ゲスト
(ka0000)
残暑、せせらぎ、川辺にて
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/03 09:00
- 完成日
- 2017/09/17 14:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
東方地域ではまだまだ残暑厳しい日々が続いていた。
そんなある山中にある村の人達の唯一の憩いとなっていたのが、川涼みである。
ところが、ここに大量の雑魔が湧くようになってしまい、途方に暮れた人々は天ノ都へと直訴状を出した。
調べてみればここは天ノ都へと通じる川の上流の一つに当たる。
幕府としても見逃せないとなり、ハンターを速やかに派遣し、討伐部隊が組まれることとなった。
――そして。
「どぉ……っせい!!」
放たれた剣圧により眼前の敵は駆逐された。
「所詮雑魔か。オレ達の敵じゃねぇな」
1人が自信ありげにそう言えば、周囲も同調する。
「市井の民には脅威でも……ハンターにとっては肩慣らし、という感じですね」
「ほら、男子、ぼさっとしない。まだ場の浄化が終わってないんだから、他に雑魚が出てこないかちゃんと見張っててよね」
「はーい」
「了解」
そんなやり取りがある中、雑魔が湧いていた原因と思われる汚染場所を発見し、浄化術の出来るハンター達で対応する。
「……骨の具合からして親子、かな……」
「きっと歪虚から逃げて……ここで息絶えてしまったんだね……」
「浄化が終わった埋めて、弔ってあげましょう」
憤怒王・獄炎を討ってから間もなく2年の月日が流れようとしている。
それでも、まだこういった弔いが済んでいない遺体や澱んだ怨念が素となり、雑魔の巣となってしまうことがあった。
大概はこのように大事になる前にハンターを派遣したり、幕府の武士達による討伐隊と符術師達で対応しており、今回は雑魔の数が多かった為ハンターに依頼が来たのだった。
一体の浄化を終え、穴を掘り、骨を埋め、それぞれの信仰と心情で祈りを捧げた。
「……よぉっし、終わり!」
「ふぃ~……あっつ……」
手団扇で扇ぎ、空を睨む。
ギラギラと照りつける太陽がその鎧や服の温度を容赦無く上げて行く。
そして、一同は川へと戻ると、水着持参だった者は水着に着替え、持って来なかった者は木陰で水に素足を浸し、各々川涼みを始めた。
場所が場所なだけに、浄化が終わった後も、暫しその場に留まり、他に雑魔が湧いてこないかの確認もして欲しいという依頼なのだ。
もちろん、留まり方に対してその間の行動は問わない。
依頼は夕方まで。
ハンター達は、正午からの暑い時間を川辺で過ごすことになったのだった。
そんなある山中にある村の人達の唯一の憩いとなっていたのが、川涼みである。
ところが、ここに大量の雑魔が湧くようになってしまい、途方に暮れた人々は天ノ都へと直訴状を出した。
調べてみればここは天ノ都へと通じる川の上流の一つに当たる。
幕府としても見逃せないとなり、ハンターを速やかに派遣し、討伐部隊が組まれることとなった。
――そして。
「どぉ……っせい!!」
放たれた剣圧により眼前の敵は駆逐された。
「所詮雑魔か。オレ達の敵じゃねぇな」
1人が自信ありげにそう言えば、周囲も同調する。
「市井の民には脅威でも……ハンターにとっては肩慣らし、という感じですね」
「ほら、男子、ぼさっとしない。まだ場の浄化が終わってないんだから、他に雑魚が出てこないかちゃんと見張っててよね」
「はーい」
「了解」
そんなやり取りがある中、雑魔が湧いていた原因と思われる汚染場所を発見し、浄化術の出来るハンター達で対応する。
「……骨の具合からして親子、かな……」
「きっと歪虚から逃げて……ここで息絶えてしまったんだね……」
「浄化が終わった埋めて、弔ってあげましょう」
憤怒王・獄炎を討ってから間もなく2年の月日が流れようとしている。
それでも、まだこういった弔いが済んでいない遺体や澱んだ怨念が素となり、雑魔の巣となってしまうことがあった。
大概はこのように大事になる前にハンターを派遣したり、幕府の武士達による討伐隊と符術師達で対応しており、今回は雑魔の数が多かった為ハンターに依頼が来たのだった。
一体の浄化を終え、穴を掘り、骨を埋め、それぞれの信仰と心情で祈りを捧げた。
「……よぉっし、終わり!」
「ふぃ~……あっつ……」
手団扇で扇ぎ、空を睨む。
ギラギラと照りつける太陽がその鎧や服の温度を容赦無く上げて行く。
そして、一同は川へと戻ると、水着持参だった者は水着に着替え、持って来なかった者は木陰で水に素足を浸し、各々川涼みを始めた。
場所が場所なだけに、浄化が終わった後も、暫しその場に留まり、他に雑魔が湧いてこないかの確認もして欲しいという依頼なのだ。
もちろん、留まり方に対してその間の行動は問わない。
依頼は夕方まで。
ハンター達は、正午からの暑い時間を川辺で過ごすことになったのだった。
リプレイ本文
●せせらぎと乱反射
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は上流でのんびりと釣り糸を垂らしていた。
その少し離れたところではペットである『ナナクロ』が主人の釣果を気にするように尾を揺らす。
「魚が釣れるかどうか、お前も興味深々みたいだねぇ」
『……』
視線に気付いたヒースが話しかければ、つい、とそっぽを向き、くぁあと欠伸をしてみせる。
「相変わらず愛想が無いねぇ」
しかし耳はヒースの声を聞き漏らさないように向けられていたし、黒い尾は正直に揺れて返事を返す。
ナナクロのそんな様子にヒースは目を細め、釣られるようにして欠伸を1つ。
釣り糸はぴくりともしないまま、1人と1匹。のんびりとした時間が過ぎていった。
「社員旅行……じゃないけどな。休むぞ、ユキト」
ミヨ・アガタ(ka0247)の呼びかけに嬉しそうに大きく頷いたのは白いモッフモフの毛並みを持つユグディラのユキトだ。
普段は幻術でのコミュニケーションが多めなユキトだが、こういった簡易な返事は目一杯体を使って返してくれるので、ミヨを絶大に癒やしてくれる。
水着に着替え、小さな滝の傍で釣り糸を垂らす。
時折風の影響で水しぶきがかかったりするが、辛抱強くミヨはその場から動かずに釣り糸を垂らし続ける。
そんなミヨの傍でユキトもまたちょこんと座って釣果を待っている。
小一時間ほど経って、程よい大きさの魚が2匹釣れたところでミヨは釣りを切り上げた。
「日差しがある分、天然ミストは気持ち良かったけどちょっと濡れたな……ユキトは大丈夫か?」
濡れた髪を掻き上げながらミヨが振り返ると、そこにはふわっふわの毛がしぼんでほっそりしたユキトがいた。
「ショボくれてる……?!」
いつもより見た目が1/2程に縮んでしまったユキトを見て思わずびっくりしたミヨを、ユキトは憂いだ瞳で見上げる。
ミヨはすぐに火を起こし、ユキトの毛を拭いて乾かしてやりながら魚を塩焼きにした。
普段の2/3ぐらいのボリュームまで戻ったところで、魚が焼け、ミヨとユキトはとりあえず腹ごしらえをすることにした。
「いただいます」
一緒になって手を合わせ、そして一生懸命な表情で魚を食べるユキトを見てミヨは来て「一緒に来てよかったなぁ」としみじみ和んだのだった。
そんなヒースやミヨよりやや下流では央崎 枢(ka5153)が素足を水に浸けて涼んでいた。
水浴びをしていたグリフォンのロビンが器用に魚を捕らえては咀嚼する姿をのんびりと眺めつつ、グリフォンの生態的にワシとライオン、どっちの性質の方が強いのだろうかと首を傾げ……そういえば、どちらも魚を食べることがあるという話しを思い出した。
「ん? どうした?」
ロビンが水を掻き分けながら枢の方へと近付いて来る。
その嘴には立派で活きのいい魚が捕らえられていた。
「あ、くれるのか? ありがとうな」
受け取ろうとして……何も容れ物がないことに気付いた枢がどう受け取ろうか逡巡していると、ロビンはくるる、と喉を鳴らしてつ、と視線を枢から逸らした。
――その視線の先には、枢の脱いだブーツ「テレイオーシス」。
「え? あ、ちょ……!?」
枢が止めるよりも早く、ろびんがブーツの中へと魚を突っ込んだ。
「ああああーーーーーー!?」
という悲痛な叫び声に何事かとイェジドの叢雲と魚のつかみ取りに挑んでいたミィリア(ka2689)が顔を上げた。
枢とグリフォンの姿に「楽しそうだなぁ」なんて感想を漏らして、小さくため息を吐いた。
……というのも、最近叢雲が何故だか機嫌が悪い。
久しぶりに一緒に遊べるかもと参加した依頼。タンキニ「フラワーレース」に着替えて全力で川遊びしようと思ったのに“ザ・やる気無し!”な叢雲の態度にミィリアは困惑するばかりだった。
パシャン、と叢雲が大きく尻尾で水面を叩いた。
「冷たっ!」
跳ねた水が顔にかかって、ミィリアがむぅ、と膨れつつ叢雲を見るが、叢雲はそっぽを向いていて。
(こんな叢雲初めて……)
そう思ってふと、思い至る。
(あれ? もしかして叢雲の機嫌が悪くなり出したのはグリフォンをお迎えしてからでは……?)
今も、グリフォンと楽しそうな枢の姿を見て水をかけられた気がするし……
(もしかしてだけど、後から来たグリフォンさんに幻獣の先輩としてヤキモチやいてるのでは!!)
「んー! もう叢雲ったら愛いヤツめーっ! でござるー!!」
点と点が結ばれた瞬間、ミィリアは勢いよく叢雲に抱きつくと、濡れそぼった全身をもふもふと撫で回す。
「叢雲で力不足とかじゃあないから安心してね。いつもめちゃくちゃ頼りにしてるんだから!」
大好きを全身でめいっぱい伝える。
「……もちろん、この魚取りも! 叢雲ならやってくれるって信じてる!!」
ミィリアの笑顔と言葉に、驚きの後、一瞬バツが悪そうに視線を泳がせた叢雲だったが、「ふん」と鼻を鳴らすと『任せておけ』と言わんばかりにざぶざぶと水の中へと入っていく。
そのやる気に満ちた後ろ姿を見てホッと胸を撫で下ろしたミィリアだった。
「ユグディラさん如何にも猫さんな見た目ですがさすがに全くお水がダメって事はなかったようでよかったですねー」
最近お迎えしたユグディラと水遊びを楽しんだ小宮・千秋(ka6272)は、岸へと上がると持ってきた横笛を取り出した。
「デュオっちゃいましょー」
千秋の呼びかけにユグディラは嬉しそうに頷いて自分の横笛を取り出して構えた。
「ユグディラさん程演奏がお上手じゃない事は御了承下さーい」
そう断ってから千秋が最近覚えた童謡を奏で始めると、ユグディラはすぐにアドリブで伴奏を始める。
(そう言えばまだユグディラさんのお名前決めていませんでしたー)
視線を合わせ、二番からはユグディラが主旋律を、千秋がアドリブで色を添える。
(ほむー、何か良いお名前はー……あっ)
思考に指を取られ、音を外してしまい、千秋はユグディラを見て表情で謝ると、ユグディラは楽しそうに首を振って演奏を続けている。
(まあ後程お素晴らしいお名前付けますので今は気にせずに遊びましょー)
少しずつ親睦を深めて、唯一にて最高のお名前を付けて上げようと心に誓う千秋だった。
「さーて、ちょっと汗かいちゃったし、水浴びでもして汗を流しましょうかね、っと……」
本音では裸で水浴びをしたいところだが、幸いにして公衆の面前で全裸になるような露出癖をアルスレーテ・フュラー(ka6148)は持ち合わせてはいなかった。
元々、自分の体型にはコンプレックスを抱えているアルスレーテが着込んできたのはウェットスーツ「ビームレーサー」。
強烈な締め付けで体の凹凸を最小限にして泳ぐ速度を速めるというリアルブルー製の競泳用水着だ。
「必要以上に肌は露出しないし、これならあんまり恥ずかしくないでしょ。たぶん」
なるべく人のいない下流を選び水浴びを開始する。
「はー、気持ちいい」
手で触れたときは冷たさを感じた川の水だが、ウェットスーツのお陰もあって体感温度は自分の体温とほとんど変わらない。
全身をほぐすように泳いだアルスレーテは岸へと上がると、手早く着替えてバスタオルを羽織る。
木陰に陣取り、濡れた髪を自然乾燥させるついでに聖書「クルディウス」を読み始め……その内容に興味を引かれなかった事と穏やかな気候にアルステーレはいつの間にか夢の世界へと旅立っていたのだった。
周囲をワイバーンのシエルと共に空から哨戒していたヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、今の所雑魔の気配がない事を確認すると河岸へと降りた。
「雑魔が消えてしまえば、穏やかで良い場所ですね。村の憩いの場というのも頷けます。
もう何も起こらないでしょうし、少しばかりのんびり過ごすとしましょうか」
北方と比べるとこの辺りの気候はかなり暑い。にも関わらず少しも堪えた様子が無い辺り、流石は龍種と言うべきなのか、それともシエルが暑さに強いのか。
水着「ブルーローズ」に着替えたヴァルナが感心しながらシエルを伴って水の中へとその肢体を浸していく。
「シエルは初陣でしたからね。飛んでいても埃とか付きますし、労いも兼ねて私が綺麗にしてあげましょう。ほら、背中とか自分だと見え難いでしょう?」
ヴァルナに背をタオルで優しく拭かれると、初めのうちは大人しく拭かれていたが、次第にそわそわと落ち着かなくなり、すぐに川の中へと全身を沈め泳いで行ってしまった。
「……触り方が拙かったでしょうか?」
まさか、世話をされることが落ち着かないのだとは思っていないヴァルナは首を傾げつつ、「遠くに行ってはいけませんよ」と声を掛け、ヴァルナもまた河岸の傍で流されないよう石を枕にしつつ川に身を浮かべた。
それにしても、ハンターになった当初は自分が龍や幻獣を駆る日が来るとは思っていなかった。
(こうして力を貸してくれているシエル達に恥じないよう、これからも精進しませんと)
視界いっぱいに広がる空は青く、太陽の光を受けて輝く水面は美しく、風は穏やかで、枝葉の揺れるサラサラとした音、時折聞こえる誰かの演奏の音、笑い声が静かな森に満ちるようだった。
いつの間にか傍に帰ってきたシエルの喉を撫で、ヴァルナは微笑んだ。
「今後ともよろしくお願いしますね」
ヴァルナの微笑みと言葉にシエルは「了解した」と言わんばかりに頷いて、この美しい光景を共に楽しんだのだった。
ワイバーンのカートゥルへと水を汲み掛けながら鞍馬 真(ka5819)はひとときの涼を楽しんでいた。
「暑いのは苦手だ……」
真の呟きに、北方を出て初めて夏の暑さを体験しているカトゥールも心から同意を示すように積極的に水浴びを楽しんでいる。
左手が、腰元に結わえた水晶剣「メグ・ゼ・スクロ」の柄に当たった。
負のマテリアルの気配はない。それでも、最低限の警戒は怠らない。
「……多分何も起こらないとわかっていても、性分だからな、仕方ない」
カートゥルの視線に気付いて真は小さな笑みを口元に浮かべた。
川から上がると、日差しを避けるように木陰へと移動し、真はフルート「ホライズン」を奏で始めた。
その初めて聞く音色に不思議そうに目を瞬かせ聞き入っていたカートゥルに気付き、真は思わず手を止めた。
「おや、きみは音楽にも興味があるのか? 聞き苦しくなければ良いけど……」
真の言葉に頭をすり寄せつつ、もっと吹いて、とねだるようにカートゥルは甘えた声を上げた。
「じゃぁ、即興だけど……」
オリジナルの即興演奏に、カートゥルは心地よさそうに目を細める。
共に闘うようになってまだ日も浅い1人と一体は手探りながらもコミュニケーションを重ね、お互いを知ろうと心を砕いていた。
(これからもっと仲良くなれれば良いな)
真の願いは笛の音に乗って青い空へと吸い込まれていった。
「空は自由ですねえ……」
その上空ではワイバーンにて空から地上の雑魔を索敵しつつ飛行訓練を行っていたGacrux(ka2726)がいた。
鬱滞する気分を振り払うように風を全身に浴びる。
「もっと速度を上げて下さい」
Gacruxの声に応えるようにワイバーンは速度を上げる。
Gacruxは手綱を短く持ち、身を屈めると風圧抵抗を下げる姿勢を取る。
以前乗ったグリフォンよりもワイバーンの方が速く空を切るように飛ぶ。その感覚が面白い。
高度を上げ、きりもみ急下降からの水面ギリギリの低空滑走へ。川の水しぶきを上げ再び急上昇し、川を遡る。
ぐんぐんと高度を上げ、唐突にGacruxは空中に身を投げた。
突然手綱が自由になり背が軽くなった事に気付いたワイバーンは、操縦者が墜落したことをすぐに察知し、直ぐ様急ブレーキをかけると、自身も急下降し操縦者を追った。
……結論から言えば、全力で移動し、ワイバーンが受け止めた為にGacruxは怪我1つ追わずに済んだ。
「やるじゃないですか」
満足そうなGacruxに、ワイバーンは着陸すると同時に背に負っていたGacruxを乱暴に地面へと転がり落とした。
「った……」
石の川原に全身を強かに打ったGacruxは顔をしかめて、ワイバーンを見てハッとした。
明らかにワイバーンの瞳は怒りに揺れている。
当然と言えば当然だ。
万が一ワイバーンが受け止め損なえばワイバーンもGacruxも怪我を負っていた可能性があり、ワイバーンが間に合わなければGacruxは水面に叩き付けられていた可能性もあった。
……もっとも、その際は川へと飛び込む腹積もりだったのだが、本来墜落中は一切行動を行えない。
まだ出会って日も浅く、コミュニケーションもしっかり取れていない状態ではGacruxが『自ら川へとダイブするつもりだった』などワイバーンにわかるはずも無く。
『うっかり手を離してしまったのか』『わざと自ら落ちたのか』それとも『自分の飛行に難があったのか』わからなかったのだ。
そんな中、必死に受け止めた先で聞こえた満足げな一言を聞けば、それは怒りもするだろう。
「あー……えーと……」
予想外のワイバーンの剣幕にGacruxが圧され、後ずさりした時だった。
懐にしまっていたパルムがブルブルと震えながら顔を出したのだ。
その顔色は蒼白に変わっており、痩せこけた白いブナシメジのようだ。
怒りの瞳と怯えた瞳、2種類の瞳に射抜かれたGacruxは「すみませんでした」と頭を下げたのだった。
「初めて来ましたが、川で涼むというのもなかなか楽しいですね」
メアリ・ロイド(ka6633)はリアルブルーにいた頃は14歳から転移までとある理由により室内でずっと過ごしていた上に、それ以前も自然のある場所へ行ったことがなかったので、新鮮な気持ちで大きく深呼吸をした。
静かに足先を浸していると、逃げていた小魚たちが戻ってきて、仲良く追いかけっこをする姿を目にする。
大きな羽音に顔を上げれば、ワイバーンとグリフォンが悠々と空を舞っていた。
今回の作戦では沢山の幻獣を見た。
幻獣をパートナーにしているその誰もが実に楽しそうで、メアリは興味津々に幻獣とその主人を観察している。
(私の周りにはCAMや機械類しかないが、生き物をパートナーに持つのも興味深いな)
そう思って、次の瞬間首を横に振った。
(感情の薄い私に心通わせることが出来るか、が問題ですが)
だが、あの暖かでやわらかな身体や鼓動を感じる事は悪くは無さそうだとメアリはじぃっと空を見上げ、哨戒に当たるワイバーンやグリフォンを見つめ続けたのだった。
●やわらかな感情
「あー……いい川だな……泳いだら気持ち良さそうだ」
ソレル・ユークレース(ka1693)の思わず漏れた感想にリュンルース・アウイン(ka1694)は微笑みながら同意する。
「確かにいい場所だと思うし、もう安全だろうけど、ソルはリラックスしすぎじゃない?」
「よし。暑いし、川入ろう」
「は? ってなんで水着なんて用意してるの……!?」
いそいそと鞄から取り出した水着は何と二着。
「もちろん、ルースの分もあるぞ。まあ、遠慮するなって、着替えさせてやるから!」
ソレルの言葉に驚きすぎて固まったリュンルースからミリタリーボディアーマーが手早く脱がされた!
「待って、脱ぐのは自分でできるから……! じゃなくて、私はそこまで浸からないつもりだから……!」
我に返ったリュンルースが慌てて法衣「ローズプレイヤ」の前身頃を押さえながら首を横に振る。
暫し押し問答が続いたが、結局折れたのはソレル。
「折角泳げそうな場所だし、涼むのにも丁度良いと思ったんだがなあ……じゃあ、水着は今度な」
着替えさせるのも着替えるのも諦めたソレルが鞄に水着を仕舞いながら呟く。
「はあ……、もう、びっくりした。さすがに他にも人のいるところでは脱がないよ」
「……二人きりだったら良かったのか?」
「……っ!?」
顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせるリュンルース。
そんな顔を見られて満足したソレルはリュンルースに素足になるよう促して、2人で水の中へと足を進めた。
「ふふ、足先だけでも水の冷たさが気持ちいいね」
「絶対泳いでも気持ち良かった」
「……もう」
文句を言いながらも、転ばないよう手を繋いでいてくれているソレルを見て、『何だかんだで私のことも大切にしてくれてる……かな?』とリュンルースは嬉しさに胸の奥が暖かくなる。
「……手を、放さないでね?」
「当たり前だろ」
リュンルースの言葉に即答しながら『二度と手放すつもりはねぇよ』と心の中で誓う。
お互いが相棒であり親友であり。
抱く想いは信頼であり親愛であり。
それでも、今はまだこの感情に付ける名前を2人は知らない。
ただただ大切で、大事で、失いたくなくて……川の流れが足を掬ったとしても、繋いだ手が解けてしまわないように強く握り返したのだった。
(はふー……調子でないなぁ)
だらだらと川の流れに身を任せていた結果、玉兎 小夜(ka6009)の身体はいつの間にやら随分下流まで流されていた。
「ご主人様!!」
愛しい声に目を開けると、浴衣姿の玉兎・恵(ka3940)が河岸を必死に小夜を追いかけて走っていた。
「めーぐみぃ」
ざばぁっと身を起こし、河岸へと向かう。
全身濡れ鼠ならぬ濡れ兎と化した小夜は、恵の浴衣が濡れるのも構わず抱き付いて、再び水の中へとダイブした。
妖怪メグミスキー兎、誕生の瞬間だった。
「ぷはっ……もー、ご主人様ったら……」
顔に張り付いた濡れ髪、上気した頬、困り顔をしつつも愛しい者――もちろん自分だ――を見つめる恵は最高に色っぽくて可愛い。
何より、普段は見ることの無い濡れそぼった浴衣から透ける下着が……
「……下着?」
「……えーと、水着持ってくるの忘れちゃって……」
ビキニ・アーマーは着ていた。しかし、肝心の水着を忘れてしまった事に気付いた恵が、右往左往している間に小夜が流されていってしまったらしい。
「…………」
ぐっしょりと濡れて恵のやわらかな肢体に張り付いている浴衣をまじまじと見つめる小夜。
「……いい」
「はい?」
「えへー。恵ぃ。一緒に遊ぼう」
もう濡れてしまったものは仕方が無いし、何よりこれはこれでセクシーだし、他の人に見せたくないしで妖怪メグミスキー兎は恵を抱きしめて再び川の流れに身を預けた。
「こうしていれば、はぐれないしね」
けっして小夜が恵の感触を愉しんでるとかそんなではない、と心の中で言い訳しつつ。
冷たい水の中で感じる恵の暖かさに小夜は心の底から癒やされていく。
どのくらいそうしていただろうか。
恵の小さなくしゃみを切欠に2人は岸へと上がった。
火を起こして、濡れた恵の浴衣を乾かすために広げ、その間小夜のシャツ「クリニエール」を羽織っていて貰う。
(……これはもしかして俗言う彼シャツというやつでは?)
気付いてしまった恵が顔を真っ赤にしつつ嬉し恥ずかしそうに胸元のボタンを留めていく。
そんな恵が可愛くて、小夜は水気を切った水着姿のまま恵に抱き付いた。
「今度はあっためるためー」
……他意はないよ? ないよ?
日差しと焚き火のお陰で帰る頃には無事浴衣も乾き、恵は名残惜しそうにシャツを返すと浴衣を身に纏う。
「はふー……癒された。ありがとね、恵」
おでこにひとつキスを落として小夜は微笑んだ。
突然のキスに耳まで真っ赤に染めつつも、少し元気になった小夜を見て恵もまた嬉しくて微笑み返す。
そして2人は陽が沈む前に帰路に着いたのだった。
クレーヴェル・アティライナ(ka6536)は川岸で足先だけ水に浸けたり、川の流れに手を差し入れて水の感触を楽しんでいた。
「冷たくて……気持ちいい」
ひやりとした水温に慣れた手を今度は顔に当てて涼を取る。
それから、少しだけ森の中へと足を進めた。
憤怒王・獄炎により支配されていた頃には枯れ木の森だったというが、この二年で木々はたくましく枝を伸ばし、葉を茂らせていた。
川辺よりもぐっと涼しい森の中。深い深緑の香りに包まれて、クレーヴェルは大きく深呼吸を繰り返した。
カサリと落ち葉を踏む音に気付いてクレーヴェルが振り返ると、野兎の親子が元気よく森の奥へと駆けて行った。
雑魔を倒す場面に立つのも、遺体を弔い、場を浄化するという場面に立ち会うのもクレーヴェルには初めての体験だった。
「私、今まで戦うことは怖くてできなかった。けれど……少しでも自分にその力があるのなら。
少しでも、癒す為の力が、護る為の力があるのなら。
この自然や、お友達を……大切な物を護る為なら、少しだけ、頑張れる気がする」
だが、最初がこの川辺で良かったと心から思う。
沢山の先輩達の動き、浄化前の不穏な雰囲気から浄化後の穏やかな雰囲気への変化を知れたことはクレーヴェルの中で大きな変化をもたらし、ハンターとしての心構えを1つ手にすることが出来たのだった。
雑魔を警戒しながら下流へと歩いて来たエリス・ヘルツェン(ka6723)だったが、行けども行けども雑魔の気配には当たらない事に安堵し、一度休憩しようと水際へと寄った。
キラキラと陽の光を反射する美しい水面。サラサラと流れる水音にエリスは耳を傾ける。
「……折角ですから私も……」
足先だけ、と素足になるとワンピースの裾を持ってゆっくりと水の中へと足を進めた。
「わっ。……ふふ、冷たくて心地良いですね。」
裾が濡れないよう気を付けつつ、転ばないように慎重に、流れに逆らうように水を蹴りあげた。
水滴が弾けるように光り、涼やかな音を立てて水面へと落ちていく。
遠く、上流の方からは楽しそうな先輩ハンター達の声が時折風に乗って届くのを聞くとも無しに聞きながら。
「この時間を大切に……依頼も、また頑張っていきましょう」
エリスは小さな決意を胸に水から上がったのだった。
(過去は変えられなくて、でも助けてあげたいって思うんです)
浄化の終わった跡地に1人佇むのは羊谷 めい(ka0669)。
その口から紡がれるのは死者への祈りを乗せたレクイエム。
(憤怒王との戦いには、わたしは関与していたなかったけれど)
もう埋葬も終えた。
浄化術も皆で力を合わせて完了させた。
これはめいにとって自分を満たすためだけの行動だと理解していた。
(わたしが今日、ここに来たのも縁があったからなのかも、ですね)
それでも、祈りたかった。
旅立つ魂に平穏が訪れるように。
そして、これからのこの地の未来に平和があるように、と。
祈らずにいられなかった。
「せめて、彼らの負の想いを減らしてあげられれば……」
深い祈りの歌は静かな森の中に吸い込まれるように高く低く響き渡る。
どこまでも自由に、やわらかな優しさを伴って染み入っていった。
●新たな仲間と共に
「竜葵、こちら小夜さん。龍奏の時に会ってるかな?」
「わ、えと……久しぶり……だけど、覚えてる、かな?」
藤堂研司(ka0569)とワイバーンの竜葵に挨拶されて、浅黄 小夜(ka3062)もまたワイバーンの竜胆と共に頭を下げた。
どうやら飛龍同士は覚えているらしい、お互い軽く声を掛け合うように鳴いている。
「……あ、2人とも、覚えとるんやね……」
この光景に小夜と研司は微笑み合う。
そこへ、エステル・クレティエ(ka3783)とルナ・レンフィールド(ka1565)も合流して、一気に場は賑やかになる。
「フローディア」
エステルに呼ばれたワイバーンは竜葵と竜胆に混ざるようにして何事か会話を始めている。
「グリフォンの人以外に少ないんですかね?」
ルナがオルフェの首を撫でつつ、周囲を見ます。
「確か、ラウィーヤさんと沢城さんがグリフォン連れだったと思いますよ」
「あ、ほんと? じゃあ後で挨拶行こう」
「ん? 何々? 呼んだかしら?」
噂をすれば沢城 葵(ka3114)が1人のんびり歩いてくる。
「あれ? グリフォンは……?」
「あぁ、朱空は上空からの哨戒に行ってもらってるわ」
「わぁ、凄い! もう1人でも任せられちゃうんですね!」
エステルが目を輝かせて両手を胸の前で合わせる。
「んー……というか私にそっけないだけなんだけどね……」
一方葵は小さく苦笑を漏らしながら、誰にも聞こえないように自虐しつつ。
「あ、いつも兄がお世話になっています」
エステルが葵に丁寧に頭を下げ、「あんたはホントに良い子ね~」と葵が笑って手のひらをひらひらと仰がせる。
「こちら蒼のワイバーンの竜葵。龍奏作戦からこっち、俺を何度も助けてくれた龍なんだけど、これから、一緒に来てくれることになったんだ。宜しく頼むよ」
研司が改めて皆へと竜葵を紹介したため、場は一気に飛龍とグリフォンの紹介大会へと変わった。
その賑やかさに引かれ、ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が近付くと、エステルが嬉しそうに瞳を輝かせた。
「あ、ラウィーヤさん」
沢山の人とワイバーンとグリフォンの人だかりに目を白黒させつつも、ラウィーヤはまずはと自己紹介を始めた。
「あ、えっと…ラウィーヤ・マクトゥームと申します。エステルさんには、沢山、お世話になっていて……」
「そんな、こちらこそお世話になっていて……」
2人がペコペコと頭を下げる様子を微笑ましく見守っていたルナが、「あの」と声を上げた。
「グリフォンのお名前も教えて下さい」
「あぁ、カラーマです。そちらは……?」
「うちはオルフェです」
二頭のグリフォンは通じる物があったのか、ふんふんと嘴を付き合わせるように挨拶を交わしている。
「じゃ、目一杯遊ぼう!」
研司のかけ声に、一同それぞれに手を上げ呼応した。
「天禄、おんし、水浴びが好きじゃと言うて居ったな。ほれ、存分に遊んで良いぞ」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がワイバーンの天禄を連れて川辺で遊んでいると、ガヤガヤと賑やかな団体が下流に現れた。
「おや……あれは……」
気付いてウォーターウォークで水上を歩き近付くと、向こうも蜜鈴に気付いて手を上げた。
「蜜鈴さん!」
「あぁ、やはり研司か。おぉ、ということはそちらの龍は……」
「うん、龍奏の時に……」
お互い、出自が同じ飛龍を迎えたと知り、話しに花が咲く。
飛龍同士もまた久しぶりの再会を喜んでいるようで、小夜の竜胆交えて楽しそうに水浴びをしている。
「はしゃぎ過ぎて流されぬ様にのう?」
蜜鈴が声を掛ければ、天禄は大きく翼をはためかせて水しぶきを蜜鈴へと飛ばす。
「ふふ、もうびしょ濡れじゃのう」
蜜鈴は天禄の楽しそうな様子に満足して大きな岩の上に腰掛けると、煙管を取り出しぷかりと煙を浮かべた。
陽の光を受けて煌めく水面が美しい。
(喪われた命を悼むが、なればその者達の分まで、光の中を生きてやろう)
風に乗り紫煙は空へと消えた。
その最後の影を蜜鈴は目を細めて見送った。
魚を求めカラーマと上流へ来ていたラウィーヤは、物の見事に素早く動く魚達に翻弄されていた。
そもそも海育ちで山に詳しくなく、釣りも得意では無いため、どうやったら川魚を捕まえられるのか検討も付かなかった。
「魚、獲れる……?」
岩の上にちょこんと座っているカラーマに問うと、カラーマはくあぁ、と欠伸をしてみせる。
川魚はその狭い川幅の中で岩に隠れ、影に隠れ、複雑に素早く動く事で狩人から身を守る。
グリフォンもその大きな身体から川よりは海での猟に秀でている種であり、海猟のつもりでダイブなどしようものなら恐らく怪我をする。
「……皆のところへ帰りましょうか……」
ラウィーヤの呼びかけに、カラーマは翼をはためかせながら大きく伸びをして見せたのだった。
研司に誘われ、一緒に罠作りをしていた小夜は、飛龍同士仲良く水浴びをする姿を見て微笑んだ。
(いっぱい遊んで、戦った後やし……美味しいご飯とかは、食べたりしないかな?)
竜胆とはまだ打ち解けきってはいないので、この機に親睦を深めたいと思っている小夜は、一生懸命罠作りに勤しむ。
「お兄はん、ここはこれでええんやろか……?」
「うん? ……うんうん、上手だよ小夜さん」
褒められて、嬉しくてはにかみながらコツコツと1つずつ丁寧に作り上げていく。
そんな研司と小夜の様子を微笑ましく見守っているのはエステルだ。
(小夜さん……楽しんで下さいね……っ!)
心の中でグッとサムズアップを決めていると、ザブンと頭から水を掛けられた。
「冷たっ!?」
「エステルちゃんがよそ見しているからだよー」
背を向けながらも良く響くルナの笑い声に、もぅ、と拳を振り上げて「怒ったぞー!」と水を掻き分け後を追う。
と、小さな悲鳴と共に唐突にルナの姿が水中へと消えた。
「っ!?」
水中で足を滑らせたのか、溺れるようにもがくルナを見て、エステルが慌てふためいてルナの名前を叫んだ。
その次の瞬間、エステルの頭上を雨のような水滴が影と共に降った。
フローディアと遊んでいた筈のオルフェが鋭い前足が水中のルナを掴んで引き上げたのだ。
そのまま岸へと降ろされたルナは気道に水が入ったのか四つん這いになりながら大きく咳をしている。
「ルナさん、大丈夫ですか?!」
エステルが駆け寄ると、騒ぎを聞きつけた人達も集まってきた。
「あー、びっくりしたぁ。心配掛けてごめんなさい」
呼吸が整うと、ルナはカラッとした笑顔でそう周囲に詫びた。
「オルフェは有り難う、助かったわ」
ルナが礼を告げ、ハグをしようと両腕を広げると、オルフェはようやく安心したのか、全身を大きく揺すって水気を飛ばした。
「きゃぁっ!? ……もう、オルフェったら……!」
そんなルナとオルフェのやり取りに周囲はようやく安心して笑い合った。
そんな一同の様子を見守りながら、葵は火を起こし、調理の準備に入っていた。
簡易の竈を作り、その少し離れたところではBBQが出来るように鉄板を下から熱していく。
大きな羽音が3つ近付いて来たことに気付いて顔を上げると、朱空の他にもう一体グリフォンとワイバーンがゆるりと上空で一度旋回してから降りてきた。
「いや~、最初は慣れないもので……空を往くのが、怖い所もありましたけれど……何と言うか、慣れて来ると……良い景色ですよね、乗っているのの安心感もありますし。まぁ……やっぱり、一応念の為……鞍には、命綱を付ける改修は、するべきだとは思いますけれど……シートベルトの様な」
「あー、わかる気がします。グリフォンはまだ毛があるからいざって時にしがみつくことも可能ですけど、ワイバーンって鱗がつるつるだから掴み所ないですもんね」
降りてきたのは哨戒に出ていた天央 観智(ka0896)と枢だった。
……何故か枢は素足のままだが、敢えては突っ込むまいと葵は寛大な心でスルースキルを発動させた。
「お帰り、お疲れ様」
朱空に声を掛けるも、相変わらずの素っ気ない態度に苦笑を漏らす。
「出会ったばかりとはいえ、もうちょっと慣れて欲しいわねぇ」
それでも子どもには優しいという一面を知ってはいるので、これは焦らず距離を少しずつ縮めるのが得策かと両肩を竦めた。
「2人も。空の旅はどうだった?」
「変わりなかったですよ。あ、あのすみません、これ……」
おずおずと枢が葵に差し出したのはブーツ……の中に頭から突っ込んだ魚が刺さっている。
「……どうしたの? これ」
流石にスルー出来ず問うと、彼のグリフォンであるロビンが獲ってこの中に突っ込んだらしい。
「自分で調理するんで、ちょっと火借りてもいいですか?」
枢のお願いとそのブーツに魚という事態に、思わず葵は吹き出しながら大きく頷いた。
「いいわよ。それ、速くブーツ洗って乾かさないと、魚臭いわ濡れたままだわで帰らなきゃいけなくなるわよ」
「うぐっ……有り難うございます!」
枢は石の角を踏んで「痛っ!」などと声を上げながら竈へと駆けていった。
「食事の準備はまだ全然だから、休んでて頂戴な」
そんな枢の後ろ姿を見送り、葵は観智へと声をかけた。
魚が捕れなければ食事の準備も進まない。
葵は平べったい石を手に取ると川へ向かってアンダースローで投げた。
石は水面を2度3度と跳ねて水中へと沈む。
「うーん、鈍ったかしら」
「……水切り、ですか。地方によっては石切り、とも言いますね」
「あら、わかる?」
「……えぇ。あまり、やったことは……ありませんが」
葵の真似をして投げてみるが、辛うじて一度跳ねてすぐ沈んでしまった。
「子どもの頃はもうちょっと上手くやれた気がするんだけどねぇ」
葵はもう一度石を投げたが、やはり3度跳ねただけで石は水中へと沈んでいった。
「沢城さん!」
呼ばれて振り返れば、ずぶ濡れになった研司と小夜が満面の笑顔で手を振っていた。
「あら、これは大漁かしら?」
葵は笑って手を振り返して2人の方へと歩いて行った。
「私達もお手伝いしますよー」
「じゃぁこれお願い」と葵から渡されたのは串と野菜。
千秋と執事服を身に纏ったユグディラは黙々と作業に没頭していった。
「はい! ミィリア達もお魚獲ってきましたー!」
「あらありがと。じゃぁ、軽くお塩振って串に刺してくれる?」
「おやおや。もしかして大漁かな?」
釣りから帰ってきたヒースが慌ただしくBBQの準備に走る一同を見て目を丸くした。
「あら、そっちも大漁?」
「……いや、ほどほどってところかな」
ヒースとナナクロが食べられる程度、という目算で釣ったので、釣果としてはほどほどだったが、幾匹かリリースして帰ってきていた。
「釣れた魚は独占しない。欲張りすぎないのが長生きのコツって言うしねぇ」
「その通りね」
バケツを受け取った葵が中身を見て頷く。
「美味い料理が出来たら少しもらえるかなぁ? 楽しみにしている奴がいるみたいでねぇ」
ヒースの足元でナナクロが“余計なお世話だ”と言わんばかりに「……にゃむ」と鳴いた。
「あ、ラウィーヤさん、これ、使えそうですか?」
BBQの下準備に勤しむラウィーヤへとエステルが摘んだ山菜を見せる。
暫くまじまじとそれを見つめていたラウィーヤは「うん」と頷いた。
「あく抜きすれば食べられると思います。大丈夫、きっと美味しくなります」
そう言って初めてエステルの姿を見て、ラウィーヤは目尻を下げた。
「可愛らしいですね」
白ヤギタオルを頭から被っているエステルは、「えへへ」と照れたように笑った。
「可愛いでしょう? 一目惚れだったんです」
くるりと回って、タオルの可愛さをアピールするエステルだが、ラウィーヤからすればそんなエステルが可愛らしい。
「そういえば、果物を持ってきたとおっしゃいませんでしたか?」
「あ、それは今、川で冷やしてるの」
指差した先ではフローディアがのんびりと川に浸かっている。どうやら涼むついでに果物の番をしているらしい。
「あ、もう揚げ物ない? そろそろ全部揚がっちゃうけど」
枢が声を張れば、「さっき、誰か山芋見つけたって言わなかったっけ!?」と研司が声を張り返す。
「あ、まだここにあります」
ラウィーヤの足元にまだ土を洗い落としただけの山芋が転がっている。
「……忙しそうだね。手伝おうか?」
見かねた真が声をかけ、研司に山芋は擦るのか、切るのか、と相談しに向かう。
「なんじゃ、火が足らぬようなら手伝うが?」
「火はあるから大丈夫なんですが……あ、そろそろ第一弾焼けるよー!」
焚き火の傍で魚の姿焼き当番をしていたルナが声を上げると、すぐ横ではお皿を持った小夜がちゃっかりと待機している。
「蜜鈴さんも、はい、どうぞ、あったかいうちに!」
満面の笑顔で串に刺さった魚を手渡され、蜜鈴は思わず受け取ると天禄の元へと戻った。
そして注がれる視線に気付き、顔を上げた。
「なんじゃ、見ておるだけでは腹は膨れぬぞ。おんしもあっちへ行って受け取るといい」
声を掛けられ、おずおずとメアリが近付いていくと、「はい」と小夜が肉と野菜が交互に刺さった串をメアリへと手渡した。
熱々なそれに、ふぅふぅと息を吹きかけて、一口頬張る。
今まで食べたことのない野性味溢れる味に、メアリの目から鱗が落ちた。
「ヴァルナさーん! 観智さーん! 焼ーけーたーよー!」
「あ、はい! 今行きます」
研司の声にヴァルナも手を上げて返事をする。
「あ、BBQソースはここにあるから各自でね。二度漬けは禁止!!」
「……一度浸けただけで、しっかり味が、付きますね……」
観智がクオリティの高いBBQソースに舌鼓を打つ。
「あ、フライには塩と酢を混ぜた調味料に浸けて食べるとなかなか美味いよ!」
きっちり便乗して宣伝する枢。
「はい、こちら幻獣用の素焼き完成しましたよー! 5本、早い者勝ちです!」
「あ、エステル。それ哨戒頑張ってた天央と央崎とエリゴスのところの子達に先にあげてあげて」
「わかりましたー!」
葵の指摘にエステルは大きく頷くと、焼けた魚を5匹取って、走り出す。
「……じゃぁ、朱空はんに……私があげてもえぇやろか?」
「あら、あげてくれる? じゃぁ浅黄、よろしくね」
許可が貰えた小夜は大きく頷いて「もふもふっ」と口走りながらエステルの後を追って走り出す。
「あの……私も、いただいていいでしょうか……?」
エリスが問えば、話しかけられた研司は満面の笑顔で頷いた。
「もちろん!」
●そして遠き山に陽は沈む
怒濤のBBQタイムが終わり、片付けも一段落した頃。
「待たせて、ごめんね」
カラーマに頬を寄せてラウィーヤが囁いた。
“構わないよ”と言わんばかりにカラーマはラウィーヤへと軽く頬を押し返す。
――700年前…メネル傭兵隊の象徴だった、グリフォン……。
――戦う姿は……伝承通りに雄々しく、強大で……。
――私では、主には力不足で……。
「貴方は……凄いね。カラーマ」
頬を寄せて微笑むラウィーヤにカラーマは再度頬を押し返したのだった。
傾けていた杯はもうとっくに空になった。
蜜鈴は木陰で眠る天禄の傍らで煙管をくゆらせていた。
「ほんに。皆賑やかで良い事じゃ」
喧騒は嫌いでは無い。
それは命ある証。
そこに笑い声の響くものであれば尚更に。
「さて……そろそろ帰ろうかのう……なぁ? 天禄」
声をかければ、目をしばしばと瞬かせた天禄がゆっくりと顔を上げた。
「帰りはまた、頼むぞ」
蜜鈴の声に、大きな欠伸を一つして立ち上がった天禄は、大きく伸びをして、眠気を払うように首を振ったのだった。
「……来れてよかった」
沢山の人達に――それこそ、初めましての人も多かった――BBQを楽しんでもらえた充足感に研司は浸っていた。
そんな研司の横には竜葵が静かに佇んでいる。
「これからも力を貸して欲しい、それも心からの願いだ。だが、それ以上に……」
研司は真っ直ぐに竜葵へと向かい合った。
「あんたと、こうやって……平和に遊びに来たかった、竜葵。それが、一番の望みだったんだ」
その言葉は予想外だったのか、竜葵の瞳がぱちぱちと瞬き、つい、と視線を逸らされた。
「……照れてる?」
問えば、さらについ、と顔を逸らされる。
そんな初めて見る竜葵の一面に研司は笑ってその喉元を撫でたのだった。
「フローディアの鱗もキラキラだけれど、ここは水がキラキラして綺麗ね」
エステルが座ったフローディアの脇に立って微笑む。
「皆と一緒に川風に吹かれて食べるご飯は美味しいって、フローディアにも知ってもらえたら嬉しいなって思ってたんだけど……どうだったかしら?」
物静かなタイプのフローディアには少しうるさかったかしら……? と不安になりながら問うと、フローディアは頷くようにエステルへと顔を向けた。
「……よかった」
今日一日で随分フローディアとの距離を縮めることが出来たような気がして、エステルはもう一度「よかった」と呟くと、夕陽を浴びて煌めく水面を静かに見つめていた。
夕陽を映してオレンジ色にキラキラしている水面を見ていて、インスピレーションを掻き立てられたルナは、リュートを取り出すと弦を爪弾いた。
寝そべっているオルフェに寄りかかりながら、奏でるのはノスタルジーを感じさせる静かな曲。
オルフェの体温を背に感じながら、ルナは静かに、情感たっぷりにこの風景を曲にしたのだった。
「相変わらず子どもには優しいのね」
朱空の毛並みをブラッシングしながら葵は思い出して小さく笑った。
あんまり子どもというと怒るかしら、と思いつつも小夜と朱空のやり取りが微笑ましくて、思い出せば思い出すほど笑みが不覚なる。
「ご飯は美味しかったかしら? 浅黄が手ずから食べさせてくれたんだもの、美味しかったわよね?」
伏せたまま朱空は葵の問いを黙殺する……が、尾は、ゴキゲンに揺れている。
やはりブラッシングと小夜とのやり取りは愉しかったようだ。
「……そう。ならいいわ」
来る前よりは縮まった距離を感じながら、葵は穏やかな気持ちでブラッシングを続けた。
「今日は、どうでしたか……?」
木陰で休みながらカイラリティへと話しかけた観智は、今日出会った個性豊かなワイバーンとグリフォン達を思い出して小さく笑んだ。
「東方の気候は……やはり、辛かったですかね?」
伏せていた顔を上げて、カイラリティは首を傾げるような素振りをする。
「……楽しかったですか?」
問えば、嬉しそうに瞳を瞬かせて小さく鳴いた。
「そう、ですか。それなら……よかった。えぇ、ボクも楽しかったですよぉ」
他のハンター達の幻獣達と交流を通じて親睦を深める、という当初の予定は果たせたようだ。
観智は満足げに微笑んでカイラリティの頭部を撫でたのだった。
空を舞う。
リアルブルーにいたままだったなら、体験出来なかったことがまた1つ増えた。
「お前は戦場の相棒。だけどそれだけじゃなんか寂しいんだ」
ロビンの背に乗りながら枢は告げる。
「こうして楽しく過ごせる時も大事にしたい。死ぬか生きるかの時間だけの共有じゃなく、生きてるからこその楽しい時間も、さ」
きゅるる、とロビンが嬉しそうに鳴いて、さらに力強く空を蹴った。
「……だから、またこういう機会見つけて、来ような、ロビン」
枢の声に、応えるようにきゅるるるるとロビンは鳴くと、転移門のある天ノ都へと空を駆けていった。
「……何も起きなかったな」
真は最後にもう一度見回して、カートゥルの背に跨がった。
「このまま、平和な日々が続けばいいが……」
一抹の不安が過ぎる。
落ち着かないリアルブルーにエバーグリーンと言ったこの星の外の事。
そして、恋人の故郷である東方。
心配のしすぎだろうか。
風を切る中、振り返り、かつて獄炎が根城としていた憤怒本陣のある南を見る。
天ノ都周辺はだいぶ落ち着いたが、あちらはどうだろうか。
狂おしいほどに朱に染まった空の下、まるで燃えているようだと感じて真は首を振った。
「……帰ろう。カートゥル」
心配性が過ぎるとまた笑われてしまう。
真は振り切るように前だけを見て、帰路へと付いたのだった。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は上流でのんびりと釣り糸を垂らしていた。
その少し離れたところではペットである『ナナクロ』が主人の釣果を気にするように尾を揺らす。
「魚が釣れるかどうか、お前も興味深々みたいだねぇ」
『……』
視線に気付いたヒースが話しかければ、つい、とそっぽを向き、くぁあと欠伸をしてみせる。
「相変わらず愛想が無いねぇ」
しかし耳はヒースの声を聞き漏らさないように向けられていたし、黒い尾は正直に揺れて返事を返す。
ナナクロのそんな様子にヒースは目を細め、釣られるようにして欠伸を1つ。
釣り糸はぴくりともしないまま、1人と1匹。のんびりとした時間が過ぎていった。
「社員旅行……じゃないけどな。休むぞ、ユキト」
ミヨ・アガタ(ka0247)の呼びかけに嬉しそうに大きく頷いたのは白いモッフモフの毛並みを持つユグディラのユキトだ。
普段は幻術でのコミュニケーションが多めなユキトだが、こういった簡易な返事は目一杯体を使って返してくれるので、ミヨを絶大に癒やしてくれる。
水着に着替え、小さな滝の傍で釣り糸を垂らす。
時折風の影響で水しぶきがかかったりするが、辛抱強くミヨはその場から動かずに釣り糸を垂らし続ける。
そんなミヨの傍でユキトもまたちょこんと座って釣果を待っている。
小一時間ほど経って、程よい大きさの魚が2匹釣れたところでミヨは釣りを切り上げた。
「日差しがある分、天然ミストは気持ち良かったけどちょっと濡れたな……ユキトは大丈夫か?」
濡れた髪を掻き上げながらミヨが振り返ると、そこにはふわっふわの毛がしぼんでほっそりしたユキトがいた。
「ショボくれてる……?!」
いつもより見た目が1/2程に縮んでしまったユキトを見て思わずびっくりしたミヨを、ユキトは憂いだ瞳で見上げる。
ミヨはすぐに火を起こし、ユキトの毛を拭いて乾かしてやりながら魚を塩焼きにした。
普段の2/3ぐらいのボリュームまで戻ったところで、魚が焼け、ミヨとユキトはとりあえず腹ごしらえをすることにした。
「いただいます」
一緒になって手を合わせ、そして一生懸命な表情で魚を食べるユキトを見てミヨは来て「一緒に来てよかったなぁ」としみじみ和んだのだった。
そんなヒースやミヨよりやや下流では央崎 枢(ka5153)が素足を水に浸けて涼んでいた。
水浴びをしていたグリフォンのロビンが器用に魚を捕らえては咀嚼する姿をのんびりと眺めつつ、グリフォンの生態的にワシとライオン、どっちの性質の方が強いのだろうかと首を傾げ……そういえば、どちらも魚を食べることがあるという話しを思い出した。
「ん? どうした?」
ロビンが水を掻き分けながら枢の方へと近付いて来る。
その嘴には立派で活きのいい魚が捕らえられていた。
「あ、くれるのか? ありがとうな」
受け取ろうとして……何も容れ物がないことに気付いた枢がどう受け取ろうか逡巡していると、ロビンはくるる、と喉を鳴らしてつ、と視線を枢から逸らした。
――その視線の先には、枢の脱いだブーツ「テレイオーシス」。
「え? あ、ちょ……!?」
枢が止めるよりも早く、ろびんがブーツの中へと魚を突っ込んだ。
「ああああーーーーーー!?」
という悲痛な叫び声に何事かとイェジドの叢雲と魚のつかみ取りに挑んでいたミィリア(ka2689)が顔を上げた。
枢とグリフォンの姿に「楽しそうだなぁ」なんて感想を漏らして、小さくため息を吐いた。
……というのも、最近叢雲が何故だか機嫌が悪い。
久しぶりに一緒に遊べるかもと参加した依頼。タンキニ「フラワーレース」に着替えて全力で川遊びしようと思ったのに“ザ・やる気無し!”な叢雲の態度にミィリアは困惑するばかりだった。
パシャン、と叢雲が大きく尻尾で水面を叩いた。
「冷たっ!」
跳ねた水が顔にかかって、ミィリアがむぅ、と膨れつつ叢雲を見るが、叢雲はそっぽを向いていて。
(こんな叢雲初めて……)
そう思ってふと、思い至る。
(あれ? もしかして叢雲の機嫌が悪くなり出したのはグリフォンをお迎えしてからでは……?)
今も、グリフォンと楽しそうな枢の姿を見て水をかけられた気がするし……
(もしかしてだけど、後から来たグリフォンさんに幻獣の先輩としてヤキモチやいてるのでは!!)
「んー! もう叢雲ったら愛いヤツめーっ! でござるー!!」
点と点が結ばれた瞬間、ミィリアは勢いよく叢雲に抱きつくと、濡れそぼった全身をもふもふと撫で回す。
「叢雲で力不足とかじゃあないから安心してね。いつもめちゃくちゃ頼りにしてるんだから!」
大好きを全身でめいっぱい伝える。
「……もちろん、この魚取りも! 叢雲ならやってくれるって信じてる!!」
ミィリアの笑顔と言葉に、驚きの後、一瞬バツが悪そうに視線を泳がせた叢雲だったが、「ふん」と鼻を鳴らすと『任せておけ』と言わんばかりにざぶざぶと水の中へと入っていく。
そのやる気に満ちた後ろ姿を見てホッと胸を撫で下ろしたミィリアだった。
「ユグディラさん如何にも猫さんな見た目ですがさすがに全くお水がダメって事はなかったようでよかったですねー」
最近お迎えしたユグディラと水遊びを楽しんだ小宮・千秋(ka6272)は、岸へと上がると持ってきた横笛を取り出した。
「デュオっちゃいましょー」
千秋の呼びかけにユグディラは嬉しそうに頷いて自分の横笛を取り出して構えた。
「ユグディラさん程演奏がお上手じゃない事は御了承下さーい」
そう断ってから千秋が最近覚えた童謡を奏で始めると、ユグディラはすぐにアドリブで伴奏を始める。
(そう言えばまだユグディラさんのお名前決めていませんでしたー)
視線を合わせ、二番からはユグディラが主旋律を、千秋がアドリブで色を添える。
(ほむー、何か良いお名前はー……あっ)
思考に指を取られ、音を外してしまい、千秋はユグディラを見て表情で謝ると、ユグディラは楽しそうに首を振って演奏を続けている。
(まあ後程お素晴らしいお名前付けますので今は気にせずに遊びましょー)
少しずつ親睦を深めて、唯一にて最高のお名前を付けて上げようと心に誓う千秋だった。
「さーて、ちょっと汗かいちゃったし、水浴びでもして汗を流しましょうかね、っと……」
本音では裸で水浴びをしたいところだが、幸いにして公衆の面前で全裸になるような露出癖をアルスレーテ・フュラー(ka6148)は持ち合わせてはいなかった。
元々、自分の体型にはコンプレックスを抱えているアルスレーテが着込んできたのはウェットスーツ「ビームレーサー」。
強烈な締め付けで体の凹凸を最小限にして泳ぐ速度を速めるというリアルブルー製の競泳用水着だ。
「必要以上に肌は露出しないし、これならあんまり恥ずかしくないでしょ。たぶん」
なるべく人のいない下流を選び水浴びを開始する。
「はー、気持ちいい」
手で触れたときは冷たさを感じた川の水だが、ウェットスーツのお陰もあって体感温度は自分の体温とほとんど変わらない。
全身をほぐすように泳いだアルスレーテは岸へと上がると、手早く着替えてバスタオルを羽織る。
木陰に陣取り、濡れた髪を自然乾燥させるついでに聖書「クルディウス」を読み始め……その内容に興味を引かれなかった事と穏やかな気候にアルステーレはいつの間にか夢の世界へと旅立っていたのだった。
周囲をワイバーンのシエルと共に空から哨戒していたヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、今の所雑魔の気配がない事を確認すると河岸へと降りた。
「雑魔が消えてしまえば、穏やかで良い場所ですね。村の憩いの場というのも頷けます。
もう何も起こらないでしょうし、少しばかりのんびり過ごすとしましょうか」
北方と比べるとこの辺りの気候はかなり暑い。にも関わらず少しも堪えた様子が無い辺り、流石は龍種と言うべきなのか、それともシエルが暑さに強いのか。
水着「ブルーローズ」に着替えたヴァルナが感心しながらシエルを伴って水の中へとその肢体を浸していく。
「シエルは初陣でしたからね。飛んでいても埃とか付きますし、労いも兼ねて私が綺麗にしてあげましょう。ほら、背中とか自分だと見え難いでしょう?」
ヴァルナに背をタオルで優しく拭かれると、初めのうちは大人しく拭かれていたが、次第にそわそわと落ち着かなくなり、すぐに川の中へと全身を沈め泳いで行ってしまった。
「……触り方が拙かったでしょうか?」
まさか、世話をされることが落ち着かないのだとは思っていないヴァルナは首を傾げつつ、「遠くに行ってはいけませんよ」と声を掛け、ヴァルナもまた河岸の傍で流されないよう石を枕にしつつ川に身を浮かべた。
それにしても、ハンターになった当初は自分が龍や幻獣を駆る日が来るとは思っていなかった。
(こうして力を貸してくれているシエル達に恥じないよう、これからも精進しませんと)
視界いっぱいに広がる空は青く、太陽の光を受けて輝く水面は美しく、風は穏やかで、枝葉の揺れるサラサラとした音、時折聞こえる誰かの演奏の音、笑い声が静かな森に満ちるようだった。
いつの間にか傍に帰ってきたシエルの喉を撫で、ヴァルナは微笑んだ。
「今後ともよろしくお願いしますね」
ヴァルナの微笑みと言葉にシエルは「了解した」と言わんばかりに頷いて、この美しい光景を共に楽しんだのだった。
ワイバーンのカートゥルへと水を汲み掛けながら鞍馬 真(ka5819)はひとときの涼を楽しんでいた。
「暑いのは苦手だ……」
真の呟きに、北方を出て初めて夏の暑さを体験しているカトゥールも心から同意を示すように積極的に水浴びを楽しんでいる。
左手が、腰元に結わえた水晶剣「メグ・ゼ・スクロ」の柄に当たった。
負のマテリアルの気配はない。それでも、最低限の警戒は怠らない。
「……多分何も起こらないとわかっていても、性分だからな、仕方ない」
カートゥルの視線に気付いて真は小さな笑みを口元に浮かべた。
川から上がると、日差しを避けるように木陰へと移動し、真はフルート「ホライズン」を奏で始めた。
その初めて聞く音色に不思議そうに目を瞬かせ聞き入っていたカートゥルに気付き、真は思わず手を止めた。
「おや、きみは音楽にも興味があるのか? 聞き苦しくなければ良いけど……」
真の言葉に頭をすり寄せつつ、もっと吹いて、とねだるようにカートゥルは甘えた声を上げた。
「じゃぁ、即興だけど……」
オリジナルの即興演奏に、カートゥルは心地よさそうに目を細める。
共に闘うようになってまだ日も浅い1人と一体は手探りながらもコミュニケーションを重ね、お互いを知ろうと心を砕いていた。
(これからもっと仲良くなれれば良いな)
真の願いは笛の音に乗って青い空へと吸い込まれていった。
「空は自由ですねえ……」
その上空ではワイバーンにて空から地上の雑魔を索敵しつつ飛行訓練を行っていたGacrux(ka2726)がいた。
鬱滞する気分を振り払うように風を全身に浴びる。
「もっと速度を上げて下さい」
Gacruxの声に応えるようにワイバーンは速度を上げる。
Gacruxは手綱を短く持ち、身を屈めると風圧抵抗を下げる姿勢を取る。
以前乗ったグリフォンよりもワイバーンの方が速く空を切るように飛ぶ。その感覚が面白い。
高度を上げ、きりもみ急下降からの水面ギリギリの低空滑走へ。川の水しぶきを上げ再び急上昇し、川を遡る。
ぐんぐんと高度を上げ、唐突にGacruxは空中に身を投げた。
突然手綱が自由になり背が軽くなった事に気付いたワイバーンは、操縦者が墜落したことをすぐに察知し、直ぐ様急ブレーキをかけると、自身も急下降し操縦者を追った。
……結論から言えば、全力で移動し、ワイバーンが受け止めた為にGacruxは怪我1つ追わずに済んだ。
「やるじゃないですか」
満足そうなGacruxに、ワイバーンは着陸すると同時に背に負っていたGacruxを乱暴に地面へと転がり落とした。
「った……」
石の川原に全身を強かに打ったGacruxは顔をしかめて、ワイバーンを見てハッとした。
明らかにワイバーンの瞳は怒りに揺れている。
当然と言えば当然だ。
万が一ワイバーンが受け止め損なえばワイバーンもGacruxも怪我を負っていた可能性があり、ワイバーンが間に合わなければGacruxは水面に叩き付けられていた可能性もあった。
……もっとも、その際は川へと飛び込む腹積もりだったのだが、本来墜落中は一切行動を行えない。
まだ出会って日も浅く、コミュニケーションもしっかり取れていない状態ではGacruxが『自ら川へとダイブするつもりだった』などワイバーンにわかるはずも無く。
『うっかり手を離してしまったのか』『わざと自ら落ちたのか』それとも『自分の飛行に難があったのか』わからなかったのだ。
そんな中、必死に受け止めた先で聞こえた満足げな一言を聞けば、それは怒りもするだろう。
「あー……えーと……」
予想外のワイバーンの剣幕にGacruxが圧され、後ずさりした時だった。
懐にしまっていたパルムがブルブルと震えながら顔を出したのだ。
その顔色は蒼白に変わっており、痩せこけた白いブナシメジのようだ。
怒りの瞳と怯えた瞳、2種類の瞳に射抜かれたGacruxは「すみませんでした」と頭を下げたのだった。
「初めて来ましたが、川で涼むというのもなかなか楽しいですね」
メアリ・ロイド(ka6633)はリアルブルーにいた頃は14歳から転移までとある理由により室内でずっと過ごしていた上に、それ以前も自然のある場所へ行ったことがなかったので、新鮮な気持ちで大きく深呼吸をした。
静かに足先を浸していると、逃げていた小魚たちが戻ってきて、仲良く追いかけっこをする姿を目にする。
大きな羽音に顔を上げれば、ワイバーンとグリフォンが悠々と空を舞っていた。
今回の作戦では沢山の幻獣を見た。
幻獣をパートナーにしているその誰もが実に楽しそうで、メアリは興味津々に幻獣とその主人を観察している。
(私の周りにはCAMや機械類しかないが、生き物をパートナーに持つのも興味深いな)
そう思って、次の瞬間首を横に振った。
(感情の薄い私に心通わせることが出来るか、が問題ですが)
だが、あの暖かでやわらかな身体や鼓動を感じる事は悪くは無さそうだとメアリはじぃっと空を見上げ、哨戒に当たるワイバーンやグリフォンを見つめ続けたのだった。
●やわらかな感情
「あー……いい川だな……泳いだら気持ち良さそうだ」
ソレル・ユークレース(ka1693)の思わず漏れた感想にリュンルース・アウイン(ka1694)は微笑みながら同意する。
「確かにいい場所だと思うし、もう安全だろうけど、ソルはリラックスしすぎじゃない?」
「よし。暑いし、川入ろう」
「は? ってなんで水着なんて用意してるの……!?」
いそいそと鞄から取り出した水着は何と二着。
「もちろん、ルースの分もあるぞ。まあ、遠慮するなって、着替えさせてやるから!」
ソレルの言葉に驚きすぎて固まったリュンルースからミリタリーボディアーマーが手早く脱がされた!
「待って、脱ぐのは自分でできるから……! じゃなくて、私はそこまで浸からないつもりだから……!」
我に返ったリュンルースが慌てて法衣「ローズプレイヤ」の前身頃を押さえながら首を横に振る。
暫し押し問答が続いたが、結局折れたのはソレル。
「折角泳げそうな場所だし、涼むのにも丁度良いと思ったんだがなあ……じゃあ、水着は今度な」
着替えさせるのも着替えるのも諦めたソレルが鞄に水着を仕舞いながら呟く。
「はあ……、もう、びっくりした。さすがに他にも人のいるところでは脱がないよ」
「……二人きりだったら良かったのか?」
「……っ!?」
顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせるリュンルース。
そんな顔を見られて満足したソレルはリュンルースに素足になるよう促して、2人で水の中へと足を進めた。
「ふふ、足先だけでも水の冷たさが気持ちいいね」
「絶対泳いでも気持ち良かった」
「……もう」
文句を言いながらも、転ばないよう手を繋いでいてくれているソレルを見て、『何だかんだで私のことも大切にしてくれてる……かな?』とリュンルースは嬉しさに胸の奥が暖かくなる。
「……手を、放さないでね?」
「当たり前だろ」
リュンルースの言葉に即答しながら『二度と手放すつもりはねぇよ』と心の中で誓う。
お互いが相棒であり親友であり。
抱く想いは信頼であり親愛であり。
それでも、今はまだこの感情に付ける名前を2人は知らない。
ただただ大切で、大事で、失いたくなくて……川の流れが足を掬ったとしても、繋いだ手が解けてしまわないように強く握り返したのだった。
(はふー……調子でないなぁ)
だらだらと川の流れに身を任せていた結果、玉兎 小夜(ka6009)の身体はいつの間にやら随分下流まで流されていた。
「ご主人様!!」
愛しい声に目を開けると、浴衣姿の玉兎・恵(ka3940)が河岸を必死に小夜を追いかけて走っていた。
「めーぐみぃ」
ざばぁっと身を起こし、河岸へと向かう。
全身濡れ鼠ならぬ濡れ兎と化した小夜は、恵の浴衣が濡れるのも構わず抱き付いて、再び水の中へとダイブした。
妖怪メグミスキー兎、誕生の瞬間だった。
「ぷはっ……もー、ご主人様ったら……」
顔に張り付いた濡れ髪、上気した頬、困り顔をしつつも愛しい者――もちろん自分だ――を見つめる恵は最高に色っぽくて可愛い。
何より、普段は見ることの無い濡れそぼった浴衣から透ける下着が……
「……下着?」
「……えーと、水着持ってくるの忘れちゃって……」
ビキニ・アーマーは着ていた。しかし、肝心の水着を忘れてしまった事に気付いた恵が、右往左往している間に小夜が流されていってしまったらしい。
「…………」
ぐっしょりと濡れて恵のやわらかな肢体に張り付いている浴衣をまじまじと見つめる小夜。
「……いい」
「はい?」
「えへー。恵ぃ。一緒に遊ぼう」
もう濡れてしまったものは仕方が無いし、何よりこれはこれでセクシーだし、他の人に見せたくないしで妖怪メグミスキー兎は恵を抱きしめて再び川の流れに身を預けた。
「こうしていれば、はぐれないしね」
けっして小夜が恵の感触を愉しんでるとかそんなではない、と心の中で言い訳しつつ。
冷たい水の中で感じる恵の暖かさに小夜は心の底から癒やされていく。
どのくらいそうしていただろうか。
恵の小さなくしゃみを切欠に2人は岸へと上がった。
火を起こして、濡れた恵の浴衣を乾かすために広げ、その間小夜のシャツ「クリニエール」を羽織っていて貰う。
(……これはもしかして俗言う彼シャツというやつでは?)
気付いてしまった恵が顔を真っ赤にしつつ嬉し恥ずかしそうに胸元のボタンを留めていく。
そんな恵が可愛くて、小夜は水気を切った水着姿のまま恵に抱き付いた。
「今度はあっためるためー」
……他意はないよ? ないよ?
日差しと焚き火のお陰で帰る頃には無事浴衣も乾き、恵は名残惜しそうにシャツを返すと浴衣を身に纏う。
「はふー……癒された。ありがとね、恵」
おでこにひとつキスを落として小夜は微笑んだ。
突然のキスに耳まで真っ赤に染めつつも、少し元気になった小夜を見て恵もまた嬉しくて微笑み返す。
そして2人は陽が沈む前に帰路に着いたのだった。
クレーヴェル・アティライナ(ka6536)は川岸で足先だけ水に浸けたり、川の流れに手を差し入れて水の感触を楽しんでいた。
「冷たくて……気持ちいい」
ひやりとした水温に慣れた手を今度は顔に当てて涼を取る。
それから、少しだけ森の中へと足を進めた。
憤怒王・獄炎により支配されていた頃には枯れ木の森だったというが、この二年で木々はたくましく枝を伸ばし、葉を茂らせていた。
川辺よりもぐっと涼しい森の中。深い深緑の香りに包まれて、クレーヴェルは大きく深呼吸を繰り返した。
カサリと落ち葉を踏む音に気付いてクレーヴェルが振り返ると、野兎の親子が元気よく森の奥へと駆けて行った。
雑魔を倒す場面に立つのも、遺体を弔い、場を浄化するという場面に立ち会うのもクレーヴェルには初めての体験だった。
「私、今まで戦うことは怖くてできなかった。けれど……少しでも自分にその力があるのなら。
少しでも、癒す為の力が、護る為の力があるのなら。
この自然や、お友達を……大切な物を護る為なら、少しだけ、頑張れる気がする」
だが、最初がこの川辺で良かったと心から思う。
沢山の先輩達の動き、浄化前の不穏な雰囲気から浄化後の穏やかな雰囲気への変化を知れたことはクレーヴェルの中で大きな変化をもたらし、ハンターとしての心構えを1つ手にすることが出来たのだった。
雑魔を警戒しながら下流へと歩いて来たエリス・ヘルツェン(ka6723)だったが、行けども行けども雑魔の気配には当たらない事に安堵し、一度休憩しようと水際へと寄った。
キラキラと陽の光を反射する美しい水面。サラサラと流れる水音にエリスは耳を傾ける。
「……折角ですから私も……」
足先だけ、と素足になるとワンピースの裾を持ってゆっくりと水の中へと足を進めた。
「わっ。……ふふ、冷たくて心地良いですね。」
裾が濡れないよう気を付けつつ、転ばないように慎重に、流れに逆らうように水を蹴りあげた。
水滴が弾けるように光り、涼やかな音を立てて水面へと落ちていく。
遠く、上流の方からは楽しそうな先輩ハンター達の声が時折風に乗って届くのを聞くとも無しに聞きながら。
「この時間を大切に……依頼も、また頑張っていきましょう」
エリスは小さな決意を胸に水から上がったのだった。
(過去は変えられなくて、でも助けてあげたいって思うんです)
浄化の終わった跡地に1人佇むのは羊谷 めい(ka0669)。
その口から紡がれるのは死者への祈りを乗せたレクイエム。
(憤怒王との戦いには、わたしは関与していたなかったけれど)
もう埋葬も終えた。
浄化術も皆で力を合わせて完了させた。
これはめいにとって自分を満たすためだけの行動だと理解していた。
(わたしが今日、ここに来たのも縁があったからなのかも、ですね)
それでも、祈りたかった。
旅立つ魂に平穏が訪れるように。
そして、これからのこの地の未来に平和があるように、と。
祈らずにいられなかった。
「せめて、彼らの負の想いを減らしてあげられれば……」
深い祈りの歌は静かな森の中に吸い込まれるように高く低く響き渡る。
どこまでも自由に、やわらかな優しさを伴って染み入っていった。
●新たな仲間と共に
「竜葵、こちら小夜さん。龍奏の時に会ってるかな?」
「わ、えと……久しぶり……だけど、覚えてる、かな?」
藤堂研司(ka0569)とワイバーンの竜葵に挨拶されて、浅黄 小夜(ka3062)もまたワイバーンの竜胆と共に頭を下げた。
どうやら飛龍同士は覚えているらしい、お互い軽く声を掛け合うように鳴いている。
「……あ、2人とも、覚えとるんやね……」
この光景に小夜と研司は微笑み合う。
そこへ、エステル・クレティエ(ka3783)とルナ・レンフィールド(ka1565)も合流して、一気に場は賑やかになる。
「フローディア」
エステルに呼ばれたワイバーンは竜葵と竜胆に混ざるようにして何事か会話を始めている。
「グリフォンの人以外に少ないんですかね?」
ルナがオルフェの首を撫でつつ、周囲を見ます。
「確か、ラウィーヤさんと沢城さんがグリフォン連れだったと思いますよ」
「あ、ほんと? じゃあ後で挨拶行こう」
「ん? 何々? 呼んだかしら?」
噂をすれば沢城 葵(ka3114)が1人のんびり歩いてくる。
「あれ? グリフォンは……?」
「あぁ、朱空は上空からの哨戒に行ってもらってるわ」
「わぁ、凄い! もう1人でも任せられちゃうんですね!」
エステルが目を輝かせて両手を胸の前で合わせる。
「んー……というか私にそっけないだけなんだけどね……」
一方葵は小さく苦笑を漏らしながら、誰にも聞こえないように自虐しつつ。
「あ、いつも兄がお世話になっています」
エステルが葵に丁寧に頭を下げ、「あんたはホントに良い子ね~」と葵が笑って手のひらをひらひらと仰がせる。
「こちら蒼のワイバーンの竜葵。龍奏作戦からこっち、俺を何度も助けてくれた龍なんだけど、これから、一緒に来てくれることになったんだ。宜しく頼むよ」
研司が改めて皆へと竜葵を紹介したため、場は一気に飛龍とグリフォンの紹介大会へと変わった。
その賑やかさに引かれ、ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)が近付くと、エステルが嬉しそうに瞳を輝かせた。
「あ、ラウィーヤさん」
沢山の人とワイバーンとグリフォンの人だかりに目を白黒させつつも、ラウィーヤはまずはと自己紹介を始めた。
「あ、えっと…ラウィーヤ・マクトゥームと申します。エステルさんには、沢山、お世話になっていて……」
「そんな、こちらこそお世話になっていて……」
2人がペコペコと頭を下げる様子を微笑ましく見守っていたルナが、「あの」と声を上げた。
「グリフォンのお名前も教えて下さい」
「あぁ、カラーマです。そちらは……?」
「うちはオルフェです」
二頭のグリフォンは通じる物があったのか、ふんふんと嘴を付き合わせるように挨拶を交わしている。
「じゃ、目一杯遊ぼう!」
研司のかけ声に、一同それぞれに手を上げ呼応した。
「天禄、おんし、水浴びが好きじゃと言うて居ったな。ほれ、存分に遊んで良いぞ」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がワイバーンの天禄を連れて川辺で遊んでいると、ガヤガヤと賑やかな団体が下流に現れた。
「おや……あれは……」
気付いてウォーターウォークで水上を歩き近付くと、向こうも蜜鈴に気付いて手を上げた。
「蜜鈴さん!」
「あぁ、やはり研司か。おぉ、ということはそちらの龍は……」
「うん、龍奏の時に……」
お互い、出自が同じ飛龍を迎えたと知り、話しに花が咲く。
飛龍同士もまた久しぶりの再会を喜んでいるようで、小夜の竜胆交えて楽しそうに水浴びをしている。
「はしゃぎ過ぎて流されぬ様にのう?」
蜜鈴が声を掛ければ、天禄は大きく翼をはためかせて水しぶきを蜜鈴へと飛ばす。
「ふふ、もうびしょ濡れじゃのう」
蜜鈴は天禄の楽しそうな様子に満足して大きな岩の上に腰掛けると、煙管を取り出しぷかりと煙を浮かべた。
陽の光を受けて煌めく水面が美しい。
(喪われた命を悼むが、なればその者達の分まで、光の中を生きてやろう)
風に乗り紫煙は空へと消えた。
その最後の影を蜜鈴は目を細めて見送った。
魚を求めカラーマと上流へ来ていたラウィーヤは、物の見事に素早く動く魚達に翻弄されていた。
そもそも海育ちで山に詳しくなく、釣りも得意では無いため、どうやったら川魚を捕まえられるのか検討も付かなかった。
「魚、獲れる……?」
岩の上にちょこんと座っているカラーマに問うと、カラーマはくあぁ、と欠伸をしてみせる。
川魚はその狭い川幅の中で岩に隠れ、影に隠れ、複雑に素早く動く事で狩人から身を守る。
グリフォンもその大きな身体から川よりは海での猟に秀でている種であり、海猟のつもりでダイブなどしようものなら恐らく怪我をする。
「……皆のところへ帰りましょうか……」
ラウィーヤの呼びかけに、カラーマは翼をはためかせながら大きく伸びをして見せたのだった。
研司に誘われ、一緒に罠作りをしていた小夜は、飛龍同士仲良く水浴びをする姿を見て微笑んだ。
(いっぱい遊んで、戦った後やし……美味しいご飯とかは、食べたりしないかな?)
竜胆とはまだ打ち解けきってはいないので、この機に親睦を深めたいと思っている小夜は、一生懸命罠作りに勤しむ。
「お兄はん、ここはこれでええんやろか……?」
「うん? ……うんうん、上手だよ小夜さん」
褒められて、嬉しくてはにかみながらコツコツと1つずつ丁寧に作り上げていく。
そんな研司と小夜の様子を微笑ましく見守っているのはエステルだ。
(小夜さん……楽しんで下さいね……っ!)
心の中でグッとサムズアップを決めていると、ザブンと頭から水を掛けられた。
「冷たっ!?」
「エステルちゃんがよそ見しているからだよー」
背を向けながらも良く響くルナの笑い声に、もぅ、と拳を振り上げて「怒ったぞー!」と水を掻き分け後を追う。
と、小さな悲鳴と共に唐突にルナの姿が水中へと消えた。
「っ!?」
水中で足を滑らせたのか、溺れるようにもがくルナを見て、エステルが慌てふためいてルナの名前を叫んだ。
その次の瞬間、エステルの頭上を雨のような水滴が影と共に降った。
フローディアと遊んでいた筈のオルフェが鋭い前足が水中のルナを掴んで引き上げたのだ。
そのまま岸へと降ろされたルナは気道に水が入ったのか四つん這いになりながら大きく咳をしている。
「ルナさん、大丈夫ですか?!」
エステルが駆け寄ると、騒ぎを聞きつけた人達も集まってきた。
「あー、びっくりしたぁ。心配掛けてごめんなさい」
呼吸が整うと、ルナはカラッとした笑顔でそう周囲に詫びた。
「オルフェは有り難う、助かったわ」
ルナが礼を告げ、ハグをしようと両腕を広げると、オルフェはようやく安心したのか、全身を大きく揺すって水気を飛ばした。
「きゃぁっ!? ……もう、オルフェったら……!」
そんなルナとオルフェのやり取りに周囲はようやく安心して笑い合った。
そんな一同の様子を見守りながら、葵は火を起こし、調理の準備に入っていた。
簡易の竈を作り、その少し離れたところではBBQが出来るように鉄板を下から熱していく。
大きな羽音が3つ近付いて来たことに気付いて顔を上げると、朱空の他にもう一体グリフォンとワイバーンがゆるりと上空で一度旋回してから降りてきた。
「いや~、最初は慣れないもので……空を往くのが、怖い所もありましたけれど……何と言うか、慣れて来ると……良い景色ですよね、乗っているのの安心感もありますし。まぁ……やっぱり、一応念の為……鞍には、命綱を付ける改修は、するべきだとは思いますけれど……シートベルトの様な」
「あー、わかる気がします。グリフォンはまだ毛があるからいざって時にしがみつくことも可能ですけど、ワイバーンって鱗がつるつるだから掴み所ないですもんね」
降りてきたのは哨戒に出ていた天央 観智(ka0896)と枢だった。
……何故か枢は素足のままだが、敢えては突っ込むまいと葵は寛大な心でスルースキルを発動させた。
「お帰り、お疲れ様」
朱空に声を掛けるも、相変わらずの素っ気ない態度に苦笑を漏らす。
「出会ったばかりとはいえ、もうちょっと慣れて欲しいわねぇ」
それでも子どもには優しいという一面を知ってはいるので、これは焦らず距離を少しずつ縮めるのが得策かと両肩を竦めた。
「2人も。空の旅はどうだった?」
「変わりなかったですよ。あ、あのすみません、これ……」
おずおずと枢が葵に差し出したのはブーツ……の中に頭から突っ込んだ魚が刺さっている。
「……どうしたの? これ」
流石にスルー出来ず問うと、彼のグリフォンであるロビンが獲ってこの中に突っ込んだらしい。
「自分で調理するんで、ちょっと火借りてもいいですか?」
枢のお願いとそのブーツに魚という事態に、思わず葵は吹き出しながら大きく頷いた。
「いいわよ。それ、速くブーツ洗って乾かさないと、魚臭いわ濡れたままだわで帰らなきゃいけなくなるわよ」
「うぐっ……有り難うございます!」
枢は石の角を踏んで「痛っ!」などと声を上げながら竈へと駆けていった。
「食事の準備はまだ全然だから、休んでて頂戴な」
そんな枢の後ろ姿を見送り、葵は観智へと声をかけた。
魚が捕れなければ食事の準備も進まない。
葵は平べったい石を手に取ると川へ向かってアンダースローで投げた。
石は水面を2度3度と跳ねて水中へと沈む。
「うーん、鈍ったかしら」
「……水切り、ですか。地方によっては石切り、とも言いますね」
「あら、わかる?」
「……えぇ。あまり、やったことは……ありませんが」
葵の真似をして投げてみるが、辛うじて一度跳ねてすぐ沈んでしまった。
「子どもの頃はもうちょっと上手くやれた気がするんだけどねぇ」
葵はもう一度石を投げたが、やはり3度跳ねただけで石は水中へと沈んでいった。
「沢城さん!」
呼ばれて振り返れば、ずぶ濡れになった研司と小夜が満面の笑顔で手を振っていた。
「あら、これは大漁かしら?」
葵は笑って手を振り返して2人の方へと歩いて行った。
「私達もお手伝いしますよー」
「じゃぁこれお願い」と葵から渡されたのは串と野菜。
千秋と執事服を身に纏ったユグディラは黙々と作業に没頭していった。
「はい! ミィリア達もお魚獲ってきましたー!」
「あらありがと。じゃぁ、軽くお塩振って串に刺してくれる?」
「おやおや。もしかして大漁かな?」
釣りから帰ってきたヒースが慌ただしくBBQの準備に走る一同を見て目を丸くした。
「あら、そっちも大漁?」
「……いや、ほどほどってところかな」
ヒースとナナクロが食べられる程度、という目算で釣ったので、釣果としてはほどほどだったが、幾匹かリリースして帰ってきていた。
「釣れた魚は独占しない。欲張りすぎないのが長生きのコツって言うしねぇ」
「その通りね」
バケツを受け取った葵が中身を見て頷く。
「美味い料理が出来たら少しもらえるかなぁ? 楽しみにしている奴がいるみたいでねぇ」
ヒースの足元でナナクロが“余計なお世話だ”と言わんばかりに「……にゃむ」と鳴いた。
「あ、ラウィーヤさん、これ、使えそうですか?」
BBQの下準備に勤しむラウィーヤへとエステルが摘んだ山菜を見せる。
暫くまじまじとそれを見つめていたラウィーヤは「うん」と頷いた。
「あく抜きすれば食べられると思います。大丈夫、きっと美味しくなります」
そう言って初めてエステルの姿を見て、ラウィーヤは目尻を下げた。
「可愛らしいですね」
白ヤギタオルを頭から被っているエステルは、「えへへ」と照れたように笑った。
「可愛いでしょう? 一目惚れだったんです」
くるりと回って、タオルの可愛さをアピールするエステルだが、ラウィーヤからすればそんなエステルが可愛らしい。
「そういえば、果物を持ってきたとおっしゃいませんでしたか?」
「あ、それは今、川で冷やしてるの」
指差した先ではフローディアがのんびりと川に浸かっている。どうやら涼むついでに果物の番をしているらしい。
「あ、もう揚げ物ない? そろそろ全部揚がっちゃうけど」
枢が声を張れば、「さっき、誰か山芋見つけたって言わなかったっけ!?」と研司が声を張り返す。
「あ、まだここにあります」
ラウィーヤの足元にまだ土を洗い落としただけの山芋が転がっている。
「……忙しそうだね。手伝おうか?」
見かねた真が声をかけ、研司に山芋は擦るのか、切るのか、と相談しに向かう。
「なんじゃ、火が足らぬようなら手伝うが?」
「火はあるから大丈夫なんですが……あ、そろそろ第一弾焼けるよー!」
焚き火の傍で魚の姿焼き当番をしていたルナが声を上げると、すぐ横ではお皿を持った小夜がちゃっかりと待機している。
「蜜鈴さんも、はい、どうぞ、あったかいうちに!」
満面の笑顔で串に刺さった魚を手渡され、蜜鈴は思わず受け取ると天禄の元へと戻った。
そして注がれる視線に気付き、顔を上げた。
「なんじゃ、見ておるだけでは腹は膨れぬぞ。おんしもあっちへ行って受け取るといい」
声を掛けられ、おずおずとメアリが近付いていくと、「はい」と小夜が肉と野菜が交互に刺さった串をメアリへと手渡した。
熱々なそれに、ふぅふぅと息を吹きかけて、一口頬張る。
今まで食べたことのない野性味溢れる味に、メアリの目から鱗が落ちた。
「ヴァルナさーん! 観智さーん! 焼ーけーたーよー!」
「あ、はい! 今行きます」
研司の声にヴァルナも手を上げて返事をする。
「あ、BBQソースはここにあるから各自でね。二度漬けは禁止!!」
「……一度浸けただけで、しっかり味が、付きますね……」
観智がクオリティの高いBBQソースに舌鼓を打つ。
「あ、フライには塩と酢を混ぜた調味料に浸けて食べるとなかなか美味いよ!」
きっちり便乗して宣伝する枢。
「はい、こちら幻獣用の素焼き完成しましたよー! 5本、早い者勝ちです!」
「あ、エステル。それ哨戒頑張ってた天央と央崎とエリゴスのところの子達に先にあげてあげて」
「わかりましたー!」
葵の指摘にエステルは大きく頷くと、焼けた魚を5匹取って、走り出す。
「……じゃぁ、朱空はんに……私があげてもえぇやろか?」
「あら、あげてくれる? じゃぁ浅黄、よろしくね」
許可が貰えた小夜は大きく頷いて「もふもふっ」と口走りながらエステルの後を追って走り出す。
「あの……私も、いただいていいでしょうか……?」
エリスが問えば、話しかけられた研司は満面の笑顔で頷いた。
「もちろん!」
●そして遠き山に陽は沈む
怒濤のBBQタイムが終わり、片付けも一段落した頃。
「待たせて、ごめんね」
カラーマに頬を寄せてラウィーヤが囁いた。
“構わないよ”と言わんばかりにカラーマはラウィーヤへと軽く頬を押し返す。
――700年前…メネル傭兵隊の象徴だった、グリフォン……。
――戦う姿は……伝承通りに雄々しく、強大で……。
――私では、主には力不足で……。
「貴方は……凄いね。カラーマ」
頬を寄せて微笑むラウィーヤにカラーマは再度頬を押し返したのだった。
傾けていた杯はもうとっくに空になった。
蜜鈴は木陰で眠る天禄の傍らで煙管をくゆらせていた。
「ほんに。皆賑やかで良い事じゃ」
喧騒は嫌いでは無い。
それは命ある証。
そこに笑い声の響くものであれば尚更に。
「さて……そろそろ帰ろうかのう……なぁ? 天禄」
声をかければ、目をしばしばと瞬かせた天禄がゆっくりと顔を上げた。
「帰りはまた、頼むぞ」
蜜鈴の声に、大きな欠伸を一つして立ち上がった天禄は、大きく伸びをして、眠気を払うように首を振ったのだった。
「……来れてよかった」
沢山の人達に――それこそ、初めましての人も多かった――BBQを楽しんでもらえた充足感に研司は浸っていた。
そんな研司の横には竜葵が静かに佇んでいる。
「これからも力を貸して欲しい、それも心からの願いだ。だが、それ以上に……」
研司は真っ直ぐに竜葵へと向かい合った。
「あんたと、こうやって……平和に遊びに来たかった、竜葵。それが、一番の望みだったんだ」
その言葉は予想外だったのか、竜葵の瞳がぱちぱちと瞬き、つい、と視線を逸らされた。
「……照れてる?」
問えば、さらについ、と顔を逸らされる。
そんな初めて見る竜葵の一面に研司は笑ってその喉元を撫でたのだった。
「フローディアの鱗もキラキラだけれど、ここは水がキラキラして綺麗ね」
エステルが座ったフローディアの脇に立って微笑む。
「皆と一緒に川風に吹かれて食べるご飯は美味しいって、フローディアにも知ってもらえたら嬉しいなって思ってたんだけど……どうだったかしら?」
物静かなタイプのフローディアには少しうるさかったかしら……? と不安になりながら問うと、フローディアは頷くようにエステルへと顔を向けた。
「……よかった」
今日一日で随分フローディアとの距離を縮めることが出来たような気がして、エステルはもう一度「よかった」と呟くと、夕陽を浴びて煌めく水面を静かに見つめていた。
夕陽を映してオレンジ色にキラキラしている水面を見ていて、インスピレーションを掻き立てられたルナは、リュートを取り出すと弦を爪弾いた。
寝そべっているオルフェに寄りかかりながら、奏でるのはノスタルジーを感じさせる静かな曲。
オルフェの体温を背に感じながら、ルナは静かに、情感たっぷりにこの風景を曲にしたのだった。
「相変わらず子どもには優しいのね」
朱空の毛並みをブラッシングしながら葵は思い出して小さく笑った。
あんまり子どもというと怒るかしら、と思いつつも小夜と朱空のやり取りが微笑ましくて、思い出せば思い出すほど笑みが不覚なる。
「ご飯は美味しかったかしら? 浅黄が手ずから食べさせてくれたんだもの、美味しかったわよね?」
伏せたまま朱空は葵の問いを黙殺する……が、尾は、ゴキゲンに揺れている。
やはりブラッシングと小夜とのやり取りは愉しかったようだ。
「……そう。ならいいわ」
来る前よりは縮まった距離を感じながら、葵は穏やかな気持ちでブラッシングを続けた。
「今日は、どうでしたか……?」
木陰で休みながらカイラリティへと話しかけた観智は、今日出会った個性豊かなワイバーンとグリフォン達を思い出して小さく笑んだ。
「東方の気候は……やはり、辛かったですかね?」
伏せていた顔を上げて、カイラリティは首を傾げるような素振りをする。
「……楽しかったですか?」
問えば、嬉しそうに瞳を瞬かせて小さく鳴いた。
「そう、ですか。それなら……よかった。えぇ、ボクも楽しかったですよぉ」
他のハンター達の幻獣達と交流を通じて親睦を深める、という当初の予定は果たせたようだ。
観智は満足げに微笑んでカイラリティの頭部を撫でたのだった。
空を舞う。
リアルブルーにいたままだったなら、体験出来なかったことがまた1つ増えた。
「お前は戦場の相棒。だけどそれだけじゃなんか寂しいんだ」
ロビンの背に乗りながら枢は告げる。
「こうして楽しく過ごせる時も大事にしたい。死ぬか生きるかの時間だけの共有じゃなく、生きてるからこその楽しい時間も、さ」
きゅるる、とロビンが嬉しそうに鳴いて、さらに力強く空を蹴った。
「……だから、またこういう機会見つけて、来ような、ロビン」
枢の声に、応えるようにきゅるるるるとロビンは鳴くと、転移門のある天ノ都へと空を駆けていった。
「……何も起きなかったな」
真は最後にもう一度見回して、カートゥルの背に跨がった。
「このまま、平和な日々が続けばいいが……」
一抹の不安が過ぎる。
落ち着かないリアルブルーにエバーグリーンと言ったこの星の外の事。
そして、恋人の故郷である東方。
心配のしすぎだろうか。
風を切る中、振り返り、かつて獄炎が根城としていた憤怒本陣のある南を見る。
天ノ都周辺はだいぶ落ち着いたが、あちらはどうだろうか。
狂おしいほどに朱に染まった空の下、まるで燃えているようだと感じて真は首を振った。
「……帰ろう。カートゥル」
心配性が過ぎるとまた笑われてしまう。
真は振り切るように前だけを見て、帰路へと付いたのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/02 23:45:57 |
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相談っていうか雑談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/09/03 07:08:06 |