訓練飛行~実戦編~

マスター:植田誠

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/14 15:00
完成日
2017/09/25 23:39

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焼き鳥ちゃん

オープニング


「これは……チャンスじぇねぇかな?」
 グリフォンに跨りそう呟いたのは、第5師団兵長オットー・アルトリンゲンだ。
 彼は今、ハンターたちを連れて飛行訓練を行っていた。ワイバーンにグリフォン。そう言った飛行可能な幻獣の扱いに慣れるというのが目的だ。
 繰り返すが、慣れるのが目的であり、戦闘訓練を行う予定はなかった。だが今、視線の先には鳥型歪虚の姿がある。数は不明。
 遠目からではそうとは気づかないが、顔を見ると目が一つしかついていない。そのことからすぐに歪虚であることはわかる。では、その戦闘力はというと……大したものではない。
(攻撃手段は、確か鋭い嘴を活かした突進……ぐらいだったな)
 もちろん、シンプルな分その威力は決して侮っていいものではない。そのうえ好戦的だ。今回は、その好戦的という側面が重要だった。
 この先にはいくつか山があり、そこには当然村もある。そこを守るためにも兵を配置する必要がある。しかし、村も一つではないため、そのすべてに兵を配置すると考えると時間と手間がかかる。
 では、今ここで攻撃を仕掛けたらどうだろうか。
(連中は好戦的だ。村までは向かわず、ここで俺たちを攻撃してくるはずだ。そうなりゃ村への襲撃を防げる)
 その分、多数の敵に寡兵で挑むことになるのだが、個の戦力はこちらが圧倒的に有利だ。
「……やるか」
 オットーは一度全員を地上に降ろし、状況を説明した。そのうえで、こう言った。
「ただ飛んでるだけってのも退屈だろ? いっちょ実戦訓練と行きたいんだが、どうだ?」
 その言葉に、異を唱えるものはいない。
「……賛成と取るぜ。まぁ安心しろ。万が一落ちても俺が拾ってやる」
 あっけらかんとオットーは言う。落ちれば大怪我間違いなしの高度で戦うことになる。多少不安はあるだろう。
 だが、訓練としてみればこれほど都合のいいものはないし、村を襲わせるわけにもいかないのも確かだった。
「決まりだな。それじゃ、行くとしようぜ!」
 そういってオットーは相棒のグリフォンとともに飛び立つ。ハンター達も、それに倣った。

リプレイ本文


「わあ、お空を飛ぶのって気持ちいい~♪ 最高にハイってやつ? 実際高いところにいるしね!」
 そんなことを言いながら、夢路 まよい(ka1328)はイケロスと名付けたグリフォンの毛並みを確かめるようにすりすりと擦る。
「これもイケロスをお迎えしたお陰だね! ありがとう!」
 楽し気なまよいの態度とは裏腹に、擦るその手から伝わってくるのは戦闘を前にして昂ぶりを隠せない。イケロスのそんな感情だ。
「……うん、わかってるよ」
 それにこたえるように、前を見据えるまよい。その先には鳥型歪虚の集団が見えた。
「ピウスとの初陣が、リアルブルーの宇宙だったから……普通に飛ぶことに慣れる目的で参加してたんだけど」
「こちらも……飛行訓練のつもりで臨んだが……まさか実戦訓練になるとはな」
 やや困惑したような表情を浮かべるイェルバート(ka1772)に対し、状況がこうも変化するものかと半ば呆れつつ榊 兵庫(ka0010)は呟いた。だが、次の瞬間には思考を切り替える。
「だが、良い機会だ」
「そうだね。早速実戦ってなっても……そっちの方が性に合ってはいるかも、でござる」
「そういうことだな。この機に戦い方を習得することとしよう」
 横を飛んでいたミィリア(ka2689)とそんな言葉を交わす。
「さぁ、行こうJ9。ざくろたちの力を見せてやろう」
 時音 ざくろ(ka1250)は自身の乗るグリフォン、蒼海熱風『J9』にささやきかけた。J9の名は熱き蒼海の風の如き情熱と、かつて蒼の世界で粋に暴れ回っていた者の名にあやかって名付けられたものだ。そして、その姿は身に着けさせた幻獣鎧によるものか、どこか機械的な雰囲気を漂わせている。
「実戦かぁ……」
 感慨深そうにレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)が呟く。レオーネがまたがる、どこか理知的な印象を受ける白いグリフォンの名は白霧の騎士。ネーベルという愛称で親しまれるそのグリフォンとの縁が2年ほど前に遡ることを知る者は少ない。
「ここまで長かったなぁ、ネーベルよぉ……え、ここから? わかってるって!」
 なんとなくではあろうが、ネーベルの言葉が分かるのだろう。そんな言葉を交わすレオーネ。
「さて、訓練ついでの狩り……始めましょう」
 Gacrux(ka2726)はそう言って、身を屈める。馬術での経験を基に、自身の身体が枷となってワイバーンの速度を落とさないように。
「それじゃ、あの一つ目鳥全部落としてやろうぜ、みんな!」
 グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)の声とともに、ハンターたちは行動を開始した。


「行こうピウス。飛ぶのに慣れていなくたって、このまま村を襲わせるわけにはいかないからね」
 先行して突撃するイェルバート。サイドワインダーを使用した移動力はさすがと言っていい。また、イェルバートの指示に従い臆せず突っ込んでいく様から、ピウスがよく懐いていることがうかがえる。
 それに追随するのは兵庫、ざくろ、ミィリア、そしてGacruxだ。
「さて、月影よ。存分に暴れようじゃないか」
 自ら月影と名付けたグリフォンの背を軽くたたきながら言うと、兵庫は拳銃を構えた。
「まずは、手始めに……」
 月影を前進させつつ、兵庫は狙いをつけ……撃つ。結果は外れ。
「む……」
 元々兵庫は近接戦の方が得意ではあるのだが、別段射撃が苦手というわけではない。だが、やはり空中での戦いとなると勝手が違うとみえる。
「こっちもまずは様子見かな……撃って!」
 ざくろの方はJ9に持たせた獣機銃。これも回避される。
「さて、油断なくいこうぜ」
 レオーネもやはり獣機銃での射撃。そして、やはり回避される。もちろん距離の問題もあるだろう。だが、それ以上に的が小さいのも要因として考えられるか。
「まとめて焼くよ。味方に当てないようにね」
 先行したイェルバートはそのまま敵集団一つにファイアブレス。爆炎に巻き込まれた敵が、焼かれ灰となり崩れ去る。
 同様の手をとったのはGacrux。ただし、まっすぐ突っ込んでいくわけではなく、集団の側面を取るような動き。
「まずはこれで敵の力を測るとしましょうか」
 側面、最大距離からファイアブレスを使用。まとめて炙っていく。
 一方、ミィリアは接近戦を選んだ。白い体のグリフォンが空を駆ける。羽の先にかすかに桜色が混じるのが特徴だ。
(やっぱり、どーしても安定しないから攻撃当てづらいかな)
 この辺りの思考が射撃戦を敬遠させたのかもしれない。
「……っと、天羽の飛行にケチつけてるんじゃあないからね!」
 少し神経質な性格をしていると言われるグリフォンの天羽。ミィリアのそんな思考を読み取ったのだろうか。下からわずかな違和感を感じ、ミィリアはそう取り繕う。
「それじゃ、気を取り直していっちょやってみますかー、でござる!」
 ミィリアの指示に従い、天羽は手近な敵に接近。味方の火に焼かれないように注意を払いながら、クイックノックで撃破する。
 味方が交戦を開始したその間に、まよいはウィンドガストをイケロスに使用する。黒みがかった翼の周囲を、緑風が包み込むようにふく。
「これで大丈夫。風がイケロスの事を守ってくれるからね」
 さらに、グリムバルドがグリフォンをそばまで近づけ、加護符を使用した。
「ま、こっちもお守り代わりってことで」
「ありがとう、助かるわ」
 尤も、敵集団は先手を打ったハンターたちの攻撃に混乱している様子だ。ここまで攻撃が届くことはないかもしれない。


「もう少し詰めてみるか……月影、頼む」
 先ほどよりも接近させつつ、高度を揃え再度射撃。今度は命中。胴を打ち抜かれた敵が墜落していく。
 ざくろも同じく距離を調整。
「回避運動任せるよ?」
 J9にそう言って、ざくろは狙いを定める。
 ふと、ざくろは思い出す。このグリフォンと出会った時のことを。2年ほど前、レオーネと同じように霧の島でその背に身を預けた時のことを。
「……射程に入った、ロックオン! 喰らえ、デルタレイ3WAYレーザーだ!」
 声を上げ、デルタレイを使用するざくろ。光が敵を貫いていく。
 イェルバートはファイアブレスを撃った直後に移動。そのまま中央を突破して、駆け抜ける。移動力を最大限に活かし後方に回り込むことで、敵を包囲する策だ。他の味方も敵集団を大きく取り囲むように動いている。これが今依頼における大まかな方針だった。
「追ってきた。予定通り……」
 駆け抜けた際、その動きにつられ追ってきた敵に対し、イェルバートは後方を見据えながらデルタレイを打ち込み落としていく。
「好戦的なのは助かった、って感じだよね」
 敵中にあったミィリアは、寄ってきた集団に対し薙ぎ払いを使用。地面の上ならともかく、高低差がある空戦ではそれほど多くはまきこめないが、それでも2体を切り裂く。
「あんまり囲まれてもまずいかな。ちょっと距離をあけよう、でござる」
 そのまま天羽に後退をかけさせる。
「おっと、追わせるわけにはいきませんよ」
 ミィリアを追撃しようとしていた敵を範囲に入れられるように、間合いを調整しながらGacruxが再度ファイアブレス。この一連の動きでかなりの数が減らせている。
「みんなやるねぇ。この調子ならこっちの出番はないんじゃないか?」
 グリムバルドが自身にも加護符を使用しつつ呟く。
「よし、こっちでもカバーするぜ」
 その間に射撃しつつレオーネが後退。まよいの周辺につく。まよいの支援を重視する構えだ。
「空だから完全に包囲ってわけにもいかないけど……まぁ動きとしては上々だな」
 各自の動きをみながら呟くレオーネ。目を落とした先には魔導短伝話が。
(オレが落とされると連結通話が切れちゃうからな)
 そうなると、通信を利用した連携が難しくなるだろう。そういう意味でも、このポジショニングは間違っていないだろう。
「よーし……それじゃイケロス。回避運動は任せるからね?」
 前衛の戦いが激しさを増している時、まよいはエクステンドキャストを使用。まよいはこのエクステンドキャストを限界まで継続使用し、マテリアルを高めるつもりだった。


 エクステンドキャストを継続使用している間、まよいはなにもすることができない。
(限界までマテリアルを練り上げる。この間は無防備だけど、きっと……大丈夫)
 そのまよいを背に乗せたイケロスは、その場にとどまるように静かに羽ばたく。その視線は、戦場へと向けられていた。
「一度離れますか。サイドワインダーを」
 ミィリアの支援を行った結果、敵が寄ってきた。そのうち一体の攻撃を、大きく羽ばたき高度をずらすように躱す。そのまま、Gacruxはワイバーンにサイドワインダーを使用させ、一気に離脱。そのまま集団の外側に出る。
「やはり、個体の戦力自体は大したことはありませんね」
 ここでGacruxはソウルエッジを使用。ワイバーンには距離を維持させつつ、タイミングを計って強力な攻撃を仕掛けるつもりだ。
 入れ替わりでイェルバート。味方を巻き込まないように侵入方向を調整しつつ、サイドワインダーを使用。
「もう一度突っ込む。行けるよね、ピウス」
 その言葉に、ピウスは雄たけびを上げる。穏やか、あるいは優しいという意味の名を持つワイバーン。しかし、戦場にあってはその名とは真逆のような勇猛さをもって突撃。そのままファイアブレスを打ち込む。
 加護符を貼り終わったグリムバルドは自身の乗るグリフォン、アストラへ声をかける。
「さて、今度は飛びやすくなんて言ってられないな……」
 額にある星型の模様が特徴の、新星の名を持つグリフォンは、かつてグリムバルドが訓練に携わったグリフォンでもある。その時は、血気盛んなアストラにグリムバルドも苦労したものだ。
「荒っぽくなるだろうけどよろしく、アストラ」
「出るか?」
「ああ。援護頼めるか?」
「了解だ。ネーベル、位置取り頼む」
 まよいを護衛するように滞空するレオーネからの援護射撃を受けながらグリムバルドも前へ。射程に入るとともにそのままデルタレイを打ち込んでいく。
「頃合いだな。懐に飛び込むぞ!」
 そう叫ぶと、兵庫は敵集団の一つに急接近。その意図を察した月影が翼を広げる。
「力を見せろ、月影!」
 月影が集団に向かい、その翼を力強くはばたかせる。すると、正面に小規模な竜巻が発生する。ツイスターだ。これにより、敵をまとめて始末する。
「取り残された敵がいる。いいね、J9。突撃戦法だ!」
 ざくろはこれらの範囲攻撃により味方から取り残された1体を狙う。グリフォンによるクイックノック。これで確実に仕留める。
 敵の中には、向かってきたざくろを狙ったものもいた。だが、ざくろはしっかりとその動きを確認している。
「超機導パワーオン、はじけ飛べ!」
 攻性防壁により、攻撃してきた敵は態勢を崩しながら弾き飛ばされる。
「天羽、ここはお願い!」
 そのタイミングをミィリアは逃さない。フライングファイトを使用するとともに距離を詰め、クイックノックで仕留めた。


「討ち漏らしを片付けろ」
 ツイスターによる攻撃を逃れた敵を、兵庫は逃さない。月影に指示を出しクイックノックで撃破させる。
 ツイスターでも良かったが、接近戦を行うあるいは突っ込んでくる味方がいたため範囲攻撃を避けた形だ。
「そのまま飛んでJ9……」
 ざくろは攻撃を後すぐに離脱。距離を取る。だが、その速度は先ほどまでと打って変わって緩やかだ。
「今だ! 凍り付け、フリージングレイ!」
 そのまま、ざくろは振り向きざまにフリージングレイを使用。青白く輝く冷凍光線が敵を凍てつかせて、落とす。
「よし、離脱だ……こっちの足が速いお陰かな。全然狙われないな」
 イェルバートは先ほどと同様、一撃離脱気味に距離を取りつつデルタレイ。一連の攻撃中はなかなか狙われない。移動力のたまものか。
「お、向かってきたなー、でござる!」
 自身に近づいてきた敵を発見したミィリアは、天羽に高度を調整してもらいながら薙ぎ払いで迎撃する。
「ありがとう天羽! 頼りにしてるからね!」
「そろそろこちらも行きますか」
 Gacruxは攻めの構えをとりながらチャージングを使用。そのまま、手近な敵に対し移動速度を乗せた一撃を叩き込み、両断する。
 強大な敵であっても、その一撃ならかなりのダメージを与えられただろう。尤も、今回の鳥型歪虚に対してはやや過剰な火力だったように思えるが。
「……ん? まずいぞ、Gacruxさん!」
 ファイアスローワーで敵を薙ぎ払っていたグリムバルドが、この時Gacruxの様子に気づき声を上げた。
「……っ! 飛行態勢が維持できない!?」
 攻撃の直後、Gacruxのワイバーンが態勢を崩した。そして、そのまま墜落し始める。
「寄らせるか!」
 落ちるGacruxを仕留めようと接近する敵をグリムバルドがデルタレイで牽制。
「ちっ、どうする……」
 一連の様子をレオーネも確認していた。まよいの防衛から離れるのは危険ではないかと一瞬迷いを見せたレオーネ。だが、すぐに決断し、一時まよいから離れてGacruxとそれをフォローするグリムバルドを支援するため射撃を行う。
 この時、まよいが付与したウィンドガストは消えかけており、イケロスを守るのはグリムバルドの付与した加護符のみとなっていた。だが、仮にそれらによる防御が無かったとしても、イケロスが慌てることは無かっただろう。
 普段であれば大人しい。しかし戦いとなれば勇敢になる雄グリフォンは、静かにはばたきながら、ただ待っていた。主が力を解き放つその時を。


「……持ち直しましたか」
 ワイバーンはすぐに態勢を立て直した。息を吐くGacrux。同時に、状況を理解した。
 先ほどは、一度の攻撃のためにワイバーンの機動力全てを用いていた。そのため、飛行の維持の方がおろそかになってしまった。だから攻撃後態勢を崩し、墜落状態へと至ったのだ。
「やはり、地上とは勝手が違うということですか」
 呟きながら、Gacruxは戦線へ復帰するためワイバーンを上昇させる。
 一方、先ほどのGacruxと似たような行動を取っているのは兵庫。
「この一振りで殲滅する。月影、支えてくれよ?」
 攻めの構えを取ったあと、ソウルエッジを付与。自身のマテリアルが武器に伝達され、それを大きく強化する。
「俺の槍は、空においてもその冴えを鈍らせないと知れ!」
 そのまま、全力の薙ぎ払いにて敵を両断する。
「そっちに目を向ける前に、ミィリアの相手してってよね!」
 この間、兵庫の後方をカバーするかのようにミィリアが堅守を使用。敵を引き付けることで後方からの襲撃をカバーしていた。
 攻撃を重視した動きをした兵庫、動くことのできない堅守を用いたミィリア。ともにそのままでは墜落の危険があった。だが、二人の駆るグリフォンの飛行に淀みは無い。グリフォンの特徴たるホバリング能力がその安定した近接戦闘を支えていた。
「燃え落ちろ、ヒートレイ!」
 ざくろは追ってきた敵の目の前で宙返りし、その頭上を取って拡散ヒートレイを打ち込んだ。敵の身体が崩れながら墜落していくのを確認したざくろは、そのまま敵集団から大きく距離を取る。この後の攻撃に備えるためだ。
「ピウス、このまま旋回して……もうすぐだと思うからね」
 イェルバートの方も先ほどのように敵中に突進するようなことはせず、旋回しながら様子を見ている。
「行かせるなネーベル! クイックノック!!」
 一時離れたレオーネは急加速しつつ戻ってきて、そのままクイックノックを使用。まよいに接近しようとしていた敵を撃破。
 もう一体、接近していた敵の攻撃は、割って入ったグリムバルドの盾で弾かれる。
「くっ……仕留めてくれ、アストラ!」
 そして、態勢を崩したところでアストラがクイックノックを使用して仕留めた。
「助かったぜグリムバルドさん」
「礼ならアストラに言ってくれ……さて、そろそろかな」
 敵が至近に迫る危機に遭いながらも、ここまでまよいは一切攻撃を行わず待機していた。
「ありがとうイケロス、みんな。でも、もう大丈夫……」
 だが、それもここまでだった。


「よし、一度退くぞ!」
「了解、でござる! 離れるよ天羽!」
 兵庫とミィリアが示し合わせたように急加速。その場を一息に離れる。
「全員、射線開けろ! それに、距離を詰めすぎるなよ、巻き込まれても知らねぇぞ!」
 レオーネはネーベルに位置取りを調整させつつ、短伝話を通じて全体に指示を出した。
「光にも逃れえぬ漆黒の奈落よ、事象の地平の彼方へと我が敵を葬り去らん……」
 効果を最大限に活かすため、イケロスが集団に接近。
 その間に、エクステンドキャストによって練り上げられたマテリアルが、ただでさえ強力なまよいの魔法をさらに高みへと押し上げる。
「全てを無に帰せ、ブラックホールカノン!」
 詠唱とともに、禍々しい紫色の球体が放たれる。それは集団の中心部にて強力な重力波を広い範囲に発生させた。エクステンドキャストは威力だけでなくその範囲も広げており、多数の敵が巻き込まれ、重力のひずみにより破壊されていく。
「……ふぅ。効果は抜群ってね」
 ワイバーンたちのファイアブレス。
 機導師のデルタレイをはじめとした範囲機導術。
 近接戦でも薙ぎ払いをはじめとした範囲攻撃。
 こういった範囲攻撃を中心とした攻撃は、効果的に敵の数を減らしていた。
 さらに、うち漏らしも確実に落としていく念の入用。ここまでの攻撃で、敵の数は目の前にいた数体のみとなっていた。
後は個別に殲滅するのみだ。
「着装マテリアルアーマー! さぁおしまいにしようか!」
 ざくろは防御を固めながらも敵中に突っ込んでいきデルタレイを使用。
 その射線を見ながらグリムバルドは逆方向から逃走を防止するように動く。
「魔法だけでなんとかなりそうだな。確実に仕留めていこう」
 そのまま、デルタレイを打ち込み挟撃するかのように数を減らしていく。
「このまま、初戦を勝利で飾らせてもらうぜ!」
 レオーネはネーベルを前進させながら獣機銃での攻撃。
「形勢は決まったね。このまま押し切るよ、ピウス!」
 攻撃の余波が収まったところでイェルバートがサイドワインダーを使用しつつファイアブレスで焼き払う。
「ソウルトーチを……いや、ここまで減らしたなら逃がしようもありませんかね」
 Gacruxもイェルバートに倣い、サイドワインダーを使用。そのまま距離を詰めて一体をワイバーンに仕留めさせる。
 ミィリアは天羽に追わせ、そのままクイックノックで仕留める。
「これで終わらせるぞ」     
 兵庫は再突入しつつ、月影にクイックノックを使用させて墜とす。もはや範囲攻撃を行う必要もなかった。
「集中し続けるのも疲れるね。でも、これで終わりだから」
 最後の敵はまよいがアイスボルトで打ち抜いた。


「よーし、作戦完了だな。よくやったぜ」
 戦域の下方で待機していたアルトリンゲン兵長がそう言って上がってきた。
「Gacruxはちょっと危なかったな。ま、次からは……」
「ええ。気を付けることにしますよ」
 Gacruxはそう言って肩をすくめた。反省しているのか不明な態度ではあるが……その表情からはどこか、空を飛ぶことのできた満足感のようなものがうかがえた。
 そもそも、一時的な墜落もダメージによるものではない。Gacruxとそのワイバーンはダメージを一切受けなかった。
 全体を見ても、受けたダメージかすり傷程度であり、熟練したハンターたちの腕前が空戦でも発揮されることを証明した形となった。
「ふー……」
 受けた傷を、己治癒を用いて回復するミィリア。
(空戦の勘も大分つかめてきた……かな?)
「そっちはどう? って聞くまでもないか、でござる」
 ミィリアの問いかけに、天羽は一声鳴いた。
 それはまるで「空ならアタシに任せなさいって言ったでしょ?」とでも言っているようだった。
「……強敵と当たる前に、良い経験を積ませて貰った。お前もよくやったぞ、月影」
 グリフォンの背を撫でながら、兵庫は呟いた。だが、今回の敵は所詮雑魚だ。今後出てくるであろう強敵との戦いを思い、兵庫はさらに精進していくことを心に誓った。
「お疲れ様。帰ったら何か好きなものを食べようか?」
 そういってピウスの背を撫でるイェルバート。その表情からはどこか安心したような印象を受ける。
(今回はうまくいった。でも龍騎士みたいに自由自在にワイバーンを乗りこなすのは、まだまだ無理だろうな)
 だが、同時にイェルバートには確信もあった。いずれはそうなれるはずだと。
「ピウスと一緒ならね。目指せ、龍を乗りこなす錬金術師、なんてね」
 冗談めかして言ったイェルバートの言葉に、ピウスはクジラが歌っているかのような伸びやかな声で答えた。
「よーし、よく頑張ったなアストラ! 帰ったら肉でも食べるかー」
 自身にエナジーショットを使い、傷を治療しながらグリムバルドが言った。すると、喜んだのか、アストラが大げさに羽ばたきだした。お陰でグリムバルドは地上に降りるまでその制御に苦労させられる羽目になった。 
「お疲れ様。よくやったぜ、ネーベル」
 レオーネはそう言うと、ポンポンとネーベルの背を労うように叩く。その表情は主の思うままに戦えたことへの満足感のようなものがうかがえた。
(割と手探りの戦闘だったけど、うまくいったと思いたいとこだな)
「それじゃ、もう少し飛べば駐屯所がある。そこで一休みしよう。行くぞ!」
 そう言ってアルトリンゲン兵長が先導していく。
「もうひと踏ん張りね、イケロス! そしたらお昼寝も出来るから」
 まよいの言葉に喜んだのか、イケロスのスピードが少し上がったような気がする。
 こうして、ハンターたちは一路目的地へと飛行を開始した。
「お疲れさま。さすがだねJ9」
 ざくろはそういうと飛行するJ9にその身を預けるようにしがみつく。
「次も、その次も……一緒に頑張ろうね……相棒」
 彼らの勝利を祝すように、竜旗は静かに揺れていた。

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参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ツキカゲ
    月影(ka0010unit005
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ソウカイネップウジェイナイン
    蒼海熱風『J9』(ka1250unit005
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    イケロス
    イケロス(ka1328unit002
    ユニット|幻獣
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ネーベルリッター
    白霧の騎士(ka1441unit003
    ユニット|幻獣
  • →Alchemist
    イェルバート(ka1772
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ピウス
    ピウス(ka1772unit001
    ユニット|幻獣
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アマハ
    天羽(ka2689unit002
    ユニット|幻獣
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka2726unit004
    ユニット|幻獣
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    アストラ
    アストラ(ka4409unit004
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/09/14 00:37:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/10 16:12:43