ゲスト
(ka0000)
意志を以って石を制す
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/18 12:00
- 完成日
- 2017/10/22 19:11
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンターオフィスで職員が、どこかおどけた調子で今回の依頼を説明する。以下、その全文である。
オーケイ。依頼の話をしようじゃないか。
諸君が対峙し、退治する敵−−−−もとは人間であった彼について。依頼遂行に必要なこと以外は語るつもりはないが、ゆっくり聴いて言ってくれたまえ。
今回の敵である彼は、強さに憧れを抱いていた。それもとても強烈な憧れだ。そして、彼にとって強さとは固さで、この地上もっとも強く固いものは、石だった。
例えば、風雨に晒されながら頑なにそこを動かず耐え忍ぶ山中の石。
例えば、蹴られてもただ黙し、そこにある路傍の石。
その姿にこそ彼は強さを見出したのだ。
彼は石を蒐集し始めた。己も石に近づけるように、石を拾って歩いた。
ついに彼は、自分も石になりたいと思い始めた。人の身のままではどうやったって石の強さには近づけない。石に近づくには石になるべきだ。彼はそう思い立ち、さっそく蒐集した石を飲み込み始めた。この時の彼の心境は、余人には理解できまい。
彼は、石を丸呑みしたために窒息して絶命した。彼は苦しみながらも息をするとこよりも石を食べることを優先させた。
なんたる執着であることか。
結果、彼はその身に石を宿した雑魔として現世に舞い戻ってきた。その思いをたたえて、彼のことは石男と呼ぶことにしよう。いつまでも代名詞では味気ないからね。
現在の彼は、森の中を遮二無二木を破壊して進んでいる。彼はどうやら、己の強さ、つまり固さを確認するために目につくものをとにかく破壊しているようだ。
未だ死人は出ていないものの、彼が街に到達した時、いかなる被害が出るかは想像に難くない。早急な討伐を諸君に要請する。
健闘を祈る。
オーケイ。依頼の話をしようじゃないか。
諸君が対峙し、退治する敵−−−−もとは人間であった彼について。依頼遂行に必要なこと以外は語るつもりはないが、ゆっくり聴いて言ってくれたまえ。
今回の敵である彼は、強さに憧れを抱いていた。それもとても強烈な憧れだ。そして、彼にとって強さとは固さで、この地上もっとも強く固いものは、石だった。
例えば、風雨に晒されながら頑なにそこを動かず耐え忍ぶ山中の石。
例えば、蹴られてもただ黙し、そこにある路傍の石。
その姿にこそ彼は強さを見出したのだ。
彼は石を蒐集し始めた。己も石に近づけるように、石を拾って歩いた。
ついに彼は、自分も石になりたいと思い始めた。人の身のままではどうやったって石の強さには近づけない。石に近づくには石になるべきだ。彼はそう思い立ち、さっそく蒐集した石を飲み込み始めた。この時の彼の心境は、余人には理解できまい。
彼は、石を丸呑みしたために窒息して絶命した。彼は苦しみながらも息をするとこよりも石を食べることを優先させた。
なんたる執着であることか。
結果、彼はその身に石を宿した雑魔として現世に舞い戻ってきた。その思いをたたえて、彼のことは石男と呼ぶことにしよう。いつまでも代名詞では味気ないからね。
現在の彼は、森の中を遮二無二木を破壊して進んでいる。彼はどうやら、己の強さ、つまり固さを確認するために目につくものをとにかく破壊しているようだ。
未だ死人は出ていないものの、彼が街に到達した時、いかなる被害が出るかは想像に難くない。早急な討伐を諸君に要請する。
健闘を祈る。
リプレイ本文
森に破砕音が響き渡る。
「きっとあれですね」
T-Sein(ka6936)が音源の方を見て言う。そこからはもうもうと砂塵が立ち上っていた。
「あんだけ派手にやってりゃ、簡単に見つかるわな」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が呆れたように言った。
「ひゅー! すごいじゃーん!」
ゾファル・G・初火(ka4407)が目を輝かせる。ゾファルにとって、石男の心境など理解できない。ただ、ちょっと固めで自律行動するサンドバックと考えたらなかなか楽しい敵かもしれないと思い、参戦したのである。
「そういえば、こう言ったシンプルに敵を倒せと言う依頼は初めてかもしれません。ザイン的にはグッドです」
と、ザインもまんざらではないらしく、ゾファルに向かって無表情のサムズアップをするのだった。
「おう。暴れるのが楽しみだぜー」
ゾファルもザインに向かってサムズアップを返すのだった。
「にしても固さが強さ、か……へぇー、それはすっごく試したくなるな」
各々戦闘に楽しみがあるらしく、ステラもまだ見ぬ強敵を想像して、それはそれは楽しそうに少女のような顔立ちで笑うのだった。
「森を破壊して進む、っていうのは看過できないわね。……いえ、別に、森じゃなければいいっていうものでもないのだけど……」
そんな中で、自分の言葉に首を傾げ、森を案じるラース・フュラー(ka6332)がいるのだった。
「早速行こうじゃん!」
ゾファルが急かす。
ハンターたちは粉塵と破砕音の発生源、討伐対象である石男のいる場所へと進み出した。
石男とは程なくして会敵した。人間の体に石をそこかしこに埋め込んだような、歪な形の人型。生前、彼が求めた強さとは、果たしてこのようなものだったのだろうか。
自分のテリトリーに踏み入ってきた異物たるハンターたちに貪婪な瞳を向ける石男。周囲は彼が破壊したために更地だ。戦闘に邪魔な障害物は一切ない。
石男は、ハンターたちに指先を向けると、そこからマシンガンよろしく石つぶてを発射した。しかし、それはハンターをかすめることすらなく、背後の森の木々を砕くだけだった。
今の攻撃が威嚇だったのか定かではなが、その程度で怯むハンターたちではない。
「それでは、参りましょう――――」
ラースの声ともに、ハンターたちは自分のポジションについた。
「――――殲滅執行」
駆け出す刹那、ザインが呟いた。途端、ザインの白い肌は褐色に染め替えられ、口調や性格が荒々しいものに変化する。
「がぁ!」
という掛け声とともに絶爪を放つザイン。後衛から気をそらさせるためだ。衝撃波が空気を切り裂いて、石男を蹂躙する。しかし、傷は浅い。
石男は、ザインに向かって走りだす。その体には石があまりに詰まっているのだろう、どすんどすんという足音が大地を振動させる。
「へへーん、俺さまちゃんの拳が固いか、奴の体の方が固いか試してやるジャン」
そこへゾファルが飛び出してきた。青龍翔咬波が一線、男の右足をかすめて戦場を駆け抜ける。
「ヘイヘイ、かかってこいよ石男。俺さまちゃんと喧嘩しようぜー」
ゾファルは、最前線にたって「かかってこい」とジェスチャーする。作戦上、ゾファルは敵を抑え込む役であるが、そんな我慢をしていられる彼女ではない。
「さっきのつぶて、もっかい撃ってみろよ。蹴り返してやるじゃん!」
石男それを聞いてか、目の前のゾファルに気を取られたのか、彼女に向かってつぶてを撃ち込んだ――――その刹那、ゾファルが笑った。
「もらったぁぁ!」
ゾファルは、突進するような前蹴りでつぶてを蹴り返した。
そのつぶては石男をかすめて後方の森へと消えていくのだった。
「惜しいじゃーん」
ゾファルは蹴り返したつぶての当たらなかったのを悔やんだ。
さらにつぶてが飛んできたところへ、ラースが割り込んだ。
「ゾファルさん、大丈夫ですか? あんまり無茶は――――」
「ひりつくような喧嘩がしたいじゃん? この程度序の口だにゃー」
ゾファルはなおも嬉々として戦闘に臨む。
それをみたラースはすこしため息をしつつ、盾を構え直した。
「――――私は皆様の盾になるまで。かかってきなさい」
ラースの体から、注視を促すマテリアルが湧き出る。
石男はそれに魅せられて、ラースに向かって突進の力を乗せた渾身の拳を振り抜いた。
石と盾、その2つがぶつかり合う異様な音が響き渡る。直撃すればただでは済まないその一撃をラースは受け止め、笑ってすらいた。
「……この程度ですか? この程度で最も強く固い存在を名乗るなんて、とてもとても」
事実、防御を最大にあげたラースは傷ついていないのだ。
石男はその巌の唇から、歯もすでに石となっているのだろう、石同士がこすれあうような、人間で言えばうめき声のような音を立てるのだった。
ステラは、敵から少し離れた位置で、射撃態勢をとっていた。それは防御を捨てた渾身の一撃のための布石だった。
「悪い、準備にしばらくかかる。それまで持ちこたえてくれ」
その言葉とともに、ステラは一層精神を集中させ、最高の一撃への道を登り始める。
「撹乱は任せろ。射撃は頼むぞ」
ザインが石男の胴に打撃を叩き込む。
「おっと、スキありじゃん! きりきり舞させちゃるっ」
石男の背後に現れたゾファルが風を纏う攻撃をお見舞いする。さらにラースは魔法威力が上乗せされた剣で斬りつけ、胸元をえぐりとった。
はらはらと、石男の体から砕けた石がこぼれた。
敵の防御はあつい。しかしダメージは確実に蓄積されている。
「時が来るまで、守り切ります」
ラースは静かに、さらに防御へ比重を増して戦いに臨む。
「こっちを見ろ、石ころ風情が!」
ザインの体に赤いラインがはしる。練り上げられた気は、防御すら突破する一撃を可能とした。
石男の内臓が衝撃のために撹拌される。
そして石男は、ついに蹲ってしまった。
「なんだい、もうギブアップ――――」
ゾファルが言ったその刹那、男の身体中から石つぶてが飛び出してきた。
そのつぶての嵐はさすがに回避叶わず、ザイン、ゾファル、ラースはあちこちに青あざを作った。
「――――ってえな! なかなかやるじゃん!?」
その光景を見ても、ステラは動かない。
それは仲間たちも重々承知している。
すべては最高の一撃、防御すら貫通する一撃のために費やされているのだから――――
その後、石つぶてによる猛攻が始まった。
つぶての嵐は、じわじわハンターたちの体力を削っていく。
「このまま終わるわけにはいきません。固いだけで戦いの行方は決しないのですから」
ラースの剣が、石男の体を斬りつける。ダメージは溜まっているはずだ。だが、あまりに敵がタフすぎる。
さらに、ザインが渾身の覇劫を打ち込む。
その時、ついにステラが告げた。
「オーケイ、準備は出来た。待たせたな――――」
ステラの弓が引き絞られる。たわむ弓。引き絞られるつる。きりきりなるその音は小鳥のさえずりにも聞こえる。
ステラの白い指から、ついに矢が放たれる。
空気を引き裂いて飛んだ矢は、はっしと石男の心臓に突き刺さった。
男はよろめく。しかし、よろめいただけ。石男は刺さった矢をばきりと折って投げ捨てた。
「……固さは伊達じゃないってか? 俺の力不足とはいえ、ちょっと凹むぜ」
「つまり、このサンドバックはまだまだ殴れるってことじゃん!」
ゾファルは止まらない。無数の傷を作りながらも、なおも立ち向かっていく。
「――――ああ、まだこいつで遊べるってことだ。思う存分実験台にさせてもらうぜ? 第2射の準備をする。それまで、また援護頼む」
「もちろんです」
ラースは盾となり味方の被害を肩代わりしていたので負傷が多い。しかし、弱気は一切見せず微笑みすら浮かべるのだった。
石男が大きく振りかぶって殴りつける。それをザインは身を屈め相手の懐に潜りこんで胸に拳を叩きつける。
石男はザインを払おうと、逆の手を振るう前にゾファルが男の背中を打ち付ける。そのまま、ゾファルは一旦離脱し相手の出方を伺っている。
接近するまでもない。石男にはつぶてがある。今まで無数の樹木を消しとばした石つぶて、それが前面に展開する。
その流れ弾がステラにもあたった。額に傷を作り血が流れるも、しかしステラは瞬き一つしない。再び、最高の一撃のために全てを捧げている。
石男も、つぶてで対応しているとはいえ、満身創痍だ。固さにも限界がきつつあった。
そこへ、
「チャーンス! くらいやがれぇぇぇ!」
叫びながら、ゾファルがウェスタンラリアットを石男にくらわせた。どうと重低音を響かせて男は倒れる。そこへゾファルはここぞとばかりに関節技をきめにかかった。
「おとなしくせい! さもないと関節がばきっといっちゃうぜ、ていうか、言わせてやるジャン!」
組み敷かれた石男にザインも突進する。
このためにとっておいた、一撃。
ザインの体に赤いラインが走る。
蒸気が噴出する。銀色のオーラが残像となり、ザインの軌跡に長い赤い髪が棚引いている。
「動く石ころごときに、負けるわけにはいかないんだよ!」
ザインの拳に気が、収束し、収斂し、そして劫火の如き奔流となって石男に打ち込まれる。
そして、ゾファルの技で回避は限りなく不可能に近い――――!
それは、もはや内臓が揺れるどころではない、焼き尽くされるような痛みが石男を支配した。
しかし、なおも男は暴れた。
ザインと拘束を解いたゾファルは、バックステップで距離を取る。
石男は生きている。
そこかしこに罅を生じさせながらも、四つん這いではあるが、動いている。
「どんだけ固いんだ、あのサンドバック!?」
「っ……、生意気な」
「――――! しまった、敵は石を食べています!」
そう、この敵の、石男が石男たる所以の執着。
強さを求め、固さへ――――石へ終着した故の、あの身体。
いま彼は、地面に無数に転がった石を飲み込むことで体力を回復していた。
みるみるうちに罅が埋められていく。
「させるか――――!」
ザインが敵へ殴りかかる。しかし、その攻撃は弾かれてしまった。
「なんて固さだ……!」
石男は、石を食べることで防御力すら上げていた。
男は、恨めしそうな瞳でハンターたちを見る。そして、ちょっと嬉しそうな気配をさせた。
きっと男は思ったのだ。自分をここまで追い詰められる敵を粉砕すれば、己の固さをもっともっと証明できる、と。
彼はついに立ち上がった。回復は完全ではない。しかし、その固さには磨きがかかっている。
風切り音すらさせる拳を男は振り抜く。やはりそれはラースが受け止めるも、彼女の体力も限界が近かった。ラースは剣を振るうが、石男には痛痒しない。
その後、何合か打ち合いがあったが、一切の攻撃が弾かれてしまった。
対して、ハンターたちは徐々にその体力を削っていく。
いまや、男は、石が顔の内側からぼこぼこと現れている醜い顔を得意にして、ハンターたちを嬲っていた。嬲ることに夢中になりすぎていた。
そして、ある瞬間がやってきた。
「次こそ、その命――――もらってくぜ」
ステラだ。射撃準備が整ったのだ。
そして――――それは石男の鉄壁の防御が途切れるとの同時であった。
仲間たちもそれに気づいた。そして、石男すらそれを察した。あの一撃を受ければ今度こそ死に至ると。
ステラへつぶてが襲い来る。しかし、それはラースが防いで、邪魔をさせない。
「うおらあああああ! もう1回くらいやがれええええ!」
再び、ゾファルのウェスタンラリアットが炸裂し、先ほどより精度のました関節技で敵を締め上げる。
そこへザインの拳も打ち込まれた。それは男の暴れる足に直撃し、それを砕いた。
ステラは額の傷口から流れた血をぺろりと舐めた。矢をそっと手に取り、ゆっくりと打ち起こす。
――――これは外せない。
――――いや、外さない。
――――求めるのは最高の一撃。
――――死を運ぶ最期の一撃。
リアルブルーにこんな話がある。赤い頭巾をかぶった女の子が狼に食べられてしまう。しかし、女の子は猟師に助け出され、狼はお腹に石を詰められて井戸にしずんでしまいました――――
ステラの赤ずきんが風に揺れた。
対するは偶然にも石を飲み込んだ男。
構えられる弓。再び引き絞られるつる。きりきりと張り詰めるその音は、今度は小鳥ではなく死の天使の羽ばたきに聞こえた。
「結構楽しかったぜ――――じゃあな」
ついに矢がつるを離れた。
その瞬間は、音すらなくなったかと思うほど緊迫した一幕だった。
矢は違わず、石男の喉を貫いた。
背後の木に深く突き刺さってようやく矢は止まる。
そして、石男の頭はごろりと地面に転がった。やがて、体もろとも石男は塵となって消えていくのだった。
強さを求め、それを石に頼んだ男は跡形も残さず現世をさってしまった。
かくして戦闘は終了した。
「皆のおかげで助かった。また機会があればよろしく頼む。お疲れだ」
そう言って、ザインは覚醒状態を解除した。すると、肌も白色に戻り、風采ももとの淡々としたものに戻る。
他のハンターたちも次々覚醒状態を解いていくのだった。
「純粋に強さを求めるのに種差別は無いしな――――」
手頃な木に寄りかかってステラは天を仰ぎつつ男のことを思っていた。
「うんうん、俺さまちゃんには細かいことはよくわからないけど、楽しかったからそれでいいじゃん」
ゾファルは伸びをして筋肉をほぐしながら言うのだった。
「――――ああ、強敵だったな」
そんな短い言葉で、ステラは敵を讃えた。人間でも雑魔でも歪虚でも、最強に憧れるのはどれも一緒なのだから。
「にしても、この森、元に戻るかしら……?」
ラースは傷だらけの自分より森の心配をしていた。エルフである彼女は森に対する情けが深いのであろう。
「でも、信じるしかないわよね」
そっと、木の根にふれてラースは未来のこの森の姿を思うのだった。
「シンプルな戦闘依頼……なるほど」
ザインはザインでこの依頼の感想を整理しているようだった。
こうして、石に強さを見出した男の人生は真に幕を閉じた。ハンターたちの意志よって。
その時、一陣の風が吹き抜けた。
砂が舞って、空へと登っていく。
もしかしたら、男の魂を連れ立っていったのかもしれない。
しばらくして、誰が言い出すでもなく、彼らはそっとこの森を去った。
あとには物言わぬ石が転がるばかりだった。
「きっとあれですね」
T-Sein(ka6936)が音源の方を見て言う。そこからはもうもうと砂塵が立ち上っていた。
「あんだけ派手にやってりゃ、簡単に見つかるわな」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)が呆れたように言った。
「ひゅー! すごいじゃーん!」
ゾファル・G・初火(ka4407)が目を輝かせる。ゾファルにとって、石男の心境など理解できない。ただ、ちょっと固めで自律行動するサンドバックと考えたらなかなか楽しい敵かもしれないと思い、参戦したのである。
「そういえば、こう言ったシンプルに敵を倒せと言う依頼は初めてかもしれません。ザイン的にはグッドです」
と、ザインもまんざらではないらしく、ゾファルに向かって無表情のサムズアップをするのだった。
「おう。暴れるのが楽しみだぜー」
ゾファルもザインに向かってサムズアップを返すのだった。
「にしても固さが強さ、か……へぇー、それはすっごく試したくなるな」
各々戦闘に楽しみがあるらしく、ステラもまだ見ぬ強敵を想像して、それはそれは楽しそうに少女のような顔立ちで笑うのだった。
「森を破壊して進む、っていうのは看過できないわね。……いえ、別に、森じゃなければいいっていうものでもないのだけど……」
そんな中で、自分の言葉に首を傾げ、森を案じるラース・フュラー(ka6332)がいるのだった。
「早速行こうじゃん!」
ゾファルが急かす。
ハンターたちは粉塵と破砕音の発生源、討伐対象である石男のいる場所へと進み出した。
石男とは程なくして会敵した。人間の体に石をそこかしこに埋め込んだような、歪な形の人型。生前、彼が求めた強さとは、果たしてこのようなものだったのだろうか。
自分のテリトリーに踏み入ってきた異物たるハンターたちに貪婪な瞳を向ける石男。周囲は彼が破壊したために更地だ。戦闘に邪魔な障害物は一切ない。
石男は、ハンターたちに指先を向けると、そこからマシンガンよろしく石つぶてを発射した。しかし、それはハンターをかすめることすらなく、背後の森の木々を砕くだけだった。
今の攻撃が威嚇だったのか定かではなが、その程度で怯むハンターたちではない。
「それでは、参りましょう――――」
ラースの声ともに、ハンターたちは自分のポジションについた。
「――――殲滅執行」
駆け出す刹那、ザインが呟いた。途端、ザインの白い肌は褐色に染め替えられ、口調や性格が荒々しいものに変化する。
「がぁ!」
という掛け声とともに絶爪を放つザイン。後衛から気をそらさせるためだ。衝撃波が空気を切り裂いて、石男を蹂躙する。しかし、傷は浅い。
石男は、ザインに向かって走りだす。その体には石があまりに詰まっているのだろう、どすんどすんという足音が大地を振動させる。
「へへーん、俺さまちゃんの拳が固いか、奴の体の方が固いか試してやるジャン」
そこへゾファルが飛び出してきた。青龍翔咬波が一線、男の右足をかすめて戦場を駆け抜ける。
「ヘイヘイ、かかってこいよ石男。俺さまちゃんと喧嘩しようぜー」
ゾファルは、最前線にたって「かかってこい」とジェスチャーする。作戦上、ゾファルは敵を抑え込む役であるが、そんな我慢をしていられる彼女ではない。
「さっきのつぶて、もっかい撃ってみろよ。蹴り返してやるじゃん!」
石男それを聞いてか、目の前のゾファルに気を取られたのか、彼女に向かってつぶてを撃ち込んだ――――その刹那、ゾファルが笑った。
「もらったぁぁ!」
ゾファルは、突進するような前蹴りでつぶてを蹴り返した。
そのつぶては石男をかすめて後方の森へと消えていくのだった。
「惜しいじゃーん」
ゾファルは蹴り返したつぶての当たらなかったのを悔やんだ。
さらにつぶてが飛んできたところへ、ラースが割り込んだ。
「ゾファルさん、大丈夫ですか? あんまり無茶は――――」
「ひりつくような喧嘩がしたいじゃん? この程度序の口だにゃー」
ゾファルはなおも嬉々として戦闘に臨む。
それをみたラースはすこしため息をしつつ、盾を構え直した。
「――――私は皆様の盾になるまで。かかってきなさい」
ラースの体から、注視を促すマテリアルが湧き出る。
石男はそれに魅せられて、ラースに向かって突進の力を乗せた渾身の拳を振り抜いた。
石と盾、その2つがぶつかり合う異様な音が響き渡る。直撃すればただでは済まないその一撃をラースは受け止め、笑ってすらいた。
「……この程度ですか? この程度で最も強く固い存在を名乗るなんて、とてもとても」
事実、防御を最大にあげたラースは傷ついていないのだ。
石男はその巌の唇から、歯もすでに石となっているのだろう、石同士がこすれあうような、人間で言えばうめき声のような音を立てるのだった。
ステラは、敵から少し離れた位置で、射撃態勢をとっていた。それは防御を捨てた渾身の一撃のための布石だった。
「悪い、準備にしばらくかかる。それまで持ちこたえてくれ」
その言葉とともに、ステラは一層精神を集中させ、最高の一撃への道を登り始める。
「撹乱は任せろ。射撃は頼むぞ」
ザインが石男の胴に打撃を叩き込む。
「おっと、スキありじゃん! きりきり舞させちゃるっ」
石男の背後に現れたゾファルが風を纏う攻撃をお見舞いする。さらにラースは魔法威力が上乗せされた剣で斬りつけ、胸元をえぐりとった。
はらはらと、石男の体から砕けた石がこぼれた。
敵の防御はあつい。しかしダメージは確実に蓄積されている。
「時が来るまで、守り切ります」
ラースは静かに、さらに防御へ比重を増して戦いに臨む。
「こっちを見ろ、石ころ風情が!」
ザインの体に赤いラインがはしる。練り上げられた気は、防御すら突破する一撃を可能とした。
石男の内臓が衝撃のために撹拌される。
そして石男は、ついに蹲ってしまった。
「なんだい、もうギブアップ――――」
ゾファルが言ったその刹那、男の身体中から石つぶてが飛び出してきた。
そのつぶての嵐はさすがに回避叶わず、ザイン、ゾファル、ラースはあちこちに青あざを作った。
「――――ってえな! なかなかやるじゃん!?」
その光景を見ても、ステラは動かない。
それは仲間たちも重々承知している。
すべては最高の一撃、防御すら貫通する一撃のために費やされているのだから――――
その後、石つぶてによる猛攻が始まった。
つぶての嵐は、じわじわハンターたちの体力を削っていく。
「このまま終わるわけにはいきません。固いだけで戦いの行方は決しないのですから」
ラースの剣が、石男の体を斬りつける。ダメージは溜まっているはずだ。だが、あまりに敵がタフすぎる。
さらに、ザインが渾身の覇劫を打ち込む。
その時、ついにステラが告げた。
「オーケイ、準備は出来た。待たせたな――――」
ステラの弓が引き絞られる。たわむ弓。引き絞られるつる。きりきりなるその音は小鳥のさえずりにも聞こえる。
ステラの白い指から、ついに矢が放たれる。
空気を引き裂いて飛んだ矢は、はっしと石男の心臓に突き刺さった。
男はよろめく。しかし、よろめいただけ。石男は刺さった矢をばきりと折って投げ捨てた。
「……固さは伊達じゃないってか? 俺の力不足とはいえ、ちょっと凹むぜ」
「つまり、このサンドバックはまだまだ殴れるってことじゃん!」
ゾファルは止まらない。無数の傷を作りながらも、なおも立ち向かっていく。
「――――ああ、まだこいつで遊べるってことだ。思う存分実験台にさせてもらうぜ? 第2射の準備をする。それまで、また援護頼む」
「もちろんです」
ラースは盾となり味方の被害を肩代わりしていたので負傷が多い。しかし、弱気は一切見せず微笑みすら浮かべるのだった。
石男が大きく振りかぶって殴りつける。それをザインは身を屈め相手の懐に潜りこんで胸に拳を叩きつける。
石男はザインを払おうと、逆の手を振るう前にゾファルが男の背中を打ち付ける。そのまま、ゾファルは一旦離脱し相手の出方を伺っている。
接近するまでもない。石男にはつぶてがある。今まで無数の樹木を消しとばした石つぶて、それが前面に展開する。
その流れ弾がステラにもあたった。額に傷を作り血が流れるも、しかしステラは瞬き一つしない。再び、最高の一撃のために全てを捧げている。
石男も、つぶてで対応しているとはいえ、満身創痍だ。固さにも限界がきつつあった。
そこへ、
「チャーンス! くらいやがれぇぇぇ!」
叫びながら、ゾファルがウェスタンラリアットを石男にくらわせた。どうと重低音を響かせて男は倒れる。そこへゾファルはここぞとばかりに関節技をきめにかかった。
「おとなしくせい! さもないと関節がばきっといっちゃうぜ、ていうか、言わせてやるジャン!」
組み敷かれた石男にザインも突進する。
このためにとっておいた、一撃。
ザインの体に赤いラインが走る。
蒸気が噴出する。銀色のオーラが残像となり、ザインの軌跡に長い赤い髪が棚引いている。
「動く石ころごときに、負けるわけにはいかないんだよ!」
ザインの拳に気が、収束し、収斂し、そして劫火の如き奔流となって石男に打ち込まれる。
そして、ゾファルの技で回避は限りなく不可能に近い――――!
それは、もはや内臓が揺れるどころではない、焼き尽くされるような痛みが石男を支配した。
しかし、なおも男は暴れた。
ザインと拘束を解いたゾファルは、バックステップで距離を取る。
石男は生きている。
そこかしこに罅を生じさせながらも、四つん這いではあるが、動いている。
「どんだけ固いんだ、あのサンドバック!?」
「っ……、生意気な」
「――――! しまった、敵は石を食べています!」
そう、この敵の、石男が石男たる所以の執着。
強さを求め、固さへ――――石へ終着した故の、あの身体。
いま彼は、地面に無数に転がった石を飲み込むことで体力を回復していた。
みるみるうちに罅が埋められていく。
「させるか――――!」
ザインが敵へ殴りかかる。しかし、その攻撃は弾かれてしまった。
「なんて固さだ……!」
石男は、石を食べることで防御力すら上げていた。
男は、恨めしそうな瞳でハンターたちを見る。そして、ちょっと嬉しそうな気配をさせた。
きっと男は思ったのだ。自分をここまで追い詰められる敵を粉砕すれば、己の固さをもっともっと証明できる、と。
彼はついに立ち上がった。回復は完全ではない。しかし、その固さには磨きがかかっている。
風切り音すらさせる拳を男は振り抜く。やはりそれはラースが受け止めるも、彼女の体力も限界が近かった。ラースは剣を振るうが、石男には痛痒しない。
その後、何合か打ち合いがあったが、一切の攻撃が弾かれてしまった。
対して、ハンターたちは徐々にその体力を削っていく。
いまや、男は、石が顔の内側からぼこぼこと現れている醜い顔を得意にして、ハンターたちを嬲っていた。嬲ることに夢中になりすぎていた。
そして、ある瞬間がやってきた。
「次こそ、その命――――もらってくぜ」
ステラだ。射撃準備が整ったのだ。
そして――――それは石男の鉄壁の防御が途切れるとの同時であった。
仲間たちもそれに気づいた。そして、石男すらそれを察した。あの一撃を受ければ今度こそ死に至ると。
ステラへつぶてが襲い来る。しかし、それはラースが防いで、邪魔をさせない。
「うおらあああああ! もう1回くらいやがれええええ!」
再び、ゾファルのウェスタンラリアットが炸裂し、先ほどより精度のました関節技で敵を締め上げる。
そこへザインの拳も打ち込まれた。それは男の暴れる足に直撃し、それを砕いた。
ステラは額の傷口から流れた血をぺろりと舐めた。矢をそっと手に取り、ゆっくりと打ち起こす。
――――これは外せない。
――――いや、外さない。
――――求めるのは最高の一撃。
――――死を運ぶ最期の一撃。
リアルブルーにこんな話がある。赤い頭巾をかぶった女の子が狼に食べられてしまう。しかし、女の子は猟師に助け出され、狼はお腹に石を詰められて井戸にしずんでしまいました――――
ステラの赤ずきんが風に揺れた。
対するは偶然にも石を飲み込んだ男。
構えられる弓。再び引き絞られるつる。きりきりと張り詰めるその音は、今度は小鳥ではなく死の天使の羽ばたきに聞こえた。
「結構楽しかったぜ――――じゃあな」
ついに矢がつるを離れた。
その瞬間は、音すらなくなったかと思うほど緊迫した一幕だった。
矢は違わず、石男の喉を貫いた。
背後の木に深く突き刺さってようやく矢は止まる。
そして、石男の頭はごろりと地面に転がった。やがて、体もろとも石男は塵となって消えていくのだった。
強さを求め、それを石に頼んだ男は跡形も残さず現世をさってしまった。
かくして戦闘は終了した。
「皆のおかげで助かった。また機会があればよろしく頼む。お疲れだ」
そう言って、ザインは覚醒状態を解除した。すると、肌も白色に戻り、風采ももとの淡々としたものに戻る。
他のハンターたちも次々覚醒状態を解いていくのだった。
「純粋に強さを求めるのに種差別は無いしな――――」
手頃な木に寄りかかってステラは天を仰ぎつつ男のことを思っていた。
「うんうん、俺さまちゃんには細かいことはよくわからないけど、楽しかったからそれでいいじゃん」
ゾファルは伸びをして筋肉をほぐしながら言うのだった。
「――――ああ、強敵だったな」
そんな短い言葉で、ステラは敵を讃えた。人間でも雑魔でも歪虚でも、最強に憧れるのはどれも一緒なのだから。
「にしても、この森、元に戻るかしら……?」
ラースは傷だらけの自分より森の心配をしていた。エルフである彼女は森に対する情けが深いのであろう。
「でも、信じるしかないわよね」
そっと、木の根にふれてラースは未来のこの森の姿を思うのだった。
「シンプルな戦闘依頼……なるほど」
ザインはザインでこの依頼の感想を整理しているようだった。
こうして、石に強さを見出した男の人生は真に幕を閉じた。ハンターたちの意志よって。
その時、一陣の風が吹き抜けた。
砂が舞って、空へと登っていく。
もしかしたら、男の魂を連れ立っていったのかもしれない。
しばらくして、誰が言い出すでもなく、彼らはそっとこの森を去った。
あとには物言わぬ石が転がるばかりだった。
依頼結果
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相談卓 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/10/15 13:42:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/14 22:47:38 |