とある農村の異種族事情

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2017/10/18 09:00
完成日
2017/10/24 23:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境のアルナス湖から南に流れるアルナス川の下流域の一角に、最近新しく農村が作られ始めた。
 ただ、その村は少し変わった環境にある。
 人間の村なのだが、近くにはリザードマンの集落があり、近くの森にはコボルドが住み、川には精霊までいる。
 だがそれぞれの種族は精霊とハンターの橋渡しにより、今のところ諍いなく暮らしていた。

 村の近くの川岸には小さな祠が作られていた。
 川の精霊を祭って3種族を精霊の元に結びつけるために人間が作ったものだ。
 だが、コボルドは精霊の存在や祈るという行為がどういうものかイマイチ分かっておらず、誰も祈らない。
 リザードマンは精霊を川に住む別種族の1種程度にしか思っていないので祈らない。
 なので今のところ祈っているのは人間だけである。
 今日も朝のお勤め前に村の住人達が祠の前で祈っている。
「……ねぇ、誰か精霊様を見た人っている?」
 ふと、村人の1人がそんな事を尋ねた。
 誰も首を縦に振らない。
「商人さんは見た事あるって言ってたよ」
「リザードマンやコボルドと話をつけたハンターは精霊様から加護を受けたらしいよ」
 しかし村人で見た者は1人もいない。
「本当にいるのかな……」
 村作りのために集まって住み始めて数ヶ月。
 この川には精霊がいると教えられたが未だに見た者がいないため、ちょっと疑わしく思えたらしい。
「精霊様は危険が訪れた時だけ現れて加護を授けてくださるんだよ」
 村長の女房で村のまとめ役的な女性(通称、女将)が声を上げる。
「だから精霊様が現れないって事は村が平和だって証さ。ほら、祈るよ」
 女将の言葉に納得したのか、皆が粛々と祈る。
(精霊様、今日も我らをお守りください……)
 祈り終わって顔を上げると、川の対岸にリザードマンの姿が見えた。
「あら、珍しい。トカゲさーん。おはよー」
 女将が声を掛けて手を振る。
 リザードマンはチラッとこちらを見たが、すぐに去っていった。
「女将さん、よくリザードマンなんかに声かけられるね」
 見ると、女将以外の村人は少し怯えた顔をしていた。
「トカゲさんも隣人さんだよ。挨拶ぐらい普通じゃないか」
「そうだけど……」
「でも、あの人達はちょっと怖いよね」
「うん。表情変わらないから何考えてるのか分からないし」
「あんたらワンちゃんとは仲良くしてるじゃないか」
 女将が呆れ顔で言う。
「だってトム君は可愛いし」
 トムとは群れで最も若い子供のコボルドで、人間にエサを貰って以来スッカリ懐き、トムという愛称で呼ばれている子だ。
「ロブは友好的で畑仕事も手伝ってくれるしな」
 ロブとはコボルドの群れのリーダーだ。
 人間慣れしているのか村人を恐れず、頼めば何でも手伝ってくれるので信頼されていた。
「でも他の子は逃げちゃうのよね~」
「近づいたら唸って威嚇してくる子もいるし」
 しかし他のコボルド達はこの2匹ほど人間慣れしておらず、未だ警戒している。
 人間がコボルドから危害を加えられた事は一度もなかったが、人間とコボルドも交流ができているとは言いがたかった。
(精霊様の元で誰もが仲良く暮らせる村。その実現への道のりは厳しそうだねぇ……)
 女将が心の中で呟く。
「ほら、今日も仕事始めるよー」
 女将はパンパンと手を叩くと皆を仕事に向かわせた。

 ここは川岸の肥沃な土地に畑を作るために作られた村だ。
 とはいえ、まだ畑はできていない。
 先日ようやく住む家ができあがり、開墾はまだ始めたばかりだ。
 農地とする土地は現在は草むらとなっている。
 なので長い年月を掛けて根を張った草を抜く、抜く、抜く。ひたすら抜く。
 邪魔は木は切り倒し、根を掘り出し、抜く。
 リアルブルーと違って機械重機のないクリムゾンウェストではそれらをほぼ全て人力で行う。
 かなりの重労働である。
 その重労働をコボルドも行っていた。
 コボルドとは畑を作る代わりに食料を与えるという契約を結んでいるからだ。
 そして強靭な足腰や爪を持ち合わせていて体力もあるコボルドの方が実は開墾作業は早かった。
「ワンちゃんは勤勉だねぇ~。あたしらも負けてらんないよ」
 しかしある日を境に働くコボルトの数が少し減った。
 それと同時期にトムも人前に姿を見せなくなった。
 それにコボルト達の雰囲気もおかしい。
 以前よりも警戒心が増したようで、何だかピリピリしている。
「どうしたんだろう……?」
「誰かコボルドとイザコザでも起こしたか?」
「まさか、トム君に何かしたんじゃないでしょうね!?」
 村人達は互いで原因を話し合ったが、誰もコボルトに何もしていないと分かる。
 そうなると原因がさっぱり分からない。
 トムは来なくなったがロブは来てくれていたので、ロブに何かあったのかと聞いてみた。
 もちろん言葉は通じないので、身振り手振りによる長い意思疎通の末、コボルドの群れに赤子が産まれた事が分かった。
 だから赤子を守るために働くものが減り、警戒して皆がピリピリしていたらしい。
 トムが来ないのは赤子が可愛くて側を離れないから
「そっか。あたしらが何かした訳じゃなかったんだね。良かった」
「それに赤ちゃんができただなんておめでたい事じゃない」
「でも、俺達は信用されてないってことだよな」
「え?」
「だって子供を守ってピリピリしてるって事は、俺達が攫うかもしれないって思われるって事だろ」
「そう……かもな」
「なんだか寂しいね」
 明るくなった場の雰囲気が再び少し暗くなる。
「なら、出産祝いに何か贈るってのはどうだい」
 そんな空気を払拭するように、女将が明るい声を上げた。
「出産祝い?」
「あたしらもワンちゃんの赤ん坊を気にかけてるって分かってもらうのさ。そうすれば今よりも信用してもらえるかもしれないだろ」
「そうね、いいかも」
「ま、何もしないよりはやった方がいいよな」
「それで、何を贈るんだ?」
「え~と……」
 皆で頭を捻る。
「乳の出の良くなる物とか?」
「イチジクとか?」
「そんなの辺境じゃ手に入らないよ」
「そもそも高くて買えないし」
「じゃあ肉とか?」
「でも村に肉の備蓄なんてないぞ」
「それなら狩りに行こうぜ」
「狩りなんて時間掛かるじゃない。その日の農作業どうするのよ」
「もちろん休みで」
「アンタ狩りにかこつけて休みたいだけじゃない。ダメ、狩り却下!」
「じゃあ魚を釣るか?」
「川はリザードマンがいるから、おっかなくって釣りなんてできねーよ」
「じゃあどうするのよ?」
「……」
「よし、それならハンターに決めてもらおう」
 皆黙る中、女将が提案する。
「ハンターに?」
「彼らならあたし達よりも亜人に詳しいから、きっと良い知恵や方法を教えてくれるさ」
「でも雇う費用はどうするのさ」
「商人さんに頼むよ。ここの村起こしは元々商人さんが始めた事だ。これくらいの費用は出してくれるさ」
 商人に話を通すとすぐに了承され、村が抱える異種族事情のためにハンターを迎える事となった。

リプレイ本文

「なぁ、はじめ。村にいるロブって、あン時のロブなのか?」
 村へ向かう道すがら、大伴 鈴太郎(ka6016)が保・はじめ(ka5800)に尋ねる。
「はい。背中に刀傷がありましたし、間違いなくロブでした」
 2人はロブがまだ群れのリーダーになる前、群れがゴブリンとの闘争に敗れて住処を追われた際に出会っている。
「やっぱそうなのか。俺のこと覚えててくれてっかな?」
 2人で当時の事を話していると遠方に村が見え始めてきた。
「あ、小さな祠があるニャス。あれが精霊ちゃん祀った祠ニャスね」
 ミア(ka7035)は祠に駆け寄ると、持参したお手製おむすびを1個お供えした。
「みんなのこと、見守っていてニャスよー」
 マリィア・バルデス(ka5848)は川を見渡してみたが、精霊の姿は見当たらない。
「……やっぱり姿は見せてくれないのね」
 少し残念に思っていると、祈り終わったミアが村に入っていったので自分も後に続いた。

 村に入ってすぐに目につくのは広大な農地。
 と言っても、今はまだ草を抜いただけの状態なので、単なる荒れ地のようにも見える。
「あんたらハンターさんかい? よく来てくれたね、待ってたよ」
 農地を見ていると、女将と呼ばれている村長の妻が出迎えてくれた。
「ミア、力になりに来たニャス。ヒトも、コボルドも、リザードマンも、お手てつないで仲良くまでは言わないニャスけど……」
 ミアがギュっと拳を握り、瞳に力を込める。
「でも、自分達以外の幸せを喜んで、ご近所の種族と小鳥が歌うみたいにお喋りして、楽しい毎日を過ごしてほしいと思うニャスよ」
「あはははっ! いいこと言ってくれるじゃないかい! 嬉しいよ、ありがとう」
 女将が満面の笑みでミアをギュっと抱きしめる。
 そうしていると他の村人もぞろぞろと集まってきた。
「ここって輪栽式農法だったりするのかしら?」
 マリィアが尋ねると村人達は首を傾げた。
「輪栽式……って何ですか?」
「簡単に説明すると、一定の期間毎に作る作物を変えつつ、土地を休ませる時には飼料用のクローバーを植える農法よ」
「作物を変えて作ったり土地を休ませたりはしてるよ。でも休ませる土地で飼料を育てたら休ませている意味がないんじゃないか?」
「クローバーの根に共生する根粒菌は空気中の窒素を取り込んで栄養分に変えるのよ。それを畑に漉き込んで栄養を与えるって農法もあるわ」
「こんりゅうきん?」
「チッソ?」
「って何だ?」
「空気の中に作物の栄養が浮いてんのか?」
「お前そんな話知ってるか?」
「いや、知らね」
 村人達がガヤガヤと話し始める。
「つまり、土地休ませる時にクローバー植えときゃ土地の栄養が増えるって事かい?」
 女将が聞いた話を簡単にまとめる。
「そういう事よ。そしてこのレンゲやマメ科の植物も根粒菌を持っているわ」
 マリィアがレンゲの種の入った麻袋を皆の前に置く。
「もしクローバー畑を作って輪栽式農法をする予定だったなら、代わりにレンゲでも良いんじゃないかと思って持ってきたんだけど……」
「へぇ~、レンゲがねぇ……」
「ホントかなぁ……」
 村人達は半信半疑といった様子だった。
「ついでにこれでミツバチに蜜を採らせて蜂蜜作りに役立てるところもあるわ」
「蜂蜜か……」
「本当に取れるなら副収入になるわね」
「でも養蜂までやってる余裕はまだないんじゃないか?」
「まぁ、ここは出来たばかりの村なんだから色々やってみようじゃないか。ハンターさん、教えてくれてありがとうね」
 女将はレンゲの種を受け取ると、マリィアに礼を言った。
「それで本題なんだけど、ワンちゃんへの出産祝いは何にすればいいかねぇ?」
「わりぃ、オレは魚を贈るぐらいしか思いつかねぇ」
「私も魚ぐらいしか……」
「僕もです……」
「赤ちゃん用のおくるみを贈るのが良いと思うニャス!」
 鈴太郎、マリィア、保が消極的な意見を述べる中、ミアが自信満々に言い放つ。
「おくるみ?」
「そうニャス。赤ちゃん大事ニャスもんね。あったかく優しく包んで抱っこしてあげると、赤ちゃんも喜ぶと思うニャス」
「なるほどねぇ~」
「いいんじゃないかな」
「よし! 女衆はおくるみ作り。男衆は畑作りだよ」
 女将の指示で村人が動き出す。
「ハンターさんは魚取りと畑仕事を手伝っとくれ」
「はい、力仕事なら任せてください」
 保は魔導鋸「オミクレー」を持って畑に向かった。
「ハンターさん変わった鎌を持ってんな。でも使いにくそうな形してないか?」
 村人の1人が興味津々な様子で尋ねてくる。
「これはこう使うんです」
 保がマテリアルを流し込むと内部の蒸気機関が作動して蒸気が噴出する。
 そして甲高い駆動音を響かせながら先端部の円盤刃が猛回転し始めた。
「危ないですから下がっててください」
 保は畑に起立している太さ1m程の木に魔導鋸を近づける。
 回転刃がバリバリと音を立てながら木の幹を削って喰い込んでゆく。
 そのまま切り進め、ある程度切れた所で幹を押すと、後は自重で折れて倒れた。
「凄い。あんな太い木をあっという間に……」
「ハンターさん! その鎌を譲ってください! それがあれば開墾が今より何倍も捗ります!」
 村長が希望に満ちた顔で懇願してくる。
「すみません。これマテリアルを使って動かすんで、たぶん覚醒者でないと扱えないと思います」
「そ、そんな……」
 希望に満ちた顔が落胆に変わる。
「それなら今日中に太い木はみんな切っていってくれ。まずはこっちだ」
 村人の1人が保の手を引く。
 その後、保は引っ張りまわされ、あちこちで木を切り続けた。

「鬼力みせるニャスよー!」
 ミアも農地に入り、生い茂っている草の一つを根元から掴む。
「ニャースっ!!」
 両足を踏ん張って気合と共に引く。
 鬼族の怪力故か意外と軽く抜け、勢いづいて尻もちをついてしまった。
「これなら片手でもいけるニャス」
 右手と左手で交互に掴んでは抜くを繰り返し、ミアは次々と草を引き抜いていった。
 鈴太郎もジャージと運動靴に着替えて農地に入る。
「みんな、ミミズが出たら釣りのエサに使うから捕まえといてくンねーか」
「いたニャス」
 ミアが早速捕まえて鈴太郎に手渡そうとする。
「いやいやいやいやいや! オレに渡さなくていーから! 籠にでも入れといてくれっ」
 鈴太郎はミミズから目をそらしながら後ずさった。
 どうやらこういう軟体系が苦手のようだ。
「なぁ、一番の力仕事って何だ?」
 鈴太郎が村人の1人に尋ねる。
「う~ん、木の根の引き抜きかな。こっちだよ」
 現場に行くと、周囲の土を掘り返された大きな切り株があった。
「こいつの根が深くてさ。これだけ堀り広げたのにまだ抜けないんだ」
「よっしぁ! 任せろ」
 鈴太郎は切り株を掴むと『怪力無双』を発動させて思いっきり引っ張った。
 重い手応えが返ってくる。
 木の根が頑強に抵抗しているのだ。
 しかし全力で引き抜き続けていると木の根がブチブチと断裂してゆき、切り株がジリジリと抜け始める。
「うりゃああぁぁl!!」
 最後には気合と共に一気に引き抜いた。
「うおぉっ!!」
「すげぇ!!」
「どうなってんだあの子の体っ!?」
 驚愕する村人に鈴太郎がドヤ顔を向ける。
「これぐらい楽勝だ。次の現場連れてけ」
 鈴太郎は更に7本の切り株を引き抜いたが、そこで『怪力無双』が切れる。
「わりぃ、これ以上は無理だ」
「いやいや十分だよ。ありがとう」
「はいこれ、頼まれてたミミズ」
「サンキュー。くまごろー、後の草抜き頼ンだぜ」
 鈴太郎はミミズの籠の入った持ってマリィアと川に向かった。
 後を任されたサポートロボット「くまごろー」は早速草抜きを開始。
 指のない丸い両手で草を挟み、抜く。
 びくともしない。
 フルパワー!
 ブチッ。
 挟んだ草が千切れた。
 挟む。
 フルパワー!
 ブチッ。
 挟む。
 フルパワー!
 ブチッ。
「あのぬいぐるみ、何やってるのかしら?」
「草抜き……かな?」
 フルパワー!
 ブチッ。
「でも抜けてないよね」
「うん」
「でも可愛いわ」
「うん、なんか和む」
 見ていた村人の顔に笑みが浮かぶ。
 くまごろーは草むしりには役立たなかったが、村人は和ませていた。


 川まで来た鈴太郎は早速釣りを始めようとしたのが。
 うにょうにょうにょ。
「ぅひぃ~……」
 蠢くミミズをどうしても掴めない。
「何を怖がってるのよ?」
「怖かねぇけどダメなンだよこういうの……すまねぇ代わり付けてくれ」
「仕方ないわねぇ」
 結局マリィアに付けてもらい、2人で釣り糸を垂らす。
 1時間経過。
「……釣れねぇな」
「そうね……」
 一向に釣れずく、手持ち無沙汰で風景を眺めていると2体のリザードマンが近づいてくるのが見えた。
「おーい、オレたち、ちっと魚釣りしてるだけなンだ。魚! 魚! なぁ、いいだろー? いいよな?」
 鈴太郎が大声を上げながら身振り手振りで状況を説明した。
 それで通じたのか、それとも元々2人に興味がなかったのか、リザードマンは通り過ぎていこうとする。
「あ、ちょっと待って」
 しかしマリィアが引き止め、彼らに歩み寄る。
 するとリザードマンは緊張感を漲らせ、密かに何時でも背中の槍を抜ける体勢を取った。
(どうして?)
 彼らの視線を追うと、マリィアの背負っている魔導銃「狂乱せしアルコル」を見ていた。
 今は和解したとは言え、ここのリザードマンは人間に襲われ闘った過去を持つ。
 見るからに殺傷力の高い大型銃を持つ者が近づけば警戒して当然だった。
(ヘタに刺激するのはまずいわね)
 マリィアはそれ以上近寄るのを止め、その場に屈み込んだ。
「ここだと全く釣れないのよ。どこか互いの生活圏の邪魔をせずに釣れる所を知らないかしら?」
 そして地面に書いた絵と身振りで説明する。
 リザードマンは少し悩んだようだが、やがて手招きすると歩き出した。
 2人で後について行くと、ある地点で止まって川を指差す。
「ここなら釣れンのか? サンキュウサンキュー」
「ねぇ、コボルドに小さい赤ん坊が生まれたの。あなた達も一緒にお祝いに行かない?」
 マリィアは再び地面の絵と手振りで説明しながら誘った。
 だがリザードマンは何も言わずに立ち去ってしまう。
 彼らはコボルドと交流する気はなく、祝う理由もないからだ。
 それにリザードマンは別れ際までマリィアを警戒していて、信用もされていなかったように感じた。 
「お祝いにかこつけた交流が始まればいいと思ったのだけど……」
 マリィアが寂しそうにリザードマンの背を見送る。
「だって勤勉なコボルドの子がみんなの架け橋になるのも素敵じゃない。子供の笑顔って種族を超えると思うのよ」

 マリィアと鈴太郎が釣りから帰ってくると、祝い品のおくるみが出来上がっていた。
「コレ焼いて持っていこうぜ。美味い匂いさせた方が何持ってきたか分かっていいだろ」
 鈴太郎の提案で魚を焼くと、その匂いが辺りに漂う。
「よし焼けた。へへっ、美味そうな匂いしてるぜ」
「おくるみはミアが持っていくニャス。コボルドの赤ちゃんにも会いたいニャスー!」
「村人が主体となってコボルドとの接点を作った方がいいので、村からも誰か行きませんか?」
「心配すンな。オレ達がついてンだから平気だって!」
「なら、アタシが行くよ」
 保が尋ね、鈴太郎が太鼓判を押すと、女将が手を挙げる。
「この村の問題なのに、ハンターさんだけに任せる訳にはいかないからね」
「それなら俺も」
「私も行くわ」
 女将に続いて他の村人も何人か手を挙げた。

 皆でぞろぞろと森へ向かうと、コボルド達が何事かと騒ぎ警戒し始める。
 そんな中、ロブが皆の前に進み出てきた。
「マジであン時のロブだっ! ちゃんと生きてたンだな、そっかそっか。それに人間と仲良くやれてンだなぁ。ミミカにも教えてやりてぇよ」
 ロブは感慨にふけって自分に話しかけてくる鈴太郎を不思議そうに見た。
「ぁ~、やっぱ覚えちゃいねーか。ま、そんな事より子供が産まれたンだってな。だから出産祝い持ってきたンだよ」
 鈴太郎はブラシを取り出し、くまごろー相手に使ってみせた。
「お前にもやってやンよ」
 続いてロブもブラッシング。
 特に嫌がる素振りも見せず、大人しくしている。
「どうだ? 気持ちいーだろ。これを赤ん坊にしてやれ」
 通じたかは分からないが、ブラシは受け取ってくれた。
「このおくるみも渡したいのニャス。赤ちゃんの所に案内して欲しいニャス」
「美味い魚もあるんだ。通してくれないかい?」
 身振り手振りも加えて懸命に頼むと、ロブは長く悩んだ末に案内してくれた。
 大人数で行っても警戒させるので、ミアと女将だけついて行く。
 森の奥には草で作った寝床があり、そこに2匹の赤子を抱いたコボルドがいた。
「初めましてニャスネ。ミアはミアニャス! あくしゅー、ニャス」
 ミアが挨拶して握手を求めると、母親は牙を剥いて威嚇してきた。
「赤ちゃん可愛いニャスね~♪ このおくるみ着るともっと可愛くて暖かくなるニャスよ~」
 でもミアはめげず、連れてきたペットの猫を実際におくるみでくるんで、抱っこしてみせる。
「ほーら、暖かいニャス~。可愛いニャス~。その子にも着せて欲しいニャス~」
 おくるみを渡そうとしたが、母親はまた牙を剥いてきた。
「なら、おむすびはどうニャスか? 美味しいニャスよ」
 ミアは持参したおむすびを食べ、相手にも進めた。
 やはり牙を剥かれた。
「ダメなのかねぇ……」
 女将が諦めかけたその時、子供のコボルドのトムが近寄ってきた。
「お前もおむすび食べるニャスか?」
 トムに渡すと美味しそうに食べ始める。
「これもどうだい?」
 嬉しくなった女将が焼き魚を渡すとペロリと平らげた。
 そしてトムはおくるみを指差してくる。
「貰ってくれるのニャス?」
 おくるみを貰ったトムは赤ちゃんの元へ行き、四苦八苦しながら包むと母親に手渡した。
 母親は匂いを嗅いだり、おくるみを引っ張ったりしていたが、そのまま抱いてくれる。
「気に入ってくれたみたいニャス!」
「良かったー!」
 ミアと女将は思わず安堵の笑みをこぼした。
「おむすびもどうニャスか?」
 おむすびも渡すと、トムを介してだが受け取ってくれた。
「これも食べて栄養つけな」
 女将の魚も食べてくれた。
 するとその様子を見ていた別のコボルドも食べ物を求めてやってきた。
「欲しいなら森の外にいっぱいあるから来てくれるかい」
 2人は森の外までコボルド達を案内し、他の村人と共に食べ物を渡してゆく。
 最初は警戒していたコボルド達だが、すぐに危険はないと分かったのか手渡しでも受け取っていった。
 こうして多くのコボルドが人間は危険ではない優しい生き物だと知り、以前より警戒しなくなったのである。

 そして今では。
「ワンちゃんおはよ~」
『ワォン』
 挨拶をすれば返事と共に手と尻尾を振り返してくれる。
 それぐらい近しい隣人になっていた。

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MVP一覧

  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミアka7035

重体一覧

参加者一覧

  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/17 22:47:29
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/10/18 00:29:18
アイコン 質問卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/10/17 19:07:23