ゲスト
(ka0000)
伝説の屋台はここに誕生する!
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/17 22:00
- 完成日
- 2014/11/20 00:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
歪虚討伐によって落ち着きを取り戻したヴァリオスですが、輸送船が襲われたり、都市から避難したりなどで、商業活動に多少の被害は出ていました。
もちろん、全体的に見ればいつも通りなのですが、いくつかの通りは店が閉まってしまって、商店街がなくなってしまったところもあります。
けれども、そこはヴァリオスの商人達のこと、ピンチはチャンスとばかりに、商店街の再開発で一儲けしようという話が持ちあがりました。
ここは、そんな通りにある商店街予定地です。
商店街の再開発とはいっても、いきなりりっぱな建物や施設を作るわけには行きません。
どちらかといえば、豪商が支店を出すというよりも、新規に事業を興す者たちの出店を支援するかたちに落ち着いたようです。
とはいえ、いきなり店を作って潰れられても困りますから、まずは屋台村を作って、そこで生き残ったお店に店舗を構えさせようということになりました。
ここに、運よく、その屋台の出店権を手に入れた若い商人がいました。
張り切って調理器具を揃え、それを屋台に積み込みました。腕のいい料理人も、バッチリ確保していたのですが……。
「ええっ、入院したってえ!?」
当てにしていた料理人が、食中毒で入院してしまったというのです。これでは、せっかくの屋台が出せません。しかも、屋台で一定の成績を上げなければ、出店権は別の商人に移ってしまいます。
大ピンチです。
代わりの料理人を探すにしてもすぐには見つかりそうにありませんし、それに、ありきたりの料理で人気が出るとは限りません。
本当に大ピンチです。
「そうだ、ハンターだ。ハンターなら、斬新な料理で、このピンチを乗りきってくれるに違いない」
我ながら妙案を思いついたものだと、商人がポンと手を叩きました。
「さあ、急いで、腕のいいハンターの料理人を確保するぞお!」
もちろん、全体的に見ればいつも通りなのですが、いくつかの通りは店が閉まってしまって、商店街がなくなってしまったところもあります。
けれども、そこはヴァリオスの商人達のこと、ピンチはチャンスとばかりに、商店街の再開発で一儲けしようという話が持ちあがりました。
ここは、そんな通りにある商店街予定地です。
商店街の再開発とはいっても、いきなりりっぱな建物や施設を作るわけには行きません。
どちらかといえば、豪商が支店を出すというよりも、新規に事業を興す者たちの出店を支援するかたちに落ち着いたようです。
とはいえ、いきなり店を作って潰れられても困りますから、まずは屋台村を作って、そこで生き残ったお店に店舗を構えさせようということになりました。
ここに、運よく、その屋台の出店権を手に入れた若い商人がいました。
張り切って調理器具を揃え、それを屋台に積み込みました。腕のいい料理人も、バッチリ確保していたのですが……。
「ええっ、入院したってえ!?」
当てにしていた料理人が、食中毒で入院してしまったというのです。これでは、せっかくの屋台が出せません。しかも、屋台で一定の成績を上げなければ、出店権は別の商人に移ってしまいます。
大ピンチです。
代わりの料理人を探すにしてもすぐには見つかりそうにありませんし、それに、ありきたりの料理で人気が出るとは限りません。
本当に大ピンチです。
「そうだ、ハンターだ。ハンターなら、斬新な料理で、このピンチを乗りきってくれるに違いない」
我ながら妙案を思いついたものだと、商人がポンと手を叩きました。
「さあ、急いで、腕のいいハンターの料理人を確保するぞお!」
リプレイ本文
●開店準備
「この屋台ですか、天の声が唯一無二の屋台にしろとおっしゃったのは。リアルブルーの知識を使い、クリムゾンウェストの人々がおののくような屋台にしてみましょう」
ハンターオフィスから斡旋された屋台にやってきて、藤田 武(ka3286)が気合いに満ちた言葉を口にしました。
「おののいちゃダメだろう。まあ、それにしても、ハンターってのは、雑魔退治から料理まで、何でもやる家業だよな。で、リアルブルー式の料理で注目を集めるんなら、天丼がいいと思うな」
「天丼とはどんな物なんです?」
伊勢 渚(ka2038)の言った天丼という言葉に、マリエル(ka0116)が首をかしげました。
「オレの故郷じゃ、ごく普通の食べもんなんだがなあ。丼飯の上に、天ぷらを載せた物なんだよ」
「天ぷらですか。昔の記憶がないのでよく分かりませんが、興味はあります。どんな物なのですか?」
しっかり覚えようと、マリエルがメモを取り出します。
「そこからかあ。野菜や魚貝類を、小麦粉を水で溶いた衣につけて油で揚げた物だよ。片栗粉が手に入ればさくっと揚がるし、唐揚げも作れるんだけどな。まあ、素揚げでも、結構いけるさ」
渚が説明しますが、片栗粉はクリムゾンウェストではあまり知られていませんし、ジャガイモなどから生成するのは結構時間がかかりますから難しそうです。
「料理についてはお任せください。故郷では一族の台所を預かっておりましたから。この屋台を店舗経営まで生き残らせてみせますとも」
レオン・イスルギ(ka3168)が、自信満々で言いました。レシピさえ分かれば、天ぷらが何であろうとも、作れる自信はあります。
「そうそう。この屋台が生き残れば、後々奢ってもらったり、割引してもらえそうだもの」
最上 風(ka0891)が、余録に預かる気満々で言いました。美味しい想像に、思わずじゅるりとなります。
「なんにせよ、ヴァリオスに美味い店が増えりゃ、俺もありがてーしな」
美味しい物が食べられるようになればそれでいいと、ジャック・エルギン(ka1522)がうなずきました。
「じゃあ、手分けして戦闘開始だな」
渚の言葉に、一同がうなずきました。
まずは動き始めたことに安心した渚が、いつもの癖でタバコを取り出しかけます。けれども、調理人にとっては、タバコは厳禁です。
「やれやれ、しばらくは禁煙だな」
残念そうに渚がつぶやきました。
●食器調達
食器の調達に出たのは、マリエルと風とジャックです。
「どんぶりという食器が、いまいち形が分かりませんが……」
「陶器でできたお碗ですね」
何を探していいのか迷うマリエルに、風が説明しました。
商店街に店を出している屋台は、ほとんどは食べ物の屋台ですが、中には、そういった屋台を客と当て込んだ食材を売る屋台や、小間物を売る屋台もあります。屋台を揃えることのできなかった店は、筵や絨毯を敷いていますので、朝市っぽい店構えです。
「陶器なら、知ってる店もあるが、値がはるな」
ヴァリオスの焦点の並びを頭の中でなぞりながら、ジャックが言いました。
「あそこで、売ってますよ」
風が、商店街の一画を指さしました。そこでは、ちょっと不揃いな手作りの碗が売られていました。白磁の高級食器とはいきませんが、素朴なところに味があります。天丼の丼には、結構似合いそうです。
「碗はお店の側で食べてもらう物でしょうから、数はあまりいりませんよね?」
「そうだな。他にも、持ち帰り用に、安くて使い捨てできる食器があればいいんだが。まあ、紙包みが妥当ってところか。ちょっと探してくるから、ここは任せたぜ」
マリエルたちに告げると、ジャックは包み紙を探しに行きました。
「じゃあ、風は、ライバル店を調査に行ってきます」
風も、その場を離れていきました。
「えっ、私だけ残して……。ええと、おじさん、開店祝いで安くしてください!」
あっさりと残されたマリエルが、食器を売っている店の人との値切り交渉に入りました。
そっちの店の宣伝をするからとか、いい器ですねとか、いろいろとおだてたり脅かしたりした交渉の結果、そこそこ安いお値段で、そこにあったどんぶりをすべて買い占めました。
マリエル重たい食器を持ってよろよろと歩いていると、紙の束をかかえたジャックが合流してきました。
持ち帰りの天ぷらなどを、紙でつつんで食べ歩きしてもらおうということのようです。手に入れた西洋紙では吸水性に欠けますが、逆に油の染みも少しは遅いかもしれません。他には、木串も買い込んでいました。フォーク代わりというところでしょうか。
二人で屋台を目指すと、なんだか満足そうな顔の風が、手ぶらで戻ってきました。
「敵状視察って、買い食いしてただけじゃないだろうなあ」
怪しいとばかりに、ジャックが問いただしました。
「そ、そんなことはないですよお。まあ、美味しいライバル店は多かったけど。串焼きとか、果物とか、ジュースとか……。ああ、それ重いでしょ」
図星らしく、慌てて風が二人の荷物運びを手伝うと言いだしました。
意外に食べ歩きのできる店も多いようです。ここは、天ぷらという珍しい料理で推すしかないでしょう。
●食材調達
別部隊として、レオンと武は食材の買い出しに行っていました。
まずは、メインとなる海鮮類です。
白身魚が中心ですが、イカやタコやエビも定番です。幸いにして、海が近いために新鮮な物が簡単に手に入ります。ただ、レオンが欲しがっていたノリは、さすがに手に入りませんでした。天然物の岩のりしかありませんから、市場にいつもあるとは限りませんし、好んで食べる人も多くはありません。
「魚だけでは、飽きがきそうですね」
「野菜もたくさん仕入れましょう」
レオンの言葉に、野菜好きの武がうなずきました。
芋に玉葱、豆にニンジン、様々な野菜を買い込みます。
「これこれ」
何かを探していた武が、嬉しそうに言いました。どうやら、緑茶を探していたようです。ごく少量しか手に入りませんでしたが、これで抹茶塩が作れます。
後は、小麦粉と片栗粉ですが、片栗粉はさすがに簡単には手に入りませんでした。代わりにジャガイモを少し多めに仕入れます。
どんぶり用の御飯ですが、幸いなことにジェオルジ村長祭で発表されたおにぎり草【まめし】が手に入りました。これを炊いて調理すれば、天丼の風味に合う御飯になるでしょう。
後は、卵と水を手に入れると、二人は大荷物をかかえて屋台へと戻っていきました。
●調理
実際に具材が集まると、渚とレオンと武が、本領発揮とばかりに調理を開始しました。
レオンが魚の、武が野菜の下ごしらえをしている間に、渚は片栗粉を作り始めました。
とはいえ、粉を生成するには時間がかかりすぎますから、すったジャガイモからデンプンを取り出すのが精一杯です。何度か水にさらして色味を落としていきます。おかげで、何度も水を汲みに行くはめになりました。
苦労の末にできあがった物を、武が卵黄と小麦粉をと水をあわせた物と混ぜ合わせます。これで、小麦粉だけの物よりはからりと揚がるはずです。
「音が変わったら、油からあげてくれ」
渚に言われて、レオンがレシピをメモります。自分のためでもありますが、自分たちがいなくても、この屋台の料理人がちゃんと作れるためにです。
「分かりました。で、油は?」
レオンが、油を鍋に入れて火にかけようとしましたが、油がありません。買い忘れです。
「行ってきまーす!!」
慌てて、風が走っていきました。
痛いタイムロスですが、その間を無駄にすることもなく、武が余った卵白をメレンゲにして、フライパンで焼いていきました。ちょっとしたつけ合わせです。
渚の方も、鍋と網で即席に作った蒸し器でおにぎり草を暖めます。これで、丼飯のめしも確保です……が。
「油買ってきましたー」
風が、ゼイゼイ言いながら走って戻ってきました。
「ありがとうございます」
すぐに、レオンが油を入れた鍋を火にかけます。衣をちょっと散らして温度を確かめると、作りおきの分の天ぷらを揚げ始めます。耳を澄まして、小気味いい泡の音が変わる一瞬を逃さず、油切りの紙の上に天ぷらを取り出します。常に油の様子に気をつけていて、油が酸化したら、すぐに暖めてある次の油の入った鍋と交換できるようにしておいて、お客様を待たせないように気を配ります。
「しまったあ、天丼用のタレがない!」
側で天丼の準備をしていた渚が頭をかかえました。具材を気にしすぎて、調味料を買っていません。これでは天丼が作れません。
「行ってくるぜ」
ここは、地元の知識に明るいジャックが、地面にバタンキューしている風の代わりに飛び出しました。
「待て、オレも行く」
醤油とか分からないだろうと、渚も同行しました。
しかし、クリムゾンウェストで醤油を手に入れるのは困難です。とりあえず魚醤を手に入れ、みりんの代わりにワインと砂糖を手に入れました。鰹節がないので、苦肉の策として干した魚を手に入れ、煮干し代わりとして出汁を取ることにします。
天丼の方が予期せぬトラブルで準備に大幅な時間がかかるため、初めは天ぷらだけで勝負することとなりました。
●呼び込み
「い、行ってきます……」
本番前に力を使い果たした気がする風が、手作りのプラカードを持ってよろよろと出発しました。
天ぷらの方は順調に揚がっていますから、今が客の捕まえ時です。
「ピカッとね」
風が、シャインで看板を光らせました。
「うお、まぶしっ!」
道行く人が、フラッシュを焚かれたかのように振り返ります。
「リアルブルーの伝統料理、天ぷらですよー。いかがですかー? 今なら、混雑なし、待ち時間なしで、御提供できますよ?」
風が叫びます。ちょっと語尾が自信なさげですが、致し方ありません。
「天ぷら? なんだか変わった名前ね。美味しいの?」
まじまじとプラカードと風を矯めつ眇めつしながら、近くにいたミチーノ・インフォルが疑わしそうに聞きました。
「美味しいです」
きっぱりと、風が言い切りました。でも、まだ食べてません。味見もしていません。
「うーん、まあ、試してみるのも、話の種にはなるかも……」
「はーい、お客様御一名御案なーい。えっと、あそこに見える屋台ですから」
そうミチーノに言うと、風が魔導短伝話でマリエルに客がむかったと伝えました。
●販売
「お帰りなさいませ、お嬢様。リアルブルー名物、天ぷらはこちらになりまーす」
やってきたミチーノを、メイドドレスに着替えたマリエルが出迎えました。
「綺麗なねーちゃんだな。んじゃ連絡先、じゃねーや注文は何にするよ?」
ジャックが、彼としては愛想よくミチーノに訊ねました。
「何があるのよ?」
ミチーノが聞き返しました。
「野菜に、魚、エビ、いろいろとりそろえております」
「んー、じゃ、エビ」
ミチーノの注文に、レオンが揚げておいたまだ暖かいエビを紙につつんで渡しました。
「お好みで、そこの抹茶塩をおかけください」
武がお茶っ葉を粉にして塩と混ぜた抹茶塩を、マリエルがミチーノに勧めました。
「緑色の粉? 毒じゃないでしょうねえ」
ちょっと疑いつつも、ミチーノが抹茶塩をひとつまみエビ天にかけます。フライにしてはなんだかもこもこしている天ぷらとやらは、微かに黄色い色をしていて、昨日作ったクリームシチューの残り物のようです。
ぱくり。
「あら、美味しい」
ちょっと予想外だったと、ミチーノが目を丸くしました。まさに、クリムゾンウェストの者としては、美味し珍の食べ物です。
「どーだい、ヴァリオスの港で取れた新鮮なヤツだ。なかなかのもんだろ」
ジャックが、ちょっと自慢げに言います。
「美味しいでしょう? はい、サービス券です。次回お使いください」
そう言って、マリエルがミチーノに「スマイルサービス券」と描かれた紙を渡しました。スマイルならただですから、実質値引きではないのですが、次回も明るい接客を約束する物でした。
「何々、美味しい物売ってるのか?」
喜んでパクつくミチーノを見て、周囲の通行人たちが集まってきました。
「はい、天ぷらです。どうぞお試しください」
新しいお客様たちにむかって、マリエルがニッコリと営業スマイルを投げかけました。
順調に天ぷらが売れ出した頃、やっと天丼の準備が整いました。
「ということで、客寄せ頼みますよ」
マリエルの魔導短伝話を借りて、渚が風に伝えました。
「美味しい天丼、天丼だよ。光るよー」
ピカピカとプラカードを輝かせながら、風が道行く人にむかって叫びました。
●閉店
思わぬトラブルもありましたが、料理の方は好評でした。
物珍しさもあったでしょうが、素材の味を生かした天ぷらというチョイスもよかったようです。天丼の方は、味つけが急ごしらえでしたが、おにぎり草との相性もよく、丼物というクリムゾンウェストの人々にとっては変わった食べ方も面白かったようです。
「とりあえず、食材余っているようですから、風にご馳走しませんか?」
少しだけ余ってしまった天丼をチラチラと見ながら、風が言いました。
「独り占めじゃなくて、みんなでだろ?」
ジャックが言いなおします。
「まあまあ、みんな今日は御苦労様。おかげで、何とか店を切り盛りすることができました。みんながいなかったら、いきなり開店休業になるところでしたよ。あはははは」
料理人の変更届けや、お見舞いなどで駆け回っていたオーナーが、閉店時間にやってきて、みんなをねぎらいました。
「そうそう、私も、その天丼という物を食べてみたいですね。なにせ、これからずっと売っていくんですから。ああ、今日のお店の繁盛の様子から、今期の営業許可が確定しました。これも、すべてみんなのおかげです」
オーナーが一同にお礼を言いました。
「じゃあ、お祝いだね。天丼七つ!」
「おお、任せとけ」
風の言葉に、渚とレオンがさっそく天丼を作り始めました。
「この屋台ですか、天の声が唯一無二の屋台にしろとおっしゃったのは。リアルブルーの知識を使い、クリムゾンウェストの人々がおののくような屋台にしてみましょう」
ハンターオフィスから斡旋された屋台にやってきて、藤田 武(ka3286)が気合いに満ちた言葉を口にしました。
「おののいちゃダメだろう。まあ、それにしても、ハンターってのは、雑魔退治から料理まで、何でもやる家業だよな。で、リアルブルー式の料理で注目を集めるんなら、天丼がいいと思うな」
「天丼とはどんな物なんです?」
伊勢 渚(ka2038)の言った天丼という言葉に、マリエル(ka0116)が首をかしげました。
「オレの故郷じゃ、ごく普通の食べもんなんだがなあ。丼飯の上に、天ぷらを載せた物なんだよ」
「天ぷらですか。昔の記憶がないのでよく分かりませんが、興味はあります。どんな物なのですか?」
しっかり覚えようと、マリエルがメモを取り出します。
「そこからかあ。野菜や魚貝類を、小麦粉を水で溶いた衣につけて油で揚げた物だよ。片栗粉が手に入ればさくっと揚がるし、唐揚げも作れるんだけどな。まあ、素揚げでも、結構いけるさ」
渚が説明しますが、片栗粉はクリムゾンウェストではあまり知られていませんし、ジャガイモなどから生成するのは結構時間がかかりますから難しそうです。
「料理についてはお任せください。故郷では一族の台所を預かっておりましたから。この屋台を店舗経営まで生き残らせてみせますとも」
レオン・イスルギ(ka3168)が、自信満々で言いました。レシピさえ分かれば、天ぷらが何であろうとも、作れる自信はあります。
「そうそう。この屋台が生き残れば、後々奢ってもらったり、割引してもらえそうだもの」
最上 風(ka0891)が、余録に預かる気満々で言いました。美味しい想像に、思わずじゅるりとなります。
「なんにせよ、ヴァリオスに美味い店が増えりゃ、俺もありがてーしな」
美味しい物が食べられるようになればそれでいいと、ジャック・エルギン(ka1522)がうなずきました。
「じゃあ、手分けして戦闘開始だな」
渚の言葉に、一同がうなずきました。
まずは動き始めたことに安心した渚が、いつもの癖でタバコを取り出しかけます。けれども、調理人にとっては、タバコは厳禁です。
「やれやれ、しばらくは禁煙だな」
残念そうに渚がつぶやきました。
●食器調達
食器の調達に出たのは、マリエルと風とジャックです。
「どんぶりという食器が、いまいち形が分かりませんが……」
「陶器でできたお碗ですね」
何を探していいのか迷うマリエルに、風が説明しました。
商店街に店を出している屋台は、ほとんどは食べ物の屋台ですが、中には、そういった屋台を客と当て込んだ食材を売る屋台や、小間物を売る屋台もあります。屋台を揃えることのできなかった店は、筵や絨毯を敷いていますので、朝市っぽい店構えです。
「陶器なら、知ってる店もあるが、値がはるな」
ヴァリオスの焦点の並びを頭の中でなぞりながら、ジャックが言いました。
「あそこで、売ってますよ」
風が、商店街の一画を指さしました。そこでは、ちょっと不揃いな手作りの碗が売られていました。白磁の高級食器とはいきませんが、素朴なところに味があります。天丼の丼には、結構似合いそうです。
「碗はお店の側で食べてもらう物でしょうから、数はあまりいりませんよね?」
「そうだな。他にも、持ち帰り用に、安くて使い捨てできる食器があればいいんだが。まあ、紙包みが妥当ってところか。ちょっと探してくるから、ここは任せたぜ」
マリエルたちに告げると、ジャックは包み紙を探しに行きました。
「じゃあ、風は、ライバル店を調査に行ってきます」
風も、その場を離れていきました。
「えっ、私だけ残して……。ええと、おじさん、開店祝いで安くしてください!」
あっさりと残されたマリエルが、食器を売っている店の人との値切り交渉に入りました。
そっちの店の宣伝をするからとか、いい器ですねとか、いろいろとおだてたり脅かしたりした交渉の結果、そこそこ安いお値段で、そこにあったどんぶりをすべて買い占めました。
マリエル重たい食器を持ってよろよろと歩いていると、紙の束をかかえたジャックが合流してきました。
持ち帰りの天ぷらなどを、紙でつつんで食べ歩きしてもらおうということのようです。手に入れた西洋紙では吸水性に欠けますが、逆に油の染みも少しは遅いかもしれません。他には、木串も買い込んでいました。フォーク代わりというところでしょうか。
二人で屋台を目指すと、なんだか満足そうな顔の風が、手ぶらで戻ってきました。
「敵状視察って、買い食いしてただけじゃないだろうなあ」
怪しいとばかりに、ジャックが問いただしました。
「そ、そんなことはないですよお。まあ、美味しいライバル店は多かったけど。串焼きとか、果物とか、ジュースとか……。ああ、それ重いでしょ」
図星らしく、慌てて風が二人の荷物運びを手伝うと言いだしました。
意外に食べ歩きのできる店も多いようです。ここは、天ぷらという珍しい料理で推すしかないでしょう。
●食材調達
別部隊として、レオンと武は食材の買い出しに行っていました。
まずは、メインとなる海鮮類です。
白身魚が中心ですが、イカやタコやエビも定番です。幸いにして、海が近いために新鮮な物が簡単に手に入ります。ただ、レオンが欲しがっていたノリは、さすがに手に入りませんでした。天然物の岩のりしかありませんから、市場にいつもあるとは限りませんし、好んで食べる人も多くはありません。
「魚だけでは、飽きがきそうですね」
「野菜もたくさん仕入れましょう」
レオンの言葉に、野菜好きの武がうなずきました。
芋に玉葱、豆にニンジン、様々な野菜を買い込みます。
「これこれ」
何かを探していた武が、嬉しそうに言いました。どうやら、緑茶を探していたようです。ごく少量しか手に入りませんでしたが、これで抹茶塩が作れます。
後は、小麦粉と片栗粉ですが、片栗粉はさすがに簡単には手に入りませんでした。代わりにジャガイモを少し多めに仕入れます。
どんぶり用の御飯ですが、幸いなことにジェオルジ村長祭で発表されたおにぎり草【まめし】が手に入りました。これを炊いて調理すれば、天丼の風味に合う御飯になるでしょう。
後は、卵と水を手に入れると、二人は大荷物をかかえて屋台へと戻っていきました。
●調理
実際に具材が集まると、渚とレオンと武が、本領発揮とばかりに調理を開始しました。
レオンが魚の、武が野菜の下ごしらえをしている間に、渚は片栗粉を作り始めました。
とはいえ、粉を生成するには時間がかかりすぎますから、すったジャガイモからデンプンを取り出すのが精一杯です。何度か水にさらして色味を落としていきます。おかげで、何度も水を汲みに行くはめになりました。
苦労の末にできあがった物を、武が卵黄と小麦粉をと水をあわせた物と混ぜ合わせます。これで、小麦粉だけの物よりはからりと揚がるはずです。
「音が変わったら、油からあげてくれ」
渚に言われて、レオンがレシピをメモります。自分のためでもありますが、自分たちがいなくても、この屋台の料理人がちゃんと作れるためにです。
「分かりました。で、油は?」
レオンが、油を鍋に入れて火にかけようとしましたが、油がありません。買い忘れです。
「行ってきまーす!!」
慌てて、風が走っていきました。
痛いタイムロスですが、その間を無駄にすることもなく、武が余った卵白をメレンゲにして、フライパンで焼いていきました。ちょっとしたつけ合わせです。
渚の方も、鍋と網で即席に作った蒸し器でおにぎり草を暖めます。これで、丼飯のめしも確保です……が。
「油買ってきましたー」
風が、ゼイゼイ言いながら走って戻ってきました。
「ありがとうございます」
すぐに、レオンが油を入れた鍋を火にかけます。衣をちょっと散らして温度を確かめると、作りおきの分の天ぷらを揚げ始めます。耳を澄まして、小気味いい泡の音が変わる一瞬を逃さず、油切りの紙の上に天ぷらを取り出します。常に油の様子に気をつけていて、油が酸化したら、すぐに暖めてある次の油の入った鍋と交換できるようにしておいて、お客様を待たせないように気を配ります。
「しまったあ、天丼用のタレがない!」
側で天丼の準備をしていた渚が頭をかかえました。具材を気にしすぎて、調味料を買っていません。これでは天丼が作れません。
「行ってくるぜ」
ここは、地元の知識に明るいジャックが、地面にバタンキューしている風の代わりに飛び出しました。
「待て、オレも行く」
醤油とか分からないだろうと、渚も同行しました。
しかし、クリムゾンウェストで醤油を手に入れるのは困難です。とりあえず魚醤を手に入れ、みりんの代わりにワインと砂糖を手に入れました。鰹節がないので、苦肉の策として干した魚を手に入れ、煮干し代わりとして出汁を取ることにします。
天丼の方が予期せぬトラブルで準備に大幅な時間がかかるため、初めは天ぷらだけで勝負することとなりました。
●呼び込み
「い、行ってきます……」
本番前に力を使い果たした気がする風が、手作りのプラカードを持ってよろよろと出発しました。
天ぷらの方は順調に揚がっていますから、今が客の捕まえ時です。
「ピカッとね」
風が、シャインで看板を光らせました。
「うお、まぶしっ!」
道行く人が、フラッシュを焚かれたかのように振り返ります。
「リアルブルーの伝統料理、天ぷらですよー。いかがですかー? 今なら、混雑なし、待ち時間なしで、御提供できますよ?」
風が叫びます。ちょっと語尾が自信なさげですが、致し方ありません。
「天ぷら? なんだか変わった名前ね。美味しいの?」
まじまじとプラカードと風を矯めつ眇めつしながら、近くにいたミチーノ・インフォルが疑わしそうに聞きました。
「美味しいです」
きっぱりと、風が言い切りました。でも、まだ食べてません。味見もしていません。
「うーん、まあ、試してみるのも、話の種にはなるかも……」
「はーい、お客様御一名御案なーい。えっと、あそこに見える屋台ですから」
そうミチーノに言うと、風が魔導短伝話でマリエルに客がむかったと伝えました。
●販売
「お帰りなさいませ、お嬢様。リアルブルー名物、天ぷらはこちらになりまーす」
やってきたミチーノを、メイドドレスに着替えたマリエルが出迎えました。
「綺麗なねーちゃんだな。んじゃ連絡先、じゃねーや注文は何にするよ?」
ジャックが、彼としては愛想よくミチーノに訊ねました。
「何があるのよ?」
ミチーノが聞き返しました。
「野菜に、魚、エビ、いろいろとりそろえております」
「んー、じゃ、エビ」
ミチーノの注文に、レオンが揚げておいたまだ暖かいエビを紙につつんで渡しました。
「お好みで、そこの抹茶塩をおかけください」
武がお茶っ葉を粉にして塩と混ぜた抹茶塩を、マリエルがミチーノに勧めました。
「緑色の粉? 毒じゃないでしょうねえ」
ちょっと疑いつつも、ミチーノが抹茶塩をひとつまみエビ天にかけます。フライにしてはなんだかもこもこしている天ぷらとやらは、微かに黄色い色をしていて、昨日作ったクリームシチューの残り物のようです。
ぱくり。
「あら、美味しい」
ちょっと予想外だったと、ミチーノが目を丸くしました。まさに、クリムゾンウェストの者としては、美味し珍の食べ物です。
「どーだい、ヴァリオスの港で取れた新鮮なヤツだ。なかなかのもんだろ」
ジャックが、ちょっと自慢げに言います。
「美味しいでしょう? はい、サービス券です。次回お使いください」
そう言って、マリエルがミチーノに「スマイルサービス券」と描かれた紙を渡しました。スマイルならただですから、実質値引きではないのですが、次回も明るい接客を約束する物でした。
「何々、美味しい物売ってるのか?」
喜んでパクつくミチーノを見て、周囲の通行人たちが集まってきました。
「はい、天ぷらです。どうぞお試しください」
新しいお客様たちにむかって、マリエルがニッコリと営業スマイルを投げかけました。
順調に天ぷらが売れ出した頃、やっと天丼の準備が整いました。
「ということで、客寄せ頼みますよ」
マリエルの魔導短伝話を借りて、渚が風に伝えました。
「美味しい天丼、天丼だよ。光るよー」
ピカピカとプラカードを輝かせながら、風が道行く人にむかって叫びました。
●閉店
思わぬトラブルもありましたが、料理の方は好評でした。
物珍しさもあったでしょうが、素材の味を生かした天ぷらというチョイスもよかったようです。天丼の方は、味つけが急ごしらえでしたが、おにぎり草との相性もよく、丼物というクリムゾンウェストの人々にとっては変わった食べ方も面白かったようです。
「とりあえず、食材余っているようですから、風にご馳走しませんか?」
少しだけ余ってしまった天丼をチラチラと見ながら、風が言いました。
「独り占めじゃなくて、みんなでだろ?」
ジャックが言いなおします。
「まあまあ、みんな今日は御苦労様。おかげで、何とか店を切り盛りすることができました。みんながいなかったら、いきなり開店休業になるところでしたよ。あはははは」
料理人の変更届けや、お見舞いなどで駆け回っていたオーナーが、閉店時間にやってきて、みんなをねぎらいました。
「そうそう、私も、その天丼という物を食べてみたいですね。なにせ、これからずっと売っていくんですから。ああ、今日のお店の繁盛の様子から、今期の営業許可が確定しました。これも、すべてみんなのおかげです」
オーナーが一同にお礼を言いました。
「じゃあ、お祝いだね。天丼七つ!」
「おお、任せとけ」
風の言葉に、渚とレオンがさっそく天丼を作り始めました。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/15 22:40:11 |
|
![]() |
相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/11/17 21:37:29 |