ゲスト
(ka0000)
さよならの鐘は誰が為に
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/07 22:00
- 完成日
- 2014/11/14 23:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
どうしても、許せない相手がいる。
それなのに、僕は戦う事すらできない。
だから、僕の想い、彼の無念を、あなた達に託したい。
※※※
「……かたき討ち?」
とある雑魔退治の依頼を受けた際、案内人から告げられた言葉が『かたき討ち』だった。
どうやら、今回集まったハンター達の前に、雑魔退治に向かった者達がいたらしい。
だけど、結果としてハンター達は敗走する羽目になり、
その中で1人だけ犠牲者が出たのだ、と案内人は神妙な面持ちで呟いた。
「かたき討ちを望んでいらっしゃるハンターさんも同行したいと言っていたのですが……」
「それは無理だと判断され、病院で絶対安静を言い渡されています」
かたき討ちを望んでいるハンターも重傷を負い、動ける身体ですらないのだとか……。
「雑魔が現れた場所、そこは亡くなったハンターさんの故郷なのだそうです」
「森の中に綺麗な鐘があるらしく、その鐘を聴くのが好きだったのだとか……」
そして、案内人は言葉を続ける。
「雑魔を倒し、その鐘の音を森に響かせて欲しい」
「……これが、そのかたき討ちを望んでいるハンターさんからのお願いです」
案内人の言葉に、今回集まったハンター達は互いに顔を見合わせたのだった。
リプレイ本文
●託された者達
「……大丈夫、絶対に仇は取って来ます」
ネージュ(ka0049)は、案内人から事情を聞き、手を強く握り締めながら呟いた。
「仇討ちか、その心意気は評価するが満身創痍の身で雑魔の元に行こうという事は感心しない。生きて再起を図るのも、またボク達に与えられた戦いなのだからな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、眉根を寄せながら複雑そうに呟く。敵討ちを望んでいるハンターの気持ちが分かるからこそ、そのような表情になるのだろう。
「ふん、敵討ちってなあガラじゃないが、暴れられる相手が欲しかったから丁度いい。代わりに雑魔をぶっ倒して鐘の音を病院まで響かせてやるぜ」
シャルラッハ・グルート(ka0508)は髪をかきあげながら、ぶっきらぼうに呟いた。
(敵討ち……か……狂気……私も、そうだった……)
案内人から事情を聞いて、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は過去の自分に重なるのを感じた。
両親を失った過去、かつては嘆き苦しんでいたけど、今は生きるために、シェリルはヴォイドと戦い続けることを自分の意志で決めた。
「雑魔退治が終わった後にでも、そのハンターさんのお見舞いにでも行きたいですね」
メイム(ka2290)は微笑みながら呟く。彼女の提案に数名のハンター達が賛成して、依頼終了後に仇討ちを頼んできたハンターのお見舞いに行くことが決まった。
「……狼型の雑魔ですか、素早そうです」
フェオ(ka2556)は小さなため息を零した後「初依頼とは言え、私に出来る事をしましょう」と依頼に向けてやる気十分の言葉を付け足した。
「雑魔退治はもちろんだけど、もう1つのお願いも叶えたいね。弔いの鐘を鳴らす……無念を晴らすために、是非とも届かせたいな……」
走り 由良(ka3268)は少し悲しそうな表情を見せながら呟く。
こんな時代なのだから、仇討ちを望むハンターのような人は少なくない。その人がこれからを生きるためにも、走りは鐘を響かせたいと望んでいた。
(亡くなったハンターさんは気の毒やったな……けど、うちらがきっちり始末つけたるわ)
紗耶香(ka3356)は心の中で呟くが、その手には雑魔への怒りが満ちていて強く握り締めていた。
「どうか、ご無事で……」
案内人の言葉を受けながら、ハンター達は様々な感情を抱きながら出発した――……。
●命途絶えし森にて
今回、ハンター達は全員で固まって雑魔捜索をするという作戦を取っていた。
「そういえば、鐘は森の中にあるという話でしたよね? どのような物なのでしょう……?」
雑魔捜索を行いながら、ネージュがポツリと呟く。
「案内人の方に聞いたのですけど……この周辺の集落は、信仰心が強い人が多かったそうです。恐らく鐘も、信仰に関する何かだったのでしょうね」
フェオは悲しげに森の木々に触れながら呟く。彼女の言葉がすべて過去形なのは、今はもう信仰を捧げる人がこの周辺にいないことを聞いたからなのだろう。
「僕は、依頼人のあの人に約束したんです……鐘は必ず鳴らして見せます、と……僕達を信じてくれるあの人のためにも、鐘は絶対に鳴らしたい……」
「貴殿は依頼人と会って来たのか?」
走りの言葉に、ディアドラは首を傾げながら問いかける。
「うん、酷い怪我だった……身体はもちろん、心も憔悴しているような、そんな感じだったよ」
走りの言葉に、ハンター達は口を閉ざす。依頼人に会ったのは、現時点で走りのみだけど、どんな様子だったのか、容易に想像することが出来たから。
「うちも依頼前に見舞いに行こうと思ってたんやけど、時間がなくて行けなかったんよ。依頼が終わってからは絶対行こうて思うてるんやけどね」
紗耶香は苦笑気味に呟く。
「あ……もしかして、あれが……依頼人の、言っていた……鐘?」
シェリルが指差した方を見ると、古ぼけた鐘が見えた。
それは手入れされなくなってから長いのか、錆びていて、朽ち果てる寸前のように見えた。
「……この辺、鋭い物で削ったような痕がある、動物の爪みたいな……そんな感じじゃねーか?」
シャルラッハは座り込んで鐘の部分を見ながら呟く。彼女の言葉を聞き、ハンター、彼女自身もその爪痕が誰にされた物なのか分かったような気がする。
「あらあら、しかもここに雑魔が来ちゃったみたいですね、どうします? ここで戦えば鐘の破損が酷くなる可能性がありそうですけど……」
メイムが一緒にやってきたハンター達に問い掛ける。
「もちろん、少し引き離してから戦う――しかないんやない?」
紗耶香は『スピアガン』を構えながら答える。他のハンター達も同じ意見らしく、雑魔を鐘から引き離すためにそれぞれが動き始めた。
●戦闘開始!
「雑魔さん、ほら、こっちですよ」
ネージュは、雑魔に攻撃を仕掛けながら呟く。
雑魔はハンター達に気づいていなかったらしく、ネージュの攻撃を避ける事が出来なかった。
「そっちには行かせません」
鐘のある方へ雑魔が向かおうとすると、フェオが『マジックアロー』を使用して、紗耶香は『スピアガン』で雑魔の進行を妨げるように攻撃を行った。
「鐘には近づけさせない……ここから、逃がしもしない……『想い』……託されたから!」
愛用の『日本刀・烏枢沙摩』を振り上げ、シェリルが雑魔に攻撃を行った。
それからしばらく経ち、ようやく鐘のある場所から雑魔を引き離す事に成功した。
「てめぇ、めんどくせー事させやがって……覚悟は出来てんだろーな?」
シャルラッハは『ツヴァイハンダー』を携え、雑魔をジロリと睨みつける。
数の利はハンター側にあり、鐘から離した後、ハンター達は雑魔を囲み、じわじわと追い詰めるような陣形を取っていた。
「ふりぃ~ず!」
メイムは大きな声で叫び『ブロウビート』の威嚇行動により、雑魔の動きが僅かに怯んだ。
その隙を突いて、フェオが『スラッシュエッジ』を使用しながら雑魔に攻撃を仕掛けた。
「逃がしません、あなたにはここで散って頂きます……!」
ネージュは『飛燕』と『瞬脚』を併用しながら、雑魔へと近づき『ショートソード』を振るう。
「くっ、この程度でボク達が止められると思うか……!」
ディアドラは向かってくる雑魔の攻撃を受け止め、眉根を寄せる。
そして『強撃』を使用しながら雑魔に攻撃を仕掛け、その威力に雑魔は転倒した。
「お前が、手に掛けた者……それがどれだけ大事に思われていたか、お前には分かるまい。傷つけることしか出来ないヴォイドには、絶対に分からないのだろうな」
雑魔が僅かに動こうとしたけど、紗耶香が『牽制射撃』を行って雑魔の動きを遮る。
「俺は難しい事なんか言わねぇし、小難しい事なんか考えるのも嫌だ。だから簡潔に言うぜ? お前が生きてちゃ困る奴がいる、俺は目の前のお前をぶっ飛ばしたい、これで分かるだろ」
シャルラッハは不敵に笑みながら呟き『ツヴァイハンダー』を大きく振り上げ『強打』を繰り出す。
「へぇ、素早いだけで攻撃力も防御力も大したことねーんだな……そんなよわっちぃ奴の分際で、1人の人生を狂わせたんだ、苦しんで死ぬのがお似合いだろ」
雑魔を地面に叩きつけた後、シャルラッハは酷く冷めた視線を向けた。
「あなたがここにいるのは許されない、あなたはあなたの行く場所へ」
ネージュは『ショートソード』を振り上げながら、悲しげに呟き、雑魔にトドメを刺した――。
●響くは希望の音色
雑魔退治が終わった後、ハンター達はついでだからと鐘の周りを掃除する事になった。
「錆びている部分はどうにもならないが、まぁ、やらないよりはマシだろう」
ディアドラは鐘の周りに蔓延っている雑草を抜きながら呟く。
「でも、どうせ鐘を鳴らすのなら森中と言わずすべての人達に綺麗な音を聞いてほしいですから。僕達以外に、ここを訪れた人が綺麗な音を聞けるように、掃除はしっかりしておきたいですね」
走りが呟くと「うむ、そうであるな」とディアドラも納得したように頷いた。
「……この鐘の響きに、どれだけの人が心を癒されていたんやろうね」
朽ちた鐘に手を添えながら、紗耶香が少しだけ寂しそうに呟く。
「また、誰かの心の支えになれるような……そんな鐘であってほしいですね、これからも」
フェオが周りを警戒しながら紗耶香の呟きに言葉を返す。戦闘が終わったとはいえ、他に雑魔が出て来ないとも限らないと考え、フェオは掃除をする間もずっと警戒を続けている。
それから暫く経ち、掃除が終わったところで、鐘を鳴らしたい人がそれぞれ鳴らす事になった。
「……へぇ、一服しながら聞く鐘の音っていうのも中々イイもんだな」
煙草をふかしながら、シャルラッハが空を仰いで目を閉じる。
戦闘後の一服、耳に聞こえる鐘の音色、それだけで少し心が安らぐのを感じていた。
(あのハンターにも、この音が届いているといいな)
故郷を守るため、志半ばで潰えた者、その遺志を継いでシャルラッハ達に依頼した者――……それらのことを考えると、少しだけ胸が痛くなる気がした。
「少しだけ音が濁ってしまっていますけど、それでも、綺麗ですね……」
ネージュは音色を響かせる鐘を見上げながら呟く。
どうしても錆が取れなかったり、手入れが出来ない部分があったりで、本来の音を取り戻す事は出来なかったけど、それでもネージュの心には達成感があった。
「ふむ、この音が届いているか? 故郷の鐘は守った、雑魔も倒した、ゆっくり休むがいい」
ディアドラは空を仰ぎ、亡くなったハンターに対して言葉を紡ぐ。
(……鐘の音と一緒に……祈っても……いいよね……?)
シェリルは鐘の音を聞きながら、心の中で呟く。
鐘の音を聞きながら思い出すのはLH044。コロニー脱出後にどうなったか、自身の手で何も出来ないのが心残りであり、それがシェリルの心に棘となって苛んでいた。
(唯一分かっているのは、両親はもういないという事実だけ……)
だからこそ鐘の音と一緒に祈りたいとシェリルは考えていた。鐘の音を守りたくて亡くなったハンター、両親、理不尽に命を奪われた人々全員が安らかに眠れるように、と――。
「……何か、切ない音色だね」
メイムがポツリと呟く。この鐘を守りたくて亡くなったハンターの事を知っているせいか、綺麗な音色なのに、涙が出そうなほどに胸を締めつけられていた。
(……古くなっていますけど、元々がしっかりした作りだからすぐに壊れる心配はなさそうです。この鐘の音色は私も好きですので、ずっと残っていて欲しいですね……)
フェオは鐘を見上げながら、心の中で呟いていた。
「綺麗な音ですね、僕も好きになっちゃいました……」
走りは瞳を閉じて、耳を澄ませて鐘の音を聞く。
(……届きましたか?)
そして、この鐘を大事に思っていた人に向けて、心の中で問いかけた。もちろん答えなど帰って来ないのだけど、それでも走りは満足そうな笑みを浮かべていた。
「さて、そろそろ依頼人の所に行こか、鐘は大丈夫やて知らせなあかんやろ?」
紗耶香の言葉に、ハンター達は帰還準備を始める。
ハンター達が森の中を歩いている間、鳴らした鐘の音色が僅かに響いているような気がした。
●達成の報告
「……そうか、俺の無理難題を聞いてくれたんだな、ありがとう」
依頼人に会うと決めていた者同士で、病院にやって来ていた。
「今すぐは無理やと思うけど、あんたの身体と心が治ったら、自分で鳴らしたらええ。あそこには、もう鐘の音色を脅かす奴なんかおらへんから」
紗耶香の言葉に、依頼人は泣きそうな笑みを浮かべながら頷いた。
「……その剣、あいつの形見なんだ」
病室に置かれていた剣には、まだ生々しい血の跡が残されていて、紗耶香は眉をひそめた。
「怪我が治ったら、あいつの形見を持って、あの鐘を鳴らしに行くよ」
「それがいいと思います、お友達と一緒に……あの、綺麗な鐘の音色を聞いて下さい…!」
ネージュは瞳に涙を浮かばせながら呟く。
「……これ、あの森に咲いていた……花……」
シェリルは森で摘んできた花を依頼人に差し出す。
「……気持ちは、晴れた?」
シェリルの問いかけに「分からない」と依頼人が答える。
「そう……私も、分からない……空虚な穴は、そのままに……でも、きっとその穴は埋める事が出来るはずだから……」
新しく出来た家族や友人を思い、シェリルは依頼人に告げる。
「あなたも、埋められる何かに……出会えると、いいね……」
「きっと出会えるよ、亡くなった方も自分があなたの傷になる事なんて望んでいないはずだから」
メイムはにっこりと笑顔を見せながら依頼人に告げる。何の確証もない事だけど、その笑顔を見ているだけで、勇気づけられるような気がした。
「あの鐘の音、森中に響かせました……あなたにも、届いていれば良いのですけど」
走りが苦笑気味に呟く。距離的に鐘の音が届くのは無理だと分かっているけど、それでも依頼人に届いていて欲しいと強い願いが心にあった。
「届いたよ、あんた達の気持ち……あの鐘の音色、届いた……ありがとう、本当にありがとう」
依頼人は泣き崩れながら、ハンター達に何度もお礼の言葉を言う。
その姿を見て、依頼人が早く今回のことを乗り越えてくれるのを祈るばかりだった――……。
END
「……大丈夫、絶対に仇は取って来ます」
ネージュ(ka0049)は、案内人から事情を聞き、手を強く握り締めながら呟いた。
「仇討ちか、その心意気は評価するが満身創痍の身で雑魔の元に行こうという事は感心しない。生きて再起を図るのも、またボク達に与えられた戦いなのだからな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、眉根を寄せながら複雑そうに呟く。敵討ちを望んでいるハンターの気持ちが分かるからこそ、そのような表情になるのだろう。
「ふん、敵討ちってなあガラじゃないが、暴れられる相手が欲しかったから丁度いい。代わりに雑魔をぶっ倒して鐘の音を病院まで響かせてやるぜ」
シャルラッハ・グルート(ka0508)は髪をかきあげながら、ぶっきらぼうに呟いた。
(敵討ち……か……狂気……私も、そうだった……)
案内人から事情を聞いて、シェリル・マイヤーズ(ka0509)は過去の自分に重なるのを感じた。
両親を失った過去、かつては嘆き苦しんでいたけど、今は生きるために、シェリルはヴォイドと戦い続けることを自分の意志で決めた。
「雑魔退治が終わった後にでも、そのハンターさんのお見舞いにでも行きたいですね」
メイム(ka2290)は微笑みながら呟く。彼女の提案に数名のハンター達が賛成して、依頼終了後に仇討ちを頼んできたハンターのお見舞いに行くことが決まった。
「……狼型の雑魔ですか、素早そうです」
フェオ(ka2556)は小さなため息を零した後「初依頼とは言え、私に出来る事をしましょう」と依頼に向けてやる気十分の言葉を付け足した。
「雑魔退治はもちろんだけど、もう1つのお願いも叶えたいね。弔いの鐘を鳴らす……無念を晴らすために、是非とも届かせたいな……」
走り 由良(ka3268)は少し悲しそうな表情を見せながら呟く。
こんな時代なのだから、仇討ちを望むハンターのような人は少なくない。その人がこれからを生きるためにも、走りは鐘を響かせたいと望んでいた。
(亡くなったハンターさんは気の毒やったな……けど、うちらがきっちり始末つけたるわ)
紗耶香(ka3356)は心の中で呟くが、その手には雑魔への怒りが満ちていて強く握り締めていた。
「どうか、ご無事で……」
案内人の言葉を受けながら、ハンター達は様々な感情を抱きながら出発した――……。
●命途絶えし森にて
今回、ハンター達は全員で固まって雑魔捜索をするという作戦を取っていた。
「そういえば、鐘は森の中にあるという話でしたよね? どのような物なのでしょう……?」
雑魔捜索を行いながら、ネージュがポツリと呟く。
「案内人の方に聞いたのですけど……この周辺の集落は、信仰心が強い人が多かったそうです。恐らく鐘も、信仰に関する何かだったのでしょうね」
フェオは悲しげに森の木々に触れながら呟く。彼女の言葉がすべて過去形なのは、今はもう信仰を捧げる人がこの周辺にいないことを聞いたからなのだろう。
「僕は、依頼人のあの人に約束したんです……鐘は必ず鳴らして見せます、と……僕達を信じてくれるあの人のためにも、鐘は絶対に鳴らしたい……」
「貴殿は依頼人と会って来たのか?」
走りの言葉に、ディアドラは首を傾げながら問いかける。
「うん、酷い怪我だった……身体はもちろん、心も憔悴しているような、そんな感じだったよ」
走りの言葉に、ハンター達は口を閉ざす。依頼人に会ったのは、現時点で走りのみだけど、どんな様子だったのか、容易に想像することが出来たから。
「うちも依頼前に見舞いに行こうと思ってたんやけど、時間がなくて行けなかったんよ。依頼が終わってからは絶対行こうて思うてるんやけどね」
紗耶香は苦笑気味に呟く。
「あ……もしかして、あれが……依頼人の、言っていた……鐘?」
シェリルが指差した方を見ると、古ぼけた鐘が見えた。
それは手入れされなくなってから長いのか、錆びていて、朽ち果てる寸前のように見えた。
「……この辺、鋭い物で削ったような痕がある、動物の爪みたいな……そんな感じじゃねーか?」
シャルラッハは座り込んで鐘の部分を見ながら呟く。彼女の言葉を聞き、ハンター、彼女自身もその爪痕が誰にされた物なのか分かったような気がする。
「あらあら、しかもここに雑魔が来ちゃったみたいですね、どうします? ここで戦えば鐘の破損が酷くなる可能性がありそうですけど……」
メイムが一緒にやってきたハンター達に問い掛ける。
「もちろん、少し引き離してから戦う――しかないんやない?」
紗耶香は『スピアガン』を構えながら答える。他のハンター達も同じ意見らしく、雑魔を鐘から引き離すためにそれぞれが動き始めた。
●戦闘開始!
「雑魔さん、ほら、こっちですよ」
ネージュは、雑魔に攻撃を仕掛けながら呟く。
雑魔はハンター達に気づいていなかったらしく、ネージュの攻撃を避ける事が出来なかった。
「そっちには行かせません」
鐘のある方へ雑魔が向かおうとすると、フェオが『マジックアロー』を使用して、紗耶香は『スピアガン』で雑魔の進行を妨げるように攻撃を行った。
「鐘には近づけさせない……ここから、逃がしもしない……『想い』……託されたから!」
愛用の『日本刀・烏枢沙摩』を振り上げ、シェリルが雑魔に攻撃を行った。
それからしばらく経ち、ようやく鐘のある場所から雑魔を引き離す事に成功した。
「てめぇ、めんどくせー事させやがって……覚悟は出来てんだろーな?」
シャルラッハは『ツヴァイハンダー』を携え、雑魔をジロリと睨みつける。
数の利はハンター側にあり、鐘から離した後、ハンター達は雑魔を囲み、じわじわと追い詰めるような陣形を取っていた。
「ふりぃ~ず!」
メイムは大きな声で叫び『ブロウビート』の威嚇行動により、雑魔の動きが僅かに怯んだ。
その隙を突いて、フェオが『スラッシュエッジ』を使用しながら雑魔に攻撃を仕掛けた。
「逃がしません、あなたにはここで散って頂きます……!」
ネージュは『飛燕』と『瞬脚』を併用しながら、雑魔へと近づき『ショートソード』を振るう。
「くっ、この程度でボク達が止められると思うか……!」
ディアドラは向かってくる雑魔の攻撃を受け止め、眉根を寄せる。
そして『強撃』を使用しながら雑魔に攻撃を仕掛け、その威力に雑魔は転倒した。
「お前が、手に掛けた者……それがどれだけ大事に思われていたか、お前には分かるまい。傷つけることしか出来ないヴォイドには、絶対に分からないのだろうな」
雑魔が僅かに動こうとしたけど、紗耶香が『牽制射撃』を行って雑魔の動きを遮る。
「俺は難しい事なんか言わねぇし、小難しい事なんか考えるのも嫌だ。だから簡潔に言うぜ? お前が生きてちゃ困る奴がいる、俺は目の前のお前をぶっ飛ばしたい、これで分かるだろ」
シャルラッハは不敵に笑みながら呟き『ツヴァイハンダー』を大きく振り上げ『強打』を繰り出す。
「へぇ、素早いだけで攻撃力も防御力も大したことねーんだな……そんなよわっちぃ奴の分際で、1人の人生を狂わせたんだ、苦しんで死ぬのがお似合いだろ」
雑魔を地面に叩きつけた後、シャルラッハは酷く冷めた視線を向けた。
「あなたがここにいるのは許されない、あなたはあなたの行く場所へ」
ネージュは『ショートソード』を振り上げながら、悲しげに呟き、雑魔にトドメを刺した――。
●響くは希望の音色
雑魔退治が終わった後、ハンター達はついでだからと鐘の周りを掃除する事になった。
「錆びている部分はどうにもならないが、まぁ、やらないよりはマシだろう」
ディアドラは鐘の周りに蔓延っている雑草を抜きながら呟く。
「でも、どうせ鐘を鳴らすのなら森中と言わずすべての人達に綺麗な音を聞いてほしいですから。僕達以外に、ここを訪れた人が綺麗な音を聞けるように、掃除はしっかりしておきたいですね」
走りが呟くと「うむ、そうであるな」とディアドラも納得したように頷いた。
「……この鐘の響きに、どれだけの人が心を癒されていたんやろうね」
朽ちた鐘に手を添えながら、紗耶香が少しだけ寂しそうに呟く。
「また、誰かの心の支えになれるような……そんな鐘であってほしいですね、これからも」
フェオが周りを警戒しながら紗耶香の呟きに言葉を返す。戦闘が終わったとはいえ、他に雑魔が出て来ないとも限らないと考え、フェオは掃除をする間もずっと警戒を続けている。
それから暫く経ち、掃除が終わったところで、鐘を鳴らしたい人がそれぞれ鳴らす事になった。
「……へぇ、一服しながら聞く鐘の音っていうのも中々イイもんだな」
煙草をふかしながら、シャルラッハが空を仰いで目を閉じる。
戦闘後の一服、耳に聞こえる鐘の音色、それだけで少し心が安らぐのを感じていた。
(あのハンターにも、この音が届いているといいな)
故郷を守るため、志半ばで潰えた者、その遺志を継いでシャルラッハ達に依頼した者――……それらのことを考えると、少しだけ胸が痛くなる気がした。
「少しだけ音が濁ってしまっていますけど、それでも、綺麗ですね……」
ネージュは音色を響かせる鐘を見上げながら呟く。
どうしても錆が取れなかったり、手入れが出来ない部分があったりで、本来の音を取り戻す事は出来なかったけど、それでもネージュの心には達成感があった。
「ふむ、この音が届いているか? 故郷の鐘は守った、雑魔も倒した、ゆっくり休むがいい」
ディアドラは空を仰ぎ、亡くなったハンターに対して言葉を紡ぐ。
(……鐘の音と一緒に……祈っても……いいよね……?)
シェリルは鐘の音を聞きながら、心の中で呟く。
鐘の音を聞きながら思い出すのはLH044。コロニー脱出後にどうなったか、自身の手で何も出来ないのが心残りであり、それがシェリルの心に棘となって苛んでいた。
(唯一分かっているのは、両親はもういないという事実だけ……)
だからこそ鐘の音と一緒に祈りたいとシェリルは考えていた。鐘の音を守りたくて亡くなったハンター、両親、理不尽に命を奪われた人々全員が安らかに眠れるように、と――。
「……何か、切ない音色だね」
メイムがポツリと呟く。この鐘を守りたくて亡くなったハンターの事を知っているせいか、綺麗な音色なのに、涙が出そうなほどに胸を締めつけられていた。
(……古くなっていますけど、元々がしっかりした作りだからすぐに壊れる心配はなさそうです。この鐘の音色は私も好きですので、ずっと残っていて欲しいですね……)
フェオは鐘を見上げながら、心の中で呟いていた。
「綺麗な音ですね、僕も好きになっちゃいました……」
走りは瞳を閉じて、耳を澄ませて鐘の音を聞く。
(……届きましたか?)
そして、この鐘を大事に思っていた人に向けて、心の中で問いかけた。もちろん答えなど帰って来ないのだけど、それでも走りは満足そうな笑みを浮かべていた。
「さて、そろそろ依頼人の所に行こか、鐘は大丈夫やて知らせなあかんやろ?」
紗耶香の言葉に、ハンター達は帰還準備を始める。
ハンター達が森の中を歩いている間、鳴らした鐘の音色が僅かに響いているような気がした。
●達成の報告
「……そうか、俺の無理難題を聞いてくれたんだな、ありがとう」
依頼人に会うと決めていた者同士で、病院にやって来ていた。
「今すぐは無理やと思うけど、あんたの身体と心が治ったら、自分で鳴らしたらええ。あそこには、もう鐘の音色を脅かす奴なんかおらへんから」
紗耶香の言葉に、依頼人は泣きそうな笑みを浮かべながら頷いた。
「……その剣、あいつの形見なんだ」
病室に置かれていた剣には、まだ生々しい血の跡が残されていて、紗耶香は眉をひそめた。
「怪我が治ったら、あいつの形見を持って、あの鐘を鳴らしに行くよ」
「それがいいと思います、お友達と一緒に……あの、綺麗な鐘の音色を聞いて下さい…!」
ネージュは瞳に涙を浮かばせながら呟く。
「……これ、あの森に咲いていた……花……」
シェリルは森で摘んできた花を依頼人に差し出す。
「……気持ちは、晴れた?」
シェリルの問いかけに「分からない」と依頼人が答える。
「そう……私も、分からない……空虚な穴は、そのままに……でも、きっとその穴は埋める事が出来るはずだから……」
新しく出来た家族や友人を思い、シェリルは依頼人に告げる。
「あなたも、埋められる何かに……出会えると、いいね……」
「きっと出会えるよ、亡くなった方も自分があなたの傷になる事なんて望んでいないはずだから」
メイムはにっこりと笑顔を見せながら依頼人に告げる。何の確証もない事だけど、その笑顔を見ているだけで、勇気づけられるような気がした。
「あの鐘の音、森中に響かせました……あなたにも、届いていれば良いのですけど」
走りが苦笑気味に呟く。距離的に鐘の音が届くのは無理だと分かっているけど、それでも依頼人に届いていて欲しいと強い願いが心にあった。
「届いたよ、あんた達の気持ち……あの鐘の音色、届いた……ありがとう、本当にありがとう」
依頼人は泣き崩れながら、ハンター達に何度もお礼の言葉を言う。
その姿を見て、依頼人が早く今回のことを乗り越えてくれるのを祈るばかりだった――……。
END
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 9人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【相談卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/11/06 22:48:01 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/04 01:13:05 |