• 界冥

【界冥】クラスタ包囲・西飛行部隊

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/30 22:00
完成日
2017/09/12 13:22

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 新設されたばかりの龍園ハンターオフィス。
 石造りの壁を背に、浮かない顔の青年がいた龍騎士隊隊長・シャンカラ(kz0226)である。
 そこへ、調練を終えた年長の龍騎士・ダルマがやって来た。
「ぃよう隊長殿、終わったぜェ」
「ん……ああ、ごめんダルマさん。何か言った?」
「何だァ、考え事か?」
 らしくないシャンカラの反応に、ダルマは心当たりに思い巡らす。

 現在、隊長であるシャンカラを悩ます事柄は様々だ。
 ひとつは、龍騎士達の事。
 龍人達はこれまで覚醒者となる事を制限されていたが、先達てそれが解放された事で、龍騎士の中にも覚醒者となる者が続々と現れた。長期的に見れば喜ばしい事なのだが、彼らは龍騎士、ある程度己の戦い方をすでに確立している。そこへ新たに得たスキルをどう落とし込むか模索中の者も多い。それが大勢一時に重なったものだから、龍騎士隊は今やや不安定な状態にあった。
 そしてもうひとつは、制圧済みの強欲竜砦の事。
 いまだ砦に残党が残っている可能性があり、大規模な調査を行わねばならないが、上記理由で今は龍騎士隊を大きく動かすべき時ではない。
「ま、頭が痛ェよな」
「本当に心苦しいよ、お世話になりっぱなしで」
「は?」
「え?」

 シャンカラが悩んでいたのは全く別のことだった。
「龍騎士隊がソサエティに合流してからこっち、僕達はハンターさん方に助けていただくばかりで……龍騎士隊がソサエティに貢献できているかを考えると、」
「お前らしいな」
 ダルマはつまらなそうに指を鳴らした。表だった動きはなくとも、ハンター達に飛龍を広く提供するため、ソサエティと協力し動いていたりもする。だが責任感の強いシャンカラは気に病んでいるようだ。
 と、そこへオフィスの職員が新たな依頼を貼りだした。
 何気なく目で追っていたシャンカラは、依頼内容を見て目の色を変えた。
「カマクラ? 地球か……この内容だと飛龍はうってつけですね。ダルマさん!」
「は、」
 急に隊長の顔になったシャンカラに、ダルマは思わず背筋を伸ばす。
「至急、飛龍を数頭準備してください」
「はっ」
「そして僕がいない間、龍騎士隊をお願いします」
「は?」
 シャンカラはちょっぴり悪戯っぽく笑う。
「地球の連合軍とソサエティは協力関係にあると聞いています。そこへ赴けば、龍騎士隊の存在を印象付けられるでしょう?」
「赴くって誰が?」
「僕が、です!」
 言い切るや、シャンカラは奥へ進んでいく。
「サヴィくーん、いるかーい? ソサエティの方に申し入れて欲しい事がー」
「おい!」
 ダルマは頭を抱えたが、一応シャンカラの言う事も一理ある。それに、隊長である彼自身が隊員に先立って異世界に触れておけば、今後役に立つこともあるかもしれない。
 疲れたように目頭を揉み、ダルマは碧い外套の背を見やった。
「ッたく……どうぞご随意に」




「もう驚くことでもねえんだろうが……いや、ワイバーンなんか生で目にすることになるとは思わなかったぜ。世界はひろ……広いでいいのかな、いいか」
「リアルブルーでは珍しいそうですね、乗ってみますか?」
「……いや、生身での飛行は遠慮しとくわ」
 ふるふると首を振って、絵の前のファンタジーから目を背けた。

 鎌倉クラスタ包囲戦。
 鶴岡八幡宮の西側・東側・正面の敵を排除するにあたって立案された作戦、それに招集された面々を見渡して、統一連合宙軍の強化人間、神座御 純一は改めて背筋を正す。
 クリムゾンウェスト北方、龍園より駆けつけたのはドラグーンのシャンカラ、率いるワイバーンの群れはリアルブルー出身のものには少々刺激が強い。
「ふ、ふふふ……スイパラ特等招待券……今日の僕は一味ちがうよ!」
 リアルブルー出身の覚醒者、香藤 玲(kz0220)。
 ポケットに大事にしまってあるのはオフィスの受付嬢、モリス女史から交換条件に渡されたチケットである、きっちり買収済みだった。
「すごーい、ワイバーンてはじめて見た」
 手を上げて喜んでいるのはエバーグリーン出身のオートマトン、ミモザ(kz0227)。
 新米のマークが取れるのはまだもう少し先のようだ。

 横須賀線上のあるラインを中心に各地から集った者たちが集まっていた。
 鶴岡八幡宮の敵を排除する、そのための西側の始点がここ、北鎌倉駅北部にあった。

「それじゃあ最後にもう一度作戦概要の説明をするぜ!」

 拡声器をつかって声を張り上げる純一に、場が静まった。
 作戦は至極単純である。

 北鎌倉駅北部、豪快に脱線した歪虚列車の残骸よりも少し南に設置したトロッコに乗り、横須賀線を全速で南下。
 トロッコの進行に合わせてシャンカラ率いるワイバーン部隊が先行し飛行敵からの護衛にあたる、そのまま敵をひきつけて西の空から鶴岡八幡宮へ侵攻。
 トロッコはそのまま横須賀線を進行。途中、浄光明寺付近にてトロッコを切り離し玲の部隊が山岳ルートで鶴岡八幡宮を目指し侵攻する。
 部隊数により途中にで更にトロッコを切り離し多角的に攻める。
 終点は鎌倉駅、そこからの侵攻は純一が案内を務めるミモザを含めた部隊。
 これにより一箇所に集中した戦力を短期間に広域展開することで敵の撹乱を狙う。
 という作戦だった。

 こんな作戦が展開できるのも、先の戦いにおいて電波塔を破壊し、更に線路を支配していた列車型歪虚の破壊に成功した故である。

「僕たちはこの位置から線路にそって、先の交錯地点からまっすぐに攻め込めばいいわけですね」
「おう、どれだけ敵を引きつけられるかがその後の部隊散開に影響してくるから、よろしく頼むぜ」
 初めて会う同年代っぽいドラグーンに通じるものがあったのだろうか。
 がっしと握手をするさまはすでに戦友っぽい。
「森の中か……まかせてよ、今日の僕なら例え火の中水の中さ!」
「今日は最後まで乗ってていいの? いいの? このまえみたいにならない?」
 何かスイッチの入っている玲と、トロッコに興味津々のミモザ。
 若年組に若干不安を覚える純一だった。




「香藤さん、」
 共にクラスタ西方の包囲へ当たる玲を、シャンカラが呼び止めた。
「玲でいいよ。地上から援護するからヨロシクね!」
 とんっと胸を叩く玲。シャンカラも一通り挨拶した後、おずおずと作戦の資料写真を取り出した。クラスタ西方を守護しているという巨大な歪虚の姿が写っている。
 人型をした緑青色の巨大な身体。ふくよかな姿形は得も言われぬ貫禄を醸しており、そのヘアスタイルはシャンカラが度肝を抜かれるほど斬新だ。
「じゃあ、玲君。この歪虚は、一体何を模してこんな姿をしているのでしょう? こちらではこういったスタイルが流行っているのですか?」
「あ、それ大仏さんの真似してるんだよ」
「ダイ?」
「大仏」
「ダイブツ?」
「大仏」
 そう――今回クラスタ包囲西方を担う者達にとって最大の強敵は、鎌倉の大仏を模した巨大人型歪虚なのだった。


リプレイ本文


(――厳しいですね)
 シャンカラ(kz0226)はギリッと奥歯を噛んだ。



 ハンター達は、飛龍に跨り蒼界の空を往く。
 けれど異世界飛行に浮かれる暇など一時もなかった。
 トロッコに先駆けるため急ぎ出立すると、早々に虫めく小型狂気の群れに襲われたのだ。
「くっ……これはなかなか大変だな」
 放った火竜票が空を切ったのを見、龍堂 神火(ka5693)は唇を噛んだ。
「ええ、本当に」
 金鹿(ka5959)が苦い顔で応じる。立て続けにリボルバーの引き金を引くが、決して低くはない射撃命中力を持つ金鹿であっても、命中率は6割と言ったところか。
 紅い拳銃を握るトリエステ・ウェスタ(ka6908)も柳眉を寄せる。
「気まずい、龍騎士団飛び出した身で隊ちょ……いやもう隊長じゃない。シャンカラさんと共同戦線は気まずい……なんて言ってる場合じゃ全然ないわね、これ」
「全くだ」
 トリエステと同じく元龍騎士であるウルミラ(ka6896)、三振り目でようやく切り伏せた敵の体液を避けながら、苦々しく吐き捨てた。

 苦戦を強いられている原因は一つ。
 実際に飛行しているのは飛龍だが、騎乗する彼らも飛行中は動きに制約を受け、十全の力を発揮する事ができずにいるからだ。

 今回同行している飛龍達は皆、『特殊訓練:サガラ』相当の能力――生命力と回避、防御を低下させる代わりに、飛行時に各種命中・回避・受けが半減する効果を受けない――を備えた個体であり、元々の回避能力が高い飛龍達は8割方攻撃を回避する事ができる。なので一同は今の所殆どノーダメージだった。
 だが、『サガラ』はあくまで飛龍自身にのみ適用される能力。騎乗者は当然動きに制限を受ける。
 その上飛び道具は、敵までの距離が遠いほど命中率が低下する。この制限下においては本職の猟撃士であっても苦労させられる事だろう。スキルを温存するため、あるいは手数を増やすために用いたのでは、中々当てられないのが現実だった。

 そんな中、連続で敵を屠っていく者がいた。
 ワンドから放たれる光が、次々に敵を撃ち落としていく。レネット=ミスト(ka6758)だ。高い魔法命中力を持つ彼女は、命中精度を高めるスキルを使用する事で危なげない戦いを展開している。
 飛ぶ事に慣れた龍騎士でさえ、厳しい制約から逃れられないのが飛行戦だ。得手をスキルで強化し、より確実に敵に届かせる彼女のやり方は見事にはまっていた。

 けれどスキルには限りがある。
 シャンカラは後方へ視線をやった。追走してくるトロッコの中には、まだ駆け出しのハンター達もいる。分岐点はもうじきだ。発砲音等で注意を引けてはいるがいまだ敵数は多く、この部隊が『恐るるに足らず』と思われればトロッコの方へ向かわれかねない。
 彼は前へ出ると、
「もうすぐ分岐点です。ここで1度ソウルトーチを使用します。この者達を引きつけたまま西へ向かい、道中で数を減らしましょう!」
 ハンター達の応えを受け、焔めくオーラを纏う。散開していた敵が彼めがけ殺到。それらを率いる形で西へ龍首を巡らせた。更にその後から5人が続く。
「シャンカラさん、少し眩しくなりますが驚かれませんよう」
 そう声をかけてから、金鹿は一塊になった敵へ白色の符を放つ。細い指から放たれた符は、眩い閃光で敵を一気に焼き尽くす! 符術は彼女の得手だ。並外れた命中力、更にスキルで敵の回避力を下げる事で、5体の敵を纏めて無に帰した。
 シャンカラを追う敵に背後から接近し狙い撃つことで、狙いを定め易くなった5人は、着実に虫擬きどもを討ち取っていった。



 全てを討伐し終えると、到着するまでに束の間息つける時間ができた。レネットがシャンカラの横に着ける。
「シャンカラさん、ご無沙汰です! レネットです。覚えてるですか?」
 ぶんぶん手を振るレネットに、シャンカラは勿論と首肯する。
「あんなに素敵な歌声を忘れたりしませんよ。今回も宜しくお願いします」
「はいっ。それがし、今日も精一杯お歌で癒すです! それでですね、」
 彼と面識のあるレネットが作戦をつぶさに伝えていく。共に取り巻き討伐に当たる金鹿も寄せて来て、
「囮のような危険を伴う役をこなして頂くのですから、私も回復や補助の役、全身全霊を持って努めさせていただきたく。決して大きな傷を負わせやしないこと、ここに誓いますわ。……あなたも、どうぞよろしくお願い致します」
 言葉の最後を飛龍に向けて、青い鱗を優しく撫でた。
 その傍らでは、神火が飛龍を上昇させたり降下させたりと、手綱の繰り方を試している。
「スピルガとはまた違う感覚だ……ホントに飛んでるし。やっぱりカッコいいよね、龍って!」
 リーリーの乗り心地を思い出しながら、飛龍の逞しい首に触れた。
「龍がお好きですか?」
 シャンカラに尋ねられ大きく頷く。神火はドラゴンの幻影を喚ぶ符術士なのだ。
「名前とかあるのかな……あるなら名前で呼びたいな」
 飛龍を見つめる横顔からは龍好きっぷりが溢れ出ていて、シャンカラは目を細める。
「ヴィダと言います」
「ヴィダ……改めてよろしくね、ヴィダ」
 返事代わりに、飛龍は軽く喉を鳴らした。

 そんな四人から遅れがちに飛ぶのは、紫の髪をなびかせる元龍騎士のふたりだ。
 銀霊剣に持ち替えながら、トリエステは何とも言えない顔でシャンカラの背を見やる。
「うー……言ってる場合じゃないのは分かってるけど、やっぱり気まずさはあるのよねー」
 言ってみれば元上司。心中複雑である。ウルミラの方は、隊から離れたことに負い目を感じていた。
「ワイバーンを駆るのは久々で嬉しいが……外界の見分を求めて除隊したことを思えば、な」
 龍園は歪虚が跋扈する北方にあり、戦える人手は幾らでも欲しい。それを知りつつ外の世界を求めた事に、後ろめたさを感じているのだ。そんな彼女へ、モフロウのスパルナが頬を摺り寄せた。その温もりで気を取り直したウルミラは、身を預けた飛龍へ告げる。
「今日はスパルナもキミに掴まって動く。少々苦労かけるが、慎重に頼むぞ」
 言って顔を上げたところで、こちらを振り返るシャンカラと目が合った。次いで、視線を交えてしまったトリエステが「うっ」と声をあげる。
「どうかされましたか?」
 龍人である事や手綱の握り方などから、ふたりが元龍騎士だと気付いていない訳ではないのだろうが、彼は気にした風もない。
「いや、」
「えっと……あっ、大仏ってあれかしら?」
 トリエステが前方を指す。小さな山を飛び越えた先に、禍々しい気に覆われたクラスタが見えてきた。その手前で、件の大仏型歪虚が静かに座している。膝上で印を組む様は、偽物であると分かっていても厳かな印象を受けた。
「あの変わった歪虚もこの世界ならでは……なのでしょうか? 随分と特徴的な見た目ですわよね」
 金鹿は小首を傾げる。
「人々が信仰する者を真似るとは悪趣味な」
 ウルミラの言葉に、蒼界出身の神火は「本当だよ」と息を吐く。
 レネットはシャンカラへ、
「では、あまり無理はなさらず、ですっ!」
「はい、気を引き締めていきましょう」
 そうして大仏対応・取り巻き対応に分かれようとした時。後方から一気に追い上げたトリエステが、シャンカラを追い抜きざま彼へウィンドガストをかけた。
「!」
「手切れ金代わりよ。急に飛び出していったけど、これで許して。じゃ、さっさと向かわせてもらうわね」
 トリエステは少々悪戯っぽく艶やかに微笑み、大仏の許へ滑空して行く。突然の事にぽかんとしたシャンカラだったが、彼女なりの誠意をしかと受け止め、皆と共に降下を開始した。



 情報通り、大仏型歪虚の周りを取り巻きの虫擬きどもが旋回していた。これを退け、大仏までの道を拓かなければならない。
 最初に動いたのは、幻影を蝶を侍らせた金鹿だ。シャンカラへ狂気感染対策を施す。
「助かります。……では」
 大仏から少し離れた位置で、再びソウルトーチを発動させる。途端、虫擬きどもの無数の眼が彼に向けられ、一斉に押し寄せてきた。その数20余り。だが機動力は高くなく、大仏の前をばらばらと横切っていく。青いバイザーを下ろした神火、
「亀も空で放てば飛べる! 行け、ブラストルガ!」
 複数の符を同時に飛ばせば、空中に勇壮な幻影の亀が召喚された。亀は甲羅へ身を隠すや否や、火山の如く爆発する! 《装火亀ブラストルガ》。得手の符術なら神火もいかんなく力を発揮できる。たちまち4体が消え、何とか受けきった者も目が眩んで動けなくなる。
 トリエステは側面に回り込み、
「正面、特に顔付近は避けたいわよね。でもこれだけ大きいといい的だわ」
 短剣の閃かせ、巨大な火球を大仏へ撃ち込む! 範囲攻撃は敵が巨大である程威力を発揮する。これだけの巨躯だ、相当な効果が期待できた。
 ところが。被弾寸前、大仏の身は頭・胴・四肢の6つにばらけた! 火球は左腕部へ着弾。腕一本でもサイズ2相当、肘から下を焼き尽くすことができた。だがトリエスタは口の端を歪める。
「分離されなきゃもっとダメージを与えられたのに」
 歯噛みする彼女の前で、大仏の身体はみるみる元に戻っていく。そこへ、
「行くですよ大仏さん!」
 レネットがすかさず光弾を見舞う! すると今度は分裂は起こらず、そのまま左肩の肉を抉り取った。その様子に、背後に回り込んだウルミラが呟く。
「連続して分裂できないのか?」
 考察しつつ、広すぎる背を観察。後光の発生源になりそうな物はないかと思ったが、目ぼしい物は見つからなかった。
「ちょっと気になっただけだ、さあ行こう」
 飛龍に合図し、両刃の大剣を振りかぶる。北方に伝わる死霊祓いの魔剣は、斬撃と共に風と火の気を叩き込む!
 すると、大仏が動いた。のそりと立ち上がり両腕を広げると、その場でぐるりとターンする。動作は少々マヌケだが、長大な両腕が広範囲を薙ぎ払う! 傍にいたウルミラは回避しきれず、飛龍の腹を拳が薙いだ。
「あっ!」
 神火はさっと背後を確認する。金鹿とシャンカラは10体を超す歪虚と戦闘中だが、金鹿の符が輝く度、複数の敵が焼かれていくのが見えた。
(後ろは任せて大丈夫だ。ボクがやる事は……!)
 コンボカードを発動、そして再度装火亀を召喚。渾身の一撃がまともに胴へ直撃した!
 が、気づいたシャンカラが叫ぶ。
「いけません!」
「えっ?」
 しかし既に遅かった。神火の乗るヴィダは体勢を崩し落下する!
『ホバリング』スキルを持ち得ぬ飛龍は、絶えず移動しなければ飛び続ける事ができない。それも攻撃時の踏込み程度ではなく、しっかりとした移動が必要になる。即ち、サブアクション・メインアクションを攻撃に費やせば、即座に墜落状態に陥ってしまうのだ。
 だが低空であった事が幸いし、神火達は軽い打ち身程度で済んだ。
「ごめんヴィダ、まだ慣れてなくて」
「今回復に行くですっ!」
 ウルミラの飛龍の回復を終えたレネットは、急ぎ神火の許へ飛ぶ。だがそこを大仏に狙われた。開眼――両目が開き、強烈な光線が神火とレネットを同時に襲う!
「――ッ!」
「悪趣味な上に卑劣だわこの大仏。ウルミラさん、行けそう?」
「無論だ。ふたりが回復する時間を稼ぐ!」
 ウルミラは大剣を水平に構え、巨躯の周りを飛び回る。時に肉薄し肌を裂き、時に距離を取り攪乱を狙う。その隙にトリエスタは術式を構築、大仏の生命力を削ぐことに注力した。

「うまくありませんわね」
 金鹿の頬に汗が伝う。ふたりの奮闘により、大仏対応の4人は取り巻きに煩わされる事なく済んでいる。だがクラスタの傍であるためか、倒せど倒せど敵が湧いてくるのだ。加勢に行こうにもソウルトーチがまだ切れておらず、余計な敵を連れて行く事になってしまう。
「金鹿さん、僕に構わず行って下さい!」
「この数の敵を前に、そんな事はできませんわ」
 金鹿はせめて神火達にヒールをと思うものの、群がる敵を払うので手一杯だ。
 と、突如後方から大声が聞こえて来た。何事かと振り向けば、山を越えてきた地上部隊がなだれ込んで来る。すぐにあちら側から通信が入り、シャンカラは金鹿に向き直った。
「この狂気達は僕があちらへ誘導します。ですから、」
 言いかけた所で、今度は前方から重い打撃音が響く。見れば、懸命に大仏を引きつけていたウルミラが、大仏の剛腕を受け、飛龍の背から落ちて行く!
 即座にシャンカラが飛んだ。なりふりなど構っている時ではない。敵を振り切り落下地点へ滑り込むと、万全を期すため――飛行時の受け値半減を解消するため――着陸し、彼女を受け止めた。だが彼女は既に手酷い傷を負っており、その瞳はぐったりと閉ざされている。
「しっかりして下さい!」
 呼びかけに、ウルミラは薄く目を開ける。彼の顔を認めると、後ろめたさからか目を逸らした。
「……すまない、お陰でまた戦える」
「この怪我で動くのは危険です!」
 追いついてきた金鹿がヒールを試みるも、傷が深く思うような効果がない。
「でも私はまだ……龍園を、隊を去った私は、ここで戦わなければ……!」
 それでもウルミラの瞳には闘志が宿り、身体を包む焔の幻影は絶えず揺らめいている。けれどシャンカラは彼女が乗っていた飛龍を呼び寄せると、無理矢理その背へ乗せた。
「戦う場所を違えても、この星を護る仲間である事に変わりはありません。さあ、早く安全な場所へ」
 言って飛龍を送り出す。そして自身も追ってきた虫擬きを連れ、後方へ竜首を巡らせた。
 彼の言葉を聞いていたトリエステ、ありったけの魔力を込めて巨大な火球を生み出す。
「随分格好つけしい事言ってくれるじゃない、シャンカラさん。仲間の痛みは倍にして返すわよ!」
 気合いと共に放たれた火球は、分裂こそ許せど今度は右腕を焼き尽くす!
「もう手の平のレーザーは使えないわ」
「では次は右脚をいただきましょうか」
「それがしは左脚を狙うですっ」
 金鹿の符が舞い、レネットの光弾が飛ぶ! ウルミラの読みは当たっていた。連続して分離できない大仏は、まともに被弾し座り込む。低くなったその頭目掛け、再び神火が翔ける!
「大仏を攻撃するってちょっと気が引けるけど……」
 そして大仏の頭上から、叩きつけるように符を打つ!
「来てくれ、ドルガ! 狂気の仏を滅する焔を――!」
 大仏の頭上に、黄金の鎧を纏うドラゴンの姿が浮かび上がる。装火竜ドルガは大仏の頭を喰らうが如く顎門を開き、火炎を浴びせかけた! 激しい焔の奔流が大仏の身体を滴り落ちる。ドルガの姿が消えた時には、大仏の頭から胸にかけてがそっくり焼失していた。
 残ったのは、最早人型を成さぬ歪な塊。背が無くては一同を警戒させた後光も放てない。ハンター達は一気呵成に攻めに攻めた。
 こうして一行は、慣れぬ空中戦に苦戦しながらも、不遜な歪虚を消滅せしめたのだった。



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MVP一覧

  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火ka5693

重体一覧

参加者一覧

  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 紡ぎしは歌、そして生命
    レネット=ミスト(ka6758
    ドワーフ|17才|女性|聖導士
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士
  • 龍園降臨★ミニスカサンタ
    トリエステ・ウェスタ(ka6908
    ドラグーン|21才|女性|魔術師

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アイコン 相談卓
トリエステ・ウェスタ(ka6908
ドラグーン|21才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/08/30 18:06:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/29 19:24:28