ゲスト
(ka0000)
青の世界の夏祭り?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/16 07:30
- 完成日
- 2017/08/28 22:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンターの戦いは文字通り世界を股にかけ、そして流れる血も数多ある。
それに憂うるものがいるのは、ごく当たり前のことではなかろうか。
「夜煌祭の時期よりも前だけれど、こんな時期に一体なにをしようって言うの?」
ゲルタ・シュヴァイツァーは、辺境ユニオン「ガーディナ」から送られてきた一通の手紙を不思議そうに眺める。
差出人の名前は、ジーク・真田。ガーディナでリムネラの補佐を務めている青年であることは、ゲルタも知っている。リアルブルー出身の若い男で、リムネラに心から心酔している――それも結構有名な話だ。まあ、リムネラの補佐を務めるようになってからは仕事熱心な人物だという評判も高いが。
その彼がゲルタに宛てた手紙には、開拓地ホープで祭りをしたい、と言うことがしるされていた。
祭り、と言っても今ひとつぴんとこない。
手紙にあるジークの説明によれば、この時期のリアルブルー、ジークの出身地域では亡くなったひとが帰ってくると言ういわれがあるのだという。そして、彼らの魂を鎮魂し、更に秋の豊穣を祈る祭りをすることが多い、とも。
ホープはまだ開拓地としては実験段階だ。同盟から譲ってもらったまめしを育て始めて二年ほど、昨年の収穫を大事にとっておいて今年の豊作を願っている。今年、見込み以上の豊穣があれば、てんてんとしている部族に種籾を配ったり、それをつかっての食事も少しずつ辺境に浸透していくはずだ。
「豊穣祈願も兼ねた祭り……か。なるほどね」
こう見えて頭の回転は速いゲルタである、何度も読み返すうちにジークの言い分も理解してきた。
豊穣を祈り、帰ってきた故人を偲ぶ祭り。
確かに、ホープで行うにはうってつけと言えるのではなかろうか。
祭りというからには、いっそ夜煌祭とは違う方向性で、賑やかに。みんなが楽しめるようにするのも一案だろうとも書かれていた。
「……祭り、やってみますか」
ゲルタの口からは、つい笑みがこぼれていた。
ハンターの戦いは文字通り世界を股にかけ、そして流れる血も数多ある。
それに憂うるものがいるのは、ごく当たり前のことではなかろうか。
「夜煌祭の時期よりも前だけれど、こんな時期に一体なにをしようって言うの?」
ゲルタ・シュヴァイツァーは、辺境ユニオン「ガーディナ」から送られてきた一通の手紙を不思議そうに眺める。
差出人の名前は、ジーク・真田。ガーディナでリムネラの補佐を務めている青年であることは、ゲルタも知っている。リアルブルー出身の若い男で、リムネラに心から心酔している――それも結構有名な話だ。まあ、リムネラの補佐を務めるようになってからは仕事熱心な人物だという評判も高いが。
その彼がゲルタに宛てた手紙には、開拓地ホープで祭りをしたい、と言うことがしるされていた。
祭り、と言っても今ひとつぴんとこない。
手紙にあるジークの説明によれば、この時期のリアルブルー、ジークの出身地域では亡くなったひとが帰ってくると言ういわれがあるのだという。そして、彼らの魂を鎮魂し、更に秋の豊穣を祈る祭りをすることが多い、とも。
ホープはまだ開拓地としては実験段階だ。同盟から譲ってもらったまめしを育て始めて二年ほど、昨年の収穫を大事にとっておいて今年の豊作を願っている。今年、見込み以上の豊穣があれば、てんてんとしている部族に種籾を配ったり、それをつかっての食事も少しずつ辺境に浸透していくはずだ。
「豊穣祈願も兼ねた祭り……か。なるほどね」
こう見えて頭の回転は速いゲルタである、何度も読み返すうちにジークの言い分も理解してきた。
豊穣を祈り、帰ってきた故人を偲ぶ祭り。
確かに、ホープで行うにはうってつけと言えるのではなかろうか。
祭りというからには、いっそ夜煌祭とは違う方向性で、賑やかに。みんなが楽しめるようにするのも一案だろうとも書かれていた。
「……祭り、やってみますか」
ゲルタの口からは、つい笑みがこぼれていた。
リプレイ本文
●
開拓地「ホープ」にて夏の祭り――
その話はハンターたちの急速には十分すぎるものだったのだろう。
『ガーディナ』補佐役のジーク・真田はリアルブルー式の祭り、それも彼の故郷の祭りを再現するのだと、ホープの内情に詳しい帝国軍医のゲルタ・シュヴァイツァーとともに何度か現地も訪れ、どのような形式が一番好まれるかなどを注意深く確認していた。
「日本の祭りは、亡くなった者達の魂が戻ってくる『盆』という時期に行われることが多くて、この祭りの時に面をつけて踊ることで死者とともに時間を過ごすとも言われているんです」
ジークが説明をすると、なるほど、ハロウィンなどと似たようなものかとゲルタも納得の表情を浮かべた。
「盆踊りをやるというふうに聞いて」
一足先にホープに入っているハンターもいる。祭り櫓を設営するには、事前の準備が必要だからだ。自ら「裏方担当」と言って憚らない青霧 ノゾミ(ka4377)等はそのいい例である。
祭りに使う櫓も、部族がよく作る見張り櫓も、基本的な構造は似ている。ホープで頑張っている開拓民達――もとは様々な弱小部族からの流民が殆どである――の力を借りつつ、必要な資材や人材を手配する為に奔走するあたり、苦労性ではあるがやることをしっかりやる性格なのだろう。
また、ジークはリゼリオにあるリアルブルー出身者が経営する貸衣装の店や、東方ゆかりの仕立て屋などに頼み込んで、いわゆる浴衣をたくさん用意した。当日、浴衣を持っていない人々に貸し出す為に。
祭りと言えば浴衣。
この考え方が万人のものかはわからないが、それでもジークは用意したかったのだ。
それに加えて、お面もあると楽しいだろう。大量生産はできないが、張り子面を幾らか用意する。定番っぽい狐やおたふくなどはもちろんだが、クリムゾンウェストらしくチューダの面なども用意して準備は万端だ。
また同時に、祭りと言えばたくさんの屋台である。
リアルブルーであれば甘味にとどまらず、様々な屋台が軒を連ねていたりするものだ。もっとも、最近の情勢を聞く限り、リアルブルーでも治安の問題などが理由になって屋台の数も減っているらしいのだが。
しかし、屋台を設営することに興味を持ったハンターも少なくなかった。自分たちが経営している店の出張版を作ったり、自慢の料理の腕を振るったり……そういう風に、出店側として祭りを盛り上げようという人も幾人かいる。
また、ホープの住人たちは少しずつ増えているまめし――同盟から譲り受けた、辺境のように土地が痩せている場所でもすくすくと育ち、そして米のように実を主食として食べることのできる植物をこの地の名産として普及させたいと思っている。いずれは食糧難に陥りやすい辺境地域の主食に出来れば――開拓民達は、それを胸に抱いているのである。そのまめしを実際に食べてもらういい機会だとも認識していた。
祭りともなれば、ハンターはもちろんだが近隣の部族が見物にやってくることも十分に想像される。その時に、まめしを披露出来れば、他の部族にもこれらを広めるチャンスなのだ。
――さあ、少しずつ準備のほうも整ってきた。
少し、時間を進めよう。
●
祭りの前日、屋台を設営する人たちは既に大わらわになっていた。
『ララ海運商会』を経営している青年、アスワド・ララ(ka4239)は、この機会に香辛料の店を屋台出店することを考えている。
その名も『ララ香辛料店』。ミルクティにスパイスを加えたいわゆるチャイや、酒のつまみにもなるスパイスをふんだんに使った焼肉串や餃子。それにこちらもスパイス多めに入れたクッキーなどを用意している。
香辛料、スパイスの類はクセもあるので決して万人受けするものではないが、試食メニューも十分に作り、熱心に呼び込めばきっと通りかかったひとも興味を示してくれるに違いない――そうなればスパイスを広める良い機会にもなるし、普段の仕事にもよい刺激を与えてくれることになるだろう、という目論見の上だった。
勿論、それ以外の屋台も様々出る予定だ。たとえば、星野 ハナ(ka5852)は東方茶屋と称して甘味処をやる気満々だ。用意したものはうす茶糖(冷やし抹茶)をはじめとして、冷やし飴、白茶やお団子。寒天や甘酒、変わったところでは焼き酒粕なんてものも準備しているらしい。
もともと祭りは賑やかに歩き回っているイメージの強い場所。座る場所はあまりないことが多いので、そう言う人たちの休憩場所も兼ねた出店、と言うことになる。料理の類は今まさに製作真っ最中、大量に作ってクーラーボックスで持ち込むつもりらしい。
「お盆っぽいのは寒天くらいかも知れないですけどぉ、みんなが笑顔で食べてくれるのならそれが一番いいのですよぉ」
ハナはそう言って菓子の作成に集中している。もっとも、菓子の作成をしているのはホープの地ではなく材料や準備がしやすいリゼリオの地であるが。
勿論屋台の定番であるたこ焼きや焼きそば、チョコバナナのようなものも有志たちが準備してくれていた。
裏方スタッフとして動き回っているノゾミは、そんな屋台の配置の割り振りや、案内所兼救護所と言ったものを設置することも提案してくれている。
『お祭りにいた人に快適に参加して貰えるように』
ノゾミの発想はあくまでも楽しんで貰えるように、と言うことを重視してのもの。指示もするけれど、自発的に手の足りないところにヘルプに入っているあたり、本人もかなりやる気であることがうかがえて、彼の仲間でもあるアスワドはそんなノゾミの張り切り具合を微笑ましく見つめているのだった。
また、マリィア・バルデス(ka5848)は屋台ではなく簡易の酒場を準備していた。机と椅子を用意し、座って飲食のできるものだ。樽で持ち込んだ酒はジョッキに注いで、日本酒は升に注いで――となかなか趣向を凝らしてある。
赤ワインとエールは常温、白ワインや日本酒、ピルスナーは樽を二重に使い適度に冷やして。
モツ煮込みやトリッパ、ウズラ卵の旨煮、茄子の煮浸しと言ったつまみ類は大鍋で作って保温したり、持ち込んでおけるものを準備した。
マリィア曰く、
「焼きそばだとか焼き鳥はずっと作っていなけりゃならないじゃない? 屋台という意味ではそちらの方が正当なんだろうけれど、お祭りでゆっくり酒を飲みながら、盆ダンスを眺められる場所を作りたかったのよね」
ちなみに持ち込みは自由なので、こちらも休憩に使えそうだ。
●
そして、さあ――当日だ。
太鼓や笛などが祭りの喧噪に彩りを添えながら、少しずつ日は暮れていく。やはり祭りは夕方からがたのしいものなのだ。
浴衣を所持しているひとはやはりそれほど多くなかったらしく、ホープを訪れたハンターたちはまず貸衣装の浴衣に袖を通すのが多かった。
「わーい、お祭りお祭り! どこでやるにしても、お祭りはいいもんだよねー!」
夢路 まよい(ka1328)は濃い藍色の地に馬酔木の花の描かれた浴衣を纏い、きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいる。世間知らずだった少女も転移してから世界を知るようになり、様々な楽しみを覚えている。祭りもその一つだ。
(たこ焼きとか、あるならいいんだけどな~、この前別のお祭りで食べたモノが美味しかったし……)
興味深そうに店を物色していると、確かにそこにはたこ焼きの屋台もあって、すぐにひと皿頼んで口に運ぶ。あつあつで一口頬張るごとにはふはふといいながら食べているけれど、確かにそれは美味しくて、ぺろりと平らげることが出来た。
「他にもどんな屋台があるのかなー?」
まよいは楽しそうにきょろきょろと屋台を見回していた。
菖蒲の柄が施された浴衣を纏っているのは、雨月彩萌(ka3925)。
「リアルブルー風の祭りと聞いていたのでこの格好にしてみましたが、正解だったみたいですね」
そう言ってにっこりと微笑む。少し年の離れた兄である雨月 藍弥(ka3926)も同行している――ちなみに彼は紺無地の浴衣である――が、妹が無邪気に祭りを楽しんでいる姿を全力で見守っている。言葉にすると悪いが、藍弥は過保護――というか、いわゆるシスコンに近い存在だ。何しろ趣味は妹の成長観察と言って憚らないあたり、重症かも知れない。
しかしそれも、幼い頃に他界した両親の代わりに彩萌を育ててきたと言うこともあるのだろう。そのぶんというか、彩萌には思い切り塩対応されているが、本人としてはそれでも目に入れても痛くないと言える妹なのだ。
(愛おしく可愛らしい彩萌は浴衣姿でその美しさがまた増した気がします……そんな尊い姿をカメラで納めないと……!)
……うん、かなり危ない発想であるのはこの心の叫びでも判ることだろう。
もっとも、彩萌がその兄を無視しつつ早足で逃げるあたりはそんな兄の性格を把握しているからなのだろうが。
と、慣れない下駄履きの影響だろうか、早足をしていた彩萌が足元をとられて躓き倒れ、浴衣も乱れてしまう。それを藍弥は
(あの白い肌、恥じらう表情、愛らしい瞳……全て私の宝物でございます……っ!)
感極まった表情で見つめているが、彩萌はすぐにその兄の首をひっつかんで、
「今見たことはあなたの記憶から完全に消去して下さい。そうしないていないとわたしが察したら、あなたの存在を抹消しますので、お覚悟を」
愛らしい容姿に似合わないドスのきいた声でそう言い放つ。完全に脅しである。藍弥はこくこく、と頷くが、それでもすぐには忘れられないのだろうな、と二人してため息をつくのであった。
久我・御言(ka4137)は、恋人たる鷹藤 紅々乃(ka4862)とともに参加だ。お互いリアルブルーの日本出身とあって、こういう祭りの楽しみ方は心得ている。
ただ、恋人――と認識しているのは御言のほうのみ。紅々乃としては、彼の返事を貰っているものの、その言葉の真意を測りかねてまだ片想い、という認識をしているからだ。
紺地に緋牡丹の浴衣に草履履きの紅々乃に、黒一色の浴衣の御言。浴衣姿の紅々乃に、御言はにこりと微笑んで、
「よく似合っているよ」
と言ってそっと手を取る。はぐれたりしないように。
祭りの熱気は、かつて転移する前に住んでいた青の世界を思い出す。いやでも思い出す、故郷の空気。
それでも、御言はかぶりを振って紅々乃に微笑みかけた。
郷愁を感じながらも、今日は彼女のことだけを感じて、考えて、エスコートしようと。だって、折角のデートなのだから。
郷愁に囚われるのは、紅々乃だって同様だ。
転移する前、彼女は小学生。その頃の話を懐かしむように話す。
大好きで祭りの時には必ずいった射的や金魚すくい、綿飴は必ず買って食べていたこと、そんなたわいもないことを、一生懸命に。
そして御言に買って貰った綿飴を食べながら無邪気に尋ねる、
「御言さんの、リアルブルーでの夏祭りの思い出はなんだったんですか?」
その言葉に御言は首をかすかにひねる。
「祭りは雰囲気を楽しむものでもあるから」
そう答えて、少しだけはぐらかした。
そう、雰囲気を楽しむもの。とくに隣にいるのが想いを寄せる相手なのだったら、楽しくないはずが無いではないか。そこまでは言わないものの、御言が紅々乃に向ける笑顔は確かに綺麗で。楽しんでいるというのが、ひしひしと伝わってくる笑みだった。
恋人同士で来ているのはなにも彼らだけではない。
鞍馬 真(ka5819)と骸香(ka6223)の二人も、そんな恋人同士で遊びに来た一組だ。
浴衣に揃いの簪を挿した二人は、人混みに紛れて手を繋いだりもしながら、周囲の様子を見て歩いていた。まだどうどうと手を繋ぐのは、照れが勝ってしまうから。
「折角なら食べ歩きしようよ」
「食べ歩き……いいっすね! だって、折角の祭りで、デートなんだし!」
真の提案に、骸香も嬉しそうに頷いてみせる。
たこ焼き、焼きそば、それに焼肉串……そう言った屋台を回って色々食べ、食べきれなかったら半分こをして……と言ったお祭りデートを満喫している。
とくに骸香が嬉しいのは、揃いの簪。髪を飾るその装飾品は、あるくたびにしゃらりと揺れて、つけているだけでなんだか笑顔がこぼれてくる。
(……そういえば、盆、かあ……死んだ奴がいっとき戻ってくるって言うけれど、戻ってくる場所もないから、意味をなさないか。生きてるなら今を掴んで進むしかないんだし、そうでないと、真さんと一緒に居られないからね)
複雑な過去を背負っている骸香は、そんなことを思い返しながら、真の手をぎゅっと強く握る。自分が生きている証、そう言わんばかりに。
真も、そんな骸香の手をそっと、しかしぎゅっと握り返した。自分がここにいるよと、そう伝える為に。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は非常に興奮していた。
日本風の祭り――その言葉が、東洋かぶれの彼を擽らないわけがない。ドイツ系クォーター、ドイツ人の血が混じっている穂積 智里(ka6819)に声をかけ、共に出かけることにしたのだが、実際に祭りの様子を目の当たりにして興奮しないわけがない。
(おばあちゃんの国のひとだから他のひとよりは親近感はあるけれど……でもやっぱりちょっと変わった人、だなぁ)
智里はそう思いながら、ハンスの楽しそうな様子を眺めていた。と、ハンスは思い付いたように智里に尋ねる。
「智里、食べものの知識はだいたいわかるのですが、お遊び系屋台の実体験がどうにも不足していまして。型抜き、金魚すくい、ボールすくい、射的……これらがあると、聞いてはいるのですが、ここにもあるでしょうか? また、カラーヒヨコ、というものも見てみたいのですが」
「うーん……型抜きも射的も私はしたことがないので……輪投げやボールすくいとか、釣らなくても水風船はありそうな気がしますけど」
ただ、会場が会場だけに、生き物関連の屋台、金魚すくいのようなものは残念ながら出ていない。それでも調べれば、輪投げや射的、型抜きなどは在って、ハンスは早速目を輝かせてそれらに参加しはじめる。智里も折角だし、とチャレンジしてみようと思う。
そういえば、ハンスは智里の手を繋いだりはしない。ハンスはこれでも紳士だ。友人同士では手を繋ぐことがないと聞いていたので、手を繋がず横を歩いてのエスコートに留めているのだ。
が、人混みではぐれそうになった時は、ぐいっとハンスは智里の手を引いた。
「ひゃ……ありがとうございます」
支えてくれたりしてくれるあたり、やはり親切な人だな、とは智里も思うのだ。
(ちゃんとおうちに帰れたら、おじいちゃんやおばあちゃんに会わせてあげるのもいいのかな……きっとあの二人とはいい友人になるんじゃないかなって思うし)
そこまで考えて、智里は自分に問いかける。
(それじゃあ、私とは……私とはどうなんだろう? 友人……なのかなぁ?)
その答えは、まだでない。
天央 観智(ka0896)はそんな中、ひとり祭りの喧噪を眺めていた。
学者の卵でもあった観智は、その祭りの様子を見て、思わず独りごちる。
(僕の思い過ごしも……あるんでしょうけれど、あまり此処らしくないお祭り……みたいな感も、ありますよね。どちらかといえば、……東方、或いはリアルブルーの日本の……そう言うところの昔ながらのお祭り、みたいな。まあ……多分、気のせいでしょうけれど)
そう言いながらも、観智自身も浴衣を纏い、それらしい姿をしている。チューダのお面を折角だからと頭に添え、祭りを楽しむつもりは十二分にある。
――それでも、なにかが足りないような気がする。
(なにが足りないんでしょう……杜……というか、社……?)
かつて住んでいた、リアルブルーの故郷・日本に想いを馳せながら、リアルブルーとホープの祭りの違いをちらちらと確認してしまうのは、もう好奇心ゆえの性分という奴だろうか。
このあたりは、日本風。こっちは逆に、クリムゾンウェスト風……そんなことを考えながら、ひとり下駄の音を響かせていく。
リアルブルーとクリムゾンウェストでは、様々な概念が違うことが多い。同性のカップルがハンターに時折見られるのも、そう言う現象の一つ――なのかも知れない。
玉兎・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)の二人も、そう言う関係を築いているカップルだ。もっとも、いずれもリアルブルー出身者ではあるのだが。
(夏祭りか……今年はうっかり海に行き忘れちゃったから、これくらいは恵を連れてこないとねぇ。ま、とりあえずはデートを楽しもう!)
リアルブルー出身ながら転移前の記憶が皆無に近い小夜としては、祭りの様子を見て『なんとなく見覚えがあるような気がする』程度の認識だが、恋人である恵――彼女は小夜のことを『うさぎさん』と呼ぶ――は、久々のデートと言うこともあって少し浮かれ気味に、いかにも楽しそうに周囲の様子を見渡している。
小夜のエスコートに従い、恵がそろそろとついていくという、いかにも可愛らしいカップルと言わんばかりの光景だ。方向音痴であることを自覚している恵としては、はぐれたりしたら大変だから、小夜にくっついて歩いてい流が、それもまた幸せという感じである。
屋台を観に行くと、小夜から綿飴や林檎飴をさらりと勧められた。
「ほら、これ。甘くておいしいよ。やっぱり祭りと言えば、綿飴や林檎飴だよね」
そう言って微笑む小夜だが、はて、林檎飴など食べたことがあっただろうかと言ったあとで小首を傾げる。まあ、あまり気にしていても仕方がないので、適当に誤魔化すが、恵の方はと言えば
(うさぎさんって結構甘党なのかな)
そんなことを思ってみたり。
「そういえばお付き合いしてから結構立ちますけど、こういう縁日って初めてですね。まだまだお互い知らないことが多いんですね……」
そう感じ入りながら、同時にそう言う相手のことを知っていくのが新鮮で嬉しいと無邪気に思える恵であった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、なにやら大量の鞄やらなにやらをもってやってきた。
「BON=DANCE? というのを見ながら、のど元まで食べるの、お祭り楽しみなの~……」
じゅるり、とつばを飲み込みながらディーナは楽しそうに言う。何しろ食べられるものは何でも食べる、というタイプのディーナである、目下の目標は飲食店の制覇だ。ちなみに成人済なので、酒も勿論飲むことができる、が、あまり飲み過ぎると酔いが回って逆に食べられなくなってしまうので味見程度だ。
同盟商人が持ってきたワインや、辺境部族の乳酒などをちびちびと味見しながら、がつがつと食べもの系の屋台を絨毯爆撃。
お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、たこ焼き、焼きトウモロコシ……和風のお祭りの鉄板と聞いているそれらは勿論食べる気満々だ。
「でも、テッパンってどういうことなの? ぜんぶ鉄板で焼くからなの……?」
小さく首をかしげるディーナ。どうやら、いわゆる同音異義語という奴に弱いらしい。
「ところでまめし……って、まむしの親戚かなにか、なの?」
いやそう言うゲテモノではないのだが、名物に疎かったのは彼女としては一生の不覚という感じらしく、早速一つ頼んで食べてみる。と、出されたのはいわゆる焼きおむすびのようなものだった。まめしは米の代用食で見た目もコメに近い為、こうやっておにぎりにしたりすることもできると言うことらしい。おいしそうに頬張りながら、ディーナはにこにこと微笑んだ。
セルゲン(ka6612)はハーティ(ka6928)の屋台を覗いていた。
ハーティは花屋で働いていると言うこともあって、生花を使った髪飾りやコサージュと言ったものを扱う屋台を出店しているのだ。
(お祭りれすから、きっとおめかししたお姉さん達がいっぱいいるのれす。生花だから1日限りの飾りれすけど、香りのいい夏の花は、お祭りの思い出をより素敵にしてくれるのれすよ♪)
ドラグーンの彼は見た目こそ成人なみだが、実年齢はわずか十歳。舌っ足らずな発音は生まれつきのものだ。
そんなハーティが『赤鬼さん』と懐いているのがセルゲン。セルゲンからしてみれば、危なっかしくて心配なところのある友人だ。もともと彼が故郷を出てきたばかりの頃に出逢ったという、いわゆる腐れ縁という奴である。
もともとセルゲンは賑やかな祭りは好きだ。赤鬼さん、の呼ばれ方の通り、ずいぶん前に東方を出奔した鬼の青年である。根が真面目なせいか、ハーティの存在は若干胃痛の原因となっているようだが、まあそれでもくるくると動き回っているハーティの姿を確認出来るのはいいことだ。しかし売り子となれば店からはなれられないだろうし、と食料などを買い込んで差し入れをする。
「調子はどうだ?」
セルゲンが尋ねると、ハーティはにっこりと笑って見せた。それなりに順調らしい。
「おなかぺこぺこらったのれ、ごはん嬉しいれす!」
早速手軽に食べられるたこ焼きを一つもぐもぐ。若干熱かったようだが、それでも美味しそうに食べて、たこ焼きをあっという間に平らげてしまった。
「お礼に、赤鬼さんにもお花つけてあげますねっ!」
そう言って頭に髪飾りをぽんっとのせたのだが、微妙な顔をされてしまった。
本当は忙しそうなら手伝いたいくらいなのだが、あいにくセルゲンは花の見分けがつかない。そう言うものを愛でるという習慣がなかったからだが、しかしそれでも花を前にしたハーティは楽しそうで、セルゲンも思わず笑顔を浮かべていた。
「それにしても豊穣を願う祭りか……」
ハンターになる前の彼は辺境を中心に傭兵をしていた。だから辺境の地は決して実りが豊かでないという印象を持っているし、事実そう言う場所が多い。
「ボクの故郷もあまり作物のとれない場所なのれす……だから、お祭りに込められた願いが届きますように!」
ハーティは手を広げて、歌うようにそう言った。
T-Sein(ka6936)と星空の幻(ka6980)は、祭りの光景に胸を高鳴らせていた。
(お姉ちゃん達とお祭り……楽しみ……♪)
グラムは思わずそう胸で呟く。グラムとザインはオートマトン、人工的な生命体。しかし、グラムの中にどうしてか『初めて』という感覚は、あまりない。もしかしたら記憶を失う前に行ったことがあるのかも知れないが、真実は闇の中、と言う奴だ。
トレードマークのポニーテールをお団子にして着物を着たグラムに、赤い髪に赤い着物を纏ったザインはなかなか様になっている。
無論、二人だけではない。リアルブルー出身の晴風 弥(ka6887)と、クリムゾンウェスト出身のスフィル・シラムクルム(ka6453)も同行している。
初めての祭りに興奮気味なのはスフィルもだ。
リアルブルー風のお祭りなど、経験がない彼女にとって、どれだけ胸が高鳴るものだろう。その上仲のいい友人達と見て回れるのだから、なおのことだ。
「なんか懐かしいかんじがするな……!」
いっぽうの弥はそう言って、ぐるりと周囲を見渡し、感慨にふける。リアルブルー出身者としては、郷愁を感じる祭り、と言うところなのだろう。もっとも、盆踊りを踊ることはできないので、露店まわりのエスコートがせいぜい、と言うところらしいが。
ザインは羽目を外すと言うことをあまり知らないししたくないのか、先を行く三人のあとをついていくようにしているが、四人で賑やかに動き回ればそれは華やかというものだ。
スフィルとグラムが先頭を歩き、その少し後ろを弥、更にもう少し後ろにザインというかんじで歩いている。
「そういえば、射的? ってお店はあるのかしら? あるなら挑戦してみたいわ、銃は、その、……苦手な方だけど」
スフィルがそう言うと、グラムもこくこくと頷いた。
「はい、ばんばん撃ち抜いてみたいですの……♪ それと、綿あめとか、リンゴ飴も食べたいですね……♪」
「へえ、グラムは結構物知りだな?」
弥に言われると、グラムも不思議そうに首をかしげる。なんとなく口をついて出た言葉に、自身でも不思議そうに。
「でも射的なー……そうだな、俺もやってみっかな。景品がとれたら楽しそうだしさ」
てくてくと歩いているとやがてお目当ての射的は見つかった。可愛らしいぬいぐるみや、小さな玩具のようなもの、ちょっとしたアクセサリなども並んでいる。あれをコルクの弾丸で倒したり撃ち落としたりすることができれば、景品として持って帰れるという寸法だ。
「へえ、けっこう色々あるな。もし景品なりがとれたら、スフィル、欲しいか?」
弥の言葉に、目を大きく見開くスフィル。
「いいんですの?」
「いいのいいの、俺が持っててもしゃーないし、な?」
にこっと笑ってみせる弥。アナログからデジタルまで、ゲームと名のつくものはなんでも好きというゲーム好きな彼は、射的も決して下手ではない。
まあ、もしもの時の為に一応なにもとれなかった時のことを考えてはいるようだが。
「俺は、自分でとるのです……♪」
グラムが早速おもちゃの銃を構えると、ぱんぱん、となれた手つきでくまのぬいぐるみを倒してみせた。
「たとえ当たらなくても、挑戦することが大事なのー!……むー!」
スフィルも挑戦するが、小さなキャラメルの箱を掠めた程度で終わってしまう。弥はと言えば、小さなヘアピンの入った箱を倒して、それをスフィルに渡してやった。
「こんなの、俺は使わないし、な?」
スフィルも、さすがにそういうことなら、と有難く受け取る。早速つけてみると、小さな花飾りのついたヘアピンはなかなかにあっていた。
「スフィル、よく似合っていますよ」
ザインにも言われ、悪い気はしない。と、スフィルはいいことを思いだしたというふうにパン、と手を叩いた。
「そういえば星野さんが甘味処をやると聞いているの、そこで休憩しましょ!」
知人でもあるハナの甘味処を訪ねようという目論見だ。
「それならこちらから行きましょう。先ほど店の前を通りましたから」
ザインは道を覚えていたらしく、こくりと頷いて見せた。
もしはぐれでもしたらなんとか動かないようにしようと、そこまで考えながら。
●
盆踊りの喧噪が、少し遠くに聞こえる。
シルヴェイラ(ka0726)と、エルティア・ホープナー(ka0727)のふたりは浴衣に身を包み、祭りの空気を一通り味わってから休憩所の椅子に座っていた。
蒼の大地の催しは、この紅の世界のそれとは少し異なるが、でも賑々しいことに変わりはない。
紺地に太さの違う白い縦縞の入った浴衣に銀の帯を締めたエルティアと、藍地に流水紋の浴衣のシルヴェイラはエルフの幼馴染同士だ。
「民族衣装も風情があるし、エアにもよく似合っているね」
シルヴェイラはそう言ってにっこりと微笑んで見せた。
二人は狐の面を手に取り、そっと顔に被せる。素顔は見えないが、それでいい。
(死者を供養する為の催しとも、本には書いてあったけれど……そうね、こうやって面で顔を隠してしまえば、生者か死者かなんて、分からないモノね……)
エアを庇うように歩いていたシルヴェイラも、小さく頷き返す。
ハンターとして、いやそれ以前からの長い付き合いの二人。ハンターという職業上、お互いいつどうなるか判らないけれど――
(彼女との別れは、何よりも耐え難い、な)
無論、死なせるつもりはない。シルヴェイラ自身の手で、きっと守ってみせると胸に誓う。
「ねえ、シーラ」
エルティアはそう言って声をかける。
「今目の前にいるのは生者か死者か……もしかしたら亡くした人にも逢えるのかも知れない……この祭りには、そうった、生きるものの願いが込められているのかしら?」
突然の言葉に、息をのむ。
「それは、ある意味自然のことだろう。人の想いというのは」
そう、応えると、
「そうね……亡くせば逢いたいと思うものね……」
エルティラはそっと傍らの青年の手を握る。
「……シーラ。どうか、はぐれないように……ね?」
いつもと同じクールな声音。それでも、その手を握り返してやると、肩のこわばりが抜けたかのような安堵のため息が僅かに零れるのを感じ取れた。
「……ああ」
(こういうのも、悪くはない)
シルヴェイラも、そう頷き返した。
人の生き死に、そして豊穣を祈る夏祭り。
皆の心に、きっとなにか、大切なモノが生まれただろう。
あるものは踊り、あるものは食べ――そうして生きている実感を改めて感じながら。
開拓地「ホープ」にて夏の祭り――
その話はハンターたちの急速には十分すぎるものだったのだろう。
『ガーディナ』補佐役のジーク・真田はリアルブルー式の祭り、それも彼の故郷の祭りを再現するのだと、ホープの内情に詳しい帝国軍医のゲルタ・シュヴァイツァーとともに何度か現地も訪れ、どのような形式が一番好まれるかなどを注意深く確認していた。
「日本の祭りは、亡くなった者達の魂が戻ってくる『盆』という時期に行われることが多くて、この祭りの時に面をつけて踊ることで死者とともに時間を過ごすとも言われているんです」
ジークが説明をすると、なるほど、ハロウィンなどと似たようなものかとゲルタも納得の表情を浮かべた。
「盆踊りをやるというふうに聞いて」
一足先にホープに入っているハンターもいる。祭り櫓を設営するには、事前の準備が必要だからだ。自ら「裏方担当」と言って憚らない青霧 ノゾミ(ka4377)等はそのいい例である。
祭りに使う櫓も、部族がよく作る見張り櫓も、基本的な構造は似ている。ホープで頑張っている開拓民達――もとは様々な弱小部族からの流民が殆どである――の力を借りつつ、必要な資材や人材を手配する為に奔走するあたり、苦労性ではあるがやることをしっかりやる性格なのだろう。
また、ジークはリゼリオにあるリアルブルー出身者が経営する貸衣装の店や、東方ゆかりの仕立て屋などに頼み込んで、いわゆる浴衣をたくさん用意した。当日、浴衣を持っていない人々に貸し出す為に。
祭りと言えば浴衣。
この考え方が万人のものかはわからないが、それでもジークは用意したかったのだ。
それに加えて、お面もあると楽しいだろう。大量生産はできないが、張り子面を幾らか用意する。定番っぽい狐やおたふくなどはもちろんだが、クリムゾンウェストらしくチューダの面なども用意して準備は万端だ。
また同時に、祭りと言えばたくさんの屋台である。
リアルブルーであれば甘味にとどまらず、様々な屋台が軒を連ねていたりするものだ。もっとも、最近の情勢を聞く限り、リアルブルーでも治安の問題などが理由になって屋台の数も減っているらしいのだが。
しかし、屋台を設営することに興味を持ったハンターも少なくなかった。自分たちが経営している店の出張版を作ったり、自慢の料理の腕を振るったり……そういう風に、出店側として祭りを盛り上げようという人も幾人かいる。
また、ホープの住人たちは少しずつ増えているまめし――同盟から譲り受けた、辺境のように土地が痩せている場所でもすくすくと育ち、そして米のように実を主食として食べることのできる植物をこの地の名産として普及させたいと思っている。いずれは食糧難に陥りやすい辺境地域の主食に出来れば――開拓民達は、それを胸に抱いているのである。そのまめしを実際に食べてもらういい機会だとも認識していた。
祭りともなれば、ハンターはもちろんだが近隣の部族が見物にやってくることも十分に想像される。その時に、まめしを披露出来れば、他の部族にもこれらを広めるチャンスなのだ。
――さあ、少しずつ準備のほうも整ってきた。
少し、時間を進めよう。
●
祭りの前日、屋台を設営する人たちは既に大わらわになっていた。
『ララ海運商会』を経営している青年、アスワド・ララ(ka4239)は、この機会に香辛料の店を屋台出店することを考えている。
その名も『ララ香辛料店』。ミルクティにスパイスを加えたいわゆるチャイや、酒のつまみにもなるスパイスをふんだんに使った焼肉串や餃子。それにこちらもスパイス多めに入れたクッキーなどを用意している。
香辛料、スパイスの類はクセもあるので決して万人受けするものではないが、試食メニューも十分に作り、熱心に呼び込めばきっと通りかかったひとも興味を示してくれるに違いない――そうなればスパイスを広める良い機会にもなるし、普段の仕事にもよい刺激を与えてくれることになるだろう、という目論見の上だった。
勿論、それ以外の屋台も様々出る予定だ。たとえば、星野 ハナ(ka5852)は東方茶屋と称して甘味処をやる気満々だ。用意したものはうす茶糖(冷やし抹茶)をはじめとして、冷やし飴、白茶やお団子。寒天や甘酒、変わったところでは焼き酒粕なんてものも準備しているらしい。
もともと祭りは賑やかに歩き回っているイメージの強い場所。座る場所はあまりないことが多いので、そう言う人たちの休憩場所も兼ねた出店、と言うことになる。料理の類は今まさに製作真っ最中、大量に作ってクーラーボックスで持ち込むつもりらしい。
「お盆っぽいのは寒天くらいかも知れないですけどぉ、みんなが笑顔で食べてくれるのならそれが一番いいのですよぉ」
ハナはそう言って菓子の作成に集中している。もっとも、菓子の作成をしているのはホープの地ではなく材料や準備がしやすいリゼリオの地であるが。
勿論屋台の定番であるたこ焼きや焼きそば、チョコバナナのようなものも有志たちが準備してくれていた。
裏方スタッフとして動き回っているノゾミは、そんな屋台の配置の割り振りや、案内所兼救護所と言ったものを設置することも提案してくれている。
『お祭りにいた人に快適に参加して貰えるように』
ノゾミの発想はあくまでも楽しんで貰えるように、と言うことを重視してのもの。指示もするけれど、自発的に手の足りないところにヘルプに入っているあたり、本人もかなりやる気であることがうかがえて、彼の仲間でもあるアスワドはそんなノゾミの張り切り具合を微笑ましく見つめているのだった。
また、マリィア・バルデス(ka5848)は屋台ではなく簡易の酒場を準備していた。机と椅子を用意し、座って飲食のできるものだ。樽で持ち込んだ酒はジョッキに注いで、日本酒は升に注いで――となかなか趣向を凝らしてある。
赤ワインとエールは常温、白ワインや日本酒、ピルスナーは樽を二重に使い適度に冷やして。
モツ煮込みやトリッパ、ウズラ卵の旨煮、茄子の煮浸しと言ったつまみ類は大鍋で作って保温したり、持ち込んでおけるものを準備した。
マリィア曰く、
「焼きそばだとか焼き鳥はずっと作っていなけりゃならないじゃない? 屋台という意味ではそちらの方が正当なんだろうけれど、お祭りでゆっくり酒を飲みながら、盆ダンスを眺められる場所を作りたかったのよね」
ちなみに持ち込みは自由なので、こちらも休憩に使えそうだ。
●
そして、さあ――当日だ。
太鼓や笛などが祭りの喧噪に彩りを添えながら、少しずつ日は暮れていく。やはり祭りは夕方からがたのしいものなのだ。
浴衣を所持しているひとはやはりそれほど多くなかったらしく、ホープを訪れたハンターたちはまず貸衣装の浴衣に袖を通すのが多かった。
「わーい、お祭りお祭り! どこでやるにしても、お祭りはいいもんだよねー!」
夢路 まよい(ka1328)は濃い藍色の地に馬酔木の花の描かれた浴衣を纏い、きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいる。世間知らずだった少女も転移してから世界を知るようになり、様々な楽しみを覚えている。祭りもその一つだ。
(たこ焼きとか、あるならいいんだけどな~、この前別のお祭りで食べたモノが美味しかったし……)
興味深そうに店を物色していると、確かにそこにはたこ焼きの屋台もあって、すぐにひと皿頼んで口に運ぶ。あつあつで一口頬張るごとにはふはふといいながら食べているけれど、確かにそれは美味しくて、ぺろりと平らげることが出来た。
「他にもどんな屋台があるのかなー?」
まよいは楽しそうにきょろきょろと屋台を見回していた。
菖蒲の柄が施された浴衣を纏っているのは、雨月彩萌(ka3925)。
「リアルブルー風の祭りと聞いていたのでこの格好にしてみましたが、正解だったみたいですね」
そう言ってにっこりと微笑む。少し年の離れた兄である雨月 藍弥(ka3926)も同行している――ちなみに彼は紺無地の浴衣である――が、妹が無邪気に祭りを楽しんでいる姿を全力で見守っている。言葉にすると悪いが、藍弥は過保護――というか、いわゆるシスコンに近い存在だ。何しろ趣味は妹の成長観察と言って憚らないあたり、重症かも知れない。
しかしそれも、幼い頃に他界した両親の代わりに彩萌を育ててきたと言うこともあるのだろう。そのぶんというか、彩萌には思い切り塩対応されているが、本人としてはそれでも目に入れても痛くないと言える妹なのだ。
(愛おしく可愛らしい彩萌は浴衣姿でその美しさがまた増した気がします……そんな尊い姿をカメラで納めないと……!)
……うん、かなり危ない発想であるのはこの心の叫びでも判ることだろう。
もっとも、彩萌がその兄を無視しつつ早足で逃げるあたりはそんな兄の性格を把握しているからなのだろうが。
と、慣れない下駄履きの影響だろうか、早足をしていた彩萌が足元をとられて躓き倒れ、浴衣も乱れてしまう。それを藍弥は
(あの白い肌、恥じらう表情、愛らしい瞳……全て私の宝物でございます……っ!)
感極まった表情で見つめているが、彩萌はすぐにその兄の首をひっつかんで、
「今見たことはあなたの記憶から完全に消去して下さい。そうしないていないとわたしが察したら、あなたの存在を抹消しますので、お覚悟を」
愛らしい容姿に似合わないドスのきいた声でそう言い放つ。完全に脅しである。藍弥はこくこく、と頷くが、それでもすぐには忘れられないのだろうな、と二人してため息をつくのであった。
久我・御言(ka4137)は、恋人たる鷹藤 紅々乃(ka4862)とともに参加だ。お互いリアルブルーの日本出身とあって、こういう祭りの楽しみ方は心得ている。
ただ、恋人――と認識しているのは御言のほうのみ。紅々乃としては、彼の返事を貰っているものの、その言葉の真意を測りかねてまだ片想い、という認識をしているからだ。
紺地に緋牡丹の浴衣に草履履きの紅々乃に、黒一色の浴衣の御言。浴衣姿の紅々乃に、御言はにこりと微笑んで、
「よく似合っているよ」
と言ってそっと手を取る。はぐれたりしないように。
祭りの熱気は、かつて転移する前に住んでいた青の世界を思い出す。いやでも思い出す、故郷の空気。
それでも、御言はかぶりを振って紅々乃に微笑みかけた。
郷愁を感じながらも、今日は彼女のことだけを感じて、考えて、エスコートしようと。だって、折角のデートなのだから。
郷愁に囚われるのは、紅々乃だって同様だ。
転移する前、彼女は小学生。その頃の話を懐かしむように話す。
大好きで祭りの時には必ずいった射的や金魚すくい、綿飴は必ず買って食べていたこと、そんなたわいもないことを、一生懸命に。
そして御言に買って貰った綿飴を食べながら無邪気に尋ねる、
「御言さんの、リアルブルーでの夏祭りの思い出はなんだったんですか?」
その言葉に御言は首をかすかにひねる。
「祭りは雰囲気を楽しむものでもあるから」
そう答えて、少しだけはぐらかした。
そう、雰囲気を楽しむもの。とくに隣にいるのが想いを寄せる相手なのだったら、楽しくないはずが無いではないか。そこまでは言わないものの、御言が紅々乃に向ける笑顔は確かに綺麗で。楽しんでいるというのが、ひしひしと伝わってくる笑みだった。
恋人同士で来ているのはなにも彼らだけではない。
鞍馬 真(ka5819)と骸香(ka6223)の二人も、そんな恋人同士で遊びに来た一組だ。
浴衣に揃いの簪を挿した二人は、人混みに紛れて手を繋いだりもしながら、周囲の様子を見て歩いていた。まだどうどうと手を繋ぐのは、照れが勝ってしまうから。
「折角なら食べ歩きしようよ」
「食べ歩き……いいっすね! だって、折角の祭りで、デートなんだし!」
真の提案に、骸香も嬉しそうに頷いてみせる。
たこ焼き、焼きそば、それに焼肉串……そう言った屋台を回って色々食べ、食べきれなかったら半分こをして……と言ったお祭りデートを満喫している。
とくに骸香が嬉しいのは、揃いの簪。髪を飾るその装飾品は、あるくたびにしゃらりと揺れて、つけているだけでなんだか笑顔がこぼれてくる。
(……そういえば、盆、かあ……死んだ奴がいっとき戻ってくるって言うけれど、戻ってくる場所もないから、意味をなさないか。生きてるなら今を掴んで進むしかないんだし、そうでないと、真さんと一緒に居られないからね)
複雑な過去を背負っている骸香は、そんなことを思い返しながら、真の手をぎゅっと強く握る。自分が生きている証、そう言わんばかりに。
真も、そんな骸香の手をそっと、しかしぎゅっと握り返した。自分がここにいるよと、そう伝える為に。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は非常に興奮していた。
日本風の祭り――その言葉が、東洋かぶれの彼を擽らないわけがない。ドイツ系クォーター、ドイツ人の血が混じっている穂積 智里(ka6819)に声をかけ、共に出かけることにしたのだが、実際に祭りの様子を目の当たりにして興奮しないわけがない。
(おばあちゃんの国のひとだから他のひとよりは親近感はあるけれど……でもやっぱりちょっと変わった人、だなぁ)
智里はそう思いながら、ハンスの楽しそうな様子を眺めていた。と、ハンスは思い付いたように智里に尋ねる。
「智里、食べものの知識はだいたいわかるのですが、お遊び系屋台の実体験がどうにも不足していまして。型抜き、金魚すくい、ボールすくい、射的……これらがあると、聞いてはいるのですが、ここにもあるでしょうか? また、カラーヒヨコ、というものも見てみたいのですが」
「うーん……型抜きも射的も私はしたことがないので……輪投げやボールすくいとか、釣らなくても水風船はありそうな気がしますけど」
ただ、会場が会場だけに、生き物関連の屋台、金魚すくいのようなものは残念ながら出ていない。それでも調べれば、輪投げや射的、型抜きなどは在って、ハンスは早速目を輝かせてそれらに参加しはじめる。智里も折角だし、とチャレンジしてみようと思う。
そういえば、ハンスは智里の手を繋いだりはしない。ハンスはこれでも紳士だ。友人同士では手を繋ぐことがないと聞いていたので、手を繋がず横を歩いてのエスコートに留めているのだ。
が、人混みではぐれそうになった時は、ぐいっとハンスは智里の手を引いた。
「ひゃ……ありがとうございます」
支えてくれたりしてくれるあたり、やはり親切な人だな、とは智里も思うのだ。
(ちゃんとおうちに帰れたら、おじいちゃんやおばあちゃんに会わせてあげるのもいいのかな……きっとあの二人とはいい友人になるんじゃないかなって思うし)
そこまで考えて、智里は自分に問いかける。
(それじゃあ、私とは……私とはどうなんだろう? 友人……なのかなぁ?)
その答えは、まだでない。
天央 観智(ka0896)はそんな中、ひとり祭りの喧噪を眺めていた。
学者の卵でもあった観智は、その祭りの様子を見て、思わず独りごちる。
(僕の思い過ごしも……あるんでしょうけれど、あまり此処らしくないお祭り……みたいな感も、ありますよね。どちらかといえば、……東方、或いはリアルブルーの日本の……そう言うところの昔ながらのお祭り、みたいな。まあ……多分、気のせいでしょうけれど)
そう言いながらも、観智自身も浴衣を纏い、それらしい姿をしている。チューダのお面を折角だからと頭に添え、祭りを楽しむつもりは十二分にある。
――それでも、なにかが足りないような気がする。
(なにが足りないんでしょう……杜……というか、社……?)
かつて住んでいた、リアルブルーの故郷・日本に想いを馳せながら、リアルブルーとホープの祭りの違いをちらちらと確認してしまうのは、もう好奇心ゆえの性分という奴だろうか。
このあたりは、日本風。こっちは逆に、クリムゾンウェスト風……そんなことを考えながら、ひとり下駄の音を響かせていく。
リアルブルーとクリムゾンウェストでは、様々な概念が違うことが多い。同性のカップルがハンターに時折見られるのも、そう言う現象の一つ――なのかも知れない。
玉兎・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)の二人も、そう言う関係を築いているカップルだ。もっとも、いずれもリアルブルー出身者ではあるのだが。
(夏祭りか……今年はうっかり海に行き忘れちゃったから、これくらいは恵を連れてこないとねぇ。ま、とりあえずはデートを楽しもう!)
リアルブルー出身ながら転移前の記憶が皆無に近い小夜としては、祭りの様子を見て『なんとなく見覚えがあるような気がする』程度の認識だが、恋人である恵――彼女は小夜のことを『うさぎさん』と呼ぶ――は、久々のデートと言うこともあって少し浮かれ気味に、いかにも楽しそうに周囲の様子を見渡している。
小夜のエスコートに従い、恵がそろそろとついていくという、いかにも可愛らしいカップルと言わんばかりの光景だ。方向音痴であることを自覚している恵としては、はぐれたりしたら大変だから、小夜にくっついて歩いてい流が、それもまた幸せという感じである。
屋台を観に行くと、小夜から綿飴や林檎飴をさらりと勧められた。
「ほら、これ。甘くておいしいよ。やっぱり祭りと言えば、綿飴や林檎飴だよね」
そう言って微笑む小夜だが、はて、林檎飴など食べたことがあっただろうかと言ったあとで小首を傾げる。まあ、あまり気にしていても仕方がないので、適当に誤魔化すが、恵の方はと言えば
(うさぎさんって結構甘党なのかな)
そんなことを思ってみたり。
「そういえばお付き合いしてから結構立ちますけど、こういう縁日って初めてですね。まだまだお互い知らないことが多いんですね……」
そう感じ入りながら、同時にそう言う相手のことを知っていくのが新鮮で嬉しいと無邪気に思える恵であった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、なにやら大量の鞄やらなにやらをもってやってきた。
「BON=DANCE? というのを見ながら、のど元まで食べるの、お祭り楽しみなの~……」
じゅるり、とつばを飲み込みながらディーナは楽しそうに言う。何しろ食べられるものは何でも食べる、というタイプのディーナである、目下の目標は飲食店の制覇だ。ちなみに成人済なので、酒も勿論飲むことができる、が、あまり飲み過ぎると酔いが回って逆に食べられなくなってしまうので味見程度だ。
同盟商人が持ってきたワインや、辺境部族の乳酒などをちびちびと味見しながら、がつがつと食べもの系の屋台を絨毯爆撃。
お好み焼き、焼きそば、焼き鳥、たこ焼き、焼きトウモロコシ……和風のお祭りの鉄板と聞いているそれらは勿論食べる気満々だ。
「でも、テッパンってどういうことなの? ぜんぶ鉄板で焼くからなの……?」
小さく首をかしげるディーナ。どうやら、いわゆる同音異義語という奴に弱いらしい。
「ところでまめし……って、まむしの親戚かなにか、なの?」
いやそう言うゲテモノではないのだが、名物に疎かったのは彼女としては一生の不覚という感じらしく、早速一つ頼んで食べてみる。と、出されたのはいわゆる焼きおむすびのようなものだった。まめしは米の代用食で見た目もコメに近い為、こうやっておにぎりにしたりすることもできると言うことらしい。おいしそうに頬張りながら、ディーナはにこにこと微笑んだ。
セルゲン(ka6612)はハーティ(ka6928)の屋台を覗いていた。
ハーティは花屋で働いていると言うこともあって、生花を使った髪飾りやコサージュと言ったものを扱う屋台を出店しているのだ。
(お祭りれすから、きっとおめかししたお姉さん達がいっぱいいるのれす。生花だから1日限りの飾りれすけど、香りのいい夏の花は、お祭りの思い出をより素敵にしてくれるのれすよ♪)
ドラグーンの彼は見た目こそ成人なみだが、実年齢はわずか十歳。舌っ足らずな発音は生まれつきのものだ。
そんなハーティが『赤鬼さん』と懐いているのがセルゲン。セルゲンからしてみれば、危なっかしくて心配なところのある友人だ。もともと彼が故郷を出てきたばかりの頃に出逢ったという、いわゆる腐れ縁という奴である。
もともとセルゲンは賑やかな祭りは好きだ。赤鬼さん、の呼ばれ方の通り、ずいぶん前に東方を出奔した鬼の青年である。根が真面目なせいか、ハーティの存在は若干胃痛の原因となっているようだが、まあそれでもくるくると動き回っているハーティの姿を確認出来るのはいいことだ。しかし売り子となれば店からはなれられないだろうし、と食料などを買い込んで差し入れをする。
「調子はどうだ?」
セルゲンが尋ねると、ハーティはにっこりと笑って見せた。それなりに順調らしい。
「おなかぺこぺこらったのれ、ごはん嬉しいれす!」
早速手軽に食べられるたこ焼きを一つもぐもぐ。若干熱かったようだが、それでも美味しそうに食べて、たこ焼きをあっという間に平らげてしまった。
「お礼に、赤鬼さんにもお花つけてあげますねっ!」
そう言って頭に髪飾りをぽんっとのせたのだが、微妙な顔をされてしまった。
本当は忙しそうなら手伝いたいくらいなのだが、あいにくセルゲンは花の見分けがつかない。そう言うものを愛でるという習慣がなかったからだが、しかしそれでも花を前にしたハーティは楽しそうで、セルゲンも思わず笑顔を浮かべていた。
「それにしても豊穣を願う祭りか……」
ハンターになる前の彼は辺境を中心に傭兵をしていた。だから辺境の地は決して実りが豊かでないという印象を持っているし、事実そう言う場所が多い。
「ボクの故郷もあまり作物のとれない場所なのれす……だから、お祭りに込められた願いが届きますように!」
ハーティは手を広げて、歌うようにそう言った。
T-Sein(ka6936)と星空の幻(ka6980)は、祭りの光景に胸を高鳴らせていた。
(お姉ちゃん達とお祭り……楽しみ……♪)
グラムは思わずそう胸で呟く。グラムとザインはオートマトン、人工的な生命体。しかし、グラムの中にどうしてか『初めて』という感覚は、あまりない。もしかしたら記憶を失う前に行ったことがあるのかも知れないが、真実は闇の中、と言う奴だ。
トレードマークのポニーテールをお団子にして着物を着たグラムに、赤い髪に赤い着物を纏ったザインはなかなか様になっている。
無論、二人だけではない。リアルブルー出身の晴風 弥(ka6887)と、クリムゾンウェスト出身のスフィル・シラムクルム(ka6453)も同行している。
初めての祭りに興奮気味なのはスフィルもだ。
リアルブルー風のお祭りなど、経験がない彼女にとって、どれだけ胸が高鳴るものだろう。その上仲のいい友人達と見て回れるのだから、なおのことだ。
「なんか懐かしいかんじがするな……!」
いっぽうの弥はそう言って、ぐるりと周囲を見渡し、感慨にふける。リアルブルー出身者としては、郷愁を感じる祭り、と言うところなのだろう。もっとも、盆踊りを踊ることはできないので、露店まわりのエスコートがせいぜい、と言うところらしいが。
ザインは羽目を外すと言うことをあまり知らないししたくないのか、先を行く三人のあとをついていくようにしているが、四人で賑やかに動き回ればそれは華やかというものだ。
スフィルとグラムが先頭を歩き、その少し後ろを弥、更にもう少し後ろにザインというかんじで歩いている。
「そういえば、射的? ってお店はあるのかしら? あるなら挑戦してみたいわ、銃は、その、……苦手な方だけど」
スフィルがそう言うと、グラムもこくこくと頷いた。
「はい、ばんばん撃ち抜いてみたいですの……♪ それと、綿あめとか、リンゴ飴も食べたいですね……♪」
「へえ、グラムは結構物知りだな?」
弥に言われると、グラムも不思議そうに首をかしげる。なんとなく口をついて出た言葉に、自身でも不思議そうに。
「でも射的なー……そうだな、俺もやってみっかな。景品がとれたら楽しそうだしさ」
てくてくと歩いているとやがてお目当ての射的は見つかった。可愛らしいぬいぐるみや、小さな玩具のようなもの、ちょっとしたアクセサリなども並んでいる。あれをコルクの弾丸で倒したり撃ち落としたりすることができれば、景品として持って帰れるという寸法だ。
「へえ、けっこう色々あるな。もし景品なりがとれたら、スフィル、欲しいか?」
弥の言葉に、目を大きく見開くスフィル。
「いいんですの?」
「いいのいいの、俺が持っててもしゃーないし、な?」
にこっと笑ってみせる弥。アナログからデジタルまで、ゲームと名のつくものはなんでも好きというゲーム好きな彼は、射的も決して下手ではない。
まあ、もしもの時の為に一応なにもとれなかった時のことを考えてはいるようだが。
「俺は、自分でとるのです……♪」
グラムが早速おもちゃの銃を構えると、ぱんぱん、となれた手つきでくまのぬいぐるみを倒してみせた。
「たとえ当たらなくても、挑戦することが大事なのー!……むー!」
スフィルも挑戦するが、小さなキャラメルの箱を掠めた程度で終わってしまう。弥はと言えば、小さなヘアピンの入った箱を倒して、それをスフィルに渡してやった。
「こんなの、俺は使わないし、な?」
スフィルも、さすがにそういうことなら、と有難く受け取る。早速つけてみると、小さな花飾りのついたヘアピンはなかなかにあっていた。
「スフィル、よく似合っていますよ」
ザインにも言われ、悪い気はしない。と、スフィルはいいことを思いだしたというふうにパン、と手を叩いた。
「そういえば星野さんが甘味処をやると聞いているの、そこで休憩しましょ!」
知人でもあるハナの甘味処を訪ねようという目論見だ。
「それならこちらから行きましょう。先ほど店の前を通りましたから」
ザインは道を覚えていたらしく、こくりと頷いて見せた。
もしはぐれでもしたらなんとか動かないようにしようと、そこまで考えながら。
●
盆踊りの喧噪が、少し遠くに聞こえる。
シルヴェイラ(ka0726)と、エルティア・ホープナー(ka0727)のふたりは浴衣に身を包み、祭りの空気を一通り味わってから休憩所の椅子に座っていた。
蒼の大地の催しは、この紅の世界のそれとは少し異なるが、でも賑々しいことに変わりはない。
紺地に太さの違う白い縦縞の入った浴衣に銀の帯を締めたエルティアと、藍地に流水紋の浴衣のシルヴェイラはエルフの幼馴染同士だ。
「民族衣装も風情があるし、エアにもよく似合っているね」
シルヴェイラはそう言ってにっこりと微笑んで見せた。
二人は狐の面を手に取り、そっと顔に被せる。素顔は見えないが、それでいい。
(死者を供養する為の催しとも、本には書いてあったけれど……そうね、こうやって面で顔を隠してしまえば、生者か死者かなんて、分からないモノね……)
エアを庇うように歩いていたシルヴェイラも、小さく頷き返す。
ハンターとして、いやそれ以前からの長い付き合いの二人。ハンターという職業上、お互いいつどうなるか判らないけれど――
(彼女との別れは、何よりも耐え難い、な)
無論、死なせるつもりはない。シルヴェイラ自身の手で、きっと守ってみせると胸に誓う。
「ねえ、シーラ」
エルティアはそう言って声をかける。
「今目の前にいるのは生者か死者か……もしかしたら亡くした人にも逢えるのかも知れない……この祭りには、そうった、生きるものの願いが込められているのかしら?」
突然の言葉に、息をのむ。
「それは、ある意味自然のことだろう。人の想いというのは」
そう、応えると、
「そうね……亡くせば逢いたいと思うものね……」
エルティラはそっと傍らの青年の手を握る。
「……シーラ。どうか、はぐれないように……ね?」
いつもと同じクールな声音。それでも、その手を握り返してやると、肩のこわばりが抜けたかのような安堵のため息が僅かに零れるのを感じ取れた。
「……ああ」
(こういうのも、悪くはない)
シルヴェイラも、そう頷き返した。
人の生き死に、そして豊穣を祈る夏祭り。
皆の心に、きっとなにか、大切なモノが生まれただろう。
あるものは踊り、あるものは食べ――そうして生きている実感を改めて感じながら。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/15 23:11:05 |
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お祭り大作戦発動? 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/08/14 22:04:59 |