ゲスト
(ka0000)
【界冥】クラスタ包囲・東側白兵戦
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/30 15:00
- 完成日
- 2017/09/01 08:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『収集データ、インストール完了。動作チェックOK』
更新を終え、今響く声はエンドレスのもの一つだ。
『稼働に問題は無いと判断。試験機を現場に投入します』
呼応するように、映し出される映像が、文字列が、流れ周囲に光を零す。
『白兵型試作機、稼働開始。モニタリングを開始します』
●
「──っ!?」
斬撃を受け止め、こちらの剣先で巻き落としてから反撃に転じようとしたところで、咄嗟に大きく飛びのく。小ぶりの剣による突きが眼前を通過していく。乱入してきた個体は、そのまま小剣を横に薙いで来て連続で攻撃してきた。最初の相手の動向を視界の端に確認しながら立て続けに襲い来る小剣に対応する。鋭く二度繰り出された突きに左腕に痛みが走った。浅い傷だと判断すると即座に意識から追い出す。
これまでの相手とは、見た目からも明らかに違う敵だった。つるりとした白い人型。絹光沢のあるデッサン人形のような印象を受けるそれからは幾つか機械のような部品が覗いている。手にした武器は様々だ。細身の長剣、小剣、拳銃、狙撃銃……。
鎌倉クラスタの東側を包囲する統一連合宙軍の前に現れた、この見慣れぬ敵の対処をハンターに託した、その判断は正しかったと言えるだろう。ただ人型をしている、狂気の歪虚が寄り集まった姿のそれとは、こいつらは明らかに錬度が違った。個々の動きにも特徴がみられるし、何よりも相互で連携したりフォローしたりという動きが多少ではあるが見受けられる。
現状、なんと呼べばいいのかはっきりはしていなかった。なにせ初見でかつ気の利いた呼び名など付けてる余裕もない。こいつらだの人形ども、各々適当な呼称が飛び交うのみだ。
小剣を持つそいつの肩越しに、最初の、長剣を持った敵が構えなおすのが見えて──
「させねえでさあ! このなんかのっぺりしたの!!」
……チィ=スヴォーが名称未定のそいつに訳の分からない呼称を追加したことに、伊佐美透がしたことは直前に気付きかけたものを意識から手放さないように必死で集中することだった。
透がクリムゾンウェストに転移してハンターという稼業に比較的早く順応したのは、リアルブルーにいた頃から剣術に下積みがあったからだ。
剣道……ではなく、剣術、である。現代のリアルブルーにおいても、昔からある剣術を研究し保存しようという性質の道場は探せばいくつか存在する。透がそれらを訪れたのは、役者としての知見のためだった。始めてもらった名前付きの役、そこで、殺陣に素養があると言われたとき、これを自分の武器として磨いていこうと思った時の。
勿論、和殺陣でも現代殺陣でも、剣道、剣術とは理念が違うのは十分承知だ。短期間でどうにかなるものではないという事も分かっていた。余りいい顔をされないこともあったが、真摯な姿勢に共感してくれる師範も居て、そうして得られた経験と会話は、役作りの上で有用であったし──無論その時には全く予想もしていなかったが、紅の世界に来てからの剣の扱いを考える上で最も意識したのは、彼らの教えだった。
そう、透はその始まりからをはっきりと自覚している。己の剣がどういう在り方をしていて、どんな歩みをしてきたかを。
だから。
今、眼前の敵が見せた構えを。
直刀でやるには、やや不自然さを感じるその構えを。
「……チィ」
それでも確信し損ねるのは、わざわざ自分が選ばれるだろうか、という想いだった。だが、違うならそれでもいい。確かめねばならない。なるべく主観を排した上で。
「その、長剣のそいつ。暫くお前が相手してみてくれないか」
「合点承知でさあ!」
透が頼むとチィは理由すら確認せずに了承した。いいのか、と思うが、逆にまあいいか、と思うことにした。あいつには余計なことは聞かない上で対応してもらった方がいい。……透が知る限り唯一の、自分以外に自分の戦いを見つめてきたと思う、あいつには。
剣戟の音が響き渡る。チィが戦う間、透は小剣使いをはじめとして周囲の敵に邪魔をさせないように立ちまわる。
「成程。そーゆーことですかい。あにぃが手前どもに確かめてほしいことってなぁ」
「……あにぃはやめろ」
呻くように言うチィの声を訂正する透の言葉はそれほど強くは無かった。チィが言い間違えたのはつまり、余裕がないのだ、この戦いには。
(それに俺が突っ込みを入れる余裕が無くなったら、いよいよだな)
正しく現状を認識するよう、気を引き締め直してから、透は視線でチィに発言を続けるよう促した。
「たまに、透殿の剣筋に似てることがありまさあ。透殿だけじゃねえ、手前どものにも」
「……やっぱりか」
ならばそういう事なのだろう。そう決めてかかれば、自分の動きを真似ているというのもそう不思議なことではない。
透は声を張り上げた。
「油断するな! こいつらは……鎌倉におけるハンターの動きを学習している可能性がある!」
考えられるのはつまりそういう事だ。透はこの一連の戦い、その始まりの偵察戦から参加していた。……その後も、成り行きでいくつかの作戦に参加している。眼前の敵の動きが、鎌倉周辺で得たデータを基にしているなら、自分がそこに含まれるのは特別なことでもなんでもない。
……そしてそれを声にしてから、背中に冷たいものが通り過ぎるのを抑えられなかった。この戦いには何度も参加した。その中で……己より優れたハンターたちなど、いくらでも見てきた──!
「まあ、似てるってだけで、透殿の剣とは全然ちげえっすけどねえ」
「そう……か。まあ、そうだろうが」
そしてチィの声は、相変わらずと言うべきか、状況分かっているのかと言いたくなるほど軽い。
「ええ。透殿との剣とは、迫力とか意志とか、そういうのが全然違いまさあ!」
叫ぶと共にチィは強く踏み込み長剣持ちに己の刀を叩きつける。人形は、バランスを崩し踏鞴を踏んで後ずさった。切り返し、舞うようなチィの立て続けの攻撃が、敵の姿を更に押しやっていく。
(本当に、大した奴ではあるんだよなお前は……)
チィの己への評価に相変わらず釈然としない想いは在りつつも、それでも彼の言葉に納得し、落ち着き始めている己を透は自覚していた。
「意志、か。そうだな……」
そう。それは、役者として己が常に心掛けていたことじゃないか。
「甘く見るな。台本を読むだけで、言われた動きをなぞるだけで、他の誰かの存在を預かれると、思うな……!」
矜持、誇りからの怒りを以って、透は怖れを鎮静化していった。そうだ。そんなもので作り上げることが出来るのは、所詮、『似ている何か』だ。目の前の相手は、これまで共に戦ってきたハンターと同質の者たちなどではなく……。
「ただの、強敵だな。つまり」
必要以上に怖れる相手ではない。それでも、時折放ってくる攻撃の鋭さと連携は侮ってはならない。気を引き締めて、敵に向かい直した。
更新を終え、今響く声はエンドレスのもの一つだ。
『稼働に問題は無いと判断。試験機を現場に投入します』
呼応するように、映し出される映像が、文字列が、流れ周囲に光を零す。
『白兵型試作機、稼働開始。モニタリングを開始します』
●
「──っ!?」
斬撃を受け止め、こちらの剣先で巻き落としてから反撃に転じようとしたところで、咄嗟に大きく飛びのく。小ぶりの剣による突きが眼前を通過していく。乱入してきた個体は、そのまま小剣を横に薙いで来て連続で攻撃してきた。最初の相手の動向を視界の端に確認しながら立て続けに襲い来る小剣に対応する。鋭く二度繰り出された突きに左腕に痛みが走った。浅い傷だと判断すると即座に意識から追い出す。
これまでの相手とは、見た目からも明らかに違う敵だった。つるりとした白い人型。絹光沢のあるデッサン人形のような印象を受けるそれからは幾つか機械のような部品が覗いている。手にした武器は様々だ。細身の長剣、小剣、拳銃、狙撃銃……。
鎌倉クラスタの東側を包囲する統一連合宙軍の前に現れた、この見慣れぬ敵の対処をハンターに託した、その判断は正しかったと言えるだろう。ただ人型をしている、狂気の歪虚が寄り集まった姿のそれとは、こいつらは明らかに錬度が違った。個々の動きにも特徴がみられるし、何よりも相互で連携したりフォローしたりという動きが多少ではあるが見受けられる。
現状、なんと呼べばいいのかはっきりはしていなかった。なにせ初見でかつ気の利いた呼び名など付けてる余裕もない。こいつらだの人形ども、各々適当な呼称が飛び交うのみだ。
小剣を持つそいつの肩越しに、最初の、長剣を持った敵が構えなおすのが見えて──
「させねえでさあ! このなんかのっぺりしたの!!」
……チィ=スヴォーが名称未定のそいつに訳の分からない呼称を追加したことに、伊佐美透がしたことは直前に気付きかけたものを意識から手放さないように必死で集中することだった。
透がクリムゾンウェストに転移してハンターという稼業に比較的早く順応したのは、リアルブルーにいた頃から剣術に下積みがあったからだ。
剣道……ではなく、剣術、である。現代のリアルブルーにおいても、昔からある剣術を研究し保存しようという性質の道場は探せばいくつか存在する。透がそれらを訪れたのは、役者としての知見のためだった。始めてもらった名前付きの役、そこで、殺陣に素養があると言われたとき、これを自分の武器として磨いていこうと思った時の。
勿論、和殺陣でも現代殺陣でも、剣道、剣術とは理念が違うのは十分承知だ。短期間でどうにかなるものではないという事も分かっていた。余りいい顔をされないこともあったが、真摯な姿勢に共感してくれる師範も居て、そうして得られた経験と会話は、役作りの上で有用であったし──無論その時には全く予想もしていなかったが、紅の世界に来てからの剣の扱いを考える上で最も意識したのは、彼らの教えだった。
そう、透はその始まりからをはっきりと自覚している。己の剣がどういう在り方をしていて、どんな歩みをしてきたかを。
だから。
今、眼前の敵が見せた構えを。
直刀でやるには、やや不自然さを感じるその構えを。
「……チィ」
それでも確信し損ねるのは、わざわざ自分が選ばれるだろうか、という想いだった。だが、違うならそれでもいい。確かめねばならない。なるべく主観を排した上で。
「その、長剣のそいつ。暫くお前が相手してみてくれないか」
「合点承知でさあ!」
透が頼むとチィは理由すら確認せずに了承した。いいのか、と思うが、逆にまあいいか、と思うことにした。あいつには余計なことは聞かない上で対応してもらった方がいい。……透が知る限り唯一の、自分以外に自分の戦いを見つめてきたと思う、あいつには。
剣戟の音が響き渡る。チィが戦う間、透は小剣使いをはじめとして周囲の敵に邪魔をさせないように立ちまわる。
「成程。そーゆーことですかい。あにぃが手前どもに確かめてほしいことってなぁ」
「……あにぃはやめろ」
呻くように言うチィの声を訂正する透の言葉はそれほど強くは無かった。チィが言い間違えたのはつまり、余裕がないのだ、この戦いには。
(それに俺が突っ込みを入れる余裕が無くなったら、いよいよだな)
正しく現状を認識するよう、気を引き締め直してから、透は視線でチィに発言を続けるよう促した。
「たまに、透殿の剣筋に似てることがありまさあ。透殿だけじゃねえ、手前どものにも」
「……やっぱりか」
ならばそういう事なのだろう。そう決めてかかれば、自分の動きを真似ているというのもそう不思議なことではない。
透は声を張り上げた。
「油断するな! こいつらは……鎌倉におけるハンターの動きを学習している可能性がある!」
考えられるのはつまりそういう事だ。透はこの一連の戦い、その始まりの偵察戦から参加していた。……その後も、成り行きでいくつかの作戦に参加している。眼前の敵の動きが、鎌倉周辺で得たデータを基にしているなら、自分がそこに含まれるのは特別なことでもなんでもない。
……そしてそれを声にしてから、背中に冷たいものが通り過ぎるのを抑えられなかった。この戦いには何度も参加した。その中で……己より優れたハンターたちなど、いくらでも見てきた──!
「まあ、似てるってだけで、透殿の剣とは全然ちげえっすけどねえ」
「そう……か。まあ、そうだろうが」
そしてチィの声は、相変わらずと言うべきか、状況分かっているのかと言いたくなるほど軽い。
「ええ。透殿との剣とは、迫力とか意志とか、そういうのが全然違いまさあ!」
叫ぶと共にチィは強く踏み込み長剣持ちに己の刀を叩きつける。人形は、バランスを崩し踏鞴を踏んで後ずさった。切り返し、舞うようなチィの立て続けの攻撃が、敵の姿を更に押しやっていく。
(本当に、大した奴ではあるんだよなお前は……)
チィの己への評価に相変わらず釈然としない想いは在りつつも、それでも彼の言葉に納得し、落ち着き始めている己を透は自覚していた。
「意志、か。そうだな……」
そう。それは、役者として己が常に心掛けていたことじゃないか。
「甘く見るな。台本を読むだけで、言われた動きをなぞるだけで、他の誰かの存在を預かれると、思うな……!」
矜持、誇りからの怒りを以って、透は怖れを鎮静化していった。そうだ。そんなもので作り上げることが出来るのは、所詮、『似ている何か』だ。目の前の相手は、これまで共に戦ってきたハンターと同質の者たちなどではなく……。
「ただの、強敵だな。つまり」
必要以上に怖れる相手ではない。それでも、時折放ってくる攻撃の鋭さと連携は侮ってはならない。気を引き締めて、敵に向かい直した。
リプレイ本文
「変なやつがいるとは聞いたが。なんだこいつらは?」
「おーおー、人形だらけ。生産コストかかりそうねー……歪虚だとその辺の問題どうなってんのかしら。負のマテリアルで解決するのかしらね?」
戸惑い気味のソティス=アストライア(ka6538)の言葉とは対称的に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は思いついたことをふと口にするように口調で言った。言葉のせいか、値踏みするような視線を敵の一行に向ける。白い姿をした敵の一群は八体。事態を受け、前に出たハンターたちと同数。
その、中心に建つような一体が、ゆらりと手にした大剣を掲げた。長大な剣が真上に伸びたことで、その姿全体のシルエットが大きく伸びたように錯覚させられる。敵の姿が、圧力が、大きく──
なっていくよりも先に、より高く立ち上っていくものがあった。焔の如き気配を高く、気高く昇らせていくのは……榊 兵庫(ka0010)。全身から発せられる輝きは静かに揺らめき、居並ぶ敵全員の目を惹きつけた。
……ソウルトーチ、と呼ばれる技が効果を持つのはそこまでだ。あくまで敵の目を惹く、だけ。だが、ほんの一瞬でも視線を奪えば、敵の動きには意図せぬ空隙が生まれる。その瞬間。
透が地を蹴った。敵前衛に向かっていた彼が左方向に大きく飛び、回り込むような動きを見せる。足音に呼応してチィが右に飛ぶ。
「チィさんと伊佐美さんを見てるとごはんが捗りそうですぅ……じゃなくてぇ。打ち合わせ通りそいつら抑えて固めていただいてどうもですう!」
流れるように連携した二人に、星野 ハナ(ka5852)が歓喜の声を上げて手にした札をばら撒く。透が、チィが、左右から押し込むようにして固めた小剣持ちと長剣持ちを囲むように結界が生み出され、生まれた光が敵のみを灼いていく。
「敵前衛固めてブッコロですぅ! 榊さんが抑える大剣持ちも近くなら尚よしなんですけどねぇ」
ハナの言葉に、呼応するようにソティスがにやりと笑って片手を上げた。
「狩りの時間だ、気味の悪い人形どもは纏めて燃えるがいい!」
空に魔方陣が描かれる。そこから身を乗り出すようにして、青白い炎を纏う狼が姿を現した。飛び出してきた幾つものそれが炎を吐きつけては掻き消えていく。狼の群れから降り注いだ炎の雨は、大剣持ちと、その庇護を受けて動こうとしていた拳銃持ちの一体を焼いた。
拳銃を持つ人形がそこで構えをとる。銃口が標的を定めるその瞬間、一瞬で移動した大伴 鈴太郎(ka6016)とアルスレーテがそれぞれに肉薄する。ソティスが焼いたほうを鈴が、範囲から離れていた一体をアルスレーテが。連撃の音が綺麗に重なった。
近くに布陣する敵の抑えは効くと判断して、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は一行から離脱した。
周辺、まだどこか薄く伸びるような殺気の出所を探る。発砲音と共に、ハナの身体がよろけた。その射線から瓦礫の一角に影を見つけ出すと、ヒースは駆けだす。
戦場全体を包むような殺気が収束していくのをヒースは感じていた。つまり、己へと向かって。そうだろう。狙撃手は距離を詰められたら終わりだ。援護を、足止めを期待できる仲間が抑えられたら、近寄り切られる前に自分で迎撃するしかない。それは威力の高い狙撃銃の銃口が彼一人に向けられることを意味していたが、下手に味方たちが固まる戦場を荒らされるより、これでいい。
マテリアルを練り上げると、ヒースの周囲が陽炎のように揺らめき立つ。纏ったオーラはヒースの動きに数瞬遅れる形で残像のように残り、彼の姿を不確かにした。
「……?」
ちらりと見えた、人形の側頭部から覗く機械に一瞬、光が明滅した気がした。
『ヒースっ!』
直後、タクティカルヘッドセットから、アルスレーテの警告のような声が響いた。
風を感じた。
頬を撫でていく何かの感触に、連撃の最後の一発がわずかに滑ってしまったのを感じて、鈴は内心で舌打ちする。まだ焦っているだろうか、と、刹那の思考のうちに彼女は思った。鎌倉クラスタ戦。故郷での戦い。彼女にとってここはまだ移動の途中に過ぎなかった。そこで思った以上の足止めを受けて、苛立ちを覚えている。
自覚したその感情を、しかし、直後、押しつぶされる。感じたのは風じゃない。圧だった。大剣持ちが大仰な動作で剣を振り上げる気配。次の瞬間、大剣はその重量と振るうものの膂力を生かしきった形で大地へと叩きつけられた。生まれた衝撃に思わず身が竦む。
はっとした。鈴が硬直したのは一瞬だが、その隙に拳銃持ちにわずかに距離を取られている。その銃口が──向いているのは、鈴ではなかった。
数発の銃声が響く。
「きゃうっ!」
声を上げたのは、ハナと。
「ヒースっ!」
アルスレーテ。
ハナは先ほどの狙撃銃の攻撃もあり、すでに何カ所からか血を滲ませている。鈴に迷いが生じた。彼女の護衛に行くべきか? 彼女の札が中心となって抑えている敵前衛に、一気にこちらに雪崩れ込まれたら……。
「……敵もいろいろ考えてくるようだ」
彼女の迷いに差し込まれるように、兵庫から静かな声が発せられた。
それはまさにハンターの動きだった。味方との連携を重視し、作戦の支障となる敵を判断し協力して撃破する。
「だが、一朝一夕でこちらの技を盗めるとは思うなよ。人間様を甘く見るんじゃねえぞ」
力強くやりを握りなおし、大剣持ちに相対する。大剣持ちが、再び大きく振りかぶるのに──兵庫は真っ向から踏み込んでいく!
重く硬い音が響き渡った。振り下ろされた大剣を、十文字槍が受ける。衝撃に兵庫の全身がミシミシと悲鳴を上げるが、守りの構えからの体捌きで極力ダメージを流す。再び生み出されようとした圧力を、彼の身体が受け止め、発散させる。
真横の脅威が消えたのを感じて、鈴はハナの方に視線を流した。ハナはそれに気づくと、懐からポーションを取り出して軽く振って見せた。『暫くこれで持たせるから、さっさとそっち撃破して』。意図としてはそんなところだろう。
鈴は──一度深呼吸する。心が落ち着いて澄み渡っていくのを感じた。
(江の島の時と同じだ……冷静に……そして、全力で!)
向けられた銃口に、身を低くして掻い潜る様に接近する。掬い上げるような一撃から──
「ダチが待ってンだ。邪魔すンじゃねぇ”白面”ども!」
連撃。
集中して打撃を受けた拳銃持ちの脇腹に、みしりと亀裂が入った。
『……悪かったわね。大丈夫?』
「問題はないよ。中々やってくれるねえ?」
アルスレーテからの通信を受け、ヒースはまだ余裕のある声で答える。
銃撃を受けたこと自体はヒースはまだ問題ないと思っていた。それよりも、注意を取られた隙に狙撃銃持ちがまた移動し潜伏したことの方が重要だが……。
気配はまだ己へと向けられているのを感じる。援護射撃で手傷を負わせたことで、「近づく前に落とす」方針に固めたというところか。
自分が相手の立場でも、そう判断するだろう。気配と、アルスレーテの声の様子から、離れた仲間の状況は大体わかる。一瞬のスキを突いて射撃を放つことはできても、集中してこちらに向ける戦力はないはずだ。
結果としてこちらの望み通りの状況にはなっているが、やはり、相手にも確かな判断力がある。
「情報は最大の武器、というのは敵にとっても同じだねぇ」
呟き、気を引き締めながら待ち構える。銃声。咄嗟に身を捩るが、おおよその位置しか把握していなかった銃撃は避けきれない。強かに叩かれる感触に耐えながら攻撃の出所を探る。痛みなどお構いなしにマテリアルで身体を加速させて、追う。
逃がすわけにはいかない。こいつらは、戦うたびに戦闘データを蓄積しアップデートする可能性が高いだろう。まして。
「推測するに、さっき見えた光、通信かぁ? あれで拳銃持ちと連携したわけかあ」
だとすれば、それだけだろうか。広域通信もしていてリアルタイムでこの戦いが送信されている?
チラリとそう考えたとき。
「どうせデータ取られるなら早目にブッコロですぅ」
お構いなしにハナが五色光符陣を連打し叫ぶのが聞こえた。
「それが正解かもねえ……時間をかけない方がよさそうだ」
再び駆け抜ける。迎え撃つ弾丸は、今度はヒースの残像を貫いただけだった。
「だけど、進歩しているのはこちらも同じさぁ──捉えたよぉ」
スッと、前方に手を掲げる。三角形の光が生まれ、それぞれの頂点から放たれる光のうち一条が瓦礫から顔を覗かせる敵の姿を貫いた。
「新たに手にした機導師の力、試させてもらうよぉ」
酷薄に、笑う。一度距離を詰めてさえしまえば機動力の差は歴然、逃げに専念しようとも逃れられはすまい。
「本職には劣るだろうけど、手にした力は使いこなしてみせないとねぇ」
再び光を生み出しながら、追い詰めていく。
ソティスの狙いは、思ったほどには纏まらなかった。敵の動きを固めにかかっているのは小剣、長剣側で、彼女が狙いたかった大剣、拳銃はそれぞれマンツーマンで当たる形勢になっており、範囲内に纏まらない。近づいたところで、仲間が全員接敵していては範囲攻撃を撃つタイミングもなかなかない。初撃以降は、射線が通った状況を見て大剣に向けてライトニングボルトを放つ動きとなっていた。
紙装甲であることを懸念して、不慣れな盾まで持ち込んで挑んだが、時折フリーハンドを得た敵が狙ってくるのはもっぱらハナの方だ。
結果的に、各個にじりじりとした削り合いになる戦況の中、最初に落ちたのは、それでも最初に彼女の大火力を受けた鈴の前の拳銃持ちだった。
鈴は戦況を見回すと、次に優先すべきは大剣持ちと兵庫の援護に向かう。ここで大剣持ちにソティス、鈴、兵庫と火力が集中し、やがてこれも撃破する。
「人形焼きの一丁上がりだ」
雷光を受けて継ぎ目のあちこちから煙を上げて倒れる大剣持ちに、ソティスが告げた。
そこで、兵庫がくるりと槍を持ち替えた。大剣持ちの動きを制限すべく、防御に特化した構えを解除する。
「……護りを固めているだけには少々飽きたのでな。そろそろ自由に槍を振るわせて貰おう」
ハナの集中砲火と透とチィの働きもあったのだろう、小剣持ちは既に一体倒されていた。長剣持ちの方へと向かう。……が。
長剣持ちが、見惚れるような鮮やかな動きで長剣をくるりと翻す。次の瞬間、交差する剣閃が鋭く兵庫に向かって伸びてきた。流れるような動作がもたらす迫力に、兵庫は一度踏みとどまる。
「……やるな」
呟いた兵庫に。
「いや」
割り込んできたのは透だ。
「見た目が派手なだけだ。派手にする代わりに、思っているよりは軽い攻撃だよ。あんたなら問題ない」
「ふむ?」
言われた言葉にピンとくるものがあったのか、兵庫は再び槍を構えなおし、長剣持ちに相対する。再び、伸びてくる斬撃に、今度は合わせるように槍をかちあげる。成程、思った以上の軽さ、あっけなさで長剣は敵の腕ごと跳ね上げられ、腹部が晒される。
「我が鋭鋒の冴え、とくと味わうが良い!」
踏み込む。全身から力を伝達しての、一切の無駄のない刺突の一撃。榊流──狼牙一式。
既に幾度もハナの光撃を受け脆くなっていた躯体が貫かれ、倒れた。
「成程、今のは殺陣の動きをもとにした剣か。面白い動きだ」
「……」
「ああ、助言感謝する」
「……ああ。うん。分かってるんだが……分かってたんだが……あっさり破られるとな。いや、お見事だ」
同じように長剣の一体を打倒しながら、透が複雑な声で答えた。
「何、本来の鋭さがあれば、ああも簡単に踏みこめはしなかっただろうさ。またいずれの機会には共に戦いたいものだな」
兵庫が笑い返す。その時。
「透殿! 透殿ー!?」
何やら切実な声が、チィの方から響く。慌てて振り向く二人。
「手前どもには!? 手前どもにも透殿のアドバイスと褒め言葉欲しいでさぁ! 何か!?」
「小剣の方は知るか!? 自分で何とかしろ! 出来るだろうが!」
「はっ! 手前ども出来る子でさぁ! 見ててくだせぇ!」
ぽかんとする兵庫と脱力する透の後ろで。
「あはははははは。いいですいいですう。その調子でお願いしますぅ」
歓声とともにハナが投げた札が、最後の小剣持ちを吹き飛ばした。
「追い詰めたよぉ?」
あと数歩の距離で、ヒースは狙撃銃持ちと相対する。
やはりヒースの魔法攻撃は本職に匹敵する威力とはいえず、狙撃に集中した敵の攻撃は幾度かヒースを捉え重い一撃を与えている。
負傷度合いで言えば同程度。だが悠然とした様子の彼の態度を、無機質な敵の目はどうとらえているだろうか。
敵にも動揺は見えない。接近で無手になるほど甘い敵ではなく、その手には近距離にも対応できる銃が握られているが、明確な勝算のある射撃には思えなかった。ここまで来たら完全にドッグファイト。
無機質な瞳はヒースを見つめ続ける。彼の態度は何なのか。数度、槍と銃撃が交差する。その中で敵は探る。これまでの情報から。狙いがあるのか? 敵には勝算が? 分析結果は、これまでにも見られた手堅い近接攻撃だ。
はったり。そう判断して銃を構えなおす。全力で落としに行き、削り勝つ──狙撃銃持ちがそう判断を下したとき。
視界の端に、何かが展開された。振り向く瞬間すらなかった。最後の刹那、隅に見える部分だけを順番に認識していく。法術陣。籠手──聖拳「プロミネント・グリム」。アルスレーテ・フュラー!
「だから言ったろう、追い詰めたよ、って」
嘲笑うヒースの声を最後に。めり込む鉄拳が、素早く明滅を繰り返していた側頭部の機械を粉砕していた。
「敵を知る為の情報が最大の武器、と」
倒した敵の残骸を、ヒースが検分している。
「やれやれ、面倒な敵だった。甘味でも頂きたいところだ」
ソティスがぼやくように言う。
「気分としては……そうさなぁ、人形焼きなんかどうかね?」
自らが黒焦げにした人形どもを見下ろしながらの言葉に、一行が苦笑すると、さすがに自分で焼いたアレは食おうとは思わんぞ? と笑う。
「甘味は良いんですけどぉ、今お腹ガボガボですぅ。もぉう」
これでポーションデブになったらどうしてくれるんですぅ、と、この戦いで負傷させられたハナがぼやいていた。
これで一息──と、いかない者がまだ一人、いる。
ザッと踏みしめられた足音に、一行の視線が集中した。
鈴──鎌倉クラスタ、その戦いに余りに深い足跡を刻んできた彼女は、やはり己の手で決戦へと挑みに行くのだ。
「トール! チィ! 後は任せたぜ! クラスタは必ずブッ潰してくっからよ!」
言葉は、これまで幾度も共に戦ってきた仲間に向けられて。信頼を込めた、力強い頷きを受けると、彼女はそれに背中を押されるように、駆け出していく。
戦いの軌跡、その意味は、彼女のその足取りが雄弁に語っていた。
「おーおー、人形だらけ。生産コストかかりそうねー……歪虚だとその辺の問題どうなってんのかしら。負のマテリアルで解決するのかしらね?」
戸惑い気味のソティス=アストライア(ka6538)の言葉とは対称的に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は思いついたことをふと口にするように口調で言った。言葉のせいか、値踏みするような視線を敵の一行に向ける。白い姿をした敵の一群は八体。事態を受け、前に出たハンターたちと同数。
その、中心に建つような一体が、ゆらりと手にした大剣を掲げた。長大な剣が真上に伸びたことで、その姿全体のシルエットが大きく伸びたように錯覚させられる。敵の姿が、圧力が、大きく──
なっていくよりも先に、より高く立ち上っていくものがあった。焔の如き気配を高く、気高く昇らせていくのは……榊 兵庫(ka0010)。全身から発せられる輝きは静かに揺らめき、居並ぶ敵全員の目を惹きつけた。
……ソウルトーチ、と呼ばれる技が効果を持つのはそこまでだ。あくまで敵の目を惹く、だけ。だが、ほんの一瞬でも視線を奪えば、敵の動きには意図せぬ空隙が生まれる。その瞬間。
透が地を蹴った。敵前衛に向かっていた彼が左方向に大きく飛び、回り込むような動きを見せる。足音に呼応してチィが右に飛ぶ。
「チィさんと伊佐美さんを見てるとごはんが捗りそうですぅ……じゃなくてぇ。打ち合わせ通りそいつら抑えて固めていただいてどうもですう!」
流れるように連携した二人に、星野 ハナ(ka5852)が歓喜の声を上げて手にした札をばら撒く。透が、チィが、左右から押し込むようにして固めた小剣持ちと長剣持ちを囲むように結界が生み出され、生まれた光が敵のみを灼いていく。
「敵前衛固めてブッコロですぅ! 榊さんが抑える大剣持ちも近くなら尚よしなんですけどねぇ」
ハナの言葉に、呼応するようにソティスがにやりと笑って片手を上げた。
「狩りの時間だ、気味の悪い人形どもは纏めて燃えるがいい!」
空に魔方陣が描かれる。そこから身を乗り出すようにして、青白い炎を纏う狼が姿を現した。飛び出してきた幾つものそれが炎を吐きつけては掻き消えていく。狼の群れから降り注いだ炎の雨は、大剣持ちと、その庇護を受けて動こうとしていた拳銃持ちの一体を焼いた。
拳銃を持つ人形がそこで構えをとる。銃口が標的を定めるその瞬間、一瞬で移動した大伴 鈴太郎(ka6016)とアルスレーテがそれぞれに肉薄する。ソティスが焼いたほうを鈴が、範囲から離れていた一体をアルスレーテが。連撃の音が綺麗に重なった。
近くに布陣する敵の抑えは効くと判断して、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は一行から離脱した。
周辺、まだどこか薄く伸びるような殺気の出所を探る。発砲音と共に、ハナの身体がよろけた。その射線から瓦礫の一角に影を見つけ出すと、ヒースは駆けだす。
戦場全体を包むような殺気が収束していくのをヒースは感じていた。つまり、己へと向かって。そうだろう。狙撃手は距離を詰められたら終わりだ。援護を、足止めを期待できる仲間が抑えられたら、近寄り切られる前に自分で迎撃するしかない。それは威力の高い狙撃銃の銃口が彼一人に向けられることを意味していたが、下手に味方たちが固まる戦場を荒らされるより、これでいい。
マテリアルを練り上げると、ヒースの周囲が陽炎のように揺らめき立つ。纏ったオーラはヒースの動きに数瞬遅れる形で残像のように残り、彼の姿を不確かにした。
「……?」
ちらりと見えた、人形の側頭部から覗く機械に一瞬、光が明滅した気がした。
『ヒースっ!』
直後、タクティカルヘッドセットから、アルスレーテの警告のような声が響いた。
風を感じた。
頬を撫でていく何かの感触に、連撃の最後の一発がわずかに滑ってしまったのを感じて、鈴は内心で舌打ちする。まだ焦っているだろうか、と、刹那の思考のうちに彼女は思った。鎌倉クラスタ戦。故郷での戦い。彼女にとってここはまだ移動の途中に過ぎなかった。そこで思った以上の足止めを受けて、苛立ちを覚えている。
自覚したその感情を、しかし、直後、押しつぶされる。感じたのは風じゃない。圧だった。大剣持ちが大仰な動作で剣を振り上げる気配。次の瞬間、大剣はその重量と振るうものの膂力を生かしきった形で大地へと叩きつけられた。生まれた衝撃に思わず身が竦む。
はっとした。鈴が硬直したのは一瞬だが、その隙に拳銃持ちにわずかに距離を取られている。その銃口が──向いているのは、鈴ではなかった。
数発の銃声が響く。
「きゃうっ!」
声を上げたのは、ハナと。
「ヒースっ!」
アルスレーテ。
ハナは先ほどの狙撃銃の攻撃もあり、すでに何カ所からか血を滲ませている。鈴に迷いが生じた。彼女の護衛に行くべきか? 彼女の札が中心となって抑えている敵前衛に、一気にこちらに雪崩れ込まれたら……。
「……敵もいろいろ考えてくるようだ」
彼女の迷いに差し込まれるように、兵庫から静かな声が発せられた。
それはまさにハンターの動きだった。味方との連携を重視し、作戦の支障となる敵を判断し協力して撃破する。
「だが、一朝一夕でこちらの技を盗めるとは思うなよ。人間様を甘く見るんじゃねえぞ」
力強くやりを握りなおし、大剣持ちに相対する。大剣持ちが、再び大きく振りかぶるのに──兵庫は真っ向から踏み込んでいく!
重く硬い音が響き渡った。振り下ろされた大剣を、十文字槍が受ける。衝撃に兵庫の全身がミシミシと悲鳴を上げるが、守りの構えからの体捌きで極力ダメージを流す。再び生み出されようとした圧力を、彼の身体が受け止め、発散させる。
真横の脅威が消えたのを感じて、鈴はハナの方に視線を流した。ハナはそれに気づくと、懐からポーションを取り出して軽く振って見せた。『暫くこれで持たせるから、さっさとそっち撃破して』。意図としてはそんなところだろう。
鈴は──一度深呼吸する。心が落ち着いて澄み渡っていくのを感じた。
(江の島の時と同じだ……冷静に……そして、全力で!)
向けられた銃口に、身を低くして掻い潜る様に接近する。掬い上げるような一撃から──
「ダチが待ってンだ。邪魔すンじゃねぇ”白面”ども!」
連撃。
集中して打撃を受けた拳銃持ちの脇腹に、みしりと亀裂が入った。
『……悪かったわね。大丈夫?』
「問題はないよ。中々やってくれるねえ?」
アルスレーテからの通信を受け、ヒースはまだ余裕のある声で答える。
銃撃を受けたこと自体はヒースはまだ問題ないと思っていた。それよりも、注意を取られた隙に狙撃銃持ちがまた移動し潜伏したことの方が重要だが……。
気配はまだ己へと向けられているのを感じる。援護射撃で手傷を負わせたことで、「近づく前に落とす」方針に固めたというところか。
自分が相手の立場でも、そう判断するだろう。気配と、アルスレーテの声の様子から、離れた仲間の状況は大体わかる。一瞬のスキを突いて射撃を放つことはできても、集中してこちらに向ける戦力はないはずだ。
結果としてこちらの望み通りの状況にはなっているが、やはり、相手にも確かな判断力がある。
「情報は最大の武器、というのは敵にとっても同じだねぇ」
呟き、気を引き締めながら待ち構える。銃声。咄嗟に身を捩るが、おおよその位置しか把握していなかった銃撃は避けきれない。強かに叩かれる感触に耐えながら攻撃の出所を探る。痛みなどお構いなしにマテリアルで身体を加速させて、追う。
逃がすわけにはいかない。こいつらは、戦うたびに戦闘データを蓄積しアップデートする可能性が高いだろう。まして。
「推測するに、さっき見えた光、通信かぁ? あれで拳銃持ちと連携したわけかあ」
だとすれば、それだけだろうか。広域通信もしていてリアルタイムでこの戦いが送信されている?
チラリとそう考えたとき。
「どうせデータ取られるなら早目にブッコロですぅ」
お構いなしにハナが五色光符陣を連打し叫ぶのが聞こえた。
「それが正解かもねえ……時間をかけない方がよさそうだ」
再び駆け抜ける。迎え撃つ弾丸は、今度はヒースの残像を貫いただけだった。
「だけど、進歩しているのはこちらも同じさぁ──捉えたよぉ」
スッと、前方に手を掲げる。三角形の光が生まれ、それぞれの頂点から放たれる光のうち一条が瓦礫から顔を覗かせる敵の姿を貫いた。
「新たに手にした機導師の力、試させてもらうよぉ」
酷薄に、笑う。一度距離を詰めてさえしまえば機動力の差は歴然、逃げに専念しようとも逃れられはすまい。
「本職には劣るだろうけど、手にした力は使いこなしてみせないとねぇ」
再び光を生み出しながら、追い詰めていく。
ソティスの狙いは、思ったほどには纏まらなかった。敵の動きを固めにかかっているのは小剣、長剣側で、彼女が狙いたかった大剣、拳銃はそれぞれマンツーマンで当たる形勢になっており、範囲内に纏まらない。近づいたところで、仲間が全員接敵していては範囲攻撃を撃つタイミングもなかなかない。初撃以降は、射線が通った状況を見て大剣に向けてライトニングボルトを放つ動きとなっていた。
紙装甲であることを懸念して、不慣れな盾まで持ち込んで挑んだが、時折フリーハンドを得た敵が狙ってくるのはもっぱらハナの方だ。
結果的に、各個にじりじりとした削り合いになる戦況の中、最初に落ちたのは、それでも最初に彼女の大火力を受けた鈴の前の拳銃持ちだった。
鈴は戦況を見回すと、次に優先すべきは大剣持ちと兵庫の援護に向かう。ここで大剣持ちにソティス、鈴、兵庫と火力が集中し、やがてこれも撃破する。
「人形焼きの一丁上がりだ」
雷光を受けて継ぎ目のあちこちから煙を上げて倒れる大剣持ちに、ソティスが告げた。
そこで、兵庫がくるりと槍を持ち替えた。大剣持ちの動きを制限すべく、防御に特化した構えを解除する。
「……護りを固めているだけには少々飽きたのでな。そろそろ自由に槍を振るわせて貰おう」
ハナの集中砲火と透とチィの働きもあったのだろう、小剣持ちは既に一体倒されていた。長剣持ちの方へと向かう。……が。
長剣持ちが、見惚れるような鮮やかな動きで長剣をくるりと翻す。次の瞬間、交差する剣閃が鋭く兵庫に向かって伸びてきた。流れるような動作がもたらす迫力に、兵庫は一度踏みとどまる。
「……やるな」
呟いた兵庫に。
「いや」
割り込んできたのは透だ。
「見た目が派手なだけだ。派手にする代わりに、思っているよりは軽い攻撃だよ。あんたなら問題ない」
「ふむ?」
言われた言葉にピンとくるものがあったのか、兵庫は再び槍を構えなおし、長剣持ちに相対する。再び、伸びてくる斬撃に、今度は合わせるように槍をかちあげる。成程、思った以上の軽さ、あっけなさで長剣は敵の腕ごと跳ね上げられ、腹部が晒される。
「我が鋭鋒の冴え、とくと味わうが良い!」
踏み込む。全身から力を伝達しての、一切の無駄のない刺突の一撃。榊流──狼牙一式。
既に幾度もハナの光撃を受け脆くなっていた躯体が貫かれ、倒れた。
「成程、今のは殺陣の動きをもとにした剣か。面白い動きだ」
「……」
「ああ、助言感謝する」
「……ああ。うん。分かってるんだが……分かってたんだが……あっさり破られるとな。いや、お見事だ」
同じように長剣の一体を打倒しながら、透が複雑な声で答えた。
「何、本来の鋭さがあれば、ああも簡単に踏みこめはしなかっただろうさ。またいずれの機会には共に戦いたいものだな」
兵庫が笑い返す。その時。
「透殿! 透殿ー!?」
何やら切実な声が、チィの方から響く。慌てて振り向く二人。
「手前どもには!? 手前どもにも透殿のアドバイスと褒め言葉欲しいでさぁ! 何か!?」
「小剣の方は知るか!? 自分で何とかしろ! 出来るだろうが!」
「はっ! 手前ども出来る子でさぁ! 見ててくだせぇ!」
ぽかんとする兵庫と脱力する透の後ろで。
「あはははははは。いいですいいですう。その調子でお願いしますぅ」
歓声とともにハナが投げた札が、最後の小剣持ちを吹き飛ばした。
「追い詰めたよぉ?」
あと数歩の距離で、ヒースは狙撃銃持ちと相対する。
やはりヒースの魔法攻撃は本職に匹敵する威力とはいえず、狙撃に集中した敵の攻撃は幾度かヒースを捉え重い一撃を与えている。
負傷度合いで言えば同程度。だが悠然とした様子の彼の態度を、無機質な敵の目はどうとらえているだろうか。
敵にも動揺は見えない。接近で無手になるほど甘い敵ではなく、その手には近距離にも対応できる銃が握られているが、明確な勝算のある射撃には思えなかった。ここまで来たら完全にドッグファイト。
無機質な瞳はヒースを見つめ続ける。彼の態度は何なのか。数度、槍と銃撃が交差する。その中で敵は探る。これまでの情報から。狙いがあるのか? 敵には勝算が? 分析結果は、これまでにも見られた手堅い近接攻撃だ。
はったり。そう判断して銃を構えなおす。全力で落としに行き、削り勝つ──狙撃銃持ちがそう判断を下したとき。
視界の端に、何かが展開された。振り向く瞬間すらなかった。最後の刹那、隅に見える部分だけを順番に認識していく。法術陣。籠手──聖拳「プロミネント・グリム」。アルスレーテ・フュラー!
「だから言ったろう、追い詰めたよ、って」
嘲笑うヒースの声を最後に。めり込む鉄拳が、素早く明滅を繰り返していた側頭部の機械を粉砕していた。
「敵を知る為の情報が最大の武器、と」
倒した敵の残骸を、ヒースが検分している。
「やれやれ、面倒な敵だった。甘味でも頂きたいところだ」
ソティスがぼやくように言う。
「気分としては……そうさなぁ、人形焼きなんかどうかね?」
自らが黒焦げにした人形どもを見下ろしながらの言葉に、一行が苦笑すると、さすがに自分で焼いたアレは食おうとは思わんぞ? と笑う。
「甘味は良いんですけどぉ、今お腹ガボガボですぅ。もぉう」
これでポーションデブになったらどうしてくれるんですぅ、と、この戦いで負傷させられたハナがぼやいていた。
これで一息──と、いかない者がまだ一人、いる。
ザッと踏みしめられた足音に、一行の視線が集中した。
鈴──鎌倉クラスタ、その戦いに余りに深い足跡を刻んできた彼女は、やはり己の手で決戦へと挑みに行くのだ。
「トール! チィ! 後は任せたぜ! クラスタは必ずブッ潰してくっからよ!」
言葉は、これまで幾度も共に戦ってきた仲間に向けられて。信頼を込めた、力強い頷きを受けると、彼女はそれに背中を押されるように、駆け出していく。
戦いの軌跡、その意味は、彼女のその足取りが雄弁に語っていた。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/26 07:23:10 |
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相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/08/29 21:28:40 |