ゾンビと安眠の不思議な関係

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/08 09:00
完成日
2017/08/15 22:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ある雨の日、盗賊たちは貴族の館へ忍びこんだ。
 館といっても没落した貴族のもので、見張りなどは皆無である。そんなことだから、侵入するのはわけなかった。
 宝物庫の鍵を壊すのは簡単だった。中身は、その零落ぶりをしめすように閑散としていた。
 しかし、その中に、一際大きな宝石がはめ込まれた首飾りがあった。深い深い海の底のような青と緑が混じり合う極上の貴石。その周りを彩る装飾もとても豪華かつ精緻なものであったが、あの貴石にはおよぶまい。一目見てわかった。あれはとんでもない値打ちものだ。数々の宝を強奪してきた盗賊たちであったが、あれほどのものは見たことがない。
 この館の主人にとってもそれは大切なもののようで、特別に祭壇がしつらえられていた。あれに比べれば、そこらの宝なぞクズに等しい。あれを奪わずに何を奪うのか。だが、ひとつ問題があった。なんだか、あれには近づきたくない……そう思わせる何かがあった。
 だから、盗賊たちは迷ったのだ。
「あれはなんだか不吉な感じがする。盗賊なんて褒められないことをしているおれがいうのもなんだが、あれだけはやめておこう」
「いや、おれたちゃ盗賊だ。おれらより不吉なものなんてそうそうない。それに、あんなお宝を見逃しちゃ、盗賊の名折れだぜ」
「ちげえねえ」
「しかし、あれ以外めぼしいものはありませんぜ。もっとも他が霞んで見えるだけかもしれませんがね」
「いや、おれは反対だ」
「チキン野郎め、そんな弱腰じゃこれから思いやられるわな。いっそここで死んでおくか」
「ちげえねえ。しかし、不思議な首飾り置きでさあ。祭壇みてえだ」
「そりゃそうだ。人が減れば取り分が増えるもんな」
「あれは不吉だ」
「あんな祭壇なんぞがあるからへんに見えるんだ。こんなもの、壊してしまえばいい」
「まったく、ちげえありませんぜ。こんなものがなければ、ただの首飾りでさあ。これで、いつもの獲物に早変わり」
「確かに不吉だ、でもそれ以上の価値がある。売りさばいちまえば、それでおさらばだ。それきりの縁じゃないか。ちょっとの間我慢すりゃあ、あとは遊び放題だぜ。どっちを取るかいうまでもねえ」
「やめよう、やめよう」
「だったら、てめえはとっとと帰んな」
「ちげえねえ」
「ちょっと落ち着こうぜ、兄弟。こんな宝石なんて見たから、みんな興奮してやがるんだ」
「そうだ、おれは冷静だ。おかしいのはお前の方だ」
「なんてこった。殺しちまいやがった。これで喧嘩は終わりにちげえねえ」
「なんてことするんだ、おれたちゃ盗賊だ。でも、仲間を殺すことはないだろう」
「こいつが仲間だって? 冗談よせよ。おれは最初からこいつが嫌いだったんだ。すぐ頭に血が上って、いさかいの元だったじゃねえか」
「ちげえねえ、ちげえねえ」
「わかった、もうよしてくれ。死体は持って帰ろう。今日はそれで終わりだ。警備がザルだからって、こんな館に来るんじゃなかったぜ」
「そうだな。長居は無用だ。こんなことは悪夢だ」
「ちげえねえ」
「よし、これで終わりだ」
「何しやがる、おれを刺しやがったな」
「こいつは致命傷だ。ちげえねえぜ」
「仲間を殺した人間と一緒に居られるか」
「あ、あ、痛みが引いていく。何も感じなくなっていく」
「これで取り分が増えたな。ばかなおれでもそれくらいわかる。ちげえありませんぜ」
「そうだ、頭はよくなかったが気のいい奴らだった」
「ちげえねえ。だから、おれに刃を向けるのはよしてくれ!」
「だめだ。一人をやったら、あとは全員だ。さよなら兄弟。ああ、赤い血が流れていく。これでおれひとりだ。じゃあ、おれもさよならだ。ごめんよ兄弟。すぐにいくぜ。地獄でまた仲良くやろうや」

 ハンターオフィスに若い男がやってきた。顔立ちから高貴なものを感じさせるが、服装はいささかやつれており、ちぐはぐな印象を受ける。彼は没落貴族であり、代々の館と、宝物庫に幾らかの財産があるくらいで、生活は普通の市民とさほど変わらないらしい。
 ある日、館内を見回っていた時、宝物庫の鍵が壊れているのに気づいた。盗賊が忍び込んだのである。あわてて中を確認すると、そこには互いに争って死んだ盗賊の死体が4つあった。腰を抜かしていると、それらがぬっと動き出した。襲ってきたので、命からがら逃げ出し、こうして依頼を持ち込んだのだという。
 傍に控えていたハンターオフィスの職員が情報を補足する。
「どうやら、宝物庫にあった宝石というのが曰くつきのもので、かつて、これを巡る争いが度々おこったらしいの。やがてそれには負のマテリアルが蓄積され、たまたま忍び込んだ盗賊が、経緯はともかくお互いに殺しあった結果、ゾンビとして蘇った」
「あれは、家宝であると同時に呪われた宝石です。ふりつもった恨みなどによるマテリアルの乱れを鎮めるために、蔵の中に祭壇を作りそこへ安置していたのです」
「で、そのゾンビたちだけど、その宝石を守るように陣取っていて、そんな館では安心して生活できないから駆除してくれ、というのが今回の依頼です」
「それと、ついでといってはなんですが……できれば、祭壇の再設営も頼みたいのです。資材はこちらで用意しますから、肉体労働をお願いしたく……」
 男の体は見るからに貧弱で、筋肉とは無縁であった。
「いまは安い宿屋を借りているんですけど僕はベッドがかわるとなかなか寝られないたちでして……。僕の安眠のためにもなにとぞ宜しくお願いします」
 男は寝不足で虚ろな目で懇願した。

リプレイ本文

 館内には、盗賊が残したらしい泥のついた足跡がまだ残っていた。
 ハンター達を案内する主人の男は、自分の屋敷であるにもかかわらず、宝物庫前の廊下でうごめくゾンビを怖がってかびくつく足取りである。
 その様子を見て、ルド ヴァーシュ(ka6788)が疑問を投げかける。
「件の宝石は祭壇に安置されていたそうだが、盗賊達の自業自得とはいえこのような事件がおきた。これでは、真に宝石の災厄を封じているとは言えないと思う。……まさか定期的に贄を捧げる必要があり、わざと不完全な封印をしているわけじゃないよな?」
「ま、まさか! そんなわけないじゃないですか!」
 主人の男は慌てて否定する。
「ただ、そういう呪いも含めて我々の遺産だとのたまった先祖がいてですね、その結果中途半端な祭壇でお茶を濁していたわけです……そのうちに、我が一族は没落して、正式なお祓いをする金銭的余裕もなくなってしまったと言うわけです」
 自分だけのせいじゃないとことを強調する男だった。
「だからこそ、ボクらの様な役割が必要なんだろうけどねぇ」
 ヒース・R・ウォーカー(ka0145)が気だるそうな口調で言った。
 一行はついに、宝物庫へ至る階段にたどり着く。ここを降れば戦闘がはじまるのだ。
「……聖導士の端くれとしては、不浄なる亡者を放置しておくわけにはいきません。速やかにあるべき場所へ送り返して差し上げないといけませんわね。微力ですが尽力させて頂きますね」
 日下 菜摘(ka0881)は、眼鏡の位置を直しながら宣言する。
「さて、ゾンビと戦うのはどんなものかな」
 階段の先の闇を見つめながら、ムディル(ka6175)はまだ見ぬ敵に想いを馳せる。
「あの、僕は戦闘の役には立たないので、ここで待っていますね」
 主人の男はすでに、階段の入り口からずいぶん離れたところにいた。ゾンビがよほど怖いらしい。
「じゃあ、行ってくるね。ゾンビ退治が終わったら呼びにくるよ」
 セレス・フュラー(ka6276)が男にしばしの別れを告げて、ハンター達は階段を下っていく。
 その、最後尾にいた神立 雷音(ka6136)は、主人の男を振り返った。そして、盗賊達のつけた泥の足跡を不思議そうに眺めた。

 薄暗い廊下には、ゾンビ達が陣取っている。侵入者に気付いたのか、がちがちと歯を打ち鳴らして警戒する。
 最初に、ヒースが動き出した。
「新調した装備の性能、確かめさせてもらおうかぁ」
 言うや否や、ゾンビ達の間を疾風となり駆け抜けた。遅れて、鮮血が爆ぜる。
 その風の終点に、藍色のリボンが舞う。赤い髪から覗く金色の瞳が薄闇に煌めく。
 それにもっとも早く反応したのは短剣を握るゾンビだった。侵入者を退治せんと閃く刃を、ルドの放った矢が弾いた。
「……不浄なる者、己が居るべき場所へ還るがよい!」
 菜摘が、剣の切っ先に白い光の弾を紡ぐ。その光が菜摘の柔和な美貌を凄絶に照らす。それは、矢をつがえようとしたゾンビに着弾し、矢を木端と吹き飛ばす。
 いくつかの射撃が、ゾンビ達を牽制する。
 ついに彼らも自分たちが明確な殺意のもと襲撃されているのだと理解したらしい。最奥のゾンビが剣を掲げて唸った。地の底から這い出るようなうめき声が廊下に充満する。
 それに呼応して、斧を持つゾンビがその武器を振り回し、これ以上侵入させまいと行動でしめす。
 その前に、覚醒により山羊の角をはやしたムディルが躍り出た。
「刀に銃に、今回は拳と脚で戦うか。今回の相性はどうかな」
 精霊の加護を纏いながら、その手に装備したナックルを己の肉体の延長線として構える。
「よし、もうひとっ飛びしよかぁ」
 再び、ヒースは颶風となる。その両脚に生えた歪な翼で空気を捉えて、さらに奥へ−−−−剣を持つゾンビを飛び越えて、宝物庫の壊れた扉の前まで飛翔した。
 その時である。ゾンビ達が一斉に振り返った。最奥にいたゾンビは、背後のヒースを宝石に近づけまいと徒手を伸ばす。ヒースはそれをひらりと避けて、不敵に笑った。
「驚いたかい?」
「今です!」
 敵の注目がヒースに集まっているところへ、菜摘の号令が響き渡る。
 ゾンビ達の背中に矢と魔法が射掛けられる。見事に命中したそこへ、さらなる追撃が仕掛けられた。

「まったく、そっちばかり向いてないでよね。あたしの初めてのステージなんだから……雰囲気が暗すぎるし、観客も死んだような目してるっていうか死んでるのが気になるけど、まあそこはそれ」
 かつん、と踵を打ち付ける音。それは繰り返され、徐々に拍子を刻んでいく。
 暗い通路に花の嵐が吹いたかと思うほど華やかな舞だった。ゾンビですら、それに目を奪われる。
「隙ありっ!」
 短剣をもつゾンビへとセレスが毒をまとう斬撃を放つ。ゾンビの胸を浅く抉った。
 短剣を携えるゾンビは、自らが非力なことはよくわかっていた。それに目をつけたセレスは一騎打ちを挑んできたのだ。で、あるならば−−−−

 壁を蹴る音がした。続いて天井からも聞こえる。射手のゾンビがそちらの方向へ振り向くが誰もいない。周囲を確認すると、視界の隅に閃く白い影を見た。
 刹那、ゾンビの体に衝撃が走る。膝をついた彼が見たものは、四足歩行の白い姿、獣のように低い姿勢の雷音であった。
 にい、と雷音は笑う。その体から、雷光の如きオーラをほとばしらせて、雷音は弓の間合いの内側へ踏み込む。
 ゾンビもそれを察した。腰につけていた短剣を抜き、雷音の首を斬りつけるが、手応えはなく、行き場を失った力にゾンビの体はよろめいた。
 極低姿勢の前方回転でそれを避けた雷音は、ゾンビに体を密着させ、完全なる零距離で抜刀する。
 かちり、と鯉口を切る音。現れる白黄色の刀身。一閃、ゾンビの体を断ち割った。
 即座に納刀され、輝く刀身は夢のように鞘の中に戻っていく。
 その様はまるで−−−−曇天に走る雷霆のようであった。

 弓をもつ仲間が倒れるのを、剣士のゾンビが虚な眼球で見ていた。
「余所見とは余裕だねぇ」
 ヒースがワイヤーを巡らせて敵の進路を断つ。
 思うように動けないゾンビがいらだたしげに剣を振り回す。敵を斬りつけたと思いきや、それは霞のように消えていった。
「生き残るための戦いってのもあるんでねぇ」
 残像をつかまされたのだ。
 ヒースはワイヤーを繰りゾンビを翻弄する。髪に結わえた藍色のリボンが揺れた。
 それに気を取られていると、肩に矢が突き立つ。
「まったく、脇見をしている敵なんて良い的だな」
 的確な射撃でゾンビの体力を削っていく、猟撃士のルドだった。闇の中でなお恐ろしいほど黒い瞳が、急所を射んと矢をつがえ、照準をあわせる。
 剣士のゾンビは今一度、まだ動ける仲間−−−−斧と短剣のゾンビを見やる。
 まだ、終わらない。ゾンビ達の死した瞳に凶暴な光が点り始めた。

 短剣をもったゾンビは、するりとセレスの脇をすり抜けた。そのまま、彼は斧を持つ仲間の元へ駆けていく。彼は、拳を振り抜いた無防備なムディルの脇腹へ、歪な短剣を突き立てた。
 焼けるような痛みと、蛇が体内で這いずり回るような悪寒がムディルを襲う。これを好機とみたか、斧のゾンビは大上段に武器を構え、渾身の一撃を振り下ろした。
 しかし、セレスがムディルを突き飛ばした。
 転がってキルゾーンから逃れる二人。
 振り下ろされた斧は、床にクレーターを作っていた。柄を握るゾンビは、ムディルとセレスに恨めしそうなうめき声をかける。
「セレスさん、大丈夫ですか!?」
「へーき。これくらいハンターなら耐えなきゃ。それに、ステージの上では笑顔でいないとね」
 慮るムディルに、セレスは笑顔を見せる。しかし、その太ももからは大量の出血があった。
「いま、手当てをします! ルドさん、援護お願いします」
「わかっているよ」
 菜摘は回復魔法をムディルとセレスに施す。
 ルドは、その矢を惜しげもなく射掛けてゾンビ達を近づけまいとする。
 それでも、短剣をもったゾンビがその弾幕を抜けてきた。とどめを刺さんと走り出すところを、頭上か現れた雷音が一太刀斬りつける。
 思わぬ強襲者に、短剣はじたばたと暴れた。それでも、蛇のように体をくねらせて続く雷音の攻撃は回避する。
「もう大丈夫−−−−加勢感謝します」
 ムディルが立ち上がった。
「やられたままでいられないし……あたしを無視しないでよね?」
 セレスも戦線に復帰し、短剣のゾンビへ不敵な笑みで立ち向かう。
「神立さんはヒースさんの援護を。あのゾンビが連携の要ですからね」
 菜摘がが、作戦を提示する。
「……多少の負傷ならば、わたしの術で回復可能です。思い切って戦って下さい」

 ひとりで剣を持つゾンビを相手にするヒースは、巧妙に攻撃を避け続けていた。しかし、両者ともダメージの蓄積は免れない。
 ワイヤーが敵の行動を絡め取る。ゾンビは傷など御構い無しに一歩を踏み出す。
 そこへ矢と刃が叩き込まれた。
「待たせた。手早く倒そうか」
 と、ルド。
 雷音は、にこにこと居合の構えをとる。
「じゃ、ボクもがんばりますかねぇ」
 ヒースがワイヤーをしならせて、今一度残酷な包囲網を展開する。

 セレスが踊る。くるくる踊りながら剣で切りつける。
 ゾンビはそれを避けようとしたが、鞭がその脚に巻きついて動きを阻害した。
「もうさっきみたいなことはさせないからね!」
 短剣のゾンビは、がちがちと汚い歯を打ち合わせてセレスを威嚇する。

 ムディルがマテリアルを込めた打撃を斧のゾンビへと叩き込む。ゾンビは斧でぐるりと周囲をなぎ払うも、ムディルは身を屈めて、それをやり過ごす。
「大ぶりですね。やはり、仲間がいてこその攻撃でしょうか」
 ムディルは屈んだ体勢から、勢いよく掌底でゾンビの顎をうち抜いた。

 ヒースは脚にはえた歪な翼で風を掴むように残像をつくり、ワイヤーを操り。
 雷音はその体に浮かび上がる文様を軌跡として、縦横無尽に跳ね回る。
 そして−−−−その間を、ゾンビへ2度目の死を運ぶ矢が飛んでゆく。
 ルドは矢を放った瞬間に、当たった、と思った。
 射手としての勘が告げていた。今のは急所を打ち抜いたと。
 その矢は、ゾンビの眉間にはっしと突き刺さった。
 ゾンビは、顔面に突き立った矢を確認しようと視線を動かし、そのままぐるりと眼球を回転させて、どうと倒れた。剣が甲高い音を立てて床に転がる。その体はやがて、ヒースと雷音による夥しい傷口から塵となって霧散した。

 残ったゾンビ2体の体がぞくりと震え、口からは折れた歯の間から切なそうな空気が漏れた。
 どうやら、生前にリーダーであった者の死を理解しているらしい。
 斧を振り回す。それは、攻撃とは程遠い駄々をこねるかのような動き。
 そんなものに当たるムディルではない。
 1撃目、もう避けることなど考えていないらしい敵へ拳が放たれる。
 2撃目、それは、斧を握っていた右手にあたり、そのまま腕を吹き飛ばした。
 3撃目、ゾンビは膝をついた。その胸へ、とどめの拳が噛み付いた。
 ゾンビの胸が波打ち、骨や内臓が壊れる音がした。死体とはいえ、あれほどまでに人体を破壊されてしまっては、もう立ち上がることはないだろう。
 吹き飛ばされた斧が宙を舞って、床へと突き立った。その衝撃で柄を握ったままの腕が湿った音を立てて落下した。
 かつての仲間が塵に還元されるのを見て、短剣のゾンビは逃げ出した。しかし、その行く手にはハンターがいる。
 ゾンビは最後に、菜摘に刃を突き立てた。右腕で受けた菜摘は、痛みに呻くこともせずに静かに告げる。
「もう、安らかに眠りなさい……」
 菜摘は、ゾンビへ白い光の弾丸を放った。ゾンビは頭部を吹き飛ばされたが、それでも、動き続けた。
 しかし、今度は階段ではなく、仲間たちの残骸に向かって。
「あたしだって、家族が死んだら嫌だよ。でも……ゾンビになるのはもっと嫌だな……」
 セレスが苦しそうに呟き、蠢く死体へ刃を振り下ろす。幾度か痙攣し、やがてそれは動かなくなった。
「まったく、この世は不条理だねぇ」
 奥からヒースと雷音が歩いてくる。お互いに傷だらけであるが、確かな足取りだった。
「回復してから、祭壇の再設営に入りましょう」
 菜摘が回復魔法を展開し、傷ついた仲間を癒す。
 ルドが、この館の主人へ討伐成功を知らせに行った。

 宝物庫の最奥に、祭壇は再び築かれつつあった。
「よく考えれば、さっきまで戦っていたボクらが完全に傷が癒えない状態で肉体労働とか、これがもっとも不条理じゃないのかなぁ」
 ヒースが、背後であれこれ指示していた主人の男へ言った。
「そこはほら、役割分担ですよ。あ、その燭台はもうちょっと右です」
 主人の男は、なにやらわくわくした様子で設営の指示をしている。おそらくやっと愛用のベッドで寝られるのが嬉しいのだ。
 ヒースは肩を竦めて作業を続けた。
 宝石は応急処置的に菜摘がピュリフィケーションをかけたので、男が持った小さなクッションの上で輝いていた。ルドが念のため宝石に布をかけることを提案したが、せっかくの機会だからよく見ておきたいと男が言ったのだ。
 雷音はそれをしげしげと眺めた。彼女にはこれが命を賭してまで欲しいものなのかわからない。そのために死んだ者も。これからそれを守っていくこの男も。だからこそ、興味があったのだ。
「ねえー、この布はどこへ置くのー?」
 セレスが男へ確認する。
「すまない、誰かこれを持つのを手伝ってくれ」
 ルドが階段の上から応援を求めた。雷音はこくりと頷いてルドの元へ走っていく。
「壊された鍵はどうする? 請けた依頼は完遂したい性質なんでねぇ。それにまた今回みたいな事が起きても困る。予防に勝る治療無しとも言うし、ねぇ」
「それに、宝石の負のマテリアルを祓う処置をしていただいた方がいいと思うのですが」
 ヒースと菜摘が主人の男に問う。
「そう、ですねえ……」
 男は、頭の中でそろばんをはじいて暗い顔になった。が、決意したようにふたりを見つめる。
「私も覚悟を決めました。先祖の不始末、私の代で断ち切ります。まあ、お金の問題はあるのですが、その程度はなんとかなるでしょうし、なんとかしなくては行けませんね。まずはいい腕の鍵職人と祓い師を探しますよ」
 男は、すっくと背筋を伸ばす。その顔は貴族然とした凛々しいものだった。
「あのベッドで寝られなくなるのは困りますしね。不眠の辛さはこの数日で身にしみましたとも」
 男にとって安眠が最優先事項だった。
「指示通りに祭壇を作りましたが、どうでしょう。ご確認お願いします」
 ムディルが主人の男へ声をかけた。
「おお、いい感じです!」

 最後に、館の庭には小さな墓ができた。この主人の男が作ったのである。
 盗賊たちは、そこで仲良く眠っている。
 そっと手を合わせるハンターもあった。
 夕暮れの空、4つの星が瞬いていた。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 14
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • 陽だまりのように微笑んで
    神立 雷音(ka6136
    鬼|15才|女性|舞刀士
  • 幻獣学者の同志
    ムディル(ka6175
    人間(紅)|27才|男性|霊闘士
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士

  • ルド ヴァーシュ(ka6788
    人間(紅)|28才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/03 21:22:42
アイコン 相談卓
通りすがりのSさん(ka6276
エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/08/07 20:57:55