
クリティカルヒットと言わんばかりに万歳丸の右フックがグランドワームへと入り、それに合わせるようにオウガが槍で突つ。
大きく身をくねるグランドワームは転倒し、投げ出されたモルッキーは見事万歳丸の頭上へと落ちていく。
接触事故かと思いきや、万歳丸はこの機を決して逃さなかった。
「これがお前が増幅したパンチ力だァ!」
違うんですけどというツッコミを入れる余裕もなく、モルッキーはゴム毬のようにボヨンと一度バウンドして顎から落ちる。
「何が全国じょしちゅうがくせいの恋人だよ」
低い低い声はカフカの声だ。
「お前がしている事は全女性に対する冒涜行為なんだよっ!」
声を荒げるカフカは思いっきりモルッキーへライトニングボルトを浴びせた。
前回同様、モルッキーは悲鳴を上げつつ、電撃を食らっているのに反転と骨のような幻影が見えるような気がする。
「さて、モルッキーとやら」
「はい、はい……」
倒れこんでぐったりしているモルッキーへヴィルマが静かに呼びかける。
大人しくしているのは囲まれているからか、ヴィルマがこっそりかけたテンプテーションかは不明だ。
「前も我を可愛いとかぬかしおったな。よく見るが良い。そんなわけなかろう」
「とても可愛いです。姉さん」
正座になって真顔で言われてヴィルマは腹の底からなんだかむずむずするムカつく何かを感じる。おネエ言葉を使う歪虚に言われても嬉しくない。
「ああ、言い忘れておった。冥土の土産に聞かせてやろう……我はフリーではなく既婚者になったのじゃよ」
バァアアアンと効果音が出るかのようにヴィルマは左手に輝く指輪を見せつけた。
「まぁあああ! こんなに可愛いお嫁さんをゲットできるなんて、どこのイケメンかしら!」
悔しがるというか、何故かめでたさを伝えるようなモルッキーの言葉に全員がポカンとする。
「じゃぁじゃぁ、歪虚を代表してぇ……」
もったいぶるかのようにモルッキーが嘯く。
その後ろでは台座から零れて落ちた泥人形が辛うじてまだ燃えている火の歪虚に近づいていた。
「あぶねぇ!」
オウガが叫ぶと、全員が身を庇う。
爆発音と煙が巻き起こり、煙が晴れた時にはモルッキーの姿はなかった。
「逃げられたわね……」
呟くティスにカペラは肩を竦める。
「仕方ないわ。とりあえず、周囲を捜索しましょ。深追いは禁物よ」
この時点で提示された依頼は大方、成功していた。
その後、モルッキーの姿はなかった。
●
ハンター達の疲れを癒してもらうために、カペラは辺境ドワーフの居住区……カペラの家へ招いた。
カペラの母親リナンが髪を戻す用意をして間に男女別の風呂も用意してくれていたので、入りたいハンターは身体を綺麗にする。
アフロになった髪を戻したい者は風呂から上がってから戻していく。
「先に戻してあげるよ」
カフカが待っていてくれていたようであり、カペラが驚いた。
「先に女の子からだよ」
大人しくカペラが髪を直してもらっていると、彼女の母親が「兄妹みたいね」と微笑ましく呟く。
身支度が終わると、リナンが軽食を用意してくれていた。
酒もお茶もあり、用意がいい。
「これは……?」
きょとんとしているヴィルマにリナンは「娘よりご結婚されたと聞きまして、ささやかですが」と言われた。
「ドワーフは酒好きだからな。祝い事があれば酒だ」
オウガが言えば、杢がなるほどと頷く。
「あずましいきくばりだんず」
確かに、厚意は嬉しいものだとヴィルマは納得した。
「ならば、馳走になるか」
相棒のトレーネも頷く。
「皆でお祝いしよう」
「よし、祝杯だァ!」
ティスが声をかけると、万歳丸の景気づけで祝杯を挙げた。
依頼結果
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相談卓 ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/08/10 03:23:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/09 07:05:59 |