• 界冥

【界冥】イカロスの翼 ~星屑の声~

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/22 12:00
完成日
2017/09/02 17:26

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 篠原神薙は、リアルブルー……いや、地球の日本で生まれ育った。
 そして宇宙開拓民の募集に応じた両親と共に、L5宙域に存在するコロニーへと転居する。
 地上の人口増加と資源の枯渇が致命的な戦争状態をもたらすより早く、人類は宇宙に新たな活躍の場を見出した。
 神薙の両親はコロニー学者であり早い段階でL5宙域に移り住む決断を下したのは、自然なことに思えた。
 地球と宇宙。まったく異なる生活空間を体験した貴重な世代の一員たる神薙は、両親の後を追って科学者の道を志した。
 コロニーで生活するには様々な規律が重視される。
 彼らはいい加減な気持ちで母なる大地を離れたわけではない。だからこそ、強い連帯感を抱いていた。
 神薙と道を同じくし、切磋琢磨しあう学友たち。頼れる大人たち、そして愛すべき家族。
 すべてが満ち足りていた。悲しい過去なんて縁遠い少年は――あの日、転移によって異世界クリムゾンウェストへ引き寄せられた。
 そして、それがすべての始まりだった……。

 月面都市崑崙は超人運動会に沸いていた。数多の観光客が行きかう都市に、リアルブルーの服を着た少年は簡単に馴染んだ。
 ほとんどの人々が向かうスタジアムとは反対側、人気の少なくなった図書館で少年は一人新聞を読みふけっていた。
 異世界で、転移者として――立派に戦ってきたと自負している。
 かけがえのない仲間との出会い。強敵との闘い……。
 文化の違う人々との軋轢、衝突。それらを乗り越えてきた過去に、悔いなどあるはずもない。
 なのに調べれば調べるほど、言葉にできない悔しさがこみ上げ少年は強く拳を握りしめた。
「2013年12月8日……VOIDの攻撃により、L5宙域のコロニーが3基崩壊。5基が生命維持に支障。軍はL5宙域の放棄を決定……」
 繰り返し読み上げ、少年は目を瞑る。
 故郷はもう――この世界のどこにも存在しない。
 その肝心な時に、神薙はそこにいなかった。
 これまでやってきたことが無駄だったとは思わない。こうなることを想像しなかったわけじゃない。
 ほかの転移者も同じだ。未だ故郷に帰れない――いや、もう故郷を失った者も多いだろう。
 だから、自分だけではない。そう言い聞かせ、叫び出しそうになる感情を抑えるのが精いっぱいだった。

「やはり来たか」
 コードネーム、OF-004。本名をクドウ・マコトと言う少年は、2013年末のL5コロニー崩壊後、自らの意思で力を求めた。
 強化人間計画は既に秘密裏に種を撒く段階にあり、マコトにはVOIDに対する強い復讐心、すなわち執念があった。
 その時からつけられたコードネームにどんな意味があるのかなんてマコトは考えなかったし、考える必要もなかった。
「コロニーから崑崙へ向かう輸送船を狙った襲撃です。……いつもの海賊の仕業です」
 崑崙の軍事ドーム、その管制室でオペレーターが応じる。少年はモニターを覗き込んだ。
 崑崙の望遠カメラで補足されたすの輸送船の周りには、三機のドミニオンが確認できた。
 いずれも使い古されたもので、正規品ではないパーツをツギハギして維持している。
「要求は?」
「金銭と水と食料ですよ。参ったなあ。警邏隊は何をしてるんだか」
「地球からの船が3倍以上に増えてる上に、お偉方も見に来てるんだ。そっちに手を割くだろう」
 VOIDという共通の敵を前に、人類の結束はおおむね達成されている。
 だが、今も満たされぬマイノリティには、こうして後先考えない生活をしている者もいた。
「スクラップ・チルドレン……か」
 少年はすっと目を細める。
 破壊されたコロニーの生き残り。だが、大人の保護を受けることを拒絶した子供たち。
 無理矢理押し込められた別コロニーや崑崙で居場所を失い、こうした蛮行に走る子供は少なくない。
 爆発的に増加する孤児に大人たちが対応できないしわ寄せとして、一見潔白の社会にシミを作っている。
「俺が対処に向かう。あくまでも何事もなかったかのように超人運動会を続けてくれ」
「もちろんそのつもりだけど、あなただけで行くつもりですか?」
「軍が動けば目立つ。それに、あいつらは大人の話は聞かんだろう」
「それはそうですが……そうだ、超人運動会! 今は異世界の英雄がその辺にゴロゴロしてますよ! 彼らの力を借りましょう!」
「プログラムに遅れが出るぞ」
「大丈夫です。CAMを用いた演習競技の騒ぎに紛れて出撃すればきっとばれませんし、すぐに終わる仕事ですから」

 こうしてハンターたちの中で手の空いているものが集められた。
 観光中、あるいは競技の準備中だというのにソサエティから連絡を受けたハンターは、軍用の宇宙港に向かっていた。
 あなたが愛機を持つなら、ハンターズソサエティが先に転移させた機体がハンガーで待っているだろう。
「ハンターか……急な仕事で申し訳ないが付き合ってもらうぞ」
 そこで待ち構えていた黒服の少年が説明を始める。
 ハンターの仕事は二つ。まず、輸送船にとりついている三機のドミニオンを戦闘不能にし拿捕すること。
 そして、すでに輸送船内に侵入しているであろう海賊気取りの少年少女をとらえることだ。
「あくまで任務は拿捕……殺害は極力避けてくれ。彼らにも、色々と事情があるんだ」
「故郷を失い、宇宙を放浪する子供たち……宇宙難民の成れの果て、か」
 そこに現れたのは篠原神薙だった。彼も今回の要請に応じ、任務に参加する。
「俺も参加する。かまわないだろ? マコト」
「断る理由はない。が、お前はCAMを持っていないようだ。内部突入班に編成するが、異論はないな?」
「もちろんだよ」
 それ以上二人の少年は言葉を交わさなかった。
 失ってしまった言葉の続きを探し求める様に、少年たちは星屑の海に目を向ける――。

リプレイ本文

「ターゲット確認。……これ以上近づくのは無理ですね」
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)は愛機のコクピット内から目標を眺める。
 広大な宇宙であっても、CAMが何機も近づけば気づかれるし、警戒されるのは当然。
 故にソフィアらはデブリの影に潜み、敵がこちらに近づくのを待ち構えていた。
「杞憂で済んでくれればいいんだけど」
 キヅカ・リク(ka0038)が祈るような気持ちで見るのは、OF-004が登場するエクスシアだ。
 偽装した輸送用コンテナを抱え、その上に篠原神薙とヒース・R・ウォーカー(ka0145)を載せて輸送船に近づいていく。
 いきなり戦闘状態になれば人質の安全は保障できない。故に一度相手の要求を呑むフリをして、制圧班が近づく手筈だ。
「スクラップ・チルドレンね……。彼らにも事情はあるだろうが……人質を取っても反感を買うばかりだろうに」
 呆れつつ、だがルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は普段より若干緊張している自分に気づき、宇宙を見つめる。
 無限の星空、光なき世界。何故か息苦しさを感じ、襟首に指を延ばす。
「しかしあれだな……こんなあまりにも何もない空間によく乗り出そうと思ったな。リアルブルー……地球の人々は」

『R7が一機だけかよ。確かに武装はしてないな。中身を確認させろ、部下を向かわせる』
 OF-004は出発前に武装を解除していた。ハンターからの指示はなかったが、妥当な判断である。
「人質の無事を確認するのが先だよ」
 コンテナ内に潜んでいる守原 有希弥(ka0562)と神楽(ka2032)がぎょっとするも、神薙が上手く切り返す。
(そりゃ中身確認するっすよね~。あぶねっす)
(不注意でしたが、今のうちに脱出しましょう。死角になっている手筈です)
 小声でボヤく神楽。有希弥はコンテナからこっそり脱出する。
 死角を計算し、出入り口が敵から見えないようにR7に運ばせている。
 さすがにコンテナの中にCAMを一機積み込むことはできなかったが、それ以外は順調だ。
 宇宙空間では音も響かない。コンテナを開いて閉じるくらいで気づかれることはない。
 ヒースと神薙が輸送船に向かうのと、神楽と有希弥が向かうのはほぼ同時。
 別ルートから、ちょうど光から回り込むようにして神楽と有希弥は忍び寄る。

 二重のエアロックが解放され、船内に入ったヒースに無数の銃口が突き付けられる。
「軍の代理で君たちとの交渉を行う事になったヒース・R・ウォーカーだ。よろしく、と言っておくよぉ」
「軍人じゃないのか? じゃあなんだ?」
「うーん……傭兵、かなぁ?」
 嘘は言ってない。
 子供らが腑に落ちない様子なのには理由がある。後にわかる事だが、彼らは「異世界人」のことを殆ど知らない。
 世間から隔絶されているのだから、最近の世情に疎くても無理はないだろう。そういう意味でリアルブルー人であるヒースは余計な揉め事を起こさない人選だと言えた。
「武器は持ってないよ」
「こっちだ、来い」
 二人が通されたのは一番大きな客室で、そこに手足を縛られた人質が閉じ込められている。
「全員無事か確認したい。名簿と照らし合わさせてもらう」
「好きにしろ」
 その部屋で待っていた、ひときわ体格のいい少年が神薙の言葉に頷く。おそらくリーダーだろう。
「軍の代わりにボクらが水と食料を提供する準備をしている。そちらの人数を教えてもらえれば何日分の量か正確に答える事が出来るんだけどねぇ」
「……ここにいないヤツの分もって意味か? お前らが要求通りの品を持ってきたんなら心配いらねぇよ」
 確かに言われてみるとその通りで、答える道理はない。
 子供らは銃器の扱いもある程度習熟しており、リーダーの判断力も高そうだ。つまり、ただの子供ではない。
「少なからずお前たちの心情は理解できるよ。ボクも同じさ。全てを失い、他者を傷つけ奪い血に汚れて生きてきた。だから言う。お前たちはボクの様になる、と」
 腕を組んだままのリーダーは無言で目を向ける。
「人を傷つけ奪い殺せば一線を越え後戻りはできなくなる。人の社会で生きていく上でそれがどれだけの足枷と鎖になるか、分かるだろ」
「説得のつもりか?」
「人質の無事を確かめるまでの世間話さぁ」
「フン。あんた傭兵なんだろ。なら知ってる筈だ。この世界で殺人はもうありふれてる」
 地上は一つに統一されたように見える。だが、統一地球連合議会に参加しない国は宇宙開発の恩恵を受けられないし、宇宙と地球の間には大きな隔たりがある。
 世界の歪みは是正されていない。延ばされたシワは別のところで形を変え、また社会に波を作る。
「人殺しは怖くない。どっちにしろ、誰も俺たちを救ったりはしないんだ」
「照合、終わりました。確かに全員無事です」
「文句はないな? 今度はそっちのコンテナを改めさせてもらう」
「俺が案内します。ヒースさんは人質についていてください」
 神薙の提案にヒースは頷く。ハイジャック犯もそれに異を唱えることはなかった。

「……動いた!」
 輸送船から神薙と数名の子供が出てくるのを確認し、キヅカは乗客の無事を理解する。
 もし乗客が既に手にかけられていたのなら、ヒースと神薙が暴れている筈だ。
「でもあのコンテナの中身は偽装なんですよねぇ~」
「かくれんぼにも飽きてきたところだ」
「二人共、わかってると思うけど……」
「自爆装置に気を付ければいいんだろう?」
 キヅカの呼びかけに機体を待機モードからアクティブに切り替えながらルナリリルが応じる。
 少なくともわかる範囲で周囲に歪虚の気配はないが、そういった警戒も怠ってはいない。
「自爆なんてしますかねぇ? そんな根性あるとは思えませんけど」
 ソフィアはやや興味なさそうに呟く。
「リアルブルーで今起こってる事を考えると、あり得ない話じゃないんだ」
 キヅカの危惧は概ね適切だ。今のリアルブルーにはキナ臭い動きも多い。転ばぬ先の杖というわけで、警戒するのは悪いことではない。
 だが今回ばかりはソフィアの直感の方が優れている。
 結論を言えば、自爆装置らしいものは外観からは見つけられなかったし、後に機体を解体しても存在しなかったのだから。
「自由にした奴がヤケを起こして輸送船を攻撃しても面倒です。三機のドミニオンにそれぞれ同時に仕掛けますよ」
 ソフィアに声に応じる二人。三機のCAMがメインカメラを光らせる。

「コンテナの中身が少ない……いや、空!? リーダー、こいつらっ!?」
 コンテナを開いた少年がそう叫ぼうとした瞬間、OF-004がコンテナを揺らす。
 バランスを崩すコンテナの中で回転し、天井を蹴った神薙が少年の銃撃をかわし拳を腹に減り込ませる。
『……くそっ、ハメられた!』
 それに気づいた改造ドミニオンがOF-004に発砲するが、R7はコンテナを手放しマテリアルカーテンで身を守る。
(……神薙も無事か。後は連中の仕事だ)
 突然、ドミニオンの身体が不自然に捻じ曲がる。
「なるほど、こんな感じか。反動と姿勢制御に気をつければ行けるな」
 大きめのデブリの上に立ち、スフィーダ99を構えたパピルザグXが長い砲身の向きを微調整する。
「久々の遠距離狙撃だが……腕を鈍らせたつもりはないぞ……? 撃ち抜かせてもらう……!」
『狙撃だ! 待ち伏せしてやがった!』
「経緯はどうあれ、ガキどもには灸をすえてやんねーとなァ!」
 ニィっと犬歯を見せて笑うソフィア。プロト・エクスの放つカノン砲が別のドミニオンを襲う。
『この距離で当ててくるのか!? バケモンかよ!』
「安心しな。拿捕が任務だからな、殺しはしねーよ」
 ハンターらの攻撃はコクピットのある胴体以外の部位を狙ったものだ。
 100キューブ離れた場所からの狙撃で正確に部位を狙うには専用のスキルが必要だが、敵も馬鹿ではないので普通は胴体を守る。
 つまり、あまり意識せずとも加減しつつの攻撃で無力化はできそうだ。しかし――。
「野郎! 輸送船を背にしやがった!」
 舌打ちするソフィア。外すつもりはないが、万が一ということもある。
「よせ! これ以上関係のない民間人を巻き込むのは!」
 キヅカを乗せたインスレーターは構えていたスナイパーライフルを下ろし、加速する。
 迎撃の銃弾を躱しながら、一気に近接戦に持ち込む算段だ。
「僕はキヅカ・リク! 君たちと同じ子供だ! これ以上の戦闘は無意味だ……投降してくれ!」
 三機のドミニオンは接近するインスレーターに照準を合わせ引き金を引く。
 だが宇宙を加速しながら泳ぐインスレーターを捕らえられない。
『なんだあの動き……』
「海賊行為が間違いだなんて正義ぶるつもりはない! でも無理なんだ! 君たちじゃ絶対に勝てなしい、力で押し通そうとすれば潰されるだけだ。そうなる前に助けたいんだよ!」
 しかしキヅカの声は届かない。海賊にとってキヅカは驚異的な性能を持つCAMを駆るエースパイロットにしか見えない。
 誰でも強すぎる力を前にすれば正気ではいられない。ましてや精神的に未熟な子供では――。
 その時、キヅカに引っ張られ輸送船から離れた敵機に銃撃が降り注ぐ。
「キヅカさんの志は認めますが、覚悟のない子供に何を言っても無駄ですよ。彼らは戦士じゃない。こうなる結末を自分で選んだんです」
 呆れたように息を吐きながら引き金を引くソフィアにキヅカは反論できない。
「今必要なのは言葉じゃなくて力だろ。あいつらを殺さずに無力化する“力”だ。それがあるなら示してやれッ!」
 歯噛みし、キヅカは前を見る。インスレーターは刀を抜いて応えた。

 やや時を遡り、外で騒動が起きる少し前――。
 緊急ハッチから内部に侵入した神楽と有希弥。予定通り倉庫ブロックに出ると、そこで巡回していた少年に襲い掛かる。
 有希弥の放ったチェーンが少年の腕に絡みつき、銃を弾く。それを手繰り寄せると無重力で少年はあっさり浮かび上がり、すかさず拳を打ち込み卒倒させた。
「お見事っす~」
「さて、こっからは腹を括って行きますよ」
「船内で騒動が起こればみんな仕事がやりやすくなるっすからね」
 ごそごそと、持ち込んだガトリングシールドを天井に向かって構え。
「レッツパーティーっす~……って、うおおおお!?」
 景気づけにぶっ放してみたガトリングだが、倉庫内を跳弾しまくって大変なことになった。
 キンっと音を立て、跳弾を切り裂いた有希弥が振動刀を鞘に納める。
「意気込みはええけど、ほどほどにな?」
「ハイッスンマセンッス!」
 背筋を正す神楽。気を取り直し二人が倉庫を出ると、派手な銃声で海賊が通路に集まっていた。
「なんだこいつら! 撃て撃て!」
 神楽がシールドを構えて攻撃を無力化すると、有希弥が短弓を素早く引いて敵を無効化する。
「冷静に考えるとガトリングで精密射撃って無理っす!」
 相手はただの非覚醒者の子供。誤射すれば即死だ。
 仕方なく神楽は杖を取り出し、ライトニングボルトを放つ。雷撃は少年たちの中を突き抜け――しかし誰も傷つけない。
 この魔法は敵と認識した者のみに攻撃をする。つまり神楽が敵と認識しなければ対象にはならない。適切なチョイスだと言えるだろう。
 これが無差別範囲攻撃の魔法であれば、この輸送船自体が破壊され全滅していたかもしれない。
「次は当てるっすよ。降伏しろっす!」
「あいつ……何しやがった……!?」
「あ。魔法を知らないんすね~」
 そりゃそうです。
 だが次の攻撃までに十分な隙を作ることができた。始めて見る魔法に彼らの思考は停止している。
 瞬間、既に有希弥は飛び出し次々に敵を制圧していく。
 ただの人間が有希弥をどうにかできるはずない。反撃も回避も不可能だ。
「おっと、逃げるのもナシっすよ~!」
 逃げ出そうとする者には神楽が謎の触手(魔法)を放ち引き寄せる。これも子供が抵抗できるようなものではない。
「ひっひっひ~……さあ、たっぷりと武装解除させてやるっすよ~。まずはスカートから……お?」
 その時だ。客室から通路に出てきた、齢十にも満たないような幼い少女が拳銃を神楽に向ける。
 震える指で放たれた弾丸は神楽に当たらない。次の攻撃はフンケルンで弾く。
「その程度じゃ無理っす。諦めろっす」
 銃を取り上げ、少女が出てきた部屋を見て、二人は勘違いを理解した。
 母船への連絡を警戒する? 必要ない。なぜなら彼らは“全員ここにいる”。
 母船など存在しないのだ。いや、何らかの理由で失ったのだろう。だから、この事件を起こさざるを得なかった。
「……恨み言だの色々言いたかろう、それでも言うぞ。何をやってやがる……!」
 客室にはみすぼらしく痩せ細り、外観からも栄養失調が理解できる子供たちが、ぎゅうぎゅうと詰め込まれていた。
 洗濯物や僅かな食料品、空き缶に穴をあけたオモチャ。まるで託児所だ。
 たくさんの怯えた視線を受け、有希弥は壁を叩く。
「こんだけ足手まといを抱えてハイジャックっすか。頭イカれてるっすね。成功するはずねーっす」
 子供たちの世話をしていたのか、少しだけ年上の少女が両腕を広げてかばうような動きをみせる。
 有希弥はその少女に歩み寄り、震える肩を叩いた。
「うちらは命を奪いに来たんやない。怖い思いをさせてごめんな。よう……頑張られたな」
「まだ他に武器持ってる奴がいるかもしれねぇっす。お前らはここから動くんじゃねーっすよ」
 パニックになって誤射でもされたら堪ったもんじゃない。その言葉は付け加えなかった。

 インスレーターは接近し、斬艦刀でドミニオンの下半身を切り裂く。
 足は宇宙でも大事だ。スラスターもあるし、バランスを保つのに一役買っている。
「大人なんて身勝手な連中……僕だって嫌いだよ。けど進まなきゃ、嫌いなままじゃ何も変わらない、そうだろ!」
 刀を突きつけるインスレーター。そして振りかぶるような動作を見せる。
「そんな機体がいつまで持つかもわからない。脱出しろ!」
 コクピットが開き、慌てて子供が出ていく。それを見届けキヅカは敵機を両断した。
「自爆装置はない、か……いちいち射線を気にするのも面倒だ」
 加速するパピルザクXはマウントしていたCAMブレードをせり出し、その柄を掴む。
 刀を引き抜くと同時に切りかかると、ドミニオンはそれに反応し刀を合わせる。
 激突する双方の刀、だが返す刃も打ち合うと、ドミニオンの刃はへし折れてしまう。
「……安物か。同情するぞ」
 三撃目で刀を持つ腕を切り落とし、更にライフルを向けてきたもう片方の腕も切り払う。
 代わりにコクピットにマシンガンの銃口を突き付ける。最早敵機にできることはない。
「やはり地上とは勝手が違うが、やれるな、私」
「この戦況で逃げ出さないのは御立派だがな!」
 スラスターをふかし、接近しながらラプターCS9を放つプロト・エクス。
 最後の一機はライフルで抵抗する。距離を詰めたこともあり回避能力に優れるわけではないプロト・エクスに着弾するが、大した損傷ではない。
 ダガーを抜いたプロト・エクスは、強引に掴みかかるように敵機を捕らえる。そうしてダガーを脇腹に突き刺した瞬間、電撃の光が瞬いた。
 敵機に流し込まれた電撃が行動阻害どころかシステムを焼いてしまったのか、それでドミニオンはウンともスンとも言わなくなる。
「メンテナンスがなってねーな。マシンが泣いてるぜ?」

「テメェら……ハメやがったな!」
「その誹りは甘んじて受けるべきだろうねぇ」
 船内にて、海賊のリーダーは人質である客ではなくヒースに銃口を向けた。
 それはヒース一人を殺せばまた人質を利用できると考えたからかもしれない。だが、ヒースはそうは感じなかった。
 彼らは生きることを諦めなかった――その事実になぜか嬉しくなる。
 次の瞬間、放たれた弾丸を首だけ動かし回避する。
 唖然とするリーダーに続き、数名の少年が銃を構え引き金を引く。
 放たれる無数の弾丸。これをヒースは踊るように身を躱し、一撃も受けることなくリーダーの顎を蹴り上げた。
 狙いは完璧で、ヒースはこの為に相手の部位を攻撃するスキルを搭載してきた。それもまた評価すべき点である。
「なんであたらねーんだよおおおお!!」
 気絶したリーダーを抱えた少年がマシンガンをぶっ放す。残像を帯びたヒースは駆け寄り、その銃をひょいっと取り上げ、瞬時に背後に回り組み伏せると、その頭に銃口を向けた。
「動くな。動けばリーダーとこいつを撃つ」
「……くっそぉおおお!」
 絶叫する少年。泣き出す少女。だが、銃を手放そうとしない者はいない。
「わかってたさぁ。お前たちが仲間を大事にしてるってことは」

 こうして事件は解決され、人質は全員無事に解放された。
 また、犯行グループである海賊の少年たちも一人も死者を出すことはなかった。
 崑崙に運び込まれた輸送船からは保護された乗客と、拿捕された海賊が兵士に連行されている。
「流石は異世界の英雄、見事な手際だ」
 ヘルメットを外したOF-004の言葉にキヅカは浮かない様子で首を振る。
「僕は決して英雄(ヒーロー)じゃない。君と同じ……僕は唯の凡人なんだ」
「俺と神薙だけでは彼らを救うことはできなかった。その結果に何の不満がある?」
「力があっても護れないこと、解決できないことだってあるんだ」
 その視線の先では、ぞろぞろと連行される子供たちの姿がある。
「おい、モタモタ歩くんじゃない!」
「この子らはずっとろくに食べていなくて体力がないんです。怒鳴らないであげてください」
 有希弥は子供らに向けられた兵士の銃口を下げ、振り返り向き合う。
「仲間を救うために頑張ったんやな。やったことは許されん罪、でも……よう生きとったな」
 腰を落とし、泣き出す子供たちを慰めるように優しく声をかける。
「この手の襲撃事件は多いっす? つかCAM盗まれるとか軍の管理はどうなってるっす!」
「廃棄されたコロニー群は無法地帯だし、誰も手を出す必要がないからな」
「CAMの操縦が出来る身寄りのない孤児とか洗脳して使い捨ての強化人間にするのに最適っすよね」
「そんな事は、俺がさせない」
 予想外に力強いOF-004の言葉に神楽はひょうきんな態度を改める。
「海賊達が今後どうなるか統一連合宙軍に内緒で追跡して欲しいっす。軍から距離があるけど顔が効くトマーゾさんのラインでお願いっす。もう誰かの大義の代償に大義と関係ない奴等が犠牲になるのを見るのは嫌なんす」
「トマーゾはあんな連中など歯牙にもかけない。あいつが救いたいのは彼らじゃない……世界だ。世界が存続するなら、多少の悲劇は黙認する」
「この世界に居場所を見つけられないなら、クリムゾンウェストを目指す。ゼロから自分の居場所を作って見せろ。他者から施されるので奪うのでもなく、自分たちの手で作りあげればいい」
 ヒースの言葉にOF-004は初めて笑みを浮かべる。
「それはいい考えだ。不可能という点に目を瞑ればな」
「実際に転移している者がいるだろう?」
「幸運だっただけさ。俺も俺の家族も、転移はしなかった」
 ヘルメットを被り去っていくOF-004をソフィアは大破した敵機の残骸の上に立ち見送る。
「臭いな。負のマテリアルのにおいだ」
 以前からソフィアは負のマテリアルの再利用法についての術を探していた。
 だが、あれは彼女の望む力なのだろうか。
「結局機体に怪しいところは見つからなかったな。短絡的な犯行だったのか?」
 調査を終え、頬についた油を拭い、ルナリリアがつぶやく。
「さて、どうでしょうね」
 絢爛と輝く月面都市に、みすぼらしい姿の子供達が飲み込まれていく。
 多くの金持ちが集い、安全圏から声援を送り面白がる、超人運動会はまだ始まったばかりだ――。

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重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ファイナルフォーム
    インスレーター・FF(ka0038unit001
    ユニット|CAM
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 渾身一撃
    守原 有希弥(ka0562
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ディヴァイドスレイヤー
    DViDSlayer(ka0562unit001
    ユニット|CAM
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    プロト・エクス
    プロト・エクス(ka2383unit002
    ユニット|CAM
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    パピルサグイクス
    パピルサグX(ka4108unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 海賊退治?するよっ
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/08/22 01:23:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/16 22:37:13
アイコン 質問所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/08/19 22:36:50