ゲスト
(ka0000)
狂戦士、死後の凱旋
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/23 09:00
- 完成日
- 2017/09/29 03:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある地下牢
「ええ、確かに俺らは、旦那の馬車を襲いました。ええ、間違いございません。
金目のものがあるに違いあるまいと思って襲ったんです。ですが、期待はずれでした。旦那には失礼ですが、俺らにはあの価値が全くわからなかったのです。
ええ、全くです。
ですが、襲った御者は、あの高名な商人の−−−−つまりあなた様の使いであると言うじゃありませんか。だから、あるいはと思って、積み荷をかっぱらったんですよ。
しかし、その道中です。
例の、沼があるでしょう。
ええ、誰も近づかない不気味な沼です。あれは底なし沼なんでございます。ものを投げ入れたら二度と浮かんでこないのです。水も濁っていて底は全く見えませんから、見つかると面倒なものをあそこに投げ入れて処分していたんです。
その沼を通りかかった時のことです。
例の積荷がかたかた震えだすじゃありませんか。馬車の振動なんかじゃありません。確かに、あれはひとりでに震えていたのでございます。
あれは凝った意匠が施されていますし、もしかしたら逸品なのかもしれません。俺らが着込むには大きすぎますし、昔は高名な偉丈夫が使っていたのでありましょう。ですが、それ以上に、あの傷つき具合も相当なものです。よっぽど大暴れをしない限りあんな傷はそうそうつきません。それに、意匠の溝が黒く汚れて錆びているじゃありませんか。ありゃ、もしかしたら血の跡なんじゃありませんか。返り血をどぶりと浴びたんじゃありませんか。
……ええ。
……はい、なるほど。
……狂戦士の鎧、でございますか。そう言われれば、あの傷のいわれも、あの鎧の不穏な雰囲気も納得がいきます。
旦那、お言葉ですが、そりゃあ趣味がいいとはいえませんぜ。あんな不気味なものを飾るなんざ、俺らには金持ちの考えはとんと理解できません。
はい、確かに沼を通りかかった時、その鎧がかたかた鳴りだしたのでございます。俺らにはあの鎧の価値はわかりませんでした。あれはあまりにも不気味でした。ですから、例の沼に捨ててしまったんです。ええ、兜も籠手も剣も盾も、あったもの全て捨ててしまいました。
ごぼごぼと沈んで行くのをこの目で見ました。まったく、いきた人間が溺れているようで、気味の悪いことといったらありません。
確かにございます。本当でございます。俺らは馬車を襲いました。ですが、そこに積まれていた鎧−−−−旦那の言う狂戦士の鎧は、あの沼に沈めてしまいました。
本当でございます。
ああ、旦那、悪いことをいたしました。ですが、命だけは助けてください。俺ら、山賊なんてケチな真似をしていますが、人の命を取ったことだけはないんでございます。後生ですから、命だけはお助けください」
●ある街道
ある街道を隊商が進んでいく。10台ばかりの群である。その両脇には護衛の傭兵が馬に乗って周囲を警戒しているのだった。
その行く手から、錆びた銀色の、傷だらけで光すら反射しない大柄な鎧が歩いてきたのである。
行進するかのような毅然とした足取りで、右手には棍棒の先に鎖につながれた棘付き鉄球の武器−−−−モーニングスターと、左手には盾を持っている。腰には、何本もの剣が下げられており、これから戦いに赴く出で立ちだった。
護衛たちはその鎧に声をかけた。しかし、鎧は答えない。
鎧はずんずんと隊商に向かって歩いてくる。
たまらず、護衛の一人が鎧の前に進み出て、誰何を繰り返した。
鎧はやっぱり答えない。そして。右腕を高々と掲げてモーニングスターを護衛の男に叩き込んだ。
顔面が陥没した男は、地面に倒れて動かなくなった。
他の護衛たちは武器を手に、騎士を取り囲む。
それを騎士は、モーニングスターの一振りで薙ぎ払ってしまった。
騎士の前に、死体の山が築かれる。護衛たちが動かなく成ったのに満足したのか、騎士は歩を進めた。
が、そのときである。死体の山から、かろうじて生き残ったらしい護衛の少年が勇気を振り絞り、剣を勢い良く鎧の騎士に突き刺した。剣は甲冑の隙間に入り込み、確かに騎士の首を貫いていたのであるが、少年は全く手応えを感じなかった。
鎧は、羽虫を払うように少年を蹴り飛ばした。その衝撃で騎士を貫いていた剣が跳ね上がり、兜が地面に落ちた。いかなる、偉丈夫の顔が現れると思いきや、兜の中身が存在しなかった。騎士には頭がなかったのである。
いや、それだけではない。騎士が屈んで兜を拾う時、少年は見てしまった。あの騎士の鎧の中身は、全く空っぽであることを。
瞠目する少年へ、鎧の騎士は、首筋に刺された剣を投げ飛ばして絶命させた。
さて、こんなことだから、隊商は突然の事態に大わらわである。我先に逃げ出す者、動けない者、ただ悲鳴をあげ続ける者、およそ命の危機を感じなかったものはいないであろう。
しかし、そんな人々には目もくれず、騎士は道を進んでいった。
隊商の品には一切手をつけず。慌てふためく人々を虐殺することもなく。
いつしか、隊商は騎士の背中を見送っていた。
隊商を襲った突然の惨劇は、こうして幕を閉じた。誰も、自分が助かった理由もわからぬまま。
それは、数日後のハンターオフィスにて開陳されることとなる。
●ハンターオフィス
「鎧が雑魔と化し、街道をゆく人間を襲っています。ただし、襲われるのは武装している人間だけのようです」
オフィスの職員が今回の依頼を説明する。
ことの発端は、ある好事家がある街に伝わる狂戦士の鎧を買い上げたとこによる。これの輸送中、不幸にも山賊が積荷を強奪してしまった。しかし、山賊にはこの鎧の価値がわからず、山中の沼に沈めてしまったのだそうだ。
だが、場所が悪かった。
この沼は普段近づくものもなく、負のマテリアルが溜まっていたのだ。そこへかつて大勢を殺した狂戦士の鎧が投げ込まれた。この不運な巡り合わせにより、鎧は雑魔と化して現世に再び稼働するに至ったのだ。
「現在その鎧は故郷の街を目指して進んでいるようです。このままでは、街に到達してしまいます。いくら武装した人間しか襲わないとはいえ、放っておくことはできません。この騎士は恐らくこのルートを通るでしょう。そして、戦場として使えそうな場所がこの3箇所」
職員は地図を示して言う。
1つめは、森。騎士がこの場所にたどり着くのは昼頃であろう。
2つめは、湿地。騎士がこの場所にたどり着くのは夕方であろう。
3つめは、平原。騎士がこの場所にたどり着くのは夜頃であろう。
「どの場所を戦場とするかは皆様におまかせします。なお、この鎧を買い上げた商人からは、自分の趣味のために周囲に迷惑をかけて申し訳なく思っている、とのお言葉をいただいておりますので、遠慮なく戦ってください」
「ええ、確かに俺らは、旦那の馬車を襲いました。ええ、間違いございません。
金目のものがあるに違いあるまいと思って襲ったんです。ですが、期待はずれでした。旦那には失礼ですが、俺らにはあの価値が全くわからなかったのです。
ええ、全くです。
ですが、襲った御者は、あの高名な商人の−−−−つまりあなた様の使いであると言うじゃありませんか。だから、あるいはと思って、積み荷をかっぱらったんですよ。
しかし、その道中です。
例の、沼があるでしょう。
ええ、誰も近づかない不気味な沼です。あれは底なし沼なんでございます。ものを投げ入れたら二度と浮かんでこないのです。水も濁っていて底は全く見えませんから、見つかると面倒なものをあそこに投げ入れて処分していたんです。
その沼を通りかかった時のことです。
例の積荷がかたかた震えだすじゃありませんか。馬車の振動なんかじゃありません。確かに、あれはひとりでに震えていたのでございます。
あれは凝った意匠が施されていますし、もしかしたら逸品なのかもしれません。俺らが着込むには大きすぎますし、昔は高名な偉丈夫が使っていたのでありましょう。ですが、それ以上に、あの傷つき具合も相当なものです。よっぽど大暴れをしない限りあんな傷はそうそうつきません。それに、意匠の溝が黒く汚れて錆びているじゃありませんか。ありゃ、もしかしたら血の跡なんじゃありませんか。返り血をどぶりと浴びたんじゃありませんか。
……ええ。
……はい、なるほど。
……狂戦士の鎧、でございますか。そう言われれば、あの傷のいわれも、あの鎧の不穏な雰囲気も納得がいきます。
旦那、お言葉ですが、そりゃあ趣味がいいとはいえませんぜ。あんな不気味なものを飾るなんざ、俺らには金持ちの考えはとんと理解できません。
はい、確かに沼を通りかかった時、その鎧がかたかた鳴りだしたのでございます。俺らにはあの鎧の価値はわかりませんでした。あれはあまりにも不気味でした。ですから、例の沼に捨ててしまったんです。ええ、兜も籠手も剣も盾も、あったもの全て捨ててしまいました。
ごぼごぼと沈んで行くのをこの目で見ました。まったく、いきた人間が溺れているようで、気味の悪いことといったらありません。
確かにございます。本当でございます。俺らは馬車を襲いました。ですが、そこに積まれていた鎧−−−−旦那の言う狂戦士の鎧は、あの沼に沈めてしまいました。
本当でございます。
ああ、旦那、悪いことをいたしました。ですが、命だけは助けてください。俺ら、山賊なんてケチな真似をしていますが、人の命を取ったことだけはないんでございます。後生ですから、命だけはお助けください」
●ある街道
ある街道を隊商が進んでいく。10台ばかりの群である。その両脇には護衛の傭兵が馬に乗って周囲を警戒しているのだった。
その行く手から、錆びた銀色の、傷だらけで光すら反射しない大柄な鎧が歩いてきたのである。
行進するかのような毅然とした足取りで、右手には棍棒の先に鎖につながれた棘付き鉄球の武器−−−−モーニングスターと、左手には盾を持っている。腰には、何本もの剣が下げられており、これから戦いに赴く出で立ちだった。
護衛たちはその鎧に声をかけた。しかし、鎧は答えない。
鎧はずんずんと隊商に向かって歩いてくる。
たまらず、護衛の一人が鎧の前に進み出て、誰何を繰り返した。
鎧はやっぱり答えない。そして。右腕を高々と掲げてモーニングスターを護衛の男に叩き込んだ。
顔面が陥没した男は、地面に倒れて動かなくなった。
他の護衛たちは武器を手に、騎士を取り囲む。
それを騎士は、モーニングスターの一振りで薙ぎ払ってしまった。
騎士の前に、死体の山が築かれる。護衛たちが動かなく成ったのに満足したのか、騎士は歩を進めた。
が、そのときである。死体の山から、かろうじて生き残ったらしい護衛の少年が勇気を振り絞り、剣を勢い良く鎧の騎士に突き刺した。剣は甲冑の隙間に入り込み、確かに騎士の首を貫いていたのであるが、少年は全く手応えを感じなかった。
鎧は、羽虫を払うように少年を蹴り飛ばした。その衝撃で騎士を貫いていた剣が跳ね上がり、兜が地面に落ちた。いかなる、偉丈夫の顔が現れると思いきや、兜の中身が存在しなかった。騎士には頭がなかったのである。
いや、それだけではない。騎士が屈んで兜を拾う時、少年は見てしまった。あの騎士の鎧の中身は、全く空っぽであることを。
瞠目する少年へ、鎧の騎士は、首筋に刺された剣を投げ飛ばして絶命させた。
さて、こんなことだから、隊商は突然の事態に大わらわである。我先に逃げ出す者、動けない者、ただ悲鳴をあげ続ける者、およそ命の危機を感じなかったものはいないであろう。
しかし、そんな人々には目もくれず、騎士は道を進んでいった。
隊商の品には一切手をつけず。慌てふためく人々を虐殺することもなく。
いつしか、隊商は騎士の背中を見送っていた。
隊商を襲った突然の惨劇は、こうして幕を閉じた。誰も、自分が助かった理由もわからぬまま。
それは、数日後のハンターオフィスにて開陳されることとなる。
●ハンターオフィス
「鎧が雑魔と化し、街道をゆく人間を襲っています。ただし、襲われるのは武装している人間だけのようです」
オフィスの職員が今回の依頼を説明する。
ことの発端は、ある好事家がある街に伝わる狂戦士の鎧を買い上げたとこによる。これの輸送中、不幸にも山賊が積荷を強奪してしまった。しかし、山賊にはこの鎧の価値がわからず、山中の沼に沈めてしまったのだそうだ。
だが、場所が悪かった。
この沼は普段近づくものもなく、負のマテリアルが溜まっていたのだ。そこへかつて大勢を殺した狂戦士の鎧が投げ込まれた。この不運な巡り合わせにより、鎧は雑魔と化して現世に再び稼働するに至ったのだ。
「現在その鎧は故郷の街を目指して進んでいるようです。このままでは、街に到達してしまいます。いくら武装した人間しか襲わないとはいえ、放っておくことはできません。この騎士は恐らくこのルートを通るでしょう。そして、戦場として使えそうな場所がこの3箇所」
職員は地図を示して言う。
1つめは、森。騎士がこの場所にたどり着くのは昼頃であろう。
2つめは、湿地。騎士がこの場所にたどり着くのは夕方であろう。
3つめは、平原。騎士がこの場所にたどり着くのは夜頃であろう。
「どの場所を戦場とするかは皆様におまかせします。なお、この鎧を買い上げた商人からは、自分の趣味のために周囲に迷惑をかけて申し訳なく思っている、とのお言葉をいただいておりますので、遠慮なく戦ってください」
リプレイ本文
●戦場は森
時刻は朝。まだ温まりきらない空気がひんやりと地を這っている。
森を戦場に選択したハンターたちは、その不良な視界を改善しようと、木を切り倒すことにしたのだ。
「射線が通らないのは厄介とはいえ、木を切り倒して無理やり視界を確保するなんざ、結構過激だよな」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)は斧を振るう。幸い、この地の木々はあまり大きくないので、敵が来るまでには整地できそうだ。
「自分で引き受けておいて言うのもどうかと思うけれど、か弱い淑女がする作業じゃあないよなぁ」
と、南條 真水(ka2377)もつぶやきつつ、アイルクロノ−−−−女王の剪定鋏の炎で残った切り株や、伐採された木を破壊し、土地を均していく。
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)はさらに細木や下生えを払い足元の障害を取り除いた。
しばらくして、森の中に人工的な、直径約10メートルの空き地ができたのだった。
ステラは、発煙手榴弾を使って狂戦士の鎧の来襲を見張る龍崎・カズマ(ka0178)に合図を出した。
鎧が森へ到着するのは昼頃だ。太陽は程なく中天に差し掛かる。
●森の中の偵察
「鎧の化け物たぁねえ、奴さんどんだけ現世に執着してやがる」
カズマは考えていた。もし、鎧に意思、生前の惰性とはいえそういったものがあるのなら、かの鎧は再び敵を求めるのではないか。
今、カズマは敵と同じように鎧を着て、狂戦士の移動予測ルートを探索していた。
すると、北東の方角から煙がのぼった。ステラのあげた発煙手榴弾の合図だ。交戦予定地の整備ができたか、あるいはできなかったか、どちらかの判断がついたのだろう。
カズマはトランシーバーでステラたちに連絡を取った。
「こちらカズマ。とくに異常はない。いま、発煙を北東の方角に確認した。そちらは……」
『滅べばいいのに……』
トランシーバーから、地獄の底から響くような真水の声がした。
「……何があった」
カズマは問いかける。
『ああ、ちょっと一休みしてたんだが、真水の腰掛けていた切り株から虫が這い出てきたんだよ』
と、ステラが説明した。
『どうやら、真水は虫が嫌いのようだな?』
ユルゲンスの声もする。それを聞いた真水が反論した。
『なにを言っているんだい。ボクはね、虫が−−−−昆虫が苦手なわけじゃないんだ。滅ばないかな、滅べばいいのにな、速やかに滅んでほしいと思っているだけだよ?』
『……それを嫌いというのではないか?』
ユルゲンスはちょっと当惑してこたえるのだった。
『よし、話を戻すぜ』ステラが仕切り直す。『こっちは無事戦場を更地に出来たところだ。ほかは特に変わりはないぜ。そっちもまだ異常なしで大変結構だ』
「時間的にはそろそろ敵が到着するころだ。お互い気を引き締めていこうぜ」
『おう。また何かあったら連絡する−−−−』
「−−−−いや、その必要はなさそうだ」
カズマの前方から、音が聞こえた。
草や小枝を踏む金属音。なにより、規則的な足音。一人っきりの行軍の音。
「どうやら、奴さんのお出ましらしい」
『わかった。誘導、任せるぜ』と、ステラ。
『ついに戦いか。血が逸るな』ユルゲンスは闘争を待ち望む声色だ。
『全く、鎧くんってば重役出勤だね。朝から出張ってた南條さんは待ちくたびれちゃったよ』真水は正体を掴ませない調子で言った。
「そんじゃ、後で会おうぜ」
そうしてカズマがトランシーバーを切ったのと、木々の向こうに狂騎士の姿が見えたのは同時だった。
●会敵
狂戦士の鎧もカズマを発見したらしい。規則正しい歩みを止めて、鎧に剣を携えたカズマを見て、交戦態勢に入る。鎧の騎士は周囲を確認し、モーニングスターは木々の乱立する森では不利と断じたのであろう。それを捨て、腰に差していた剣と短剣を抜きはなった。
「全く……死者は素直に寝るもんだぜ」
狂戦士はカズマへと走り出した。空っぽの鎧とはいえ、常人には追いつけない速度だ−−−−もしかしたら、生前のこの鎧の持ち主もこのような俊敏な動きで敵を殺戮したのかもしれない。
鎧の突進からの斬撃をカズマは躱した。騎士の剣を受けた木から木片がぱらぱら落ちる。
カズマは時折牽制の刃を放ちながら、仲間たちの元へ向かった。
●空き地にて
金属音が時折響いていた。敵が近づいている。
それはやがて物々しい足音になり、カズマが姿をあらわした。
空き地の中央に真水が陣取っていた。真水はカズマに素早くジェスチャーをして、お互いの射線を塞がない位置を指示する。
カズマはその方へ飛び込んで、真水の射線を確保する。同時に、真水の前面に数多の魔法陣が展開し始める。そして、その先には−−−−
「ようこそ、鎧くん! ここはね、君を迎えるために朝から南條さんたちが整えたお茶会の会場なんだ。さあ、駆けつけ一杯、受け取ってくれ給え!」
真水はついに登場した空の鎧の狂戦士に向かって、一条の光となった魔法をぶつけた。それは鎧の胴に命中したが、魔法の中に凝縮した冷気を爆発させるには至らなかった。
騎士は真水に突進し、剣は急所を貫かんとする。しかし、それはまたも真水が展開した魔法の茨により、すんでのところで急所を逸れた。
騎士がなおも刃を押し込もうとするが、魔法の茨は急に力の向きを変えて、騎士を後方へと吹き飛ばす。真水はその隙に騎士の殺傷圏から逃れるよう、バックステップする。
「南條さんってば、いい仕事したんじゃないかな? あとの前衛は任せたよ」
騎士の体には、なおも魔法の荊が巻きついて彼の動きを阻害していた。
「承った。我が戦槌を以って相手をしよう」
ユルゲンスが進み出た。無骨な使い込まれたプレートアーマーを全身にまとったユルゲンスと、狂戦士の鎧が対峙する姿は、一幅の戦争絵画のような風格があった。
「狂戦士か。だが歪虚と化してはその武勇も誇れまい」
ユルゲンスが戦槌−−−−より効果的に防具を突破するために作られた武器を構える。
狂戦士も剣と短剣を構える。その姿は一流の武人のそれだった。
「……纏う闘気は古兵のそれか。ゆくぞ」
槌と剣が甲高い音を立てて交錯した。
カズマは再び鎧の注意を引くように躍り出て、するりとその背後へと回り込んだ。鎧が頭を回らす隙に、真水の機導砲とステラの散弾がその胴体へ命中する。
「その鎧、たくさんの血を浴びたんだってな。だったらオレが例の沼に入ったら、服が勝手に動いたりするかもな?」
ステラは、可憐に赤いドレスを翻して言った。
騎士の剣が、そのドレスを切り裂くように迫るが、足元に威嚇射撃を浴びせられ、たたらを踏んだ。
そこへ、裂帛の気合いとともにユルゲンスの戦槌が騎士の兜に叩き込まれた。その衝撃で、兜が陥没する。中に人が入っていたら致命傷であるが、しかし敵は空っぽの鎧だ。その程度では怯まない。
騎士もまた、そのままユルゲンスへと肉薄し、武器を振り抜いたためにがら空きの脇へ剣の刃を押し込んだ。
ユルゲンスはかろうじて体をひねり、急所への刃の侵入を防ぎ、騎士に蹴りを入れて、無理やり相手を引き剥がす。ユルゲンスの脇からは赤い血が滔滔と流れていた。しかし、ユルゲンスはそんなことに気にもとめず言ってのける。
「貴公、正に死闘よな」
顔を覆う兜の向こうの表情は見えないが、声は闘争による高揚がにじみ出ていた。
すかさず、カズマがフォローに入り、騎士へ練気からの鎧通しを打ち込んだ。騎士は避けようとしたが、ステラの射撃に気を取られ、回避し損ねる。空の鎧の内部で打撃音が反響した。
「元々実体がないなら、こういった攻撃の方が有効じゃねえかと思ってな?」
カズマは、刃を投擲し、的確に騎士の死角に入り込む。騎士はそれにつられて、刃を振るうが、カズマはそれをいなしながら反撃を放つのだった。
続いて魔腕により放たれる防御を無視する打撃は、確実に騎士へダメージを加えていく。
ついに騎士は、態勢を立て直すためか、この空き地の外に出ようと大きく後ろに跳躍した。
ステラが威嚇射撃で移動を阻もうとするも、騎士は無理やり移動しきる。
硝煙の匂いが立ち込める中、カズマが騎士へ駆けた。
走りこむカズマへ騎士の短剣がひらめく。顎を狙う短剣の刺突をカズマはサイドステップで避けるも、続いて飛来した本命の剣による一閃は避けきれず、脇腹に傷を受け赤い血を滲ませる。それでもカズマは、走るのをやめない。カズマは刃の投擲を利用した移動で、騎士の退路を塞いだ。
ステラが、木々を利用した跳弾を騎士へ放つ。
「ええい、ちょこまかと動きやがって……!」
弾丸と鎧、金属同士がこすれるすんだ音が森に響いた。
「おっと、これは視界良好、巻き込みの恐れなし。それじゃあ、もうひとつ、魔弾をお見舞いするとしよう」
再び真水の前面に魔法陣が展開し、会敵直後に放った冷気を纏う一条の光が飛び出した。
それは騎士の腕に命中し、その表面には霜が降り始める。
「ところで、金属にも凍傷ってあるのかな、と思う南條さんなのであった」
「退くなど許されぬ。彼岸の武人よ、最期にこなたにて死合おうぞ!」
ユルゲンスがマントをはためかせ、戦槌を降りかざし騎士へ向かって突進する。
振り下ろされた戦槌は騎士の短剣と剣によって体の外側へいなされた。それでも勢いのまま戦槌は振り抜かれ、側にあった木の幹を半月状に抉り取った。
続いて騎士の攻撃だ。騎士はユルゲンスの武器をいなした体勢から、逆袈裟に斬りかかる。
ユルゲンスは振り抜いた戦槌の勢いもそのままにその場でくるりと回転して、
「如何な強者といえど信念なき虚ろとなってはその剣も届かぬ−−−−!」
振り下ろされた戦槌が、騎士の剣を砕いたのだった。
「死者が−−−−過去が、いつまでもしがみついていいものじゃないんだよ。現世はいつだって、生者のものなんだからよ」
カズマはここぞとばかりに気を練り上げた拳撃を騎士へ打ち込み、さらに体勢を突き崩す。
しかし、狂戦士はなおも折れた剣と短剣で立ち向かおうとする。まだまだ自分は戦えるのだと言うように。
騎士の振り上げられる腕に、ステラの弾丸が命中した。
「まだまだ、足りねえようだな。鎧だろうが、蜂の巣にしてやるぜ」
ステラの銃から繰り出される散弾や跳弾は、確実に騎士の体に当たっていく。
そこへ真水の機導砲も殺到し、騎士の短剣を持った腕に亀裂が入った。
「そこ、もらってくぜ」
その宣告とともに、ステラはオートマチックを狙い澄ます。
銃声とともに放たれた弾丸は、確かに騎士の亀裂の入った腕に命中し、その腕は砕け散り、持っていた短剣が地に落ちる。
「では幕引きだ、虚ろなる狂戦士よ!」
ユルゲンスが戦槌を捨て、両手剣へ武器を切り替える。
「いざさらば! 貴公の死後の勇猛、我が血潮の滾りを以って記憶しよう!」
防御を捨てた決死の一撃。大上段に掲げられた剣がいま、振り下ろされる。
弾丸や打撃に剣撃と拳撃、さらには魔法にさらされた鎧は最後、飴細工のように真っ二つにたち割られた。
その空っぽの中身を晒しながら、鎧は兜、胸当、手甲、草摺、脛当、鉄靴と、いままで動いていたのが嘘のようにばらばらに外れて地面に落ちて、塵になって消えていったのだった。
●死闘の後に
こうして、鎧の騎士は無事に退治された。犠牲者を出しはしたが、それはこの鎧を買い上げた商人が責任をもって対処するらしい。
戦場となった空き地は、いまやすっかり静かになった。
「あの鎧、案外故郷に戻りたかっただけなのかもしれないな」
とステラは、鎧の騎士が目指していた方角をやるせない表情で眺めて、呟いた。
「−−−−あんたの守った故郷は無事だよ。だから、もう安心していいんだぜ」
ステラは、もうどこにもいない鎧へ、かつて武勲を誇ったであろう狂戦士へ言葉を送った。もし言葉が通じなくても、それでも、伝えないわけにはいかない言葉だった。
「生き残った人々がなんとかする、それが現世の営みだろうよ」
カズマも、鎧と、この一件の犠牲者を弔っていた。
「では、生き残った我らも、オフィスへ報告にいき、任務を完了させるとしよう」
と、ユルゲンス。
太陽は西に傾き出していた。東の空は赤く染まり始めている。
さて、戦場を立ち去る際、真水は、改めて、自分たちが切り開いた空き地を見た。戦闘の消し切れない痕跡が、そこかしこに残っている。死者は再び沈黙し、戦場はただの森の一部となり、沈黙と時間だけがこの傷跡を癒すのであろう。真水は、戦闘の際に少しずれたぐるぐる眼鏡を直して言う。
「それはそうと、明日の筋肉痛とかが怖い南條真水であった」
かくして、一件落着である。
時刻は朝。まだ温まりきらない空気がひんやりと地を這っている。
森を戦場に選択したハンターたちは、その不良な視界を改善しようと、木を切り倒すことにしたのだ。
「射線が通らないのは厄介とはいえ、木を切り倒して無理やり視界を確保するなんざ、結構過激だよな」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)は斧を振るう。幸い、この地の木々はあまり大きくないので、敵が来るまでには整地できそうだ。
「自分で引き受けておいて言うのもどうかと思うけれど、か弱い淑女がする作業じゃあないよなぁ」
と、南條 真水(ka2377)もつぶやきつつ、アイルクロノ−−−−女王の剪定鋏の炎で残った切り株や、伐採された木を破壊し、土地を均していく。
ユルゲンス・クリューガー(ka2335)はさらに細木や下生えを払い足元の障害を取り除いた。
しばらくして、森の中に人工的な、直径約10メートルの空き地ができたのだった。
ステラは、発煙手榴弾を使って狂戦士の鎧の来襲を見張る龍崎・カズマ(ka0178)に合図を出した。
鎧が森へ到着するのは昼頃だ。太陽は程なく中天に差し掛かる。
●森の中の偵察
「鎧の化け物たぁねえ、奴さんどんだけ現世に執着してやがる」
カズマは考えていた。もし、鎧に意思、生前の惰性とはいえそういったものがあるのなら、かの鎧は再び敵を求めるのではないか。
今、カズマは敵と同じように鎧を着て、狂戦士の移動予測ルートを探索していた。
すると、北東の方角から煙がのぼった。ステラのあげた発煙手榴弾の合図だ。交戦予定地の整備ができたか、あるいはできなかったか、どちらかの判断がついたのだろう。
カズマはトランシーバーでステラたちに連絡を取った。
「こちらカズマ。とくに異常はない。いま、発煙を北東の方角に確認した。そちらは……」
『滅べばいいのに……』
トランシーバーから、地獄の底から響くような真水の声がした。
「……何があった」
カズマは問いかける。
『ああ、ちょっと一休みしてたんだが、真水の腰掛けていた切り株から虫が這い出てきたんだよ』
と、ステラが説明した。
『どうやら、真水は虫が嫌いのようだな?』
ユルゲンスの声もする。それを聞いた真水が反論した。
『なにを言っているんだい。ボクはね、虫が−−−−昆虫が苦手なわけじゃないんだ。滅ばないかな、滅べばいいのにな、速やかに滅んでほしいと思っているだけだよ?』
『……それを嫌いというのではないか?』
ユルゲンスはちょっと当惑してこたえるのだった。
『よし、話を戻すぜ』ステラが仕切り直す。『こっちは無事戦場を更地に出来たところだ。ほかは特に変わりはないぜ。そっちもまだ異常なしで大変結構だ』
「時間的にはそろそろ敵が到着するころだ。お互い気を引き締めていこうぜ」
『おう。また何かあったら連絡する−−−−』
「−−−−いや、その必要はなさそうだ」
カズマの前方から、音が聞こえた。
草や小枝を踏む金属音。なにより、規則的な足音。一人っきりの行軍の音。
「どうやら、奴さんのお出ましらしい」
『わかった。誘導、任せるぜ』と、ステラ。
『ついに戦いか。血が逸るな』ユルゲンスは闘争を待ち望む声色だ。
『全く、鎧くんってば重役出勤だね。朝から出張ってた南條さんは待ちくたびれちゃったよ』真水は正体を掴ませない調子で言った。
「そんじゃ、後で会おうぜ」
そうしてカズマがトランシーバーを切ったのと、木々の向こうに狂騎士の姿が見えたのは同時だった。
●会敵
狂戦士の鎧もカズマを発見したらしい。規則正しい歩みを止めて、鎧に剣を携えたカズマを見て、交戦態勢に入る。鎧の騎士は周囲を確認し、モーニングスターは木々の乱立する森では不利と断じたのであろう。それを捨て、腰に差していた剣と短剣を抜きはなった。
「全く……死者は素直に寝るもんだぜ」
狂戦士はカズマへと走り出した。空っぽの鎧とはいえ、常人には追いつけない速度だ−−−−もしかしたら、生前のこの鎧の持ち主もこのような俊敏な動きで敵を殺戮したのかもしれない。
鎧の突進からの斬撃をカズマは躱した。騎士の剣を受けた木から木片がぱらぱら落ちる。
カズマは時折牽制の刃を放ちながら、仲間たちの元へ向かった。
●空き地にて
金属音が時折響いていた。敵が近づいている。
それはやがて物々しい足音になり、カズマが姿をあらわした。
空き地の中央に真水が陣取っていた。真水はカズマに素早くジェスチャーをして、お互いの射線を塞がない位置を指示する。
カズマはその方へ飛び込んで、真水の射線を確保する。同時に、真水の前面に数多の魔法陣が展開し始める。そして、その先には−−−−
「ようこそ、鎧くん! ここはね、君を迎えるために朝から南條さんたちが整えたお茶会の会場なんだ。さあ、駆けつけ一杯、受け取ってくれ給え!」
真水はついに登場した空の鎧の狂戦士に向かって、一条の光となった魔法をぶつけた。それは鎧の胴に命中したが、魔法の中に凝縮した冷気を爆発させるには至らなかった。
騎士は真水に突進し、剣は急所を貫かんとする。しかし、それはまたも真水が展開した魔法の茨により、すんでのところで急所を逸れた。
騎士がなおも刃を押し込もうとするが、魔法の茨は急に力の向きを変えて、騎士を後方へと吹き飛ばす。真水はその隙に騎士の殺傷圏から逃れるよう、バックステップする。
「南條さんってば、いい仕事したんじゃないかな? あとの前衛は任せたよ」
騎士の体には、なおも魔法の荊が巻きついて彼の動きを阻害していた。
「承った。我が戦槌を以って相手をしよう」
ユルゲンスが進み出た。無骨な使い込まれたプレートアーマーを全身にまとったユルゲンスと、狂戦士の鎧が対峙する姿は、一幅の戦争絵画のような風格があった。
「狂戦士か。だが歪虚と化してはその武勇も誇れまい」
ユルゲンスが戦槌−−−−より効果的に防具を突破するために作られた武器を構える。
狂戦士も剣と短剣を構える。その姿は一流の武人のそれだった。
「……纏う闘気は古兵のそれか。ゆくぞ」
槌と剣が甲高い音を立てて交錯した。
カズマは再び鎧の注意を引くように躍り出て、するりとその背後へと回り込んだ。鎧が頭を回らす隙に、真水の機導砲とステラの散弾がその胴体へ命中する。
「その鎧、たくさんの血を浴びたんだってな。だったらオレが例の沼に入ったら、服が勝手に動いたりするかもな?」
ステラは、可憐に赤いドレスを翻して言った。
騎士の剣が、そのドレスを切り裂くように迫るが、足元に威嚇射撃を浴びせられ、たたらを踏んだ。
そこへ、裂帛の気合いとともにユルゲンスの戦槌が騎士の兜に叩き込まれた。その衝撃で、兜が陥没する。中に人が入っていたら致命傷であるが、しかし敵は空っぽの鎧だ。その程度では怯まない。
騎士もまた、そのままユルゲンスへと肉薄し、武器を振り抜いたためにがら空きの脇へ剣の刃を押し込んだ。
ユルゲンスはかろうじて体をひねり、急所への刃の侵入を防ぎ、騎士に蹴りを入れて、無理やり相手を引き剥がす。ユルゲンスの脇からは赤い血が滔滔と流れていた。しかし、ユルゲンスはそんなことに気にもとめず言ってのける。
「貴公、正に死闘よな」
顔を覆う兜の向こうの表情は見えないが、声は闘争による高揚がにじみ出ていた。
すかさず、カズマがフォローに入り、騎士へ練気からの鎧通しを打ち込んだ。騎士は避けようとしたが、ステラの射撃に気を取られ、回避し損ねる。空の鎧の内部で打撃音が反響した。
「元々実体がないなら、こういった攻撃の方が有効じゃねえかと思ってな?」
カズマは、刃を投擲し、的確に騎士の死角に入り込む。騎士はそれにつられて、刃を振るうが、カズマはそれをいなしながら反撃を放つのだった。
続いて魔腕により放たれる防御を無視する打撃は、確実に騎士へダメージを加えていく。
ついに騎士は、態勢を立て直すためか、この空き地の外に出ようと大きく後ろに跳躍した。
ステラが威嚇射撃で移動を阻もうとするも、騎士は無理やり移動しきる。
硝煙の匂いが立ち込める中、カズマが騎士へ駆けた。
走りこむカズマへ騎士の短剣がひらめく。顎を狙う短剣の刺突をカズマはサイドステップで避けるも、続いて飛来した本命の剣による一閃は避けきれず、脇腹に傷を受け赤い血を滲ませる。それでもカズマは、走るのをやめない。カズマは刃の投擲を利用した移動で、騎士の退路を塞いだ。
ステラが、木々を利用した跳弾を騎士へ放つ。
「ええい、ちょこまかと動きやがって……!」
弾丸と鎧、金属同士がこすれるすんだ音が森に響いた。
「おっと、これは視界良好、巻き込みの恐れなし。それじゃあ、もうひとつ、魔弾をお見舞いするとしよう」
再び真水の前面に魔法陣が展開し、会敵直後に放った冷気を纏う一条の光が飛び出した。
それは騎士の腕に命中し、その表面には霜が降り始める。
「ところで、金属にも凍傷ってあるのかな、と思う南條さんなのであった」
「退くなど許されぬ。彼岸の武人よ、最期にこなたにて死合おうぞ!」
ユルゲンスがマントをはためかせ、戦槌を降りかざし騎士へ向かって突進する。
振り下ろされた戦槌は騎士の短剣と剣によって体の外側へいなされた。それでも勢いのまま戦槌は振り抜かれ、側にあった木の幹を半月状に抉り取った。
続いて騎士の攻撃だ。騎士はユルゲンスの武器をいなした体勢から、逆袈裟に斬りかかる。
ユルゲンスは振り抜いた戦槌の勢いもそのままにその場でくるりと回転して、
「如何な強者といえど信念なき虚ろとなってはその剣も届かぬ−−−−!」
振り下ろされた戦槌が、騎士の剣を砕いたのだった。
「死者が−−−−過去が、いつまでもしがみついていいものじゃないんだよ。現世はいつだって、生者のものなんだからよ」
カズマはここぞとばかりに気を練り上げた拳撃を騎士へ打ち込み、さらに体勢を突き崩す。
しかし、狂戦士はなおも折れた剣と短剣で立ち向かおうとする。まだまだ自分は戦えるのだと言うように。
騎士の振り上げられる腕に、ステラの弾丸が命中した。
「まだまだ、足りねえようだな。鎧だろうが、蜂の巣にしてやるぜ」
ステラの銃から繰り出される散弾や跳弾は、確実に騎士の体に当たっていく。
そこへ真水の機導砲も殺到し、騎士の短剣を持った腕に亀裂が入った。
「そこ、もらってくぜ」
その宣告とともに、ステラはオートマチックを狙い澄ます。
銃声とともに放たれた弾丸は、確かに騎士の亀裂の入った腕に命中し、その腕は砕け散り、持っていた短剣が地に落ちる。
「では幕引きだ、虚ろなる狂戦士よ!」
ユルゲンスが戦槌を捨て、両手剣へ武器を切り替える。
「いざさらば! 貴公の死後の勇猛、我が血潮の滾りを以って記憶しよう!」
防御を捨てた決死の一撃。大上段に掲げられた剣がいま、振り下ろされる。
弾丸や打撃に剣撃と拳撃、さらには魔法にさらされた鎧は最後、飴細工のように真っ二つにたち割られた。
その空っぽの中身を晒しながら、鎧は兜、胸当、手甲、草摺、脛当、鉄靴と、いままで動いていたのが嘘のようにばらばらに外れて地面に落ちて、塵になって消えていったのだった。
●死闘の後に
こうして、鎧の騎士は無事に退治された。犠牲者を出しはしたが、それはこの鎧を買い上げた商人が責任をもって対処するらしい。
戦場となった空き地は、いまやすっかり静かになった。
「あの鎧、案外故郷に戻りたかっただけなのかもしれないな」
とステラは、鎧の騎士が目指していた方角をやるせない表情で眺めて、呟いた。
「−−−−あんたの守った故郷は無事だよ。だから、もう安心していいんだぜ」
ステラは、もうどこにもいない鎧へ、かつて武勲を誇ったであろう狂戦士へ言葉を送った。もし言葉が通じなくても、それでも、伝えないわけにはいかない言葉だった。
「生き残った人々がなんとかする、それが現世の営みだろうよ」
カズマも、鎧と、この一件の犠牲者を弔っていた。
「では、生き残った我らも、オフィスへ報告にいき、任務を完了させるとしよう」
と、ユルゲンス。
太陽は西に傾き出していた。東の空は赤く染まり始めている。
さて、戦場を立ち去る際、真水は、改めて、自分たちが切り開いた空き地を見た。戦闘の消し切れない痕跡が、そこかしこに残っている。死者は再び沈黙し、戦場はただの森の一部となり、沈黙と時間だけがこの傷跡を癒すのであろう。真水は、戦闘の際に少しずれたぐるぐる眼鏡を直して言う。
「それはそうと、明日の筋肉痛とかが怖い南條真水であった」
かくして、一件落着である。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
作戦相談卓 ユルゲンス・クリューガー(ka2335) 人間(クリムゾンウェスト)|40才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/09/23 06:04:15 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/18 10:37:47 |