ゲスト
(ka0000)
溟海、千里の果て
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/16 19:00
- 完成日
- 2014/11/22 19:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
あの海の向こうに何があるんだろう。
いつか一緒に海の果てを見に行こう。
――それが、あの人の口癖だった。
※※※
「私を、一緒に連れて行ってもらえませんか?」
依頼を受けたハンターに話しかけたのは、まだ20代前半の女性だった。
「……その雑魔があなた達に殺される所、この目に焼き付けておきたいのです」
虚ろな瞳、けれどどこかゾッとするような意思の強さを持っていた。
「私の恋人は、依頼に出している雑魔に殺されました」
「……足手まといにしかならない事、無茶なお願いをしているのは承知の上です、けど……」
女性は強く手を握りしめながら、ハンター達をしっかりと見据える。
「あの人を殺した雑魔、それが死ぬ所を見なければ、私はこれから先を進めません」
「……あの人は、海が好きでした、死ぬのなら海で死にたい、そんな冗談を言うくらい……」
ハンターが資料に目を落とすと、被害者は荷運び中に海岸沿いで雑魔と遭遇して殺されたとある。
「あの人の形見を、あの人が最も好きだった海に流したい……」
「だから、どうか私を一緒に連れて行ってください……!」
涙を零しながら、頭を下げる女性にハンター達は互いに顔を見合わせたのだった。
リプレイ本文
●雑魔退治に向かう者達
「亡くなられた恋人の形見を海に流す、ですか……それだと彼女の手元には思い出しか残りませんけど……いいのでしょうかねぇ……」
フィーネル・アナステシス(ka0009)は虚ろな瞳の女性を、ちらり、と見ながら小さな声で呟く。
思い出も形見だけど、形ある物を残さずにいいのか、と彼女は考えているようだ。
(彼女の気持ち、すごく分かります……)
ティーナ・ウェンライト(ka0165)は悲しげな瞳を女性に向ける。ティーナも夫と子供を戦いで亡くした過去があり、女性の事はどうしても他人事と思えなかった。
(昔の自分を見ているようでつらいけど……どうにか立ち直ってもらいたいです、私達がその手助けを出来れば良いのですが……)
「危険を承知で同行したいと言ってるんですよね?」
静架(ka0387)が女性に言葉を投げかけると、彼女は弱々しく頷いた。
「分かりました。共に行く事で気が晴れるというならば……止めはしません、ただ……明日からは前を見て笑って下さいね」
静架の言葉に、女性は答えなかった。
恐らく、現地に行った時、自分がどんな感情を持つか分からないからだろう。
「ついてきてえってんなら止めはしねえけど……雑魔の断末魔なんて危険なだけで見て気持ちいいもんじゃねえと思うぜ?」
ルリ・エンフィールド(ka1680)は苦笑しながら女性に言葉を投げかける。ぶっきらぼうな言葉だけど、ルリなりに女性を心配しての言葉なのだろう。
「……分かっています、けれど私はどうしてもついて行きたいのです」
女性は強い意志を秘めた瞳を見せながら、ルリに言葉を返す。
彼女の表情はどこか危なっかしくて、ハンター達も妙な不安を感じていた。
「皆様が賛成の意を示している中で申し訳ございませんが、黒田は反対です」
女性と同じような雰囲気を持つ少女、黒田 ユニ(ka2677)がハンター達に話しかける。
「ギルドを通しての依頼でない限り、戦場へ一般の方を連れて行く事は出来ません。こちらはプロのハンターです、お遊びではないのですから諦めてください」
黒田の言葉に、その場の空気がピシッと凍りついた。
「……ですが、偶然迷い込んだ民間人が、偶然戦闘に巻き込まれたら、不測の事態として全力で守らなければならないでしょうがね。偶然とはいえ、面倒な事です」
無表情で呟いた黒田の言葉は『ついてきてもいい』と言っているようにしか見えない。形式的に一度断った、という事にしておきたかったのだろう。
「……ありがとうございます」
女性が黒田に言葉を投げかけると「何の事か分かりませんね」と、ぷいっと視線を逸らした。
(本来は普通の雑魔退治なんだろうけど、おっさんとしては彼女の事が気がかりなんだよねぇ)
壬生 義明(ka3397)はちらりと女性を見ながら心の中で呟く。
形見を流したい、という女性の気持ちは分かるけど、それだけだろうか、と妙な不安が募る。
(おっさんの考え過ぎならいいんだけどねぇ……)
「一緒に来たい理由は分かりましたが、雑魔に近づかない事、自分を大切にする事、最低この2つは約束して頂きます、幸いにも沢山の仲間がいますし、問題はないと思いますが」
ミオレスカ(ka3496)が女性に言葉を投げかける。
「分かりました、皆さんのご迷惑にならないよう気をつけますので……よろしく、お願いします」
ミオレスカの言葉を聞いて、女性は深く頭を下げながら挨拶をした――……。
●彼が愛した海で
「……あれ、ですかね」
フィーネルは海岸沿いでうろつく雑魔を険しい表情で見つめながら、小さく呟く。
「恋人を引き裂いた元凶には、相応の罰を与えないといけませんねぇ」
静かに告げられた言葉だったけど、その言葉の中に怒りが混じっているのはすぐに分かる。
「見晴らしの良い場所ですから、捜索には困りませんが……どうやって行きますか?」
「ここはおっさんが行こうかね」
ティーナの呟きに、壬生が軽く手を挙げながら言葉を返した。
「おっさんが前に出て囮になるよ、仲間と離れすぎない程度に出るから、おっさんがやばくなった時は『ヒール』を使ってくれると嬉しいな」
「分かりました……どうか、お気をつけて」
ティーナが壬生に言葉を返し、それを合図にしたかのように他のハンター達も動き始めた。
「さぁ、私の炎で消し炭となりなさい」
フィーネルは『ファイアアロー』を繰り出しながら呟く。
「……元が何なのか分からない所が不気味ですね」
静架は『魔導拳銃 エア・スティーラー』と『リボルバー ヴァールハイト』を構え、雑魔に射撃攻撃を行いながら呟く。
原型を留めていないせいか、静架は雑魔の動きに警戒を強めている。
「もう少し下がってください、遠距離攻撃がないとも限りませんし」
静架は女性にもう少し下がるように伝え、再び援護射撃を行う。
「見てな、雑魔と戦うっつーのは命がけだってことが嫌でも分かるぜ」
ルリは『オートマチックST43』で射撃を行いながら、雑魔との距離を詰めていく。
そして雑魔との距離が近くなると『ツヴァイハンダー』に持ち替え、接近攻撃を行っていく。
「……この矢は、黒田と貴女の矢です。憎き仇へ然るべき報いを」
黒田はロングボウを構えながら、女性に言葉を投げかける。
ハンターと雑魔の戦いが始まってから、女性は雑魔から視線を外す事がなかった。
まるで、自分の仇を心に刻み込むように、目を逸らしたくなるような気持ち悪さがあっても、女性はすべてを見守るかのように、しっかりと見つめている。
(どうやら、後追いとかそういうのはなさそうだねぇ)
雑魔の攻撃を受けながら、ちらり、と壬生は女性に視線を向け、心の中で呟く。
「おっと、よそ見なんかしてる余裕あるのかい? できればこっちだけに目を向けてくれると嬉しいね……なんて、本当は原型分からない雑魔なんかより、可愛い女の子に言いたいねぇ」
壬生は苦笑しながら『ナックル ヴァリアブル・デバイド』で攻撃を仕掛ける。
「大丈夫ですか? もし耐えかねる場合は、もう少し下がってもらっても構いませんよ」
ミオレスカが女性に言葉を投げかけると、女性はゆっくりと首を振った。
「アレが、彼の命を奪ったのですよね。彼の命を奪ったモノ……その最後を私はしっかり見届けたいのです、彼の仇は討ってもらいました、と墓前で報告をするために」
女性は恐怖から身体を震わせながら答えている。
(無理もないですよね、雑魔と渡り合う経験が少ない私でさえ緊張するんです……一般人となれば、私の緊張や恐怖の何倍も感じているはずですから)
それでも泣き言1つ言わない女性に、ミオレスカは少しだけ感心していた。
(……私も頑張らないといけませんね)
ミオレスカは心の中で呟いた後『ハープボウ』を構え、雑魔に攻撃を仕掛ける。
7名のハンターに囲まれ、分が悪いと本能的に感じ取ったのか、雑魔が足を引きずりながら逃げる素振りを見せる。
けれど、フィーネルの『ファイアアロー』がその行動を阻止した。
「逃げようったってそうはさせません。あなたには奪った命への償いをしてもらうのですからね」
言葉と同時に『ファイアアロー』を繰り出し、フィーネルは険しい表情で雑魔を見る。
「人の感情が理解出来るような相手には見えませんが、己の行いを悔いながら逝きなさい」
静架は断罪を宣言するように呟き、引き金をひいた。
(一般人はそうじゃないだろうけど、戦士としては戦いで死ねれば本望っていうのはあるな。ボク達の考えを一般人に押し付けるつもりはないけど、そうじゃない奴らに手を出すなよ)
ルリはもどかしさを感じながら『ツヴァイハンダー』を振り上げ、勢いよく雑魔に斬りかかる。
「……中々しぶといですね、そんな姿でうろつくのも納得出来るしつこさです」
黒田は『ロングボウ』を構え、少しだけ眉根を寄せながら呟く。
「ですが、黒田達もしつこいです。貴方が奪わなければ、幸せな未来を築けた人もいるんです。その報いは、必ず受けてもらいます」
ひゅん、と風切音を響かせながら黒田の矢が雑魔に突き刺さる。
「そろそろ終いにしようか、おっさんもちょっと疲れてきたしねぇ……」
壬生は軽口を叩きながら、その言葉とは裏腹に重い一撃を雑魔に繰り出す。
そして、壬生の攻撃に合わせるようにティーナが『シャドウブリット』を使用した。
「こういう術、使うのは初めてなんですが……う、うまくいったでしょうか?」
おろおろとしながらティーナが呟くけど、彼女の攻撃はしっかりと雑魔に命中していた。
その後、静架と黒田が雑魔の射撃で雑魔の足止めを行い、ルリと壬生の攻撃が雑魔にトドメを刺したのだった――……。
●彼女がこれから生きる道は
「今回はありがとうございました、きっとこれで彼も浮かばれると思います」
雑魔退治が終わった後、女性はハンター達に深く頭を下げてお礼の言葉を告げる。
「……本当は、ここで死んでしまおうという考えもあったんですけど、そんな事をしたら、命を懸けて戦ってくれた皆さんに失礼ですよね、それにきっと彼も喜ばない」
女性は悲しげに微笑みながら、形見である指輪を見つめた。
「恋人の形見を流すと仰っていましたけど……本当によろしいんですかぁ? それを手放してしまったら残るのは思い出だけじゃないですか? ……それでは、寂しくありませんかぁ?」
フィーネルが女性に問い掛けると「俺も、そう思う」と壬生が軽く手を挙げながら言葉を挟む。
「大切な人との形見ってさ、沢山の思い出が詰まっていると思う。だから、まずはあの雑魔への思いだけを海に流してみてはどうかな? それだけでも前を向けるものだよ」
壬生は「恋人の形見と一緒に前に進むのも、気持ちに整理をつけて進むのも、君次第さ」と言葉を付け足した。
「……私は、彼女の意志を尊重したいと思います。形見が手元に残っていると、どうしても後ろ向きになってしまう方もいると思いますし、どうするのか、よく考えて欲しいです」
ティーナはにっこりと微笑みを向けながら女性に言葉を投げかける。
「私も夫と子供を失っていますので、貴女の気持ちは分かるつもりです。だからこそ、よく考えて欲しいんです……流してしまったら、もう取り戻せない物ですから」
女性がハンター達と話している姿を、静架は黙ったまま見つめていた。
(仇の最後を見届けたい、そう思うほど……相手の事を想っていたんですね。自分には、そこまで想える相手がいないのでよくは分かりませんが……人を思う気持ちは、重く強い物、ということなのでしょうか)
静架は彼女が形見を流すにしろ、流さないにしろ、沢山泣いて悲しんだ分、これからを明るく笑顔で生きていければいい、とそんな事を考えていた。
「……ああいう人がいるからこそ、ボクらの仕事って成り立ってるんだよな」
他のハンター達には聞こえないほど、小さな声でルリがポツリと呟く。
「雑魔はボクらにとっちゃいいお客さんだけど……一般人にとっちゃ脅威以外の何者でもねえんだなぁ……なんか、フクザツな気分だぜ……」
「そうですね。ですが、雑魔を殲滅する事こそハンターに与えられた使命だと黒田は思います」
「うおっ、い、いつから聞いていたんだよ……!」
「ああいう人がいるからこそ、という言葉からですが」
「……最初からじゃねえか」
黒田の言葉を聞き、ルリはがっくりと肩を落とす。
自分らしくない事を言ってしまったせいか、少し気恥ずかしいのだろう。
「貴女が彼の分まで、しっかりと生きて下さるのなら、形見を手元に残すのもありだと思います。誰よりも心配している彼に、貴女がしっかり生きる姿を見せてあげるというのも1つの方法かと」
ミオレスカの言葉を聞き「私がしっかり生きる姿を見せる……」と繰り返すように女性は呟く。
「はい。それこそがその指輪の持ち主である彼の1番見たい事だと思いますから」
ミオレスカ、そして他のハンター達の言葉を聞き、女性はキュッと唇を噛む。
「……私、まだこの指輪は流しません。肌身離さず持っていて、彼を安心させられるくらいの生き方が出来るようになったら、指輪を流そうと思います、この場所で……」
女性の言葉に「それがいいかもしれないね」と壬生が微笑みながら言葉を返す。
その後、女性が満足するまで海を眺めるのを待ち、ハンター達は帰路に着く。
帰り道、女性の表情は来た時のような虚ろさはなく、少しだけ目に輝きが戻っていた。
それを見て、ハンター達も安心して彼女を送り届ける事が出来たのだった――……。
END
「亡くなられた恋人の形見を海に流す、ですか……それだと彼女の手元には思い出しか残りませんけど……いいのでしょうかねぇ……」
フィーネル・アナステシス(ka0009)は虚ろな瞳の女性を、ちらり、と見ながら小さな声で呟く。
思い出も形見だけど、形ある物を残さずにいいのか、と彼女は考えているようだ。
(彼女の気持ち、すごく分かります……)
ティーナ・ウェンライト(ka0165)は悲しげな瞳を女性に向ける。ティーナも夫と子供を戦いで亡くした過去があり、女性の事はどうしても他人事と思えなかった。
(昔の自分を見ているようでつらいけど……どうにか立ち直ってもらいたいです、私達がその手助けを出来れば良いのですが……)
「危険を承知で同行したいと言ってるんですよね?」
静架(ka0387)が女性に言葉を投げかけると、彼女は弱々しく頷いた。
「分かりました。共に行く事で気が晴れるというならば……止めはしません、ただ……明日からは前を見て笑って下さいね」
静架の言葉に、女性は答えなかった。
恐らく、現地に行った時、自分がどんな感情を持つか分からないからだろう。
「ついてきてえってんなら止めはしねえけど……雑魔の断末魔なんて危険なだけで見て気持ちいいもんじゃねえと思うぜ?」
ルリ・エンフィールド(ka1680)は苦笑しながら女性に言葉を投げかける。ぶっきらぼうな言葉だけど、ルリなりに女性を心配しての言葉なのだろう。
「……分かっています、けれど私はどうしてもついて行きたいのです」
女性は強い意志を秘めた瞳を見せながら、ルリに言葉を返す。
彼女の表情はどこか危なっかしくて、ハンター達も妙な不安を感じていた。
「皆様が賛成の意を示している中で申し訳ございませんが、黒田は反対です」
女性と同じような雰囲気を持つ少女、黒田 ユニ(ka2677)がハンター達に話しかける。
「ギルドを通しての依頼でない限り、戦場へ一般の方を連れて行く事は出来ません。こちらはプロのハンターです、お遊びではないのですから諦めてください」
黒田の言葉に、その場の空気がピシッと凍りついた。
「……ですが、偶然迷い込んだ民間人が、偶然戦闘に巻き込まれたら、不測の事態として全力で守らなければならないでしょうがね。偶然とはいえ、面倒な事です」
無表情で呟いた黒田の言葉は『ついてきてもいい』と言っているようにしか見えない。形式的に一度断った、という事にしておきたかったのだろう。
「……ありがとうございます」
女性が黒田に言葉を投げかけると「何の事か分かりませんね」と、ぷいっと視線を逸らした。
(本来は普通の雑魔退治なんだろうけど、おっさんとしては彼女の事が気がかりなんだよねぇ)
壬生 義明(ka3397)はちらりと女性を見ながら心の中で呟く。
形見を流したい、という女性の気持ちは分かるけど、それだけだろうか、と妙な不安が募る。
(おっさんの考え過ぎならいいんだけどねぇ……)
「一緒に来たい理由は分かりましたが、雑魔に近づかない事、自分を大切にする事、最低この2つは約束して頂きます、幸いにも沢山の仲間がいますし、問題はないと思いますが」
ミオレスカ(ka3496)が女性に言葉を投げかける。
「分かりました、皆さんのご迷惑にならないよう気をつけますので……よろしく、お願いします」
ミオレスカの言葉を聞いて、女性は深く頭を下げながら挨拶をした――……。
●彼が愛した海で
「……あれ、ですかね」
フィーネルは海岸沿いでうろつく雑魔を険しい表情で見つめながら、小さく呟く。
「恋人を引き裂いた元凶には、相応の罰を与えないといけませんねぇ」
静かに告げられた言葉だったけど、その言葉の中に怒りが混じっているのはすぐに分かる。
「見晴らしの良い場所ですから、捜索には困りませんが……どうやって行きますか?」
「ここはおっさんが行こうかね」
ティーナの呟きに、壬生が軽く手を挙げながら言葉を返した。
「おっさんが前に出て囮になるよ、仲間と離れすぎない程度に出るから、おっさんがやばくなった時は『ヒール』を使ってくれると嬉しいな」
「分かりました……どうか、お気をつけて」
ティーナが壬生に言葉を返し、それを合図にしたかのように他のハンター達も動き始めた。
「さぁ、私の炎で消し炭となりなさい」
フィーネルは『ファイアアロー』を繰り出しながら呟く。
「……元が何なのか分からない所が不気味ですね」
静架は『魔導拳銃 エア・スティーラー』と『リボルバー ヴァールハイト』を構え、雑魔に射撃攻撃を行いながら呟く。
原型を留めていないせいか、静架は雑魔の動きに警戒を強めている。
「もう少し下がってください、遠距離攻撃がないとも限りませんし」
静架は女性にもう少し下がるように伝え、再び援護射撃を行う。
「見てな、雑魔と戦うっつーのは命がけだってことが嫌でも分かるぜ」
ルリは『オートマチックST43』で射撃を行いながら、雑魔との距離を詰めていく。
そして雑魔との距離が近くなると『ツヴァイハンダー』に持ち替え、接近攻撃を行っていく。
「……この矢は、黒田と貴女の矢です。憎き仇へ然るべき報いを」
黒田はロングボウを構えながら、女性に言葉を投げかける。
ハンターと雑魔の戦いが始まってから、女性は雑魔から視線を外す事がなかった。
まるで、自分の仇を心に刻み込むように、目を逸らしたくなるような気持ち悪さがあっても、女性はすべてを見守るかのように、しっかりと見つめている。
(どうやら、後追いとかそういうのはなさそうだねぇ)
雑魔の攻撃を受けながら、ちらり、と壬生は女性に視線を向け、心の中で呟く。
「おっと、よそ見なんかしてる余裕あるのかい? できればこっちだけに目を向けてくれると嬉しいね……なんて、本当は原型分からない雑魔なんかより、可愛い女の子に言いたいねぇ」
壬生は苦笑しながら『ナックル ヴァリアブル・デバイド』で攻撃を仕掛ける。
「大丈夫ですか? もし耐えかねる場合は、もう少し下がってもらっても構いませんよ」
ミオレスカが女性に言葉を投げかけると、女性はゆっくりと首を振った。
「アレが、彼の命を奪ったのですよね。彼の命を奪ったモノ……その最後を私はしっかり見届けたいのです、彼の仇は討ってもらいました、と墓前で報告をするために」
女性は恐怖から身体を震わせながら答えている。
(無理もないですよね、雑魔と渡り合う経験が少ない私でさえ緊張するんです……一般人となれば、私の緊張や恐怖の何倍も感じているはずですから)
それでも泣き言1つ言わない女性に、ミオレスカは少しだけ感心していた。
(……私も頑張らないといけませんね)
ミオレスカは心の中で呟いた後『ハープボウ』を構え、雑魔に攻撃を仕掛ける。
7名のハンターに囲まれ、分が悪いと本能的に感じ取ったのか、雑魔が足を引きずりながら逃げる素振りを見せる。
けれど、フィーネルの『ファイアアロー』がその行動を阻止した。
「逃げようったってそうはさせません。あなたには奪った命への償いをしてもらうのですからね」
言葉と同時に『ファイアアロー』を繰り出し、フィーネルは険しい表情で雑魔を見る。
「人の感情が理解出来るような相手には見えませんが、己の行いを悔いながら逝きなさい」
静架は断罪を宣言するように呟き、引き金をひいた。
(一般人はそうじゃないだろうけど、戦士としては戦いで死ねれば本望っていうのはあるな。ボク達の考えを一般人に押し付けるつもりはないけど、そうじゃない奴らに手を出すなよ)
ルリはもどかしさを感じながら『ツヴァイハンダー』を振り上げ、勢いよく雑魔に斬りかかる。
「……中々しぶといですね、そんな姿でうろつくのも納得出来るしつこさです」
黒田は『ロングボウ』を構え、少しだけ眉根を寄せながら呟く。
「ですが、黒田達もしつこいです。貴方が奪わなければ、幸せな未来を築けた人もいるんです。その報いは、必ず受けてもらいます」
ひゅん、と風切音を響かせながら黒田の矢が雑魔に突き刺さる。
「そろそろ終いにしようか、おっさんもちょっと疲れてきたしねぇ……」
壬生は軽口を叩きながら、その言葉とは裏腹に重い一撃を雑魔に繰り出す。
そして、壬生の攻撃に合わせるようにティーナが『シャドウブリット』を使用した。
「こういう術、使うのは初めてなんですが……う、うまくいったでしょうか?」
おろおろとしながらティーナが呟くけど、彼女の攻撃はしっかりと雑魔に命中していた。
その後、静架と黒田が雑魔の射撃で雑魔の足止めを行い、ルリと壬生の攻撃が雑魔にトドメを刺したのだった――……。
●彼女がこれから生きる道は
「今回はありがとうございました、きっとこれで彼も浮かばれると思います」
雑魔退治が終わった後、女性はハンター達に深く頭を下げてお礼の言葉を告げる。
「……本当は、ここで死んでしまおうという考えもあったんですけど、そんな事をしたら、命を懸けて戦ってくれた皆さんに失礼ですよね、それにきっと彼も喜ばない」
女性は悲しげに微笑みながら、形見である指輪を見つめた。
「恋人の形見を流すと仰っていましたけど……本当によろしいんですかぁ? それを手放してしまったら残るのは思い出だけじゃないですか? ……それでは、寂しくありませんかぁ?」
フィーネルが女性に問い掛けると「俺も、そう思う」と壬生が軽く手を挙げながら言葉を挟む。
「大切な人との形見ってさ、沢山の思い出が詰まっていると思う。だから、まずはあの雑魔への思いだけを海に流してみてはどうかな? それだけでも前を向けるものだよ」
壬生は「恋人の形見と一緒に前に進むのも、気持ちに整理をつけて進むのも、君次第さ」と言葉を付け足した。
「……私は、彼女の意志を尊重したいと思います。形見が手元に残っていると、どうしても後ろ向きになってしまう方もいると思いますし、どうするのか、よく考えて欲しいです」
ティーナはにっこりと微笑みを向けながら女性に言葉を投げかける。
「私も夫と子供を失っていますので、貴女の気持ちは分かるつもりです。だからこそ、よく考えて欲しいんです……流してしまったら、もう取り戻せない物ですから」
女性がハンター達と話している姿を、静架は黙ったまま見つめていた。
(仇の最後を見届けたい、そう思うほど……相手の事を想っていたんですね。自分には、そこまで想える相手がいないのでよくは分かりませんが……人を思う気持ちは、重く強い物、ということなのでしょうか)
静架は彼女が形見を流すにしろ、流さないにしろ、沢山泣いて悲しんだ分、これからを明るく笑顔で生きていければいい、とそんな事を考えていた。
「……ああいう人がいるからこそ、ボクらの仕事って成り立ってるんだよな」
他のハンター達には聞こえないほど、小さな声でルリがポツリと呟く。
「雑魔はボクらにとっちゃいいお客さんだけど……一般人にとっちゃ脅威以外の何者でもねえんだなぁ……なんか、フクザツな気分だぜ……」
「そうですね。ですが、雑魔を殲滅する事こそハンターに与えられた使命だと黒田は思います」
「うおっ、い、いつから聞いていたんだよ……!」
「ああいう人がいるからこそ、という言葉からですが」
「……最初からじゃねえか」
黒田の言葉を聞き、ルリはがっくりと肩を落とす。
自分らしくない事を言ってしまったせいか、少し気恥ずかしいのだろう。
「貴女が彼の分まで、しっかりと生きて下さるのなら、形見を手元に残すのもありだと思います。誰よりも心配している彼に、貴女がしっかり生きる姿を見せてあげるというのも1つの方法かと」
ミオレスカの言葉を聞き「私がしっかり生きる姿を見せる……」と繰り返すように女性は呟く。
「はい。それこそがその指輪の持ち主である彼の1番見たい事だと思いますから」
ミオレスカ、そして他のハンター達の言葉を聞き、女性はキュッと唇を噛む。
「……私、まだこの指輪は流しません。肌身離さず持っていて、彼を安心させられるくらいの生き方が出来るようになったら、指輪を流そうと思います、この場所で……」
女性の言葉に「それがいいかもしれないね」と壬生が微笑みながら言葉を返す。
その後、女性が満足するまで海を眺めるのを待ち、ハンター達は帰路に着く。
帰り道、女性の表情は来た時のような虚ろさはなく、少しだけ目に輝きが戻っていた。
それを見て、ハンター達も安心して彼女を送り届ける事が出来たのだった――……。
END
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 6人 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】 ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/16 16:22:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/12 00:32:18 |