ゲスト
(ka0000)
【幻視】アフター・ザ・レイン【界冥】
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/21 15:00
- 完成日
- 2017/10/23 06:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※要注意※
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD【幻視】Black Storm【界冥】との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
何故、こうなったのか。
気付けば、事態は大きく動いていた。
イェルズ・オイマト(kz0143)が鎌倉の戦いの中で連れ去られ、命の危険がある事。
そのイェルズがアレクサンドル・バーンズ(kz0112)の手によって契約者となっている可能性がある事。
そして、イェルズが富士山麓にある廃病院に潜伏していた事。
一連の事件で激昂し、鬼気迫るバタルトゥ・オイマト(kz0023)は、ハンターと共に富士山麓へやってきた。
イェルズを救う為。
そして、この事態を引き起こしたアレクサンドルに引導を渡す為に――。
●
「気持ちは分かりますが……彼があそこまで冷静さを失うとは思いませんでした」
バタルトゥを追ってやってきたヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、そう言いながらリアルブルーへ訪れるまでの状況をハンターに説明する。
アレクサンドルの所業に怒りを露わにしたバタルトゥは、各方面へ調査を打診。地球統一連合軍からの連絡でイェルズの居場所が判明した途端、瞬く間にリアルブルーへやってきた。部族会議の首長として好ましい行動とは言い切れないが、それは他者への慈しみを忘れない人間の証なのかもしれない。
「あの激昂ぶりは特筆に値します。私も怒らせないようにしないといけませんね。
それにしても彼は案外、子供っぽくて危ういですね。このまま放っておくのも興味深いのですが、死なれてはとても困ります。もう少し部族会議の首長として自覚を持って頂きたいのですがねぇ。
仕方ありません。私は部族会議の補佐役として彼を支えるべきでしょうね」
岩場に隠れながら、ヴェルナーとハンター達はそっと顔を覗かせる。
山のように隆起した崖。その上には石造りの砦が鎮座している。
砦の壁にある狭間からは、大きな銃身らしきものがこちらへ向けられていた。
「『若宮砦』――地球統一連合軍からの報告で、そのように呼称されていました。
あの壁の穴からこちらを狙っている物は、銃座を持つ小型VOID砲だそうです。近づけば誰彼構わず銃弾の雨を振らせるのでしょうね」
「あの砦の奥にある鉄塔は何ですか?」
傍らにいたハンターが、砦の奥にある不自然な鉄塔を指さした。
普通に砦内に立てられた鉄塔なのだけなのだが、電線も無ければ電気系の施設もない。よく見れば拡声器のようなものが取り付けられている。
「先に廃病院へと向かったハンターによれば、あのオブジェがサイレンを鳴らして歪虚を呼び集めるそうです。
廃病院周辺の歪虚はあのオブジェに呼ばれたのかもしれません。ならば、我々はあのオブジェ破壊を最優先にするべきでしょうね」
ヴェルナーは、離れた場所から若宮砦と鉄塔を見上げている。
あの鉄塔がある限り、狂気の群は無尽蔵にやってくるだろう。それは廃病院へ向かったバタルトゥにとっても負担となる。
ヴェルナーはここで鉄塔を破壊する事で、バタルトゥの負担を軽減しようとしていた。
「おそらく、コーリアスが残した兵器でしょうが……亡くなってまで迷惑をかけるとは困った人ですね。……あ、人ではありませんでしたか」
「早速『壁走り』で崖を一気に駆け上がりますよ。中と外から一気に攻めれば早いです」
別のハンターが若宮砦の攻略で提案してきた。
若宮砦は8メートル程の崖の上に築かれている。まさに絶壁な崖なのだが、壁走りで崖を駆け上がれば超えられない高さではない。
しかし、ヴェルナーはその案を却下する。
「止めておいた方が良いと思いますよ」
「何故です?」
「これもバタルトゥさんと共に先行したハンターからの報告なのですが、どうやら砦下の崖に近付くと爆発物を落とすようです」
「!?」
「正確には、何かに接触すると爆発する『爆弾型狂気』と称するべきでしょうか。崖に近付けば砦からそれが落とされます。爆弾の雨の中を壁走りされるのは、オススメしませんよ?」
先行していたハンターから若宮砦に関する情報が幾つかもたらされていた。
廃病院の敷地で北に位置する若宮砦は、崖の上からタレット式小型VOID砲を三門配備。射程距離は15メートル程で、それ以降は命中精度が極端に落ちるようだ。
だが、砦の中にいる狂気がこちらに気付けば、距離を無視して攻撃を仕掛ける。命中精度が低くても、当たればダメージとなる。おまけに次々とエネルギー弾を放ってくる為、下手に前に出ればダメージとなりかねない。
さらに砦のある8メートルの崖に接近すれば、爆弾型狂気を放ってくる。
触れれば周囲1メートルを巻き込んで爆発する危険な狂気。触らなければどうという事はないが、地面でも何かに触れれば爆発する仕組みだ。
「困りましたね。時間をかければそれだけサイレンが敵を呼び寄せます。鉄塔破壊は地球統一連合軍からいただいた爆弾を仕掛ければ良いのですが……やはり遠回りするしかありませんか」
ヴェルナーの視界には横に続く崖を見ていた。爆弾の降らない場所から登り、砦へ侵入する手段を考えているようだ。
だが、この手段でも無傷とは言えない。
登攀中にVOID砲が攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
さらに崖を登り切ったとしても、狂気の眷属が多数徘徊している。もっと離れた安全な場所から登る事もできるが、その場合は移動に時間がかかる事になる。
「おそらく、崖を登ってもVOID砲は設置されているでしょうね。
リアルブルーには興味ありましたが、まさかこのような形で来るとは思いませんでした。今度はゆっくり観光したいのですが、まずは彼が残した『試練』を乗り越えるとしましょうか」
同時攻略シナリオとなりますので、猫又ものとSSD【幻視】Black Storm【界冥】との同時参加はシステム上可能ではありますが、同時参加なさいませんようお願いします。
万が一同時参加となった場合は当シナリオが優先となり、イベシナには参加出来なかったという描写になります。
何故、こうなったのか。
気付けば、事態は大きく動いていた。
イェルズ・オイマト(kz0143)が鎌倉の戦いの中で連れ去られ、命の危険がある事。
そのイェルズがアレクサンドル・バーンズ(kz0112)の手によって契約者となっている可能性がある事。
そして、イェルズが富士山麓にある廃病院に潜伏していた事。
一連の事件で激昂し、鬼気迫るバタルトゥ・オイマト(kz0023)は、ハンターと共に富士山麓へやってきた。
イェルズを救う為。
そして、この事態を引き起こしたアレクサンドルに引導を渡す為に――。
●
「気持ちは分かりますが……彼があそこまで冷静さを失うとは思いませんでした」
バタルトゥを追ってやってきたヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、そう言いながらリアルブルーへ訪れるまでの状況をハンターに説明する。
アレクサンドルの所業に怒りを露わにしたバタルトゥは、各方面へ調査を打診。地球統一連合軍からの連絡でイェルズの居場所が判明した途端、瞬く間にリアルブルーへやってきた。部族会議の首長として好ましい行動とは言い切れないが、それは他者への慈しみを忘れない人間の証なのかもしれない。
「あの激昂ぶりは特筆に値します。私も怒らせないようにしないといけませんね。
それにしても彼は案外、子供っぽくて危ういですね。このまま放っておくのも興味深いのですが、死なれてはとても困ります。もう少し部族会議の首長として自覚を持って頂きたいのですがねぇ。
仕方ありません。私は部族会議の補佐役として彼を支えるべきでしょうね」
岩場に隠れながら、ヴェルナーとハンター達はそっと顔を覗かせる。
山のように隆起した崖。その上には石造りの砦が鎮座している。
砦の壁にある狭間からは、大きな銃身らしきものがこちらへ向けられていた。
「『若宮砦』――地球統一連合軍からの報告で、そのように呼称されていました。
あの壁の穴からこちらを狙っている物は、銃座を持つ小型VOID砲だそうです。近づけば誰彼構わず銃弾の雨を振らせるのでしょうね」
「あの砦の奥にある鉄塔は何ですか?」
傍らにいたハンターが、砦の奥にある不自然な鉄塔を指さした。
普通に砦内に立てられた鉄塔なのだけなのだが、電線も無ければ電気系の施設もない。よく見れば拡声器のようなものが取り付けられている。
「先に廃病院へと向かったハンターによれば、あのオブジェがサイレンを鳴らして歪虚を呼び集めるそうです。
廃病院周辺の歪虚はあのオブジェに呼ばれたのかもしれません。ならば、我々はあのオブジェ破壊を最優先にするべきでしょうね」
ヴェルナーは、離れた場所から若宮砦と鉄塔を見上げている。
あの鉄塔がある限り、狂気の群は無尽蔵にやってくるだろう。それは廃病院へ向かったバタルトゥにとっても負担となる。
ヴェルナーはここで鉄塔を破壊する事で、バタルトゥの負担を軽減しようとしていた。
「おそらく、コーリアスが残した兵器でしょうが……亡くなってまで迷惑をかけるとは困った人ですね。……あ、人ではありませんでしたか」
「早速『壁走り』で崖を一気に駆け上がりますよ。中と外から一気に攻めれば早いです」
別のハンターが若宮砦の攻略で提案してきた。
若宮砦は8メートル程の崖の上に築かれている。まさに絶壁な崖なのだが、壁走りで崖を駆け上がれば超えられない高さではない。
しかし、ヴェルナーはその案を却下する。
「止めておいた方が良いと思いますよ」
「何故です?」
「これもバタルトゥさんと共に先行したハンターからの報告なのですが、どうやら砦下の崖に近付くと爆発物を落とすようです」
「!?」
「正確には、何かに接触すると爆発する『爆弾型狂気』と称するべきでしょうか。崖に近付けば砦からそれが落とされます。爆弾の雨の中を壁走りされるのは、オススメしませんよ?」
先行していたハンターから若宮砦に関する情報が幾つかもたらされていた。
廃病院の敷地で北に位置する若宮砦は、崖の上からタレット式小型VOID砲を三門配備。射程距離は15メートル程で、それ以降は命中精度が極端に落ちるようだ。
だが、砦の中にいる狂気がこちらに気付けば、距離を無視して攻撃を仕掛ける。命中精度が低くても、当たればダメージとなる。おまけに次々とエネルギー弾を放ってくる為、下手に前に出ればダメージとなりかねない。
さらに砦のある8メートルの崖に接近すれば、爆弾型狂気を放ってくる。
触れれば周囲1メートルを巻き込んで爆発する危険な狂気。触らなければどうという事はないが、地面でも何かに触れれば爆発する仕組みだ。
「困りましたね。時間をかければそれだけサイレンが敵を呼び寄せます。鉄塔破壊は地球統一連合軍からいただいた爆弾を仕掛ければ良いのですが……やはり遠回りするしかありませんか」
ヴェルナーの視界には横に続く崖を見ていた。爆弾の降らない場所から登り、砦へ侵入する手段を考えているようだ。
だが、この手段でも無傷とは言えない。
登攀中にVOID砲が攻撃を仕掛けてくる可能性もある。
さらに崖を登り切ったとしても、狂気の眷属が多数徘徊している。もっと離れた安全な場所から登る事もできるが、その場合は移動に時間がかかる事になる。
「おそらく、崖を登ってもVOID砲は設置されているでしょうね。
リアルブルーには興味ありましたが、まさかこのような形で来るとは思いませんでした。今度はゆっくり観光したいのですが、まずは彼が残した『試練』を乗り越えるとしましょうか」
リプレイ本文
(この環境でできるだけ急げってか? 無茶言うぜ、ほんと)
龍崎・カズマ(ka0178)は、心の中で思わず愚痴った。
背にしている岩の向こうでは、崖の上から小型VOID砲が狙っている。
崖の高さは8メートル程。
この状況下でハンター達は小型VOID砲の攻撃を掻い潜り、8メートルの壁を登ろうとしている。
あまりにも無茶な作戦だが、この無茶な状況を無理矢理にでも押し通さなければならない事情があるのだ。
「龍崎さんも確認されたと思いますが、迂回して安全なルートを取る事も可能です。ですが、事は急を要します。少しでも早く鉄塔を破壊しなければなりません」
部族会議首長補佐役ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、小声でハンターに話し掛けた。
『天命輪転』アレクサンドル・バーンズ(kz0112)に連れ去られたイェルズ・オイマト(kz0143)を救出すべく動き出したバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
その身を案じたヴェルナーは、共に富士山麓にあるアレクサンドルの隠れ家『富士若宮総合病院跡地』へ足を踏み入れたのだ。
「ヴェルナーは裏方や指揮が専門だと思っていた」
ジーナ(ka1643)は、ヴェルナーにそう返した。
その言葉にヴァルナーはにこやかに笑顔で応える。
「おや。私は今でもそうですよ?」
「そうかな。バタルトゥを助ける為にここまでやってきている時点で、裏方とはとても思えない」
ジーナからすればヴェルナーがバタルトゥへ助ける為とはいえ、ヴェルナー自らリアルブルーまで来ると思っていなかった。
ジーナの考えに対してヴァルナーは思わぬ言葉を投げかける。
「こうも考えられませんか? バタルトゥさんの身を案じるフリをして、私がリアルブルーへ視察にきた。このリアルブルーの技術を我が帝国へ持ち帰る事ができれば、帝国は強大な力を手に入れられる」
「……冗談はやめておけ」
ヴェルナーの言葉を龍崎が止めた。
本当にそう思っているのであれば、このタイミングである必要がまったくない。
クリムゾンウェストにはサルヴァトーレ・ロッソも存在する。エバーグリーンならともかくリアルブルーの技術なら連合軍を通してサルヴァトーレ・ロッソからでも入手できる。
「バレてしまいましたか。迫真の演技でしたでしょう、ジーナさん?」
「色々と持ってきた装備は無駄にならなそうだ」
作戦指揮を行っていたヴェルナーがこの調子ならば、対アレクサンドル用の装備も無駄にならずに済みそうだ。
「崖を登って敵を強襲か。一昔前の攻城戦のノリか」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は、今の影から周囲を警戒する。
崖の上には若宮砦と呼ばれる敵の拠点。
その中から生えている大きな鉄塔。
サイレンを流す拡声器が取り付けられ、時折耳障りなサイレンを撒き散らしている。
あのサイレンが周囲の敵を呼び寄せている状況をハンター達は何とか止めなければならない。
「VOID砲はあそこは……」
ロングボウ「レピスパオ」を手にアバルトは砦の小型VOID砲の場所を視認する。
見える範囲では全部三門。その三門の攻撃を仲間が崖を登るまで注意を惹かなければならない。言い換えれば、三門の攻撃を躱しながら注意を惹いて仲間への攻撃をたった一人で減らさなければならない。
「辛い役目ですが、大丈夫ですか?」
「無理しない範囲で挑むだけだ」
ヴェルナーの言葉に、アバルトはそう返した。
「あ、あの……。せっかくのリアルブルー……このような形ではもったいないの、ですね。早くおわらせてしまいたいの……」
桜憐りるか(ka3748)は、ヴェルナーの直ぐ近くに居た。
意識した訳ではない。小型VOID砲の攻撃から隠れる為に動いていたが、気付けばヴェルナーが隠れる同じ樹木となってしまった。
りるかは自分の鼓動の高鳴りに気付いていた。
震える体。これだけ近ければヴェルナーの体温を感じてしまいそうだ。
「ふふ、そうですね。このような形でなければ……おや、どうしました?」
一瞬、ぼーっとしてしまうりるか。
その様子にヴェルナーは声をかけた。
ヴェルナーの一言でりるかは現実へ引き戻される。
「……え? あ……あの、冷静さは大切なの、ですね」
「そうですね。いつもは冷静なのですが、バタルトゥさんにも困ったものです」
「ふーん、そういう事か」
りるかとヴェルナーのやり取りを見ていたルベーノ・バルバライン(ka6752)。
何かを察したかのように二人をまじまじと見つめる。
ヴェルナーは笑顔を絶やすことなくルベーノへ聞き返した。
「何か?」
「いや、なんでもねぇ。それより意外と毒があるな、ヴェルナー」
「はい?」
聞き返すヴェルナー。
ルベーノは、話はこうだ。
バタルトゥにとって一族の民はすべて自分の家族のようなもの。
まして自分より若い民は孫子のようなもの。
あの程度まで抑えられる族長の方が見事ではないか。
「まあ、お前はとことん人の心の機微に疎い朴念仁のようだから、仕方ないかもしれんな」
大きく息を吐き出すルベーノ。
りるかの気持ちに察しているのか分からない朴念仁のヴェルナーに対して痛烈な指摘である。
だが、ヴェルナーの視点はルベーノと異なるもののようだ。
「酷い言われようですね。ルベーノさんのご指摘は族長としての意見です。
お忘れですか? バタルトゥさんは部族会議の首長です。一つの部族ではなく、複数の部族をまとめる存在です。そのような方が倒れたら、再び各部族はバラバラに……」
そう言い掛けた瞬間、ヴェルナーの足下に広がる落ち葉が跳ねた。
小型VOID砲がこちらに気付いて射撃を開始したようだ。
一門が反応すれば、他の二門も呼応。
VOID砲の嵐がハンター達を襲う。
「おい! 何やってるか分からねぇが、時間がねぇんだろ? さっさと行こうぜ!」
岩井崎 旭(ka0234)は、ヴェルナーに言葉をぶつけた。
こうして話している間にも、バタルトゥは戦っている。
少しでも早く鉄塔を破壊しなければならないのだ。
「行け。ここは任せろ」
隠れながら、アバルトは小型VOID砲へ向けてレピスパオで反撃する。
ハンター達が崖へ向かう時間を稼ぐつもりのようだ。
「皆さん、参りましょう」
ヴァルナーと共に、ハンター達は一斉に前へ進み始めた。
●
アバルトは、呼吸を抑えながら岩の影へと滑り込んだ。
ハンター達が崖へ向かって数分。
今の所小型VOID砲は三門ともアバルトへ注意を向けている。
少し離れれば命中精度が落ちる事はアバルトも体感している。しかし、三門同時に相手となれば少々厄介だ。狙い撃ちは難しいのだろうが、弾幕としては十分機能している。
おかげでアバルトは反撃するのも厳しい状況だ。
(だが、それでいい。こちらに注意を向けてさえくれればな)
岩に背を預けながらレピスパオでチャンスを窺う。
三門の小型VOID砲が攻撃の止んだ一瞬を狙って矢を放った。
冷気を纏った矢が小型VOID砲へ突き刺さる。
次の瞬間、小型VOID砲の攻撃スピードが低下する。
だが、それはアバルトの居場所を教えているとの同じだ。残り二門がアバルトの隠れる岩へ攻撃を集中させる。
(近づき過ぎれば射撃精度が向上する上、砦の真下は爆弾型狂気が落下か)
アバルトは一定の距離を保っていた。
あくまでも優先すべきは崖へ登る仲間が攻撃を受けないようにする事。
その為に小型VOID砲の注意を惹かなければならない。
「なるべく急いでくれるとありがたいのだがな」
アバルトを狙う三つの砲門は、今もアバルトへ熱い弾丸を放ち続けている。
●
「急げ。一気に登るぞ」
崖前に来た龍崎は、崖に足をかけて登り始める。
ただ、よじ登るのではない。
重力を無視して地面と水平になって登り始めた。
グラヴィティブーツ「カルフ」により、壁歩きで壁に張り付いて歩き始めたのだ。
移動可能は1分。その間に8メートルの壁を登らなければならない。
「鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
祖霊に祈りを捧げたジーナは、現界せしもので巨大化。
体を巨大化させて仲間を崖の中程まで進ませようというのだ。
りるかの体をそっと握るジーナ。
「あ、ありがとう……ございます」
感謝の言葉を述べるりるか。
4メートル程のサイズとなったジーナに助けられ、りるかは壁の中腹辺りから登り始める。
能力を有効に使ったジーナの策により、普通に登攀するよりも早く上れそうだ。
だが、この策を超える方法を編み出した者達がいる。
「時間がねぇんだろ? だったらもっと早い方法があるじゃねぇか」
「これは興味深いですね。それはその通りなのですが、ジーナさんよりも早い方法があると仰いますか」
岩井崎の言葉に興味を示すヴェルナー。
事前に案を聞いていたジーナと龍崎は、聞かなかった事にして黙々と壁を登っていく。
それに対して岩井崎は自信満々に応える。
「決まってる。あの崖の上へ『投げれば』いいんだ」
岩井崎の作戦は剛速球だった。
現界せしもので巨大化した後、怪力無双で味方を崖上へ一気に持ち上げようというのだ。
ジーナの作戦にかなり近いが、持ち上げられる側のリスクを無視すれば投げるという手段を執る事ができる。
「それはなかなかユニークな作戦ですね」
「いいだろう。この俺で試すといい。持ち上げるなんてみみっちい事は言わねぇ。思いっきり崖上へ投げ込んでみせろ」
そう言って前に出たのはルベーノ。
自ら岩井崎の弾丸へと志願するのだが、当の岩井崎はあまり芳しくない顔色だ。
「え。あんたを投げるの? 無茶だろ。重いじゃねぇか」
岩井崎の指摘はもっともだ。
装備だけ見ても一番軽いりるかと比較して二倍程の差がある。りるかならば可能だったかもしれないが、依頼を受けた参加者の中でも屈指の重さを誇るルベーノを投げるとなればリスクはかなり高くなる。
だが、当のルベーノは自信満々だ。
「なぁに、俺達格闘士には金剛不壊がある。そんな大怪我だろうが、死にはせん。試せる者は何でも試したいぞ。何しろ早ければ早い方が良いのだからな」
まさに脳筋。受ける被害を一切顧みず前のめりに倒れようとする姿勢。
どのような評価を下すかは人それぞれだが、ヴェルナーはルベーノの背中を押した。
「良いではありませんか。やってみては如何でしょうか」
「おお、話が分かるな!」
ヴァルナーの賛同に喜ぶルベーノ。
そっと岩井崎が小声でヴェルナーに話し掛ける。
「本気か? 失敗する方が確立高ぇぞ」
「そうでしょうね。失敗しても龍崎さんとりるかさんが先行しています。派手に怪我をするのはルベーノさんお一人ですし……本人がああ仰ってますから宜しいのではないでしょうか?」
「……酷いな、あんた」
「すいません。何分、『朴念仁』ですので人の心というのが理解できないのです」
ヴェルナーの考えを聞いて少々引いた岩井崎。
どうやらヴェルナーは先程ルベーノに言われた事を根に持っていたようだ。
「善は急げです。岩井崎さん、宜しくお願いします」
「知らねぇからな」
「おっし、どんと来い!」
現界せしもので巨大化する岩井崎。
気合いを入れたルベーノを掴んで、一気に上へと放り投げた。
「あ、言い忘れてました。怪力無双は重い物を持ち上げる能力です。投擲とは関係ありません……って、聞こえてませんでしたね」
イタズラっぽく微笑むヴェルナー。
既に空中に居るルベーノに聞こえるはずもない。
そして他のハンターの予想通り、ルベーノは顔面から崖の縁に激突。
鈍い音が周囲へと響き渡る。
勢いから考えれば、このまま落下するのが普通だ。
だが、ルベーノの根性と気迫は一級品だった。
「くそったれぇ!」
無理矢理腕を伸ばして崖に向かって正拳突き。
顔面を強打しながらも掴んだチャンス。
思わぬ形で成功した奇策は、思わずヴェルナーを驚嘆させた。
「ふふ、実に面白い方ですね。ルベーノさんは」
●
ルベーノが思わぬ形で崖を登って先行。
次いで龍崎、りるかが影を登り切った。
ジーナはショットアンカー「スピニット」で崖をよじ登ってくる。
その後を岩井崎とヴェルナーが続くのだが、ここでハンター全員が登り終えるのを待っている時間もない。
登り終わったハンターから若宮砦へ向かって進軍を開始する。
「どけどけどけ! 当たると痛ぇぞ!」
砦へ続く道。
浮遊型狂気の群れに向かって青龍翔咬波を放つルベーノ。
練られたマテリアルが狂気の群れを貫いた。
「や、やらせません!」
ルベーノの前を塞ぐ浮遊型に、りるかはライトニングボルトを放った。
鉄塔を爆破する爆弾を持っているのはルベーノだ。
このまま進路を遮る敵を排除してルベーノの道を拓く事が勝利の鍵と考えたのだ。
「道を塞ぐなら蹴散らすだけだ」
龍崎は蒼機剣「N=Fシグニス」の光刃を飛ばす。
人型狂気に突き刺さった瞬間、影渡で敵の傍まで一気に接近。
ルベーノの前に出たと同時に、道を塞ぐ敵を斬り伏せていく。
「今日の私はいつにも増して手加減無しだっ!」
ソーブレード「レギオ・レプカ」を手にしたジーナはワイルドラッシュで道を塞ぐ敵を斬り捨てていく。
崖を短時間で登る形となったハンター達。
この状況は若宮砦周辺を奇襲する形となった。この為、反撃する暇も与えず、次々と敵を葬り去る。
岩井崎も現界せしもので射程を伸ばし、魔斧「モレク」で敵を排除していく。
すべては――あの鉄塔を破壊する為に。
●
一方、崖上の状況をトランシーバーで聞いていたアバルト。
囮役が終わった事を悟って小型VOID砲破壊へと乗り出した。
「悪いが、遊びは終わりだ」
レピスパオから放たれる矢。
しかし、先程の矢とは異なり、発射されるスピードがあまりにも違う。
――突き刺さる矢。
それは明らかに小型VOID砲を破壊する為の一撃だ。
「残りも片付けさせて貰うぞ」
●
砦へと侵入に成功したハンター達。
戦闘のルベーノは、周囲の敵を一切無視して突き進む。
「ハハハ、敵を爆破するなどまさに戦闘の華よ! 行かんでどうする!」
鉄塔へ滑り込んだルベーノは、所定のポジションへ滑り込んだ。
「待て。爆弾に巻き込まれるぞ」
砦横に隠されていた小型VOID砲と対峙していたジーナは、ルベーノの行動に声をかける。
「細ぇ事はいいんだよ! 特等席で見届けてやるぜ!」
金剛不壊の能力を信じてルベーノは、本能のまま爆弾のスイッチを入れた。
。
数秒後、鉄塔の下で巨大な爆発。
ルベーノを巻き込んで倒れる鉄塔。
気付けば鉄塔はサイレンを奏でる事はなくなっていた。
「どうにかハンターの皆さんのおかげで早期攻略できましたね。
あとは……あなた次第ですよ、首長」
ヴァエルナーは南東の方角へ視線を送った。
龍崎・カズマ(ka0178)は、心の中で思わず愚痴った。
背にしている岩の向こうでは、崖の上から小型VOID砲が狙っている。
崖の高さは8メートル程。
この状況下でハンター達は小型VOID砲の攻撃を掻い潜り、8メートルの壁を登ろうとしている。
あまりにも無茶な作戦だが、この無茶な状況を無理矢理にでも押し通さなければならない事情があるのだ。
「龍崎さんも確認されたと思いますが、迂回して安全なルートを取る事も可能です。ですが、事は急を要します。少しでも早く鉄塔を破壊しなければなりません」
部族会議首長補佐役ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、小声でハンターに話し掛けた。
『天命輪転』アレクサンドル・バーンズ(kz0112)に連れ去られたイェルズ・オイマト(kz0143)を救出すべく動き出したバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
その身を案じたヴェルナーは、共に富士山麓にあるアレクサンドルの隠れ家『富士若宮総合病院跡地』へ足を踏み入れたのだ。
「ヴェルナーは裏方や指揮が専門だと思っていた」
ジーナ(ka1643)は、ヴェルナーにそう返した。
その言葉にヴァルナーはにこやかに笑顔で応える。
「おや。私は今でもそうですよ?」
「そうかな。バタルトゥを助ける為にここまでやってきている時点で、裏方とはとても思えない」
ジーナからすればヴェルナーがバタルトゥへ助ける為とはいえ、ヴェルナー自らリアルブルーまで来ると思っていなかった。
ジーナの考えに対してヴァルナーは思わぬ言葉を投げかける。
「こうも考えられませんか? バタルトゥさんの身を案じるフリをして、私がリアルブルーへ視察にきた。このリアルブルーの技術を我が帝国へ持ち帰る事ができれば、帝国は強大な力を手に入れられる」
「……冗談はやめておけ」
ヴェルナーの言葉を龍崎が止めた。
本当にそう思っているのであれば、このタイミングである必要がまったくない。
クリムゾンウェストにはサルヴァトーレ・ロッソも存在する。エバーグリーンならともかくリアルブルーの技術なら連合軍を通してサルヴァトーレ・ロッソからでも入手できる。
「バレてしまいましたか。迫真の演技でしたでしょう、ジーナさん?」
「色々と持ってきた装備は無駄にならなそうだ」
作戦指揮を行っていたヴェルナーがこの調子ならば、対アレクサンドル用の装備も無駄にならずに済みそうだ。
「崖を登って敵を強襲か。一昔前の攻城戦のノリか」
アバルト・ジンツァー(ka0895)は、今の影から周囲を警戒する。
崖の上には若宮砦と呼ばれる敵の拠点。
その中から生えている大きな鉄塔。
サイレンを流す拡声器が取り付けられ、時折耳障りなサイレンを撒き散らしている。
あのサイレンが周囲の敵を呼び寄せている状況をハンター達は何とか止めなければならない。
「VOID砲はあそこは……」
ロングボウ「レピスパオ」を手にアバルトは砦の小型VOID砲の場所を視認する。
見える範囲では全部三門。その三門の攻撃を仲間が崖を登るまで注意を惹かなければならない。言い換えれば、三門の攻撃を躱しながら注意を惹いて仲間への攻撃をたった一人で減らさなければならない。
「辛い役目ですが、大丈夫ですか?」
「無理しない範囲で挑むだけだ」
ヴェルナーの言葉に、アバルトはそう返した。
「あ、あの……。せっかくのリアルブルー……このような形ではもったいないの、ですね。早くおわらせてしまいたいの……」
桜憐りるか(ka3748)は、ヴェルナーの直ぐ近くに居た。
意識した訳ではない。小型VOID砲の攻撃から隠れる為に動いていたが、気付けばヴェルナーが隠れる同じ樹木となってしまった。
りるかは自分の鼓動の高鳴りに気付いていた。
震える体。これだけ近ければヴェルナーの体温を感じてしまいそうだ。
「ふふ、そうですね。このような形でなければ……おや、どうしました?」
一瞬、ぼーっとしてしまうりるか。
その様子にヴェルナーは声をかけた。
ヴェルナーの一言でりるかは現実へ引き戻される。
「……え? あ……あの、冷静さは大切なの、ですね」
「そうですね。いつもは冷静なのですが、バタルトゥさんにも困ったものです」
「ふーん、そういう事か」
りるかとヴェルナーのやり取りを見ていたルベーノ・バルバライン(ka6752)。
何かを察したかのように二人をまじまじと見つめる。
ヴェルナーは笑顔を絶やすことなくルベーノへ聞き返した。
「何か?」
「いや、なんでもねぇ。それより意外と毒があるな、ヴェルナー」
「はい?」
聞き返すヴェルナー。
ルベーノは、話はこうだ。
バタルトゥにとって一族の民はすべて自分の家族のようなもの。
まして自分より若い民は孫子のようなもの。
あの程度まで抑えられる族長の方が見事ではないか。
「まあ、お前はとことん人の心の機微に疎い朴念仁のようだから、仕方ないかもしれんな」
大きく息を吐き出すルベーノ。
りるかの気持ちに察しているのか分からない朴念仁のヴェルナーに対して痛烈な指摘である。
だが、ヴェルナーの視点はルベーノと異なるもののようだ。
「酷い言われようですね。ルベーノさんのご指摘は族長としての意見です。
お忘れですか? バタルトゥさんは部族会議の首長です。一つの部族ではなく、複数の部族をまとめる存在です。そのような方が倒れたら、再び各部族はバラバラに……」
そう言い掛けた瞬間、ヴェルナーの足下に広がる落ち葉が跳ねた。
小型VOID砲がこちらに気付いて射撃を開始したようだ。
一門が反応すれば、他の二門も呼応。
VOID砲の嵐がハンター達を襲う。
「おい! 何やってるか分からねぇが、時間がねぇんだろ? さっさと行こうぜ!」
岩井崎 旭(ka0234)は、ヴェルナーに言葉をぶつけた。
こうして話している間にも、バタルトゥは戦っている。
少しでも早く鉄塔を破壊しなければならないのだ。
「行け。ここは任せろ」
隠れながら、アバルトは小型VOID砲へ向けてレピスパオで反撃する。
ハンター達が崖へ向かう時間を稼ぐつもりのようだ。
「皆さん、参りましょう」
ヴァルナーと共に、ハンター達は一斉に前へ進み始めた。
●
アバルトは、呼吸を抑えながら岩の影へと滑り込んだ。
ハンター達が崖へ向かって数分。
今の所小型VOID砲は三門ともアバルトへ注意を向けている。
少し離れれば命中精度が落ちる事はアバルトも体感している。しかし、三門同時に相手となれば少々厄介だ。狙い撃ちは難しいのだろうが、弾幕としては十分機能している。
おかげでアバルトは反撃するのも厳しい状況だ。
(だが、それでいい。こちらに注意を向けてさえくれればな)
岩に背を預けながらレピスパオでチャンスを窺う。
三門の小型VOID砲が攻撃の止んだ一瞬を狙って矢を放った。
冷気を纏った矢が小型VOID砲へ突き刺さる。
次の瞬間、小型VOID砲の攻撃スピードが低下する。
だが、それはアバルトの居場所を教えているとの同じだ。残り二門がアバルトの隠れる岩へ攻撃を集中させる。
(近づき過ぎれば射撃精度が向上する上、砦の真下は爆弾型狂気が落下か)
アバルトは一定の距離を保っていた。
あくまでも優先すべきは崖へ登る仲間が攻撃を受けないようにする事。
その為に小型VOID砲の注意を惹かなければならない。
「なるべく急いでくれるとありがたいのだがな」
アバルトを狙う三つの砲門は、今もアバルトへ熱い弾丸を放ち続けている。
●
「急げ。一気に登るぞ」
崖前に来た龍崎は、崖に足をかけて登り始める。
ただ、よじ登るのではない。
重力を無視して地面と水平になって登り始めた。
グラヴィティブーツ「カルフ」により、壁歩きで壁に張り付いて歩き始めたのだ。
移動可能は1分。その間に8メートルの壁を登らなければならない。
「鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
祖霊に祈りを捧げたジーナは、現界せしもので巨大化。
体を巨大化させて仲間を崖の中程まで進ませようというのだ。
りるかの体をそっと握るジーナ。
「あ、ありがとう……ございます」
感謝の言葉を述べるりるか。
4メートル程のサイズとなったジーナに助けられ、りるかは壁の中腹辺りから登り始める。
能力を有効に使ったジーナの策により、普通に登攀するよりも早く上れそうだ。
だが、この策を超える方法を編み出した者達がいる。
「時間がねぇんだろ? だったらもっと早い方法があるじゃねぇか」
「これは興味深いですね。それはその通りなのですが、ジーナさんよりも早い方法があると仰いますか」
岩井崎の言葉に興味を示すヴェルナー。
事前に案を聞いていたジーナと龍崎は、聞かなかった事にして黙々と壁を登っていく。
それに対して岩井崎は自信満々に応える。
「決まってる。あの崖の上へ『投げれば』いいんだ」
岩井崎の作戦は剛速球だった。
現界せしもので巨大化した後、怪力無双で味方を崖上へ一気に持ち上げようというのだ。
ジーナの作戦にかなり近いが、持ち上げられる側のリスクを無視すれば投げるという手段を執る事ができる。
「それはなかなかユニークな作戦ですね」
「いいだろう。この俺で試すといい。持ち上げるなんてみみっちい事は言わねぇ。思いっきり崖上へ投げ込んでみせろ」
そう言って前に出たのはルベーノ。
自ら岩井崎の弾丸へと志願するのだが、当の岩井崎はあまり芳しくない顔色だ。
「え。あんたを投げるの? 無茶だろ。重いじゃねぇか」
岩井崎の指摘はもっともだ。
装備だけ見ても一番軽いりるかと比較して二倍程の差がある。りるかならば可能だったかもしれないが、依頼を受けた参加者の中でも屈指の重さを誇るルベーノを投げるとなればリスクはかなり高くなる。
だが、当のルベーノは自信満々だ。
「なぁに、俺達格闘士には金剛不壊がある。そんな大怪我だろうが、死にはせん。試せる者は何でも試したいぞ。何しろ早ければ早い方が良いのだからな」
まさに脳筋。受ける被害を一切顧みず前のめりに倒れようとする姿勢。
どのような評価を下すかは人それぞれだが、ヴェルナーはルベーノの背中を押した。
「良いではありませんか。やってみては如何でしょうか」
「おお、話が分かるな!」
ヴァルナーの賛同に喜ぶルベーノ。
そっと岩井崎が小声でヴェルナーに話し掛ける。
「本気か? 失敗する方が確立高ぇぞ」
「そうでしょうね。失敗しても龍崎さんとりるかさんが先行しています。派手に怪我をするのはルベーノさんお一人ですし……本人がああ仰ってますから宜しいのではないでしょうか?」
「……酷いな、あんた」
「すいません。何分、『朴念仁』ですので人の心というのが理解できないのです」
ヴェルナーの考えを聞いて少々引いた岩井崎。
どうやらヴェルナーは先程ルベーノに言われた事を根に持っていたようだ。
「善は急げです。岩井崎さん、宜しくお願いします」
「知らねぇからな」
「おっし、どんと来い!」
現界せしもので巨大化する岩井崎。
気合いを入れたルベーノを掴んで、一気に上へと放り投げた。
「あ、言い忘れてました。怪力無双は重い物を持ち上げる能力です。投擲とは関係ありません……って、聞こえてませんでしたね」
イタズラっぽく微笑むヴェルナー。
既に空中に居るルベーノに聞こえるはずもない。
そして他のハンターの予想通り、ルベーノは顔面から崖の縁に激突。
鈍い音が周囲へと響き渡る。
勢いから考えれば、このまま落下するのが普通だ。
だが、ルベーノの根性と気迫は一級品だった。
「くそったれぇ!」
無理矢理腕を伸ばして崖に向かって正拳突き。
顔面を強打しながらも掴んだチャンス。
思わぬ形で成功した奇策は、思わずヴェルナーを驚嘆させた。
「ふふ、実に面白い方ですね。ルベーノさんは」
●
ルベーノが思わぬ形で崖を登って先行。
次いで龍崎、りるかが影を登り切った。
ジーナはショットアンカー「スピニット」で崖をよじ登ってくる。
その後を岩井崎とヴェルナーが続くのだが、ここでハンター全員が登り終えるのを待っている時間もない。
登り終わったハンターから若宮砦へ向かって進軍を開始する。
「どけどけどけ! 当たると痛ぇぞ!」
砦へ続く道。
浮遊型狂気の群れに向かって青龍翔咬波を放つルベーノ。
練られたマテリアルが狂気の群れを貫いた。
「や、やらせません!」
ルベーノの前を塞ぐ浮遊型に、りるかはライトニングボルトを放った。
鉄塔を爆破する爆弾を持っているのはルベーノだ。
このまま進路を遮る敵を排除してルベーノの道を拓く事が勝利の鍵と考えたのだ。
「道を塞ぐなら蹴散らすだけだ」
龍崎は蒼機剣「N=Fシグニス」の光刃を飛ばす。
人型狂気に突き刺さった瞬間、影渡で敵の傍まで一気に接近。
ルベーノの前に出たと同時に、道を塞ぐ敵を斬り伏せていく。
「今日の私はいつにも増して手加減無しだっ!」
ソーブレード「レギオ・レプカ」を手にしたジーナはワイルドラッシュで道を塞ぐ敵を斬り捨てていく。
崖を短時間で登る形となったハンター達。
この状況は若宮砦周辺を奇襲する形となった。この為、反撃する暇も与えず、次々と敵を葬り去る。
岩井崎も現界せしもので射程を伸ばし、魔斧「モレク」で敵を排除していく。
すべては――あの鉄塔を破壊する為に。
●
一方、崖上の状況をトランシーバーで聞いていたアバルト。
囮役が終わった事を悟って小型VOID砲破壊へと乗り出した。
「悪いが、遊びは終わりだ」
レピスパオから放たれる矢。
しかし、先程の矢とは異なり、発射されるスピードがあまりにも違う。
――突き刺さる矢。
それは明らかに小型VOID砲を破壊する為の一撃だ。
「残りも片付けさせて貰うぞ」
●
砦へと侵入に成功したハンター達。
戦闘のルベーノは、周囲の敵を一切無視して突き進む。
「ハハハ、敵を爆破するなどまさに戦闘の華よ! 行かんでどうする!」
鉄塔へ滑り込んだルベーノは、所定のポジションへ滑り込んだ。
「待て。爆弾に巻き込まれるぞ」
砦横に隠されていた小型VOID砲と対峙していたジーナは、ルベーノの行動に声をかける。
「細ぇ事はいいんだよ! 特等席で見届けてやるぜ!」
金剛不壊の能力を信じてルベーノは、本能のまま爆弾のスイッチを入れた。
。
数秒後、鉄塔の下で巨大な爆発。
ルベーノを巻き込んで倒れる鉄塔。
気付けば鉄塔はサイレンを奏でる事はなくなっていた。
「どうにかハンターの皆さんのおかげで早期攻略できましたね。
あとは……あなた次第ですよ、首長」
ヴァエルナーは南東の方角へ視線を送った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/19 01:13:52 |
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【質問版】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/20 00:24:36 |
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【相談】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/21 07:39:05 |